説明

画像形成装置

【課題】停電や紙詰まり等の用紙の搬送が停止する異常が発生した場合でも、定着器内における用紙の過剰な加熱を確実に防止する。
【解決手段】搬送ベルト66上の用紙を熱源により非接触で加熱する定着器60を少なくとも備える画像形成装置において、前記搬送ベルトは、前記用紙が自然に滑り落ちる所定の角度で傾斜し、前記用紙は、ファンの回転で生じるエアー吸引力によって前記搬送ベルトに吸引され、前記定着器の上流側の転写部から前記定着器の前記熱源までの距離、及び、前記定着器の前記熱源から前記定着器の下流側の排紙ローラまでの距離が、最大サイズの用紙より長く設定され、前記用紙の搬送が停止する異常発生時に、自然に又は制御部の制御により前記ファンの回転が停止して前記エアー吸引力が失われ、前記用紙が前記搬送ベルト上を滑り落ちて前記熱源の上流側又は下流側に移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置に関し、特に、加熱ランプやヒータ等の熱源を用いて非接触で用紙を加熱する定着器を有する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置では、帯電装置により一様に帯電された感光体ドラムに露光装置から光を照射して静電潜像を形成し、現像装置で静電潜像にトナーを付着させてトナー像として顕像化し、感光体ドラム上のトナー像を中間転写ベルトを介して用紙に転写し、その後、定着器で加熱することによりトナー像を用紙上に定着させる処理を行っている。
【0003】
トナー像を用紙上に定着させる方式として、加熱ローラ及び加圧ローラで用紙を挟み込んで加熱及び加圧を行う方式(以下、接触型と呼ぶ。)と、加熱ランプやヒータ等の熱源によって加熱を行う方式(以下、非接触型と呼ぶ。)とがあり、非接触型は形成する画像を乱すことが無く、また、トナーによる接触部の汚染が少なく、汚れを除去する機構が不要となる等の利点がある。例えば、下記特許文献1−5には、非接触型の定着器や当該定着器を備える画像形成装置が開示されている。
【0004】
ここで、用紙上のトナー像を適切に加熱するために、給紙ローラや排紙ローラ、搬送ベルト等の搬送部の動作が制御されるが、停電によって画像形成装置に供給される電力が停止したり、紙詰まりなどのジャムが発生して用紙の搬送が停止した場合には、用紙が定着器内に停滞し、加熱ランプやヒータ等の熱源の輻射熱によって用紙が過剰に加熱されてしまい、発煙や発火が発生してしまう。
【0005】
この問題に対して、下記特許文献3、4には、定着器にシャッター部材や熱線遮蔽体を配置し、異常発生時に、用紙と加熱ランプとの間にシャッター部材や熱線遮蔽体を移動させる技術が開示されている。また、下記特許文献5には、熱線遮蔽体として熱線放射体の前後に設けた熱線遮蔽体搬送用のプーリに張架された断熱ベルトを用いる技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−228254号公報
【特許文献2】特開平7−199705号公報
【特許文献3】特開昭62−264082号公報
【特許文献4】特開平9−34307号公報
【特許文献5】特開2001−305892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したシャッター部材や熱線遮蔽体を用紙と加熱ランプとの間の所定の位置へ素早く移動させることは非常に難しく、画像形成装置に供給される電力が停止した場合には、シャッター部材や熱線遮蔽体を移動させることができない。また、上記構成では、シャッター部材や熱線遮蔽体自体が熱源によって加熱され、シャッター部材や熱線遮蔽体からの輻射熱によって用紙が加熱されてしまい、発煙や発火を確実に防止することができない。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その主たる目的は、停電や紙詰まり等の用紙の搬送が停止する異常が発生した場合でも、定着器内における用紙の過剰な加熱を確実に防止することができる画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、搬送ベルト上の用紙を熱源により非接触で加熱する定着器を備える画像形成装置において、前記搬送ベルトは、前記用紙が滑り落ちる所定の角度で搬送方向に傾斜し、前記定着器の上流側の転写部から前記定着器の前記熱源までの距離、及び、前記定着器の前記熱源から前記定着器の下流側の排紙ローラまでの距離が、最大サイズの用紙より長く設定されると共に、前記用紙をエアー吸引力によって前記搬送ベルトに吸引するファンを有し、前記用紙の搬送が停止する異常発生時に、前記ファンの回転が停止して前記エアー吸引力が失われることにより、前記用紙が前記搬送ベルト上を滑り落ちて前記熱源の上流側又は下流側に移動するものである。
【0010】
また、本発明は、搬送ベルト上の用紙を熱源により非接触で加熱する定着器を備える画像形成装置において、前記搬送ベルトは、前記用紙が滑り落ちる所定の角度で搬送と直角方向に傾斜し、傾斜下向には、最大サイズの用紙が落ち込める用紙保持部を備え、前記用紙をエアー吸引力によって前記搬送ベルトに吸引するファンを有し、前記用紙の搬送が停止する異常発生時に、前記ファンの回転が停止して前記エアー吸引力が失われることにより、前記用紙が前記搬送ベルト上を滑り落ちて前記熱源の搬送と直角方向に移動するものである。
【0011】
本発明においては、エアー吸引を行うダクトの経路に、当該経路の解放と遮断とを切り替える経路切替部を備え、前記異常発生時に、前記経路切替部により前記経路が遮断され、前記エアー吸引を強制的に停止させる構成とすることができる。
【0012】
また、本発明においては、前記経路切替部は、前記経路を遮断する位置に戻るように構成され、通常動作時は、駆動部を動作させることにより、前記経路切替部が前記経路を遮断する位置から解放する位置に強制的に移動され、前記異常発生時に、前記駆動部の動作が停止することにより、前記経路が自動的に遮断される構成とすることもできる。
【0013】
また、本発明においては、前記所定の角度をα、前記用紙と前記搬送ベルトの静止摩擦係数をAとしたとき、90°≧α>arctanA、の関係を満たすことが好ましい。
【0014】
また、本発明は、搬送ベルト上の用紙を熱源により非接触で加熱する定着器を備える画像形成装置において、前記搬送ベルトは、水平方向に対して所定の角度で搬送方向に傾斜し、前記定着器の上流側の転写部から前記定着器の前記熱源までの距離、及び、前記定着器の前記熱源から前記定着器の下流側の排紙ローラまでの距離が、最大サイズの用紙より長く設定されると共に、前記用紙をエアー吸引力によって前記搬送ベルトに吸引するファン、及び、前記搬送ベルトと前記ファンの間に配置されるダクトの経路に、エアー吸引状態とエアー噴出状態とを切り替える経路切替部を備え、前記異常発生時に、前記経路切替部により前記経路がエアー噴出状態に切り替わって前記用紙を前記搬送ベルトから浮き上がらせることにより、前記用紙が搬送ベルト上を滑り落ちて前記熱源の上流側又は下流側に移動するものである。
【0015】
また、本発明は、搬送ベルト上の用紙を熱源により非接触で加熱する定着器を備える画像形成装置において、前記搬送ベルトは、水平方向に対して所定の角度で搬送と直角方向に傾斜し、傾斜下向には、最大サイズの用紙が落ち込める用紙保持部を備え、前記用紙をエアー吸引力によって前記搬送ベルトに吸引するファン、及び、前記搬送ベルトと前記ファンの間に配置されるダクトの経路に、エアー吸引状態とエアー噴出状態とを切り替える経路切替部を備え、前記異常発生時に、前記経路切替部により前記経路がエアー噴出状態に切り替わって前記用紙を前記搬送ベルトから浮き上がらせることにより、前記用紙が搬送ベルト上を滑り落ちて前記熱源の搬送と直角方向に移動するものである。
【0016】
本発明においては、前記経路切替部は、前記エアー噴出状態となる位置に戻るように構成され、通常動作時は、駆動部を動作させることにより、前記経路切替部が前記エアー噴出状態となる位置から前記エアー吸引状態となる位置に強制的に移動され、前記異常発生時に、前記駆動部の動作が停止することにより、前記経路が自動的にエアー噴出状態に切り替わる構成とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の画像形成装置によれば、停電や紙詰まり等の用紙の搬送が停止する異常が発生した場合でも、定着器内における用紙の過剰な加熱を確実に防止することができる。
【0018】
その理由は、加熱ランプやヒータ等の熱源を用いて非接触で用紙を加熱する非接触型の定着器を有する画像形成装置において、定着器に用紙を搬送する搬送ベルトを所定の角度で搬送方向若しくは搬送と直角方向に傾斜させると共に、定着器にファンの回転によりエアーを吸引させるダクトを配置し、用紙を搬送ベルトにエアー吸引して搬送することにより、停電や紙詰まり等の異常発生時には、ファンが停止又はダクト内のエアーの通過経路が遮断されてエアー吸引力が失われ、用紙が傾斜した搬送ベルト上を滑り落ちて定着器の熱源の外部に排出されるからである。
【0019】
また、エアーの通過経路を切り替えて搬送ベルトにエアーを噴出させる機構を設けることにより、停電や紙詰まり等の異常発生時には、搬送ベルトにエアーが噴出されて用紙が搬送ベルトから浮き上がり、傾斜した搬送ベルト上を滑り落ちて定着器の熱源の外部に排出されるからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
背景技術で示したように、電子写真方式の画像形成装置では、用紙上に転写したトナー像を定着器で加熱して定着させる処理が行われるが、停電や紙詰まり等の異常発生時に用紙が定着器内に停滞すると、加熱ランプやヒータ等の熱源の輻射熱により用紙が過剰に加熱されてしまい、発煙や発火が発生してしまう。
【0021】
この問題に対して、異常発生時に加熱ランプやヒータ等の熱源と用紙との間にシャッター部材や熱線遮蔽体を移動させる方法があるが、シャッター部材や熱線遮蔽体を瞬時に移動させるのは困難であり、画像形成装置に供給される電力が停止した場合には、シャッター部材や熱線遮蔽体を移動させることができない。
【0022】
また、シャッター部材や熱線遮蔽体を移動させることができたとしても、加熱ランプやヒータ等の熱源によってシャッター部材や熱線遮蔽体自体が加熱されてしまい、シャッター部材や熱線遮蔽体の輻射熱によってやはり用紙が加熱されてしまう。
【0023】
そこで、本発明では、加熱ランプやヒータ等の熱源を用いて非接触で用紙を加熱する非接触型の定着器を有する画像形成装置において、定着器に用紙を搬送する搬送ベルトを所定の角度で搬送方向若しくは搬送と直角方向に傾斜させると共に、搬送ベルトの近傍にファンの回転によりエアーを吸引するダクトを配置し、用紙を搬送ベルトにエアー吸引して搬送する構成とする。また、ダクト内のエアーの通過経路の解放/遮断、又は、エアー吸引/エアー噴出を切り替えるエアー経路切替部を設ける。
【0024】
これにより、停電等の異常発生時には、自然にファンの回転が停止又はエアーの通過経路が遮断されてエアー吸引力が失われ、又は、自動的にエアー吸引からエアー噴出に切り替えられ、用紙が傾斜した搬送ベルト上を滑り落ちて定着器の外部に排出される。
【0025】
また、定着器の下流側で紙詰まり等のジャムが発生した時も、制御部の制御によりファンの回転が停止又はエアーの通過経路が遮断されてエアー吸引力が失われ、又は、制御部の制御によりエアー吸引からエアー噴出に切り替えられ、用紙が傾斜した搬送ベルト上を滑り落ちて定着器の外部に排出される。
【0026】
また、用紙が滑り落ちる際には用紙が定着器の熱源の外部で保持されるスペースが必要であるため、定着器上流の転写部から定着器の熱源の入り口までの距離、及び、定着器の熱源の出口から定着器下流の排紙手段(例えば、排紙ローラ)までの距離を使用可能な用紙の最大サイズ以上としたり、傾斜下向に最大サイズの用紙が落ち込める用紙保持部を設ける。
【0027】
これにより、用紙を定着器の熱源の外部に待避させることが可能となり、停電や紙詰まり等の異常発生時に定着器内で用紙が過剰に加熱されることがなくなり、用紙の発煙や発火を確実に防止することができる。
【実施例1】
【0028】
上記した本発明の一実施の形態についてさらに詳細に説明すべく、本発明の第1の実施例に係る画像形成装置について、図1乃至図7を参照して説明する。図1は、本実施例の画像形成装置の構成を示すブロック図であり、図2は、画像形成装置の画像形成部の構造例を示す断面図である。また、図3は、本実施例の定着器の構造を模式的に示す図であり、図4は、定着器の搬送ベルトの傾斜角を説明するための図である。また、図5乃至図7は、本実施例の定着器の他の構造を模式的に示す図である。
【0029】
図1に示すように、本実施例の画像形成装置100は、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13などからなる制御部10と、HDD(Hard Disk Drive)20と、表示操作部30と、画像処理部40と、画像形成部50などで構成される。
【0030】
ROM12は、画像形成装置全体の動作を制御するためのプログラムや制御に必要なデータを記憶する。RAM13は、CPU11による制御に必要なデータ及び制御動作時に一時記憶が必要なデータ等を記憶する。そして、CPU11は、ROM12、RAM13と協働して画像形成装置の各部の動作を制御する制御部10として機能する。特に、本実施例では、紙詰まり等のジャムが発生した時に、後述する定着器のダクトに設けられたファンの回転を停止させる制御を行う。
【0031】
HDD20は、印刷ジョブや制御部10の制御に必要なデータ等を保存する。
【0032】
表示操作部30は、LCD(Liquid Crystal Display)などの表示部と表示部を覆うタッチパネルなどの操作部から構成され、画像形成装置100の各種設定や異常発生時の通知等を行う。なお、ここでは表示部と操作部とが一体となった構成としているが、表示部と操作部は別々に構成してもよい。
【0033】
画像処理部40は、印刷ジョブのデータをラスタライズし、必要に応じて画像処理やスクリーニングを行って、画像形成部50で印刷可能なビットマップデータを形成する。
【0034】
画像形成部50は、電子写真方式の作像プロセスを利用して、画像処理部40で形成したビットマップデータの画像を用紙に形成する。具体的には、図2に示すように、書き込み部(図示せず)と、感光体部と、転写部と、定着器と、給紙部と、搬送部などで構成される。
【0035】
書き込み部(図示せず)は、画像処理部40から入力されたビットマップデータに基づいて感光体ドラム51にレーザ光を照射して画像の潜像を形成する。
【0036】
感光体部は、感光体ドラム51と現像器52と帯電器53と感光体クリーニング部54などで構成され、感光体ドラム51上にイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色のトナー像を形成する。
【0037】
転写部は、1次転写ローラ55と中間転写ベルト56とベルトクリーニング部57と2次転写ローラ58とローラクリーニング部59などで構成され、1次転写ローラ55により感光体部で形成されたトナー像を中間転写ベルト56に転写し、2次転写ローラ58により中間転写ベルト56上に形成されたトナー像を用紙に転写する。
【0038】
定着器60は、赤外線ランプやヒータ等の熱源を備え、用紙上に転写されたトナー像を加熱して定着させる。
【0039】
搬送部は、給紙ローラ61やループローラ62、レジストローラ63、排紙ローラ64、反転ローラ65、搬送ベルト66等で構成され、給紙ローラ61やループローラ62、レジストローラ63により転写部に用紙を搬送し、搬送ベルト66により転写後の用紙を定着器に搬送し、排紙ローラ64、反転ローラ65により定着後の用紙を排出又は反転させる。
【0040】
給紙部(図示せず)は、1又は複数の用紙トレイで構成され、印刷ジョブで指示された用紙を搬送部に供給する。
【0041】
このような構成の画像形成装置において、停電や紙詰まり等の異常の発生によって用紙の搬送が停止した場合は、用紙が定着器60内の熱源の近傍でストップし、発煙、発火する場合があった。発煙、発火時には、通常、熱源に供給する電力を遮断する措置が取られるが、熱源への電力の供給が遮断されても、熱源の余熱で用紙が加熱され、発煙、発火が生じる場合がある。
【0042】
そこで、本実施例では、用紙の搬送が停止する異常が発生した場合であっても、定着器60内に残存する用紙を定着器60の外側に確実に排出できるようにする。具体的には、図3に示すように、定着器60及びその近傍で用紙を搬送する搬送ベルト66を水平方向に対して所定の角度で傾斜させると共に、搬送ベルト66近傍にファン68の回転によりエアーを吸引するダクト67を配置し、エアー吸引力により用紙が搬送ベルト66に吸引されるようにする。そして、ファン68の回転が停止したら用紙が搬送ベルト66上を滑り落ち、紙受け部69に格納されるようにする。
【0043】
なお、エアー吸引の方法としては、例えば、搬送ベルト66を複数本のベルトで構成し、各々のベルトの間に隙間を設け、その隙間から用紙を吸引する方法や、搬送ベルト66に多数の孔を設け、その孔から用紙を吸引する方法などが考えられるが、用紙を搬送ベルト66から滑り落ちないように固定できる限りにおいて、ダクト67やファン68、搬送ベルト66の形状、構造、配置、風圧などは特に限定されない。
【0044】
ここで、ファン68の回転が停止してエアーの吸引力が失われた時に、用紙が搬送ベルト66上で滑り落ちるためには、搬送ベルト66の傾斜角を所定の角度以上に設定する必要がある。上記所定の角度の設定方法について説明する。図4に示すように、傾斜角αの斜面で重量Wの用紙が最大静止摩擦力で静止している場合、用紙の静止摩擦係数Aは次式で表すことができる。
【0045】
A=W・cosα/W・sinα=tanα … (1)
【0046】
(1)式より、静止摩擦係数Aからαを求めると、α=arctanAとなり、用紙が斜面を滑り落ちるためには、α>arctanAとなればよい。
【0047】
例えば、搬送ベルト66としてポリイミドのベルト(厚さ100μm、耐熱400℃)を用いた場合、用紙との静止摩擦係数Aは紙種により0.5〜0.8の範囲となる。この場合、arctan0.5=26.6°、arctan0.8=38.7°であるため、38.7°以上の傾斜角であれば、用紙は搬送ベルト66上を滑り落ちることになる。なお、紙種は予め画像形成装置で搭載あるいは指定可能な紙種に定められており、各画像形成装置で必要な傾斜角は自ずと定まる。
【0048】
また、定着器60の入り口から紙受け部69までの距離が小さいと滑り落ちた用紙の先端が熱源60aで加熱されてしまい、また、定着器60の出口から排紙ローラ64までの距離が小さいと排紙ローラ64に挟まって保持されている用紙の後端が熱源60aで加熱されてしまうことから、定着器60の上流側及び下流側には、給紙部に収納可能な最大紙サイズ以上の余裕を持たせている。
【0049】
このように、搬送ベルト66を用紙が自然に滑り落ちる角度で傾斜させ、かつ、ダクト67に設けたファン68を回転させることによって搬送ベルト66に用紙をエアー吸引することによって、停電時にはファン68の回転が自然に停止してエアー吸引力が失われ、紙詰まりなどのジャム発生時には制御部10の制御によりファン68の回転が停止してエアー吸引力が失われ、用紙が搬送ベルト66の上流側(転写部側)に滑り落ちて熱源60aから外れた位置で保持されるため、用紙の発煙、発火を防止することができる。また、排紙ローラ64に挟まっている用紙も熱源60aから外れた位置で保持されるため、用紙の発煙、発火を防止することができる。
【0050】
なお、図3では、転送部から定着器60に送られる用紙と搬送ベルト66を滑り落ちる用紙とが異なる経路を通る場合を示したが、例えば、図5に示すように、搬送ベルト66の略延長線上に転写部が配置される構造であっても、転写部の出口(2次転写ローラ58)から定着器60の入り口までの距離が最大紙サイズ以上になるようにすれば、上記と同様の効果を得ることができる。
【0051】
また、図3及び図5では、用紙が定着器60の上流側(転写部側)に滑り落ちる場合を示したが、例えば、図6に示すように、搬送ベルト66を上流側(転写部側)が高く、下流側(排紙ローラ64側)が低くなるような構造とすることもできる。この場合は、転写部の2次転写ローラ58から定着器60の入り口までの距離、及び、定着器60の出口から排紙ローラ64までの距離が最大紙サイズ以上となるようにすれば、上記と同様の効果を得ることができる。
【0052】
また、図3、図5及び図6では、用紙が搬送ベルト66の搬送方向に沿って滑り落ちる場合を示したが、例えば、搬送方向から見た断面を示す図7に示すように、搬送ベルト66を搬送と直角方向に傾斜させ、傾斜の下側に紙受け部69を設ける構造とすることもできる。この場合は、紙受け部69を最大サイズの用紙が落ち込める寸法にすれば、上記と同様の効果を得ることができる。
【0053】
また、図3、図5乃至図7では、搬送ベルト66を全体にわたって均一に傾斜させたが、搬送ベルト66は必ずしも均一に傾斜させる必要はなく、傾斜が最も緩やかな部分の傾斜角が上記所定の角度以上であればよい。
【実施例2】
【0054】
次に、本発明の第2の実施例に係る画像形成装置について、図8を参照して説明する。図8は、本実施例の定着器のダクトの構造を模式的に示す図である。
【0055】
前記した第1の実施例では、停電や紙詰まり等の用紙の搬送が停止する異常発生時に、ファン68に供給される電力が停止し、ファン68の回転が自然に止まってエアー吸引力が失われるようにしたが、ファン68は電力の供給が停止しても2秒程度は惰性で回転するため、用紙が落下するまでに3秒程度かかり、定着条件によってはその間に用紙が発煙、発火する恐れがある。
【0056】
そこで、本実施例では、停電や紙詰まり等の異常発生時に、瞬時にエアー吸引力が失われるようにする。具体的には、図8に示すように、ダクト67内のファン68と搬送ベルト66との間に、エアーの通過経路を解放位置又は遮断位置に切り替え可能なエアー経路切替部70(例えば、ヒンジを中心に開閉可能なシャッター)を配置し、バネの復元力などによって自然に遮断位置に戻るようにする。また、電力を供給することによってエアー経路切替部70を強制的に解放位置に移動させる駆動部71(例えば、ソレノイドコイルに通電することによって電磁力で部材を駆動する機構)を設ける。
【0057】
そして、図8(a)に示すように、通常時は、駆動部71に電力を供給することによってエアー経路切替部70を強制的に解放位置に移動させ、エアー吸引力によって用紙を搬送ベルト66に吸引させる。また、図8(b)に示すように、停電や紙詰まりなどの異常発生時は、駆動部71に供給される電力が停止し(又は制御部10の制御により駆動部71に供給する電力を停止し)、バネの復元力などによってエアー経路切替部70を自然に遮断位置に戻し、惰性で回転するファン68のエアー吸引力を瞬時に消失させて用紙を搬送ベルト66上で滑り落ちるようにする。
【0058】
このように、異常発生時にファン68が惰性で回転してもエアー吸引力を瞬時に消失させて用紙が滑り落ちるようにすることにより、どのような定着条件であっても、用紙の発煙、発火を確実に防止することができる。
【0059】
なお、エアーの通過経路の解放/遮断を制御する構造は上記に限定されず、通常時にエアー経路切替部70が強制的に解放位置に配置され、異常発生時にエアー経路切替部70が自然に遮断位置に配置される構造であればよい。例えば、エアー経路切替部70を解放位置でフックにより固定しておき、異常発生時に駆動部71でフックを外してエアー経路切替部70を遮断位置に戻す構造などとすることができる。また、エアー経路切替部70の形状や配置、構造は図の記載に限定されず、例えば、ダクト67を横切る方向に仕切板を移動させる構造などとすることができる。
【実施例3】
【0060】
次に、本発明の第3の実施例に係る画像形成装置について、図9を参照して説明する。図9は、本実施例の定着器のダクトの構造を模式的に示す図であり、(a)はエアー吸引状態におけるエアーの通過経路、(b)はエアー噴出状態におけるエアーの通過経路を示している。
【0061】
前記した第1の実施例では、異常発生時にファン68の回転を自然に止める構成とし、第2の実施例では、異常発生時にエアーの通過経路を遮断する構成としたが、これらの構成では、用紙が搬送ベルト66の静止摩擦力に打ち勝って下方に滑り落ちるようにするためには搬送ベルト66の傾斜角を大きくしなければならず、画像形成装置100の構造上、そのような傾斜角に設定することができない場合がある。また、用紙が搬送ベルト66に密着して、用紙がスムーズに滑り落ちない場合も考えられる。
【0062】
そこで、本実施例では、異常発生時に、瞬時にファン68によるエアー吸引をエアー噴出に切り替え、小さい傾斜角でも用紙がスムーズに滑り落ちるようにする。具体的には、図9に示すように、ダクト67をコの字型に屈曲させ、屈曲位置にファン68を配置する。また、ダクト67外壁の第1領域及び屈曲した両側のダクト67を仕切る第2領域に開口部を設け、ダクト67の出口及び上記2つの領域に、エアーの通過経路をエアー吸引状態又はエアー噴出状態に切り替え可能なエアー経路切替部70を配置し、バネの復元力などによって自然にエアー噴出状態となる位置に戻るようにする。また、電力を供給することによってエアー経路切替部70を強制的にエアー吸引状態となる位置に移動させる駆動部71を設ける。
【0063】
そして、図9(b)に示すように、通常時は、駆動部71に電力を供給することによってエアー経路切替部70をエアー吸引状態となる位置に移動させ(図では、1つのエアー経路切替部70のみを移動させているが、他のエアー経路切替部70も同様)、エアー吸引力によって用紙を搬送ベルト66に吸引させる。また、図9(a)に示すように、停電や紙詰まりなどの異常発生時は、駆動部71に供給される電力が停止し(又は制御部10の制御により駆動部71に供給する電力を停止し)、バネの復元力などによってエアー経路切替部70をエアー噴出状態となる位置に戻し、上記第1領域の開口部からダクト67内に入り込んだエアーがファン68によって上記第2領域の開口部から搬送ベルト66に噴出するようにして、用紙を搬送ベルト66から浮き上がらせて滑り落ちやすくする。その際、エアー噴出力が強すぎると用紙が熱源60aに吹き上げられてしまう恐れがあるため、流路の一部を狭くして噴出圧を調整することが好ましい。
【0064】
このように、異常発生時に、エアー吸引をエアー噴出に切り替え、用紙を搬送ベルト66から浮き上がらせることにより、搬送ベルト66と用紙の間の摩擦力を弱めることができるため、第1及び第2の実施例よりも搬送ベルト66の傾斜角を小さくすることができる。また、用紙が滑り落ちる方向にエアーを噴出させるようにすれば、エアーの風力によって用紙を所望の方向に移動させることができるため、搬送ベルト66の傾斜角を更に小さくすることも可能である。
【0065】
なお、エアーの通過経路のエアー吸引状態/エアー噴出状態を制御する構造は上記に限定されず、通常時にエアー経路切替部70が強制的にエアー吸引状態となる位置に配置され、異常発生時にエアー経路切替部70が自然にエアー噴出状態となる位置に配置される構造であればよい。また、エアー経路切替部70の形状や配置、構造は図の記載に限定されず、例えば、ダクト67を横切る方向に仕切板を移動させる構造などとすることができる。また、図9では、エアーの通過経路を切り替えてエアーを噴出させたが、ソレノイドコイル等で動作する棒状部材で搬送ベルト66や用紙を直接突き上げるような構造とすることも可能である。
【0066】
また、上記各実施例では画像形成装置について記載したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、搬送路上の部材を加熱する機構を備える任意の機器に対して同様に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、加熱ランプやヒータ等の熱源を用いて非接触で用紙を加熱する定着器を有する画像形成装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1の実施例に係る画像形成装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係る画像形成装置の画像形成部の構造を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施例に係る画像形成装置の定着器の構造を模式的に示す図である。
【図4】搬送ベルトの傾斜角を説明するための図である。
【図5】本発明の第1の実施例に係る画像形成装置の定着器の他の構造を模式的に示す図である。
【図6】本発明の第1の実施例に係る画像形成装置の定着器の他の構造を模式的に示す図である。
【図7】本発明の第1の実施例に係る画像形成装置の定着器の他の構造を模式的に示す図である。
【図8】本発明の第2の実施例に係る画像形成装置の定着器のダクトの構造を模式的に示す断面図であり、(a)はエアー経路解放状態、(b)はエアー経路遮断状態である。
【図9(a)】本発明の第3の実施例に係る画像形成装置の定着器のダクトの構造及びエアー吸引状態におけるエアーの通過経路を模式的に示す断面図である。
【図9(b)】本発明の第3の実施例に係る画像形成装置の定着器のダクトの構造及びエアー噴出状態におけるエアーの通過経路を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0069】
10 制御部
11 CPU
12 ROM
13 RAM
20 HDD
30 表示操作部
40 画像処理部
50 画像形成部
51 感光体ドラム
52 現像器
53 帯電器
54 感光体クリーニング部
55 1次転写ローラ
56 中間転写ベルト
57 ベルトクリーニング部
58 2次転写ローラ
59 ローラクリーニング部
60 定着器
60a 熱源
61 給紙ローラ
62 ループローラ
63 レジストローラ
64 排紙ローラ
65 反転ローラ
66 搬送ベルト
66a 搬送ベルト支持ローラ
67 吸引ダクト
68 ファン
69 紙受け部
70 エアー経路切替部
71 駆動部
100 画像形成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送ベルト上の用紙を熱源により非接触で加熱する定着器を備える画像形成装置において、
前記搬送ベルトは、前記用紙が滑り落ちる所定の角度で搬送方向に傾斜し、
前記定着器の上流側の転写部から前記定着器の前記熱源までの距離、及び、前記定着器の前記熱源から前記定着器の下流側の排紙ローラまでの距離が、最大サイズの用紙より長く設定されると共に、
前記用紙をエアー吸引力によって前記搬送ベルトに吸引するファンを有し、
前記用紙の搬送が停止する異常発生時に、前記ファンの回転が停止して前記エアー吸引力が失われることにより、前記用紙が前記搬送ベルト上を滑り落ちて前記熱源の上流側又は下流側に移動することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
搬送ベルト上の用紙を熱源により非接触で加熱する定着器を備える画像形成装置において、
前記搬送ベルトは、前記用紙が滑り落ちる所定の角度で搬送と直角方向に傾斜し、傾斜下向には、最大サイズの用紙が落ち込める用紙保持部を備え、
前記用紙をエアー吸引力によって前記搬送ベルトに吸引するファンを有し、
前記用紙の搬送が停止する異常発生時に、前記ファンの回転が停止して前記エアー吸引力が失われることにより、前記用紙が前記搬送ベルト上を滑り落ちて前記熱源の搬送と直角方向に移動することを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
エアー吸引を行うダクトの経路に、当該経路の解放と遮断とを切り替える経路切替部を備え、
前記異常発生時に、前記経路切替部により前記経路が遮断され、前記エアー吸引を強制的に停止させることを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記経路切替部は、前記経路を遮断する位置に戻るように構成され、
通常動作時は、駆動部を動作させることにより、前記経路切替部が前記経路を遮断する位置から解放する位置に強制的に移動され、
前記異常発生時に、前記駆動部の動作が停止することにより、前記経路が自動的に遮断されることを特徴とする請求項3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記所定の角度をα、前記用紙と前記搬送ベルトの静止摩擦係数をAとしたとき、
90°≧α>arctanA、
の関係を満たすことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一に記載の画像形成装置。
【請求項6】
搬送ベルト上の用紙を熱源により非接触で加熱する定着器を備える画像形成装置において、
前記搬送ベルトは、水平方向に対して所定の角度で搬送方向に傾斜し、
前記定着器の上流側の転写部から前記定着器の前記熱源までの距離、及び、前記定着器の前記熱源から前記定着器の下流側の排紙ローラまでの距離が、最大サイズの用紙より長く設定されると共に、
前記用紙をエアー吸引力によって前記搬送ベルトに吸引するファン、及び、前記搬送ベルトと前記ファンの間に配置されるダクトの経路に、エアー吸引状態とエアー噴出状態とを切り替える経路切替部を備え、
前記異常発生時に、前記経路切替部により前記経路がエアー噴出状態に切り替わって前記用紙を前記搬送ベルトから浮き上がらせることにより、前記用紙が搬送ベルト上を滑り落ちて前記熱源の上流側又は下流側に移動することを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
搬送ベルト上の用紙を熱源により非接触で加熱する定着器を備える画像形成装置において、
前記搬送ベルトは、水平方向に対して所定の角度で搬送と直角方向に傾斜し、傾斜下向には、最大サイズの用紙が落ち込める用紙保持部を備え、
前記用紙をエアー吸引力によって前記搬送ベルトに吸引するファン、及び、前記搬送ベルトと前記ファンの間に配置されるダクトの経路に、エアー吸引状態とエアー噴出状態とを切り替える経路切替部を備え、
前記異常発生時に、前記経路切替部により前記経路がエアー噴出状態に切り替わって前記用紙を前記搬送ベルトから浮き上がらせることにより、前記用紙が搬送ベルト上を滑り落ちて前記熱源の搬送と直角方向に移動することを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
前記経路切替部は、前記エアー噴出状態となる位置に戻るように構成され、
通常動作時は、駆動部を動作させることにより、前記経路切替部が前記エアー噴出状態となる位置から前記エアー吸引状態となる位置に強制的に移動され、
前記異常発生時に、前記駆動部の動作が停止することにより、前記経路が自動的にエアー噴出状態に切り替わることを特徴とする請求項6又は7に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9(a)】
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【図9(b)】
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【公開番号】特開2010−96822(P2010−96822A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265031(P2008−265031)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】