説明

画像形成装置

【課題】 電子写真方式の画像形成装置において,感光体上のフッ素含有量がその深さ方向に変化した場合であっても,それを研磨した場合に,感光体に付着する放電生成物等による画像流れを防止すると共に,感光体の寿命を長くすること。
【解決手段】 感光体1がフッ素を含有する非晶質カーボン(又は非晶質シリコンカーバイド)からなる表面保護層14を有しており,感光体1の表面における摩擦抵抗を検知する検知手段7と,感光体1の表面を研磨する研磨手段(摺擦ローラ52)と,検知手段7で検知される摩擦抵抗が大きい時に研磨量を増加させる方向に研磨条件を変更し,摩擦抵抗が小さい時に研磨量を減少させる方向に研磨条件を変更する制御手段8とを備える画像形成装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,複写機,プリンタ等の電子写真方式の画像形成装置に関し,特に,画質低下を生じることなく感光体を長寿命化する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に,複写機,プリンタ,ファクシミリ等の電子写真方式の画像形成装置は,ドラム状の感光体と,その周囲に帯電装置,露光装置,現像装置,転写装置,クリーニング装置,除電装置等を備えている。
その動作は,まず感光体が帯電装置によって帯電され,露光装置によって露光されることで感光体の表面に静電潜像が形成される。そして静電潜像が現像装置によってトナー像として感光体の表面に顕像化され(現像工程),このトナー像が転写装置にて用紙等の被転写材(2次転写方式の場合は転写ベルト等の中間転写体)に転写されて被転写材上に画像が形成される。上記した被転写材上への画像形成後,被転写材に転写されず感光体に残留するトナーはクリーニング装置(ブレードやローラ等)によって感光体から除去され,感光体は除電装置により除電される。
【0003】
従来,こうした画像形成装置において,感光体には非晶質シリコンが広く用いられているが,画像特性の長期にわたる安定性の向上や感光体の長寿命化を図るため,より硬度が高く耐摩耗性,耐刷性に優れる非晶質シリコンカーバイドや非晶質カーボンによって感光体の表面を保護する表面保護層が形成されたものが使用されてきている。
【0004】
しかし,非晶質シリコンカーバイドや非晶質カーボンからなる表面保護層は,帯電工程で酸化したり,放電生成物(コロナ放電時に発生するオゾンや窒素酸化物等の活性物質及びそれらの反応生成物)が付着したりすると,高湿環境において酸化した部分や付着した放電生成物が水分を吸着して低抵抗層を形成し,潜像電荷が潜像方向に流れ画像がぼやけたり擦れたように流れたりする所謂「画像流れ」を発生しやすくなるといった問題があった。
【0005】
この画像流れの原因となる感光体表面の水分の吸着は,感光体内部にヒータを配置し感光体を高温に保つことで防止できることが知られているが,これは感光体の表面へのトナーの固着,感光体の帯電能低下,画像形成装置の消費電力の増大等,別の問題が生じる。
そこで特許文献1では,非晶質シリコンカーバイドや非晶質カーボンにフッ素を含有させることにより感光体の表面の疎水性を高め,ヒータを設けることなく画像流れの防止を実現している。
しかしながら,特許文献1記載の感光体では,感光体の表面への放電生成物の付着や,感光体の表面の酸化等は防止していない。そのため,特許文献1記載のフッ素を含有する感光体も継続的な使用により放電生成物の付着や酸化が進むと,水分を吸着しやすくなり,画像流れを確実には防止できない。
【0006】
一方,特許文献2では,感光体の回転駆動トルクが所定値以上となった時(すなわち,放電生成物が付着し感光体の表面の動摩擦係数が増加した時)に感光体の表面を研磨して,感光体の表面に付着する放電生成物を除去し,画像流れを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−42551号公報
【特許文献2】特開2006−234894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで,特許文献1及び2に開示された技術を組み合わせれば,感光体の表面の疎水性により水分が吸着しにくく,また感光体を研磨することにより水分を吸着しやすい放電生成物の感光体の表面への付着も防止できるので,より確実に画像流れを防止することができると考えられる。
しかしながら,非晶質シリコンカーバイドや非晶質カーボンにフッ素を含有した表面保護層は,その製法のために硬度を均一にすること,別言すると,表面保護層の深さ方向におけるフッ素の含有率を均一にすることが極めて難しい。
詳しく述べると,非晶質シリコンカーバイドや非晶質カーボンへのフッ素の添加は,まず非晶質シリコンカーバイド又は非晶質カーボンが層状に形成され,これにスパッタリングによりフッ素が照射されて含浸されることにより行われる。そして,この工程が複数回繰り返されて相当深さの表面保護層が形成される。従って,表面保護層は,その表面からの深さによってフッ素含有率が不均一となっている。例えば,フッ素を含有する非晶質カーボン(CF層)のフッ素含有率は,表面からの深さ位置によって図4に示すように変化している。
そして,非晶質シリコンカーバイドや非晶質カーボンは,フッ素の含有率が増せば増すほど硬度が低下することが知られている(例えば図5参照)。
従って,表面保護層は,その表面からの深さによってフッ素含有率が異なるので,その硬度もその表面からの深さによって異なることになる(例えば図6参照)。
そのため,特許文献2のように研磨時間,研磨手段と感光体の相対速度,研磨手段の感光体への押圧力等の研磨条件を変更せずに研磨すると,硬度の高い部分と硬度の低い部分とで研磨される量(研磨量)に差が生じる。
仮に硬度が高い部分(即ち,フッ素の含有率の少ない部分)を十分に研磨できる研磨条件に設定すると硬度の低い部分(即ち,フッ素の含有率の多い部分)の研磨量が必要以上に大きくなる。その結果,感光体の寿命が短くなるという問題がある。
逆に硬度の低い部分(即ち,フッ素の含有率の多い部分)を研磨できる程度に研磨条件を設定すると硬度の高い部分(即ち,フッ素の含有率の少ない部分)の研磨量が不十分となる。その結果,付着した放電生成物や酸化した感光体の表面等を十分に除去できず,またフッ素含有率が少なく疎水性の低い表面でトナー像を形成することになるので,画像流れを防止しきれない虞がある。
従って,本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって,感光体上のフッ素含有率がその深さ方向に変化した場合であっても,それを研磨した場合に,画像流れによる画質低下を生じることなく感光体の寿命を長くすることを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は,表面にトナー像が形成され該トナー像を用紙等の被転写材に転写する感光体を備えてなり,前記感光体が非晶質カーボン又は非晶質シリコンカーバイドからなる表面保護層を有し,前記非晶質カーボン又は非晶質シリコンカーバイドにはフッ素が含有されており,前記感光体の表面における摩擦抵抗を検知する検知手段と,前記感光体の表面を研磨する研磨手段と,前記検知手段によって検知される摩擦抵抗に応じて,前記研磨手段による研磨条件を変更させる制御手段とを備えることを特徴とする画像形成装置として構成される。
非晶質カーボン又は非晶質シリコンカーバイドはフッ素が含有されていると,その含有率が高いほど表面の摩擦抵抗が小さく,硬度が低いことが知られている。
本発明では,まず表面保護層を形成する非晶質カーボン又は非晶質シリコンカーバイドにフッ素が含有されていることにより,感光体の表面の疎水性を高め,感光体の表面に付着する放電生成物等の水分吸着を抑制して画像流れを防止する。
しかしながら,継続的使用によりフッ素の含有された感光体の表面も,放電生成物の付着や感光体の表面の酸化等が進むと,画像流れの原因となる。
そこで本発明では,研磨手段により感光体の表面を研磨することにより,感光体の表面に付着する放電生成物や感光体の表面の酸化された部分を除去することで,画像流れを防止する。
この時,検知手段により感光体の表面の摩擦抵抗を検知することにより,実質的には,感光体の表面の硬度をも検知することになる。そして,制御手段によって,前記検知手段で検知した摩擦抵抗(硬度)に応じて前記研磨手段による研磨条件を変更する。例えば,摩擦抵抗の大きい,つまりフッ素の少ない部分では研磨量を多くすることで,研磨量が不十分で,付着した放電生成物等を除去できずに発生する画像流れを防止する。逆に摩擦抵抗の小さい,つまりフッ素の多い部分では研磨量を少なくすることで,必要以上に研磨して感光体の寿命を短くするといった問題を防止する。
具体的には,前記検知手段が,前記感光体の表面の摩擦抵抗が大きい時ほど大きくなる前記感光体の駆動トルクを測定することによって,前記感光体の表面の摩擦抵抗を算出することが可能となる。駆動トルクは,例えば駆動モータの電流値を計測することによって測定することができる。
【0010】
前記制御手段は,前記研磨手段による前記感光体の表面の研磨を,画像形成動作時,又は非画像形成時,又は画像形成時と非画像形成時の両方,のいずれにおいても実行でき,前記検知手段によって検知される摩擦抵抗が大きい時(感光体の表面の硬度が高い時)に研磨条件を研磨量が増加する方向に変更させ,小さい時(感光体の表面の硬度が低い時)に研磨条件を研磨量が減少する方向に変更させることが好ましい。
前記研磨条件の変更は,例えば,前記研磨手段の速度,押圧力のうち少なくとも1つを変化させることによって行いうる。研磨手段の速度,押圧力を変化させることによる研磨条件の変更は,画像形成時にも実施することが可能であり画像形成装置の稼動効率を低下させずに感光体の表面を研磨することができる。
また,前記制御手段は,前記検知手段によって検知される摩擦抵抗が大きい時(感光体の表面の硬度が高い時)に研磨条件を研磨時間が増加する方向に変更させ,小さい時(感光体の表面の硬度が低い時)に研磨時間を研磨量が減少する方向に変更させるものであってもよい。前記研磨時間を変化させることによる研磨条件の変更は,研磨手段の押圧力を変化させるための部材等の追加構成が必要なく簡便な構造で実現することができる。
なお,前記研磨手段の具体例としては,前記感光体から被転写材にトナー像を転写した後,前記感光体に残留するトナーを除去するために,前記感光体に当接される摺擦ローラが挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では,まず表面保護層を形成する非晶質カーボン又は非晶質シリコンカーバイドにフッ素が含有されていることにより,感光体の表面の疎水性を高め,感光体の表面に付着する放電生成物等の水分吸着を抑制して画像流れを防止している。
また,フッ素の含有された感光体の表面も継続的使用により,放電生成物の付着や酸化等が進むと,画像流れが起こりうるが,研磨手段により感光体の表面を研磨することにより,感光体の表面に付着する放電生成物や感光体の表面の酸化された部分を除去することで,画像流れを防止している。
さらに検知手段により感光体の表面の摩擦抵抗を検知するが,非晶質カーボン又は非晶質シリコンカーバイドはフッ素が含有されていると,その含有率が高いほど表面の摩擦抵抗が小さく,硬度が低いことが知られている。そのため検知手段により感光体の表面の摩擦抵抗を検知することにより,実質的には,感光体の表面の硬度をも検知することになる。
そして,制御手段によって,前記検知手段で検知した摩擦抵抗(硬度)に応じて前記研磨手段による研磨条件を変更することで,研磨量が不十分で画像流れ等の不具合を発生させたり,必要以上に研磨して感光体の寿命を短くしたりするといった問題を防止できる。
詳しくは,摩擦抵抗の大きい,つまりフッ素の少ない部分では研磨量を多くすることで,放電生成物等の付着物や感光体の表面の酸化した部分等を十分に除去できる。そのためフッ素含有率が低く疎水性が低い部分であっても ,放電生成物等に水分が吸着して生じる画像流れを防止できる。
一方,摩擦抵抗の小さい,つまりフッ素の多い部分では研磨量を少なくすることで,硬度の低い部分(フッ素含有率の高い部分)を研磨しすぎることを防止でき,感光体の長寿命化に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る画像形成装置の画像形成部を模式的に示す概略図。
【図2】本発明に係る画像形成装置の感光体の表面近傍を示す部分拡大断面図。
【図3】本発明に係る画像形成装置における主要構成の関係を示すブロック図。
【図4】フッ素を含有するアモルファスカーボンの表面からの深さ位置とその深さ位置におけるフッ素含有率の関係を示すグラフ。
【図5】フッ素を含有するアモルファスカーボンのフッ素含有率と硬度の関係を示すグラフ。
【図6】フッ素を含有するアモルファスカーボンの表面からの深さ位置とその深さ位置における硬度の関係を示すグラフ。
【図7】フッ素を含有するアモルファスカーボンのフッ素含有率と表面摩擦抵抗μの関係を示すグラフ。
【図8】フッ素を含有するアモルファスカーボンの表面摩擦抵抗μと感光体駆動トルクの関係を示すグラフ。
【図9】本発明に係る画像形成装置の制御手段によって実行される感光体研磨処理の手順の一例を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下添付図面を参照しながら,本発明の実施の形態について説明し,本発明の理解に供する。尚,以下の実施の形態は,本発明を具体化した一例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
まず,図1を用いて本発明に係る画像形成装置の画像形成部について概略を説明する。なお,本発明は,電子写真方式の画像形成装置であればプリンタ,複写機,ファクシミリ装置等の各種装置に適用することができるが,本実施形態ではモノクロのプリンタXを一例に説明する。
本実施形態に係るプリンタXは,基本構成として給紙部(不図示),画像形成部100,定着部(不図示),排紙部(不図示)等を備える。給紙部より供給された用紙やOHPフィルム等の被転写材(以下,単に用紙Pと称す)に画像形成部100にてトナー画像が形成される。このトナー画像が定着部にて加熱,加圧されて用紙Pに定着され,トナーが定着された用紙Pは排紙部へ排出される。なお,本発明は画像形成部100に係るものであり,他の構成は本発明と直接の関係がないので詳しい説明を省略する。
プリンタXの画像形成部100は,回転駆動されるドラム状の感光体1と,その周囲に帯電装置2,レーザー光Lによって感光体1を露光する露光装置(不図示),現像ローラ3を備える現像装置,転写ローラ4を備える転写装置,クリーニング装置5,除電ランプ6等を備える。転写ローラ4は,トナーの帯電極性とは逆極性を示すバイアス電圧を印加する電源(不図示)を備える。クリーニング装置5は感光体1に当接固定され感光体1の表面のトナーを掻き取るクリーニングブレード51と,感光体1に当接され補助的クリーニング手段として用いられる摺擦ローラ52とを備える。
帯電装置2は,帯電ローラにより感光体1の表面を所定の極性,電位に一様に帯電させるものであるが,これに限定されるものではない。
摺擦ローラ52の材質は特に限定されないが,例えばエチレンプロピレンジエンターポリマー(EPDM)の発泡体等が挙げられる。
【0014】
このプリンタXによる画像形成動作は,従来の画像形成装置と特に変わるところはなく,感光体1が回転駆動されながら帯電装置2によって帯電され,露光装置の発するレーザー光Lが感光体1の表面を露光して静電潜像を形成し,現像ローラ3から供給される現像剤(トナー)によって静電潜像が顕像化されて感光体1の表面にトナー像が形成される。
その後,転写ローラ4に前記バイアス電圧が印加されることで,前記トナー像が用紙Pに転写される。トナー像が用紙Pに転写された後,感光体1の表面に残留する未転写トナーは,摺擦ローラ52及びクリーニングブレード51によって除去され,感光体1の表面は除電ランプ6によって除電される。
また,クリーニング装置5はスクレーパ53や回収スパイラル54等を備えている。クリーニングブレード51で掻き取られたトナーや摺擦ローラ52に付着されスクレーパ53でクリーニング装置5内に掻き落とされたトナーは,回収スパイラル54によって搬送されて回収タンク(不図示)に回収される。
なお,言うまでもないが上記した画像形成部100を1つのユニットとし,ブラック,イエロー,シアン,マゼンダの各色トナー用のユニットを備え,各色トナーを用紙Pに積層すればカラープリンタ等のフルカラー画像を形成可能な画像形成装置とすることができる。
また,感光体1から用紙Pにトナーを直接転写せず,一旦,中間転写ベルト等の中間転写体を介して用紙Pに転写する2次転写方式の画像形成装置としても良い。
【0015】
本実施形態において感光体1は,図2に示すようにアルミニウム等の導電性基材11上に,アモルファスシリコンに硼素等を含有してなる電荷注入阻止層12,アモルファスシリコンからなる光導電層13,アモルファスカーボン(非晶質カーボン)からなる表面保護層14が順次積層されたアモルファスシリコン感光体である。そして,表面保護層14を形成するアモルファスカーボンにはフッ素が含有されている。
このアモルファスカーボンで形成された表面保護層14を有することにより,感光体1の表面の耐摩耗性や耐刷性を向上させている。
そして,アモルファスカーボンにフッ素が含有されていることにより,感光体1の表面の疎水性を高め,感光体1の表面に付着する放電生成物等への水分吸着を抑制し,画像流れによる画質低下を防止している。
なお,感光体1は,これに限定されず,表面保護層14がアモルファスシリコンカーバイド(非晶質シリコンカーバイド)にフッ素を含有したもので形成されていてもよく,また前記表面保護層14を有すれば有機感光体であっても良い。
さらに,感光体1の表面は,研磨手段としての摺擦ローラ52が感光体1に接触して回転することにより研磨される。
即ち,フッ素の含有された感光体1の表面も継続的使用により,放電生成物の付着や酸化等が進むと,画像流れが起こりうるが,上記のように摺擦ローラ52により研磨することで,感光体1の表面に付着する放電生成物や感光体1の表面の酸化された部分が除去され,画像流れが防止される。
上記したように,表面保護層14がフッ素を含有したアモルファスカーボンで形成されており,さらにその表面を摺擦ローラ52で研磨することにより,画像流れの原因となる「放電生成物の付着物等の水分吸着」と「放電生成物等の付着」の両方を防止して,より確実に画像流れを防止している。
【0016】
摺擦ローラ52による感光体1の表面の研磨は,例えば,既述のように転写されずに感光体1の表面に残留し,摺擦ローラ52に付着されて回収されるトナーを利用して行われる。具体的には,このトナーには酸化チタン等の研磨作用を有する微粒子が外添材として添加されており,これが摺擦ローラ52に担持されて砥粒となり感光体1と摺擦ローラ52のニップ部分を通過することにより,感光体1の表面が研磨される。このように摺擦ローラ52を研磨手段として兼用すると,装置自体の小型化や構造の簡単化に貢献することができる。
なお,本実施形態では,摺擦ローラ52が研磨手段として兼用し,トナーの外添剤を砥粒として使用して研磨しているが,これに限定されるものではない。例えば,摺擦ローラ52そのものが研磨作用を有する材質や表面形状ものとしても良いし,摺擦ローラ52とは別に研磨ブレードや研磨ローラ等の研磨手段を設けてもよい。また,この場合の研磨ブレードはクリーニングブレード51と兼用してもよい。
【0017】
この実施形態にかかるプリンタXは,図3に示すように感光体1の表面の摩擦抵抗を検知する検知手段7と,摺擦ローラ52によって感光体1を研磨する研磨条件を変更させる制御手段8を備える。
制御手段8は,検知手段7によって検知された感光体1の表面の摩擦抵抗に応じて前記研磨条件を変更する。詳しくは,検知手段7によって検知される摩擦抵抗が大きい時に研磨量が増加する方向に研磨条件を変更し,摩擦抵抗が小さい時に研磨量が減少する方向に研磨条件を変更する。研磨条件の具体例については後述する。
【0018】
ここで,表面保護層14を形成するフッ素を含有するアモルファスカーボン(以下,CF層と称す)について図4〜7を用いて説明する。
まず,CF層の製法について述べると,アモルファスカーボンへのフッ素の添加は,薄層として形成されたアモルファスカーボン上にスパッタリングやCVD法等の薄膜製造技術によってフッ素が照射されて含浸されることにより行われる。この薄層の形成とフッ素の添加が複数回繰り返し行われて積層され,相当深さのCF層が形成される。従って,CF層はその表面からの深さによってフッ素の含有率が異なる。具体的には薄層が形成される毎にフッ素が照射されて含浸されるので,そのフッ素含有率は,図4に示すようにフッ素が照射された深さ位置毎に急激に高くなり,フッ素が照射された位置から,その前にフッ素が照射された深さ位置までは,徐々に低くなるような変化を深さ方向に繰り返す。図4では,ほぼ340Å毎にフッ素が照射され,CF層の表面においてもフッ素が照射されている。
また,アモルファスカーボンはフッ素を含有することにより硬度が低下することが知られている。図5に示すように,フッ素の含有率が増せば増すほどCF層の硬度は低下する。
CF層は上記したように,その表面からの深さによってフッ素含有率が異なるので,その硬度もその表面からの深さによって異なることが理解される。CF層の硬度は,図6に示すように,フッ素が照射された深さ位置毎に急激に低くなり,フッ素が照射された位置から,その前にフッ素が照射された深さ位置までは,徐々に高くなるように繰り返し変化する。
ここで,CF層は,フッ素含有率が高いもの程その表面の摩擦抵抗がμが小さいことが知られている(図7)。つまり,CF層は,フッ素含有率が高ければ,その表面の摩擦抵抗μは小さく,硬度は低くなり,フッ素含有率が低ければ,表面の摩擦抵抗μは大きく,硬度は高くなる。従ってCF層表面の摩擦抵抗μが小さくなれば硬度は低くなり,摩擦抵抗μが大きくなれば硬度は高くなるといえる。即ち,CF層表面の摩擦抵抗μを測定すると,その部分におけるフッ素含有率あるいはCF層の硬度が測定される。
本実施形態の表面保護層14は,上記のCF層により構成されており,制御手段8は既述のように「検知手段7によって検知される摩擦抵抗が大きい時に研磨量が増加する方向に,摩擦抵抗が小さい時に研磨量が減少する方向に」研磨条件を変更する。すなわち,制御手段8は,「硬度が高い(フッ素の含有率が低い)部分を研磨する時に研磨量が増加する方向に,硬度が低い部分(フッ素の含有率が高い)を研磨する時に研磨量が減少する方向に」研磨条件を変更すると言える。これにより硬度の低い部分(つまりフッ素の含有率の高い部分)を必要以上に研磨して,感光体1の寿命が短くなるという問題や,硬度の高い部分(フッ素の含有率の低い部分)の研磨が不十分で,付着した放電生成物等を十分に除去できず,画像流れを防止しきれないという問題を防止している。
【0019】
検知手段7は,その一例として,感光体1の駆動トルクを測定することにより,感光体1の表面の摩擦抵抗μを算出するものであることが好ましい。駆動トルクの測定は画像形成動作中に行うことができるので,プリンタXをたびたび停止させて稼動効率を低下させることなく摩擦抵抗μを検知できるからである。
感光体1の駆動トルクの測定に用いられる測定機器としては,感光体1の駆動モータの電流値を計測する電流計等が挙げられる。感光体1の表面の摩擦抵抗μが大きくなると感光体1と,これに接触するクリーニングブレード51等の部材との抵抗が増すため,駆動トルクが大きくなり駆動モータに流れる電流値が大きくなる。この摩擦抵抗μと電流値の関係を実験等により予め図8に示すように求めておくことで,感光体を駆動するモータの駆動電流を検出することで,摩擦抵抗μを算出することが出来る。
なお,検知手段7は,これに限定されるものではなく,感光体1の表面の摩擦抵抗μを検知できるものであればよい。
制御手段8は,CPUやROM,RAM等,プリンタXを統括的に制御するものに格納された制御プログラムやシーケンス制御回路等である。
【0020】
以下,図9のフローチャートに従って,プリンタXにおける制御手段8によって実行される感光体1の研磨処理の手順の一例について説明する。ここに,図9に示すS1,S2,…は処理手順(ステップ)番号を表している。
【0021】
(ステップS1)
初めに,通常の画像形成動作が行われる。
ここで,プリンタXの画像形成動作中において,摺擦ローラ52は,感光体1に押圧力p1で押圧され,図1に示すように感光体1の回転と逆方向(当接する部分が同じ向き,所謂「ウィズ方向」)に,感光体1の周速度Vより速い周速度v1で回転しており,感光体1の表面をクリーニングすると共に研磨する。
なお,摺擦ローラ52の回転方向は,感光体1の回転と同方向(当接する部分が逆向き)であってもよいが,逆方向である方が,摺擦負荷及びその変動の影響を受け難く,回転むらや回転位置ずれによって画像が縞状に現れるジッタ等を生じにくく好ましい。また,周速度v1は感光体1の周速度Vと同速でなければ周速度Vより遅い速度であってもよい。要するに相対的な周速度に差があることによって,両者の接触部に摩擦状態が生じることが必要である。
このとき検知手段7により感光体1の駆動トルクTが検知される。
ステップS1の画像形成動作が実行されると処理はステップS2に移行する。
【0022】
(ステップS2)
ステップS2では,検知手段7により検知された画像形成動作時での感光体1の駆動トルクが予め定めた所定値T1以上かどうかが判断される。
駆動トルクTが所定値T1より小さい場合(ステップS2のNo側),処理はステップS1へ移行し,再び画像形成動作が実行された後,ステップS2が繰り返される。駆動トルクTが所定値T1以上にならなければ,連続して画像形成動作が行われる。
駆動トルクTが所定値T1以上の場合(ステップS2のYes側),処理はステップS3へ移行する。
【0023】
(ステップS3)
駆動トルクTが所定値T1以上であるということは,感光体1の表面の摩擦係数μが大きくなっているということである。即ち既述のように硬度が高くなっている(フッ素の含有率が低くなっている)ので,研磨量を増加する方向に研磨条件が変更される。
ステップS3では,摺擦ローラ52の周速度v1をより速い周速度v2に変化させて感光体1の周速度Vとの差を大きくし,摺擦ローラ52の押圧力p1をより大きい押圧力p2に変化させて研磨量を増加させる。必要に応じて,摺擦ローラ52の周速度v1をより速い周速度v2に変化させて感光体1の周速度Vとの差を大きくするか,あるいは摺擦ローラ52の押圧力p1をより大きい押圧力p2に変化させてもよい。
この研磨条件の変更によると,単位時間当たりの研磨量を増加し,研磨時間を変更しなくとも研磨量を増加させることができるので,非画像形成時に研磨を行ってプリンタXの稼動効率を低下させるといったことがない。
なお,本実施形態では周速度と押圧力の両方の変化による研磨条件の変更を1つのステップとしているが,別々のステップとしてもよい。
研磨条件が変更されるとステップS4の処理へ移行する。
【0024】
(ステップS4)
ステップS4では,ステップS1同様に画像形成動作が行われる。
ここで,摺擦ローラ52は,感光体1に押圧力p2で押圧され,感光体1の回転と逆方向に,感光体1の周速度Vより速い周速度v2で回転しており,感光体1の表面をクリーニングすると共に研磨する。
このとき検知手段7により感光体1の駆動トルクTが検知される。
ステップS4の画像形成動作が実行されると処理はステップS5に移行する。
【0025】
(ステップS5)
ステップS5では,検知手段7により検知された画像形成動作時での感光体1の駆動トルクが所定値T1以上かどうかが判断される。
駆動トルクTが所定値T1より小さい場合(ステップS5のNo側),処理はステップS7へ移行する。
駆動トルクTが所定値T1以上の場合(ステップS5のYes側),処理はステップS6へ移行する。
【0026】
(ステップS6)
ステップS5において駆動トルクTが所定値T1以上であるということは,ステップ3において研磨量を増加させる方向に研磨条件を変更してもなお,感光体1の表面が十分に研磨されず,摩擦係数μが大きいままであるということである。そのため,さらに研磨量を増加させる方向に研磨条件が変更される。
既にステップS3にて,摺擦ローラ52の周速度v1をより速い周速度v2に,押圧力p1をより大きい押圧力p2に変化させているので,ステップS6では,研磨時間を延長して研磨量が増加する方向に研磨条件を変更する。
詳しくは,画像形成動作中に実行される研磨に加えて,画像形成動作後の非画像形成時における研磨時間を0から予め定めた研磨時間tに変化させて,研磨時間t経過後まで感光体1及び摺擦ローラ52を駆動させて非画像形成時においても研磨を実行するよう研磨条件を変更する。
このように研磨条件を変更すると,感光体1の表面を確実に研磨できるので,画像流れの原因となる感光体1の表面に付着した放電生成物等を確実に除去することができる。
研磨条件が変更されるとステップS4の処理へ移行し,画像形成動作及び画像形成動作後の研磨処理が行われ,再びステップS5の処理が実行される。
【0027】
(ステップS7)
ステップS5において駆動トルクTが所定値T1より小さいということは,ステップS3又はステップS6にて研磨量が増加する方向に研磨条件を変更したことにより,感光体1の表面が十分に研磨され,摩擦抵抗μが低下したということである。即ち感光体1の表面の硬度も低下したということとなり,研磨条件は研磨量が減少する方向に変更される。
ステップS7では,ステップS3又はステップS6にて変更した条件を初期値に戻す。即ち摺擦ローラ52の周速度をv1,押圧力をp1,非画像形成時の研磨時間を0とする研磨条件の変更がなされる。
これにより,硬度が低い部分(つまりフッ素の含有率が高く,画像流れが生じにくい部分)を必要以上に研磨して感光体1の寿命を短くすることを防止できる。
【0028】
本実施形態では,制御手段8は,通常の画像形成動作時において感光体1の表面の研磨を実行しており,駆動トルクTを所定値T1と比較して研磨条件を変更し,必要時には非画像形成時にも感光体1の研磨を実行している。つまり画像形成動作時と,非画像形成時との両方で研磨を実行しているが,これに限定されるものではなく,画像形成動作時のみ,又は非画像形成時のみに感光体1の表面の研磨を実行するものとしてもよい。
例えば,感光体1及び摺擦ローラ52の駆動源として,速度及び押圧力を十分に上げることが可能なモータを使用すれば,研磨量を増減させる研磨条件の変更を摺擦ローラ52の速度及び押圧力のみで行うことができる。このようにすると,感光体1の表面の研磨を画像形成動作時のみでも行うこともでき,非画像形成時には研磨を行わなければ,プリンタXの稼動効率を上げることができる。
また,摺擦ローラ52の画像形成動作時の周速度を感光体1の周速度と同速としたり,摺擦ローラ52を感光体1に離接させる離接機構を設けたり等すれば,画像形成動作時に感光体1の表面の研磨を行わないようにすることができる。画像形成動作時には感光体1の表面の研磨を実行せず,駆動トルクT(摩擦抵抗μ)の変化に応じて必要時に画像形成動作を中止して非画像形成状態として感光体1の表面の研磨を実行すれば,ジッタ等の他の問題が生じにくい。
なお,本実施形態では,研磨条件を変更する判断基準となる駆動トルクT(摩擦抵抗μ)の所定値はT1の1つのみとしているが,これに限定されるものではなく,所定値をT1,T2,T3,・・・と複数設定して,段階的に研磨条件を変更してもよい。
【符号の説明】
【0029】
100 画像形成部
1 感光体
14 表面保護層
52 摺擦ローラ
7 検知手段
8 制御手段
X プリンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にトナー像が形成され,該トナー像を用紙等の被転写材に転写する感光体を備えてなり,
前記感光体が非晶質カーボン又は非晶質シリコンカーバイドからなる表面保護層を有し,前記非晶質カーボン又は非晶質シリコンカーバイドにはフッ素が含有されている画像形成装置であって,
前記感光体の表面における摩擦抵抗を検知する検知手段と,
前記感光体の表面を研磨する研磨手段と,
前記検知手段によって検知される摩擦抵抗に応じて,前記研磨手段による研磨条件を変更させる制御手段とを備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記検知手段が,前記感光体の駆動トルクを測定することによって,前記感光体の表面の摩擦抵抗を算出するものである請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記検知手段が,前記感光体の駆動モータの電流値を計測することにより,前記駆動トルクを測定して前記感光体の表面の摩擦抵抗を算出するものである請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記制御手段が,前記研磨手段による前記感光体の表面の研磨を,画像形成動作時及び/又は非画像形成時において実行する請求項1〜3のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記制御手段は,前記検知手段によって検知される摩擦抵抗が大きい時に研磨条件を研磨量が増加する方向に変更させ,小さい時に研磨条件を研磨量が減少する方向に変更させる請求項1〜4のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記研磨条件の変更が,前記研磨手段の速度,押圧力のうち少なくとも1つを変化させることによって行われる請求項5に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記制御手段は,前記検知手段によって検知される摩擦抵抗が大きい時に研磨条件を研磨時間が増加する方向に変更させ,小さい時に研磨条件を研磨時間が減少する方向に変更させる請求項1〜4のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記研磨手段が,前記感光体から被転写材にトナー像を転写した後,前記感光体に残留するトナーを除去するために,前記感光体に当接される摺擦ローラである請求項1〜7のいずれかに記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−158790(P2011−158790A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21694(P2010−21694)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】