説明

画像形成装置

【課題】再現可能な色域の確保とインクの硬化度の確保とを両立させる。
【解決手段】1記録画素あたりに吐出させるインクの吐出量を目標値に調整して前記記録画素ごとに前記インクを記録媒体上に吐出する吐出手段と、前記記録媒体上に着弾した前記インクに活性光線を照射することにより前記インクを硬化させる硬化手段と、を備え、前記目標値は、前記記録媒体上に前記インクを着弾させ硬化させた場合に前記記録媒体上にて再現される色の濃度が目標濃度となる前記吐出量である濃度確保吐出量を下限値とし、前記記録媒体上に前記インクを着弾させ硬化させた場合における前記インクの硬化度が目標硬化度となる前記吐出量である硬化度確保吐出量を上限値とした吐出量範囲に属する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性光線により硬化されるインクの吐出を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外光を照射することによってインク滴を硬化させる画像形成装置が提案されている(特許文献1、参照)。かかる文献においては、インク滴の吐出直後において紫外光を照射することによりインク滴を仮硬化させ、その後しばらくしてから再度紫外光を照射することによりインク滴を本硬化させることが開示されている。これにより、インク滴の吐出直後におけるインク滴同士の混合が防止できるとともに、印刷後のハンドリングによる画像の劣化が防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2005−280346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、記録媒体上におけるインクの量が大きくなり過ぎると、インクを硬化させるための紫外光のエネルギーが不足するという問題があった。すなわち、吐出したインク滴の数は同じであっても、インク滴あたりのインクの吐出量が大きくなり過ぎると、インク滴が十分に硬化されないという問題があった。これに対して、インク滴あたりのインクの吐出量を少なくすれば十分な硬化が期待できるが、インクによる記録媒体の被覆が不十分となり、再現可能な色域が小さくなるという問題があった。
本発明は、前記課題にかんがみてなされたもので、再現可能な色域の確保とインクの硬化度の確保とを両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため本発明の画像形成装置は、1記録画素あたりに吐出するインクの吐出量を目標値に調整して記録画素ごとにインクを記録媒体上に吐出し、記録媒体上に着弾したインクに活性光線を照射することによりインクを硬化させる。1記録画素あたりの吐出量の目標値は、記録媒体上にインクを着弾させ硬化させた場合に記録媒体上にて再現される色の濃度が目標濃度となる吐出量である濃度確保吐出量を下限値とした吐出量範囲に属する。これにより、記録媒体上にて再現される色の濃度を目標濃度以上とすることが保証できる。すなわち、再現可能な色域を確保することができる。さらに、1記録画素あたりの吐出量の目標値は、記録媒体上にインクを着弾させ硬化させた場合におけるインクの硬化度が目標硬化度となる吐出量である硬化度確保吐出量を上限値とした吐出量範囲に属する。これにより、インクの硬化度を目標硬化度以上とすることができる。すなわち、再現可能な色域の確保とインクの硬化度の確保とを両立させることができる。
【0006】
本発明によれば、吐出量を吐出量範囲に属する目標値に調整することにより目標濃度の色を再現することができるが、当該目標濃度を色空間の外縁の色(高彩度色、高明度色、低明度色)に対応する濃度とするほど、再現可能な色域を広くすることができる。例えば、再現させたい色域が予め決められているのであれば、当該色域の外縁に近い色に対応する濃度を目標濃度とするのが望ましい。なお、濃度とはインク固有の色の強さの程度を意味し、有彩色の色材を含むインクであれば当該有彩色の色相方向の彩度が濃度に対応することとなる。また、白色の色材を含むインクであれば明度が濃度に対応し、黒色の色材を含むインクであれば明度(暗いこと)が濃度に対応することとなる。
【0007】
さらに、濃度確保吐出量を下限値とし、硬化度確保吐出量を上限値とした吐出量範囲に属する複数の候補値のなかから目標値を設定する構成とすることにより、目標濃度と目標硬化度とを両立させつつ、1記録画素あたりのインクの吐出量を可変とすることができる。1記録画素あたりのインクの吐出量が変化すると、おもに記録媒体上におけるインクの厚み、すなわち印刷結果の質感が変化する。従って、候補値の選択を受け付ける受付手段を備えることにより、所望の質感の印刷結果を得ることができる。
【0008】
さらに、記録媒体上に形成されるインクのパターン形状が目標形状となる候補値のみを目標値として設定するのが望ましい。これにより、目標濃度と目標硬化度とを両立しつつ、記録媒体上に形成されるインクのパターン形状を目標形状とすることができる。例えば、所定の大きさの文字や罫線が再現可能な候補値のみ利用者からの選択を受け付けるようにしてもよい。
また、記録媒体上におけるインクのパターン形状は記録媒体の表面物性に大きく依存するため、目標値として設定可能な候補値を記録媒体に応じて異ならせることが望ましい。
【0009】
吐出手段は、使用可能な複数種類のインクについてそれぞれ異なる目標値に吐出量を調整してもよいが、共通する目標値に吐出量を調整することにより、処理負荷を軽減できる。この場合、いずれのインクについても目標濃度と目標硬化度とを両立させる、共通の目標値を設定するのが望ましい。そのための構成として、吐出量範囲の下限値を複数種類のインクそれぞれについての濃度確保吐出量のうちの最大値とし、吐出量範囲の上限値を複数種類のインクのそれぞれについての硬化度確保吐出量のうちの最小値とする構成を採用できる。すなわち、目標濃度と目標硬化度の実現においてそれぞれボトルネックとなっているインクについての濃度確保吐出量と硬化度確保吐出量によって吐出量範囲を画定すれば、他のインクについても目標濃度と目標硬化度とが両立できる。
【0010】
さらに、硬化手段は、記録媒体と目標値との組み合わせに対応付けられた硬化条件でインクを硬化させるのが望ましい。すなわち、インクが記録媒体上で広がる特性は、記録媒体と1記録画素あたりの吐出量である目標値との組み合わせに大きく依存する。従って、記録媒体と目標値との組み合わせに対応する硬化条件でインクを硬化させることにより、インクのパターン形状が目標形状となることを保証するのが望ましい。
【0011】
本発明の画像形成装置は単独の装置として実現されるものに限らず、本発明の画像形成装置が備える各手段が他の装置に備えられてもよい。印刷装置が接続されたコンピューターにて実行されるプリンタードライバーにより、本発明の各手段に対応する機能が実現されてもよい。また、請求項に記載された各手段の機能は、構成自体で機能が特定されるハードウェア資源、プログラムにより機能が特定されるハードウェア資源、またはそれらの組み合わせにより実現される。また、これら各手段の機能は、各々が物理的に互いに独立したハードウェア資源で実現されるものに限定されない。さらに、本発明は印刷プログラムの記録媒体としても成立する。むろん、そのコンピュータプログラムの記録媒体は、磁気記録媒体であってもよいし光磁気記録媒体であってもよいし、今後開発されるいかなる記録媒体であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1Aは画像形成装置のブロック図であり、図1Bは印刷ヘッドの底面図である。
【図2】印刷条件設定画像を示す図である。
【図3】印刷制御処理における画像処理の模式図である。
【図4】図4Aは各カラーパッチの測色結果を示すグラフであり、図4Bはガマットを示す図である。
【図5】カラーパッチの硬化度を示すグラフである。
【図6】吐出量とテストパターンの線幅との関係を示すグラフである。
【図7】変形例にかかる印刷ヘッドを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら以下の順に説明する。なお、各図において対応する構成要素には同一の符号が付され、重複する説明は省略される。
(1)画像形成装置の構成:
(2)印刷制御処理:
(3)駆動電圧パルスの設定:
(4)変形例:
【0014】
(1)画像形成装置の構成:
図1Aは本発明の一実施形態にかかる画像形成装置1のブロック図である。画像形成装置1は、紫外線硬化型インクにより記録媒体上に印刷画像を形成するシリアルインクジェットプリンターである。画像形成装置1は、コントローラー10とキャリッジユニット20と搬送ユニット30と本硬化用ランプユニット40とUI(User Interface)部50とを備える。コントローラー10は、図示しないASICとCPUとROMとRAMとを備える。ASICと、ROMに記録されたプログラムを実行するCPUとは、後述する印刷制御処理のための各種演算処理を実行する。
【0015】
キャリッジユニット20は、キャリッジモータードライバー21とキャリッジモーター22とインクカートリッジ23と印刷ヘッド24とピエゾドライバー25とLEDドライバー26とを備える。キャリッジモーター22は、印刷ヘッド24を主走査方向に駆動させるための動力を生じさせる。キャリッジモータードライバー21は、キャリッジモーター22の駆動に必要な駆動信号をコントローラー10からの制御信号に基づいて生成する。インクカートリッジ23は、印刷ヘッド24に供給するためのインクを貯留する。本実施形態のインクカートリッジ23は、C(シアン)とM(マゼンタ)とY(イエロー)とK(ブラック)の各インクを貯留する。インクは紫外線硬化型インクであり、紫外線のエネルギーを受け重合が進行する紫外線重合樹脂と重合開始剤と色材等を含む。例えば特開2010−138315号公報に記載された紫外線硬化型インクをインクカートリッジ23が貯留する。
【0016】
図1Bは、印刷ヘッド24を記録媒体側から見て示す底面図である。印刷ヘッド24は、記録媒体に対面するノズル面を有し、当該ノズル面において複数配列するノズル24aを備える。各ノズル24aは図示しないインク室と連通しており、インク室にはインクカートリッジ23から供給されたインクが満たされる。インク室にはノズル24aごとに図示しないピエゾ素子が備えられており、ピエゾドライバー25はコントローラー10からの制御信号に基づいてピエゾ素子に駆動電圧パルスを印加する。ピエゾ素子は、駆動電圧パルスが印加されると機械的に変形し、インク室に満たされたインクを加減圧する。これにより、ノズル24aからインク滴が記録媒体に向かって吐出される。また、駆動電圧パルスのパルス形状によってインク室におけるインクの加減圧状態を調整することにより、ノズル24aから吐出されるインク滴の吐出量が調整できる。なお、本明細書において、吐出量とは、単一の記録画素に対して吐出されるインク滴の重量を意味し、単一の記録画素に対して複数のインク滴が吐出される場合にそれらの重量の合計を意味する。なお、コントローラー10とノズル24aとピエゾドライバー25等は吐出手段に相当する。
【0017】
印刷ヘッド24のノズル面には矩形状の4個のヘッド領域H1〜H4が設けられ、各ヘッド領域H1〜H4においてインクを吐出する複数のノズル24aが副走査方向に配列するノズル列が2列ずつ備えられている。単一のノズル列に属するノズル24aは同一インク種のインクを吐出し、同一のインク種のインクを吐出するノズル列は主走査方向に互いに隣接している。各ノズル列においてノズル24aは、副走査方向に一定の空間周期で配置されており、当該空間周期は1/360インチとされる。また、隣接するノズル列は副走査方向に1/720インチだけずれている。
【0018】
本実施形態において、ピエゾドライバー25は、6種類の異なるドットを記録媒体上に形成するための駆動電圧パルスを生成し、ピエゾ素子に印加する。すなわち、ピエゾドライバー25は、大ドットLと中ドットLと小ドットLを記録媒体上に形成するための3種類の駆動電圧パルス、および、大ドットSと中ドットSと小ドットSを記録媒体上に形成するための3種類の駆動電圧パルスを生成する。ピエゾドライバー25は、質感モードを指定する制御信号をコントローラー10から受け付ける。本実施形態では、質感モードとして、凹凸モードと平坦モードのいずれかが選択される。ピエゾドライバー25は、凹凸モードが選択された場合には大ドットLと中ドットLと小ドットLに対応する駆動電圧パルスを生成し、平坦モードが選択された場合には大ドットSと中ドットSと小ドットSに対応する駆動電圧パルスを生成する。
【0019】
各ドットを形成するためのインク滴の吐出量の大小関係は以下の通りである。
大ドットL>大ドットS>中ドットL>中ドットS>小ドットL>小ドットS
すなわち、インク滴の吐出量は、ドットのサイズ(大、中、小)に準じ、同等の大きさのドットを形成するインク滴同士を比較すると、平坦モードよりも凹凸モードにて吐出されるインク滴の吐出量の方が大きくなる。なお、大ドットLに対応する駆動電圧パルスは、中ドットLに対応する駆動電圧パルスを2個連続させることにより生成される。同様に、大ドットSに対応する駆動電圧パルスは、中ドットSに対応する駆動電圧パルスを2個連続させることにより生成される。
【0020】
印刷ヘッド24は、ノズル面から記録媒体に向かって紫外光を発光する仮硬化用LED24bを備える。仮硬化用LED24bは、コントローラー10からの制御信号に基づいてLEDドライバー26が生成した駆動電流によって活性光線としての紫外光を発光する。記録媒体上に着弾したインク滴は、仮硬化用LED24bが発光した紫外光によって硬化する。すなわち、仮硬化用LED24bが発光する紫外光のエネルギーによって、記録媒体上に着弾したインク滴における重合が開始し、進行する。本実施形態において、仮硬化用LED24bは、印刷ヘッド24の主走査方向両端の辺に沿うように一対備えられており、一対の仮硬化用LED24bによって各ノズル24aが主走査方向に挟み込まれる。従って、印刷ヘッド24がいずれの方向に主走査した場合にも、着弾直後のインク滴に仮硬化用LED24bからの紫外光を照射できる。
【0021】
搬送ユニット30は、図示しない搬送モーターと搬送ローラーとモータードライバー等を備え、コントローラー10からの制御信号に基づいて主走査方向と直交する副走査方向に記録媒体を搬送する。これにより、印刷ヘッド24と記録媒体とを主走査方向および副走査方向に相対移動させることができ、記録媒体上の各位置にインク滴を着弾させることにより、二次元の印刷画像を形成することができる。
【0022】
本硬化用ランプユニット40は、印刷ヘッド24よりも記録媒体の搬送方向下流側に本硬化用ランプ40aを有している。本硬化用ランプ40aは、例えばメタルハライドランプや水銀ランプやLEDランプを備えており、コントローラー10からの制御信号に基づいて、図示しないドライバーが駆動電流を供給することにより、仮硬化用LED24bよりもエネルギーの大きい紫外光を発光する。本硬化用ランプ40aが発光する紫外光のエネルギーによって、記録媒体上に着弾したインク滴における重合がさらに進行し、インク滴が硬化する。なお、仮硬化用LED24bとLEDドライバー26と本硬化用ランプユニット40とは硬化手段に相当する。
【0023】
UI部50は、画像を表示させる表示部と操作を受け付ける操作部とを備える。UI部50は、印刷を行う記録媒体の選択と、質感モードの選択とを受け付けるための印刷条件設定画像を、コントローラー10からの制御信号に基づいて表示部に表示させる。また、UI部50は操作部により記録媒体と質感モードの選択を受け付け、当該選択の内容を示す操作信号をコントローラー10に出力する。
【0024】
(2)印刷制御処理:
図2は、画像形成装置1が印刷を実行するにあたり、コントローラー10がUI部50の表示部に表示させる印刷条件設定画像の一例を示している。この印刷条件設定画像は、印刷を行う記録媒体の選択と、質感モードの選択とを受け付けるための画像である。印刷条件設定画像においては、画像形成装置1が印刷可能な記録媒体が一覧化されており、各記録媒体につき選択可能な質感モードが付記されている。記録媒体と選択可能な質感モードとの対応関係を規定した記録媒体テーブル10aがROMに記録されており、当該記録媒体テーブル10aを参照してコントローラー10が印刷条件設定画像をUI部50に表示させる。図2の例では、記録媒体M1については平坦モードのみ選択可能であり、記録媒体M2について質感モードとして凹凸モードと平坦モードの双方が選択可能であり、記録媒体M3については凹凸モードのみ選択可能となっている。これにより、利用者は、各記録媒体M1〜M3について、どの質感モードが選択可能であるかを認識できる。コントローラー10は、記録媒体M1〜M3と質感モードとを選択する操作信号をUI部50から取得する。
【0025】
図3は、印刷制御処理においてコントローラー10が行う画像処理を模式的に説明する図である。コントローラー10は、印刷対象の画像データを受け付けると、当該画像データに対して解像度変換処理と色変換処理とハーフトーン処理と並べ替え処理等を順次実行することにより、キャリッジユニット20と搬送ユニット30と本硬化用ランプユニット40等を制御するための各種制御信号を生成する。コントローラー10は、解像度変換処理において、印刷解像度と一致するように画像データの解像度を変換する。これにより、画像データを構成する画素が、記録媒体上における物理的な領域を示す記録画素へと変換される。図3の例では、sRGB色空間におけるRGB階調(256階調)が各画素に対応付けられた画像データが入力され、当該画像データの解像度を変換することにより、各画素が記録媒体上において720×720dpiに区画された記録画素へと変換されている。コントローラー10は、色変換処理において、画像データの各記録画素が示すRGB階調に対応するインク量階調(256階調)を特定する。例えば、RGB階調とCMYKのインク量階調との対応関係を規定した色変換テーブルを参照することにより色変換処理を行うことができる。
【0026】
コントローラー10は、ハーフトーン処理において、各記録画素についてのインク量階調に基づいて、各記録画素に形成するドットの種類を特定する。すなわち、各画素について、大ドット(大)、中ドット(中)、小ドット(小)を形成するためのインク滴のいずれを吐出させるか、または、いずれのドットも形成させない(否)か、を特定する。コントローラー10は、インク量階調とドット形成確率(大ドットを形成させる確率,中ドットを形成させる確率,小ドットを形成させる確率,いずれのドットも形成させない確率)との対応関係を規定したドット形成確率テーブルを備えており、ドット形成確率に準じて各記録画素についてハーフトーン処理を行う。
【0027】
例えば、インク量階調の0に対して、大ドットを形成させる確率と中ドットを形成させる確率と小ドットを形成させる確率としてそれぞれ0%が対応付けられ、いずれのドットも形成させない確率として100%が対応付けられている。従って、インク量階調として0が対応付けられた記録画素については、いずれのドットも形成させない、とするハーフトーン処理の結果が得られる。さらに、インク量階調の255に対して、大ドットを形成させる確率として100%が対応付けられ、中ドットを形成させる確率と小ドットを形成させる確率といずれのドットも形成させない確率として0%が対応付けられている。従って、インク量階調として255が対応付けられた記録画素については、大ドットを形成させる、とするハーフトーン処理の結果が得られる。なお、ハーフトーン処理はディザ法や誤差拡散法等によって行われ、ディザ法や誤差拡散法等における階調値や当該階調値を閾値判定するための閾値の調整によってドット形成確率テーブルに規定されたドット形成確率に準じたハーフトーン処理が実行される。
【0028】
コントローラー10は、並べ替え処理において、画像データの各記録画素を各インクノズルに割り当て、各ノズル24aがインク滴を吐出させる各主走査パス内の吐出タイミング順に並べ替える。以上により、ピエゾドライバー25を制御するための制御信号が生成される。また、コントローラー10は、ピエゾドライバー25を制御するための制御信号に、印刷条件設定画像に従って選択された質感モードを指定する信号を添付する。これにより、ピエゾドライバー25は、各記録画素に対応するノズル24aのピエゾ素子に印加すべき駆動電圧パルスが特定できる。すなわち、ピエゾドライバー25は、質感モードとして凹凸モードが指定されれば、大ドットを形成する記録画素については大ドットLに対応する駆動電圧パルスを生成し、中ドットを形成する記録画素については中ドットLに対応する駆動電圧パルスを生成し、小ドットを形成する画素については小ドットLに対応する駆動電圧パルスを生成する。同様に、ピエゾドライバー25は、質感モードとして平坦モードが指定されれば、大ドットSと中ドットSと小ドットSに対応する駆動電圧パルスを生成する。なお、本実施形態においてCMYKのインク滴がそれぞれ吐出されるが、形成するドットの種類が同じであれば生成される駆動電圧パルスはCMYKのインク間で共通する。
【0029】
以上説明したように、本実施形態では、記録媒体とともに選択された質感モードに応じて、吐出量が互いに異なる大きさに調整されたインク滴により大ドットと中ドットと小ドットが記録媒体上に形成される。具体的には、凹凸モードにおいて形成される大ドットLと中ドットLと小ドットLを形成するためのインク滴の方が、平坦モードにおいて形成される大ドットSと中ドットSと小ドットSを形成するためのインク滴のよりも吐出量が大きい。従って、凹凸モードの方が平坦モードよりもインク滴が記録媒体上に着弾して硬化することにより形成されるドットの厚みが厚く、記録媒体上の凹凸が大きくなる。例えば、ドットの厚みが厚い位置ほど標高が高いことを示す三次元の地図を印刷する場合等には凹凸モードが選択される。一方、記録媒体上に印刷画像を形成してから記録媒体をラミネートする場合やインクの消費量を抑制する場合等には、記録媒体上の凹凸を抑制する平坦モードが選択される。
【0030】
(3)駆動電圧パルスの設定:
駆動電圧パルスは画像形成装置1の製造時にピエゾドライバー25に設定される。ピエゾドライバー25が生成する駆動電圧パルスの設定は以下の(手順1)〜(手順4)に従って行われる。
(手順1)吐出量範囲の下限値の設定
(手順2)吐出量範囲の上限値の設定
(手順3)パターン形状の評価
(手順4)候補値と記録媒体との対応付け
【0031】
(手順1)吐出量範囲の下限値の設定
手順1においては、記録媒体上にインク滴を着弾させ硬化させた場合に、記録媒体上にて再現される色の濃度が目標濃度よりも大きくなる最小の吐出量である濃度確保吐出量を吐出量範囲の下限値として設定する。本実施形態では、白色のPET(Polyethylene Terephthalate)フィルム上に作成したカラーパッチを測色することにより、吐出量範囲の下限値を設定する。まず、画像形成装置1に記録媒体としてPETフィルムをセットし、当該PETフィルムにカラーパッチを印刷し、所定の硬化条件で硬化させる。なお、印刷解像度は720×720dpiとする。カラーパッチは、吐出量ごと、インクの種類ごとに作成される。カラーパッチは、色変換後のCMYKのインク量階調が(C,M,Y,K)=(255,0,0,0),(0,255,0,0),(0,0,255,0),(0,0,0,255)となる記録画素が所定の矩形領域(例えば、2×2cmの領域。)に一様に分布する画像データをコントローラー10に入力することにより印刷される。上述のようにインク量階調が255である記録画素については、ハーフトーン処理の結果が、大ドットを形成させる、となるため、記録媒体上のカラーパッチが形成される領域においては、印刷解像度に対応する密度で大ドットが配列する。
【0032】
各インクについてのカラーパッチが作成できると、大ドットの形成につき生成する駆動電圧パルスの波形を変化させるようにピエゾドライバー25の設定を変更する。そして、再度カラーパッチを印刷し、同様の手順を繰り返す。駆動電圧パルスの波形を変化させると、大ドットを形成するために吐出されるインク滴の吐出量が変化するため、吐出量ごと、インクの種類ごとのカラーパッチを得ることができる。また、カラーパッチを印刷した駆動電圧パルスの各波形について1記録画素あたりに吐出されるインク滴の吐出量(重量)を計測しておく。カラーパッチが準備できると、測色機により各カラーパッチの測色を行い、各カラーパッチの再現色を示す測色値(CIELAB色空間のL*値)を取得する。
【0033】
図4Aは各カラーパッチの測色結果を示すグラフであり、図4Bは白色のPETフィルムに印刷を行った場合に再現させるべき色の範囲であるガマット(色域)を示している。図4Aの縦軸は濃度を示し、横軸はインク滴の吐出量を示す。濃度は100からL*値を減算することにより得られることとする。濃度はインク滴の吐出量の増加にともなって単調増加する。同一の記録密度で大ドットを記録した場合には、インク滴の吐出量が大きくなるほど、白色のPETフィルム上のインク滴の被覆率および厚みが単調的に増加するからである。図4BはCIELAB色空間におけるガマットをL*軸から見て示しており、有彩色インク(CMY)の各色相方向におけるガマット外縁の彩度(図4BにおけるL*軸からの距離に対応し、黒丸で図示。)が示されている。単一のインクでカラーパッチを形成した場合、濃度と彩度とは一意に対応し、ガマット外縁の彩度が得られる目標濃度が特定できる。本実施形態では、有彩色インクのそれぞれについてガマット外縁の彩度が得られる目標濃度(図4Aにおいて黒丸で図示。)に対応するインク滴の吐出量、および、無彩色インク(K)についてガマット外縁の明度(暗い側)を示す目標濃度に対応するインク滴の吐出量をそれぞれ濃度確保吐出量として特定する。濃度は吐出量に応じて単調増加するため、目標濃度が得られる濃度確保吐出量よりも大きい吐出量では目標濃度よりも濃い濃度が得られる。なお、ガマット外縁の彩度や明度、色材の発色性能、粘性に依存したインク滴の現実の吐出量等がインクの種類ごとに異なるため、濃度確保吐出量はインクの種類ごとに異なる。CMYKの各インクについての濃度確保吐出量のうち最大の濃度確保吐出量を吐出量範囲の下限値として設定する。
【0034】
なお、ガマット外縁の色が再現できる程度に記録媒体上をインク滴が被覆する状態においては、記録媒体が露出することなく、インク滴の厚みが厚くなるため、測色して得られたL*は記録媒体の色にほぼ依存しない。また、紫外線硬化型インクは水性インクや油性インク等と比較して記録媒体に対する浸透度が小さいため、記録媒体上におけるインク滴の厚みの記録媒体に対する依存度は小さい。従って、濃度確保吐出量のインク滴を着弾させた場合には、記録媒体に拘わらずガマット外縁の色が得られると見なすことができる。
【0035】
(手順2)吐出量範囲の上限値の設定
次に、記録媒体上にインク滴を着弾させ硬化させた場合に、記録媒体上におけるインクの硬化度が目標硬化度よりも大きくなる最大の吐出量である硬化度確保吐出量を吐出量範囲の上限値として設定する。ここでは、(手順1)において作成した各カラーパッチを構成するインク滴の硬化度が目標硬化度よりも大きいか否かを判定する。本実施形態では、所定の大きさおよび粘着力を有するテープをカラーパッチに貼り付け、当該テープを所定速度で引きはがしたときにカラーパッチを構成するインク滴がテープとともに剥離しない場合には、硬化度が目標硬化度以上である判定する。
【0036】
図5は各カラーパッチの硬化度を示すグラフである。上述のようにインク滴の吐出量が大きくなるほどPETフィルム上のインクの被覆率および厚みが単調的に増加するため、インク滴の吐出量が大きくなるほどカラーパッチを構成するインク滴の硬化度は低下する。従って、インク滴の吐出量がある値よりも大きくなったときに、インク滴のPETフィルムに対する密着力がテープの粘着力よりも小さくなり、インク滴がテープとともに剥離することとなる。そして、各インクについてインク滴がテープとともに剥がれなかった最大の吐出量を硬化度確保吐出量として特定する。インクの硬化特性はインクの種類ごとに異なるため、硬化度確保吐出量はインクの種類ごとに異なる。CMYKの各インクについての硬化度確保吐出量のうち最小の硬化度確保吐出量(図5において黒丸で図示。)を吐出量範囲の上限値として設定する。
【0037】
なお、インク滴の硬化度が目標硬化度を満足するか否かを他の手法によって判定してもよい。例えば、ニードルや綿棒等を所定応力で擦りつけた場合にカラーパッチが剥離しない場合に、インク滴の硬化度が目標硬化度を満足すると判定してもよい。さらに、フーリエ変換型赤外分光(FT−IR)における硬化樹脂に対応する分光成分の強度と所定閾値との比較により、インク滴の硬化度が目標硬化度を満足するか否かを判定してもよい。さらに、カラーパッチのクロスセクションによる形状観察により、インク滴の硬化度が目標硬化度を満足するか否かを判定してもよい。
上述のように、紫外線硬化型インクにおいては、記録媒体上におけるインク滴の厚みの記録媒体に対する依存度が小さい。従って、硬化度確保吐出量のインク滴を着弾させた場合には、記録媒体に拘わらず目標硬化度が得られると見なすことができる。
【0038】
(手順3)パターン形状の評価
次に、吐出量範囲の下限値と上限値に対応する吐出量で印刷が可能な記録媒体を調査する。(手順1)〜(手順2)により、各記録媒体上に着弾させた場合に目標濃度と目標硬化度が保証できる吐出量範囲を画定したが、ここではさらに吐出量範囲内の吐出量のインク滴を着弾させた場合に理想的なパターン形状を形成することが保証できる記録媒体を調査する。
【0039】
ここでは、材質や厚み色や表面処理が異なる複数の記録媒体を用意し、各記録媒体上にテストパターンを形成する。テストパターンの印刷解像度はカラーパッチと同じ720×720dpiとし、テストパターンの硬化条件もカラーパッチと同じ条件とする。テストパターンは、色変換後のインク量階調が(C,M,Y,K)=(255,0,0,0),(0,255,0,0),(0,0,255,0),(0,0,0,255)となる記録画素が主走査方向に一列線状に並ぶ画像データをコントローラー10に入力することにより印刷される。また、ピエゾドライバー25に吐出量範囲の下限値と上限値とに対応する駆動電圧パルスを生成するように順次設定することにより、吐出量範囲の下限値のインク滴で形成したテストパターンと、吐出量範囲の上限値のインク滴で形成したテストパターンとを記録媒体ごとに作成する。これにより、記録媒体ごと、インクの種類ごとに吐出量範囲の下限値と上限値に対応する吐出量のインク滴で形成したテストパターンを得ることができる。
【0040】
テストパターンが得られると、テストパターンのパターン形状が目標形状となっているか否かを判定する。本実施形態では、テストパターンの線幅が80〜123μmの範囲内となっていることをもって、テストパターンのパターン形状が目標形状となっていると判定する。なお、印刷解像度を720×720dpiとした場合において、線幅が80μm以上であれば、インク滴の着弾位置に誤差があった場合でも途切れることなく罫線(テストパターンの線)を形成することができる。一方、印刷解像度を720×720dpiとした場合において、線幅が123μm以下であれば、画像形成装置1が印刷可能な最小フォントサイズの文字を判読可能に印刷することができる。また、線幅が123μm以下であれば、インクにじみも生じない。ここで、インクの種類ごとに硬化性が異なり、記録媒体ごとに各インクに対する濡れ性が異なるため、記録媒体ごと、インクの種類ごとに、記録媒体上におけるインク滴の広がりやすさの傾向が異なることとなる。
【0041】
図6は、吐出量とテストパターンの線幅との関係を示すグラフである。図6の横軸は吐出量を示し、縦軸はCインクのテストパターンの線幅を記録媒体M1〜M3について示している。なお、記録媒体M1〜M3上におけるインク滴の広がりやすさの関係はM1>M2>M3であるとする。図6に示すようにインク滴の広がりやすい記録媒体M1は線幅が太くなる傾向にあり、吐出量範囲の上限値でテストパターンを印刷した場合には線幅が123μmよりも大きくなる。一方、Cインクのインク滴の広がりにくい記録媒体M3は線幅が細くなる傾向にあり、吐出量範囲の下限値でテストパターンを印刷した場合には線幅が80μmよりも小さくなる。これに対して、Cインクのインク滴の広がりやすさがほどよい記録媒体M2については、吐出量範囲の下限値と上限値とのいずれで印刷した場合でもテストパターンの線幅が80〜123μmの範囲内となっている。以上の調査により、濃度確保吐出量と硬化度確保吐出量のインク滴でそれぞれ印刷した場合について、すべてのインクについてテストパターンの線幅が80〜123μmの範囲内となっている記録媒体が判明する。
【0042】
(手順4)候補値と記録媒体との対応付け
本実施形態においては、吐出量範囲に属する吐出量のなかから2つの吐出量を下候補値LCおよび上候補値UCとして設定する。下限値と上限値とをそれぞれLL,ULと表記すると、下候補値LCと上候補値UCは以下の(1),(2)式で特定される。
LC=LL/0.9 ・・・(1)
UC=UL/1.1 ・・・(2)
(1)式によれば、下候補値LCから当該下候補値LCの10%以上吐出量が減少しない限り、吐出量は下限値(濃度確保吐出量)よりも大きくなることが保証できる。同様に、(2)式によれば、上候補値UCから当該上候補値UCの10%以上吐出量が増加しない限り、吐出量は上限値(濃度確保吐出量)よりも小さくなることが保証できる。従って、吐出量がばらついた場合でも、ガマットの外縁の色再現性と、インク滴の硬化度とを確保することができる。また、各インクについて濃度確保吐出量のうちの最大のものを吐出量範囲の下限値とし、各インクについて硬化度確保吐出量のうちの最小のものを吐出量範囲の上限値とするため、どのインクについてもガマットの外縁の色再現性と、インク滴の硬化度とを確保することができる。なお、本実施形態においては、吐出量のばらつきが10%以内であることを想定したが、例えば吐出量の標準偏差等に基づいて(1),(2)式を設定してもよい。
【0043】
下候補値LCと上候補値UCとが得られると、下候補値LCと上候補値UCとに対応する吐出量のインク滴を吐出するための駆動電圧パルスを特定する。上候補値UCに対応する吐出量のインク滴を吐出させる駆動電圧パルスは、凹凸モードにおいて大ドットLを形成するために生成する駆動電圧パルスとなる。同様に、下候補値LCに対応する吐出量のインク滴を吐出させる駆動電圧パルスは、平坦モードにおいて大ドットSを形成するために生成する駆動電圧パルスとなる。上述のように大ドットL,大ドットSを形成するための駆動電圧パルスは、それぞれ中ドットL,中ドットSに対応する駆動電圧パルスを2個連続させたものであるため、大ドットL,大ドットSを形成するための駆動電圧パルスを特定することにより、中ドットL,中ドットSに対応する駆動電圧パルスが特定できる。さらに、上候補値UCと下候補値LCの所定割合(例えば、25%等。)の吐出量を凹凸モードと平坦モードにおける小ドットLと小ドットSの吐出量とし、当該吐出量のインク滴を吐出させる駆動電圧パルスを特定する。そして、大ドットLと中ドットLと小ドットLを形成するために生成する駆動電圧パルスと、大ドットSと中ドットSと小ドットSを形成するために生成する駆動電圧パルスとを、それぞれピエゾドライバー25に設定する。
【0044】
以上のように、凹凸モードと平坦モードとにおける駆動電圧パルスの設定が完了すると、(手順3)の調査結果に基づいて凹凸モードと平坦モードとで印刷可能な記録媒体を設定する。上述のように、(手順3)の調査結果により、吐出量範囲の下限値と上限値のインク滴でそれぞれ印刷した場合について、すべてのインクについてテストパターンの線幅が80〜123μmの範囲内となっている記録媒体が判明している。ここでは、吐出量範囲の上限値のインク滴で印刷したすべてのインク種のテストパターンの線幅が80〜123μmの範囲内となった記録媒体を、凹凸モードでの印刷が選択可能な記録媒体であるとする。一方、吐出量範囲の下限値のインク滴で印刷したすべてのインク種のテストパターンの線幅が80〜123μmの範囲内となっている記録媒体を、平坦モードでの印刷が選択可能な記録媒体であるとする。そして、各記録媒体と選択可能な質感モードとの対応関係を記録媒体テーブル10aに記録する。
【0045】
以上のようにして、各質感モードについての駆動電圧パルスの設定、および、記録媒体テーブル10aの設定を行うことにより、画像形成装置1は、凹凸モードと平坦モードとを切り替えて印刷を行うことができる。濃度確保吐出量を下限値とし、硬化度確保吐出量を上限値とした吐出量範囲内の上候補値UCと下候補値LCの吐出量のインク滴で印刷を行うため、いずれの質感モードで印刷を実行した場合も、ガマット外縁の色再現性と、インク滴の硬化度とが保証できる。インク滴の硬化度が目標硬化度よりも大きいため、印刷後の記録媒体のハンドリングの容易性を確保できる。ガマット外縁の色再現性とインク滴の硬化度とは、記録媒体に対する依存度が低いためいずれの記録媒体に印刷を行った場合でも、ガマット外縁の色再現性とインク滴の硬化度とが保証できる。さらに、記録媒体に応じて選択可能な質感モードで印刷を行えば、罫線の連続性や最小フォントサイズの文字の判読性を確保した印刷結果が得られることが保証できる。また、質感モードを複数用意することにより、ある記録媒体に対していずれかの質感モードで印刷ができる可能性が高くなり、画像形成装置1が使用可能な記録媒体の幅を広げることができる。むろん、質感モードは2つに限らず、吐出量範囲内から設定した3以上の候補値に対応する3以上の質感モードを設定してもよい。なお、本実施形態において、印刷を実行する際に選択された質感モードに対応する上候補値UCと下候補値LCのいずれかが本発明の目標値に対応する。
【0046】
(4)変形例:
前記実施形態においては、カラーパッチとテストパターンとを形成する際の硬化条件を一定としたが、複数の硬化条件において形成したカラーパッチとテストパターンとに基づいて駆動電圧パルスを設定してもよい。例えば、印刷ヘッド24と本硬化用ランプ40aとの副走査方向における距離(以下、本硬化距離と表記。)を図示しないアクチュエーターによって変更することにより、インク滴を吐出してから本硬化用ランプ40aによって紫外光が照射されるまでの期間の長さを変更することができる。なお、インク滴を吐出してから本硬化用ランプ40aによって紫外光が照射されるまでの期間が長いほど、インク滴は記録媒体上において広がりやすくなる。従って、図6に示した記録媒体M1については本硬化距離を短くすることにより、インク滴の広がりを抑え、硬化度確保吐出量で印刷をしてもテストパターンの線幅を123μmよりも小さくし得る。反対に、記録媒体M3については本硬化距離を長くすることにより、インク滴の広がりを促進し、濃度確保吐出量で印刷してもテストパターンの線幅を80μmよりも大きくし得る。
【0047】
このような場合、記録媒体テーブル10aにおいて、記録媒体と選択可能な質感モードと本硬化距離との対応関係を記録しておくのが望ましい。これにより、利用者に選択された記録媒体と質感モードの組み合わせでの印刷を可能とする本硬化距離をコントローラー10が取得し、当該本硬化距離を実現するように前記アクチュエーターを制御した上で、印刷を実行させることができる。むろん、本硬化距離だけでなく、仮硬化用LED24bや本硬化用ランプ40aによる紫外光の発光強度を変更することによっても、硬化条件を変更することができる。仮硬化用LED24bや本硬化用ランプ40aによる紫外光の発光強度を強くするほど、早期にインク滴を硬化させることができ、記録媒体上におけるインク滴の広がりを抑えることができる。従って、記録媒体テーブル10aにおいて、記録媒体と選択可能な質感モードと仮硬化用LED24bや本硬化用ランプ40aによる紫外光の発光強度との対応関係を記録してもよい。
【0048】
さらに、硬化条件の他に記録媒体の表面処理によっても、記録媒体上においてインク滴が広がる特性が変化する。例えば、画像形成装置1が記録媒体に表面改質剤を塗布するコーターを備えている場合において、記録媒体と選択可能な質感モードと印刷ヘッド24とコーターによる表面改質剤の塗布状態(塗布の有無)との対応関係を記録媒体テーブル10aに記録しておくのが望ましい。これにより、利用者に選択された記録媒体と質感モードの組み合わせでの印刷を可能とする表面改質剤の塗布状態をコントローラー10が取得し、当該塗布状態を実現するように前記コーターを制御した上で、印刷を実行させることができる。むろん、画像形成装置1がコーターを備えない場合であっても、記録媒体テーブル10aに表面改質剤の塗布状態を記録しておけば、印刷条件設定画像において、記録媒体と質感モードとの組み合わせごとに、印刷が可能となる表面改質剤の塗布状態を表示等させることができる。これにより、利用者は、表面改質剤の塗布した記録媒体を使用すべきか、表面改質剤の塗布していない記録媒体を使用すべきかを認知できる。
【0049】
なお、複数の印刷解像度で印刷が実行可能な画像形成装置1については、印刷解像度ごとに駆動電圧パルスが設定される。この場合、記録媒体テーブル10aも印刷解像度ごとに用意される。さらに、前記実施形態ではCMYKのインクを使用する画像形成装置1を例示したが、他の種類のインクを使用する画像形成装置1については、他の種類のインクで形成したカラーパッチやテストパターンを評価すればよい。なお、前記実施形態のようにすべてのインクについてカラーパッチやテストパターンを評価してもよいし、平均的な硬化性や濡れ性(表面張力)を有するインクについてのみ評価することにより、駆動電圧パルスを設定してもよい。また、最も硬化性の悪いインクについてのみカラーパッチを評価することにより硬化度確保吐出量を設定し、最もガマット外縁がL*軸から遠い色相に対応するインクや発色性が低いインクについてのみカラーパッチを評価することにより濃度確保吐出量を設定してもよい。
【0050】
さらに、前記実施形態の印刷条件設定画像では、質感モードとして凹凸モードと平坦モードとを表示させるようにしたが、平坦モードを省インクモードとして表示するようにしてもよい。平坦モードでは、1記録画素あたりのインクの吐出量が凹凸モードよりも小さくなるため、インクの消費量を凹凸モードよりも抑えることができるからである。
テストパターンのパターン形状として線幅以外の形状を評価してもよい。例えば、ドット径を評価したり、隣接ドット間のにじみの有無を評価したり、最小フォントの文字のOCR認識率を評価してもよい。
また、前記実施形態においてはピエゾ素子に印加する駆動電圧パルスによって吐出量を目標値に調整する画像形成装置1を例示したが、電熱素子への供給電力によって吐出量を目標値に調整する画像形成装置においても本発明の効果を得ることができる。また、インクを硬化させる活性光線は紫外光に限らず、他の波長帯域の光線であってもよい。
【0051】
図7は、変形例にかかる画像形成装置が備える印刷ヘッドを示す図である。本変形例の画像形成装置は、印刷ヘッド124が移動せず、記録媒体のみが所定の搬送方向に搬送されるラインプリンターである。印刷ヘッド124は、搬送方向に直交する方向に記録媒体の幅よりも広い幅を有し、当該幅方向において直線状にノズル124aが並ぶノズル列が複数設けられている。印刷ヘッド124には4個のヘッド領域H1〜H4が設けられており、ヘッド領域H1にはCインクのインク滴を吐出するノズル124aが備えられ、ヘッド領域H2にはMインクのインク滴を吐出するノズル124aが備えられ、ヘッド領域H3にはYインクのインク滴を吐出するノズル124aが備えられ、ヘッド領域H4にはKインクのインク滴を吐出するノズル124aが備えられている。各ヘッド領域H1〜H4に対して記録媒体の搬送方向下流側に仮硬化用LED124aが付設されている。さらに、印刷ヘッド124における記録媒体の搬送方向最下流端において本硬化用ランプ140aが備えられている。このような、ラインプリンターにおいても、前記実施形態と同様の手法により駆動電圧パルスを設定することにより、ガマットの外縁の色再現性と、インク滴の硬化度とを確保した印刷が実現できる。
【符号の説明】
【0052】
1…画像形成装置、10…コントローラー、10a…記録媒体テーブル、20…キャリッジユニット、21…キャリッジモータードライバー、22…キャリッジモーター、23…インクカートリッジ、24…印刷ヘッド、24a…ノズル、25…ピエゾドライバー、26…LEDドライバー、30…搬送ユニット、40…本硬化用ランプユニット、50…UI部、H1〜H4…ヘッド領域。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1記録画素あたりに吐出させるインクの吐出量を目標値に調整して前記記録画素ごとに前記インクを記録媒体上に吐出する吐出手段と、
前記記録媒体上に着弾した前記インクに活性光線を照射することにより前記インクを硬化させる硬化手段と、を備え、
前記目標値は、前記記録媒体上に前記インクを着弾させ硬化させた場合に前記記録媒体上にて再現される色の濃度が目標濃度となる前記吐出量である濃度確保吐出量を下限値とし、前記記録媒体上に前記インクを着弾させ硬化させた場合における前記インクの硬化度が目標硬化度となる前記吐出量である硬化度確保吐出量を上限値とする吐出量範囲に属する、
画像形成装置。
【請求項2】
前記吐出手段は、前記吐出量範囲に属する複数の候補値のなかから選択された前記候補値を前記目標値として設定する、
請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記吐出手段は、複数の前記候補値のなかから、前記記録媒体上に前記インクを着弾させ硬化させた場合に前記インクが前記記録媒体上でなすパターン形状が目標形状となる前記候補値を前記目標値として設定する、
請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記吐出手段が前記目標値として設定可能な前記候補値は、前記記録媒体に応じて異なる、
請求項3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記吐出手段は、複数種類の前記インクについて共通する前記目標値に前記吐出量を調整するとともに、
前記吐出量範囲の下限値は複数種類の前記インクそれぞれについての前記濃度確保吐出量のうちの最大値であり、前記吐出量範囲の上限値は複数種類の前記インクのそれぞれについての前記硬化度確保吐出量のうちの最小値である、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記硬化手段は、前記記録媒体と前記目標値との組み合わせに対応付けられた硬化条件で前記インクを硬化させる、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の画像形成装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−66426(P2012−66426A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211698(P2010−211698)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】