説明

画像形成装置

【課題】 感光体を回転駆動するモーターの速度変動に起因する画像不良の抑制を図った画像形成装置を提供すること。
【解決手段】 画像形成装置100では,各色の感光体ドラム21Y,21M,21C,21Kと,中間転写ベルト101と,1次転写ローラー111と,2次転写ローラー115とを1つのモーターMで回転駆動している。モーターMのトルク特性は,回転速度が速いほど発生トルクが小さく,回転速度が遅いほど発生トルクが大きい。モーター制御部350は,画像形成に供するシートの厚みが薄い場合に,モーターMの回転速度として高い回転速度D1を設定する。画像形成に供するシートの厚みが厚い場合に,モーターMの回転速度として遅い回転速度D3を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,画像形成装置に関する。さらに詳細には,形成される画像の濃度ムラの抑制を図った画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置では一般に,感光体ドラムに静電潜像を形成して現像し,現像したトナー像をシートに転写した後シートにトナー像を定着する。これにより,シート上に好適に画像形成が行われる。
【0003】
そして,画像形成時における感光体ドラムの回転速度は,狙いとする設定速度を維持するように制御される。画像形成時における感光体ドラムの回転速度が設定速度からずれると,画像不良が生じるおそれがある。露光装置は,感光体ドラムが設定速度で回転しているものとして感光体ドラムに静電潜像を形成するからである。例えば,画像にムラが生じたり,色ずれが生じたりする。そこで,ムラ画像や色ずれの防止を図った画像形成装置が開発されてきている。
【0004】
例えば,特許文献1には,感光体ドラムや転写ベルトを実際に回転させたときの回転速度のデータに基づいて補正値を算出して,その補正値をモーターの回転速度に反映させる画像形成装置が開示されている(特許文献1の請求項1および段落[0044]―[0059]参照)。これにより,感光体ドラムや転写ベルトの駆動系部品の製造過程や組立過程で生じる機械的誤差である偏芯等を,モーターの回転速度を補正することにより吸収することとしている。これにより,副走査方向にムラ画像や色ずれの発生を防止することができるとしている(特許文献1の段落[0005],[0013]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−164940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで,画像形成装置のうちには,1個のモーターが各色の感光体ドラムの他,転写ローラー等の転写部材をも回転駆動させるものがある。この種の画像形成装置では,その1個のモーターに負荷がかかると,そのモーターから駆動を受けるすべての各部に影響が現れる。例えば,転写ローラーのニップ部に厚紙が突入すると,転写ローラーに高い負荷がかかる。これにより,モーターにかかる負荷は増大する。すると,モーターの回転速度は一時的に減少する。それにつれて,このモーターから駆動を受ける各色の感光体ドラムの回転速度も一時的に変化する。そのモーターの回転速度の変化量に応じて感光体ドラムに形成される静電潜像は歪む。また,画像の濃度にムラが生じることもある。
【0007】
しかし,特許文献1に記載の画像形成装置では,このような突発的な外乱に起因する画質の低下を抑制することは困難である。特許文献1に記載の画像形成装置は,感光体ドラムや転写ベルト等の機械的誤差を,恒常的に修正するためのものだからである。したがって,モーターの回転速度の変化に起因する画質の低下を防止することは困難である。もちろん,特許文献1以外の技術であっても,上記のような突発的な外乱を想定したものでなければ,画質の低下を防止することは困難である。
【0008】
本発明は,前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,感光体を回転駆動するモーターの速度変動に起因する画像不良の抑制を図った画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の画像形成装置は,感光体に静電潜像を書き込みその静電潜像を現像してトナー像を形成するとともに,形成されたトナー像をシートに転写する画像形成部と,画像形成部での転写に供するシートの搬送経路上に設けられた搬送ローラー対と,感光体と搬送ローラー対とを駆動する駆動源とを有するものである。また,駆動源は,回転速度が速いほど発生トルクが小さく,回転速度が遅いほど発生トルクが大きい,というトルク特性を有するものである。そして,この画像形成装置は,画像形成に供するシートの厚みが薄い場合に,駆動源の回転速度として高い回転速度を設定するとともに,画像形成に供するシートの厚みが厚い場合に,駆動源の回転速度として低い回転速度を設定する駆動源制御部を有する。かかる画像形成装置では,厚紙に画像形成する場合であっても,スジ状のムラの発生を抑制することができる。また,普通紙程度の厚みのシートに画像形成する場合には,駆動源の回転速度を落とす必要がない。したがって,印刷物の生産性は高い。なお,スジ状のムラの影響は小さい。
【0010】
上記に記載の画像形成装置において,駆動源制御部は,画像形成に供するシートの厚みが予め定めた厚み閾値未満である場合に,駆動源の回転速度として第1の回転速度を設定するとともに,画像形成に供するシートの厚みが予め定めた厚み閾値以上である場合に,駆動源の回転速度として第1の回転速度より低い第2の回転速度を設定するとよい。シートの厚みがそれほど厚くない場合には,通常の画像形成速度で画像形成を行えば十分だからである。その場合であっても,スジ状のムラはほとんど発生しない。そして,印刷物の生産性は高い。
【0011】
上記に記載の画像形成装置において,形成しようとする画像について感光体で静電潜像の書き込みを行っている間に搬送ローラー対にシートの先頭が突入したときの駆動源の速度変動による画質の低下の程度を数値化したものであってシートが厚いほど大きな値をとる画質低下判定値を決定する画質低下判定値決定部と,駆動源制御部は,画質低下判定値の値が小さい場合に,駆動源の回転速度として高い回転速度を設定するとともに,画質低下判定値の値が大きい場合に,駆動源の回転速度として低い回転速度を設定するものであるとよい。画質の低下する領域において,画質の低下の程度の大きさをより反映した上で,駆動源の回転速度を設定することができるからである。
【0012】
上記に記載の画像形成装置において,画質低下判定値決定部は,画質の低下が発生する箇所に存在する画像要素の幅方向サイズと,シートの厚みにより定まり,シートが厚いほど大きい,画質の低下が発生する領域の搬送方向サイズと,の積である画質低下面積を用いて画質低下判定値を決定するとよい。画質の低下する領域内で実際に画像形成される領域の面積,すなわち画質低下面積の大きさを反映した上で,駆動源の回転速度を設定することができるからである。
【0013】
上記に記載の画像形成装置において,画質低下判定値決定部は,複数項目の画質低下ポイントの加算または乗算により画質低下判定値を算出するものであるとよい。そして,複数項目の画質低下ポイントとして,少なくとも,画質低下面積が大きいほど値が大きい面積ポイントを含むとともに,さらに,画質の低下が発生する箇所に存在する画像要素の属性により定まり,文字画像の場合より写真画像の場合の方が値が大きい画像属性ポイントと,画質の低下が発生する箇所における明度により定まり,白またはベタに近い明度の場合よりも中間明度の場合の方が値が大きい明度ポイントとのうち少なくとも一方が含まれるとよい。画質の低下する領域において,画質の低下の程度の大きさについて種々の評価項目から反映させた上で,駆動源の回転速度を設定することができるからである。
【0014】
上記に記載の画像形成装置において,搬送ローラー対の一方のローラーは,形成されたトナー像のシートへの転写を行う転写ローラーであるとよい。厚紙が転写ローラーのニップ部に突入することによるスジ状のムラの発生を抑制することができるからである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば,感光体を回転駆動するモーターの速度変動に起因する画像不良の抑制を図った画像形成装置が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に係る画像形成装置を説明するための概略構成図である。
【図2】実施形態に係る画像形成装置の制御系を説明するためのブロック図である。
【図3】実施形態に係る画像形成装置において濃度ムラの発生原因を説明するための図である。
【図4】実施形態に係る画像形成装置の感光体ドラムの回転速度と画像の濃度との関係を示す図(その1)である。
【図5】実施形態に係る画像形成装置の感光体ドラムの回転速度と画像の濃度との関係を示す図(その2)である。
【図6】実施形態に係る画像形成装置のモーターの発生トルクと回転速度との関係を示すグラフである。
【図7】実施形態に係る画像形成装置のモーターに設定する設定速度とモーターの回転速度の時間変化を示すグラフ(その1)である。
【図8】実施形態に係る画像形成装置における画像形成フローを示すフローチャートである。
【図9】実施形態に係る画像形成装置のモーターに設定する設定速度とモーターの回転速度の時間変化を示すグラフ(その2)である。
【図10】実施形態に係る画像形成装置により画像形成されるシートにおける画質低下範囲を示すためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。以下に説明する形態は,カラーコピー機について,本発明を具体化したものである。
【0018】
(第1の実施形態)
1.画像形成装置
1−1.画像形成装置の概略構成
画像形成装置100は,図1にその概略構成を示すように,中間転写ベルト101を有する,いわゆるタンデム方式のカラーコピー機である。中間転写ベルト101は,無端状ベルト部材であり,その図中両端部がローラー102,103によって支持され,図1中の矢印Xの向きに回転するようになっている。中間転写ベルト101の図中下部に沿って,イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C),ブラック(K)の各色の画像形成部1Y,1M,1C,1Kが配置されている。
【0019】
各色の画像形成部1Y,1M,1C,1Kはいずれも同様の構成である。それぞれ,感光体ユニット20と,露光装置30と,現像ユニット10とを有している。感光体ユニット20は,静電潜像を担持する感光体ドラム21を有している。感光体ドラム21は,トナー像を担持するための像担持体である。露光装置30は,感光体ドラム21に静電潜像を描きこむためのものである。現像ユニット10は,感光体ドラム21の静電潜像にトナーを付与して現像するためのものである。また,中間転写ベルト101を挟んで感光体ドラム21に対向する位置に,1次転写ローラー111が配置されている。図1中では画像形成部1Yによって代表してこれらの各装置の符号を示している。
【0020】
図1中で下方に配置されているのは,用紙Pを収容する給紙カセット112である。給紙カセット112の上部には,用紙Pを送り出す給紙ローラー113が設けられている。用紙Pは,給紙カセット112から用紙搬送経路114に沿って上方へ送られる。用紙搬送経路114を挟んで,ローラー103と対面する位置に,2次転写ローラー115が配置されている。ローラー103と2次転写ローラー115とにより,ニップ部125が構成されている。さらにその下流側(図1中上方)には,定着装置130が配置されている。定着装置130は,加圧ローラー131,定着ローラー132のローラー対を有している。
【0021】
定着装置130より用紙搬送経路114のさらに下流側には,排紙ローラー116および排紙トレイ117が配置されている。排紙ローラー116のさらに上方には,折り返し用ローラー119および折り返し用トレイ120が配置されている。
【0022】
画像形成装置100は,画像読取装置200を有するものである。画像読取装置200は,画像読取部210と,原稿カバー220とを有している。画像読取部210は,原稿載置面211に載置された原稿から画像を読み取るためのものである。原稿カバー220は,原稿を原稿載置面211に押さえつけるためのものである。
【0023】
また,画像形成装置100は,タッチパネル230を有している。タッチパネル230は,プリントアウトに関するユーザーからの指示を受け付ける入力部である。
【0024】
また,画像形成装置100は,モーターMを有している。モーターMは,感光体ドラム21と,1次転写ローラー111と,2次転写ローラー115と,ローラー103とを回転駆動するための駆動部である。これらの回転駆動を受ける各部は,モーターMからの駆動を受けるようになっている。これらの各部は,減速機などを用いることにより,必ずしも回転速度は等しくないが,モーターMの回転と同期して回転するものである。
【0025】
また,画像形成装置100は,制御部300を有している。制御部300は,各部の機械的な動作を制御する。また,読み取った画像に画像処理を施すものでもある。その詳細については,後述する。
【0026】
1−2.画像形成装置の基本的動作
次に,本形態の画像形成装置100の基本的な動作を簡単に説明する。この画像形成装置100では,コピーを行うジョブを受け付けると,画像読取部210が原稿の画像情報を読み取る。その際には,原稿に光を入射し,その反射波を画像情報として読み取る。
【0027】
画像形成の指示を受けると,その読み取った画像信号から各色の画像データを生成する。生成された各色の画像データは,対応する画像形成部1Y,1M,1C,1Kにそれぞれ送出される。各色の画像形成部1Y,1M,1C,1Kは,画像データに基づいて,静電潜像を形成する。さらに,形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する。
【0028】
形成されたトナー像は,順次,1次転写ローラー111によって中間転写ベルト101に転写され,重ね合わせられる。中間転写ベルト101に重ね合わせられたトナー像は,2次転写ローラー115によって用紙Pに転写される。トナー像を担持した用紙Pは,さらに搬送されて定着装置130に至り,定着装置130によって加熱されるとともに加圧される。これによりトナー像が用紙Pに定着される。トナー像が定着された用紙Pは,排紙ローラー116によって排紙トレイ117に排出される。以上が,画像形成装置100の基本的な動作である。
【0029】
2.画像形成装置の制御系
ここで,画像形成装置100の制御系について説明する。画像形成装置100の制御系を図2のブロック図に示す。制御部300は,機械制御部310と,画像制御部320とを有している。機械制御部310は,モーター制御部350を有している。画像制御部320は,画質低下範囲算出部330と,画質低下判定値決定部340とを有している。
【0030】
機械制御部310は,画像形成部1Y,1M,1C,1Kやその他の各部を機械的に制御するためのものである。モーター制御部350は,1次転写ローラー111と,中間転写ベルト101と,2次転写ローラー115と,感光体ドラム21Y,21M,21C,21Kとを回転駆動を制御するための駆動源制御部である。
【0031】
画像制御部320は,画像読取部210により読み取られた画像イメージを加工するためのものである。画質低下範囲算出部330および画質低下判定値決定部340は,主に後述する第2の実施形態で用いるものである。画質低下範囲算出部330は,後述するモーターMの負荷トルクの上昇に起因する画質の低下の生ずる画質低下領域の位置および範囲を算出するためのものである。画質低下判定値決定部340は,画質の低下の程度を数値化した画質低下ポイントに基づいて,画質低下判定値を決定するためのものである。なお,この決定に際して,演算により決定してもよい。
【0032】
記憶部400は,本体付属記憶部410と,ユニット付属記憶部420とを有している。本体付属記憶部410は,画像形成装置100本体の情報を記憶するためのものである。ユニット付属記憶部420は,現像ユニット10や感光体ユニット20に付属されている記憶部である。
【0033】
3.モーターの回転速度の速度変動に起因する画質の低下
ここで,画質が低下する原因について説明する。本形態で問題とする画質の低下は,モーターMの回転速度の変動に起因して起こるものである。このモーターMの回転速度の変動の原因として,次のようなものが挙げられる。例えば,シートとして厚紙を採用した場合に,そのシートが転写部のニップ部に突入した際における,モーターMにかかる負荷トルクの上昇である。画像形成部1が静電潜像の書き込みを行っている間に負荷トルクの上昇があると,モーターMの回転速度に変動が生じる。そして,画像形成する画像の品質が低下する。その理由を後述する。
【0034】
3−1.駆動源および駆動伝達系
本形態では,前述のとおり,1個のモーターMが,感光体ドラム21Y,21M,21C,21K,中間転写ベルト101,2次転写ローラー115を駆動する。そのため,駆動を受ける各部のうち,いずれか一つにでも大きな負荷がかかると,モーターMの回転速度は下がる。これにより,モーターMから駆動を受けるその他の各部の回転速度も下がることとなる。
【0035】
3−2.モーターにかかる負荷とモーターの速度変動
図3は,画像形成の途中で,2次転写ローラー115とローラー103とのニップ部125に厚紙が突入したときに,スジ状のムラが発生する様子を説明するための図である。図3では,モーターMの負荷トルクと,モーターMの回転速度と,厚紙に形成される画像とが関連付けて示されている。モーターMの負荷トルクを図3中の上段のグラフに示す。モーターMの回転速度を図3中の中段のグラフに示す。厚紙に形成される画像を図3中の下段の図に示す。
【0036】
図3の上段および中段のグラフの横軸は,時間である。図3の上段のグラフの縦軸はモーターMの負荷トルクである。図3の中段のグラフの縦軸はモーターMの回転速度である。図3の下段の図の横方向は,シート上の副走査方向である。ここにおける位置y1〜y5がそれぞれ,図3の上段および中段の横軸中の時刻t1〜t5に露光された位置である。図3の下段の図の縦方向は,シート上の主走査方向である。
【0037】
画像形成時に,厚紙がニップ部125に突入すると,図3の上段のグラフに示すように,モーターMにかかる負荷は大きいものとなる。図3の上段のグラフに示すように,時刻t1において,厚紙は,ニップ部125に突入する。厚紙の搬送に要するトルクは,薄紙の搬送に要するトルクより大きい。ここで薄紙とは,厚紙よりも薄いシートのことであり,普通紙を含むものとする。そのため,モーターMの負荷トルクは,時刻t1の後に上昇する。負荷トルクがモーターMの発生トルクを超えると,モーターMの回転速度は下がる。つまり,ニップ部125に厚紙が突入すると,モーターMの回転速度は設定速度D0より下がる。
【0038】
モーターMの回転速度は,時刻t1の経過後に一旦は下がるが,その後再び上昇する。機械制御部310が,モーターMの回転速度を設定速度D0まで回復させようと制御しているからである。そのため,時刻t2でモーターMの回転速度は,一旦は設定速度D0となる。しかし,時刻t2の直後には,モーターMの回転速度の値は設定速度D0より大きい値をとる。モーターMの回転速度を設定速度D0まで短時間で回復させようとするために,モーターMの回転速度がオーバーシュートするからである。そのため,時刻t2経過後には,感光体ドラム21Y,21M,21C,21Kは,通常の画像形成時の回転速度D0より速い回転速度で回転する期間(図3では時刻t2から時刻t3までの期間)がある。
【0039】
そして,感光体ドラム21の回転速度は,時刻t3で再び設定速度D0となる。図3の中段のグラフに示すように,感光体ドラム21の回転速度は,設定速度D0に徐々に収束していく。そして,時刻t5以降では,モーターMの回転速度は再び設定速度D0となる。つまり,時刻t1から時刻t5までの期間内では,モーターMの回転速度は,設定速度D0で安定に回転していない。この時刻t1から時刻t5までの間に露光装置30が感光体ドラム21上に書き込んだ静電潜像は,図3の下段の図に示すように,y1からy5までの領域にわたって存在している。y1からy5までの領域は,時刻t1から時刻t5までの期間内に感光体ドラム21上に画像形成されたトナー像がシートに転写された領域である。そのため,y1からy5までの領域では,後述するように,スジ状のムラが発生しうる。
【0040】
3−3.スジ状のムラの発生
このように,感光体ドラム21Y,21M,21C,21Kの回転速度は,図3の中段のグラフに示すように,時刻t1から時刻t2の間では設定速度D0より遅い。そして,時刻t2から時刻t3の間では,感光体ドラム21の回転速度は設定速度D0より速い。そして,時刻t3から時刻t4の間では,感光体ドラム21の回転速度は設定速度より遅い。
【0041】
一方,露光装置30は,感光体ドラム21Y,21M,21C,21Kが設定速度D0で回転しているものとして,静電潜像の書き込みを行う。したがって,モーターMにかかる負荷に起因するスジ状のムラが引き起こされることとなる。そのため,画像形成時にこのような感光体ドラム21の回転速度の変化が起こると,図4に示すように,画像形成時に回転速度の速い箇所(U2)と,回転速度の遅い箇所(U1,U3)とができる。
【0042】
そのため,図4に示すように,回転速度の遅い箇所U1,U3では,画像の濃度が濃い。回転速度の速い箇所U2では,画像の濃度が薄い。これは,ハーフトーン画像をプリントアウトした場合には,濃度ムラとなって表れる。また,回転速度の遅い箇所U1,U3で,静電潜像そのものが副走査線方向に縮んでしまうおそれがある。線図をプリントアウトした場合には,画像の歪みとして表れる。
【0043】
このように,濃度ムラや画像の歪み等,スジ状のムラが生ずることがある。このスジ状のムラは,感光体ドラム21Y,21M,21C,21K上に形成される画像に表れる。そのため,その後の転写像や定着画像にも同様に,スジ状のムラとなって表れる。
【0044】
このように,感光体ドラム21Y,21M,21C,21Kの回転速度が速くなったり,遅くなったりすると,画像形成される画像にスジ状のムラが生じる。これは,図3の中段のグラフと,図3の下段の図との対応にも現れている。一方,感光体ドラム21Y,21M,21C,21Kの回転速度をほぼ一定とすれば,図5に示すように,画像形成される画像にスジ状のムラはほとんど生じない。
【0045】
3−4.モーターの発生トルクと回転速度との関係
ここで,本形態の画像形成装置100に用いられるモーターMの発生トルクとモーターMの回転速度との関係を図6のグラフにより説明する。図6のグラフに示すように,モーターMの回転速度が速いほど,モーターMの発生トルクの値は小さくなる。逆に,モーターMの回転速度が遅いほど,モーターMの発生トルクの値は大きくなる。
【0046】
図6に,モーターMの回転速度として,高速の設定速度D1と低速の設定速度D3とを例示する。すると,モーターMが高速の設定速度D1で回転しているとき,モーターMの発生トルクはT1である。モーターMが低速の設定速度D3で回転しているとき,モーターMの発生トルクはT3である。ここで,モーターMの発生トルクT3は,モーターMの発生トルクT1より大きい。すなわち,次式が成り立つ。
D1 > D3
T1 < T3
【0047】
モーターMに同じだけの負荷がかかるとした場合,モーターMの発生トルクが大きいほど,モーターMの回転状態に与える影響は小さい。つまり,モーターMの回転速度が遅いほど,モーターMにかかる負荷の影響は小さい。逆に,モーターMの回転速度が速いほど,モーターMにかかる負荷の影響は大きい。
【0048】
3−5.モーターの回転速度と画質低下との相関関係
図7は,画像形成の途中で,2次転写ローラー115とローラー103とのニップ部125にシートが突入したときに,モーターMにかかるトルクおよびモーターMの回転速度の時間的変化を示すグラフである。図7の上段のグラフに,モーターMの負荷トルクの時間的変化を示す。図7の中段のグラフに,ニップ部125に厚紙を突入させる場合におけるモーターMの回転速度の時間的変化を示す。図7の下段のグラフに,ニップ部125に普通紙を突入させる場合におけるモーターMの回転速度の時間的変化を示す。
【0049】
図7の上段から下段までのグラフにおいて,横軸は時間を示している。図7の上段のグラフの縦軸は,モーターMにかかる負荷トルクである。図7の中段および下段のグラフの縦軸は,モーターMの回転速度である。ここで,図7の中段と下段のスケールは,同じであるとする。また,厚紙がニップ部125に突入した時刻をt1とする。図7において,高速の設定速度D1は,低速の設定速度D3よりも速い速度である。
【0050】
ニップ部125にシートが突入した後のモーターMの負荷トルクと,ニップ部125にシートが突入する前のモーターMの負荷トルクとの差を,トルク変動量ということとする。シートが厚紙である場合のトルク変動量をTG1とする。シートが薄紙である場合のトルク変動量をTG3とする。
【0051】
このとき,図7の上段のグラフからも明らかなように,次式が成り立つ。
TG1 > TG3
つまり,シートが厚紙である場合のトルク変動量TG1は,シートが薄紙である場合のトルク変動量TG3より大きい。言い換えると,シートの厚みが厚いほど,トルク変動量は大きい。逆に,シートの厚みが薄いほど,トルク変動量は小さい。このように,シートの厚みとトルク変動量とは,直に結びついている関係にある。
【0052】
図7の中段,下段のそれぞれのグラフにおいて,モーターMの回転速度を示す線をG1,G3とする。ニップ部125にシートが突入した時刻t1以降モーターMの回転速度が設定速度での安定な回転に収束するまでの時間をそれぞれ,速度変動期間H1,H3とする。速度変動期間H1,H3におけるモーターMの回転速度の最小値を,減少速度S1,S3とする。
【0053】
図7より,速度変動期間H1における速度変動量の最大値は,|E1−S1|である。一方,速度変動期間H3における速度変動量の最大値は,|E3−S3|である。そして,これらの間には次式が成り立つ。
|E1−S1| > |E3−S3|
H1 > H3
つまり,シートの厚みが厚いほど,速度変動量の最大値は大きい。シートの厚みが薄いほど,速度変動量の最大値は小さい。つまり,シートの厚みが厚いほど,スジ状のムラの影響は大きい。また,モーターMの速度変動量の値が大きいほど,速度変動期間は長い。ここで,速度変動期間内には,図3の下段の図に示す画質低下領域Rが画像形成される。そして,速度変動期間が長いほど,図3の下段の図に示す搬送方向サイズWは長いこととなる。
【0054】
以上説明したように,厚紙に画像形成する場合には,ニップ部125に厚紙が突入する際に,モーターMのトルク変動がモーターMの大きな速度変動をもたらす。そのため,厚紙に画像形成する場合には,モーターMの回転速度として予め遅い回転速度を設定しておけばよい。遅い回転速度では,モーターMの発生トルクが大きいため,モーターMの速度変動への影響を小さいものとすることができるからである。これにより,後述するように,スジ状のムラの発生を抑制することができる。
【0055】
4.画質不良の抑制方法
本形態では,画像形成に供するシートの厚みに応じて,モーターMに設定する回転速度の値を設定する。その方法について説明する。まず,シートの厚みに応じて,画質低下判定値Nを算出する。画質低下判定値Nは,その厚みのシートに画像形成を行った場合に予想される画質の低下の程度を数値化したものである。この画質の低下は,前述のとおり,2次転写ローラー115とローラー103とのニップ部125にシートが突入することによるモーターMの速度変動に起因するものである。シートの厚みが厚いほど,画質低下判定値Nは大きい値をとる。つまり,画質低下判定値Nの値が大きいほど,画像形成される画像の画質の低下の程度が大きい。
【0056】
4−1.画質低下判定値
本形態では,画質低下判定値Nとして,いくつかの値を採用することができる。例えば,シートの厚みそのものを採用することができる。シートの厚みが厚いほど,スジ状のムラは大きいからである。そのため,画質低下判定値Nが大きい値となるほど,画質の低下の程度は大きい。
【0057】
また,画質低下判定値Nとして,速度変動期間Hiを用いることもできる。また,画質低下判定値Nとして,速度変動量の最大値|Ei−Si|を用いることもできる。また,画質低下判定値Nとして,設定速度からの回転速度のずれ|Di−Si|を用いることもできる。また,画質低下判定値Nとして,搬送方向サイズWを用いることもできる。なお,速度変動期間Hiと,速度変動量の最大値|Ei−Si|と,設定速度からの回転速度のずれ|Di−Si|と,搬送方向サイズWとは,いずれも予測値として予め定めておけばよい。
【0058】
このように,上記のいずれの値を採用しても,画質低下判定値Nは画質の低下の程度と直に結びつく値である。そして,いずれの値を採用しても,画質低下判定値Nが大きくなるほど,画質の低下の程度は大きいことに変わりない。したがって,上記のいずれの値を採用してもよい。
【0059】
4−2.モーターMの回転速度の設定
そして,画質低下判定値Nの値に応じて,モーターMの回転速度の設定速度を振り分ける。画質低下判定値Nの大小関係を判断するための基準として,画質低下閾値N1を導入する。画質低下閾値N1については,予め定めておけばよい。そして,画質低下判定値Nが画質低下閾値N1未満である場合に,モーターMの設定速度として,高速の設定速度D1を設定する。画質低下判定値Nが画質低下閾値N1以上である場合に,モーターMの設定速度として,低速の設定速度D3を設定する。
【0060】
そのため,画像形成に供するシートが厚紙である場合には,モーターMの回転速度,すなわち感光体ドラム21等の回転速度は遅い。したがって,画像形成後のシートへのスジ状のムラの影響は小さい。一方,画像形成に供するシートが薄紙である場合には,モーターMの回転速度,すなわち感光体ドラム21等の回転速度は速い。この場合であっても,画像形成後のシートへのスジ状のムラの影響は小さい。さらに,印刷物の生産性は高い。
【0061】
これにより,1個のモーターMにより感光体ドラム21Y,21M,21C,21Kと,中間転写ベルト101と,2次転写ローラー115とを駆動する画像形成装置100において,モーターMの速度変動に起因する画像不良の発生を抑制することができる。厚紙がニップ部125に突入する際に,モーターMに設定されている設定速度を小さいものとすることで,モーターMの速度変動そのものが小さくなるようにしているからである。
【0062】
5.制御フロー
ここで,本形態の画質不良を抑制するための制御フローについて図8により説明する。まず,タッチパネル230から,ユーザーにより設定されたシートの厚みを取得する(S101)。次に,画質低下判定値決定部340が,画質低下判定値Nを決定する(S102)。
【0063】
次に,画質低下判定値Nを予め定めた画質低下閾値N1と比較する(S103)。画質低下判定値Nが画質低下閾値N1以上であれば(S103:Yes),S104に進む。画質低下判定値Nが画質低下閾値N1未満であれば(S103:No),S105に進む。S104では,モーターMの回転速度として,低速度の設定速度D3を設定する。S105では,モーターMの回転速度として,高速度の設定速度D1を設定する。
【0064】
そのため,厚みの厚いシートに画像形成する場合には,感光体ドラム21Y,21M,21C,21Kの回転速度は遅い。厚みの薄いシートに画像形成する場合には,感光体ドラム21Y,21M,21C,21Kの回転速度は速い。したがって,厚みの厚いシートに画像形成された画像の品質はよい。また,厚みの薄いシートに画像形成する場合には,画像形成の生産性はよい。
【0065】
6.変形例
6−1.設定するモーターの回転速度の段階数
本形態では,画質低下判定値Nが予め定めた画質低下閾値N1を基準として,モーターMの回転速度を2段階とすることとした。しかし,図9に示すように,モーターMの回転速度として,3段階の設定速度を設けることとしてもよい。この場合,図9に示すように,低速の設定速度D3と,高速の設定速度D1との間に,中速の設定速度D2を設定すればよい。また,モーターMの回転速度として4段階以上の設定速度を設けてもよい。
【0066】
6−2.モーターの回転速度の設定方法
本形態では,画質低下判定値Nを採用することとして,モーターMの回転速度の設定方法を説明した。ここで,画質低下判定値Nがシートの厚みそのものを採用する場合について説明する。
【0067】
その場合には,シートの厚みが予め定めた厚み閾値未満である場合に,モーターMの回転速度として通常の回転速度を設定すればよい。印刷物の生産性を高いものとするためである。そして,シートの厚みが予め定めた厚み閾値以上である場合に,モーターMの回転速度として通常の回転速度より低速の回転速度を設定すればよい。スジ状のムラの発生を抑制するためである。
【0068】
なお,前述したように,画質低下判定値Nとして,シートの厚みそのものを用いてもよい。その場合には,必ずしも画質低下判定値Nを設定する必要はないこととなる。
【0069】
6−3.シートの厚み検出センサー
画像形成を行うシートの厚みを,ユーザーからの入力をタッチパネル230から受け付けることにより,判別することとした。しかし,シートの厚みを,厚み検出センサーにより検出することとしてもよい。その場合には,この厚み検出センサーはもちろん,転写部のニップ部の上流に位置している必要がある。モーターMの負荷トルクの上昇に起因する画質の低下を抑制することができることに変わりないからである。
【0070】
6−4.画質低下判定値
本形態では,画質低下判定値Nをシートの厚みに対応する値として定義した。しかし,画質低下判定値Nに,シートの厚み以外の種々の条件を繰り込んでもよい。例えば,温度や湿度などの環境条件等である。また,シートの材質等を考慮してもよい。この場合には,画質低下判定値Nは,種々の条件下で画像形成を行った場合に予想される画質の低下の程度を数値化したものである。この場合,画質低下判定値Nを求めるために,計算式を用いてもよいし,予めテーブルを用意しておいてそのテーブルから決定することとしてもよい。
【0071】
7.まとめ
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係る画像形成装置100は,画像形成に供するシートの厚みに応じて,感光体ドラム21等を駆動するモーターMの回転速度を設定するものである。つまり,シートの厚みが予め定めた厚み閾値以上である場合に,モーターMの回転速度として高速の設定速度D1を設定するとともに,シートの厚みが予め定めた厚み閾値未満である場合に,モーターMの回転速度として低速の設定速度D3を設定する。これにより,濃度ムラを抑制して画像形成を行うことのできる画像形成装置100が実現されている。
【0072】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,画像形成装置は,片面印刷のものであっても,両面印刷のものであってもよい。また,カラー印刷のものに限らない。カラー印刷でない場合には,画質低下判定値については,1色のみについて決定すればよい。そして,画像形成装置は,プリンターであってもよい。また,読み取った画像を印刷ジョブとして公衆回線により送信する画像読取装置および画像形成装置に適用することができる。もちろん,複合機であってもよい。また,トナーの種類によらず適用できる。
【0073】
また,本形態では,用紙Pがローラー103および2次転写ローラー115のニップ部125に突入することとした。しかし,この場合の転写部材の構成は,これ以外の構成であっても構わない。そして,ローラー103および2次転写ローラー115のような転写部でなく,単なる搬送ローラー対であってもよい。例えば,用紙搬送経路114における2次転写ローラー115より上流の位置に,搬送ローラー対があってもよい。ただし,この搬送ローラー対は,モーターMから駆動を受けるものである。これにより,モーターMの速度変動に起因するスジ状のムラの発生を抑制することができることに変わりない。
【0074】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。第1の実施形態では,画質低下判定値Nとして,シートの厚みを用いた。本形態では,画質低下判定値を決定するために,シートの厚み以外の画質の低下の程度を数値化した画質低下ポイントを導入する。
【0075】
1.画質低下領域
画質低下ポイントは,図3に示した画質低下領域Rでの画質の低下の程度を数値化したものである。画質低下領域Rは,図3の下段におけるy1〜y5までにわたる領域である。モーターMとの関連性を理解しやすくするために,画質低下領域Rは,図3中ではやや広い領域で描かれている。画質低下領域Rは,モーターMの回転速度が設定速度D0からずれている期間内に画像形成された領域である。つまり,厚紙の転写部のニップ部125への突入という外乱が生じてからモーターMの回転速度が安定状態に回復するまでの期間内(時刻t1から時刻t5)に,露光装置30が感光体ドラム21に形成した静電潜像の領域である。したがって,y1からy5までにわたる長さWは,画質低下領域Rにおける副走査方向の長さ(搬送方向サイズ)である。
【0076】
そして,この搬送方向サイズW(y1からy5までの長さ)は,シートの厚みによって決まる。シートの厚みが厚いほど,モーターMの回転速度が設定速度D0に回復するまでの時間が長い。つまり,搬送方向サイズWは長い。そして,紙の材質によっても,搬送方向サイズWは変わる。したがって,搬送方向サイズWについては,紙の種類に対応させて予め記憶しておけばよい。
【0077】
また,画質低下領域Rは,用紙搬送方向と直交する方向にわたって存在している。つまり,画質低下領域Rにおける搬送方向に垂直な方向のサイズ(幅方向サイズ)は,シートの幅方向(搬送方向に垂直な方向)のサイズそのものである。
【0078】
画質低下領域Rは,図3の下段の図に示すように,シートの搬送方向の先端P1から一定の距離Qだけ離れた箇所からシートの搬送方向の下流に向かって存在している。ここで,Qは,ニップ部125から1次転写ローラー111までの距離と,各色の感光体ドラム21における露光箇所から1次転写ローラー111と対面する箇所までの距離との和で決まるものである。つまり,Qは,画像形成装置1の機械的構成により決まる既知の値である。ただし,各色の感光体ドラム21Y,21M,21C,21Kにおいて,それぞれ異なる値をとる。したがって,Qについても,予め記憶しておけばよい。
【0079】
なお,図3には,画質の低下する領域が1個だけ示されている。しかし実際には,各色の感光体ドラム21Y,21M,21C,21Kのそれぞれに,画質低下領域Rが存在する。したがって,カラーの画像形成装置では,画質低下領域Rが4個あることがある。ただし,これらの画質低下領域Rの少なくとも一部の箇所は互いに重なりあっていることもある。
【0080】
2.画質低下範囲の設定
画質低下領域Rに描かれる画像には,前述のようにスジ状のムラが生ずることがある。しかし,例えば,形成しようとする画像において画質低下領域R1の部分が白ベタであれば,画質の低下はそもそも起こらない。その際には厚紙に画像形成する場合であっても,モーターMの回転速度を遅い速度とする必要はない。したがって,画質の低下の程度を見積もるために,画質低下領域R1に含まれている画像要素の面積やその他の画質の低下の原因を考慮するとよい。
【0081】
そのために,図10に示すように,画質低下範囲L1を設定する。ここで,画質低下範囲L1は,画質低下領域R1に含まれる画像の範囲である。画質低下領域R1は,画像形成を行う画像イメージによらずに定まる領域である。画質低下範囲L1は,画像形成を行う画像イメージに依存する領域である。画質低下範囲L1を図10にスラッシュでハッチングを施した領域として示す。なお,矢印F1の向きは,シートの搬送方向を示す。
【0082】
3.画質低下ポイント
本形態では,画像品質の低下の程度を,画質低下ポイントを用いて評価する。画質低下ポイントとは,画像形成する画像の品質の低下の程度を予め数値化した評価基準である。画質低下ポイントは,表1に示すように,複数項目を設定することのできるものである。画質低下ポイントの種類には,画像属性ポイントや明度ポイント,面積ポイントがある。
【0083】
ここで,画像属性ポイントとは,画像が文字や写真や図形のいずれの種類であるかに応じて画質の低下の程度を数値化した値のことをいう。画質低下ポイントの値が大きいほど,画質の低下の程度が大きいことを示している。写真を画像形成する場合に濃度ムラが生じると,その濃度ムラは目立つ。つまり,文字の場合に濃度ムラが生じても画質の低下の影響は少ないが,写真の場合に濃度ムラが生じると画質の低下の影響は大きい。そのため,画像属性ポイントは,画質低下領域R1に存在する画像要素の属性により定まるものである。そして,文字画像の場合より写真画像の場合の方が,画像属性ポイントの値は大きい。なお,図形の場合の画像属性ポイントは,文字画像の場合と写真画像の場合の中間程度の値である。
【0084】
明度ポイントとは,画質の明度の段階に応じて画質の低下の程度を数値化した値のことをいう。表1には,128階調の場合が例として挙げられている。もちろんこれ以外の階調数を用いてもよい。また,画像の明度ポイントが十分に小さい場合や十分に大きい場合には,画質の低下の影響は小さい。しかし,画像の明度ポイントが中程度の値である場合には,画質の低下の影響が大きい。そのため,明度ポイントは,画質低下領域R1の明度により定まるものである。そして,白またはベタに近い明度の場合よりも中間明度の場合の方が,明度ポイントの値は大きい。
【0085】
面積ポイントとは,画質低下領域R1に含まれる画像形成領域の画質低下面積(画質低下範囲Lの面積)に応じて画質の低下の程度を数値化した値のことをいう。この面積ポイントは,幅方向サイズと,搬送方向サイズとの積で与えられる。幅方向サイズとは,画質低下領域R1に存在する画像要素の幅方向におけるサイズのことである。ここで幅方向とは,用紙搬送方向と垂直な方向である。搬送方向サイズWとは,画質低下領域R1における用紙搬送方向のサイズのことである。この搬送方向サイズは,シートの厚みにより定まるものである。そして,シートの厚みが厚いほど,大きい値をとる。搬送方向サイズは,例えば,図3の下段の図におけるy1からy5までの長さのことである。y3からy5までの画像領域で,スジ状のムラの程度が小さければ,搬送方向サイズとして,y1からy3までの長さをとってもよい。
【0086】
面積ポイントは,図10では,画質低下範囲L1の面積を数値化したものである。画質低下範囲L1の面積(画質低下面積)は,画質低下領域R1の面積以下である。例えば,画質低下領域R1の全面にわたって画像が形成されているような場合には,画質低下範囲L1の面積と画質低下領域R1の面積とは等しい。
【0087】
そして,画質低下範囲L1が大きいほど,画質の低下の影響は大きい。したがって,表1に示すように,画質低下範囲L1の面積(画質低下面積)が大きいほど,面積ポイントの値は大きい。逆に,画質低下範囲L1の面積(画質低下面積)が小さいほど,画質低下ポイントの値は小さい。
【0088】
【表1】

【0089】
4.画質低下判定値
次に,画質低下ポイントに基づいて,画質低下判定値を決定する方法について説明する。画質低下判定値とは,モーターMの速度変動による画質の低下の程度を数値化したものである。
【0090】
画質低下判定値は,各色の感光体ドラム21Y,21M,21C,21Kについて決定することができる。各色の画質低下判定値は,画質低下ポイントの加算により算出されるものである。各色の画質低下判定値として,例えば,次式を用いることができる。
In = I1 + I2 + I3 + I4 ………(1)
In:各色における画質低下判定値
I1:シートの厚みによる画質低下ポイント
I2:画像属性ポイントによる画質低下ポイント
I3:明度ポイントによる画質低下ポイント
I4:面積ポイントによる画質低下ポイント
【0091】
そして,画像形成しようとする画像の画質低下判定値は,次のようになる。
I = ΣIn
ここで,画像の画質低下判定値Iは,各色(Y,M,C,K)の画質低下判定値Inの総和である。これにより,画質の低下の影響を総合的に見積ることができる。
【0092】
5.画質低下判定値を用いた画質低下の評価方法
図10に例示するシートには,領域K1に写真が配置されている。領域K2に文字が配置されている。領域K3に図が配置されている。図10では,領域K1に写真が配置されている。したがって,画像属性による画質低下ポイントI2として,表1に示すように,画質低下ポイント10を採用する。また,その写真の明度ポイントは,65であったとする。その場合の明度ポイントの画質低下ポイントI3は,10である。画質低下領域R1における画質低下範囲L1(図10中のスラッシュのハッチング)の面積は,6.5cmであったとする。すると,この場合における面積ポイントの画質低下ポイントI4は,6である。
【0093】
なお,シートの厚みによる画質低下ポイントI1は,画質低下判定値Nそのものであってもよい。また,シートの厚みに対応して,表1に示したようなポイントを値として与えることとしてもよい。このように,式(1)を用いることにより,画質低下判定値Iが算出される。
【0094】
そして,画質低下判定値Iと画質低下閾値IThとの大小関係により,モーターMに設定する設定速度を決定する。ここで,画質低下閾値IThについては,予め定めておけばよい。
【0095】
本形態では,モーターMの速度変動に起因する画質不良について,画質低下領域Rにおける画質の低下の程度を具体的に予測する。そして,その予測値に基づいて,モーターMの設定速度を決定する。したがって,画質低下領域Rにおける画質の低下の程度を,第1の実施形態よりも反映してモーターMの回転速度を設定することができる。これにより,画質の低下を抑制するとともに,高い生産性で画像形成を行うことのできる画像形成装置が実現されている。
【0096】
6.変形例
6−1.画質低下ポイントの種類
本形態では,画像属性ポイント,明度ポイント,面積ポイントについての画質低下ポイントを採用した。しかし,その他の画質低下ポイントを追加してもよい。例えば,濃度ムラの箇所の大きさ,濃度ムラの濃度差,濃度ムラの急峻さ,濃度ムラの数等について,画質低下ポイントを導入する。これにより,濃度ムラの箇所の大きさ,濃度ムラの濃度差,濃度ムラの急峻さ,濃度ムラの数等に基づく画質の低下の小さい画像形成方向で画像を形成することができる。
【0097】
6−2.画質低下判定値の決定方法
6−2−1.重み付け
本形態では,画質低下判定値を,種々の画質低下ポイントの和として算出した。しかし,画質低下ポイントについて,重み付けを行ってもよい。例えば,式(1)の代わりに,次式を用いることもできる。
I = A1×I1 + A2×I2 + A3×I3 +A4×I4
このように,係数A1,A2,A3,A4を考慮することとしてもよい。これらの係数A1,A2,A3,A4については,任意に定めてよい。例えば,イエローのスジ状のムラは,それほど目立たない。そのため,感光体ドラム21Yの画質低下ポイントに掛け合わせる係数の値を小さいものとしてもよい。また,温度や湿度等の環境に応じて係数を掛け合わせることとしてもよい。
【0098】
6−2−2.画質低下ポイントの乗算
本形態では,画質低下ポイントを足し合わせることで画質低下判定値を求めることとした。しかし,画質低下ポイントの乗算により,画質低下判定値を算出することとしてもよい。例えば,次式を用いてもよい。
I = I1 × I2 × I3 × I4
また,加法と乗法とが混じった計算式により,画質低下判定値を算出するようにしてもよい。このようにしても,画質の低下を数値的に評価できることに変わりないからである。
【0099】
7.まとめ
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係る画像形成装置100は,画像形成に供するシートの厚みに応じて,感光体ドラム21等を駆動するモーターMの回転速度を設定するものである。つまり,シートの厚みが予め定めた厚み閾値以上である場合に,モーターMの回転速度として高速の設定速度D1を設定するとともに,シートの厚みが予め定めた厚み閾値未満である場合に,モーターMの回転速度として低速の設定速度D3を設定する。これにより,濃度ムラを抑制して画像形成を行うことのできる画像形成装置100が実現されている。
【0100】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,画像形成装置は,片面印刷のものであっても,両面印刷のものであってもよい。また,カラー印刷のものに限らない。カラー印刷でない場合には,画質低下判定値については,1色のみについて決定すればよい。そして,画像形成装置は,プリンターであってもよい。また,読み取った画像を印刷ジョブとして公衆回線により送信する画像読取装置および画像形成装置に適用することができる。もちろん,複合機であってもよい。また,トナーの種類によらず適用できる。
【0101】
また,本形態では,用紙Pがローラー103および2次転写ローラー115のニップ部125に突入することとした。しかし,この場合の転写部材の構成は,これ以外の構成であっても構わない。そして,ローラー103および2次転写ローラー115のような転写部でなく,単なる搬送ローラー対であってもよい。例えば,用紙搬送経路114における2次転写ローラー115より上流の位置に,搬送ローラー対があってもよい。ただし,この搬送ローラー対は,モーターMから駆動を受けるものである。これにより,モーターMの速度変動に起因するスジ状のムラの発生を抑制することができることに変わりない。
【符号の説明】
【0102】
1…画像形成部
10…現像ユニット
20…感光体ユニット
21…感光体ドラム
100…画像形成装置
125…ニップ部
230…タッチパネル
300…制御部
310…機械制御部
320…画像制御部
330…画質低下範囲算出部
340…画質低下判定値決定部
350…モーター制御部
400…記憶部
410…本体付属記憶部
420…ユニット付属記憶部
M…モーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感光体に静電潜像を書き込みその静電潜像を現像してトナー像を形成するとともに,形成されたトナー像をシートに転写する画像形成部と,
前記画像形成部での転写に供するシートの搬送経路上に設けられた搬送ローラー対と,
前記感光体と前記搬送ローラー対とを駆動する駆動源とを有する画像形成装置であって,
前記駆動源は,回転速度が速いほど発生トルクが小さく,回転速度が遅いほど発生トルクが大きい,というトルク特性を有するものであり,
画像形成に供するシートの厚みが薄い場合に,前記駆動源の回転速度として高い回転速度を設定するとともに,
画像形成に供するシートの厚みが厚い場合に,前記駆動源の回転速度として低い回転速度を設定する駆動源制御部を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像形成装置において,
前記駆動源制御部は,
画像形成に供するシートの厚みが予め定めた厚み閾値未満である場合に,
前記駆動源の回転速度として第1の回転速度を設定するとともに,
画像形成に供するシートの厚みが予め定めた厚み閾値以上である場合に,
前記駆動源の回転速度として第1の回転速度より低い第2の回転速度を設定することを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の画像形成装置において,
形成しようとする画像について前記感光体で静電潜像の書き込みを行っている間に前記搬送ローラー対にシートの先頭が突入したときの前記駆動源の速度変動による画質の低下の程度を数値化したものであってシートが厚いほど大きな値をとる画質低下判定値を決定する画質低下判定値決定部と,
前記駆動源制御部は,
画質低下判定値の値が小さい場合に,前記駆動源の回転速度として高い回転速度を設定するとともに,
画質低下判定値の値が大きい場合に,前記駆動源の回転速度として低い回転速度を設定するものであることを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
請求項3に記載の画像形成装置において,
前記画質低下判定値決定部は,
前記画質の低下が発生する箇所に存在する画像要素の幅方向サイズと,
シートの厚みにより定まり,シートが厚いほど大きい,前記画質の低下が発生する領域の搬送方向サイズと,
の積である画質低下面積を用いて画質低下判定値を決定することを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
請求項4に記載の画像形成装置において,
前記画質低下判定値決定部は,
複数項目の画質低下ポイントの加算または乗算により前記画質低下判定値を算出するものであり,
前記複数項目の画質低下ポイントとして,
少なくとも,前記画質低下面積が大きいほど値が大きい面積ポイントを含むとともに,
さらに,
前記画質の低下が発生する箇所に存在する画像要素の属性により定まり,文字画像の場合より写真画像の場合の方が値が大きい画像属性ポイントと,
前記画質の低下が発生する箇所における明度により定まり,白またはベタに近い明度の場合よりも中間明度の場合の方が値が大きい明度ポイントとのうち少なくとも一方が含まれることを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1つに記載の画像形成装置において,
前記搬送ローラー対の一方のローラーは,形成されたトナー像のシートへの転写を行う転写ローラーであることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−3394(P2013−3394A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135285(P2011−135285)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】