説明

画像復元方法およびその装置

【課題】 劣化画像から高解像度画像を復元するときに、高周波成分が過大に復元されることによる画像の乱れを抑制する。
【解決手段】 復元後の点広がり関数のフーリエ変換を復元対象画像の撮影時の点広がり関数のフーリエ変換で除算した値を復元フィルタとし、前記復元対象画像のフーリエ変換に前記復元フィルタを周波数空間で乗算し、前記乗算した結果を逆フーリエ変換して得られた画像を復元画像とする。復元後においても微少な広がりを持つことを期待した復元フィルタを用いるため、高周波成分を減衰させることで復元画像で高周波成分による画像の乱れやざらつきが抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラで撮像した画像から高解像度の画像を復元する画像復元方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラで被写体を撮像すると、劣化した画像として撮像されてしまう。画像復元装置は、劣化した画像を、本来の高解像度の画像に復元する装置である。
【0003】
図20は、従来の画像復元装置のブロック構成図である。この画像復元装置10は、カメラで撮像した画像(劣化画像)を復元対象画像として取り込む画像入力部11と、画像入力部11から入力された劣化画像をフーリエ変換するフーリエ変換装置12と、点広がり関数入力部13と、点広がり関数入力部13から入力された点広がり関数をフーリエ変換するフーリエ変換装置14と、フーリエ変換装置12の出力をフーリエ変換装置14の出力で除算する除算回路15と、除算回路15による除算結果を逆フーリエ変換する逆フーリエ変換装置16と、逆フーリエ変換結果を復元画像として出力する画像出力部17とを備える。
【0004】
図21は、上述した従来の画像復元装置10の動作手順を示すフローチャートである。先ず、カメラで撮影する時の点広がり関数を点広がり関数入力部13から入力し(ステップS11)、次に、この点広がり関数をフーリエ変換装置14でフーリエ変換し(ステップS12)、次に、このフーリエ変換結果の逆数を求めてこれを復元用のフィルタ特性とする(ステップS13)。
【0005】
次に、カメラで撮像した画像(劣化画像)を画像入力部11から取り込み(ステップS14)、次にこの画像をフーリエ変換装置12でフーリエ変換し(ステップS15)、次に復元用のフィルタ特性を画像のフーリエ変換結果に乗算する(ステップS16)。即ち、フーリエ変換装置12の出力を、フーリエ変換装置14の出力で除算する。そして、除算結果すなわち除算回路15の出力に対して逆フーリエ変換装置16で逆フーリエ変換し(ステップS17)、逆フーリエ変換結果を復元画像として画像出力部17から出力する(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
この従来の画像復元装置では、モデルは点広がり関数が位置不変の特性をもち、劣化前の画像f(x,y)に対し、点広がり関数h(x,y)によって劣化した画像g(x,y)は、次のように表されると仮定している。
【0007】
g(x,y)=∬f(x0, y0)*h(x-x0, y-y0) dx0 dy0 + n(x,y)
ここで、
f(x,y):劣化前の画像
g(x,y):劣化画像
h(x,y):点広がり関数
n(x,y):雑音
x、y:空間座標
である。
【0008】
これをフーリエ変換によって周波数空間での表示に変えると、畳み込み演算は積に置き換えられるので
G(u,v)=F(u,v)*H(u,v) + N(u,v)
となる。
【0009】
ここで
F(u,v):劣化前の画像の2次元フーリエ変換
G(u,v):劣化画像の2次元フーリエ変換
H(u,v):点広がり関数の2次元フーリエ変換
N(u,v):雑音の2次元フーリエ変換
u,v:空間周波数
である。
【0010】
従って、
F(u,v)=G(u,v)/H(u,v) − N(u,v)/H(u,v)
となる。このF(u,v)を逆フーリエ変換することにより、高解像度の復元画像を得ることができる。
【0011】
この画像復元の手法は、点広がり関数による劣化画像の復元において基本となる手法であり、点広がり関数に誤差がなく、画像に線形性がある限りにおいて、良好な復元画像を得ることができる。
【0012】
【非特許文献1】斎藤恒雄 著「画像処理アルゴリズム」近代科学社、1993年3月10日発行、p.68〜p.84)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来の画像復元装置は、以下の様な問題があった。すなわち、高周波で復元倍率が極めて増大するため、復元画像が不安定になるという問題である。その程度は、復元処理後の画像にざらつきを生じるという程度のものから、劣化画像の中に見えていた画像さえノイズの中に埋もれてしまうまで激しく不安定になる程度のものまである。
【0014】
復元画像の不安定性は次のようにして起こる。現実の系で像復元を行う場合、点広がり関数には誤差がつきものである。とりわけ、点広がり関数の2次元フーリエ変換を表すH(u,v)(=光学的伝達関数 OTF)が、高周波でその絶対値が小さくなり、H(u,v)の測定値の相対誤差が増大する。高周波では、周波数成分の復元率に相当する1/H(u,v)の値自体が大きいところで、H(u,v)の相対誤差が増大するため、高周波成分を極めて過大に復元してしまうことが時として生じる。その過大に評価されてしまった高周波成分により、画像は乱れる。この効果が小さいときには、画像が高周波成分によりざらついて見える程度であるが、この効果が極めて大きいときは、高周波成分だけが画像の中で支配的になることで、画像がまったくのランダム画像に見えてしまうまで、画像が乱れてしまうこともある。
【0015】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、復元画像を安定にすることができる画像復元方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の画像復元方法及びその装置は、復元後の点広がり関数のフーリエ変換を復元対象画像の撮影時の点広がり関数のフーリエ変換で除算した値を復元フィルタとし、前記復元対象画像のフーリエ変換に前記復元フィルタを周波数空間で乗算し、前記乗算した結果を逆フーリエ変換して得られた画像を復元画像とすることを特徴とする。
【0017】
この構成により、即ち、従来の画像復元技術では、復元後に理想的な1点になることを期待した復元フィルタを用いるのに対し、本発明では、復元後においても微少な広がりを持つことを期待した復元フィルタになっているため、高周波成分を減衰させることで復元後の画像で高周波成分による画像の乱れやざらつきを抑えることが可能となる。
【0018】
本発明の画像復元方法及びその装置は、復元後の点広がり関数のフーリエ変換を復元対象画像の撮影時の点広がり関数のフーリエ変換で除算し、前記除算した値を逆フーリエ変換して得られた結果の実数部を取り出して前記実数部を実空間での復元フィルタとし、前記復元対象画像を前記復元フィルタで畳み込んで得られる画像を復元画像とすることを特徴とする。
【0019】
この構成により、復元後の点広がり関数と、撮影時の点広がり関数とが、あらかじめ用意されていれば、実空間でのフィルタをあらかじめ計算しておくことができ、画像の復元は実空間でのフィルタを利用して畳み込むことだけで達成できる。また、復元に必要な範囲の画像の行データがそろった時点で、それぞれの画像の復元画像を計算することが可能となる。
【0020】
このとき、畳み込むべき実空間でのフィルタの大きさを小さくする必要があるが、それは、例えば次のような手順で計算すればよい。最小限の行列の大きさにした撮影時の点広がり関数のフーリエ変換を分母とし、同じ行列の大きさの復元画像に期待する点広がり関数のフーリエ変換を分子として複素数として割り算を実行する。その結果を逆フーリエ変換し実数部を取り出すことで、畳み込みのためのフィルタが得られる。
【0021】
これにより、上記実空間のフィルタの大きさの範囲の画素だけで復元画像上の1点を計算できるようになる。そのため、必要な行データがそろった行から順次復元の計算ができ、1画面全体の画像を取得するのを待たずに復元処理を開始できる。
【0022】
位置不変な特性を持つ場合には、この畳み込み演算のためのフィルタとして、画面全体にわたって共通の値を用いればよい。畳み込み演算に対して専用のハードウエアを用いた場合には、並列性の向上のために、画面全体にわたるFFT(高速フーリエ変換)を使う場合よりも計算が速くなる。
【0023】
本発明の画像復元方法及びその装置は、前記撮影時の点広がり関数から計算される実空間での前記復元フィルタを単一のFIRフィルタ(=Finite Impulse Response Filter)とし、復元対象画像1方向へのスイープした時系列に対する前記FIRフィルタによる畳み込みを行うことで前記復元画像を求めると共に、画角に応じて前記点広がり関数と前記復元フィルタとを切り替えることを特徴とする。
【0024】
この構成により、画面全体に対するデコンボリューション処理が、時系列データに対して単一のFIRを施すことで表現できる。そのため、復元処理を、画像全体がそろうのを待たずに開始でき、リアルタイム性が向上する。また点広がり関数が画角によって異なることから、復元画像に生じるリンギングが低下し、良好な復元画像を得ることができる。
【0025】
本発明の画像復元方法及びその装置は、前記復元対象画像の上端及び下端の各々に前記撮影時の点広がり関数の行数分の画像領域を追加し、前記復元対象画像の左端及び右端の各々に前記撮影時の点広がり関数の列数分の画像領域を追加し、前記画像領域を追加した前記復元対象画像から前記復元画像を求めると共にこの復元画像から前記追加した画像領域を除去した範囲の画像を真の復元画像とすることを特徴とする。
【0026】
この構成により、画像復元の際に、周期的境界条件を仮定することに由来する復元画像の縁付近に生じるノイズを、復元画像から取り除くことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、画像の復元後に対しても点像に微少な広がりを設定することで、即ち、復元後の点像の点広がり関数のフーリエ変換を撮影時の点広がり関数のフーリエ変換で割った値を画像復元用のフィルタ特性とすることで、復元画像に生じやすい高周波成分による画像の乱れやざらつきを抑えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の一実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0029】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る画像復元装置のブロック構成図である。本実施形態に係る画像復元装置100は、復元対象の画像を入力する画像入力部101と、復元後の点広がり関数を入力する入力部102と、撮影時の点広がり関数を入力する入力部103と、画像入力部101が取り込んだ復元対象画像をフーリエ変換するフーリエ変換装置104と、入力部102が取り込んだ復元後の点広がり関数をフーリエ変換するフーリエ変換装置105と、入力部103が取り込んだ撮影時の点広がり関数をフーリエ変換するフーリエ変換装置106と、フーリエ変換装置105の出力をフーリエ変換装置106の出力で除算する除算回路107と、フーリエ変換装置104の出力に除算回路107の出力を乗算する乗算回路108と、乗算回路108の乗算結果に対して逆フーリエ変換を施す逆フーリエ変換装置109と、逆フーリエ変換結果の実数部を復元画像として出力する画像出力部110とを備える。
【0030】
フーリエ変換装置102、103は、夫々、復元後と撮影時の点広がり関数をフーリエ変換するが、フーリエ変換の際に予め配列の大きさが画像の大きさと同じになるようにゼロでパディングする。
【0031】
図2は、図1に示す画像復元装置の動作手順を示すフローチャートである。まず、復元後の点広がり関数と撮影時の点広がり関数とを夫々入力部102、103から読み取り(ステップS101)、次に、入力部102、103で読み取った復元後と撮影時の点広がり関数を夫々フーリエ変換装置105、106でフーリエ変換する(ステップS102)。
【0032】
その後、除算回路107により、フーリエ変換装置105の出力を、フーリエ変換装置106の出力で除算する。これにより、
〔復元後の点広がり関数のフーリエ変換〕=A
〔撮影時の点広がり関数のフーリエ変換〕=B
としたとき、
復元用のフィルタ特性=A/B
として算出される(ステップS103)。
【0033】
次に、画像入力部101から復元対象の画像を取り込み(ステップS104)、フーリエ変換装置104でこの復元対象画像をフーリエ変換する(ステップS105)。そして、乗算回路108により、復元用のフィルタ特性と、復元対象画像をフーリエ変換したものとを周波数空間で乗算し(ステップS106)、最後に、乗算回路108の出力を、逆フーリエ変換装置109で逆フーリエ変換する(ステップS107)。逆フーリエ変換された結果が復元画像として画像出力部110から出力される。
【0034】
尚、図1に示すブロック構成図では、計算手順をわかりやすくするために、フーリエ変換装置104、105、106を3つ別々に記載しているが、実際の装置では、1つのフーリエ変換装置で兼用する構成としてもよいことはいうまでもない。また、図2において、同じ撮影時の点広がり関数での画像の復元を繰り返す場合には、ステップS101からステップS103までを省略し、一旦計算された復元用フィルタ特性を繰り返し使用することでもよい。
【0035】
本実施形態に係る画像復元装置によれば、復元用のフィルタ特性として、撮影時の点広がり関数のフーリエ変換を分母とし、復元後の点広がり関数のフーリエ変換を分子としたときの商を用いることにより、高周波成分を減衰させ、復元後の画像における高周波成分による画像の乱れやざらつきを抑えることが可能となる。
【0036】
図3は、図1の入力部103に入力するデータすなわち撮影時に用いた点広がり関数の2次元強度分布の一例を示す図である。縦軸、横軸は、それぞれ画素の位置である。図の中央で点広がり関数の最大値がくるようにとってある。点広がり関数は、左側にやや裾野を引いている。
【0037】
図4は、図3に示す関数の水平方向の断面図である。左側に裾野を引いているのがはっきりと見て取れる。
【0038】
図5は、図3に示す撮影時に用いた点広がり関数に対応する水平方向のMTFの一例を示す図である。横軸はナイキスト周波数を「0.5」としたときの空間周波数であり、縦軸はMTFである。空間周波数が大きくなるにつれてMTFの値が著しく減少している。
【0039】
図1に示す第1の実施形態の画像復元装置100では、図20に示す従来例に比較して、復元後の点広がり関数の周波数特性を復元用のフィルタ特性の分子として追加しており、その追加した周波数特性はローパスフィルタになる。仮定する復元後の広がりを大きくすると、それに対応して高周波側から周波数特性の大きさが減少していく。このローパスフィルタにより、高周波でMTFの相対誤差が増大しても、劣化前の画像よりも高周波成分を過大に評価する可能性が減少する。このローパスフィルタは、周波数に対してなめらかに変化することが、自然な復元画像を得るうえで重要である。
【0040】
復元後に微少な広がりを持つ復元後の点広がり関数としては、たとえば、微少な広がりを持つ、次式(1)の2次元のガウス関数を想定することができる。復元後の点広がり関数が連続的に滑らかに推移すると同時に、その周波数特性も連続的に滑らかに推移するので、復元画像に不自然な不連続な挙動を引き起こすことがない。
【0041】
z=exp(−(x+y)/σ) …(1)式
ここで、
x、y:空間座標
z:ガウス関数で定義される復元後の点広がり関数
である。
【0042】
上記の式(1)のσはガウス関数の広がりを与えるパラメータであり、その値として「0.6」画素といった連続値をとることができる。σ=0.2、σ=0.4といった微少な値を用いている範囲では、復元後の点広がり関数はほとんど1点に近い。そのような状況においても、高周波成分の振幅をわずかに抑えることが、画像の平滑化につながり、復元後の画像における高周波成分のあばれを小さくする。
【0043】
図6は、図1に示す入力部102に入力される復元後の点広がり関数の一例を示す図である。復元後の点広がり関数として2次元のガウス関数を用いた例であり、種々のσに対する点広がり関数の断面を示している。横軸は画素、縦軸は点広がり関数の強度である。
【0044】
図7は、図6に示す関数に対応するMTFの一例を示す図である。横軸はナイキスト周波数を「0.5」としたときの空間周波数であり、縦軸はMTFの値である。種々のσによって、MTFの減衰の仕方が異なっている。元々の点広がり関数の広がりσが「0.2」と小さい場合には、MTFはナイキスト周波数でも「1」に近い値を持つが、σの値が大きくなるにつれて、高周波でのMTFの値が小さくなっているのがわかる。
【0045】
図8は、第1の実施形態に係る画像復元装置で用いる復元用のフィルタ特性の一例を示す図である。横軸は、ナイキスト周波数を「0.5」としたときの空間周波数であり、縦軸は復元用のフィルタの振幅、復元倍率である。
【0046】
この復元用のフィルタは、前述した様に、
〔復元後の点広がり関数のフーリエ変換〕=A
〔撮影時の点広がり関数のフーリエ変換〕=B
と表したとき、
〔復元用のフィルタ〕=A/B
で定義される。
【0047】
このため、空間周波数「0」では、元々のMTF=1であるため、復元用のフィルタの倍率は「1」である。しかし、図8に示す様に、空間周波数が大きくなりMTFの値が小さくなるにつれて、復元用フィルタの振幅(=復元倍率)は大きくなる。
【0048】
図3、図4に示す撮影時の点広がり関数の場合には、その水平方向のMTFは、図5に示すように、空間周波数「0.17」でMTF=0.1にまで減少しており、対応して、空間周波数0.17で復元倍率は図8に示す様に10倍に達している。空間周波数がさらに大きくなると、MTFは図5に示すように更に小さくなっており、図8に示す復元倍率は更に大きくなる。
【0049】
図8中の黒丸点は第1の実施形態に係る復元倍率を示し、四角点は従来の手法における復元倍率である。この図8に示す様に、第1の実施形態においては、復元倍率が大きくなる高周波領域において、従来の手法よりも低い復元倍率を与えている。MTFの値が小さくなる領域では、MTFの相対誤差が大きくなるので、高周波成分を過大に復元しがちであった従来手法にくらべ、本実施形態では、高周波成分を過大に評価する可能性を減らしている。
【0050】
復元後の画像に対して微少な広がりを仮定することは、次のようにして正当化される。第1に、一般に画像のスペクトルはナイキスト周波数近くの高周波で減衰しているものであり、ナイキスト周波数付近の周波数成分は、画像のそれが極めて過大に評価されない限り、人間の視覚に与える影響は大きくない。
【0051】
第2に、像復元による画像のスペクトルの変化が、人間の視覚に与える影響が大きいのは、元々の画像のスペクトルが強い低周波領域での周波数成分の復元である。このため低周波でのスペクトル成分の減少を像復元で復元することで、画像の見栄えが著しく改善する。また、低周波でのMTFはMTFの値も大きいために少ない相対誤差でMTFの値を決定できることも大きい。
【0052】
第3に、ナイキスト周波数近くのMTFは小さくMTFの相対誤差は大きくなるので、その周波数成分を〔1/MTF〕倍することは、ナイキスト周波数付近の空間周波数成分を過大評価する危険が高く、誤差のあるMTFを使用したときにおいても復元率を過大評価しないように、ナイキスト周波数付近の周波数成分を減衰させる必要がある。
【0053】
実際、光学的伝達関数(その絶対値をMTFと呼ぶ)であるH(u,v)は、高周波においては、たとえカメラが無収差光学系であっても減衰するものである。しかも、収差のある通常の光学系では、高周波成分の減衰がさらに大きい。その上、カメラの検出器では、画像の折り返しひずみを抑制するために、ナイキスト周波数以上の成分をカットするための光学ローパスフィルタを用いている。このためナイキスト周波数近傍では取得画像のMTFの値自体がさらに小さくなっており、MTFは高周波で値が小さくなり、その相対誤差は不可避的に大きくなる。
【0054】
これが、従来の手法では、時として高周波成分を過大評価させてしまう原因であり、軽微な状況では画像のざらつきを生じさせ、重度の場合には、画像をすべてノイズによって埋もれさせてしまう。
【0055】
これに対し、本実施形態の画像復元装置では、復元後に微少な広がりを持つ点広がり関数を持たせることで、ナイキスト周波数近傍を減少させる効果を持っている。即ち、本実施形態では、復元後の画像に対して微少な広がりを仮定して画像を復元することとしている。
【0056】
ここで、復元後の点広がり関数を想定することは、従来の手法に対し単にローパスフィルタを加えたものではない。復元後の分布が、滑らかな特性を持つ点広がり関数を仮定しているので、ローパスフィルタの周波数特性も滑らかに単調に減衰し、復元後の画像に対して自然な微少なボケを残すことができる。
【0057】
単純にローパスフィルタをかけたときには、ローパスフィルタによっては、あまりに急峻に高周波側をカットすることになり、カットした限界の周波数成分が画像の中で強調されてしまうことがある。このため、不自然な画像になってしまう。
【0058】
これに対し、復元後の画像に対して微少な広がりをもつ点広がり関数を仮定して高周波成分の復元を抑制すると、復元後の点広がり関数による自然なボケ方で高周波成分による画像の乱れやざらつきを抑えることができる。
【0059】
なお、本実施形態の画像復元装置では、復元後に期待する点広がり関数を、入力部102から取り込む構成としているが、復元後に想定する点広がり関数は、条件による差はなく、あらかじめ一定の値を装置の中に組み込んでおくことも可能である。その場合、そのフーリエ変換まではあらかじめ計算しておき装置に組み込んでおくことができる。
【0060】
(第2の実施の形態)
図9は、本発明の第2の実施の形態に係る画像復元装置のブロック構成図である。本実施形態の画像復元装置200は、復元対象の画像を入力する画像入力部201と、復元後の点広がり関数を入力する入力部202と、撮影時の点広がり関数を入力する入力部203と、入力部202が取り込んだ復元後の点広がり関数をフーリエ変換するフーリエ変換装置205と、入力部203が取り込んだ撮影時の点広がり関数をフーリエ変換するフーリエ変換装置206と、フーリエ変換装置205の出力をフーリエ変換装置206の出力で除算する除算回路207と、除算回路207の出力を逆フーリエ変換する逆フーリエ変換装置209と、画像入力部201によって取り込まれた復元対象画像に対して逆フーリエ変換装置209の出力を畳み込み演算する畳み込み回路211と、畳み込み回路211の出力を復元画像として出力する画像出力部210とを備える。
【0061】
図10は、第2の実施形態に係る画像復元装置の動作手順を示すフローチャートである。
【0062】
まず、撮影時の点広がり関数を入力部203で読み取ると共に復元後の点広がり関数を入力部202で読み取る(ステップS201)。次に、撮影時の点広がり関数と復元後の点広がり関数とを夫々フーリエ変換装置206、205でフーリエ変換する(ステップS202)。
【0063】
次に、除算回路207により、フーリエ変換装置205の出力をフーリエ変換装置206の出力で除算する。除算回路207の出力が復元用のフィルタ特性となり、この除算回路207の出力を逆フーリエ変換装置209で逆フーリエ変換することで、実空間の復元用フィルタが得られる(ステップS203)。
【0064】
次に、画像入力部201から復元対象となる画像を取り込み(ステップS204)、最後に、復元対象の画像に対して実空間の復元用フィルタすなわち逆フーリエ変換装置209の出力を畳み込み演算する(ステップS205)。これにより、復元画像が画像出力部210から出力される。
【0065】
尚、この第2の実施形態における復元用のフィルタ特性と、実空間の復元用フィルタは、点広がり関数を考慮した、できるだけ小さな大きさの配列としており、第1の実施形態の場合とは異なる。第1の実施形態の場合には、画像の大きさの分だけのフーリエ変換装置を用意し、画像、復元後の点広がり関数、撮影時の点広がり関数に対してフーリエ変換を実施するため、フーリエ変換装置が大規模なものになる。これに対し、第2の実施形態の場合、フーリエ変換装置としては、点広がり関数の実空間の逆フィルタを計算するのに十分な大きさであればよく、例えば、縦横共に20画素程度を処理できれば済む。
【0066】
図11は、第2の実施形態における実空間での復元用フィルタの一例を示す図である。縦軸と横軸は夫々実空間における画素位置を示す。濃淡は各画素位置におけるフィルタの数値を表す。復元用のフィルタは中央で値が高いが、そのすぐ近傍の画素で負の値を持つ画素が存在する場合もある。このため、一種の微分フィルタとなっており、高周波成分を強調するフィルタになっていて、このフィルタで画像を畳み込むと画像の分解能が向上する。
【0067】
図12は、第2の実施形態における実空間での復元用フィルタと撮影時に用いた点広がり関数との畳み込み演算の結果を示す図である。縦軸と横軸はそれぞれ実空間における画素位置を表す。畳み込み演算の結果は、図3の撮影時の点広がり関数よりも点像の広がりが小さくなっている。このように、実空間での復元用フィルタで復元対象画像を畳み込むことで、画像のボケを減少させることができる。
【0068】
以上のように、本発明の第2の実施形態に係る画像復元装置によれば、復元用のフィルタ特性として、撮影時の点広がり関数のフーリエ変換結果で復元後の点広がり関数のフーリエ変換結果を割った値を用い、それを実空間でのフィルタに変換し、そのフィルタで畳み込み演算するため、復元画像の高周波成分による画像の乱れやざらつきを抑えることが可能となる。
【0069】
尚、本実施形態の画像復元装置では、畳み込み演算を行うフィルタ特性を画像復元装置の内部で計算する構成としたが、畳み込み演算を行うフィルタ特性を、あらかじめ外部の装置で計算しておき、その結果を画像復元装置の中に保存しておきそれを用いる構成としても良い。
【0070】
この第2の実施形態の画像復元装置で画像を復元する場合には、高周波成分を減衰させておくことが極めて重要な意味を持っている。逆フーリエ変換を施したフィルタ(逆フィルタ)を作る際に、高周波成分を完全に再現し、点広がり関数と実空間の逆フィルタのとの積が理想的な1点、デルタ関数になるように意図すると、高い次数までフィルタの特性を与えることが必要になる。
【0071】
しかし、点広がり関数と実空間逆フィルタとの積が微少な広がりを持った点になるようにすると、必要な空間周波数が限られ、高い次数でのフィルタ特性は不要になる。そのため、高周波特性を抑制して微少な広がりを許容することで、実空間での畳み込み行列の大きさが点広がり関数行列の大きさ程度に抑えられる。
【0072】
(第3の実施の形態)
図13は、本発明の第3の実施の形態に係る画像復元装置のブロック構成図である。本実施形態の画像復元装置300は、復元対象の画像を入力する画像入力部301と、復元後の点広がり関数を入力する入力部302と、撮影時の点広がり関数を入力する入力部303と、画像入力部301が取り込んだ復元対象画像に対して後述の領域拡張処理を施す領域拡張回路312と、領域拡張処理後の復元対象画像をフーリエ変換するフーリエ変換装置304と、入力部302が取り込んだ復元後の点広がり関数をフーリエ変換するフーリエ変換装置305と、入力部303が取り込んだ撮影時の点広がり関数をフーリエ変換するフーリエ変換装置306と、フーリエ変換装置305の出力をフーリエ変換装置306の出力で除算する除算回路307と、フーリエ変換装置304の出力に除算回路307の出力を乗算する乗算回路308と、乗算回路308の乗算結果に対して逆フーリエ変換を施す逆フーリエ変換装置309と、逆フーリエ変換装置309の出力に対して後述の拡張領域除去処理を施す拡張領域除去回路313と、拡張領域除去回路313の出力を復元画像として出力する画像出力部310とを備える。
【0073】
領域拡張回路312は、撮影時の点広がり関数の行数の画像領域を、復元対象画像の上端と下端の各々に追加し、撮影時の点広がり関数の列数の画像領域を復元対象画像の右端と左端の各々に追加し、復元対象画像の最外周の画素値を追加領域に代入する処理を行う。領域拡張除去回路313は、領域拡張回路312とは逆に、復元画像から上記の追加した画像範囲を削除する処理を行う。
【0074】
図14は、本発明の第3の実施の形態に係る画像復元装置の動作手順を示すフローチャートである。先ず、復元後の点広がり関数を入力部302で読み取る共に撮影時の点広がり関数を入力部303で読み取る(ステップS301)。次に、撮影時の点広がり関数と復元後の点広がり関数とを夫々フーリエ変換装置306、305でフーリエ変換し(ステップS302)、除算回路307により、フーリエ変換装置305の出力をフーリエ変換装置306の出力で除算することで復元用のフィルタ特性を算出する(ステップS303)。フーリエ変換装置305、306では、画素配列の大きさを、領域拡張回路312で拡張した後の画像の大きさと同じにしておく。
【0075】
次に、画像入力部301から復元対象画像を読み込み(ステップS304)、領域拡張回路312で復元対象画像に対し画像周辺の画像領域を拡張する(ステップS305)。例えば、図15に示す様に、撮影時の点広がり関数の行数の画像領域を、画像の上端と下端の各々に追加し、撮影時の点広がり関数の列数の画像領域を画像の右端と左端の各々に追加する。そして、追加した拡張領域の部分の値として、画像の最外周の画素値を代入しておく。
【0076】
次に、画像の最外周が領域拡張された復元対象画像をフーリエ変換装置304でフーリエ変換し(ステップS306)、フーリエ変換結果に対して乗算回路308で復元用のフィルタ特性を乗算する(ステップS307)。次に、乗算回路308の乗算結果に対して逆フーリエ変換装置309が逆フーリエ変換を行い(ステップS308)、最後に、拡張領域除去回路313が逆フーリエ変換結果から拡張領域を除去して元々の復元画像範囲を切り出し(ステップS309)、画像出力部310から復元画像として出力する。
【0077】
以上のように、本発明の第3の実施の形態に係る画像復元装置によれば、画像範囲を拡大する前処理回路(領域拡張回路312)を追加し、追加した領域を除去する後処理回路(拡張領域除去回路313)を付加したため、画像復元で周期的な境界条件を仮定することにより生じるノイズすなわち復元画像の縁部分に生じるノイズを防ぐことができる。
【0078】
(第4の実施の形態)
図16は、本発明の第4の実施の形態に係る画像復元装置のブロック構成図である。本実施形態に係る画像復元装置400は、復元対象の画像を入力する画像入力部401と、復元後の点広がり関数を入力する入力部402と、撮影時の点広がり関数を入力する入力部403と、画像入力部401が取り込んだ復元対象画像に対して第3の実施形態と同様に領域拡張処理を施す領域拡張回路412と、入力部402が取り込んだ復元後の点広がり関数をフーリエ変換するフーリエ変換装置405と、入力部403が取り込んだ撮影時の点広がり関数をフーリエ変換するフーリエ変換装置406と、フーリエ変換装置405の出力をフーリエ変換装置406の出力で除算する除算回路407と、除算回路407の出力を逆フーリエ変換する逆フーリエ変換装置409と、領域拡張回路412の出力に対して逆フーリエ変換装置409の変換結果を畳み込み演算する畳み込み回路411と、畳み込み回路411の出力結果から第3の実施形態と同様に拡張領域を除去する拡張領域除去回路413と、拡張領域除去回路413の出力を復元画像として出力する画像出力部410とを備える。
【0079】
図17は、第4の実施形態に係る画像復元装置の動作手順を示すフローチャートである。まず、復元後の点広がり関数を入力部402から取り込むと共に撮影時の点広がり関数を入力部403から取り込む(ステップS401)。次に、撮影時の点広がり関数と復元時の点広がり関数とをフーリエ変換装置406、405で夫々フーリエ変換し(ステップS402)、両フーリエ変換結果に基づいて除算回路407で復元用のフィルタ特性を算出した後に逆フーリエ変換装置409で逆フーリエ変換し、逆フーリエ変換結果の実部を、復元のための実空間の復元用フィルタとする(ステップS403)。
【0080】
次に、画像入力部401で復元対象画像を読み込み(ステップS404)、領域拡張回路412で、復元対象画像に対し画像周辺の画像領域を拡張する(ステップS405)。拡張は、第3の実施形態と同様に行う。
【0081】
次に、畳み込み回路411で、領域拡張を行った画像に対し、復元のための実空間のフィルタを用いて畳み込み演算を実施し、拡張領域を含む復元画像を得る(ステップS406)。最後に、拡張領域除去回路413で、その画像から元々の画像に対応する範囲を切り出し(ステップS407)、その結果を画像出力回路410から復元画像として出力する。
【0082】
以上のように、本発明の第4の実施の形態に係る画像復元装置によれば、画像範囲を拡大する前処理回路(領域拡張回路412)を追加し、追加した領域を除去する後処理回路(拡張領域除去回路413)を付加したため、画像復元で周期的な境界条件を仮定することにより生じるノイズを防ぐことができる。
【0083】
(第5の実施の形態)
図18は、動画を構成する各画像をリアルタイムに復元処理する本発明の第5の実施形態に係る画像復元装置500のブロック構成図である。本実施形態に係る画像復元装置500は、復元対象の画像を入力する画像入力部501と、復元後の点広がり関数を入力する入力部502と、撮影時の点広がり関数を入力する入力部503と、画像入力部501が取り込んだ復元対象画像に対して第3の実施形態と同様に領域拡張処理を施す領域拡張回路512と、入力部502が取り込んだ復元後の点広がり関数をフーリエ変換するフーリエ変換装置505と、入力部503が取り込んだ撮影時の点広がり関数をフーリエ変換するフーリエ変換装置506と、フーリエ変換装置505の出力をフーリエ変換装置506の出力で除算する除算回路507と、除算回路507の出力を逆フーリエ変換する逆フーリエ変換装置509と、領域拡張回路512の出力に対して逆フーリエ変換装置509の変換結果を後述する様にして畳み込み演算する単一のFIRフィルタで実装される畳み込み回路511と、畳み込み回路511の出力結果から第3の実施形態と同様に拡張領域を除去する拡張領域除去回路513と、拡張領域除去回路513の出力を復元画像として出力する画像出力部510とを備える。
【0084】
上記実施形態において、領域拡張回路512からの出力は、画像データを1方向にスイープした時系列データであり、それを単一のFIRフィルタで実装される畳み込み回路の入力とすることで、各画素に対する畳み込み演算を共通の電気回路で実装できる。画像データの入力サイズを増大させた場合においても、単に時系列データが長くなっただけである。単一のFIRフィルタの構成としては、実空間での復元フィルタの2次元配列を、画像データと同一方向にスイープして、各行に対応する部分FIRフィルタを作成する。それぞれの行に対応する部分FIRフィルタは、行の長さの調整分だけの遅延回路を伴って数珠繋ぎに接続する。各FIR部分フィルタの出力を加算回路で和をとって出力する。そうすると、これらのFIRフィルタの組み合わせは、行の長さの調整分だけの遅延回路を含んだFIRフィルタとみなせる。画像は全体のFIRフィルタに対し1箇所から、時系列データとしてスイープして与え、その出力は加算回路からの出力としてスイープされた画像として与えられる点で、構成が極めて単純化される。
【0085】
カメラ光学系に収差の影響がある場合には、点広がり関数は画面上の位置(画角)によって異なってくる。画角に応じた撮影時の点広がり関数は、1つの画像データに対し、画角により異なる撮影時の点広がり関数となる。このため、逆フーリエ変換装置509から出力される実空間でのフィルタ特性も、画角に応じて異なることになる。そこで、本実施形態の画像復元装置500では、撮影時の点広がり関数を入力する入力部502から、単一のFIRフィルタで実装される畳み込み回路511までは、画角に応じた複数の点広がり関数とそれに応じた実空間の復元用フィルタを利用できる構成になっている。
【0086】
図19は、第5の実施形態に係る画像復元装置の動作手順を示すフローチャートである。まず、画角に応じた撮影時の点広がり関数を入力部503から取り込む(ステップS501)。次に、復元後の点広がり関数と、画角に応じた撮影時の点広がり関数とを、夫々、フーリエ変換装置505、506でフーリエ変換する(ステップS502)。
【0087】
次に、除算回路507により、フーリエ変換装置505の出力をフーリエ変換装置506の出力で除算し、その結果を逆フーリエ変換装置509で逆フーリエ変換し、その実数部を取り出して実空間での復元用のフィルタとする(ステップS503)。上述したステップS501からステップS503まで処理において、画角に応じた点広がり関数を使うことにより、ステップS503で得られる実空間での復元用のフィルタも、画角に応じて異なるものとなる。
【0088】
次に、画像入力部501から復元対象の画像を入力する(ステップS504)。そして、領域拡張回路512で、復元対象の画像に対し、画像の周辺に画像領域を拡張する(ステップS505)。拡張は、第3の実施形態と同様に行う。
【0089】
次に、単一のFIRフィルタで実装される畳み込み回路511により、画像の時系列データを畳み込んで、時系列として畳み込み後の画像を出力する。単一のFIRフィルタで実装される畳み込み回路511は、画像復元のための実空間のフィルタを用いたものである。入力が拡張領域を含む画像データであるため、単一のFIRフィルタで実装される畳み込み回路511の出力も拡張領域を含む画像データである。元々2次元の画像データを1次元の時系列として単一のフィルタで畳み込む際に生じる不連続の影響は、画像の拡張領域にだけ現れ、本来の画像領域には現れない。このため、本構成を用いて、2次元の画像に対する実空間での畳み込みを単一のFIRフィルタで行うことができる。
【0090】
画角による点広がり関数の違いを取り入れる場合は、画角によって復元用フィルタすなわち上記FIRフィルタでの係数が異なることとなるため、画角の領域に応じて、実空間での復元用フィルタを切り替えつつ畳み込み演算を実施し、拡張領域を含む復元画像を得る(ステップS506)。
【0091】
そして、拡張領域除去回路513により、拡張領域を含む復元画像から元々の画像に対応する範囲を切り出し(ステップS507)、その結果を画像出力回路510から復元画像として出力する。
【0092】
以上のように、本発明の第5の実施の形態に係る画像復元装置によれば、画角により異なる撮影時の点広がり関数から、画角に応じた復元用の実空間のフィルタを切り替えつつ単一のFIRフィルタで画像データを畳み込む仕組みを設けたため、復元画像に生じるリンギングを低下させ、良好な復元画像の得ることが可能になると共に、復元処理を、画像全体がそろうのを待たずに開始でき、リアルタイム性が向上するという利点を持つ。
【0093】
なお、以上の説明では、画像領域の拡張と画像領域の切り出しを行う構成としたが、それらを有しない構成、つまり、領域拡張回路512と拡張領域除去回路513を有しない画像復元装置とすることも可能である。
【0094】
以上述べた第1から第5の実施形態に係る画像復元装置では、撮影時の点広がり関数を、各カメラ条件(ズーム、焦点距離、Fナンバーなどの条件)であらかじめ測定しておき、撮影時には、撮影時のカメラの条件だけを転送することで、対応する撮影時の点広がり関数を選び出し、その結果対応する実空間でのフィルタを選択することで置き換えてもよい。この場合、対応する実空間でのフィルタの計算をあらかじめ別の装置で実施しておけば、画像復元装置の中にはフーリエ変換装置、逆フーリエ変換装置、除算回路、乗算回路が不要になり、実空間でのフィルタを選択する回路と画像を畳み込む回路だけで、画像復元が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の画像復元方法およびその装置は、高周波成分を減衰させることで復元後の画像で高周波成分による画像の乱れやざらつきを抑えることができるという効果を有し、特にカメラ(デジタルスチルカメラや動画のカメラ)で取得した画像(劣化画像)から高解像度の画像を復元することができ、画像復元装置等として有用である。また、デジタルカメラや動画カメラの分野で、撮影画像の解像度を向上させる画像復元方法として有用であり、更に、ラインセンサによるスキャン画像の解像度を向上させる画像復元方法としても有効である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の第1の実施の形態における画像復元装置のブロック構成図
【図2】本発明の第1の実施の形態における画像復元装置の動作手順を示すフローチャート
【図3】本発明の第1の実施形態における撮影時に用いた点広がり関数の一例を示す図
【図4】本発明の第1の実施形態における撮影時に用いた点広がり関数の水平方向の断面の一例を示す図
【図5】本発明の第1の実施形態における撮影時に用いた点広がり関数に対応する水平方向のMTFの一例を示す図
【図6】本発明の第1の実施形態における復元時の点広がり関数の一例を示す図
【図7】本発明の第1の実施形態における復元時の点広がり関数に対応するMTFの一例を示す図
【図8】本発明の第1の実施形態における復元用のフィルタ特性の一例を示す図
【図9】本発明の第2の実施の形態における画像復元装置のブロック構成図
【図10】本発明の第2の実施の形態における画像復元装置の動作手順を示すフローチャート
【図11】本発明の第2の実施形態における実空間での復元フィルタの一例を示す図
【図12】本発明の第2の実施形態における実空間での復元フィルタと撮影時に用いた点広がり関数との畳み込み結果を示す図
【図13】本発明の第3の実施の形態における画像復元装置のブロック構成図
【図14】本発明の第3の実施の形態における画像復元装置の動作手順を示すフローチャート
【図15】本発明の第3の実施の形態における領域拡張回路による画像範囲の拡張例を示す図
【図16】本発明の第4の実施の形態における画像復元装置のブロック構成図
【図17】本発明の第4の実施の形態における画像復元装置の動作手順を示すフローチャート
【図18】本発明の第5の実施形態における画像復元装置のブロック構成図
【図19】本発明の第5の実施形態における画像復元装置の動作手順を示すフローチャート
【図20】従来の画像復元装置のブロック構成図
【図21】従来の画像復元装置の動作手順を示すフローチャート
【符号の説明】
【0097】
100、200、300、400、500 画像復元装置
101、201、301、401、501 画像入力部
102、202、302、402、502、復元後の点広がり関数の入力部
103、203、303、403、503、撮影時の点広がり関数の入力部
104、105、106、205、206、304、305、306、405、406、505、506 フーリエ変換装置
107、207、307、407、507 除算回路
108、308 乗算回路
109、209、309、409、509 逆フーリエ変換装置
110、210、310、410、510 画像出力部
211、411 畳み込み回路
312、412、512 領域拡張回路
313、413、513 拡張領域除去回路
511 単一のFIRフィルタで実装される畳み込み演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
復元後の点広がり関数のフーリエ変換を復元対象画像の撮影時の点広がり関数のフーリエ変換で除算した値を復元フィルタとし、前記復元対象画像のフーリエ変換に前記復元フィルタを周波数空間で乗算し、前記乗算した結果を逆フーリエ変換して得られた画像を復元画像とすることを特徴とする画像復元方法。
【請求項2】
復元後の点広がり関数のフーリエ変換を復元対象画像の撮影時の点広がり関数のフーリエ変換で除算し、前記除算した値を逆フーリエ変換して得られた結果の実数部を取り出して前記実数部を実空間での復元フィルタとし、前記復元対象画像を前記復元フィルタで畳み込んで得られる画像を復元画像とすることを特徴とする画像復元方法。
【請求項3】
前記撮影時の点広がり関数から計算される実空間での前記復元フィルタを単一のFIRフィルタとし、復元対象画像1方向へのスイープした時系列に対する前記FIRフィルタによる畳み込みを行うことで前記復元画像を求めると共に、画角に応じて前記点広がり関数と前記復元フィルタとを切り替えることを特徴とする請求項2に記載の画像復元方法。
【請求項4】
前記復元対象画像の上端及び下端の各々に前記撮影時の点広がり関数の行数分の画像領域を追加し、前記復元対象画像の左端及び右端の各々に前記撮影時の点広がり関数の列数分の画像領域を追加し、前記画像領域を追加した前記復元対象画像から前記復元画像を求めると共にこの復元画像から前記追加した画像領域を除去した範囲の画像を真の復元画像とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の画像復元方法。
【請求項5】
復元対象画像を入力する入力手段と、復元後の点広がり関数のフーリエ変換を復元対象画像の撮影時の点広がり関数のフーリエ変換で除算した値を復元フィルタとし前記復元フィルタを前記復元対象画像のフーリエ変換に乗算したあと逆フーリエ変換する処理手段と、前記逆フーリエ変換して得られる画像を復元画像として出力する出力手段とを備えることを特徴とする画像復元装置。
【請求項6】
復元対象画像を入力する入力手段と、復元後の点広がり関数のフーリエ変換を復元対象画像の撮影時の点広がり関数のフーリエ変換で除算した値を逆フーリエ変換して得た結果の実数部を復元フィルタとし前記復元フィルタを前記復元対象画像に畳み込み演算する処理手段と、前記畳み込み演算の結果得られた画像を復元画像として出力する出力手段とを備えることを特徴とする画像復元装置。
【請求項7】
前記撮影時の点広がり関数から計算される実空間での前記復元フィルタを単一のFIRフィルタとし、復元対象画像1方向へのスイープした時系列に対する前記FIRフィルタによる畳み込みを行うことで前記復元画像を求めると共に、画角に応じて前記点広がり関数と前記復元フィルタとを切り替える手段を備えることを特徴とする請求項6に記載の画像復元装置。
【請求項8】
前記復元対象画像の上端及び下端の各々に前記撮影時の点広がり関数の行数分の画像領域を追加すると共に前記復元対象画像の左端及び右端の各々に前記撮影時の点広がり関数の列数分の画像領域を追加する領域拡張手段と、前記画像領域を追加した前記復元対象画像を前記処理手段が処理して得られた画像から前記追加した画像領域を除去して復元画像を求め前記出力手段から出力させる拡張領域除去手段とを備えることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれかに記載の画像復元装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−238032(P2006−238032A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−49384(P2005−49384)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】