説明

画像表示装置、及び、それに用いるフレネルレンズシート並びにスクリーン

【課題】 映像光を背面投写型スクリーンに斜めに投写して拡大・投写映像を得る画像表示装置における投写映像の明るさの不均一を解消する。
【解決手段】
奥行の狭い筐体7内で、画像発生源1からの映像を、投写レンズ2、曲面反射ミラー4、5、反射ミラー6を含む投写光学系を介して背面投写型スクリーン3の背面から透写する画像表示装置において、背面投写型スクリーンはフレネルレンズシート8を含み、かつ、フレネルレンズシートを構成するフレネルレンズのプリズム面を非球面形状に形成し、もって、スクリーンからの光線の、そのほぼ全面に亘って、出射角度を略0度にする。これにより、全体として明るさの均一な透写映像を得ることができ、かつ、画像表示装置の薄型化を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像発生源の映像を、背面投写型スクリーンに斜め方向から投写する斜め投写光学系を用いた投写型の画像表示装置、及び、かかる画像表示装置に用いられるフレネルレンズシートと背面投写型スクリーンに関する。
【背景技術】
【0002】
投写型の画像表示装置の薄型化に対応するため、反射ミラーを用いて、拡大映像をスクリーンに対し斜め方向から投写する構成、所謂、斜め投写光学系を用いた構成が知られている。このとき、拡大映像がスクリーンに対して斜めに投写される(すなわちスクリーン主平面の垂線と拡大映像の中央における光の入射方向とが所定の角度を為す)ことから、スクリーン上に投写した画像が歪む。そこで、かかる歪みを補正するため、上記反射ミラーの一部に、湾曲面からなる曲面反射ミラーを採用する画像表示装置の構成が、例えば下記の特許文献1によって知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−341452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、上述した画像表示装置では、その画面サイズが同じであれば、その奥行が薄い程、重量、コスト、設置スペースなどの点で有利である。即ち、上述の従来技術では、画像表示装置の奥行を低減するため、拡大映像をスクリーンに対して斜めから投写する。その結果、当該斜めからの画像の投写により生じる台形状の画像歪みを補正するため、上述した曲面反射ミラーを光路中に設けた投写光学系を用いる構成が採用されている。
【0005】
ところで、スクリーン上では、これを観視する位置によらず、その全面において均一な明るさの画像を得ることが望ましい。このためには、投写レンズからの拡大映像光を、当該スクリーンからの出射時に、上記観視する側に対して略平行にする必要がある。これを実現するために、一般的には、オリジナル面が球面のプリズム面を持つ同心円状のフレネルレンズを備えたフレネルレンズシートが、上記スクリーンの一構成要素として用いられている。ここで、オリジナル面とは、フレネルレンズシート全体における各プリズム面を繋ぎ合わせた曲線、すなわちフレネルレンズシート全体における全プリズム面の集合の包絡線により形成された仮想的な面を指す。このオリジナル面を球面とすることにより、投写レンズの出射瞳から放射状にスクリーン各点に投写された映像光を、各プリズム面によりスクリーン垂線と平行な方向に屈折して、スクリーンの全面に亘って出射光を平行(すなわちスクリーン垂線と平行な方向)にすることが出来る。
【0006】
しかしながら、上記従来技術においては次の問題が生じ得る。すなわち、投写レンズの出射瞳からスクリーンへ向かう映像光が斜め投写光学系に含まれる曲面反射ミラーによって反射されるとき、その曲面反射ミラーの反射位置によってスクリーンへの入射光の角度が変化する。つまり、上記斜め投写光学系を用いた場合には、投写レンズの出射瞳からスクリーンに向かう映像光は、一様な放射にはならない。そのため、上述したオリジナル面が球面とされたフレネルレンズシートでは、スクリーンの全面において、投写レンズからの拡大映像光を略平行に出射することは困難である。従って、フレネルレンズシートからの出射角度は不均一となり、これを観視側から見た場合には、スクリーン上に透写された映像の明るさに、なお、不均一が生じるという課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記した従来技術における課題に鑑みて為されたものである。そしてその目的は、装置の奥行を短縮しつつ、スクリーン上に投写される画像の明るさをより均一にするために好適な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、上記フレネルレンズシートに形成されるフレネルレンズのオリジナル面を、上記スクリーンに対する光線の入射角に応じた非球面形状としたことを特徴とするものである。このとき、各プリズム面のフレネル角は、フレネルレンズシート下部よりも上部の方が大きくされる。これにより、前記フレネルレンズシートの入射面に入射された投写映像が、前記スクリーンの略全面に亘って、当該フレネルレンズシートの出射面から、出射角が略0度で出射されるようになり得る。
【0009】
上記フレネルレンズは同一の点を中心に同心円状に形成されるものであり、この中心点が前記スクリーンの(画像表示領域の)外側に位置することが好ましい。また、拡大映像をスクリーンに対して斜めに投写するための投写光学部は、スクリーンへの斜め投写による歪と収差を補正するための曲面、少なくとも一つの、屈折型自由曲面及び/または反射型自由曲面を含むことが好ましい。
【0010】
上記のように構成すれば、斜め投写により生じる台形状の画像歪みを補正するための曲面を有する投写光学系を用いた場合でも、その曲面からの反射に起因するスクリーンへの入射光線の入射角の変化に対応することが可能となる。すなわち、そのような入射角の変化が生じても、それに対応するようなフレネル角を持つフレネルレンズによって、入射光線をスクリーン垂線とほぼ平行な方向(スクリーン主平面と垂直な方向)に屈折して出射させることが可能となる。従って、本発明の構成によれば、スクリーン全体に亘って、出射光の出射方向をスクリーン垂線とほぼ平行に揃えることができ、画像表示装置の奥行寸法の低減を実現するとともに、均一な明るさの投写映像を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、装置の奥行を短縮しつつ、スクリーン上に投写される画像の明るさをより均一にして高画質な画像を表示することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る画像表示装置の構成の一例を示す断面図。
【図2】本実施形態に係る背面投写型スクリーンの斜視図。
【図3】本実施形態に係るフレネルレンズシートにおいて、フレネルレンズを構成するプリズム部の形状を設定する方法を説明する図。
【図4】本実施形態に係る背面投写型スクリーンにおける入射光線の入射角度の分布を示す図。
【図5】本実施形態に係る背面投写型スクリーンにおける出射光線の出射角度の分布を示す図。
【図6】本実施形態に係るフレネルレンズシートのプリズム面とオリジナル面との関係を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
まず、添付の図1は、本発明になる画像表示装置の断面斜視図である。図において、画像発生源1は、例えば、投写型ブラウン管を含むものであってもよい。また、反射型/透過型の液晶パネル、または微小なミラーを複数備えた表示素子等の画像変調素子を含むものであってもよい。このような画像変調素子を用いる場合、画像発生源は、その画像変調素子に光を照射するための、水銀ランプなどの光源を更に含み、画像変調素子は、当該光源からの光を入力映像信号に応じて画素毎に変調することにより映像を形成する。これにより、画像発生源1の表示画面上には小型の画像が表示される。この小型画像を背面投写型スクリーン3に拡大して投写するための投写光学系は、図にも明らかなように、前記画像を背面投写型スクリーン3に拡大・投写するための映像拡大部である投写レンズ2と、この投写レンズから出射する映像光を反射させる第1の曲面反射ミラー4と、この第1の曲面反射ミラー4で反射した映像光を反射させる第2の曲面反射ミラー5と、そして、画像表示装置の奥行を低減するために前記第2の曲面反射ミラー5で反射した映像光を反射する例えば平面状の反射ミラー6とを含む。これは投写レンズ2、第1の曲面反射ミラー4、第2の曲面反射ミラー5、及び平面状の反射ミラー6は、画像発生源1から背面投写型スクリーン3に至る光路の途中に設けられている。なお、これらの要素は、画像表示装置の筐体7の内部に収納され、所定の位置に固定されている。
【0015】
即ち、上記にその構成を説明した画像表示装置によれば、投写レンズ2から出射した映像光は、背面投写型スクリーン3に斜めに投写されている。すなわち、映像中心の光線(画像変調素子の中心位置から発せられた光線)は、投写型スクリーン3の主平面の垂線に対し、所定の角度を以って下方から投写される。この斜めに投写された映像光は、背面投写型スクリーン3上において、上述した台形歪みと共に、収差を発生する。そのため、これらを上記第1の曲面ミラー4と上記第2の曲面ミラー5によって補正する。
【0016】
添付の図2は、本発明に係る画像表示装置における背面投写型スクリーン3の詳細構造の一例が示される。すなわち、図2は、背面投写型スクリーン3の一部を切り取って拡大した斜視図を示すものである。この背面投写型スクリーン3は、図からも明らかなように、そのプリズム面のフレネル角を定めるためのオリジナル面が非球面形状にされた屈折型のフレネルレンズを有する、所謂、非球面フレネルレンズシート8(以下、単に、「フレネルレンズシート」と言う)と、レンチキュラレンズシート9とを備えている。ここで、フレネルレンズは、図示されているように、フレネルレンズシート8の光出射面において、ある点を中心点として同心円状に複数形成されているものとする。またフレネル角は、プリズム面とフレネルレンズシート主平面との為す角度を指す。かかる構成の背面投写型スクリーン3によれば、図の矢印aの方向から投写される拡大投写映像(図示せず)の光は、上記フレネルレンズシート8の働き、即ち、シートを構成するフレネルレンズの非球面プリズムの働きによって、背面投写型スクリーン3の主平面の垂線と略平行な光に変換される。もしくは、上記拡大投写映像の光は、若干内側、すなわち背面投写型スクリーン3の中心を向く光に変換される。つまり、フレネルレンズシート8から出射された光の出射角、即ち上記背面投写型スクリーン3の垂線に対する角度は、略0度となる。その後、フレネルレンズシート8から出射された光は、レンチキュラレンズシート9に入射される。なお、レンチキュラレンズシート9は、図示のように、スクリーン画面の垂直方向を長手方向とするレンチキュラレンズを、スクリーン画面水平方向に複数配列した形状になっている。そのため、フレネルレンズシート8から出射された光をスクリーン画面水平方向に拡散する働きをする。また、上記レンチキュラレンズシート9の出射面の、レンチキュラレンズの境界に対向する位置には、画面垂直方向に延びるブラックストライプ10が形成されている。これにより、スクリーン出射側から入射される外光を吸収する。更に、このレンチキュラレンズシート9には、拡散材11が練り込まれた透明な樹脂材から形成されている。そのため、この混入された拡散材11が前記映像光をスクリーン画面水平及び垂直方向に拡散する働きをする。
【0017】
尚、図示していないが、レンチキュラレンズシート9の光出射側に平面状の前面シートを配置してもよい。またこの前面シートとレンチキュラシート9とを、接着剤などを用いて互いに結合して一体化してもよい。更に、レンチキュラシート9に拡散材11を混入させずに、前面シートに混入させてもよい。更にまた、前面シート9の光出射に反射防止膜やハードコートを形成してもよい。また、図2では、レンチキュラレンズシート9の出射面のレンチキュラレンズと対向する位置、すなわちレンチキュラレンズの焦点部には、第2のレンチキュラレンズが形成されているが、画像発生源1として上記画像変調素子を用いる場合は、上記焦点部を平面状としてもよい。レンチキュラレンズシート9と前面シートとを結合する場合、両者の結合面に空気が含まれないように結合することが好ましい。 次に、上記したフレネルレンズシート8に形成されるフレネルレンズにおいて、同心円状に形成された複数のプリズム面の面形状(所謂、フレネルレンズのオリジナル面)を設定する方法について、添付の図3の模式図を参照して詳細に説明する。なお、上述したように、このフレネルレンズシート8を構成するフレネルレンズのプリズム面は、ある一点(回転軸)を中心とする同心円状に形成されている。そして、各フレネルレンズのプリズム面のフレネル角、すなわち当該プリズム面とフレネルレンズシート8の主平面との為す角度を定めるためのオリジナル面は、非球面形状である。ここでオリジナル面とは、上述したように、各プリズム面のフレネル角を定めるためのものであり、フレネルレンズシート8全体を一つのレンズとしたときの、このレンズ面を指す。すなわち、フレネルレンズのプリズム面のフレネル角を設定する場合には、まずフレネルレンズシート8全体がある一つのレンズ特性をもつものと想定し、そのレンズの面形状をオリジナル面として設定する。そして、そのオリジナル面のフレネルレンズシート8各点に対応する形状(例えば当該各点におけるオリジナル面の接線)をフレネルレンズシート8の面上に展開する。これにより、このフレネルレンズシート8各点におけるプリズム面のフレネル角が設定される。従って、フレネルレンズシート全体における各プリズム面を、そのフレネル角に応じて繋ぎ合わせた曲線、すなわちフレネルレンズシート全体における全プリズム面の集合を含むの包絡線が、上記オリジナル面を表している。従って、角フレネルレンズシート各点のプリズム面における光の屈折方向は、その各プリズムに対応する上記オリジナル面の形状によって定まる。なお、上記回転軸は、フレネルレンズシート8の主平面(図のxy面)と直交するものとする(図のz軸を含む面)。また、この回転軸は、フレネルレンズシート8に入射する光線13と、フレネルレンズシート8を左右に等しく垂直に分割する面14(yz面に平行な面)とが交わる点15とを含む。すなわち、回転軸はフレネルレンズシート8の主平面に垂直な軸、即ち、図3の軸12となる。
【0018】
但し、上記において、入射する光線13はスクリーン上の位置によってその入射角度(入射面の垂線に対する角度)が変化することから、ここでは、上記によって求められる軸12も複数個が存在することとなる。なお、これら複数の軸の中から、そのほぼ中央にある軸をフレネルレンズの回転軸(即ち、フレネルレンズを構成する同心円状プリズムの中心位置)とする。
【0019】
続いて、上記各プリズム面のフレネル角の形状(角度)を次のように求める。まず、スクリーンへの入射光線をフレネルフレネルレンズシート8のプリズム面で屈折させながら、上記垂線方向に出射させるための(出射角が0度)プリズムの角度を、フレネルレンズシート8各点のそれぞれについてスメルの法則により求める。次に、当該求めたプリズム面を連続させて、上記フレネルレンズのオリジナル面(非球面)を形成する。なお、この求められたオリジナル面は、非球面式により近似される。このとき、更に、近似した非球面係数と実際の光線出射角との比較を行い、出射角が略0度になるように、回転軸の位置や非球面係数に、適宜、必要な修正及び/又は変更を加える。
【0020】
このように、上記求められる要素、つまりフレネルレンズを構成する同心円状のプリズム部の回転中心となる回転軸の位置や、その各プリズム面の集合で形成されるオリジナル面の非球面係数によって、上記フレネルレンズシート8が構成される。このようにしてフレネルレンズシート8を構成すれば、画像表示装置の投写光学系において映像光の光路の途中に設けられた曲面反射ミラー(第1の曲面反射ミラー4や第2の曲面反射ミラー5)を介してスクリーンに入射する映像光を、スクリーンから出射角を略0度にして出射させることが可能となる。よって、本実施形態に係るフレネルレンズシートによれば、映像の明るさをスクリーンの全面において、ほぼ均一にすることができる。
【0021】
次に、上記に説明したフレネルレンズシート8を、スクリーン対角50インチ(縦:横比=9:16)の画像表示装置に適用した場合における各光学部品の数値の一例を示す。なお、以下の表1は、投写レンズ2以降の光学部品配置を(x、y、z、角度、距離)で表したものである。ここで、投写レンズの角度はレンズ出射角度を、一方、曲面反射ミラー、反射ミラー、スクリーンの角度は入射角度を表している。
【0022】
ここで、スクリーンの中心位置を座標の原点とする((x、y、z)=(0,0,0))。なお、この座標では、スクリーンの左右方向(水平方向)をx軸とし、右方向を+(正)とする。また、スクリーンの上下方向(垂直方向)をy軸とし、その上方を+(正)とする。更に、その奥行方向をz軸とし、画像表示装置の後ろに向かう方向を−(負)とする。また、角度は、xz断面のx軸との成す角度とする。そして距離は、映像発生源1に含まれる画像変調素子の中心点からスクリーンの中心に至る光線の、各光学部品間における光路長とする。尚、x、y、z及び距離の単位は〔mm〕である。
【0023】
【表1】

【0024】
下記の数1は、自由曲面を表す多項式であり、上記第1の曲面反射ミラー3と上記第2の曲面反射ミラー4の反射面形状がこの数1に従って求められる。本実施形態に係る第1の曲面反射ミラー3の自由曲面形状を表す多項式の各係数の一例を下記表2に、第2の曲面反射ミラー4の自由曲面形状を表す多項式の各係数の一例を下記表4に示す。
【0025】
【数1】

【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
ここで、上記の数1における座標系は、横方向をu座標とし、縦方向をv座標、そして、面に垂直で、かつ、z軸と同一の方向をw座標としてものである。また、上記の数1式において、cは、以下の数2に示す式を用いて得られるu・vの係数であり、jは2以上の整数である。
【0029】
【数2】

【0030】
このように、本実施形態に係る第1の曲面反射ミラー3と第2の曲面反射ミラー4の各反射面は、自由曲面形状を為す。この自由曲面形状は、本実施形態においては、y軸を中心に左右対称としているが、x軸を中心に非対称となっている。すなわち、本実施形態に係る第1の曲面反射ミラー3と第2の曲面反射ミラー4の各反射面は、回転非対称な自由曲面形状を為している。そして、少なくともそのいずれか一方は、その反射方向に対し凸を向くように湾曲されており、透過型スクリーン3の下端に入射する光線を反射する部分の曲率を、前記スクリーンの上端に入射する光線を反射する部分の曲率よりも大きくしている。また、上記いずれか一方スクリーンの下端に入射する光線を反射する部分がその反射方向に対し凸の形状を為し、前記スクリーンの上端に入射する光線を反射する部分がその反射方向に凹の形状を為すものであってもよい。
【0031】
また、下記の数3は、非球面を表す多項式であり、フレネルレンズシート8のオリジナル面の形状がこの数3に従って求められる。本実施形態に係るフレネルレンズシート8のオリジナル面の形状を表す多項式の各係数の一例を下記表4に示す。
【0032】
【数3】

【0033】
【表4】

【0034】
ここで、上記の数式3に於いて、zはz軸に平行な面のサグ量、rは回転軸からの距離、cは頂点曲率、kはコーニック定数、d(n=2、4、6、8、10、12…:2の倍数)はn次の非球面係数を示す。
【0035】
そして、本実施形態に係るフレネルレンズシート8は、スクリーンへの映像光の入射角の分布から、フレネルレンズの中心軸(図2の符号12を参照)は、スクリーン中心から下方へ545mmだけ離れた位置に設定されている。即ち、本実施形態によれば、上記フレネルレンズシート8は、シートの面上には当該中心軸を持たず、むしろ、このフレネルレンズの中心軸は、上記フレネルレンズシート8の面から外れた場所に位置する。言い換えれば、本実施形態においては、プリズム面を形成する同心円の中心点が、前記画像表示装置の画像を表示する領域の外側となっている。そして、フレネルレンズを構成する各プリズムは、このスクリーン外側に位置する中心軸を中心とした同心円状の円弧に沿って形成されることとなる。
【0036】
ここで、上記表4の非球面係数によって得られたフレネルレンズシート8のオリジナル面21と、フレネルレンズの各プリズム面22との関係を図6に示す。図6は、フレネルレンズシート8の、該フレネルレンズシート8の垂線と平行であって、かつ上記回転軸を含む断面を示している。図6において、rは上記数3のrに対応するもので、回転軸からの距離を表す。距離rにおけるフレネルレンズのプリズム面22のフレネル角θ(フレネルレンズシート8の主平面とプリズム面の為す角度)は、当該距離rにおけるオリジナル面21の傾き(接線)とほぼ等しい。すなわち、上記数3で表されるオリジナル面の非球面式をZ(=f(r))、nを1以上の整数としたとき、フレネルレンズシート8の各位置のフレネル角θは、数4で表される。
(数4) θ=f(r
よって、θ=f(r)´、θ=f(r)´θ=f(r)´…となる。このように、フレネルレンズシート8の各位置のフレネル角θは、非球面式の各位置(各距離r)における微分値にほぼ対応している。このようにして、フレネルレンズシート8の各位置のフレネル角θが設定される。上述したように、フレネルレンズシート8に入射された光線は、フレネルレンズの各プリズム面22によって屈折される。上述したように、フレネルレンズシート8のオリジナル面21を、フレネルレンズシート8各位置への入射光線の入射角に応じた非球面形状にすれば、各プリズム面22によって屈折されたそれぞれの光線は、フレネルレンズシート8の垂線とほぼ平行になる。本実施例では、フレネルレンズシート上部に位置する(すなわち回転軸から最も遠い位置の)プリズム面22のフレネル角θは、フレネルレンズシート下部に位置する(すなわち回転軸に最も近い位置の)プリズム面22のフレネル角θよりも大きくしている。これは、本実施形態における斜め投写光学系では、スクリーン下部よりもスクリーン上部の方が光線の入射角が大きいためである。また本実施形態では、上記のように回転軸がフレネルレンズシート8の外側に位置しているため、各プリズム面22は同じ方向に傾斜している。
【0037】
以上のように構成された拡大投写光学系において実際に観測された、上記フレネルレンズの中心軸からの距離(横軸)に対する、光線(透写光)のスクリーンへの入射角(縦軸)の分布状態が、添付の図4のグラフに示されている。
【0038】
また、添付の図5には、上記フレネルレンズ中心軸からの距離(横軸)に対する、スクリーンから出射する光線(透写光)の出射角度(光線とスクリーン垂線との角度)の分布状態がグラフにより示されている。なお、この図では、比較のため、オリジナル面を球面状としたフレネルレンズを持つフレネルレンズシート8を用いた場合における光線の出射角度が、破線により示されている。
【0039】
即ち、上記の図に示すグラフからも明らかなように、オリジナル面が球面形状のフレネルレンズでは、フレネルレンズ中心軸からの距離(横軸)に応じて、最大で約5度の入射角の差が生じている。このため、オリジナル面が球面形状のフレネルレンズシートでは、スクリーン上での輝度が不均一になる。これに対して、本実施形態に係るフレネルレンズシート8によれば、そのオリジナル面が非球面形状とされているため、フレネルレンズ中心軸からの距離(横軸)に拘わらず、その光線の出射角度を約0.8度以内に抑制できる。換言すれば、スクリーン全面において、スクリーンから出射される光線の出射角を、スクリーンの垂線とほぼ平行にできるため、スクリーン全体に亘って、表示映像の明るさを均一にすることが可能となる。
【0040】
また、上記構成の拡大投写光学系を採用した、スクリーン対角50インチ(縦:横比=9:16)の画像表示装置では、その装置の厚さは、約300mmである。すなわち本実施形態によれば、装置の更なる薄型化が可能になることが分かる。なお、上述の実施例における投写レンズは、1300mmの投写距離を有し、対角50インチ(縦:横比は9:16)のスクリーン上に映像を拡大投写できる機能を有するものである。しかしながら、本発明は、特に上述した構成要素の寸法やその特性を示す数値について、上記した実施例に示されたものに限られるものでない。例えば、斜め投写角度や投写距離などの仕様に合わせて、上記寸法や特性を、上記曲面反射ミラーと共に、適宜、光学設計により得ることができることは、当業者であれば当然であろう。
【0041】
また、上述の実施例においては、投写レンズの光軸がyz平面内にあり、かつ、当該平面内で2個の曲面反射ミラーと1個の平面反射ミラーにより映像光の光軸を反射させるように配置した。しかしながら、これらの数量や位置なども、上述した実施例に限られるものではない。
【0042】
例えば、投写レンズの光軸方向をx軸方向として、反射ミラーもしくは曲面反射ミラーで光軸をz軸方向に折り曲げ、yz平面において曲面反射ミラーと平面反射ミラーにより光を反射させるように配置しても良い。なお、このように配置すれば、投写レンズと映像源とを、筐体内のスクリーン下側にコンパクトに収納することが可能となる。よって、画像表示装置の高さを抑えることができるという効果を奏する。
【0043】
また、本実施形態に用いる投写光学系は、台形歪みとともに収差を補正するための曲面を、少なくとも一つ備えていればよく、本実施例のように、2面の曲面反射ミラーを用いるものに限られない。例えば、その曲面は、1面以上の反射型自由曲面でも可能である。また、反射型ではなく、少なくとも1面以上の屈折型の自由曲面、すなわち自由曲面を備えた回転非対称のレンズであってもよい。更に、反射型自由曲面(自由曲面反射ミラー)と屈折型自由曲面(自由曲面レンズ)の両方を組み合わせてもよいことは、いうまでもない。ここで、自由曲面レンズは、その光の射出方向に凹を向けるように湾曲されており、かつスクリーンの下端に入射する光線が通過する部分の曲率が、前記スクリーンの上端に入射する光線が通過する部分の曲率よりも大きい形状を為すものとしてもよい。
【0044】
なお、上記に詳述した実施例においては、上記フレネルレンズシート8を構成するレンズの非球面を計算するために、そのプリズム面を求めるものとして説明した。しかしながら、その時、例えば、斜め投写距離や投写距離などによっては、その最適化が難しい場合がある。以下には、かかる場合にも、好適なプリズム面を求めることが出来る方法について説明する。
【0045】
一般的に、画像表示装置は水平方向の視野角が垂直より広い。そのため、水平方向はレンチキュラレンズの働きにより、水平方向での拡散性を良好にしている。これに対し、垂直方向では、主に、レンチキュラレンズの拡散材(図2の符号9、11を参照)により視野角を広げている。そこで、フレネルレンズのプリズム面の形状を求めるとき、次のようにする。すなわち、前述のようにスクリーンから出射される光線がスクリーンの垂線と平行になるようにして最適化を図るのではなく、これに代えて、スクリーンからの出射光線を水平と垂直の成分に分け、垂直成分の出射角度を約0度にするための角度をスメルの法則で計算する。これにより、各スクリーン位置のプリズム面を求めるようにする。
【0046】
このようにして求めた該プリズム面を連続させて得られるオリジナル面によっても、上記と同様に、拡散性能が低い垂直成分をほぼ0度の出射角度で出射できる。このため、従来の拡散材によっても、十分に拡散することができる。一方、水平成分については、その拡散性能が良好であることから、その出射角度が大きくてもレンチキュラレンズにより十分に拡散できる。その結果、スクリーン上で得られる投写映像の明るさにおいて、均一性を得ることができる。なお、この場合、上記フレネルレンズシート8を構成するフレネルレンズのプリズム面は、曲面形状であればよく、必ずしも、非球面形状に限らなれない。しかしながら、上述したように、オリジナル面が非球面形状とされたプリズム面を持つフレネルレンズシート8によれば、スクリーン全体において、より明るさが均一な透写映像を得ることが可能となる。尚、プリズム面のそれぞれは、上記回転軸を通るフレネルレンズシート8の断面において平面を為すものであってもよく、また曲面でもよい。この曲面は、非球面でもよい。
【0047】
上述の実施例は、オリジナル面が非球面形状とされたフレネルレンズのプリズム面が上記回転軸を中心に同心円状に形成されていて、該回転軸が、前記画像表示装置の画像表示領域の外側にある。しかしながら、この回転軸は、画像表示装置の画像表示領域の内側あってもよく、上述した実施例に限られるものではない。ただし、該プリズム面を形成する同心円の中心点は、画像表示装置の画像表示領域とした方が、スクリーン出射面の出射角を略0度で出射させるのために必要な屈折の程度を調整することが容易となる。その理由を以下に説明する。尚、以下においては、上記屈折の程度の調整を「屈折調整」と呼ぶこととする。
【0048】
まず、上記回転軸がフレネルレンズシートの内部に位置する場合について考える。この回転軸を含む水平ラインにおけるプリズム面は、水平方向、すなわち左右方向にしか光を屈折せず、上下方向、すなわち垂直方向には光を屈折できない。従って、この回転軸を含む水平ラインに上下方向の成分を含む光線が入射された場合は、この水平ライン上のプリズム面において、当該上下方向の成分を含む入射光を良好に平行光(スクリーン主平面の垂線と平行な光)にすることができない。
【0049】
本実施形態では、上述したように、スクリーンの下方から斜めに映像を投写する投写光学系を用いており、更に斜め投写光学系は、スクリーン上での台形歪みや収差を補正するための曲面を備えている。このような光学系を用いた場合においては、スクリーンへ入射光線の全てが上下方向の成分を持つ場合が多い。従って、フレネルレンズシート8は、上下方向に光を屈折しないプリズム面が無いようにして、フレネルレンズシート8の各位置において水平方向及び垂直方向の両方の屈折調整を行えるようにすることが好ましい。
【0050】
このために、本実施形態では、上記フレネルレンズの回転軸をフレネルレンズシート8の外側に位置するように構成する。これによれば、フレネルレンズシート8のプリズム面は、全て上下方向に光を屈折させる作用を持たせることが可能になる。よって、フレネルレンズシート8の各位置における左右方向及び上下方向の両方の屈折調整が容易になる。すなわち、回転軸をフレネルレンズシート8の外側に位置させれば、スクリーンへの入射光線を良好に平行光とすることが可能となる。
【0051】
以上に説明したように、本実施形態は、奥行を短縮するために斜め投写光学系を用い、かつ斜め投写により生じる台形状の画像歪みを補正するための曲面反射ミラーを有する構成の画像表示装置に適用される。そして、そのような画像表示装置において、様々な入射角を持つ入射光をスクリーンから略垂直に出射させるために、本実施形態では、フレネルレンズシートに形成されるフレネルレンズのオリジナル面を非球面形状としたものである。その結果、スクリーンから出射する光の出射角度を、上記スクリーンの略全面に亘って、ほぼスクリーン垂線と平行にすることが出来ることから、均一な明るさの画像を得ることが可能となり、かつ、画像表示装置の薄型化を同時に達成することが出来る。
【符号の説明】
【0052】
1…画像発生源、2…投写レンズ、3…背面投写型スクリーン、4…第1の曲面反射ミラー,5…第2の曲面反射ミラー、6…反射ミラー、7…筐体、8…フレネルレンズシート、9…レンチキュラレンズシート、10…ブラックストライプ、11…拡散材、12…回転軸、13…スクリーンに入射する光線、14…スクリーンを左右均等に垂直分割する面、15…スクリーン入射する光線がスクリーンを左右均等に垂直分割する面と交差する点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像表示装置において、
画像発生源と、
前記画像発生源からの映像を拡大する映像拡大部と、
拡大映像がその背面から投写されるスクリーンと、
回転非対称な自由曲面形状を有し、前記映像拡大部からの前記画像発生源の拡大映像を前記スクリーンに対して斜めに投写する投写光学部と、を備え、
前記スクリーンは、少なくとも、プリズム面が同一の点を中心とした同心円状に形成されたフレネルレンズが形成されたフレネルレンズシートを含み、
前記フレネルレンズの中心点が前記スクリーンの画像表示領域の外側にあるとともに、該フレネルレンズの各プリズム面の集合により形成されるフレネルレンズのオリジナル面が、非球面形状を為すことを特徴とする画像表示装置。
【請求項2】
請求項1記載の画像表示装置において、
前記プリズム面を含むフレネルレンズによって、前記フレネルレンズシートの入射面に入射された投写映像が、前記スクリーンの略全面に亘って、当該フレネルレンズシートの出射面から、出射角が略0度で出射されることを特徴とする画像表示装置。
【請求項3】
請求項1記載の画像表示装置において、
前記投写光学部は、前記スクリーンへの斜め投写による歪と収差を補正するための曲面を含むことを特徴とする画像表示装置。
【請求項4】
請求項1記載の画像標示装置において、
前記投写光学部は、少なくとも一つの、屈折型自由曲面及び/または反射型自由曲面を含むことを特徴とする画像表示装置。
【請求項5】
回転非対称な自由曲面形状を有する反射ミラーあるいは自由曲面を有する回転非対称な屈折レンズにより台形歪みを補正して斜め投写をおこなう投写光学部を備えた投写型画像表示装置に用いられるスクリーンにおいて、
プリズム面が同一の点を中心とした同心円状に形成されたフレネルレンズが形成されたフレネルレンズシートを少なくとも含み、
前記フレネルレンズの中心点が前記スクリーンの画像表示領域の外側に位置し、
該フレネルレンズの入射面に、該フレネルレンズの垂線に対し斜め方向から投写映像が入射され、
該フレネルレンズの各プリズム面の集合により形成されるフレネルレンズのオリジナル面が、非球面形状を為すことを特徴とするスクリーン。
【請求項6】
請求項5記載のスクリーンにおいて、
前記プリズム面を含むフレネルレンズによって、前記フレネルレンズシートの入射面に入射された投写映像が、前記スクリーンの略全面に亘って、当該フレネルレンズシートの出射面から、出射角が略0度で出射されることを特徴とするスクリーン。
【請求項7】
請求項5記載のスクリーンにおいて、
前記フレネルレンズシートの光出射側に、レンチキュラーレンズが形成されたレンチキュラレンズシートを配置したことを特徴とするスクリーン。
【請求項8】
請求項5に記載のスクリーンにおいて、
前記レンチキュラレンズシートは、その内部に拡散材が混入され、かつその出射面に光吸収体が設けられることを特徴とするスクリーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−175293(P2011−175293A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114310(P2011−114310)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【分割の表示】特願2005−123079(P2005−123079)の分割
【原出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】