説明

画像表示装置

【課題】 環境によらずコントラスト変動の影響を抑制することが可能となる画像表示装置を提供する。
【解決手段】 前面板上に光散乱性の発光部を有する画像表示装置であって
該前面板と平行な面内で、且つ該発光部の周囲領域に、発光部よりも散乱強度の低い低散乱領域を有し
該低散乱領域と該前面板の間に屈折率分布構造を配置する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周囲の環境によらず、高いコントラストを有する画像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、様々な構成の画像表示装置が提案されている。その一例を、図8に示す。図8は、一つの画素802を示しており、このような画素構造を複数個配列することで、画像表示装置800が形成されている。図8に示す画像表示装置800は、前面板801の内面に発光層804を有し、発光層804に電子を照射することで光を生じ、この光が前面板801を透過し、外部に抽出されることで、表示光808となる。
【0003】
画像表示装置には、コントラストが高いことが求められており、前面板の内面に光吸収層であるブラックマトリクス807が設けられている。しかし明所下において画像表示装置のコントラストを向上させるためには更なる改善が必要であり、より一層表示輝度を向上させ、且つ外部から画像表示装置に入射する光(外光)の反射率を低下させることが必要である。
【0004】
画像表示装置800において、表示光の輝度を高くするためには、発光層804で発生した光が外部に抽出される間の損失を低減することが重要である。
【0005】
また、外光の反射率を低下させるためには、外部から入射した光の、外部領域と前面板801の界面、あるいは前面板801と発光層804の界面における正反射率を低くすることが求められる。さらに、外部から入射した光が、外部領域と前面板801の界面、前面板801と発光層804の界面、あるいは発光層804内において散乱されることで、前面板801を介して外部領域側に反射される拡散反射を低くすることが求められる。
【0006】
正反射率を低くする手法として、屈折率が異なる層と層の間に粗面を設ける手法が知られている。例えば、特許文献1では、前面板上に蛍光体を配置し、前面板の裏面(蛍光体側)に粗面を設けた構成の画像表示装置が記載されている。粗面を配置することにより前面板裏面における正反射率を低下させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許6844667号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来提案されている特許文献1の手法では、発光層からの拡散反射を低くすることができず、明所下におけるコントラストが低いという問題がある。
【0009】
詳述すると、このような画像表示装置に外光が入射すると、粗面にて発生する散乱光の一部が外部領域側に反射され、拡散反射光となる。また、前面板を通過した光は、発光層内部にて散乱され、外部領域側に反射することで拡散反射光となる。
【0010】
そして、発光層が厚くなるにつれ、発光層内部にて散乱された光による拡散反射光は増大する。このような画像表示装置を明所下にて使用すると、拡散反射光強度が強いために、画像表示装置の鑑賞を妨害する黒浮きとなり、コントラストが低下する。
【0011】
尚、ブラックマトリクスの開口部面積をより狭くすることで、1画素あたりの拡散反射光強度を低くすることも可能である。しかしながら、発光層にて発生した光が、ブラックマトリクスにて多く吸収されるようになり、表示輝度が低下する。このような画像表示装置では、表示輝度が低いために、高いコントラストを得ることができない。
【0012】
このように、従来の画像表示装置は、低い拡散反射光と高い表示輝度を両立することができず、使用環境により画像表示装置の表示品質が著しく低下する。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑み、コントラストが高い画像表示装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する本願発明は、基板と、前記基板上に位置する発光部材と、前記基板の前記発光部材を有する面と平行な方向において該発光部材を囲んで位置する、該発光部材よりも散乱強度の低い低散乱部材と、前記低散乱部材と前記基板との間に位置し、前記基板の前記発光部材を有する面と平行な方向において屈折率分布を有する屈折率分布構造とを有する画像表示装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低い拡散反射光強度と高い表示輝度を両立することで、環境によらず高いコントラストを有する画像表示装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の画像表示装置の一例のxz断面及びxy断面の要部概略図
【図2】本発明の画像表示装置に含まれる微細構造のxz断面及びxy断面の要部概略図
【図3】本発明の画像表示装置に含まれる微細構造での外光反射の説明図
【図4】本発明の画像表示装置に含まれる発光層での外光反射の説明図
【図5】発光層で発生した光の説明図
【図6】本発明の画像表示装置の他の例のxz断面及びxy断面の要部概略図
【図7】本発明の画像表示装置の作製手法要部概略図
【図8】従来の画像表示装置の要部概略図
【発明を実施するための形態】
【0017】
(装置構成)
本発明の実施形態の画像表示装置100の要部概略図を図1に示す。図1(a)は画像表示装置100のxz断面図であり、図1(b)はxy断面図である。
【0018】
画像表示装置100は、基板である前面板101と、この基板上に位置する発光部材である発光層104と、発光層104よりも散乱強度の低い低散乱部材106と、低散乱部材106と前面板101との間に位置する屈折率分布構造である微細構造105とを有する。尚、屈折率分布構造である微細構造105は、前面板101の発光層104が位置している面に平行な方向において屈折率分布を有している。そして本実施の形態においては、好ましい形態として光吸収層であるブラックマトリクス107を更に有し、発光層104、低散乱部材106、微細構造105、そしてブラックマトリクス107とで画素102を構成している。図1には1つの画素102を示しており、このような画素を複数個配列することで画像表示装置100が形成されている。また各画素102は、ブラックマトリクス107で区切られている。前面板101は、可視光に対して透明な媒質で形成されており、例えばガラスを用いることができる。
【0019】
発光層104は、例えば蛍光体を含む膜で形成され、波長350〜800nmのいずれかの波長を含む光を発生する。
低散乱部材106は、基板である前面板101の発光部材104が設けられた面と平行な方向であるxy面内において発光層104を囲むように配置され、発光層104よりも光散乱性の低い媒質で形成されている。低散乱媒質として、例えば樹脂などを用いることができる。尚、以下において低散乱部材106は低散乱領域という場合もある。
【0020】
屈折率分布構造である微細構造105は、異なる屈折率を有する2種類以上の媒質から形成され、前面板101の発光層104を有する面と平行な方向であるxy面内にて屈折率分布を有している。
【0021】
屈折率分布構造である微細構造105の一例を図2に示す。図2(a)、(b)は、微細構造105のxy断面図およびxz断面図である。微細構造105は、第一の媒質からなる部材中に、第一の媒質とは屈折率の異なる第二の媒質で形成された部材が、離散的に配列されている。図2に示す構成では、第一の媒質からなる層202の中に、直径211、高さ212の第二の媒質からなる円柱構造201が、前面板101の発光層104を有する面と平行な方向であるxy面内において、配列周期(格子周期)210を有する三角格子状に配列されている。尚、以下においては、第二の媒質からなる部材(本実施形態では円柱構造)201の配列周期210を、単に微細構造105の格子周期という場合がある。そして、格子周期210の長さは、微細構造105に入射した光を複数の回折光に分配できる長さに設定されている。
【0022】
このような表示装置100において、発光層104に電子90を照射させることで光を発生し、その一部が表示光108として外部に抽出され、画像を表示する。発光層104を照射する電子90は、例えば前面板101に対向配置された電子放出素子と、微細構造105と発光層104との間に設けた透明電極とによって得ることが出来る。具体的には、電子放出素子に電界をかけることで放出した電子を、透明電極に高電圧を印加することで発光層104に向けて加速させることで、発光層104に電子90を照射させることが出来る。このような構成では、発光層104の裏面側(前面板101と反対側の面側)は真空で形成される。
【0023】
また、画像表示装置100に外部から外光109が入射すると、外光109は発光層104にて散乱(又は微細構造105により回折)され、複数の散乱光(又は回折光)に分配される。ここで、散乱光(又は回折光)のうち、+z方向に進む光を外光反射光110と呼ぶ。
【0024】
本発明の実施形態の画像表示装置においては、低拡散部材106と屈折率分布構造である微細構造105とを有することによって、外光109の反射を低減し、また屈折率分布構造である微細構造105を有することによって、表示輝度を高めることが可能となる。以下これについて、その理由を説明する。まず、外光109の反射を低減することについて説明する。
【0025】
図3(a)を用い、画像表示装置100の外部より、外光109が入射したときに、微細構造105で発生する反射回折光の伝搬の様子について説明する。図3(a)に示される画像表示装置100は、図1と同様の構成を備えており、微細構造105が形成される領域のxz断面図を部分拡大して示している。
【0026】
図3(a)に示すように、反射回折光のうち、前面板101と外部領域との界面における臨界角よりも大きな角度で伝搬する光は、界面で全反射される。全反射された光は、外部に放出されずに、前面板101内を伝搬し、図3(a)には示していないが、周囲に設けられたブラックマトリクスで吸収され、減衰する。この光を減衰光113と呼ぶ。一方、臨界角よりも小さい角度で伝搬する回折光は、外部に放出され、外光反射光110となる。外光反射光110のうち、外光109の入射角度と同じ反射角度を有する外光反射光を正反射光112と呼び、それ以外の外光反射光を拡散反射光111と呼ぶ。
【0027】
また、図3(b)を用い、画像表示装置100の外部より、外光109が入射したときに微細構造105にて発生する透過回折光の伝播の様子について説明する。図3(a)と同様に、図3(b)に示される画像表示装置100は、図1と同様の構成を備えており、微細構造105が形成される領域のxz断面図を部分拡大して示している。
【0028】
図3(b)では、透過回折光114のうち、低散乱領域106と真空の界面において反射した光115は、再度微細構造105に入射し、透過回折光116が発生する。透過回折光116のうち、前面板101と外部領域との界面における臨界角よりも大きな角度で伝搬する光は、界面で全反射される。全反射された光は、外部に放出されずに、前面板101内を伝搬し、図3(b)には示していないが、周囲に設けられたブラックマトリクスで吸収され、減衰する。この光を減衰光113と呼ぶ。一方、臨界角よりも小さい角度で伝搬する回折光は、外部に放出され、外光反射光110となる。透過回折光114のうち、回折角度の大きい光117は、低散乱領域106と真空の界面において反射され、図3(b)には示していない周囲に設けられたブラックマトリクスで吸収されることで減衰光113となる。
【0029】
微細構造105からの反射光の反射率は、微細構造105を形成する第一の媒質の−z側の界面及び+z側の界面のフレネル反射率と第一の媒質の体積率との積と、第二の媒質の−z側の界面及び+z側の界面のフレネル反射率と第二の媒質の体積率との積との和で表される。本願においては、この和を平均反射率と呼ぶ。全回折次数の反射率総和は、平均反射率と等しくなる。微細構造105が屈折率分布を有するため、具体的には後述のように柱状構造201の配列周期を整えることで、反射回折光111,112の強度は透過回折光114の強度に比べて低くなるため、平均反射率が低くなる。すなわち、微細構造105にて発生する回折光の多くが透過回折光114となる。さらに、低散乱領域106と真空の界面の反射率は低く、透過回折光114の大部分は真空側へ透過するため、すなわち透過光118が多く、反射光115は少ないため、透過回折光116の強度は低い。また、低散乱領域106と真空の界面にて反射された光115の一部は減衰光113となる。以上から、微細構造105及び低散乱領域106が形成された領域では、低い拡散反射率を得ることができる。
【0030】
次に発光層104における外光反射と、表示輝度の向上との関係について説明する。
まず図4を用いて、画像表示装置100の外部より、外光109が入射したときに発光層104にて発生する拡散反射光の伝播の様子について説明する。図4に示される画像表示装置100は、図1と同様の構成を備えており、発光層104が形成される領域のxz断面図を部分拡大して示している。
【0031】
図4に示すように、外光109が発光層104に入射すると、その一部は発光層104の表面にて散乱され、表面散乱光151となる。表面散乱光151のうち、前面板101と外部領域界面の全反射角度より小さい角度で伝播する光が表面拡散反射光153となる。さらに、発光層104内部に侵入した外光109は、発光層104により散乱され内部散乱光152となる。内部散乱光152のうち、+z方向に伝播し且つ前面板101と外部領域界面の全反射角度より小さい角度で伝播する光が内部拡散反射光154となる。表面散乱光151及び内部散乱光152のうち、前面板101と外部領域界面の全反射角度よりも大きい角度で伝播する光は、前面板101内を伝播し、図4には図示していない周囲に設けられたブラックマトリクスにて吸収され、減衰光となる。
【0032】
内部散乱光152の強度は、外光109が発光層104内部を伝播する長さが長くなるに従い、指数関数に比例して増加する。そのため、発光層104の高さが高くなると(図中Z方向の長さが長くなると)、内部拡散反射光154の強度が急激に高くなる。発光層104の高さを低くすることで、内部散乱光152の強度を低くすることができるが、同時に、発光層104を励起する電子の吸収が不十分になり表示輝度が低下する。
【0033】
図5を用い、画像表示装置100の内部から、発光層104にて発生し、低散乱領域106を介して微細構造105に入射する光501の伝播の様子を説明する。図5に示される画像表示装置100は、図1と同様の構成を備えており、低散乱領域106が形成される領域のxz断面図を部分拡大して示している。
【0034】
図5に示すように、光501は、微細構造105により回折され、複数の透過回折光が発生する。透過回折光のうち、前面板101と外部領域界面の全反射角度以内の透過回折光が、外部領域へ取出され表示光108となる。微細構造105を形成しない場合には前面板101と外部領域界面にて全反射される入射角度を有する光501も、微細構造105を形成することで、複数の透過回折光に分配することができ、外部領域に取出すことができる。すなわち、屈折率分布構造である微細構造105を有することによって、発光層104で電子線励起によって生じた光の利用率を向上させることが出来るため、外部領域に取出される表示光108が増加し、画像表示装置の表示輝度を高めることができる。
【0035】
このように本発明の実施の形態の画像表示装置100では、発光層104の周囲に低散乱領域106を配置することにより、ブラックマトリクス107の開口部からの拡散反射率を低減している。開口部における拡散反射率低減により、開口部面積を広げても画素あたりの拡散反射率を従来と同等または低くすることができる。また開口部面積を広げることで、発光層104にて発生した光(表示のための光)がブラックマトリクスに吸収される割合を低減し、発光層104にて発生した光を効率よく外部領域へ取出すことができる。さらに、低散乱領域106と前面板101の間に微細構造105を配置することにより、発光層104にて発生した後、低散乱領域106に漏れてきた光を効率よく外部領域へ取出すことができる。以上から、本発明の実施の形態の画像表示装置は、低い拡散反射光強度と高い表示輝度を両立する画像表示装置を形成している。
【0036】
以下では、本発明の実施形態の画像表示装置において、外光反射率を低減できる格子周期(部材201(円柱構造201)の配列周期)の好ましい範囲について説明する。
【0037】
微細構造105に入射した光は、次の式1を満たす回折次数の光が発生する。
【0038】
【数1】

【0039】
上記式1において、λは入射光の波長、Ninは入射光が伝搬する領域の屈折率、Noutは反射回折光あるいは透過回折光が伝搬する領域の屈折率を表している。θinは入射光の入射方向と周期構造に垂直な方向との間の角度、Λは微細構造の格子周期、mは回折次数で任意の整数を表している。
【0040】
式1において、長い波長になるほど高次の回折光が出にくいことから、可視域で長波長側に相当する波長を選択し、入射光の波長を700nmとする。また、入射光および回折光が伝搬する領域の屈折率NinおよびNoutを、一般的に用いられている前面板であるガラス基板の屈折率と同じ1.5とし、外光の入射角度θinを、周期構造に対して垂直な方向となる0度とした。微細構造105の格子周期210が1μm以上の長さにすることで、2次以上の高次の回折光を多数発生されることができる。
【0041】
微細構造105に入射した光は多数の回折光に分配されるため、各光線の強度は非常に小さい値となる。また、外光反射光は多数の回折光を積算した光となる。外光の波長は入射角度が変動しても、外光は多数の回折光に分配され、各光線の強度は非常に小さいため、これら多数の回折光の和であらわされる外光反射光の変動も小さくなる。そのため、本実施形態に記載の外光入射角度だけではなく、他の入射角度についても本実施形態に記載の画像表示装置は、低い拡散反射率を有することができる。
【0042】
なお、格子周期が大きくなると、高次の回折光強度が小さくなり、0次回折光の強度が大きくなるため、正反射光が増大し、画像表示装置のコントラストが低下する。
【0043】
以上の理由から、格子周期の長さは1μm以上且つ3μm以下とすることにより、外光の波長や入射角度に因らず、外光反射率を低減した画像表示装置を得ることができる。本実施形態においては、微細構造105を三角格子の格子点状に円柱構造201を配置したが、格子周期の長さが1μm以上且つ3μm以下を有する正方格子の格子点状に円柱構造201を配置してもよい。また、微細構造105は、円柱構造210間の格子周期に相当する平均距離が1μm以上且つ3μm以下の非周期構造を有していても良い。望ましくは、微細構造105を対称性の高い三角格子構造、または非周期構造とすることにより、表示光の配向分布をより等方的にすることができる。
【0044】
尚、本実施の形態においては、低散乱領域106を屈折率1.5の透明材料により構成して説明したが、光散乱性を有する媒質または、誘電体中に微粒子を分散させた膜で構成してもよい。
【0045】
微細構造105及び低散乱領域106からの拡散反射光は、微細構造105による拡散反射光と、微細構造105を透過した光が低散乱領域106内部にて散乱され、外部領域側へ反射する拡散反射光に分けることができる。外光109の一部が微細構造105にて反射され、また一部が低散乱領域106に入射する。低散乱領域106内に入射した光は、低散乱媒質106を構成する散乱媒質により散乱され、その一部が拡散反射光として外部領域に反射される。
【0046】
微細構造105及び低散乱領域106からの拡散反射光強度が、高くなるのは低散乱領域106を構成する散乱媒質が等方散乱性を有するときである。この時、微細構造105の拡散反射率Rsc2及び低散乱領域106の拡散反射率Rsc1は、式2のように表すことができる。
【0047】
【数2】

【0048】
ここで、T2は微細構造105の透過率、μ1は低散乱領域106の散乱係数、Lは低散乱領域106の厚みである。拡散反射率の低い画像表示装置を得るためには、Rsc1が発光層104を形成した領域の拡散反射率Rscよりも低いことが求められる。すなわち、低散乱領域106の光散乱性に因らず低い拡散反射率を有する画像表示装置を構成するためには、低散乱領域106が、式3を満たすことが望ましい。
【0049】
【数3】

【0050】
上記のとおり、屈折率分布構造である微細構造105の、第一の媒質からなる部材である層202中に配列された、第一の媒質とは屈折率が異なる第二の媒質からなる部材である円柱構造201の配列周期は、1μm以上且つ3μm以下であることが好ましい。これによって、外光の波長や入射角度によらず、外光反射率を低減することが出来る。
【0051】
また、第二の媒質からなる部材である円柱構造201は、三角格子状に配列されているのが好ましい。これによって、表示光の配向分布をより等方的にすることが可能となり、良好な画像表示が実現できる。
【0052】
以下の実施例に基づき、本発明の具体例を説明する。
【実施例1】
【0053】
図1の画像表示装置100において、発光層104は、屈折率2.2、平均粒子径1μmを有する微粒子状の蛍光体を体積率50%で充填し、xz断面の高さが5μmになるよう形成している。発光層104は、図1(b)に示すようにxy面内にて画素の中央部分、且つ領域面積が画素面積の4%になるように形成されている。
【0054】
発光層104の周囲に配置される低散乱領域106は発光層104よりも散乱強度が低くなるように、屈折率1.5の透明材料で構成され、低散乱領域106のxz断面の高さは発光層104と等しい高さを有している。低散乱領域106は、xy面内の領域面積が画素面積の14%になるように形成されている。すなわち、画像表示装置100では、ブラックマトリクスの開口部面積が画素面積の18%になるよう形成されている。
【0055】
微細構造105は図2に示す構成のものを用い、低散乱領域106と前面板101の間に配置した。尚、円柱構造201の配列周期である格子周期210は1700nm、円柱201の直径は1450nmの長さを有しており、微細構造105のxz断面の高さ212は1450nmを有している。
【0056】
円柱201を形成する第二の媒質は屈折率2.2、周囲の領域202を形成する第一の媒質は屈折率1.5を有しており、前面板101の発光層104が形成されている面と平行な方向において、層202中に円柱構造201が周期的に配列されることにより、屈折率分布構造を形成している。尚、前面板101は屈折率が1.5の媒質で形成されている。
【0057】
発光層104の裏面の領域は真空となっている。また、微細構造105と低散乱領域106の間、及び前面板101と発光層104の間には、発光層104を励起する電子を加速するための電極として、屈折率1.8を有する図示しない透明電極層を100nmの厚さになるよう形成している。
【0058】
このような画像表示装置100において、発光層104を電子線によって励起すると、発光層104にて発生した光の36%が外部領域に取出される。さらに、画像表示装置100に、波長550nmの外光109を前面板と垂直な方向(z軸方向)から入射すると、拡散反射率は4%となる。
本実施例の画像表示装置と、従来の画像表示装置との比較を以下説明する。
【0059】
(比較例1)
従来の画像表示装置800の一例を図8に示す。図8(a)は画像表示装置800のxz断面図である。
画像表示装置800は、前面板801上に、光散乱性を有する発光層804、光吸収性を有するブラックマトリクス807とを有している。発光層804に電子811を照射することによって光が発生し、この光が前面板801を介して外部に取出されることで表示光808となる。尚、802は発光層、ブラックマトリクスからなる画素である。
【0060】
図8(b)は画像表示装置800のxy断面図である。ブラックマトリクス807の中央部に画素802の面積率12%の開口部が形成されている。発光層804の発光材料としては、例えば波長350〜800nmのいずれかの波長を含む光を発生する蛍光体を用いることができる。
【0061】
前面板801の上方から−z方向に外光が入射すると、外光は発光層804を形成する発光材料により表面散乱及び内部散乱光が発生し、前面板801を介して外部領域に反射され,拡散反射光810となる。
【0062】
このような画像表示装置800において、発光層804は、屈折率2.2、平均粒子径1μmを有する微粒子状の蛍光体を体積率50%で充填し、xz断面の高さは5μmになるよう形成している。また、ブラックマトリクスの開口部面積は、画素面積の12%になるよう形成されている。
【0063】
前面板101は屈折率が1.5の媒質で形成されている。また、発光層804の裏面の領域は真空となっている。
このような画像表示装置800において、発光層804を励起すると、発光層804にて発生した光の28%が外部領域に取出される(表示光808)。尚、画像表示装置800に、波長550nmの外光809を前面板と垂直な方向(z軸方向)から入射した際の、拡散反射率は4%となった。
【0064】
比較例1に示す画像表示装置800では、ブラックマトリクスの開口部面積率が実施例1に比べて小さいため、低い拡散反射率を得ている。しかし、ブラックマトリクスにより光吸収損失が大きく、発光層804にて発生した光(表示のための光)が外部領域へ取出される割合が低い。そのため、表示輝度が低下する。比較例1に示す画像表示装置800では、表示輝度が低いため、コントラストが低下する。
【0065】
一方、実施例1の画像表示装置100では、低い拡散反射率と高い取出し効率を得ている。すなわち、周囲の環境によらず、高いコントラストを有する画像表示装置を得ることができる。
【0066】
本実施例においては、外光109の波長を人の眼にとって敏感な550nmとしたが、微細構造105の格子周期210を複数の回折光が発生するよう大きく設定することにより、波長350〜800nmの波長域において低い拡散反射率を実現することが可能である。
【0067】
また、低散乱部材106は、本実施例に記載の屈折率を有する媒質に制限されるものではない。望ましくは、透明電極層よりも低い屈折率を有する媒質を用いることで、低散乱部材106と透明電極層の界面における全反射を抑制し、発光層104にて発生した光を効率よく外部領域へ取出すことができる。
【0068】
また、本実施例においては、低散乱部材106のxz面内の高さを、発光層104のxz面内の高さと等しくしたが、異なる高さを有していてもよい。望ましくは、発光層104のxz面内の高さ以上にすることで、発光層104から低散乱領域106内に入射する光が増え、発光層104にて発生した光を効率よく外部領域へ取出すことができる。さらに、発光層104の下面(裏面側)にも低散乱領域106を配置しても、本発明の効果は失われない。
【0069】
尚、本実施例においては、上述のとおり、屈折率1.5を有する第一の媒質からなる部材202と、屈折率2.2の第二の媒質からなる円柱構造201とを用いて微細構造105を形成したが、微細構造105の構成はこれに限らず、様々な構成を採用し得る。例えば、第二の媒質として気体もしくは真空を採用することも可能である。以下に本発明に用いることが出来る画像表示装置の作成例を示す。
【0070】
画像表示装置100は、一般に知られる画像表示装置作製技術及び微細加工技術を用いて作製することができる。図7(a)〜(e)に、画像表示装置100の作製方法要部概略図を示す。
図7(a)に示す基板701上にマスクを形成した後、電子ビームまたはフォトリソグラフィによる露光とエッチングを組み合わせた半導体リソグラフィ手法またはナノインプリントによる刻印手法により、基板701に孔状微細構造を形成する。孔状微細構造の形成工程においては、基板701上にSiO2等の微小球を配列し、この微小球をマスクにエッチングを用いて形成してもよい。孔状微細構造形成後、スピンコートまたはスパッタ等の成膜手法により微細構造705を形成している(図7(b))。この時、マスク形状またはナノインプリントの型を調整することで、所望の領域にのみ微細構造705を形成することができる。微細構造705を形成した後、ブラックマトリクス707、図示しない透明電極を形成し(図7(c))、その後、発光層704を形成する(図7(d))。発光層704を形成した後、スピンコート等の成膜手段により低散乱領域706を形成する(図7(e))。低散乱領域706を構成する媒質として、TiO2等の金属酸化物のほか、SiO2等の誘電体、及びPMMAなどの高分子有機材料を用いることができる。以上の工程の後、図示しない電子放出素子等を形成することで本発明を適用できる画像表示装置100を作製することができる。
【0071】
このように、本発明の画像表示装置は、一般に知られる画像表示装置作製技術及び微細加工技術を用いて作製することができる。
【実施例2】
【0072】
本実施例にかかる画像表示装置600の要部概略図を、図6に示した。図6(a)は画像表示装置600のxz断面図であり、図6(b)はxy断面図である。
画像表示装置600においては、発光層104の上面(前面板101側)及び下面に反射膜601を配置し、さらに発光層104の上面側の反射膜601と前面板101の間にブラックマトリクス107を配置している。その他の構成については図1の画像表示装置と同様である。反射膜601としては、例えば、Ag等の金属膜や、屈折率の異なる誘電体を積層した反射膜を用いることができる。望ましくは、損失の低い反射膜を用いることで、発光層104にて発生した光の損失を低減し、表示輝度の高い画像表示装置を構成することができる。発光層104の上面側に配置されるブラックマトリクスは、発光層104の上面のみに配置する必要は無く、低散乱領域106上の一部領域にも配置してもよい。望ましくは、拡散反射率が高い発光層104上のみにブラックマトリクスを配置することで、発光層104にて発生した光の損失を低減でき、表示輝度の高い画像表示装置を構成することができる。
【0073】
本実施例の画像表示装置600では、不図示の電子放出素子より電子90が発光層104に注入され、発光層104にて光が発生する。発光層104にて発生した光602は発光層104内を散乱しながら伝播し、低散乱領域106内に射出する。低散乱領域106内に射出した光は、微細構造105及び前面板101を介して外部領域に取出され、表示光108となる。
【0074】
外光109のうち、ブラックマトリクス107に入射した光は、ブラックマトリクスにより吸収される。微細構造105に入射した光は、微細構造105により反射され、一部が外光反射光110となる。
【0075】
発光層104は、平均粒子径1μmの微粒子状の蛍光体を体積率50%で充填して形成し、xz断面の高さは5μmを有している。発光層104はxy面内において、画素の中央部分、且つ形成領域面積が画素面積の4%になるように形成されている。
【0076】
発光層104の周囲は、発光層104よりも散乱強度が低くなるように、屈折率1.5の低散乱領域106が設けられ、低散乱領域106のxz断面の高さは発光層104と同じ高さを有している。低散乱領域106は、xy面内において、領域面積が画素面積の14%になるように形成している。すなわち、画像表示装置600では、ブラックマトリクスの開口部面積が画素面積の18%になるよう形成されている。
【0077】
微細構造105は低散乱領域106と前面板101の間に配置され、円柱構造201の配列周期である格子周期210は1700nm、円柱201の直径は1450nmの長さを有しており、微細構造105のxz断面の高さ212は1450nmを有している。
【0078】
円柱201を形成する第二の媒質は屈折率2.2、周囲の領域202を形成する第一の媒質は屈折率1.5を有している。前面板101は屈折率が1.5の媒質で形成されている。また、発光層104の裏面の領域は真空となっている。
【0079】
このような画像表示装置600において、発光層104を電子照射によって励起すると、発光層104にて発生した光の34%が外部領域に取出される。さらに、画像表示装置600に、波長550nmの外光109を前面板と垂直な方向(z軸方向)から入射すると、拡散反射率は2%となる。
【0080】
画像表示装置600では、発光層104にて発生した光は、発光層104内を散乱しながら伝播し、低散乱領域106上に配置した微細構造105に入射し、複数の回折光が発生する。複数の回折光のうち、前面板101と外部領域界面の全反射角度以内の回折角度を有する光が外部領域へ取出され表示光108となる。
【0081】
本実施例の画像表示装置600では、反射膜601上面にブラックマトリクス107を配置することにより、拡散反射率の高い発光層104への光の入射が抑制され、拡散反射率をより低減した画像表示装置を得ることができる。すなわち、本実施例の画像表示装置600は、使用環境によらず、より高いコントラストを有する画像表示装置を実現している。
【0082】
本実施例においては、外光109の波長を人の眼にとって敏感な550nmとしたが、微細構造105の格子周期210を複数の回折光が発生するよう大きく設定することにより、波長350〜800nmの波長域において低い拡散反射率を実現可能である。
【符号の説明】
【0083】
100 画像表示装置
101 前面板
104 発光層
105 微細構造
106 低散乱領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に位置する発光部材と、
前記基板の前記発光部材を有する面と平行な方向において該発光部材を囲んで位置する、該発光部材よりも散乱強度の低い低散乱部材と、
前記低散乱部材と前記基板との間に位置し、前記基板の前記発光部材を有する面と平行な方向において屈折率分布を有する屈折率分布構造と、
を有する画像表示装置。
【請求項2】
前記屈折率分布構造は、第一の媒質からなる部材中に前記第一の媒質とは屈折率が異なる第二の媒質からなる部材が、前記基板の前記発光部材が位置する面と平行な方向に周期的に配列されており、該第二の媒質からなる部材の配列周期が、1μm以上且つ3μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項3】
前記第二の媒質からなる部材が、三角格子状に配列されていることを特徴とする請求項2に記載の画像表示装置。
【請求項4】
前記発光部材と前記基板との間に光吸収層を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−134065(P2012−134065A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286531(P2010−286531)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】