画像記録装置、および画像記録方法
【課題】 特殊な用紙を用いずに、被転写物に画像を転写可能とすること。
【解決手段】 基材Pの上面に対して、吐出ノズル6aから剥離層用インクを吐出する。続いて、基材Pの上面のうちの、剥離層用インクが吐出された部分に対して、吐出のズル6bから各色のインクを吐出する。続いて、基材Pの表面のうちの、各色のインクが吐出された部分に対して、吐出ノズル6cから、粘着層用インクを吐出する。これにより、基材Pの上面に剥離層16とインク層17と粘着層18とが順次積層される。そして、粘着層18を被転写物に貼り付け、基材Pを剥離することで、被転写物に画像を転写できる。
【解決手段】 基材Pの上面に対して、吐出ノズル6aから剥離層用インクを吐出する。続いて、基材Pの上面のうちの、剥離層用インクが吐出された部分に対して、吐出のズル6bから各色のインクを吐出する。続いて、基材Pの表面のうちの、各色のインクが吐出された部分に対して、吐出ノズル6cから、粘着層用インクを吐出する。これにより、基材Pの上面に剥離層16とインク層17と粘着層18とが順次積層される。そして、粘着層18を被転写物に貼り付け、基材Pを剥離することで、被転写物に画像を転写できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像記録装置、および画像記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットプリンタ等の画像記録装置において、被転写物に対し、画像記録装置で形成した画像を転写するための様々な技術が提案されている。
例えば、下記の特許文献1に記載されている技術では、まず、紙基材に水溶性糊料と接着剤層と合成樹脂層と吸水性樹脂層とを順次積層してなる第1転写用紙、およびシート状基材に剥離層と熱可塑性樹脂層とを順次積層してなる第2転写用紙を準備する。続いて、第1転写用紙の吸水性樹脂層にインクジェットプリンタで水性インク画像を形成する。続いて、第2転写用紙の熱可塑性樹脂層を、第1転写用紙の吸水性樹脂層に重合して加熱圧着する。続いて、紙基材側から水性糊料に対して水を含侵させて紙基材を剥離する。続いて、接着剤層に被転写物を重合圧着する。続いて、シート状基材を剥離することによって、インクジェットプリンタで形成した画像の転写が完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−264597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の記載の技術では、第1転写用紙や第2転写用紙といった特殊な用紙を用いていた。それゆえ、特殊な用紙の準備に多くの費用がかかってしまい、画像の転写にかかる費用が高いものとなる可能性があった。
本発明は、上記のような点に着目し、特殊な用紙を用いずに、画像を転写可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、
基材に対してインクを吐出する第1ノズル、第2ノズル、および第3ノズルを有する記録ヘッドと、前記基材および前記記録ヘッドの少なくとも一方を前記基材の表面と平行な面内で移動させる移動手段と、前記記録ヘッドおよび前記移動手段の動作を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記基材の表面に対して、前記基材と前記第2ノズルが吐出するインクが形成する層との少なくとも一方から剥離可能な剥離層を形成する剥離層用インクを前記第1ノズルから吐出し、前記基材の表面のうちの、前記剥離層用インクが吐出された部分に対して、被転写物に転写する画像を形成するインク層を形成するインク層用インクを前記第2ノズルから吐出し、前記基材の表面のうちの、前記インク層用インクが吐出された部分に対して、前記被転写物に貼着可能な粘着力を有する粘着層を形成する粘着層用インクを前記第3ノズルから吐出することを特徴とする。
【0006】
このような構成によれば、まず、第1ノズルによって、基材の表面に剥離層用インクが吐出される。続いて、第2ノズルによって、基材の表面のうちの、剥離層用インクが吐出された部分にインク層用インクが吐出される。続いて、第3ノズルによって、基材の表面のうちの、インク層用インクが吐出された部分に粘着層用インクが吐出される。これにより、基材の表面に剥離層とインク層と粘着層とが順次積層される。それゆえ、粘着層を被転写物に貼り付け、その後、基材を剥離することで、被転写物に画像を転写できる。
その結果、特殊な用紙を用いずに、被転写物に画像を転写できる。
【0007】
本発明の他の態様は、
前記記録ヘッドは、前記剥離層用インクとして、当該剥離層用インクが形成する前記剥離層と前記インク層との密着力が前記インク層と前記粘着層との密着力よりも低いインクを前記第1ノズルから吐出することを特徴とする。
このような構成によれば、粘着層を被転写物に貼り付けた後、基材を捲って引っ張ることで、基材、剥離層、インク層、および粘着層からなる積層物が、インク層と剥離層との境界面で分離する。これにより、インク層、つまり、転写する画像が表面に現れる。
【0008】
本発明の他の態様は、
前記記録ヘッドは、前記剥離層用インクとして、当該剥離層用インクが形成する前記剥離層と前記基材との密着力が前記インク層と前記粘着層との密着力よりも低いインクを前記第1ノズルから吐出することを特徴とする。
このような構成によれば、粘着層を被転写物に貼り付けた後、基材を捲って引っ張ることで、基材、剥離層、インク層、および粘着層からなる積層物が、剥離層と基材との境界面で分離する。これにより、剥離層で覆われて保護されたインク層が表面に現れる。
【0009】
本発明の他の態様は、
前記記録ヘッドは、前記剥離層用インクとして、設定した温度よりもガラス転移温度の高い樹脂を含むインクを前記第1ノズルから吐出することを特徴とする。
このような構成によれば、剥離層用インクで形成される剥離層の固さを増大できる。これにより、剥離層と基材との密着力を容易に低減できる。
【0010】
本発明の他の態様は、
基材の表面に対して、前記基材と記録ヘッドの第2ノズルが吐出するインクが形成する層との少なくとも一方から剥離可能な剥離層を形成する剥離層用インクを前記記録ヘッドの第1ノズルから吐出する第1工程と、前記第1工程によって形成された前記剥離層の表面に対して、被転写物に転写する画像を形成するインク層を形成するインク層用インクを前記記録ヘッドの前記第2ノズルから吐出する第2工程と、前記第2工程によって形成された前記インク層の表面に対して、前記被転写物に貼付可能な粘着力を有する粘着層を形成する粘着層用インクを前記記録ヘッドの第3ノズルから吐出する第3工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、まず、第1ノズルによって、基材の表面に剥離層用インクが吐出される。続いて、第2ノズルによって、基材の表面のうちの、剥離層用インクが吐出された部分にインク層用インクが吐出される。続いて、第3ノズルによって、基材の表面のうちの、インク層用インクが吐出された部分に粘着層用インクが吐出される。これにより、基材の表面に剥離層とインク層と粘着層とが順次積層される。それゆえ、粘着層を被転写物に貼り付け、その後、基材を剥離することで、被転写物に画像を転写できる。
その結果、特殊な用紙を用いずに、被転写物に画像を転写できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】インクジェットプリンタ1の概略を模式的に示す平面図である。
【図2】各吐出ヘッド6a、6b、6cの配列の説明図である。
【図3】各吐出ヘッド6a、6b、6cの配列の変形例の説明図である。
【図4】各吐出ヘッド6a、6b、6cの配列の変形例の説明図である。
【図5】積層物15を作成する際の、インクジェットプリンタ1の動作を示すフローチャートである。
【図6】剥離層用インクの吐出動作の説明図である。
【図7】C、M、Y、Kの各色のインクの吐出動作の説明図である。
【図8】粘着層用インクの吐出動作の説明図である。
【図9】積層物15の概略を模式的に示す平面図である。
【図10】本実施形態の比較例となる、インクジェットプリンタ1の動作を示すフローチャートである。
【図11】各吐出ヘッド19a、19b、19cの配列の説明図である。
【図12】各吐出ヘッド19a、19b、19cの配列の変形例の説明図である。
【図13】各吐出ヘッド19a、19b、19cの配列の変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態では、インクジェット用紙等の基材Pに対し、被転写物に転写する画像等を形成するインクジェットプリンタ1に本発明を適用した例について説明する。本実施形態のインクジェットプリンタ1は、基材Pの搬送方向と交差する方向に記録ヘッド5を移動させて画像の形成等を行うシリアルヘッド型インクジェットプリンタである。
被転写物としては、例えば、服地、和紙、ダンボール、上質紙、コート紙、印刷本紙、ポリマーシート、プラスチック製品、皮製品、ゴム、金属、塗装面、メッキ面、コーティング面、皮膚、ガラス、陶器、およびセラミック等が挙げられる。
【0014】
(構成)
図1は、インクジェットプリンタ1の概略を模式的に示す平面図である。
図1に示すように、インクジェットプリンタ1は、基材Pを搬送する紙送り機構2、紙送り機構2によって搬送される基材Pに対してインクを吐出する印刷部3、および、紙送り機構2および印刷部3の動作を制御する制御部4を備える。ここで、基材Pとは、インクジェット用紙等のインクを吸収し易い材質からなるものである。
【0015】
なお、以降の説明では、インクジェットプリンタ1における基材Pの搬送方向を副搬送方向Xと称し、副搬送方向Xに正対して右方向を主搬送方向Yと称する。主搬送方向Xおよび副搬送方向Yは、基材Pの上面と平行な面内に設定する。
紙送り機構2は、副搬送方向Xの上流側に配された図示しない紙送りローラ、および紙送りローラの下方に一定距離を隔てて平行に対向配置された図示しない従動ローラを備える。そして、紙送りローラおよび従動ローラの間に基材Pを挟み込み、紙送りローラを図示しない紙送りモータで回転させることにより、基材Pを副搬送方向Xに搬送する。
【0016】
一方、印刷部3は、副搬送方向Xの下流側に配設された記録ヘッド5を備える。
記録ヘッド5は、液体を吐出する複数の吐出ヘッド6a、6b、6cをキャリッジ7に備える。これらの吐出ヘッド6a、6b、6cは、副搬送方向Xに分割されて、副搬送方向Xの上流側から順に、6a、6b、6cが配列されている。
また、印刷部3は、主搬送方向Yに沿って摺動可能に記録ヘッド5を支持するスライドレール8、および記録ヘッド5を主搬送方向Yと主搬送方向Yの反対方向とに往復移動させる動力を発生するキャリッジモータ9を備える。そして、キャリッジモータ9を駆動することにより、記録ヘッド5をスライドレール8に従って主搬送方向Yに沿って摺動させ、記録ヘッド5を主搬送方向Yと主搬送方向Yの反対方向とに往復移動させる。
【0017】
図2は、各吐出ヘッド6a、6b、6cの配列の説明図である。この説明図は、記録ヘッド5を下方から見た様子を表すものである。
図2に示すように、吐出ヘッド6a、6b、6cのノズル面には、インク滴を吐出する多数のノズルが形成されている。ノズル面とは、搬送される基材Pに対向する面である。具体的には、吐出ヘッド6aのノズル面には、副搬送方向Xに沿って配列された複数のノズルからなるノズル列が1列形成されている。このノズル列は、基材Pから剥離可能な剥離層を形成する剥離層用インクを吐出可能となっている。剥離層用インクとしては、剥離層用インクが形成する剥離層と基材Pとの密着力が、被転写物と後述する粘着層との密着力、粘着層と後述するインク層との密着力、およびインク層と剥離層との密着力のいずれよりも低いインクを採用する。そして、吐出ヘッド6aは、必要箇所のノズルから必要量のインク滴を同時に吐出することにより、基材Pの上面に微少なインクドットを形成する。インクジェットプリンタ1は、吐出ヘッド6aを主搬送方向Yと主搬送方向Yの反対方向とに往復移動させながらインクドットの形成を行う。これにより、吐出ヘッド6aの副搬送方向X両端のノズル間距離に相当する幅の剥離層を形成することができる。
【0018】
また、吐出ヘッド6bのノズル面には、副搬送方向Xに沿って配列された複数のノズルからなるノズル列が4列形成されている。これら4つのノズル列は、それぞれ異なる色のインクを吐出可能になっており、本実施形態では、主搬送方向Yの上流側から順に、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)のインクを吐出する。そして、吐出ヘッド6bは、色毎、即ちノズル列毎に、必要箇所のノズルから必要量のインク滴を同時に吐出することにより、基材Pの上面のうちの、剥離層用インクが吐出された部分に微小なインクドットを形成する。インクジェットプリンタ1は、吐出ヘッド6bを主搬送方向Yと主搬送方向Yの反対方向とに往復移動させながらインクドットの形成を行う。これにより、吐出ヘッド6bの副搬送方向X両端のノズル間距離に相当する幅のインク層を形成することができる。インク層とは、被転写物に転写する画像を形成された層であり、C、M、Y、Kの各色のインクによって形成されるものである。
【0019】
また、吐出ヘッド6cのノズル面には、副搬送方向Xに沿って配列された複数のノズルからなるノズル列が1列形成されている。このノズル列は、被転写物に貼着可能な粘着力を有する粘着層を形成する粘着層用インクを吐出可能となっている。そして、吐出ヘッド6cは、必要箇所のノズルから必要量のインク滴を同時に吐出することにより、基材Pの上面のうちの、剥離層用インクが吐出された部分、または剥離層用インクおよびインク層用インクの両方が吐出された部分に微少なインクドットを形成する。インクジェットプリンタ1は、吐出ヘッド6cを主搬送方向Yと主搬送方向Yの反対方向とに往復移動させながらインクドットの形成を行う。これにより、吐出ヘッド6cの副搬送方向X両端のノズル間距離に相当する幅の粘着層を形成することができる。
【0020】
なお、ノズルからインクを吐出する方式は、ピエゾ方式を採用する。ピエゾ方式とは、ピエゾ素子に駆動パルスを与えてキャビティ内の振動板を変位させ、これによって生じるキャビティ内の圧力変化によってインク滴を吐出する方式である。
このように、本実施形態では、複数の吐出ヘッド6a、6b、6cを副搬送方向Xに配列して記録ヘッド5を構成するようにした。そのため、記録ヘッド5は、既存の吐出ヘッドを組み合わせることで構成でき、専用の記録ヘッドを作成する手間が不要となる。
【0021】
図3、図4は、各吐出ヘッド6a、6b、6cの配列の変形例の説明図である。これらの説明図は、記録ヘッド5を下方から見た様子を表すものである。
なお、本実施形態では、複数の吐出ヘッド6a、6b、6cを副搬送方向Xに配列して記録ヘッド5を構成する例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、図3に示すように、吐出ヘッド6a、6b、6cを一体としてもよい。これにより、複数の吐出ヘッド6a、6b、6cを配列する方法に比べ、記録ヘッド5を小型化できる。
【0022】
また、例えば、図4に示すように、副搬送方向Xに沿って配列された複数のノズルからなるノズル列が6列形成されたものとしてもよい。これら6つのノズル列は、それぞれ異なるインクを吐出可能になっており、主搬送方向Yの上流側から順に、剥離層用インク、C、M、Y、Kの各色のインク、粘着層用インクを吐出する。これにより、記録ヘッド5は、既存の記録ヘッドで構成でき、専用の記録ヘッドを作成する手間が不要となる。
【0023】
C、M、Y、Kの各色のインクは、顔料、および顔料を分散する分散樹脂を含む。
マゼンタ(M)の顔料の具体例としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、7、12、17、22(ブリリアントファーストスカーレット)等が挙げられる。シアン(C)の顔料の具体例としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15(フタロシアニンブルーR)、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルーG)等が挙げられる。イエロー(Y)の顔料の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG)、2、3、12(ジスアゾイエローAAA)等が挙げられる。ブラック(K)の顔料の具体例としては、ファーネスブラック、ランブブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)等が挙げられる。
【0024】
分散樹脂としては、水に対して自己分散能または溶解能を有し、かつアニオン性基(酸性)もしくはカチオン性基(アルカリ性)を有するものを用いる。分散樹脂の具体例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニル系、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等のポリエステル系、メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共縮合樹脂、尿素樹脂等のアミノ系の材料;熱可塑性、熱硬化性あるいは変性のアクリル系、エポキシ系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ポリアミド系、不飽和ポリエステル系、フェノール系、シリコーン系、フッ素系高分子化合物、あるいはそれらの共重合体または混合物等のアニオン性基もしくはカチオン性基を有する材料等が挙げられる。分散樹脂の粒子表面の親水基としては、カルボン酸基、硫酸基、硝酸基、水酸基、アミン基等が挙げられる。
【0025】
また、各色のインクは、他にも水、有機溶剤、および界面活性剤等を含む。
剥離層用インクは、C、M、Y、Kの各色のインク、つまり、通常のインクの顔料に代えて、分散樹脂で被覆した透明な粒子、または樹脂エマルジョンを含む。
透明な粒子としては、無機物からなる粒子、または有機物からなる粒子を採用する。無機物からなる粒子の具体例としては、シリカ、およびアルミナ等の粒子等が挙げられる。また、有機物からなる粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4-メチルペンテン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、シクロオレフィンポリマー、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂、アクリル酸エステル樹脂、これらの樹脂を含むブレンドポリマー、およびこれらの樹脂に使用されるモノマーを一部に含む共重合ポリマー等が挙げられる。また、透明な粒子には、紫外線吸収剤や酸化防止剤等を添加する。これにより、剥離層用インクで形成される剥離層の紫外線吸収機能を向上でき、被転写物に画像を転写した場合に、剥離層でインク層や粘着層が覆われるようにすることで、インク層や粘着層の耐候性を向上できる。
【0026】
分散樹脂としては、C、M、Y、Kの各色のインクと同様に、水に対して自己分散能または溶解能を有し、かつアニオン性基(酸性)もしくはカチオン性基(アルカリ性)を有するものを用いる。分散樹脂の具体例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニル系、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等のポリエステル系、メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共縮合樹脂、尿素樹脂等のアミノ系の材料;熱可塑性、熱硬化性あるいは変性のアクリル系、エポキシ系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ポリアミド系、不飽和ポリエステル系、フェノール系、シリコーン系、フッ素系高分子化合物、あるいはそれらの共重合体または混合物等のアニオン性基もしくはカチオン性基を有する材料等が挙げられる。
【0027】
ここで、分散樹脂のガラス転移温度は、−10℃〜180℃の範囲とする。特に、15℃〜65℃の範囲とするのが望ましい。すなわち、分散樹脂としては、設定した温度(例えば、被転写物への転写作業を行う場所で予想される大気の温度)よりもガラス転移温度が高い樹脂を用いる。これにより、剥離層用インクで形成される剥離層の固さを増大でき、剥離層と基材Pとの密着力を容易に低減できる。また、分散樹脂の平均粒子系は、0.05〜5μmとする。さらに、分散樹脂の粒子表面の親水基としては、カルボン酸基、硫酸基、硝酸基、水酸基、アミン基等が挙げられる。
樹脂エマルジョンとしては、透明な水難溶性または水不溶性の樹脂が微粒子状に水溶液に分散してなるものを採用する。水難溶性または水不溶性の樹脂の具体例としては、分散樹脂と同じ特性および大きさを有する天然高分子または合成高分子を採用する。また、樹脂エマルジョンには、紫外線吸収剤、および酸化防止剤等を添加することができる。
【0028】
また、剥離層用インクは、他にも水、有機溶剤、および界面活性剤等を含む。
粘着層用インクは、C、M、Y、Kの各色のインク、つまり、通常のインクの顔料に代えて、常温で粘着性のある樹脂を分散樹脂でコートした粒子、後処理の加熱温度で粘着性を発生する樹脂を分散樹脂でコートした粒子、または樹脂エマルジョンを含む。
分散樹脂、および樹脂エマルジョンの特性は、剥離層用インクの分散樹脂、および樹脂エマルジョンの特性と同様とする。但し、分散樹脂、および樹脂エマルジョンのガラス転移温度は、−80℃〜90℃の範囲とする。特に、−35℃〜90℃の範囲とするのが望ましい。また、平均粒子系は、0.05〜5μmの範囲とする。
【0029】
分散樹脂、樹脂エマルジョンとしては、弾性体、または高分子物質を採用する。弾性体の具体例としては、天然ゴム、合成イソプレンゴム、およびスチレン-イソプレン-スチレンゴムポリイソプレンゴム等が挙げられる。特に、ガラス転移温度が低いものが望ましい。これにより、寒暖の差による弾性体の粘着力への影響を低減できる。高分子物質の具体例としては、ポリアクリル酸エステル、その共重合体、およびシリコン系樹脂等が挙げられる。なお、弾性体として、ガラス転移温度が低いものを用いた場合、弾性体の分子間凝集力が低減し、弾性体の粘着力が低減する。それゆえ、弾性体には、軟化剤で軟らかくした後粘着付与剤を添加する。これにより、弾性体が粘着力を発現できる。
【0030】
軟化剤とは、弾性体と相溶し、弾性体の組織内に均一に分散して、弾性体の結合を緩和する溶剤である。これにより、弾性体を軟化でき、低温での弾性体の粘着性を向上できる。軟化剤としては、溶剤タイプ、または非溶剤タイプを採用する。溶剤タイプとは、弾性体との相溶性が強く、弾性体分子の相互の滑りを起こし、塑性流動を促すタイプである。また、非溶剤タイプとは、相溶性が弱く組織内にコロイド粒子となって分散介在し、弾性体に一種の3次元網状構造を与えて潤滑性を与えるタイプである。軟化剤の具体例としては、液状ポリブテン、鉱油、液状ポリイソブチレン、液状ポリアクリル酸エステル等が挙げられる。なお、軟化剤は、添加量が多いと弾性体の分子間凝集力が低下する。
粘着付与剤とは、軟化した弾性体に粘着力を付与するものである。粘着付与剤の具体例としては、ロジンおよびロジン誘導体、ポリテルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、石油樹脂等が挙げられる。なお、粘着力の傾向は、被転写物の素材によって変化する。
【0031】
また、粘着層用インクは、充填剤、および老化防止剤を含む。
充填剤とは、粘着層用インクを増量させて粘着層用インクのコストを低減するものである。また、品質面では、凝集力の向上、耐熱性を付与するものである。充填剤の具体例としては、亜鉛華、チタン白、炭酸カルシューム、クレー、顔料等が挙げられる。
老化防止剤とは、粘着層用インクの酸化を防止するものである。老化防止剤の具体例としては、フェノール系の老化防止剤、またはアミン系の老化防止剤が挙げられる。
また、粘着層用インクは、他にも水、有機溶剤、および界面活性剤等を含む。
なお、C、M、Y、Kの各色のインク、剥離層用インク、および粘着層用インクを溶剤系のインクとする場合には、すべてのインクを同系統の溶剤系のインクとする。また、分散樹脂、樹脂エマルジョン、それらへの添加物は溶剤に溶解しないものを使用する。
【0032】
図1に戻り、制御部4は、図示しないCPU、ROM、RAM等を備え、インクジェットプリンタ1における各部および各機構等の全体を制御する。制御部4には、外部の機器10から被転写物に転写する画像等のデータを取り込むデータ取り込み部11、データ取り込み部11が取り込んだデータを吐出ヘッド6a、6b、6cにインクを吐出させるためのデータに変換するデータ変換部12、データ変換部12が変換したデータに基づいて、記録ヘッド5のピエゾ素子を制御するピエゾ素子制御部13、当該データに基づいて、紙送り機構2および印刷部3を制御するキャリッジ・紙送り制御部14が含まれる。
【0033】
(動作)
次に、インクジェットプリンタ1の動作について説明する。
図5は、積層物15を作成する際の、インクジェットプリンタ1の動作を示すフローチャートである。同図に示す動作は、基材Pが紙送り機構2で搬送されると開始される。積層物15とは、基材P、剥離層、インク層、および粘着層が積層してなるものである。
まず、ステップS101では、データ取り込み部11は、外部の機器10から被転写物に転写する画像を表す画像データ、または文字を表すテキストデータ取り込む。
【0034】
続いて、ステップS102では、データ変換部12は、前記ステップS101で取り込んだデータが画像データである場合には、まず、取り込んだ画像データが表す画像をシアン(C)成分のみからなる画像、マゼンタ(M)成分のみからなる画像、イエロー(Y)成分のみからなる画像、およびブラック(K)成分のみからなる画像に色分解する。続いて、データ変換部12は、色分解したシアン(C)成分のみからなる画像、マゼンタ(M)成分のみからなる画像、イエロー(Y)成分のみからなる画像、およびブラック(K)成分のみからなる画像をそれぞれシアン(C)の印刷データ、マゼンタ(M)の印刷データ、イエロー(Y)の印刷データ、およびブラック(K)の印刷データとする。
【0035】
一方、前記ステップS101で取り込んだデータがテキストデータである場合には、データ変換部12は、まず、取り込んだテキストデータが表す文字を黒色で表した画像を作成する。続いて、作成した画像をブラック(K)の印刷データとする。
続いて、ステップS103では、データ変換部12は、まず、前記ステップS102で作成した印刷データをもとに、基材Pに対して剥離層用インクを吐出する領域を設定する。設定する領域は、C、M、Y、Kの各色のインクが吐出される領域を内包し、かつより広い領域とする。続いて、データ変換部12は、設定した領域に、吐出ヘッド6aに剥離層用インクを吐出させるデータを作成し、作成したデータを剥離層の印刷データとする。
【0036】
続いて、データ変換部12は、前記ステップS102で作成した印刷データをもとに、基材Pに対して粘着層用インクを吐出する領域を設定する。設定する領域は、各色のインクが吐出される領域を内包するが、剥離層用インクを吐出する領域よりは狭い領域とする。続いて、データ変換部12は、設定した領域に、吐出ヘッド6cに粘着層用インクを吐出させるデータを作成し、作成したデータを粘着層の印刷データとする。
【0037】
続いて、ステップS104では、データ変換部12は、まず、前記ステップS103で作成した剥離層の印刷データから記録ヘッド5の1スキャン分の印刷データを抽出する。剥離層の印刷データから抽出する、記録ヘッド5の1スキャン分の印刷データとは、基材Pの上面のうちの、吐出ヘッド6aのノズル面が対向している部分、および記録ヘッド1が主搬送方向Yまたは主搬送方向Yの反対方向に移動された場合に吐出ヘッド6aのノズル面が将来対向する部分への、剥離層用インクの吐出を表すデータである。
【0038】
続いて、データ変換部12は、前記ステップS102で作成したC、M、Y、Kの各色の印刷データから記録ヘッド5の1スキャン分の印刷データを抽出する。各色の印刷データから抽出する、記録ヘッド5の1スキャン分の印刷データとは、基材Pの上面のうちの、吐出ヘッド6bのノズル面が対向している部分、および記録ヘッド1が主搬送方向Yまたは主搬送方向Yの反対方向に移動された場合に吐出ヘッド6bのノズル面が将来対向する部分への、C、M、Y、Kの各色のインクの吐出を表すデータである。
【0039】
続いて、データ変換部12は、前記ステップS103で作成した粘着層の印刷データから記録ヘッド5の1スキャン分の印刷データを抽出する。粘着層の印刷データから抽出する、記録ヘッド5の1スキャン分の印刷データとは、基材Pの上面のうちの、吐出ヘッド6cのノズル面が対向している部分、および記録ヘッド1が主搬送方向Yまたは主搬送方向Yの反対方向に移動された場合に吐出ヘッド6cのノズル面が将来対向する部分への、粘着層用インクの吐出を表すデータである。
図6は、剥離層用インクの吐出動作の説明図である。図6(a)の説明図は、インクジェットプリンタ1を上方から見た様子を表すものである。図6(b)の説明図は、図6(a)のA−A断面を側方から見た様子を表すものである。
【0040】
続いて、ステップS105では、ピエゾ素子制御部13は、図6に示すように、前記ステップS104で抽出した剥離層の印刷データをもとに、吐出ヘッド6aに剥離層用インクを吐出させる。剥離層用インクの吐出は、吐出ヘッド6aの主搬送方向Yまたは主搬送方向Yの反対方向への移動中に行う。これにより、基材Pの上面に、吐出ヘッド6aの副搬送方向X両端のノズル間距離に相当する幅の剥離層16が形成される。
図7は、C、M、Y、Kの各色のインクの吐出動作の説明図である。図7(a)の説明図は、インクジェットプリンタ1を上方から見た様子を表すものである。図7(b)の説明図は、図7(a)のA−A断面を側方から見た様子を表すものである。図7(c)の説明図は、図7(a)のB−B断面を側方から見た様子を表すものである。
【0041】
続いて、ステップS106では、ピエゾ素子制御部13は、図7に示すように、前記ステップS104で抽出した各色の印刷データをもとに、吐出ヘッド6bに各色のインクを吐出させる。各色のインクの吐出は、吐出ヘッド6bの主搬送方向Yまたは主搬送方向Yの反対方向への移動中に行う。これにより、基材Pの上面のうちの、剥離層用インクが吐出された部分に、吐出ヘッド6bの副搬送方向X両端のノズル間距離に相当する幅のインク層17、つまり、被転写物に転写する画像が形成される。
【0042】
図8は、粘着層用インクの吐出動作の説明図である。図8(a)の説明図は、インクジェットプリンタ1を上方から見た様子を表すものである。図8(b)の説明図は、図8(a)のA−A断面を側方から見た様子を表すものである。図8(c)の説明図は、図8(a)のB−B断面を側方から見た様子を表すものである。図8(c)の説明図は、図8(a)のC−C断面を側方から見た様子を表すものである。
【0043】
続いて、ステップS107では、ピエゾ素子制御部13は、図8に示すように、前記ステップS104で抽出した粘着層用印刷データをもとに、吐出ヘッド6cに粘着層用インクを吐出させる。粘着層用インクの吐出は、吐出ヘッド6cの主搬送方向Yまたは主搬送方向Yの反対方向への移動中に行う。これにより、基材Pの上面のうちの、剥離層用インクが吐出された部分(つまり、インク層用インクが吐出されていない部分)、または剥離層用インクおよびインク層用インクの両方が吐出された部分に、吐出ヘッド6cの副搬送方向X両端のノズル間距離に相当する幅の粘着層18が形成される。
【0044】
続いて、ステップS108では、データ変換部12は、前記ステップS102で作成した剥離層の印刷用データが表す範囲全体への剥離層用インクの吐出、C、M、Y、Kの各色の印刷データが表す画像を形成するための各色のインクの吐出、および粘着層の印刷データが表す範囲全体への粘着層用インクの吐出をすべて終えたか否かを判定する。そして、すべて終えたと判定した場合には(Yes)この演算処理を終了する。一方、すべては終えていないと判定した場合には(No)前記ステップS105に移行する。
【0045】
図9は、積層物15の概略を模式的に示す平面図である。
図9に示すように、インクジェットプリンタ1は、上記フローを繰り返すことで、基材P、剥離層16、インク層17、および粘着層18からなる積層物15を形成する。
図10は、本実施形態の比較例となる、インクジェットプリンタ1の動作を示すフローチャートである。この比較例のインクジェットプリンタ1は、積層物15の形成を行うものではなく、単に基材Pに画像を印刷するインクジェットプリンタである。同図に示す動作は、基材Pが紙送り機構2で搬送されると開始される。
【0046】
まず、ステップS201では、データ取り込み部11は、外部の機器10から基材Pに印刷する画像を表す画像データ、または文字を表すテキストデータ取り込む。
続いて、ステップS202では、データ変換部12は、前記ステップS201で取り込んだデータが画像データである場合には、まず、取り込んだ画像データが表す画像をシアン(C)成分のみからなる画像、マゼンタ(M)成分のみからなる画像、イエロー(Y)成分のみからなる画像、およびブラック(K)成分のみからなる画像に色分解する。続いて、データ変換部12は、色分解したシアン(C)成分のみからなる画像、マゼンタ(M)成分のみからなる画像、イエロー(Y)成分のみからなる画像、およびブラック(K)成分のみからなる画像をそれぞれシアン(C)の印刷データ、マゼンタ(M)の印刷データ、イエロー(Y)の印刷データ、およびブラック(K)の印刷データとする。
【0047】
一方、前記ステップS201で取り込んだデータがテキストデータである場合には、データ変換部12は、まず、取り込んだテキストデータが表す文字を黒色で表した画像を作成する。続いて、作成した画像をブラック(K)の印刷データとする。
続いて、ステップS203では、ピエゾ素子制御部13は、前記ステップS202で抽出した各色の印刷データをもとに、吐出ヘッド6bに各色のインクを吐出させる。各色のインクの吐出は、吐出ヘッド6bの主搬送方向Yと主搬送方向Yの反対方向とへの往復移動中に行う。これにより、基材Pの上面に、印刷対象である画像が印刷される。
【0048】
続いて、ステップS204では、データ変換部12は、前記ステップS202で作成した剥離層16の印刷用データが表す範囲全体への剥離層用インクの吐出、C、M、Y、Kの各色の印刷データが表す画像を形成するための各色のインクの吐出、および粘着層18の印刷データが表す範囲全体への粘着層用インクの吐出をすべて終えたか否かを判定する。そして、すべて終えたと判定した場合には(Yes)この演算処理を終了する。一方、すべては終えていないと判定した場合には(No)前記ステップS203に移行する。
【0049】
このように、本比較例のインクジェットプリンタ1では、基材Pの上面に対して、各色のインクを直接に吐出する。これにより、基材Pの上面に画像が印刷される。
これに対し、本実施形態のインクジェットプリンタ1では、基材Pの上面のうちの、各色のインクを吐出する部分に対して、当該各色のインクを吐出する前に、剥離層用インクを吐出する。また、基材Pの上面のうちの、各色のインクを吐出した部分に対して、粘着層用インクを吐出する。これにより、基材P等で積層物15が形成される。
【0050】
(転写手順)
次に、積層物17に形成した画像を被転写物へ転写する手順の例について説明する。
まず、作業者は、被転写物に対して、積層物15に形成した画像の貼り付け位置を決める。貼り付け位置の決定は、積層物15の粘着層18を被転写物側に向けて行う。
続いて、作業者は、積層物15の粘着層18を被転写物に貼り付ける。粘着層18を被転写物に貼り付ける方法としては、例えば、粘着層18が熱で硬化する樹脂を含む場合には、粘着層18を加熱する方式を採用できる。また、粘着層18が光で硬化する樹脂を含む場合には、粘着層18に光を照射する方式を採用できる。さらに、粘着層18が柔らかい樹脂を含む場合には、粘着層18に圧力を加える方式を採用できる。
【0051】
続いて、作業者は、積層物15の基材Pを剥がす。ここで、剥離層16と基材Pとの密着力は、被転写物と粘着層18との密着力、粘着層18とインク層17との密着力、インク層17と粘着層18との密着力よりも低い。それゆえ、積層物15の基材Pの一端を捲って引っ張ることで、剥離層16から基材Pのみが剥がれる。
これにより、被転写物に、粘着層18を介してインク層17が貼り付けられる。また、貼り付けられたインク層17は、剥離層16で覆われて保護される。
【0052】
このように、本実施形態では、基材Pの上面に対して、吐出ノズル6aから剥離層用インクを吐出する。続いて、基材Pの上面のうちの、剥離層用インクが吐出された部分に対して、吐出のズル6bから各色のインクを吐出する。続いて、基材Pの表面のうちの、各色のインクが吐出された部分に対して、吐出ノズル6cから、粘着層用インクを吐出する。これにより、基材Pの上面に剥離層16とインク層17と粘着層18とが順次積層される。そして、粘着層18を被転写物に貼り付け、基材Pを剥離することで、被転写物に画像を転写できる。その結果、特殊な用紙を用いずに、被転写物に画像を転写できる。
【0053】
なお、本実施形態では、剥離層用インクとして、剥離層用インクが形成する剥離層16と基材Pとの密着力が、被転写物と粘着層18との密着力、粘着層18とインク層17との密着力、インク層17と剥離層16との密着力のいずれよりも低いインクを採用する例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、剥離層用インクとして、剥離層用インクが形成する剥離層16とインク層17との密着力が、被転写物と粘着層18との密着力、粘着層18とインク層17との密着力、剥離層16と基材Pとの密着力よりも低いインクを採用する構成を採用することもできる。そのようにすれば、基材Pの端部を引っ張ることで、インク層17から基材Pおよび剥離層16を剥がすことができる。
本実施形態では、図1のスライドレール8、およびキャリッジモータ9が移動手段を構成する。また、図1の制御部4、データ取り込み部11、データ変換部12、ピエゾ素子制御部13、キャリッジ・紙送り制御部14が制御手段を構成する。
【0054】
(変形例)
なお、本実施形態では、インクジェットプリンタ1として、シリアルヘッド型インクジェットプリンタを用いる例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、基材Pの搬送方向と交差する方向に延在するヘッドを備えており、いわゆる1パスでの印刷が可能なラインヘッド型インクジェットプリンタを採用することもできる。
インクジェットプリンタ1として、ライン型インクジェットプリンタを採用した場合、記録ヘッド5は、液体を吐出する複数の吐出ヘッド19a、19b、19cを備えるものとしてもよい。これらの吐出ヘッド19a、19b、19cは、副搬送方向Xに分割されて、副搬送方向Xの上流側から順に、19a、19b、19cが配列されている。
【0055】
図11は、各吐出ヘッド19a、19b、19cの配列の説明図である。この説明図は、記録ヘッド5を下方から見た様子を表すものである。
図11に示すように、吐出ヘッド19a、19b、19cのノズル面には、インク滴を吐出する多数のノズルが形成されている。ノズル面とは、搬送される基材Pに対向する面である。具体的には、吐出ヘッド19aのノズル面には、主搬送方向Yに沿って配列された複数のノズルからなるノズル列が1列形成されている。このノズル列は、剥離層用インクを吐出可能となっている。そして、吐出ヘッド19aは、必要箇所のノズルから必要量のインク滴を同時に吐出することにより、基材Pの上面に微少なインクドットを形成する。インクジェットプリンタ1は、基材Pを副搬送方向Xに搬送させながらインクドットの形成を行う。これにより、基材Pを副搬送方向Xに送るだけで、吐出ヘッド19aの主搬送方向Y両端のノズル間距離に相当する幅の剥離層16を形成することができる。
【0056】
また、吐出ヘッド19bのノズル面には、主搬送方向Yに沿って配列された複数のノズルからなるノズル列が4列形成されている。これら4つのノズル列は、それぞれ異なる色のインクを吐出可能になっており、本実施形態では、副搬送方向Xの上流側から順に、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)のインクを吐出する。そして、吐出ヘッド19bは、色毎、即ちノズル列毎に、必要箇所のノズルから必要量のインク滴を同時に吐出することにより、基材Pの上面に微小なインクドットを形成する。インクジェットプリンタ1は、基材Pを副搬送方向Xに搬送させながらインクドットの形成を行う。これにより、基材Pを副搬送方向Xに送るだけで、吐出ヘッド19bの主搬送方向Y両端のノズル間距離に相当する幅のインク層16、つまり、画像を印刷することができる。
【0057】
また、吐出ヘッド19cのノズル面には、主搬送方向Yに沿って配列された複数のノズルからなるノズル列が1列形成されている。このノズル列は、粘着層用インクを吐出可能となっている。そして、吐出ヘッド19cは、必要箇所のノズルから必要量のインク滴を同時に吐出することにより、基材Pの上面に微少なインクドットを形成する。インクジェットプリンタ1は、基材Pを副搬送方向Xに搬送させながらインクドットの形成を行う。これにより、基材Pを副搬送方向Xに送るだけで、吐出ヘッド19cの主搬送方向Y両端のノズル間距離に相当する幅の粘着層18を形成することができる。
【0058】
このように、本実施形態では、複数の吐出ヘッド19a、19b、19cを配列して記録ヘッド5を構成するようにした。そのため、記録ヘッド5は、既存の吐出ヘッドを組み合わせることで構成でき、専用の記録ヘッドを作成する手間が不要となる。
図12、図13は、各吐出ヘッド19a、19b、19cの配列の変形例の説明図である。これらの説明図は、記録ヘッド5を下方から見た様子を表すものである。
なお、この変形例では、複数の吐出ヘッド19a、19b、19cを配列して記録ヘッド5を構成する例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、図12に示すように、吐出ヘッド19a、19b、19cを一体としてもよい。これにより、複数の吐出ヘッド19a、19b、19cを配列する方法に比べ、記録ヘッド5を小型化できる。
【0059】
また、例えば、図13に示すように、吐出ヘッド19a、19b、19cを、それぞれ複数の吐出ヘッド20a、20b、20cで形成してもよい。具体的には、吐出ヘッド19aを、主搬送方向Yに沿って配列された複数の吐出ヘッド20aからなる2列のヘッド列で形成する。また、各列の吐出ヘッド20aを、それぞれが主搬送方向Yに分割されて各吐出ヘッド20aを組み合わせた全体が平面視で千鳥状になるように、即ち主搬送方向Yに沿って副搬送方向Xの上流側および下流側に交互に配置する。
【0060】
また、吐出ヘッド19bを、主搬送方向Yに沿って配列された複数の吐出ヘッド20aからなる1列のヘッド列で形成する。また、各列の吐出ヘッド20bを、それぞれのノズル列が主搬送方向Yと傾いた同一方向に沿うように配置する。
さらに、吐出ヘッド19cを、主搬送方向Yに沿って配列された複数の吐出ヘッド20cからなる2列のヘッド列で形成する。また、複数の吐出ヘッド20aと同様に、各列の吐出ヘッド20cを、それぞれが主搬送方向Yに分割されて各吐出ヘッド20cを組み合わせた全体が平面視で千鳥状になるように、即ち主搬送方向Yに沿って副搬送方向Xの上流側および下流側に交互に配置する。これにより、記録ヘッド5は、既存の吐出ヘッドで構成でき、専用のヘッドを作成する手間が不要となる。
【符号の説明】
【0061】
1…インクジェットプリンタ、2…紙送り機構、3…印刷部、4…制御部、5…ヘッド、6a、6b、6c…吐出ヘッド、7…キャリッジ、8…スライドレール、9…キャリッジモータ、10…外部の機器、11…データ取り込み部、12…データ変換部、13…ピエゾ素子制御部、14…キャリッジ・紙送り制御部、15…積層物、16…剥離層、17…インク層、18…粘着層、19a、19b、19c…吐出ヘッド、20a、20b、20c…吐出ヘッド
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像記録装置、および画像記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットプリンタ等の画像記録装置において、被転写物に対し、画像記録装置で形成した画像を転写するための様々な技術が提案されている。
例えば、下記の特許文献1に記載されている技術では、まず、紙基材に水溶性糊料と接着剤層と合成樹脂層と吸水性樹脂層とを順次積層してなる第1転写用紙、およびシート状基材に剥離層と熱可塑性樹脂層とを順次積層してなる第2転写用紙を準備する。続いて、第1転写用紙の吸水性樹脂層にインクジェットプリンタで水性インク画像を形成する。続いて、第2転写用紙の熱可塑性樹脂層を、第1転写用紙の吸水性樹脂層に重合して加熱圧着する。続いて、紙基材側から水性糊料に対して水を含侵させて紙基材を剥離する。続いて、接着剤層に被転写物を重合圧着する。続いて、シート状基材を剥離することによって、インクジェットプリンタで形成した画像の転写が完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−264597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の記載の技術では、第1転写用紙や第2転写用紙といった特殊な用紙を用いていた。それゆえ、特殊な用紙の準備に多くの費用がかかってしまい、画像の転写にかかる費用が高いものとなる可能性があった。
本発明は、上記のような点に着目し、特殊な用紙を用いずに、画像を転写可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、
基材に対してインクを吐出する第1ノズル、第2ノズル、および第3ノズルを有する記録ヘッドと、前記基材および前記記録ヘッドの少なくとも一方を前記基材の表面と平行な面内で移動させる移動手段と、前記記録ヘッドおよび前記移動手段の動作を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記基材の表面に対して、前記基材と前記第2ノズルが吐出するインクが形成する層との少なくとも一方から剥離可能な剥離層を形成する剥離層用インクを前記第1ノズルから吐出し、前記基材の表面のうちの、前記剥離層用インクが吐出された部分に対して、被転写物に転写する画像を形成するインク層を形成するインク層用インクを前記第2ノズルから吐出し、前記基材の表面のうちの、前記インク層用インクが吐出された部分に対して、前記被転写物に貼着可能な粘着力を有する粘着層を形成する粘着層用インクを前記第3ノズルから吐出することを特徴とする。
【0006】
このような構成によれば、まず、第1ノズルによって、基材の表面に剥離層用インクが吐出される。続いて、第2ノズルによって、基材の表面のうちの、剥離層用インクが吐出された部分にインク層用インクが吐出される。続いて、第3ノズルによって、基材の表面のうちの、インク層用インクが吐出された部分に粘着層用インクが吐出される。これにより、基材の表面に剥離層とインク層と粘着層とが順次積層される。それゆえ、粘着層を被転写物に貼り付け、その後、基材を剥離することで、被転写物に画像を転写できる。
その結果、特殊な用紙を用いずに、被転写物に画像を転写できる。
【0007】
本発明の他の態様は、
前記記録ヘッドは、前記剥離層用インクとして、当該剥離層用インクが形成する前記剥離層と前記インク層との密着力が前記インク層と前記粘着層との密着力よりも低いインクを前記第1ノズルから吐出することを特徴とする。
このような構成によれば、粘着層を被転写物に貼り付けた後、基材を捲って引っ張ることで、基材、剥離層、インク層、および粘着層からなる積層物が、インク層と剥離層との境界面で分離する。これにより、インク層、つまり、転写する画像が表面に現れる。
【0008】
本発明の他の態様は、
前記記録ヘッドは、前記剥離層用インクとして、当該剥離層用インクが形成する前記剥離層と前記基材との密着力が前記インク層と前記粘着層との密着力よりも低いインクを前記第1ノズルから吐出することを特徴とする。
このような構成によれば、粘着層を被転写物に貼り付けた後、基材を捲って引っ張ることで、基材、剥離層、インク層、および粘着層からなる積層物が、剥離層と基材との境界面で分離する。これにより、剥離層で覆われて保護されたインク層が表面に現れる。
【0009】
本発明の他の態様は、
前記記録ヘッドは、前記剥離層用インクとして、設定した温度よりもガラス転移温度の高い樹脂を含むインクを前記第1ノズルから吐出することを特徴とする。
このような構成によれば、剥離層用インクで形成される剥離層の固さを増大できる。これにより、剥離層と基材との密着力を容易に低減できる。
【0010】
本発明の他の態様は、
基材の表面に対して、前記基材と記録ヘッドの第2ノズルが吐出するインクが形成する層との少なくとも一方から剥離可能な剥離層を形成する剥離層用インクを前記記録ヘッドの第1ノズルから吐出する第1工程と、前記第1工程によって形成された前記剥離層の表面に対して、被転写物に転写する画像を形成するインク層を形成するインク層用インクを前記記録ヘッドの前記第2ノズルから吐出する第2工程と、前記第2工程によって形成された前記インク層の表面に対して、前記被転写物に貼付可能な粘着力を有する粘着層を形成する粘着層用インクを前記記録ヘッドの第3ノズルから吐出する第3工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、まず、第1ノズルによって、基材の表面に剥離層用インクが吐出される。続いて、第2ノズルによって、基材の表面のうちの、剥離層用インクが吐出された部分にインク層用インクが吐出される。続いて、第3ノズルによって、基材の表面のうちの、インク層用インクが吐出された部分に粘着層用インクが吐出される。これにより、基材の表面に剥離層とインク層と粘着層とが順次積層される。それゆえ、粘着層を被転写物に貼り付け、その後、基材を剥離することで、被転写物に画像を転写できる。
その結果、特殊な用紙を用いずに、被転写物に画像を転写できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】インクジェットプリンタ1の概略を模式的に示す平面図である。
【図2】各吐出ヘッド6a、6b、6cの配列の説明図である。
【図3】各吐出ヘッド6a、6b、6cの配列の変形例の説明図である。
【図4】各吐出ヘッド6a、6b、6cの配列の変形例の説明図である。
【図5】積層物15を作成する際の、インクジェットプリンタ1の動作を示すフローチャートである。
【図6】剥離層用インクの吐出動作の説明図である。
【図7】C、M、Y、Kの各色のインクの吐出動作の説明図である。
【図8】粘着層用インクの吐出動作の説明図である。
【図9】積層物15の概略を模式的に示す平面図である。
【図10】本実施形態の比較例となる、インクジェットプリンタ1の動作を示すフローチャートである。
【図11】各吐出ヘッド19a、19b、19cの配列の説明図である。
【図12】各吐出ヘッド19a、19b、19cの配列の変形例の説明図である。
【図13】各吐出ヘッド19a、19b、19cの配列の変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態では、インクジェット用紙等の基材Pに対し、被転写物に転写する画像等を形成するインクジェットプリンタ1に本発明を適用した例について説明する。本実施形態のインクジェットプリンタ1は、基材Pの搬送方向と交差する方向に記録ヘッド5を移動させて画像の形成等を行うシリアルヘッド型インクジェットプリンタである。
被転写物としては、例えば、服地、和紙、ダンボール、上質紙、コート紙、印刷本紙、ポリマーシート、プラスチック製品、皮製品、ゴム、金属、塗装面、メッキ面、コーティング面、皮膚、ガラス、陶器、およびセラミック等が挙げられる。
【0014】
(構成)
図1は、インクジェットプリンタ1の概略を模式的に示す平面図である。
図1に示すように、インクジェットプリンタ1は、基材Pを搬送する紙送り機構2、紙送り機構2によって搬送される基材Pに対してインクを吐出する印刷部3、および、紙送り機構2および印刷部3の動作を制御する制御部4を備える。ここで、基材Pとは、インクジェット用紙等のインクを吸収し易い材質からなるものである。
【0015】
なお、以降の説明では、インクジェットプリンタ1における基材Pの搬送方向を副搬送方向Xと称し、副搬送方向Xに正対して右方向を主搬送方向Yと称する。主搬送方向Xおよび副搬送方向Yは、基材Pの上面と平行な面内に設定する。
紙送り機構2は、副搬送方向Xの上流側に配された図示しない紙送りローラ、および紙送りローラの下方に一定距離を隔てて平行に対向配置された図示しない従動ローラを備える。そして、紙送りローラおよび従動ローラの間に基材Pを挟み込み、紙送りローラを図示しない紙送りモータで回転させることにより、基材Pを副搬送方向Xに搬送する。
【0016】
一方、印刷部3は、副搬送方向Xの下流側に配設された記録ヘッド5を備える。
記録ヘッド5は、液体を吐出する複数の吐出ヘッド6a、6b、6cをキャリッジ7に備える。これらの吐出ヘッド6a、6b、6cは、副搬送方向Xに分割されて、副搬送方向Xの上流側から順に、6a、6b、6cが配列されている。
また、印刷部3は、主搬送方向Yに沿って摺動可能に記録ヘッド5を支持するスライドレール8、および記録ヘッド5を主搬送方向Yと主搬送方向Yの反対方向とに往復移動させる動力を発生するキャリッジモータ9を備える。そして、キャリッジモータ9を駆動することにより、記録ヘッド5をスライドレール8に従って主搬送方向Yに沿って摺動させ、記録ヘッド5を主搬送方向Yと主搬送方向Yの反対方向とに往復移動させる。
【0017】
図2は、各吐出ヘッド6a、6b、6cの配列の説明図である。この説明図は、記録ヘッド5を下方から見た様子を表すものである。
図2に示すように、吐出ヘッド6a、6b、6cのノズル面には、インク滴を吐出する多数のノズルが形成されている。ノズル面とは、搬送される基材Pに対向する面である。具体的には、吐出ヘッド6aのノズル面には、副搬送方向Xに沿って配列された複数のノズルからなるノズル列が1列形成されている。このノズル列は、基材Pから剥離可能な剥離層を形成する剥離層用インクを吐出可能となっている。剥離層用インクとしては、剥離層用インクが形成する剥離層と基材Pとの密着力が、被転写物と後述する粘着層との密着力、粘着層と後述するインク層との密着力、およびインク層と剥離層との密着力のいずれよりも低いインクを採用する。そして、吐出ヘッド6aは、必要箇所のノズルから必要量のインク滴を同時に吐出することにより、基材Pの上面に微少なインクドットを形成する。インクジェットプリンタ1は、吐出ヘッド6aを主搬送方向Yと主搬送方向Yの反対方向とに往復移動させながらインクドットの形成を行う。これにより、吐出ヘッド6aの副搬送方向X両端のノズル間距離に相当する幅の剥離層を形成することができる。
【0018】
また、吐出ヘッド6bのノズル面には、副搬送方向Xに沿って配列された複数のノズルからなるノズル列が4列形成されている。これら4つのノズル列は、それぞれ異なる色のインクを吐出可能になっており、本実施形態では、主搬送方向Yの上流側から順に、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)のインクを吐出する。そして、吐出ヘッド6bは、色毎、即ちノズル列毎に、必要箇所のノズルから必要量のインク滴を同時に吐出することにより、基材Pの上面のうちの、剥離層用インクが吐出された部分に微小なインクドットを形成する。インクジェットプリンタ1は、吐出ヘッド6bを主搬送方向Yと主搬送方向Yの反対方向とに往復移動させながらインクドットの形成を行う。これにより、吐出ヘッド6bの副搬送方向X両端のノズル間距離に相当する幅のインク層を形成することができる。インク層とは、被転写物に転写する画像を形成された層であり、C、M、Y、Kの各色のインクによって形成されるものである。
【0019】
また、吐出ヘッド6cのノズル面には、副搬送方向Xに沿って配列された複数のノズルからなるノズル列が1列形成されている。このノズル列は、被転写物に貼着可能な粘着力を有する粘着層を形成する粘着層用インクを吐出可能となっている。そして、吐出ヘッド6cは、必要箇所のノズルから必要量のインク滴を同時に吐出することにより、基材Pの上面のうちの、剥離層用インクが吐出された部分、または剥離層用インクおよびインク層用インクの両方が吐出された部分に微少なインクドットを形成する。インクジェットプリンタ1は、吐出ヘッド6cを主搬送方向Yと主搬送方向Yの反対方向とに往復移動させながらインクドットの形成を行う。これにより、吐出ヘッド6cの副搬送方向X両端のノズル間距離に相当する幅の粘着層を形成することができる。
【0020】
なお、ノズルからインクを吐出する方式は、ピエゾ方式を採用する。ピエゾ方式とは、ピエゾ素子に駆動パルスを与えてキャビティ内の振動板を変位させ、これによって生じるキャビティ内の圧力変化によってインク滴を吐出する方式である。
このように、本実施形態では、複数の吐出ヘッド6a、6b、6cを副搬送方向Xに配列して記録ヘッド5を構成するようにした。そのため、記録ヘッド5は、既存の吐出ヘッドを組み合わせることで構成でき、専用の記録ヘッドを作成する手間が不要となる。
【0021】
図3、図4は、各吐出ヘッド6a、6b、6cの配列の変形例の説明図である。これらの説明図は、記録ヘッド5を下方から見た様子を表すものである。
なお、本実施形態では、複数の吐出ヘッド6a、6b、6cを副搬送方向Xに配列して記録ヘッド5を構成する例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、図3に示すように、吐出ヘッド6a、6b、6cを一体としてもよい。これにより、複数の吐出ヘッド6a、6b、6cを配列する方法に比べ、記録ヘッド5を小型化できる。
【0022】
また、例えば、図4に示すように、副搬送方向Xに沿って配列された複数のノズルからなるノズル列が6列形成されたものとしてもよい。これら6つのノズル列は、それぞれ異なるインクを吐出可能になっており、主搬送方向Yの上流側から順に、剥離層用インク、C、M、Y、Kの各色のインク、粘着層用インクを吐出する。これにより、記録ヘッド5は、既存の記録ヘッドで構成でき、専用の記録ヘッドを作成する手間が不要となる。
【0023】
C、M、Y、Kの各色のインクは、顔料、および顔料を分散する分散樹脂を含む。
マゼンタ(M)の顔料の具体例としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、7、12、17、22(ブリリアントファーストスカーレット)等が挙げられる。シアン(C)の顔料の具体例としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15(フタロシアニンブルーR)、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルーG)等が挙げられる。イエロー(Y)の顔料の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG)、2、3、12(ジスアゾイエローAAA)等が挙げられる。ブラック(K)の顔料の具体例としては、ファーネスブラック、ランブブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)等が挙げられる。
【0024】
分散樹脂としては、水に対して自己分散能または溶解能を有し、かつアニオン性基(酸性)もしくはカチオン性基(アルカリ性)を有するものを用いる。分散樹脂の具体例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニル系、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等のポリエステル系、メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共縮合樹脂、尿素樹脂等のアミノ系の材料;熱可塑性、熱硬化性あるいは変性のアクリル系、エポキシ系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ポリアミド系、不飽和ポリエステル系、フェノール系、シリコーン系、フッ素系高分子化合物、あるいはそれらの共重合体または混合物等のアニオン性基もしくはカチオン性基を有する材料等が挙げられる。分散樹脂の粒子表面の親水基としては、カルボン酸基、硫酸基、硝酸基、水酸基、アミン基等が挙げられる。
【0025】
また、各色のインクは、他にも水、有機溶剤、および界面活性剤等を含む。
剥離層用インクは、C、M、Y、Kの各色のインク、つまり、通常のインクの顔料に代えて、分散樹脂で被覆した透明な粒子、または樹脂エマルジョンを含む。
透明な粒子としては、無機物からなる粒子、または有機物からなる粒子を採用する。無機物からなる粒子の具体例としては、シリカ、およびアルミナ等の粒子等が挙げられる。また、有機物からなる粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4-メチルペンテン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、シクロオレフィンポリマー、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂、アクリル酸エステル樹脂、これらの樹脂を含むブレンドポリマー、およびこれらの樹脂に使用されるモノマーを一部に含む共重合ポリマー等が挙げられる。また、透明な粒子には、紫外線吸収剤や酸化防止剤等を添加する。これにより、剥離層用インクで形成される剥離層の紫外線吸収機能を向上でき、被転写物に画像を転写した場合に、剥離層でインク層や粘着層が覆われるようにすることで、インク層や粘着層の耐候性を向上できる。
【0026】
分散樹脂としては、C、M、Y、Kの各色のインクと同様に、水に対して自己分散能または溶解能を有し、かつアニオン性基(酸性)もしくはカチオン性基(アルカリ性)を有するものを用いる。分散樹脂の具体例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニル系、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等のポリエステル系、メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共縮合樹脂、尿素樹脂等のアミノ系の材料;熱可塑性、熱硬化性あるいは変性のアクリル系、エポキシ系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ポリアミド系、不飽和ポリエステル系、フェノール系、シリコーン系、フッ素系高分子化合物、あるいはそれらの共重合体または混合物等のアニオン性基もしくはカチオン性基を有する材料等が挙げられる。
【0027】
ここで、分散樹脂のガラス転移温度は、−10℃〜180℃の範囲とする。特に、15℃〜65℃の範囲とするのが望ましい。すなわち、分散樹脂としては、設定した温度(例えば、被転写物への転写作業を行う場所で予想される大気の温度)よりもガラス転移温度が高い樹脂を用いる。これにより、剥離層用インクで形成される剥離層の固さを増大でき、剥離層と基材Pとの密着力を容易に低減できる。また、分散樹脂の平均粒子系は、0.05〜5μmとする。さらに、分散樹脂の粒子表面の親水基としては、カルボン酸基、硫酸基、硝酸基、水酸基、アミン基等が挙げられる。
樹脂エマルジョンとしては、透明な水難溶性または水不溶性の樹脂が微粒子状に水溶液に分散してなるものを採用する。水難溶性または水不溶性の樹脂の具体例としては、分散樹脂と同じ特性および大きさを有する天然高分子または合成高分子を採用する。また、樹脂エマルジョンには、紫外線吸収剤、および酸化防止剤等を添加することができる。
【0028】
また、剥離層用インクは、他にも水、有機溶剤、および界面活性剤等を含む。
粘着層用インクは、C、M、Y、Kの各色のインク、つまり、通常のインクの顔料に代えて、常温で粘着性のある樹脂を分散樹脂でコートした粒子、後処理の加熱温度で粘着性を発生する樹脂を分散樹脂でコートした粒子、または樹脂エマルジョンを含む。
分散樹脂、および樹脂エマルジョンの特性は、剥離層用インクの分散樹脂、および樹脂エマルジョンの特性と同様とする。但し、分散樹脂、および樹脂エマルジョンのガラス転移温度は、−80℃〜90℃の範囲とする。特に、−35℃〜90℃の範囲とするのが望ましい。また、平均粒子系は、0.05〜5μmの範囲とする。
【0029】
分散樹脂、樹脂エマルジョンとしては、弾性体、または高分子物質を採用する。弾性体の具体例としては、天然ゴム、合成イソプレンゴム、およびスチレン-イソプレン-スチレンゴムポリイソプレンゴム等が挙げられる。特に、ガラス転移温度が低いものが望ましい。これにより、寒暖の差による弾性体の粘着力への影響を低減できる。高分子物質の具体例としては、ポリアクリル酸エステル、その共重合体、およびシリコン系樹脂等が挙げられる。なお、弾性体として、ガラス転移温度が低いものを用いた場合、弾性体の分子間凝集力が低減し、弾性体の粘着力が低減する。それゆえ、弾性体には、軟化剤で軟らかくした後粘着付与剤を添加する。これにより、弾性体が粘着力を発現できる。
【0030】
軟化剤とは、弾性体と相溶し、弾性体の組織内に均一に分散して、弾性体の結合を緩和する溶剤である。これにより、弾性体を軟化でき、低温での弾性体の粘着性を向上できる。軟化剤としては、溶剤タイプ、または非溶剤タイプを採用する。溶剤タイプとは、弾性体との相溶性が強く、弾性体分子の相互の滑りを起こし、塑性流動を促すタイプである。また、非溶剤タイプとは、相溶性が弱く組織内にコロイド粒子となって分散介在し、弾性体に一種の3次元網状構造を与えて潤滑性を与えるタイプである。軟化剤の具体例としては、液状ポリブテン、鉱油、液状ポリイソブチレン、液状ポリアクリル酸エステル等が挙げられる。なお、軟化剤は、添加量が多いと弾性体の分子間凝集力が低下する。
粘着付与剤とは、軟化した弾性体に粘着力を付与するものである。粘着付与剤の具体例としては、ロジンおよびロジン誘導体、ポリテルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、石油樹脂等が挙げられる。なお、粘着力の傾向は、被転写物の素材によって変化する。
【0031】
また、粘着層用インクは、充填剤、および老化防止剤を含む。
充填剤とは、粘着層用インクを増量させて粘着層用インクのコストを低減するものである。また、品質面では、凝集力の向上、耐熱性を付与するものである。充填剤の具体例としては、亜鉛華、チタン白、炭酸カルシューム、クレー、顔料等が挙げられる。
老化防止剤とは、粘着層用インクの酸化を防止するものである。老化防止剤の具体例としては、フェノール系の老化防止剤、またはアミン系の老化防止剤が挙げられる。
また、粘着層用インクは、他にも水、有機溶剤、および界面活性剤等を含む。
なお、C、M、Y、Kの各色のインク、剥離層用インク、および粘着層用インクを溶剤系のインクとする場合には、すべてのインクを同系統の溶剤系のインクとする。また、分散樹脂、樹脂エマルジョン、それらへの添加物は溶剤に溶解しないものを使用する。
【0032】
図1に戻り、制御部4は、図示しないCPU、ROM、RAM等を備え、インクジェットプリンタ1における各部および各機構等の全体を制御する。制御部4には、外部の機器10から被転写物に転写する画像等のデータを取り込むデータ取り込み部11、データ取り込み部11が取り込んだデータを吐出ヘッド6a、6b、6cにインクを吐出させるためのデータに変換するデータ変換部12、データ変換部12が変換したデータに基づいて、記録ヘッド5のピエゾ素子を制御するピエゾ素子制御部13、当該データに基づいて、紙送り機構2および印刷部3を制御するキャリッジ・紙送り制御部14が含まれる。
【0033】
(動作)
次に、インクジェットプリンタ1の動作について説明する。
図5は、積層物15を作成する際の、インクジェットプリンタ1の動作を示すフローチャートである。同図に示す動作は、基材Pが紙送り機構2で搬送されると開始される。積層物15とは、基材P、剥離層、インク層、および粘着層が積層してなるものである。
まず、ステップS101では、データ取り込み部11は、外部の機器10から被転写物に転写する画像を表す画像データ、または文字を表すテキストデータ取り込む。
【0034】
続いて、ステップS102では、データ変換部12は、前記ステップS101で取り込んだデータが画像データである場合には、まず、取り込んだ画像データが表す画像をシアン(C)成分のみからなる画像、マゼンタ(M)成分のみからなる画像、イエロー(Y)成分のみからなる画像、およびブラック(K)成分のみからなる画像に色分解する。続いて、データ変換部12は、色分解したシアン(C)成分のみからなる画像、マゼンタ(M)成分のみからなる画像、イエロー(Y)成分のみからなる画像、およびブラック(K)成分のみからなる画像をそれぞれシアン(C)の印刷データ、マゼンタ(M)の印刷データ、イエロー(Y)の印刷データ、およびブラック(K)の印刷データとする。
【0035】
一方、前記ステップS101で取り込んだデータがテキストデータである場合には、データ変換部12は、まず、取り込んだテキストデータが表す文字を黒色で表した画像を作成する。続いて、作成した画像をブラック(K)の印刷データとする。
続いて、ステップS103では、データ変換部12は、まず、前記ステップS102で作成した印刷データをもとに、基材Pに対して剥離層用インクを吐出する領域を設定する。設定する領域は、C、M、Y、Kの各色のインクが吐出される領域を内包し、かつより広い領域とする。続いて、データ変換部12は、設定した領域に、吐出ヘッド6aに剥離層用インクを吐出させるデータを作成し、作成したデータを剥離層の印刷データとする。
【0036】
続いて、データ変換部12は、前記ステップS102で作成した印刷データをもとに、基材Pに対して粘着層用インクを吐出する領域を設定する。設定する領域は、各色のインクが吐出される領域を内包するが、剥離層用インクを吐出する領域よりは狭い領域とする。続いて、データ変換部12は、設定した領域に、吐出ヘッド6cに粘着層用インクを吐出させるデータを作成し、作成したデータを粘着層の印刷データとする。
【0037】
続いて、ステップS104では、データ変換部12は、まず、前記ステップS103で作成した剥離層の印刷データから記録ヘッド5の1スキャン分の印刷データを抽出する。剥離層の印刷データから抽出する、記録ヘッド5の1スキャン分の印刷データとは、基材Pの上面のうちの、吐出ヘッド6aのノズル面が対向している部分、および記録ヘッド1が主搬送方向Yまたは主搬送方向Yの反対方向に移動された場合に吐出ヘッド6aのノズル面が将来対向する部分への、剥離層用インクの吐出を表すデータである。
【0038】
続いて、データ変換部12は、前記ステップS102で作成したC、M、Y、Kの各色の印刷データから記録ヘッド5の1スキャン分の印刷データを抽出する。各色の印刷データから抽出する、記録ヘッド5の1スキャン分の印刷データとは、基材Pの上面のうちの、吐出ヘッド6bのノズル面が対向している部分、および記録ヘッド1が主搬送方向Yまたは主搬送方向Yの反対方向に移動された場合に吐出ヘッド6bのノズル面が将来対向する部分への、C、M、Y、Kの各色のインクの吐出を表すデータである。
【0039】
続いて、データ変換部12は、前記ステップS103で作成した粘着層の印刷データから記録ヘッド5の1スキャン分の印刷データを抽出する。粘着層の印刷データから抽出する、記録ヘッド5の1スキャン分の印刷データとは、基材Pの上面のうちの、吐出ヘッド6cのノズル面が対向している部分、および記録ヘッド1が主搬送方向Yまたは主搬送方向Yの反対方向に移動された場合に吐出ヘッド6cのノズル面が将来対向する部分への、粘着層用インクの吐出を表すデータである。
図6は、剥離層用インクの吐出動作の説明図である。図6(a)の説明図は、インクジェットプリンタ1を上方から見た様子を表すものである。図6(b)の説明図は、図6(a)のA−A断面を側方から見た様子を表すものである。
【0040】
続いて、ステップS105では、ピエゾ素子制御部13は、図6に示すように、前記ステップS104で抽出した剥離層の印刷データをもとに、吐出ヘッド6aに剥離層用インクを吐出させる。剥離層用インクの吐出は、吐出ヘッド6aの主搬送方向Yまたは主搬送方向Yの反対方向への移動中に行う。これにより、基材Pの上面に、吐出ヘッド6aの副搬送方向X両端のノズル間距離に相当する幅の剥離層16が形成される。
図7は、C、M、Y、Kの各色のインクの吐出動作の説明図である。図7(a)の説明図は、インクジェットプリンタ1を上方から見た様子を表すものである。図7(b)の説明図は、図7(a)のA−A断面を側方から見た様子を表すものである。図7(c)の説明図は、図7(a)のB−B断面を側方から見た様子を表すものである。
【0041】
続いて、ステップS106では、ピエゾ素子制御部13は、図7に示すように、前記ステップS104で抽出した各色の印刷データをもとに、吐出ヘッド6bに各色のインクを吐出させる。各色のインクの吐出は、吐出ヘッド6bの主搬送方向Yまたは主搬送方向Yの反対方向への移動中に行う。これにより、基材Pの上面のうちの、剥離層用インクが吐出された部分に、吐出ヘッド6bの副搬送方向X両端のノズル間距離に相当する幅のインク層17、つまり、被転写物に転写する画像が形成される。
【0042】
図8は、粘着層用インクの吐出動作の説明図である。図8(a)の説明図は、インクジェットプリンタ1を上方から見た様子を表すものである。図8(b)の説明図は、図8(a)のA−A断面を側方から見た様子を表すものである。図8(c)の説明図は、図8(a)のB−B断面を側方から見た様子を表すものである。図8(c)の説明図は、図8(a)のC−C断面を側方から見た様子を表すものである。
【0043】
続いて、ステップS107では、ピエゾ素子制御部13は、図8に示すように、前記ステップS104で抽出した粘着層用印刷データをもとに、吐出ヘッド6cに粘着層用インクを吐出させる。粘着層用インクの吐出は、吐出ヘッド6cの主搬送方向Yまたは主搬送方向Yの反対方向への移動中に行う。これにより、基材Pの上面のうちの、剥離層用インクが吐出された部分(つまり、インク層用インクが吐出されていない部分)、または剥離層用インクおよびインク層用インクの両方が吐出された部分に、吐出ヘッド6cの副搬送方向X両端のノズル間距離に相当する幅の粘着層18が形成される。
【0044】
続いて、ステップS108では、データ変換部12は、前記ステップS102で作成した剥離層の印刷用データが表す範囲全体への剥離層用インクの吐出、C、M、Y、Kの各色の印刷データが表す画像を形成するための各色のインクの吐出、および粘着層の印刷データが表す範囲全体への粘着層用インクの吐出をすべて終えたか否かを判定する。そして、すべて終えたと判定した場合には(Yes)この演算処理を終了する。一方、すべては終えていないと判定した場合には(No)前記ステップS105に移行する。
【0045】
図9は、積層物15の概略を模式的に示す平面図である。
図9に示すように、インクジェットプリンタ1は、上記フローを繰り返すことで、基材P、剥離層16、インク層17、および粘着層18からなる積層物15を形成する。
図10は、本実施形態の比較例となる、インクジェットプリンタ1の動作を示すフローチャートである。この比較例のインクジェットプリンタ1は、積層物15の形成を行うものではなく、単に基材Pに画像を印刷するインクジェットプリンタである。同図に示す動作は、基材Pが紙送り機構2で搬送されると開始される。
【0046】
まず、ステップS201では、データ取り込み部11は、外部の機器10から基材Pに印刷する画像を表す画像データ、または文字を表すテキストデータ取り込む。
続いて、ステップS202では、データ変換部12は、前記ステップS201で取り込んだデータが画像データである場合には、まず、取り込んだ画像データが表す画像をシアン(C)成分のみからなる画像、マゼンタ(M)成分のみからなる画像、イエロー(Y)成分のみからなる画像、およびブラック(K)成分のみからなる画像に色分解する。続いて、データ変換部12は、色分解したシアン(C)成分のみからなる画像、マゼンタ(M)成分のみからなる画像、イエロー(Y)成分のみからなる画像、およびブラック(K)成分のみからなる画像をそれぞれシアン(C)の印刷データ、マゼンタ(M)の印刷データ、イエロー(Y)の印刷データ、およびブラック(K)の印刷データとする。
【0047】
一方、前記ステップS201で取り込んだデータがテキストデータである場合には、データ変換部12は、まず、取り込んだテキストデータが表す文字を黒色で表した画像を作成する。続いて、作成した画像をブラック(K)の印刷データとする。
続いて、ステップS203では、ピエゾ素子制御部13は、前記ステップS202で抽出した各色の印刷データをもとに、吐出ヘッド6bに各色のインクを吐出させる。各色のインクの吐出は、吐出ヘッド6bの主搬送方向Yと主搬送方向Yの反対方向とへの往復移動中に行う。これにより、基材Pの上面に、印刷対象である画像が印刷される。
【0048】
続いて、ステップS204では、データ変換部12は、前記ステップS202で作成した剥離層16の印刷用データが表す範囲全体への剥離層用インクの吐出、C、M、Y、Kの各色の印刷データが表す画像を形成するための各色のインクの吐出、および粘着層18の印刷データが表す範囲全体への粘着層用インクの吐出をすべて終えたか否かを判定する。そして、すべて終えたと判定した場合には(Yes)この演算処理を終了する。一方、すべては終えていないと判定した場合には(No)前記ステップS203に移行する。
【0049】
このように、本比較例のインクジェットプリンタ1では、基材Pの上面に対して、各色のインクを直接に吐出する。これにより、基材Pの上面に画像が印刷される。
これに対し、本実施形態のインクジェットプリンタ1では、基材Pの上面のうちの、各色のインクを吐出する部分に対して、当該各色のインクを吐出する前に、剥離層用インクを吐出する。また、基材Pの上面のうちの、各色のインクを吐出した部分に対して、粘着層用インクを吐出する。これにより、基材P等で積層物15が形成される。
【0050】
(転写手順)
次に、積層物17に形成した画像を被転写物へ転写する手順の例について説明する。
まず、作業者は、被転写物に対して、積層物15に形成した画像の貼り付け位置を決める。貼り付け位置の決定は、積層物15の粘着層18を被転写物側に向けて行う。
続いて、作業者は、積層物15の粘着層18を被転写物に貼り付ける。粘着層18を被転写物に貼り付ける方法としては、例えば、粘着層18が熱で硬化する樹脂を含む場合には、粘着層18を加熱する方式を採用できる。また、粘着層18が光で硬化する樹脂を含む場合には、粘着層18に光を照射する方式を採用できる。さらに、粘着層18が柔らかい樹脂を含む場合には、粘着層18に圧力を加える方式を採用できる。
【0051】
続いて、作業者は、積層物15の基材Pを剥がす。ここで、剥離層16と基材Pとの密着力は、被転写物と粘着層18との密着力、粘着層18とインク層17との密着力、インク層17と粘着層18との密着力よりも低い。それゆえ、積層物15の基材Pの一端を捲って引っ張ることで、剥離層16から基材Pのみが剥がれる。
これにより、被転写物に、粘着層18を介してインク層17が貼り付けられる。また、貼り付けられたインク層17は、剥離層16で覆われて保護される。
【0052】
このように、本実施形態では、基材Pの上面に対して、吐出ノズル6aから剥離層用インクを吐出する。続いて、基材Pの上面のうちの、剥離層用インクが吐出された部分に対して、吐出のズル6bから各色のインクを吐出する。続いて、基材Pの表面のうちの、各色のインクが吐出された部分に対して、吐出ノズル6cから、粘着層用インクを吐出する。これにより、基材Pの上面に剥離層16とインク層17と粘着層18とが順次積層される。そして、粘着層18を被転写物に貼り付け、基材Pを剥離することで、被転写物に画像を転写できる。その結果、特殊な用紙を用いずに、被転写物に画像を転写できる。
【0053】
なお、本実施形態では、剥離層用インクとして、剥離層用インクが形成する剥離層16と基材Pとの密着力が、被転写物と粘着層18との密着力、粘着層18とインク層17との密着力、インク層17と剥離層16との密着力のいずれよりも低いインクを採用する例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、剥離層用インクとして、剥離層用インクが形成する剥離層16とインク層17との密着力が、被転写物と粘着層18との密着力、粘着層18とインク層17との密着力、剥離層16と基材Pとの密着力よりも低いインクを採用する構成を採用することもできる。そのようにすれば、基材Pの端部を引っ張ることで、インク層17から基材Pおよび剥離層16を剥がすことができる。
本実施形態では、図1のスライドレール8、およびキャリッジモータ9が移動手段を構成する。また、図1の制御部4、データ取り込み部11、データ変換部12、ピエゾ素子制御部13、キャリッジ・紙送り制御部14が制御手段を構成する。
【0054】
(変形例)
なお、本実施形態では、インクジェットプリンタ1として、シリアルヘッド型インクジェットプリンタを用いる例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、基材Pの搬送方向と交差する方向に延在するヘッドを備えており、いわゆる1パスでの印刷が可能なラインヘッド型インクジェットプリンタを採用することもできる。
インクジェットプリンタ1として、ライン型インクジェットプリンタを採用した場合、記録ヘッド5は、液体を吐出する複数の吐出ヘッド19a、19b、19cを備えるものとしてもよい。これらの吐出ヘッド19a、19b、19cは、副搬送方向Xに分割されて、副搬送方向Xの上流側から順に、19a、19b、19cが配列されている。
【0055】
図11は、各吐出ヘッド19a、19b、19cの配列の説明図である。この説明図は、記録ヘッド5を下方から見た様子を表すものである。
図11に示すように、吐出ヘッド19a、19b、19cのノズル面には、インク滴を吐出する多数のノズルが形成されている。ノズル面とは、搬送される基材Pに対向する面である。具体的には、吐出ヘッド19aのノズル面には、主搬送方向Yに沿って配列された複数のノズルからなるノズル列が1列形成されている。このノズル列は、剥離層用インクを吐出可能となっている。そして、吐出ヘッド19aは、必要箇所のノズルから必要量のインク滴を同時に吐出することにより、基材Pの上面に微少なインクドットを形成する。インクジェットプリンタ1は、基材Pを副搬送方向Xに搬送させながらインクドットの形成を行う。これにより、基材Pを副搬送方向Xに送るだけで、吐出ヘッド19aの主搬送方向Y両端のノズル間距離に相当する幅の剥離層16を形成することができる。
【0056】
また、吐出ヘッド19bのノズル面には、主搬送方向Yに沿って配列された複数のノズルからなるノズル列が4列形成されている。これら4つのノズル列は、それぞれ異なる色のインクを吐出可能になっており、本実施形態では、副搬送方向Xの上流側から順に、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)のインクを吐出する。そして、吐出ヘッド19bは、色毎、即ちノズル列毎に、必要箇所のノズルから必要量のインク滴を同時に吐出することにより、基材Pの上面に微小なインクドットを形成する。インクジェットプリンタ1は、基材Pを副搬送方向Xに搬送させながらインクドットの形成を行う。これにより、基材Pを副搬送方向Xに送るだけで、吐出ヘッド19bの主搬送方向Y両端のノズル間距離に相当する幅のインク層16、つまり、画像を印刷することができる。
【0057】
また、吐出ヘッド19cのノズル面には、主搬送方向Yに沿って配列された複数のノズルからなるノズル列が1列形成されている。このノズル列は、粘着層用インクを吐出可能となっている。そして、吐出ヘッド19cは、必要箇所のノズルから必要量のインク滴を同時に吐出することにより、基材Pの上面に微少なインクドットを形成する。インクジェットプリンタ1は、基材Pを副搬送方向Xに搬送させながらインクドットの形成を行う。これにより、基材Pを副搬送方向Xに送るだけで、吐出ヘッド19cの主搬送方向Y両端のノズル間距離に相当する幅の粘着層18を形成することができる。
【0058】
このように、本実施形態では、複数の吐出ヘッド19a、19b、19cを配列して記録ヘッド5を構成するようにした。そのため、記録ヘッド5は、既存の吐出ヘッドを組み合わせることで構成でき、専用の記録ヘッドを作成する手間が不要となる。
図12、図13は、各吐出ヘッド19a、19b、19cの配列の変形例の説明図である。これらの説明図は、記録ヘッド5を下方から見た様子を表すものである。
なお、この変形例では、複数の吐出ヘッド19a、19b、19cを配列して記録ヘッド5を構成する例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、図12に示すように、吐出ヘッド19a、19b、19cを一体としてもよい。これにより、複数の吐出ヘッド19a、19b、19cを配列する方法に比べ、記録ヘッド5を小型化できる。
【0059】
また、例えば、図13に示すように、吐出ヘッド19a、19b、19cを、それぞれ複数の吐出ヘッド20a、20b、20cで形成してもよい。具体的には、吐出ヘッド19aを、主搬送方向Yに沿って配列された複数の吐出ヘッド20aからなる2列のヘッド列で形成する。また、各列の吐出ヘッド20aを、それぞれが主搬送方向Yに分割されて各吐出ヘッド20aを組み合わせた全体が平面視で千鳥状になるように、即ち主搬送方向Yに沿って副搬送方向Xの上流側および下流側に交互に配置する。
【0060】
また、吐出ヘッド19bを、主搬送方向Yに沿って配列された複数の吐出ヘッド20aからなる1列のヘッド列で形成する。また、各列の吐出ヘッド20bを、それぞれのノズル列が主搬送方向Yと傾いた同一方向に沿うように配置する。
さらに、吐出ヘッド19cを、主搬送方向Yに沿って配列された複数の吐出ヘッド20cからなる2列のヘッド列で形成する。また、複数の吐出ヘッド20aと同様に、各列の吐出ヘッド20cを、それぞれが主搬送方向Yに分割されて各吐出ヘッド20cを組み合わせた全体が平面視で千鳥状になるように、即ち主搬送方向Yに沿って副搬送方向Xの上流側および下流側に交互に配置する。これにより、記録ヘッド5は、既存の吐出ヘッドで構成でき、専用のヘッドを作成する手間が不要となる。
【符号の説明】
【0061】
1…インクジェットプリンタ、2…紙送り機構、3…印刷部、4…制御部、5…ヘッド、6a、6b、6c…吐出ヘッド、7…キャリッジ、8…スライドレール、9…キャリッジモータ、10…外部の機器、11…データ取り込み部、12…データ変換部、13…ピエゾ素子制御部、14…キャリッジ・紙送り制御部、15…積層物、16…剥離層、17…インク層、18…粘着層、19a、19b、19c…吐出ヘッド、20a、20b、20c…吐出ヘッド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に対してインクを吐出する第1ノズル、第2ノズル、および第3ノズルを有する記録ヘッドと、
前記基材および前記記録ヘッドの少なくとも一方を前記基材の表面と平行な面内で移動させる移動手段と、
前記記録ヘッドおよび前記移動手段の動作を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記基材の表面に対して、前記基材と前記第2ノズルが吐出するインクが形成する層との少なくとも一方から剥離可能な剥離層を形成する剥離層用インクを前記第1ノズルから吐出し、
前記基材の表面のうちの、前記剥離層用インクが吐出された部分に対して、被転写物に転写する画像を形成するインク層を形成するインク層用インクを前記第2ノズルから吐出し、
前記基材の表面のうちの、前記インク層用インクが吐出された部分に対して、前記被転写物に貼着可能な粘着力を有する粘着層を形成する粘着層用インクを前記第3ノズルから吐出することを特徴とする画像記録装置。
【請求項2】
前記記録ヘッドは、前記剥離層用インクとして、当該剥離層用インクが形成する前記剥離層と前記インク層との密着力が前記インク層と前記粘着層との密着力よりも低いインクを前記第1ノズルから吐出することを特徴とする請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項3】
前記記録ヘッドは、前記剥離層用インクとして、当該剥離層用インクが形成する前記剥離層と前記基材との密着力が前記インク層と前記粘着層との密着力よりも低いインクを前記第1ノズルから吐出することを特徴とする請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項4】
前記記録ヘッドは、前記剥離層用インクとして、設定した温度よりもガラス転移温度の高い樹脂を含むインクを前記第1ノズルから吐出することを特徴とする請求項3に記載の画像記録装置。
【請求項5】
基材の表面に対して、前記基材と記録ヘッドの第2ノズルが吐出するインクが形成する層との少なくとも一方から剥離可能な剥離層を形成する剥離層用インクを前記記録ヘッドの第1ノズルから吐出する第1工程と、
前記第1工程によって形成された前記剥離層の表面に対して、被転写物に転写する画像を形成するインク層を形成するインク層用インクを前記記録ヘッドの前記第2ノズルから吐出する第2工程と、
前記第2工程によって形成された前記インク層の表面に対して、前記被転写物に貼付可能な粘着力を有する粘着層を形成する粘着層用インクを前記記録ヘッドの第3ノズルから吐出する第3工程と、を含むことを特徴とする画像記録方法。
【請求項1】
基材に対してインクを吐出する第1ノズル、第2ノズル、および第3ノズルを有する記録ヘッドと、
前記基材および前記記録ヘッドの少なくとも一方を前記基材の表面と平行な面内で移動させる移動手段と、
前記記録ヘッドおよび前記移動手段の動作を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記基材の表面に対して、前記基材と前記第2ノズルが吐出するインクが形成する層との少なくとも一方から剥離可能な剥離層を形成する剥離層用インクを前記第1ノズルから吐出し、
前記基材の表面のうちの、前記剥離層用インクが吐出された部分に対して、被転写物に転写する画像を形成するインク層を形成するインク層用インクを前記第2ノズルから吐出し、
前記基材の表面のうちの、前記インク層用インクが吐出された部分に対して、前記被転写物に貼着可能な粘着力を有する粘着層を形成する粘着層用インクを前記第3ノズルから吐出することを特徴とする画像記録装置。
【請求項2】
前記記録ヘッドは、前記剥離層用インクとして、当該剥離層用インクが形成する前記剥離層と前記インク層との密着力が前記インク層と前記粘着層との密着力よりも低いインクを前記第1ノズルから吐出することを特徴とする請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項3】
前記記録ヘッドは、前記剥離層用インクとして、当該剥離層用インクが形成する前記剥離層と前記基材との密着力が前記インク層と前記粘着層との密着力よりも低いインクを前記第1ノズルから吐出することを特徴とする請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項4】
前記記録ヘッドは、前記剥離層用インクとして、設定した温度よりもガラス転移温度の高い樹脂を含むインクを前記第1ノズルから吐出することを特徴とする請求項3に記載の画像記録装置。
【請求項5】
基材の表面に対して、前記基材と記録ヘッドの第2ノズルが吐出するインクが形成する層との少なくとも一方から剥離可能な剥離層を形成する剥離層用インクを前記記録ヘッドの第1ノズルから吐出する第1工程と、
前記第1工程によって形成された前記剥離層の表面に対して、被転写物に転写する画像を形成するインク層を形成するインク層用インクを前記記録ヘッドの前記第2ノズルから吐出する第2工程と、
前記第2工程によって形成された前記インク層の表面に対して、前記被転写物に貼付可能な粘着力を有する粘着層を形成する粘着層用インクを前記記録ヘッドの第3ノズルから吐出する第3工程と、を含むことを特徴とする画像記録方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−173252(P2011−173252A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36937(P2010−36937)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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