説明

画像読取装置用の調整基準チャート及びそれを用いた光学評価方法

【課題】 幾何特性と解像力特性を測定するパターンを1つの基板上に容易に配置することができる調整基準チャートを得ること。
【解決手段】 結像光学系によって結像された画像情報を、複数の素子を1次元方向に配列した1次元光電変換素子によって読み取る画像読取装置を構成する部材の位置を調整する際に用いられる調整基準チャートであって、調整基準チャートは、結像光学系によって結像される画像情報を評価するための互いに平行な複数の格子の集合体より成る格子パターンを含む第1、第2の解像力評価部を有しており、第1の解像力評価部の格子パターンと、1次元光電変換素子の素子の配列方向とのなす小さい方の角度をα、第2の解像力評価部の格子パターンと、1次元光電変換素子の素子の配列方向とのなす小さい方の角度をβとするとき、5°≦α≦45°、45°≦β≦85°なる条件を満足すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像読取装置を構成する部材を調整する際に用いられる画像読取装置用の調整基準チャート及びそれを用いた光学評価方法に関するものである。特にイメージスキャナ、複写機、そしてファクシミリ等の画像読取装置の各部材を組み立てるときに好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来の画像読取装置では、原稿台面上に載置された原稿の画像情報を、照明系、複数の反射ミラー、結像光学系、そして読取手段等が一体的に収納されたキャリッジをモータなどの駆動機構により副走査方向へ走査して、2次元的に読み取っている。そして読み取られた原稿の画像情報はインターフェイスを通じて外部機器であるパーソナルコンピューターなどに送られている。
【0003】
この種の画像読取装置は結像光学系で結像される画像情報の高画質化のために、設計性能の向上だけでなく各部材の組立調整を高精度化に行うことが強く求められている。各部材の組立調整方法としては、まずキャリッジに部材を仮組したのちに結像光学系と1次元光電変換素子(CCD)の位置を、それぞれ結像光学系の位置調整装置と1次元光電変換素子の位置調整装置を用いて調整する。調整項目としては、倍率合せ、主走査方向の中心合せ、副走査方向の中心合せ、光軸を基準軸とした回転合せ、ピント位置合せ等がある。これらの項目の調整のためには、原稿面にチャートを配置し、チャートの画像を結像光学系により1次元光電変換素子に投影し、その像を読み取った電気信号を確認しながら、所望の特性となるように結像光学系及び1次元光電変換素子の位置を調整する。所謂、幾何特性である倍率合せ、主走査方向の中心合せ、副走査方向の中心合せ、光軸を基準軸とした回転合せ等を効率良く行うために、例えば特許文献1では調整用チャート配置を用いた方法が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、結像光学系のピント位置調整のためのチャートが知られている(特許文献2参照)。特許文献2では、主走査方向に対して垂直方向に伸びる格子(線)を複数並行配列した主走査用パターンと主走査方向に対して斜め方向に伸びる格子(線)を複数並行配列させた副走査用パターンを有したチャートを開示している。
【0005】
特許文献1で開示されているチャートを図9(A)に示し、特許文献2で開示されているチャートを図9(B)に示す。図9(A)において、A〜Eは各々パターンである。また図9(B)において、32、34は各々パターンである。図9(A)から明らかなように符番B、Dで示す幾何特性調整用のパターンである斜め格子(線)は主走査方向の幅が広く、また図9(B)の符番34で示すピント位置合わせ用(解像力用)のパターンも同じく主走査方向の幅が広い。よって、これらのパターンを一枚のチャートとして配置するためには、各パターンを小型化する必要がある。
【0006】
画像読取装置としては、対象とする原稿サイズの種類に応じて主走査方向で305mm幅を読み取る所謂A3サイズ用と、主走査方向で216mm幅を読み取る所謂A4サイズ用が一般的である。とりわけ読取幅がA4サイズ用の画像読取装置の場合には調整しなければいけない項目がA3サイズ用と変わらないのに、パターンを配置することができる幅がA3サイズ用に比べて約2/3しかない。
【0007】
さらに調整精度の向上のためには、パターンの面積を広げたり、あるいはパターンを複数箇所に設けたり、などの方策が求められており、ますます、一枚のチャートに必要十分なパターンを収容することが困難となってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平8−34530号公報
【特許文献2】米国特許第6282331号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のような目的のためには、チャートに用いるパターンを小型化する必要がある。このため画像読取装置を構成する各部材の位置の検出において、測定精度を高めることができ、複数の項目が測定可能なチャートパターンを用いて、測定精度の向上とパターン数の削減を行うことが必要となってくる。
【0010】
従来における、主走査方向に対して垂直方向に伸びる格子を複数並行配列した主走査用パターンは、主走査方向への解像力は評価できるが、それ以上の機能は有していなかった。また、主走査用パターンは主走査方向に対して斜め方向に伸びる格子を複数並行配列させた副走査用パターンと配列方向が直交しておらず、2次元的な解像力を完全には切り分けることが困難であった。
【0011】
以上のように一枚のチャート内で幾何特性と解像力特性の双方を高精度に測定することができるパターンを配置したチャートを得るのが困難であった。より具体的には、第一に、解像力を評価するパターンと幾何特性を評価するパターンが、それぞれが単一機能しかなく、パターン数を削減することが困難であった。また、第二に、解像力を評価するパターンが2次元的な解像力を独立方向に完全に切り分けずに評価しているため、調整精度を高めることが困難であった。
【0012】
本発明は幾何特性と解像力特性を測定する解像力評価部を1つの基板上に容易に配置することができる調整基準チャートの提供を目的とする。さらに、この調整基準チャートで調整された高画質の画像情報の読み取りができる画像読取装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の調整基準チャートは、結像光学系によって結像された画像情報を、複数の素子を1次元方向に配列した1次元光電変換素子によって読み取る画像読取装置を構成する部材の位置を調整する際に用いられる調整基準チャートであって、前記調整基準チャートは、前記結像光学系によって結像される画像情報を評価するための互いに平行な複数の格子の集合体より成る格子パターンを含む第1、第2の解像力評価部を有しており、前記第1の解像力評価部の格子パターンと、前記1次元光電変換素子の素子の配列方向とのなす小さい方の角度をα、前記第2の解像力評価部の格子パターンと、前記1次元光電変換素子の素子の配列方向とのなす小さい方の角度をβとするとき、
5°≦α≦45°
45°≦β≦85°
なる条件を満足することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば一枚の基板上に幾何特性と解像力特性を測定する解像力評価部を容易に配置することができる調整基準チャートを達成することができる。さらに、この調整基準チャートで調整された高画質の画像情報の読み取りができる画像読取装置を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1の調整基準チャートを示す図
【図2】結像レンズの光軸上でのスポットダイアグラム特性を示す図
【図3】平面ミラーが変異した場合のスポットダイアグラム特性を示す図
【図4】本発明の比較例の調整基準チャートを示す図
【図5】本発明の比較例のCTF特性を示す図
【図6】本発明の実施例1のCTF特性を示す図
【図7】本発明の実施例2の調整基準チャートを示す図
【図8】本発明の実施例2のCTF特性を示す図
【図9】従来の調整基準チャートパターンを示す図
【図10】本発明の実施例1の調整装置および画像読取装置の要部概略図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に図面を参照しながら本発明に係る画像読取装置用の調整基準チャート及びそれを用いた光学評価方法及びそれによって用いて調整された画像読取装置等の実施の形態について説明する。
【0017】
[実施例1]
図1は本発明の実施例1の調整基準チャートの説明図である。本実施例の調整基準チャートは結像光学系によって結像された画像情報を、複数の素子を1次元方向に配列した1次元光電変換素子によって読み取る画像読取装置を構成する部材の位置を調整する際に用いられる。
【0018】
図中、1は調整基準チャートであり、少なくとも互いに平行な複数の格子の集合体より成る格子パターンを含む第1、第2の解像力評価部(パターン)S、Mを有している。以下、第1の解像力評価部をパターンS、第2の解像力評価部をパターンMとも称す。
【0019】
本実施例においては、1次元光電変換素子(CCD)の素子の配列方向を主走査方向とする。格子と1次元光電変換素子の素子の配列方向とのなす角度のうち、小さい方の角度を採用する。そのとき、パターンSは、角度α傾いた互いに並行な複数の格子(白線と黒線)の集合体(集合部)より成る格子パターンs1を有している。パターンMは、角度β傾いた互いに並行な複数の格子(白線と黒線)の集合体(集合部)より成る格子パターンm1を有している。ここで角度α、βは正である。
【0020】
本実施例の2つのパターンS、Mを構成する格子パターンs1、m1のそれぞれの白線、黒線の幅が0.085mmで5.9lppmの周波数でCTF測定が行えるように構成されている。
【0021】
本実施例では、上記角度α、βが、それぞれ
5°≦α≦45°‥‥(1)
45°≦β≦85°‥‥(2)
なる条件を満足するようにしている。
【0022】
本実施例では、上記条件式(1)を満たすようにパターンSの格子パターンs1の角度(傾斜角)αを8°としている。また上記条件式(2)を満たすようにパターンMの格子パターンm1の角度(傾斜角)βを82°としている。これによって、本実施例では、2つのパターンS、Mを用いて結像光学系の互いに異なる方向の解像力特性(解像力性能)の測定(評価)が行なえるようにしている。
【0023】
また、本実施例において調整基準チャートは、上述した如く格子パターンが主走査方向に対して、それぞれ傾斜した2つのパターンS、Mを有している。これにより、調整基準チャートをCCDに投影した際の位相を測定することで、CCDの主走査方向(素子の配列方向)と直交する方向(副走査方向)の位置情報を得ることができる。これにより、本実施例では、幾何特性の測定(評価)が行なえるようにしている。
【0024】
なお、本実施例において、更に望ましくは上記条件式(1),(2)の数値範囲を次の如く設定するのが良い。
【0025】
8°≦α≦45°‥‥(1a)
45°≦β≦82°‥‥(2a)
また、本実施例では、パターンSの格子パターンs1とパターンMの格子パターンm1との配列方向の成す角度(相対角)をγとするとき、
85°<γ≦90°‥‥(3)
なる条件を満足するようにしている。角度γは正の値である。
【0026】
本実施例においては、上記条件式(3)を満たすように角度γを90°として互いに2つの格子パターンs1、m1が直交するようにしている。これにより、本実施例では、互いに直交する方向の解像力特性を適正に評価することができ、2次元的な解像力特性の測定を容易としている。
【0027】
また、2つのパターンS、Mの格子パターンs1、m1を互いに直交させたことにより、チャート製作上の原版を両パターンで共通化でき、外周部が四角形である1種類の原版を90°回転させて容易に2種のパターンを作成することを容易としている。
【0028】
なお、更に望ましくは上記条件式(3)の数値範囲を次の如く設定するのが良い。
【0029】
87°<γ≦90°‥‥(3a)
次に本実施例の調整装置について説明する。図10(A)は本実施例の調整基準チャートを用いて結像光学系の解像力特性および幾何特性を調整する調整装置の要部概略図である。
【0030】
本実施例において、画像読取装置の組み立てに際しては、まずキャリッジ58に必要な部材(部品)を仮組する。そして結像光学系56と1次元光電変換素子57の位置をそれぞれ結像光学系位置調整装置66と1次元光電変換素子位置調整装置67を用いて調整する。調整項目としては、倍率合せ、主走査方向の中心合せ、副走査方向の中心合せ、光軸を基準軸とした回転合せ、ピント位置合せが少なくとも必要である。これらの各項目の調整のためには、原稿面に配置された上述した調整基準チャート1の画像を結像光学系56を経て1次元光電変換素子57に投影する。そして、その像を読み取った電気信号を確認しながら、所望の特性となるように結像光学系56および1次元光電変換素子57の位置を調整する。例えば、光軸方向、光軸に対して直交方向、光軸に対する回転方向、傾き方向等の位置を調整する。
【0031】
次に本実施例の画像読取装置について説明する。図10(B)は図10(A)の調整装置によって製作される画像読取装置の要部概略図である。
【0032】
同図において、原稿台ガラス52面上に載置された原稿51を、照明装置53からの光束で照射する。原稿51の画像情報をスリット54、複数の反射ミラー55a〜55dを介して結像光学系56によって読取手段(CCD)57に結像する。そして、これらの各部材53〜57を一体的に収納されたキャリッジ58をモータなどの駆動機構59により副走査方向へ走査する。これにより原稿51の画像情報を読み取っている。そして読み取られた原稿51の画像情報はインターフェイスを通じて不図示の外部機器であるパーソナルコンピューターなどに送られる。
【0033】
本実施例においては、結像光学系56にアナモフィック面を含む光学素子を用いて光路長を短縮しつつ、結像性能の向上を図っている。
【0034】
表1に結像光学系(画像読取用レンズ)56の設計数値を示す。表1において、fは結像光学系の焦点距離、FnoはFナンバー、mは結像倍率、Yは最高像高、ωは半画角を示す。また表1に示す結像光学系において、面番号iは原稿面側からの面の順番を示し、Riは各面の曲率半径、Diは第i面と第i+1面との間の部材肉厚又は空気間隔、Ndiとνdiはそれぞれd線を基準とした材料の屈折率、アッベ数を示す。
【0035】
G1、G2、G3、G4はそれぞれ順に結像光学系56を構成する第1、第2、第3、第4レンズである。第4レンズG4の入出射面がアナモフィック面である。C1は原稿台ガラス、C2はカバーガラスである。アナモフィック面の形状は、表2で示す係数を用いて、次に説明する非球面形状になっている。なお、表2において「E−x」は「10−x」を示している。
【0036】
光軸に対して回転非対称な屈折力を有する非球面の形状はレンズ面と光軸との交点を原点とし、光軸方向をx軸、主走査断面内において光軸と直交する軸をy軸、副走査断面内において光軸と直交する軸をz軸とする。このとき、母線形状Xが、
【0037】
【数1】

【0038】
但し、Rは曲率半径
y ,B4,B6 ,B8 ,B10は非球面係数
なる式で表わされる。
【0039】
子線形状Sは母線上において母線と垂直な平面を断面とし、
【0040】
【数2】

【0041】
【数3】

【0042】
但し、r0 は光軸上の副走査方向の曲率半径(子線曲率半径)でR=r0
2 ,D4,D6 ,D8 ,D10,E2 ,E4 ,E6,E8 ,E10は非球面係数
なる式で表わされる。
[表1]
f= 32.9 Fno= 6.5 m= 0.189
Y= 108 ω= 27.5

面番号 R D Nd νd
C1 C1 ∞ 3.000 1.516 64.140
C2 ∞
G1 1 10.798 3.367 1.697 55.530
2 22.980 1.140
S 3 ∞(絞り) 0.417
G2 4 -33.062 0.844 1.689 31.070
5 12.104 0.406
G3 6 21.425 4.755 1.786 44.200
7 -21.425 3.600
G4
(アナモ)8* -13.051 1.855 1.530 55.800
9* -15.217
C2 C1 ∞ 0.700 1.516 64.140
C2 ∞

[表2]
0 8面 9面
R -1.305E+01 -1.522E+01
ky -6.556E+00 -3.950E+00
B4 -3.964E-04 -1.469E-04
B6 1.011E-06 -1.644E-06
B8 -6.217E-08 3.185E-09
B10 7.351E-10 -3.429E-11
Kz -6.556E+00 -3.950E+00
D4 -3.964E-04 -1.469E-04
D6 1.011E-06 -1.644E-06
D8 -6.217E-08 3.185E-09
D10 7.351E-10 -3.429E-11
r -1.305E+01 -1.522E+01
E2 4.790E-03 6.799E-03
E4 -6.606E-04 -4.661E-04
E6 1.638E-05 6.402E-06
E8 -3.672E-07 -1.093E-07
E10 6.724E-09 1.808E-09

一般に調整基準チャートを用いて結像光学系の主走査方向と副走査方向の2次元的な解像力を求める際に、2つの格子パターンs1、m1が直交していないと2次元的な解像力を切り分けて求めることができない。
【0043】
次に2次元的な解像力を直交する方向に分離できていない場合の不具合について図2及び図3を用いて説明する。図2は画像読取装置に用いられる結像光学系の光軸上でのスポットダイアグラム特性を示す図である。結像光学系は、画像読取装置として組み立てられた際には、図10(B)で示したように複数の平面ミラー(反射ミラー)と組み合わせて使用されることが多い。
【0044】
結像光学系の左側(原稿面側)で距離34.1mmに配置された平面ミラーが、例えば変異して主走査方向に曲率半径10000mmのトーリック反射面(凹面)となった場合のスポットダイアグラムを図3に示す。平面ミラーの変異によって、スポットダイアグラムは反りがない状態と比較して主走査方向に肥大する。平面ミラーは主走査方向に長い矩形形状をしており、その両端部で保持される。保持間隔が長いために、主走査方向の反りは発生し易い。組立工程においては、反りが発生しないように保持構造や組付け作業方法に注意が払われるが、完全に防ぐことはできない。したがって、組立工程で発生してしまった反りによる影響をなるべく低減できる光学評価方法が必要である。
【0045】
図3に示すようなスポットダイアグラム特性を有する結像光学系を、前記特許文献2で例示されたパターンを用いてCTF評価を行った場合の比較例を図4、図5に示す。
【0046】
図4は比較例における調整基準チャートを示す図、図5は比較例におけるCTF特性を示す図である。
【0047】
図4において、パターンMの格子(白線、黒線)より成る格子パターンm1は主走査方向に垂直であり、パターンSの格子(白線、黒線)より成る格子パターンs1は主走査方向に対して45°傾いて配置される。両パターンS、Mを構成する格子パターンs1、m1の格子は白線、黒線ともに幅が0.085mmで5.9lppmの周波数でCTF測定を行う。尚、CTF値は解像力評価パターン内の画像信号の最大値MAXと最小値MINを用いて、次の式で算出される。
【0048】
【数4】

【0049】
図5に示すように、特許文献2に例示されるパターンSとパターンMを用いたときには、互いに最良結像状態になる位置が異なり、どちらに合せるべきか判断できない。これは、図4に示すように、主走査方向に対して垂直な格子パターンm1に対して、格子パターンs1が格子パターンm1の成分を含んでいるからである。
【0050】
これに対して本実施例においては、上記図3で説明した特性のCTF値を計算した場合、CTF特性が図6に示すようになり、パターンSとパターンMを用いたときにそれぞれで最良となるピント位置は異なる。これは格子パターンm1の配列方向が例示したスポットダイアグラム特性の肥大方向に近い方向であるからである。それぞれのパターンS、Mを用いたときに示す最良ピント位置は異なる。しかしながら、前述したように本実施例では2つのパターンS、Mの格子パターンs1、m1の配列方向を直交させており、2次元的な解像力特性を独立した2方向で評価できるから、パターンSとパターンMの解像力特性は互いに独立である。
【0051】
よって、スポットダイアグラムの最も小さい、つまり2次元的に最も結像状態の良好なピント位置に調整するためには、図6に示すパターンSとパターンMを用いたときのそれぞれの最良ピント位置の中間地点に調整されれば良い。この中間地点は、パターンSとパターンMのCTF値の平均値(2点鎖線)の最良位置と同一地点であることを利用して容易に最良調整位置を判定することができる。
【0052】
また、パターンSとパターンMの格子パターンs1、m1が主走査方向に対して、それぞれ傾斜しているために、幾何特性の測定(調整)も同じパターンを使って行うことができる。格子の傾斜角が大きいパターンMはCCDが主走査方向と直交する方向に位置ズレした場合の位相変化は小さいため、移動量が大きい調整に好適であり、パターンSは逆に位相変化が大きいため、微小移動での高精度の調整に好適である。
【0053】
本実施例では上述した如く2つのパターンS、Mを有する調整基準チャートを用いることで、高精度な幾何特性の調整が可能となり、前述した特許文献1で例示された45°斜線パターンを調整基準チャート内に配置する必要がなくなる。
【0054】
[実施例2]
図7は本発明の実施例2の調整基準チャートの説明図である。同図において図1に示した要素と同一要素には同符番を付している。本実施例において前述の実施例1と異なる点は、2つのパターンS、Mを構成する格子パターンs1、m1の配列方向が異なっていることである。即ち、CCDの素子の配列方向に対しての角度α、βを異ならせたことである。その他の構成及び光学的作用は実施例1と同様であり、これにより同様な効果を得ている。
【0055】
なお、本実施例の2つのパターンS、Mを構成する格子パターンs1、m1の格子は前述の実施例1と同様、白線、黒線ともに幅が0.085mmで5.9lppmの周波数でCTF測定が行なえる。
【0056】
つまり、本実施例において、パターンSを構成する格子パターンs1はα=45°、パターンMを構成する格子パターンm1はβ=45°の傾斜角を持って配置されている。そして双方の格子パターンs1、m1の配列方向の相対角γは、90°で互いに直交させている。これは前述した条件式(1),(2),(3)を全て満足している。
【0057】
前述の実施例1と同じく図3で説明した特性のCTF値を計算した場合、CTF特性は図8に示すようになり、パターンSとパターンMを用いたときにそれぞれで最良となるピント位置は一致する。本実施例では、図8に示す肥大方向がパターンSとパターンMの格子パターンs1、m1の配列方向のほぼ中間方向であるために、最良となるピント位置が一致している。もちろん、前述したように、本実施例の2つのパターンS、Mの格子パターンs1、m1の配列方向も直交させている。これにより、2次元的な解像力特性を独立した2方向で評価できているから、パターンSとパターンMの解像力特性は互いに独立である。
【0058】
本実施例での2次元的に最も結像状態の良好なピント位置は明らかであるが、その位置は実施例1で説明した、パターンSとパターンMのCTF値の平均値(2点鎖線)の最良位置としても判定を誤ることはない。また、パターンSの格子パターンs1とパターンMの格子パターンm1が主走査方向に対して、それぞれ傾斜しているために、幾何特性の測定(調整)も同じパターンを使って行うことができる。
【0059】
パターンSの格子パターンs1とパターンMの格子パターンm1は主走査方向に対して、ともに45°の傾斜角であるが、傾斜方向は反対向きなので、CCDが主走査方向と直交する方向に位置ズレした場合の位相変化の方向は互いに逆になる。よって、両位相ズレ量を演算することで、主走査方向と直交する方向の位置ズレを高精度に測定でき、それ以外の影響も算出可能となる。これにより、高精度な幾何特性の調整が容易となり、前述した特許文献1で例示された45°斜線パターンを調整基準チャート内に配置する必要がなくなる。
【0060】
尚、各実施例では、2つのパターンS、Mの格子パターンを傾斜させ、さらに直交させることで、解像力特性と幾何特性を高精度に測定(調整)したが、これに限定されることはない。それぞれ一方の測定でも本発明の目的である画像読取装置で読み取りを行う画像情報の高画質化に貢献できる。また、格子パターンの格子の傾斜角や線幅は各実施例で設定した値に限らず、特に傾斜角α、βはそれぞれ条件式(1),(2)を満足する範囲であれば他の形態であっても効果を発揮する。
【0061】
このように本実施例では上述した如く一枚の調整基準チャート内に幾何特性と解像力特性を測定するパターンを容易に配置している。また、この調整基準チャートを用いることにより、解像力特性および幾何特性を精度良く調整可能な調整装置を実現することができる。さらに、その調整装置によって、高画質の画像読み取りができる画像読取装置を製作することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 調整基準チャート、S 第1の解像力評価部、M 第2の解像力評価部、s1、m1 格子パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結像光学系によって結像された画像情報を、複数の素子を1次元方向に配列した1次元光電変換素子によって読み取る画像読取装置を構成する部材の位置を調整する際に用いられる調整基準チャートであって、
前記調整基準チャートは、前記結像光学系によって結像される画像情報を評価するための互いに平行な複数の格子の集合体より成る格子パターンを含む第1、第2の解像力評価部を有しており、
前記第1の解像力評価部の格子パターンと、前記1次元光電変換素子の素子の配列方向とのなす小さい方の角度をα、前記第2の解像力評価部の格子パターンと、前記1次元光電変換素子の素子の配列方向とのなす小さい方の角度をβとするとき、
5°≦α≦45°
45°≦β≦85°
なる条件を満足することを特徴とする調整基準チャート。
【請求項2】
前記第1、第2の解像力評価部の格子パターンの配列方向の成す小さい方の角度をγとするとき、
85°<γ≦90°
なる条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の調整基準チャート。
【請求項3】
請求項1又は2記載の調整基準チャートを用いて前記結像光学系の解像力特性の測定を行うことを特徴とする光学評価方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の調整基準チャートを用いて前記結像光学系の幾何特性の測定を行うことを特徴とする光学評価方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の調整基準チャートを用いて調整されたことを特徴とする画像読取装置。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の光学評価方法を用いて調整されたことを特徴とする画像読取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−166568(P2011−166568A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28673(P2010−28673)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】