説明

異なる除去閾値を有する複数材料層を分離する装置および方法

光除去のための方法および装置が開示される。光除去は、より低いエネルギー除去閾値を有する材料と、より高いエネルギー除去閾値を有する材料との間の界面に沿って行われる。この方法および装置が利用するレーザービームのエネルギー密度は、より高いエネルギー除去閾値よりも小さく、より低いエネルギー除去閾値以上である。このレーザービームを界面に向けることによって、より低いエネルギー閾値を有する材料は光除去されるが、より高いエネルギー閾値を有する材料には、影響が極めて少ない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義にはレーザー外科処置に関するものである。より具体的には、本発明は、集束レーザービームのエネルギー密度が、除去される材料の特性に応じて選択される、材料内光除去を行う方法および装置に関するものである。とりわけ、本発明は、レーザーにより誘起される光学的破壊に対する異なる閾値を有する材料間の界面において精密な光除去を行う方法および装置として有用であるが、その用途に限定されるものではない。
【背景技術】
【0002】
最近数年の間に、超短波パルスレーザー・システムが商業的に広く使用されるようになった。この超短波パルスレーザーの一用途は材料内除去に関するものである。材料内除去の場合、レーザー集束点での局所的な電界強度(通常、J/cm又は等価の単位で測定される)は、材料の価電子をそれらの原子に結合させるエネルギー以上でなければならない。ビームのエネルギー密度が材料のエネルギー密度閾値以上の場合、集束点で又は集束点近くで、レーザーにより誘起される材料の光学的破壊(LIOB)が生じる。LIOB時には、マイクロプラズマ、気泡および衝撃波が発生する。
【0003】
この場合、前述のことに留意して、選択した材料を、非選択の隣接材料に悪影響を与えることなく光除去するために、超短波パルスレーザーを使用するように配慮される。特に、この光除去は、隣接材料が異なる除去閾値を有する場合に使用するように配慮される。
光除去処理の細かい点を考える場合、レーザービームの形状や密度分布を理解しなければならない。特に、レーザーの集束形状は双曲線形状と仮定でき、かつ強度分布はガウス分布と仮定できる。これらの仮定により、レーザーの集束点は、或る最小半径(ビームの胴部)を有し、かつ或る長さ(集束点深度)を有することになる。レーザービームの境界は、通常、ビーム強度がビーム中心強度の1/eに減少する位置により定義される。
【0004】
LIOBの公知の除去閾値の場合、レーザー集束点内でLIOBが行われる場所は、必要なエネルギー密度に達する位置によって簡単に決定できると予想される。したがって、材料内でのLIOBの位置は、レーザーの集束位置の移動によるだけではなく、ビームエネルギーの変更によっても変更できる。言い換えると、LIOBに必要な強度は、レーザーの集束点の寸法で測られる。しかし、この関係は、レーザーパルスの全エネルギーが即座に材料内に堆積するという仮定に基づいている。実際には、レーザービームの強度(ひいてはエネルギー)は、z軸に沿って分布し、この分布は、パルス持続時間およびレーザーパルスの形状によって決定され、sech曲線によって説明できる。これにより、z軸に沿った空間的分布が生じる。結果として、LIOBは、レーザーパルス強度がLIOBに要する閾値強度に達したときにのみ行われる。
【0005】
LIOBの閾値がz軸に沿って(例えば2つの材料間の界面で)変化するとすれば、LIOBの位置は有意に変化する。例えば、レーザーは、一方の材料内の集束点ではLIOBを誘起できるが、他方の材料が使用される場合には、働かない。したがって、ビームの形状およびビームエネルギーを適切に設定することにより、異なる除去閾値を有する2つの材料の界面でのLIOBの位置を制御できる。材料の除去閾値が既知又は確認可能な場合、エネルギーレベルは、一方の材料内でのみLIOBが行われるように計算できる。更に、レーザーを作用させる前に界面位置を確認することによって、適切なエネルギーレベルでターゲットの材料内に集束点を初期位置決めでき、それにより、意図しない除去を防止できる。レーザービームが励起された後、検出手段を使用して、LIOBが行われたかどうか、行われたとすればどの材料内で行われたかを検出できる。この検出は、LIOBにより発生する泡寸法の分析、又はLIOBから生じるプラズマのスペクトル分析により行うことができる。
【0006】
材料内光除去は、種々の材料に対して行うことができるが、角膜組織又は生体組織に対して使用することが、特に有利である。角膜組織に関しては、幾つかの外科処置が、角膜組織の構造を変えるために用いられることが注目される。それらの処置を理解するためには、角膜の手術及び解剖学を理解する必要がある。
角膜は、水晶体により入射光を屈折させ、網膜上又は網膜近くに集束させる。角膜の曲率は、入射光が何処に集束されるかで決まる。角膜の曲率が急勾配過ぎたり緩やかすぎる場合には、一定の角膜組織を光除去することにより修正できる。解剖学的には、構造の異なる複数の角膜組織は、眼の前面から後面へ順次に、角膜上皮、ボーマン膜、角膜実質、デスメ膜、角膜内皮を含んでいる。もちろん、これらのうち最も厚いのは角膜実質であり、概ね400マイクロメートル程度の厚さを有している。したがって、角膜実質は、光除去による矯正の機会が最も多い。さらに、角膜実質の治癒応答は、通常、他の角膜層よりも早い。
【0007】
過去においては、レーザー補助式角膜曲率矯正術(LASIK)やレーザーによる上皮角膜曲率矯正術(LASEK)などの技術が、角膜実質組織の再形成に使用されてきた。これらの処置では、上を覆っている組織を一時的に除去して、角膜実質組織を露出させた後で、除去する。他の眼科的処置では、角膜実質が、表面下の光除去に基づいて、言い換えると、上を覆う組織を始めに除去して組織を露出させることなく、光除去される。表面下の光除去処置は、上を覆う組織を除去することに拠る先行技術よりも明らかに勝っているので、角膜内光除去技術を利用する試行が、更に行なわれている。特に、これらの試行は、角膜内光除去処置に超短波パルスレーザー・システムを使用することを含む。これらの成果として発見されたのは、角膜内処置技術により、超短波(フェムト秒)パルスレーザーを用いて角膜組織を組織界面に沿って精密に分離できることである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の観点から、本発明の目的は、2つの異なる材料間の界面を断つための効果的な外科的方法を提供することである。本発明の別の目的は、異なるエネルギー除去閾値を有する2つの異なる材料を分離する方法及び装置を提供することである。本発明の更に別の目的は、角膜の所定の箇所に正確に位置決めされた角膜フラップを形成するための外科的方法及び装置を提供することにある。本発明の更に別の目的は、容易に実施できかつ比較的費用効果のある、界面に沿った材料内光除去の方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
材料間の界面に沿って光除去を行うための装置は、非ターゲット(光除去の目標でない)材料のエネルギー除去閾値よりも小さく、ターゲット(光除去の目標)材料のエネルギー除去閾値以上のエネルギー密度を有するレーザービームを発生させるエネルギー源を含む。この装置は、更に、界面に隣接するターゲット材料部分を光除去するために、レーザービームを界面に向ける手段を含んでいる。界面に隣接する他のターゲット材料部分を光除去するために、界面に沿ってレーザービームを走査する手段が利用できる。
【0010】
使用に際して、2つの材料のエネルギー除去閾値が確認される。特に、材料が角膜組織又は生体組織である場合、材料が除去のために異なるエネルギー閾値を有することを確認しなければならない。除去閾値の確認後、ビーム形状、ビームエネルギー、およびパルス持続時間を選択することにより、超短波パルスレーザービームを発生させる。この選択を行うのは、望ましい最大ビームエネルギー密度を有するレーザービームを発生させるためである。この望ましい最大ビームエネルギー密度は、非ターゲット材料の除去閾値よりも小さいが、ターゲット材料の除去閾値以上である。ビームのパラメータの選択後、ビームは、界面に隣接するターゲット材料を光除去するために使用される。界面でレーザービームを使用するにも拘わらず、非ターゲット材料は損傷されない。
【0011】
本発明によれば、界面は、共焦点顕微鏡又は光断層画像装置などの手段を使用して発見できる。界面を発見した後、レーザービームを界面に向けることにより、ターゲット材料を光除去できる。特に、レーザービームは、その最大ビームエネルギー密度に達する集束点に集束される。さらに、集束されたビームは、ここではターゲット材料の閾値に等しいと定義される最小ビームエネルギー密度を有している。最小ビームエネルギーは、集束点、又は集束点から間隔をおいたところに発生される。ビームを界面に方向付ける場合、集束点は非ターゲット材料内に位置決めすることが好ましい。そうすることによって、本発明の方法では、レーザービームの発生時に、意図せずにターゲット材料を光除去する危険が防止又は最小化される。
【0012】
集束点は、集束点とレーザー源との間の適当な距離を設定することにより非ターゲット部分内に位置決めするのが好ましい。しかし、集束点は、より一般的に角膜内に位置決めすることにより非ターゲット部分内に配置して、レーザービームを発生させることもできる。ビームを発生させた後、検知装置を使用して、ターゲット材料が光除去されているかどうかを検知する。ターゲット材料が光除去されていない場合には、集束点が非ターゲット材料内にあることが確認できる。ターゲット材料が光除去された場合には、集束点を、ターゲット材料の界面でない境界から離れたところに再位置決めする。次いで、レーザービームを発生させ、検知装置を使用してターゲット材料が光除去されているかどうか決定する。これらの段階は、集束点が非ターゲット材料内に位置することが確認されるまで反復できる。
【0013】
集束点を非ターゲット材料内に位置決めし、レーザービームを発生させた後、ターゲット材料の応答を検出する。例えば、光除去の結果は、光除去によって発生する気泡寸法又はプラズマのスペクトル分析で確認できる。ターゲット材料が光除去されていなければ、集束点をターゲット材料のほうへ移動させるか、ビームエネルギーを増大させる(但し、非ターゲット材料の閾値までは増大させない)。注意すべき点は、これらのいずれかの工程で、界面のほうへ最小ビームエネルギー密度が効果的に前進させられる点である。これらの工程の1つ又は組み合わせが実施された後、レーザービームを、再び発生させ、検出装置によりターゲット材料が光除去されたかを検出する。光除去されていなければ、最小ビームエネルギー密度を、再び界面のほうへ前進させる。好ましくは、これらの段階を、界面に隣接しかつ集束点に最も近いターゲット材料部分が光除去されるまで反復する。
【0014】
界面に隣接するターゲット材料の光除去が検出されると、レーザービームは別の箇所へ走査される。次いで、複数の前段階が反復されて、別のターゲット材料部分が光除去される。レーザービームをこのように使用することによりフラップの周面部を形成することが好ましい。このフラップは、角膜前面と周面部との間で角膜を分離することによって形成される。次いで、ターゲット材料と非ターゲット材料とを機械式に互いに剥がすことにより、両材料を周面部に沿って分離できる。
以上、幾つかの具体例を説明したが、本発明では、別の具体例も考えられる。例えば、この方法は、非角膜組織や非生体組織の光除去にも使用できる。さらに、共焦点顕微鏡又は光断層画像装置よりも、むしろ、又はそれらに加えて、波面検出器又は他の装置を使用してもよい。
【実施例】
【0015】
本発明の新しい特徴および本発明自体は、その構成及び操作の双方について、以下の添付図面を参照して行う説明により最もよく理解されよう。図面では、同じ部材には同じ符号が付されている。
【0016】
まず図1を見ると、眼22に対し角膜内レーザー処置を行うためのレーザー・システム20が示されている。図示のとおり、眼22は、レーザー・システム20から超短波パルスレーザービーム24を受け取るように配置されている。更に詳しくは後述するが、レーザー源26からは、選択されたパラメータを有するパルスレーザービーム24が発生する。レーザー・システム20は、集束点30へレーザービーム24を集束させる集束ユニット28を含んでいる。また、レーザー・システム20は、レーザービーム24を方向付けるための走査ユニット32を含んでいる。レーザー源26及び集束ユニット28に加えて、レーザー・システム20は、レーザービーム24を方向付けるための走査ユニット32を含んでいる。また、レーザー・システム20には、レーザービーム24が走査ユニット32によって方向付けられた後、レーザービーム24を平行化するテレスコープ34が備えられている。テレスコープ34の下流には反射器36が配置され、この反射器により、レーザービーム24は集束ユニット28を介して眼のほうへ再方向付けされる。
【0017】
レーザー・システム20には、レーザービーム24の発生及び制御に直接的には関わらない数個のセンサーも備えられている。特に、レーザー・システム20は、光除去の対象となる界面40を見つけるためのセンサー38、好ましくは共焦点顕微鏡又は光断層画像装置を含んでいる。レーザー・システム20は、更に光除去が行われたかどうか、また何処で光除去が行われたかを検出するセンサー42を含んでいる。レーザー・システム20は、後述する光除去閾値を確認するための単数又は複数の付加的なセンサー44を含むことができる。
本発明によれば、光除去を行うことにより角膜内組織を修正して角膜内に屈折変化を生じさせたり、LASIK又はLASEK式の処置に適するフラップを形成したり、眼22内に通路又は排出路を形成したり、眼組織の除去を必要とする適切な技術で知られる何らかの他の種類の外科処置を全体的又は部分的に実施できる。
【0018】
図2は、角膜46、瞳孔48、虹彩50、および強膜52を含むヒトの眼22の解剖学的構造を示している。図3からは、角膜46が、解剖学的に定義できる5つの組織層を含んでいることが分かる。図3の前面54から後面56へ向って、角膜46の複数の層が見られる。すなわち、上皮58、ボーマン膜60、角膜実質62、デスメ膜64、内皮66である。これらの角膜層は、光除去閾値を異にする。例えば、レーザーのパルス幅に応じて、角膜実質62は基本LIOB閾値が1、ボーマン膜は相対LIOB閾値が2、上皮58は閾値が0.5であり得る。角膜組織の複数層の間には、本発明全体にとって重要な界面40が存在する。特に、界面40に隣接する一方の組織部分の除去又は破壊が、界面40に隣接する他方の層の組織を損傷することなしに可能である。さらに、界面40のところでの組織層間の自然な輪郭の把握により、極めて精密な光除去が可能になる。
【0019】
次に図4及び図5を見ると、レーザービーム24は、概ねターゲット材料68と非ターゲット材料70との間の界面40に向けられている。特に、レーザービーム24は、集束点30が非ターゲット材料70内に位置するように集束されている。集束点30で達せられる最大ビームエネルギー密度は、ビーム・パラメータ、例えばビーム強度、ビーム形状、パルス持続時間等を適切に選択することにより、非ターゲット材料を光除去するには不十分な値にすることができる。ビームエネルギー密度が最小値となるビーム位置72は、集束点30から等間隔のところにある。図4では、矢印で示したレーザービーム24の光路から分かるように、界面40の上流に非ターゲット材料70が位置している。したがって、レーザービーム24は、集束点30に達する前にターゲット材料68を通過することはない。逆に、図5では、ターゲット材料68が界面40の上流に位置しているので、レーザービーム24は、集束点30に達する前にターゲット材料を通過する。図4及び図5の双方が、光除去処置の場合の好適な出発点を示しており、この出発点では、集束点30は非ターゲット材料70内に位置するので、光除去はターゲット材料68内では行われない。
【0020】
次に図6を見ると、集束点30(および最小ビームエネルギー密度の位置72)を界面40のほうへ移動させた後の図5のレーザービーム24が示されている。特に、図6は、最小ビームエネルギー密度のビームが、ターゲット材料68に接触し、ターゲット材料68の一部74を光除去することを示している。同じように、図7には、ビーム強度を増大させることにより、最小ビームエネルギー密度の位置72を前進させた後の図5のレーザービーム24が示されている。ここでも、最小ビームエネルギー密度のビームがターゲット材料68に接触し、ターゲット材料68の一部を光除去する。
【0021】
次に図9を見ると、レーザー・システム20の操作において、本発明方法の実施が、集束点30を眼22(動作ブロック76)内に位置決めする深さdを推定することから開始されることが分かる。特に、ターゲット材料68と非ターゲット材料70との間の界面40が発見される。次いで、界面40近くの非ターゲット材料70内に集束点30を位置決めするのに必要な深さを推定する。図6では、非ターゲット材料70内の、推定距離78のところに、集束点30が設けられる。非ターゲット材料70内およびターゲット材料68内に適切なビームエネルギー密度が得られるように、ビーム強度又はエネルギーレベルEなどのビーム・パラメータおよび処置時間τが設定される(動作ブロック80,82)。これらの段階が行われる前に、ターゲット材料68および非ターゲット材料70の除去エネルギー閾値が分かると仮定する。もちろん、これらの閾値は、予め確認できない場合には、推定値でよい。
【0022】
目標パラメータが設定されると、レーザー・システム20が起動され、パルスレーザービーム24が発生する(動作ブロック84)。問い合わせブロック86への応答、つまり非ターゲット材料70(すなわちM)が界面40の上流にあるかどうかという問に対する応答に基づいて、特定の複数段階が実施される。この実施は、センサー42による、ターゲット材料68がレーザービーム24に応答して光除去されたかどうかの確認に応じて行われる。周知のように、角膜や生体組織等の材料の光除去により、センサー42が検出できる気泡やプラズマが生成される。
【0023】
非ターゲット材料70が界面40の上流にあると仮定されると、問い合わせブロック88に到達する。ターゲット材料68が光除去されていなければ、最小ビームエネルギー密度の位置72が前進させられる(動作ブロック90)。図6及び図7に示すように、この前進は、集束点30を界面40のほうへ移動させるか、又はレーザービーム24のエネルギーレベルを高めることにより行うことができる。最小ビームエネルギー密度の位置72を前進させた後、レーザー・システム20は、再び、動作ブロック84のところで起動され、パルスレーザービーム24を発生させる。こうすることにより、最小ビームエネルギー密度の位置72は、光除去が行われるまで、ターゲット材料68のほうへ前進させられる。
【0024】
光除去が行われ、問い合わせブロック88に対し肯定の応答があった場合には、レーザー・システム20は、レーザービーム24を非ターゲット材料70内の新たな位置に走査する(動作ブロック92)。ここで、既述のようなループが再度行われ、最小ビームエネルギー密度の位置72がターゲット材料のほうへ前進させられ、新たな位置で光除去が確実に行われる。特に、問い合わせブロック94では、光除去が行われていない場合には、レーザービーム24の再起動(動作ブロック84)前に、最小ビームエネルギー密度の位置72をターゲット材料68のほうへ前進させることが要求される(動作ブロック96)。光除去が行われていた場合には、その処置時間が終了したかどうかが検出される(問い合わせブロック98)。未終了であれば、動作ブロック92の走査段階から方法が再出発させられる。終了した場合には、ターゲット材料68の光除去パターンが完成したかどうかが検出される(問い合わせブロック100)。全パターンが完成すると、処置が完了し、動作が停止する。全パターンが未完了であれば、処置が動作ブロック82から再度開始される。
【0025】
問い合わせブロック86へ戻ると、非ターゲット材料70が界面40の上流にない状態が対処されなければならない。この場合、問い合わせブロック87が、レーザービーム24の起動に応答してターゲット材料68が光除去されたかどうかを問い合わせる。ターゲット材料68が光除去されていれば、最小ビームエネルギー密度の位置72を前進させる(動作ブロック89)。この前進は、集束点30を非ターゲット材料70のほうへ移動させるか、又はレーザービーム24のエネルギーレベルを高めることにより行われる。最小ビームエネルギー密度の位置72を前進させた後、レーザービーム24が動作ブロック84で再起動され、パルスレーザービーム24が発生する。このようにして、最小ビームエネルギー密度の位置72は、レーザービーム24の起動に応答して光除去が行われなくなるまで、非ターゲット材料70のほうへ前進する。このループによって、光除去は、界面40に隣接するターゲット材料部分74でのみ確実に行われる。
【0026】
レーザービーム24の起動に応答した光除去が実施されない場合には、集束点30を非ターゲット材料70内に適切に位置決めする。レーザービーム24は、その場合、非ターゲット材料70内の新たな位置へ走査される(動作ブロック91)。ここで、既述のようなループが再度行われ、それにより最小ビームエネルギー密度の位置72は、光除去が新たな位置で行われるまで非ターゲット材料68のほうへ確実に退行する。特に、問い合わせブロック93では、光除去が行われていない場合には、最小ビームエネルギー密度の位置72を、レーザービーム24の再起動前に(動作ブロック84)、ターゲット材料68のほうへ退行させるよう要求される(動作ブロック95)。光除去が行われると、処置時間が終了したかどうかが検出される(問い合わせブロック97)。未終了であれば、本発明の方法が、動作ブロック91の走査段階から再び開始される。終了していれば、ターゲット材料68の光除去パターンが完了したかどうかが検出される(問い合わせブロック100)。全パターンが完了すれば、処置は完了し、動作は停止する。未完了であれば、処置が動作ブロック82から再び開始される。
【0027】
非ターゲット材料70が界面40の上流にある場合、図10に示したとおり、本発明方法は複数の付加段階を含むことができる。特に、この方法は、ターゲット材料68が界面40よりも深い位置で光除去される場合、角膜46内の集束点30の位置が深すぎないように保証するループを含むことができる。例えば、光除去がレーザービーム24の起動の結果として行われる場合、最小ビームエネルギー密度の位置72は界面のほうへ退行させられる(動作ブロック102)。退行後、まだ光除去が行われた場合には(問い合わせブロック104で検知)、位置72は再度退行させられる。光除去が行われなくなると、最小ビームエネルギー密度は、界面のところか、又は僅かに非ターゲット材料70内に位置することが知られる。したがって、最小ビームエネルギー密度の位置72がターゲット材料68のほうへ前進する(動作ブロック106)。この前進に応答して光除去が行われなければ(問い合わせブロック108に記されているように)、位置72は、再度、前進させられる。光除去が行われたことが検出されると、走査処置が動作ブロック92で開始され、本発明の方法により、図9で示された処置に戻される。
【0028】
図8を見ると、本発明により形成された角膜フラップ110が示されている。フラップ110は、先ず周面部112を光除去することにより形成される。周面部112は、既述のように2つの角膜組織間の界面に沿って形成されるので、組織を切断された周面部よりも、はるかに精密である。形成された周面部112により、切開部は、角膜46の前面から周面部112まで延在し、フラップ110の縁部116を形成する。縁部116が形成されると、フラップ110は、角膜46の残りの部分から剥がすことができ、下の組織118が露出させられる。露出させた後、下の組織118は、エキシマレーザー(図示せず)を使用して光除去できる。エキシマレーザーによる光除去後、フラップ110は、下の組織118上に再配置でき、治癒できる。その結果、再付形された角膜が得られる。
【0029】
以上、図示し、詳細に開示したような、表面下で光除去を行う具体的な方法及び装置は、本発明の目的を達成し、かつ既述の利点を得ることができる。他方、本発明の、現時点で好ましい実施例は、単に説明目的のものであり、特許請求の範囲の記載以外に、ここに示した本発明の構成又は設計の細部に制限を加える意図のものではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の超短波パルスレーザー・システムの1実施例の平面図。(実施例1)
【図2】眼の斜視図。
【図3】図2の3−3線に沿って眼の角膜の一部を切断して示す拡大断面図。解剖学的に角膜の複数層を示している。
【図4】図3の角膜断面の略図。界面下流にターゲット材料が位置する場合にターゲット材料の一部を除去するために使用されるレーザービームの形状を示している。
【図5】図4と同様の角膜断面の略図。界面上流にターゲット材料が位置する場合にターゲット材料の一部を除去するために使用されるレーザービームの形状を示している。
【図6】図5と同様の角膜断面の略図。レーザービームの集束点を界面のほうへ移動させた状態を示している。
【図7】図5と同様の角膜断面の略図。レーザービームのエネルギーレベルを高めて最小ビームエネルギー密度の位置を界面のほうへ移動させた状態を示している。
【図8】本発明の方法を用いて角膜の一部に形成されたフラップの斜視図。
【図9】本発明の方法により行われる段階を順次に示す論理流れ図。
【図10】本発明の方法により行われる付加的段階を示す論理流れ図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
より高いエネルギー除去閾値を有する第1材料と、より低いエネルギー除去閾値を有する第2材料との界面に沿って光除去を行う方法において、前記方法が、
前記より高いエネルギー除去閾値よりも小さいが、前記より低いエネルギー除去閾値以上であるビームエネルギー密度を有するパルスレーザービームを発生させるために、ビーム形状、ビームエネルギー、およびパルス持続時間を選択する段階と、
前記界面に隣接する前記第2材料の一部を光除去するために、レーザービームを前記界面に方向付ける段階とを含む、光除去を行う方法。
【請求項2】
前記方法が、更に、
前記界面に沿って前記レーザービームを走査する段階と、
前記界面に隣接する前記第2材料の別の部分を光除去するために、前記方向付け段階を反復する段階とを含む、請求項1に記載された光除去を行う方法。
【請求項3】
前記第1材料および前記第2材料が角膜の一部であり、前記走査段階および反復段階が、フラップの周面部が形成されるまで実施され、前記方法が更に、
縁部を形成するために、前記角膜の前面と前記周面部との間で角膜を切開し、前記縁部によって前記フラップが境界付けられる段階と、
前記第1材料と前記第2材料とを前記周面部に沿って分離する段階とを含む、請求項2に記載された光除去を行う方法。
【請求項4】
前記分離段階を、前記第1材料と前記第2材料とを前記周面部で互いに機械的に剥離することにより実施する、請求項3に記載された光除去を行う方法。
【請求項5】
前記方法が、更に、
前記レーザービームを、集束点において前記ビームエネルギー密度を有するように、集束点に集束させる段階を含み、前記方向付け段階が、
前記界面の近くに前記集束点を位置決めする段階と、
前記レーザービームによる光除去の応答があるかどうかを検出する段階と、
前記ビームエネルギー密度を、前記第1材料のより高いエネルギー密度閾値よりも低いエネルギー密度まで増大させる段階と、
前記集束点を、光除去応答が得られるまで、前記第2材料のほうへ前進させる段階と、
前記集束点を、光除去応答が得られなくなるまで、前記第1材料のほうへ退行させる段階と、
前記前進段階と退行段階とを、前記界面に隣接し、かつ前記集束点に最も近い第2材料部分が光除去されるまで、選択的に反復する段階とによって実施される、請求項2に記載された光除去を行う方法。
【請求項6】
前記第2材料が前記界面から境界まで延びており、前記位置決め段階が、
前記第1材料または前記第2材料内に前記集束点を位置決めする段階と、
前記第2材料が、応答して光除去されたかどうかを検出する段階と、
前記検出段階で前記第2材料が光除去されていないことが検出された場合、集束点が前記第1材料内にあることを確認する段階と、
前記検出段階で前記第2材料が光除去されたことが検出された場合、前記第2材料の境界から離れたところに集束点を再位置決めする段階と、
集束点が第1材料内にあることが確認されるまで、前記検出段階、確認段階、および再位置決め段階を反復する段階とによって実施される、請求項5に記載された光除去を行う方法。
【請求項7】
前記方法が、更に、
前記検出段階で前記第2材料の光除去が検出された場合、光除去された材料が前記界面に隣接しているかどうかを決定する段階と、
前記決定段階で、光除去された材料が前記界面に隣接していないことが決定された場合は、前記集束点を前記第2材料から遠ざけるように調節するか、又は前記ビームエネルギー密度を前記より低いエネルギー密度閾値以上のエネルギー密度に低減させる段階と、
光除去された材料が前記界面に隣接していることが決定されるまで、前記決定段階と調節/低減段階とを反復する段階とを含む、請求項5に記載された光除去を行う方法。
【請求項8】
前記位置決め段階を、前記界面を検出するために共焦点顕微鏡又は光断層画像装置を用いて実施する、請求項5に記載された光除去を行う方法。
【請求項9】
前記レーザービームが前記界面に達する前に、前記第1材料を透過する、請求項1に記載された光除去を行う方法。
【請求項10】
前記レーザービームが前記界面に達する前に、前記第2材料を透過する、請求項1に記載された光除去を行う方法。
【請求項11】
前記第1材料が角膜組織であり、前記第2材料が角膜組織である、請求項1に記載された光除去を行う方法。
【請求項12】
前記第1材料がボーマン膜であり、前記第2材料が角膜上皮である請求項11に記載された光除去を行う方法。
【請求項13】
第1材料と第2材料間との界面に沿って光除去を行う方法において、前記方法が、
前記第1材料のより高いエネルギー除去閾値、および前記第2材料のより低いエネルギー除去閾値を確認する段階と、
前記より高いエネルギー除去閾値よりも小さく、前記より低いエネルギー除去閾値以上のビームエネルギー密度を有するパルスレーザービームを発生させる段階と、
前記界面に隣接する第2材料部分を光除去するために、パルスレーザービームを前記界面に方向付ける段階と、
前記界面に沿って前記パルスレーザービームを走査する段階と、
前記界面に隣接する別の第2材料部分を光除去するために、前記方向付け段階と走査段階とを反復する段階とを含む、光除去を行う方法。
【請求項14】
前記パルスレーザービームが、集束点で前記レーザービーム密度を有し、かつ前記より低いエネルギー除去閾値に等しい最小除去ビーム密度を有しており、前記方向付け段階が、
前記第1材料内に前記最小除去ビーム密度を位置付ける段階と、
前記最小除去ビーム密度を、前記最小除去ビーム密度が第2材料に到達して光除去が行われるまで、界面のほうへ前進させる段階とによって実施される、請求項13に記載された光除去を行う方法。
【請求項15】
前記位置付ける段階が、
前記第1材料又は前記第2材料内に最小除去ビーム密度を位置決めする段階と、
前記第2材料が前記最小除去ビーム密度に応答して光除去されたかどうか検出する段階と、
前記検出段階で前記第2材料が光除去されなかったことが検出された場合、前記最小除去ビーム密度が第1材料内に位置することを確認する段階と、
前記検出段階で前記第2材料が光除去されたことが検出された場合、前記最小除去ビーム密度を前記第1材料のほうへ再位置決めする段階と、
前記最小除去ビーム密度が前記第1材料内に位置することが確認されるまで、前記検出段階、確認段階、および再位置決め段階を反復する段階とによって実施される、請求項14に記載された光除去を行う方法。
【請求項16】
前記前進させる段階が、
前記界面のほうへ集束点を移動させる段階及び/又は
前記ビームエネルギー密度を増大させる段階によって実施される、請求項14に記載された光除去を行う方法。
【請求項17】
より高いエネルギー除去閾値を有する第1材料と、より低いエネルギー除去閾値を有する第2材料との界面に沿って光除去を行うための装置において、該装置が、
前記より高いエネルギー除去閾値よりも小さく、前記より低いエネルギー除去閾値以上のビームエネルギー密度を有するレーザービームを発生させるためのレーザー源と
前記界面に隣接する前記第2材料部分を光除去するために、前記レーザービームを前記界面に方向付ける手段と、
前記界面に隣接する別の第2材料部分を光除去するために、前記界面に沿って前記レーザービームを走査する手段とを含む、光除去を行うための装置。
【請求項18】
前記装置が、更に、
集束点に前記レーザービームを集束させる手段であって、前記ビームエネルギー密度を集束点に到達させ、前記より低いエネルギー除去閾値に等しい最小除去ビーム密度を集束点から間隔をおいたところに位置させる手段と、
前記最小除去ビーム密度を前記第1材料内に位置付ける手段と、
前記最小除去ビーム密度が前記第2材料に到達し光除去を行うまで、前記最小除去ビーム密度を前記界面のほうへ前進させる手段とを含む、請求項17に記載された光除去を行うための装置。
【請求項19】
前記位置付ける手段が、
前記第1材料又は前記第2材料内に前記最小除去ビーム密度を位置決めする手段と、
前記第2材料が前記最小除去ビーム密度により光除去されたかどうかを検出する手段と、
前記検出手段が前記第2材料の光除去がなされたことを検出した場合に、前記第1材料のほうへ前記最小除去ビーム密度を再位置決めする手段とを含む、請求項18に記載された光除去を行うための装置。
【請求項20】
前記前進させる手段が、
前記集束点を前記界面のほうへ移動させる手段及び/又はビームエネルギー密度を増大させる手段を含む、請求項18に記載された光除去を行うための装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−523868(P2008−523868A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−546210(P2007−546210)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【国際出願番号】PCT/IB2005/003433
【国際公開番号】WO2006/064316
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(502381346)20/10 パーフェクト ビジョン オプティシュ ゲラエテ ゲーエムベーハー (7)
【Fターム(参考)】