説明

異常型プリオン蛋白質由来の原繊維に結合するRNAアプタマー

【課題】プリオンタンパク質を標的とする核酸分子、特に異常型プリオン原繊維を標的とするRNA分子を含むプリオン病の検出のための方法。
【解決手段】異常型プリオン蛋白質由来の原繊維と結合可能な核酸分子の同定、核酸分子を利用した該タンパク質分離のための方法、および、この方法により得られるヌクレアーゼ耐性RNAアプタマー。ならびに、RNAアプタマーを含むプリオン病診断用組成物、および、プリオン病の予防または治療用医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリオン蛋白質を標的とする核酸分子、特に異常型プリオン蛋白質由来の原繊維(mSAF)を標的とするRNA分子に関する。本発明はさらに、該核酸分子を含むプリオン病の診断、予防または治療用の医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プリオンと呼ばれる蛋白質性感染性粒子は、羊のスクレイピー、ウシ海綿状脳症(BSE)、ミンクの伝達性ミンク脳症(TME)、ならびにヒトの場合のクールー病、ゲルストマン-シュトロイスラー-シャインカー症候群(GSS)、クロイツフェルト-ヤコブ病(CJD)および致死的家族性不眠症(FFI) のような伝達性海綿状脳症(TSE) の原因物質であると考えられている(Prusiner, et al., Science, 216, 136-144, 1982(非特許文献1))。アミロイド様桿状体に付随するプリオン(Prusiner, et al., Cell, 35, 349-358, 1983(非特許文献2); Prusiner, et al., Cell, 38, 127-134, 1984(非特許文献3)) またはスクレイピーに付随する原線維(SAF:Hope, et al., EMBO J. (10) 2591-2597, 1986(非特許文献4))の主たる成分は、N末端切除された、プリオン蛋白質PrPSc(Oesch, et al., Cell, 40, 735-746, 1985(非特許文献5))の極めてプロテアーゼ耐性な種である、プリオン蛋白質PrP27-30であることが判明し(Prusiner, et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA. 78, 6675-6679, 1981(非特許文献6);Prusiner, et al., Cell, 35, 349-358, 1983(非特許文献2))、これはプリオン調製物中の小伸長物であることも見出されている(Prusiner, et al., Cell, 35, 349-358, 1983(非特許文献2))。N末端の67アミノ酸を欠くPrP27-30は、プロテイナーゼK消化により(Prusiner, et al., Cell, 38, 127-134, 1984(非特許文献3);Stahl, et al., Biochemistry, 32, 1991-2002, 1993(非特許文献7))、またはリソソームプロテアーゼ消化により(Caughey, et al., J.Virol.65, 6597-6603, 1991(非特許文献8))、PrPScから生成する。プリオン調製物中のPrPScおよびPrP27-30の分布は、プロテアーゼの存在または不在に応じて異なる。
【0003】
解剖学的所見としては、正常型プリオン蛋白質(PrPc) は脳で高い発現が見られ、精巣、胎盤、心臓、肺で中程度の発現、脾臓、腎臓でわずかに検出される(Saeki., et al., Virus Genes, 12: 15-20, 1996(非特許文献9))ことから、PrPcは脳において特に重要な役割を担っていると考えられるが、他の組織においてもなんらかの役割を果たしていると考えられる。
【0004】
現在に至るまで、プリオン調製物中に特定の核酸は検出されておらず(Kellings, et al., J.Gen.Virol. 73, 1025-1029, 1992(非特許文献10))、この事は、プリオンが感染性であり、核酸の不在下で複製できることを示唆している(Prusiner, et al., Science, 216, 136-144, 1982(非特許文献1))。蛋白質単独仮説(Prusiner, et al., Science, 216, 136-144; 1982(非特許文献1)) によれば、外因性PrPSc/PrP27-30は、遍在する細胞イソ型PrPcのN末端をPrPSc/PrP27-30に変換することができるのと考えられている。このプロセスにはシャペロンが関与していると思われる(Edenhofer, et al., J.Virol. 70, 4724-4728, 1996(非特許文献11))。PrPSc/PrP27-30は単量体として(Prusiner, et al., Science, 216, 136-144, 1982(非特許文献1))、またはPrPSc/PrP27-30オリゴマーから成る核形成体もしくは結晶の種として(Lansbury, et al., Chemistry&Biology, 2, 1-5, 1995(非特許文献12))現れ得る。PrPcはその二次構造の点でのみPrP27-30と相違する:PrPcのαヘリックスおよびβシート含有量はそれぞれ42%および3%である(Pan et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 10962-10966, 1993(非特許文献13))。対照的に、PrP27-30のαヘリックスおよびβシート含有量はそれぞれ21%および54%であることがわかった(Pan et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 90, 10962-10966, 1993(非特許文献13))。これらの結果は、PrPcのPrPSc/PrP27-30への変換が、恐らくはプリオン蛋白質の二次構造の極端な変化を相伴うという事を示している。PrPcを発現しないノックアウトマウスを使用する一連の実験は、細胞プリオン蛋白質が幾つかの細胞プロセスで重要な役割を果たしていることを示唆してはいるが (Collinge, et al., Nature, 370, 295-297, 1994(非特許文献14);Sakaguchi, et al., Nature, 380, 528-531, 1996(非特許文献15);Tobler, et al., Nature, 380, 639-642, 1996(非特許文献16))、PrPcの正確な生理学的役割は依然として推測の域を出ない。しかしながら、PrPcは伝達性海綿状脳症の進行に必要であることが判明している(Bueler, et al., Cell, 73, 1339-1347, 1993(非特許文献17);Brandner, et al., Nature, 379, 339-343, 1996(非特許文献18))。
【0005】
スクレイピーに感染したシリアゴールデンハムスター由来のmRNAの翻訳は、NH2末端の22アミノ酸シグナルペプチドおよびカルボキシ末端の23アミノ酸シグナル配列を含む254アミノ酸蛋白質を導いた(Oesch, et al., Cell, 40, 735-746, 1985(非特許文献5);Basler, et al., Cell, 46, 417-428, 1986(非特許文献19))。成熟蛋白質PrPcおよびスクレイピーのイソ型PrPScは23ないし231のアミノ酸を含んでいる。PrPScのみが、142のアミノ酸から成るプロテイナーゼK耐性イソ型PrP27-30(アミノ酸90-231)へとプロセシングされ得る(Prusiner, et al., Cell, 38, 127-134, 1984(非特許文献3))。
【0006】
この性質を使用して、プリオン蛋白質に関連する疾病の診断検定が設計されているが、その場合、全PrPcを減成するためプローブをプロテイナーゼKで処理し、次いでプリオン蛋白質に対する抗体と反応させる(Groschup, et al., Arch.Virol, 136, 423-431, 1994(非特許文献20))。よって、以後プリオン病の診断、予防および治療に使用しうる、異常型プリオン蛋白質に特異的に結合する分子を選択する際には、PrP27-30およびそれに関連したプリオン蛋白質のアミノ酸90番目以降の断片を標的とする必要がある。
【0007】
また、異常型プリオン蛋白質またはプリオン病を検出するための方法として免疫学的手法を提案するいくつかの特許文献も知られている(例えば、特開20003-121448、特開2003-130880、特表2001-508866、特表2000-505559(それぞれ特許文献1、2、3、4と称する))。 しかし、異常型プリオン蛋白質を抗体を用いて免疫学的に検出しようとする場合、この蛋白質自体が凝集体を作りやすく、したがって水に溶けにくいために、該蛋白質の定量が難しいという課題がある。
【0008】
異常型プリオン蛋白質に結合する核酸分子(アプタマー)が報告されている(Rhie, etal., J. Biol. Chem., 278, 39697-39705, 2003(非特許文献21)。ここで使用されたアプタマーはハムスターの異常型プリオン蛋白質に結合可能なものである。開示されたアプタマーは正常型プリオンの異常型への変換を抑制する働きがあることが示されている。
【0009】
【特許文献1】特開20003-121448
【特許文献2】特開2003-130880
【特許文献3】特表2001-508866
【特許文献4】特表2000-505559
【非特許文献1】Prusiner, et al., Science, 216, 136-144, 1982
【非特許文献2】Prusiner, et al., Cell, 35, 349-358, 1983
【非特許文献3】Prusiner, et al., Cell, 38, 127-134, 1984
【非特許文献4】Hope, et al., EMBO J. (10) 2591-2597, 1986
【非特許文献5】Oesch, et al., Cell, 40, 735-746, 1985
【非特許文献6】Prusiner, et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA. 78, 6675-6679, 1981
【非特許文献7】Stahl, et al., Biochemistry, 32, 1991-2002, 1993
【非特許文献8】Caughey, et al., J.Virol.65, 6597-6603, 1991
【非特許文献9】Saeki., et al., Virus Genes, 12: 15-20, 1996
【非特許文献10】Kellings, et al., J.Gen.Virol. 73, 1025-1029, 1992
【非特許文献11】Edenhofer, et al., J.Virol. 70, 4724-4728, 1996
【非特許文献12】Lansbury, et al., Chemistry&Biology, 2, 1-5, 1995
【非特許文献13】(Pan et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 10962-10966, 1993
【非特許文献14】Collinge, et al., Nature, 370, 295-297, 1994
【非特許文献15】Sakaguchi, et al., Nature, 380, 528-531, 1996
【非特許文献16】Tobler, et al., Nature, 380, 639-642, 1996
【非特許文献17】Bueler, et al., Cell, 73, 1339-1347, 1993
【非特許文献18】Brandner, et al., Nature, 379, 339-343, 1996
【非特許文献19】Basler, et al., Cell, 46, 417-428, 1986
【非特許文献20】Groschup, et al., Arch.Virol, 136, 423-431, 1994
【非特許文献21】Rhie, etal., J. Biol. Chem., 278, 39697-39705, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、異常型プリオン蛋白質に結合する非公知の核酸分子、特に異常型プリオン蛋白質由来の原繊維(mSAF)に結合する、好ましくは特異的に結合する、RNAアプタマーを見出すことである。
【0011】
本発明の別の目的は、上記RNAアプタマーを含む組成物、より具体的にはプリオン病を診断するための、あるいは治療または予防するための、組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下のものを包含する。
本発明は、第1の態様において、異常型プリオン蛋白質由来の原繊維と結合可能な核酸分子の同定および分離のための方法であって、
(i) 異常型プリオン蛋白質由来の原繊維を、下記の塩基配列
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号1)
(ここで、Nは、A、C、GまたはUである。)
を含むRNA分子、修飾糖部を含むその誘導体、および該RNA分子に対応するDNA分子からなる群から選択される核酸分子のプールと混合し;
(ii) 該異常型プリオン蛋白質由来の原繊維と結合することのできる核酸分子を選択および分離し;
(iii) 所望により、該分離された核酸分子を増幅した後、工程 (i) および(ii) を反復し;
(iv) 分離された核酸分子の、該異常型プリオン蛋白質に対する結合特異性を決定する;
工程を含む方法を提供する。
【0013】
その第1の実施形態において、前記RNA分子が、下記の塩基配列
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGNNNNNNNNNNUGGUGGAGUCGGGUUGNNNNCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号2)
(ここで、Nは、A、C、GまたはUである。)
を含む分子である。
【0014】
別の実施形態において、前記RNA分子が、下記の塩基配列
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGUGGAGGUGUCGGGUUGNNNNNNNNNNNNNNCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号3)
(ここで、Nは、A、C、GまたはUである。)
を含む分子である。
【0015】
別の実施形態において、前記修飾糖部が、前記配列番号1のRNA分子の塩基配列中の1もしくは複数の糖部の2'位の水酸基がヌクレアーゼ耐性基で置換されたものである。
【0016】
別の実施形態において、前記ヌクレアーゼ耐性基が、-F基、-NH2基、-OCH3基および2',4'-BNA基からなる群から選択される。
【0017】
別の実施形態において、前記修飾糖部が、前記配列番号1のRNA分子の塩基配列中の1もしくは複数の塩基Cおよび/またはUに連結する糖部の2'位の水酸基が、-F基で置換されたものである。
別の実施形態において、前記核酸分子がRNA分子である。
【0018】
本発明は、第2の態様において、下記の塩基配列
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号1)
(ここで、NはA、C、GまたはUである)
の30塩基長のランダム領域をもつRNA分子または修飾糖部を含むその誘導体から、上記の本発明の方法を使用して得られる、異常型プリオン蛋白質由来の原繊維と結合可能なRNAアプタマーを提供する。
【0019】
その第1の実施形態において、前記RNA分子が、下記の塩基配列
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGNNNNNNNNNNUGGUGGAGUCGGGUUGNNNNCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号2)
(ここで、Nは、A、C、GまたはUである。)、
またはその塩基配列において1もしくは複数の修飾糖部を含む塩基配列、を含む。
【0020】
別の実施形態において、前記RNA分子が、下記の塩基配列
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGUGGAGGUGUCGGGUUGNNNNNNNNNNNNNNCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号3)
(ここで、Nは、A、C、GまたはUである。)、
またはその塩基配列において1もしくは複数の修飾糖部を含む塩基配列、を含む。
【0021】
別の実施形態において、前記RNAアプタマーが、下記の塩基配列
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGGUUUGGCGCGUGGUGGAGUCGGGUUGAGCGCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号4)、
またはその塩基配列と80%以上の相同性を有する塩基配列、またはそれらの塩基配列において1もしくは複数の修飾糖部を含む塩基配列、を含む。
【0022】
別の実施形態において、前記RNAアプタマーが、下記の塩基配列
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGUGGAGGUGUCGGGUUGAUUCUGGUGGGAAUCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号5)、
またはその塩基配列と80%以上の相同性を有する塩基配列、またはそれらの塩基配列において1もしくは複数の修飾糖部を含む塩基配列、を含む。
【0023】
別の実施形態において、前記修飾糖部が、前記配列番1〜5のいずれかの塩基配列中の1もしくは複数の糖部の2'位の水酸基がヌクレアーゼ耐性基で置換されたものである。
【0024】
別の実施形態において、前記ヌクレアーゼ耐性基が、-F基、-NH2基、-OCH3基および2',4'-BNA基からなる群から選択される。
【0025】
別の実施形態において、前記修飾糖部が、前記配列番号1〜5のいずれかの塩基配列中の1もしくは複数の塩基Cおよび/またはUに連結された糖部の2'位の水酸基が、-F基で置換されたものである。
【0026】
別の実施形態において、RNAアプタマーが標識されている。
別の実施形態において、RNAアプタマーに機能性化合物が結合されている。機能性化合物の例が、ビオチンである。
【0027】
本発明は、第3の態様において、上記定義の本発明のRNAアプタマーを含む組成物を提供する。
【0028】
本発明は、第4の態様において、上記定義の本発明のRNAアプタマーを含む、プリオン病診断用組成物を提供する。
【0029】
本発明は、第5の態様において、プリオン病の検出方法であって、被験者からの生物学的サンプルと上記定義の本発明のRNAアプタマーとを接触させること、および該サンプル中の異常型プリオン蛋白質由来の原繊維と該RNAアプタマーとの結合を検出することを含み、該結合が検出されるときプリオン病であると決定する方法を提供する。
【0030】
本発明は、第6の態様において、被験者からの生物学的サンプルを、上記定義の本発明のRNAアプタマーを固定した担体を含むカラムに通して、異常型プリオン蛋白質を濃縮する方法を提供する。
【0031】
その第1の実施形態において、前記異常型プリオン蛋白質を濃縮する方法を、プリオン病の検出のための生物学的サンプルの前処理として使用する。
【0032】
本発明は、第7の態様において、上記定義の本発明のRNAアプタマーを含む、プリオン病の予防または治療用医薬組成物を提供する。
【発明の効果】
【0033】
本発明のRNAアプタマーは、異常型プリオン蛋白質由来の原繊維(mSAF)に特異的に結合する新規の機能性核酸分子である。このRNAアプタマーは、プリオン病の診断のために使用できるという利点を有する。さらに本発明のRNAアプタマーは、プリオン病の発症予防、プリオン病の治療のために使用しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本明細書で使用する用語の定義は以下の通りである。
「アプタマー」とは、アミノ酸のような小分子から、タンパク質及びウイルスのような高分子に対して特異的に認識して結合することができる核酸分子を意味し、本発明ではプリオン蛋白質に直接結合することが可能な機能性RNA分子をいう。アプタマーは、インビトロ選択法によって得ることができる。
【0035】
「インビトロ選択法」とは、ランダム化された核酸分子の大きな集団から、定められた標的分子と結合する核酸分子(RNA、修飾されたRNA、ssDNAまたはdsDNA)を選択し、増幅するサイクルを繰り返すことによって、より標的分子と高い親和性で結合する核酸分子 を選別する方法である(Tuerk, et al., Science.; 249 (4968):505-10, 1990;Famuloket al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 31、979-988, 1992)。すなわち、最初はごく僅かしかないそのような分子もPCR法で増幅され、結合の弱い分子はサイクルをくり返すことで淘汰され、最終的に特異的に結合する分子のみが残る。
【0036】
この方法を使用して、HIV-1逆転写酵素(Tuerk, et al、1992)、HIV-1インテグラーゼ(Allen, et al., Virology, 209, 327-336, 1995)、ヒトα-トロンビン(Kubik, et al., Nucleic Acids Res.22, 2619-2626, 1994)、ショウジョウバエの性致死蛋白質(Sakashita et al., Nucleic Acids. Res. 22, 4082-4086, 1994)およびC型肝炎ゲノム由来のプロテアーゼ(Fukuda, et al., Eur. J. Biochem. 267(12), 3685-3694, 2000) を包含する様々な標的蛋白質を特異的に認識する核酸の分離が報告されている。
【0037】
「異常型プリオン蛋白質由来の原繊維(SAF)」とは、供給源となった生物の如何に拘わらず、この異常型プリオン蛋白質、そのフラグメントおよびその誘導体を含む。本明細書において、特に「mSAF」と表記した場合は、Ohibihiro株マウス由来の異常型プリオン蛋白質由来の原繊維を表す。
【0038】
「ヌクレアーゼ耐性修飾」とは、RNA分子中の糖部の2'位の水酸基を、化学合成又酵素反応などの手法によりフルオロ基、メトキシ基などのヌクレアーゼ耐性基に置換することをいう。
【0039】
「末端ビオチン化」とは、任意の核酸の5'末端および/または3'末端にビオチンを合成または酵素反応により付加することをいう。本発明では特に、5'末端のビオチン化をいう。
本発明をさらに具体的に説明する。
【0040】
異常型プリオン蛋白質由来の原繊維と結合可能なRNAアプタマーのインビトロ選択
本発明のRNAアプタマーは、インビトロ選択法によって得ることができる。具体的には、RNAアプタマーは、本発明の、異常型プリオン蛋白質由来の原繊維と結合可能な核酸分子の同定および分離のための方法によって得ることができる。この方法は、以下の工程:
(i) 異常型プリオン蛋白質由来の原繊維を、下記の塩基配列
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号1)
(ここで、Nは、A、C、GまたはUである。)
を含むRNA分子、修飾糖部を含むその誘導体、および該RNA分子に対応するDNA分子からなる群から選択される核酸分子のプールと混合する工程;
(ii) 該異常型プリオン蛋白質由来の原繊維と結合することのできる核酸分子を選択および分離する工程;
(iii) 所望により、該分離された核酸分子を増幅した後、工程 (i) および(ii) を反復する工程;および
(iv) 分離された核酸分子の、該異常型プリオン蛋白質に対する結合特異性を決定する工程
を含む。
【0041】
本発明では、核酸分子として、一本鎖または二本鎖核酸分子、例えばRNA、修飾RNA、一本鎖DNAもしくは二本鎖DNAを使用することが可能である。本発明において好ましい核酸分子はRNAおよびその修飾RNAである。
【0042】
配列番号1で示されるRNA分子のより好ましい例は、下記の塩基配列
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGNNNNNNNNNNUGGUGGAGUCGGGUUGNNNNCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号2)
(ここで、Nは、A、C、GまたはUである。)、または
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGUGGAGGUGUCGGGUUGNNNNNNNNNNNNNNCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号3)
(ここで、Nは、A、C、GまたはUである。)
を含む分子である。
【0043】
修飾RNAは、配列番号1に示されるRNAの塩基配列中の1もしくは複数、好ましくは1もしくは数個、のヌクレオシド糖部の2'位の水酸基がヌクレアーゼ耐性基で置換された塩基を含む誘導体である。ヌクレアーゼ耐性基の例は、-F基、-NH2基、-OCH3基および2',4'-BNA基である。或いは、別の修飾糖部の例は、前記配列番号1のRNA分子の塩基配列中の1もしくは複数の塩基Cおよび/またはUに連結された糖部の2'位の水酸基が、-F基で置換されたものである。本発明における修飾RNAはいずれも、異常型プリオン蛋白質由来の原繊維と結合することができる。
【0044】
本明細書で使用される「数個」とは、2以上10未満、例えば9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、または2〜3を意味する。
【0045】
異常型プリオン蛋白質由来の原繊維と結合する核酸分子が選択される出発物質を構成する核酸分子のプールは、上記配列番号1の塩基配列中の30塩基長のランダム領域(Nで示される)にA、C、GまたはU(もしくはT)の4種の塩基を任意に割り当てた種々の配列の核酸分子の混合物として定義される。このプールは核酸分子の任意の混合物であってよいが、好ましくはランダム化された分子のプールである。好ましくはこのプールの核酸分子は、核酸の自動合成装置を用いて化学的に合成されてもよいし、またはインビトロ転写により生成されてもよい。
【0046】
RNA分子の場合、プリオン蛋白質のイソ型の一つと特異的に結合する分子についてスクリーニングされるRNAプールは、好ましくは菊池等(J Biochem (Tokyo), 133(3), 263-270, 2003)および/または福田等(Eur. J. Biochem. 267(12), 3685-3694, 2000)において記載されるRNAプールである。このプールは、30の位置でランダム化された74ヌクレオチドのRNA分子から成り、対応するDNA配列の転写から生成される。これらのRNAプールは、およそ1×1018の異なる配列のRNA分子を含んでいる。
【0047】
本発明の方法は、羊のスクレイピー、子牛のウシ海綿状脳症(BSE)、ミンクの伝達性ミンク脳症(TME)、ヒトの場合のクールー病、ゲルストマン-シュトロイスラー-シャインカー症候群(GSS)、致死性家族性不眠症(FFI)、クロイツフェルト-ヤコブ病(CJD)、ラバ、シカおよびエルクの慢性消耗病(CWD)またはネコのネコ海綿状脳症(FSE)のような伝達性海綿状脳症に関係するプリオン蛋白質を識別できる核酸分子の同定および分離に使用することができる。伝達性海綿状脳症はまた、マウス、アラビアオリックス、グレータークーズー、エランド、アンコール、ムフロン、ピューマ、チータ、シミターホーンドオリックス、オセロットおよびトラ等でも知られている。このようなヒト、ウシ、マウスを含む哺乳動物が、本発明における異常型プリオン蛋白質をもつ対象となる動物である。
【0048】
核酸分子のプールをプリオン蛋白質と共にインキュベートする工程は、種々の方法で実施することができる。
【0049】
本発明の一つの好ましい実施形態では、異常型プリオン蛋白質は溶液状態または懸濁状態である。この場合、プリオン蛋白質に結合している核酸分子は、例えばニトロセルロース膜を使用した分離検定を実施し蛋白質/核酸複合体を回収することにより分離することができる。その後この核酸分子を複合体から分離し既知の方法によってさらに精製することができる。但し、異常型プリオンは通常の緩衝溶液中では不溶性のため、適切な界面活性剤で可溶化したもの、または超音波処理により均一化したものであってもよい。核酸分子の分離精製は、例えば溶媒のイオン強度を高めたり、溶媒に界面活性剤を添加することによって核酸分子を分離し、フェノール抽出および沈澱化により核酸分子を精製することによって行うことができる。
【0050】
あるいは、異常型プリオン蛋白質が担体、例えばセファデックスやセファロースなどの担体に固定化されるときには、異常型プリオン蛋白質に結合しない核酸分子は、適当な緩衝液による洗浄により、反応後に除去することができる。その後、異常型プリオン蛋白質に結合しているこの核酸分子は、例えば7M尿素により、固定化された蛋白質から溶離し、さらに例えばフェノール抽出および沈澱化により精製することができる。
【0051】
本発明によれば、例えばインビトロ転写、逆転写またはポリメラーゼ連鎖反応またはこれらの技術の組み合わせにより、工程(i)および(ii)により得られる核酸分子を増幅し、そして工程(i)および(ii)を反復することが可能である。これにより、使用された異常型プリオン蛋白質由来の原繊維に結合する核酸分子のさらなる選択および増幅が導かれる。
【0052】
ポリメラーゼ連鎖反応は、Taqポリメラーゼなどの耐熱性ポリメラーゼ(逆転写酵素)、Mg2+の存在下、例えば94℃15秒〜1分の変性工程、55℃30秒〜1分のアニーリング工程、72℃30秒〜5分の伸長反応工程を含むことができる。これらの工程を1サイクルとして、5〜40サイクル程度、PCR反応を繰り返す。
【0053】
もしこの方法の工程(i)ないし(iii)を数サイクル実施するならば、1またはそれ以上のサイクルに固定化された異常型プリオン蛋白質由来の原繊維を、そして1またはそれ以上のサイクルに溶液の異常型プリオン蛋白質由来の原繊維を使用することが可能である。溶液状態の異常型プリオン蛋白質由来の原繊維を使用するサイクルは、固定化された異常型プリオン蛋白質由来の原繊維が結合している担体(マトリックスともいう)に結合している核酸分子の除去を可能にする。
【0054】
本発明の方法に用いられる異常型プリオン蛋白質由来の原繊維は、核酸分子が結合可能な限り、任意の既知の異常型プリオン蛋白質由来の原繊維のフラグメントもしくは誘導体であってもよい。
【0055】
好ましい実施形態において、異常型プリオン蛋白質由来の原繊維は、異常型プリオンに感染した哺乳動物の生体組織(例えば脳、延髄、扁桃、回腸、皮質、硬膜、プルキニエ細胞、リンパ節、神経細胞、脾臓、筋肉細胞、胎盤、膵臓、眼球、脊髄、パイエル板など)、血液、脳脊髄液などの体液から抽出したものが使用される。特に好ましい態様においては異常型プリオンに感染した哺乳動物の脳組織から抽出したものが使用される。さらなる好ましい実施形態において、この方法で用いられる異常型プリオン蛋白質由来の原繊維は異常型プリオンに感染した哺乳動物の脳組織をプロテアーゼKで処理後、適切な方法により精製したものである。
【0056】
本発明に係る方法の最終工程(iv)では、分離された核酸分子を、異常型プリオン蛋白質由来の原繊維との結合特異性について試験する。
【0057】
したがって、本発明の方法は、異常型プリオン蛋白質由来の原繊維、またはそのフラグメントもしくは誘導体の一方と特異的に結合する核酸分子の同定および分離を可能にし、それにより異なるイソ型の識別を可能にする。
【0058】
異常型プリオン蛋白質由来の原繊維と結合する核酸分子、好ましくはRNAアプタマーは、正常型プリオン蛋白質およびそのイソ型蛋白質と結合しないことが望ましい。この点で、本発明の方法によって分離されうる核酸分子は、異常型プリオン蛋白質由来の原繊維と特異的に結合する。
【0059】
本発明の方法を実施するならば、異常型プリオン蛋白質由来の原繊維(SAF)と結合可能な、あるいは識別可能な、核酸分子を分離することができる。本発明の方法により取得可能な核酸分子は、異常型プリオン蛋白質由来の原繊維に結合する一本鎖RNA、一本鎖DNAまたは二本鎖DNA分子である。これらの核酸分子にはさらに、マウス異常型プリオン蛋白質由来の原繊維またはこれらの蛋白質の誘導体に、特異的に結合する核酸分子も包含する。
【0060】
異常型プリオン蛋白質由来の原繊維に対する結合活性をもつRNAアプタマー配列
本発明の上記方法によって分離された核酸分子、好ましくはRNAアプタマーは、配列番号1、好ましくは配列番号2または3、のランダム配列を有するRNA分子から、インビトロ選択法により選択されうる。
【0061】
好ましいRNAアプタマーの例は、
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGGUUUGGCGCGUGGUGGAGUCGGGUUGAGCGCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号4)の塩基配列、またはその塩基配列において1もしくは複数の修飾糖部を含む塩基配列、を含む。
【0062】
また別の好ましいRNAアプタマーの例は、
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGUGGAGGUGUCGGGUUGAUUCUGGUGGGAAUCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号5)の塩基配列、またはその塩基配列において1もしくは複数の修飾糖部を含む塩基配列、を含む。
【0063】
ここで、糖部は、配列番号4または5の塩基配列中のヌクレオシド糖部分を指し、修飾糖部は、その1もしくは複数(好ましくは、1もしくは数個)の糖部分の2'位の水酸基がヌクレアーゼ耐性基、例えば-F基、-NH2基、-OCH3基および2',4'-BNA基で置換されたものをいう。別の修飾糖部の例は、配列番号4または5のRNA分子の塩基配列中の1もしくは複数(好ましくは、1もしくは数個)の塩基Cおよび/またはUに連結された糖部の2'位の水酸基が、-F基で置換されたものである。
【0064】
しかし、このようなRNAアプタマーは例示にすぎないものであり、配列番号4または5の塩基配列において、配列番号1、2または3の塩基配列中のNで表したランダム領域の配列に対応する部分の配列の1もしくは数個(2〜10個、好ましくは2〜5個)の塩基が異なる塩基と置換された配列を有するアプタマーも本発明に包含されるものとする。このようなアプタマーは、配列番号4または5の塩基配列と80%以上、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の相同性を有する。あるいは、配列番号4または5の塩基配列と80%以上、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列を含むRNAアプタマーも本発明に包含される。ここで、相同性は、配列番号4または5の塩基配列の全体または一部分の塩基数を100%とし、対応する部分の未変化(同一)の塩基の百分率(%)を算出して得られる。
【0065】
異常型プリオン蛋白質に対する結合活性をもつRNAアプタマーの化学修飾
本発明のRNAアプタマーは、それらを生化学的な検定に供するため、ならびに/あるいは、それらの生化学的および/または生物物理学的性質を改変するため、核酸分子の任意の位置、例えばその末端の一方または両端の位置、あるいはその他の位置を標識したり、あるいは核酸分子の任意の位置に機能性化合物を結合することができる。
【0066】
標識の例は、フルオロセイン、ローダミン、それらの誘導体などの蛍光物質、32P、35Sなどのアイソトープなどを含む。また、機能性化合物の例は、ビオチン、マルトースなどのタグ分子を含む。ビオチンは、アビジンやストレプトアビジンと特異的に結合する性質があるため、このようなアビジンにアルカリフォスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼなどの酵素を結合することによって、適当な基質の存在下で結合活性の測定に利用できる。
【0067】
好ましい実施形態において、該RNAアプタマーはその末端、例えば5’末端に適切なリンカーを介して末端ビオチン化することができる。
【0068】
異常型プリオン蛋白質に対するRNAアプタマーの結合活性
上で説明した本発明のRNAアプタマーは、異常型プリオン蛋白質由来の原繊維に対して結合活性を示す。例えば、評価対象のRNA分子が異常型プリオン蛋白質由来の原繊維に対して結合活性を示すか否かについては、異常型プリオン蛋白質由来の原繊維に対する結合活性を測定することによって検討することができる。
【0069】
本発明のRNAアプタマーと哺乳動物の異常型プリオン蛋白質由来の原繊維との結合は、哺乳動物の単一種に特異的であってもよいし、あるいは複数の特定の種間で特異的であってもよい。後者の場合、例えば1つのRNAアプタマーを、複数の哺乳動物の異常型プリオン蛋白質の検出のために用いることが可能である。例えばヒトとマウスは、後者の例である。
【0070】
結合活性を測定する際には、結合対象となる異常型プリオン蛋白質を含む反応液に、本発明のRNA分子を添加し、該RNA分子と結合対象との結合を検出する。RNA分子と結合対象との結合は、RNA分子を標識化する場合には放射線検出器や蛍光検出器で、RNA分子を標識化しない場合には水晶振動子や表面プラズモン共鳴検出装置等によって検出することができる。
【0071】
RNAアプタマーを用いるプリオン病の検出
本発明のRNAアプタマーは、異常型プリオン蛋白質由来の原繊維と特異的に結合できるため、プリオン病の検出のために使用することができる。
【0072】
検出は、例えば、身体から取得したサンプルを、本発明のRNAアプタマーの少なくとも1種類と共にインキュベートし、その後、該アプタマーとプリオン蛋白質のイソ型PrPc(正常型)、PrPSc(異常型)を測定することを含む。
【0073】
例えば伝達性海面状脳症(TSE)に罹患した哺乳動物では、PrPScの量が増加し、PrPcの総量が減少するため、原則としてPrPScまたはイソ型PrPcの一方または他方と結合するRNAアプタマーを、プリオン病の検出に使用することが可能である。
【0074】
一方で、サンプル中のマウス異常型プリオン蛋白質由来の原繊維を定量するため、本発明に係る核酸分子の少なくとも1種類を使用することが可能である。
【0075】
他方では、サンプル中の絶対量および/または相対量を測定するため、イソ型PrPcに特異結合するRNAアプタマーをPrPScに特異結合する核酸分子と組み合わせて使用することが可能である。
【0076】
その検出方法は、具体的には、被験者からの生物学的サンプルと本発明の上記定義のRNAアプタマーとを接触させること、および該サンプル中の異常型プリオン蛋白質由来の原繊維と該RNAアプタマーとの結合を検出することを含み、該結合が検出されるときプリオン病であると決定する。
【0077】
被験者は、異常型プリオン蛋白質に起因する疾患、例えばスクレイピー、海綿状脳症、伝達性ミンク脳症(TME)、クールー病、ゲルストマン-シュトロイスラー-シャインカー症候群(GSS)、致死性家族性不眠症(FFI)、クロイツフェルト-ヤコブ病(CJD)、慢性消耗病(CWD)、伝達性海綿状脳症またはそれらに類似する疾患をもつことが疑われる、ヒト、ウシ、マウス、ヒツジ、ウシ、ミンク、ラバ、ネコ、シカ、エルク、アラビアオリックス、グレータークーズー、エランド、アンコール、ムフロン、ピューマ、チータ、シミターホーンドオリックス、オセロット、トラを含む哺乳動物であるが、これらに限定されない。
【0078】
生物学的サンプルは、異常型プリオンに感染したことが疑われる被験者の臓器や組織または細胞、例えば脳、延髄、扁桃、回腸、皮質、硬膜、プルキニエ細胞、リンパ節、神経細胞、脾臓、筋肉細胞、胎盤、膵臓、眼球、脊髄、パイエル板など、あるいは血液、脳脊髄液、乳、精液などの体液である。好ましいサンプルは、脳、延髄、血液である。
【0079】
脳をサンプルとして使用する場合、検出は殆どの場合死後に実施する。例外的に脳生検を生きている生物に実施することができる。脳は、伝達性海綿状脳症に罹患し得る任意の生物、例えばヒツジ、(子)ウシ、マウス、ネコ、ハムスター、ラバ、シカ、エルクもしくはヒト、またはTSEに罹患し得る上記のようなその他の生物に源を発することができる。脳は、PrP0/0(ノックアウト)、PrPsc(感染した)およびPrPc(野生型)または未知のPrP状態である生物を供給源とすべきである。血液、乳、脳脊髄液、精液または上に述べたその他の臓器由来の組織をサンプルとして使用する場合は、生きている個体に対するプリオン病の診断が可能である。
【0080】
RNAアプタマーとサンプルとの接触は、通常、水性媒体中で、溶液または懸濁状態で行うことができる。好ましくは、接触は溶液状態で行われる。プリオン蛋白質が溶解しにくいときには、界面活性剤などの可溶化剤を添加することができる。水性媒体は、生理的pH(7.4〜7.5)の緩衝液、例えばトリス塩酸、が望ましい。
【0081】
接触は、通常、室温(好ましくは18〜32℃)で5〜60分(好ましくは10〜30分)で行うことができる。
【0082】
結合活性の測定のために、RNAアプタマーを、蛍光物質、アイソトープ、酵素などのラベルで標識することが望ましい。具体的には、上記の説明が参照されるが、検出には放射能、蛍光、発光が利用されうる。一方、RNA分子を標識化しない場合には水晶振動子や表面プラズモン共鳴検出装置等によって検出することができる。
【0083】
異常型プリオン蛋白質の濃縮
さらに、プリオン病を検出するための有効な前処理操作として、本発明のRNAアプタマーは、例えばプリオン濃縮カラムの担体として用いることができる。濃縮操作は低濃度の異常プリオン蛋白質の検出を可能にするため、プリオン病の生前診断が可能になる。例えば、RNAアプタマーを共有結合または適切なリガンドを介してビーズに固定したカラムを作製する。大容量の血清や血液等の液性生体材料、およびそれらを用いて作られた製剤等をカラムに通し、結合したPrPScを小容量の溶出液で溶出することにより、PrPScの高度濃縮液を作製する。作製した濃縮液は通常の抗体法等で検出し、PrPSc混入の有無を判断することが可能である。
【0084】
したがって、本発明はさらに、被験者からの生物学的サンプルを、本発明のRNAアプタマーを固定した担体を含むカラムに通して、異常型プリオン蛋白質を濃縮する方法を提供する。
【0085】
アプタマーを固定化するための担体は、蛋白質の精製に慣用的に使用される担体であればいずれのものでもよい。担体は、例えばセファロース、セファデックス、バイオゲルなどを含むセルロース系、アガロース系担体を含む。スペーサー付反応基が結合された担体が市販されているので、このような担体にRNAアプタマーを、添付の説明にしたがって結合することができる。
【0086】
RNAアプタマーを固定した担体をカラムに充填し、緩衝液で洗浄、平衡化したのち、異常型プリオン蛋白質を含むと推定される生物学的サンプルをカラムに載せ、緩衝液を流してアプタマーに異常型プリオン蛋白質を結合させたのち、塩濃度を高めたまたは尿素を添加した緩衝液を溶出剤として用いて異常型プリオン蛋白質を溶出することができる。
【0087】
この方法は、本発明の上記のプリオン病の検出のための生物学的サンプルの前処理として使用することもできる。異常型プリオン蛋白質を濃縮することによって、プリオン病の検出感度が向上することが期待される。
【0088】
異常型プリオン蛋白質の測定
本発明のアプタマーはさらに、生物学的サンプル中の異常型プリオン蛋白質の定量的または定性的測定のために使用することができる。
【0089】
上で説明したように、測定は、(好ましくは標識された)RNAアプタマーを、異常型プリオン蛋白質を含むと推定される生物学的サンプルと接触させ、該アプタマーと該プリオン蛋白質との結合の存在または量を測定する。
【0090】
測定は、好ましくは、可溶化剤を用いて異常型プリオン蛋白質を溶解したのち、可溶化蛋白質をRNAアプタマーと結合させることによって実施される。例えば、蛍光物質、アイソトープ、酵素などのラベルで標識された一定量のRNAアプタマーと、異常型プリオン蛋白質の標準サンプル(上記の「異常型プリオン蛋白質の濃縮」の手順で精製することができる)との結合量を、標準サンプルの濃度を変えて測定し、検量線を作成し、この検量線から、生物学的サンプル中に存在する異常型プリオン蛋白質の量を決定することができる。結合の検出には、上記と同様に、放射能、蛍光、発光が利用されうる。
【0091】
さらに、本発明のRNAアプタマーを使用して、PrPSc結合蛋白質の同定が可能である。例えば、TSE感染脳など、PrPScを含む生体材料を上記のRNAアプタマーを用いたプリオン濃縮カラムで濃縮し、生体内でPrPScと結合している蛋白質等の生体内分子の同定および得られたPrPSc結合性生体内分子によるPrPSc生成の影響等を明らかにすることが可能である。
【0092】
PrPSc結合性生体内分子の検出は、例えば、洗浄操作を行った後、RNAアプタマーを特異的に消化する酵素等を作用させ、ビーズとの結合を切断後、遊離したPrPSc−PrPSc結合性生体内分子複合体を電気泳動等で検出し、質量分析計等で同定することができる。
【0093】
RNAアプタマーを含む組成物
本発明はさらに、本発明のRNAアプタマーを含む組成物を提供する。
本発明のアプタマーは異常型プリオン蛋白質由来の原繊維に特異的に結合することができるため、そのような組成物は、プリオン病を診断または検出するために、あるいはプリオン病を予防または治療するために用いることができる。
【0094】
プリオン病を診断するための本発明の組成物は、キットの形態であることができる。キットには、本発明のRNAアプタマーに加えて、緩衝液、基質(蛍光または発光用)、異常型プリオン蛋白質の標準サンプル、診断目的のために一般的に用いられる添加物などを、使用説明書とともに含めることができる。本発明の診断用組成物は、伝達性海綿状脳症の診断のために使用することができる。
【0095】
プリオン病を予防又は治療するには、プリオン病を発症した被験者の組織または細胞(例えば脳など)に、上述した異常型プリオン蛋白質に特異的に結合するRNAアプタマーを導入することによって、RNAアプタマーをPrPscに結合させて、その増殖を阻止することができる。異常型プリオン蛋白質由来の原繊維に特異的に結合するRNAアプタマーを患者に導入するには、例えば、導入対象の異常型プリオン蛋白質由来の原繊維に特異的に結合するRNAアプタマーをリポソームに封入し細胞内に取り込む方法(“lipidic vector systems for gene transfer”(1997) R.J lee and L. Huang Crit, Rev. Ther. Drug Carrier Sys. 14: 173-206; 中西守ら、蛋白質 核酸 酵素 vol.44, No. 11, 1590-1596 (1999))を適用しうる。リポソームとしてはカチオン型リポソームが好ましく、それにはコレステロールタイプのリポソームも含まれる。
【0096】
血液脳関門を通過させるために、例えばRNAアプタマーにコレステロールなどの脂質を結合させて、またはリポソームに封入した形態で、患者の血管に投与するか、あるいは、RNAアプタマーを脊髄に投与し脳脊髄液を介して脳内に薬剤を送達する方法を適用することができる。
【0097】
RNAアプタマーを有効成分として含む医薬組成物は、必要により医薬上許容される担体、例えば生理食塩水、緩衝液などの希釈剤、安定化剤、保存剤、溶解剤などの添加剤を含むことができる。核酸類を有効成分とする医薬で一般的に使用される添加剤が本発明の組成物でも使用できる。
【0098】
患者への投与量、投与経路、投与頻度は、被験者の年令、体重、性別、疾病の状態、重篤度、生体の応答性によって適宜変化させうるし、また、治療の有効性が認められるまで、あるいは疾病状態の軽減が達成されるまでの期間にわたり投与が継続されうる。有効成分の用量は、限定されないが、例えば約1μg〜約100mgである。あるいは、本発明の組成物中に約1〜約20%(w/v)の濃度で含有させることができる。投与経路は、静脈内投与、動脈内投与、硬膜内投与、脊髄内投与などであるが、これらに限定されない。
【0099】
これらの組成物は、例えば上に列挙されたような伝達性海綿状脳症の治療に有用であり得る。プリオン病は、正常型プリオンPrPcのイソ型が、プロテインXを介して異常型プリオンPrPScに特異結合することによって異常型プリオンのホモダイマー、次いで凝集体が形成されことによってプリオン病を発症するか、あるいは正常型プリオンがゆっくりと異常型プリオンに変化し、それが凝集を起こすことによってプリオン病を発症するか、あるいは正常型プリオンのミスフォールディングによってプロテアーゼ耐性プリオン蛋白質(異常型プリオン)が形成され、これが増幅することによって発症する、と考えられている(Cell 121:155-162, 2005; Cell 121:195-206, 2005)。本発明のRNAアプタマーを適用することにより、in vivoでイソ型PrPcなどの正常型から異常型プリオンへの変換を抑制することが可能となり得ると考えられる(非特許文献21)。
【0100】
RNAアプタマーの他の利用
さらに、本発明のRNAアプタマーを使用して、異常型プリオン蛋白質由来の原繊維の特異結合に必要な三次元構造を同定することができる。この情報の助けにより、異常型プリオン蛋白質由来の原繊維と特異結合できる他の化合物を分離または合成することができる。したがって、本発明においてはさらに、その三次元構造から導かれる情報に基づき無機または有機化合物、好ましくは糖類、アミノ酸、蛋白質または炭水化物より成る群から選ばれる、RNAアプタマー以外のプリオン病の診断、予防または治療のために有効な化合物をスクリーニングすることができる。
【0101】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0102】
マウス異常型プリオン蛋白質由来の原繊維(mSAF)の精製
プリオン病の発症が確認されたマウスObihiro株の脳組織1.6gに、1ml 10% サルコシル, 10 mMトリス塩酸 (pH 7.4) 溶液を加え、ホモジナイザーで十分ホモジナイズした。上澄を回収後、18.5 mlサルコシル, 10 mM トリス塩酸 (pH 7.4) を加え、室温で30分間静置した。
【0103】
反応後、27000rpm, 20℃で20分間遠心分離し、上澄を回収した。回収した上澄はさらに、100000rpm, 2℃で30分間遠心分離し、沈澱を回収した。
【0104】
回収した沈澱は1 mlの1 %サルコシル, 10 mMトリス塩酸 (pH 7.4)、10 %塩化ナトリウム溶液を加え、洗浄した後、50μlの1 %サルコシル, 10 mMトリス塩酸 (pH 7.4)、10 %塩化ナトリウム溶液中に懸濁し、超音波処理をおこなった。
【0105】
処理後、700μlの1 %サルコシル, 10 mMトリス塩酸 (pH 7.4)、10% 塩化ナトリウム溶液及びプロテアーゼK を終了50μgになるように加え、37℃で1時間、転倒混和した。
【0106】
混和後、1 mM ペハブロック溶液 10μlを加え、プロテアーゼ反応を停止した後、27000rpm, 20℃で20分間遠心分離し、沈澱を回収した。 回収した沈澱は1 ml 1% サルコシル, 10 mMトリス塩酸 (pH 7.4)、10%塩化ナトリウム溶液を加え、洗浄した後、50μlの20 mMトリス塩酸 (pH 7.4)溶液中に懸濁し、さらに450μlの20 mMトリス塩酸 (pH 7.4)溶液を加え、27000rpm, 20℃で20 分間遠心分離し、上澄を回収した。
【0107】
回収したサンプル溶液10μlを5倍段階希釈した後、12% NuPAGE (インビトロジェン社)で150V、1時間電気泳動を行い、銀染色キット(和光純薬)で染色してmSAFの純度を確認した。
染色結果を図2に示す。
【実施例2】
【0108】
マウス異常型プリオン蛋白質由来の原繊維(mSAF)と特異結合するRNA分子のインビトロ選択
実施例1にて作成したマウス異常型プリオン蛋白質由来の原繊維(mSAF)およびRNAプール(Fukuda, et al., Eur. J. Biochem. 267(12), 3685-3694, 2000)を用いて、各々のプールについて図3に示す条件でインビトロ選択法(図1に模式的に示した)を実施した。
【0109】
RNAプール:本発明で用いたRNAプールは、記載のように(Fukuda, et al., Eur. J. Biochem. 267(12), 3685-3694, 2000)DNAプール(N30V:93塩基長)からインビトロ転写によって作製した。簡潔に述べると、これらのRNAプールは、30のランダム化された配列、すなわち塩基の順列430=1.03 ×1018分子、を示す。その結果およそ1.03×1018の異なる配列と1.03×1018の複雑度を有するプールが生成したが、これは一つのプールのコピーに相当する(即ち、各々一つ一つのRNA分子がプール内で一重に表される)。
【0110】
詳細には、RNAプールの技術的特徴は以下の通りである:
5’固定領域のヌクレオチド配列:
N30V: 5’- AGTAATCGACTCACTATAGGGAGAATTCCGACCAGAAG -3’ (配列番号6)
3’固定領域のヌクレオチド配列:
N30V: 5’- CCTTTCCTCTCTCCTTCCTCTTCT-3’ (配列番号7)
ランダム化された配列=30ヌクレオチド 塩基順列430=1.03 ×1018
【0111】
1プールの複雑度=430=1.03 x1018分子=1プールコピー、即ち各々一つ一つのRNA分子がプール内で一重に表される 2種類のRNAプールの模式図を図3に示す。5’固定領域のヌクレオチド配列5’-AGTAATCGACTCACTATA-3’(配列番号8)は、転写されていないため、DNAプールにのみ属する。
【0112】
なお、以下の操作は20 mM トリス塩酸 (pH 7.5)、100 mM 塩化ナトリウムより成る結合緩衝液中で、図3に示す反応時間、mSAFの存在下で反応した。反応はすべてのサイクルにおいて室温静置で行った。
【0113】
ニトロセルロース膜を用いたインビトロ選択法
福田等の方法に従い行った(Eur. J. Biochem. 267(12), 3685-3694, 2000)。
図3に示す組成と時間でmPrPcとRNAプールおよび必要に応じて競合分子を反応溶液中にて反応させた後、HAポップ-トップキット(ミリポア)上に固定した0.45μm孔径ニトロセルロース膜(ミリポア)で濾過した。このとき、膜上にはmPrPcおよびmPrPc-RNA複合体が残る。膜を回収後、7M尿素-0.3M酢酸ナトリウム溶液中で振盪溶出して、RNA分子を回収した。
【実施例3】
【0114】
逆転写反応
リバートエイドM-MuLV逆転写酵素キット(MBIファーメンタス)に従い逆転写反応を行った。具体的には、実施例1にて抽出されたRNAの全量に、逆転写反応溶液と図4に示される各々の3’-プライマー(5'-AGAAGAGGAAGGAGAGAGGAAAGG-3'(配列番号9))50 pmolを加えた後94℃で2分間反応後、室温に15分静置させた。反応後、0.25 mM dNTPs、逆転者酵素100ユニットを加えて42℃で1時間反応させた。
【実施例4】
【0115】
ポリメラーゼ連鎖反応
GeneTaq PCRキット(ニッポンジーン)に従いポリメラーゼ連鎖反応を行った。具体的には、実施例2で精製したサンプルの全量に、PCR反応溶液と図3に示される各々の5’-、3’-プライマー(それぞれ配列番号6、配列番号9の塩基配列)を各々50 pmol、 0.2 mM dNTPsおよびGeneTaqポリメラーゼ1ユニットを加えた後、94℃、1分間-55℃、1分15秒-72℃、1分15秒のサイクルを任意の回数行った。反応後、アガロースゲル電気泳動でポリメラーゼ連鎖反応の増幅の確認をエチジウムブロマイド染色で行った。産物の増幅の確認後、エタノール沈澱を行い、凍結乾燥したサンプルを30 mM NaCl中に溶かした。
【実施例5】
【0116】
転写反応
アンプリスクライブT7転写キット(エピセントレ)に従い転写反応を行った。具体的には、実施例3で増幅されたcDNAの50% を、転写反応溶液と7.5 mM ATP、7.5 mM GTP、7.5 mM CTP、7.5 mM UTP、10 mM DTT、T7 RNA ポリメラーゼ2ユニットを加えて、37℃で2時間反応させた。反応後、DNアーゼ0.5ユニットを加え、15分反応させた。RNA断片は、既知の方法に従って回収した(Sanger, et al., Proc. Notl. Acad. Sci. USA, 74, 5463-5467, 1977)。
【実施例6】
【0117】
配列解析
同定されたRNA分子の配列の決定 10サイクルの増幅および選択の後に同定されたRNA分子の配列を決定するため、これらのRNA分子をcDNAに逆転写し、PCR(Sambrook, et al., Molecular cloning, 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, 1989)により増幅した。得られたcDNAをpGEM-T EASY(プロメガ)中にサブクローニングし、cDNAクローンの配列をSanger等の方法(1977)に従って決定した。同定された2種類のRNA分子の配列を図6(配列番号4及び5)に示す。
【実施例7】
【0118】
5’-末端ビオチン化反応
5’末端核酸ラベリングシステム(ベクター)に従い5’-末端ビオチン化反応を行った。具体的には、実施例6で得られたRNA分子600 pmolを反応溶液中、アルカリフォスファターゼで37℃、30分反応させた。反応後、1.3μgのATPgSの存在下、T4ポリヌクレオチドキナーゼで37℃、30分反応させた。反応後、ビオチンマレイミド380μg存在下で65℃、30分反応させた。反応後定法によりエタノール沈澱操作を行い、回収した。回収した産物は、吸光度測定により濃度を測定した。
【実施例8】
【0119】
変法ドットブロットアッセイ
RNAアプタマーに対するmSAFに対する結合性をチェックするため、本発明者等は変法ドットブロットアッセイを行った。
【0120】
適量の5’-末端ビオチン化したRNAアプタマーとmSAFとを、 20 mM トリス塩酸 (pH 7.5)、100 mM 塩化ナトリウム、100 nM (U)16 存在下、室温で10分間反応後、96穴ドットブロット装置(アマシャム)上に固定した0.22μm孔径ニトロセルロース膜(バイオラッド)に引圧条件下でmSAF-アプタマー複合体を吸着させた。 ウェルを500μlの20 mM トリス塩酸 (pH 7.5)、100 mM 塩化ナトリウムで引圧洗浄後、ニトロセルロース膜を乾燥した。
【0121】
乾燥後、5 % BSAで1時間ブロッキングをした後、ストレプトアビジン-アルカリホスファターゼ(SA-AP)(ロシュ)を1時間反応させ、ビオチンを介してRNAアプタマー/SA-AP複合体を形成させる。反応後、膜を洗浄し、発光基質CDP-Star(ロシュ)を湿潤させ、発光反応を行った。検出は、ポラロイドミニカメラ(アマシャム)で適切な時間、露光を行った。
【0122】
結果を図7に示す。
図7から、mSAFに対して得られたアプタマー(2,3)はいずれもマウス正常型プリオン蛋白質よりも、異常型プリオン(mSAF)に特異的に結合することがわかった。1はコントロールに用いたマウス正常型プリオン蛋白質に対するアプタマーである。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明は、プリオン病の診断のために使用することができる。また、本発明のRNAアプタマーは、プリオン病の予防または治療のために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】マウス異常型プリオン蛋白質由来の原繊維 (mSAF) に特異結合するRNA分子のインビトロ選択における工程を模式的に示している。RT=逆転写反応;PCR=ポリメラーゼ連鎖反応。
【図2】プリオン病の発症が確認されたマウスObihiro株より精製したmSAFの純度を示している。
【図3】本発明で使用したインビトロ選択法の、各々のサイクルでの反応条件を示している。
【図4】インビトロ転写によるランダム化されたRNAプールN30V(Fukuda, et al., Eur. J. Biochem. 267(12), 3685-3694, 2000)の構成を模式的に示している(Nts=ヌクレオチド)。
【図5】6および 8サイクル目における、mSAF非存在下と存在下におけるPCR反応の結果を示す図である。
【図6】9サイクル後のmSAFに対する、インビトロ選択により選択されたRNAアプタマーの塩基配列を示す図である。
【図7】変法ドットブロットによるアプタマーのmSAF に対する結合性を示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0125】
配列番号1:合成RNA分子
配列番号2:合成RNA分子
配列番号3:合成RNA分子
配列番号4:RNAアプタマー
配列番号5:RNAアプタマー
配列番号6:5’固定領域のヌクレオチド配列
配列番号7:3’固定領域のヌクレオチド配列
配列番号8:5’固定領域のヌクレオチド配列
配列番号9:プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異常型プリオン蛋白質由来の原繊維と結合可能な核酸分子の同定および分離のための方法であって、
(i) 異常型プリオン蛋白質由来の原繊維を、下記の塩基配列
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号1)
(ここで、Nは、A、C、GまたはUである。)
を含むRNA分子、修飾糖部を含むその誘導体、および該RNA分子に対応するDNA分子からなる群から選択される核酸分子のプールと混合し;
(ii) 該異常型プリオン蛋白質由来の原繊維と結合することのできる核酸分子を選択および分離し;
(iii) 所望により、該分離された核酸分子を増幅した後、工程 (i) および(ii) を反復し;
(iv) 分離された核酸分子の、該異常型プリオン蛋白質に対する結合特異性を決定する;
工程を含む方法。
【請求項2】
前記RNA分子が、下記の塩基配列
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGNNNNNNNNNNUGGUGGAGUCGGGUUGNNNNCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号2)
(ここで、Nは、A、C、GまたはUである。)
を含む分子である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記RNA分子が、下記の塩基配列
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGUGGAGGUGUCGGGUUGNNNNNNNNNNNNNNCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号3)
(ここで、Nは、A、C、GまたはUである。)
を含む分子である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記修飾糖部が、前記配列番号1のRNA分子の塩基配列中の1もしくは複数の糖部の2'位の水酸基がヌクレアーゼ耐性基で置換されたものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ヌクレアーゼ耐性基が、-F基、-NH2基、-OCH3基および2',4'-BNA基からなる群から選択される基である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記修飾糖部が、前記配列番号1のRNA分子の塩基配列中の1もしくは複数の塩基Cおよび/またはUに連結する糖部の2'位の水酸基が、-F基で置換されたものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記核酸分子がRNA分子である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
下記の塩基配列
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号1)
(ここで、NはA、C、GまたはUである)
の30塩基長のランダム領域をもつRNA分子または修飾糖部を含むその誘導体から、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法を使用して得られる、異常型プリオン蛋白質由来の原繊維と結合可能なRNAアプタマー。
【請求項9】
前記RNA分子が、下記の塩基配列
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGNNNNNNNNNNUGGUGGAGUCGGGUUGNNNNCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号2)
(ここで、Nは、A、C、GまたはUである。)、
またはその塩基配列において1もしくは複数の修飾糖部を含む塩基配列、を含む、請求項8記載のRNAアプタマー。
【請求項10】
前記RNA分子が、下記の塩基配列
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGUGGAGGUGUCGGGUUGNNNNNNNNNNNNNNCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号3)
(ここで、Nは、A、C、GまたはUである。)、
またはその塩基配列において1もしくは複数の修飾糖部を含む塩基配列、を含む、請求項8記載のRNAアプタマー。
【請求項11】
前記RNAアプタマーが、下記の塩基配列
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGGUUUGGCGCGUGGUGGAGUCGGGUUGAGCGCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号4)、
またはその塩基配列と80%以上の相同性を有する塩基配列、またはそれらの塩基配列において1もしくは複数の修飾糖部を含む塩基配列、を含む、請求項9記載のRNAアプタマー。
【請求項12】
前記RNAアプタマーが、下記の塩基配列
5’-GGGAGAAUUCCGACCAGAAGUGGAGGUGUCGGGUUGAUUCUGGUGGGAAUCCUUUC CUCUCUCCUUCCUCUUCU-3’ (配列番号5)、
またはその塩基配列と80%以上の相同性を有する塩基配列、またはそれらの塩基配列において1もしくは複数の修飾糖部を含む塩基配列、を含む、請求項10記載のRNAアプタマー。
【請求項13】
前記修飾糖部が、前記配列番号1〜5のいずれかの塩基配列中の1もしくは複数の糖部の2'位の水酸基がヌクレアーゼ耐性基で置換されたものである、請求項8〜12のいずれか1項に記載のRNAアプタマー。
【請求項14】
前記ヌクレアーゼ耐性基が、-F基、-NH2基、-OCH3基および2',4'-BNA基からなる群から選択される、請求項13記載のRNAアプタマー。
【請求項15】
前記修飾糖部が、前記配列番号1〜5のいずれかの塩基配列中の1もしくは複数の塩基Cおよび/またはUに連結された糖部の2'位の水酸基が、-F基で置換されたものである、請求項8〜12のいずれか1項に記載のRNAアプタマー。
【請求項16】
標識されている、請求項8〜15のいずれか1項に記載のRNAアプタマー。
【請求項17】
機能性化合物が結合されている、請求項8〜15のいずれか1項に記載のRNAアプタマー。
【請求項18】
前記機能性化合物がビオチンである、請求項17記載のRNAアプタマー。
【請求項19】
請求項8〜18のいずれか1項に記載のRNAアプタマーを含む組成物。
【請求項20】
請求項8〜18のいずれか1項に記載のRNAアプタマーを含む、プリオン病診断用組成物。
【請求項21】
プリオン病の検出方法であって、被験者からの生物学的サンプルと請求項8〜18のいずれかのRNAアプタマーとを接触させること、および該サンプル中の異常型プリオン蛋白質由来の原繊維と該RNAアプタマーとの結合を検出することを含み、該結合が検出されるときプリオン病であると決定する方法。
【請求項22】
被験者からの生物学的サンプルを、請求項8〜18のいずれかのRNAアプタマーを固定した担体を含むカラムに通して、異常型プリオン蛋白質を濃縮する方法。
【請求項23】
プリオン病の検出のための生物学的サンプルの前処理として使用する、請求項22記載の方法。
【請求項24】
請求項8〜18のいずれか1項に記載のRNAアプタマーを含む、プリオン病の予防または治療用医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−320289(P2006−320289A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148411(P2005−148411)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(597090181)農林水産省動物医薬品検査所長  (2)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】