説明

異常監視装置

【課題】競合学習型ニューラルネットワークの規模を大きくせずに複数種類の対象信号を用いて機器の異常の予兆を早期に検出可能とする。
【解決手段】信号入力部2は、機器Xの動作により生じる複数種類の対象信号を取り込む。各対象信号の特徴を表す特徴ベクトルを特徴抽出部4でそれぞれ抽出する。カテゴリ分類部1は、特徴抽出部4により抽出した各特徴ベクトルを入力データとする競合学習型ニューラルネットワークを用いて構成される。乖離度演算部5は、カテゴリ分類部1における出力層のニューロンに設定された重みベクトルと機器Xの動作により得られた各特徴ベクトルとの差分ベクトルの大きさを乖離度として求める。判別部6は、各対象信号から得られた乖離度を要素とする多次元の乖離度ベクトルの存在領域により機器Xの異常の有無を判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象の動作を反映した電気信号を競合学習型ニューラルネットワークにより分類することで、検査対象の動作の異常の有無を判定する異常監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ニューラルネットワーク(ニューロコンピュータ)の分類機能を利用することにより、検査対象から得られる対象信号を分類する技術が知られている。この種の技術は、音声の認識や機器が正常に動作しているか機器に異常が生じているかを判定する異常監視装置などに用いられている。たとえば、この種の技術を採用した異常監視装置では、機器の動作音や機器の振動をセンサ部(トランスデューサ)により電気信号に変換してセンサ部の出力を対象信号に用い、対象信号の特徴を表す複数の要素からなる特徴ベクトルを抽出し、この特徴ベクトルをニューラルネットワークで分類する技術が種々提案されている。
【0003】
ニューラルネットワークには種々の構成が知られており、たとえば、競合学習型ニューラルネットワーク(自己組織化マップ=SOM)を用いて特徴ベクトルのカテゴリを分類することが提案されている。競合学習型ニューラルネットワークは、入力層と出力層との2層からなるニューラルネットワークであり、学習モードと検査モードとの2動作を行う。
【0004】
学習モードでは、教師信号を用いずに学習データを与える。学習データにカテゴリを与えておけば、出力層のニューロンにカテゴリを対応付けることができ、同種のカテゴリに属するニューロンからなるクラスタを形成することができる。したがって、学習モードでは、出力層のニューロンのクラスタにカテゴリを示すクラスタリングマップを対応付けることができる。
【0005】
検査モードでは、分類しようとする特徴ベクトル(入力データ)を学習済みの競合学習型ニューラルネットワークに与え、クラスタリングマップにおいて発火したニューロンが属するクラスタのカテゴリをクラスタリングマップに照合することによって、入力データのカテゴリを分類することができる(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−354111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載された構成では、検査対象から1種類の対象信号を取り出しているから、1箇所の異常を検出することができるが、検査対象が設備装置のように複数の要素を組み合わせて構成されている場合には、対象信号を取り出している箇所は、他の箇所とも連携して動作していることが多いから、対象信号を取り出している箇所で異常が検出される前に他の箇所において異常の予兆を生じていることがある。また、複数箇所の動作を総合すると、異常の予兆がみられる場合もある。あるいはまた、1箇所の対象信号であっても複数種類の情報を抽出することにより、異常の予兆を検出することが可能になる場合もある。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、1種類の対象信号について得られた特徴を競合学習型ニューラルネットワークで分類するだけであり、検査対象から複数種類の対象信号を抽出したとしても異常の有無を適切に判断することができない。
【0008】
また、競合学習型ニューラルネットワークにおける入力層のニューロンの個数を増やし、複数種類の対象信号の入力を可能とすることが考えられるが、この構成を採用すると、競合学習型ニューラルネットワークの規模が大きくなるという問題が生じる。しかも、競合学習型ニューラルネットワークに設定するカテゴリが、対象信号ごとのカテゴリを組み合わせた形になるから、対象信号の種類が増加すれば組み合わせの種類が膨大な数になり、競合学習型ニューラルネットワークの学習にきわめて多くの時間を要することになる。
【0009】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、検査対象から複数種類の対象信号を抽出することによって検査対象の異常の予兆を早期に検出可能とし、しかも、競合学習型ニューラルネットワークの規模を大きくする必要がなく対象信号の種類が増加しても学習に要する時間が組み合わせ的に増大することのない異常監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、検査対象の動作を反映する電気信号を対象信号として検査対象から複数種類の対象信号を取り込む信号入力部と、各対象信号ごとの特徴を表す特徴ベクトルをそれぞれ抽出する特徴抽出部と、特徴抽出部により抽出した各特徴ベクトルを入力データとし学習データを用いてあらかじめ学習することにより出力層の各ニューロンに学習データのカテゴリに対応した重みベクトルが設定される競合学習型ニューラルネットワークからなるカテゴリ分類部と、カテゴリ分類部における出力層のニューロンに設定された重みベクトルと検査対象の動作により得られた各特徴ベクトルとの差分ベクトルの大きさを乖離度として求める乖離度演算部と、各対象信号から得られた乖離度を要素とする多次元の乖離度ベクトルの存在領域により検査対象の異常の有無を判別する判別部とを備えることを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、前記競合学習型ニューラルネットワークは、前記検査対象が正常に動作しているときに各対象信号について得られた特徴ベクトルを学習データとし、各対象信号をそれぞれ1つのカテゴリとして学習されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明では、請求項1または請求項2の発明において、前記判別部は、前記検査対象が正常に動作しているときの乖離度ベクトルを学習データとして学習された競合学習型ニューラルネットワークからなることを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明では、請求項1ないし請求項3のいずれかの発明において、前記カテゴリ分類部は、検査対象の種類ごとに競合学習型ニューラルネットワークを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明の構成によれば、複数種類の対象信号からそれぞれ抽出した特徴ベクトルについて、競合学習型ニューラルネットワークからなる学習済みのカテゴリ分類部の各カテゴリの重みベクトルとの乖離度をそれぞれ求め、各対象信号に対応する乖離度を要素とした乖離度ベクトルを設定するから、乖離度ベクトルによって複数種類の対象信号の情報を総合することができる。つまり、検査対象の異常の予兆を複数種類の対象信号を用いて早期に検出することが可能になる。また、カテゴリ分類部では、複数種類の対象信号を総合して分類する必要がなく、複数種類の対象信号による総合判断は判別部が行うから、各種類の対象信号のカテゴリを組み合わせたカテゴリを設定する必要がなく、結果的にカテゴリ分類部として、大規模の競合学習型ニューラルネットワークを用いずに複数種類の対象信号の情報を総合して判断することが可能になる。つまり、対象信号の種類が増加しても学習に要する時間が組み合わせ的に増大することがないという利点を有する。ここに、組み合わせ的に増大するとは、比例関係よりも大きくべき乗、階乗などの関係で増加することを意味している。
【0015】
請求項2の発明の構成によれば、学習データとして検査対象が正常に動作している場合の特徴ベクトルを用いるから、カテゴリ分類部としての競合学習型ニューラルネットワークには、各対象信号ごとに正常状態のカテゴリが設定されることになる。言い換えると、カテゴリ分類部には検査対象が正常であるときの各対象信号がカテゴリとして設定される。したがって、学習データは検査対象が正常に動作している間の各対象信号に対応した特徴ベクトルがあればよく、学習データの集合の数は対象信号の種類と同数あればよいことになる。つまり、対象信号の種類が増加しても学習データの集合の増加は比例関係であり、組み合わせ的に増大することがない。
【0016】
請求項3の発明の構成によれば、判別部として競合学習型ニューラルネットワークを用いるから、検査対象が正常に動作しているときの乖離度ベクトルを学習データとして判別部を学習させておくことにより、カテゴリ分類部で発生した乖離度ベクトルと判別部における出力層のニューロンの重みベクトルとの差によって、多次元空間での乖離度ベクトルの存在領域に相当する検査結果を得ることが可能になる。つまり、判別部としての競合学習型ニューラルネットワークにおける出力層のニューロンの発火状態によって、検査対象の異常の有無を知ることができる。
【0017】
請求項4の発明の構成によれば、カテゴリ分類部において対象信号ごとの競合学習型ニューラルネットワークを用いるから、競合学習型ニューラルネットワークは複数必要になるが、出力層の1個のニューロンに互いに異なる複数種類の対象信号のカテゴリが重複して設定されることがないから、異常の有無の検出精度が高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に説明する実施形態では、検査対象の動作によって生じる対象信号の特徴ベクトルにより、検査対象の動作が正常か異常かを判別する異常監視装置に本発明の技術を採用する例を示す。また、検査対象としてはモータのような動力源を備える設備機器を想定するが、検査対象の種類はとくに問わない。
【0019】
本実施形態で説明する異常監視装置は、図1に示すように、教師なしの競合学習型ニューラルネットワーク(以下、単に「ニューラルネット」と呼ぶ)からなるカテゴリ分類部1を用いている。カテゴリ分類部1としてのニューラルネットは、図2に示すように、それぞれ入力層11と出力層12との2層からなり、出力層12の各ニューロンN2が入力層11のすべてのニューロンN1とそれぞれ結合された構成を有している。カテゴリ分類部1としてのニューラルネットは、逐次処理型のコンピュータで適宜のアプリケーションプログラムを実行することにより実現する場合を想定しているが、専用のニューロコンピュータを用いることも可能である。
【0020】
カテゴリ分類部1としてのニューラルネットの動作には、学習モードと検査モードとがあり、学習モードにおいて適宜の学習データを用いて学習した後に、検査モードにおいて実際の対象信号から生成した複数の要素からなる特徴ベクトル(入力データ)のカテゴリを分類する。
【0021】
入力層11のニューロンN1と出力層12のニューロンN2との結合度(重み係数)は可変であり、学習モードにおいて、学習データをカテゴリ分類部1に入力することによりカテゴリ分類部1を学習させ、入力層11の各ニューロンN1と出力層12の各ニューロンN2との重み係数を決める。言い換えると、出力層12の各ニューロンN2には、入力層11の各ニューロンN1との間の重み係数を要素とする重みベクトルが対応付けられる。したがって、重みベクトルは入力層11のニューロンN1と同数の要素を持ち、入力層11に入力される特徴ベクトルの要素の個数と重みベクトルの要素の個数とは一致する。
【0022】
一方、検査モードでは、カテゴリを判定すべき入力データを学習済みのカテゴリ分類部1の入力層11に与えると、出力層12のニューロンN2のうち、重みベクトルと入力データとのユークリッド距離が最小であるニューロンN2が発火する。学習モードにおいて出力層12のニューロンN2にカテゴリが対応付けられていれば、発火したニューロンN2の位置のカテゴリによって入力データのカテゴリを知ることができる。
【0023】
カテゴリ分類部1であるニューラルネットにおける出力層12の各ニューロンN2には後述する手順でカテゴリを対応付ける。また、本実施形態では、カテゴリ分類部1で分類すべきカテゴリは正常と異常との2種類としており、学習モードにおいて正常のカテゴリの学習データのみを入力する。つまり、検査モードにおいて与えられた入力データがカテゴリ分類部1に設定された正常のカテゴリに属さないときには、入力データは異常とみなされる。
【0024】
出力層12の各ニューロンN2のカテゴリには、学習データのカテゴリが反映され、多数個(たとえば、150個)の学習データを与えると、カテゴリ分類部1における出力層12のニューロンN2のうち学習データのカテゴリに対応するニューロンN2に、学習データとのユークリッド距離の小さい重みベクトルが設定される。つまり、学習後に当該学習データを与えることによって、このニューロンN2が発火する。学習モードでカテゴリ分類部1に与えられる学習データは学習データ記憶部7に格納されており、必要に応じて学習データ記憶部7から読み出されてカテゴリ分類部1に与えられる。
【0025】
ところで、カテゴリ分類部1により分類する対象信号は、設備機器(以下、単に「機器」という)Xの動作に伴って得られる電気信号であって、たとえば、機器Xの動作時に生じる振動を検出する振動センサからなる信号入力部2の出力を用いる。振動センサとしては、3軸(つまり、互いに直交する3方向)の加速度を検出する加速度ピックアップを用いるものとする。
【0026】
ただし、信号入力部2の構成は機器Xの種類に応じて適宜に選択することができ、機器Xの動作音を検出するマイクロホン、TVカメラ、匂いセンサなどの各種のセンサを単独または組み合わせて用いることができる。あるいはまた、機器Xが発生する信号を取り出して対象信号に用いることも可能である。また、上述の例では1箇所に設けた振動センサから3種類の対象信号が得られる構成を採用しているが、検査対象である機器Xの複数箇所から対象信号を抽出する構成を採用してもよい。
【0027】
信号入力部2で得られた電気信号である対象信号は、特徴抽出部4に与えられ対象信号の特徴を表す特徴ベクトルが抽出される。特徴抽出部4では、3種類の対象信号についてそれぞれ特徴ベクトルを抽出する。したがって、信号入力部2と特徴抽出部4との間にはマルチプレクサ3が設けられ、3種類の対象信号が特徴抽出部4に順次入力される。対象信号の種類が少ないときには、特徴抽出部4を複数設けることにより各対象信号の特徴ベクトルを抽出するようにしてもよい。
【0028】
また、特徴抽出部4において、機器Xが発生する対象信号から同じ条件で特徴ベクトルを抽出するために、信号入力部2には各種類の対象信号を一時的に記憶するバッファメモリ(先入れ先出しのメモリ)を設けておき、マルチプレクサ3で選択した各対象信号について特徴ベクトルを抽出するタイミングを一致させるのが望ましい。また、各対象信号は、機器Xが動作している期間の対象信号を抽出する必要があるから、機器Xの動作に同期したタイミング信号(トリガ信号)を用いたり、対象信号の波形の特徴(たとえば、ひとまとまりの対象信号の開始点と終了点)を用いたりすることによって、信号入力部2の出力から対象信号の切り出し(セグメンテーション)を行うタイミングを決める。機器Xから出力される対象信号は周期性を有しているものとし、セグメンテーションでは周期毎に分割し、周期毎の特徴ベクトルを抽出する。また、特徴抽出部4では、必要に応じて周波数帯域を制限するなどして、ノイズを低減させる前処理を行う。さらに、特徴抽出部4は対象信号をデジタル信号に変換する機能も備える。
【0029】
説明を簡単にするために、ここでは、セグメンテーションを行った後の対象信号から複数の周波数成分(周波数帯域ごとのパワー)を抽出し、各周波数成分を要素としたベクトルを特徴ベクトルに用いるものとする。周波数成分の抽出には、FFT(高速フーリエ変換)の技術、あるいは多数個のバンドパスフィルタからなるフィルタバンクを用いる。どの周波数のパワーを特徴ベクトルの要素に用いるかは、対象とする機器Xや抽出しようとする異常に応じて適宜に選択される。
【0030】
特徴抽出部4から周期毎に得られた特徴ベクトルは、特徴ベクトルの抽出のたびにカテゴリ分類部1に与えられる。また、特徴ベクトルは学習データとしても用いるために学習データ記憶部7にも格納される。学習データ記憶部7は、たとえば150個の特徴ベクトルを学習データとして保持する容量を有している。
【0031】
ここでは、学習データ記憶部7に格納されているデータの集合をデータセットと呼び、データセットを構成している各データはそれぞれ特定のカテゴリ(つまり、各対象信号ごとの正常のカテゴリ)に対応付けられているものとする。上述のように3種類の対象信号について正常状態における特徴ベクトルを抽出しているからカテゴリは3種類になる。
【0032】
ニューラルネットからなるカテゴリ分類部1を使用可能とするには、まずカテゴリ分類部1を学習モードとし、学習データ記憶部7に格納されている学習データを用いてカテゴリ分類部1の学習を行う。カテゴリ分類部1の学習を行うと、カテゴリ分類部1の出力層12における各ニューロンN2にはそれぞれ重みベクトルが設定される。ここで、カテゴリが3種類であるから、3種類の対象信号の特徴ベクトルが十分な差異を有しているときには、出力層12のニューロンN2にも3領域が形成される。
【0033】
カテゴリ分類部1における出力層12の各ニューロンN2に重みベクトルが設定された後、ニューラルネットからなるカテゴリ分類部1を検査モードとして学習データを再入力すると、学習データのカテゴリに応じたニューロンN2が発火する。発火するニューロンN2は、重みベクトルと入力データとのユークリッド距離が最小であるニューロンN2であるから、学習済みのカテゴリ分類部1に各対象信号の特徴ベクトルを与えて重みベクトルとのユークリッド距離(差分ベクトルの大きさ)に相当する評価値を求めると、各カテゴリへの帰属度を評価することができる。
【0034】
この評価値としては、乖離度を用いる。乖離度は重みベクトルと特徴ベクトルとの差分ベクトルの大きさを正規化した値であり、特徴ベクトルを[X]、カテゴリに対応付けたニューロンN2の重みベクトルを[Wwin]とすれば([a]はaがベクトルであることを意味している)、乖離度Yは次式で定義される。
Y=([X]/X−[Wwin]/Wwin)([X]/X−[Wwin]/Wwin)
ここにTは転置を表し、角付き括弧を付与していないX,Wwinは各ベクトルのノルムを表す。各ベクトルの要素をノルムで除算していることにより正規化される。
【0035】
乖離度は、カテゴリ分類部1に設定された重みベクトルとカテゴリ分類部1への入力データ(特徴ベクトル)とを用いて乖離度演算部5において求める。各対象信号の乖離度をそれぞれ求めると、3個の乖離度が得られるから、乖離度を要素とする乖離度ベクトルを規定することができる。乖離度の適宜から明らかなように、各対象信号がそれぞれ正常であるとすれば、乖離度ベクトルの各要素は略0になるから、乖離度ベクトルの大きさは略0になる。
【0036】
そこで、各対象信号の乖離度を軸に持つ多次元のベクトル空間を設定し、この多次元空間における乖離度ベクトルの存在領域を判定すれば、機器Xの動作が正常か否かを判定することができる。本実施形態では、対象信号が3種類であるから、図3に示すように、3次元のベクトル空間を設定することができる。このベクトル空間において、原点を中心とする球形の領域を正常範囲の領域Dとして設定すれば、乖離度ベクトルVが領域Dの範囲内であるときには、機器Xの動作が正常であると判断することができる。
【0037】
乖離度に基づいて機器Xにおける動作の異常の有無を判別するために判別部6が設けられる。判別部6には、乖離度演算部5で求めた乖離度が入力される。ここに、上述したようにマルチプレクサ3を設けて各対象信号を特徴抽出部4に順次入力しているから、乖離度演算部5では乖離度を順次求めている。したがって、判別部6には、乖離度演算部5において順次得られる乖離度が順にシリアルに入力されるレジスタが設けられ、レジスタからデータをパラレルに読み出すことによって乖離度ベクトルが次段に引き渡される。
【0038】
判別部6では、各対象信号ごとの乖離度を要素とする乖離度ベクトルについてのノルムが求められ、求めたノルムが規定した閾値(球状の領域Dの半径に相当)と比較される。ノルムが閾値以下であれば機器Xが正常と判断でき、ノルムが閾値を超えるときには機器Xに異常があるか異常の予兆があると判断することができる。また、領域Dを球形ではなく適宜の形状に設定すれば、特定の異常に対する早期の発見が可能になる。
【0039】
判別部6としては、乖離度ベクトルのノルムを閾値と比較する構成のほか、機器Xが正常に動作しているときの乖離度ベクトルを学習データとして学習された競合学習型ニューラルネットワーク(以下、「ニューラルネット」)を用いてもよい。判別部6にニューラルネットを使用すれば、正常に対応するカテゴリが設定されるから、判別部6に入力された乖離度ベクトルが正常のカテゴリに属していないときには、機器Xに異常が生じているか異常の予兆があると判断することができる。
【0040】
また、上述の構成例では、カテゴリ分類部1において複数種類の対象信号をニューラルネットで分類する構成を採用しているから、対象信号の特徴が類似していると、カテゴリが異なる(対象信号の種類が異なる)にもかかわらず、同じニューロンN2が発火する場合が生じる。カテゴリ分類部1には各対象信号に対応した特徴ベクトルが異なる時刻に入力されるから、同じニューロンN2に異なるカテゴリが重複して設定されても問題は生じないが、対象信号ごとにニューラルネットを設ける構成を採用すれば、このような重複を避けることができる。
【0041】
対象信号の種類と同数のニューラルネットを設ける場合には、特徴抽出部4も同数設けることによってマルチプレクサ3と、判別部6におけるレジスタとが不要になる。ただし、特徴抽出部4、ニューラルネット、乖離度演算部5が複数必要になるから、規模は大きくなる。
【0042】
なお、上述の動作例では、機器Xの動作中に乖離度を時々刻々求め、各時点での異常の有無あるいは異常の予兆を判別しているが、乖離度ベクトルの履歴を蓄積すれば、乖離度ベクトルの変化傾向によって異常の予兆をさらに早期に発見することが期待できる。上述した例ではカテゴリを正常のみとしたが、他のカテゴリであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態を示すブロック図である。
【図2】同上に用いるニューラルネットの概略構成図である。
【図3】同上に用いる判別部の原理を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 カテゴリ分類部
2 信号入力部
3 マルチプレクサ
4 特徴抽出部
5 乖離度演算部
6 判別部
7 学習データ記憶部
11 入力層
12 出力層
N1 ニューロン
N2 ニューロン
X 機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象の動作を反映する電気信号を対象信号として検査対象から複数種類の対象信号を取り込む信号入力部と、各対象信号ごとの特徴を表す特徴ベクトルをそれぞれ抽出する特徴抽出部と、特徴抽出部により抽出した各特徴ベクトルを入力データとし学習データを用いてあらかじめ学習することにより出力層の各ニューロンに学習データのカテゴリに対応した重みベクトルが設定される競合学習型ニューラルネットワークからなるカテゴリ分類部と、カテゴリ分類部における出力層のニューロンに設定された重みベクトルと検査対象の動作により得られた各特徴ベクトルとの差分ベクトルの大きさを乖離度として求める乖離度演算部と、各対象信号から得られた乖離度を要素とする多次元の乖離度ベクトルの存在領域により検査対象の異常の有無を判別する判別部とを備えることを特徴とする異常監視装置。
【請求項2】
前記競合学習型ニューラルネットワークは、前記検査対象が正常に動作しているときに各対象信号について得られた特徴ベクトルを学習データとし、各対象信号をそれぞれ1つのカテゴリとして学習されていることを特徴とする請求項1記載の異常監視装置。
【請求項3】
前記判別部は、前記検査対象が正常に動作しているときの乖離度ベクトルを学習データとして学習された競合学習型ニューラルネットワークからなることを特徴とする請求項1または請求項2記載の異常監視装置。
【請求項4】
前記カテゴリ分類部は、検査対象の種類ごとに競合学習型ニューラルネットワークを備えることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の異常監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−97360(P2008−97360A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278976(P2006−278976)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】