説明

異常診断機能付きホイストクレーン装置

【課題】電動機からの駆動力を伝達する歯車における、摩耗量を診断する機能を備えたホイストクレーンを提供する。
【解決手段】電動機1と、電動機を駆動制御する運転制御装置8と、電動機の回転軸に接続する回転角度検出装置11と、電動機に流れる電流を測定する電流センサ13と、回転軸の回転角度値と前記電動機に流れる電流値とから、摩耗状態の診断値を算出する摩耗診断装置12とを備えるホイストクレーンを構成し、特に、前記運転制御装置は、起動停止あるいは反転運転を含む検査用運転を電動機に実行させ、前記摩耗診断装置は、回転起動から歯車の噛合いにより電動機に流れる電流が立ち上がるまでの間に測定される回転軸の回転角度値から摩耗状態診断を行うことを特徴とするホイストクレーン装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイストクレーン装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動機と接続する減速機を備え、前記減速機に含まれる歯車の摩耗を検出する機能を備えたホイストクレーン装置においては、減速機における歯車のうち1つを拘束する手段と、他の歯車を回転させる手段と、前記他の歯車の回転量を計測する計測手段とを備えた特開昭58−143210号公報記載のようなホイストクレーン装置があった。
【0003】
このホイストクレーン装置においては、減速機に含まれる歯車のうち1つを拘束手段により拘束した状態で、他の歯車を前記拘束した歯車との干渉により停止させられるまで一方向に回転させ、その後に反対方向に回転させながら前記拘束した歯車との干渉が発生して停止させられるまでの回転量を前記計測手段により計測し、その計測値を既定の設定値と比較することにより歯車の摩耗状態を検出する構造となっている。
【0004】
【特許文献1】特開昭58−143210号公報
【特許文献2】特開平10−332539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記の従来例においては、ホイストクレーンにおける通常の荷物の荷搬送に関わる要素に加え、検査用に歯車の拘束手段および歯車の回転軸ごとの回転エンコーダ等を追加して設置する必要があるため、構造が複雑化するほか、ホイストクレーンの重量の増加,サイズの増加等が生ずる難点があった。
【0006】
また、電動機械において、電動機に接続する減速機の歯車の摩耗状態を診断する方法としては、電動機を正転方向から逆転方向あるいは逆転方向から正転方向に起動する際の電流立ち上がり時間および起動指令から電流立ち上がりまでの無駄時間を測定して定量化することにより、歯車の摩耗状態を検知する特開平10−332539号公報記載の手法があった。
【0007】
しかしながら、一般のホイストクレーン装置においては、少なくともワイヤーロープおよびフックブロックがホイストクレーン装置の本体と回転ドラムとに常時ぶらさがった状態にあるため、巻きドラムおよび歯車減速機には、常時同一回転方向に荷重が作用し、通常、巻き上げにおいても、巻き下げにおいても、各歯車は前記荷重の作用にて同じ側の歯面が接触する。このため、前記特開平10−332539号公報記載の手法のような、起動電流の比較による診断や起動から電流立ち上がりまでの無駄時間を測定して診断する手法の適用が困難であった。
【0008】
本発明の目的は、歯車の拘束手段や回転エンコーダ等の要素追加による装置の複雑化や大型化を回避し、かつ、歯車の摩耗量を診断可能なホイストクレーン装置を得ること、またワイヤーロープやフックブロック等による一方向への荷重が作用する歯車においても安定的に測定を行い、歯車の摩耗量を診断可能な異常診断装置を搭載したホイストクレーン装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、回転可能な巻きドラムと、歯車を内蔵し前記巻きドラムに接続して回転力を伝達する減速機と、この減速機に接続して回転駆動する電動機と、この電動機に配線され運転指示に従った駆動電力を前記電動機に供給して前記電動機の運転を制御する運転制御装置と、この運転制御装置と前記電動機とを結ぶ電力伝達経路上に設置され前記電動機に流れる電流を測定する電流センサと、少なくとも前記減速機内の歯車の歯厚相当角度よりも小さい角度を検出可能な分解能を有し前記電動機の回転軸に接続して前記回転軸の回転角度を検出する回転角度検出装置とを備えてなり、前記運転制御装置と前記電流センサと前記回転角度検出装置とに配線され前記運転制御装置からの指示により、前記電動機が起動停止運転あるいは正転と逆転とを繰り返す反転運転を含む検査用運転を実行する際に、前記電流センサと前記回転角度検出装置とから電流値と回転角度値とを取得し、回転起動後或いは反転回転起動後に前記歯車が噛合うことにより前記電流値が増加する或いは前記回転角度値の変化量が減少する変化点を決定し、前記回転起動あるいは前記反転回転起動から前記変化点までの間に測定される回転角度値を用いて歯車の摩耗量を診断する摩耗診断装置とを設けたことにより達成される。
【0010】
また上記目的は、回転可能な巻きドラムと、歯車を内蔵し前記巻きドラムに接続して回転力を伝達する減速機と、この減速機に接続して回転駆動する電動機と、前記電動機に配線され運転指示に従った駆動電力を前記電動機に供給して前記電動機の運転を制御する運転制御装置と、この運転制御装置と前記電動機とを結ぶ電力伝達経路上に設置され前記電動機に流れる電流を測定する電流センサと、少なくとも前記減速機内の歯車の歯厚相当角度よりも小さい角度を検出可能な分解能を有し前記巻きドラムの回転軸に接続して前記巻きドラムの回転角度と回転方向とを検出する回転角度検出装置とを備えてなり、前記運転制御装置と前記電流センサと前記回転角度検出装置とに配線され、前記運転制御装置からの指示により、前記電動機が起動停止運転を含む検査用運転を実行する際に、前記電流センサと前記回転角度検出装置とから電流値と回転角度値と回転方向とを取得し、前記電流値から前記電動機の動作および停止状態を検知し、前記検査用運転における前記電動機の停止直後、前記巻きドラムが慣性により前記歯車の噛合いまで回転を持続し前記歯車の噛合いにて反転回転しながら停止に至るまでの間、回転角度を測定し、特に反転が検知された瞬間を変化点として決定し、各変化点間に測定される回転角度値から歯車の摩耗量を診断する摩耗診断装置とを設けたことにより達成される。
【0011】
また上記目的は、前記運転制御装置は前記検査用運転に含まれる前記起動停止運転および前記反転運転の実施で、起動加速度あるいは停止減速加速度を段階的に増加させて回転起動と停止を繰り返す機能を有し、前記摩耗診断装置は前記検査運転中の前記回転角度値と前記電流値を測定することにより達成される。
【0012】
また上記目的は、前記運転制御装置は検査実行の指示が外部から入力されると前記電動機を制御して一旦、既定の回転位置まで巻きドラムの巻き状態を制御し、その後前記検査用運転を実行させることにより達成される。
【0013】
また上記目的は、前記巻きドラムにより巻き取られるワイヤーロープと、前記ワイヤーロープにかかり、前記ワイヤーロープの巻き取りに伴い上下移動を行うフックブロックとを備え、前記ホイストクレーン装置に含まれる運転制御装置は、検査実行の指示を外部から入力すると前記電動機を駆動しながら前記電流センサに接続して電流値を取得し、フックブロックが外部の固定治具により支持された状態、あるいは着地した状態にあることを検出し、その後前記検査用運転を実行する機能を備えたことにより達成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、歯車の拘束手段や回転エンコーダ等の要素追加による装置の複雑化や大型化を回避し、かつ、歯車の摩耗量を診断可能なホイストクレーン装置を得ること、またワイヤーロープやフックブロック等による一方向への荷重が作用する歯車においても安定的に測定を行い、歯車の摩耗量を診断可能な異常診断装置を搭載したホイストクレーン装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、電動機が歯車減速機を介して回転ドラムを回転運動させ、ワイヤーロープを巻き上げる、あるいは巻き下げることによりワイヤーロープにかかるフックブロックを上下方向に移動させ、このフックブロックに取り付けた荷物を上下方向に移動させるホイストクレーン装置において、歯車の摩耗損傷状態を診断する機能を有するものである。
【0016】
以下、本発明に係る実施例を図を用いて説明する。
【実施例1】
【0017】
はじめに、本発明による第1の実施例に関わるホイストクレーンについて、図1を用いて説明する。
【0018】
図1において、電動機1は、減速機2を介して巻きドラム5に連結されている。減速機2は歯車3と軸受4を内蔵し、歯車3の噛合いにより電動機1の回転力を巻きドラム5に伝達する。巻きドラム5は、電動機1の回転力により正方向あるいは逆方向に回転してワイヤーロープ6を巻き上げあるいは巻き下げる。ワイヤーロープ6は、他端がホイストの本体フレームに固定されている。
【0019】
また、ワイヤーロープ6に備え付けられるフックブロック7は、動滑車となっているので、ワイヤーロープ6の巻き取りに伴って、上下方向に移動する。電動機1は運転制御装置8に配線されており、運転制御装置8から供給される電力により駆動される。操作入力部9に入力されたホイストクレーンの運転指示は、通信装置10を通じて運転制御装置8に伝達され、運転制御装置8は各種運転指示、例えば、回転始動,加速,一定速回転持続,減速,停止および反転動作を電動機1が実行するのに必要な電力を電動機1に供給して、電動機1の動作を制御する。
【0020】
回転角度検出装置11は、電動機1の回転軸に取り付けられており、電動機1の回転軸の回転角度を検知して摩耗診断装置12に出力する。この回転角度検出装置11としては、ロータリーエンコーダ等が用いられ、電動機1の回転軸の回転数を検出するのにも、回転速度を検出するのにも利用可能である。よって、この回転角度検出装置11からの出力は、電動機1や巻きドラム5等の回転速度を測定する用途にも、あるいは、回転数を測定し、フックブロック7の吊り高さ位置を検出する用途にも共用可能であるが、本実施例では回転角度検出装置11を、歯車の摩耗状態の検出に用いるため、測定対象に含める歯車の基準円位置での歯厚分に相当する角度値よりも小さい角度を検出可能な分解能を有することを特徴とする。
【0021】
電流センサ13は、運転制御装置8から電動機1につながる駆動電流経路の途中に設置され、電動機1に流れる電流値を測定し、摩耗診断装置12に出力する。なお、前記の駆動電流経路には運転制御装置8と、電動機1と、その間の導線とを含む。また、この電流センサ13の出力を運転制御装置8に伝達し、運転制御装置8において電動機1を駆動するための交流電流を制御する際のフィードバック要素として利用することも可能であるが、本実施例の電流センサ13は、歯車の噛合いの検出に用いるため、検査運転において噛合い周波数が最も高い歯車における噛合い周波数の少なくとも2倍以上の周波数まで対応可能なことを特徴とする。
【0022】
リミット装置14には、作動レバー15が備わると共に、作動レバー15で操作されるリミットスイッチ(図示せず)が内蔵されている。巻きドラム5にワイヤーロープ6が巻かれて、前記フックブロック7が上限既定の所定高さ位置に到達した際に、作動レバー
15がフックブロック7により押し上げられ、リミットスイッチがOFFし、フックブロック7が上限既定の所定高さ位置に到達したことを知らせるOFFの検知信号が前記運転制御装置8に送られるようになっている。このOFFの検知信号を受けて、前記運転制御装置8は、電動機1を減速停止させる、あるいは電動機1に流れる電流を遮断して、電動機1の回転軸に接続するブレーキ16の作動とともに電動機1を停止保持させる。
【0023】
摩耗診断装置12は、運転制御装置8と回転角度検出装置11と電流センサ13と通信装置10と表示警報装置17とに配線され、運転制御装置8からの検査実施の指示により、検査運転中に回転角度検出装置11で測定される回転角度値、電流センサ13で測定される電動機1に流れる電流値を受信し、これらを用いて算出された診断値を運転制御装置8と通信装置10と表示警報装置17とに出力する。また、診断値と既定の基準値とを比較し、基準値を上回ると判断された場合、警報を発する信号を表示警報装置17に伝達し、警報を起動させる。表示警報装置17はランプやアラーム等により構成される。
【0024】
この第1の実施例による歯車3の摩耗状態診断の流れを図1から図3を用いて説明する。
【0025】
操作入力部9から通信装置10を通じて運転制御装置8に検査実行の指示が伝達されると、運転制御装置8は、起動停止あるいは正転起動と逆転起動とを交互に行う反転運転を含む既定の検査用運転を実行するための運転パターンを呼び出すとともに、まず電動機1を駆動して、フックブロック7を既定のスタンバイ位置に移動させる。このスタンバイ位置は、任意の巻上げ高さに設定可能である。
【0026】
しかし、例えば、フックブロック7が作動レバー15に達し、リミット装置14が起動する位置をスタンバイ位置として設定した場合、他の方法を用いてフックブロック位置を検出することなく毎回同じスタンバイ位置まで移動させることが可能であるほか、この巻き上げ状態およびその近傍では、ワイヤーロープ6の大部分が巻きドラム5に巻き取られている。このため、巻きドラム5に作用する荷重がその分だけ低減された状態にて検査の実行が可能となり、巻きドラム5の慣性が利用しやすくなるため、前記検査用運転における加速度がより小さい値で済むという利点がある。なお、回転角度検出装置11は、電源を電動機1とは別とし、リミット装置14が作動し、さらに電動機1への電力供給が遮断された状態でも動作可能である。
【0027】
次に、運転制御装置8は、摩耗診断装置12に検査測定スタンバイの指示を伝達し、スタンバイ状態を確認した後、電動機1および摩耗診断装置12にスタート指令を伝達し、前記検査用運転と、電流センサ13を通じた電動機1に流れる電流の測定と、回転角度検出装置11を通じた回転角度の測定を実行させる。
【0028】
摩耗診断装置12は、前記検査用運転中において、図3の代表例に示すように、回転起動後にまず電動機の回転を開始するために電流値が立ち上がり、続いて歯車噛合いにより電流立ち上がりが生じるのを既定値IT との比較により検出して、この状態を歯車が噛合った点、すなわち噛合い変化点Sに決定し、起動から前記噛合い変化点Sまでに測定された回転角度値を回転角度検出装置11より記録する。
【0029】
この検査運転における一連の測定を、電動機の起動加速度を増加させながら繰り返し実行すると、図4の測定例に示されるように、前記起動加速度の増加に対し、起動から前記噛合い変化点Sまでの回転角度値θが安定的な値を保つ領域が広く存在するのに対し、回転角度値の代わりに時間Tを測定した場合は、前記起動加速度の増加に対し、減少する傾向が見られる。
【0030】
したがって、起動から前記噛合い変化点Sまでの回転角度値θを測定して診断に用いることにより、電動機1の検査用運転における回転加速度を厳密に設定しなくとも、安定的な診断が可能となる。このホイストクレーン装置の運転時間に沿って回転角度値θの測定値を並べてトレンド表示すると図5のようになった。θが急激な増加を開始した段階で、摩耗が増大したと判断できる。また、このような変化トレンドによる診断のほかにも、摩耗診断装置12は、θが歯車の交換時期の基準となる既定値を上回る値となった場合には、警報信号を表示警報装置17に伝達し、表示警報装置17のランプやアラームを起動して周囲の作業者に歯車の交換時期であることを報知する。
【0031】
また、摩耗診断装置12は、操作入力部9や別の外部端末からの要請に応じ、前記診断値を通信装置10に送信する。通信装置10は、無線あるいは有線の通信手段を有し、操作入力部9あるいは他の端末装置等に摩耗診断装置12からの摩耗状態の診断結果値を送信する。よって、図5に示したようなθの変化トレンド、診断履歴は前記操作入力部9や他の端末装置等によって管理することが可能である。
【0032】
なお、ワイヤーロープ6をチェーンに、巻きドラム5をチェーンを巻き取る部品であるスプロケットに置き換えれば、同様の機能をチェーンホイストにも適用可能である。
【実施例2】
【0033】
次に、本発明による第2の実施例に関わるホイストクレーンについて、図6を用いて説明する。この実施例においては、回転角度検出装置11は、巻きドラム5の回転軸に取り付けられている点で第1の実施例と異なる。巻きドラム5の回転軸に回転角度検出装置
11を接続した場合、電動機1を駆動して起動停止運転あるいは正転起動と逆転起動とを繰り返す反転運転を含む検査用運転を実行する際、特に、回転運転中の電動機1を停止させ、ブレーキ16にて保持した直後に、巻きドラム5の慣性により巻きドラムおよび歯車がバックラッシュ分の回転動作を持続し、あるいは歯車の噛合いが生じることにより反転し、最終的に停止に至るまでに測定した回転角度値を用いて歯車の摩耗量を診断する。
【0034】
この場合、回転角度検出装置11は、回転方向も判別可能なことを特徴とし、前記検査運転による検査測定において、回転方向の反転が検出されるタイミングを噛合い変化点とし、噛合い変化点の間に測定された回転角度値から診断値を算出することにより、より簡便に歯車の摩耗を診断することが可能となる。
【0035】
また、前記検査用運転として、フックブロック7が作動レバー15に達し、リミット装置14を起動させるまで巻きドラム5を回転させてワイヤーロープ6を巻き上げ、リミット装置14により巻き上げが停止させられる運転を採用しても良い。この場合、ワイヤーロープ6が最も巻き上げられた時点で測定を行うことにより、巻き上げられたワイヤーロープ6の分だけ巻きドラム5に作用する荷重が低減させられた状態で測定が行われるため、巻きドラムの慣性が利用しやすくなり、前記検査用運転における加速度がより小さい値で済むという利点がある。
【実施例3】
【0036】
次に、本発明による第3の実施例に関わるホイストクレーンについて、図7を用いて説明する。この実施例においては、フックブロック7を支持する固定治具18が追加されたこと、および、この固定治具18にてフックブロック7の荷重を支持した状態で検査を実行し、すなわち、巻きドラム5に作用する荷重がフックブロック7の分だけ除去された状態において、検査を実施する構成となっていることが実施例1と異なる。
【0037】
また、電流センサ13と運転制御装置8とが配線され、電流センサ13からの電流値を運転制御装置8にて監視し、フックブロック7が固定治具18により支持され、あるいは着地して、巻きドラム5に作用する荷重がその分だけ減少したことを、電流値の減少により検知し、検査運転のスタンバイ完了と判断する機能を有することが第1の実施例と異なる。また、検査の流れにおいても、前記の検査運転のスタンバイ完了と判断した後で、操作入力部9から検査実施の指示による検査運転と検査測定の実行をスタートさせることが第1の実施例と異なる。この第3の実施例においては、固定治具18を準備する作業が必要となるが、フックブロック7をそのまま着地させての検査実行や、吊り状態での検査実行と比較し、作業安全性および検査状態の安定性が向上する利点を持つ。
【0038】
また、巻きドラム5に作用する荷重が少ない状態で検査運転の実行、並びに検査測定の実行を行うため、より小さな起動加速度にても精度良く回転角度値を測定可能となり、診断値の信頼性が向上するほか、検査作業における騒音の発生や歯車に与える負荷が低減されるという利点を持つ。また、巻きドラム5に作用する荷重の減少を検知して検査運転のスタンバイ完了と判断することから、検査時のワイヤーロープ6のたるみが最小限となり、検査後に再度巻き上げて使用する際、巻きドラム5の巻き状態を整列しやすくなるという利点を持つ。
【0039】
以上のごとく、本発明においては、回転可能な巻きドラムと、歯車を内蔵し、前記巻きドラムに接続して回転力を伝達する減速機と、前記減速機に接続して回転駆動する電動機と、前記電動機に配線され、運転指示に従って前記電動機に駆動電力を供給して前記電動機の運転を制御する運転制御装置と、前記運転制御装置と前記電動機とを結ぶ電力伝達経路上に設置され、前記電動機に流れる電流を測定する電流センサと、少なくとも前記減速機内の歯車の歯厚相当角度よりも小さい角度を検出可能な分解能を有し、前記電動機の回転軸に接続して前記回転軸の回転角度を検出する回転角度検出装置と、前記運転制御装置と前記電流センサと前記回転角度検出装置とに配線され、前記運転制御装置からの指示により、前記電動機が起動停止運転あるいは正転方向と逆転方向に回転運転を繰り返す反転運転を含む検査用運転を実行する際に、前記電流センサと前記回転角度検出装置とから電流値と回転角度値を取得し、回転起動後、あるいは反転回転起動後に前記歯車が噛合うことにより前記電流値が増加するあるいは前記回転角度値の変化量が変化する変化点である噛合い変化点を決定し、前記回転起動あるいは前記反転回転起動から前記噛合い変化点までの間に測定される回転角度値から歯車の摩耗量を診断する摩耗診断装置とを設けたことを特徴とするホイストクレーン装置を得ることにより課題の解決を行う。
【0040】
この手段によると、まず前記起動停止運転あるいは前記反転運転を実行することで、通常、巻きドラムには、ワイヤーロープと、前記ワイヤーロープにかかり、前記ワイヤーロープが前記巻きドラムにより巻き取られることにより上下移動するフックブロックとの荷重が作用している状態にあるのを、巻きドラムの慣性を利用して一時的に開放し、歯車がバックラッシュ分以上の回転移動可能な状態を作り出す。
【0041】
次に、歯車が噛合う際に電動機に流れる電流値が増加するのを検知して噛合い変化点を決定し、回転起動あるいは反転起動から前記噛合い変化点までの回転角度値の測定結果を用いて歯車の摩耗量を診断する。
【0042】
このようにして測定された前記回転角度値は、歯車の摩耗により生じるバックラッシュの拡大に対応して増大する関係を有するため、この前記回転角度値から歯車の摩耗量が診断される。あるいは、前記回転角度値と既定の基準値との比較から、あるいは、前記回転角度値と過去の測定値との比較から、あるいは、前記回転角度値を既定の変換式に代入して算出した摩耗状態を示す診断パラメータから、歯車の摩耗量が診断される。
【0043】
前記回転角度検出装置は、高精度な分解能を有することが望ましいが、歯車の摩耗量を診断する場合には、少なくとも測定する歯車の歯厚に相当する角度分解能を確保し、測定したい摩耗幅の精度によって分解能を設定する。
【0044】
また、前記の摩耗診断装置に前記回転検出装置からの回転角度値の出力を受けて、瞬間回転速度を算出する機能を設け、前記の噛合い変化点を取得する上で、前記回転角度検出装置から出力される回転角度値の変化速度、すなわち回転軸の瞬間回転速度が、前記歯車が空転時には増加し、噛合いを生じる際に減少することから噛合い変化点を決定する。
【0045】
ここで、回転起動あるいは反転起動から前記噛合い変化点までの間に測定される回転角度値は、歯車の摩耗により生じるバックラッシュの拡大に対応して増大する関係を有するため、この回転角度値を用いて、歯車の摩耗量が診断される。この場合、回転角度検出装置には、歯車の空転から噛合いを生じるまでの速度検知が可能なレベルの高精度な分解能が要求されるが、電流値による処理を省略することが可能となる。
【0046】
あるいは、前記のホイストクレーン装置において、前記回転角度検出装置は回転角度および回転方向を出力可能なものとし、前記巻きドラムの回転軸に接続した構造とする。ここで、前記摩耗診断装置は、前記電流センサで測定された電流値から前記電動機の動作および停止状態を検知し、前記回転角度検出装置から前記巻きドラムの回転角度と回転方向を取得する。
【0047】
前記検査用運転の起動停止運転における電動機の停止直後、前記巻きドラムが慣性により前記歯車の噛合いまで回転を持続し、前記歯車の噛合いにて反転回転し、最終的に停止に至るまでの間、回転角度を測定し、特に、反転が検知された瞬間をその都度噛合い変化点として決定し、各噛合い変化点間に測定される回転角度値から歯車の摩耗状態を診断する。この手法により、検査用運転の制御がより平易でも精度良く測定を行うことが可能となる。
【0048】
また、前記運転制御装置は、前記検査用運転の実施において、起動停止あるいは反転運転における起動加速度あるいは減速加速度を段階的に増加させる機能を有するものとする。ここで、前記起動加速度あるいは減速加速度を段階的に増加させて、前記検査用運転および前記回転角度値の測定を行い、前記起動加速度の増加に対し、前記回転角度値が安定した状態の前記回転角度値を診断に用いることにより、前記巻きドラムの慣性変化やばらつき、あるいは、軸受摩擦の変化やばらつき等の影響を縮小し、診断精度を向上することが可能となる。
【0049】
また、前記運転制御装置は、検査実行の指示入力により、一旦、既定の位置まで前記フックブロックを移動させ、その後、前記検査用運転を実行させる機能を有するものとする。これにより、毎回同じ条件で前記検査用運転を行い、検査データのばらつきを抑制することが可能となる。
【0050】
また、前記運転制御装置は、前記フックブロックが固定治具により支持された状態にて検査実行の指示を外部から入力すると、その後、前記検査用運転を実行させる機能を有するものとする。これによれば、前記固定治具により前記フックブロックの荷重を支持して前記巻きドラムにかかる荷重を軽減することができ、巻きドラムの慣性が利用しやすくなる。
【0051】
よって、前記検査用運転の前記起動停止運転あるいは前記反転運転を実行する際の回転加速度あるいは減速加速度が小さくとも済むようにできる。このとき、前記固定治具を用いずに、前記フックブロックを着地させても同様の測定値を得ることが可能であるが、前記固定治具を用いて、前記フックブロックの姿勢を整えた状態で保持することにより、検査後に再びワイヤーロープを巻き上げて使用する際の、巻きドラムへの巻き状態が整列を維持しやすくなるほか、作業の安全性が向上する。
【0052】
また、前記運転制御装置は、前記電流センサに接続して電流値を取得し、その前記電流値から荷重を算出し、荷重の減少から前記フックブロックが固定治具により支持された、あるいは前記フックブロックが着地したことを検出し、その後、前記検査用運転を実行する機能を有するものとする。これにより、検査時の巻き下げ過ぎを防止し、検査後に再びワイヤーロープを巻き上げて使用する際の、巻きドラムへの巻き状態が整列を維持しやすくなるほか、検査運転における運転ばらつきが縮小、および作業安全性が向上される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明による第1の実施例であるホイストクレーン装置の構成を示した説明図である。
【図2】本発明による第1の実施例であるホイストクレーン装置における検査の流れを示した説明図である。
【図3】本発明による第1の実施例であるホイストクレーン装置において、検査運転中の回転起動時における電流センサによる測定例を示した図である。
【図4】本発明による第1の実施例であるホイストクレーン装置において、回転起動加速度を増加させたときの起動から噛合い変化点までにおける回転角度θと時間Tの測定例を示した図である。
【図5】本発明による第1の実施例であるホイストクレーン装置において、回転起動から噛合い変化点までにおける回転角度θの変化トレンドの測定例を示した図である。
【図6】本発明による第2の実施例であるホイストクレーン装置の構成を示した説明図である。
【図7】本発明による第3の実施例であるホイストクレーン装置の構成を示した説明図である。
【符号の説明】
【0054】
1 電動機
2 減速機
3 歯車
4 軸受
5 巻きドラム
6 ワイヤーロープ
7 フックブロック
8 運転制御装置
9 操作入力部
10 通信装置
11 回転角度検出装置
12 摩耗診断装置
13 電流センサ
14 リミット装置
15 作動レバー
16 ブレーキ
17 表示警報装置
18 固定治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な巻きドラムと、歯車を内蔵し前記巻きドラムに接続して回転力を伝達する減速機と、この減速機に接続して回転駆動する電動機と、この電動機に配線され運転指示に従った駆動電力を前記電動機に供給して前記電動機の運転を制御する運転制御装置と、この運転制御装置と前記電動機とを結ぶ電力伝達経路上に設置され前記電動機に流れる電流を測定する電流センサと、少なくとも前記減速機内の歯車の歯厚相当角度よりも小さい角度を検出可能な分解能を有し前記電動機の回転軸に接続して前記回転軸の回転角度を検出する回転角度検出装置とを備えてなり、
前記運転制御装置と前記電流センサと前記回転角度検出装置とに配線され前記運転制御装置からの指示により、前記電動機が起動停止運転あるいは正転と逆転とを繰り返す反転運転を含む検査用運転を実行する際に、前記電流センサと前記回転角度検出装置とから電流値と回転角度値とを取得し、回転起動後或いは反転回転起動後に前記歯車が噛合うことにより前記電流値が増加する或いは前記回転角度値の変化量が減少する変化点を決定し、前記回転起動あるいは前記反転回転起動から前記変化点までの間に測定される回転角度値を用いて歯車の摩耗量を診断する摩耗診断装置とを設けたことを特徴とするホイストクレーン装置。
【請求項2】
回転可能な巻きドラムと、歯車を内蔵し前記巻きドラムに接続して回転力を伝達する減速機と、この減速機に接続して回転駆動する電動機と、前記電動機に配線され運転指示に従った駆動電力を前記電動機に供給して前記電動機の運転を制御する運転制御装置と、この運転制御装置と前記電動機とを結ぶ電力伝達経路上に設置され前記電動機に流れる電流を測定する電流センサと、少なくとも前記減速機内の歯車の歯厚相当角度よりも小さい角度を検出可能な分解能を有し前記巻きドラムの回転軸に接続して前記巻きドラムの回転角度と回転方向とを検出する回転角度検出装置とを備えてなり、
前記運転制御装置と前記電流センサと前記回転角度検出装置とに配線され、前記運転制御装置からの指示により、前記電動機が起動停止運転を含む検査用運転を実行する際に、前記電流センサと前記回転角度検出装置とから電流値と回転角度値と回転方向とを取得し、前記電流値から前記電動機の動作および停止状態を検知し、前記検査用運転における前記電動機の停止直後、前記巻きドラムが慣性により前記歯車の噛合いまで回転を持続し前記歯車の噛合いにて反転回転しながら停止に至るまでの間、回転角度を測定し、特に反転が検知された瞬間を変化点として決定し、各変化点間に測定される回転角度値から歯車の摩耗量を診断する摩耗診断装置とを設けたことを特徴とするホイストクレーン装置。
【請求項3】
請求項1或いは2のいずれかに記載のホイストクレーン装置において、
前記運転制御装置は前記検査用運転に含まれる前記起動停止運転および前記反転運転の実施で、起動加速度あるいは停止減速加速度を段階的に増加させて回転起動と停止を繰り返す機能を有し、前記摩耗診断装置は前記検査運転中の前記回転角度値と前記電流値を測定することを特徴とするホイストクレーン装置。
【請求項4】
請求項1或いは2のいずれかに記載のホイストクレーン装置において、
前記運転制御装置は検査実行の指示が外部から入力されると前記電動機を制御して一旦、既定の回転位置まで巻きドラムの巻き状態を制御し、その後前記検査用運転を実行させることを特徴とするホイストクレーン装置。
【請求項5】
請求項1或いは2のいずれかに記載のホイストクレーン装置において、
前記巻きドラムにより巻き取られるワイヤーロープと、前記ワイヤーロープにかかり、前記ワイヤーロープの巻き取りに伴い上下移動を行うフックブロックとを備え、前記ホイストクレーン装置に含まれる運転制御装置は、検査実行の指示を外部から入力すると前記電動機を駆動しながら前記電流センサに接続して電流値を取得し、フックブロックが外部の固定治具により支持された状態、あるいは着地した状態にあることを検出し、その後前記検査用運転を実行する機能を備えたことを特徴とするホイストクレーン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−213966(P2008−213966A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49923(P2007−49923)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】