説明

異常電波検出装置、異常電波検出方法および異常電波検出プログラム

【課題】膨大な量の監視結果データから容易かつ適切に異常を検出することを可能とする異常電波検出装置等を提供する。
【解決手段】異常電波検出装置10は、受信機30から無線信号に対応して出力される中間周波数信号をデジタル複素包絡信号に変換するA/D変換器13と、デジタル複素包絡信号から無線信号の受信状態を出力する方位測定部21と、出力された受信状態から当該測定条件に対する定常状態におけるパラメータ値を示す定常状態データを記憶するパラメータ抽出部22と、新たに観測された受信状態と定常状態データとの間で多変量解析を行って受信状態が定常状態データと比べて異常であるか否かを判定し、異常である場合に外部に対してアラートを出力する異常検出部23とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常電波検出装置、異常電波検出方法および異常電波検出プログラムに関し、特に膨大な量の監視結果データから容易かつ適切に異常を検出することを可能とする異常電波検出装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
電波を利用した放送や無線通信は、様々な用途に利用されている。この電波の公平かつ能率的な利用を確保するために、総務省が電波法に基づいて、無線局の開設や秘密の保護などについて管理を行っている。異常電波検出装置は、電波法に従わずに不法に発信される電波を検出し、その発信源などを特定するために利用される装置である。
【0003】
これに関連する技術として、たとえば次の各々がある。その中でも特許文献1には、妨害電波に含まれる信号成分を予め設定し、その信号成分が含まれる電波信号を受信した場合に妨害電波を捕捉したと判定するという妨害波探索システムが記載されている。特許文献2には、複数の経路で伝搬している信号から干渉波(タンパリング)を検出するという無線ネットワークが記載されている。
【0004】
特許文献3には、複数の受信部によって受信された電波をFFT解析して周波数ホッピング波を検出するという電波監視装置が記載されている。特許文献4には、無線通信の受信信号について特定の条件で限定することによって、目的波を選別するという電波監視装置が記載されている。
【0005】
特許文献5には、無線信号の周波数の変動波形を特徴ベクトル波形として抽出することによって、当該無線信号の発信元の無線局を特定するという無線局識別装置が記載されている。特許文献6には、無線通信のサービスエリアを複数のセルに分割することによって、基地局の設置の自由度を高めるという移動通信システムが記載されている。非特許文献1には、多変量解析によって定常状態と現在のパラメータ値との間の距離(マハラノビス距離)を算出し、これによって異常を検出するという技術の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−344397号公報
【特許文献2】特表2007−501539号公報
【特許文献3】特開2003−134059号公報
【特許文献4】特開2003−262670号公報
【特許文献5】特開2011−044937号公報
【特許文献6】特開平09−200838号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「MTシステム概要」、アングルトライ株式会社、[平成23年5月17日検索]、インターネット<URL:http://www.angletry.com/modules/smartsection/item.php?itemid=14>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の電波監視装置では、受信機からの出力信号を各種測定器に入力し、その測定結果から特定方位角の逸脱、スペクトラム波形の逸脱、推定電波発射源位置の逸脱、変調方式の不一致などのような異常電波を検出している。
【0009】
しかしながら、このような異常電波検出のためには、判断しなければならない測定項目が多岐に亘っており、各々の測定項目に係るデータの量が膨大であり、さらにその中にはグラフの波形などのデータも含まれるため、自動化が困難であった。そのため、この異常電波検出は、測定結果から人間(監視者)が目視によって行うしかなかった。これは監視者に高いスキルと長時間の拘束を要求する。
【0010】
前述の特許文献1〜6、および非特許文献1には、このような現状を解決して、膨大な量の監視結果データから容易かつ適切に異常を検出しうる技術は記載されていない。特定の成分を含む電波を検出する技術(特許文献1および2など)、あるいは発信元を特定する技術は記載されているが(特許文献5など)、それらは「異常な状態であるか否かを検出する」という目的に利用可能な技術ではない。
【0011】
本発明の目的は、膨大な量の監視結果データから容易かつ適切に異常を検出することを可能とする異常電波検出装置、異常電波検出方法および異常電波検出プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る異常電波検出装置は、予め装備された受信機に接続されて当該受信機によって受信される複数方向からの無線信号から異常状態を検出する異常電波検出装置であって、受信機から無線信号に対応して出力される中間周波数信号をデジタル複素包絡信号に変換するA/D変換器と、受信機に対して測定条件を示す測定指示信号を事前に送信すると共に、デジタル複素包絡信号に対応して無線信号の受信状態を出力する方位測定部と、出力された無線信号の受信状態から特定の項目についてのパラメータ値を抽出すると共に、これを測定条件に対する定常状態データとして予め備えられた記憶手段に記憶するパラメータ抽出部と、新たに観測された受信状態と定常状態データとの間で多変量解析を行って受信状態が定常状態データと比べて異常であるか否かを判定し、異常である場合に外部に対してアラートを出力する異常検出部とを有することを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係る異常電波検出方法は、予め装備された受信機に接続されて当該受信機によって受信される複数方向からの無線信号から異常状態を検出する異常電波検出装置にあって、受信機に対して測定条件を示す測定指示信号を方位測定部が送信し、受信機から無線信号に対応して出力される中間周波数信号をA/D変換器がデジタル複素包絡信号に変換し、デジタル複素包絡信号に対応して無線信号の受信状態を方位測定部が出力し、出力された無線信号の受信状態から特定の項目についてのパラメータ値をパラメータ抽出部が抽出し、抽出されたパラメータ値を当該測定条件に対する定常状態データとして予め備えられた記憶手段にパラメータ抽出部が記憶させ、新たに観測された受信状態と定常状態データとの間で多変量解析を行って受信状態が定常状態データと比べて異常であるか否かを異常検出部が判定し、異常である場合に異常検出部が外部に対してアラートを出力することを特徴とする。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明に係る異常電波検出プログラムは、予め装備された受信機に接続されて当該受信機によって受信される複数方向からの無線信号から異常状態を検出する異常電波検出装置にあって、異常電波検出装置が備えるコンピュータに、受信機に対して測定条件を示す測定指示信号を送信する手順、受信機から無線信号に対応して出力される中間周波数信号をデジタル複素包絡信号に変換する手順、デジタル複素包絡信号に対応して無線信号の受信状態を出力する手順、出力された無線信号の受信状態から特定の項目についてのパラメータ値を抽出する手順、抽出されたパラメータ値を当該測定条件に対する定常状態データとして予め備えられた記憶手段に記憶させる手順、出力された無線信号の受信状態から当該測定条件に対する定常状態におけるパラメータ値を示す定常状態データを予め備えられた記憶手段に記憶させる手順、新たに観測された受信状態と定常状態データとの間で多変量解析を行って受信状態が定常状態データと比べて異常であるか否かを判定する手順、および異常である場合に外部に対してアラートを出力する手順を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、上記したように、新たに観測された受信状態と定常状態データとの間で多変量解析を行って受信状態が定常状態データと比べて異常であるか否かを判定するように構成したので、多くの測定項目を含む膨大な量の監視結果データであっても、そこから容易かつ適切に異常を検出することが可能であるという優れた特徴を持つ異常電波検出装置、異常電波検出方法および異常電波検出プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る異常電波検出装置の構成について示す説明図である。
【図2】図1で示した異常電波検出装置の動作について示すフローチャートである。
【図3】図1で示した異常電波検出装置のより具体的な動作例について示す説明図であり、「平日午前中」の時間帯において方位測定部が得た測定結果から、パラメータ抽出部が抽出した各パラメータ値について示す。
【図4】図1で示した異常電波検出装置のより具体的な動作例について示す説明図であり、「休日午前中」の時間帯において方位測定部が得た測定結果から、パラメータ抽出部が抽出した各パラメータ値について示す。
【図5】図1で示した異常電波検出装置のより具体的な動作例について示す説明図であり、「休日夜間」の時間帯において方位測定部が得た測定結果から、パラメータ抽出部が抽出した各パラメータ値について示す。
【図6】図1で示した異常電波検出装置のより具体的な動作例について示す説明図であり、図3と同じ「平日午前中」の時間帯である別の時に、パラメータ抽出部が新たに抽出した各パラメータ値について示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態の構成について添付図1に基づいて説明する。
最初に、本実施形態の基本的な内容について説明し、その後でより具体的な内容について説明する。
本実施形態に係る異常電波検出装置10は、予め装備された受信機30に接続されて当該受信機によって受信される複数方向からの無線信号から異常状態を検出する異常電波検出装置である。この異常電波検出装置10は、受信機30から無線信号に対応して出力される中間周波数信号をデジタル複素包絡信号に変換するA/D変換器13と、受信機30に対して測定条件を示す測定指示信号を事前に送信すると共に、デジタル複素包絡信号に対応して無線信号の受信状態を出力する方位測定部21と、出力された無線信号の受信状態から特定の項目についてのパラメータ値を抽出すると共に、これを測定条件に対する定常状態データ25として予め備えられた記憶手段12に記憶するパラメータ抽出部22と、新たに観測された受信状態と定常状態データとの間で多変量解析を行って受信状態が定常状態データと比べて異常であるか否かを判定し、異常である場合に外部に対してアラートを出力する異常検出部23とを有する。
【0018】
また、異常検出部23は、新たに観測された受信状態が定常状態データと比べて異常ではないと判定した場合に、この新たに観測された受信状態を定常状態データに含めて記憶させる。そして、パラメータ抽出部22は、新たに観測された受信状態と同一の測定条件に係るデータが定常状態データ内に存在しない場合に、この測定条件に係るデータからパラメータ値を抽出して新たに定常状態データに記憶させる。さらに、パラメータ抽出部22が、測定を行う時間帯ごとに異なる定常状態におけるパラメータ値を定常状態データに記憶させる。
【0019】
以上の構成を備えることにより、本実施形態の異常電波検出装置10は、多くの測定項目を含む膨大な量の監視結果データであっても、そこから容易かつ適切に異常を検出することが可能なものとなる。
以下、これをより詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る異常電波検出装置10の構成について示す説明図である。異常電波検出装置10は、アンテナ31を介して電波を受信してその受信信号を中間周波数信号として出力する受信機30と接続される。
【0021】
異常電波検出装置10は、コンピュータとしての基本的な構成を備えている。即ち、異常電波検出装置10は、コンピュータプログラムとして記述された各種処理を実行する主体である主演算制御手段(CPU: Central Processing Unit)11と、主演算制御手段11によって処理されるデータを記憶する記憶手段12と、受信機30から出力される中間周波数信号を主演算制御手段11によって処理可能なデジタル複素包絡信号に変換するA/D変換器13と、ユーザからの操作入力を受け付け、処理結果をユーザに対して出力する入出力部14とを備える。
【0022】
主演算制御手段11では、異常電波検出プログラムが動作することにより、方位測定部21、パラメータ抽出部22、異常検出部23の各々として動作する。また、記憶手段12には、監視設定データ24と、定常状態データ25とが記憶されている。
【0023】
受信機30は、アンテナ31で受信された無線信号を中間周波数信号に変換して出力する。A/D変換器13は、この中間周波数信号を主演算制御手段11によって処理可能なデジタル複素包絡信号に変換して方位測定部21に対する入力信号とする。また同時に、方位測定部21から出力された測定指示信号を受信機30で処理可能な信号として出力する機能も備える。
【0024】
方位測定部21は、入出力部14を介してユーザから入力された受信機30に対する測定指示信号をA/D変換器13を介して出力する。そして、A/D変換器13を介して受信機30から入力されたデジタル複素包絡信号から、受信機30が受信した無線信号の到来方位角およびその信頼度、推定電波発射源、変調方式を推定して、その推定結果をパラメータ抽出部22に通知する。
【0025】
方位測定部21からパラメータ抽出部22に通知される推定結果には、当該無線信号の到来方位角、信頼度、推定電波発射源、変調方式の他に、その無線信号の受信時刻、受信レベル、トーン・ATIS識別信号、振幅確率分布(APD)、およびスペクトラム波形等の情報が含まれる。
【0026】
ここで、各々異なる方向からの電波を受信する2台以上の受信機30の各々に対して、別々の異なる方位測定部21が構成されていてもよい。あるいは、方位測定部21および受信機30は各1台のみとして、各々異なる方向からの電波を受信する単数台もしくは複数台のアンテナからの無線信号に対して別々に同一内容の処理を行うように構成されていてもよい。図1では、方位測定部21および受信機30について1系統のみについて示している。
【0027】
監視設定データ24は、方位測定部21が受信機30に対して送信する測定指示信号の元となる、入出力部14を介してユーザから入力された監視周波数や監視エリアなどについての設定を、各々の受信機30が測定する測定方向ごとに記憶したものである。
【0028】
パラメータ抽出部22は、方位測定部21から出力された推定結果である受信時間、到来方位角、その信頼度、受信レベル、推定電波発射源、変調方式、トーン・ATIS(Automatic Transmitter Identification System)識別信号、振幅確率分布(APD: Amplitude Probability Distribution)、およびスペクトラム波形などからパラメータ値を抽出し、これを定常状態データ25として保存する。
【0029】
ここでパラメータ抽出部22は、定常状態データ25に新規データを保存する場合には、監視設定データ24で設定されている監視周波数および監視エリア等の情報と、パラメータ抽出部22から通知されたパラメータ値を関連づけて登録する。この定常状態データ25には、曜日(平日と休日など)、時間帯(午前中、午後、夜間など)に応じて異なる定常状態を登録しておくことができる。電波の発射状態が、曜日や時間帯などに応じて異なる可能性があるからである。
【0030】
異常検出部23は、現在監視しているパラメータ値をパラメータ抽出部22から受け取り、この現在監視中のパラメータ値に対応する定常状態における数値を定常状態データ25から読み取って、これらを比較して多変量解析を行って異常が発生したか否かを検出する。また、異常無しであると判定した場合には、この多変量解析の結果を加味した値を定常状態のパラメータ値として定常状態データ25に保存する機能も有する。
【0031】
多変量解析とは、多くの項目(変量)を含むデータからその大局的な傾向を抽出するためによく使われる手法である。異常検出部23は、現在のパラメータ値と定常状態データ25に記録されたデータ分布領域とを照合し、この分布領域から現在のパラメータ値が外れた場合に、異常であると判定する。APDや波形などのように形状を含むデータについては、横軸の数値とこれに対応する縦軸の数値の各々の組が、多変量解析の対象となる。
【0032】
また、その際に、異常検出の判断となる管理限界を事前に確率分布により決定するか、定常状態の誤検出の確率が1%となるように正常時のデータに基づいて決定しておき、その管理限界により異常の発生有無を検出するようにもできる。
【0033】
あるいは、非特許文献1にも示されているように、定常状態データ25に記録された各々のパラメータ値の定常状態における数値を正常空間(基準空間)として、これと現在監視しているパラメータ値との間の距離(マハラノビス距離)を計算して、その距離が予め与えられた閾値より小さければ正常、大きければ異常であると判定するようにしてもよい。
【0034】
図2は、図1で示した異常電波検出装置10の動作について示すフローチャートである。動作を開始するとまず、方位測定部21が、ユーザによる監視対象周波数、および監視対象エリア等の監視諸元の設定の入力を、入出力部14を介して受け付け、A/D変換器13を介して受信機30に対して測定を指示すると共に、この測定条件を監視設定データ24として保存する(ステップS101)。
【0035】
方位測定部21は、A/D変換器13からの送信信号を受信し、その到来方位角およびその信頼度、推定電波発射源、変調方式を推定する。また到来方位角、信頼度、推定電波発射源、変調方式、受信レベル、振幅確率分布(APD)、およびスペクトラム波形等の情報をパラメータ抽出部22に通知する(ステップS102)。
【0036】
パラメータ抽出部22は、方位測定で得られた監視結果から時間、到来方位角、その信頼度、受信レベル、推定電波発射源、変調方式、トーン・ATIS識別信号、振幅確率分布(APD)、スペクトラム波形等をパラメータ値として抽出する(ステップS103)。
【0037】
そして抽出されたパラメータ値について、パラメータ抽出部22が、定常状態データ25に同一の時間帯、監視対象周波数、監視対象エリアについてのデータが既に存在するか否かを判断する(ステップS104)。存在しなければその監視対象周波数や監視対象エリアについてのデータを新規登録するステップS105に処理が進む。存在すれば、その監視対象周波数や監視対象エリアについてのデータを更新する後述のステップS106に処理が進む。
【0038】
データの新規登録の場合、パラメータ抽出部22は、抽出したパラメータ値から多変量解析を行い、その結果のデータ分布を監視設定データ24で設定した監視周波数および監視エリア等の情報と関連づけて定常状態データ25を新規作成して(ステップS105)処理を終了する。
【0039】
既に存在する監視対象周波数や監視対象エリアについてのデータを更新する場合、異常検出部23は、パラメータ抽出部22が逐次算出するパラメータ値について、同一の監視対象周波数や監視対象エリアについてのデータを定常状態データ25から読み出して、この定常状態データ25に記録されている定常時のデータ分布領域から逸脱しているかを算出し、その結果に基づいて異常の発生有無を検出する(ステップS106)。
【0040】
ここで、ステップS106の処理で異常検出部23は、異常検出の判断となる管理限界を、事前に確率分布により決定するか、定常状態の誤検出の確率が1%となるように正常時のデータに基づいて決定しておき、その管理限界により異常の発生有無を検出してもよい。また、前述のように、現在のパラメータ値と定常状態データ25との間のマハラノビス距離を算出し、そのマハラノビス距離が予め与えられた閾値より小さいか大きいかによって異常の発生有無を判定するようにしてもよい。
【0041】
異常検出部23が「異常なし」の判定をした場合、この多変量解析の結果を含むように定常状態データ25を更新して(ステップS107)処理を終了する。異常検出部23が「異常」の判定をした場合、その旨を入出力部14にアラートとして出力して(ステップS108)処理を終了する。
【0042】
(具体的な動作例)
図3〜6は、図1で示した異常電波検出装置10のより具体的な動作例について示す説明図である。中でも図3は、「平日午前中」の時間帯において方位測定部21が得た測定結果から、パラメータ抽出部22が抽出した各パラメータ値について示す。図4は「休日午前中」の時間帯、図5は「休日夜間」の時間帯において、同様にパラメータ抽出部22が抽出した各パラメータ値について示す。
【0043】
パラメータ抽出部22は、各々の時間帯におけるこれらのパラメータを、図2のステップS103までで示した処理によって定常状態データ25として保存する。このように、曜日や時間帯ごとに電波状態が異なることが多いので、本実施形態では曜日や時間帯ごとに異なる定常状態データ25を用意して使用している。
【0044】
図6は、図3と同じ「平日午前中」の時間帯である別の時に、パラメータ抽出部22が新たに抽出した各パラメータ値である。図3で示した定常状態データ25と比べて「到来方位角が異なる」「電波の受信レベルが高い」「ATIS識別信号が無い」「波形が異なる」などのような変化が見られる。
【0045】
図6で示した各パラメータ値を得たパラメータ抽出部22は、図2のステップS104で示した処理で、定常状態データ25に同一の時間帯、監視対象周波数、監視対象エリアのデータ、即ち図3に示したデータが存在すると判定して、異常検出部23に処理を渡してステップS106を実行させる。異常検出部23は、多変量解析の手法によって、図6で示した各パラメータ値を、図3で示した定常状態データ25と比較して、異常であるか否かを判定する。
【0046】
この例では、異常検出部23が算出した定常状態データ25と各パラメータ値との間を比較して異常を示す値が出力されるので、ステップS108に処理が進んで、異常検出部23が入出力部14にアラートを出力する。
【0047】
(実施形態の全体的な動作)
次に、上記の実施形態の全体的な動作について説明する。
本実施形態に係る異常電波検出方法は、予め装備された受信機と接続され、複数方向から受信機によって受信された無線信号から異常状態を検出する異常電波検出装置10にあって、受信機に対して測定条件を示す測定指示信号を方位測定部が送信し(図2・ステップS101)、受信機から無線信号に対応して出力される中間周波数信号をA/D変換器がデジタル複素包絡信号に変換し、デジタル複素包絡信号に対応して無線信号の受信状態を方位測定部が出力し(図2・ステップS102)、出力された無線信号の受信状態から特定の項目についてのパラメータ値をパラメータ抽出部が抽出し、抽出されたパラメータ値を当該測定条件に対する定常状態データとして予め備えられた記憶手段にパラメータ抽出部が記憶させ(図2・ステップS103)、新たに観測された受信状態と定常状態データとの間で多変量解析を行って受信状態が定常状態データと比べて異常であるか否かを異常検出部が判定し(図2・ステップS106)、異常である場合に異常検出部が外部に対してアラートを出力する(図2・ステップS108)。
【0048】
ここで、上記各動作ステップについては、これをコンピュータで実行可能にプログラム化し、これらを前記各ステップを直接実行する異常電波検出装置10に実行させるようにしてもよい。本プログラムは、非一時的な記録媒体、例えば、DVD、CD、フラッシュメモリ等に記録されてもよい。その場合、本プログラムは、記録媒体からコンピュータによって読み出され、実行される。
この動作により、本実施形態は以下のような効果を奏する。
【0049】
受信状態に係るパラメータは多くの項目(変量)と膨大なデータ容量を持つが、本実施形態によればこれを多変量解析によって容易に解析して、異常が発生したか否かを適切に検出することが可能となる。従って、従来は監視者に高いスキルと多大な労力を要求していた異常電波の検出の、その労力と時間を大幅に軽減することが、本実施形態によって可能となる。
【0050】
また、異常電波が検出された測定条件に対しては、同一条件での監視を継続して実施することにより、その出現状況などを容易に把握可能となる。従って、その異常電波の発信源などの特定がより容易なものとなりうる。
【0051】
これまで本発明について図面に示した特定の実施形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができる。
【0052】
上述した実施形態について、その新規な技術内容の要点をまとめると、以下のようになる。なお、上記実施形態の一部または全部は、新規な技術として以下のようにまとめられるが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではない。
【0053】
(付記1) 予め装備された受信機に接続されて当該受信機によって受信される複数方向からの無線信号から異常状態を検出する異常電波検出装置であって、
前記受信機から前記無線信号に対応して出力される中間周波数信号をデジタル複素包絡信号に変換するA/D変換器と、
前記受信機に対して測定条件を示す測定指示信号を事前に送信すると共に、前記デジタル複素包絡信号に対応して前記無線信号の受信状態を出力する方位測定部と、
出力された前記無線信号の受信状態から特定の項目についてのパラメータ値を抽出すると共に、これを前記測定条件に対する定常状態データとして予め備えられた記憶手段に記憶するパラメータ抽出部と、
新たに観測された受信状態と前記定常状態データとの間で多変量解析を行って前記受信状態が前記定常状態データと比べて異常であるか否かを判定し、異常である場合に外部に対してアラートを出力する異常検出部と
を有することを特徴とする異常電波検出装置。
【0054】
(付記2) 前記異常検出部が、前記新たに観測された受信状態が前記定常状態データと比べて異常ではないと判定した場合に、この新たに観測された受信状態を前記定常状態データに含めて記憶させる機能を有することを特徴とする、付記1に記載の異常電波検出装置。
【0055】
(付記3) 前記パラメータ抽出部が、前記新たに観測された受信状態と同一の前記測定条件に係るデータが前記定常状態データ内に存在しない場合に、この測定条件に係るデータを新たに前記定常状態データに記憶させる機能を有することを特徴とする、付記1に記載の異常電波検出装置。
【0056】
(付記4) 前記パラメータ抽出部が、測定を行う時間帯ごとに異なる前記定常状態におけるパラメータ値を前記定常状態データに記憶させることを特徴とする、付記1に記載の異常電波検出装置。
【0057】
(付記5) 予め装備された受信機に接続されて当該受信機によって受信される複数方向からの無線信号から異常状態を検出する異常電波検出装置にあって、
前記受信機に対して測定条件を示す測定指示信号を方位測定部が送信し、
前記受信機から前記無線信号に対応して出力される中間周波数信号をA/D変換器がデジタル複素包絡信号に変換し、
前記デジタル複素包絡信号に対応して前記無線信号の受信状態を前記方位測定部が出力し、
出力された前記無線信号の受信状態から特定の項目についてのパラメータ値をパラメータ抽出部が抽出し、
抽出された前記パラメータ値を当該測定条件に対する定常状態データとして予め備えられた記憶手段に前記パラメータ抽出部が記憶させ、
新たに観測された受信状態と前記定常状態データとの間で多変量解析を行って前記受信状態が前記定常状態データと比べて異常であるか否かを異常検出部が判定し、
異常である場合に前記異常検出部が外部に対してアラートを出力する
ことを特徴とする異常電波検出方法。
【0058】
(付記6) 予め装備された受信機に接続されて当該受信機によって受信される複数方向からの無線信号から異常状態を検出する異常電波検出装置にあって、
前記異常電波検出装置が備えるコンピュータに、
前記受信機に対して測定条件を示す測定指示信号を送信する手順、
前記受信機から前記無線信号に対応して出力される中間周波数信号をデジタル複素包絡信号に変換する手順、
前記デジタル複素包絡信号に対応して前記無線信号の受信状態を出力する手順、
出力された前記無線信号の受信状態から特定の項目についてのパラメータ値を抽出する手順、
抽出された前記パラメータ値を当該測定条件に対する定常状態データとして予め備えられた記憶手段に記憶させる手順、
出力された前記無線信号の受信状態から当該測定条件に対する定常状態におけるパラメータ値を示す定常状態データを予め備えられた記憶手段に記憶させる手順、
新たに観測された受信状態と前記定常状態データとの間で多変量解析を行って前記受信状態が前記定常状態データと比べて異常であるか否かを判定する手順、
および異常である場合に外部に対してアラートを出力する手順
を実行させることを特徴とする異常電波検出プログラム。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、異常電波検出装置に対して利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
10 異常電波検出装置
11 主演算制御手段
12 記憶手段
13 A/D変換器
14 入出力部
21 方位測定部
22 パラメータ抽出部
23 異常検出部
24 監視設定データ
25 定常状態データ
30 受信機
31 アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め装備された受信機に接続されて当該受信機によって受信される複数方向からの無線信号から異常状態を検出する異常電波検出装置であって、
前記受信機から前記無線信号に対応して出力される中間周波数信号をデジタル複素包絡信号に変換するA/D変換器と、
前記受信機に対して測定条件を示す測定指示信号を事前に送信すると共に、前記デジタル複素包絡信号に対応して前記無線信号の受信状態を出力する方位測定部と、
出力された前記無線信号の受信状態から特定の項目についてのパラメータ値を抽出すると共に、これを前記測定条件に対する定常状態データとして予め備えられた記憶手段に記憶するパラメータ抽出部と、
新たに観測された受信状態と前記定常状態データとの間で多変量解析を行って前記受信状態が前記定常状態データと比べて異常であるか否かを判定し、異常である場合に外部に対してアラートを出力する異常検出部と
を有することを特徴とする異常電波検出装置。
【請求項2】
前記異常検出部が、前記新たに観測された受信状態が前記定常状態データと比べて異常ではないと判定した場合に、前記定常状態データにこの新たに観測された受信状態を含めて記憶させる機能を有することを特徴とする、請求項1に記載の異常電波検出装置。
【請求項3】
前記パラメータ抽出部が、前記新たに観測された受信状態と同一の前記測定条件に係るデータが前記定常状態データ内に存在しない場合に、この測定条件に係るデータから前記パラメータ値を抽出して新たに前記定常状態データに記憶させる機能を有することを特徴とする、請求項1に記載の異常電波検出装置。
【請求項4】
前記パラメータ抽出部が、測定を行う時間帯ごとに異なる前記定常状態におけるパラメータ値を前記定常状態データに記憶させることを特徴とする、請求項1に記載の異常電波検出装置。
【請求項5】
予め装備された受信機に接続されて当該受信機によって受信される複数方向からの無線信号から異常状態を検出する異常電波検出装置にあって、
前記受信機に対して測定条件を示す測定指示信号を方位測定部が送信し、
前記受信機から前記無線信号に対応して出力される中間周波数信号をA/D変換器がデジタル複素包絡信号に変換し、
前記デジタル複素包絡信号に対応して前記無線信号の受信状態を前記方位測定部が出力し、
出力された前記無線信号の受信状態から特定の項目についてのパラメータ値をパラメータ抽出部が抽出し、
抽出された前記パラメータ値を当該測定条件に対する定常状態データとして予め備えられた記憶手段に前記パラメータ抽出部が記憶させ、
新たに観測された受信状態と前記定常状態データとの間で多変量解析を行って前記受信状態が前記定常状態データと比べて異常であるか否かを異常検出部が判定し、
異常である場合に前記異常検出部が外部に対してアラートを出力する
ことを特徴とする異常電波検出方法。
【請求項6】
予め装備された受信機に接続されて当該受信機によって受信される複数方向からの無線信号から異常状態を検出する異常電波検出装置にあって、
前記異常電波検出装置が備えるコンピュータに、
前記受信機に対して測定条件を示す測定指示信号を送信する手順、
前記受信機から前記無線信号に対応して出力される中間周波数信号をデジタル複素包絡信号に変換する手順、
前記デジタル複素包絡信号に対応して前記無線信号の受信状態を出力する手順、
出力された前記無線信号の受信状態から特定の項目についてのパラメータ値を抽出する手順、
抽出された前記パラメータ値を当該測定条件に対する定常状態データとして予め備えられた記憶手段に記憶させる手順、
出力された前記無線信号の受信状態から当該測定条件に対する定常状態におけるパラメータ値を示す定常状態データを予め備えられた記憶手段に記憶させる手順、
新たに観測された受信状態と前記定常状態データとの間で多変量解析を行って前記受信状態が前記定常状態データと比べて異常であるか否かを判定する手順、
および異常である場合に外部に対してアラートを出力する手順
を実行させることを特徴とする異常電波検出プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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