説明

異常音診断装置

【課題】従来は、周波数分析結果の特定異常音成分による異常検出のため、多様な帯域幅や継続時間をもつ異常音成分の高精度診断はできず、また、時間周波数分布の強度が大きい領域を観測データから求めるので、最適診断結果が得られる保証がない。他の従来技術は、未知の異常事象診断ため、未知異常事象に対する診断手順を予め処理手段に登録する必要がある。
【解決手段】波形データ取得手段が取込んだ対象機器の音または振動の波形データを時間周波数分析手段で時間周波数分析して、時間軸と周波数軸の時間周波数分布を求め、時間周波数分布の時間軸と周波数軸の座標値によって規定した複数の領域を生成し、時間周波数分布の定常状態とは異なる変動成分が含まれる領域を領域抽出手段で抽出し、判定手段で抽出領域に含まれる時間周波数分布に基づき異常の判定をし出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロホン(以下マイクと称す)や振動センサで収集された信号の時間周波数分析によって運転中の機器の異常音の発生の可能性を判定する装置に関する。特に、複数の機器から構成されるシステムにおいて運転時に発生する多岐多様な異常音を診断する異常音診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の異常音を診断する異常音診断装置に関する第1の技術として、判定対象物からの振動データを時間周波数分析処理により得られる時間周波数分布から非定常振動の強度が設定値以上となる時刻の非定常振動データを抽出し、この抽出された非定常振動データに基づいて異音発生の可能性を判定するもの(特許文献1)、時間周波数解析結果の各周波数における振動発生頻度を、その周波数における最大振幅と振動発生閾値との積で求まる振動発生判定振幅値以上であるデータの時間割合を計算してその周波数の発生頻度として算出するもの(特許文献2)、時系列スペクトルから異音成分の等高線で示される強度の大きい領域を算出し、この領域から異音成分を含むスペクトル列のみを抜き出すもの(特許文献3)などがある。
【0003】
また、従来の異常音を診断する異常音診断装置に関する第2の技術として、特定の既知異常事象に着目し、それらの発生の有無を確認する専用処理手段と、既知異常事象が発生しない場合に汎用的な雑音解析を行い、この解析結果を正常時と比較し不特定の未知異常事象を検出し、未知異常事象が検出された場合、正常状態からの変化を検出するための処理手順を生成して専用処理手段に与えるもの(特許文献4)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3885297号公報
【特許文献2】特許第4373350号公報
【特許文献3】特許第4262878号公報
【特許文献4】特開平6-309580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の第1の技術は、周波数分析結果に現れる特定の異常音成分の出現パターンに特化した各種の閾値に基づいて異常を検出する構成としているため、それぞれ単独の構成では多様な帯域幅や継続時間を有する異常音成分を等しく高精度で診断することはできないという問題があった。また、時間周波数分布の強度が大きい領域を観測データからボトムアップに求めるもので、必ずしも最適な診断結果が得られるという保証がないという問題もあった。
一方、従来の第2の技術は、未知異常事象を診断するためには、未知異常事象に対する診断手順をあらかじめ専用処理手段に登録する必要があるという問題があった。
本発明は上記のような問題点を解決するためなされたもので、専用の診断手順を専用処理手段に登録する必要がなく、最適な診断結果が得られるという保証があり、周波数分析結果に含まれる多様な帯域幅や継続時間を有する異常音成分を等しく高精度で検出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明係る異常音診断装置は、
検査対象機器が発生する音または振動の波形データを取込む波形データ取得手段と、
上記波形データを時間周波数分析し、一方の軸を時間軸に、他方の軸を周波数軸にした時間周波数分布を求める時間周波数分析手段と、
上記時間周波数分布の時間軸と周波数軸の座標値によって規定した複数の領域を生成し、上記時間周波数分布の定常状態とは異なる変動成分が含まれる領域を抽出する領域抽出手段と、
上記抽出領域に含まれる時間周波数分布に基づいて異常の判定を行い出力する判定手段とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明係る異常音診断装置によれば、
時間周波数分布から、時間周波数について連続して形成する時間周波数の領域を抽出する手段を設けることにより、周波数分析結果に現れる、多様な帯域幅や継続時間を有する異常音成分を、専用の診断手順を登録する必要がなく、等しく高精度で診断することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の異常音診断装置を示す機能ブロック構成図である。
【図2】複数機器からの音を走査する場合の時間周波数分布例の特性図である。
【図3】時間周波数分布の領域に関する事前知識の説明図である。
【図4】本発明の実施の形態1における処理の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
本実施の形態は、検査対象システムを構成する機器の発する異常な音圧を診断する装置として、パーソナルコンピュータ(以下PCと称す)上のソフトウェアとして実装され、正常時の波形を取込む学習モードと試験時の波形を取込む診断モードを有する。測定者はマイクないし振動センサ等を検査対象機器に設置し、そのマイクないし振動センサ等をPCのUSB(Universal Serial Bus)インタフェースの入力端子に接続して、学習モード時と診断モード時の操作を行う。
【0010】
検査対象システムとして、例えば、エレベータの乗車かごにマイクを取り付け、制御ケーブルを経由してマイクの信号を機械室に置いたPCに取込んで、乗車かごを往復運転することで、昇降路内の各機器の稼動音を診断する場合を例にとる。
特定の機器、例えば頂部返し車から異常音が発生すると、異常音を発生する機器以外が発生する稼動音、例えばガイドレール摺動音があるため、乗車かごがその異常音を発生する特定の機器に接近する時間帯、例えば乗車かごが頂部返し車に接近する時間帯(乗車かごの上昇時は測定区間の後半部分に、また、乗車かごの下降時は測定区間の前半部分)に、異常音の時間周波数成分が現れる。
また、カウンターウェイトから異常音が発生する場合は、乗車かごとカウンターウェイトがすれ違う時間帯である測定区間の中央部分に、異常音の時間周波数成分が現れる。
【0011】
また、異常音の周波数スペクトルの形状は、異常発生する機器や異常の原因によって異なり、占有する周波数範囲も多様である。一般に、上述のように、機器システムを走査するマイクから複数機器の稼動音を診断する場合、測定区間中に異常音成分が現れる時間範囲と周波数範囲は極めて複雑で多様なものとなっている。
図2はエレベータ各機器の異常音発生時の時間周波数分布を横軸に時間、縦軸に周波数をとり、各時刻と各周波数における分布の強度を濃淡で示している。点線は異常発生前の特定の機器の稼動音のマイクでの強度を示し、実線は異常となったその機器の稼動音の強度を示す。また、一点鎖線はその機器を含む全機器からの稼動音の合成された音のマイクでの強度を示している。(A)は頂部返し車から異常音が発生した場合、(B)はカウンターウェイトから異常音が発生した場合の例である。
【0012】
図1は本発明の実施の形態1における異常音診断装置を示すブロック構成図である。
図1において、1はマイクや振動センサから出力される測定信号、2は増幅器と低域フィルタ回路とAD変換器を備え測定信号1をサンプリングしデジタル信号に変換して波形データ3を出力する波形取得部、4は波形データ3に時間窓を掛け時間窓を時間方向にずらしながら高速フーリエ変換(以下FFTと称す)演算により波形データ3を時間周波数分析し時間と周波数に対する強度を示すスペクトル値からなる時間周波数分布5を出力する時間周波数分析部である。
【0013】
6は時間周波数分布5の正常時における時間周波数分布6a(図には示されない)を記憶する正常時時間周波数分布記憶部、7は時間周波数分布5の試験時の時間周波数分布7a(図には示されない)を記憶する試験時時間周波数分布記憶部、8は事前知識8a(図には示されない)がテーブルとして記憶された事前知識記憶部、9は事前知識記憶部8の事前知識8aに基づいて決められた所定の領域候補10を生成する領域候補生成部、11は領域候補10について正常時時間周波数分布記憶部6の正常時時間周波数分布6aと試験時時間周波数分布記憶部7の試験時時間周波数分布7aとを参照して凝縮度12を算出し出力する評価部、13は凝縮度12に基づいて領域候補10の中から最適な領域候補を選択し抽出領域14として出力する領域抽出部、15は正常時時間周波数分布6a及び診断時時間周波数分布7aを参照し抽出領域14に含まれる時間周波数分布から異常音発生の可能性の度合いを示す異常度を計算し異常度16として出力する異常時計算部、17は異常度16に基づいて異常音の発生の可能性を判定し判定結果18を出力する判定部である。
【0014】
以下図4の処理の流れ図を参照し、動作を説明する。
学習モードまたは診断モードにおいて、波形取得部2は、マイクや振動センサから出力される測定信号1を、取得して増幅しAD変換することにより、サンプリング周波数32kHzの16ビットリニアPCM(pulse code modulation)のデジタル信号の波形データ3に変換する(ステップS1)。
時間周波数分析部4は、波形取得部2が出力する波形データ3に対して、1024点の時間窓を16msの間隔で時間方向にずらしながらフレームを切出し、各フレームに対してFFT演算により周波数スペクトルの時系列y(t,f)を求め、時間周波数分布5として出力する(ステップS2)。ここで、tは分析窓をずらすシフト間隔に対応する離散値をとる時刻、fはFFT演算の結果の周波数インデックスに対応する離散値をとる周波数を示す。なお、時間tおよび周波数fは、それぞれ、0≦t≦T,0≦f≦Fなる関係を満たす。ここで、Tは時間周波数分布5の時間方向の時間幅、Fは波形データ3のサンプリング周波数fsの1/2であるナイキスト周波数である(F=fs/2)。
【0015】
時間周波数分析部4により時間周波数分布5が算出されると、異常音診断装置は学習モード時かまたは診断モード時かを判断する(ステップS3)。
学習モード時であると、時間周波数分布5は正常時時間周波数成分6aとして正常時時間周波数成分記憶部6に転送され記憶される(ステップS4)。一方、ステップS3の判断結果が診断モード時であれば、時間周波数分布5は診断時時間周波数成分7aとして診断時時間周波数成分記憶部7に転送され記憶される(ステップS5)。
【0016】
次に、診断モード時の診断処理について動作を説明する。
領域候補生成部9は、事前知識8aに基づいて、領域候補10を生成する(ステップS6)。事前知識8aは、診断対象システムを構成する機器から発生する異常成分の時間周波数分布における出現領域の形状を規定するための知識であり、本装置の設計者が事前に対象を分析して得た知識を表し、本装置の領域候補生成部9が生成する領域候補としてテーブルの形式で事前知識記憶部8に格納されている。本例では、時間周波数分布の全領域に対して、全時間区間Tをn分割、かつ、全帯域Fをm分割して格子状の分割領域を得て、任意の格子線を辺とする矩形の領域を生成して、事前知識8aのテーブルとして事前知識記憶部8に格納される。
【0017】
図3は事前知識8aとして格子と生成される矩形の例をAとBで示す。矩形領域Aは時間区間の後半での中高域の周波数成分の短時間の時間周波数成分に対して最適な形状となっている。また、矩形領域Bは測定時間の前よりの時間区間で中間の周波数帯域で継続時間の長い時間周波数成分が発生する場合に対して最適な形状となっている。ここで、分割数n及びmを増加することにより、より詳細に領域の境界を表現することが可能である。ところで、格子状の分割領域における最初の第1/6時間区間と、最後の第6/6時間区間は、検査対象の動作速度が定格速度にくらべて遅いため、稼動音が十分発生しないことから、領域候補の生成から除くことも可能である。また、上記では、時間周波数分布の全領域に対して、全時間区間Tをn分割、かつ、全帯域Fをm分割して格子状の分割領域を得て、任意の格子線を辺とする矩形の領域を生成する例を説明したが、異常成分の時間周波数成分に対する事前知識によって、最適な形状として、上記の格子状の分割領域を選択するか選択しないかを組み合わせて任意の形状の領域も生成するようにしても良い。
【0018】
評価部11は、領域候補10(以下、領域候補をRで表す)に対して、凝縮度E(R)12を算出する(ステップS7)。
凝縮度をE(R)は、試験時時間周波数分布をy(t,f)、正常時時間周波数分布をx(t,f)、矩形の領域をR=[t1,t2,f1,f2]とすると、これらに対する凝縮度をE(R)は式1に示される演算により求められる。ここで、t1,t2,f1,f2は、それぞれ、矩形領域Rの下限時間、上限時間、下限周波数、上限周波数である。また、矩形以外の領域候補Rに対しては、式1の代わりに、より一般的な式2に示される演算により求められる。ここで、記号(t,f)∈R*は抽出領域R*に含まれる離散時間t及び離散周波数fの組合せについて総和をとることを意味する。
【0019】
【数1】

【0020】
【数2】

【0021】
上式で、nは時間周波数分布の矩形領域に含まれるスペクトル値の標本数である。また、w(n)は、標本数nに応じた重み係数であり、例えば、標本数nのp乗根(pは例えば2)である。標本数nは領域の大きさとともに大きい値となり、前記重み係数w(n)は、領域の大きさとともに大きい値となるため、小さな領域に対する凝縮度E(R)は小さくなり、小さな領域に局在する外れ値が計算結果に与える影響を緩和するために用いる。また、関数φはスペクトル値を非線形に変換して、変換後の値の分布を正規分布に近づけるため、Box-Cox変換(一般化対数変換とも言う)または対数変換とする。Box-Cox変換は式3で表されパラメータγがγ=0のとき対数変換と一致する。
【0022】
【数3】

【0023】
領域抽出部13は、各領域候補と各領域候補に対する凝縮度E(R)の関係を調べ、凝縮度E(R)が最も大きい値を示す領域候補を最適な抽出領域として選択して出力する(ステップS8)。各領域候補を{R1,R2,…,Rk}、それぞれの凝縮度を{E(R1),E(R2),…,E(Rk)}、最適な領域候補をR*とすると、R*は式4の演算により求められる。ここで、自然数のkは領域候補の数である。
【0024】
【数4】

【0025】
異常度計算部15は、正常時時間周波数分布x(t,f)及び試験時時間周波数分布y(t、f)のそれぞれの最適な抽出領域R*に含まれるスペクトル値から異常度を計算する(ステップS9)。いま、抽出領域R*が矩形領域であり、R*=[t1,t2,f1,f2]、異常度をa(R*)とするとき、異常度a(R*)は式5の演算により得られる数値である。ここで、t1,t2,f1,f2はすでに定義した通りである。
【0026】
【数5】

【0027】
上の式5において、Ψ(x)は変数xの非線形写像関数で例えば上述のBox-Cox変換などを用いることができる。g(t)は、領域R*の周波数f方向の累積値を単位周波数の数で除した値、すなわち時間tにおける周波数に関する標本平均であり、h(f)は、領域R*の時間t方向の累積値を単位時間の数で除した値、すなわち周波数fにおける時間に関する標本平均である。さらに、g〜(t)及びh〜(f)は、それぞれ、g(t)を時間tに関し、また、h(f)を周波数fに関して平滑化した結果の値である。平滑化は例えば移動平均を求めることで達成される。最終的に、異常度a(R*)は、移動平均後のg〜(t)の時間tに関する最大値と移動平均後のh〜(f)の周波数に関する最大値とのいずれかの最大値として求める。最大値の代わりに統計量である分位数を用いてもかまわないし、いずれか一方の値を異常度としてもかまわない。このような例を、式6のa(R*),a(R*),a(R*),a(R*),a(R*)などに示す。ここで、quantile({x},α)は系列{x}のα分位数を表す。αを1とおけば最大値max{x}と一致する。式6のαやβは1に近い値、例えば0.9とおいてもよい。
【0028】
【数6】

【0029】
また、別のより簡単な方法として、異常度a(R*)は、式7のa(R*)に示すように、抽出領域R*における正常時時間周波数分布の写像Ψ(x(t,f))の平均値と、抽出領域R*における試験時時間周波数分布の写像Ψ(y(t、f))の平均値との差)としても良い。
【0030】
【数7】

【0031】
判定手段17は、異常度a(R*)と閾値を比較して異常度が閾値以上であるとき異常音が発生している可能性があると判定して、「アラーム」を判定結果18として出力する(ステップS10)。また、異常度が閾値未満のときは異常音は発生している可能性が低いと判定して、「正常」を判定結果18として出力する。
【0032】
上記実施の形態において、時間周波数分析部4はFFT演算により時間周波数分布5を出力する構成にされているが、FFTに限らず、ウェーブレット変換を用いても良い。
また、事前知識記憶部8に記憶される事前知識8aの矩形領域について、上限時間t2と下限時間t1の差t2−t1に下限tminを設けてもよい。すなわち、t2−t1≧tminとなる、矩形領域に限定して、事前知識記憶部8に格納される。
また、同様に、上限周波数f2と下限周波数f1の差f2−f1に下限fminを設けても良い。すなわち、f2−f1≧fminとなる、矩形領域に限定して、テーブル8に格納する。
さらに非線形関数は、解析的な関数のほかに、折れ線近似により非線形特性を持たせた関数でもよい。
【0033】
以上のように本発明によれば、時間周波数分布から、時間周波数について連続して形成する時間周波数の領域を抽出する手段を設けることで、周波数分析結果に現れる、多様な帯域幅や継続時間を有する異常音成分を、専用の診断手順を登録する必要がなく、等しく高精度で診断することができるという効果を奏する。
【0034】
また、領域の候補を生成する領域候補生成手段と、生成された領域の候補について、その良さ(凝縮度)を評価する評価手段と、良さ(凝縮度)が最も大きい領域を選択する手段を用いることにより、特定の異常音成分の出現パターンに特化した各種の閾値を用いることなく、領域候補生成手段が生成するすべての領域の候補の中から、評価値が最も良い最適な領域を抽出する作用がある。これにより、周波数分析結果に現れる、多様な帯域幅や継続時間を有する異常音成分を、専用の診断手順を登録する必要がなく、等しく高精度で診断することができるという効果を奏する。
【0035】
また、候補領域の良さ(凝縮度)として、正常時の時間周波数分布からの変異量に対して、標本数に応じる数を重みとして掛けることによって、標本数が小さいほど重みが小さく、標本数が大きいほど重みが小さくなるため、仮に変異量が同じであれば、抽出される領域の標本数ができるだけ大きい(等価的に領域の面積が大きい)領域が選択されるという作用があるとともに、仮に変異量が大きくても標本数が小さい(等価的に領域の面積が小さい)領域の良さ(凝縮度)は小さくなるという作用がある。これによって、変異量と標本数の大きさとの両者がバランスよく大きい領域が抽出されるため、診断の精度が向上するという効果がある。
【0036】
また、正常時と比較する分布の特性パラメータとして、標本平均を用いる場合、標本の分布が正規分布に従う場合に意味のある結果が得られるが、実際のスペクトル値は非負の非対称な分布をなしているため、非線形変換によって、分布を正規分布に近づける作用があり、標本平均を用いても意味のある比較ができるようにする。これにより、領域の良さ(凝縮度)の評価が適切に行え、結果として適切に抽出された領域に基づいて異音の可能性を判定できるため、診断の精度が向上するという効果がある。
【0037】
また、凝縮度を求めるパラメータに領域候補に含まれる標本数に応じる数として、標本数に対する非線形な特性(圧縮特性)をもたせることにより、変異が小さいにもかかわらず、領域の標本数(等価的に面積)が極端に大きくなりすぎることを防止するように働く。これにより、抽出領域として、変異が大きく標本数も大きいバランスした領域を抽出でき、結果としてこれに基づく判定結果の診断の精度が向上するという効果がある。
【0038】
また、生成する候補領域の形状を矩形に限定することにより、一般には、起こりえないと想定される矩形以外の形状の領域を誤って抽出しないように働く。これにより、抽出領域として、適切な領域を抽出でき、結果としてこれに基づく判定結果の診断の精度が向上するという効果がある。
【0039】
同様に、変動成分の時間周波数分布に関する事前知識を用いて、領域の形状を限定することにより、事前知識にないような領域を誤って抽出しないように作用する。これにより、抽出領域として、適切な領域を抽出でき、結果としてこれに基づく判定結果の診断の精度が向上するという効果がある。
【0040】
同様に、機器の稼動状態に関する事前知識を用いて、領域の形状を限定することにより、事前知識にないような領域を誤って抽出しないように作用する。これにより、抽出領域として、適切な領域を抽出でき、結果としてこれに基づく判定結果の診断の精度が向上するという効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の異常音診断装置は、複数の機器を組み合わせてなるシステム装置例えば、エレベータにおいてその異常状態の箇所を検出する検出装置として利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0042】
1;測定信号、2;波形取得部、3;波形データ、4;時間周波数分析部、5;時間周波数分布、6;正常時時間周波数分布記憶部、7;試験時時間周波数分布記憶部、8;事前知識記憶部、9;領域候補生成部、10;領域候補、11;評価部、12;凝縮度、13;領域抽出部、15;異常時計算部、17;判定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象機器が発生する音または振動の波形データを取込む波形データ取得手段と、
上記波形データを時間周波数分析し、一方の軸を時間軸に、他方の軸を周波数軸にした時間周波数分布を求める時間周波数分析手段と、
上記時間周波数分布の時間軸と周波数軸の座標値によって規定した複数の領域を生成し、上記時間周波数分布の定常状態とは異なる変動成分が含まれる領域を抽出する領域抽出手段と、
上記抽出領域に含まれる時間周波数分布に基づいて異常の判定を行い出力する判定手段とを備えることを特徴とする異常音診断装置。
【請求項2】
上記領域抽出手段は、
上記時間周波数分布の定常状態とは異なる変動成分が含まれる領域を領域候補として抽出する領域候補生成部と、
上記領域候補に含まれる時間周波数分布と正常時の時間周波数分布の関係から凝縮度を求める評価部を備え、上記凝縮度が大きい領域候補を抽出領域として出力する構成にされたことを特徴とする請求項1記載の異常音診断装置。
【請求項3】
上記評価部は、凝縮度を、領域候補に含まれる時間周波数分布を非線形変換するとともに、非線形変換された時間周波数分布の特性パラメータと、同じく非線形変換された正常時の時間周波数分布の特性パラメータと上記領域候補に含まれる標本数に応じる数との演算により求めることを特徴とする請求項2記載の異常音診断装置。
【請求項4】
上記評価部が、凝縮度を求めるための上記非線形変換は、強度に対して非線形特性を持つ変換関数を用いることを特徴とする請求項3記載の異常音診断装置。
【請求項5】
上記評価部が、凝縮度を求めるための上記の領域候補に含まれる標本数に応じる数は、標本数に対して非線形特性を持つ関数を標本数に適用した数としたことを特徴とする請求項3または請求項4記載の異常音診断装置。
【請求項6】
事前に検査対象機器を分析して得た機器からの発生異常音成分の時間周波数分布における出現領域の形状を規定する事前知識がテーブルとして記憶された事前知識記憶部を備え、
上記領域抽出手段は、上記事前知識記憶部に記憶されたテーブルの矩形の領域候補に基づいて生成することを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれか1項に記載の異常音診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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