説明

異形断面糸用紡糸口金及び異形断面糸

【課題】比較的簡単な構造を持ちながら、良好な保温効果と後処理持続効果、並びに吸汗・放散効果の両立が可能な異形断面糸と、これを作製するための異形断面糸用口金を提供する。
【解決手段】異形断面糸2において、2個のC型パターン部201、202が重畳的に配された形状を持つように形成する。これにより中空本体部212を中心とし、その円弧状側面から一対の突起201a、201b(202a、202b)が2対にわたり延出され、これが当該異形断面糸2の長手方向に沿って連続的に形成させることで、帯状スリット221、222を配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は異形断面糸用紡糸口金及び異形断面糸の技術に関し、特に保温効果、後処理持続効果の持続性、及び乾燥性の両立についての技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衣料用繊維に求められる代表的な特性として保温性、後処理持続効果の持続性、汗吸収・放散効果、並びに良好な手触り感等がある。そこで、一般的な丸形断面形状の繊維に対し、非円形断面形状を持つ糸(いわゆる異形断面糸)が開発されている。
当該異形断面糸は、例えば特許文献1に示すように、楕円形、星形、十字等の他、特許文献4に示すように、井桁状等の断面形状を持つように構成された糸である。このような糸を単独或いは他の種類の糸と混紡して用いることにより、丸形断面形状の糸に比べ、ハリ、コシ等の手触り感を調節することができる。また合成繊維であっても、天然の絹繊維に風合いを近づけることができる。
【0003】
また、丸形断面形状の繊維に比べて表面積が広くなるので、その分、豊富に染色することができ、発色性の改善を図ることもできる。
一方、特許文献4に示すように、井桁断面形状を持つ異形断面糸を用いれば、その中空部において、滞留する空気層(いわゆるデッドエアー部)が確保されるため、良好な保温効果が発揮される。また、中空部の存在により、重量に対して嵩密度を確保することができ、軽量でありながら保温効果、断熱性等の効果が得られるというメリットがある。
【特許文献1】特開2005-290630号公報
【特許文献2】特開平8-260227号公報
【特許文献3】特開昭63-196710号公報
【特許文献4】特開2000-199122号公報
【特許文献5】特開平5-279911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の異形断面糸においては、保温効果と後処理持続効果及び汗吸収・放散効果の全てを満足させることが困難な問題があった。
例えば、井形断面糸においては、保温効果は良好であるが、糸に付着させた薬剤等が経時的に脱落しやすい等の後処理持続効果に関する問題が残っている。
また、中空部を豊富に含む糸においては、一旦吸収された汗が放散するまでに一定時間が必要であり、着心地感等に解決すべき課題が残っていると言える。
【0005】
そこで本発明は、比較的簡単な構造を持ちながら、良好な保温効果と後処理持続効果及び吸汗・放散の両立を図ることのできる異形断面糸と、これを作製するための異形断面糸用口金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、横断面形状において、2つのリング体が、各内部空間の一部を重ね合わせた状態で配され、各リング体は、前記重ね合わせ部分以外の領域の一部において切り欠き部を有し、前記重ね合わせ部の内部を除くリング体の内部空間が、前記切り欠き部により外部解放されてなる構成を有している異形断面糸とした。
なお横断面形状において、前記リング体における切り欠き部は、前記重ね合わせ部における中心に対し、点対称となるリング体の位置に設けられている構成とすることもできる。
【0007】
また横断面形状において、前記リング体の前記切り欠き部に臨む2つの先端部は、当該リング体の中心からの角度が40°以上140°以下のギャップを挟んで対向されている構成とするともできる。
さらに主原料に対し、セラミックスが分散されてなる構成とすることもできる。
また本発明は、基材に所定形状のノズルスリットが穿孔されてなる異形断面糸用口金であって、前記ノズルスリットは、2つのリング状スリットが、各スリットの一部を重ねる状態で前記基材に配され、且つ、各リング状スリットは、前記重ね合わせ部分以外の領域の一部が切り欠かれてなる構成を有している異形断面糸用口金とした。
【0008】
ここで前記リング状スリットにおける切り欠き部は、前記重ね合わせ部における中心に対し、点対称となるリング状スリットの位置に設けられている構成とすることができる。
さらに各リング状スリットにおいて、前記切り欠き部に臨む前記リング状スリットの2つの先端部は、当該リング状スリットの中心からの角度が40°以上140°以下のギャップを挟んで対向されている構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0009】
以上の構成を有する本実施の形態の異形断面糸によれば、第一の効果として、中空部と突起対との間に豊富な間隙が形成され、当該間隙がいわゆるデッドエアー部となる。その結果、当該繊維を利用した衣料においては、見かけ上の嵩密度に対する空隙率が高くなり、前記デッドエアー部に滞留する空気層を熱媒体として、良好な保温効果が発揮される。
また、本発明では、突起対が一定の距離をおいて、その空間を囲むように配設されていることから、単純な突起を有する従来の井桁異形断面糸に比べ、空気層の保持力が高くなっている。このため、従来に比べて空気層の滞留効果も高く、長期間にわたる保温効果が期待できる。
【0010】
さらに本発明では突起対が互いにカーブした構成となっているため、当該突起対の内面にい位置する繊維面が、外部における他の繊維等と接触しにくくなっている。このため例えば当該繊維の作成後、所定の薬剤を塗布する等の後処理加工を行っても、突起の内面に塗布した薬剤が他の繊維等と擦れて脱落しやすくなる問題が効果的に防止される。このため、後処理時に付着させた薬剤を長期間維持でき、当該薬剤による効果が長期にわたり持続させることができる。
【0011】
一方、突起対の間は完全に閉じておらず、外界空気との流通は確保されている。従って、第二の効果として、当該繊維が吸汗した場合であっても、当該汗が一定時間後には放散されるため、べたつきを抑えた肌触りの良い衣料を構成することができる。
このように、本発明の異形断面糸によれば、保温効果と後処理の薬剤保持効果の両立を図ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態及び実施例を説明するが、当然ながら本発明はこれらの形式限定されるものでなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。
(実施の形態1)
<紡績装置の構成>
図1は、本発明の実施の形態1における紡績装置の構成を示す図である。なお、本装置において、本発明の主たる特徴部分は口金の構成にあり、それ以外は従来構成と同一である。
【0013】
紡績装置1は、いわゆる溶融紡糸法方式を採用する溶融紡糸装置であって、上流側からチップタンク10、装置本体部20、異形断面糸用口金100、冷却空気吹付セル30、冷却筒40、及びオイリングローラR1、R2、ゴデットローラR3、R4、未延伸スプールSP等で構成される。
チップタンク1は、糸材料となる樹脂チップを投入し、これを一定量収納して、適宜下流側に材料を供給するためのものである。
【0014】
チップタンク1に投入される樹脂チップとしては、例えば各種合成繊維材料をペレット状にしたものを用いる。合成繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリアクリル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコールが好適である。これらの材料のいずれかを単独、または2種類以上を混合して用いることができる。
【0015】
装置本体部20は、押出機21、ポリマー溶液流路24、計量ポンプ22、スペース部23がこの順に接続された構成を持つ。
押出機21は、チップタンク10から供給される樹脂チップを内部通路とスクリューとの間に充填させて搬送するものであり、スクリューを回転させて搬送しつつ、樹脂チップを加熱溶融させてポリマー溶液とし、これをポリマー溶液流路24を通じて計量ポンプ22へ導入する。なお流路P1は予備通路である。図1において、押出機21は外装を断面図で示している。
【0016】
計量ポンプ22は、精密なギアポンプで構成されており、前記ポリマー溶液を予め定められた分量ずつスペース部23に吐出し、これを異形断面糸用口金100へ搬送する。そして、所定の圧力で異形断面糸用口金100よりポリマー溶液を吐出させる。
冷却空気吹付セル30は、異形断面糸用口金100より吐出される糸材料Lに対し、流路V1を通じてその側面より送風する役目をなす。尚、当図では糸材料Lは一本で示しているが、実際には後述のノズルスリット150の個数に応じた本数の糸材料が存在する。
【0017】
冷却筒40は、一定の長さを持つ筒体であって、前記冷却空気吹付セル30から搬送される糸材料に対し、流路V2、V3を通じてさらに送風することで、これを冷却するものである。
オイリングローラ(油剤塗布ローラ)R1、R2、ゴデットローラ(巻き取り速度調整ローラ)R3、R4、未延伸スプールSPは、所定の引き取り速度に基づいて、摩擦の発生を抑制して高速で糸を巻き取るための構成である。
【0018】
以上の構成を持つ紡績装置1の大まかな動作としては以下の通りである。
駆動開始時にオペレータはまず、所定の樹脂チップをチップタンク1に投入する。
そして、前記樹脂チップを押出機21において、これに内蔵されるスクリューの回転によって搬送されつつ加熱・溶融させる。
溶融された材料は、押出機21に内蔵されたギアポンプにより精密に流量を計測しつつ、口金より吐出される。当該吐出された糸材料Lは、下流側に配された各ローラR1〜R4を経て、未延伸スプールSPにて巻き取られる。当該巻き取られた未延伸の糸材料Lは、その後、所定の延伸工程において処理される。これにより、本発明の異形断面糸2が完成する。
【0019】
<異形断面糸用口金100の構成>
図2は、上記紡糸装置1に装着される異形断面糸用口金100の構成を示す上面図である。図3(a)は図3(b)のx-x”線に沿った口金断面図、図3(b)は、ノズル板140の正面図をそれぞれ示す。
異形断面糸用口金100は、前記スペース部23の下流側に装着されるものであって、スペース部23から供給されるポリマー溶液を穿孔部130に導入し、これをノズルスリット150より吐出させて、所定の異形断面糸2を紡糸するものである。
【0020】
異形断面糸用口金100の構成としては、強靭性、耐食性、高硬度に優れる合金材料(例えば析出硬化系ステンレスであるSUS630材料)からなり、これを削り出し又は放電加工等を施すことで形成されている。
異形断面糸用口金100は、図2、図3(a)に示すように一定の厚みを持つ円盤状の口金本体部101を有し、その主面中央には、当該異形断面糸用口金100を厚み方向へ貫通するように、装置本体部20への装着機能をなす小径部1031及び大径部1032を備える開口部103が形成されている。一方、異形断面糸用口金100の前記主面には、その外縁付近に沿って、円周状に一定の幅の溝部102が形成されている。
【0021】
当該溝部102には、当該口金本体部101を貫通して合計50個の円形穿孔部130一定間隔毎にが形成され、各穿孔部130の内部にはそれぞれ所定のノズルスリット(孔)150が施されたノズル板140が配設されている。
ここで、本発明ではノズルスリット150の形状に特徴を有する。
すなわち、ノズル板140に設けられたノズルスリット150は、図3(b)に示すように全体的には2つのリング状スリットの一部を切り欠いてなるC型スリット部151、152が互いに対称的に重なり合ったパターニング形状を持つ。具体的には、2つのC型スリット部151、152の各中央付近において、前記C型スリット部151、152の各円弧部分を一連の閉じた周縁とする環状のスリット本体部153が形成されている。また、当該スリット本体部153以外のC型スリット部151、152の各円弧の部分では、前記スリット本体部153を挟んだ左右両端側に、当該本体部153を点中心とする対称位置に、突起状スリット対151a、151b(152a、152b)が形成されている。
【0022】
各突起状スリット対151a、151b(152a、152b)は、各対をなす突起状スリット151a及び151b(152a及び152b)がその先端部1510a、1510b(1520a、1520b)の間隙に、切り欠き部であるギャップ171(172)をおいて対向された状態で、当該ギャップ171(172)において収束するように互いに対称的にカーブして配されている。これにより、当該両突起状スリット151a及び151b(152a及び152b)の間には、空間領域161(163)が確保されている。
【0023】
なお、ノズルスリット150のパターニング制約上(ノズル板140を一体的に保持するため)、当該ノズル板140にはスリット本体部153をなすスリット領域151c、152cの一部を分断するギャップ153、154が存在するが、当該異形断面糸用口金100で形成される異形断面糸2は当該ギャップ153、154で分断されることはなく、一連の中空本体部212が形成される。
また、異形断面糸用口金100の材料としては、当然ながら上記ステンレス以外でも使用可能である。
【0024】
さらに、異形断面糸用口金100に設ける円形穿孔部130の数も、紡糸する規模等に合わせて適宜変更が可能であることは言うまでもない。
<異形断面糸2の構成と効果>
図4は、本発明の異形断面糸2の構成を示す斜視図である。図4(a)は斜視図、図4(b)は正面断面図である。
【0025】
図4(a)に示される異形断面糸2は、前記異形断面糸用口金100よりポリマー溶液が押し出された糸材料Lが、その後に延伸処理等の所定の後処理を経て形成されるものであって、2個のリング体の一部を切り欠いてなるC型パターン部201、202が、互いの内部空間が重ね合わされるように重畳的に配されており、ノズルパターン150とほぼ同様の横断面形状を持つ。これにより中空本体部212を中心とし、その円弧状側面から突起対201a、201b(202a、202b)が2対にわたり延出され、これが各先端部2010a、2010b(2020a、2020b)で一定のギャップをおいて形成されることで、帯状スリット221、222が配設されている。
【0026】
以上の構成を有する本実施の形態1の異形断面糸2によれば、これを編織して衣料材料に用いた場合、第一の効果として、中空本体部212の内部に断熱状態で滞留される空気層が確保される。このため、これを熱媒体として円形断面を持つ中実の繊維等に比べて良好な保温効果が確保される。さらにこれに加え、各突起対201a、201b(202a、202b)に囲まれたデッドエアー部211、213においても保温効果が確保される。また中空本体部212により空隙率(嵩密度)が高い構成であるから、比較的軽量に仕上げることができ、衣料用繊維として最適な構成となっている。
【0027】
また、第二の効果として、突起対201a、201b(202a、202b)がデッドエアー部211、213を囲繞するように配設され、デッドエアー部211、213と対向する繊維表面については外部接触がほぼ遮断されていることから、後処理加工時に前記繊維表面に塗布された薬剤(例えば帯電防止加工剤や制菌・抗菌加工剤、防臭・消臭加工剤、遠赤外線加工剤など一般的に生地の後加工用として知られている薬剤)が、外部接触により脱落しにくい。このため本発明の異形断面糸2によれば、従来技術における井桁異形断面糸に比べて後処理で付着させた薬剤を長期間維持でき、当該薬剤による効果を長期にわたり持続させることができる。
【0028】
さらに第三の効果として、突起対201a、201b(202a、202b)の間に帯状スリット221、222が存在することにより、当該異形断面糸2に付着した汗が帯状スリット221、222を通して、その内部に吸収される。そして、その後吸収された汗は、経時的にはそのまま篭もることなく、外部解放された前記帯状スリット221、222を通じて外気中に放散される。この作用のため、本発明によれば、吸汗・放散効果のいずれの効果も良好に発揮され、繊維のべたつきを防止し、ドライタッチに優れる肌触りの良い衣料を構成することができる。
【0029】
なお、中空本体部212は2つのC型パターン201、202の2つの交点を通る方向に沿って、より楕円形になるように形成してもよい。しかしながら、糸の潰れにくさを考慮すれば、C型パターン201、202はいずれも真円に合わせた形状とするのが望ましいことが分かっている。
(突起対の角度について)
本発明の異形断面糸2における突起対201a、201b(202a、202b)は、デッドエアー部211、213を確保させるために空気層を保持できる角度に調整することが必要である。この点について検討事項を説明する。
【0030】
図4(b)に示すように、各突起対201a、201b(202a、202b)において、帯状スリット221、222に臨む先端部2010a、2010b(2020a、2020b)同士の間の角度θ(θ’)は、C型パターン部201(202)を仮想のリング体とした場合、その中心O(O’)から40°以上140°以下とする。これは、40°以下であれば、内部の空気層はほぼ外気と遮断された状態となり、流通しなくなるので、吸汗後、これを発散する効果が得られなくなるためである。一方、角度が140°以上であれば、内部の空気層が外気に対して解放されすぎ、必要な保温効果が維持できないと考えられる。この効果をさらに良好に得るためには、前記角度を60°以上120°以下とするのが一層好適である。
【0031】
なお、この角度調整は、前記口金100において、ギャップ171、172を臨む先端部1510a、1510b(1520a、1520b)同士の間の角度を調整する上でも同様に行う必要がある。
さらに、本発明の異形断面糸2を構成するC型パターン部201(202)の重畳程度は適宜変更が可能であるが、横断面における全面積のうち、全突起対201a、201b(202a、202b)の面積が占める割合は1/2以上1/3以下とするのが望ましい。これは、主として中空本体部212に対する突起対201a、201b(202a、202b)のサイズを調整し、保温効果と後処理持続効果、並びに吸汗・放散効果の両立を図るためである。
【0032】
<セラミックス材料を含む異形断面糸について>
上記実施の形態1では、一般的な合成繊維材料を用いる構成について説明したが、本発明では、セラミックスを添加した材料からなるセラミックス入の異形断面糸とすることもできる。
セラミックス材料としては、ZrC、TiC等炭化物系、CaO、Al2O3、SiO2、MgO、Ni2O3、TiO2、Fe2O3等の各種材料からなるセラミックスが利用できる。
【0033】
このような構成のセラミックス入異形断面糸によれば、上記実施の形態1で述べた形状による効果に加え、セラミックス成分が有する遠赤外線によって、良好な保温効果が奏されるので好適である。このとき、セラミックス成分自体の赤外放射と、繊維自体の放射による複合的な放射が期待でき、従来に比べて大幅な保温効果が期待される。
また、セラミックス成分は、合成繊維材料と練り合わせて混合させることにより、洗濯を行ってもセラミックス成分が脱落しにくく、良好な耐洗濯性を付与することができる。このような性能は、製造した繊維を二次加工する上でも大きなメリットととなる。
【0034】
具体的な製造方法としては、市販されているセラミックス粉体材料を利用するか、昴輝石等の天然鉱石を粉砕加工し、平均粒径約1.0μm程度のセラミックス粒子を得る。粒径としては、なるべく小さいものを使用すると、同一の重量比において粒子表面積を増大させ、遠赤外効果を高めることができるため望ましい。
前記用意したセラミックス粒子を、例えば予め前記樹脂チップと攪拌しながら予備混合をする。そしてこれを2軸押出機に供給して、溶融混練してペレット化する。セラミックス粒子と樹脂とが複合化された該ペレットを前記樹脂チップとしてチップタンクに投入し、押出機21にて溶融押出することで、後は実施の形態1と同様の方法に基づいてセラミックス入異形断面糸を作製できる。
【0035】
ここで、セラミックス粒子と樹脂の複合化に用いるミキシング装置としては公知のミキシング装置が限定なく使用できるが、好ましくは複数のスクリューやロールを使用するミキサーおよび押出成形機、単軸の押出成形機や射出成形機等が例示できる。セラミックス含有率は樹脂チップとセラミックス粒子との比率により適宜変更可能であるが、セラミックス粒子の量が少なすぎると遠赤外効果が得られにくくなり、セラミックス粒子の量が過剰であると、セラミックス入異形断面糸の強度が低下するため注意を要する。糸強度を保つためのセラミックス粒子添加量は糸強度を確認しつつ適宜決定すればよいが、例えば20%以下が好ましく、さらに好ましくは10%以下の範囲であることが例示できる。
【0036】
なお、セラミックスを含む繊維の遠赤外効果に関しては、例えば ”遠赤外線セラミックスの常温利用” 材料技術 Vol.11、No.4,1993 に詳しい。
<実施例を用いた比較実験>
以下、本発明の異形断面糸を実施例1〜5として実際に作製し、比較例1〜4との性能比較実験を行った結果について説明する。
【0037】
実施例1〜5及び比較例1〜4の断面略形状は以下の表1に示す通りとした。ここで比較例2における中空の円形井桁断面形状とは、図5(b)に示すように、楕円形の本体部における長軸方向両端付近に、当該楕円の中心から対称的に外側へ解放されたC型パターン部が配された断面形状を持つ糸であって、例えば従来技術として特開平10-110324号公報の図3(b)に記載されている形状である。
【0038】
【表1】

【0039】
(実験条件)
実施例1〜5及び比較例1〜3の糸は、宇部興産製ナイロン6(UBESTA 1011F)をφ32mm単軸押出機(L/D=25)にてバレル温度220〜245℃、ノズル温度250℃で溶融紡糸した。
実施例1〜5についてはスリット略形状、図3(b)に例示されるノズル孔を16個備える口金を用いて紡糸した。
【0040】
実施例2については昴輝石なる天然鉱石(主成分としてSiO2、Al2O3、CaOなどのセラミックス成分を含む)の粉砕パウダーと宇部興産製ナイロン6パウダー(UBESTA P1011F)を攪拌しながら予備混合して得た粉体原料を220℃〜240℃に設定された二軸押出機を通し、ペレタイズして得た樹脂チップを用いて、単軸押出機を用いて溶融紡糸した。
溶融紡糸の際、吐出量を約0.6kg/hrとなるよう押出機スクリュー回転数とギアポンプ回転数を調整し、吐出物を冷却しつつ16条のフィラメントを油剤を塗布しながらひとまとめにして引速700m/minにて巻き取った。巻き取った糸を80℃〜150℃に加熱された延伸ローラで最終繊度66dtexとなるように速度調整しながら延伸巻取りし、フィラメント数16のマルチフィラメントを得た。
【0041】
得られたマルチフィラメントをフライス編み組織で生地に仕立て、生地に付着している油脂分をアルカリ処理により除去したのち、帯電防止加工剤による後加工処理を行って実施例1〜5および比較例1〜4の生地を得た。
<保温性評価試験>
恒温恒湿室;20℃×65%RH
実施例1〜5及び比較例1〜4のサンプル;20×20cmを刺繍枠に固定した。
【0042】
温熱板;19.5×19.5cm、温度を32℃一定とした。
実験方法として、生地下面に熱電対をつけた状態で温熱板上におき、生地温度を安定させた。その後、常温(20℃)テーブルに上記サンプルを固定した刺繍枠を移動した。生地サンプルは、テーブル面より約1cmの高さ距離を保って置き、所定時間毎(移動直後、5・15・30・60・90・120・150・180秒後)の放熱時の生地表面温度変化を測定した。これにより、安定後の生地温度を基準とする温度変化△Tを調べた。
【0043】
<着衣官能評価試験>
上記帯電防止加工剤による後加工処理を行って実施例1〜5および比較例1〜4の生地を縫製して男性用肌着を作製し、「暖かさ」及び「べたつき感」についてN=5で着衣官能評価した。
<洗濯耐久性着衣評価試験>
さらに市販の洗濯機および合成洗剤を使用して最大50回までの洗濯乾燥を繰り返し、その各洗濯回数後における帯電防止加工の効果を着衣官能評価(まとわりつき感)N=5で評価した。
【0044】
上記各試験についての結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
(実験結果の考察)
保温性評価試験では、移動直後は実施例1〜5、比較例1〜4のいずれについても温度変化に大差はなかったが、移動より5秒後付近から次第に差が生じ始め、移動より180秒後においては中実の丸形断面形状を持つ比較例4に対して最大1.8℃程度の温度変化率が生じることが確認できた。一方、断面形状に中空本体部を有する比較例1〜3では比較例4に比べて温度変化率は小さかったが、それでも実施例1〜5の有する保温効果の優位性には及ばないことが確認できた。
【0047】
これは実施例1〜5における糸が、その断面形状において中空本体部と突起対を有しており、これによって豊富なデッドエアー部を確保できている点に起因すると考えられる。
このように実施例1〜5において温度変化率が小さいため、次の着衣官能評価試験では当該実施例1〜5についても優れた暖かさ評価がなされる結果となった。また、実施例1〜5は、いずれもべたつき感評価においても比較例1〜4に対して優れているか、同等以上であることが確認された。これにより実施例1〜5では、前記デッドエアー部が外部解放されるように設けられた帯状スリットによって、一度吸い取った汗を再度外気に放出する作用が発揮されることで、残存する汗による不快感を低減させる効果があることも伺える。
【0048】
さらに洗濯耐久性着衣評価試験においては、30回洗濯後付近から比較例1〜4において着衣性に問題が生じるようになるが、実施例1〜5では少なくとも50回洗濯後でもほぼ問題が生じなかった。これは実施例1〜5の糸の断面形状において、互いに対向する突起対の間に施された帯電防止処理が、当該突起対の間に確保されるデッドエアーとともに経時的に良好に保持され、これによって長期にわたり後処理効果が発揮されたものと考えられる。
【0049】
なお実施例4及び5では、洗濯回数とともに実施例1〜3に比べてやや着衣性が低下するが、これはこれらの実施例における突起対の間の角度が狭すぎ、或いは広すぎる限界付近の値を有することを意味していると考えられる。これにより、本発明の異形断面糸における断面形状の突起対の間の角度は、40°以上140°以下とすることが望ましいといえる。
以上の各試験から、本発明の優位性が確認された。
【0050】
<その他の事項>
本発明の紡糸方法は、前述した溶融紡糸法に限定するものではなく、これ以外の紡糸方法を利用しても良い。溶融紡糸法は、材料融点が熱分解温度より低く、分子量もそれほど大きくない材料であって、加熱時に十分な流動性を呈する材料に好適である。しかし、このような特性を有さない材料については、例えば湿式紡糸法、乾式紡糸法、乾湿紡糸法のいずれかを適用することができる。この場合、本発明の口金は、ポリマー材料のチップタンクや計量ポンプの下流に接続することで、凝固浴中、加熱気体中等のいずれにおいても利用することができる。
【0051】
本発明の異形断面糸を用いた編織物としては、幅広い用途が期待できる。例えば、平編み(天竺編み、シングルジャージー)としてもよく、さらに、ゴム編み(フライス編み、リブ編み)、パール編み等の丸編地やその他の横編地、デンビー編み、アトラス編み、コード編み、クサリ編み等の縦編地、または織物の構成とすることが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、例えば防寒具等の保温性が要求される衣料として利用できる。また、後処理性に優れるため、例えばプリントシャツの生地、或いは交通安全標識用の反射マーク付きコート等の生地として利用することができる。衣料の形態としては、上着、肌着の他、ズボン、手袋、靴下等のいずれにも利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施の形態1における紡績装置の構成例を示す図である。
【図2】異形断面糸を作製するための口金の構成例を示す図である。
【図3】異形断面糸を作製するための口金の構成例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1における異形断面糸の構成例を示す図である。
【図5】比較例の異形断面糸の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
R1、R2 オイリングローラ
R3、R4 ゴデットローラ
SP 未延伸スプール
1 紡績装置
2 異形断面糸
10 チップタンク
20 装置本体部
21 押出機(エクストルーダ)
22 計量ポンプ
23 スペース部
24 流路
30 冷却空気吹付セル
40 冷却筒
100 異形断面糸用口金
130 穿孔
140 ノズル板
150 ノズルスリット
151、152 C型スリット部
151a、151b、152a、152b 突起状スリット
171、172 ギャップ
201、202 C型パターン部
201a、201b、202a、202b 突起対
211 デッドエアー部
212 中空本体部
211、222 帯状スリット
1510a、1510b、1520a、1520b、2010a、2010b、2020a、2020b 先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横断面形状において、
2つのリング体が、各内部空間の一部を重ね合わせた状態で配され、
各リング体は、前記重ね合わせ部分以外の領域の一部において切り欠き部を有し、
前記重ね合わせ部の内部を除くリング体の内部空間が、前記切り欠き部により外部解放されてなる構成を有している
ことを特徴とする異形断面糸。
【請求項2】
横断面形状において、
前記リング体における切り欠き部は、前記重ね合わせ部における中心に対し、点対称となるリング体の位置に設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の異形断面糸。
【請求項3】
横断面形状において、
前記リング体の前記切り欠き部に臨む2つの先端部は、
当該リング体の中心からの角度が40°以上140°以下のギャップを挟んで対向されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の異形断面糸。
【請求項4】
主原料に対し、セラミックスが分散されてなる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の異形断面糸。
【請求項5】
基材に所定形状のノズルスリットが穿孔されてなる異形断面糸用口金であって、
前記ノズルスリットは、
2つのリング状スリットが、各スリットの一部を重ねる状態で前記基材に配され、且つ、各リング状スリットは、前記重ね合わせ部分以外の領域の一部が切り欠かれてなる構成を有している
ことを特徴とする異形断面糸用口金。
【請求項6】
前記リング状スリットにおける切り欠き部は、前記重ね合わせ部における中心に対し、点対称となるリング状スリットの位置に設けられている
ことを特徴とする請求項5に記載の異形断面糸。
【請求項7】
各リング状スリットにおいて、前記切り欠き部に臨む前記リング状スリットの2つの先端部は、
当該リング状スリットの中心からの角度が40°以上140°以下のギャップを挟んで対向されている
ことを特徴とする請求項5または6に記載の異形断面糸。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−262620(P2007−262620A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90754(P2006−90754)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】