説明

異方性磁石及びその製造方法

【課題】残留磁束密度を低下させることなく、外部から加えた着磁磁場により磁化方向を制御できる異方性磁石を提供することを目的とする。
【解決手段】モータのロータ60に固定される複数個のセグメント型の異方性磁石50Aにおいて、各セグメント型の異方性磁石50Aの配向方向が磁極中心軸と平行になるように配向され、かつ配向率が75〜88%に制御されると共に、各セグメント型の異方性磁石50Aの磁極中心軸付近ではロータ径方向に沿った配向方向に磁化方向が形成され、各セグメント型の異方性磁石50Aの端部付近ではロータ外周側の磁極中心軸方向に向かって傾斜して磁化方向が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、小型モータ等の磁気を応用した機器に使用される異方性磁石及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小型モータ等の磁気を応用した機器に使用される磁石として、当該機器の小型化、高出力化、高効率化のために、ネオジム系等の希土類焼結磁石のような異方性磁石が使用される。磁石の形状としては、リング型や、セグメント型、直方体等の形状がある。そして、モータの高出力化等のために異方性磁石の磁気特性を高める方法として、下記に示す特許文献1記載の方法があった。
【0003】
特許文献1では、磁石内の主相の体積比率を化学量論組成(Nd2Fe14B)に近づけること、主相の配向度を向上させることが示されている。さらに、量産レベルでの配向率(残留磁束密度/飽和磁束密度)が横磁場成形の場合92〜94%、縦磁場成形の場合88〜90%であることが示されている。また、さらに配向率を高める方法が示されている。
小型モータに使われる異方性磁石としては、特許文献2に示されるようなセグメント型磁石、特許文献3に示されるようなリング型磁石が使用されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−37716号公報
【特許文献2】特開平6−61037号公報
【特許文献3】特開平9−233776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、高い磁気特性を有する異方性磁石は、配向工程において磁石の結晶の磁化方向を同じ方向に揃えて。配向率を高くしている。このような高い配向率を有する異方性磁石は、磁石の結晶の揃った方向(配向方向)にしか着磁できない。
【0006】
たとえば、ネオジム焼結磁石等の高い磁気特性を有する異方性磁石では、配向方向及び配向率は製造工程中の磁場中成形工程で定まる。この磁場中成形工程では、磁性粉末に外部から磁場を加えて結晶の方向(磁化容易軸の方向)を揃えた状態で、当該磁性粉末をプレス加圧して成形する。このとき加える磁場は例えば磁束密度2Tのように、鉄材で構成された磁極が飽和に達する強い磁場が加えられる。磁場中成形工程では、このように強い磁場を用いるため、磁場分布を任意にコントロールすることは困難であり、一般的に平行方向の磁場又はラジアル方向の磁場に限られていた。
【0007】
一方、モータの場合、モータロータに固定された磁石の磁極は、ロータ回転方向にN極及びS極が交互に切り替わるように着磁工程により形成される。この時、磁石の磁化分布が、正弦波状に滑らかにN極とS極が切り替わるようにすることが、モータがトルクムラなく効率良く回転するために理想的な条件となる。
ところが、上述の磁場中成形工程時に加えられる平行磁場又はラジアル磁場で配向された磁石は、磁石全体が一定方向(平行方向又はラジアル方向)に配向されるため、モータの必要とする磁化分布とは異なった磁極間部で急激に磁束密度が変化した表面磁束密度分布になる。
【0008】
次に、異方性磁石の形状や適用用途に応じた課題を下記に挙げる。
(1)セグメント型磁石
モータロータに固定された複数個のセグメント型磁石は、ロータ回転方向に対して各磁石が交互にN極、S極となるように着磁されている。そして、ロータ回転方向の磁化分布が正弦波状に少しでも近づくように、セグメント型磁石の形状が例えば三日月状に設計されている。しかしながら、次のような課題があった。
・セグメント型磁石の強度を維持するため、その厚さを薄くすることができず、当該磁石の周方向端部でも1mm以上の厚さが必要であり、磁極間部を正弦波状に近づけることができない。
・セグメント型磁石は、平行磁場あるいはラジアル磁場で配向されるため、着磁器の発生する着磁磁場の方向と差が生じる磁石周方向端部では着磁しにくく、完全着磁されない状況が生じる。そのため着磁ばらつきが発生しやすく、磁化分布にもばらつき生じる。
・セグメント型磁石の配向方向は磁場中成形工程で決まるが、当該工程時においても配向方向にばらつきが発生する。配向方向のばらつきは、セグメント型磁石の磁化分布のピーク位置にばらつきが生じることになる。ピーク位置のばらついたセグメント型磁石でロータを構成した場合、コギングトルクやトルクリップル等のトルクムラが増大する。
【0009】
(2)ラジアル配向のリング型磁石
ラジアル配向のリング型磁石は、ロータ回転方向の表面磁束密度分布が矩形波状となる。本来、表面磁束密度分布波形は正弦波が理想であるので、表面磁束密度分布に高調波成分が含まれるとコギングトルクなどのトルクムラが発生してしまう。そのため、表面磁束密度分布波形の高調波をキャンセルするように磁極を斜めに形成するスキュー着磁が採用されていた。しかし、スキュー着磁は斜めに磁極を形成するため、スキューしている部分の磁束がモータ出力に寄与しない。また、スキュー角を正確に設定する必要があり、着磁器の製作が難しい等の問題があった。
【0010】
(3)極配向のリング型磁石
極配向のリング型磁石は、磁場中成形時に極配向磁場を発生するための特殊な磁場成形用金型が必要となる。また、極配向のリング型磁石は、焼結工程で焼結歪が大きく、割れが発生しやすく歩留まりが悪くなる。さらに、極配向のリング型磁石の焼結歪を後加工するため削り代が大きく加工時間がかかる等の問題があった。また、極配向のリング型磁石は、着磁時に着磁器に対して当該磁石の精確な位置決めが必要となり、セッティングに時間がかかる等の問題があった。
【0011】
なお、等方性磁石は配向されておらず、着磁器の発生磁場で磁化分布が決まるため、歪の少ない磁化分布を有するロータを実現できるが、磁力が弱いという大きな課題がある。等方性磁石は、配向された異方性磁石に比べて残留磁束密度で50%以下の磁力しか発生しない。
【0012】
この発明は上記のような課題を解消するためになされたもので、残留磁束密度を低下させることなく、外部から加えた着磁磁場により磁化方向を制御できる異方性磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明による異方性磁石は、配向率が制御された異方性磁石であって、外部から加えた着磁磁場により当該磁石の少なくとも一部の領域において配向方向から傾斜した方向に磁化方向が形成されている。
【0014】
この発明によるセグメント型の異方性磁石は、モータのロータに複数個固定されるものであって、各セグメント型の異方性磁石の配向方向が当該異方性磁石の磁極中心軸と略平行になるように配向され、かつ配向率が所定範囲に配向制御されると共に、各セグメント型の異方性磁石の磁極中心軸付近ではロータ径方向に沿った配向方向に磁化方向が形成され、各セグメント型の異方性磁石の端部付近ではロータ外周側の磁極中心軸方向に向かって傾斜して磁化方向が形成されている。
【0015】
この発明によるリング型の異方性磁石は、モータのロータに固定されるものであって、その配向方向がロータの径方向に配向され、かつその配向率が所定範囲に配向制御されると共に、リング型の異方性磁石の各磁極の中心付近ではロータ径方向に沿った配向方向に磁化方向が形成され、各磁極間付近ではロータ外周側の磁極中心軸方向に向かって傾斜して磁化方向が形成されている。
【発明の効果】
【0016】
この発明の異方性磁石によれば、磁場中成形工程の配向方向に従って定まっていた磁化の方向を、モータ等の磁気応用機器が必要とする最適な磁化方向に修正することができる。
【0017】
この発明のセグメント型の異方性磁石によれば、当該異方性磁石の総磁束量を大幅に低下させることなく、ロータ回転方向の磁束密度分布を正弦波に近づけることができるため、モータ出力を低下させることなく、トルクムラの小さいモータを実現できる。
【0018】
この発明のリング型の異方性磁石によれば、当該異方性磁石の総磁束量を大幅に低下させることなく、また、スキュー着磁なしでもロータ回転方向の磁束密度分布を正弦波に近づけることができるため、モータ出力を低下させることなく、トルクムラの小さいモータを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の異方性磁石及びその製造方法を説明するための概念図である。
【図2】この発明の異方性磁石の結晶レベルでの配向及び着磁の様子を模式的に示した図である。
【図3】この発明の配向率を変化させた場合の、配向率に対する磁化方向を、磁石の配向方向に対する着磁磁場の方向の角度毎に示した図である。
【図4】この発明の配向率を変化させた場合の、配向率に対する磁化の大きさを、磁石の配向方向に対する着磁磁場の方向の角度毎に示した図である。
【図5】この発明の磁石内のミクロの磁気モーメントの粒子のシミュレーションモデルを示す図である。
【図6】この発明の実施の形態1によるセグメント型磁石の磁場中成形工程の概要を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態1によるセグメント型磁石をモータのロータに固定した様子を示す図である。
【図8】この発明の実施の形態1によるセグメント型磁石の着磁の様子を示す図である。
【図9】この発明の実施の形態1による配向率のセグメント型磁石の磁化の方向を示す図である。
【図10】従来の配向率のセグメント型磁石の磁化の方向を示す図である。
【図11】この発明の実施の形態1によるセグメント型磁石を用いたロータの表面磁束密度分布を示す図である。
【図12】この発明の実施の形態1によるロータの磁石配置部分の拡大図である。
【図13】従来のセグメント型磁石の配向方向のずれの模式図と表面磁束密度分布とを示す。
【図14】この発明の実施の形態1のセグメント型磁石の配向方向のずれの模式図と表面磁束密度分布とを示す。
【図15】ロータを着磁する時のセグメント型磁石の着磁磁場を示す図である。
【図16】ロータを着磁する時のセグメント型磁石の着磁磁場を示す図である。
【図17】この発明の実施の形態2によるリング型磁石の磁場中成形工程の概要を示す側面断面図である。
【図18】この発明の実施の形態2によるリング型磁石の磁場中成形工程の概要を示す図17のA−A断面図である。
【図19】この発明の実施の形態2によるリング型磁石の着磁の様子を示す断面図である。
【図20】従来のリング型磁石の着磁の様子を示す断面図である。
【図21】この発明の実施の形態2によるリング型磁石の表面磁束密度波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態1.
この発明は、配向率が制御された異方性磁石であって、外部から加えた着磁磁場により当該磁石の少なくとも一部の領域において配向方向から傾斜した方向に磁化方向が形成されている異方性磁石を提供する。そして、特にその配向率は75〜88%に制御されている。以下、本発明による異方性磁石及びその製造方法について詳細に説明する。
【0021】
図1はこの発明の異方性磁石及びその製造方法を説明するための概念図である。ここでは、高磁気特性を有する異方性磁石として代表的な例である希土類焼結磁石、特にネオジム系焼結磁石及びその製造方法について説明する。ネオジム等の希土類焼結磁石は、原料合金鋳造工程、粉砕工程、磁場中成形工程、焼結・熱処理工程、加工工程、表面処理工程を経て製造される。図1(a)は磁場中成形工程の様子を示す。一対の電磁コイル10が発生する磁場(図中の破線矢印12;図示右向き)により、金型内の磁性粉末20の配向方向(磁化容易軸方向)が図示右向きに揃えられる。このとき、上下パンチ14a、14bが金型内の磁性粉末20を上下方向から加圧することで、配向された磁石成形体が形成される。次に、図1(b)のように、金型から取り出された磁石成形体は焼結・熱処理工程を経て焼結磁石21になる。この時、磁場中成形工程で揃えられた配向方向は保たれるが、焼結・熱処理時に高温になるため、焼結磁石21のそれぞれの結晶の磁化方向は上記配向方向を維持したままでランダムな方向(図示、左右方向)を向き、焼結磁石21の外部に磁化が現れない(脱磁と呼ばれる)。次に、図1(c)のように着磁器30によって、外部から磁場を加えることでランダムな方向を向いている各結晶の磁化の方向を一方向に揃え(図の場合は右向き)、焼結磁石21は着磁される。ここでは、着磁器30として空芯コイルを用いて焼結磁石21を着磁している様子を示している。また、焼結磁石21の配向方向12aに対して、着磁磁場の方向32が傾いている場合を示している。
【0022】
図2は、異方性磁石の結晶レベルでの配向及び着磁の様子を模式的に示した図である。図2(a)は、磁場中成形工程により図示A方向に配向し、更に焼結・熱処理した異方性焼結磁石の結晶の様子を示す。各結晶22の楕円の長軸方向が各結晶の配向方向(磁化容易軸の方向)となる。各結晶22は楕円の長軸方向ならどちら向きにでも磁化することができるが、楕円の長軸方向の角度(すなわち配向方向)は着磁により変化しない。本実施の形態では配向率が高くなく所定の範囲に制御しているため、各結晶22の配向方向は、概ね左右方向となっているが、例えば結晶22a、22bのように上下方向にばらついているものがある。なお、図2(a)は未着時の状態を示しており、各結晶22の磁化の向き(矢印の向き)がランダムであるので、磁石全体での磁化は発生していない。
図2(b)は、図2(a)の焼結磁石を、配向方向Aと同じ向きの着磁磁場の方向B1(破線矢印)により着磁した場合の結晶の様子を示す。図において、配向方向が上下方向にばらついている結晶22cも、着磁磁場の方向B1に従って着磁される。磁石全体としては、太矢印C1に示す方向に磁化の方向が向く。
図2(c)は、図2(a)の焼結磁石を、配向方向Aに対して所定角度傾けた着磁磁場の方向B2(破線矢印)で着磁した場合の結晶の様子を示す。図において、配向方向が図示左上−右下方向を向いている結晶22d(図中の背景が灰色)は図2(b)の場合とは異なり着磁により磁化方向が反転する。その結果、磁石全体としての磁化方向は太矢印の方向C2に着磁される。
なお、配向率が高い磁石の場合は、結晶方向の上下方向への変動が小さくなり、図2(b)及び(c)で示した配向方向が上下方向にばらついている結晶(灰色の背景の結晶)自身が少なくなる。そのため、着磁方向が配向方向に対して所定角度傾いても、着磁により磁化される方向が反転する結晶がなく、図2(c)のように磁石全体として磁化方向を制御することができない。
【0023】
図3は、配向率を変化させた場合の、配向率に対する磁化方向を、磁石の配向方向に対する着磁磁場の方向の角度毎に示した図である。図4は、配向率を変化させた場合の、配向率に対する磁化の大きさを、磁石の配向方向に対する着磁磁場の方向の角度毎に示した図である。図3及び図4は、磁石内のミクロの磁気モーメントの粒子の集合を仮定して、以下の(1)〜(6)に述べる手法を用いてシミュレーションしたものである。ここで、配向率は、飽和磁束密度Msに対する残留磁束密度Brの比であり、Br/Msとして表され、磁石の結晶の磁化方向が同じ方向に揃っている程度を表す。配向率は、パルスBHトレーサ(例えば、日本電磁測器株式会社製BHP−1000)を用いることで実測できる。
(1)磁石内の粒子の配向方向のばらつきを仮定する。
図5において、配向磁場方向(磁石全体の配向方向)Hに対する任意の粒子22の配向方向の角度をθとする。配向方向がθである粒子数の割合をN(θ)とする。具体的には、N(θ)は二項分布を仮定し、分布幅を変化させ、変化させた各分布幅を配向方向のばらつきの程度とする。
(2)着磁磁場の強さをBm、着磁磁場の方向をΦm(Φmは配向磁場方向Hに対する角度)とし、着磁磁場の強さの配向方向成分が所定の閾値を超えた粒子は着磁され、それ以外は着磁されないとする。すなわち、
Bm・cos(θ−Φm)≧Bth の粒子は磁化されるとして、B(θ)=Bdとする。
Bm・cos(θ−Φm)<Bth の粒子は磁化されないとして、B(θ)=0とする。
具体的には、Bmは2.4MA/m(磁束密度3T)、Bthは1.2MA/m(磁束密度1.5T)とし、Bdは磁荷とした。
(3)磁化された粒子の磁化の大きさのX方向成分、Y方向成分をそれぞれ加算し、磁石全体の磁化の大きさのX方向成分、Y方向成分とする。
Mx=Σ{N(θ)・B(θ)cos(θ)}
My=Σ{N(θ)・B(θ)sin(θ)}
(4)磁石全体の磁化の大きさMと、磁化の方向θを求める。
M=√(Mx+My
θ=tan−1(Mx/My)
(5)配向方向にばらつきのない磁石(N(0)=1)を配向方向と同じ方向の着磁磁場(Φm=0)で着磁すると、磁石内の全ての粒子が配向方向に磁化される。この時のMをM0とする。
(6)上記(1)で仮定した配向方向のばらつきに対して、着磁磁場の方向がΦm=0の時のMを求め、M/M0をその配向方向ばらつきでの配向率とする。
(7)配向方向のばらつきを変化させて異なる配向率における、磁化の大きさM、磁化の方向θを求める。そして、
着磁磁場の方向Φmごとの磁化の方向θを配向率に対してプロットしたカーブが図3に示され、着磁磁場の方向Φmごとの磁化の大きさMを配向率に対してプロットしたカーブが図4に示される。
【0024】
希土類焼結磁石、例えばネオジム焼結磁石の場合、従来の一般的な配向率は92%以上ある。このような磁石では、ミクロの磁石粒子の配向方向はほぼ配向磁場方向に揃えられ、着磁磁場方向を配向方向から角度を傾けたとしても配向方向からずれた方向に着磁することは困難である。例えば図1(c)のように着磁しても、着磁された磁化の方向は配向方向になる。
しかしながら、配向率が90%以下の磁石では、着磁磁場方向を配向方向から傾けた場合、磁石全体の磁化の方向は配向方向から傾いて着磁される。図3及び図4によると、例えば、配向率85%の磁石で、配向方向に対して着磁磁場の方向が30度傾いている場合、磁化の方向は配向方向に対して10度傾く。磁化の大きさは配向率100%の場合の75%程度になる。同じく配向率85%の磁石で配向方向と着磁磁場の方向が同じ時は、磁化の方向は配向方向と同じになり、磁化の大きさは85%程度になる。ここで、前述のように量産レベルの配向率は92〜93%であるから、実質的な磁化の低下は少ない。
【0025】
次に、本発明の実施の形態1としてセグメント型磁石及びその製造方法について説明する。特に、ここでは、セグメント型のネオジム系焼結磁石の製造方法について説明する。
ネオジム系焼結磁石の製造工程は、前述のように原料合金鋳造工程、粉砕工程、磁場中成形工程、焼結・熱処理工程、加工工程、表面処理工程を経て製造される。
磁石の組成は、Nd;30wt%、B;1wt%、Dy;3wt%、Fe;残りwt%である。高周波溶解で混合した原料合金を水素脆性化処理、ジェットミルにより粉砕し、平均粒径4μmの磁性粉末を得る。そして、上記磁性粉末に配向磁場を加えて配向させる磁場中成形を行う。
図6はセグメント型磁石の磁場中成形工程の概要を示す図である。図において、一対の電磁コイル10が発生する磁場の方向(図中の破線矢印12;図示右向き)と、金型15のセグメント型のキャビティ15a内に充填される磁性粉末50の磁極中心軸50aとが略平行になるように配置される。そして、電磁コイル10が発生する磁場(図中の破線矢印12)により、セグメント型のキャビティ15a内の磁性粉末50の配向方向(磁化容易軸方向)が前記磁極中心軸50aに略平行(図示右向き)に揃えられる。このとき、図示はしないが、金型15のキャビティ15a内の磁性粉末50を加圧することで、配向されたセグメント型磁石成形体が形成される。
その後、セグメント型磁石成形体に対して真空中で1080℃、900℃、600℃の焼結・熱処理工程を経て、セグメント型焼結磁石を得る。
上述の工程において、磁場の強さと配向率の関係を求めるため、電磁コイル10の電流を制御し、金型15内の磁束密度を予め測定し、焼結・熱処理して製作した焼結磁石を、前述のパルスBHカーブトレーサを用いて、それぞれ配向率を測定した。その結果、配向磁場が0.5T、0.7T、1T、1.5T、2.0Tに対して、配向率は68%、76%、82%、87%、93%となった。
なお、磁場中成形工程では、磁性粉末50にバインダーや潤滑材を添加することがある。これら添加する量や磁性粉末の粉砕粒径などに応じて、製造条件は変動するため、製造条件に応じて磁場の強さと配向率の関係とを確認する必要がある。
このように、磁場中成形工程の配向磁場強度を制御することで、後述する着磁磁場の向きにより磁化方向を制御できる異方性磁石を容易に提供することができる。
【0026】
次に、上記工程で製作されたセグメント型焼結磁石をモータのロータに適用した場合について説明する。
図7は、セグメント型焼結磁石50Aをモータのロータ60に固定した様子を示している。図において、ロータ60は8極の構成で、8枚のセグメント型の焼結磁石50Aがロータコア61の外周に固定されており、下記の通り回転方向に交互にN極、S極と着磁される。
【0027】
図8は図7のセグメント型焼結磁石50Aの着磁の様子を示す図であり、ロータ60が着磁器100に設置された状態の断面図を示している。図において、着磁器100は、大きな着磁磁場を発生するための飽和磁束密度の大きな鉄材やパーメンジュール材を用いたコア101と、コア101に設けられた溝に巻線されたコイル102からなる。
【0028】
次に、着磁の動作について説明する。図示しない大容量のコンデンサ500〜5000μFを500〜4000Vに充電し、コンデンサと着磁器100の間に設けられたスイッチ機能(図示せず)を閉じることで着磁器100のコイル102に通電する。その時、コイル102には1kA〜30kAのパルス電流が流れ、コイル102周辺に磁束密度2T以上の着磁磁場が発生する。着磁の磁束110は図中の破線で示すように流れる。すなわち、着磁の磁束110は、セグメント型焼結磁石50Aの中心部(磁極中心軸付近)ではロータ60の径方向を向き、セグメント型焼結磁石50Aの端部(磁極中心軸から離れた部)では径方向から傾いた方向を向く。そして、セグメント型焼結磁石50Aは、その磁化の方向が図中の実線120に示すように、中心部(磁極中心軸付近)ではロータ60の径方向を向き、端部(磁極中心軸から離れた部)では径方向から傾いた方向に着磁される。
【0029】
図9及び図10は配向率に対応したセグメント型磁石の磁化の方向を示す図である。なお、図9及び図10のセグメント型磁石の配向方向は、磁極中心軸に平行になるように配向されている。図9は本実施の形態による配向率が85%の場合のセグメント型磁石の磁化の方向を示し、図10は従来の配向率が93%の場合のセグメント型磁石の磁化の方向を示す。図9のセグメント型磁石50Aでは、着磁磁場の方向110の傾きに沿って着磁されるため、図中の実線の方向(磁化の方向120)のように、中心部(磁極中心軸付近)では磁極中心軸に沿って、端部(磁極中心軸から離れた部)では磁極中心軸から傾いた方向に着磁される。一方、図10のセグメント型磁石50Bでは、着磁磁場の方向110が傾いていても、図中の実線の方向(磁化の方向120)のように、全体として磁極中心軸と平行、すなわち配向方向と平行に着磁される。
【0030】
図11にセグメント型磁石を用いたロータの表面磁束密度分布を示す。図において、横軸はロータの回転角度であり2極分の90度の範囲を示し、縦軸は表面磁束密度であり磁束密度のピーク値で正規化した値を示す。また、本実施の形態の配向率が85%のセグメント型磁石を太実線で、従来の配向率が93%のセグメント型磁石を細実線で、比較のための正弦波を点線で示す。本実施の形態のセグメント型磁石は、従来に比べて磁極間の分布での歪が小さくなっていることがわかる。そのため、トルクムラの原因となる高調波歪が抑制される効果が得られる。
【0031】
次に、配向率を75〜88%に制御した理由について説明する。
(1)配向率を88%以下に制御する理由
従来の異方性磁石はより強力な磁力を得ることが目的であるため、磁場中成形工程においてより強い配向磁場を加えることが理想である。磁場中成形工程において一般的に使用されている磁場成形機の直流磁場発生器は、磁場発生コイルと鉄材の磁極で構成されているが、磁極が磁気飽和するため、発生磁場強度は磁束密度で1.5T〜2Tが上限で、その磁場強度で磁石を配向していた。磁極配置が固定された磁場成形機では、主にコイル電流値の変動で配向磁場強度が変動するため、実際の磁石の製造では、コイル電流の変動要因(電源安定度、コイル抵抗値等)に対して、配向磁場強度が低下しないように、磁極が磁気飽和気味になるようにコイル電流を大電流側に設定して管理している。
配向磁場は上述のように設定・管理されているが、磁性粉末の流動状態等の変動要因を含むため、実際に製造される磁石の配向率は、前述の特許文献1にあるように、横磁場配向で92〜94%、縦磁場配向で88〜90%であった。なお、配向率の高い横磁場方式が現在主流である。また、特許文献1ではより高い配向磁場を印加する方法が示されており、配向率は上記値よりさらに高くなる。このように強い磁力の異方性磁石を製造するという考えに基づいて製造した場合、磁石の配向率は少なくとも88%より大きくなり、現実にはこのような配向率の異方性磁石しか存在しなかった。本実施の形態では、配向率を88%以下に制御することにより、図3及び図4に示すように、磁石の磁化の大きさを大幅に低下させることなく磁化の方向を制御することができるようになった。
一方、本実施の形態のように、着磁磁場により磁化方向を制御しようとする場合、磁場中成形工程において、磁極が磁気飽和に達する配向磁場を適用すると磁場強度が安定せず、安定に磁石を製造することができない。つまり磁極が飽和せず、コイル電流に対して磁場強度が線形である領域(磁束密度で1.5Tより小さい領域)で磁場強度を精確に制御して磁場中成形を行う必要である。そのため、磁場成形機においても磁場電源のコイル電流を高精度に制御できる機能を有し、コイル温度や周囲温度の変動が変動しても高精度にコイル電流(設定値±1%以下)を制御・管理し、磁性体の磁気特性や電源の変動抑制のための磁場成形工程の周囲温度管理(例えば20±3℃)を行う必要がある。このような手法を用いることで配向磁場を1.5T以下の所定の値に設定し、配向率を88%以下の配向率に制御することができる。
【0032】
(2)配向率を75%以上に制御する理由
[第1の理由]
配向磁場強度が磁束密度で0.3T以下では、配向率が50%程度となり、等方性磁石と同程度の配向率となる。このことは、磁場強度が低いため、磁性粉末を配向方向に回転させようとする力が、磁性粉末相互の回転する時の摩擦力を超えられないためと考えられる。摩擦力は0.3Tの磁場が与える磁性粉末に加わるモーメント力相当である。各磁場強度と配向率の測定実験によって得られた配向率のばらつきから摩擦力に相当する配向磁場は磁束密度で0.18〜0.34Tであった。
安定して配向させるためには、磁性粉末の状態のばらつきなど他の要因を考慮し、磁束密度で少なくとも0.34Tより大きくする必要がある。本実施の形態では、さらに上記磁束密度0.34Tに対して2倍となる0.68T以上の磁場強度で磁場配向することで安定な配向を得ることができることを見出した。
そして、上記で説明したように、配向磁場が0.5T、0.7T、1T、1.5T、2.0Tに対して、配向率は68%、76%、82%、87%、93%であった。配向磁場強度が0.68T以上では配向率は75%以上となる。
[第2の理由]
図12は図8のロータの磁石配置部分の拡大図である。図8及び図12に示すように、着磁磁場の方向と配向方向の関係について、磁石極間部の着磁磁場の方向は、配向方向に対して90°傾いている。また、磁石端部(一般的な例として、8極、外径φ50のロータ、着磁ヨーク内径φ60の場合、ロータ回転軸に対する磁極中心から中心角で3°の位置)では上記傾き角は75°程度である。
一方、モータに組み込まれた時の磁石においてロータのシャフトからステータへの磁路を考えると、上述のように配向方向に対する磁化方向の傾きが大き過ぎるとシャフトからステータへと磁束を流れる経路が長くなり、磁路抵抗が増加するため磁束が流れにくくなる。そのため、(磁化方向の周方向成分/径方向向成分)>1、すなわち、磁化の方向は、配向方向に対して極間部(磁極端部)で45°以内になることが望ましい。
上述の磁石端部では、配向方向に対する着磁磁場の傾き角が90°〜75°であり、配向方向に対する磁化方向のなす角が上記傾き角90°〜75°の0.5〜0.6倍であれば45°以下となる。すなわち、これに相当する配向方向に対する磁化方向のなす角が、着磁磁場のなす角の0.5〜0.6倍となる領域の配向率は、図3のグラフより略75%となる。このことから配向率は略75%以上あれば良いことになる。
【0033】
ここで、セグメント型磁石の製造において、磁場中成形工程の配向コイルの発生する磁場方向に対する金型の位置決め誤差、金型で加圧時のキャビィティ内の磁性粉末の配向乱れ、加工工程での磁石の仕上げ加工の誤差などにより、セグメント型磁石の中心軸に対して配向方向にずれが生じる場合がある。図13は従来のセグメント型磁石50Cの配向方向のずれの模式図と表面磁束密度分布とを示す。セグメント型磁石50C内で配向方向120が図上で左向きに傾いているため、表面磁束密度分布のピーク位置が左側にシフトし、右側の肩がなだらかになっている。図14は本実施の形態のセグメント型磁石50Aの配向方向のずれの模式図と表面磁束密度分布とを示す。図において、配向方向115が点線の矢印のように傾いていても、破線の矢印で示す着磁磁場110により、着磁方向125は実線矢印のように修正される。そして、表面磁束密度分布の非対称性が緩和される。その結果、セグメント型磁石間での配向方向のずれ量のばらつきによる、ロータの磁化分布のピーク位置のばらつきが抑制され、トルクムラが抑制される。
【0034】
図15はロータを着磁する時のセグメント型磁石の着磁磁場を示している。点線110は着磁磁場をベクトルで示している。なお、セグメント型磁石の配向方向は磁石の中心軸と平行な方向である。セグメント型磁石の端部では配向方向に対して着磁磁場の方向110が傾いている。配向率の高い磁石では着磁に有効な着磁磁場強度は着磁磁場の配向方向成分(図中の実線17)のみであり、磁石の端部では有効な磁場強度が急激に低下し、着磁に必要な磁場強度に達しない場合が生じる。本実施の形態の場合は、磁石の端部において、着磁磁場の方向に従って着磁されるため、容易に完全着磁が実現できる。なお、着磁器を破損しないように、着磁電流、着磁電圧をヨーク設計範囲内に設定する必要があるため、着磁電流に制限がある。不完全着磁が生じても、着磁磁場強度をむやみに高くすることはできない。
【0035】
着磁器へロータを挿入した時の位置決め誤差をなくすことは困難である。着磁器のコイルとロータの磁石の間に回転方向に位置決め誤差が生じた場合、図16のように着磁磁場の方向110にずれが生じる。磁石の端部で着磁磁場が不足している場合には不完全着時の領域の大きさが左右で異なってくる。図の場合は左端の不完全着磁の領域が広がる。そのため、ロータの磁化分布の歪が増大しコギングトルク、トルクリップルが増加する。本実施の形態のセグメント型磁石では、上述のように不完全着磁が発生しないので、コギングトルク、トルクリップルの増加を抑制できる。また、着磁器とロータの位置決め誤差に対して余裕ができるため、着磁器へのロータ挿入を容易にできる。
【0036】
以上のように、本実施の形態によれば、異方性磁石において、磁場中成形工程の配向方向により定まっていた磁化の方向を、モータ等の磁気応用機器が必要とする最適な磁化方向に修正することができる。
【0037】
また、永久磁石を使用したモータ等の磁気応用機器において、磁化の大きさを低下させることなく、着磁により磁化の方向を制御することで、必要かつ最適な磁化分布を容易に実現できる。その結果、磁気応用機器に取り付けた異方性磁石の磁化分布の歪を抑制でき、モータのトルクムラ低減等の機器性能を向上することができる。
【0038】
上記の説明では、異方性磁石としてネオジム系焼結磁石の例を示したが、フェライト系焼結磁石に適用してもよく、さらに射出成形等で製造される異方性プラスティック磁石に適用しても同様の効果が得られる。また、永久磁石モータの説明として8極の場合を説明したが、本実施の形態の効果は極数に限定されるものではない。
【0039】
実施の形態2.
上記実施の形態ではセグメント型磁石及びその製造方法について説明したが、本実施の形態ではリング型磁石及びその製造方法について説明する。そして、ここでは、リング型の石及びその製造方法として、リング型のネオジム系焼結磁石及びその製造方法について説明する。
【0040】
ネオジム系焼結磁石の製造工程は、前述のように原料合金鋳造工程、粉砕工程、磁場中成形工程、焼結・熱処理工程、加工工程、表面処理工程を経て製造される。
磁石の組成は、Nd;30wt%、B;1wt%、Dy;3wt%、Fe;残りwt%である。高周波溶解で混合した原料合金を水素脆性化処理、ジェットミルにより粉砕し、平均粒径4μmの磁性粉末を得る。そして、上記磁性粉末に配向磁場を加えて配向させる磁場中成形を行う。
【0041】
図17及び図18はリング型磁石の磁場中成形工程の概要を示す図であり、図17は側面断面図、図18は図17のA−A断面図である。図において、リング型磁石は、それぞれ対向方向に磁場を発生するように構成された1対の電磁コイル200の間に設置された金型220内で磁場中成形が行われる。金型220は、中心部にコア221が、周囲部にダイ222が、上下部に上パンチ223、下パンチ224が配置され、コア221、ダイ222、上下パンチ223及び224によりリング型のキャビティ225が形成される。リング型のキャビティ225内には磁性粉末250が充填される。
電磁コイル200の発生する磁場の方向210は、リング型のキャビティ225内ではラジアル方向になるため、その中に充填されたリング型の磁性粉末250はラジアル方向に配向される。このとき、上下パンチ223及び224によりキャビティ225内の磁性粉末250を加圧することで、ラジアル方向310に配向されたリング型磁石成形体が形成される。
【0042】
その後、リング型磁石成形体に対して真空中で1080℃、900℃、600℃の焼結・熱処理工程を経て、リング型焼結磁石を得る。
上述の工程において、磁場の強さと配向率の関係を求めるため、電磁コイル200の電流を制御し、金型220内の磁束密度を予め測定し、その条件で磁場中成形工程を行い、焼結・熱処理して製作した焼結磁石を、前述のパルスBHカーブトレーサを用いて、配向率を測定した。その結果、配向磁場が0.5T、0.7T、1T、1.5T、2.0Tに対して、配向率は、68%、76%、82%、87%、93%となった。
本実施の形態においては、実施の形態1と同様の理由により、配向率を75〜88%に制御した。
このように、磁場中成形工程の配向磁場強度を制御することで、後述する着磁磁場の向きにより磁化方向を制御できる異方性磁石を容易に提供することができる。
【0043】
図19は、上記のように製造されたリング型の焼結磁石250Aをモータのロータ60に固定し、ロータ60を着磁器100に挿入・位置決めをして着磁を行う様子を示す断面図である。図において、着磁器400は、大きな着磁磁場を発生するための飽和磁束密度の大きな鉄材やパーメンジュール材を用いたコア401と、コア401に設けられた溝に巻線されたコイル402からなる。そして、ロータ60の磁極に対応して着磁磁極を形成するためのコイル402が配置される。
【0044】
次に、着磁の動作について説明する。図示しない大容量のコンデンサ500〜5000μFを500〜4000Vに充電し、コンデンサと着磁器400の間に設けられたスイッチ機能(図示せず)を閉じることで着磁器400のコイル402に通電する。その時、コイル402には1kA〜30kAのパルス電流が流れ、コイル402周辺に磁束密度2T以上の着磁磁場が発生する。着磁の磁束410は図中の破線で示すように流れる。すなわち、着磁の磁束410は、リング型焼結磁石250Aの磁極中心部ではロータ60のリング径方向を向き、磁極中心部から離れた磁極間部付近ではリング径方向から傾いた方向を向く。そして、リング型焼結磁石250Aは、その磁化の方向が図中の実線420に示すように、磁極中心部ではロータ径方向を向き、磁極間部付近ではロータ径方向から傾いた方向に着磁される。なお、図20は従来の配向率が90%以上のラジアル配向のリング型磁石250Bに対して、図19と同様に着磁を行った状態を示したものである。図20の従来のラジアル配向のリング型磁石250Bの場合、磁石の磁化の方向421は、ほぼラジアル方向となり配向方向と同様となる。
【0045】
本実施の形態では、着磁器400の設計により、リング型磁石の磁極間部付近の着磁磁場のリング径方向に対する傾きを制御することができる。例えば、コイル402の径を太くして、着磁器400の中心からの見たコイル402の占める角度範囲を大きくすることにより、磁極間部付近での着磁磁場の方向のリング径方向に対する傾き角度が大きくなる。このような着磁磁場の設定により磁化の方向をより傾けることができる。このように着磁による制御できモータの特性に応じた磁化分布の設定を行うことが可能となる。
図20のリング型磁石250Bは、図19のリング型磁石250Aと同様の着磁器の着磁磁場に配置されるが、配向率が90%と高いために、磁化の方向421はラジアル方向を向く。図21は、図19のリング型磁石(本実施の形態)と図20のリング型磁石(従来例)の表面磁束密度波形を示す。図において、本実施の形態のリング型磁石(配向率83%)の表面磁束密度波形は太い実線で、従来のリング型磁石(配向率90%)の表面磁束密度波形は細い実線で表される。本実施の形態のリング型磁石は、従来のリング型磁石に比べ、基本波に対する比率で、5次高調波は12.6%が3.9%、7次高調波は5.0%が1.7%と低減される。
【0046】
以上のように本実施の形態によれば、リング型異方性磁石の表面磁束密度波形の高調波歪に起因して生じるコギングトルクなどのトルクムラを抑制することができる。
また、ラジアル配向のリング型異方性磁石の場合、表面磁束密度波形の高調波をキャンセルするためスキュー着磁されることが多いが、高精度なスキュー角を実現するための製造が難しいスキュー着磁器が不要になる。
さらに、リング型異方性磁石において極配向が不要になる。極配向磁石は磁場配向時に極配向磁場を発生するための特殊な磁場成形用金型が必要となること、焼結工程で焼結歪が大きく、割れが発生しやすいこと、焼結歪を後加工するため、加工代が大きく加工時間がかかる等の問題点がある。また、着磁の時にはリング型異方性磁石のあらかじめ配向された磁極位置と着磁器の磁極位置の正確な位置決めが必要であるが、本実施の形態の場合、磁石の位置決めは不要となる。
【符号の説明】
【0047】
10 電磁コイル、12 配向磁場の方向、12a 磁石の配向方向、
20 磁性粉末、21 焼結磁石、30 着磁器、15 金型、15a キャビティ、
50 磁性粉末、50A セグメント型焼結磁石、60 ロータ、100 着磁器、
101 コア、102 コイル、110 着磁の磁束、120 磁化の方向、
200 電磁コイル、210 配向磁場の方向、250 磁性粉末、310 配向方向、
250A リング型焼結磁石、400 着磁器、401 コア、402 コイル、
410 着磁の磁束、420 磁化の方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向率が制御された異方性磁石であって、外部から加えた着磁磁場により当該磁石の少なくとも一部の領域において配向方向から傾斜した方向に磁化方向が形成されている異方性磁石。
【請求項2】
モータのロータに固定される複数個のセグメント型の異方性磁石において、上記各セグメント型の異方性磁石の配向方向が当該異方性磁石の磁極中心軸と略平行になるように配向され、かつ配向率が所定範囲に配向制御されると共に、上記各セグメント型の異方性磁石の上記磁極中心軸付近ではロータ径方向に沿った上記配向方向に磁化方向が形成され、上記各セグメント型の異方性磁石の端部付近ではロータ外周側の上記磁極中心軸方向に向かって傾斜して磁化方向が形成されている異方性磁石。
【請求項3】
モータのロータに固定されるリング型の異方性磁石において、その配向方向が上記ロータの径方向に配向され、かつその配向率が所定範囲に配向制御されると共に、上記リング型の異方性磁石の各磁極の中心付近ではロータ径方向に沿った上記配向方向に磁化方向が形成され、各磁極間付近ではロータ外周側の磁極中心軸方向に向かって傾斜して磁化方向が形成されている異方性磁石。
【請求項4】
上記配向率は75〜88%に制御されている請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の異方性磁石。
【請求項5】
配向率が所定範囲になるように制御する配向工程と、外部から加えた着磁磁場により磁石の少なくとも一部の領域において配向方向から傾斜した方向に磁化方向を形成する着磁工程を備えた異方性磁石の製造方法。
【請求項6】
モータのロータに固定される複数個のセグメント型の異方性磁石の製造方法において、
上記各セグメント型の異方性磁石の配向方向が当該異方性磁石の磁極中心軸と略平行になるように配向し、かつそれらの配向率を所定範囲に配向制御する配向工程と、
上記各セグメント型の異方性磁石の上記磁極中心軸付近では上記ロータの径方向に沿った上記配向方向に磁化方向を形成し、上記セグメント型の異方性磁石の端部付近では上記ロータの外周側であって上記磁極中心軸方向に向かって傾斜して磁化方向を形成する着磁工程とを備えた異方性磁石の製造方法。
【請求項7】
モータのロータに固定されるリング型の異方性磁石の製造方法において、
上記リング型の異方性磁石の配向方向が上記ロータの径方向になるように配向し、かつその配向率を所定範囲に配向制御する配向工程と、
上記リング型の異方性磁石の各磁極の中心付近では上記ロータの径方向に沿った上記配向方向に磁化方向を形成し、各磁極間付近では上記ロータの外周側であって磁極中心軸方向に向かって傾斜して磁化方向を形成する着磁工程とを備えた異方性磁石の製造方法。
【請求項8】
上記配向率は75〜88%に制御されている請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の異方性磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−258181(P2010−258181A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105870(P2009−105870)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】