説明

異物検査装置及び方法

【課題】薬剤ビン内の混入異物を確実に検出する。
【解決手段】薬剤ビン40を円周上の移動経路に沿って移動させる、移動経路の一部にカメラ42を配置して薬剤ビン40を撮影する。薬剤ビン40をモータにより正方向及び逆方向に交互に回転駆動させ、薬剤ビン40内の混入異物を確実に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は異物検査装置及び方法に関し、特に、薬剤ビン内の混入異物の検査技術に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液の薬剤や凍結乾燥製剤は、通常、ガラス容器に収容した状態で販売される。これら溶液や凍結乾燥前の液剤については、製造工程において混入異物の検査が実施される。
【0003】
下記の特許文献1には、液剤をガラス容器に収容し、ガラス容器をCCDカメラで撮影して得られた画像を処理することでガラス容器内の混入異物を検出する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2,3には、液剤を収容した容器を移動させながら回転させて混入異物を検出する技術が開示されている。例えば、特許文献3には、検査対象の被検体が載置される台のそれぞれにモータを設け、所定の回転パターンで台上の被検体を回転させて、回転中または回転終了後の被検体を検査する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−14049号公報
【特許文献2】特開平6−258254号公報
【特許文献3】特開2003−107011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガラス容器を回転させて混入異物を検査する場合、ガラス容器の回転により混入異物が確実に溶液内で移動する必要がある。
【0007】
しかしながら、高粘度薬剤の場合には、ガラス容器を回転させても混入異物が移動しない、あるいは移動距離が極めて小さいため検査精度が低下してしまう。
【0008】
図5に、高粘度薬剤の混入異物を検査する様子を示す。高粘度薬剤を収容するガラス容器を所定時間だけ一方向に回転させ、その後、ガラス容器をCCDカメラで撮影して画像処理することで混入異物を検出するものとする。図5(a)はガラス容器の回転を開始した直後の状態、図5(b)がガラス容器の回転中の状態、図5(c)はガラス容器の回転が停止した直後の状態、図5(d)は停止した状態をそれぞれ示す。
【0009】
図5(a)に示すように、ガラス容器の回転を開始すると、混入異物はこの回転に伴って一瞬、移動する。ところが、図5(b)に示すように、回転中は混入異物は同じ回転速度で回転してしまうため、薬剤に対する相対的な動きはほとんどなくなる。そして、図5(c)に示すように、停止直後には混入異物は遅れて停止するため相対的な動きが生じるが、図5(d)に示すようにその動きはすぐに停止してしまう。特に、混入異物がガラス状の異物のように重い場合には、ガラス容器の底に沈んだ状態でほとんど移動せず、CCDカメラで撮影してもその動きがほとんどないため、得られた画像を処理しても混入異物を検出することは困難となる。
【0010】
本発明の目的は、任意の溶液あるいは薬剤が収容された薬剤ビン内の混入異物を確実に検査することができる装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、薬剤ビン内の混入異物を検査する異物検査装置であって、薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に回転駆動する駆動手段と、前記駆動手段で回転駆動した直後における前記薬剤ビン内の混入異物の移動を検出する検出手段とを有することを特徴とする。
【0012】
本発明の1つの実施形態では、前記駆動手段は、前記正方向と逆方向の回転時間あるいは回転速度の少なくともいずれかを変化させることで回転条件を変化させて前記薬剤ビンを回転駆動し、前記検出手段は、前記駆動手段の回転条件毎に前記混入異物の移動を検出する。
【0013】
また、本発明は、薬剤ビン内の混入異物を検査する異物検査方法であって、(a)薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に回転駆動するステップと、(b)前記回転駆動を停止した直後における前記薬剤ビン内の混入異物の移動を検出するステップとを有することを特徴とする。
【0014】
本発明の1つの実施形態では、前記(a)ステップでは、前記正方向と逆方向の回転時間あるいは回転速度の少なくともいずれかを変化させることで回転条件を変化させ、前記(b)ステップでは、前記回転条件毎に前記混入異物の移動を検出する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、回転駆動により混入異物を薬剤ビン内で確実に移動させ、これにより混入異物を確実に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態の検査システムの平面図である。
【図2】ガラス容器の回転駆動部の説明図である。
【図3】回転駆動プロファイルを示すグラフ図である。
【図4】実施形態の検査の様子を示す説明図である。
【図5】従来技術の検査の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0018】
図1に、本実施形態における検査システムの模式的な平面図を示す。検査対象である複数の薬剤ビン40が、円周上に移動する。薬剤ビン40の移動経路の一部にカメラ42が配置され、薬剤ビン40の特定エリアを撮影する。撮影して得られた画像は、画像処理装置44に供給される。画像処理装置44は、撮影画像を処理して容器内を移動している混入異物を検出し、検出結果を出力する。具体的には、カメラ42は個々の薬剤ビン40の特定のエリアを検出し、撮影された時系列の画像データを互いに照合して混入異物の有無を検出する。すなわち、時系列の画像データを互いに照合し、動いている物体が存在する場合には混入異物として検出する。なお、カメラ42ではなく、光発信器と光受信器を薬剤ビン40の移動経路の一部を跨ぐように配置して混入異物の移動を検出することもできる。また、光発信器と光受信器のペアからなる第1検出器と、カメラ42からなる第2検出器をともに薬剤ビン40の移動経路に隣接して配置してもよい。この場合、第1検出器あるいは第2検出器の少なくともいずれかにより混入異物が検出された場合に当該薬剤ビン40に混入異物が存在していると判定できる。
【0019】
本実施形態では、薬剤ビン40内において混入異物の相対的な移動を検出することで混入異物の存在を検出する。したがって、混入異物が存在する場合に、これを確実に「移動」させることが必要である。
【0020】
図2に、薬剤ビン40の回転駆動部を示す。薬剤ビン40は、載置台32上に載置され、図示しない拘束部によりその上部が軽く拘束される。載置台32は、軸受け30で回転自在に支持された回転軸20の上端に固定されており、回転軸20の下端はモータ46に接続される。モータ46は、コントローラ48からの駆動指令により回転軸20を回転駆動する。モータ46の種類は任意であるが、例えばDCブラシレスモータやステッピングモータ、サーボモータ等を用いることができる。コントローラ48は、予めメモリに記憶されたプログラムに従って所定の回転パターンとなるようにモータ46に指令する。
【0021】
回転軸20をベルト駆動する場合、回転軸20を一方向に駆動することは容易であるものの、正方向及び逆方向に回転駆動することは比較的困難である。本実施形態では、薬剤ビン40を載置する台32に固定された回転軸20のそれぞれにモータ46を配置することで、薬剤ビン40を正方向及び逆方向に自在に回転駆動することが容易化される。上記の特許文献3においても、各載置台毎にモータを配置しているが、その回転パターンは一方向のみの回転である。本実施形態では、モータ46は載置台32、すなわち薬剤ビン40を正方向及び逆方向に交互に回転駆動する点に特徴がある。
【0022】
なお、モータ46は、カメラ42等の検出器が配置された位置の直前において薬剤ビン40を回転駆動し、回転駆動が完了した直後においてカメラ42等の検出器において混入異物の動きを検出することが好適である。このため、コントローラ48は、例えば薬剤ビン40の移動経路上のカメラ42が配置された位置の直前のエリアAにおいてモータ46により薬剤ビン40を回転駆動するように制御することが好適である。
【0023】
図3に、本実施形態における薬剤ビン40を回転駆動する際の速度プロファイルの一例を示す。図において、横軸は時間、縦軸は速度を表す。速度は、正方向の回転をプラス、逆方向の回転をマイナスとする。
【0024】
まず、時間t=0において正方向の回転駆動を開始し、時間t=t1において正方向の最大速度v1となるまで加速する。
【0025】
次に、時間t=t1から時間t=t2まで減速し、時間t=t2で速度0となり、その後、時間t=t3まで逆方向に加速して時間t=t3において最大速度−v1に達するまで加速する。
【0026】
次に、時間t=t3からt=t4まで減速し、時間t=t4で速度0となり、その後、時間t=t5まで正方向に加速して時間t=t5において最大速度v1となるまで加速する。
【0027】
次に、時間t=t5から時間t=t6まで減速し、時間t=t6で速度0となり、その後、時間t=t7まで逆方向に加速して時間t=t7において最大速度−v1に達するまで加速する。
【0028】
次に、時間t=t7から時間t=t8まで減速し、時間t=t7において速度0として停止する。
【0029】
このように、本実施形態では、モータ46を用いて薬剤ビン40を正方向及び逆方向に回転駆動することで、混入異物を薬剤ビン40内で移動させる。言い換えれば、薬剤ビン40に対して正方向の回転と逆方向の回転を短時間に切り替えることで、薬剤ビン40に振動を与え、混入異物に動きを与えるものといえる。t1〜t8及びv1は任意に設定できるが、例えば正方向の回転時間t=t1〜t2を200msec、逆方向の回転時間t=t2〜t4を200msec等に設定する。
【0030】
図4に、本実施形態における検査の様子を示す。図4(a)は正方向(正転)に加速している状態を示す。図3におけるt=0からt=t1の間の状態である。薬剤ビン40内に混入異物が存在する場合、混入異物は薬剤に対して相対的に移動する。
【0031】
図4(b)は正方向に減速している状態を示す。図3におけるt=t1からt=t2の間の状態である。混入異物はこの減速時においても相対的に移動する。
【0032】
図4(c)は逆方向(逆転)に加速している状態を示す。図3におけるt=t2からt=t3の間の状態である。混入異物はこの加速時において再び相対的に移動する。
【0033】
図4(d)は逆方向に減速している状態を示す。図3におけるt=t3からt=t4の間の状態である。混入異物はこの減速時においても再び相対的に移動する。
【0034】
図4(e)は回転駆動が完了して停止した直後の状態を示す。図3におけるt=t8の状態である。薬剤中を相対的に移動していた混入異物がその重量に従って徐々に薬剤ビン40の底に向かって移動していく。このとき、カメラ42で薬剤ビン40を撮影すると、移動している混入異物を確実に検出することができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本実施形態の薬剤ビン40の典型例はアンプルやバイアルであるが、これに限定されるものではなく任意の薬剤を収容する任意の容器に適用可能である。
【0036】
また、本実施形態では、検出器として光発信器と光受信器のペアやカメラを例示したが、これに限定されるものではなく、X線や赤外線を含む任意の光学的ないし電磁気的検出器が含まれる。
【0037】
また、本実施形態では、速度プロファイルの一例として図3のようなプロファイルを示したが、これに限定されるものではなく、正方向及び逆方向が交互に切り替わるような回転駆動であれば任意の駆動が可能である。例えば、図3において、時間t=t1で最大速度v1に達した後、所定時間Δtだけ最大速度v1を維持する等速回転駆動を行い、その後に減速を開始することもできる。
【0038】
また、本実施形態において、正方向及び逆方向に交互に回転駆動する際の駆動サイクルは任意でよい。例えば、図3においては正方向の回転と逆方向の回転を併せて1サイクルとして合計2サイクルとしているが、1サイクルでもよく、あるいは3サイクル以上、例えば10サイクルとしてもよい。
【0039】
また、本実施形態において、回転条件を種々変化させて検査を実行してもよい。特に、薬剤ビン40内の薬剤の粘性等が不明の場合、回転条件を種々変化させて各回転条件毎に検査を行うのが好適である。いずれかの回転条件において混入異物が検出された場合、当該薬剤ビン40には混入異物が存在すると判定できる。回転条件を変化させるには、正方向及び逆方向の回転時間あるいは回転速度の少なくともいずれかを変えればよい。
【0040】
また、本実施形態において、正方向の加速度と逆方向の加速度は必ずしも同一である必要はなく、異なっていてもよい。例えば、図3において、(t2−t1)>(t3−t2)であってもよく、あるいは、逆方向の最大速度を−v2として|v1|<|v2|としてもよい。
【0041】
また、本実施形態では、薬剤ビン40を正方向と逆方向に交互に回転駆動して混入異物を移動させているが、一方向のみの回転駆動と交互駆動とを組み合わせることも可能である。例えば、まず、薬剤ビン40を一方向のみに回転駆動して混入異物を検出する。そして、混入異物が検出されなかった薬剤ビン40に対して、次に正方向と逆方向に交互に駆動して混入異物を検出する。一方向のみの駆動を一次検査とし、交互駆動を二次検査とするものである。
【符号の説明】
【0042】
40 薬剤ビン、42 カメラ、44 画像処理装置、46 モータ、48 コントローラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤ビン内の混入異物を検査する異物検査装置であって、
薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に回転駆動する駆動手段と、
前記駆動手段で回転駆動した直後における前記薬剤ビン内の混入異物の移動を検出する検出手段と、
を有することを特徴とする異物検査装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記駆動手段は、前記正方向と逆方向の回転時間あるいは回転速度の少なくともいずれかを変化させることで回転条件を変化させて前記薬剤ビンを回転駆動し、
前記検出手段は、前記駆動手段の回転条件毎に前記混入異物の移動を検出する
ことを特徴とする異物検査装置。
【請求項3】
薬剤ビン内の混入異物を検査する異物検査方法であって、
(a)薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に回転駆動するステップと、
(b)前記回転駆動を停止した直後における前記薬剤ビン内の混入異物の移動を検出するステップと、
を有することを特徴とする異物検査方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法において、
前記(a)ステップでは、前記正方向と逆方向の回転時間あるいは回転速度の少なくともいずれかを変化させることで回転条件を変化させ、
前記(b)ステップでは、前記回転条件毎に前記混入異物の移動を検出する
ことを特徴とする異物検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−80936(P2011−80936A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235000(P2009−235000)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(505192567)エーザイマシナリー株式会社 (18)
【Fターム(参考)】