説明

畳表

【課題】最近、アレルギー性の疾患が大きな社会問題となっている。これらの原因は、ダニ類、特に室内塵中に多いチリダニのアレルゲン等である。これを軽減するには、アレルゲンを取り除くか、アレルゲンを変性させるなどして不活性化させる必要がある。そこで、家庭での特別な手間(散布や塗布)が不要で、単に敷くだけでアレルゲンを低減化する畳を提供する。
【解決手段】縦糸に、芳香族ヒドロキシ化合物、アルカリ金属の炭酸塩、明礬、ラウリルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、リン酸塩、硫酸亜鉛、酢酸鉛から選ばれた少なくとも1つのアレルゲン低減化剤を固着した畳表。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畳表に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、アレルギー性の疾患、例えばアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎等が大きな社会問題となっている。これらの原因は、ダニ類、特に室内塵中に多いチリダニのアレルゲンや、スギ花粉アレルゲン等の多くのアレルゲンが生活空間に増加してきたためである。
【0003】
アレルギー疾患の症状軽減あるいは新たな感染を防ぐためには、生活空間から完全にアレルゲンを取り除くか、アレルゲンを変性させるなどして不活性化させる必要がある。
【0004】
このようなアレルゲン低減化剤として出願人は、芳香族ヒドロキシ化合物や明礬等を見出し、特許文献1の通り特許出願もしている。
【特許文献1】特開2003−81727
【0005】
しかし、これだけでは日常生活において、たびたびこのアレルゲン低減化剤を散布しなければならず手間である。
また、日本家屋には畳の間が少なからず存在する。この畳は、畳床(特に藁床は顕著)、畳表、クッションシート等に、ダニが住みつきアレルゲンの元凶のように言われていた。
【0006】
しかし、日本人では、特に高齢者では、まだまだ畳の需要は大きくどの家屋でも1間か2間は畳の間である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、家庭での特別な手間(散布や塗布)が不要で、単に敷くだけでアレルゲンを低減化する畳やござ等に使用できる畳表を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のような現状に鑑み、本発明者は鋭意研究の結果本発明畳表を完成したものであり、その特徴とするところは、縦糸に、芳香族ヒドロキシ化合物、アルカリ金属の炭酸塩、明礬、ラウリルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、リン酸塩、硫酸亜鉛、酢酸鉛から選ばれた少なくとも1つのアレルゲン低減化剤を固着した点にある。
【0009】
本発明畳表は、縦糸に特徴があるものであり、横糸であるイグサはどのようなものでもよい。天然イグサであっても模造イグサであってもよい。模造イグサとは、プラスチックや紙その他で天然イグサに近い形状に成形したものであり、織って畳表にできるものをいう。要するに、織った畳表ならばどのようなイグサを用いてもよいということである。
【0010】
縦糸はどのような材質のものでもよく、綿、麻、ポリプロピレン、ポリエステルその他どのようなものでもよい。
【0011】
次に本発明に使用するアレルゲン低減化剤について説明する。アレルゲン低減化剤としては、芳香族ヒドロキシ化合物、アルカリ金属の炭酸塩、明礬、ラウリルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、リン酸塩、硫酸亜鉛又は酢酸鉛が挙げられる。
【0012】
芳香族ヒドロキシ化合物とは、−OHを有する芳香族化合物である。
本発明では、この芳香族ヒドロキシ化合物の中でも下記一般式1〜6に示されるものを少なくとも1つ有する化合物が好適である。
【化2】


(Rは水素又は水酸基で少なくとも1つは水酸基を示し、nは0〜5を示す)
【0013】
上記一般式1〜6で示される官能基を線状高分子の側鎖に有する化合物において、nの数は0〜5である。5を越えると線状高分子を使用する効果がなくなることがある。また、Rの少なくとも1つは水酸基であり、水酸基がないと、アレルゲン低減化効果を十分発揮できないことがある。水酸基が多すぎると着色性が強くなることがあるため、水酸基は1つが好ましい。また、水酸基の位置は、立体障害が最も少ない個所に結合していることが好ましく、例えば、一般式1ではパラ位にあるのが好ましい。
【0014】
上記線状高分子とは、例えば、合成高分子ではビニル重合体、ポリエステル、ポリアミドなどのことをいう。また、上記一般式1〜6で示される官能基と線状高分子との化学結合については、特に限定されず、炭素−炭素結合、エステル結合、エーテル結合、アミド結合等が挙げられる。上記一般式1〜6で示される官能基を線状高分子の側鎖に有する化合物としては、安全性や入手しやすさから、例えば、ポリ3,4,5−ヒドロキシ安息香酸ビニル、ポリビニルフェノール、ポリチロシン、ポリ(1−ビニル−5−ヒドロキシナフタレン)、ポリ(1−ビニル−6−ヒドロキシナフタレン)、ポリ(1−ビニル−5−ヒドロキシアントラセン)等が好ましい。
【0015】
また、上記芳香族ヒドロキシ化合物としては、上記一般式1〜6に示される少なくとも1つを含む単量体及び/又は一価のフェノール基を有する単量体を重合又は共重合してなるものが好ましい。
【0016】
上記1価のフェノール基を1個以上有する単量体としては、ベンゼン環に1個の水酸基を有する単量体が1個以上結合している化合物であれば特に限定されず、例えば、ビニルフェノール、チロシン、下記一般式7に示される1,2−ジ(4−ヒドロキシフェニル)エテン等があげられる。有効成分が、1価のフェノール基を有すると多価フェノールに比べて変色しにくいという効果がある。
【化3】

【0017】
上記1価のフェノール基を1個以上有する単量体に共重合される他の単量体としては、エチレン、アクリレート、メタクリレート、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタアクリレート、スチレン等が挙げられる。
【0018】
上記単量体を重合又は共重合してなる芳香族ヒドロキシ化合物の分子量としては特に限定されないが、例えば、上記1個のフェノール基を有する単量体等が、最低2個以上、好ましくは5個以上重合したものが好ましい。
【0019】
また、上記芳香族ヒドロキシ化合物としては、芳香族複素環式ヒドロキシ化合物も好適である。このようなものとしては、特に限定はしないが、例えば、2−ヒドロキシフラン、2−ヒドロキシチオフェン、ヒドロキシベンゾフラン、3−ヒドロキシピリジン等が挙げられる。また、線状高分子の側鎖に芳香族複素環式ヒドロキシ基を有する化合物、芳香族複素環式ヒドロキシ基を有する単量体を重合又は共重合してなる化合物等であってもよい。
【0020】
上記芳香族複素環式ヒドロキシ基としては、例えば、下記一般式8、9に示されるチオフェンやフラン等の複素環骨格にヒドロキシ基が結合したものや、下記一般式10に示される複素環とベンゼン環とを持つ骨格にヒドロキシ基が結合したもの、複素環骨格にヒドロキシ基とアルキル基(炭素数5以下)とを有するもの、複素環と芳香族とを持つ骨格にヒドロキシ基とアルキル基(炭素数5以下)とを有するもの等が挙げられる。
【化4】

【0021】
アルカリ金属の炭酸塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム等のアルカリ金属の炭酸塩が挙げられ、好ましくは、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムである。
【0022】
また、明礬としては、硫酸アルミニウムとアルカリ金属やタリウム、アンモニウム等の1価イオンの硫酸塩とからなる複塩が挙げられる。また、アルミニウムをクロム、鉄等に置き換えた複塩も同様に挙げられる。好ましくは、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムナトリウムである。特にアレルゲン低減化能力の高い硫酸アルミニウムカリウムは、主に十ニ水和物(AlK(SO42・12H2O)或いは無水物(AlK(SO42)が用いられるが、水和物が水分子を段階的に失う過程で存在する部分的な水和物であってもよい。明礬の一部は、カリミョウバンとして食品添加物及び化粧品原料にも指定されているため安全性が高い物質である。
【0023】
ラウリルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩及びポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩の塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウムなどの金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミンなどのアミン塩等が挙げられ、特に好ましくはナトリウム塩、トリエタノールアミン塩である。
【0024】
リン酸塩としては、水系溶媒に溶解したときPO4 3-イオンを生成する塩類をさし、例えば実施例に用いたようなリン酸ニ水素ナトリウム(リン酸一ナトリウム)、リン酸水素ニナトリウム(リン酸ニナトリウム)の他に、リン酸ニ水素カリウム等が上げられる。
【0025】
硫酸亜鉛としては、主に水和物(七水和物)あるいは無水物が用いられるが、水和物が水分子を段階的に失う過程で存在する部分的な水和物であってもよい。硫酸亜鉛は古来、白ばんあるいは亜鉛華などとして知られており日本薬局方にも収載されている。また、食品添加物であり、人の成長、健康維持に必須の微量金属元素である亜鉛の供給を目的として、母乳代替食品に添加されているため安全性が高いものである。
【0026】
酢酸鉛とは、水和物(三水和物)、あるいは無水物が用いられるが、水和物が水分子を段階的に失う過程で存在する部分的な水和物であってもよい。上記酢酸鉛は、古来鉛糖として知られており日本薬局方にも収載されている。
【0027】
なお、本発明に用いるアレルゲン低減化剤は、アレルゲン低減化成分の少なくとも1つが有効成分として配合されていればよく、2つ以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0028】
次に上記した縦糸にアレルゲン低減化剤を固着する方法について説明する。
基本的には、固体であるアレルゲン低減化剤を粉体状で縦糸の表面に付着させればよい。このため、溶剤で溶き表面に噴霧するか、縦糸を溶剤に浸漬するかの方法が簡単である。その他、縦糸に固着できる方法であればどのような方法でもよい。
溶媒としては、水、アルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等)、炭化水素類(トルエン、キシレン、メチルナフタレン等)である。
【0029】
上記アレルゲン低減化剤を縦糸に固着させる量について述べる。
まず、シート状のものの表面に付着させる量としては1m2当り0.01〜1
0g(アレルゲン低減化剤のみの重量として)が限定はしないが適当である。この量を基準として縦糸に固着させる量を考えればよい。勿論、縦糸の本数、密度等は畳表の種類によって異なるため、1本の縦糸の単位長さあたりの固着量は一概には言えない。
【0030】
畳表で一般的な縦糸の本数は、140本程度である。よって、1m×1mの畳表には、畳表の幅を90cmとすると、140÷0.9×1=126mの縦糸が存在することとなる。
前記した通り1m2 当り0.01〜10gにするには、1m当たり0.08〜80mgとなる。
【0031】
しかしながら、シート上に塗布または固着するのと、縦糸に付着させるのとではどうしてもその接触機会等に差によって、これより多い方が望ましい。限定はしないが、例えば、1m当たり10〜100mg等である。
【発明の効果】
【0032】
本発明畳表には次のような利点がある。
(1) 優れたアレルゲン低減化剤が畳表の縦糸に固着されているため、畳を敷くだけでアレルゲンを低減化できる。
(2) 特にイグサをプラスチック製にし、畳床もプラスチック製にすればダニ等が住み難いこととの相乗効果により、大きな効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下好適な実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0034】
アレルゲン低減化剤として、次のものを用いた。
実施例1:重量平均分子量が8000のポリ−4−ビニルフェノール(アルドリッチ社製)
実施例2:重量平均分子量が20000のポリ−4−ビニルフェノール(アルドリッチ社製)
実施例3:重量平均分子量が15000〜36000のポリ−L−チロシン(ICNバイオメディカル社製)
実施例4:炭酸ナトリウム(和光純薬品工業社製:試薬特級)
実施例5:明礬(和光純薬品工業社製硫酸アルミニウムカリウム:食品添加物)
実施例6:ラウリル硫酸ナトリウム(和光純薬品工業社製)
実施例7:ラウリル硫酸トリエタノールアミン(花王社製)
実施例8:ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム(和光純薬品工業社製)
実施例9:ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(花王社製)
実施例10:硫酸亜鉛七水和物(和光純薬品工業社製)
実施例11:酢酸鉛(II)ニ水和物(和光純薬品工業社製)
実施例12:リン酸ナトリウムニ水和物(関東化学社製)
実施例13:リン酸ニナトリウム十ニ水和物(和光純薬品工業社製)
【0035】
これらを適当な溶剤に溶解し、綿糸の縦糸をそれに浸漬した。そして乾燥させた後にその固着量を測定したところ、1m当たり100mg程度(アレルゲン低減化剤のみで)付着していた。畳表は通常幅90cmであり、約140本の縦糸が存在しているとすると、0.1g×140÷0.9=12.6g/m2となる。
比較例として、同じ縦糸に何も固着しないものを使用した。
【0036】
まず、これらのアレルゲン低減化剤自体の効果を確かめるため、上記の13種の低減化剤(溶剤に溶解したもの)を厚紙に噴霧(アレルゲン低減化剤自体の量として、1m2当たり0.1g)したものを準備した。また、比較としてアレルゲン低減化剤を噴霧しないものも用意した。
これら13枚の厚紙に、1m2 当たり、50μgのダニ抗原(ダニ抗原量は、シントーファイン社製「マイティーチェッカー」を用いて定量)を含む塵ゴミを散布し、そのまま2時間放置した。掃除機に塵ゴミ捕獲用のフィルター(シントーファイン社製:マイティフェルト、ダストフィルター、ダストサンプラー)をセットし、1分かけて塵ゴミを採取した。採取した塵ゴミを、シントーファイン社製「マイティーチェッカー」のキットに従って、アレルゲン成分を抽出し、アレルゲン量を測定した。
【0037】
この結果は、噴霧した厚紙では、すべてがダニアレルゲンレベルが、1μg/m2 以下であった。また、噴霧しない方は、ダニアレルゲンレベルが、35μg/m2 以上であった。
【0038】
次に上記のように13種のアレルゲン低減化剤を固着した縦糸で織った畳表(一般的な天然イグサを使用)を用いて、通常の畳を製造した。これらの畳に、前記同様、畳1m2 当たり50μgのダニ抗原を含む塵ゴミを散布し、下面よりバイブレーターで振動させ畳内部に塵ゴミをなじませた。
2時間放置後、掃除機に塵ゴミ捕獲用の前記フィルターをセットし、1分かけて塵ゴミを採取した。採取した塵ゴミを、前記「マイティーチェッカー」のキットに従って、アレルゲン成分を抽出し、アレルゲン量を測定した。
この測定結果を表1に示す。
【表1】

【0039】
表1には、実施例と比較例のはっきりとした差が示されている。これは、次のような理由と考えられる。まず、アレルゲンが上記のアレルゲン低原化剤と接触すると無害化されることは上記で分かっている。
また、畳上に散布したダニ抗原は、バイブレーターの振動(人間生活による畳のイグサの移動を想定)によって相当量はイグサの隙間から下方に落下する。また、落下するだけでなく、相当数が再度上方に上がってくる。これは比較例のアレルゲンの多さから明らかである。
【0040】
表1の結果から、本発明畳に落下し畳内部に侵入したダニ抗原は、相当量が縦糸と接触し無害化したものと考えられる。故に、ダニ抗原が再度上方に上がってきたとしても、これらのダニ抗原は無害化されているため、アレルゲン量の上昇を抑えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦糸に、芳香族ヒドロキシ化合物、アルカリ金属の炭酸塩、明礬、ラウリルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、リン酸塩、硫酸亜鉛、酢酸鉛から選ばれた少なくとも1つのアレルゲン低減化剤を固着したことを特徴とする畳表。
【請求項2】
アレルゲン低減化剤が芳香族ヒドロキシ化合物であって、該芳香族ヒドロキシ化合物が、線状高分子の側鎖に下記一般式1〜6に示されるものを少なくとも1つ有する化合物である請求項1記載の畳表。
【化1】


(Rは水素又は水酸基で少なくとも1つは水酸基を示し、nは0〜5を示す)
【請求項3】
アレルゲン低減化剤が芳香族ヒドロキシ化合物であって、該芳香族ヒドロキシ化合物が、上記一般式1〜6に示されるものを少なくとも1つ含む単量体及び/又は1価のフェノール基を有する単量体を重合又は共重合してなるものである請求項1又は2記載の畳表。
【請求項4】
アレルゲン低減化剤が芳香族ヒドロキシ化合物であって、該芳香族ヒドロキシ化合物が、芳香族複素環式ヒドロキシ化合物である請求項1記載の畳表。

【公開番号】特開2007−132147(P2007−132147A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328225(P2005−328225)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(000198802)積水成型工業株式会社 (66)
【Fターム(参考)】