疎水性生物活性剤の固体分散体
本発明は、アモルファス成分(例えば、生物活性剤)および担体ポリマーの安定な組成物は、架橋ポリマーと生物活性剤とを混合することによって形成され、ここで、該架橋ポリマーは、該生物活性剤および該担体ポリマーの両方への水素結合供与体であり、それによって、該生物活性剤および該担体ポリマーが、該架橋ポリマーが存在しない場合よりも結晶化する傾向が低い、組成物が形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、アモルファス成分の安定な組成物を形成する方法に関し、そして、特に、生物活性剤がアモルファス形態で安定化されている生物活性剤の微粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製薬産業は、人間および動物の医学的状態の治療のための生物活性剤(薬物)の開発に、毎年、莫大な量の資金を投資している。しかし、身体に対して要求される薬学的効果を有する薬物の開発は、事の終わりではなく、その薬物はさらに、実際に身体へ送達されて要求される効果を有することができるように、処方されなければならない。
【0003】
これは、例えば、恐らく低水溶性によって制限された、遅い溶解速度を薬物が有する場合に、問題となり得る。制限された溶解についての1つの理由は、強固な結晶格子からの薬物の分子の放出が困難であることであり得る。ある薬物がアモルファス形態(非結晶格子)で貯蔵されることはしばしば有利であり、何故ならば、これは、溶液への薬物分子のより容易な分散を生じさせ、より速い薬物溶解速度を与える傾向にあるためである。
【0004】
この問題に取り組むための1つの技術は、水溶性に乏しい薬物を固体分散体として処方することである。固体分散体(solid dispersion)の用語は、「固体状態での不活性担体マトリクス中の1以上の有効成分の分散体」として記載されている(Chiou and Riegelman, (1971) J. Pharm. Sci. 60, 1281-1302)。
【0005】
溶解性を増加させるために固体分散体を使用するという概念は、新規のものではない。ポリビニルピロリドン(PVP)等のポリマーが、薬物のアモルファス形態を安定化させるために使用されている。薬物がポリマー系中においてアモルファス形態のままでいることができる1つの理由は、薬物分子の制限された運動性である。薬物分子は、再配列し(realign)そして結晶化することを望むが、このプロセスは、ポリマー中における制限された拡散に起因して、かなり遅くなり得る。ポリマーのガラス転移温度はこれに影響を与え、高Tg値は薬物分子移動度のより低い傾向を生じさせると考えられる。しかし、比較的迅速な結晶化が存在する、高Tgを有するポリマー中に分散された薬物の明確な例が存在する;例えば、PVPからのグリセオフルビン結晶化である(Shefter and Cheng, 1980 Int. J. Pharm. 6, 179-182)。
【0006】
薬物がポリマー分散体中で結晶化できない別の理由は、薬物と担体との間に好ましい相互作用が存在するかどうかである。例えば、インドメタシンは、インドメタシンのカルボン酸基とPVPのカルボニル基との間の水素結合を介してPVPと相互作用し、ガラス転移温度のみに基づいて予測されるものを超えるレベルのアモルファス安定性を提供することが示された(Taylor and Zografi, 1997)。
【0007】
GB 1 504 553(Sandoz Ltd)は、グリセオフルビンの溶解速度を上昇させるために、生物活性グリセオフルビンを固体分散体として水溶性担体であるポリエチレングリコール(PEG)へ組み込むことを開示している。該組成物を錠剤化するプロセスは、該生物活性剤の溶解速度を実質的に低下させ、従って、架橋化ポリビニルピロリドンが組み込まれ、グリセオフルビンとPEGとの間の結合力を減少させることによって崩壊剤として機能する。
【0008】
WO 01/034119(Abbott Laboratories)は、水溶性担体(例えば、PEG)中の薬学的化合物の固体分散体、および結晶化阻害剤(例えば、PVPまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC))を含む薬学的組成物を開示している。
【0009】
EP 0 232 155(Elan Corporation plc)は、架橋化ポリマー(例えば、メチルセルロース)上に吸着された生物活性剤および不活性物質(例えば、PEG、PVPまたはメタクリレート)の混合物の吸着質を含む制御放出製剤に関する。
【0010】
JP 55129220 A(山之内製薬株式会社)は、以下のいずれかと混合された生物活性剤(例えば、グリセオフルビン)の製剤を開示している:(a)PVP、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有する組成物、あるいは(b)(i)PVP、尿素、クエン酸またはマンニトールの1以上を含有する組成物と(ii)界面活性剤、PEG、プロピレングリコールまたはグリセリンの1以上との混合物。
【0011】
Broman et at. (2001) Int. J. Pharm. 222, 139-151は、水溶性に極めて乏しい薬物プロブコールおよび水溶性ポリマー、PVP、ポリアクリル酸(PAA)またはポリエチレンオキサイド(PEO)およびこれらのポリマーのブレンドで調製された、多数の固体分散体を開示している。該薬物の物理的状態は、ポリマー賦形剤に依存することが観察された。PVPおよびプロブコールは、そのアモルファス形態でプロブコールを含有し、これは、該薬物と該ポリマーとの水素結合(H結合)相互作用に起因すると仮定された。対照的に、該薬物およびPAAおよびPEOは、それぞれ、その結晶多型II形態でプロブコールを含有した。最後に、ブロブコール/PVP/PAAおよびプロブコール/PVP/PEOの三元混合物(tertiary mixture)が開示されており、ここで、該薬物は、最初はそのアモルファス形態であるが、非常に長い溶解時間を示し、この系について利点はない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1局面によれば、以下の工程を含む、生物活性剤の安定な組成物を形成する方法が提供される:
(i)生物活性剤および担体を提供する工程であって、ここで、それらのみを混合する場合、それらの少なくとも1つは、結晶化する傾向を有する、工程
(ii)架橋成分と該生物活性剤および該担体とを混合する工程であって、ここで、該架橋成分は、該生物活性剤および該担体の両方と水素結合を形成し、それによって、少なくとも該生物活性剤が、該架橋成分が存在しない場合よりも低い結晶化する傾向を有する組成物が形成され、
ここで、該架橋成分は、該生物活性剤および該担体の両方に対して水素結合供与体である、工程。
【0013】
結晶化の開始は、粉末X線回折パターンにおける明確なピークの出現によって測定される。対照的に、アモルファス状態についての粉末X線回折パターンは、明確なピークのない「ハロー」効果を示す。「結晶化する傾向」は、生物活性剤および担体が、数日後に結晶化の開始を示すことを意味する。最悪の例は、結晶化し、数週間のうちに使用不能となる。対照的に、本発明の組成物は、数ヶ月間安定であり、そして乾燥条件下および周囲温度で保たれる場合、数年間(好ましくは、少なくとも2年間)安定であり得、それによってそれらは実行可能な貯蔵寿命が与えられる。
【0014】
担体および架橋成分は、両方とも、好ましくはポリマーであり、そして最も好ましくは、架橋されないポリマーである。担体ポリマーは、好ましくは、ポリエチレングリコールではない。
【0015】
好ましい実施形態において、架橋ポリマー無しでこれらの2成分が混合される場合、生物活性剤は結晶化する傾向を有するが、担体は結晶化する傾向を有さない。代替の実施形態において、架橋ポリマーは、生物活性剤および担体ポリマーの両方を結晶化する傾向を減少させる。
【0016】
生物活性剤と担体ポリマーまたは架橋ポリマーとの「相互作用」は、該生物活性剤が種化する(seeding)のを防止するあらゆる相互作用を意味する。これは、種化(またはクラスター化(clustering))が、生物活性剤の結晶化する傾向を増加させるためである。このような相互作用としては、ファンデルワールス結合、静電相互作用、疎水性相互作用および(好ましくは)水素結合が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
好ましい実施形態において、架橋ポリマーは、生物活性剤および担体ポリマーの両方への水素結合供与体である。しかし、代替の製剤は、水素結合供与薬物および水素結合供与担体ポリマーに対して水素結合受容体である架橋ポリマーを含み、これは、そうでなければ、相互作用せず、そして従って、薬物がそのアモルファス形態のままで存在する安定な組成物を形成しない。
【0018】
グリセオフルビン(周知の抗真菌剤)は、PVP中に分散されると結晶化することが示されている水溶性に乏しい薬物である(Shefter and Cheng, 1980 Int. J. Pharm. 6, 179-182)。本発明によれば、グリセオフルビン(生物活性剤)、PVP(担体ポリマー)およびポリヒドロキシプロピルメタクリレート(架橋ポリマー)から、より安定な組成物が調製され得る。ポリヒドロキシプロピルメタクリレートは、該薬物およびPVPの両方へ水素結合を供与し、それによって、それらの間の架橋として機能し、そして該薬物をそのアモルファス形態で安定化させる。
【0019】
水素結合は、分子間で生じる非共有性相互作用である。非共有性相互作用なので、それは、水素へ共有結合されている相対的に電気陰性であるヘテロ原子(例えば、酸素および窒素)の相互作用から生じる、比較的に強い相互作用である。水素とそのヘテロ原子との間の結合は、へテロ原子の電気陰性度によって部分的に分極され、水素原子上に部分的に正の電荷を生じさせる。分子は、水素結合供与分子または水素結合受容分子として特徴付けられ得る。ある分子は、両方の特徴を有し、最も有名なのは水である。
【0020】
水素原子が結合されている電気陰性ヘテロ原子(および、拡大解釈すると、そのヘテロ原子を有する分子)は、「水素結合供与体」として公知であり、何故ならば、それは、分極された水素原子へ結合されるためである。水素へ結合されていない電気陰性原子(例えば、酸素または窒素)(および、拡大解釈すると、そのヘテロ原子を有する分子)は、水素結合供与体と相互作用し得、そして従って、「水素結合受容体」として公知である。水の場合、酸素原子は、その孤立電子対の電子を介して水素結合を「受容」し、かつ、水素へのその共有結合を介して水素結合を「供与」する。
【0021】
場合によっては、どのヘテロ原子がどれであるかを言うことが困難であるかもしれない(例えば、水素原子が、主に共有性でありかつ共有されている場合)。従って、2つのヘテロ原子が分離されており、かつ、水素核が該ヘテロ原子の一方によって保持されていると仮定することが、慣例である。この保持がヘテロ原子の正電荷を増加させない場合、そのヘテロ原子は供与体である。しかし、ヘテロ原子が水素を保持することによってより正電荷となる場合、それは受容体である。この慣例は、本明細書中において採用される。
【0022】
明確なことに、ある特定のポリマーは、ある分子に対しては水素結合供与体であり得、そして別のものについては受容体であり得、何故ならば、ポジションは、相対的な電気陰性度によって決定されるためである(実際には、ある大きな分子、例えば蛋白質は、分子立体配置に対して顕著な効果を有し得る、分子内水素結合を形成し得る)。従って、省略表現「H結合供与体」または「H結合受容体」がポリマーに関して本明細書中で使用される場合、それは、ポリマーが一緒に水素結合を形成する分子に対して供与体/受容体を意味すると理解されるべきである。
【0023】
理論に拘束されることを望まないが、参考文献Bromanに開示されているPVP/プロブコール/PAAの三元混合物(tertiary mixture)において、プロブコールとPVPとの間(フロブコールがH結合供与体として機能する)、PVPとPAAとの間(PAAが、H結合供与体として機能する)、そしてプロブコールとPAAとの間(フロブコールが、H結合供与体として機能する)に、水素結合相互作用が存在すると本出願人は考える。参考文献Bromanには、それら自体は相互作用しない担体ポリマーと生物活性剤との架橋としてポリマーを使用するという示唆は存在しない。
【0024】
実際には、本発明の組成物の成分は、それらを溶媒中に溶解させ、次いで、該成分が十分に混合された後に該溶媒を蒸発させることによって、あるいは、機械的活性化(mechanical activation)(即ち、材料の力強いミリング)によって、結合される。溶媒を使用する場合、溶媒は、単一の溶媒(例えば、アセトン)であっても、あるいは2以上の溶媒の組合せ(例えば、アセトンおよび水)であってもよい。
【0025】
また、溶媒を使用する場合、固体分散体が、迅速に溶媒を蒸発させるプロセスによって(例えば、噴霧乾燥によって)製造されることが、非常に好ましい。任意の好適な蒸発技術が使用され得、ここで、乾燥される材料の表面積は、蒸発前に、実質的に増加される。噴霧乾燥の場合、その表面積を増加させるために、材料はエアロゾル化される。液滴がエアロゾルノズルを離れる際に、それらは加熱され、そして溶媒が極めて迅速にそれらから蒸発する。
【0026】
好ましい実施形態において、担体ポリマーおよび架橋ポリマーは、実質的に混和性である。混和性は熱分析によって測定され得る。
【0027】
本出願人はまた、驚くべきことに、組成物の成分が混合される順序が、得られる組成物の安定性に影響を与えることを見出した。しかし、安定性についての好ましい混合順序は、最も速い溶解を与えるものと同じでは必ずしもないかもしれない。従って、好ましい実施形態において、組成物は、先ず担体および架橋成分を混合し、次いで生物活性剤を混合することによって調製される。架橋ポリマーが存在しない状況と比較して、より安定なアモルファス組成物は、成分が混合される順序に関係なく調製され得ること、しかし、より高い安定性は、ある特定の組成物について順序を調整することによって達成され得ることが、強調されるべきである。
【0028】
好ましい実施形態において、最終組成物(即ち、生物活性剤)の割合は、40〜60%w/wである。組成物の残りは、好ましくは、担体ポリマーおよび架橋ポリマーであり(しかし、いくらか残存する溶媒が存在し得る)、そしてこれらは、好ましくは0.05:1〜3:1、より好ましくは0.5:1〜3:1、そして最も好ましくは0.5:1〜1.5:1である。
【0029】
本発明の第2局面によれば、以下の工程を含む、アモルファス成分の安定な組成物を形成する方法が提供される:
(i)生物活性剤および担体ポリマーを提供する工程であって、ここで、それらのみを混合する場合、それらの間には僅かな相互作用が存在し、その結果、それらの少なくとも1つは、結晶化する傾向を有する、工程
(ii)架橋ポリマーと該生物活性剤および該担体ポリマーとを混合する工程であって、ここで、該架橋ポリマーは、該生物活性剤および該担体ポリマーの両方と相互作用し、それによって、該生物活性剤および該担体ポリマーが、該架橋ポリマーが存在しない場合よりも低い結晶化する傾向を有する組成物が形成される、工程。好ましくは、該架橋ポリマーは、該生物活性剤および該担体ポリマーの両方に対して水素結合供与体である。
【0030】
本発明の第3の局面において、上述の方法によって得られ得る組成物が提供される。
【0031】
理論によって拘束されることを望まないが、本発明は下記の先行技術とは異なっていると考えられる:
Sandoz Ltd.(GB 1504553 A)
この参考文献は、グリセオフルビンの溶解速度を上昇させるために、生物活性グリセオフルビンが、水溶性担体であるポリエチレングリコール(PEG)へ固体分散体として混合されている特定の状況に関する。錠剤化のプロセスは、薬物の溶解速度を実質的に低下させるので、架橋化ポリビニルピロリドン(PVP)が組み込まれ、該薬物とPEGとの間の結合力を低下させることによって崩壊剤として機能する。対照的に、本発明は、より一般的な処方問題、固体分散体を存在させるというものに関する。生物活性剤と担体ポリマーとの間の分子間相互作用を減少させようとする代わりに、本発明は、生物活性剤のアモルファス形態の安定性を増加させるためにこれらの相互作用を増加させるようとする点で、参考文献Sandozにおいて想定されるものとは状況が反対である。生物活性剤および担体分子の両方と水素結合を介して同時に相互作用する架橋ポリマーを組み込むことによって、これを行う。この手段によって、担体は、再配列を受けて結晶格子を形成する生物活性剤の分子の傾向を減少させることができる。
【0032】
Abbott Laboratories(WO 01/34119 A)
これは、水溶性担体(例えば、PEG)および結晶化阻害剤(例えば、ポリビニルピロリドン)中の生物活性剤の固体分散体製剤に関する。本発明は、それがPVP単独では結晶化阻害剤として有効に機能することができない状況に取り組もうとする点で、相違している。上記で議論するように、本発明は架橋ポリマーを提供し、PVPを生物活性剤と間接的に相互作用させ、従ってその結晶化する傾向を減少させることによって、これを行う。
【0033】
さらに、この場合、担体(PEG)は、保存時に結晶化する傾向にあり、それは、PEGベースの分散体に伴う問題の1つである。従って、PVPは、PEG担体の結晶化を制限するために、ここで、最も恐らく添加されている。本発明の方法は、PVP(例えば)が薬物物質の結晶化を阻害しない(制限されたH結合に起因する)場合において用いられ、そして第2のポリマーがPVPを薬物へ結合するために添加される。この参考文献は、そうゆう意味で役に立たない;実際に、PEGおよびPVPは、それらのH結合の点で類似しており、そして従って、本発明によって要求される様式で互いを補完しない。
【0034】
Elan Corp.(ΕP 0232155 A2)
これは、架橋化ポリマーを含むマトリクス中へ溶媒蒸発により生物活性剤と「不活性物質」とが組み込まれている、制御放出製剤に関する。「不活性物質」は、製剤が水中に最終的に分散される際に生物活性剤の溶解速度を制御する(その溶解性に起因する)その能力のために選択される。例えば、水溶性「不活性物質」は、マトリクスからの生物活性剤の溶解速度を上昇させ、一方、水不溶性「不活性物質」は、それを低下させ、遅延放出を生じさせる。対照的に、本発明は、製剤が水中に最終的に分散される際に、生物活性剤の溶解速度を制御しようとしない。代わりに、それは、製剤段階の間、生物活性剤とポリマーマトリクスとの相互作用を増加させることを目的とし、その結果、生物活性剤は、保存の間、結晶化しない。それをアモルファス状態で維持することによって、それは、最終的に水中に分散される際に、より迅速な溶解を受ける。
【0035】
参考文献Elanは、特に架橋化ポリマーの使用に言及し、一方、本発明の方法において、架橋化ポリマーは使用されていないことに注意のこと。
【0036】
山之内製薬株式会社(JP55129220 A)
これは、医薬成分の作用速度およびバイオアベイラビリティーを増加させるための、溶解性に乏しい医薬成分と、ベース成分(例えば、PVP)と、場合によっては追加の成分(例えば、PEG)との製剤に関する。しかし、生物活性剤とベース成分との相互作用を増加させるために、前記追加の成分を組み込むという示唆は、要約書に存在しない。実際に、列挙されるグリコールは、PVP担体と同一の水素結合ポテンシャルを有し、そして従って、PVP単独よりも十分に安定化させるものではない。
【0037】
E. Broman et al Int. J. Pharmaceutics, 222. 139-51. (2001)
この刊行物は、水溶性に乏しい薬物、プロブコールと、種々の水溶性ポリマー、即ち、PVP、PAAおよびPEOとの固体分散体の調製を記載している。該ポリマーは、個々に、または2つの混合物(一方は、PVPであった)として使用された。該薬物は、PVP製剤中においてアモルファスであり、そしてPAAおよびPEOの両方において結晶性であることが判った。PVPでの状態はGB0502790.9におけるそれとは対照的であり、ここで、生物活性剤は、PVP中で大部分が結晶性であり、そしてそれをアモルファスとするために架橋分子を必要とする。
【0038】
その他の2つのポリマーの1つと共にPVP中で処方された場合、プロブコールは、一般的にアモルファスであった。しかし、これは、溶解の間の該薬物の放出挙動に対する効果(これは、この処方アプローチの成功の主な指標である)をほとんど有さなかったことが見出された。従って、単一のポリマーを使用するのと比べて、利点は見られなかった。これは本発明とは対照的であり、本発明においては、架橋分子を組み込むことにより、単一ポリマーマトリクス内での結晶化の問題が緩和される。
【0039】
ここで、添付の図面を参照しながら、本発明の多数の好ましい実施形態を記載する。
【0040】
実施例
方法論
窒素発生器へ接続されたNiro SD噴霧乾燥機を使用して、全ての分散体を噴霧乾燥した。
【0041】
アセトンおよび水の共溶媒系中において、グリセオフルビン、メジャーな賦形剤(major excipient)(PVP)およびマイナーな賦形剤(minor excipient)を溶解することによって、分散体のための溶液を調製した。均一性を確実にするために、該分散体を8時間混合し、その後、65℃の注入口温度および45℃の出口温度で、窒素条件下において、Niro SDシステムを使用することによって、該分散体を噴霧乾燥した。供給速度は最大値の約15%であり、そして窒素流量は、乾燥速度および噴霧速度について、それぞれ、20kg/hrおよび2kg/hrであった。
【0042】
次いで、サンプルを24時間一定真空下で保存し、溶媒を除去し、その後、必要とされる条件へ移した。
【0043】
Philips PW37010 X線粉末回折計(Philips,ケンブリッジ、UK)を使用して、結晶化についてサンプルを分析し、図1aおよび図1bにサンプルXRPDスキャンを示す。
【0044】
分析のためのサンプルを調製するために、約200mgのサンプルを、直径約260mmおよび深さ約1mmを有するサンプルホルダー中の円形ウェルへ配置した。
【0045】
これを圧縮して平面を作製し、その後、XRPDへ配置した。次いで、サンプルを、30mAおよび45kVのX線ランプ電圧(lamp tension)を使用してスキャンした。0.02°2θをカバーするステップおよび1ステップ当たり2秒の時間で、15.5°2θ〜29.5°2θの間、連続スキャンを行った。PANalytical X’Pert HighScore v2.0aを使用して、コンピュータ解析を行った。ローリングアベレージシステム(rolling average system)(sonneveldおよびVisser,1975)を使用して、バックグラウンド分析を行った。これに続いて、0.7の最小有意(minimum significance)、0.1°2θの最小チップ幅(tip width)、および1°2θの最大チップ幅を有するピークの位置を見つけた。次いで、ローレンツ分布を想定して、ピーク高さを積分した。
【0046】
純結晶グリセオフルビンまたはフラバノンを同一の方法論へ供し、標準XRPDスキャンを作成した。多数のピークをこれらの標準の各々から選択し、100%結晶値(X線カウント/°2θとして表す)を作成し、次いで、これらを分散体の該ピーク下の領域と比較し、パーセンテージ結晶化度値を作成した。
【0047】
実施例1 − 安定性に対する種々のマイナーな賦形剤の効果
この実施例において、グリセオフルビンを、溶解させる1番目の成分とした。詳細は、6gまたは4gのいずれかのグリセオフルビンを、500ml三角フラスコ中の撹拌されているアセトン240ml中に溶解した。
【0048】
これへ100mlの蒸留水を添加した。次いで、混合物を最低1時間撹拌し、その後、次の成分であるPVPを、下記表1に記載の量で添加した。
【0049】
次いで、下記に(表1)列挙される第2成分を、撹拌アセトン/水溶液中に溶解した。PAAを含有する分散体は、PAAおよびPVPを溶解するために追加の水を必要とし、そして総計で約250mlの水を使用して、全ての成分を含有する溶液を作製した。
【0050】
【表1】
図2〜5は、グリセオフルビン分散体の安定性に対する種々の第2成分の効果を示す:上記でより詳細に説明したように、正確に秤量したグリセオフルビンを、500ml三角フラスコ内に含まれた撹拌されているアセトン240ml中へ注いだ。次いで、100mlの蒸留水を添加し、その後、第2のポリマー次いでPVPを添加した。PAAを含有する分散体は、PAAおよびPVPを溶解するために追加の水を必要とし、そして総計で約250mlの水を使用して、全成分を含有する溶液を作製した。
【0051】
図2は、室温、0%相対湿度(RH)で13週間の保存後の、種々の分散体のアモルファス安定性を示し、PHPMAの添加は、アモルファス安定性を明らかに改善した。図3は、50℃、0%RHでの保存後の同一の時点を示し、そしてまた、PHPMAの添加は、グリセオフルビンのアモルファス安定性を改善する(Gris4sucについてのデータは、最も恐らくはスクロース結晶化に起因する、100%を超える結晶化度を示唆する)。40℃、0%RHで、PAAおよびPHPMAの分散体は両方とも、グリセオフルビン−PVP分散体よりも改善されたアモルファス安定性を示した(図4)。
【0052】
図5は、室温、0%RHでの安定性を示し、そしてこれらの条件下で、PHPMAのみがアモルファス安定性を改善すると示された。
【0053】
実施例2 − 噴霧乾燥化グリセオフルビン安定性に対する添加順序の効果
グリセオフルビン−PVP分散体を、実施例1に記載されるように調製した。これに続いて、下記のようにグリセオフルビン−PVP−PHPMA分散体を調製した:
グリセオフルビン−PVP−PHPMA
6gのグリセオフルビンを240mlのアセトン中に溶解した。これが溶解したら、100mlの蒸留水を添加し、そして次いで、3gのPVPをこの共溶媒中に溶解した。最後に、1gのPHPMAを該溶液へ添加した。得られた溶液を、上述の通りに噴霧乾燥した。
【0054】
PHPMA−PVP−グリセオフルビン
1gのPHPMAを100mlの蒸留水中に溶解した。溶解したら、次いで3gのPVPを添加し、溶解させた。6gのグリセオフルビンを、別の三角フラスコ中のアセトン240ml中に溶解し、そして次いで、これを前記PVPおよびPHPMA溶液へ添加した。
【0055】
グリセオフルビン−PHPMA−PVP
6gのグリセオフルビンを240mlのアセトン中に溶解し、次いで100mlの蒸留水を添加した。これに続いて、1gのPHPMAおよび次いで3gのPVPを連続的に添加し、そして溶解させた。
【0056】
前記サンプルを24時間真空オーブン中に配置し、その後、デシケーターへ移し、そして50℃、0%RHで保存した。
【0057】
この実験から得られた結果を図6に示す。全ての状況において、PHPMAの添加は、アモルファス安定性を改善した。グリセオフルビン−PHPMA−PVP系は、噴霧乾燥直後に、結晶化の兆候を示す。これは、恐らく、噴霧乾燥前の非理想的な混合に起因する。結晶化は、一般的に、2つの主要なセクション、結晶核形成および結晶成長へ分けられ、読み取り値の残りからt=0で存在する微結晶のレベルを引くと、有効な結晶化速度が観察され得、従って、第2のラインが分散体の値について引かれると思われた。これを行って、結晶化の速度は、グリセオフルビン−PHPMA−PVP系およびPHPMA−グリセオフルビン−PVP分散体の両方について類似すると判った。
【0058】
グリセオフルビン−PVP−PHPMA系は、最も改善されたアモルファス安定性を示した。これは、2つの主要な効果に起因しそうである:第1に、グリセオフルビン−PVP−PHPMA分散体は、最も理想的に混合された組成を有すること、および第2に、PHPMAは、この分散体中において最も強い架橋効果を有していること。
【0059】
実施例3 − 実施例2において使用されるのとは異なる割合のグリセオフルビン、PVPおよびPHPMAを使用しての、混合順序の効果
3:1:1のグリセオフルビン:PVP:PHPMA比以外は実施例2における通りに、サンプルを調製した。安定性を図7に示し、ここで、84%RHで12週間後に、Gris+PHPMA次いでPVPの混合物が最も安定性が低く、次にGris+PVP次いでPHPMAが安定性が低く、そしてPVP+PHPMA次いでGrisが最も安定であったことが理解され得る。実施例2においては、Gris次いでPHPMA次いでPVPが最も安定性が低かったが、この場合、最も安定なのは、先ずこれら2つのポリマーを混合し、次いでGrisを添加した場合であった。
【0060】
実施例4 − フラバノンの結晶化に対する、マイナーな賦形剤であるPHPMAの効果
薬物およびポリマーの量を下記に示すように変化させて、実施例1におけるグリセオフルビンサンプルと同一の方法を使用して、フラバノンの分散体を調製した。22.5°2θでのフラバノンピークを使用することによって、XRPD解析を行った。
【0061】
【表2】
図8は、真空下室温で保存されたサンプルのXRPD解析から得られた結果を示す。フラバノンは、PVPで分散された場合、ほぼ完全に結晶性であるようであるが、PHPMAおよびPVPのみの組合せで分散された場合、部分的だけの結晶性がXRPDによって検出されることを、結果は示している。
【0062】
実施例5 − グリセオフルビンの結晶化に対する、マイナー賦形剤であるPHPMAの濃度変化の効果
6gのグリセオフルビンを、マグネチックスターラーを使用して、三角フラスコ中の240mlのアセトン中に溶解させた。200mlの水を該フラスコへ添加した。2gのPHPMAを添加し、そしてPHPMAが溶解するまで該溶液を放置した。最後に、2gのPVPを添加し、そして溶解させた。次いで、この溶液を噴霧乾燥し、そして噴霧乾燥プロセスは後述する。
【0063】
6gのグリセオフルビン、1gのPHPMAおよび3gのPVPを含む分散体を、同一の方法を使用して調製し、そして最後に、6gのグリセオフルビンおよび4gのPVPを含む分散体を調製した。グリセオフルビン単独の固体分散体を調製するために、グリセオフルビンを、アセトンのみに溶解し、次いで、前述するように噴霧乾燥した。真空下、室温で、保存した。
【0064】
図9に示す結果は、グリセオフルビンの結晶化レベルはまた、PHPMAの添加によって低下されること、および、他の成分に対するPHPMAの割合を増加させることによって、アモルファス安定性のレベルをなおさらに増加され得ることを示している。
【0065】
実施例6 − 組成物安定性に対する成分割合の効果
以下の比を有するサンプルを、実施例5におけるように調製した:
Gris:PHPMA:PVP
a)2.5:0.25:2.25
b)2.5:0.5 :2.0
c)2.5:0.75:1.75
d)2.5:1.0 :1.5
e)2.5:1.25:1.25
f)2.5:1.5 :1。
【0066】
84%RHで12週間保存後、サンプル(a)中においては結晶性であり、(b)中においてはいくぶん結晶性であり、しかし他のサンプル中においてはアモルファス材料であったことが、図10におけるX線回折データから理解され得る。これは、好ましい割合が、0.75:1.75(即ち、1:2.33または0.42:1)の架橋と担体との比について、そして架橋ポリマーのより高い割合(即ち、0.5:1〜1.5:1)についてであることを示している。
【0067】
実施例7−溶解データ
Gris:PVP 1:1、Gris:PHPMA:PVP 2.5:1.25:1.25を含有する分散体を、上述のように調製し、そしてポリマー無しで噴霧乾燥されたGrisおよび結晶性Grisと比較した。少量のサンプルを硬ゼラチンカプセル中に入れ、続いて、USPパドル法(USP paddle method)を使用して、37℃でpH6.8緩衝液中に溶解させることによって(分散が必要とされた場合、界面活性剤を添加した)、溶解データを作成した。シンク条件(sink conditions)を維持するために、非常に少ない質量の材料を使用した;従って、秤量誤差(weighing errors)は、100%放出値(release values)に影響を与えた。
【0068】
結果を図11に示す。PHPMAを含有する分散体(図11中のa)についてのデータはより遅い撹拌速度で実行されたが、この製剤は、依然として、最速の溶解応答を示した。前記噴霧乾燥化材料および結晶性材料は両方とも溶解が遅く、そしてPVPおよびGrisの分散体は、添加PHPMAを含むサンプルよりも溶解が遅かった。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1a】図1aは、本発明に従う組成物のXRPDスキャンである。
【図1b】図1bは、純結晶性グリセオフルビンのXRPDスキャン、本発明における結晶性材料のレベルを算出するために使用されるセットの一部である。
【図2】図2〜5は、種々の保存条件下での13週間の保存後の、本発明に従う種々の組成物中に存在する結晶性材料のレベルを示すグラフである。
【図3】図2〜5は、種々の保存条件下での13週間の保存後の、本発明に従う種々の組成物中に存在する結晶性材料のレベルを示すグラフである。
【図4】図2〜5は、種々の保存条件下での13週間の保存後の、本発明に従う種々の組成物中に存在する結晶性材料のレベルを示すグラフである。
【図5】図2〜5は、種々の保存条件下での13週間の保存後の、本発明に従う種々の組成物中に存在する結晶性材料のレベルを示すグラフである。
【図6】図6は、経時的な多数の異なる組成物の結晶性レベルを示し、組成物間の差異は、成分が添加される順序である。
【図7】図7は、調製日から12週間後の、84%RH、室温で保存された、(a)グリセオフルビン:PHPMA:PVP(3:1:1)固体分散体、(b)グリセオフルビン:PVP:PHPMA(3:1:1)固体分散体、および(c)PVP:PHPMA:グリセオフルビン(1:1:3)固体分散体の、固体分散体のx線粉末回折パターンを示し;上部トレースは結晶性のサインを示し、一方、下部は示さない。
【図8】図8は、経時的な多数の異なる組成物の結晶性レベルを示し、組成物間の差異は、PHPMAの存在または非存在である。
【図9】図9は、経時的な多数の異なる組成物の結晶性レベルを示し、組成物間の差異は、PVPとPHPMAとの比である。
【図10】図10は、調製日から12週間後の、84%RH、室温で保存された、(a)グリセオフルビン:PHPMA:PVP(2.5:0.25:2.25)、(b)グリセオフルビン:PHPMA:PVP(2.5:0.5:2)、(c)グリセオフルビン:PHPMA:PVP(2.5:0.75:1.75)、(d)グリセオフルビン:PHPMA:PVP(2.5:1:1.5)、(e)グリセオフルビン:PHPMA:PVP(2.5:1.25:1.25)、および(f)グリセオフルビン:PHPMA:PVP(2.5:1.5:1)の、固体分散体のx線粉末回折パターンを示す。
【図11】図11は、(a)75rpmでの、リン酸緩衝液(pH6.5)および該媒体へ添加された0.2%SDS中におけるグリセオフルビン:PHPMA:PVP(2.5:1.25:1.25)固体分散体、(b)100rpm、37℃での、リン酸緩衝液(pH6.8)中における噴霧乾燥化グリセオフルビン、(c)100rpm、37℃での、リン酸緩衝液(pH6.8)中における結晶性グリセオフルビン、ならびに(d)100rpm、37℃での、リン酸緩衝液(pH6.8)中におけるグリセオフルビン:PVP(2.5:2.5)固体分散体の、溶解プロフィールを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、アモルファス成分の安定な組成物を形成する方法に関し、そして、特に、生物活性剤がアモルファス形態で安定化されている生物活性剤の微粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製薬産業は、人間および動物の医学的状態の治療のための生物活性剤(薬物)の開発に、毎年、莫大な量の資金を投資している。しかし、身体に対して要求される薬学的効果を有する薬物の開発は、事の終わりではなく、その薬物はさらに、実際に身体へ送達されて要求される効果を有することができるように、処方されなければならない。
【0003】
これは、例えば、恐らく低水溶性によって制限された、遅い溶解速度を薬物が有する場合に、問題となり得る。制限された溶解についての1つの理由は、強固な結晶格子からの薬物の分子の放出が困難であることであり得る。ある薬物がアモルファス形態(非結晶格子)で貯蔵されることはしばしば有利であり、何故ならば、これは、溶液への薬物分子のより容易な分散を生じさせ、より速い薬物溶解速度を与える傾向にあるためである。
【0004】
この問題に取り組むための1つの技術は、水溶性に乏しい薬物を固体分散体として処方することである。固体分散体(solid dispersion)の用語は、「固体状態での不活性担体マトリクス中の1以上の有効成分の分散体」として記載されている(Chiou and Riegelman, (1971) J. Pharm. Sci. 60, 1281-1302)。
【0005】
溶解性を増加させるために固体分散体を使用するという概念は、新規のものではない。ポリビニルピロリドン(PVP)等のポリマーが、薬物のアモルファス形態を安定化させるために使用されている。薬物がポリマー系中においてアモルファス形態のままでいることができる1つの理由は、薬物分子の制限された運動性である。薬物分子は、再配列し(realign)そして結晶化することを望むが、このプロセスは、ポリマー中における制限された拡散に起因して、かなり遅くなり得る。ポリマーのガラス転移温度はこれに影響を与え、高Tg値は薬物分子移動度のより低い傾向を生じさせると考えられる。しかし、比較的迅速な結晶化が存在する、高Tgを有するポリマー中に分散された薬物の明確な例が存在する;例えば、PVPからのグリセオフルビン結晶化である(Shefter and Cheng, 1980 Int. J. Pharm. 6, 179-182)。
【0006】
薬物がポリマー分散体中で結晶化できない別の理由は、薬物と担体との間に好ましい相互作用が存在するかどうかである。例えば、インドメタシンは、インドメタシンのカルボン酸基とPVPのカルボニル基との間の水素結合を介してPVPと相互作用し、ガラス転移温度のみに基づいて予測されるものを超えるレベルのアモルファス安定性を提供することが示された(Taylor and Zografi, 1997)。
【0007】
GB 1 504 553(Sandoz Ltd)は、グリセオフルビンの溶解速度を上昇させるために、生物活性グリセオフルビンを固体分散体として水溶性担体であるポリエチレングリコール(PEG)へ組み込むことを開示している。該組成物を錠剤化するプロセスは、該生物活性剤の溶解速度を実質的に低下させ、従って、架橋化ポリビニルピロリドンが組み込まれ、グリセオフルビンとPEGとの間の結合力を減少させることによって崩壊剤として機能する。
【0008】
WO 01/034119(Abbott Laboratories)は、水溶性担体(例えば、PEG)中の薬学的化合物の固体分散体、および結晶化阻害剤(例えば、PVPまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC))を含む薬学的組成物を開示している。
【0009】
EP 0 232 155(Elan Corporation plc)は、架橋化ポリマー(例えば、メチルセルロース)上に吸着された生物活性剤および不活性物質(例えば、PEG、PVPまたはメタクリレート)の混合物の吸着質を含む制御放出製剤に関する。
【0010】
JP 55129220 A(山之内製薬株式会社)は、以下のいずれかと混合された生物活性剤(例えば、グリセオフルビン)の製剤を開示している:(a)PVP、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有する組成物、あるいは(b)(i)PVP、尿素、クエン酸またはマンニトールの1以上を含有する組成物と(ii)界面活性剤、PEG、プロピレングリコールまたはグリセリンの1以上との混合物。
【0011】
Broman et at. (2001) Int. J. Pharm. 222, 139-151は、水溶性に極めて乏しい薬物プロブコールおよび水溶性ポリマー、PVP、ポリアクリル酸(PAA)またはポリエチレンオキサイド(PEO)およびこれらのポリマーのブレンドで調製された、多数の固体分散体を開示している。該薬物の物理的状態は、ポリマー賦形剤に依存することが観察された。PVPおよびプロブコールは、そのアモルファス形態でプロブコールを含有し、これは、該薬物と該ポリマーとの水素結合(H結合)相互作用に起因すると仮定された。対照的に、該薬物およびPAAおよびPEOは、それぞれ、その結晶多型II形態でプロブコールを含有した。最後に、ブロブコール/PVP/PAAおよびプロブコール/PVP/PEOの三元混合物(tertiary mixture)が開示されており、ここで、該薬物は、最初はそのアモルファス形態であるが、非常に長い溶解時間を示し、この系について利点はない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1局面によれば、以下の工程を含む、生物活性剤の安定な組成物を形成する方法が提供される:
(i)生物活性剤および担体を提供する工程であって、ここで、それらのみを混合する場合、それらの少なくとも1つは、結晶化する傾向を有する、工程
(ii)架橋成分と該生物活性剤および該担体とを混合する工程であって、ここで、該架橋成分は、該生物活性剤および該担体の両方と水素結合を形成し、それによって、少なくとも該生物活性剤が、該架橋成分が存在しない場合よりも低い結晶化する傾向を有する組成物が形成され、
ここで、該架橋成分は、該生物活性剤および該担体の両方に対して水素結合供与体である、工程。
【0013】
結晶化の開始は、粉末X線回折パターンにおける明確なピークの出現によって測定される。対照的に、アモルファス状態についての粉末X線回折パターンは、明確なピークのない「ハロー」効果を示す。「結晶化する傾向」は、生物活性剤および担体が、数日後に結晶化の開始を示すことを意味する。最悪の例は、結晶化し、数週間のうちに使用不能となる。対照的に、本発明の組成物は、数ヶ月間安定であり、そして乾燥条件下および周囲温度で保たれる場合、数年間(好ましくは、少なくとも2年間)安定であり得、それによってそれらは実行可能な貯蔵寿命が与えられる。
【0014】
担体および架橋成分は、両方とも、好ましくはポリマーであり、そして最も好ましくは、架橋されないポリマーである。担体ポリマーは、好ましくは、ポリエチレングリコールではない。
【0015】
好ましい実施形態において、架橋ポリマー無しでこれらの2成分が混合される場合、生物活性剤は結晶化する傾向を有するが、担体は結晶化する傾向を有さない。代替の実施形態において、架橋ポリマーは、生物活性剤および担体ポリマーの両方を結晶化する傾向を減少させる。
【0016】
生物活性剤と担体ポリマーまたは架橋ポリマーとの「相互作用」は、該生物活性剤が種化する(seeding)のを防止するあらゆる相互作用を意味する。これは、種化(またはクラスター化(clustering))が、生物活性剤の結晶化する傾向を増加させるためである。このような相互作用としては、ファンデルワールス結合、静電相互作用、疎水性相互作用および(好ましくは)水素結合が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
好ましい実施形態において、架橋ポリマーは、生物活性剤および担体ポリマーの両方への水素結合供与体である。しかし、代替の製剤は、水素結合供与薬物および水素結合供与担体ポリマーに対して水素結合受容体である架橋ポリマーを含み、これは、そうでなければ、相互作用せず、そして従って、薬物がそのアモルファス形態のままで存在する安定な組成物を形成しない。
【0018】
グリセオフルビン(周知の抗真菌剤)は、PVP中に分散されると結晶化することが示されている水溶性に乏しい薬物である(Shefter and Cheng, 1980 Int. J. Pharm. 6, 179-182)。本発明によれば、グリセオフルビン(生物活性剤)、PVP(担体ポリマー)およびポリヒドロキシプロピルメタクリレート(架橋ポリマー)から、より安定な組成物が調製され得る。ポリヒドロキシプロピルメタクリレートは、該薬物およびPVPの両方へ水素結合を供与し、それによって、それらの間の架橋として機能し、そして該薬物をそのアモルファス形態で安定化させる。
【0019】
水素結合は、分子間で生じる非共有性相互作用である。非共有性相互作用なので、それは、水素へ共有結合されている相対的に電気陰性であるヘテロ原子(例えば、酸素および窒素)の相互作用から生じる、比較的に強い相互作用である。水素とそのヘテロ原子との間の結合は、へテロ原子の電気陰性度によって部分的に分極され、水素原子上に部分的に正の電荷を生じさせる。分子は、水素結合供与分子または水素結合受容分子として特徴付けられ得る。ある分子は、両方の特徴を有し、最も有名なのは水である。
【0020】
水素原子が結合されている電気陰性ヘテロ原子(および、拡大解釈すると、そのヘテロ原子を有する分子)は、「水素結合供与体」として公知であり、何故ならば、それは、分極された水素原子へ結合されるためである。水素へ結合されていない電気陰性原子(例えば、酸素または窒素)(および、拡大解釈すると、そのヘテロ原子を有する分子)は、水素結合供与体と相互作用し得、そして従って、「水素結合受容体」として公知である。水の場合、酸素原子は、その孤立電子対の電子を介して水素結合を「受容」し、かつ、水素へのその共有結合を介して水素結合を「供与」する。
【0021】
場合によっては、どのヘテロ原子がどれであるかを言うことが困難であるかもしれない(例えば、水素原子が、主に共有性でありかつ共有されている場合)。従って、2つのヘテロ原子が分離されており、かつ、水素核が該ヘテロ原子の一方によって保持されていると仮定することが、慣例である。この保持がヘテロ原子の正電荷を増加させない場合、そのヘテロ原子は供与体である。しかし、ヘテロ原子が水素を保持することによってより正電荷となる場合、それは受容体である。この慣例は、本明細書中において採用される。
【0022】
明確なことに、ある特定のポリマーは、ある分子に対しては水素結合供与体であり得、そして別のものについては受容体であり得、何故ならば、ポジションは、相対的な電気陰性度によって決定されるためである(実際には、ある大きな分子、例えば蛋白質は、分子立体配置に対して顕著な効果を有し得る、分子内水素結合を形成し得る)。従って、省略表現「H結合供与体」または「H結合受容体」がポリマーに関して本明細書中で使用される場合、それは、ポリマーが一緒に水素結合を形成する分子に対して供与体/受容体を意味すると理解されるべきである。
【0023】
理論に拘束されることを望まないが、参考文献Bromanに開示されているPVP/プロブコール/PAAの三元混合物(tertiary mixture)において、プロブコールとPVPとの間(フロブコールがH結合供与体として機能する)、PVPとPAAとの間(PAAが、H結合供与体として機能する)、そしてプロブコールとPAAとの間(フロブコールが、H結合供与体として機能する)に、水素結合相互作用が存在すると本出願人は考える。参考文献Bromanには、それら自体は相互作用しない担体ポリマーと生物活性剤との架橋としてポリマーを使用するという示唆は存在しない。
【0024】
実際には、本発明の組成物の成分は、それらを溶媒中に溶解させ、次いで、該成分が十分に混合された後に該溶媒を蒸発させることによって、あるいは、機械的活性化(mechanical activation)(即ち、材料の力強いミリング)によって、結合される。溶媒を使用する場合、溶媒は、単一の溶媒(例えば、アセトン)であっても、あるいは2以上の溶媒の組合せ(例えば、アセトンおよび水)であってもよい。
【0025】
また、溶媒を使用する場合、固体分散体が、迅速に溶媒を蒸発させるプロセスによって(例えば、噴霧乾燥によって)製造されることが、非常に好ましい。任意の好適な蒸発技術が使用され得、ここで、乾燥される材料の表面積は、蒸発前に、実質的に増加される。噴霧乾燥の場合、その表面積を増加させるために、材料はエアロゾル化される。液滴がエアロゾルノズルを離れる際に、それらは加熱され、そして溶媒が極めて迅速にそれらから蒸発する。
【0026】
好ましい実施形態において、担体ポリマーおよび架橋ポリマーは、実質的に混和性である。混和性は熱分析によって測定され得る。
【0027】
本出願人はまた、驚くべきことに、組成物の成分が混合される順序が、得られる組成物の安定性に影響を与えることを見出した。しかし、安定性についての好ましい混合順序は、最も速い溶解を与えるものと同じでは必ずしもないかもしれない。従って、好ましい実施形態において、組成物は、先ず担体および架橋成分を混合し、次いで生物活性剤を混合することによって調製される。架橋ポリマーが存在しない状況と比較して、より安定なアモルファス組成物は、成分が混合される順序に関係なく調製され得ること、しかし、より高い安定性は、ある特定の組成物について順序を調整することによって達成され得ることが、強調されるべきである。
【0028】
好ましい実施形態において、最終組成物(即ち、生物活性剤)の割合は、40〜60%w/wである。組成物の残りは、好ましくは、担体ポリマーおよび架橋ポリマーであり(しかし、いくらか残存する溶媒が存在し得る)、そしてこれらは、好ましくは0.05:1〜3:1、より好ましくは0.5:1〜3:1、そして最も好ましくは0.5:1〜1.5:1である。
【0029】
本発明の第2局面によれば、以下の工程を含む、アモルファス成分の安定な組成物を形成する方法が提供される:
(i)生物活性剤および担体ポリマーを提供する工程であって、ここで、それらのみを混合する場合、それらの間には僅かな相互作用が存在し、その結果、それらの少なくとも1つは、結晶化する傾向を有する、工程
(ii)架橋ポリマーと該生物活性剤および該担体ポリマーとを混合する工程であって、ここで、該架橋ポリマーは、該生物活性剤および該担体ポリマーの両方と相互作用し、それによって、該生物活性剤および該担体ポリマーが、該架橋ポリマーが存在しない場合よりも低い結晶化する傾向を有する組成物が形成される、工程。好ましくは、該架橋ポリマーは、該生物活性剤および該担体ポリマーの両方に対して水素結合供与体である。
【0030】
本発明の第3の局面において、上述の方法によって得られ得る組成物が提供される。
【0031】
理論によって拘束されることを望まないが、本発明は下記の先行技術とは異なっていると考えられる:
Sandoz Ltd.(GB 1504553 A)
この参考文献は、グリセオフルビンの溶解速度を上昇させるために、生物活性グリセオフルビンが、水溶性担体であるポリエチレングリコール(PEG)へ固体分散体として混合されている特定の状況に関する。錠剤化のプロセスは、薬物の溶解速度を実質的に低下させるので、架橋化ポリビニルピロリドン(PVP)が組み込まれ、該薬物とPEGとの間の結合力を低下させることによって崩壊剤として機能する。対照的に、本発明は、より一般的な処方問題、固体分散体を存在させるというものに関する。生物活性剤と担体ポリマーとの間の分子間相互作用を減少させようとする代わりに、本発明は、生物活性剤のアモルファス形態の安定性を増加させるためにこれらの相互作用を増加させるようとする点で、参考文献Sandozにおいて想定されるものとは状況が反対である。生物活性剤および担体分子の両方と水素結合を介して同時に相互作用する架橋ポリマーを組み込むことによって、これを行う。この手段によって、担体は、再配列を受けて結晶格子を形成する生物活性剤の分子の傾向を減少させることができる。
【0032】
Abbott Laboratories(WO 01/34119 A)
これは、水溶性担体(例えば、PEG)および結晶化阻害剤(例えば、ポリビニルピロリドン)中の生物活性剤の固体分散体製剤に関する。本発明は、それがPVP単独では結晶化阻害剤として有効に機能することができない状況に取り組もうとする点で、相違している。上記で議論するように、本発明は架橋ポリマーを提供し、PVPを生物活性剤と間接的に相互作用させ、従ってその結晶化する傾向を減少させることによって、これを行う。
【0033】
さらに、この場合、担体(PEG)は、保存時に結晶化する傾向にあり、それは、PEGベースの分散体に伴う問題の1つである。従って、PVPは、PEG担体の結晶化を制限するために、ここで、最も恐らく添加されている。本発明の方法は、PVP(例えば)が薬物物質の結晶化を阻害しない(制限されたH結合に起因する)場合において用いられ、そして第2のポリマーがPVPを薬物へ結合するために添加される。この参考文献は、そうゆう意味で役に立たない;実際に、PEGおよびPVPは、それらのH結合の点で類似しており、そして従って、本発明によって要求される様式で互いを補完しない。
【0034】
Elan Corp.(ΕP 0232155 A2)
これは、架橋化ポリマーを含むマトリクス中へ溶媒蒸発により生物活性剤と「不活性物質」とが組み込まれている、制御放出製剤に関する。「不活性物質」は、製剤が水中に最終的に分散される際に生物活性剤の溶解速度を制御する(その溶解性に起因する)その能力のために選択される。例えば、水溶性「不活性物質」は、マトリクスからの生物活性剤の溶解速度を上昇させ、一方、水不溶性「不活性物質」は、それを低下させ、遅延放出を生じさせる。対照的に、本発明は、製剤が水中に最終的に分散される際に、生物活性剤の溶解速度を制御しようとしない。代わりに、それは、製剤段階の間、生物活性剤とポリマーマトリクスとの相互作用を増加させることを目的とし、その結果、生物活性剤は、保存の間、結晶化しない。それをアモルファス状態で維持することによって、それは、最終的に水中に分散される際に、より迅速な溶解を受ける。
【0035】
参考文献Elanは、特に架橋化ポリマーの使用に言及し、一方、本発明の方法において、架橋化ポリマーは使用されていないことに注意のこと。
【0036】
山之内製薬株式会社(JP55129220 A)
これは、医薬成分の作用速度およびバイオアベイラビリティーを増加させるための、溶解性に乏しい医薬成分と、ベース成分(例えば、PVP)と、場合によっては追加の成分(例えば、PEG)との製剤に関する。しかし、生物活性剤とベース成分との相互作用を増加させるために、前記追加の成分を組み込むという示唆は、要約書に存在しない。実際に、列挙されるグリコールは、PVP担体と同一の水素結合ポテンシャルを有し、そして従って、PVP単独よりも十分に安定化させるものではない。
【0037】
E. Broman et al Int. J. Pharmaceutics, 222. 139-51. (2001)
この刊行物は、水溶性に乏しい薬物、プロブコールと、種々の水溶性ポリマー、即ち、PVP、PAAおよびPEOとの固体分散体の調製を記載している。該ポリマーは、個々に、または2つの混合物(一方は、PVPであった)として使用された。該薬物は、PVP製剤中においてアモルファスであり、そしてPAAおよびPEOの両方において結晶性であることが判った。PVPでの状態はGB0502790.9におけるそれとは対照的であり、ここで、生物活性剤は、PVP中で大部分が結晶性であり、そしてそれをアモルファスとするために架橋分子を必要とする。
【0038】
その他の2つのポリマーの1つと共にPVP中で処方された場合、プロブコールは、一般的にアモルファスであった。しかし、これは、溶解の間の該薬物の放出挙動に対する効果(これは、この処方アプローチの成功の主な指標である)をほとんど有さなかったことが見出された。従って、単一のポリマーを使用するのと比べて、利点は見られなかった。これは本発明とは対照的であり、本発明においては、架橋分子を組み込むことにより、単一ポリマーマトリクス内での結晶化の問題が緩和される。
【0039】
ここで、添付の図面を参照しながら、本発明の多数の好ましい実施形態を記載する。
【0040】
実施例
方法論
窒素発生器へ接続されたNiro SD噴霧乾燥機を使用して、全ての分散体を噴霧乾燥した。
【0041】
アセトンおよび水の共溶媒系中において、グリセオフルビン、メジャーな賦形剤(major excipient)(PVP)およびマイナーな賦形剤(minor excipient)を溶解することによって、分散体のための溶液を調製した。均一性を確実にするために、該分散体を8時間混合し、その後、65℃の注入口温度および45℃の出口温度で、窒素条件下において、Niro SDシステムを使用することによって、該分散体を噴霧乾燥した。供給速度は最大値の約15%であり、そして窒素流量は、乾燥速度および噴霧速度について、それぞれ、20kg/hrおよび2kg/hrであった。
【0042】
次いで、サンプルを24時間一定真空下で保存し、溶媒を除去し、その後、必要とされる条件へ移した。
【0043】
Philips PW37010 X線粉末回折計(Philips,ケンブリッジ、UK)を使用して、結晶化についてサンプルを分析し、図1aおよび図1bにサンプルXRPDスキャンを示す。
【0044】
分析のためのサンプルを調製するために、約200mgのサンプルを、直径約260mmおよび深さ約1mmを有するサンプルホルダー中の円形ウェルへ配置した。
【0045】
これを圧縮して平面を作製し、その後、XRPDへ配置した。次いで、サンプルを、30mAおよび45kVのX線ランプ電圧(lamp tension)を使用してスキャンした。0.02°2θをカバーするステップおよび1ステップ当たり2秒の時間で、15.5°2θ〜29.5°2θの間、連続スキャンを行った。PANalytical X’Pert HighScore v2.0aを使用して、コンピュータ解析を行った。ローリングアベレージシステム(rolling average system)(sonneveldおよびVisser,1975)を使用して、バックグラウンド分析を行った。これに続いて、0.7の最小有意(minimum significance)、0.1°2θの最小チップ幅(tip width)、および1°2θの最大チップ幅を有するピークの位置を見つけた。次いで、ローレンツ分布を想定して、ピーク高さを積分した。
【0046】
純結晶グリセオフルビンまたはフラバノンを同一の方法論へ供し、標準XRPDスキャンを作成した。多数のピークをこれらの標準の各々から選択し、100%結晶値(X線カウント/°2θとして表す)を作成し、次いで、これらを分散体の該ピーク下の領域と比較し、パーセンテージ結晶化度値を作成した。
【0047】
実施例1 − 安定性に対する種々のマイナーな賦形剤の効果
この実施例において、グリセオフルビンを、溶解させる1番目の成分とした。詳細は、6gまたは4gのいずれかのグリセオフルビンを、500ml三角フラスコ中の撹拌されているアセトン240ml中に溶解した。
【0048】
これへ100mlの蒸留水を添加した。次いで、混合物を最低1時間撹拌し、その後、次の成分であるPVPを、下記表1に記載の量で添加した。
【0049】
次いで、下記に(表1)列挙される第2成分を、撹拌アセトン/水溶液中に溶解した。PAAを含有する分散体は、PAAおよびPVPを溶解するために追加の水を必要とし、そして総計で約250mlの水を使用して、全ての成分を含有する溶液を作製した。
【0050】
【表1】
図2〜5は、グリセオフルビン分散体の安定性に対する種々の第2成分の効果を示す:上記でより詳細に説明したように、正確に秤量したグリセオフルビンを、500ml三角フラスコ内に含まれた撹拌されているアセトン240ml中へ注いだ。次いで、100mlの蒸留水を添加し、その後、第2のポリマー次いでPVPを添加した。PAAを含有する分散体は、PAAおよびPVPを溶解するために追加の水を必要とし、そして総計で約250mlの水を使用して、全成分を含有する溶液を作製した。
【0051】
図2は、室温、0%相対湿度(RH)で13週間の保存後の、種々の分散体のアモルファス安定性を示し、PHPMAの添加は、アモルファス安定性を明らかに改善した。図3は、50℃、0%RHでの保存後の同一の時点を示し、そしてまた、PHPMAの添加は、グリセオフルビンのアモルファス安定性を改善する(Gris4sucについてのデータは、最も恐らくはスクロース結晶化に起因する、100%を超える結晶化度を示唆する)。40℃、0%RHで、PAAおよびPHPMAの分散体は両方とも、グリセオフルビン−PVP分散体よりも改善されたアモルファス安定性を示した(図4)。
【0052】
図5は、室温、0%RHでの安定性を示し、そしてこれらの条件下で、PHPMAのみがアモルファス安定性を改善すると示された。
【0053】
実施例2 − 噴霧乾燥化グリセオフルビン安定性に対する添加順序の効果
グリセオフルビン−PVP分散体を、実施例1に記載されるように調製した。これに続いて、下記のようにグリセオフルビン−PVP−PHPMA分散体を調製した:
グリセオフルビン−PVP−PHPMA
6gのグリセオフルビンを240mlのアセトン中に溶解した。これが溶解したら、100mlの蒸留水を添加し、そして次いで、3gのPVPをこの共溶媒中に溶解した。最後に、1gのPHPMAを該溶液へ添加した。得られた溶液を、上述の通りに噴霧乾燥した。
【0054】
PHPMA−PVP−グリセオフルビン
1gのPHPMAを100mlの蒸留水中に溶解した。溶解したら、次いで3gのPVPを添加し、溶解させた。6gのグリセオフルビンを、別の三角フラスコ中のアセトン240ml中に溶解し、そして次いで、これを前記PVPおよびPHPMA溶液へ添加した。
【0055】
グリセオフルビン−PHPMA−PVP
6gのグリセオフルビンを240mlのアセトン中に溶解し、次いで100mlの蒸留水を添加した。これに続いて、1gのPHPMAおよび次いで3gのPVPを連続的に添加し、そして溶解させた。
【0056】
前記サンプルを24時間真空オーブン中に配置し、その後、デシケーターへ移し、そして50℃、0%RHで保存した。
【0057】
この実験から得られた結果を図6に示す。全ての状況において、PHPMAの添加は、アモルファス安定性を改善した。グリセオフルビン−PHPMA−PVP系は、噴霧乾燥直後に、結晶化の兆候を示す。これは、恐らく、噴霧乾燥前の非理想的な混合に起因する。結晶化は、一般的に、2つの主要なセクション、結晶核形成および結晶成長へ分けられ、読み取り値の残りからt=0で存在する微結晶のレベルを引くと、有効な結晶化速度が観察され得、従って、第2のラインが分散体の値について引かれると思われた。これを行って、結晶化の速度は、グリセオフルビン−PHPMA−PVP系およびPHPMA−グリセオフルビン−PVP分散体の両方について類似すると判った。
【0058】
グリセオフルビン−PVP−PHPMA系は、最も改善されたアモルファス安定性を示した。これは、2つの主要な効果に起因しそうである:第1に、グリセオフルビン−PVP−PHPMA分散体は、最も理想的に混合された組成を有すること、および第2に、PHPMAは、この分散体中において最も強い架橋効果を有していること。
【0059】
実施例3 − 実施例2において使用されるのとは異なる割合のグリセオフルビン、PVPおよびPHPMAを使用しての、混合順序の効果
3:1:1のグリセオフルビン:PVP:PHPMA比以外は実施例2における通りに、サンプルを調製した。安定性を図7に示し、ここで、84%RHで12週間後に、Gris+PHPMA次いでPVPの混合物が最も安定性が低く、次にGris+PVP次いでPHPMAが安定性が低く、そしてPVP+PHPMA次いでGrisが最も安定であったことが理解され得る。実施例2においては、Gris次いでPHPMA次いでPVPが最も安定性が低かったが、この場合、最も安定なのは、先ずこれら2つのポリマーを混合し、次いでGrisを添加した場合であった。
【0060】
実施例4 − フラバノンの結晶化に対する、マイナーな賦形剤であるPHPMAの効果
薬物およびポリマーの量を下記に示すように変化させて、実施例1におけるグリセオフルビンサンプルと同一の方法を使用して、フラバノンの分散体を調製した。22.5°2θでのフラバノンピークを使用することによって、XRPD解析を行った。
【0061】
【表2】
図8は、真空下室温で保存されたサンプルのXRPD解析から得られた結果を示す。フラバノンは、PVPで分散された場合、ほぼ完全に結晶性であるようであるが、PHPMAおよびPVPのみの組合せで分散された場合、部分的だけの結晶性がXRPDによって検出されることを、結果は示している。
【0062】
実施例5 − グリセオフルビンの結晶化に対する、マイナー賦形剤であるPHPMAの濃度変化の効果
6gのグリセオフルビンを、マグネチックスターラーを使用して、三角フラスコ中の240mlのアセトン中に溶解させた。200mlの水を該フラスコへ添加した。2gのPHPMAを添加し、そしてPHPMAが溶解するまで該溶液を放置した。最後に、2gのPVPを添加し、そして溶解させた。次いで、この溶液を噴霧乾燥し、そして噴霧乾燥プロセスは後述する。
【0063】
6gのグリセオフルビン、1gのPHPMAおよび3gのPVPを含む分散体を、同一の方法を使用して調製し、そして最後に、6gのグリセオフルビンおよび4gのPVPを含む分散体を調製した。グリセオフルビン単独の固体分散体を調製するために、グリセオフルビンを、アセトンのみに溶解し、次いで、前述するように噴霧乾燥した。真空下、室温で、保存した。
【0064】
図9に示す結果は、グリセオフルビンの結晶化レベルはまた、PHPMAの添加によって低下されること、および、他の成分に対するPHPMAの割合を増加させることによって、アモルファス安定性のレベルをなおさらに増加され得ることを示している。
【0065】
実施例6 − 組成物安定性に対する成分割合の効果
以下の比を有するサンプルを、実施例5におけるように調製した:
Gris:PHPMA:PVP
a)2.5:0.25:2.25
b)2.5:0.5 :2.0
c)2.5:0.75:1.75
d)2.5:1.0 :1.5
e)2.5:1.25:1.25
f)2.5:1.5 :1。
【0066】
84%RHで12週間保存後、サンプル(a)中においては結晶性であり、(b)中においてはいくぶん結晶性であり、しかし他のサンプル中においてはアモルファス材料であったことが、図10におけるX線回折データから理解され得る。これは、好ましい割合が、0.75:1.75(即ち、1:2.33または0.42:1)の架橋と担体との比について、そして架橋ポリマーのより高い割合(即ち、0.5:1〜1.5:1)についてであることを示している。
【0067】
実施例7−溶解データ
Gris:PVP 1:1、Gris:PHPMA:PVP 2.5:1.25:1.25を含有する分散体を、上述のように調製し、そしてポリマー無しで噴霧乾燥されたGrisおよび結晶性Grisと比較した。少量のサンプルを硬ゼラチンカプセル中に入れ、続いて、USPパドル法(USP paddle method)を使用して、37℃でpH6.8緩衝液中に溶解させることによって(分散が必要とされた場合、界面活性剤を添加した)、溶解データを作成した。シンク条件(sink conditions)を維持するために、非常に少ない質量の材料を使用した;従って、秤量誤差(weighing errors)は、100%放出値(release values)に影響を与えた。
【0068】
結果を図11に示す。PHPMAを含有する分散体(図11中のa)についてのデータはより遅い撹拌速度で実行されたが、この製剤は、依然として、最速の溶解応答を示した。前記噴霧乾燥化材料および結晶性材料は両方とも溶解が遅く、そしてPVPおよびGrisの分散体は、添加PHPMAを含むサンプルよりも溶解が遅かった。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1a】図1aは、本発明に従う組成物のXRPDスキャンである。
【図1b】図1bは、純結晶性グリセオフルビンのXRPDスキャン、本発明における結晶性材料のレベルを算出するために使用されるセットの一部である。
【図2】図2〜5は、種々の保存条件下での13週間の保存後の、本発明に従う種々の組成物中に存在する結晶性材料のレベルを示すグラフである。
【図3】図2〜5は、種々の保存条件下での13週間の保存後の、本発明に従う種々の組成物中に存在する結晶性材料のレベルを示すグラフである。
【図4】図2〜5は、種々の保存条件下での13週間の保存後の、本発明に従う種々の組成物中に存在する結晶性材料のレベルを示すグラフである。
【図5】図2〜5は、種々の保存条件下での13週間の保存後の、本発明に従う種々の組成物中に存在する結晶性材料のレベルを示すグラフである。
【図6】図6は、経時的な多数の異なる組成物の結晶性レベルを示し、組成物間の差異は、成分が添加される順序である。
【図7】図7は、調製日から12週間後の、84%RH、室温で保存された、(a)グリセオフルビン:PHPMA:PVP(3:1:1)固体分散体、(b)グリセオフルビン:PVP:PHPMA(3:1:1)固体分散体、および(c)PVP:PHPMA:グリセオフルビン(1:1:3)固体分散体の、固体分散体のx線粉末回折パターンを示し;上部トレースは結晶性のサインを示し、一方、下部は示さない。
【図8】図8は、経時的な多数の異なる組成物の結晶性レベルを示し、組成物間の差異は、PHPMAの存在または非存在である。
【図9】図9は、経時的な多数の異なる組成物の結晶性レベルを示し、組成物間の差異は、PVPとPHPMAとの比である。
【図10】図10は、調製日から12週間後の、84%RH、室温で保存された、(a)グリセオフルビン:PHPMA:PVP(2.5:0.25:2.25)、(b)グリセオフルビン:PHPMA:PVP(2.5:0.5:2)、(c)グリセオフルビン:PHPMA:PVP(2.5:0.75:1.75)、(d)グリセオフルビン:PHPMA:PVP(2.5:1:1.5)、(e)グリセオフルビン:PHPMA:PVP(2.5:1.25:1.25)、および(f)グリセオフルビン:PHPMA:PVP(2.5:1.5:1)の、固体分散体のx線粉末回折パターンを示す。
【図11】図11は、(a)75rpmでの、リン酸緩衝液(pH6.5)および該媒体へ添加された0.2%SDS中におけるグリセオフルビン:PHPMA:PVP(2.5:1.25:1.25)固体分散体、(b)100rpm、37℃での、リン酸緩衝液(pH6.8)中における噴霧乾燥化グリセオフルビン、(c)100rpm、37℃での、リン酸緩衝液(pH6.8)中における結晶性グリセオフルビン、ならびに(d)100rpm、37℃での、リン酸緩衝液(pH6.8)中におけるグリセオフルビン:PVP(2.5:2.5)固体分散体の、溶解プロフィールを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物活性剤の安定な組成物を形成する方法であって、以下の工程:
(i)生物活性剤および担体を提供する工程であって、ここで、それらのみを混合する場合、それらの少なくとも1つは、結晶化する傾向を有する、工程
(ii)架橋成分と該生物活性剤および該担体とを混合する工程であって、ここで、該架橋成分は、該生物活性剤および該担体の両方と水素結合を形成し、それによって、少なくとも該生物活性剤が、該架橋成分が存在しない場合よりも低い結晶化する傾向を有する組成物が形成され、
ここで、該架橋成分は、該生物活性剤および該担体の両方に対して水素結合供与体である、工程
を含む、方法。
【請求項2】
混合する場合、前記生物活性剤は結晶化する傾向を有するが、前記担体は結晶化する傾向を有さない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
先ず前記担体および前記架橋成分を混合し、次いで前記生物活性剤を混合することによって、前記組成物を調製する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記生物活性剤がグリセオフルビンであり、前記担体がポリビニルピロリドンであり、そして前記架橋成分がポリヒドロキシプロピルメタクリレートである、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記担体および前記架橋成分が実質的に混和性である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記組成物成分を少なくとも1つの溶媒中に溶解または分散させ、該成分が十分に混合された後に該溶媒を蒸発させることによって、該組成物成分を結合する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの溶媒を噴霧乾燥によって蒸発させる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物成分を機械的活性化によって結合する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が40〜60%w/wの生物活性剤を含み、そして残りが架橋成分および担体を含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
担体と架橋成分との比が0.5:1〜3:1である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
担体と架橋成分との比が0.5:1〜1.5:1である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記請求項のいずれかに記載の方法によって得られ得る組成物。
【請求項1】
生物活性剤の安定な組成物を形成する方法であって、以下の工程:
(i)生物活性剤および担体を提供する工程であって、ここで、それらのみを混合する場合、それらの少なくとも1つは、結晶化する傾向を有する、工程
(ii)架橋成分と該生物活性剤および該担体とを混合する工程であって、ここで、該架橋成分は、該生物活性剤および該担体の両方と水素結合を形成し、それによって、少なくとも該生物活性剤が、該架橋成分が存在しない場合よりも低い結晶化する傾向を有する組成物が形成され、
ここで、該架橋成分は、該生物活性剤および該担体の両方に対して水素結合供与体である、工程
を含む、方法。
【請求項2】
混合する場合、前記生物活性剤は結晶化する傾向を有するが、前記担体は結晶化する傾向を有さない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
先ず前記担体および前記架橋成分を混合し、次いで前記生物活性剤を混合することによって、前記組成物を調製する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記生物活性剤がグリセオフルビンであり、前記担体がポリビニルピロリドンであり、そして前記架橋成分がポリヒドロキシプロピルメタクリレートである、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記担体および前記架橋成分が実質的に混和性である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記組成物成分を少なくとも1つの溶媒中に溶解または分散させ、該成分が十分に混合された後に該溶媒を蒸発させることによって、該組成物成分を結合する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの溶媒を噴霧乾燥によって蒸発させる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物成分を機械的活性化によって結合する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が40〜60%w/wの生物活性剤を含み、そして残りが架橋成分および担体を含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
担体と架橋成分との比が0.5:1〜3:1である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
担体と架橋成分との比が0.5:1〜1.5:1である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記請求項のいずれかに記載の方法によって得られ得る組成物。
【図1a】
【図1b】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1b】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2008−530068(P2008−530068A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−554641(P2007−554641)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【国際出願番号】PCT/GB2006/000467
【国際公開番号】WO2006/085089
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(507268444)ファルマテリアルズ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【国際出願番号】PCT/GB2006/000467
【国際公開番号】WO2006/085089
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(507268444)ファルマテリアルズ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
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