説明

疲労強度に優れたアルミニウム合金中空異形材およびその製造方法

【課題】 疲労強度に優れたアルミニウム合金中空異形材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 Al−Mg−Si系アルミニウム合金からなるアルミニウム合金中空異形材であって、該中空異形材の外表面において圧縮残留応力を有する。さらに断面内全域において1000μm以上の大きさの粗大再結晶粒が存在しない。Al−Mg−Si系アルミニウム合金からなる押出管を用い、450〜580℃の温度で1分以上保持することにより溶体化処理を行い、その直後に焼入れを行い、焼入れ後24時間以内に周長増加率の最大値が50%以下のハイドロ成形を行い、その後150〜200℃の温度で2〜24時間の人工時効処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疲労強度に優れたアルミニウム合金中空異形材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の走行性能向上の方法として、サスペンション部品の軽量化が効果的であり、一部の車種ではアルミニウム合金が用いられている。自動車の場合には、高耐食性が必要になることから、5000系合金や6000系合金が通常用いられている。このようなサスペンション部品は、一般には、鋳物、押出形材、板材、鍛造材などが溶融溶接により一体化されて構成され、一部には外径を変化させた中空材が用いられるケースもあり、熱間ブロー成形法や、ハイドロ成形法などにより、製造されている。
【0003】
このようなサスペンション部品には繰返し曲げ応力が作用するため、高い疲労寿命を必要とする。前述のハイドロ成形法の場合、一般にはO調質材を用い、ハイドロ成形により所定のテーパー形状に成形後、溶体化処理および人工時効処理が行われ、T6に調質される。しかし、この場合には中空材表面には引張残留応力が発生するため、疲労寿命向上を目的として、表面に圧縮残留応力を付与する技術の開発が求められていた。
【0004】
また、衝撃吸収性に優れたフロントフォークアウターチューブ用管材およびその製造方法において、Al−Mg−Si系アルミニウム合金を鋳造し、得られた鋳塊を均質化処理、熱間押出、溶体化処理、焼入れしてT4調質のアルミニウム合金管を作製し、該アルミニウム合金管の端部を拡管加工した後、人工時効処理を行う製造方法が提案されている(特許文献1)。本特許文献1において拡管加工は端部に対して実施するため、ハイドロ成形のように全長を拡管加工する場合とは異なり、拡管を行わない部位の中空材表面には引張残留応力が発生する。さらに本特許文献1では、管内部にプラグを押し込む方法が用いられており、ハイドロ成形のように長さ方向に圧縮変形を加えながら径を拡大する加工に比べ、長さの減少量が非常に小さいため、拡管加工を行った部位での最終製品の表面残留応力の発生状態が大きく異なる。
【0005】
さらに、従来の加工方法(例えば、O調質材を用い、ハイドロ成形により所定のテーパー形状に成形後、溶体化処理および人工時効処理が行われ、T6に調質する)の場合には、アームに1000μm以上の粗大再結晶粒が生成することがあり、その場合には疲労強度が低下したり、溶接施工時に割れを生じることがあるため、1000μm以上の粗大再結晶粒を生成しない技術の開発も求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−242855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の問題を解決するために、断面形状が長手方向に変化したAl−Mg−Si系アルミニウム合金中空異形材の製法において、ハイドロ成形条件および熱処理条件と、外表面の圧縮残留応力および粗大再結晶粒生成との関係について試験、検討を重ねた結果としてなされたものであり、その目的は、外表面に圧縮残留応力を有し、さらに断面全域において1000μm以上の粗大再結晶粒が存在しない、疲労強度に優れたアルミニウム合金中空異形材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る疲労強度に優れたアルミニウム合金中空異形材は、Al−Mg−Si系アルミニウム合金からなるアルミニウム合金中空異形材であって、該中空異形材はその断面形状が該中空異形材の長手方向において変化しており、かつ、該中空異形材の外表面において圧縮残留応力を有することを特徴とする。
請求項2に係る疲労強度に優れたアルミニウム合金中空異形材は、請求項1において、さらに断面内全域に1000μm以上の大きさの粗大再結晶粒が存在しないことを特徴とする。
請求項3に係る疲労強度に優れたアルミニウム合金中空異形材は、Al−Mg−Si系アルミニウム合金がMg:0.3〜1.5%(質量%、以下同じ)、Si:0.3〜1.5%、Cu:0.5%以下(0%を含む)を含有し、さらにMn:0.30%以下(0%を含まず)、Cr:0.15%以下(0%を含まず)のうち1種または2種を含有し、残部が不可避不純物およびアルミニウムからなることを特徴とする。
請求項4に係る疲労強度に優れたアルミニウム合金中空異形材の製造方法は、Al−Mg−Si系アルミニウム合金からなる押出管を用い、450〜580℃の温度で1分以上保持することにより溶体化処理を行い、その直後に焼入れを行い、焼入れ後24時間以内に周長増加率の最大値が50%以下のハイドロ成形を行い、その後150〜200℃の温度で2〜24時間の人工時効処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、外表面に圧縮残留応力を有するとともに、断面内全域において1000μm以上の粗大再結晶粒が存在しないことで、疲労強度に優れたアルミニウム合金中空異形材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明による疲労強度に優れたアルミニウム合金中空異形材の合金元素の意義および限定理由について説明すると、MgはSi原子と結合して強度を向上するよう機能する元素であり、その好ましい含有範囲は0.3〜1.5%である。下限未満では強度が不十分になる。上限を超えて含有されると強度が高くなりすぎ、ハイドロ成形で割れを生じることがある。さらに好ましい範囲は0.4〜1.2%である。
【0011】
SiはMg原子と結合して強度を向上するよう機能する元素であり、その好ましい含有範囲は0.3〜1.5%である。下限未満では強度が不十分になる。上限を超えて含有されると強度が高くなりすぎ、ハイドロ成形で割れを生じることがある。さらに好ましい範囲は0.4〜1.2%である。
【0012】
Cuは強度を向上するよう機能する元素であり、その好ましい含有範囲は0%以上、0.5%以下である。特に高い耐食性が必要な場合には無添加(0%)でもよいが、高強度が必要な場合には0.5%以下の範囲で添加される。上限を超えて添加されると強度が高くなりすぎ、ハイドロ成形で割れを生じることがある。
【0013】
MnおよびCrは選択的に添加される元素であり、その効果は押出加工中の再結晶を均一にし、結晶粒を微細にするよう機能する。その好ましい含有範囲は、Mn:0.30%以下(0%を含まず)、Cr:0.15%以下(0%を含まず)である。MnあるいはCrを添加しない場合には、ハイドロ成形前の素材の結晶粒が粗大になり、ハイドロ成形で割れを生じることがある。上限を超えて添加されると鋳造時に粗大晶出物を生じ、ハイドロ成形性が低下し、ハイドロ成形中に割れを生じることがある。さらに好ましい含有範囲は、Mn:0.20%以下、Cr:0.13以下であり、最も好ましい含有範囲は、Mn:0.10%以下、Cr:0.10%以下である。
【0014】
不可避不純物として、Fe、Zn、Tiなどが含有される。FeおよびTiは、含有量に応じて鋳造時にそれぞれAl−Fe−Si系晶出物やAl−Ti系晶出物を生成し、最終製品の延性や靱性を低下させることがあるため、極力少ない方が好ましいが、純度の高い地金を使用するとコストが上昇する。コストと延性、靱性とのバランスから、Feは0.5%以下が許容される。また、Tiは0.1%以下が許容される。また、Znは含有量が多くなると、耐食性が低下するため、0.2%以下が許容される。
【0015】
本発明による疲労強度に優れたアルミニウム合金中空異形材は、断面形状が長手方向に変化したAl−Mg−Si系アルミニウム合金管からなるが、外表面に圧縮残留応力を有する。外表面に圧縮残留応力を有することで、曲げ応力に対する疲労強度が高くなり、製品寿命が向上する。残留応力が圧縮側であれば特に応力の大きさは問わないが、圧縮残留応力が大きいほど製品寿命向上の効果が大きくなることから、その絶対値は10MPa以上であることが好ましい。なお、外表面の残留応力は、製品の表面にひずみゲージ(2軸でゲージ長2mm)を貼付け、長さ10mm、幅10mmの形状に製品を切断することで形状による拘束を除去し、切断前後で測定したひずみ量の変化から長手方向の表面残留応力が計算される。この外表面の圧縮残留応力は、後述の方法で中空異形材を製造することにより付与することができる。
【0016】
また、本発明による疲労強度に優れたアルミニウム合金中空異形材は、断面内全域において、1000μm以上の粗大再結晶粒が存在しないことが好ましい。1000μm以上の粗大再結晶粒が存在すると、製品の疲労強度が低下したり、溶接施工時に結晶粒界に割れを生じることがある。粗大再結晶粒の有無は、製品の長さ方向に対して垂直な断面を観察面とし、面削りを行った後、耐水研磨紙で1200番まで研磨を行い、硝酸:塩酸:フッ酸=4:6:1の比率で混合したマクロ腐食液で10秒間の腐食を行い、拡大鏡で10倍の観察倍率で観察することにより、その有無を確認できる。粗大再結晶粒に関しても、後述の方法で中空異形材を製造することにより制御できる。
【0017】
次に、本発明による疲労強度に優れたアルミニウム合金中空異形材の製造方法について説明するが、本発明に従って、溶体化処理および焼入れ後にハイドロ成形を行うことで、外表面に圧縮残留応力を有するとともに、1000μm以上の粗大再結晶粒が断面内全域に存在しないアルミニウム合金中空異形材を製造することができる。溶体化処理および焼入れ後にハイドロ成形を行わない場合には、外表面に圧縮残留応力を付与できず、さらに溶体化処理前の加工度と溶体化処理温度の組合せによっては、1000μm以上の粗大再結晶粒が生成することがある。従って、前述の技術背景に示したような、O調質材を用い、ハイドロ成形により所定のテーパー形状に成形後、溶体化処理および人工時効処理を行ってT6に調質した場合には、外表面には引張残留応力が付与され、圧縮残留応力を付与できないとともに、1000μm以上の粗大再結晶粒が生成することがある。
【0018】
まず所定の組成を有するAl−Mg−Siアルミニウム合金押出管を用い、450〜580℃の温度で1分以上保持することにより溶体化処理を行う。このとき必要に応じて、引抜加工やハイドロ成形などの冷間加工を行った押出管を用いても良い。溶体化処理温度が下限未満ではMg,Si元素が十分に固溶しないため、最終強度が低くなりすぎ、上限を超えると材料が溶融する。また溶体化処理の保持時間が下限未満の場合、Mg,Si元素が十分に固溶しないため、最終強度が低くなりすぎる。なお、溶体化処理温度が450〜580℃の範囲であれば、室温からの昇温に要する時間や、溶体化処理の保持時間は、材料特性に影響しないが、溶体化処理のサイクルタイムを短縮すれば、エネルギー使用量が少なくて済み、CO2 ガス排出量の低減につながることから、製造コストの低減と環境保護の観点で有利である。さらに、なるべく低温で溶体化処理を行うのも、同様の効果がある。そのため、製造コストと環境保護の観点から、室温からの昇温に要する時間は10分以内が推奨される。溶体化処理の上限時間は特に規定しないが、Mg,Siが固溶すれば長時間処理してもエネルギーを浪費するだけであるため、コストの観点から工業的には2時間以内が好ましい。連続炉を用いる場合には、さらに保持時間の短縮が可能であることから、60分以内がさらに好ましく、20分以内が最も好ましい。溶体化処理後、水焼入れまたは空冷による焼入れが行われ、焼入れ後24時間以内に周長増加率の最大値が50%以下のハイドロ成形を行う。周長増加率はハイドロ成形前の素管の外周長をL0、ハイドロ成形後の管材の外周長をL1と定義した時に、(L1−L0)/L0により計算される。焼入れ後24時間を超えてからハイドロ成形を行うと、自然時効硬化によりハイドロ成形中に割れが発生することがある。さらにハイドロ成形の周長増加率の最大値が50%を超えると、ハイドロ成形中に割れが発生し、ハイドロ成形ができない。ハイドロ成形により得られた中空異形材に対して、150〜200℃の温度で2〜24時間の人工時効処理を行う。温度または時間が下限未満の場合には時効硬化が不十分で所定の強度を得ることができず、温度または時間が上限を超えると、過時効になるため所定の強度を得ることができない。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、本発明の効果を実証する。なお、これらの実施例は、本発明の一実施形態を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
(実施例1)
表1に示す合金A〜Gの組成を有するアルミニウム合金鋳塊を用いて、ポートホール押出により作製した外径58mm、厚さ2.8mm、長さ750mmのO調質のアルミニウム合金管材を用い、大気炉を用いて530℃まで5分で昇温し、10分間保持することで溶体化処理を行った後、室温の水中に焼入れを行った。焼入れ後、1時間以内に、管端から50mmの位置が幅58mm、高さ58mm、厚さ2.8mmの角パイプ形状であり、長手中央部にかけてテーパー状に幅が変化し、長手中央部が幅76mm、高さ58mm、厚さ2.8mmの角パイプ形状で、全体の長さが545mmになるよう、軸方向に圧縮力を付与しながら、室温でハイドロ成形を行った(周長増加率の最大値:47%)。ハイドロ成形により得られた中空異形材に対して、大気炉を用いて180℃まで昇温し、8時間保持することで人工時効処理を行い、常温まで冷却して試験材1〜7を得た。
【0021】
得られた試験材に対し、長手中央部(最大外周長位置)で後述のビッカース硬さ測定、断面マクロ組織観察、および表面残留応力測定を行った。試験結果を表2に示す。
ビッカース硬さ測定:長さ方向に対して垂直な断面が測定面になるよう、長さ20mm、幅20mmの試験片を切断、採取し、熱硬化樹脂に樹脂埋めを行い、耐水研磨紙で粗研磨を行った後、1200番で仕上げ研磨を行う。研磨面を測定面として、荷重49NでJIS Z 2244に従ってビッカース硬さ測定を行う。
断面マクロ組織観察:長さ方向に対して垂直な断面が観察面となるよう、長さ30mmの試験片を切断、採取し、面削を行った後、耐水研磨紙で1200番まで研磨を行い、硝酸:塩酸:フッ酸=4:6:1の比率で混合したマクロ腐食液で10秒間の腐食を行い、1000μm以上の粗大再結晶粒の有無を拡大鏡で20倍の観察倍率で観察する。
表面残留応力測定:長手中央部のコーナー部4カ所の外表面にひずみゲージ(2軸でゲージ長2mm)を貼付け、長さ10mm、幅10mmの形状に切断することで形状による拘束を除去し、切断前後で測定したひずみ量の変化から長手方向の表面残留応力を計算する。圧縮残留応力の場合には、数値は負の値になる。計算した4カ所の表面残留応力のうち、絶対値の最も小さい数値で評価する。
【0022】
表2にみられるように、本発明に従う試験材1〜7は、いずれもビッカース硬さが大きく、断面内全域において1000μm以上の粗大再結晶粒がみられず、外表面に圧縮残留応力を有していた。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
(実施例2)
表1に示す合金Cの組成を有するアルミニウム合金鋳塊を用いて、ポートホール押出により作製した外径58mm、厚さ2.8mm、長さ750mmのO調質のアルミニウム合金管材を用い、実施例1に示す形状および工程で溶体化処理、水焼入れ、ハイドロ成形、人工時効処理を行い、試験材8〜11を得た。このとき、溶体化処理および人工時効処理を表3に示す条件で行い、焼入れ後、ハイドロ成形を行うまでの時間を20〜22時間とし、それ以外の製造工程における処理条件は実施例1と同一とした。
【0026】
得られた試験材に対し、実施例1と同一条件で長手中央部(最大外周長位置)でビッカース硬さ測定、断面マクロ組織観察、および表面残留応力測定を行った。試験結果を表4に示す。
表4にみられるように、本発明に従う試験材8〜11は、いずれもビッカース硬さが大きく、断面内全域に1000μm以上の粗大再結晶粒がみられず、外表面に圧縮残留応力を有していた。
【0027】
【表3】

【0028】


【表4】

【0029】
(比較例1)
表5に示す合金H〜Nの組成を有するアルミニウム合金鋳塊を用いて、ポートホール押出により作製した外径58mm、厚さ2.8mm、長さ750mmのO調質のアルミニウム合金管材を用い、実施例1と同一条件で溶体化処理、水焼入れ、ハイドロ成形、人工時効処理を行い、試験材12〜18を得た。
【0030】
得られた試験材に対し、実施例1と同一条件で長手中央部(最大外周長位置)でビッカース硬さ測定、断面マクロ組織観察、および表面残留応力測定を行った。試験結果を表6に示す。
表6にみられるように、試験材12はSi量が下限未満、試験材13はMg量が下限未満であるため、いずれもビッカース硬さが小さかった。試験材14はSi量が上限を超え、試験材15はMg量が上限を超え、試験材16はCu量が上限を超えたため、ハイドロ成形で割れが発生し、試験材を作製できなかった。試験材17はMnおよびCrを含有しないため、ハイドロ成形前の素材の結晶粒が大きくなりすぎ、ハイドロ成形で割れが発生し、試験材を作製できなかった。試験材18はMn、Cr量が上限を超えたため、鋳造時に生成した粗大晶出物によって、ハイドロ成形中に割れが生じ、試験材を作製できなかった。
【0031】
【表5】

【0032】
【表6】

【0033】
(比較例2)
表1に示す合金Cの組成を有するアルミニウム合金鋳塊を用いて、ポートホール押出により作製した外径58mm、厚さ2.8mm、長さ750mmのO調質のアルミニウム合金管材を用い、長手中央部の形状および全体の長さが表7に示す形状になるよう、表7に示す条件で溶体化処理、水焼入れ(室温)、ハイドロ成形、人工時効処理を行い、試験材19〜26を得た。このとき最終の形状は、管端から50mmの位置が幅58mm、高さ58mm、厚さ2.8mmの角パイプ形状であり、長手方向中央部にかけてテーパー状に幅が変化するものとした。
【0034】
得られた試験材に対し、実施例1と同一条件で長手中央部(最大外周長位置)でビッカース硬さ測定、断面マクロ組織観察、および表面残留応力測定を行った。試験結果を表8に示す。
表8にみられるように、試験材19はハイドロ成形における周長増加率の最大値が上限を超えたため,ハイドロ成形で割れが発生し、試験材を作製できなかった。試験材20は溶体化処理温度が下限未満のため、硬さが小さくなった(実施例1の試験材3との比較)。試験材21は溶体化処理温度が上限を超えたため、溶体化処理で材料が溶融した。試験材22は溶体化処理の保持時間が下限未満のため、硬さが小さくなった(実施例1の試験材3との比較)。試験材23は人工時効処理温度が下限未満であり、試験材24は人工時効処理時間が下限未満であるため、いずれも硬さが小さくなった(実施例1の試験材3との比較)。試験材25は人工時効処理温度が上限を超え、試験材26は人工時効処理時間が上限を超えたため、いずれも過時効になり、硬さが小さくなった(実施例1の試験材3との比較)。
【0035】
【表7】

【0036】
【表8】

【0037】
(比較例3)
表1に示す合金Cの組成を有するアルミニウム合金鋳塊を用いて、ポートホール押出により作製した外径58mm、厚さ2.8mm、長さ750mmのO調質のアルミニウム合金管材を用い、溶体化処理および焼入れを行わずに、管端から50mmの位置が幅58mm、高さ58mm、厚さ2.8mmの角パイプ形状であり、長手中央部にかけてテーパー状に幅が変化し、長手中央部が幅76mm、高さ58mm、厚さ2.8mmの角パイプ形状で、全体の長さが545mmになるように、軸方向に圧縮力を付与しながら、室温でハイドロ成形を行った(周長増加率の最大値:47%)。ハイドロ成形により得られた中空異形材に対して、大気炉を用いて530℃まで5分で昇温し、10分間保持することで溶体化処理を行った後、室温の水中に焼入れを行った。焼入れ後、ハイドロ成形を行わずに、大気炉を用いて180℃まで昇温し、8時間保持することで人工時効処理を行い、常温まで冷却して試験材27を得た。
【0038】
得られた試験材に対し、実施例1と同一条件で長手中央部(最大外周長位置)でビッカース硬さ測定、断面マクロ組織観察、および表面残留応力測定を行った。試験結果を表9に示す。
表9にみられるように、試験材27は溶体化処理後にハイドロ成形を行わなかったため、外表面に引張残留応力が発生した。
【0039】
【表9】

【0040】
(比較例4)
表1に示す合金Bの組成を有するアルミニウム合金鋳塊を用いて、ポートホール押出により作製した外径58mm、厚さ2.8mm、長さ750mmのO調質のアルミニウム合金管材を用い、溶体化処理および焼入れを行わずに、管端から50mmの位置が幅58mm、高さ58mm、厚さ2.8mmの角パイプ形状であり、長手中央部にかけてテーパー状に幅が変化し、長手中央部が幅76mm、高さ58mm、厚さ2.8mmの角パイプ形状で、全体の長さが545mmになるように、軸方向に圧縮力を付与しながら、室温でハイドロ成形を行った(周長増加率の最大値:47%)。ハイドロ成形により得られた中空異形材に対して、大気炉を用いて580℃まで5分で昇温し、10分間保持することで溶体化処理を行った後、室温の水中に焼入れを行った。焼入れ後、ハイドロ成形を行わずに、大気炉を用いて180℃まで昇温し、8時間保持することで人工時効処理を行い、常温まで冷却して試験材28を得た。
【0041】
得られた試験材に対し、実施例1と同一条件で長手中央部(最大外周長位置)でビッカース硬さ測定、断面マクロ組織観察、および表面残留応力測定を行った。試験結果を表10に示す。
表10にみられるように、試験材28は溶体化処理後にハイドロ成形を行わなかったため、1000μm以上の粗大再結晶粒が生成し、外表面に引張残留応力が発生した。
【0042】
【表10】

【0043】
(比較例5)
表1に示す合金Gの組成を有するアルミニウム合金鋳塊を用いて、ポートホール押出により作製した外径58mm、厚さ2.8mm、長さ750mmのO調質のアルミニウム合金管材を用い、実施例1に示す形状および工程で溶体化処理、水焼入れ、ハイドロ成形、人工時効処理を行い、試験材29を得た。このとき、焼入れしてからハイドロ成形を行うまでの時間を30時間とし、それ以外の製造工程における処理条件は実施例1と同一とした。
【0044】
得られた試験材に対し、実施例1と同一条件で長手中央部(最大外周長位置)でビッカース硬さ測定、断面マクロ組織観察、および表面残留応力測定を行った。試験結果を表11に示す。
表11にみられるように、試験材29は焼入れ後、ハイドロ成形を行うまでの時間が上限を超えたため、ハイドロ成形で割れが発生し,試験材を作製できなかった。
【0045】
【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al−Mg−Si系アルミニウム合金からなるアルミニウム合金中空異形材であって、該中空異形材はその断面形状が該中空異形材の長手方向において変化しており、かつ、該中空異形材の外表面において圧縮残留応力を有することを特徴とする疲労強度に優れたアルミニウム合金中空異形材。
【請求項2】
さらに断面内全域において1000μm以上の大きさの粗大再結晶粒が存在しないことを特徴とする請求項1に記載の疲労強度に優れたアルミニウム合金中空異形材。
【請求項3】
Al−Mg−Si系アルミニウム合金がMg:0.3〜1.5%(質量%、以下同じ)、Si:0.3〜1.5%、Cu:0.5%以下(0%を含む)を含有し、さらにMn:0.30%以下(0%を含まず)、Cr:0.15%以下(0%を含まず)のうち1種または2種を含有し、残部が不可避不純物およびアルミニウムからなることを特徴とする、請求項1または2に記載の疲労強度に優れたアルミニウム合金中空異形材。
【請求項4】
Al−Mg−Si系アルミニウム合金からなる押出管を用い、450〜580℃の温度で1分以上保持することにより溶体化処理を行い、その直後に焼入れを行い、焼入れ後24時間以内に周長増加率の最大値が50%以下のハイドロ成形を行い、その後150〜200℃の温度で2〜24時間の人工時効処理を行うことを特徴とする、疲労強度に優れたアルミニウム合金中空異形材の製造方法。

【公開番号】特開2012−172176(P2012−172176A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33483(P2011−33483)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(592124344)株式会社 協栄製作所 (17)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)