説明

疲労試験装置

【課題】供試物におけるクラック等の疲労破壊の有無を検査するために供試物を振動させる疲労試験装置において、所定の振動サイクルに達する前に供試物が共振しなくなった場合に、供試物を取り外すことなく、供試物におけるクラック等の発生を検出することができるようにする。
【解決手段】一定周期の断続的な圧力波を供試物101に当てて供試物101を振動させる非接触加振器4と、供試物101の変位を計測する変位センサ9,10と、非接触加振器4より発せられる圧力波を計測する圧力センサ14と、圧力センサ14からの出力から供試物101の共振周波数に対応する周波数成分を抽出するバンドパスフィルタ15と、バンドパスフィルタ15を経た圧力センサ14からの出力を参照信号として変位センサ9,10からの出力を計測して供試物101の振動の位相を検出する計測回路11,13とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェットエンジンを含むガスタービン等の圧縮機やタービンの翼部品等の供試物における疲労強度を確認するために、供試物を振動させる疲労試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1及び特許文献2に記載されているように、共振現象を利用した非接触の疲労試験装置が提案されている。この疲労試験装置においては、図4に示すように、固定治具102により基端側を固定された供試物(翼部品等)101に対して、高周波モータ103により駆動されるパルス発生部104から発せられる高周波パルス状の圧力波を当てる。
【0003】
パルス発生部104は、いわゆるサイレン式エアパルス発生器であり、多数の孔が設けられたステータ及びロータを備えている。このパルス発生部104は、流量調整弁105を経てエア配管106より空気が供給されるとともに、ロータが高周波モータ103により高速で回転されることにより、パルス状の圧力波を発生する。
【0004】
流量調整弁105は、コントローラ107により流量の制御をされる。高周波モータ103は、インバータ108を介して、コントローラ107により回転数の制御をされる。
【0005】
供試物101は、パルス状の圧力波により振動する。このとき、圧力波の圧力変化の周波数(加振周波数)が供試物101の共振周波数に一致するように調整され、供試物101の振動周波数は、共振周波数となる。また供試物101の加振レベルは、エアの流量を流量調整弁5により調整する。このような共振周波数及び加振レベルの調整は、手動調整により行なっている。
【0006】
供試物101の振動は、レーザ変位計等の非接触変位計(またはレーザドップラ等の速度計)109及び歪みゲージ110により計測される。レーザ変位計109による振幅の計測結果は、FFTアナライザ111に送られる。一方、歪みゲージ110からの出力は、動歪み計112を経て、動歪みの信号出力としてFFTアナライザ111に送られる。その後、FFTアナライザ111による解析結果は、コントローラ107に送られる。
【0007】
供試物101の振幅を一定に保ち、高サイクル(10サイクル程度)の振動をさせている間に、供試物101にクラック等の疲労破壊が生じているかを確認する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−028976号公報
【特許文献2】特開2003−270081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前述のような疲労試験装置において、所定の振動サイクルに達する前に供試物101が共振しなくなった場合には、加振周波数を微調整して加振レベルの回復を確認したり、または、供試物101にクラックが発生しているか否かを非破壊検査(蛍光浸透探傷等)により確認しないと、試験続行ができなかった。
【0010】
非破壊検査をするには、供試物101を固定治具102から取り外さなければならず、その後に再び供試物101を固定治具102に取り付けたときには、固定状態や振幅モニター位置が微妙に変化して振動状態も変化してしまう虞がある。
【0011】
そこで、本発明は、前述した実情に鑑みて提案されるものであって、供試物における疲労強度をを確認するために、供試物を振動させる疲労試験装置であって、所定の振動サイクルに達する前に供試物が共振しなくなった場合に、供試物を取り外すことなく、供試物におけるクラック等の発生を検出することができる疲労試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の課題を解決し、前記目的を達成するため、本発明に係る疲労試験装置は、供試物における疲労強度を確認するために該供試物の共振周波数において該供試物を振動させる疲労試験装置であって、一定周期の圧力波を供試物に当てて該供試物を振動させる非接触加振器と、非接触加振器により振動されている供試物の振動変位(または速度)を計測する変位センサ(または速度センサ)と、非接触加振器より発せられる圧力波を計測する圧力センサ(またはマイクロフォン等の音圧計)と、圧力センサからの出力から供試物の共振周波数に対応する周波数成分を抽出するバンドパスフィルタと、バンドパスフィルタを経た圧力センサからの出力を参照信号として変位センサからの出力を計測して供試物の振動振幅と位相を検出する計測回路とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る疲労試験装置においては、供試物を振動させる非接触加振器と、供試物の振動変位(または速度)を計測する変位センサ(または速度センサ)と、非接触加振器より発せられる圧力波を計測する圧力センサ(またはマイクロフォン)とを備え、計測回路が、バンドパスフィルタを経た圧力センサからの出力を参照信号として変位センサからの出力を計測して供試物の振動振幅と位相を検出するので、応答信号の振幅と位相を高精度で分析でき、クラック等の疲労破壊の発生の有無及び発生時点を判断できる。
【0014】
また、位相変化を監視することにより、共振点追従も自動化することができる。すなわち、位相一定制御(モータ回転数の調整)を行なうことで、共振点自動追従が可能であり、さらに、加振力(エア流量)調整により振幅一定制御も可能である。
【0015】
したがって、この疲労試験装置においては、超々寿命域高サイクル疲労試験(例えば、ギガサイクルの疲労試験)を容易に短時間で実施することができる。
【0016】
なお、この疲労試験装置においては、非接触加振の特徴を維持しつつ、従来、加振信号が単一正弦波でないために参照信号として使用できなかったという問題を解決し、加振信号の高調波成分等をバンドパスフィルタにより取り除いて単一の正弦波信号に加工して参照信号としているので、2位相式のロックインアンプ等を用いて応答信号を分析できるようにしたものである。
【0017】
さらに、供試体には強制的にエアを吹き付けるので、常に空冷した状態での試験となり、供試体の温度上昇を抑えることができる。
【0018】
すなわち、本発明は、供試物における疲労強度を確認するために供試物を振動させる疲労試験装置であって、所定の振動サイクルに達する前に供試物が共振しなくなった場合に、供試物を取り外すことなく、供試物におけるクラック等の発生を検出することができる疲労試験装置を提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る疲労試験装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る疲労試験装置における2位相式ロックインアンプの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る疲労試験装置において、経過時間に対する振幅及び位相の変化を示すグラフである。
【図4】従来の疲労試験装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る疲労試験装置の構成を示すブロック図である。
【0022】
この疲労試験装置においては、図1に示すように、固定治具102により基端側を固定された供試物(翼部品等)101に対して、高周波モータ3により駆動される非接触加振器となるパルス発生部4から発せられるパルス状の圧力波を当てる。
【0023】
パルス発生部4は、いわゆるサイレン式エアパルス発生器であり、多数の孔が設けられたステータ及びロータを備えている。このパルス発生部4は、流量調整弁5を経てエア配管6より空気が供給されるとともに、ロータが高周波モータ3により高速で回転されることにより、圧力波を発生する。
【0024】
流量調整弁5は、コントローラ7により流量の制御をされる。高周波モータ3は、インバータ8を介して、コントローラ7により回転数の制御をされる。高周波モータ3の回転数は、例えば、55000rpm程度である。
【0025】
供試物101は、パルス状の圧力波により振動する。このとき、圧力波の圧力変化の周波数(加振周波数)が供試物101の共振周波数に一致するように調整され、供試物101の振動周波数は、共振周波数となる。
【0026】
供試物101の振動(変位)は、変位センサとなるレーザ変位計9及び歪みゲージ10により計測される。レーザ変位計9による振幅の計測結果は、計測回路となる第1の2位相式ロックインアンプ11に送られる。歪みゲージ10からの出力は、動歪み計12を経て、動歪み計の出力信号として、計測回路となる第2の2位相式ロックインアンプ13に送られる。
【0027】
そして、圧力波の圧力変化の周波数(加振周波数)は、圧力センサ(またはマイクロフォン等の音圧センサ)14により検出される。加振周波数には、供試物101の共振周波数に等しい主成分の周波数の他に、高周波成分が含まれている。そのため、圧力センサ14からの出力は、プログラマブルフィルタ(バンドパスフィルタ)15を経て、主成分の周波数のみが抽出されて、参照信号として、第1及び第2の2位相式ロックインアンプ11,13に送られる。
【0028】
プログラマブルフィルタ15の特性は、供試物101の共振周波数を中心として、±5%程度の周波数帯域を通過させるものであることが望ましい。プログラマブルフィルタ15の特性は、高周波モータ3の回転数に連動して、コントローラ7により制御され、調整される。
【0029】
第1の2位相式ロックインアンプ11は、プログラマブルフィルタ15を経た圧力センサ14からの出力を参照信号として、供試物101の振動変位の振幅及び位相を解析し、振幅及び位相の計測結果をコントローラ7に送る。第2の2位相ロックインアンプ13は、プログラマブルフィルタ15を経た圧力センサ14からの出力を参照信号として、供試物101の動歪みの振幅及び位相を解析し、動歪みの振幅及び位相の計測結果をコントローラ7に送る。
【0030】
また、供試物101の先端部は、CCDカメラ16により撮像され、モニタ17により先端振幅が確認できるようになっている。
【0031】
図2は、本発明に係る疲労試験装置における2位相ロックインアンプの構成を示すブロック図である。
【0032】
第1及び第2の2位相ロックインアンプ11,13においては、図2に示すように、圧力センサ14からの圧力変動を示す信号(sin(ωt))がプログラマブルフィルタ15を介することで余分な成分が取り除かれ、この信号が参照信号(sin(ωt))として第1のミキサ18に入力されるとともに、90°の位相シフタ20を介して、位相シフトされた信号(cos(ωt))として第2のミキサ19に入力される。
【0033】
一方、レーザ変位計等の変位計(または速度計)9及び歪みゲージ10からの変位振幅及び動歪みを示す信号(主成分としてはAsin(ωt+α))が、第1及び第2のミキサ18,19に入力される。第1及び第2のミキサ18,19からの出力は、それぞれローパスフィルタ21,22を経て、それぞれの信号(X=(A/2)cos(α)、Y=(A/2)sin(α))が演算回路23に送られる。
【0034】
演算回路23は、各信号(X=(A/2)cos(α)、Y=(A/2)sin(α))に基づいて、振幅(R)及び位相(α)を演算する。
【0035】
この疲労試験装置においては、供試物101の振幅を一定に保ち、試験サイクル数(10サイクル等)を負荷し、変化なくサイクル数に達するか、供試物101にクラック等の疲労破壊が生じているかを確認する。そして、この疲労試験装置においては、所定の振動サイクルに達する前に供試物101が共振しなくなった場合には、供試物101を固定治具102から取り外すことなく、供試物101におけるクラック等の発生を検出することができる。
【0036】
図3は、本発明に係る疲労試験装置において、経過時間に対する振動変位の振幅及び位相の変化を示すグラフである。
【0037】
すなわち、図3に示すように、加振開始からの経過時間に対する振動変位の振幅及び位相の変化を監視していると、供試物101にクラック等の疲労破壊が生じたときに、振動変位の振幅及び位相が急激に変化する。このときの経過時間を加振周期で除すれば、疲労破壊が生じたときの振動サイクル、すなわち、何回振動したときにクラックが発生したかを特定することができる。
【0038】
なお、本発明に係る疲労試験装置においては、位相変化を監視することにより、共振点追従も自動化することができる。すなわち、位相一定制御(モータ回転数の調整)を行なうことで、共振点自動追従が可能であり、さらに、加振力(エア流量)調整により振幅一定制御も可能である。
【0039】
また、本発明の実施の形態においては、振動変位と動歪みの関係を正確に求めるため、これらを同時に計測する構成を記載したが、レーザ変位計等を用いて、振動変位のみを計測する構成としてもよい。
【0040】
本発明において、計測回路は、圧力センサ14からの出力を参照信号として、各変位センサ9,10からの出力を計測して、供試物101の振動の位相を検出することでできる回路であれば、2位相式ロックインアンプに限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、ジェットエンジンを含むガスタービン等の圧縮機やタービンの翼部品等の供試物における疲労強度を確認するために、供試物を振動させる疲労試験装置に適用される。
【符号の説明】
【0042】
4 パルス発生部
9 レーザ変位計
10 歪み計
14 圧力センサ
15 プログラマブルフィルタ
11 第1の2位相式ロックインアンプ
13 第2の2位相式ロックインアンプ
101 供試物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試物における疲労強度を確認するために該供試物の共振周波数において該供試物を振動させる疲労試験装置であって、
一定周期の圧力波を前記供試物に当てて、該供試物を振動させる非接触加振器と、
前記非接触加振器により振動されている前記供試物の振動変位を計測する変位センサと、
前記非接触加振器より発せられる圧力波を計測する圧力センサと、
前記圧力センサからの出力から前記供試物の共振周波数に対応する周波数成分を抽出するバンドパスフィルタと、
前記バンドパスフィルタを経た前記圧力センサからの出力を参照信号として、前記変位センサからの出力を計測して、前記供試物の振動振幅と位相を検出する計測回路と
を備えたことを特徴とする疲労試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−149979(P2012−149979A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8508(P2011−8508)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】