説明

病気に関連するタンパク質のレベルを減少させる方法

本発明は、ケトン食療法、身体トレーニング療法、および/または、脂肪酸の酸化を増加させる物質の投与のようなケトン体生成による治療の使用による、哺乳動物のニューロンにおけるタンパク質凝集の減少に関する。このようなケトン体生成による治療は、アミロイドβペプチド、ポリグルタミンを含むハンチンチンタンパク質、ポリグルタミンを含むアンドロゲン受容体、ポリグルタミンを含むアトロフィン−1、ポリグルタミンを含むアタキシン、α−シヌクレイン、プリオンタンパク質、タウおよびスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)などの特定の凝集体の減少において有用な可能性がある。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、哺乳動物における蓄積したタンパク質の減少に関する。特に、本発明は、哺乳動物におけるアミロイドベータペプチドの減少に関し、その他のタンパク質の蓄積に関連する病気、例えばハンチントン病、パーキンソン病、プリオン病、タウ病変、筋萎縮側索硬化症などに適用可能である。
【0002】
発明の背景
タンパク質産物の蓄積に関連する病気が多数存在する。例えばアルツハイマー病は、アミロイドベータペプチドの蓄積に関連する。ハンチントン病は、ハンチンチンタンパク質のポリグルタミンを含む凝集体の蓄積に関連する。家族性パーキンソン病は、アルファ−シヌクレインの凝集体に関連する。プリオン病は、プリオンタンパク質(PrP)の凝集体に関連する。筋萎縮側索硬化症は、突然変異スーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)タンパク質の蓄積に関連する。現状では、これらの病気の有効な治療または予防措置はない。一般的な見解に反して、発明者は新たに、前記病気の治療には高脂肪/低炭水化物の(ケトン体生成)食物が有効であると予想されることを見出した。
【0003】
アルツハイマー病
アルツハイマー病(AD)は、主として高齢者を襲う進行性の神経変性障害である。ADは非常に蔓延しており、75〜84歳の47%もの人々に影響を及ぼしている(Evans等,Jama,1989,262:2551〜6)。ADの臨床経過は、典型的には70歳代または80歳代で発症し、記憶、言語および空間能力の障害を特徴とし、これらはいずれも病気の進行と共に悪化する。ADは、不安やうつ病のような行動上の症状を伴うことが多い。ADは、病理学的には、老人斑の蓄積、異栄養性の軸索突起、神経原線維変化、加えて、総体的な構造変化、例えば海馬、基底核およびその他の領域におけるニューロンの損失を特徴とする。有効な治療法はなく、この病気は常に死ぬまで進行し続ける。
【0004】
老人斑の解析により、老人斑にはアミロイド前駆タンパク質(APP)の切断から誘導されたアミロイド性ペプチドAβが大量に含まれることが明らかになった。その後、APPにおける突然変異から、家族性ADの症例で原因となることが見出された。加えて、APP、および、プレセニリン遺伝子(PS1およびPS2)における突然変異から、より多くのAβ(Aβ42)タイプのアミロイドの生成が増加することが見出された。病理学と遺伝学との関連により、AβがAD原因論の中核であるという仮説が導き出されている(概説として、Selkoe,J.Neruopathol.Exp.Neurol,1994,53:438〜447を参照)。しかしながら、近年の証拠から、APPは小胞輸送タンパク質として機能しており、すなわちこの病気の原因論にAβペプチドの毒性は関与していない可能性があるが、その代わりに、軸索内でAPPが効率的に小胞に移動できないことによって引き起こされることが実証されている(Stokin等,Science,2005,307:1282〜8)。このようなデータから、アミロイドカスケード説の多くに疑問が持たれている。
【0005】
正確なAD原因論は不明瞭なままであるが、病理学と遺伝学の双方から、APP、および、ADにおけるそれらのプロセシング機構において明らかな役割を有することが示唆されている。具体的には、証拠の大部分から、Aβの蓄積は、少なくともこの病気マーカーとして役立つことが実証されている(Selkoe,Ann Intern Med,2004,140:627〜38を参照)。従って、可能性がある治療法として、Aβ生産を制限するか、またはAβの排除を強化する方策が調査されている。例えばADのマウスモデルにおいて、免疫が介在する排除によってAβレベルを減少させると認知能力が改善されるが、これは、Aβの減少は、この病気の有効な治療として役立つ可能性があることを示唆している(Schenc等,Nature,1999,400:173〜7)。遺憾ながら、ヒトにAβを接種させると中枢神経で炎症を引き起こし、臨床試験を中止しなければならなかった(Robinson等,Neurobiol Aging,2004,25:609〜15)。それゆえに、ADの治療が極めて強く要望されている。
【0006】
高脂肪の食物とアルツハイマー病との関連
数人の著者が、ADとAβの蓄積の原因は食事の要因にあるとしている。具体的には、高脂肪の食物は、ADを発症させる危険を高めるとして再三関連が示されているが、一方で、低脂肪の食物は、予防効果があるであると提唱されている(Grant,Alz,Dis.Rev.,1997,42〜55;Kalmijn等,Ann Neurol,1997,42:776〜82)。例えば、Kalmijn等は、オランダのロッテルダムの居住者5,386人の食習慣を試験し、以下のように述べている:「年齢、性別、教育およびエネルギー摂取量の調節を行った後に、以下の栄養素の高摂取量は、認知症の危険の増加に関連していた:脂肪の総量(RR=2.4[1.1〜5.2])、飽和脂肪の総量(RR=1.9[0.9〜4.0])、および、コレステロールの総量(RR=1.7[0.9〜3.2])。この研究から、飽和脂肪およびコレステロールの高い摂取量は、認知症の危険を高めるが、それに対して、魚類の消費は、この危険を減少させる可能性があることが示される」。(Kalmijn等,Ann Neurol,1997,42:776〜82)。この関連は、その他の人口統計的研究でも裏付けられているようである。例えば、Morris等は、65歳より高い年齢の815人の被検者の食習慣、および、その後の認知症の発症と相関性を有する主要栄養素の摂取を研究している。これらの著者は、飽和脂肪の摂取は、認知症の危険を高める可能性があると結論付けている(Morris等,Arch Neurol,2003,60:194〜200)。
【0007】
加えて、脂質が豊富な食物とADとの関連が、いくつかのマウスでの研究で裏付けられているようである(Ho等,Faseb J,2004,18:902〜4;Refolo等,Nenrobiol Dis,2000,7:321〜31)。Refolo等とGeorge等はいずれも、標準的な食物に高レベルのコレステロールを添加した高コレステロール食を試験している。Refolo等は、家族性AD突然変異ヒトAPP(K670N,M671L)遺伝子を発現するトランスジェニックマウス(Tg2576)と、ヒト家族性突然変異体PS1(M146V)遺伝子を発現するマウスとを交雑し、ダブルトランスジェニックPSAPP動物を形成した。7匹のPSAPP動物に標準的な食物(ピューリナ(Purina)試験食番号5755C:0.005%コレステロール、10%脂肪および3.6kcal/g)を給餌し、9匹に、高コレステロール食(ピューリナ試験食番号5801C:5%コレステロール、10%脂肪、2%コール酸ナトリウム、および、5.2kcal/g)を給餌した。血清とCNSの両方におけるAβレベルを測定した。研究者は、以下のように結論付けている:「我々のデータによれば、食物によって誘導された高コレステロール血症によって、CNSにおいて有意に高いレベルのギ酸で抽出可能なAβペプチドが生成することが示された。その上、総Aβのレベルは、血漿とCNS両方の総コレステロールレベルと強い相関性を有していた」。(Refolo等,Neurobiol Dis,2000,7:321〜31)。
【0008】
Ho等は、類似のADマウスモデルで高脂肪の食物を研究している。Ho等は、雌のTg2576(APPK670N、M671L)マウスを、標準的なげっ歯類用食物(10%脂肪、70%炭水化物、20%タンパク質)、または、高脂肪の食物(60%脂肪、20%炭水化物、20%タンパク質)のいずれかで9ヶ月飼育し、次に、脳中のAβレベルを試験した。Ho等は、高脂肪の食物は、Aβの蓄積量を標準的な食物と比較して2倍を超えて高めると報告している(Ho等,Faseb J,2004,18:902〜4)。
【0009】
高脂肪の食物と認知能力の減少との関連
ラットにおける研究は、高脂肪の食物の消費量と、低い認知能力とを関連づけている。一連の研究において、ラットに飽和脂肪と多価不飽和脂肪の両方が豊富な食物を給餌し、数種の試験によって認知能力を測定した。脂肪の摂取量が食事の20重量%より多い場合、ラットは、オルトン(Olton)の放射状のアミ迷路(ami maze)、条件付の連合学習と変動時間間隔の非空間的試験、遅延交代反応(VIDA)試験、ルール学習試験、および、記憶機能などの多種多様な作業においてより有意に低い性能を示した。動物に、低脂肪の食事(4.5重量%の脂肪)か、または、高脂肪の食事(20重量%の脂肪)のいずれかを給餌した。高脂肪の食物は、これらの試験全てにおいて評価が低く、全般的な認知機能の低下を示した(WinocurおよびGreenwood,Behav Brain Res,1999,101:153〜61)。
【0010】
加えて、高脂肪の食物は、脳損傷からの不十分な回復にも関与している(Wu等,Neuroscience,2003,119:365〜75)。動物に、標準的な食事または高脂肪の食事のいずれかを給餌し(エネルギーの39%が脂肪から誘導され、40%が炭水化物から誘導される)、この食餌療法の4週間後に、動物の1.5気圧の脳を、流体打診損傷(fluid percussion injury;FPI)で処理した。これらの動物に、試験用食物を7日より多い日数与え続け、その後、認知試験を行った。予想通りに、FPIによって、両方の群でモーリスの水迷路試験における性能が低下したが、このような欠陥は高脂肪が供給された群ではさらに悪化しており、すなわち高脂肪の食物は脳損傷からの回復に有害であるという示唆が得られる。
【0011】
上述のように、人口統計的研究とトランスジェニックマウス研究の双方から、高脂肪の食物は、認知症、特にADの危険を高めるという広く支持された考えが導き出された。例えば、Annual Review of Public Health,Haan and Wallace(2004)において、「血管性認知症とアルツハイマーによる認知症双方の危険に対する重要な影響として、II型糖尿病、高血圧、食事脂肪摂取、高コレステロールおよび肥満症のような血管の危険因子が出現している」と述べている。(HaanおよびWallace,Arum Rev Public Health,2004,25:1〜24)。
【0012】
パーキンソン病
パーキンソン病(PD)は、60歳を超える人において100人中1人の割合で罹患している一般的な神経変性疾患であり、米国における発病平均年齢は60歳である。臨床的には、PDは、手足の静止時振戦(すなわち、安静時に手足が震えること)、動作の遅さ(運動緩慢)、手足または胴体の固さ(硬直、受動運動に対する抵抗の増加)、および、バランスの悪さ(姿勢の不安定)を特徴とする。病理学的には、PDは、ドーパミン作動性ニューロン内のレヴィー小体と呼ばれる細胞質封入体の堆積を特徴とする。これらの封入体は、主として、PARK1遺伝子の生成物である、タンパク質のアルファ−シヌクレインで構成される。ADと同様に、アルファ−シヌクレインの蓄積が、この病気の少なくともいくつかの形態の原因となると考えられる(Taylor等,Science,2002,296:1991〜5)。PDの有効な治療はない。
【0013】
ADの場合と同様に、PDの症例のほとんどは、その原因を遺伝学的な突然変異に求めることができない。その代わりに、環境の影響が関連している。例えば、ADのように、PDは高脂肪の食物消費にも関連している。Johnson等は、126人のPD患者と、432人のコントロールの食習慣を調査した。患者およびコントロールの年齢、教育および肥満指数を調整し、食事に関する質問事項に答えるよう求めた。PD患者の脂肪摂取量は平均61.3グラムであったが、それに対してコントロール群では55グラムであった(p=0.056)。Johnson等は、総脂肪、飽和脂肪、コレステロール、ルテインおよび鉄を多く摂取することは、PDを発症するの危険を高めると結論付けている(Johnson等,Int J Epidemiol,1999,28:1102〜9)。
【0014】
ポリグルタミン病
ポリグルタミンをコードするDNA領域の拡張によって引き起こされる変性性の神経障害がいくつかある。このクラスの病気としては、ハンチントン病(HD;ハンチンチン)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA;アンドロゲン受容体)、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA;アトロフィン−1)、および、多数の脊髄小脳変性症(SCA;アタキシン)が挙げられる。これらの障害それぞれにおいて、反復CAGヌクレオチドのゲノム領域が拡張するようになり、ポリグルタミンまたはポリQと称されるアミノ酸のグルタミン(Q)反復の長い伸張を含むタンパク質が生産されるようになる(MichalikおよびVan Broeckhoven,Hum Mol Genet,2003,12 Spec No2:R173〜86)。
【0015】
ポリグルタミンを含むタンパク質は細胞内で凝集して、突然変異体タンパク質の不溶性の堆積を形成する。堆積それ自身が毒性なのか、または、影響を受けたタンパク質の正常な機能が干渉されて毒性なのかという疑問は不明のままである。しかしながら、堆積の生産の減少または排除は、この病気の改善に関連している。Yamamoto等は、前脳内に94回のポリQの反復を含むハンチンチン遺伝子の導入遺伝子を発現するエキソン1を作動させたり停止させたりすることができるマウスの誘導性の発現系を研究している(Yamamoto等,Cell,2000,101:57〜66)。この導入遺伝子が作動する場合、マウスは、進行性の運動機能障害、ニューロンの封入体、および、神経病理学的に典型的なHDを発症する。この導入遺伝子がその後停止した場合、動物の状態は改善され、すなわち運動機能障害は少なくなり、ニューロンの封入体は消失した。このような動物の健康状態の改善から、突然変異タンパク質の継続的な供給が病気の進行に必要であることが暗に示される。その上、このような実験から、突然変異タンパク質生産を減少させることは、病気を緩和する可能性があることも示唆される(Yamamoto等,Cell,2000,101:57〜66)。その他のポリQ関連の病気にも突然変異タンパク質の堆積が共通していることから、これは、このような病気と闘うための全体的な方策を暗に示す。
【0016】
プリオン病
神経変性疾患にはいくつかの形態があり、例えば、クロイツフェルト−ヤコブ病、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、および、致死性家族性不眠症などのプリオン病がある。臨床的には、プリオン病は、認知症、無秩序な運動、運動失調、および、不眠のような症状の大きな変動を示す。病理学的には、プリオン病は、プリオンタンパク質(PrP)を含むアミロイド物質の蓄積特徴とするという点で類似している。その他の病理学的特徴としては、海綿状の空胞形成、神経膠症、および、ニューロンの損失が挙げられる。PrPの蓄積は、正常な形態(PrP)が、異常な形態(PrPsc)に変換することによると考えられる。興味深いことに、異常なPrPscは、正常なPrPタンパク質を、異常な凝集したPrPscの形態に変換することが可能であると考えられている。多くの提唱されているプリオン病の感染経路は、この驚くべきPrPscのPrPを突然変異体の形態に変換する能力による。その他のタンパク質凝集による病気とは異なり、プリオンは、種を超えて経口感染可能であると考えられており、例えば、牛海綿状脳症(狂牛病)は、汚染された肉を消費することによってヒトに感染すると考えられている(概説としては、Taylor等,Science,2002,296:1991〜5を参照)。プリオン病の治療はみつかっていない。
【0017】
タウ病変
プリオン病と同様に、タウ病変と称される多数の状態がある。このような状態としては、ピック病、大脳皮質基底核変性症、進行性核上麻痺、および、筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン認知症症候群が挙げられる。これらの障害はそれぞれ、ニューロン内に線維化したタウを含む封入体に関連する。このようなタウ線維は、ADのようなその他の変性性の障害でも観察されている。前頭側頭認知症においてタウの原因的な役割が直接関与しており、ここで、タウ遺伝子における突然変異によりタウタンパク質の凝集が生じ、病気が発症する(Taylor等,Science,2002,296:1991〜5)。
【0018】
家族性筋萎縮性側索硬化症
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、急速に進行する常に死に至る運動ニューロンを攻撃する神経疾患である。臨床的には、ALSは、様々な次第に悪化する症状を有する筋衰弱を引き起こす。運動ニューロン機能の欠陥により、ALS患者は、移動、嚥下(嚥下困難)、および、話すこと(構音障害)が困難である。上位運動ニューロンの変性は、固く硬直した筋肉(痙縮)、および、反射の増大(反射異常亢進)、例えば過剰に活動する咽頭反射などから明らかである。下位運動ニューロンの変性としては、筋衰弱および萎縮、痙攣、ならびに単収縮(線維束性収縮)が挙げられる。最終的には、全ての随意筋が影響を受け、患者は腕、脚および体を動かすことができなくなる。さらに横隔膜および胸壁の筋肉も影響を受け、最終的に患者は人工呼吸器なしで呼吸することができなくなる。ALSに罹ったほとんどの人々は、通常、症状が発病してから3〜5年間以内に呼吸不全によって死亡する。
【0019】
ほとんどのALSのケースにおいて原因はわかっていないが、家族性のケースのおよそ20%は、SOD1タンパク質における突然変異に原因がある。これらの場合において、SOD1における突然変異は、タンパク質の凝集を引き起こす。その他のタンパク質凝集による病気と同様に、突然変異タンパク質は、ニューロン、および、グリア細胞内の封入体で見出されている。これらの累積的な証拠から、ALSは、有害な大量のタンパク質封入体の蓄積であるという点でその他のタンパク質凝集体による病気に類似していることが示され、従って、このようなタンパク質を除去する一般的なメカニズムが熱望されている。
【0020】
ケトン食療法
ケトン食療法は、カロリーを減少させることなく飢餓状態を模擬するように開発され、この療法は、ヒトにおけるてんかんを治療するために利用されてきた。てんかんを治療するのにケトン食療法を使用することに関する論理的説明は、絶食すると発作が減少するという紀元前5世紀まで遡る長期にわたる観察記録に基づく(概説としては、Lefevre and Aronson,Pediatrics,2000,105:E46を参照)。1920年代、ケトン食療法は、被検者において、血清ケトン体(β−ヒドロキシブチラート、アセトアセタート、および、アセトン)が高濃度で測定されるケトン症を長期間維持することによって、飢餓または絶食状態を模擬するように開発された。このような食餌療法は、炭水化物およびタンパク質を極めて少量しか含まず、カロリーのおよそ90%を脂肪から供給されるように考案された。低炭水化物および低タンパク質含量は、インスリンシグナル伝達を大いに減少させ、その結果、高レベルの脂肪酸の利用、および、ケトン体生産を誘導し、これは、ケトン食療法の顕著な特徴である。
【0021】
ケトン食療法の高脂肪含量により、ケトン食療法は十分なカロリーを供給するが、インスリンシグナル伝達は低く、それによって絶食状態が模擬される。低いインスリンシグナル伝達は、非脂肪細胞組織におけるリポタンパク質リパーゼ活性を高め、遊離の脂肪酸摂取、および、筋肉や肝臓のような組織による酸化を刺激する。肝臓において、大量の脂肪酸の酸化により高レベルのアセチル−CoAが生じ、これは次に、ケトン体を合成するのに利用される。肝臓はケトン体を代謝する酵素がないため、ケトン体は、血流に放出されて末梢組織で利用される。従って、血中の高いケトン体量は、グルコースの利用可能性の減少、および、低いインスリンシグナル伝達の状態の顕著な特徴である。
【0022】
高脂肪の食物と極めて類似しているが、ケトン食療法は、哺乳動物における認知機能の減少にも関連している。Zhao等は、低炭水化物、低タンパク質のケトン食療法でラットを飼育し、それらを数種の認知的作業に関して試験した。ケトン体生成の食事を受けたラットは、相当な悪化を示した。これらの研究において、ベータ−ヒドロキシブチラートの血清中濃度は、ケトン食療法群において有意に高かった(KD群は3.398+0.817mmol/Lであり、それに対して標準的な食事は0.348+0.07mM/L、p<0.001)。ケトン体生成の食事を摂取した動物は、モーリスの水迷路試験において劇的な悪化を示した(F=5.25、p=0.003)。総合すると、これらの研究から、著者は、「KDが供給されたラットは、SEの有無に関わらず、標準的な食物を給餌されたラットと比較して有意に視覚的な空間学習および記憶の機能が損なわれた」という結論に達した。(Zhao等,Pediatr Res,2004,55:498〜506)。
【0023】
従って、高脂肪の食物と認知症との関連のために、ケトン食療法は、タンパク質凝集による病気の治療としては調査されてこなかった。
発明の概要
本発明は、哺乳動物の脳におけるタンパク質凝集を減少させる方法に関する。この方法は、哺乳動物において、ケトン症またはケトン体生成の状態が所定期間引き起こされるように、ケトン体生成による治療を施すことを含む。このような治療は、哺乳動物の脳におけるタンパク質凝集を実質的に減少させることができる。さらに好ましい実施態様において、脳またはニューロンにおけるタンパク質凝集は、重量に基づき測定したところ、前処理の値に比べて、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%減少し、5%ずつの増加量で、100%まで減少する。一般的な絶食時の値より高い血清ケトン体濃度が保持される場合、ケトン症またはケトン体生成状態が達成される。典型的なヒトにおいて、一般的な絶食時の血清中のベータ−ヒドロキシブチラート(BHB)の範囲は、0.01mM〜0.2mMである。それゆえに、ケトン症またはケトン体生成の状態は、0.2mM、0.3mM、または、0.4mMより大きい血清BHB濃度とみなすことができ、特に好ましくは、1時間またはそれより長い期間継続する。
【0024】
ケトン症またはケトン体生成状態は、いくつかの手段によって達成でき、このような手段としては、例えば食物、身体トレーニング療法、および/または、脂肪酸の酸化を増加させる物質の投与などが挙げられる。
【0025】
ケトン体生成による治療が食餌療法である場合、この治療は、典型的には、食事中の炭水化物量の減少、および、食事中の脂肪の増加を含む。典型的なケトン食療法は、カロリーの90%が脂肪から得られるように、低炭水化物および低タンパク質を使用している。この論理的説明は、タンパク質の摂取は、血清アミノ酸濃度を高め、それにより、インスリンの放出を刺激し、ケトン体生成状態を抑制すると予想されることである。しかしながら、タンパク質の作用は比較的低いため、実際にはタンパク質は限定しなくてもよい。ケトン症は、高タンパク質であるが炭水化物含量は低い食物を消費すると達成できる。従って、食物によるケトン体生成による治療は、炭水化物のみを制限した、または、それに加えてタンパク質の制限も組み合わせた高い脂質摂取を意味する。炭水化物の減少は、血清インスリンシグナル伝達を減少させ、それによって順に、タンパク質代謝を変化させる。
【0026】
本明細書で考察されるように、本発明のケトン体生成による治療によって生じたインスリンシグナル伝達の減少により、タンパク質合成の減少、および、タンパク質分解の増加が起こる。活性インスリンシグナル伝達は、タンパク質合成全体を促進し、タンパク質分解を阻害する。例えば、ラットにおいてインスリン濃度を減少させると、筋肉細胞におけるタンパク質合成が40%減少する(総論として、LiuおよびBarrett,Am J Physiol Endocrinol Metab,2002,283:E1105〜12を参照)。タンパク質合成の減少は、タンパク質翻訳の開始の調節によって起こる。この調節はメッセンジャーRNAの5’末端で起こり、AUG開始部位におけるリボゾーム複合体の構築に影響を与える。この調節は、典型的には、2種の主要なタンパク質、すなわちリボソームタンパク質S6キナーゼ(S6K1)、および、真核性の開始因子4E結合タンパク質(EF−BP1)の改変によって起こる。S6K1は、リボソームタンパク質S6をリン酸化するプロテインキナーゼである。リン酸化S6は、翻訳機構をコードする一連のメッセンジャーRNAの翻訳を増加させることによって、S6を活性化し、それによりリボソーム数の増加と全般的なタンパク質合成の増加が起こる。EF−PB1は、eIF4Eに結合することによってタンパク質合成の阻害剤として作用し、従って、翻訳機構の構築が妨害される。
【0027】
インスリンシグナル伝達によって開始したキナーゼカスケードにより、S6K1とEF−4BP双方のリン酸化状態の改変が起こる。インスリンシグナル伝達はS6K1のリン酸化を刺激し、その活性を高め、リン酸化S6のレベルを高める。またインスリンシグナル伝達によってもEF−4BPのリン酸化が生じ、eIF4Eとの相互作用を崩壊させ、それによってeIF4Eを翻訳複合体の構築に参加させる(Shah等,Am J Physiol Endocrinol Metab,2000,279:E715〜29)。総合すると、これらの2つのメカニズムにより、インスリンシグナル伝達によるタンパク質合成の相乗作用が生じる。
【0028】
インスリンシグナル伝達がタンパク質分解を阻害するメカニズムは十分に理解されていない。しかしながら、インスリンを取り除くことによってタンパク質分解が促進されることは明白である。インスリン除去した場合のタンパク質分解の増加は、ユビキチンおよびプロテオソーム成分のアップレギュレーションに関与する可能性があり、または、場合によってはTORキナーゼの不活性化にも関与する可能性がある(概説としては、Kimball等,J APPl Physiol,2002,93:1168〜80;LiuおよびBarrett,Am J Physiol Endocrinol Metab,2002,283:E1105〜12を参照)。
【0029】
また、インスリンシグナル伝達の減少も細胞の脂質代謝を高め、それにより、ニューロン内の脂質のホメオスタシスが改善され、APPのような脂質感受性タンパク質の機能を改善する。例えば、脳ニューロンにおける脂肪酸の重要性にもかかわらず、成人の脳では脂肪酸のデノボ合成はほとんど起こらない。ほとんどの脂肪酸は、脂肪酸輸送タンパク質の使用によって、血漿からリン脂質または非エステル化遊離脂肪酸として導入される。CNSで要求される脂肪酸の重要なクラスの1つは、必須脂肪酸(EFA)である。EFA、例えばドコサヘキサエン酸(DHA)は、ニューロン膜のリン脂質で広範囲にわたり見出されている。インスリンシグナル伝達による脂質代謝の阻害は、血清EFAレベルを減少させ、それにより理想的ではない脂肪酸の脂質膜への置換が起こる予想される。このような膜組成の変更は、膜タンパク質の活性と機能化を妨害すると予想される。ケトン体生成による治療を施すことによって、インスリンシグナル伝達を低め、血清EFAレベルを高め、それによって適切なニューロン膜組成を促進すると予想される。
【0030】
脂質のホメオスタシスにおける障害に感受性を有する重要なタンパク質の1種は、APPである。過量のコレステロール、および、変更された膜のリン脂質組成により、APPの異常な切断の増加、および、APP機能の損失が生じる。従って、低炭水化物の食物により、高い血清EFAレベル、および、改善されたニューロン内のAPP機能が生じると予想される。ケトン体生成による食餌療法の好ましい実施態様において、炭水化物レベルは、特に好ましくは総カロリーの20%、15%、10%、5%または2%未満の量に制限される。
【0031】
その代わりの実施態様において、ケトン体生成による治療は、脂肪酸の酸化を高める物質の投与を含んでいてもよく、これは単独でもよいし、または、その他のケトン体生成による治療と組み合わせてもよい。脂肪酸の利用を高める物質の例は、これらに限定されないが、L−カルニチン、カフェイン、マオウのアルカロイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、スタチン系薬剤(例えば、リピトール(Lipitor(R))、および、ゾコール(Zocor(R)))、および、フィブラートからなる群より選択される。
【0032】
カルニチンは、脂肪酸成分を酸化のためにミトコンドリアに輸送するために利用される。従って、本発明において、ケトン体生成による治療は、カルニチン投与を(脂肪酸の利用を高めるのに必要な用量で)含んでいてもよく、カルニチンは単独でもよいし、または、その他のケトン体生成による治療と組み合わせてもよい。L−カルニチンの投与量は、宿主の状態、送達方法、および、当業者既知のその他の要因に従って様々であると予想され、血中ケトン濃度を上昇させてケトン体生成状態を誘導するのに十分な量であると予想される。本発明で使用可能なL−カルニチン誘導体としては、これらに限定されないが、デカノイルカルニチン、ヘキサノイルカルニチン、カプロイルカルニチン、ラウロイルカルニチン、オクタノイルカルニチン、ステアロイルカルニチン、ミリストイルカルニチン、アセチル−L−カルニチン、O−アセチル−L−カルニチン、および、パルミトイル−L−カルニチンが挙げられる。
【0033】
カフェインおよびマオウのアルカロイドは、一般的に使用される市販の栄養補助食品である。マオウのアルカロイドは、一般的に、麻黄(シナマオウ(Ephedra sinica))のような植物源から誘導される。カフェインとマオウの組み合わせは、脂肪の利用を刺激する。マオウのアルカロイドは、アドレナリンと構造が類似しており、細胞表面上のベータ−アドレナリン受容体を活性化する。これらのアドレナリン受容体は、サイクリックAMP(cAMP)を介してシグナル伝達し、脂肪酸の利用を増加させる。cAMPは、通常、ホスホジエステラーゼ活性によって分解される。カフェインの機能の1つは、ホスホジエステラーゼ活性を阻害し、それによってcAMPが介在するシグナル伝達を増加させることである。それゆえに、カフェインは、マオウアルカロイドの活性の有効性を高める。従って、本発明は、毒性タンパク質の細胞での蓄積を減少させるためのマオウのアルカロイドの使用を含み、これは、単独でもよいし、または、その他のケトン体生成による治療と組み合わせてもよい。加えて、本発明は、細胞のタンパク質凝集体およびそれに伴う状態の治療または予防のための、マオウのアルカロイドとカフェインとの併用を含んでいてもよい。さらに本発明は、細胞のタンパク質凝集体およびそれに伴う状態の治療または予防を提供するための、その他のケトン体生成による療法を併用した、マオウのアルカロイドおよびカフェインの使用を含んでいてもよい。
【0034】
NSAIDは、PPAR−ガンマアゴニストとして部分的に機能する。PPAR−ガンマ活性を増加させると、FATPのような脂肪酸代謝に関連する遺伝子の発現が増加する。従って、PPAR−ガンマアゴニストと、その他のケトン体生成による治療との併用は、タンパク質凝集による病気に罹った個体に有益であることが証明できる。好ましい実施態様において、PPAR−ガンマアゴニストはNSAIDである。NSAIDの例としては、以下が挙げられる:アスピリン、イブプロフェン(アドビル(Advil)、ニュープリン(Nuprin)など)、ケトプロフェン(オルヂスKT(Orudis KT)、アクトロン(Actron))、および、ナプロキセン(アレブ(Aleve))。
【0035】
スタチンは、多面発現効果を有する薬物のクラスであり、最もよく特徴付けられていることは、コレステロール合成における主要な律速段階である酵素3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルCoAレダクターゼの阻害である。またスタチンは、その他の生理学的な影響、例えば血管拡張作用、抗血栓作用、抗酸化作用、抗血管増殖作用、抗炎症作用およびプラークを安定化させる特性も有する。加えてスタチンは、リポタンパク質リパーゼのレベルを増加させ、同時にアポリポタンパク質C−III(リポタンパク質リパーゼの阻害剤)も減少させることによって、循環するトリグリセリド豊富なリポタンパク質を減少させる(Schoonjans等,FEBS Lett,1999,452:160〜4)。従って、スタチンの投与により脂肪酸利用の増加が起こり、その他のケトン体生成による治療と相乗的に作用する可能性がある。従って、本発明の一実施態様は、スタチンおよびその他のケトン体生成による治療からなる併用療法でもあり得る。
【0036】
フィブラート、例えばベザフィブラート、シプロフィブラート、フェノフィブラート、および、ゲムフィプロジルは、脂質低下薬のクラスである。これらはPPAR−アルファアゴニストとして作用し、スタチンと同様に、リポタンパク質リパーゼ、アポAIおよびアポAIIの転写を増加させ、アポCIIIのレベルを減少させる。そのようなものとして、これらは、恐らく末梢組織による脂肪酸の使用を増加させることによってトリグリセリド豊富なリポタンパク質の血漿濃度に対して主要な影響を与える。従って、本発明は、フィブラートの使用を含み、これは、単独でもよいし、または、その他のケトン体生成による治療と組み合わせてもよく、このようなフィブラートの使用によって細胞のタンパク質凝集を減少させることができ、それに関連する病気を有する患者にとって有益である可能性がある。
【0037】
さらなる実施態様において、ケトン体生成による治療は、身体トレーニング療法により誘導される。また身体活動は、インスリンシグナル伝達を低め、脂肪の利用を増加させることもできる。身体活動は、炭水化物(グルコース)と脂肪の混合物をエネルギー源とする。炭水化物の脂肪に対する比率は多くの要因に依存し、時間が経つにつれて変化する。典型的には、運動の第一相においてはグルコースが選択的に用いられ、一方、典型的には、脂肪の利用は、持続的な運動の20〜30分間後に増加する。実行される負荷の強度に応じて、筋肉によるグルコース摂取は、基底レベルの7〜20倍に上昇する。持続的な運動とは、少なくとも20分間、最大心拍数(220−年齢=最大心拍数)またはVO2max(最大限の酸素消費量)が50%より大きいことと定義されるが、このような運動は、インスリン濃度の減少、および、脂肪酸代謝へのシフトを引き起こすと予想される。加えて、強烈な運動は、グルカゴンやカテコールアミンのようなインスリン逆調節ホルモンの放出を引き起こし、それによって最終的にインスリン作用の減少を引き起こす(Sato等,Exp Biol Med(Maywood),2003,228:1208〜12):従って、発明者は新たに、少なくとも20または30分間の持続的な身体活動は、ケトン体生成状態を誘導し、タンパク質凝集による病気を予防および治療するという見解を得た。
【0038】
またケトン体生成による治療は、食餌療法、脂肪酸を酸化させる物質の投与、および、身体トレーニング療法からなる群より選択される治療のうち少なくとも2種の組み合わせを含んでいてもよい。最も好ましくは、食餌療法と身体トレーニング療法との組み合わせである。
【0039】
本発明の方法を用いて、ニューロンにおけるタンパク質凝集体の量を減少させることができる。このような凝集体としては、アミロイドβペプチド、ポリグルタミンを含むハンチンチンタンパク質、ポリグルタミンを含むアンドロゲン受容体、ポリグルタミンを含むアトロフィン−1、ポリグルタミンを含むアタキシン、α−シヌクレイン、プリオンタンパク質、タウ、および/または、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)が挙げられる。
【0040】
本発明に係る1種またはそれより多くの方法は、タンパク質凝集による病気の治療に有用であることがわかっているその他の化合物と共に投与することができる。このような化合物としては、これらに限定されないが、神経保護作用を有する化合物、および、凝集体形成を阻害する、または、タンパク質凝集を阻害する化合物が挙げられる。このような化合物の例としては、これらに限定されないが、ミノサイクリン、エイコサペンタエン酸エチル(ethyl eicosapeninoate)、リルゾール、コンゴレッド、システアミン、および、シスタミンが挙げられる。
【0041】
設定された治療期間は、患者の状態の重症度、患者の体重および当業者既知のその他の要因に従って様々である。一実施態様において、ケトン体生成による治療は、6〜12ヶ月投与される、または、施される。あるいは、ケトン体生成による治療は、1〜6ヶ月投与される、または、施される可能性がある。それ以外の治療期間は、1日〜1ヶ月である。また治療期間は周期的でもよく、例えば、ケトン体生成による治療で1週間、および、治療なしで1週間を交互に繰り返してもよい。
【0042】
また本発明は、ケトン体生成による治療の有効性を、ニューロンを含む細胞におけるタンパク質凝集の減少または予防に関して測定するための分析を含む。この分析は、インビボまたはインビトロで、ケトン体生成による治療によって細胞を処理すること、および、このような処理によって、該細胞におけるタンパク質凝集が、未処理細胞に比べて予防されるか、または減少するかどうかを決定することを含む。タンパク質凝集の減少は、特に好ましくは、5%ずつの増加量で、少なくとも5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%などである。一実施態様において、インビボでの治療は、タンパク質凝集による病気に関連する神経タンパク質の凝集を示す哺乳動物(好ましくは非ヒト)のケトン体生成による治療を含み、このようなタンパク質凝集による病気としては、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ポリグルタミン病、プリオン病、タウ病変、および、家族性筋萎縮性側索硬化症が挙げられる。実施例1は、アルツハイマー病に関するAPP/V717Iトランスジェニックマウスモデルを例示しており、このモデルは、Aβタンパク質の減少または予防におけるケトン体生成による治療の有効性を決定するのに有用である。同様に、実施例3は、突然変異ポリQ導入遺伝子、例えばハンチンチンタンパク質のエキソン1を有するトランスジェニックマウスを例示しており、このマウスは、タンパク質凝集、および、ニューロンの機能の低下を予防する、または減少させることにおけるケトン体生成による治療の有効性を決定することにおいて有用である。その他の実施態様において、インビトロでの治療は、このような治療によって、ケトン体生成による治療を受けていない細胞と比較してタンパク質凝集が減少する、または、予防されるかどうかを決定するための、タンパク質凝集を示す培養細胞のケトン体生成による治療を含む。実施例2は、ケトン体生成による治療の有効性に関するインビトロでの細胞レベルの分析を例示する。
【0043】
本明細書で引用された全ての参考文献は、参照によりそれらの全体が包含される。
図面の簡単な説明
図1aは、実施例1で説明されたアルツハイマー病のトランスジェニックマウスモデルにおけるケトン食療法の作用を説明する。標準的な食物は灰色のバーとして示され、ケトン食療法は、白色のバーとして示され、エラーバーは標準誤差を示す。β−ヒドロキシブチラートの血清中濃度は、mMで示される。「日」は、食物の変化からの時間を日数で示している。β−ヒドロキシブチラートの血清中濃度は食物変更の開始時に有意に高く、ケトン体生成の食事を摂取した動物の体重は減少した。体重減少を少なくし、栄養補給を改善するために、第二週の間は少量の標準的な食事にF3666を混合し、その後除去したところ、ケトン濃度が増加した。
【0044】
図1bは、実施例1で説明されたマウスモデルの総タンパク質のAβレベル(ng/g)を示す。ここでも、標準的な食物は、灰色のバーとして示され、ケトン食療法は、白色のバーとして示され、エラーバーは標準誤差を示す。
【0045】
図1cは、実施例1で説明された行動試験の結果を説明する。
発明の詳細な記述
発明者は新たに、脂質代謝とタンパク質代謝の双方に対する減少したインスリンシグナル伝達の作用が、細胞におけるタンパク質の蓄積の治療および予防、および、それに関連する病気の治療において有用な可能性があるという見解を得た。
【0046】
本明細書で考察されるように、ケトン食療法は、ニューロンのタンパク質凝集を減少させることにおいて有用な可能性があり、これはなぜなら、ケトン食療法は、脂質代謝およびタンパク質代謝の双方を変化させるためである。例えば、低いインスリンシグナル伝達はタンパク質分解を促進し、それと同時に、タンパク質合成を阻害する。発明者は新たに、減少したインスリンシグナル伝達により、分解感受性タンパク質、例えばアミロイド性ペプチド、および、突然変異ハンチントンタンパク質の排除が起こる可能性があるという見解を得た。加えて、インスリンシグナル伝達は低いほど、グルコース利用よりも脂質代謝にとって有利であり、ニューロン内での改善された脂質のホメオスタシス、および、改善された脂質感受性タンパク質(例えばAPP)の機能を達成することができる。総合すると、これらのメカニズムは、タンパク質凝集による病気の治療を提供すると予想される。
【0047】
高脂肪の食物はADの危険を高めるという現在の考えに反して、本発明者は、高炭水化物(HC)の食物は、ADの根本的な原因であると提唱している(Henderson,Med Hypotheses,2004,62:689〜700)。この解析は、この病気の最も一般的な形態である(症例の95%を超える)孤発性ADに関して既知の危険因子などの多くの要因に基づく。孤発性ADは、APP、または、プレセニリン遺伝子の突然変異とは無関係であるが、その代わりに遺伝学的な危険因子に関連する。孤発性ADに関して最もよく特徴付けられた危険因子は、アポリポタンパク質E遺伝子に1個またはそれより多くのε4対立遺伝子が存在することである。ε4対立遺伝子の人口統計学的な解析によれば、ε4は、長期にわたり歴史的に農業にさらされている個体群ではまれであることが明らかになっており、これは、HC食物の消費は、ε4キャリアーに不利なように選択された可能性があることを示唆している(CorboおよびScacchi,Ann Hum Genet,1999,63(Pt4):301〜10)。その上、ApoE4タンパク質は、高炭水化物の食物の消費に類似した方法で脂質代謝を阻害する。それゆえに、HC食物およびApoE4の双方による脂質代謝の阻害は、ADの発症の中心的な作用を有することが提唱されている(Henderson,Med Hypotheses,2004,62:689〜700)。
【0048】
食事介入は、ADと闘うための比較的安全で容易に利用可能な方法の代表である。しかしながら、主要な食事の関連はこれまで不明瞭なままであった。初期の研究の多くは、高脂肪/コレステロール食の役割、および、それらのADへの寄与率に焦点を当ててきた。以前の研究によれば、ADのマウスモデルにおいて、高脂肪/高コレステロール食はAβ生産と堆積の両方を高めることが示唆されており、それにより、脂質が豊富な食物は、ADの要因である示唆というが導かれた(George等,Neurobiol Dis,2004,16:124〜32;Refolo等,Neurobiol Dis,2000,7:321〜31;Shie等,Neuroreport,2002,13:455〜9)。しかしながら、このような食物は低炭水化物の食物ではなかった。高コレステロールの食物において、その他の成分を減少させないでコレステロールが食物に添加された(Refolo(2000),上記;George(2004),上記)。その他の高脂肪の食物は、脂肪が豊富な食物であるが、これらは、炭水化物レベルを有意に減少させておらず、従って低炭水化物の食物ではなかった。Ho等は、60%脂肪、20%炭水化物、20%タンパク質の食物を用いた。この食物は、体重の大きな増加を引き起こすのに十分に高い炭水化物量を含んでいた(Ho(2004),上記)。本発明において、炭水化物の摂取は極めて低いため(1%未満)、体重減少が起こる。従って、本発明は、Aβレベルの増加を引き起こすのは食物中の脂肪ではなく、おそらく炭水化物のレベル、または、総カロリーであるという新規の発見を説明している。
【0049】
その他の研究では、食物における炭水化物含量の役割とAβ堆積を試験している。Wang等は、適宜給餌され炭水化物含量と総カロリーを30%減少したカロリー制限計画のもとでトランスジェニックADマウスを試験した。この処理は動物が月齢3ヶ月になった時点で開始され、これらの動物を月齢12ヶ月になるまで試験した。低炭水化物および低カロリー群は、プラーク形成が有意に低くなった(Wang等,Faseb J,2005,19:659〜661)。本発明は、Wang等とは多くの点において異なる:1.Wang等は、実験群において総カロリーを制限する場合、カロリー制限計画用いた。本発明においては、動物は、常に食物を自由に摂取可能であり、カロリーは制限されなかった。2.Wang等は、ケトン体生成による治療を使用せず、その代わりに炭水化物レベルがそれでもなお食物の大部分を占めており、ケトン症を促進するほど十分低くはなかった。3.Wang等は、9ヶ月カロリー制限を施した。一般的に、長期間カロリー制限にさらすことは、作用を観察するのに必要である。本発明においては、38日間しか処理を施していない。まとめると、短期の(38日)極めて低い(<1%)炭水化物および高脂肪による処理は、Aβレベルを25%減少させるのに十分であることは、発明者の新規の驚くべき見識である。このような結果は、細胞タンパク質凝集の減少において予想外の効率を示す。
【0050】
米国特許出願US2004/0058873A1において、Esmond等は、低炭水化物の食物は、アルツハイマー病の治療に用いることができることを教示している。段落[0031]では、以下のように述べられている:
本発明の第二の方法は、食物中の代謝可能な炭水化物を制限ことによるアルツハイマー病の治療または予防を対象とする。本発明によれば、代謝可能な炭水化物の量は、1日あたり摂取される量が約55グラム以下である場合、制限されたとみなされる。好ましくは、代謝可能な炭水化物の摂取された量が約30グラム以下である。最も好ましくは、代謝可能な炭水化物の摂取された量が約10グラム以下である。
【0051】
本発明は、0058873の教示とは以下の点で異なる。
1.本発明は、凝集したタンパク質のレベルの減少に関するが、US2004/0058873は、不明瞭なメカニズムによるアルツハイマー病の治療に関する。ADにおけるAβペプチドの毒性に関しては答えがないままであり、Esmond等によれば、それらの治療によってAβレベルが減少するのかどうかは不明確である。その上、Aβレベルの減少が確実にADを治療し得るのかは不明確である。それに対して、本発明は、細胞におけるタンパク質凝集の減少を対象とする。
【0052】
2.US2004/0058873は、単に炭水化物を低めることができると述べているに過ぎず、治療の有効性を測定する手段は提供していないという点で、本発明はUS2004/0058873と比べて明らかな利点を示す。本発明は、高い血清ケトン体濃度は、ケトン体生成状態に関するマーカーであり、既定されたケトン体生成による治療のコンプライアンスをモニターするのに使用可能であることを教示している。
【0053】
3.さらに本発明は、本発明は、処理の有効性を測定する手段を提供するという点で、US2004/0058873と比べて改善を示す。本発明は、ケトン体生成による治療はAβレベルを減少させることができ、インビボまたはインビトロでのAβレベルの測定は、ケトン体生成による治療有効性を測定する有効な手段であり得ることを教示している。Aβの血清中濃度を検出する方法は当業者周知である。また、インビボでCNSにおけるAβレベルを測定することも当業者既知である(Nordberg,Lancet Neurol,2004,3:519〜27)。その他の凝集したタンパク質の検出も当分野において周知である。例えばポリグルタミン封入体の検出は、よく文献になっている(Yamamoto等,Cell,2000,101:57〜66)。
【0054】
4.またUS2004/0058873は、インスリン抵抗性改善剤を用いたADの治療にも関する。段落[0033]では、以下のように述べられている:
本発明はまた、アルツハイマー病に罹った患者の精神作用を改善する方法に関し、本方法は、前記患者に、患者のインスリン感受性を高める物質の有効量を投与することを含む。
【0055】
本発明において、高脂肪の食物の投与は、インスリン耐性を誘導するが、インスリン感受性は誘導しないことが当業者周知である。またインスリン耐性は、一般的に、飢餓(ケトン食療法によって模擬される状態)の際にも起こる。これら双方の条件下(高脂肪の食物、および、飢餓)で、筋肉や肝臓のような組織は、インスリンの作用に対して耐性になり、従って、それらのグルコース摂取を減少させる。これは、中枢神経系の機能のためにグルコースを保存するメカニズムである。またこれは、その他のたくさんの成果がある。インスリン耐性の誘導は、タンパク質合成を阻害するインスリンシグナル伝達を阻害し、それと同時に、タンパク質分解を増加させる(本明細書でこれまで考察してきた通り)。発明者は新たに、このようなタンパク質代謝の変更は、毒性タンパク質のレベルを減少させるのに有利であるという見解を得た。従って、ケトン体生成による治療によるインスリン感受性の減少は、タンパク質凝集による病気を治療するための好ましいメカニズムと予想される。これは、US2004/00558873で教示されていることとは逆である。
【0056】
本発明の一実施態様において、哺乳動物は、哺乳動物においてケトン症の状態を維持する低炭水化物および低タンパク質のケトン食療法が施される。ケトン症は、一般的な絶食時の値より高い血清ケトン体濃度と定義される。このような値は、哺乳動物の種と、一つの種に包含される個体の双方に応じて様々であると予想される。ヒトにおいて、一般的な絶食時の血清ベータ−ヒドロキシブチラート(BHB)は、0.01mM〜0.2mMの範囲であり、持続性の飢餓状態の間に14mMもの高さに上昇させることができる。それゆえに、ヒトにおいて、1時間より長い期間の0.3mMを超えるBHBレベルが、ケトン症またはケトン体生成の状態とみなすことができる。適宜給仕されたマウスにおいて、典型的なBHBレベルは、0.01〜0.4mMの範囲である(以下の実施例1を参照)。マウスにおいて誘導されたケトン濃度は、0.4から、最大で10mMの範囲である。それゆえに、マウスにおいて、ケトン症は、1時間よりも長い期間0.4mMを超える血清BHB濃度を示すこととみなすことができる。
【0057】
ケトン体としては、アセトアセタート、β−ヒドロキシブチラート、および、アセトンが挙げられる。血清および組織中のケトン濃度を測定する方法は当業者周知である。
ヒトの場合、本発明は、炭水化物レベルを総カロリーの20パーセント未満に制限することが必要であると予想される。例えば、1日2000カロリーの食物を摂取する個体の場合、炭水化物から誘導してもよいカロリーは1日400カロリー未満である(炭水化物1グラム=4カロリー);それゆえに、1日100グラムより少ない炭水化物が消費されると予想される。より理想的には、1日50グラム未満、および、さらにより好ましくは、1日10グラム未満である。前記哺乳動物をケトン症に維持するためには、食物組成の変動が必要であると予想される。例えば、ケトン症を維持するために、時間が経過するに連れて次第に多くの炭水化物を制限してもよい。
【0058】
その他の実施態様において、ケトン体生成状態を誘導する物質が、それらを必要とする哺乳動物に投与される。ケトン体生成状態は、一般的な絶食時の値より高いが、食事によって誘導されたものではない血清ケトン体濃度と定義される。ケトン体生成状態は、食事介入以外の方法、例えば化合物投与、または、身体トレーニング療法によって達成することもできるという点で、ケトン症とは異なると予想される。例えば、脂肪酸の酸化を増加させる物質の投与は、炭水化物が豊富に存在状態でもケトン体生成状態を誘導する可能性がある。このような状態は、タンパク質凝集による病気の治療において有益であることが証明することも可能である。
【0059】
好ましい一実施態様において、炭水化物が制限された食物と、運動プログラムとを組み合わせて、インスリンシグナル伝達を減少させ、脂肪酸の酸化を改善し、血中ケトン濃度を高めることができる。
【0060】
その他の実施態様において、短期のケトン体生成による治療が、それらを必要とする哺乳動物に施される。この治療は、食事介入によるケトン症の誘導、または、上述のようなケトン体生成状態の誘導のいずれかであり得る。このような治療は、1日〜1年の範囲の限定的な持続時間を有すると予想され、その期間の後に、前記哺乳動物は、適宜給餌される状態に戻るか、または、処理が中止されると予想される。ケトン食療法の主要栄養素成分は、上述の通りと予想され、種および個体に応じて正確なプロファイルを有する。
【0061】
その他の好ましい実施態様において、認知症治療の成功は、血中ケトン濃度に基づき決定される。認知症を治療または予防するための化合物または介入は、それらの基準値を超える高い血清ケトン体濃度を誘導する能力によって分析されると予想される。
【0062】
実施例1は、ケトン食療法は、アルツハイマー病のトランスジェニックマウスモデルにおけるAβペプチドのレベルをうまく減少させることを実証する。治療の40日後、認知能力に不利な結果を生じることなく、Aβレベルは25%減少した。
【0063】
これらの結果は、高脂肪の食物とアルツハイマー病とを関連付ける現在の見解と正反対であるという点で驚くべきことである。
以下の実施例は、本発明を説明することであり、本発明を限定することは目的としない。
【0064】
実施例
実施例1
ここで我々は、ADのトランスジェニックマウスモデル、APP/V717Iにおける極めて低い炭水化物/高脂肪のケトン食療法の作用を試験した(Moechars等,JBiol Chem,1999,274:6483〜92)。16匹のAPP/V717Iマウスを標準的な食事で3ヶ月飼育し、次に、その半分を低炭水化物/高脂肪の食事バイオサーブ(Bio Serv)F3666に切り換え(脂肪:炭水化物、タンパク質が6:1の比率(バイオ−サーブ社(Bio−Serv Inc.)))、残りの8匹のマウスは標準的な食物(RM−クラバー(RM−Klaver))を継続した。
【0065】
【表1】

【0066】
食事の有効性を測定するために、血液サンプルを毎週採取し、血清β−ヒドロキシブチラート(BHB)レベルに関して試験した(スタンバイオ製のβ−ヒドロキシブチラートキット、スタンバイオ社(Stanbio Inc.))。実験中ずっと、F3666群の動物は、標準的な食事と比較して非常に高い血清BHB濃度を有していた(標準は0.323±0.406mMであり、それに対して、F3666は、3.976±0.420mM、p<0.0001)。
【0067】
上記の食事療法の4週間後に、動物を、行動の欠陥に関して物体認識試験(ORT)を用いて試験した。従来の結果に反して(Zhao等,Pediatr Res,2004,55:498〜506)、高脂肪の食事が給餌された群では認知能力の悪化はみられなかった(図1cを参照)。
【0068】
新規の物体認識試験を用いて認知能力を測定した。この試験は、治療の38日後と、殺す3日前に行われた。用いられたプロトコールは、Dewachter等が説明している方法に従った(Dewachter等,J Neurosci,2002,22:3445〜53)。黒色の垂直の壁と半透明の床を有し、ボックスの下に置いたランプで薄暗く照射したプレキシグラス(Plexiglas)のオープンフィールドボックス(52×52×40cm)中で1時間マウスを慣れさせた。次の日、これらの動物を同じボックスに入れ、10分間の獲得試験を受けさせた。この試験中、マウスを、2×物体A(オレンジ色の筒、または、緑色の立方体、±4cmの同様の大きさにした)の存在下で個々にオープンフィールドに置いた、および、物体Aを探索する持続時間(時間AA)、および、頻度(頻度AA)(動物が物体から1cmより短い距離で鼻を向けた時、および、マウスが物体の方向へ臭い嗅ぎ行動をした時)を、コンピューター化されたシステムによって記録した(Ethovision,Noldus information Technology,ワーヘニンゲン,オランダ)。3時間後、記憶試験(第二の試験)を10分間行い、オープンフィールドに見慣れた物体(物体A)と共に新規の物体(物体B、緑色の立方体、または、オレンジ色の樽)を置いた。(それぞれ頻度および頻度、ならびに、時間および時間)。
【0069】
認識指数(RI)は、両方の物体を調査した際の持続時間に対する、新規の物体を調査した際の持続時間の比率[時間B/(時間+時間)×100]と定義され、これを用いて、非空間的な記憶を測定した。獲得試験の際に物体Aに関する持続時間および頻度を調査し(時間AA、および、頻度AA)、これを用いて好奇性を測定した。
【0070】
古い物体と新しい物体とを区別しないマウスは認識指数50を有する。古い物体を認識するマウスは、好ましくは新規の物体を調査すると予想され、この場合の認識指数は50より高くなる。新規の物体だけを調査するマウスは、認識指数100を有する。治療の38日後、どのORTスコアにおいても差はみられなかった(図1c)。
【0071】
実験の結論として、血清および脳BHB双方の測定値が得られた。初期の結果と一致して、F3666が給餌された動物の血清BHB濃度は比較的高かった(標準は、0.12±0.618mMであり、それに対してF3666は、3.26±0.667mMであった;p=0.00541)。脳中のAβレベルを増加させるという高脂肪の食物の初期の報告に反して、可溶性Aβ40レベル(標準は、タンパク質が1.725±0.104であり、それに対して、F3666は、タンパク質が1.279±0.112ng/gであった;p値=0.0140)、および、Aβ42(標準は、タンパク質が0.879±0.042であり、それに対して、F3666は、タンパク質が0.706±0.046ng/gであった;p値=0.016)はいずれも、F3666が供給された群の脳において有意に低いことが見出され、同時に、総体的なタンパク質レベル(脳ホモジネートのmg/mlで示される測定値として)は、差異はなかった(標準は、0.562±0.035であり、それに対して、F3666は、0.509±0.017であった;p=0.213)。Aβ42/40の平均比率において群間で差異はなく(標準は、0.517±0.024であり、それに対して、F3666は、0.556±0.026であった;p=0.2872)、これは、Aβ種は総合的に低くなり、いずれかの形態に特異的ではないことを示唆している。
【0072】
実施例2
細胞ベースの分析を用いて、ケトン体生成の状態、低いグルコースレベルおよび低い増殖因子レベルが、毒性タンパク質レベルを減少させることができることを示す。ポリQ緑色蛍光タンパク質(ポリQ::GFP)導入遺伝子を発現する分化した誘導型PC12細胞を、一般的な増殖条件、および、ケトン体生成の条件下での可視化されたポリQ::GFPタンパク質封入体の形成に関して試験した。細胞を、豊富なグルコースと増殖因子を含む標準的な組織培地を用いて10cmプレートで平板培養した。このような培地の例としては、ダルベッコ改変イーグル培地(D−MEM)(1×)液(高いグルコース含量)が挙げられ;このような培地は、4500g/L(25mM)グルコースを含み、増殖因子が豊富なウシ胎児血清(インスリン/IGF−1が1nMより多い)が添加されている。細胞でポリQ::GFPタンパク質を発現させ、封入体を形成させた。封入体が形成された後、プレートの半分を一般的な培地中で維持し、同時に、残りの半分をケトン体生成の培地に晒した(低いグルコース含量、および、低い増殖因子含量)。ケトン体生成の培地の例としては、最小必須培地(MEM)液体(ライフ・テクノロジーズ社(Life Technologies Inc.))が挙げられ;このような培地は、1000mg/L(5.56mM)グルコースを含むが増殖因子を含まない。従って、グルコース含量が5.56mM未満の培地は、低いグルコース含量であり、ケトン体生成可能とみなすことができる。インスリンのような増殖因子は、ケトン体生成の酵素の活性を阻害することがわかっている。例えば、1nMより大きいインスリン濃度は、ケトン体生成において主要な酵素の発現を阻害することが見出された(Nadal等,Biochem J,2002,366:289〜97)。従って、ケトン体生成の培地は、インスリンのような増殖因子が1nM未満の培地とみなすことができる。このような差異を有する培地で細胞を一晩増殖し、蛍光顕微鏡を用いて凝集を計算した。ケトン体生成の培地は、凝集を阻害し、ポリQ::GFPのレベルを減少させることが見出された。
【0073】
実施例3
突然変異ポリQを含む導入遺伝子を有するマウスを用いて、短期のケトン食療法により、インビボでのポリグルタミンの病因が減少することを示した。ポリQコード領域を含むハンチンチンタンパク質のエキソン1を発現する導入遺伝子を有するマウスは、進行性の運動機能障害、ニューロンの封入体、および、HDに典型的な神経病理を発症させた。このようなトランスジェニック動物を、典型的に運動機能障害の徴候を示し始める年齢になるまで一般的な高い炭水化物のげっ歯類用の食物で飼育した。この段階で、マウスの半分がケトン体生成の食物に切り替えられ(実施例1で説明された通り)、同時に残りの半分が一般的な食物を継続した。各群のマウスを、それらのそれぞれの食物で30日間維持した。このような処理の最後に、各群のマウスを運動機能に関して回転ロッドを用いて試験した。運動試験が完了した後、動物の脳をニューロンの封入体の存在と程度に関して試験した。ケトン体生成の食事が給餌されたマウスは、より長い期間運動ロッドで活動し、これは、運動機能の有意な回復を反映しており、ポリQを含む凝集体の量および程度の減少を示した。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1aは、実施例1で説明されたアルツハイマー病のトランスジェニックマウスモデルにおけるケトン食療法の作用を説明する。図1bは、実施例1で説明されたマウスモデルの総タンパク質のAβレベル(ng/g)を示す。図1cは、実施例1で説明された行動試験の結果を説明する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の脳におけるタンパク質凝集を減少させる方法であって、該方法は、哺乳動物にケトン体生成による治療を所定期間施し、ケトン症またはケトン体生成の状態を引き起こしてタンパク質凝集を減少させることを含む、上記方法。
【請求項2】
前記ケトン症またはケトン体生成の状態は、血清中のケトン体を一般的な絶食時の値より高いレベルで維持することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記血清ケトン濃度が、1時間またはそれより長い期間、0.2mM、0.3mM、0.4mMを超えるか、またはそれより高い、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ケトン体生成による治療が食餌療法であり:
a)食事中の炭水化物を減少させることによって、血清インスリン濃度とタンパク質合成を減少させ、同時にタンパク質分解を増加させること;および、
b)食事中の脂肪を増加させることによって、細胞の脂質代謝を増加させること、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記炭水化物レベルが総カロリーの20%、10%または2%未満の量に制限され、血清ケトン濃度が一般的な絶食時の基準レベルより高い、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ケトン体生成による治療が、脂肪酸の酸化を高める物質により誘導される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記脂肪酸の酸化を高める物質が、L−カルニチン、およびそれらの誘導体、カフェイン、マオウのアルカロイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、スタチン系薬剤、ならびに、フィブラートからなる群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ケトン体生成による治療が、身体トレーニング療法により誘導される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記身体トレーニング療法が、20分間より長い期間、VO2maxまたは最大心拍数のいずれかが50%を超える活動量であることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ケトン体生成による治療が、食餌療法、脂肪酸を酸化させる物質による治療、および、身体トレーニング療法からなる群より選択される治療のうち少なくとも2種の組み合わせにより誘導される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記食餌療法と、身体トレーニング療法とが組み合わされる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記タンパク質凝集体が、アミロイドβペプチド、ポリグルタミンを含むハンチンチンタンパク質、ポリグルタミンを含むアンドロゲン受容体、ポリグルタミンを含むアトロフィン−1、ポリグルタミンを含むアタキシン、α−シヌクレイン、プリオンタンパク質、タウおよびスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
凝集体形成を阻害するか、または、神経保護作用を有する第二の化合物を投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記第二の化合物が、コンゴレッド、シスタミン、システアミン、ミノサイクリン、エイコサペンタエン酸エチル、および、リルゾールからなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ケトン体生成による治療が、1日〜1年の期間である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
ケトン体生成による治療の有効性を、細胞におけるタンパク質凝集の減少または予防に関して測定するための分析であって、
a)インビボまたはインビトロで、ケトン体生成による治療によって細胞を処理すること;および、
b)このような処理によって、該細胞におけるタンパク質凝集が予防されるか、または減少するかどうかを決定すること、
を含む、上記分析。
【請求項17】
前記タンパク質凝集の減少が、少なくとも25重量%である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記インビボでの処理が、ケトン体が生成されない条件下でタンパク質凝集による病気に関連する神経タンパク質の凝集を示す非ヒト哺乳動物をケトン体生成によって治療することを含む、請求項16に記載の分析。
【請求項19】
前記非ヒト哺乳動物が、ケトン体が生成されない条件下で神経タンパク質の凝集を示すトランスジェニックマウスである、請求項16に記載の分析。
【請求項20】
前記インビトロでの治療が、ケトン体が生成されない条件下でタンパク質凝集を示す培養細胞のケトン体生成による治療を含む、請求項16に記載の分析。

【図1】
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【公表番号】特表2008−542200(P2008−542200A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−509999(P2008−509999)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【国際出願番号】PCT/US2006/008668
【国際公開番号】WO2006/118665
【国際公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(502398171)アクセラ・インコーポレーテッド (8)
【Fターム(参考)】