説明

癌におけるEGFR突然変異を検出する組成物および方法

本発明は、上皮成長因子受容体(EGFR)分子のE746-A750欠損型およびL858R点突然変異に対する結合剤、ならびに癌の診断および治療方法を含むその使用方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2008年4月10日に出願された米国仮出願第USSN61/123,699号および2008年8月29日に出願された米国仮出願第USSN61/190,597号の利益および優先権を主張し、かかる両出願の開示はそれらの全体が参照により本明細書中で援用される。
【0002】
本発明は、概して、癌に関与する変異タンパク質および遺伝子の分野、ならびに癌の検出、診断および治療に関する。
【背景技術】
【0003】
癌はヒトの主な死因である。肺癌は世界における癌関連死の主因であり、今後も健康上の主な課題として残ることが予想される。肺癌は小細胞肺癌(SCLC、肺癌の20%)と非小細胞肺癌(NSCLC、肺癌の80%)とに大別される。上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子の体細胞突然変異は肺腺癌の亜群に見出され、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であるゲフィチニブ[Lynch, T.J.ら, N Engl J Med, 2004. 350(21): p.2129-39およびPaez, J.G.ら, Science, 2004. 304(5676): p.1497-500]およびエルロチニブ[Pao, W.ら, Proc Natl Acad Sci USA, 2004.
101(36): p.13306-11]に対する感受性と関連する。多くのタイプのEGFR突然変異が報告されているが、最も一般的な非小細胞肺癌(NSCLC)関連のEGFR突然変異は、エキソン19の15bpヌクレオチドのインフレーム欠損(E746-A750del)およびエキソン21コドン858のロイシンがアルギニンに置換された点突然変異(L858R)である[Pao, W.ら, Proc Natl Acad Sci USA, 2004.
101(36): p.13306-11;Riely, G.J.ら, Clin Cancer Res, 2006. 12(24): p.7232-41;およびKosaka, T.ら, Cancer Res, 2004. 64(24): p.8919-23]。これら2つの突然変異は、NSCLC患者のEGFR突然変異の85〜90%に相当する。重要なことに、これらの突然変異保因患者には、ゲフィチニブおよびエルロチニブなどのEGFR抑制剤がよく奏効することが示されている[Riely, G.J.ら, Clin Cancer Res, 2006. 12(24): p.7232-41;Inoue,
A.ら, J Clin Oncol, 2006.
24(21): p.3340-6;Marchetti, A.ら, J Clin Oncol, 2005. 23(4): p.857-65;およびMitsudomi, T.ら, J Clin Oncol, 2005. 23(11): p.2513-20.]。したがって、これらの突然変異の検出は、肺癌患者の治療を改善する1つの重要な方法である。
【0004】
肺腺癌におけるEGFR突然変異分析は治療判断の指針となることができるため、また臨床試験の特定の治療群に患者を登録するために、患者の腫瘍組織中のEGFR突然変異を検出するPCR増幅産物の直接DNA配列決定が開発されている。しかしながら、これらの試験は、高価な機器および試薬、アッセイ実施の困難さ、試験完了に要する時間のために広く採用されていない。さらに、DNA配列決定では、突然変異体を有さない正常細胞のバックグラウンドでEGFR突然変異を有する腫瘍細胞を検出する感度が限られている。EGFR配列決定アッセイ精度を確保するためには、最低50%の腫瘍細胞が必要である。近年、肺癌標本のEGFR突然変異の検出を改善するために、TaqMan
PCR、Scorpions ARMS、MALDI TOF MSに基づく遺伝子型特定、dHPLC、および単分子配列決定などのDNAに基づく他の方法が開発されている。しかしながら、これらの方法は臨床実験室において日常的な手順ではなく、依然として高額であり、長時間を必要とする。また、細胞ベースの突然変異状態は同定しない。したがって、それらの方法の感度はホモジェネート製造に使用される試料中の腫瘍細胞率に依存しており、標準的な生検から得られた試料は、通常、DNA配列決定に不十分である。他方、免疫組織化学(IHC)は、すべての臨床実験室において日常的に実施されている十分に確立された固形腫瘍分析方法である。この方法は臨床診断において、より利用しやすい技術であり、分析のために入手可能な腫瘍標本中の癌細胞率または腫瘍組織量は解釈に影響をあまり及ぼさない。また、該方法では、他のタンパク質またはタンパク質の修飾の同時分析も可能である。しかしながら、IHCによるEGFRの総発現量がNSCLCのチロシンキナーゼ阻害剤による療法の奏効性を予測することは認められていない[Meert, A.P.ら, Eur Respir J, 2002. 20(4): p.975-81]。したがって、IHCに使用し得る、変異EGFRタンパク質を特異的に検出する抗体の開発は、肺癌の臨床診断および治療における付加価値となるであろう。
【0005】
肺癌腫瘍などの固形腫瘍の試料の診断的分析が直面する関連課題は、組織試料への接近である。反復生検は、ほとんどすべての腫瘍タイプにおいて臨床的に実現不可能である。したがって、代替的な癌細胞源が得られなければならない。これは薬物療法の指針となる上で使用し得る反復腫瘍分析における標的療法との関連で特に重要である。肺癌、結腸癌、乳癌、子宮頚癌、膵癌、前立腺癌、胃癌、および食道癌からなる群から選択される癌組織タイプの循環腫瘍細胞(CTC)、腹水症、気管スワブ、管腺癌などの幾つかの腫瘍タイプにおいて、幾つかの癌細胞源が入手可能である。循環タンパク質は、ELISAアッセイなどの標準的なタンパク質アッセイによって検出され得る。この例では、突然変異EGFRタンパク質は捕捉され、総タンパク質に対する抗体および突然変異に対する抗体を含む一対の抗体によって検出される。そのようなアッセイは、患者の腫瘍に直接作用する最適な薬物および薬物レジメンを選択するための、治療を受けた患者の日常的かつ反復的分析を可能にする。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、E746-A750欠損型のEGFR分子およびL858R点突然変異を有するEGFR分子と特異的に結合する結合剤(例えば、ウサギモノクローナル抗体など)を提供する。
【0007】
したがって、本発明の第一態様では、E746-A750位を欠損している上皮成長因子受容体(EGFR)分子に特異的に結合する結合剤を提供する。幾つかの実施形態では、上皮成長因子受容体(EGFR)分子はヒト由来である。幾つかの実施形態では、該結合剤は少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含み、該CDRは配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号16、配列番号17、および配列番号18からなる群から選択される配列を含む。幾つかの実施形態では、該結合剤は、トレオニン-セリン-プロリン配列を含むアミノ酸配列を含むエピトープと特異的に結合する。該結合剤が抗体である幾つかの実施形態では、該抗体はATCCに寄託されたクローンによって製造され、ATCC指定番号PTA-9151を付与される。
【0008】
本発明の別の態様では、858位のロイシンがアルギニンに置換された点突然変異を有する上皮成長因子受容体(EGFR)分子に特異的に結合する結合剤を提供する。幾つかの実施形態では、上皮成長因子受容体(EGFR)分子はヒト由来である。幾つかの実施形態では、該結合剤は少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含み、該CDRは、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号30、配列番号31、および配列番号32からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、該結合剤は、トレオニン-アスパラギン酸-X-グリシン-アルギニン配列(式中、Xは任意のアミノ酸残基)を含むアミノ酸配列を含むエピトープと特異的に結合する。該結合剤が抗体である幾つかの実施形態では、該抗体はATCCに寄託されたクローンによって製造され、ATCC指定番号PTA-9152を付与される。
【0009】
本発明のさらなる一態様では、E746-A750位を欠損している上皮成長因子受容体(EGFR)分子に特異的に結合する結合剤をコードするポリヌクレオチド(例えば、精製ポリヌクレオチド)を提供する。本発明のさらなる一態様では、858位のロイシンがアルギニンに置換された点突然変異を有する上皮成長因子受容体(EGFR)分子に特異的に結合する結合剤をコードするポリヌクレオチド(例えば、精製ポリヌクレオチド)を提供する。本発明のさらなる態様では、該ポリヌクレオチドを含有するベクター(例えば、発現ベクター)を提供する。
【0010】
本発明の別の態様では、EGFR分子異常発現の標的療法がよく奏効する癌の同定方法を提供する。該方法は、(a)癌由来の生体試料を、E746-A750位を欠損している上皮成長因子受容体(EGFR)分子に特異的に結合する結合剤と接触させて結合量を得る工程と、(b)前記工程(a)の結果と、健常個体由来の生体試料を結合剤と接触させて得られる結合量とを比較し、健常個体由来の結合量と癌由来の結合量との差により該療法が該癌によく奏効する結合量を示す工程、とを含む。様々な実施形態では、癌由来の生体試料と健常個体由来の生体試料の組織タイプは同一である。幾つかの実施形態では、癌はヒト患者由来である。幾つかの実施形態では、癌は非小細胞肺癌(NSCLC)である。幾つかの実施形態では、癌は腺癌または扁平上皮癌である。幾つかの実施形態では、癌は、肺癌、結腸癌、乳癌、子宮頚癌、膵癌、前立腺癌、胃癌、および食道癌からなる群から選択される組織タイプである。
【0011】
本発明の別の態様では、EGFR分子異常発現の標的療法がよく奏効する癌の同定方法を提供する。該方法は、(a)癌由来の生体試料を、858位のロイシンがアルギニンに置換された点突然変異を有する上皮成長因子受容体(EGFR)分子に特異的に結合する結合剤と接触させて結合量を得る工程と、(b)前記工程(a)の結果と、健常個体由来の生体試料を結合剤と接触させて得られる結合量とを比較し、健常個体由来の結合量と癌由来の結合量との差により該療法が該癌によく奏効する結合量を示す工程、とを含む。様々な実施形態では、癌由来の生体試料と健常個体由来の生体試料の組織タイプは同一である。幾つかの実施形態では、癌はヒト患者由来である。幾つかの実施形態では、癌は非小細胞肺癌(NSCLC)である。幾つかの実施形態では、癌は腺癌である。幾つかの実施形態では、該腺癌は、肺癌、結腸癌、乳癌、子宮頚癌、膵癌、前立腺癌、胃癌、および食道癌からなる群から選択される組織タイプの癌である。
【0012】
様々な実施形態では、結合量は、ウエスタンブロット、免疫蛍光、ELISA、IHC、フローサイトメトリー、免疫沈殿、オートラジオグラフィー、シンチレーションカウンター、およびクロマトグラフィーからなる群から選択されるアッセイ方法を用いて決定する。
【0013】
本発明のさらなる態様では、858位のロイシンがアルギニンに置換された点突然変異を有する上皮成長因子受容体(EGFR)分子に特異的に結合する結合剤、E746-A750位を欠損している上皮成長因子受容体(EGFR)分子に特異的に結合する結合剤、または両結合剤を含有する組成物も提供する。幾つかの実施形態では、該組成物はさらに製薬上許容可能な担体を含有する。本発明は、858位のロイシンがアルギニンに置換された点突然変異を有する上皮成長因子受容体(EGFR)分子に特異的に結合する結合剤をコードするポリヌクレオチド、E746-A750位を欠損している上皮成長因子受容体(EGFR)分子に特異的に結合する結合剤をコードするポリヌクレオチド、または両ポリヌクレオチドを含有する組成物も提供する。幾つかの実施形態では、該組成物はさらに製薬上許容可能な担体を含有する。
【0014】
本発明のさらなる態様では、EGFR分子異常発現の標的療法がよく奏効する癌の患者もしくは患畜または該癌の疑いのある患者もしくは患畜の治療方法を提供する。該方法は、有効量の本発明の組成物を患者もしくは患畜へ投与することを含む。
【0015】
本発明の別の態様では、患者もしくは患畜のEGFR状態におけるL858R点突然変異および/またはE746-A750欠損型の同定方法を開示し、該方法は、a)患者もしくは患畜から生体試料を得る工程、b)EGFRにおけるL858R点突然変異および/もしくはE746-A750欠損型と特異的に結合する結合剤により試料をスクリーニングする工程、およびc)試料中EGFRにおけるE746-A750欠損型および/もしくはL8585R点突然変異の有無を決定する工程、を含む。幾つかの実施形態では、該方法は、野生型EGFR特異的抗体を用いた試料のスクリーニングを含む。幾つかの実施形態では、該方法は、汎ケラチン抗体(例えば、汎サイトケラチン抗体)を用いた試料のスクリーニングを含む。
【0016】
本発明の別の態様では、試料中EGFRにおけるE746-A750欠損型もしくはL858R点突然変異の検出キットを記載し、該キットは、(a)EGFRにおけるE746-A750欠損型に特異的に結合する結合剤および/もしくはEGFRにおけるL858R点突然変異に特異的に結合する結合剤と、b)試料中EGFRにおけるE746-A750欠損型もしくはL858R点突然変異を検出する指示、とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】指定の細胞株中EGFRおよびその突然変異体に対する本発明の抗体の反応性を示す代表的なウェスタンブロッティングである。対照野生型(wt)EGFR特異的抗体クローン86(上パネル)では、変異型EGFR発現細胞(すなわち、HCC827細胞、H1975細胞、H3255細胞、およびH1650細胞)における反応性はいくぶん低下するが、指定のすべての細胞株から調製される溶解物と結合する(すなわち、該溶解物に反応する)。EGFR L858R特異的抗体(クローン6B6)はH175細胞およびH3255細胞(中央パネル)のみに反応する一方、dEGFR(すなわち、EGFRdel746-A750)特異的抗体(クローン43B2)はHCC827細胞およびH1650細胞のみに反応する。
【図2】指定の細胞株中のEGFRおよびその突然変異体に対する本発明の抗体の免疫蛍光細胞化学法による反応性を示す。対照EGFR特異的抗体(上パネル)は、EGFR突然変異状態に関わらず、全6細胞株を染色する(すなわち、全6細胞株と結合する)。EGFR L858R特異的抗体は、EGFR分子のL858R点突然変異を有する癌細胞のみを染色する。同様に、dEGFR特異的抗体は、EGFR分子におけるエキソン19(すなわち、E746-A750)を欠損している癌細胞のみを染色する。
【図3】指定の細胞株を異種移植片として移植したヌードマウス由来切片中EGFRおよびその突然変異体に対する本発明の抗体の免疫組織化学法による反応性を示す。対照EGFR特異的抗体(上パネル)は、EGFR突然変異状態に関わらず、全6細胞株を染色する(すなわち、全6細胞株と結合する)。EGFR L858R特異的抗体は、EGFR分子のL858R点突然変異を有する癌細胞のみを染色する。同様に、dEGFR特異的抗体は、EGFR分子内エキソン19(すなわち、E746-A750)を欠損している癌細胞のみを染色する。
【図4】代表的、非限定的な、遺伝子型特定前のNSCLC試料(すなわち、IHC分析前にDNA配列が決定されていない試料)4個に対する本発明の抗体の免疫組織化学分析による反応性を示す。DNA配列決定によってEGFR L858R点突然変異を保因していることが既知であった患者CL109およびCL745由来の試料は、L858R特異的抗体染色では陽性であったが、dEGFR特異的抗体染色では陰性であった。DNA配列決定によってE746-A750を欠損していることが既知であった患者CL495およびCL712由来の試料は、dEGFR特異的抗体では陽性であったが、L858R特異的抗体では陰性であった。
【図5】代表的、非限定的な、遺伝子型不明のNSCLC試料(すなわち、IHC分析前にDNA配列が決定されていない試料)2個に対する本発明の抗体の免疫組織化学法による反応性を示す。患者CL761由来の腫瘍試料は、汎サイトケラチン特異的抗体、対照野生型EGFR特異的抗体、およびL858R特異的抗体染色では陽性を示したが、dEGFR(すなわち、E746-A750del)特異的抗体染色では陰性であった。対照的に、患者CL764由来の腫瘍試料は、汎サイトケラチン特異的抗体(陽性対照)、対照野生型EGFR特異的抗体およびdEGFR特異的抗体染色では陽性であったが、L858R特異的抗体では陰性であった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、概して、癌に関与する変異タンパク質および遺伝子、ならびに本明細書に開示した本発明の抗体を使用した癌の検出、診断および治療に関する。
【0019】
免疫組織化学法によって、扁平上皮癌の大部分において高いEGFRタンパク質発現が観察された一方、大細胞癌、腺癌、および気管支前癌病変において低発現率が観察され、肺発癌における有意性が示唆された[Selvaggi, G.ら, Ann Oncol, 2004. 15(1): p.28-32]。NSCLC中EGFRタンパク質濃度の予後予測の重要性については相反するデータがある。これらの試験のメタ分析では、EGFR値と生存間に有意な相関性は示されなかった[Meert, A.P.ら, Eur Respir J, 2002. 20(4): p.975-81]。ゲフィチニブのオリジナル試験および後の研究データにおいて、免疫組織化学法におけるEGFR陽性と奏効性との関連性のレトロスペクティブ評価により、EGFR免疫組織化学結果は奏効性を予測しないことが示された[Clark, G.M.ら, J Thorac Oncol, 2006. 1(8): p.837-46;Tsao,
M.S.ら, N Engl J Med, 2005.
353(2): p.133-44;Dziadziuszko, R.ら, Ann Oncol, 2007. 18(3): p.447-52;およびCappuzzo, F.ら, J Natl Cancer Inst, 2005. 97(9): p.643-55]。あるEGFR突然変異の存在はゲフィチニブまたはエルロチニブのいずれか一方の臨床的奏効性と相関するため、NSCLC患者におけるそのようなEGFR突然変異の同定に対する需要は高い。
【0020】
したがって、本発明は、本明細書に記載したように作製された、E746-A750delおよびL858R点突然変異を有するEGFRタンパク質に対して選択的反応性を有するウサギmAbsを提供する。該抗体は、E746-A750delおよびL858R変異EGFRタンパク質に対して特異的であることがウエスタンブロットおよび免疫蛍光により示された。NSCLCの異種移植片腫瘍、細胞ペレットおよび分子特定前試料中の該抗体をIHCによってさらに分析し、抗wtEGFR
mAbと比較した。RmAbは、E746-A750delまたはL858R点突然変異体EGFRタンパク質のいずれかを検出し、wtEGFRまたは他のタイプのEGFR突然変異は検出しないために選択された。他方、抗wtEGFRAbは、より高い割合のNSCLCで広範囲に反応した。したがって、本明細書に記載した結合剤は、E746-A750delまたはL858R変異EGFRタンパク質のいずれかを特異的に認識する。
【0021】
本発明は、EGFR L858R突然変異およびEGFR E746-A750del突然変異と特異的に結合する結合剤(抗体など)を提供する。EGFR突然変異特異的抗体は、癌患者もしくは患畜、特にNSCLCもしくはEGFR異常を特徴とする他の癌の患者もしくは患畜または該癌の疑いのある患者もしくは患畜の臨床的管理(例えば、治療および診断)において非常に価値がある。
【0022】
本明細書中で用いる単数形「1つの、ある(a)」、「1つの、ある(an)」および「その、前記(the)」は、文脈上明らかにそれ以外のことが示されない限り、これらが示す用語で派生する複数形も具体的に含む。
【0023】
本明細書中で用いる「約(about)」という用語は、おおよそ(roughly)、または約(around)という意味での約(approximately)を意味する。用語「約(about)」が数値の範囲と関連して用いられる場合には、記載された数値の上限および下限を広げることによって該範囲を修正する。本明細書中で用いる用語「約(about)」は、通常、記載された値の上下の数値を差分20%で修正するために用いられる。
【0024】
特別の定めのない限り、本明細書中で用いる用語「または」とは、「および/または」の「包括的」意味であり、「二者択一」の「排他的」意味ではなく用いられる。本明細書および添付の請求項において、文脈上明らかにそれ以外のことが示されない限り、単数形は指示対象の複数形も含む。
【0025】
請求項の移行句であれ本文であれ、本明細書中で用いる「含む」および「含んでいる」という用語は、開放型(open-ended)の意味を有するものと解釈すべきである。すなわち、該用語は「少なくとも〜を有している」または「少なくとも〜を含んでいる」という語句と同義的に解釈される。プロセスに関して用いる場合、用語「含んでいる」は、プロセスが少なくとも列挙された工程を含み、さらなる工程も含み得ることを意味する。化合物または組成物に関して用いる場合、用語「含んでいる」は、化合物または組成物が少なくとも列挙された特徴または成分を含み、さらなる特徴または成分を含み得ることを意味する。
【0026】
本明細書に参照する特許、公開出願、および科学文献は、当業者の知識を確立し、参照によりそれらの全体が、各々、あたかも特定的かつ個別に示されているかのように、参照により本明細書中で援用される。本明細書中に引用された任意の参考文献と本明細書の特定の教示との間にある矛盾は、いずれも、後者を優先して解決するものとする。同様に、当該分野で認められた言葉もしくは語句の定義と本明細書で特定的に教示された用語もしくは語句の定義との間にある矛盾は、いずれも、後者を優先して解決するものとする。
【0027】
本発明を実施する上で、当業者に公知である任意の適切な材料および/または方法を使用できる。しかしながら、好ましい材料および方法を記載する。下記の説明および実施例で言及する材料、試薬などは、他の記載がない限り、販売元から入手可能である。
【0028】
本明細書中で用いる変数範囲の列挙は、本発明がその範囲内に包含される任意の値と同一の変数によって実施し得ることを示すものとする。したがって、本質的に不連続変数である場合、変数は数値範囲の両端を含む任意の整数値と同一であり得る。同様に、本質的に連続変数である場合、変数は数値範囲の両端を含む任意の実数値と同一であり得る。1例として、値0〜2と記載される変数は、本質的に不連続変数である場合は0、1または2であり得、本質的に連続変数である場合は0.0、0.1、0.01、0.001、または他の任意の実数値であり得る。
【0029】
以下、本発明の特定の実施形態について詳細に記す。本発明をこれらの特定の実施形態と関連して記載する一方、そのような特定の実施形態に本発明を限定するものではないことが理解されるであろう。逆に、添付の請求項に定義された本発明の趣旨および範囲内に含み得る代替、修正、および均等物を網羅することを意図するものである。以下の記述では、本発明を十分に理解させるための多くの詳細な説明を記す。本発明は、これらの特定の説明の一部またはすべてがなくとも実施し得る。他の例では、本発明をいたずらにわかりにくくしないために、周知のプロセス操作は詳述していない。
【0030】
上皮成長因子受容体(EGFR;ヒトのErbB-1およびHER1としても知られている)は、細胞外タンパク質系リガンドの上皮成長因子ファミリー(EGFファミリー)メンバーの細胞表面上の受容体である。(シグナル配列を含む)野生型ヒトEGFRのアミノ酸配列は、本明細書で配列番号47に示し、(シグナル配列を含まない)野生型ヒトEGFRのアミノ酸配列は、本明細書で配列番号48に示す。上皮成長因子受容体(EGFR)の体細胞突然変異を保因する非小細胞肺癌(NSCLC)患者は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤ゲフィチニブ[Lynch, T.J.ら, N Engl J Med, 2004. 350(21): p.2129-39およびPaez, J.G.ら, Science, 2004. 304(5676): p.1497-500]およびエルロチニブ[Pao, W.ら, Proc Natl Acad Sci USA, 2004.
101(36): p.13306-11]に対して高感受性であることが示されている。
【0031】
突然変異はEGFR分子で発生することが知られている。本明細書中で用いる用語「突然変異体(mutant)」または「突然変異(mutation)」は、野生型分子と異なる構造を有する分子(例えば、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド)を指す。野生型分子との構造上の違いとしては、異なる配列(例えば、異なるアミノ酸もしくはヌクレオチド配列)、付加的な配列、欠損配列(すなわち、配列の一部が欠損している)、修飾変化(例えば、メチル化、リン酸化など)、および/または別の分子とすべてもしくは一部の野生型分子との融合が挙げられるが、これらに限定されない。「野生型」とは、突然変異体分子が由来する種の大部分の個体に天然に生じる分子形態、および/または突然変異体分子が由来する種の健常個体(例えば、非腫瘍性)に天然に生じる分子形態を意味する。野生型分子配列は典型的にはGenBankデータベースに提供される。例えば、野生型ヒトEGFRのアミノ酸配列は、配列番号47(長さ24アミノ酸のシグナル配列を含まない)および配列番号48(シグナル配列を含む)に示す。
【0032】
本明細書中で用いる「EGFR突然変異体」は、野生型EGFRと異なるEGFR突然変異体を所与する任意のEGFR分子内突然変異(すなわち、変化)タイプを含む。最も一般的なNSCLC関連EGFR突然変異は、エキソン19内15bpヌクレオチドのインフレーム欠損(E746-A750del;配列番号49に示すアミノ酸配列(シグナル配列を含む)および配列番号50に示すシグナル配列を含まないアミノ酸配列)ならびにエキソン21コドン858のロイシンをアルギニンに置換した点突然変異(L858R;配列番号51に示すアミノ酸配列(シグナル配列を含む)および配列番号52に示すシグナル配列を含まないアミノ酸配列)である。これら2つのEGFR突然変異体は、EGFR突然変異の85〜90%を占める[Riely, G.J.ら, Clin Cancer Res, 2006. 12(24): p.7232-41]。癌細胞中の突然変異した遺伝子産物の検出能は、そのような治療の利益を享受する可能性が最も高い患者を同定して、臨床試験をより効率的かつ有益にすることができる。
【0033】
したがって、本発明の一態様では、E746-A750位を欠損している上皮成長因子受容体(EGFR)分子に特異的に結合する結合剤を提供する。幾つかの実施形態では、上皮成長因子受容体(EGFR)分子はヒト由来である。幾つかの実施形態では、結合剤は少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含み、該CDRは、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号16、配列番号17、および配列番号18からなる群から選択される配列を含む。幾つかの実施形態では、結合剤は、トレオニン-セリン-プロリン配列を含むアミノ酸配列を含むエピトープと特異的に結合する。
【0034】
本発明の別の態様では、858位のロイシンがアルギニンに置換された点突然変異を有する上皮成長因子受容体(EGFR)分子に特異的に結合する結合剤を提供する。幾つかの実施形態では、上皮成長因子受容体(EGFR)分子はヒト由来である。幾つかの実施形態では、結合剤は、少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含み、該CDRは、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号30、配列番号31、および配列番号32からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、結合剤は、トレオニン-アスパラギン酸‐X‐グリシン‐アルギニン配列(式中、Xは任意のアミノ酸残基)を含むアミノ酸配列を含むエピトープと特異的に結合する。
【0035】
本明細書中で用いる「結合剤」とは、ポリペプチド(例えば、本明細書で定義されるような抗体)もしくはポリヌクレオチドなどの有機分子、または低級化学分子もしくは合成ポリマーなどの無機分子で、基準標的分子(抗原と呼ぶこともある)との結合能を有するものを含むが、これらに限定されない分子を意味する。幾つかの実施形態では、結合剤は基準標的分子と特異的に結合する。本明細書中で用いる「特異的結合」または「特異的に結合する」とは、本発明の結合剤(例えば、抗体)がその標的分子(例えば、EGFR E746-A750欠損突然変異体)と相互作用し、該相互作用が標的分子上の特定構造(すなわち、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存すること、すなわち、結合剤が、一般にすべての分子ではなく、特定構造を認識して結合することを意味する。標的分子に特異的に結合する結合剤は、標的特異的結合剤と呼び得る。例えば、EGFR L858Rポリペプチドに特異的に結合する抗体は、EGFR L858R特異的抗体(またはEGFR L858R変異体特異的抗体)と呼び得る。
【0036】
幾つかの実施形態では、本発明の結合剤は精製される。
【0037】
「精製された」(または「単離された」)によって、核酸配列(例えば、ポリヌクレオチド)またはアミノ酸配列(例えば、ポリペプチド)などの分子で、該分子の自然環境に存在する他の成分から取り出されたまたは分離された分子を指す。例えば、単離された抗体とは、真核細胞(例えば、小胞体もしくは細胞質タンパク質およびRNA)の他の成分から分離されたものである。単離された抗体をコードするポリヌクレオチドは、他の核成分(例えば、ヒストン)および/または上流もしくは下流核酸配列から分離されたものである(例えば、単離された抗体をコードするポリヌクレオチドは、内因性の重鎖もしくは軽鎖プロモーターから分離されていることがある)。本発明の単離された核酸配列もしくはアミノ酸配列は、指定の核酸配列またはアミノ酸配列の天然の状態で付随する他の成分から少なくとも60%離れている、もしくは少なくとも75%離れている、もしくは少なくとも90%離れている、もしくは少なくとも95%離れていることがある。
【0038】
本発明の様々な実施形態では、結合剤が特異的に結合する基準標的分子は、EGFR L858R突然変異体(mutant)ポリペプチド(突然変異(mutation)とも呼ぶ)またはEGFR
E746-A750del突然変異体(mutant)ポリペプチドである。幾つかの実施形態では、EGFR L858Rポリペプチドは配列番号51または配列番号52に規定されるアミノ酸配列を有する。幾つかの実施形態では、EGFR E746-A750delポリペプチドは、配列番号49または配列番号50に規定されるアミノ酸配列を有する。
【0039】
本明細書中で用いる「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書中で同義的に用いられ、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指す。ポリマーは、直鎖でも分枝でもよく、修飾アミノ酸を含み得る。アミノ酸配列が提示される場合、別段の指定がない限り、配列はN末端からC末端の方向である(例えば、TSP配列はN’トレオニン‐セリン‐プロリンC’)。幾つかの実施形態では、ポリマーは非アミノ酸によって中断されていることがある。また、該用語は、自然にまたは介入により修飾された(例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、またはその他の任意の操作もしくは修飾、例えば、標識成分との結合など)アミノ酸ポリマーも包含する。また、例えば、アミノ酸の1個もしくは複数個の類似体(例えば、非天然アミノ酸など)を含有するポリペプチド、ならびに当該分野において公知である他の修飾も該定義に包含される。本発明のポリペプチドは、抗体をベースとしているため、ポリペプチドは、一本鎖または会合した鎖として存在し得ることが理解される。
【0040】
幾つかの実施形態では、本発明の結合剤は、標的分子(例えば、EGFR L858Rポリペプチド)に対してKD値1×10-6M以下を有する。幾つかの実施形態では、本発明の結合剤は、KD値1×10-7M以下、またはKD値1×10-8M以下、またはKD値1×10-9M以下、またはKD値1×10-10M以下、KD値1×10-11M以下、KD値1×10-12M以下で標的分子と結合する。特定の実施形態では、本発明の結合剤のKD値は、1pM〜500pM、または500pM〜1μM、または1μM〜100nM、または100mM〜10nMである。本明細書中で用いる用語「KD値」とは、2分子間の相互作用の解離定数(例えば、結合剤(例えば、抗体)とその特異的標的分子間の解離定数)を指すことを意図している。
【0041】
幾つかの実施形態では、結合分子は抗体である。
【0042】
自然抗体(免疫グロブリンとも呼ぶ)は、2種類のポリペプチド鎖、すなわち軽鎖および重鎖で構成される。本発明の抗体は、これに限定しないが、重鎖2本と軽鎖2本を含む4本の無傷の免疫グロブリン鎖抗体であり得る。抗体の重鎖は、IgM、IgG、IgE、IgG、IgAもしくはIgDなどの任意のアイソタイプでも、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgE1、IgE2などの任意のサブアイソタイプでもよい。軽鎖はκ軽鎖またはλ軽鎖でよい。1つの自然抗体は、2本の同一軽鎖および2本の同一重鎖を有する。それぞれ1つの可変領域(VH)および複数の定常領域を含む重鎖は、定常領域内ジスルフィド結合で互いに結合して抗体の「幹」を形成する。それぞれ1つの可変領域(VL)および1つの定常領域を含む軽鎖は、それぞれ1本の重鎖とジスルフィド結合で結合する。各軽鎖可変領域は結合した重鎖可変領域と並ぶ。軽鎖および重鎖の両可変領域は、4つの高度保存フレームワーク領域(FR)間に挟まれた3つの超可変領域を含む。相補性決定領域(CDR)として知られるこれらの超可変領域は、抗体固有の抗原結合表面を含むループを形成する(Kabat, E.A.ら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, National
Institutes of Health, Bethesda, Md., (1987)を参照されたい)。4つのフレームワーク領域のほとんどがβシート構造をとり、CDRはβシート構造に接続するループを形成し、場合によってはβシート構造の一部を形成するループを形成している。各鎖CDRはフレームワーク領域と近接しており、他の鎖のCDRと共に抗原結合領域の形成に寄与している。
【0043】
また、本発明は、一本鎖抗体、ラクダ科動物抗体などの4本鎖未満の抗体分子、重鎖もしくは軽鎖などの抗体成分を包含する。
【0044】
したがって、本明細書中で用いる用語「抗体」とは、任意の種(例えば、ヒト、齧歯類、ラクダ科動物)由来の任意のアイソタイプまたはサブアイソタイプ(例えば、IgG、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgM、IgD、IgE、IgE1、IgE2、もしくはIgA)の無傷の免疫グロブリン分子、ならびにFab、Fab'、F(ab')2などその抗原結合領域断片;scFv、Fv、Fd、dAb、二重特異性scFv、ダイアボディ、線状抗体などその変異型(米国特許第5,641,870号、Zapataら, Protein Eng 8 (10): 1057-1062 [1995]を参照);一本鎖抗体分子、および抗体断片から形成された多重抗体;ならびに抗体結合領域もしくはそれと相同の結合領域を含む任意のポリペプチドを含むことを意味する。「抗原結合領域」とは、無傷抗体の特異的な結合活性を保持する抗体の任意の一部(すなわち、無傷抗体の標的分子上のエピトープと特異的に結合できる抗体の任意の一部)を意味する。本明細書中で用いる用語「エピトープ」とは、結合剤の(例えば、抗体の)抗原結合領域によって特異的に結合できる最小の標的分子部分を指す。エピトープの最小サイズは、約5または6から7アミノ酸であり得る。抗原結合領域としては、これらに限定しないが、無傷抗体の重鎖および/もしくは軽鎖CDR部分、無傷抗体の重鎖および/もしくは軽鎖可変領域、無傷抗体の完全長の重鎖もしくは軽鎖、または無傷抗体の重鎖もしくは軽鎖のいずれか一方の単一CDRが挙げられる。
【0045】
本発明の抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単一特異性抗体、多重特異性抗体およびそれらの断片、ならびに別のポリペプチドに融合した免疫グロブリン結合領域を含むキメラ抗体が挙げられるが、これらに限定しない。
【0046】
結合剤に関する「結合しない」という用語は、結合剤(例えば、抗体)が、指定の分子と実質的に反応しないことを意味する。結合剤(例えば、EGFR L858R突然変異特異的抗体)が、非特異的な対照抗体(すなわち、任意の分子と特異的に結合しない)と比較して、別の標的(例えば、野生型EGFR)と明らかに結合しないことが一般に用いられる実験検出系(ウェスタンブロッティング、IHC、免疫蛍光など)で確認された場合、または別の標的分子(下記の汎サイトケラチン特異的抗体など)と結合する場合に、該表現を用いることができることを当業者は理解するであろう。対照抗体調製物(例えば、免疫前の同一動物種に由来する精製された免疫グロブリン)は、本発明のアイソタイプ適合および種適合抗体であり得る。適切かつ決定的な特異性を示すための対照抗体を用いた試験が当業者によって認識される。
【0047】
本発明の幾つかの実施形態では、標的分子に特異的に結合する抗体は、免疫化学的アッセイに使用される場合、他のタンパク質の発する検出シグナルより少なくとも5倍、10倍、または20倍高い検出シグナルを発する。幾つかの実施形態では、標的分子に特異的に結合する抗体は、免疫化学的アッセイにおいて他のタンパク質を検出せず、溶液から標的分子を免疫沈殿できる。
【0048】
幾つかの実施形態では、免疫グロブリン鎖は、5'から3'の方向で、可変領域および定常領域を含み得る。可変領域は、フレームワーク(FR)領域が散在した3つの相補性決定領域(CDR)、すなわちFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4の構造を含み得る。また、本発明は、重鎖もしくは軽鎖の可変領域、フレームワーク領域、およびCDRを包含する。本発明の抗体は、CH1領域、ヒンジ、CH2およびCH3領域の一部もしくはすべてを含む重鎖定常領域を含み得る。本発明の抗体は、CL領域の一部もしくはすべてを含む軽鎖定常領域を含み得る。本発明の抗体は、標的分子に対してKD値1×10-7M以下を有し得る。他の実施形態では、抗体は、標的分子とKD値1×10-8M、1×10-9M、1×10-10M、1×10-11M、1×10-12Mまたはそれ以下で結合する。特定の実施形態では、KD値は1pM〜500pM、500pM〜1μM、1μM〜100nM、または100mM〜10nMである。
【0049】
本発明の抗体は、哺乳動物などの任意の動物種由来であり得る。代表的な自然抗体としては、これらに限定しないが、ヒト、ラクダ科動物(例えば、ラクダおよびラマ)、ニワトリ、ヤギ、およびヒト抗体を産生するために遺伝子工学により生成された遺伝子組換え齧歯類を含む齧歯類(例えば、ラット、マウス、ハムスターおよびウサギ)由来の抗体が挙げられる(例えば、参照によりそれらの全体が本明細書中で援用されるLonbergらの国際公開第93/12227号;米国特許第5,545,806号;およびKucherlapatiらの国際公開第91/10741号;米国特許第6,150,584号を参照されたい)。自然抗体は宿主動物によって産生された抗体である。「遺伝子改変抗体」とは、元の抗体のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列の抗体を指す。本願における組換えDNA技術は妥当であるため、自然抗体に見出されるアミノ酸配列に限定される必要はなく、所望の特徴を得るために抗体を再設計できる。可能な変形は多く、1個または数個のみのアミノ酸の変化から、(例えば、可変または定常領域などの)完全な再設計にまで及ぶ。定常領域の変化は、通常、補体固定、膜との相互作用およびその他のエフェクター機能などの特徴を改善または改変させるために行われる。可変領域の変化は、抗原結合の特徴を改善するために行われる。
【0050】
他の抗体は特定して、オリゴクローナル抗体であると意図する。本明細書中で用いる「オリゴクローナル抗体」という語句は、異なるモノクローナル抗体の所定の混合物を指す。例えば、PCT国際公開第95/20401号;米国特許第5,789,208号および同第6,335,163号を参照されたい。一実施形態では、1つもしくは複数のエピトープに対する抗体の所定の混合物からなるオリゴクローナル抗体は、単細胞内で産生される。他の実施形態では、オリゴクローナル抗体は、一般的な軽鎖と対形成して多特異性を有する抗体を産生できる複数の重鎖を含む(例えば、PCT国際公開第04/009618号)。オリゴクローナル抗体は、単一の標的分子上の複数のエピトープを標的化することが望ましい場合に特に有用である。本明細書に開示したアッセイおよびエピトープに鑑みて、当業者は、意図する目的および所望のニーズに対して応用できる抗体もしくは抗体の混合物を作製することができるか、もしくは選択することができる。
【0051】
本発明は、本発明の組換え抗体も包含する。本願において、これらの組換え抗体は、自然抗体と同じアミノ酸配列を有するか、または自然抗体から改変されたアミノ酸配列を有する。該組換え抗体は、原核生物および真核生物発現系の双方を含む任意の発現系内で、またはファージディスプレイ方法を用いて作製できる(例えば、参照によりそれらの全体が本明細書中で援用されるDowerらの国際公開第91/17271号ならびにMcCaffertyらの国際公開第92/01047号;米国特許第5,969,108号、米国特許第6,331,415号;米国特許第7,498,024号、および米国特許第7,485,291号を参照されたい)。
【0052】
抗体は、多数の方法で設計できる。それらは、一本鎖抗体(低モジュラー免疫医薬またはSMIP(商標登録)など)、FabおよびF(ab')2断片などとして作製できる。抗体は、ヒト化抗体、キメラ抗体、脱免疫化抗体、または完全ヒト抗体であり得る。多くの抗体タイプおよびそのような抗体の設計方法が多数の刊行物に説明されている。例えば、米国特許第6,355,245号;同第6,180,370号;同第5,693,762号;同第6,407,213号;同第6,548,640号;同第5,565,332号;同第5,225,539号;同第6,103,889号;および同第5,260,203号を参照されたい。
【0053】
遺伝子改変抗体は、上記の自然抗体と機能的に同等であるべきである。特定の実施形態では、修飾抗体は、改善された安定性または/および治療効果を提供する。修飾抗体例としては、アミノ酸残基の保存的置換、および抗原結合有用性を著しく有害に改変しないアミノ酸の1個もしくは複数個の欠損もしくは付加を伴うものが挙げられる。置換は、1個もしくは複数個のアミノ酸残基の変更もしくは修飾から、治療的有用性が維持される限りの1領域の完全な再設計にまで至る可能性がある。本発明の抗体は、翻訳後に修飾(例えば、アセチル化、および/もしくはリン酸化)することもできるし、合成的に修飾(例えば、標識基の付着)することもできる。
【0054】
加工されたもしくは変異型の定常もしくはFc領域を有する抗体は、例えば、抗体依存性細胞障害活性(ADCC)および補体依存性細胞障害活性(CDC)などのエフェクター機能を調節するのに有用であり得る。
【0055】
特定の実施形態では、遺伝子改変抗体は、キメラ抗体およびヒト化抗体である。
【0056】
キメラ抗体は、異なる抗体に由来する部分を有する抗体である。例えば、キメラ抗体は2つの異なる抗体に由来する可変領域および定常領域を有し得る。ドナー抗体は異種に由来し得る。特定の実施形態では、キメラ抗体の可変領域は非ヒト(例えば、マウス)であり、定常領域はヒトである。
【0057】
本発明に使用される遺伝子改変抗体には、CDRを移植したヒト化抗体が含まれる。一実施形態では、該ヒト化抗体は、非ヒトドナー免疫グロブリンの重鎖および/もしくは軽鎖CDRならびにヒトアクセプター免疫グロブリンの重鎖および軽鎖のフレームワークおよび定常領域を有する。ヒト化抗体の作製方法は、米国特許第5,530,101号;同第5,585,089号;同第5,693,761号;同第5,693,762号;および同第6,180,370号に開示されており、各々、参照によりそれらの全体が本明細書中で援用される。
【0058】
幾つかの実施形態では、本発明の抗体は、標的分子に特異的に結合する合成アミノ酸配列として1つもしくは複数のCDR領域が存在するフレームワーク領域のすべてもしくは実質的にすべてが、ヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のフレームワーク領域である可変領域(Fab、Fab'、F(ab')2、Fabc、Fvなど)の少なくとも1つ、典型的には2つの実質的にすべてを含む。フレームワーク領域は、元のヒト免疫グロブリン配列であってもよい。他の抗体中CDR領域は、元のヒト抗体のそのようなCDRまたは配列においてヒト免疫グロブリンコンセンサス配列を有するように選択できる。最適には、該抗体は、ヒト免疫グロブリンの免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部も含む。通常、該抗体は、軽鎖と、重鎖の少なくとも可変領域との双方を含む。抗体は、重鎖のCH1、ヒンジ、CH2、CH3、およびCH4領域も含み得る。
【0059】
抗体のアミノ酸配列分析による、抗体CDR領域の同定方法は周知である(例えば、Wu, T.T. and Kabat, E.A. (1970) J. Exp.
Med. 132: 211-250;Martinら, Methods Enzymol. 203:121-53 (1991);Moreaら, Biophys Chem. 68(1-3):9-16 (Oct. 1997);Moreaら, J Mol Biol. 275(2):269-94 (Jan .1998);Chothiaら, Nature 342(6252):877-83 (Dec. 1989);Ponomarenko
and Bourne, BMC Structural Biology 7:64 (2007)を参照されたい)。
【0060】
1例として、これに限定しないが、抗体CDRを同定するために下記の方法を使用できる。
【0061】
CDR-L1の場合、CDR-L1は長さ約10〜17アミノ酸残基である。一般的に、約24位の残基を起点とする(24位の残基の前の残基は典型的にはシステインである)。CDR-L1はトリプトファン残基の前の残基で終了する。典型的には、トリプトファン含有配列はTrp-Tyr-Gln、Trp-Leu-Gln、Trp-Phe-Gln、またはTrp-Tyr-Leuのいずれか1つであり、CDR-L1領域内の最後の残基はこれらすべての配列中TRPの前の残基である。
【0062】
CDR-L2の場合、CDR-L2は典型的には長さ7残基である。通常、CDR-L2はCDR-L1末端から約16残基後で開始し、典型的にはIle-Tyr、Val-Tyr、Ile-Lys、またはIle-Phe配列後の残基を起点とする。
【0063】
CDR-L3の場合、CDR-L3は典型的には長さ7〜11アミノ酸残基である。通常、該領域はCDR-L2領域末端から約33残基後を起点とする。領域開始点の前の残基はしばしばシステインであり、配列Phe-Gly-XXX-Gly(式中、XXXは任意の単アミノ酸の三文字表記)中のPheの前の残基で終了する。
【0064】
CDR-H1の場合、CDR-H1領域は典型的には長さ10〜12アミノ酸残基であり、しばしば約26位の残基を起点とする。該領域は典型的にはシステイン残基から4もしくは5残基後で開始し、典型的にはTrp(Trpはしばしば、次の配列、すなわちTrp-Val、Trp-Ile、もしくはTrp-Alaの1つに見出される)の前の残基で終了する。CDR-H2の場合、CDR-H2領域は典型的には長さ16〜19残基であり、典型的にはCDR-H1領域末端残基から15残基後を起点とする。該領域は、典型的には配列Lys/Arg-Leu/Ile/Val/Phe/Thr/Ala-Thr/Ser/Ile/Ala(例えば、配列Lys-Leu-ThrおよびArg-Ala-Alaなど)の前のアミノ酸残基で終了する。
【0065】
CDR-H3の場合、CDR-H3領域は典型的には長さ3〜25アミノ酸であり、典型的にはCDR-H2領域の末端残基から33アミノ酸残基後(高頻度で、システイン残基、例えば、配列Cys-Ala-Arg中のシステインから2アミノ酸残基後)を起点とする。該領域は、配列Trp-Gly-XXX-Gly(式中、XXXは任意の単アミノ酸の三文字表記)中のTrpの直前のアミノ酸で終了する。
【0066】
本願の一実施形態では、抗体断片は切断型の鎖(カルボキシル末端切断型)である。特定の実施形態では、これらの切断型の鎖は1つもしくは複数の免疫グロブリン活性(例えば、補体固定活性)を有する。切断型の鎖例としては、Fab断片(VL、VH、CLおよびCH1領域からなる);Fd断片(VHおよびCH1領域からなる);Fv断片(抗体の一本鎖のVLおよびVH領域からなる);dAb断片(VH領域からなる);単離されたCDR領域;(Fab')2断片;二価断片(ヒンジ領域のジスルフィド結合で結合した2個のFab断片を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。各切断型の鎖は、当該分野において公知である従来の生化学的技術(酵素切断など)または組換えDNA技術によって製造できる。これらのポリペプチド断片は、当該分野において周知の方法による無傷抗体のタンパク質分解切断によって、または部位指向(Fab断片を製造するためにCH1後、もしくは(Fab')2断片を製造するためにヒンジ領域後など)の突然変異誘発を用いてベクター中の所望の位置へ停止コドンを挿入することによって製造し得る。一本鎖抗体は、VLおよびVHタンパク質断片に連結するペプチドリンカーをコードするDNAと、VLコード領域およびVHコード領域とを結合することによって製造し得る。
【0067】
「Fv」は通常、完全な抗原認識部位および抗原結合部位を含む最小抗体断片を指す。この領域は、1つの重鎖可変領域と1つの軽鎖可変領域(すなわち、VL領域とVH領域)とが固く非共有的に結合している二量体から構成されている。この立体配置において、各可変領域の3つのCDRが相互作用して、VH-VL二量体の表面に抗原結合部位の輪郭を形成する。まとめると、CDRによって、抗体に対する抗原結合特異性が所与される。しかしながら、1つの可変領域(または抗原に特異的なCDRを3つ含むFvの半分)でも、完全な結合部位よりも恐らく親和性は低いが、抗原を認識し結合する能力を有している。「一本鎖Fv」または「scFv」抗体断片は、抗体のVHおよびVL領域を含み、これらの領域は単ポリペプチド鎖に存在する。特定の実施形態では、Fvポリペプチドはさらに、scFvが抗原結合のための所望の構造を形成することを可能にする、VH領域とVL領域間のポリペプチドリンカーも含む。scFvの総説については、Pluckthun
in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore編 (Springer-Verlag: New York, 1994),
pp.269-315を参照されたい。
【0068】
無傷抗体のパパイン消化により、「Fab」断片と呼ばれる、それぞれが単一の抗原結合部位を有する2つの同一の抗原結合性断片と、その名前が容易に結晶化する能力を表している残りの「Fc」断片とが産生される。Fab断片には、重鎖の第1定常領域(CH1)および可変領域(VH)と共に、完全な軽鎖(すなわち、軽鎖の定常領域(CL)および可変領域(VL))が含まれる。Fab’断片は、抗体のヒンジ領域に由来する1個もしくは複数個のシステインを含む重鎖CH1領域のカルボキシ末端に数個の残基が付加されている点でFab断片とは異なる。本明細書のFab’-SHは、定常領域のシステイン残基(1個または複数個)が遊離チオール基を有するFab’についての名称である。F(ab')2抗体断片はもともと、その間にヒンジシステインを有するFab’断片の対として製造された。例えば、抗体のペプシン治療は、2つの抗原結合部位を有するF(ab')2断片を所与しつつ、依然として抗原架橋できる。すなわち、F(ab')2断片は、Fab断片と結合する2個のジスルフィドを含む。抗体断片の他の化学的結合も公知である。したがって、特定の実施形態では、本発明の抗体は、EGFRにおけるE746-A750欠損型を認識するもしくはE746-A750欠損型と特異的に結合するまたはL858R点突然変異を認識するもしくはL858R点突然変異と特異的に結合するCDRを1、2、3、4、5、6、またはそれ以上含み得る。幾つかの実施形態では、本発明の抗体は、少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含み、該CDRは配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号16、配列番号17、および配列番号18からなる群から選択される配列を含むEGFR E746-A750欠損型と特異的に結合する。幾つかの実施形態では、EGFR L858R突然変異と特異的に結合する本発明の抗体は、少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含み、該CDRは配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号30、配列番号31、および配列番号32からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0069】
本発明の別の抗体タイプはSMIPである。SMIPは、抗原結合領域およびエフェクター領域(CH2およびCH3領域)を含むように設計された一本鎖ペプチドの種類である。例えば、米国特許出願第20050238646号を参照されたい。抗原結合領域は、抗体(例えば、本発明のEGFR
L858R点突然変異特異的抗体など)の可変領域またはCDRに由来し得る。あるいは、抗原は、指定の標的(例えば、EGFR L858R突然変異体分子と結合する非免疫グロブリン分子)と特異的に結合するタンパク質に由来する。
【0070】
二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原に対して結合特異性を有するモノクローナル抗体、ヒト抗体またはヒト化抗体であり得る。本明細書の場合、結合特異性の1つは、本発明の標的分子(例えば、EGFR L858R突然変異体またはEGFR E746-A750del突然変異体)、他方は、例えば、細胞表面タンパク質または受容体もしくは受容体サブユニットなどの他の任意の抗原に対する。あるいは、治療薬は、抗体の鎖(例えば、重鎖)上に配置し得る。治療薬は、薬物、毒素、酵素、DNA、放射性核種などであり得る。
【0071】
幾つかの実施形態では、抗原結合性断片はダイアボディであり得る。「ダイアボディ」という用語は、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片を指し、該断片は、同一のポリペプチド鎖(VH-VL)中で軽鎖可変領域(VL)に連結した重鎖可変領域(VH)を含む。該断片は、V領域の鎖内ではなく鎖間の対形成が達成され、その結果、多価の断片(すなわち、2つの抗原結合部位を有する断片)が得られるように、VHとVL領域間に短いリンカー(約5〜10残基)を有するscFv断片を構築することにより調製できる。リンカーは同一鎖上の2つの領域間で対形成させるには短すぎるため、該領域は必然的にもう一方の鎖の相補的領域と対形成して、2つの抗原結合部位を構築する。ダイアボディについては、例えば、欧州特許第404,097号;国際公開第93/11161号;およびHollingerら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 6444-6448
(1993)に詳述されている。
【0072】
ラクダ科動物抗体は、当初、ラクダ科ファミリー動物に見出された、軽鎖を欠く独特な抗体タイプを指す。いわゆる重鎖抗体と呼ばれるこれらの重鎖は、1つの単一領域、すなわちVHHと呼ばれる免疫グロブリン重鎖の可変領域で抗原と結合する。VHHは、ヒトVHIIIファミリーの重鎖可変領域と相同性を示す。免疫化したラクダ、ヒトコブラクダ、またはラマ由来のVHHは、サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces
cerevisiae)などの微生物における有効な産生などの幾つかの利点を有する。特定の実施形態では、一本鎖抗体、およびキメラ抗体、ヒト化抗体もしくは霊長類化(CDR移植)抗体、ならびにキメラ一本鎖抗体もしくはCDR移植一本鎖抗体は、異種に由来する部分を含むものであって、抗体の抗原結合性断片として本開示に包含される。これらの抗体の各種部分は、従来技術によって化学的に結合できるか、または遺伝子工学技術を用いて連続したタンパク質として調製できる。例えば、キメラ鎖もしくはヒト化鎖をコードする核酸は、連続したタンパク質を産生するように発現させることができる。例えば、米国特許第4,816,567号および同第6,331,415号;米国特許第4,816,397号;欧州特許第0,120,694号;国際公開第86/01533号;欧州特許第0,194,276 B1号;米国特許第5,225,539号;および欧州特許第0,239,400 B1号を参照されたい。霊長類化抗体に関しては、Newmanら, BioTechnology,
10: 1455-1460 (1992)も参照されたい。一本鎖抗体に関しては、例えば、Ladnerらの米国特許第4,946,778号;およびBirdら, Science, 242:
423-426 (1988))を参照されたい。
【0073】
さらに、キメラ抗体、ヒト化抗体、霊長類化抗体または一本鎖抗体の断片を含む抗体の機能的断片も製造できる。本発明の抗体の機能的断片は、該機能的断片が由来する完全長の抗体の少なくとも1つの結合機能および/または調節機能を保持している。免疫グロブリン関連遺伝子は、それぞれが1つもしくは複数の異なる生物活性を有する分離した機能的領域を含むため、抗体断片の遺伝子は他の遺伝子(例えば、酵素、参照によりその全体が援用される米国特許第5,004,692号)由来の機能的領域と融合して新規特性を有する融合タンパク質またはコンジュゲートを製造し得る。
【0074】
非免疫グロブリン結合ポリペプチドも意図する。非免疫グロブリン結合剤を作製するためには、例えば、本明細書に開示した抗体由来のCDRを適切な非免疫グロブリンスキャフォールド中に挿入し得る。適切なスキャフォールド構造物の候補は、例えば、フィブロネクチンタイプIIIおよびカドヘリンスーパーファミリーメンバー由来であり得る。
【0075】
さらに、本明細書に記載した標的分子(例えば、EGFR突然変異体)に特異的に結合するタンパク質結合領域またはアプタマーなど、他の同等の非抗体分子も意図する。例えば、Neubergerら, Nature 312:
604 (1984)を参照されたい。アプタマーは、特定の標的分子と結合するオリゴ核酸またはペプチド分子である。DNAまたはRNAアプタマーは典型的には、標的分子と結合するように選択ラウンドを反復して作製された短いオリゴヌクレオチドである。ペプチドアプタマーは、典型的にはタンパク質スキャフォールドの両端と結合する可変ペプチドループからなる。この二重構造的な制限によって、通常、ペプチドアプタマー結合親和性は抗体相当量(ナノモル範囲)まで高まる。
【0076】
本発明は、免疫毒素を有する抗体の使用も開示する。抗体などの免疫毒素であるコンジュゲートは、当該分野において広く記載されている。該毒素は従来の結合技術によって抗体と結合し得、またはタンパク質毒素部分を含有する免疫毒素を融合タンパク質として製造できる。特定の実施形態では、抗体コンジュゲートは安定リンカーを含み得、細胞中に細胞毒性作用物質を放出し得る(米国特許第6,867,007号および同第6,884,869号を参照されたい)。本願コンジュゲートは、そのような免疫毒素の取得に相当する方法にて使用できる。そのような免疫毒素の例証は、Byersら, Seminars Cell
Biol 2:59-70 (1991)およびFangerら, Immunol Today 12:51-54 (1991)に記載されている。代表的な免疫毒素としては、放射線治療薬、リボソーム不活性化タンパク質(RIP)、化学療法薬、毒性ペプチド、または毒性タンパク質が挙げられる。
【0077】
本発明に開示した特異的抗体は、単独で使用しても併用使用してもよい。抗体はアレイ形態にて大量に使用してもよい。抗体マイクロアレイは、典型的には固体表面(ガラス、プラスチックおよびシリコンチップなど)上にスポットされ、かつ固定された固定化抗体の集合である。
【0078】
特定の実施形態では、本発明に開示した抗体は、本明細書に記載したように、診断用途および治療用途に特に指定される。したがって、抗体は、治療(併用療法を含む)、疾患の診断および予後、ならびに疾患進行のモニタリングに使用し得る。したがって、本発明はさらに、本明細書に記載したような本発明の1つもしくは複数の実施形態の抗体もしくは抗原結合部分を含む組成物を含む。該組成物はさらに、製薬上許容可能な担体を含み得る。該組成物は、本発明の異なる標的部位に対する特異性をそれぞれ有する2個以上の抗体もしくは抗原結合部分、または本発明の同一部位に対して特異的である2個以上の異なる抗体もしくは抗原結合部分を含み得る。本発明の組成物は、1つもしくは複数の本発明の抗体もしくは抗原結合部分、および1種もしくは数種の追加試薬、診断薬もしくは治療薬を含み得る。
【0079】
本願は、本明細書に記載した抗体および抗体断片ならびにそれらの類似体をコードするポリヌクレオチド分子を提供する。遺伝子コードの縮重により、種々の核酸配列が各抗体アミノ酸配列をコードする。所望の核酸配列は、新規の固体相DNA合成によってまたは初期に調製された所望のポリヌクレオチド変異型のPCR突然変異誘発によって製造できる。一実施形態では、使用されるコドンは、ヒトまたはマウスに典型的なものを含む(例えば、Nakamura,
Y., Nucleic Acids Res. 28: 292 (2000)を参照されたい)。
【0080】
本発明の結合剤としては、本明細書に記載したアミノ酸配列(リーダー配列を含むかどうかを問わない)を有する抗体を含み、結合剤は、1つもしくは複数の本発明のCDR領域(重鎖もしくは軽鎖のいずれか一方、または双方に由来)のアミノ酸配列を含有する少なくとも6個の連続するアミノ酸、ならびに上記ポリペプチドと少なくとも90%同一、または少なくとも95%同一、または少なくとも96%、97%、98%もしくは99%同一(例えば、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号30、配列番号31もしくは配列番号32に対して90%同一、または少なくとも95%同一、または少なくとも96%、97%、98%もしくは99%同一)のポリペプチドを含有し得る。
【0081】
2ポリペプチドもしくは2ポリヌクレオチドの「同一の割合(%)」(もしくは「同一性の割合(%)」)とは、Bestfitプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package,
Version 8 for Unix(登録商標), Genetics
Computer Group, University Research Park, 575 Science Drive, Madison, Wis.
53711)および類似性決定のための初期設定を用いて、2ポリペプチドのアミノ酸配列を比較し、もしくは2ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を比較して生じた類似性スコアを意図する。Bestfitは、2配列間の類似性の最良セグメントを見出すために、SmithおよびWaterman(Advances in Applied Mathematics 2:
482-489 (1981))の局所相同性アルゴリズムを使用する。
【0082】
1例として、これに限定しないが、本発明のポリペプチド結合剤の基準アミノ酸配列と、少なくとも、例えば、95%同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドとは、該ポリペプチド配列が基準アミノ酸配列の各100アミノ酸当たり最大5個のアミノ酸改変を含み得ることを除き、該ポリペプチドのアミノ酸配列は基準配列と同一であることを意図する。すなわち、基準アミノ酸配列と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを取得するには、基準配列のアミノ酸残基の最大5%が欠損し得もしくは別のアミノ酸で置換され得、または基準配列の総アミノ酸残基の最大5%の幾つかのアミノ酸が基準配列中へ挿入され得る。これらの基準配列改変は、基準アミノ酸配列のアミノ末端もしくはカルボキシ末端位置またはそれら末端位置間の任意の位置に生じ得、基準配列中の残基間(個別に)、または基準配列中1個もしくは複数個の連続した基のいずれかに散在され得る。
【0083】
同様に、本発明の結合剤をコードする基準ヌクレオチド配列と、少なくとも、例えば、95%「同一の」ヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドとは、該ポリペプチド配列が本発明の結合剤または抗体をコードする基準ヌクレオチド配列の各100ヌクレオチド当たり最大5個の点突然変異を含み得ることを除き、該ポリペプチドのヌクレオチド配列が基準配列と同一であることを意味する。例えば、基準ヌクレオチド配列と少なくとも95%同一のヌクレオチド配列を有するポリペプチドを取得するには、基準配列中のヌクレオチドの最大5%が欠損し得もしくは別のヌクレオチドで置換され得、または基準配列の総ヌクレオチドの最大5%の幾つかのヌクレオチドが基準配列中へ挿入され得る。基準配列のこれらの突然変異は、基準ヌクレオチド配列の5末端位置またはそれら末端位置間の任意の位置に生じ得、基準配列のヌクレオチド間(個別に)、または基準配列中1個もしくは複数個の連続した基のいずれかに散在され得る。
【0084】
特定の配列が、本発明の基準配列と、例えば、95%同一であるかどうかを決定するために、Bestfitその他任意の配列並置プログラムを使用する場合、当然のことながら、基準アミノ酸配列もしくは基準ヌクレオチド配列の完全長にわたって同一性の百分率が計算されるように、および基準配列中の(ポリペプチド中)アミノ酸残基もしくは(ポリヌクレオチド中)ヌクレオチド残基の総数の最大5%の相同性におけるギャップが許容されるように、パラメータが設定される。
【0085】
本発明のさらなる態様では、858位のロイシンがアルギニンに置換された点突然変異を有する上皮成長因子受容体(EGFR)分子に特異的に結合する結合剤またはE746-A750位を欠損している上皮成長因子受容体(EGFR)分子に特異的に結合する結合剤をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0086】
「ポリヌクレオチド」、「核酸分子」、および「核酸配列」という用語は、本明細書中で同義的に使用され、DNA、RNA、DNA/RNAハイブリッド、およびその修飾などを含むが、これらに限定されない、任意の長さのヌクレオチドのポリマーを指す。別段の指定がない限り、ヌクレオチド配列を提示する際には、ヌクレオチドを5’から3’の方向で記載する。したがって、ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾ヌクレオチドもしくは塩基、および/もしくはそれらの類似体、またはDNAもしくはRNAポリメラーゼによってポリマー中に組み込むことができる任意の基質であり得る。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびそれらの類似体などの修飾ヌクレオチドを含み得る。ヌクレオチド構造に対する修飾は、存在する場合、ポリマー組立の前後に所与し得る。ヌクレオチド配列は非ヌクレオチド成分によって中断され得る。ポリヌクレオチドは、標識成分との結合などにより、重合後にさらに修飾され得る。修飾の他のタイプとしては、例えば、「キャプス(caps)」、1個もしくは複数個の天然ヌクレオチドの類似体との置換、例えば、非荷電性連結(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホアミデート、カルバメートなど)および荷電性連結(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)による修飾などのヌクレオチド間修飾、例えば、タンパク質(例えば、ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ‐L‐リシンなど)などのペンダント部分を含有する修飾、インターカレーター(例えば、アクリジン、ソラレンなど)による修飾、キレート剤(例えば、金属、放射性金属、ホウ素、酸化金属など)を含有する修飾、アルキル化剤を含有する修飾、修飾連結(例えば、αアノマー性核酸など)による修飾、ならびにポリヌクレオチド(1個または複数個)の非修飾形態が挙げられる。さらに、糖内に通常存在する任意のヒドロキシル基を、例えば、ホスホネート基、ホスフェート基によって置き換えるか、標準的な保護基によって保護するか、または活性化して付加的なヌクレオチドに対するさらなる連結を調製するか、または固体支持体に結合させ得る。5'および3'末端OHは、リン酸化され得るか、またはアミンもしくは1〜20個の炭素原子の有機キャッピング基部分で置換され得る。他のヒドロキシルも、標準的な保護基に誘導体化し得る。ポリヌクレオチドとしては、当該分野において一般的に公知であるリボースもしくはデオキシリボース糖の類似形態、例えば、2'‐O‐メチル‐、2'‐O‐アリル、2'‐フルオロ‐、もしくは2'‐アジド‐リボース、炭素環式糖類似体、α‐アノマーの糖、アラビノース、キシロースもしくはリキソースなどのエピマーの糖、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、非環式類似体およびメチルリボシドなどの脱塩基ヌクレオシド類似体などを挙げ得る。1個もしくは複数個のホスホジエステル連結部を、代替連結基によって置換し得る。これら代替連結基としては、ホスフェートがP(O)S(「チオエート」)、P(S)S(「ジチオエート」)、「(O)NR2(「アミデート」)、P(O)R、P(O)OR'、COまたはCH2(「フォルムアセタール」)(式中、各RもしくはR'が独立してHまたは場合によりエーテル(-O-)連結部を含有する置換もしくは非置換アルキル(1〜20C)、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニルまたはアラルジルである)によって置き換えられる実施形態が挙げられるが、これに限定されない。ポリヌクレオチドにおけるすべての連結部が同一である必要はない。上記説明は、本明細書で言及したすべてのポリヌクレオチド(RNAおよびDNAを含む)に当てはまる。
【0087】
本願は、本明細書に記載した結合剤(例えば、抗体)の類似体をコードするポリヌクレオチド分子も提供する。遺伝子コードの縮重により、幾つかの異なる核酸配列が各抗体アミノ酸配列をコードし得る。所望の核酸配列は、新規の固体相DNA合成によってまたは初期に調製された所望のポリヌクレオチド変異型のPCR突然変異誘発によって製造できる。一実施形態では、使用されるコドンは、ヒト、ウサギ、またはマウスに典型的なものを含む(例えば、Nakamura,
Y., Nucleic Acids Res. 28: 292 (2000)を参照されたい)。
【0088】
さらに、本発明は、一つには、本発明の結合剤をコードする単離されたポリヌクレオチド、そのようなポリヌクレオチドをハイブリッド形成するヌクレオチドプローブ、ならびに組換え融合ポリペプチドを製造する上でのそのようなポリヌクレオチド使用方法、ベクター、および宿主細胞を提供する。別段の指定がない限り、本明細書のDNA分子配列決定によって決定されたすべてのヌクレオチド配列は、自動化されたDNAシーケンサー(Applied
Biosystems, Inc.のModel 373など)を用いて決定され、本明細書で決定されたDNA分子によってコードされるポリペプチドのすべてのアミノ酸配列は自動化されたペプチドシーケンサーを用いて決定された。当該分野において公知であるとおり、この自動化アプローチによって決定された任意のDNA配列において、本明細書で決定された任意のヌクレオチド配列は幾つかの誤りを含有し得る。自動操作によって決定されたヌクレオチド配列は、配列決定されたDNA分子の実際のヌクレオチド配列と、典型的には、少なくとも約90%同一であり、より典型的には、少なくとも約95%〜約99.9%同一である。実際の配列は、当該分野において周知の手動DNA配列決定方法などの他のアプローチによって、より正確に決定できる。また、やはり当該分野において公知であるように、実際の配列と比較して、決定されたヌクレオチド配列中の単一の挿入または欠損は、決定されたヌクレオチド配列によってコードされる推定アミノ酸配列が、配列決定されたDNA分子によって実際にコードされるアミノ酸配列と完全に異なるように、そのような挿入または欠損位を起点とするヌクレオチド配列の翻訳にフレームシフトを引き起こす。別段の指定がない限り、本明細書に記載した各ヌクレオチド配列は、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと略される)の配列として表されている。しかしながら、核酸分子またはポリヌクレオチドの「ヌクレオチド配列」とは、DNA分子またはポリヌクレオチドに関しては、デオキシリボヌクレオチド配列を意図し、RNA分子またはポリヌクレオチドに関しては、リボヌクレオチドの対応する配列(A、G、CおよびU)(ここで、指定されているデオキシリボヌクレオチド配列中の各チミジンデオキシリボヌクレオチド(T)は、リボヌクレオチドウリジン(U)によって置換されている)を意図する。例えば、配列番号1の配列を有するか、またはデオキシリボヌクレオチドの略号を用いて記載されているRNA分子の表記は、配列番号1の各デオキシリボヌクレオチドA、GまたはCが、対応するリボヌクレオチドA、GまたはCによって置換されており、各デオキシリボヌクレオチドTがリボヌクレオチドUによって置換されている配列を有するRNA分子を示すことを意図する。
【0089】
本発明の幾つかの実施形態では、配列番号1、配列番号3、配列番号5、もしくは配列番号7を含む配列と少なくとも約95%同一のヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチド(またはそれに相補的な単離されたポリヌクレオチド)を提供する。本発明の幾つかの実施形態では、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号30、配列番号31、または配列番号32のアミノ酸配列を含む抗体(またはその断片)をコードするヌクレオチド配列と少なくとも約95%同一のヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチド(またはそれに相補的な単離されたポリヌクレオチド)を提供する。
【0090】
本明細書で提供した情報(配列番号1、3、5、または7に規定したヌクレオチド配列など)を用いて、開始材料としてmRNAを用いた標準的なクローニング(cDNAクローニングなど)およびスクリーニング手順を用いて、本発明のポリペプチド結合剤(例えば、抗体)をコードする本発明の核酸分子を取得し得る。
【0091】
記載されているとおり、本発明は、一つには、完全長の抗体を提供する。シグナル仮説によれば、哺乳動物細胞によって分泌されたタンパク質は、粗面小胞体を横切る成長タンパク質鎖の輸出が一旦開始されると、成熟タンパク質から切断されるシグナルまたは分泌リーダー配列を有する。ほとんどの哺乳動物細胞、および昆虫細胞さえ、分泌されたタンパク質を同じ特異性で切断する。しかしながら、場合によっては、分泌されたタンパク質の切断は完全には均一でなく、これは、タンパク質上に2つ以上の成熟した種をもたらす。さらに、分泌されたタンパク質の切断特異性は、最終的には、完全なタンパク質の一次構造によって決定されること、すなわち、分泌されたタンパク質の切断特異性は、ポリペプチドのアミノ酸配列に固有であることが以前から知られている。したがって、本発明は、一つには、配列番号1、3、5、もしくは7の5’から5’末端残基に位置する付加的な核酸残基を有する配列番号1、3、5、もしくは7に規定されるヌクレオチド配列を有する無傷抗体(例えば、重鎖2本および軽鎖2本を含有する)をコードし、ならびに配列番号2、4、6、または8のN末端側からN末端残基に位置する付加的なアミノ酸残基を有する配列番号2、4、6、または8に規定されるアミノ酸配列を有する無傷抗体鎖のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を提供する。同様に、本発明は、本発明のCDR(例えば、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号30、配列番号31、または配列番号32に規定されるアミノ酸配列を含むCDR)をコードするポリヌクレオチドの5’から5’末端残基に位置する付加的な核酸残基を要する、CDRをコードするヌクレオチド配列も提供する。
【0092】
幾つかの実施形態では、抗体をコードするもしくは結合剤をコードするポリヌクレオチドは、配列番号1、3、5、もしくは7に規定されるヌクレオチド配列を含む。幾つかの実施形態では、抗体をコードするまたは結合剤をコードするポリヌクレオチドは、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号30、配列番号31、または配列番号32に規定されるアミノ酸配列を有するCDRをコードするヌクレオチド配列を含む。幾つかの実施形態では、ポリヌクレオチドは配列番号2、4、6、または8に規定されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする。
【0093】
記載されているとおり、本発明のポリヌクレオチドは、mRNAなどのRNA形態でも、または、例えば、クローニングによって得られた、もしくは合成的に製造されたcDNAおよびゲノムDNAなどのDNA形態でもよい。DNAは、二本鎖でも一本鎖でもよい。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)でも非コード鎖(アンチセンス鎖とも呼ばれる)でもよい。
【0094】
本発明の単離されたポリヌクレオチドは、該ポリヌクレオチドの固有環境から取り出された核酸分子(DNAまたはRNA)であり得る。例えば、ベクター含有組換えDNA分子は、本発明の目的のために単離されたものとみなされる。単離されたDNA分子のさらなる例としては、異種の宿主細胞中に維持された組換えDNA分子または溶液中の(部分的にもしくは実質的に)精製されたDNA分子が挙げられる。単離されたRNA分子としては、本発明のDNA分子のインビボ(in vivo)またはインビトロ(in
vitro)RNA転写物が挙げられる。さらに、本発明の単離された核酸分子としては、合成的に製造されたこのような分子が挙げられる。
【0095】
本発明のポリヌクレオチドは、配列番号1、3、5、および7に規定される配列を有する核酸分子、抗体用のコーディング配列を含む核酸分子、ならびに上記とは異なる配列を有するが遺伝子コードの縮重により本発明の抗体もしくは結合剤をコードする本発明の結合剤を含む。遺伝子コードは当該分野において周知であるため、そのような縮重変異体を作製することは当業者にとって日常的であろう。
【0096】
本発明はさらに、本発明の結合剤をコードする、または本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドの1個と相補的な配列を有するヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチドを提供する。そのような単離された分子、特にDNA分子は、染色体のin situハイブリッド形成による遺伝子地図のため、ならびに、例えば、ノーザンブロット解析による組織(例えば、ヒト組織)内抗体発現検出のためのプローブとして有用である。
【0097】
幾つかの実施形態では、本発明の結合剤(例えば、抗体)は、本明細書に記載したヌクレオチド配列の少なくとも一部によってコードされる。本明細書中で用いる「一部」または「断片」とは、(ポリペプチド断片(本明細書中でペプチドと呼ぶこともある)の場合は)幾つかの連続するアミノ酸残基を含む配列断片、完全配列のそのような残基数未満の幾つかのヌクレオチド残基(ポリヌクレオチド断片の場合)を含む配列断片(例えば、50ヌクレオチド配列は長さ100ヌクレオチド配列の一部である)を意味する。すなわち、指定の分子の断片は指定の分子より小さい。例えば、本発明の結合剤をコードするポリヌクレオチドおよび/または抗体をコードするポリヌクレオチドは、生成した結合剤または抗体中の任意のアミノ酸をコードしないイントロン配列の一部を含み得る。ポリヌクレオチド断片は、少なくとも約15ヌクレオチド、または少なくとも約20ヌクレオチド、または少なくとも約30ヌクレオチド、または少なくとも約40ヌクレオチドの長さでよく、本明細書で論述するような診断用プローブおよびプライマーとして有用である。当然のことながら、長さ約50〜1500ヌクレオチドのもっと大きな断片の場合、該断片は本明細書に記載した配列を有するcDNAのヌクレオチド配列をコードする抗体または結合剤のすべてではないにしてもほとんどに対応するため、本発明においてやはり有用である。本発明は、E746-A750位を欠損している上皮成長因子受容体(EGFR)分子に特異的に結合する結合剤をコードするポリヌクレオチド(例えば、精製ポリヌクレオチド)を提供する。例えば、「少なくとも20ヌクレオチドの長さの断片」とは、断片由来の各ヌクレオチド配列中の連続するヌクレオチドを20個以上含む断片を意味する。
【0098】
ポリヌクレオチド断片は、例えば、参照によりその全体が本明細書中で援用されるMolecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd. edition, Sambrook, J.,
Fritsch, E.F. and Maniatis, T.編, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.
(1989)に記載されているような従来のDNAハイブリッド形成技術に従ったヌクレオチドプローブの診断使用において、またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による標的配列の増幅のためのプライマーとしての使用において有用である。当然のことながら、ポリA配列とのみ、またはT(もしくはU)残基の相補的ストレッチとのみハイブリッド形成するポリヌクレオチドは、本発明の核酸の一部とハイブリッド形成するために使用される本発明のポリヌクレオチドに含まれない。これは、そのようなポリヌクレオチドは、ポリ(A)伸長またはその相補物を含有する任意の核酸分子(例えば、事実上、任意の二本鎖cDNAクローン)とハイブリッド形成するためである。そのようなDNA断片の作製は当業者にとって日常的であり、本明細書に記載した実施例によって、制限エンドヌクレアーゼ切断もしくは剪断によって、cDNAクローンから入手可能のDNAの超音波処理によって、または本明細書に開示した配列による合成によってなし遂げ得る。あるいは、そのような断片は合成的に直接作製できる。
【0099】
本発明の別の態様では、本発明の結合剤をコードするまたは抗体をコードするポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリッド形成する単離されたポリヌクレオチド(例えば、ヌクレオチドプローブ)を提供する。ヌクレオチド配列またはヌクレオチドプローブハイブリッド形成条件に関する「ストリンジェントな条件」という用語は、約Tm-5℃(すなわち、プローブまたは配列の融解温度(Tm)より5℃低い)からTmより約20℃〜25℃低い範囲内で起こる「ストリンジェンシー」である。典型的なストリンジェントな条件は、50%ホルムアミド、5×SSC(750mM NaCl、75mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%デキストラン硫酸、および20mg/mL変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中における42℃での一晩のインキュベーション、その後の約65℃での0.1×SSC中でのフィルター洗浄である。当業者に理解されるように、ハイブリッド形成のストリンジェンシーは、同一または関連するポリヌクレオチド配列を同定または検出するために改変させ得る。
【0100】
基準ポリヌクレオチドとハイブリッド形成するポリヌクレオチドもしくはヌクレオチドプローブとは、完全長の基準ポリヌクレオチドとハイブリッド形成する、または基準ポリヌクレオチドの少なくとも約15ヌクレオチド(nt)、もしくは少なくとも約20nt、もしくは少なくとも約30nt、もしくは約30〜70ntである基準ポリヌクレオチドの一部とハイブリッド形成するポリヌクレオチドもしくはヌクレオチドプローブ(例えば、DNA、RNA、またはDNA-RNAハイブリッド)を意図する。本発明のこれらヌクレオチドプローブは、本明細書で論述するような診断的プローブおよびプライマー(例えばPCR用)として有用である。
【0101】
当然のことながら、基準ポリヌクレオチドのさらに大きな部分、例えば、基準ポリヌクレオチドの長さ50〜750nt部分、または完全長の基準ポリヌクレオチドでさえハイブリッドするポリヌクレオチドは、本明細書に記載したcDNAのヌクレオチド配列または配列番号1、3、5、および7に規定されるヌクレオチド配列のすべてではないにしてもほとんどに対応するため、本発明のプローブとして有用である。
【0102】
記載されているとおり、本発明の核酸分子は、本発明の結合剤をコードするものであり、これらに限定しないが、無傷の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列自体;その断片;成熟ポリペプチド用のコーディング配列および付加的な配列用のコーディング配列(例えば、プレ、またはプロまたはプレプロタンパク質配列などのリーダー配列または分泌配列をコードする配列など);前記付加的なコーディング配列を有するか、または有することなく、付加的な非コーディング配列(例えば、転写、およびスプライシングなどのmRNAプロセッシングにて役割を果たす、転写されたかつ非翻訳の配列、ならびに、例えば、mRNAのリボソーム結合および安定性のためのポリアデニル化シグナルなどのイントロンおよび非コーディング5'および3'配列を含むが、これらに限定されない)を有する、成熟ポリペプチドのコーディング配列;付加的なアミノ酸(さらなる機能性を供するものなど)をコードする付加的なコーディング配列、を含む。
【0103】
したがって、ポリペプチドをコードする配列は、融合されたポリペプチドの精製を促進するペプチドをコードする配列などのマーカー配列に融合され得る。本発明の本態様の特定の実施形態では、マーカーアミノ酸配列は、とりわけ、pQEベクター(Qiagen,
Inc.)中に提供されているタグなどの六ヒスチジンペプチドであり、これらの多くは市販されている。Gentzら, Proc. Natl.
Acad. Sci. USA 86: 821-824 (1989)に記載されているような、例えば、六ヒスチジンは、融合タンパク質の便利な精製をもたらす。「HA」タグは、Wilsonら, Cell 37: 767 (1984)に記載されているインフルエンザヘマグルチニンタンパク質に由来するエピトープに対応する精製のために有用な別のペプチドである。以下に論述するような他のそのような融合タンパク質は、N末端もしくはC末端にてFc領域に融合された本発明の結合剤および/または抗体を包含する。
【0104】
本発明はさらに、本明細書に開示した結合剤もしくは抗体の一部、類似体または誘導体をコードする本発明の核酸分子の変異型に関する。天然の対立遺伝子変異体のように、変異体は天然に存在し得る。「対立遺伝子変異体」とは、生物の染色体上の所定の遺伝子座を占める遺伝子の幾つかの代替形態の1つを意図する。例えばGenes
II, Lewin, B.編, John Wiley
& Sons, New York
(1985)を参照されたい。天然に存在しない変異型は、当該分野で公知の突然変異誘発技術を用いて製造され得る。
【0105】
そのような変異型としては、ヌクレオチド置換、欠損または付加によって生じた変異型が挙げられる。置換、欠損または付加は、1個もしくは複数個のヌクレオチドを含み得る。変異型は、コード領域、非コード領域、または双方において改変され得る。コード領域中の改変は、保存的または非保存的アミノ酸置換、欠損または付加を生じ得る。本発明に包含される幾つかの改変は、本明細書に開示した結合剤および/または抗体の特性および活性(例えば、特異的な結合活性)を改変させないサイレント置換、付加および欠損である。
【0106】
本発明のさらなる実施形態は、少なくとも90%同一のヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチドを包含する。本発明の幾つかの実施形態では、ヌクレオチドは、本発明の結合剤をコードするまたは抗体をコードするポリヌクレオチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%同一である。
【0107】
実際には、例えば、配列番号1、3、5、および7に規定されるヌクレオチド配列または本明細書に記載したCDRをコードするcDNAクローンのヌクレオチド配列に対して、任意の特定の核酸分子が少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるかどうかは、Bestfitプログラム(Wisconsin
Sequence Analysis Package, Version 8 for Unix(登録商標), Genetics Computer Group, University Research Park, 575 Science
Drive, Madison, Wis. 53711)などの公知のコンピュータプログラムを用いて、慣習的に判断できる。
【0108】
遺伝子コードの縮重により、本明細書に記載したcDNAの核酸配列、配列番号1、3、5、もしくは7に規定される核酸配列、または配列番号2、4、6、8、9、10、11、16、17、18、23、24、25、30、31、もしくは32に規定されるアミノ酸配列をコードする核酸配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一の配列を有する核酸分子の多数が、特異的な結合活性を有するポリペプチドをコードすることを当業者は直ちに認識するであろう。実際、これらのヌクレオチド配列の縮重変異体はすべて同じポリペプチドをコードするので、上記比較アッセイを行わなくても、このことは当業者にとって明らかであろう。縮重変異体でないこのような核酸分子に関しては、合理的な数が本発明の基準結合剤もしくは抗体の特異的結合活性を保持するポリペプチドもコードすることが、当該分野においてさらに認識されるであろう。これは、タンパク質機能を著しく生じさせる可能性が高くないもしくはほとんどないアミノ酸置換(例えば、ある脂肪族アミノ酸を第二の脂肪族アミノ酸と置換すること)を当業者は十分に承知しているからである。例えば、表現型的にサイレントなアミノ酸置換をどのように作製するかについての指針は、Bowieら, “Deciphering the Message in Protein Sequences:
Tolerance to Amino Acid Substitutions,” Science 247: 1306-1310 (1990)に提供されており、変化に対するアミノ酸配列の許容性を研究するための2つの主なアプローチが記載されている。このような技術に精通している当業者は、タンパク質のある位置において、いずれのアミノ酸の変化が許容され得るかについても理解している。例えば、ほとんどの埋没されたアミノ酸残基は非極性側鎖を必要とするのに対して、一般に、表面側鎖の特徴はほとんど保存されない。このような表現型的にサイレントな他の置換は、前述したBowieら、およびその中に引用されている参考文献中に記載されている。
【0109】
本発明の任意のポリヌクレオチド実施形態を実施するために、周知でかつ当該分野において一般的に利用可能なDNA配列決定方法を使用し得る。該方法は、DNAポリメラーゼIのKlenow断片、SEQUENASE(商標登録)(US Biochemical Corp, Cleveland, Ohio)、Taqポリメラーゼ(Invitrogen)、熱安定性T7ポリメラーゼ(Amersham,
Chicago, Ill.)、または組換えポリメラーゼとGibco
BRL(Gaithersburg, Md.)によって販売されているELONGASE Amplification Systemなどの校正エキソヌクレアーゼとの併用などの酵素を使用し得る。本プロセスは、Hamilton Micro Lab 2200 (Hamilton, Reno, Nev.)、Peltier Thermal Cycler(PTC200; MJ Research,
Watertown, Mass.)およびABI 377DNAシーケンサー(Applied Biosystems)などの機械を用いて自動化し得る。
【0110】
本発明の結合剤または抗体をコードするポリヌクレオチド配列は、部分的ヌクレオチド配列を用いて、ならびにプロモーターおよび制御因子などの上流配列を検出するための当該分野において公知の様々な方法を用いて伸長され得る。例えば、1つの方法として、既知の遺伝子座に隣接する未知の配列を検索するために汎用プライマーを使用する「制限部位」PCRを使用し得る(Sarkar,
G., PCR Methods Applic. 2: 318-322 (1993))。特に、ゲノムDNAは、まず、リンカー配列に対するプライマーおよび既知の領域に対して特異的なプライマーの存在下で増幅される。代表的なプライマーを本明細書の実施例4に記載する。次いで、増幅された配列は、同じリンカープライマーおよび第一のプライマーに内在する別の特異的プライマーを用いるPCRの第二ラウンドに供される。PCRの各ラウンドの産物は、適切なRNAポリメラーゼを用いて転写され、逆転写酵素を用いて配列決定される。
【0111】
既知の領域に基づき、多岐のプライマーを用いて配列を増幅または伸長するために、逆PCRも使用し得る(Trigliaら, Nucleic Acids Res. 16: 8186 (1988))。プライマーは、OLIGO 4.06 Primer Analysis software
(National Biosciences Inc., Plymouth,
Minn.)、または別の適切なプログラムを用いて、22〜30ヌクレオチドの長さであるように、50%以上のGC含量を有するように、および約68〜72℃の温度で標的配列にアニーリングするように設計し得る。該方法は、遺伝子の既知の領域中の適切な断片を産生させるために、幾つかの制限酵素を使用する。次いで、該断片は、分子内ライゲーションによって環状化され、PCRテンプレートとして使用される。
【0112】
使用し得る別の方法は、ヒトおよび酵母人工染色体DNA中の既知の配列に隣接するDNA断片のPCR増幅を行う捕捉PCRである(Lagerstromら, PCR Methods Applic. 1: 111-119 (1991))。この方法では、PCRを実施する前、DNA分子の未知の部分中に加工された二本鎖配列を配置させるために、複数の制限酵素消化およびライゲーションも使用し得る。未知の配列を検索するために使用し得る別の方法は、Parkerら, Nucleic Acids
Res. 19: 3055-3060 (1991)に記載されているものである。さらに、PCR、入れ子状プライマー、およびゲノムDNA中を歩行するためのPROMOTERFINDER(商標登録)ライブラリー(Clontech, Palo Alto, Calif.)を使用し得る。このプロセスは、ライブラリーをスクリーニングする必要がなく、イントロン/エキソン連結部を発見するのに有用である。
【0113】
完全長cDNAをスクリーニングする場合には、より大きなcDNAを含むために、サイズによって選択されたライブラリーを用いてよく、または遺伝子の5'領域を含むさらに多くの配列を含有するランダムに開始されたライブラリーを用いてもよい。ランダムに開始されたライブラリーは、オリゴd(T)ライブラリーが完全長cDNAを所与しない状況において有用である。ゲノムライブラリーは、5'および3'非転写制御領域中への配列の伸長のために有用であり得る。
【0114】
サイズを分析するために、または配列決定もしくはPCR産物のヌクレオチド配列を確認するために、市販されているキャピラリー電気泳動システムを使用し得る。特に、キャピラリー配列決定は、電気泳動分離用の流動可能ポリマー、レーザーによって活性化される4つの異なる蛍光色素(各ヌクレオチドに対して1つ)、および電荷結合装置カメラによる発光波長の検出を使用し得る。出力/光強度は、適切なソフトウェア(例えば、GENOTYPER(商標登録)およびSEQUENCE
NAVIGATOR(商標登録)、Applied Biosystems)を用いて電気シグナルへと変換され得、試料の搭載からコンピュータ分析および電子的データ表示までのプロセス全体をコンピュータ制御し得る。キャピラリー電気泳動は、特定の試料中に限られた量で存在し得るDNAの小片の配列決定に有用である。
【0115】
本発明は、本発明の単離されたポリヌクレオチドを含む組換えベクター(例えば、発現ベクター)、該組換えベクターを導入された宿主細胞(すなわち、該ポリヌクレオチドを含むおよび/もしくは該ポリヌクレオチドを含むベクターを含む宿主細胞)、および組換え技術による組換え結合剤ポリペプチド(例えば、抗体)もしくはその断片の製造も提供する。
【0116】
本明細書中で用いる「ベクター」とは、ベクターが宿主細胞に導入された際、1個もしくは複数個の関心あるポリヌクレオチドを宿主細胞に送達できる任意の構築物である。「発現ベクター」は、発現ベクターを導入された宿主細胞中でコードされたポリペプチドとして1個もしくは複数個の関心あるポリヌクレオチドを送達かつ発現できる。したがって、発現ベクター中の関心あるポリヌクレオチドは、発現ベクターを導入された宿主細胞中で関心あるポリヌクレオチドが翻訳されるように、ベクター中、または関心あるポリヌクレオチドの組込み部位もしくは付近もしくは側面にある宿主細胞のゲノム中のいずれかにおいて、プロモーター、エンハンサー、ポリAテールなどの制御因子と作動可能に連結されることによって、ベクター中の発現を位置づける。「導入された」とは、電気穿孔、ベクター含有リポソームとの融合、化学的トランスフェクト(例えば、DEAE-デキストラン)、形質転換、トランスフェクト、ならびに感染および/もしくは形質導入(例えば、組換えウイルスによる)が挙げられるが、これらに限定されない任意の手段により宿主細胞中にベクターが挿入されることを意味する。したがって、ベクター例としては、(組換えウイルス作製に使用できる)ウイルスベクター、裸のDNAもしくはRNA、プラスミド、コスミド、ファージベクター、および陽イオン性縮合剤と結合したDNAもしくはRNA発現ベクターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0117】
幾つかの実施形態では、本発明の(例えば、EGFR突然変異体特異的結合剤をコードする)ポリヌクレオチドは、非病原性(欠損)、複製能力を有するウイルスの使用に関与し得、または複製欠損ウイルスを使用し得るウイルス発現系(例えば、痘疹もしくは他のポックスウイルス、レトロウイルス、またはアデノウイルス)を用いて導入し得る。後者の場合には、ウイルス増殖は一般的に補完的ウイルスパッケージング細胞中のみで発生する。適切な系は、例えば、Fisher-Hochら, 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:317-321;Flexnerら, 1989, Ann. N.Y. Acad Sci.
569:86-103;Flexnerら, 1990, Vaccine
8:17-21;米国特許第4,603,112号、同第4,769,330号および同第5,017,487号;国際公開第89/01973号;米国特許第4,777,127号;英国特許第2,200,651号;欧州特許第0,345,242号;国際公開第91/02805号;Berkner-Biotechniques 6:616-627,
1988;Rosenfeldら, 1991, Science
252:431-434;Kollsら, 1994, Proc.
Natl. Acad. Sci. USA 91:215-219;Kass-Eislerら, 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:11498-11502;Guzmanら, 1993, Circulation 88:2838-2848;およびGuzmanら, 1993, Cir. Res. 73:1202-1207に開示されている。そのような発現系へのDNA組込み技術は当業者に周知である。DNAは、例えば、Ulmerら, 1993, Science 259:1745-1749に記載され、Cohen, 1993, Science 259:1691-1692に検討されているような「裸」でもよい。裸のDNAの取り込みは、効率よく細胞中に輸送される生分解性ビーズ上をDNAで被覆することによって増大し得る。
【0118】
ポリヌクレオチドは、宿主中での増殖に関して選択可能なマーカーを含有するベクターに連結され得る。通常、プラスミドベクターは、リン酸カルシウム沈殿などの沈殿中に、または荷電脂質との複合体中に導入される。ベクターがウイルスである場合には、適切なパッケージング細胞株を用いて、インビトロ(in vitro)パッケージングを行い、次いで宿主細胞中に形質導入し得る。本発明は、関心あるポリヌクレオチドに対するシス作用調節領域を含むベクターを用いて実施し得る。適切なトランス作用因子は、宿主によって供給され、補完的ベクターによって供給され、または宿主中への導入に際して、ベクターそのものによって供給され得る。これに関する特定の実施形態では、ベクターは、誘導性および/または細胞種特異的であり得る特異的発現(例えば、温度および栄養素添加物など、操作が容易である環境因子によって誘導可能なもの)を提供する。
【0119】
本発明の抗体をコードするまたは結合剤をコードするポリヌクレオチドを含むDNA挿入物は、幾つか例を挙げると、ファージλPLプロモーター、大腸菌(E.
coli)lac、trpおよびtacプロモーター、SV40初期および後期プロモーター、ならびにレトロウイルスLTRのプロモーターなどの適切なプロモーターへ作用可能に連結すべきである。他の適切なプロモーターが、当業者に公知である。発現構築物は、さらに転写開始部位、停止部位を含有し、転写領域中に、翻訳のためのリボソーム結合部位を含有する。構築物によって発現した成熟転写物のコード部分は、翻訳されるべきポリペプチド末端に適切に配置された開始コドンから始まる翻訳および停止コドン(UAA、UGAまたはUAG)を含み得る。
【0120】
記載されているとおり、発現ベクターは、少なくとも1つの選択可能なマーカーを含み得る。そのようなマーカーとしては、真核細胞培養に関しては、ジヒドロ葉酸還元酵素またはネオマイシン耐性が挙げられ、大腸菌(E. coli)およびその他の細菌中での培養に関しては、テトラサイクリンまたはアンピシリン耐性遺伝子が挙げられる。適切な宿主の代表例としては、大腸菌(E. coli)、ストレプトミセス(Streptomyces)およびサルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)細胞などの細菌細胞;酵母細胞などの真菌細胞;ショウジョウバエ(Drosophila)S2およびヨトウガ(Spodoptera)Sf9細胞などの昆虫細胞;CHO、COSおよびBowes悪性黒色腫細胞などの動物細胞;ならびに植物細胞が挙げられるが、これらに限定されない。上記宿主細胞のための適切な培地および条件は当該分野において公知である。
【0121】
細菌中での使用用ベクターとしては、Qiagenから入手可能なpQE70、pQE60およびpQE-9;Stratageneから入手可能なpBSベクター、Phagescriptベクター、Bluescriptベクター、pNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A;ならびにPharmaciaから入手可能なptrc99a、pKK223-3、pKK233-3、pDR540、pRIT5が挙げられるが、これらに限定されない。真核生物ベクターとしては、Stratageneから入手可能なpWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1およびpSG;ならびにPharmaciaから入手可能なpSVK3、pBPV、pMSGおよびpSVLが挙げられるが、これらに限定されない。他の適切なベクターが当業者にとって容易に明らかであろう。
【0122】
本発明での使用に適した細菌プロモーターとしては、大腸菌(E. coli)lacIおよびlacZプロモーター、T3およびT7プロモーター、gptプロモーター、λPRおよびPLプロモーターならびにtrpプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。適切な真核生物プロモーターとしては、CMV前初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、初期および後期SV40プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)のプロモーターなどのレトロウイルスLTRのプロモーター、およびマウスメタロチオネイン-Iプロモーターなどのメタロチオネインプロモーターが挙げられる。
【0123】
酵母、サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)では、α因子、アルコールオキシダーゼ、およびPGHなどの恒常性プロモーターもしくは誘導性プロモーターを含有する幾つかのベクターを使用し得る。総説として、Ausubelら(1989) Current
Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, N.Y、およびGrantら, Methods Enzymol. 153: 516-544 (1997)を参照されたい。
【0124】
宿主細胞中への構築物の導入は、リン酸カルシウムトランスフェクト、DEAE-デキストラン媒介性トランスフェクト、陽イオン性脂質媒介性トランスフェクト、電気穿孔、形質導入、感染または他の方法によって実施することが可能である。そのような方法は、Davisら, Basic Methods
In Molecular Biology (1986)などの多くの標準的な実験室マニュアルに記載されている。
【0125】
本発明の結合剤または抗体をコードするDNAの高等真核生物による転写は、ベクター中にエンハンサー配列を挿入することによって増大し得る。エンハンサーは、所定の宿主細胞種中でプロモーターの転写活性を増大するように作用する、通常、約10〜300bpのDNAのシス作用因子である。エンハンサー例としては、SV40エンハンサー(100〜270塩基対で複製起点の後期側に位置)、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。
【0126】
翻訳されたタンパク質を小胞体の管腔中、または細胞外環境へ分泌するために、発現ポリペプチド中に適切な分泌シグナルが取り込まれ得る。該シグナルは、ポリペプチド内在性であっても異なる種のシグナルであってもよい。
【0127】
ポリペプチド(例えば、結合剤または抗体)は、融合タンパク質(例えば、GST融合)などの修飾形態で発現され得、分泌シグナルのみならず、付加的な異種の機能領域も含み得る。例えば、精製中、または精製後の処理および保存中に、宿主細胞中での安定性および持続性を改善するために、ポリペプチドN末端に付加的なアミノ酸、特に荷電アミノ酸領域を添加し得る。また、精製を促進するために、ポリペプチドにペプチド部分を添加し得る。そのような領域は、ポリペプチドの最終調製前に除去され得る。とりわけ、分泌または排出させるために、安定性を改善するために、および精製を促進するために、ポリペプチドにペプチド部分を付加することは、当該分野において精通されている日常的な技術である。
【0128】
1例として、これに限定しないが、本発明の結合剤または抗体は、タンパク質を可溶化するのに有用な免疫グロブリン由来の異種領域を含み得る。例えば、EP-A-O 464 533 (カナダ対応出願2045869)は、免疫グロブリン分子の定常領域の様々な部分を含む融合タンパク質を別のヒトタンパク質またはその一部と共に開示する。多くの場合、融合タンパク質のFc部分は、治療および診断における使用において完全に有利であり、したがって、例えば、改善された薬物動態学的特性をもたらす(EP-A 0232 262)。他方、幾つかの使用に関しては、記載されている有利な様式で融合タンパク質を発現、検出、精製後に、Fc部分を欠損させ得ることが望ましい。治療および診断における使用において、Fc部分が妨げとなることが判明している場合、例えば、融合タンパク質が免疫化のための抗原として使用されるべき場合には、このことが当てはまる。創薬において、hIL-5の拮抗薬を同定する高情報量のスクリーニングアッセイのために、例えば、hIL-5などのヒトタンパク質はFc部分と融合している。Bennettら, Journal of Molecular Recognition 8: 52-58
(1995)およびJohansonら, The Journal of Biological Chemistry
270(16): 9459-9471 (1995)を参照されたい。
【0129】
結合剤および抗体は、硫酸アンモニウムもしくはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンもしくは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーなどの周知の方法によって、組換え細胞培養物から回収および精製できる。幾つかの実施形態では、精製のために高性能液体クロマトグラフィー(「HPLC」)が使用される。本発明のポリペプチドは、自然に精製された産物、化学的合成手順の産物、および例えば、細菌、酵母、高等植物、昆虫および哺乳動物細胞などの原核生物もしくは真核生物宿主の組換え産生された産物を包含する。本発明のポリペプチドは、組換え産生手順において使用される宿主に応じて、グリコシル化されていてもグリコシル化されていなくてもよい。さらに、本発明のポリペプチドは、一部の例では、宿主媒介性プロセスの結果として、修飾された開始メチオニン残基も含み得る。
【0130】
したがって、本発明の別の実施形態では、融合ポリペプチドの発現に適した条件下で、(上記のような)組換え宿主細胞を培養して、ポリペプチドを回収することによって、組換え結合剤もしくは抗体を製造する方法を提供する。宿主細胞の増殖に適した培養条件およびこのような細胞からの組換えポリペプチドの発現は、当業者に周知である。例えば、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel FMら編, Volume 2, Chapter 16, Wiley Interscienceを参照されたい。
【0131】
本発明は、標的分子上でエピトープと特異的に結合する結合剤(特に抗体)も提供する。同様に、本発明は、エピトープを有する標的分子と特異的に結合する結合剤を同定するのに有用なエピトープを提供する。例えば、本明細書に記載したような(N末端からC末端の方向で)トレオニン-セリン-プロリン配列を含むエピトープは、特に、E746-A750位を欠損している上皮成長因子受容体(EGFR)分子に特異的に結合する抗体を同定するのに有用である。
【0132】
エピトープマッピングは、標準的な方法を用いて行うことができる。例えば、ファージディスプレイは、ペプチドがバクテリオファージのコートタンパク質と遺伝的に融合して、ビリオンの外側に融合タンパク質をディスプレイするインビトロ(in vitro)選択技術である。ファージプールをインキュベートすることによるこれらビリオンのバイオパンニングは、プレート上に固定されている関心ある特異的抗体を有する変異型をディスプレイした。次いで非結合ファージを洗浄し、その後、特異的結合ファージを溶出する。次いで溶出したファージを大腸菌(E. coli)中で増幅し、本プロセスを反復すると、最も固い結合配列を優先したファージプールが濃縮される。この技術の利点は、109超の配列の偏りないスクリーニングが可能なことである。ファージディスプレイは、免疫原が未知または高タンパク質断片である場合に特に有用である。
【0133】
ファージディスプレイの限界の1つとして、ファージ粒子間の交叉染色が挙げられる。ファージ粒子間の交叉染色は、抗体と特異的に結合しない配列を濃縮し得る。さらに、ファージディスプレイペプチドライブラリーには天然に存在しない配列が存在する。これらの配列は、免疫化ペプチドに全く類似していないことがあり、関心ある抗体と固く結合していることがある。免疫化ペプチドに類似しない配列の検索は非常に混乱を招くことがあり、これらのペプチドは汚染なのか、関心ある抗体に対して高い結合親和性を有する非天然ペプチドであるのかどうかの解読は困難である。
【0134】
本発明の結合剤は様々な方法に使用し得る。例えば、本発明の結合剤は、競合的結合アッセイ、直接および間接サンドイッチアッセイ、ならびに免疫沈殿アッセイなどの任意の公知のアッセイ方法で用い得る。Zola, Monoclonal Antibodies: A Manual of Techniques, pp.147-158 (CRC
Press, Inc. 1987)。結合剤は、インビトロ(in
vitro)アッセイの使用における検出を容易にするために、検出可能な標識(例えば、FITCもしくはフィコエリトリンなどの蛍光体、または西洋ワサビペルオキシダーゼ基質などの酵素基質)を施し得る。以下に論述するように、本発明の結合剤は、インビボ(in vivo)イメージングなどのインビボ(in vivo)診断アッセイに使用し得る。幾つかの実施形態では、免疫シンチオグラフィーを用いて関心ある細胞または組織を局在化できるように、抗体は放射性核種(3H、111In、14C、32P、または123Iなど)で標識される。標識を結合剤(抗体など)に結合させる方法は、当該分野において公知である。本発明の他の実施形態では、本発明の結合剤を標識する必要はなく、本発明の結合剤の存在は、本発明の結合剤と結合する標識抗体を用いて検出できる。該抗体は、当該分野において周知の技術に従い、病変における染色試薬としても使用し得る。
【0135】
本発明は、本発明の抗体を産生する不死化細胞株も提供する。例えば、上記のように構成された、本明細書に開示した標的部位に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンも提供される。同様に、本発明は、本発明の抗体を産生する組換え細胞を含み、該細胞は周知の技術によって構築し得、例えばモノクローナル抗体の抗原結合部位は、PCRならびに大腸菌(E. coli)中のファージディスプレイされた組換え抗体もしくは可溶性抗体として作製された一本鎖抗体によってクローニングできる(例えば、Antibody
Engineering Protocols, 1995, Humana Press, Sudhir Paul編を参照されたい)。
【0136】
本発明の別の態様では、特異的抗体の製造方法を提供する。
【0137】
本発明のポリクローナル抗体は、下記の詳細のとおり、標準的な技術に従って、適切な動物(例えば、ウサギ、ヤギなど)を免疫化し、該動物由来の免疫血清を収集し、該免疫血清からポリクローナル抗体を分離し、公知の手順に従って関心ある部位に特異的なポリクローナル抗体をスクリーニングかつ単離することによって製造し得る。マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシおよびウマなどの非ヒト動物の免疫化方法は当該分野において周知である。例えば、Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, New York: Cold
Spring Harbor Press, 1990を参照されたい。
【0138】
免疫原は、関心ある部位を含む完全長のタンパク質またはペプチドであり得る。幾つかの実施形態では、免疫原は、長さ7〜20アミノ酸、例えば長さ約8〜17アミノ酸のペプチドである。本発明の抗体産生に適したペプチド抗原は、周知の技術に従って設計、構築および使用され得る。例えば、Antibodies: A Laboratory Manual, Chapter 5, p.75-76, Harlow &
Lane編, Cold Spring Harbor
Laboratory (1988);Czernik, Methods In Enzymology, 201: 264-283 (1991);Merrifield,
J. Am. Chem. Soc. 85: 21-49 (1962)を参照されたい)。
【0139】
幾つかの実施形態では、免疫原はアジュバントと併用投与される。適切なアジュバントは当業者に周知であろう。代表的なアジュバントとしては、フロイントの完全もしくは不完全アジュバント、RIBI(ムラミルジペプチド)またはISCOM(免疫刺激複合体)が挙げられる。
【0140】
免疫化後、ポリクローナル抗体の製造に上記の方法を使用する場合、公知の技術を用いて血流中へ分泌されたポリクローナル抗体を回収できる。精製したこれらの抗体形態は、当然のことながら、標準的な精製技術(例えば、タンパク質A、抗免疫グロブリン、または抗原そのものによるアフィニティークロマトグラフィーなど)によって容易に調製できる。いずれの場合も、免疫化の成立をモニタリングするために、血清中抗原に対する抗体量をELISA、RIAなどの標準的な技術を用いてモニタリングする。
【0141】
本発明のモノクローナル抗体は、当該分野において周知である任意の幾つかの方法によって製造し得る。幾つかの実施形態では、抗体産生B細胞は、上記のようにペプチド抗原によって免疫化した動物から単離される。該B細胞は、脾臓、リンパ節または末梢血液由来であり得る。個々のB細胞は、下記のように単離およびスクリーニングされ、関心ある抗体を産生する細胞を同定する。次いで、同定した細胞を培養して本発明のモノクローナル抗体を製造する。
【0142】
あるいは、本発明のモノクローナル抗体は、KohlerおよびMilsteinの周知の技術に従って、ハイブリドーマ細胞株中で標準的なハイブリドーマ技術を用いて製造し得る。Nature
265: 495-97 (1975);Kohler and Milstein, Eur. J. Immunol. 6: 511 (1976)を参照されたい。Current Protocols in Molecular
Biology, Ausubelら編(1989)も参照されたい。このようにして製造されたモノクローナル抗体は高度に特異的であり、本発明によって提供される診断アッセイ方法の選択性および特異性を改善する。例えば、適切な抗原を含有する溶液をマウスまたは他の種に注射し得、(慣用の技術に見合う)十分な時間の後、該動物を屠殺し、脾細胞を取得し得る。次いで、任意の幾つかの標準的な方法によって脾細胞を不死化させる。細胞の不死化方法としては、腫瘍遺伝子とのトランスフェクト、発癌ウイルスへの細胞感染および不死化細胞用に選択した条件下での細胞培養、細胞を発癌性もしくは突然変異化合物の影響下に置く、不死化細胞(例えば、骨髄腫細胞)との細胞融合、および腫瘍抑制遺伝子の不活性化が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、前述したHarlowおよびLaneを参照されたい。骨髄腫細胞との融合に使用される場合、骨髄腫細胞は好ましくは免疫グロブリンポリペプチド(非分泌細胞株)を分泌しない。典型的には、融合させる細胞産生抗体と不死化細胞(骨髄腫細胞などであるが、これに限定しない)とは同種である。例えば、ウサギ融合ハイブリドーマは、1997年10月7日に付与されたC. Knightの米国特許第5,675,063号に記載されているように製造し得る。次いで、ヒポキサンチン‐アミノプテリン‐チミジン(HAT)などの適切な選択培地中で、細胞産生不死化抗体(ハイブリドーマ細胞など)を増殖させ、下記のように、所望の特異性を有するモノクローナル抗体の上清をスクリーニングする。分泌された抗体は、沈殿、イオン交換またはアフィニティークロマトグラフィーなどの従来の方法によって、組織培養上清から回収し得る。
【0143】
本発明は、上記のように、抗体産生細胞および細胞株(ハイブリドーマなど)も包含する。
【0144】
ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体は、インビトロ(in vitro)免疫化によっても取得し得る。例えば、ファージディスプレイ技術を用いて、特定抗原に対する親和性が様々である抗体レパートリーを含むライブラリーを提供できる。そのようなライブラリーから高親和性ヒト抗体を同定する技術は、参照により援用されるGriffithsら, (1994) EMBO
J., 13:3245-3260;Nissimら, ibid, pp.692-698およびGriffithsら, ibid,
12:725-734に記載されている。抗体は、例えば、米国特許第4,349,893号(Reading)または米国特許第4,816,567号(Cabillyら)に開示された方法に従った、当該分野において周知の方法を用いて組換え産生し得る。抗体は、米国特許第4,676,980号(Segelら)に開示された方法によって作製された特異的抗体により化学的に構築もされ得る。
【0145】
一旦、所望の抗体が同定されると、当該分野において周知の方法を用いて、重鎖、軽鎖、もしくはその双方(または一本鎖抗体の場合は一本鎖)またはその一部を含む抗体をコードするポリヌクレオチド(例えば、可変領域をコードするポリヌクレオチドなど)を抗体産生細胞からクローン化かつ単離し得る。例えば、モノクローナル抗体の抗原結合部位は、PCRならびに大腸菌(E. coli)中のファージディスプレイされた組換え抗体または可溶性抗体として作製された一本鎖抗体によってクローニングできる(例えば、Antibody
Engineering Protocols, 1995, Humana Press, Sudhir Paul編を参照されたい)。
【0146】
したがって、本発明のさらなる一態様では、本発明の抗体の重鎖、軽鎖、可変領域、フレームワーク領域またはCDRをコードするそのようなポリヌクレオチドを提供する。幾つかの実施形態では、核酸は発現対照配列と作動可能に連結されている。したがって、本発明は、本発明の抗体もしくはその抗原結合部分の組換え発現において有用なベクターおよび発現対照配列も提供する。抗体もしくは抗原結合部分が発現する宿主細胞に適したベクターおよび発現系を当業者は選択できるであろう。
【0147】
本発明のモノクローナル抗体は、適切な条件下、適切な宿主細胞中コード核酸を発現することによって、組換え産生し得る。したがって、本発明はさらに、上記の核酸およびベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0148】
モノクローナルFab断片は、当業者に公知の組換え技術によって、大腸菌(Escherichia coli)中で製造してもよい。例えば、W. Huse, Science 246: 1275-81
(1989);Mullinaxら, Proc. Nat’l
Acad. Sci. 87: 8095 (1990)を参照されたい。
【0149】
1つの所望のアイソタイプのモノクローナル抗体が特定の用途において好ましい場合には、特定のアイソタイプを最初の融合から選択することによって直接調製でき、または、クラススイッチ変異型を単離するための同胞選択技術を使用することによって異なるアイソタイプのモノクローナル抗体を分泌する親ハイブリドーマから副次的に調製できる(Steplewskiら, Proc. Nat’l. Acad. Sci., 82: 8653 (1985);Spiraら, J. Immunol.Methods, 74: 307 (1984))。あるいは、当該分野において周知の抗体作製技術を用いて、所望の特性を有するモノクローナル抗体のアイソタイプを変化させることができる。
【0150】
本発明の抗体は、ポリクローナルであるかモノクローナルであるかを問わず、標準的な技術に従い、エピトープ特異性についてスクリーニングし得る。例えば、Czernikら, Methods in
Enzymology, 201: 264-283 (1991)を参照されたい。他のエピトープと反応しないことを確認するために、ペプチド競合アッセイを実施し得る。抗体の所望のエピトープ/標的との反応性を確認するために、親シグナル伝達タンパク質(例えば、親タンパク質を過剰発現する細胞株など)を含有する細胞調製物におけるウェスタンブロッティングによって抗体を試験してもよい。
【0151】
代表的実施形態では、モノクローナル抗体の大量産生のために1010超個のファージクローンを含有するファージディスプレイライブラリーを使用し、検証および品質管理においてこれらの抗体の効能をスクリーニングするために、高情報量の免疫組織化学法が用いられる。本発明の部位特異的なポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体の高情報量のスクリーニングにおいて、ウエスタンブロット、タンパク質マイクロアレイおよびフローサイトメトリーも使用できる。例えば、Blow N., Nature, 447: 741-743 (2007)を参照されたい。
【0152】
本発明の抗体は、非標的タンパク質中の関連エピトープと、幾らかの限られた交叉反応を示し得る。ほとんどの抗体はある程度の交叉反応を示すので、これは予想されないことではなく、抗ペプチド抗体は、免疫化ペプチドと高い相同性を有するエピトープとしばしば交叉反応する。例えば、前述したCzernikを参照されたい。非標的タンパク質との交叉反応は、分子量が既知であるマーカーを用いたウェスタンブロッティングによって容易に性質決定される。
【0153】
特定の場合、ポリクローナル抗血清は、抗血清のさらなる精製(例えば、燐酸化チロシンカラム上)によって除去し得る幾つかの望ましくない一般的な交叉反応を示すことがある。
【0154】
抗体の性質は、さらに、正常組織および疾患組織を用いた免疫組織化学(IHC)染色によって決定し得る。IHCは周知の技術に従って実施し得る。例えば、Antibodies: A Laboratory
Manual, Chapter 10, Harlow & Lane編, Cold Spring Harbor Laboratory (1988)を参照されたい。簡潔に述べると、免疫組織化学染色のためのパラフィン包埋組織(例えば、腫瘍組織)は、キシレン、その後エタノールにより組織切片を脱パラフィン化し;水中で、次いでPBS中で水和させ;クエン酸ナトリウム緩衝液中でスライドを加熱することによって抗原を露出させ;過酸化水素中でインキュベートし;ブロッキング溶液中で阻止し;一次抗体および二次抗体中でスライドをインキュベートし;最後に製造業者の指示書に従ってABCアビジン/ビオチン方法を用いて検出することによって調製される。
【0155】
抗体の性質は、さらに、標準的な方法に従って実施したフローサイトメトリーによって決定し得る。Chowら, Cytometry
(Communications in Clinical Cytometry) 46: 72-78 (2001)を参照されたい。簡潔に述べると、例として、細胞数測定分析のための下記のプロトコールを使用し得る。すなわち、溶解赤血球および細胞残屑を除去するため、フィコールグラディエント上で試料を遠心し得る。プレートから、付着した細胞をかき集めてPBSで洗浄し得る。次いで、37℃、2%パラホルムアルデヒドで10分間細胞を固定し得、その後、氷上、90%メタノール中で30分間透過化し得る。次いで、本発明の一次抗体で細胞を染色、洗浄および蛍光標識した二次抗体で標識)し得る。この時、続く特定の血液細胞種の同定を補助するために、追加蛍光色素で結合したマーカー抗体(例えば、CD45、CD34)を添加してもよい。次いで、用いた装置特有のプロトコールに従って、フローサイトメーター(例えばBeckman
Coulter FC500)上で細胞を分析する。
【0156】
本発明の結合剤は、他のシグナル伝達(ホスホ−CrkL、ホスホ−Erk1/2)および/または細胞マーカー(CD34)抗体と共にマルチパラメトリック分析に使用するために、蛍光色素(例えばAlexa488、PE)とも有利に結合し得る。二重特異性抗体の作製方法は、当業者の範囲内である。慣用的には、二重特異性抗体の組換え産生は、2本の重鎖が異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖/軽鎖対の共発現に基づく(Milstein and Cuello, Nature, 305:537-539 (1983))。所望の結合特異性を有する抗体可変領域(抗体抗原結合部位)は、免疫グロブリン定常領域配列と融合できる。特定の実施形態では、免疫グロブリン重鎖定常領域との融合は、ヒンジ、CH2、およびCH3領域の少なくとも一部を含む。免疫グロブリン重鎖融合および、所望であれば、免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAを分離した発現ベクター中に挿入し、適切な宿主生物中にコトランスフェクトする。現在公知である二重特異性抗体の作製方法を例証する詳細については、例えば、Sureshら, Methods in
Enzymology, 121:210 (1986);国際公開第96/27011号;Brennanら, Science 229:81 (1985);Shalabyら, J. Exp. Med. 175:217-225 (1992);Kostelnyら, J. Immunol. 148(5):1547-1553
(1992);Hollingerら, Proc. Natl.
Acad. Sci. USA 90:6444-6448 (1993);Gruberら, J. Immunol. 152:5368 (1994);およびTuttら, J. Immunol.
147:60 (1991)を参照されたい。また、二重特異性抗体は、架橋またはヘテロコンジュゲート抗体も含む。ヘテロコンジュゲート抗体は、任意の便利な架橋方法を用いて作製し得る。適切な架橋剤が当該分野において周知であり、幾つかの架橋技術と共に米国特許第4,676,980号に開示されている。
【0157】
組換え細胞培養から直接に二重特異性抗体断片を作製および単離するための様々な技術も記載されている。例えば、二重特異性抗体は、ロイシンジッパーを用いて製造されている。Kostelnyら, J. Immunol.,
148(5):1547-1553 (1992)。FosおよびJunタンパク質由来のロイシンジッパーペプチドは、遺伝子融合によって2つの異なる抗体のFab'部分と結合し得る。該抗体ホモ二量体は、モノマーを形成するためにヒンジ領域で還元され得、次いで抗体ヘテロ二量体を形成するために再酸化され得る。この方法は、抗体ホモ二量体を産生するためにも用いることができる。一本鎖Fv(scFv)二量体を用いた二重特異性抗体断片の作製戦略も報告されている。Gruberら, J. Immunol.,
152:5368 (1994)を参照されたい。あるいは、該抗体は、Zapataら Protein Eng.
8(10):1057-1062 (1995)に記載されているような「線状抗体」であり得る。簡潔に述べると、これらの抗体は、一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデムFdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む。線状抗体は、二重特異性でも単一特異性でもよい。
【0158】
キメラ抗体を製造するため、互いに異なる2つの種(例えば、ヒト定常領域ならびにマウスの可変領域もしくは結合領域)に由来する部分を従来技術によって化学的に結合でき、または遺伝子工学技術を用いて1個の連続したタンパク質として調製できる。キメラ抗体の軽鎖および重鎖部分の両タンパク質をコードするDNA分子は、連続したタンパク質として発現できる。キメラ抗体の作製方法は、各々、参照によりそれらの全体が援用される米国特許第5,677,427号、米国特許第6,120,767号、および米国特許第6,329,508号に開示されている。
【0159】
完全ヒト抗体は、種々の技術によって製造し得る。1例として、トリオーマ法が挙げられる。基本的なアプローチおよびこのアプローチで使用するための代表的な細胞融合パートナーであるSPAZ-4については、OestbergらのHybridoma 2:361-367 (1983);Oestbergの米国特許第4,634,664号;およびEnglemanらの米国特許第4,634,666号(各々、参照によりそれらの全体が援用される)に記載されている。
【0160】
ヒト抗体は、少なくともヒト免疫グロブリン遺伝子座のセグメントをコードするトランス遺伝子を有する非ヒト遺伝子組換え動物からも製造できる。これらの特性を有する動物の産生および特性は、例えば、参照によりそれらの全体が本明細書中で援用されるLonbergらの国際公開第93/12227号;米国特許第5,545,806号;およびKucherlapatiらの国際公開第91/10741号;米国特許第6,150,584号に詳述されており、それらを参照されたい。
【0161】
完全ヒト抗体を製造するために、様々な組換え抗体ライブラリー技術も用い得る。例えば、1つのアプローチとして、Huseら, Science 246:1275-1281 (1989)に概説されている一般のプロトコールに従ったヒトB細胞由来DNAライブラリーのスクリーニングが挙げられる。Huseに記載されている該プロトコールは、ファージディスプレイ技術と併用するとより効率的であることが示されている。例えば、Dowerらの国際公開第91/17271号およびMcCaffertyらの国際公開第92/01047号、米国特許第5,969,108号(各々、参照によりそれらの全体が援用される)を参照されたい。
【0162】
抗体ライブラリーをディスプレイしてヒト抗体結合を単離する方法として、各々、参照によりそれらの全体が援用されるCoia Gら, J. Immunol.
Methods 1: 254 (1-2):191-7 (2001);Hanes J.ら, Nat. Biotechnol. 18(12):1287-92 (2000);Proc. Natl. Acad. Sci.
U.S.A. 95(24):14130-5 (1998);Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 94(10):4937-42
(1997)に記載されているように、標的抗原のスクリーニングによって、真核リボソームも使用できる。
【0163】
酵母系は、哺乳動物細胞表面または分泌されたタンパク質(抗体など)のスクリーニングのためにも適切である。抗体ライブラリーは、標的抗原に対してヒト抗体を得る目的のため、酵母細胞表面上にディスプレイし得る。このアプローチは、各々、参照によりそれらの全体が本明細書中で援用されるYeungら, Biotechnol.
Prog. 18(2):212-20 (2002);Boeder, E. T.ら, Nat. Biotechnol. 15(6):553-7 (1997)に記載されている。あるいは、ヒト抗体ライブラリーは、細胞中に発現し得、酵母ツーハイブリッドシステムを通してスクリーニングされ得る(参照によりその全体が援用される国際公開第0200729A2号)。
【0164】
本明細書に記載した組換え型の特異的抗体、ならびに、細菌、酵母、昆虫細胞、植物細胞、哺乳動物細胞(例えば、NS0細胞)などの原核生物および真核生物発現系の双方を含む任意の発現系におけるキメラ抗体もしくはヒト化抗体または他の任意の遺伝子改変抗体およびその断片もしくはコンジュゲートを製造する上で、組換えDNA技術を使用できる。
【0165】
本願の完全抗体、該完全抗体の二量体、個々の軽鎖および重鎖または他の免疫グロブリン形態は、一旦、製造されると、硫酸アンモニウム沈殿、アフィニティーカラム、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動などの当該分野の標準的な手順に従って精製できる(一般的には、Scopes,
R., Protein Purification (Springer-Verlag, N.Y., 1982)を参照されたい)。所望により一旦部分的にまたは均一になるまで精製されたポリペプチドは、次いで、(体外を含む)治療において、またはアッセイ手順、免疫蛍光染色などを開発し、実施するにおいて使用し得る(一般的には、Immunological Methods, Vols. I and II
(Lefkovits and Pernis編, Academic Press, NY, 1979 and 1981を参照されたい)。
【0166】
本発明の別の態様では、EGFR標的療法がよく奏効する癌の同定方法を提供する。該方法は、(a)E746-A750位を欠損している上皮成長因子受容体(EGFR)分子またはL858R点突然変異を有するEGFR分子のいずれかと特異的に結合する結合剤と癌由来の生体試料とを接触させて結合量を得る工程と、(b)前記工程(a)の結果と、健常個体由来の生体試料を結合剤と接触させて得られる結合量とを比較し、健常個体由来の結合量と癌由来の結合量との差により該EGFR標的療法が該癌によく奏効する結合量を示す工程、とを含む。
【0167】
「EGFR標的療法」とは、EGFR分子(または、L858R突然変異体もしくはE746-A750del突然変異体などのEGFR分子の突然変異体)を標的とし、EGFR異常発現を特徴とする癌を呈するもしくはEGFR異常発現を特徴とする癌の影響を受けやすいことが疑われる患者もしくは患畜(例えば、ヒト患者)に対する、身体的(例えば、外科手術)か医薬的(例えば、EGFR発現および/もしくは活性を抑制する化合物)かを問わない任意の治療を意味する。
【0168】
本明細書中で用いる一個体または一組織における「EGFR異常発現」とは、非罹患個体の同一組織と比較した、野生型EGFRの過剰発現もしくは低発現、および/または組織中分子の突然変異型発現を意味する。例えば、EGFR突然変異体(例えば、EGFR L858R突然変異体またはE746-A750del突然変異体)の組織内発現は、該組織内のEGFR異常発現である。同様に、ある個体が組織内EGFR分子を発現するのに対し健常個体の同一組織タイプではEGFRが発現しないまたは異なる量で発現している場合、該個体はEGFRを異常発現していると述べられる。
【0169】
幾つかの実施形態では、癌はヒト患者由来である。幾つかの実施形態では、癌は非小細胞肺癌(NSCLC)である。幾つかの実施形態では、癌は腺癌または扁平上皮癌である。幾つかの実施形態では、癌は、肺癌、結腸癌、乳癌、子宮頚癌、膵癌、前立腺癌、胃癌、および食道癌からなる群から選択される組織タイプである。
【0170】
様々な実施形態では、癌由来の生体試料と健常個体由来の生体試料の組織タイプは同一である。当然のことながら、癌由来の生体試料は、無論、腫瘍性(悪性または良性)であるが、健常個体由来の生体試料は癌由来の生体試料の組織タイプは同一であり得る。例えば、癌がNSCLCの場合には、健常個体由来の生体試料は肺組織試料であり得る。同様に、癌が膵臓の腺癌であった場合には、健常個体由来の生体試料は膵組織試料であり得る。
【0171】
「よく奏効する」とは、分子の標的療法(例えば、EGFR突然変異体標的療法)後における、癌(良性でも悪性でもよい)の縮小(例えば、固形腫瘍の場合)、新生細胞数の減少(例えば、白血病などの非固形腫瘍の場合)、サイズの非増大(例えば、固形腫瘍の場合)、または新生細胞数の非上昇(例えば、非固形腫瘍の場合)を意味する。癌細胞数は、例えば血球計を使用し、血液試料中で計測できる。固形腫瘍に関して、サイズはキャリパーを用いて決定でき、腫瘍が切除されている場合には、腫瘍を秤にかけて計量して決定できる。
【0172】
本明細書中で用いる用語「生体試料」または「組織試料」は、最も広義な意味で使用され、関心ある分子(例えば、EGFR分子またはその突然変異体)を含有することが疑われる任意の生体試料を意味し、細胞、細胞から単離された染色体(例えば、中期染色体の広がり)、(溶液中の、またはサザン分析などの固体支持体と結合した)ゲノムDNA、(溶液中の、またはノーザン分析などの固体支持体と結合した)RNA、(溶液中の、または固体支持体と結合した)cDNA、細胞、血液、尿、髄液、もしくは組織などの抽出物を含み得る。
【0173】
本発明の方法の実践において有用な生体試料は、関心ある分子の存在を特徴とする癌を呈する、または該癌を呈するもしくは発現する可能性がある任意の哺乳動物から取得し得る。本明細書中で用いる癌および指定の分子(例えば、EGFR異常発現(例えば、EGFR過剰発現またはEGFR突然変異体の発現))に関する「を特徴とする」という語句は、指定の分子が異常発現しない同一組織タイプの腫瘍性もしくは非腫瘍性生体試料と比較して、指定の分子が異常発現する癌を意味する。異常発現したEGFRの存在は、そのような癌の増殖および生存を完全にもしくは部分的に促進する(すなわち、刺激するまたは病原因子となる)ことがある。
【0174】
哺乳動物の癌から得られた細胞(または細胞の抽出物)を含む生体試料はいずれも、本発明の方法における使用に適している。一実施形態では、生体試料は腫瘍生検から得られる細胞を含む。生検は、標準的な臨床技術に従って、哺乳動物の臓器中に存在する原発性腫瘍からまたは他の組織中に転移した続発性腫瘍によって取得され得る。別の実施形態では、生体試料は腫瘍から採取された微細針吸引液から得られた細胞を含み、そのような吸引液の取得技術は当該分野において周知である(Cristalliniら, Acta Cytol. 36(3): 416-22 (1992)を参照されたい)。
【0175】
上記の生体試料の細胞抽出物は、標準的な技術に従って、未精製または部分的に(もしくは完全に)精製されて調製され得、本発明の方法において使用され得る。あるいは、完全細胞を含む生体試料は、免疫組織化学(IHC)、フローサイトメトリー(FC)、および免疫蛍光(IF)などのアッセイ形式で使用され得る。そのような完全細胞アッセイは、腫瘍細胞試料の操作を最小限に抑え、したがって、細胞のインビボ(in vivo)シグナル伝達/活性化状態を改変させるリスクおよび/または人為的シグナルを誘発するリスクを低減する点で有利である。完全細胞アッセイも、腫瘍細胞と正常細胞の混合物ではなく、腫瘍細胞中のみで発現およびシグナル伝達を特徴づけるので有利である。
【0176】
本明細書中で用いる「個体」(本明細書中で「対象」とも呼ぶ)または「患者」もしくは「患畜」は、哺乳動物(例えば、ヒト。家畜(ウシ、ブタ、およびニワトリなど)、飼育動物(ネコ、オウム、カメ、トカゲ、イヌ、およびウマなど)、霊長類(チンパンジーおよびゴリラなど)、動物園の動物(マウスおよびラットなど)を含むが、これらに限定されない哺乳動物)などの脊椎動物である。患者もしくは患畜は病状(例えば、癌)に罹患していても罹患していなくてもよく、および/または現在、症状を示していても示していなくてもよい。幾つかの実施形態では、対象は癌を呈する。幾つかの実施形態では、対象は腫瘍を有するか、または腫瘍を除去されている。腫瘍が対象から除去されていたとしても、場合によっては、除去したにも関わらず腫瘍細胞が対象に残存することがあることが理解される。例えば、一部位の腫瘍が除去されていたとしても、該腫瘍は体内の他の部位に転移し拡大していることがある。また、腫瘍は対象から除去し得るが、腫瘍の一部または幾つかの腫瘍細胞は、外科的手順の限界などのため、不注意にまたは不可避的に対象に残存することがある。幾つかの実施形態では、対象は腫瘍(または癌)の発現リスクを有している。幾つかの実施形態では、対象は追加治療(例えば、化学療法、外科手術、ホルモン療法、放射線、または追加免疫療法)を施行中または施行されている。
【0177】
本明細書の方法は、主にヒト対象の治療に関心を向けているが、開示された方法は、獣医学目的のイヌおよびネコなどの他の哺乳動物対象の治療にも使用し得る。
【0178】
幾つかの実施形態では、EGFR標的療法がよく奏効する癌の同定方法は、予備血液検査または外科的調査手順の前に実施し得る。そのような診断アッセイは、通常、非疾患個体ではEGFRが発現していない組織中でEGFRを発現する患者または患畜を同定するために使用し得る。EGFR異常発現患者または患畜は癌または癌発現リスクを保持し得、EGFR標的療法がよく奏効する可能性がある患者または患畜とみなされている。
【0179】
該方法は、例えば、既に癌と診断されているおよび/または癌治療をまだ受けていない対象由来の生体試料の場合に使用でき、該方法は疾患の診断、または潜在的な病状進行のモニタリングに役立つよう使用される。例えば、該方法は、対象患者もしくは患畜が既に癌と診断されている、および、場合により既に疾患の治療を施行している場合に使用でき、該方法はEGFR異常発現に関与する疾患進行のモニタリングに使用される。
【0180】
本発明の方法は、対象患者または患畜(例えば、癌の家族歴を有するがまだ症状を示していない患者または患畜)の癌発現リスク評価にも使用し得る。
【0181】
本発明の別の態様では、EGFR異常発現を特徴とする癌の患者もしくは患畜または該癌の疑いのある患者もしくは患畜の治療方法を提供し、該方法は、E746-A750位を欠損している上皮成長因子受容体(EGFR)分子もしくはL858R点突然変異を有するEGFR分子のいずれかに特異的に結合する結合剤、そのような結合剤をコードするポリヌクレオチド、そのようなポリヌクレオチドを含むベクター、ならびに/または該結合剤、該ポリヌクレオチド、もしくは該ベクターを含む組成物を有効量で患者もしくは患畜へ投与することを含む。幾つかの実施形態では、癌はEGFR異常発現を特徴とする。
【0182】
「治療」とは、患者もしくは患畜の癌進行の休止、遅延化(retarding)、もしくは抑制、または癌発現の予防を意味する。幾つかの実施形態では、癌は、投与された結合剤と特異的に結合する分子の存在を特徴とする癌である。
【0183】
幾つかの実施形態では、対象は、EGFR分子を異常発現(例えば、wtEGFRを過剰発現もしくは低発現、または本明細書に記載したEGFR L858R突然変異体またはEGFR E746-A750欠損突然変異体などのEGFR突然変異体分子を発現)する癌を呈する、またはそのような腫瘍を除去されているおよび/またはそのような腫瘍の生検を採取されている。幾つかの実施形態では、腫瘍の退化、転移の低減、および/または腫瘍サイズの低減もしくは腫瘍細胞数の低減が、有効量の結合剤(またはそれを含む組成物)および/または結合剤をコードするポリヌクレオチド(またはそれを含む組成物)の投与によって誘発される。
【0184】
本明細書中で用いる「有効量」とは、患者もしくは患畜における癌進行の休止、遅延化、休止、抑制(retarding)、もしくは抑制(inhibiting)、または患者もしくは患畜における癌発現の予防などの有益なまたは所望の結果をもたらすのに十分な量または投与量である。該有効量は、例えば、結合剤、結合剤をコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含むベクターおよび/もしくはその組成物を投与される対象の年齢および体重、症状の重症度ならびに投与経路に応じて異なるため、投与は個体基準で決定される。通常、経口投与の場合の成人の1日投与量は約0.1〜1000mgであり、1回用量または分割用量として投与する。持続的静脈内投与の場合は、該組成物を0.01μg/kg/分〜1.0μg/kg/分、望ましくは0.025μg/kg/分〜0.1μg/kg/分の範囲で投与できる。
【0185】
したがって、本発明のさらなる態様では、858位のロイシンがアルギニンに置換された点突然変異を有する上皮成長因子受容体(EGFR)分子に特異的に結合する結合剤、E746-A750位を欠損している上皮成長因子受容体(EGFR)分子に特異的に結合する結合剤、または両結合剤を含む組成物も提供する。幾つかの実施形態では、組成物はさらに、製薬上許容可能な担体を含む。
【0186】
本発明は、858位のロイシンがアルギニンに置換された点突然変異を有する上皮成長因子受容体(EGFR)分子に特異的に結合する結合剤をコードするポリヌクレオチド、E746-A750位を欠損している上皮成長因子受容体(EGFR)分子に特異的に結合する結合剤をコードするポリヌクレオチド、または両ポリヌクレオチドもしくはそれを含有するベクターを含む組成物も提供する。幾つかの実施形態では、組成物はさらに製薬上許容可能な担体を含む。
【0187】
有効量の本発明の結合剤(抗体など)、該結合剤をコードするポリヌクレオチド、そのようなポリヌクレオチドを含有するベクター、またはその組成物は、単回もしくは複数回投与できる。例として、EGFR L858R突然変異特異体抗体またはEGFR E746-A750del特異的抗体などの結合剤の有効量は、患者もしくは患畜の病状(例えば、EGFR異常発現を特徴とする癌)進行の改善、停止、安定化、逆行化、遅延化(slow)および/もしくは遅延化(delay)に十分な量またはインビトロ(in vitro)細胞(例えば、生検癌細胞)増殖の改善、停止、安定化、逆行化、遅延化(slow)および/もしくは遅延化(delay)に十分な量である。当該分野において理解されるように、例えば、EGFR L858R変異体特異的抗体もしくはEGFR E746-A750del特異的抗体の有効量は、とりわけ、患者もしくは患畜の既往歴、ならびに使用するEGFR L858R変異体特異的抗体もしくはEGFR E746-A750del特異的抗体のタイプ(および/または投与量)などの他の因子に応じて変わり得る。
【0188】
本発明の結合剤、結合剤をコードするポリヌクレオチド、および/または組成物の投与の有効量およびスケジュールは経験的に決定し得、そのような決定を行うことは当該分野の技能の範囲内にある。投与しなければならない投与量は、例えば、本発明の結合剤、該結合剤をコードするポリヌクレオチド、および/もしくは組成物を受ける哺乳動物、投与経路、使用される本発明の結合剤、該結合剤をコードするポリヌクレオチド、および/もしくは組成物の特定のタイプ、ならびに哺乳動物に投与されている他剤に応じて異なることを当業者は理解するであろう。抗体および/または抗体を含む組成物を患者または患畜に投与する場合、抗体の適切な用量を選択する際の指針は、抗体の治療的使用に関する文献、例えば、Handbook of Monoclonal Antibodies, Ferroneら編, Noges Publications, Park Ridge, N.J.,
1985, ch. 22 and pp.303-357;Smithら, Antibodies in Human Diagnosis and Therapy, Haberら編, Raven Press, New York, 1977, pp.365-389に見出される。
【0189】
有効量の単独使用される結合剤の典型的な1日投与量は、上述の要素に応じて、1日につき約1μg/kg体重〜100mg/kg体重の範囲、またはそれを超えることがある。一般的に、次の用量、すなわち、少なくとも約50mg/kg体重の用量;少なくとも約10mg/kg体重;少なくとも約3mg/kg体重;少なくとも約1mg/kg体重;少なくとも約750μg/kg体重;少なくとも約500μg/kg体重;少なくとも約250μg/kg体重;少なくとも約100μg/kg体重;少なくとも約50μg/kg体重;少なくとも約10μg/kg体重;少なくとも約1μg/kg体重、またはそれ以上、のいずれかを用いて投与し得る。幾つかの実施形態では、本明細書で提供した結合剤(例えば、抗体)の用量は、約0.01mg/kg〜約50mg/kg、約0.05mg/kg〜約40mg/kg、約0.1mg〜約30mg/kg、約0.1mg〜約20mg/kg、約0.5mg〜約15mg、または約1mg〜10mgである。幾つかの実施形態では、用量は約1mg〜5mgである。幾つかの代替的実施形態では、用量は約5mg〜10mgである。
【0190】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載した方法はさらに、追加療法形態による対象の治療工程を含み、および/または本明細書に記載した組成物はさらに、追加療法用の追加薬剤を含む。幾つかの実施形態では、追加療法形態は追加抗癌療法である(例えば、該組成物は抗癌剤を含み得る)。幾つかの実施形態では、本明細書に記載した方法はさらに、化学療法、放射線、外科手術、ホルモン療法、および/または追加免疫療法による対象の治療工程を含む。幾つかの実施形態では、放射線は外照射療法もしくは遠隔療法である。幾つかの代替的実施形態では、放射線は内療法または近接照射療法として照射する。幾つかの実施形態では、追加療法形態は、1種もしくは数種の治療薬(例えば、キナーゼ阻害剤など)の投与を含む。幾つかの実施形態では、治療薬は、抗VEGF抗体であるAvastin(商標登録)、抗HER2抗体であるHerceptin(商標登録)(Trastuzumab)(Genentech, Calif.)、抗CD25抗体であるZenapax(商標登録)(daclizumab)(Roche
Pharmaceuticals, Switzerland)、および抗CD20抗体であるRituxan(商標登録)(IDEC Pharm./Genentech, Roche/Zettyaku)などの治療抗体である。
【0191】
幾つかの実施形態では、追加治療薬は血管新生阻害剤である。
【0192】
幾つかの実施形態では、追加治療薬は細胞毒性化合物である。幾つかの実施形態では、本発明の結合剤は、エフェクター媒介性細胞死のための癌細胞の標的化にも使用し得る。例えば、本発明の結合剤(例えば、抗体)は、補体媒介性または抗体依存細胞の細胞毒性によって癌細胞を直接死滅させ得る。本明細書に開示した結合剤(例えば、抗体)は、癌細胞を直接死滅させるため、細胞毒性部分と結合した融合分子として投与し得る。融合は、化学的にまたは遺伝的に(例えば、1個の融合分子としての発現を介して)実現することができる。当業者が理解するように、低分子の場合は化学的融合が使用され、他方、生体化合物の場合は化学的融合または遺伝的融合のいずれか一方を使用できる。
【0193】
細胞毒性化合物例としては、これらに限定しないが、治療薬、放射線治療薬、リボソーム不活性化タンパク質(RIP)、化学療法薬、毒性ペプチド、毒性タンパク質、およびその混合物が挙げられる。本発明の結合剤と結合し得るまたは本発明の組成物に含まれ得る代表的な化学療法薬としては、タクソール、ドキソルビシン、ドセタキセル、プレドニゾン、シスプラチン、マイトマイシン、プロゲステロン、タモキシフェン、ベラパミル、ポドフィロトキシン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトセシン、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ビスルファン、ニトロソ尿素、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ブレオマイシン、プリカマイシン、エトポシド(VP16)、トランス型白金製剤、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、またはメトトレキサートが挙げられる。
【0194】
幾つかの実施形態では、追加治療薬は抗炎症剤である。
【0195】
細胞毒性剤は、短距離の放射線エミッター(例えば、短距離、高エネルギーαエミッター)など、細胞中に作用する細胞毒性剤であり得る。酵素的に活性のある毒素およびその断片(リボソーム不活性化タンパク質など)は、サポリン、ルフィン、モモルジン、リシン、トリコサンチン、ジェロニン、アブリンなどに代表される。免疫毒素の、酵素的に活性のあるポリペプチドの調製手順は、参照により本明細書中で援用される国際公開第84/03508号および国際公開第85/03508号に記載されている。ある種の細胞毒性部分は、例えば、アドリアマイシン、クロラムブシル、ダウノマイシン、メトトレキサート、ネオカルチノスタチン、および白金に由来する。
【0196】
あるいは、結合剤は、腫瘍部位に局所照射した場合に幾つかの細胞直径を不活性化させる高エネルギー放射線エミッター(131I、γエミッターなど)の放射性同位体と結合できる。例えば、参照により本明細書中で援用されるS.E. Order, “Analysis, Results, and Future Prospective of the
Therapeutic Use of Radiolabeled Antibody in Cancer Therapy”, Monoclonal
Antibodies for Cancer Detection and Therapy, Baldwinら(編), pp.303-316 (Academic Press 1985)を参照されたい。他の適切な放射性同位体としては、212Bi、213Bi、および211Atなどのαエミッター、ならびに186Reおよび90Yなどのβエミッターが挙げられる。
【0197】
本明細書に記載した方法(治療方法を含む)および本明細書に記載した組成物は、単一もしくは複数部位への単一時点もしくは複数時点での単回直接注射によって投与できる。投与は、複数部位へほぼ同時にもできる。投与回数は、療法の過程全体で決定および調節し得、所望の結果を得ることが基準となる。一部の例では、本発明の結合剤(抗体を含む)、ポリヌクレオチド、および医薬品組成物の連続的な持続放出製剤が適切な場合がある。持続放出を実現するための様々な製剤および装置が当該分野において公知である。
【0198】
結合剤(例えば、抗体)、結合剤をコードするポリヌクレオチド、および/またはそのようなポリヌクレオチドを含むベクター、またはこれらのいずれかを含む組成物を、担体(例えば、製薬上許容可能な担体)内で患者もしくは患畜に投与し得る。したがって、本発明のさらなる態様では、製薬上許容可能な担体および(a)本発明の結合剤、(b)本発明の結合剤をコードするポリヌクレオチド、および/または(c)該結合剤をコードするポリヌクレオチドを含むベクター、を含む組成物(例えば、医薬品組成物)を提供する。
【0199】
本明細書中で用いる「製薬上許容可能な担体」または「製薬上許容可能な賦形剤」とは、活性成分と併用した際、送達時に、成分が生物活性を保持し、対象の免疫系と反応せず、対象に対して無毒性である任意の材料を含む。例としては、任意の標準的な製薬上担体、例えばリン酸緩衝化生理食塩水溶液、水、エマルション(油/水エマルションなど)、および様々な湿潤剤タイプが挙げられるが、これらに限定されない。エアロゾルまたは非経口投与用の希釈剤例としては、リン酸緩衝化生理食塩水、正常(0.9%)生理食塩水、リンガー溶液およびデキストロース溶液が挙げられるが、これらに限定されない。溶液のpHは、約5〜約8、または約7〜約7.5であり得る。さらなる担体としては、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックス(該マトリックスは、成型品、例えば、充填剤、リポソーム剤または微粒子剤の形態である)などの持続放出調製物が挙げられる。例えば、投与経路および投与されている抗体の濃度に応じて、ある担体がより好ましい場合があることは、当業者にとって明らかであろう。そのような担体を含む組成物は、周知の従来の方法(例えば、Remington's
Pharmaceutical Sciences, 18th edition, A. Gennaro編, Mack Publishing Co., Easton, Pa., 1990;およびRemington, The Science and Practice of
Pharmacy 20th Ed. Mack Publishing, 2000を参照)によって製剤化される。
【0200】
当業者に公知である任意の適切な担体を本発明の医薬品組成物に使用し得る一方、担体タイプは投与方法に応じて異なる。Rolland, 1998, Crit. Rev. Therap. Drug Carrier Systems 15:143-198、およびその中に引用されている参考文献中に記載されているものなど、本発明の医薬品組成物(すなわち、結合剤または結合剤をコードするポリヌクレオチドを含有する)の多数の送達技術が当該分野において周知である。
【0201】
本発明の結合剤および/または結合剤をコードするポリヌクレオチドを含む組成物は、血流への該組成物の有効な形態での送達を保証する、例えば、全身的、局所的、経口、経鼻的、静脈内、脳内、腹腔内、皮下もしくは筋肉内投与、または注入などの他の方法など、任意の適切な投与方法のために製剤化し得る。組成物は、局所的な治療効果を発揮するために、摘出組織灌流などの摘出灌流技法によっても投与し得る。皮下注射などの非経口投与用の担体は、好ましくは、水、生理食塩水、アルコール、脂質、ワックスまたは緩衝液を含む。経口投与用には、上の任意の担体または固体担体(マンニトール、ラクトース、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、ショ糖、および炭酸マグネシウムなど)を使用し得る。幾つかの実施形態では、経口投与用の組成物の製剤は、例えば、リポソーム中で結合剤(または結合剤をコードするポリヌクレオチドまたはそのようなポリヌクレオチドを含むベクター)を封入するマイクロカプセルとして消化管内の分解に耐える。生分解性ミクロスフィア(例えば、ポリラクチド-ポリグリコリド)も本発明の医薬品組成物において担体として使用し得る。適切な生分解性ミクロスフィアは、例えば、米国特許第4,897,268号および同第5,075,109号に開示されている。
【0202】
本発明の組成物は、緩衝液(例えば、中性緩衝化生理食塩水またはリン酸緩衝化生理食塩水)、炭水化物(例えば、グルコース、マンノース、ショ糖またはデキストラン)、マンニトール、タンパク質、ポリペプチドまたはグリシンなどのアミノ酸、酸化防止剤、EDTAもしくはグルタチオンなどのキレート剤、アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム)および/または保存剤も含み得る。あるいは、本発明の組成物は、凍結乾燥として製剤化し得る。
【0203】
幾つかの実施形態では、結合剤および/または結合剤をコードするポリヌクレオチドは、例えば、コアセルベーション技術によってまたは界面重合(例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン-マイクロカプセルおよびポリ(メチルメタクリレート)マイクロカプセル)によって、調製したマイクロカプセル中コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ粒子およびナノカプセル剤)またはマイクロエマルション中に封入してもよい。そのような技術はRemington's Pharmaceutical Sciences, 18th edition, A. Gennaro編, Mack Publishing Co., Easton, Pa., 1990;およびRemington, The Science and Practice of
Pharmacy 20th Ed. Mack Publishing, 2000に開示されている。結合剤(例えば、抗体)の血清半減期を増大するため、例えば、米国特許第5,739,277号に記載されているように、抗体(特に抗体断片)中へサルベージ受容体結合エピトープを組み込んでよい。本明細書中で用いる用語「サルベージ受容体結合エピトープ」とは、IgG分子(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4)のFc領域のエピトープでIgG分子のインビボ(in vivo)血清半減期の増加に関与するものを指す。
【0204】
本明細書に開示した結合剤(および/または結合剤をコードするポリヌクレオチド)は、リポソームとして製剤化してもよい。結合剤(および/または結合剤をコードするポリヌクレオチド)を含有するリポソームは、Epsteinら, 1985, Proc. Natl. Acad. Sci. USA
82:3688;Hwangら, 1980, Proc.
Natl Acad. Sci. USA 77:4030;ならびに米国特許第4,485,045号および同第4,544,545号に記載されているような当該分野において公知の方法によって調製される。循環時間を増大したリポソームは、米国特許第5,013,556号に開示されている。特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロールおよびPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含む脂質組成物を用いた逆相蒸発法によって作製できる。リポソームを所定の細孔径フィルターによって押し出し、所望の直径のリポソームを得る。さらに、結合剤が抗体の場合には、抗体(Fab’断片などの抗原結合領域断片を含む)は、Martinら, 1982, J. Biol. Chem. 257:286-288に記載されているように、ジスルフィド交換反応を介してリポソームと結合できる。発現ベクターの投与としては、注射、経口投与、パーティクルガンもしくはカテーテル投与などの局所(local)もしくは全身投与、および局所(topical)投与が挙げられる。当業者は、インビボ(in vivo)で外因性タンパク質の発現を得るための発現ベクターの投与に精通している。例えば、米国特許第6,436,908号;同第6,413,942号;および同第6,376,471号を参照されたい。
【0205】
本発明の結合剤(例えば、抗体)をコードするポリヌクレオチドを含む治療用組成物の標的送達も使用できる。受容体媒介性DNA送達技術は、例えば、Findeisら, Trends Biotechnol. (1993) 11:202;Chiouら, Gene Therapeutics: Methods And Applications
Of Direct Gene Transfer (J. A. Wolff編) (1994);Wuら, J. Biol. Chem. (1988) 263:621;Wuら, J. Biol. Chem. (1994) 269:542;Zenkeら, Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) (1990) 87:3655;Wuら, J. Biol. Chem. (1991) 266:338に記載されている。ポリヌクレオチドを含有する治療用組成物は、遺伝子療法プロトコールにおける局所投与の場合、DNA約100ng〜約200mgの範囲で投与される。遺伝子療法プロトコール中は、DNA約500ng〜約50mg、約1μg〜約2mg、約5μg〜約500μg、および約20μg〜約100μgの濃度範囲も使用できる。本発明の治療用のポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、遺伝子送達ビヒクルを用いて送達できる。遺伝子送達ビヒクルは、ウイルス起源でも非ウイルス起源でもよい(一般的には、Jolly,
Cancer Gene Therapy (1994) 1:51;Kimura, Human Gene Therapy (1994)
5:845;Connelly, Human Gene Therapy (1995) 1:185;およびKaplitt, Nature Genetics (1994) 6:148を参照されたい)。そのようなコーディング配列の発現は、内因性の哺乳動物または異種プロモーターを用いて誘発できる。コーディング配列の発現は、構成的、調節的のいずれでもよい。
【0206】
所望の細胞における所望のポリヌクレオチドの送達および発現のためのウイルスベースのベクターは、当該分野において周知である。代表的なウイルスベースのビヒクルとしては、組換えレトロウイルス(例えば、PCT国際公開第90/07936号;国際公開第94/03622号;国際公開第93/25698号;国際公開第93/25234号;国際公開第93/11230号;国際公開第93/10218号;国際公開第91/02805号;米国特許第5,219,740号;同第4,777,127号;英国特許第2,200,651号;および欧州特許第0 345
242号を参照)、αウイルスベースのベクター(例えば、シンドビスウイルスベクター、セムリキ森林熱ウイルス(ATCC VR-67;ATCC VR-1247)、ロスリバーウイルス(ATCC VR-373;ATCC VR-1246)、およびベネズエラウマ脳炎ウイルス(ATCC VR-923;ATCC VR-1250;ATCC VR 1249;ATCC VR-532))、およびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(例えば、PCT国際公開第94/12649号、国際公開第93/03769号;国際公開第93/19191号;国際公開第94/28938号;国際公開第95/11984号および国際公開第95/00655号を参照)が挙げられるが、これらに限定されない。Curiel, Hum. Gene Ther.
(1992) 3:147に記載されているような死菌アデノウイルスに連結されたDNAの投与も使用できる。
【0207】
死菌アデノウイルス単独に連結された、または連結されていないポリカチオン性濃縮DNA(例えば、Curiel, Hum.
Gene Ther. (1992) 3:147を参照)、リガンド連結型DNA(例えば、Wu, J. Biol. Chem. (1989) 264:16985を参照)、真核細胞送達ビヒクル細胞(例えば、米国特許第5,814,482号;PCT国際公開第95/07994号;国際公開第96/17072号;国際公開第95/30763号;および国際公開第97/42338号を参照)、および核電荷中和または細胞膜との融合を含むがこれらに限定されない、非ウイルス送達のビヒクルおよび方法も使用できる。また、裸のDNAも使用できる。代表的な裸のDNAの導入方法は、PCT国際公開第90/11092号および米国特許第5,580,859号に記載されている。遺伝子送達ビヒクルの役割を果たすことができるリポソームは、米国特許第5,422,120号;PCT国際公開第95/13796号;国際公開第94/23697号;国際公開第91/14445号;および欧州特許第0 524 968号に記載されている。さらなるアプローチは、Philip, Mol. Cell Biol. (1994) 14:2411およびWoffendin, Proc. Natl. Acad. Sci. (1994) 91:1581に記載されている。
【0208】
本明細書に記載した組成物は、持続放出製剤(すなわち、投与後の化合物の遅延放出効果を有するカプセルまたはスポンジなどの製剤)の一部として投与し得る。そのような製剤は、一般的に、周知の技術を用いて調製し得、例えば、経口、直腸的投与または皮下移植、または所望の標的部位における移植によって投与し得る。持続放出製剤としては、担体マトリックスに分散したおよび/もしくは律速膜に囲まれたリザーバ内に含まれたポリペプチド、ポリヌクレオチドまたは抗体を挙げ得る。そのような製剤の範囲で使用するための担体は生体適合性を有し、生分解もされ得、好ましい製剤は、活性成分放出の相対的一定水準を提供する。持続放出製剤含有の活性化合物量は、移植部位、放出率および放出の予測持続時間、ならびに治療される病状の性質に依存する。
【0209】
本発明の組成物は、単位用量形態の調製に使用できる非医薬品組成物(例えば、不純物または非無菌組成物)および医薬品組成物(すなわち、対象または患者もしくは患畜への投与に適した組成物)の製造業者に有用な大量薬物組成物を含む。
【0210】
本発明のさらに別の態様では、生体試料中EGFRのE746-A750欠損型またはL858R点突然変異検出キットを提供する。キットは、a)EGFRにおけるE746-A750欠損型に特異的に結合する結合剤および/またはEGFRにおけるL858R点突然変異に特異的に結合する結合剤、およびb)試料中EGFRにおけるE746-A750欠損型またはL858R点突然変異の検出指示を含む。
【0211】
本発明の抗体およびペプチドはEGFRにおけるE746-A750欠損型またはL858R点突然変異を検出するキットも使用し得る。そのようなキットはさらに、診断アッセイ実施指示書に従った所定量内で、パッケージされた試薬の併用を含み得る。抗体が酵素によって標識される場合には、キットは、酵素によって必要とされる基質および共同因子を含む。さらに、安定剤、緩衝液などの他の添加剤も含まれ得る。様々な試薬の相対量は、アッセイの感受性を実質的に最適化した試薬溶液中濃度を提供するために、広範囲に変わり得る。特に、試薬は、通常、溶解時に適切な濃度の試薬溶液を提供する賦形剤など、凍結乾燥した乾燥粉末として提供され得る。
【0212】
特定の実施形態では、本願結合剤(例えば抗体)は、検出可能なマーカーなどの標識部分と結合する。1個もしくは複数個の検出可能な標識が抗体と結合できる。代表的な標識部分は、特に放射線または磁気共鳴映像法技術における、造影剤(radiopaque dye)、放射線造影剤(radiocontrast agent)、蛍光分子、スピンラベル分子、酵素、または診断価値のある他の標識部分を含む。
【0213】
本開示に従った放射性標識化抗体はインビトロ(in vitro)診断用試験のために使用できる。抗体、その結合部分、プローブ、またはリガンドの特異的活性は、半減期、放射性標識の同位体純度、および標識の生物剤中への組み込まれ方に依存する。免疫学的アッセイ試験では、通常、特異活性が高い程、感受性が良好である。放射性同位体は、例えば、診断使用用のヨウ素(131Iまたは125I)、インジウム(111In)、テクネチウム(99Tc)、リン(32P)、炭素(14C)、およびトリチウム(3H)、または上記の治療用同位体の1つを含む標識として有用である。
【0214】
蛍光体および発色団で標識した生物剤は、当該分野において公知の標準部分から調製できる。抗体およびその他のタンパク質は、波長約310nmまでの光を吸収するため、蛍光部分としては実質波長310nm超(例えば、400nm超など)吸収するものを選択し得る。種々の適切な蛍光料および発色団が、参照により本明細書中で援用されるStryer, Science, 162:526 (1968)およびBrandら, Annual Review
of Biochemistry, 41:843-868 (1972)に記載されている。抗体は、参照により本明細書中で援用される米国特許第3,940,475号、同第4,289,747号、および同第4,376,110号に開示されているような従来の手順によって蛍光発色団を用いて標識できる。
【0215】
対照は、比較基準を提供する並行試料、例えば、健康な対象由来の生体試料、または同一対象の健常組織由来の生体試料であり得る。あるいは、対照は、所定の基準量または閾値量であり得る。対象が治療薬により治療中であり、治療進行が本発明の標的の発現変化によってモニタリングされている場合、対照は、治療過程の前、または間に対象から採取した生体試料由来であり得る。
【0216】
特定の実施形態では、本願の診断使用用に結合する結合剤は、結合剤(例えば、抗体)が二次結合リガンドまたは酵素との接触時に有色の生成物を生じる酵素(酵素タグ)と連結するインビトロ(in vitro)使用を意図する。適切な酵素例としては、ウレアーゼ、アルカリホスファターゼ、(西洋ワサビ)水素ペルオキシダーゼおよびグルコースオキシダーゼが挙げられる。特定の実施形態では、二次結合リガンドは、ビオチンおよびアビジンまたはストレプトアビジン化合物である。
【0217】
本発明の結合剤(例えば、抗体)は、治療薬レインを用いた治療前、中、後の、対象における標的のリン酸化状態を決定するフローサイトメトリー(FC)アッセイにおける使用のために最適化し得る。例えば、患者もしくは患畜由来の骨髄細胞もしくは末梢血液細胞も、フローサイトメトリー、ならびに様々な血液細胞種を同定するマーカー用に分析し得る。このようにして、悪性細胞の活性化状態の性質を特定的に決定し得る。フローサイトメトリーは標準的な方法に従って実施し得る。例えば、Chowら, Cytometry
(Communications in Clinical Cytometry) 46: 72−78 (2001)を参照されたい。
【0218】
あるいは、本発明の抗体は免疫組織化学(IHC)染色において、正常組織中と疾患組織中のシグナル伝達またはタンパク質活性の差を検出するために使用し得る。IHCは周知の技術に従って実施し得る。例えば、前述したAntibodies: A Laboratory Manualを参照されたい。
【0219】
本発明のペプチドおよび抗体は、他の臨床的に適切な用途、例えばビーズベースのマルチプレックスタイプアッセイ(例えば、IGEN、Luminex(商標登録)および/またはBioplex(商標登録)アッセイフォーマットなど)、または抗体アレイ型(逆相アレイ用途など)における使用のためにも最適化し得る(例えばPaweletzら, Oncogene 20(16): 1981-89 (2001)を参照されたい)。したがって、本発明の別の実施形態では、生体試料中の標的の複数の検出方法を提供し、該方法は、2種以上の本発明の結合剤の使用を含む。
【0220】
別の態様では、本願は、結合、精製、定量化やその他一般的な標的分子検出のための免疫学的アッセイに関する。したがって、様々な実施形態では、結合量は、ウェスタンブロッティング、免疫蛍光、ELISA、IHC、フローサイトメトリー、免疫沈殿、オートラジオグラフィー、シンチレーションカウンター、およびクロマトグラフィーを含むが、これらに限定されないアッセイ方法を用いて決定される。
【0221】
アッセイは、均一系アッセイでも不均一系アッセイでもよい。均一系アッセイの場合、免疫反応は、通常、本発明の抗体、標識した被検化合物、および関心ある試料に関与する。標識が発するシグナルは、標識した被検化合物に対する抗体結合時に、直接または間接的に修飾される。免疫反応およびその検出範囲は双方とも、同種の溶液中で実施する。使用し得る免疫化学的標識としては、遊離ラジカル、放射性同位体、蛍光色素、酵素、バクテリオファージ、補酵素などが挙げられる。不均一系アッセイのアプローチの場合、通常、試薬が、本発明の抗体である標本であり、検出可能なシグナルを発するために適切な方法である。上記の類似した標本を使用し得る。抗体は一般的にビーズ、プレートまたはスライドなどの支持体に固定し、および液体相中で抗原を含有する疑いのある標本と接触させる。次いで、支持体を液体相から分離し、支持体相または液体相のいずれか一方について、そのようなシグナル産生方法を用いて検出可能なシグナルを評価する。シグナルは標本における被検化合物の存在に関連する。検出可能なシグナル生成方法は、放射性標識、蛍光標識、酵素標識などの使用を含む。
【0222】
本明細書に開示した抗体は、沈殿などの公知の技術に従って、診断アッセイに適した固体支持体(例えば、ラテックスまたはポリスチレンなどの材料から形成されたビーズ、プレート、スライドまたはウェル)に結合され得る。特定の実施形態では、免疫学的アッセイは、当該分野において公知である様々なタイプの酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)およびラジオイムノアッセイ(RIA)である。組織切片を用いた免疫組織化学法による検出も特に有用である。しかしながら、そのような技術に検出が限定されず、ウェスタンブロッティング、ドットブロット法およびスロットブロット法、FACS分析なども使用し得ることは容易に理解されるであろう。様々な有用な免疫学的アッセイの工程は、例えば、参照により本明細書中で援用されるNakamuraら, Enzyme
Immunoassays: Heterogeneous and Homogeneous Systems, Chapter 27 (1987)などの科学文献に記載されている。通常、免疫複合体形成の検出は当該分野においてよく知られており、多くのアプローチの本願によって達し得る。これらの方法は放射性、蛍光、生物学的または酵素タグの検出に基づく。当然のことながら、当該分野において公知であるように、第二抗体またはビオチン/アビジンリガンド結合配置などの二次結合リガンドの使用を通してさらなる利点を見出し得る。検出に使用される抗体は、それ自体が検出可能な標識に結合し、次いで単純にこの標識を検出し得る。したがって、組成物の一次免疫複合体量が決定される。
【0223】
あるいは、一次免疫複合体中で結合している一次抗体は、抗体結合親和性を有する二次結合リガンドを用いることによって検出され得る。このような場合、二次結合リガンドは検出可能な標識と結合し得る。二次結合リガンドはしばしばそれ自体が抗体であり、したがって「二次」抗体と呼び得る。一次免疫複合体は、有効な条件下で、二次免疫複合体を形成するのに十分な時間、標識した二次結合リガンドまたは二次抗体と接触する。二次免疫複合体は、標識した二次抗体またはリガンドとの任意の非特異的結合を広範囲に洗浄して除去し、二次免疫複合体中の残りの標識を検出する。
【0224】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)は結合アッセイの1種である。ELISAの1種では、本明細書に開示した抗体は、ポリスチレンマイクロタイタープレート内ウェルなどのタンパク質の親和性を示している選択した表面上に固定される。次いで、疑わしい新生物組織試料をウェルに追加する。結合させ、洗浄して非特異的結合免疫複合体を除去後、結合標的シグナル伝達タンパク質が検出され得る。
【0225】
ELISAの別のタイプでは、新生物組織試料をウェル表面上に固定し、次いで本明細書に開示した部位特異性抗体と接触させる。結合させ、洗浄して非特異的結合免疫複合体を除去後、結合抗体が検出される。
【0226】
ELISAは、使用形態に関わりなく、被覆、インキュベートもしくは結合、非特異的結合種を取り除くための洗浄、および結合免疫複合体の検出など、特定の特徴を共通して有する。
【0227】
ラジオイムノアッセイ(RIA)は、抗体分子上の抗原結合部位のための抗原競合に依存する分析技術である。標準曲線は、同一の既知濃度の標識抗原、および様々だが既知濃度の非標識抗原をそれぞれ含有する一連の試料から収集したデータにて構成される。抗原は放射性同位体トレーサーで標識する。混合物は抗体と接触させてインキュベートする。次いで、遊離抗原を抗体から分離し、それと抗原を結合させる。次いで、γまたはβ放射線検出器などの適切な検出器を用いて、結合または遊離した標識抗原のいずれか一方、または双方の割合を決定する。本手順を、様々な既知濃度の非標識抗原を含有する幾つかの試料に対して反復し、結果を標準グラフとしてプロットする。結合トレーサー抗原率は抗原濃度関数としてプロットする。典型的には、抗原の総濃度が増大するにつれ、抗体と結合したトレーサー抗原の相対量は減少する。標準グラフを準備後、分析中の試料中抗原濃度を決定するために標準グラフを使用する。
【0228】
分析において、抗原濃度を決定すべき試料を、既知量のトレーサー抗原と混合する。該トレーサー抗原は、試料中の既知の抗原と同一であるが、適切な放射性同位体で標識されている抗原である。次いで、トレーサー含有試料を抗体と接触させてインキュベートする。次いで、試料中の残りの遊離抗原を、計測に適した検出器によって計測できる。抗体または免疫吸着剤と結合した抗原も同様に計測し得る。次いで、標準曲線から元の試料の抗原濃度を決定する。
【0229】
下記の実施例は、本発明をさらに例示するためにのみ提供しており、本明細書に添付の請求項の記載を除き、その範囲を限定することを意図するものではない。本発明は、当業者に自明な、本明細書に教示される方法の修正および変形を包含する。
【実施例】
【0230】
【実施例1】
【0231】
RmAb作製
E746-A750delまたはL858R突然変異を有するEGFR配列に適合した合成ペプチドにより、ニュージーランドウサギを免疫化した。EGFR E746-A750delの場合には、用いた免疫原のアミノ酸配列はCKIPVAIKTSPKANKE(配列番号53)であった。EGFR L858R突然変異の場合には、用いた免疫原のアミノ酸はCKITDFGRAKLLGAE(配列番号54)であった。これら両免疫原において、EGFR配列にN末端システイン残基は含まれず、むしろ、これは担体、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)に便利なドッキングポイントであることに留意されたい。したがって、免疫原の免疫原性部分は、実際にEGFR E746-A750delの場合はKIPVAIKTSPKANKE(配列番号55)、EGFR L858Rの場合はKITDFGRAKLLGAE(配列番号56)である。陽性免疫反応するウサギをウェスタンブロッティングおよび予備IHCスクリーニングによって同定し、ウサギモノクローナル調製のために選択した。新たに生成したクローン由来の上清について、免疫原ペプチドとの反応性をELISAによってスクリーニングした。
【0232】
このようにELISAによって同定したE746-A750delのEGFRに対する特異性またはEGFR L858R点突然変異に対する特異性を有する上清を、次にE746-A750delのEGFRまたはEGFR L858R点突然変異を保持することが既知である細胞から作製した細胞抽出物のウェスタンブロッティング分析によって試験した。増幅または非増幅野生型EGFR(wtEGFR)、またはEGFR突然変異E746-A750delもしくはL858Rのいずれかを発現する6株のヒト癌細胞株パネルを用いた。H3255細胞株(L858R点突然変異を有するEGFR増幅は、Dr. Lewis
Cantley (Harvard Medical
School, Boston, MA)によって提供された。H1975細胞株(EGFR L858R点突然変異)およびH1650細胞株(EGFR E746_A750del)はAmerican Type Culture Collection, Manassas, VA
(‘ATCC’))から購入した。下記の細胞株、HCC827(E746-A750delを有するEGFR増幅)、Kyse450(増幅wtEGFRを有するヒト食道扁平上皮癌の細胞株)およびKyse70(増幅を伴わないwtEGFRを有するヒト食道扁平上皮癌の細胞株)はDeutsche
Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH in Braunschweig, Germany
(‘DSMZ’)から得られた。
【0233】
ウェスタンブロッティング分析のため、培養細胞を冷1×PBSで2回洗浄し、次いで1×細胞溶解緩衝液(20mM
Tris-HCL、pH7.5、150mM NaCl、1mM Na2EDTA、1mM EGTA、1%トリトン、2.5mMピロリン酸ナトリウム、1mMβグリセロリン酸塩、1mM
Na3VO4、1μg/mLロイペプチン)中に溶解し、コンプリート、ミニ、EDTAフリープロテアーゼインヒビターカクテル錠(Complete, Mini, EDTA-free
protease inhibitor cocktail; Roche)を添加した。溶解物を超音波で分解し、14000rpmで5分間遠心した。タンパク質濃度を、クーマシータンパク質アッセイ試薬(Pierce
Chemical Co., Rockford, IL)を用いて測定した。総タンパク質の等量を8% pre-cast Tris-Glycine gels (Invitrogen)によって分解した。タンパク質は、ニトロセルロース膜にブロッティングし、標準的な方法プロトコール(例えば、前述したAusubelらを参照)に従い一晩4℃、RmAbでインキュベートした。特異的結合はHRP結合した種特異性二次抗体によって検出し、LumiGLO発現およびX線フィルム放射を用いて視覚化した。
【0234】
図1に示すとおり、E746-A750del(dEGFR)RmAbはHCC827細胞およびH1650細胞中EGFR(E746-A750del)のみを検出する一方、L858R RmAbはH3255細胞およびH1975細胞中EGFR(L858R)を検出する。これら2つの突然変異特異的抗体は、(E746-A750欠損型が生じる)エキソン19および(EGFRのL858R点突然変異が生じる)エキソン21の野生型配列を含む、2つのヒト食道扁平上皮癌の細胞株(Kyse450およびKyse70)中EGFRと反応しない。予想したとおり、対照EGFR RmAb(クローン86)は全例でEGFRと反応した(図1参照)。
【0235】
ハイブリドーマクローンを選択後、上に列挙した細胞から作製した細胞抽出物の免疫組織化学法を含むハイブリドーマによって製造した抗体上でさらなる分析を実施した。最終的に、クローンについて、フローサイトメトリーおよび免疫蛍光としてのそのような用途において、それらの標的と特異的に結合するために生じた抗体能力を試験した。特異的抗体を産生したクローンは、2009年4月10日にATCCに寄託した。E746-A750del(dEGFR)RmAbを産生するクローン(クローン6B6F8B10)およびEGFR(L858R)を産生するクローン(クローン43B2E11E5B2)は、それぞれATCC寄託番号PTA-9151およびATCC寄託番号PTA-9152を割り当てられた。
【実施例2】
【0236】
免疫細胞化学
次に、H3255、H1975、H1650、およびHCC827細胞株のスライド上で、L858R、dEGFR、および対照EGFR抗体を用いて蛍光免疫細胞化学分析を実施した。
【0237】
細胞の蛍光免疫細胞化学において、8-ウェルチェンバースライド(BD,
Franklin Lakes, NJ)上で細胞株を約70%密度まで増殖させた。細胞を4%ホルムアルデヒド(Polysciences, Warrington, PA)のPBS溶液中、室温で15分間固定し、PBSで(各10分間、3回)洗浄し、次いで5%正常ヤギ血清(Sigma-Aldrich, St.Louis, MO)の0.3%トリトンX-100(Mallinckrodt Baker, Phillipsburg, NJ)含有PBS溶液中、室温で1時間阻止した。ブロッキング溶液をチェンバーから吸引し、0.3%トリトンおよび1%BSA(American
Bioanalytical, Natick, MA)のPBS溶液中で希釈した一次抗体中、4℃で一晩細胞をインキュベートした。スライドをPBSで(各10分間、3回)洗浄し、次いで、0.3%トリトンおよび1%BSAを含むPBS中で希釈したAlexaFluor(商標登録)488結合したヤギ抗ウサギIgG二次抗体(Invitrogen, Carlsbad, CA)中、室温で1時間インキュベートした。スライドをPBS中で先と同様に洗浄し、チェンバーをスライドから除去して、Prolong Goldアンチフェードマウント媒体(Invitrogen)でカバースリップした。細胞をNikon C1共焦点顕微鏡で結像した。
【0238】
蛍光免疫および免疫組織化学(IHC)分析の双方において、Kyse70細胞およびKyse450細胞の細胞ペレットを対照として用いた(補足:IHC分析において、Kyse70細胞およびKyse450をパラフィン包埋した。以下の実施例3および図3参照)。
【0239】
図2に示すとおり、wtEGFR特異的抗体は、EGFR突然変異状態に関わらず、全6細胞株を染色した(上列)。L858R特異的抗体は、L858R点突然変異(すなわち、H1975細胞およびH3255細胞)を有する癌細胞のみ染色した(すなわち、該癌細胞のみと特異的に結合した)(図2、中央列参照)。dEGFR特異的抗体(すなわち、E746-A750del特異的抗体)は、E746_A750変異EGFR(すなわち、H1650およびHCC827細胞)を有する癌細胞のみ染色した(図2、下列)。
【0240】
したがって、L858R特異的抗体は、その変異型EGFRに特異的であり(すなわち、L858R点突然変異を有するEGFR突然変異体に特異的に結合した)、野生型EGFRまたはE746-A750欠損型を含むEGFR突然変異体のいずれとも結合しなかった。同様に、dEGFR特異的抗体は、その変異型EGFRに特異的であった(すなわち、E746-A750欠損型を含むEGFR突然変異体に特異的に結合し、野生型EGFRまたはL858R点突然変異を有するEGFR突然変異体のいずれとも結合しなかった)。
【実施例3】
【0241】
異種移植片における免疫組織化学法
実施例1に記載したウサギモノクローナル抗体の結合特異性を試験するために、ヌードマウス内ヒト癌細胞の異種移植片を調製した。
【0242】
異種移植片において、ヌード(nu/nu)マウス右大腿部(5×106〜2×107細胞/マウス)の皮下(皮下注射)にH3255、H1975、H1650、およびHCC827細胞を接種し、腫瘍を直径約10mmに至るまで増殖させた。
【0243】
免疫蛍光分析において、すべての分析をホルマリン固定パラフィン包埋ブロック上で実施した。免疫組織化学試験において、一連の4μm厚組織切片をTMAから切断した。スライドを55℃で一晩乾燥し、次いでキシレン中で脱パラフィン化し、一連の段階的エタノール濃度によって再水和化した。抗原賦活化(1mM EDTA中、マイクロ波処理で10分間沸騰)を実施した。内在性ペルオキシダーゼ活性を3%過酸化水素で10分間阻止した。非特異的抗体結合を阻止するために、5%ヤギ血清(Sigma)溶液を用い、最適には、標本を覆うために希釈した一次抗体を用いた。スライドを4℃で一晩インキュベートした。TBS-Tで各5分間、3回洗浄後、スライドを室温で30分間、標識したポリマーHRP抗ウサギ二次抗体でインキュベートした。TBS-Tでさらに3回洗浄後、基質色素原(Dakoから市販されているEnvision(商標登録)+キット)を用いてスライドを視覚化した。切片を低倍率でスキャンした。染色強度、ならびに陽性細胞率を記録した。染色強度は0〜3+で得点化し、染色強度および陽性細胞率を記録した。
【0244】
染色強度スコアは次のとおり、すなわち:0、腫瘍細胞の染色が完全に欠如または染色強度10%未満の弱い染色である場合;1+、腫瘍細胞10%超が弱く染色された場合;2+、腫瘍細胞の染色が中等度である場合;3+、腫瘍細胞の染色が強い場合、と確立した。1+、2+、および3+の腫瘍発現はdEGFRもしくはL858R EGFR抗体発現陽性と解釈し、非発現(0スコア)腫瘍は陰性と解釈した。膜または細胞質の染色分布も記録し、高倍率で検査した。表1は、染色得点系の概要を提示する。
【表1】

【0245】
図3は、野生型EGFR特異的抗体(上列)、EGFR L858R特異的抗体(中央列)およびEGFR dEGFR(すなわち、E746-A750delのことであり、しばしばdel722-726とも呼ばれる)特異的抗体を用いた、これらに限定しないが、H1975(非増幅L858R突然変異)、H3255(増幅L858R突然変異)、H1650(非増幅E746-A750del突然変異)、HCC827(増幅E746-A750del突然変異)、Kyse750(非増幅野生型EGFR)、およびKyse 450(増幅野生型EGFR)異種移植片の代表的な試料のIHC染色写真を提示する。EGFR E746-A750delシグナル配列を含み、かつEGFR del722-726シグナル配列を含まないEGFR突然変異体上でアミノ酸ナンバリングが開始するため、EGFR E746-A750del突然変異は、本明細書および科学文献においてしばしばEGFR del722-726(すなわち、残基722-726欠損型)と呼ばれることに留意されたい。
【0246】
図3に示すとおり、パラフィン包埋異種移植片では、対照および突然変異特異的抗体による適切な染色が示された。すべての細胞をwtEGFR対照抗体で標識化(すなわち、染色または結合化)した(図3上列)。恒常的に活性のあるEGF受容体によって予想されたように、シグナルは血漿膜および細胞質にとどまった。蛍光強度は、推定EGFR発現量に比例、すなわち発現増幅細胞(+amp)は低発現細胞(-amp)よりも明るいシグナルを発した。突然変異特異的抗体による染色は癌細胞においてのみ見られ、正常組織では見られず、その局在性は対照EGFR抗体染色と相関した。L858R抗体は、EGFR遺伝子増幅のためにL858R EGFR発現が高いH3255異種移植片内でL858R陽性細胞(H3255およびH1975、中央列)のみ高度に標識した(すなわち、結合した)。L858R特異的抗体結合は、L858R特異的抗体との野生型EGFR発現(Kyse450およびKyse70)細胞または欠損突然変異体(HCC827およびH1650)細胞には見られなかった。欠損型特異的抗体(すなわち、dEGFR特異的抗体)は、EGFR欠損型を発現した細胞(HCC827およびH1650)のみ標識し、該強度は、EGFR増幅を有するHCC827細胞の方が高かった(図3、下列上の中央2つのパネルを比較されたい)。野生型EGFR発現細胞(すなわち、Kyse450およびKyse70)ならびにL858R突然変異体(H3255およびH1975)細胞は、E746-A750欠損型特異的抗体によって標識されなかった(図3、下列)。
【0247】
EGFR発現量の高い組織領域内HCC827異種移植片中のL858R特異的抗体において弱い染色が観察されたことに留意されたい。これは野生型EGFR値の高い43B2抗体による交叉反応結果と思われる。同様に、EGFR E746-A750特異(6B6F8B10)抗体の弱い染色(すなわち、結合)がH3255およびH1975異種移植片で観察されたが、これはこの抗体の次善の作用濃度を用いたことによるバックグラウンド染色に起因した可能性がある。
【実施例4】
【0248】
遺伝子型を特定したヒト組織の免疫組織化学(IHC)
本明細書に記載した2つのEGFR突然変異特異的抗体(すなわち、EGFR
E746-A750特異的抗体およびEGFR
L858R特異的抗体)を、EGFR遺伝子型を特定したNSCLC患者試料上の免疫組織化学法に用いた。したがって、これらの患者試料は、IHC分析に供する前のDNA配列決定によって、EGFR突然変異状態が既知であった。
【0249】
これらの試験において、すべての分析をホルマリン固定パラフィン包埋ブロック上で実施した。NSCLCパラフィンブロックのヒト試料はpathological
department of Second Xiangya Hospital, Central South University (Changsha,
Hunan, P.R.China)によって提供された。これらの組織は組織病理学的診断を確認するためにヘマトキシリンおよびエオシンで検査し、さらなる分析のために適切な標本として選択した。野生型EGFR抗体による免疫組織化学法は、分子試験のためのEGFR陽性試料(++/+++および+++/+++)用にスクリーニングするために用いた。
【0250】
配列決定において、少なくとも50%の腫瘍細胞を含む組織領域を同定するためにホルマリン固定パラフィン包埋組織のヘマトキシリンおよびエオシン染色切片を検査した。含有する腫瘍細胞が組織の50%未満、または腫瘍組織量が限られている例は、非選択スクリーニングのために除外した。FormaPure kit (Agencourt Bioscience, Beverly, MA)を製造業者の指示書に従って使用し、ゲノムDNAを単離した。nestedポリメラーゼ連鎖反応(nested PCR)によって特異プライマーでEGFR(キナーゼ領域)のエキソン配列を増幅した。試料の分子タイプは、EGFRのエキソン19およびエキソン21のDNA配列決定によって事前に選択した。
【0251】
wtEGFR、E746-A750delおよびL858R変異EGFR抗体を有する4つの代表的、非限定的な、分子特定前NSCLC試料の免疫組織化学染色を図4に示す。この同一IHC分析は付加的な分子特定前NSCLCパラフィン試料上で実施し、これらの試料による本発明のEGFR変異体特異的抗体(すなわち、EGFR L858R(43B2E11E5B2)ウサギmAbおよびEGFR del722-726(D6B6F8B10)ウサギmAb)による染色(すなわち、結合)のIHC結果を、上表1に記載する得点系を用いてスコア化した。ケラチンは肺細胞を含むすべての上皮細胞上に存在するため、対照として、汎ケラチン特異的抗体(Cell Signaling Technology, Danvers, MA)による染色を用いた。IHC分析前にこれらの試料の遺伝子配列を決定した。表2は、IHC分析の前に得られた遺伝子配列決定結果と比較したIHC結果の得点結果を提示し、「失敗」カテゴリーは、試料由来のDNAが、取得すべき配列としては分解されすぎていたことを示す。
【表2】

【0252】
表2に示すとおり、IHC(+)であった試料の5%が、配列決定によってスクリーニングできなかった(すなわち、それらは「失敗」した)。したがって、DNA配列決定が不可能な程度まで試料のDNAが分解または損傷しており、「失敗」結果に至った場所において、IHCにより突然変異体腫瘍が検出される場合がある。試料の6.7%はIHC(+)であったが、配列分析によると野生型であった。リアルタイムPCRはこれらの試料中のEGFR突然変異(すなわち、L858Rまたはdel722-726突然変異)の存在確認に役立ち得る。最後に、試料の15%はIHC(-)かつ配列(+)であった。この所見はEGFR突然変異体の低発現量、または組織試料の質の低さに起因した可能性がある。これらの試料では、対照汎ケラチン抗体による染色は弱く、これらの組織試料はIHCにおいて良質ではなかったことを意味する。
【0253】
したがって、これらの腫瘍試料において、IHCデータとEGFR突然変異状態データ間の100%相関を観察した。
【0254】
免疫組織化学結果の解釈は個々の癌細胞における染色強度に依存するため、低癌細胞率の突然変異を有する幾つかの腫瘍試料は、変異EGFR抗体を用いたIHCによって検出できるが、直接配列決定では見落とされる。さらに、このアッセイは、配列決定に十分な高質DNAの抽出が困難である小さな生検試料由来パラフィンブロックの検査を可能とする。したがって、本明細書に記載される2つのEGFR変異体特異的抗体を用いたこの免疫組織化学アッセイは、NSCLC中の特定のEGFR突然変異を同定する簡素、迅速、感受性のある、および信頼性のあるアッセイである。wtEGFR特異的抗体が含まれる場合には、この免疫組織化学アッセイは総EGFRタンパク質濃度も測定できる。
【0255】
したがって、wtEGFRおよび変異EGFR抗体の双方によるIHC陽性腫瘍はすべての異種移植片およびNSCLC試料においてより強いEGFRタンパク質発現を示す一方、変異EGFR抗体ではIHC陰性であるが、wtEGFR抗体では陽性である場合は、E746-A750delおよびL858R点突然変異を有さないEGFR過剰発現を示す。癌(例えば、NSCLCなどの肺癌、または他の癌、特に腺癌)におけるそのような変異EGFRタンパク質の免疫組織化学法によるスクリーニングは、治療薬、例えばゲフィチニブおよびエルロチニブが奏効する患者を同定し得る。
【実施例5】
【0256】
非選択腫瘍
次に、患者試料の遺伝子型が入手不可能である場合に本発明の抗体を使用できるか否かを決定するため、事前にDNA配列分析に供されていないNSCLC腫瘍上でIHCを実施した。すなわち、これらの腫瘍試料の遺伝子型は未知であった。
【0257】
これらの試験のため、原発性NSCLC患者340例由来のパラフィン包埋腫瘍標本において4つの抗体パネルを用いたIHCによってEGFR欠損型およびEGFR L858R点突然変異の存在をスクリーニングした。これらの患者340例はNSCLCを呈していることが既知であったが、該NSCLCのEGFR遺伝子配列は決定されていなかった。抗体パネルには、パラフィンブロック組織の質を検証するため、2つのEGFR突然変異特異的抗体、すなわち、対照の野生型EGFR特異的抗体、および汎サイトケラチン特異的抗体が含まれた(ケラチンは、NSCLC肺癌細胞などすべての上皮細胞に存在し、汎サイトケラチン特異的抗体と結合している)。
【0258】
患者2例、すなわちCL761およびCL764由来の代表的なNLSCS腫瘍のIHC結果2件を図5に示す。図5に示すとおり、患者CL761由来の腫瘍試料は汎サイトケラチン特異的抗体、対照wtEGFR特異的抗体およびL858R特異的抗体では陽性染色を示したがdEGFR特異的抗体による染色では陰性であった。対照的に、患者CL764由来の腫瘍試料において、汎サイトケラチン対照EGFR、およびdEGFR抗体では陽性であったが、L858R抗体では陰性であった。
【0259】
これらのIHC分析結果の所見から、これら2個の患者腫瘍試料のDNA配列分析により、患者CL761の腫瘍におけるL858R突然変異、および患者CL764の腫瘍におけるE746-A750欠損型の存在を確認した。
【0260】
遺伝子型が未知である患者由来のNSCLC試料(すなわち、DNA分析によってEGFR遺伝子の突然変異が事前に同定されていない試料)計340個にIHCを実施し、表1に記載する得点基準を用いて得点した。これら340個のNSCLC試料は、NSCLCの病理学診断の亜群、すなわち腺癌(AC)、扁平上皮癌(SCC)、および大細胞癌(LCC)に分類した。
【0261】
これらのIHC分析結果を表3に提示する。
【表3】

【0262】
表3に示すとおり、24例(7.1%)がE746-A750欠損型抗体陽性を得点し、28例(8.2%)がL858R抗体陽性を得点した。興味深いことに、表3に示すとおり、EGFR L858RまたはdEGFR(すなわち、E746-A750)突然変異数のいずれかが最高であったNSCLC亜群は腺癌細胞であった。表3(および下表4)の腺癌はNSCLCであるが、腺癌は、結腸癌、乳癌、子宮頚癌、膵癌(例えば、ほとんどの膵癌は管腺癌である)、前立腺癌、胃癌、および食道癌を含むが、これらに限定されない癌においても発現する。
【0263】
さらに、患者52例(15.3%)が両EGFR突然変異特異的抗体陽性であった。変異EGFR陽性例84.6%に対照wtEGFR特異的抗体による中等度〜強度の染色が観察され、EGFR突然変異を有する腫瘍試料の検出において野生型EGFR特異的抗体は不適切であるという上に提示した結果を確認した。
【0264】
IHC結果を確認するため、患者244例由来の全腺癌試料ならびに少数の扁平上皮癌および大細胞癌試料を含む腫瘍標本上でEGFR遺伝子(エキソン19および21)の直接DNA配列分析を実施した。これらの結果を下表4に提示する。「失敗」カテゴリーは、これらの試料由来のDNAは、適切な配列決定を得るためには損傷または分解しすぎていたことを示すことに留意されたい。
【表4】

【0265】
記載のとおり、患者244例中51例の腫瘍試料DNAが、配列決定するには分解されすぎていた。
【0266】
表4に示すとおり、すべてのEGFR L858R突然変異が腺癌に見出され、24例中23例のEGFR
E746-A750del突然変異が腺癌に見出された。したがって、本明細書に記載したIHCアッセイは腺癌亜群に分類されるNSCLC(または別の腫瘍タイプ)を検出するために非常に有用である。
【0267】
さらに、対照EGFR抗体陽性だがIHCと直接DNA配列決定結果との間に相違があったすべての試料(試料計9個)の遺伝子型を、Sequenom質量分光分析(MS)に基づいた系によって特定した。この技術は、ホルマリン固定パラフィン包埋組織(FFPET)から得られる低質DNAの遺伝子型特定において直接DNA配列決定より精度が高いことが報告されている(Jaremkoら, Hum Mutat 25:
232-238, 2005)。表5に、IHC染色と直接DNA配列決定間に不整合を示したこれら9個の腫瘍試料のMS配列決定結果を示す。
【表5】

【0268】
表5に示した結果から、使用した異なる分析方法(すなわち、IHC染色、直接DNA配列決定、およびMS配列決定)と、下表6に提示した結果とを相関づけた。
【表6】

【0269】
表6に示すとおり、直接DNA配列決定とIHC結果間よりも、SequenomとIHC結果間において、高い相関性が見出された。本所見から、EGFR突然変異特異的IHCはEGFR直接DNA配列決定よりも正確である可能性が示唆される。
【0270】
概して、IHCによるこれら2つのEGFR突然変異検出は、直接DNA配列決定またはSequenom分析のいずれかによって52例中47例で確認された。概して、突然変異特異的抗体を使用したIHCアッセイの感受性は92%、特異性は99%と見出された。DNA配列分析により、EGFR変異体特異的抗体を用いたIHCにて陰性であった、EGFR突然変異を含有する5例がさらに同定された。しかしながら、これらの試料は対照EGFRまたは汎サイトケラチン染色のいずれか一方によるIHCで陰性を示し、これらの試料はIHCにおいて低質すぎることが示唆された。これは、PCR増幅およびDNA配列の決定は、保存状態の悪い組織が関わる例に対する突然変異検出を改善し得ることを示唆する。
【実施例6】
【0271】
配列分析
上記の方法を用いて決定したEGFR
E746-A750del(6B6F8B10(しばしばD6B6F8B10クローンまたは単に6B6クローンと呼ぶ))ウサギモノクローナル抗体重鎖のcDNAおよびアミノ酸配列を、それぞれ配列番号1および配列番号2に示す。EGFR E746-A750del(クローン6B6F8B10)ウサギモノクローナル抗体軽鎖のcDNAおよびアミノ酸配列を、それぞれ配列番号3および配列番号4に示す。EGFR L858R(クローン43B2E11E5B2)ウサギモノクローナル抗体重鎖のcDNAおよびアミノ酸配列は、それぞれ配列番号5および配列番号6に示す。EGFR L858R(43B2E11E5B2)ウサギモノクローナル抗体軽鎖のcDNAおよびアミノ酸配列は、それぞれ配列番号7および配列番号8に示す。
【0272】
カバット基準で定義される相補性決定領域(CDR)およびフレームワーク領域(FWR)は、WuおよびKabatの方法(Wu, T.T. and
Kabat, E.A. (1970) J. Exp. Med., 132, 211-250)を用いて、EGFR del722-726(6B6F8B10)およびEGFR L858R(43B2E11E5B2)ウサギモノクローナル抗体の完全長の重鎖および軽鎖配列より決定した。
【0273】
EGFR
E746-A750del(6B6F8B10)ウサギmAb領域は、下記のアミノ酸配列を有することが決定された。
重鎖の相補性決定領域(CDR)およびフレームワーク領域(FWR)

CDR1:FSFSNNDWMC(配列番号9)
CDR2:CIYGGSSIGTNYAGWAKG(配列番号10)
CDR3:DLANL(配列番号11)

FWR1:HCQSLEESGGGLVKPGASLTLTCTASG(配列番号12)
FWR2:WVRQAPGKGLEWIA(配列番号13)
FWR3:RFTISRTSSTTVALQMTSLTVADTATYFCTR(配列番号14)
FWR4:WGPGTLVSVSS(配列番号15)

軽鎖の相補性決定領域(CDR)およびフレームワーク領域(FWR):カバット基準により定義

CDR1:QSSQSVYSDWLS(配列番号16)
CDR2:EASKLAS(配列番号17)
CDR3:LASYDCTRADCLA(配列番号18)

FWR1:AQVLTQTPSSVSAAVGGTVTINC(配列番号19)
FWR2:WYQQKGGQPPRQLIY(配列番号20)
FWR3:GVPSRFSGSGSGTQFTLTINDVQCDDAATYYC(配列番号21)
FWR4:FGGGTEVVVR(配列番号22)

3197 EGFR L858R(43B2E11E5B2)ウサギmAb領域は下記のアミノ酸配列を有することが決定された。
3197 EGFR L858R(43B2E11E5B2)ウサギmAb

重鎖の相補性決定領域(CDR)およびフレームワーク領域(FWR):カバット基準により定義
CDR1:FSLNTYGVS(配列番号23)
CDR2:YIFTDGQTYYASWAKG(配列番号24)
CDR3:VDI(配列番号25)

FWR1:QCQSVEESGGRLVTPGTPLTLTCTVSG(配列番号26)
FWR2:WVRQAPGKGLEWIG(配列番号27)
FWR3:RFTISKTSSTTVDLKITSPTTEDTATYFCAS(配列番号28)
FWR4:WGPGTPVTVSS(配列番号29)

軽鎖の相補性決定領域(CDR)およびフレームワーク領域(FWR):カバット基準により定義

CDR1:QSSPSVYSNYLS(配列番号30)
CDR2:DASHLAS(配列番号31)
CDR3:LGSYDCSSVDCHA(配列番号32)

FWR1:AQVLTQTPSPVSAAVGSTVTIKC(配列番号33)
FWR2:WYQQKSGQPPKQLIY(配列番号34)
FWR3:GVPSRFSGSGSGTQFTLTISGVQCDDAATYYC(配列番号35)
FWR4:FGGGTEVVVK(配列番号36)

重鎖および軽鎖V-D-JおよびV-J配置をさらに同定した。
EGFR E746-A750del(6B6F8B10)ウサギモノクローナル抗体の重鎖および軽鎖V-D-JおよびV-J配置を下記のとおり同定した。
重鎖V-D-J配置。

V領域はVH1a3である。
HCQSLEESGGGLVKPGASLTLTCTASGFSFSNNDWMCWVRQAPGKGLEWICIYGGSSIGTNYAGWAKGRFTISRTSSTTVALQMTSLTVADTATYFCTR(配列番号37)

D領域は同定には短すぎる。
DLA(配列番号38)

J領域はJH4である。
NLWGPGTLVSVSS(配列番号39)

軽鎖V-J配置。

V領域は下記である。
MDMRAPTQLLGLLLLWLPGATFAQVLTQTPSSVSAAVGGTVTINCQSSQSVYSDWLSWYQQKGGQPPRQLIYEASKLASGVPSRFSGSGSGTQFTLTINDVQCDDAATYYCLASYDCTRADCL(配列番号40)

J領域はJK2である。
AFGGGTEVVVR(配列番号41)

EGFR L858R(43B2E11E5B2)ウサギモノクローナル抗体の重鎖および軽鎖V-D-JおよびV-J配置を下記のとおり決定した。
重鎖V-D-J配置。

V-遺伝子はVH1a1である。
QCQSVEESGGRLVTPGTPLTLTCTVSGFSLNTYGVSWVRQAPGKGLEWIG
YIFTDGQTYYASWAKGRFTISKTSSTTVDLKITSPTTEDTATYFCAS(配列番号42)

D-遺伝子は同定には短すぎる。
VDI(配列番号43)

J領域はJH4である。
WGPGTPVTVSS(配列番号44)

軽鎖V-J配置。
V領域:
MDMRAPTQLLGLLLLWLPGATFAQVLTQTPSPVSAAVGSTVTIKCQSSPS
VYSNYLSWYQQKSGQPPKQLIYDASHLASGVPSRFSGSGSGTQFTLTISG
VQCDDAATYYCLGSYDCSSVDCH(配列番号45)

J領域はJK2である。
AFGGGTEVVVK(配列番号46)
【実施例7】
【0274】
ファージディスプレイによるエピトープマッピング
ELISAプレートを0.1M NaHCO3(pH8.6)中の抗体100μg/mLで被覆した。希釈したmAb試料100μLを各ウェルに添加し、穏やかに撹拌しながら4℃で一晩インキュベートした。プレートを洗浄し、ブロッキング緩衝液(5mg/L BSA、0.02%NaN3の0.1M NaHCO3溶液(pH8.6))にて4℃で1時間インキュベートし、次いでTBSTで迅速に6回洗浄した。ファージディスプレイライブラリーPh.D.-7およびPh.D-12をNew England BioLabs (Ipswich,
MA)から購入した。該ライブラリーを100μL TBSTで2×1011に希釈し、プレートに添加し、穏やかに撹拌しながら室温で60分間インキュベートした。次いで、プレートをTBSTで10回洗浄した。結合ファージを100μL 0.2Mグリシン-HCl(pH2.2)、1mg/mL BSAで10分間溶出した。溶出液を15μL 1M Tris-HCl(pH9.1)で中和した。溶出したファージを激しく撹拌しながら37℃で4時間半、ER2738培養中で増幅した。増幅ファージを4℃、10,000rpmで10分間遠心し、次いで上清80%を未使用チューブに移すと共に、1/6体積のPEG/NaCl[20%(w/v)PEG-8000、2.5M NaCl]を4℃で一晩添加し、ファージを沈殿させた。ファージを4℃、10,000×gで20分間遠心して単離し、残存細胞片をペレット化した。上清を未使用マイクロセンチュリーフューズチューブに移し、1/6体積のPEG/NaClにて氷上で60分間、再沈殿化した。ファージを4℃で10分間遠心して単離し、200μL TBS、0.02%NaN3にて再懸濁した。単離されたファージを1分間遠心して、可溶性物質中の残渣をいずれもペレット化した。上清を未使用のチューブに移し、IPTGおよびX-gal含有LB培地プレート上で増幅ファージを滴定した。第二および第三ラウンドのバイオパンニングプロトコールは第一ラウンドと同一とした。
【0275】
EGFR L858RおよびEGFR欠損型モノクローナル抗体に使用した免疫原は、各15および16アミノ酸の長さの短いペプチドであった(実施例1参照)。これらのペプチドを、結合した抗原に優れた免疫原性を所与することから抗体産生における担体タンパク質として広く使用される複合体、高分子量タンパク質であるキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)に結合する。これら免疫原は、各モノクローナル抗体と強く結合する。5〜6アミノ酸のコアのエピトープを決定するため、New England BioLabs
(Ipswich, MA)から入手可能な2つの異なるファージディスプレイライブラリーを用いた。PhD7ライブラリーは最も特徴づけられ、すべてではないにしてもほとんどの可能な7残基配列をコードする。このライブラリーによって、より少ないクローンを抽出するが、該クローンはもう一方のライブラリーPhD12と比較して強い結合親和性を有するクローンである。PhD12は12残基配列をコードし、複数の弱い結合を形成している可能性があるクローンをより多く排除する。PhD7とPhD12の双方をスクリーニングしたEGFR E749-A750delウサギmAbにより、「TSP」(表7)は免疫原内の潜在的に重要な領域であることが示唆された。「TSP」部位は欠損部位に直接隣接している。これらの実験はペプチドELISAによって検証し得る。
【表7】

【0276】
EGFR L858RウサギmAbを用いたファージディスプレイは、PhD12ライブラリーを用いて、明らかなコンセンサス配列「TDXGR」を同定した。これらのデータを表8に要約する。これらのデータはペプチドELISAによって変わり得る。
【表8】

【0277】
表9は、2つのEGFR変異体特異的抗体のコンセンサス配列の概要を提示する。
【表9】

【0278】
ファージディスプレイライブラリーから得られるコンセンサス配列(表9)を検証するため、抗原内残基をアラニンに突然変異させ、結合に重要な変化を分析してアラニンのスキャンを実施し得る。両EGFR突然変異体抗体を15〜16アミノ酸範囲の短いペプチド配列で免疫化した。これらの抗体において、これらの免疫原の突然変異バージョンを用いたペプチドELISAによってエピトープマッピングを実施し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
E746-A750位が欠損した上皮成長因子受容体(EGFR)分子と特異的に結合する結合剤。
【請求項2】
858位のロイシンがアルギニンと置換された点突然変異を有する上皮成長因子受容体(EGFR)分子と特異的に結合する結合剤。
【請求項3】
前記結合剤が抗体である、請求項1または2に記載の結合剤。
【請求項4】
前記EGFR分子がヒト由来である、請求項1または2に記載の結合剤。
【請求項5】
前記結合剤がウサギモノクローナル抗体である、請求項3に記載の結合剤。
【請求項6】
前記結合剤が、少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含み、前記CDRは配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号16、配列番号17、および配列番号18からなる群から選択される配列を含む、請求項1に記載の結合剤。
【請求項7】
前記結合剤が、少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含み、前記CDRは配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号30、配列番号31、および配列番号32からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項2に記載の結合剤。
【請求項8】
前記結合剤が、トレオニン-セリン-プロリン配列を含むアミノ酸配列を含むエピトープと特異的に結合する、請求項1に記載の結合剤。
【請求項9】
前記結合剤が、トレオニン-アスパラギン酸-X-グリシン-アルギニン配列(式中、Xは任意のアミノ酸残基)を含むアミノ酸配列を含むエピトープと特異的に結合する、請求項2に記載の結合剤。
【請求項10】
請求項1または2に記載の結合剤をコードするポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項9に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項12】
EGFR分子異常発現の標的療法がよく奏効する癌の同定方法であり、(a)癌由来の生体試料を請求項1または2に記載の結合剤と接触させて結合量を得る工程と、(b)前記工程(a)の結果と、健常個体由来の生体試料を請求項1または2に記載の結合剤と接触させて得られる結合量とを比較し、健常個体由来の結合量と前記癌由来の結合量との差により前記療法が前記癌によく奏効する結合量を示す工程、とを含む癌の同定方法。
【請求項13】
前記結合量をウエスタンブロット、免疫蛍光、ELISA、IHC、フローサイトメトリー、免疫沈殿、オートラジオグラフィー、シンチレーションカウンター、およびクロマトグラフィーからなる群から選択されるアッセイ方法を用いて決定した請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記癌がヒト患者由来である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記癌が非小細胞肺癌(NSCLC)である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記癌が腺癌または扁平上皮癌である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記癌が肺癌、結腸癌、乳癌、子宮頚癌、膵癌、前立腺癌、胃癌、および食道癌からなる群から選択される組織タイプである、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
請求項1もしくは2の結合剤および製薬上許容可能な担体を含む組成物。
【請求項19】
請求項10のポリヌクレオチドおよび製薬上許容可能な担体を含む組成物。
【請求項20】
EGFR分子異常発現の標的療法がよく奏効する癌の患者もしくは患畜または該癌の疑いのある患者もしくは患畜の治療方法であり、前記方法が、有効量の請求項18または19の組成物を患者もしくは患畜へ投与することを含む、治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−516078(P2011−516078A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504006(P2011−504006)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【国際出願番号】PCT/US2009/002247
【国際公開番号】WO2009/126306
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(501087490)セル・シグナリング・テクノロジー・インコーポレイテツド (11)
【Fターム(参考)】