説明

癌の処置のための化合物および組成物

本発明は、癌状態の処置のための薬剤の製造における、治療的有効量の2,5-ジアジリジニル-3-ヒドロキシメチル-6-メチル-1,4-ベンゾキノン(RH1)の使用に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般に抗癌化合物の分野に関し、とりわけ、化合物2,5-ジアジリジニル(diaziridinyl)-3-ヒドロキシメチル-6-メチル-1,4-ベンゾキノン(RH1)、および癌状態の処置におけるその使用に関するが、それに限定されるわけではない。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
DT-ジアフォラーゼ(DTD)は、1958年に初めて単離され、NAD(P)H:キノン酸化還元酵素(EC 1.6.99.2)(NQO1)、ビタミンK還元酵素、フィロキノン還元酵素、メナジオン還元酵素およびニコチンアミドメナジオン酸化還元酵素を含む様々な名称で呼称されている。
【0003】
DTDは、二量体として存在するフラビンタンパク質である。サブユニットの双方は同一の大きさであり、32000ダルトンのMWを有し、2個のFAD基を有する。
【0004】
DTDは(シトクロムb還元酵素、シトクロムP450還元酵素、およびキサンチン脱水素酵素のような一電子還元酵素とは対照的に)、絶対的な二電子還元酵素であり、かつ電子供与体として補助因子NADHおよびNADPHを同様によく使用する。
【0005】
DTDは、多数の機能を遂行するが、それにはフリーラジカルの形成を回避して、組織を変異原、発癌物質および細胞障害性物質から保護する解毒段階である第二相解毒作用が含まれる。DTDはまた、(例えば、食事または環境に由来する)キノンを代謝する。具体的には、DTDは細胞障害性抗腫瘍キノンを還元的に活性化することができる。さらに、DTDは、ビタミンKの肝臓での翻訳後修飾に関与するビタミンK還元酵素として機能する。
【0006】
DTDは全身に分布し、肝臓、腎臓および胃腸管により高いレベルで分布している。
【0007】
DTDには、四種の異なるアイソフォームが存在する。特徴を最も明らかにされているアイソフォームはNQ01であり、このアイソフォームのための遺伝子は、第16染色体上に位置している。これは274残基の長さを有し、ARE(antioxidant response element)、AP1部位-XRE、CAT、TATAボックス、およびNFkB結合部位を有する。AREに対する結合は、シグナル伝達を仲介する(Faig et al. PNAS 28、 3177-82、 2000)(非特許文献1)。
【0008】
特定の腫瘍タイプに、正常組織と比較して高いレベルのDTDが見られる場合がある(Schlager et al.、 Int. J. Cancer 45、 403-409、 1990)(非特許文献2)。腫瘍タイプおよびDTDレベル比の例を、表1に示す。
【0009】
【表1】

【0010】
このように、DTDは、多くの癌組織内、特に非小細胞肺癌(NSCLC)内で過剰発現している。
【0011】
続発性組織または転移組織は、原発腫瘍と同様のDTDレベルを有することが見出されている。
【0012】
全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6156744号(特許文献1)には、2,5-ジアジリジニル-3-ヒドロキシメチル-6-メチル-1,4-ベンゾキノン(RH1)、およびRH1の特定のエステルを、肺癌、NSCLC、肝臓癌、乳癌、結腸癌、CNS癌、胃癌、膀胱癌および皮膚癌の処置に使用することが提案されている。
【0013】
特定のキノンはDNAの架橋に関与し得ることが示唆されているが、効率的なDNA架橋を促進し得る、関与する機構または構造的特徴は理解されておらず、水溶性、毒性、および生体内還元性のためのプロドラッグとしての適性を予測する方法もまた全く存在していない。
【0014】
【特許文献1】米国特許第6156744号
【非特許文献1】Faig et al. PNAS 28、 3177-82、 2000
【非特許文献2】Schlager et al.、 Int. J. Cancer 45、 403-409、 1990
【発明の開示】
【0015】
発明の概要
本発明者らは、特定のジアジリジニルベンゾキノン化合物が広範な癌状態の処置に適しており、かつこのような化合物は、任意で所定の投薬計画の一部として、および/または特定の投与形態を用いて、特定の用量レベルで患者に投与された場合に、特に有効であることを見出した。
【0016】
本発明者らは、インビボで有意なDNA架橋能力を示すだけでなく、低い毒性レベルおよび良好な水溶性を示す化合物を同定した。
【0017】
本発明のジアジリジニルベンゾキノン化合物は、化合物2,5-ジアジリジニル-3-ヒドロキシメチル-6-メチル-1,4-ベンゾキノン(本明細書においてRH1と称する)、およびそのエステルを含む。式Iにそのエステルの一般的な化学構造を示し、式IIにRH1の構造を示す。

式中、Rはベンゾイル、アセチル、ナフトイル、または保護アミノ酸であってもよい。

【0018】
本明細書においてRH1または式Iの化合物への参照は、それらの塩、具体的には、それらの薬学的に許容される塩を含む。
【0019】
本発明者らは、式Iの化合物、特にRH1がDTDにより容易に活性化されることを見出した。本発明は任意の特定の理論により限定されないが、DTDの二電子還元酵素活性がRH1を活性ヒドロキノンに還元して、強力なDNA架橋剤を生成するものと考えられる。この活性化メカニズムは、これら化合物に起因する有意なDNA架橋のレベルと組み合わされて、それらを非常に前途有望な抗癌剤としている。
【0020】
好ましくは、腫瘍内で観察されたDTDの過剰発現、およびDTDによる本発明の化合物の効率的な活性化は、化合物の活性化が腫瘍内で選択的に起こることを意味する。このことは、腫瘍それ自体を標的にすると共に、活性化キノンが腫瘍に局在化するため、増大したレベルの活性化キノンが、腫瘍を取り囲み得る正常な組織に対して害を及ぼさないという利点を有している。
【0021】
高いDTDレベルを有する腫瘍は、本発明の化合物、特にRH1で処置された際に、それに相応したより高いDNA架橋レベルを示すことが好ましい。
【0022】
従って、RH1は、生体内還元により活性化される薬物であり、DTDの優れた基質であることが見出されている。DTDはRH1をヒドロキノンに還元し、強力な架橋剤を生成する。RH1は、現在、Christie Hospital、Manchester、UKにてCancer Research-UKの第I相試験下にある(PH1/089)。
【0023】
本発明の化合物は、RH1を含めて、これらがDTDにより代謝されて活性型に転換されるという意味で、プロドラッグとして考えることができる。従って、本発明のいくつかの局面は、腫瘍細胞内にて転換により活性化されて腫瘍を処置できる活性物質になり得る、そのようなプロドラッグに関する。これは腫瘍細胞の選択的な殺傷を提供し得る。
【0024】
DTDによるキノンの還元は、自動酸化による活性酸素種、または転位による反応性アルキル化種のいずれかの生成をもたらし得る。
【0025】
本発明の化合物、特にRH1は、DNAを架橋可能であることが見出されている。好ましくは、累積的なDNA損傷をもたらし得る有意な架橋(例えば、40〜95%の範囲内)が引き起こされる。例えば、本発明の化合物、または例えばRH1を含む本発明の組成物は、投与されてDNAに少なくとも10%の架橋、より好ましくは少なくとも20%の架橋、更により好ましくは少なくとも30%の架橋、更になお好ましくは少なくとも40%の架橋、および最も好ましくは少なくとも50%の架橋を引き起こし得る。例えば、RH1は、末梢血リンパ球のDNAに30%迄の架橋を引き起こすことが見出されている。
【0026】
所与の物質または分子の活性は、その活性をアッセイすることにより測定し得る。例えば、架橋活性は、以下に説明するコメット(Comet)-X試験を用いて、架橋をアッセイすることによって測定できる。
【0027】
本発明の化合物は、水溶性であり、かつ低い毒性を有することが適当である。
【0028】
本化合物に対応する塩、好ましくは薬学的に許容される塩を、調製、精製、および/または操作することが都合良いか、または望ましいと思われる。塩は、水溶性であることが好ましい。薬学的に許容される塩の例は、Berge et al.、 1977、 「Pharmaceutically Acceptable Salts」、 J. Pharm. Sci.、 Vol.66、 pp.1-19に述べられている。
【0029】
従って、本発明の局面は、本発明の化合物の任意の公知の薬学的に許容される塩を含み得る。
【0030】
従って、本発明の化合物、具体的には2,5-ジアジリジニル-3-ヒドロキシメチル-6-メチル-1,4-ベンゾキノン(RH1)を指す、本発明の化合物、組成物、使用、および方法は、化合物、具体的には2,5-ジアジリジニル-3-ヒドロキシメチル-6-メチル-1,4-ベンゾキノン(RH1)の塩、好ましくは薬学的に許容される塩を含み得る。
【0031】
本発明の更なる局面は、式Iのジアジリジニルベンゾキノン化合物、またはその塩を含む薬学的組成物、具体的には、2,5-ジアジリジニル-3-ヒドロキシメチル-6-メチル-1,4-ベンゾキノン(RH1)を含む薬学的組成物を提供する。好ましくは、このような組成物は、一つまたは複数の薬学的に許容される担体、補助剤、または希釈剤を含む。化合物は、薬学的に許容される任意の製剤中に調剤され得る。そのような製剤には、液剤、散剤、クリーム、乳剤、丸剤、トローチ、坐薬、懸濁液、溶液などが含まれ得る。他の賦形剤を添加してもよく、それらは当業者により容易に同定される。好ましくは、化合物は水溶液に可溶性であり、かつ安定であり、グラム量で調製することができる。例えば、製剤は、錠剤型であってもよく、または例えば適切な液状担体と組み合わせた注射に適したものであってもよい。
【0032】
本発明の局面に従った薬剤および薬学的組成物は、局所、非経口、静脈内、筋内、腫瘍内、くも膜下腔内、眼内、皮下、経皮、経口、および鼻腔内を含むが、それらに限定されるわけではない複数の経路による投与用に調剤され得る。薬剤および組成物は、液状または固体形態、例えば注射用組成物または錠剤型で調剤され得る。液状製剤は、通常適切な液状担体と組み合わせて、ヒトまたは動物の身体の選択された領域へ注射により投与されるよう調剤され得る。
【0033】
本発明の局面は、癌状態の処置に関する。そのようなものとして、患者の癌状態を処置する方法であって、本発明の化合物の治療的有効量を該患者に対して投与する段階を含む方法を提供する。このように、癌を有する、ヒト患者を含む患者を処置する方法を提供する。
【0034】
処置は、式Iの化合物、具体的には、2,5-ジアジリジニル-3-ヒドロキシメチル-6-メチル-1,4-ベンゾキノン(RH1)、または2,5-ジアジリジニル-3-ヒドロキシメチル-6-メチル-1,4-ベンゾキノン(RH1)を含む組成物を投与することにより得る。
【0035】
適切には、化合物またはその薬学的に許容される塩は、組成物の一部であり、かつその組成物が投与される。
【0036】
化合物または組成物の好ましい投与経路は、局所、非経口、静脈内、筋内、腫瘍内、くも膜下内、眼内、皮下、経皮、経口、および鼻腔内から選択された一つまたは複数を含み得る。化合物、例えばRH1の特定の製剤は、使用される投与経路に対応するように選択され得る。
【0037】
処置は、一回または複数回のボーラス投与、および/または注入投与を含み得る。
【0038】
注入、例えば静脈内注入は、必要な用量を注入するに十分な所与の時間にわたって、例えば10〜30分間、実行され得る。
【0039】
用量
化合物の治療的有効量は、所望の治療効果(例えば、腫瘍細胞の殺傷)をもたらすのに十分な任意の量または投与量であり得、処置される癌状態の状態、タイプ、および位置、ならびに患者の大きさおよび状態等の要因に一部依存し得る。用量は単回投与として、または例えば数週間の間に分割される数回投与として与えられ得る。用量は、所定の処置プログラムの一部として投与され得る。
【0040】
治療的有効量は、投与後の所与の時間において、30〜120nMの範囲内、より好ましくは50〜90nMの範囲内のRH1の血中濃度、血漿濃度または血清濃度を患者内で生成する量であり得る。更により好ましくは、治療的有効量は、投与後の所与の時間において、30〜35nM、35〜40nM、40〜45nM、45〜50nM、50〜55nM、55〜60nM、60〜65nM、65〜70nM、70〜75nM、75〜80nM、80〜85nM、85〜90nM、90〜95nM、95〜100nM、100〜105nM、105〜110nM、110〜115nM、115〜120nM、120〜125nM、または125〜130nMの一つから選択される、RH1の血中濃度、血漿濃度または血清濃度を患者内で生成する量であり得る。所与の時間は、投与後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59もしくは60分の一つ、あるいは投与後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35もしくは36時間の一つまたは複数であり得る。血清サンプルは、フィブリン塊および血液細胞を除去した後に得られる血液の液状部分を含み得る。
【0041】
血中濃度、血漿濃度または血清濃度は、注入の直後(即ち、注入の終了時、t0)、あるいはt0後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59もしくは60分のいずれか、またはt0後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23もしくは24時間のいずれかにて測定され得る。
【0042】
治療的有効量は、40μg/m2/日〜350μg/m2/日の範囲内にある量であり得る。従って、好ましい用量は、少なくとも40μg/m2/日、少なくとも80μg/m2/日、少なくとも135μg/m2/日、少なくとも200μg/m2/日、少なくとも265μg/m2/日、少なくとも350μg/m2/日、少なくとも460μg/m2/日、少なくとも470μg/m2/日、少なくとも610μg/m2/日、少なくとも810μg/m2/日、少なくとも870μg/m2/日、少なくとも1000μg/m2/日、少なくとも1080μg/m2/日、少なくとも1430μg/m2/日、少なくとも1905μg/m2/日、もしくは少なくとも2000μg/m2/日の一つまたは複数を含み得る。これらの値は、例えば200〜2000μg/m2/日のような、用量範囲の始点および終点を形成し得る。
【0043】
好ましい用量範囲は、40〜2000μg/m2/日、80〜1000μg/m2/日、135〜1000μg/m2/日、200〜1000μg/m2/日、または470〜870μg/m2/日を含み得る。更により好ましい用量は、

の一つまたは複数、あるいはこれらの値の一つが用量範囲の始点を形成し、もう一つの値が終点を形成する用量範囲、例えば40〜50μg/m2/日、50〜60μg/m2/日、60〜70μg/m2/日、70〜80μg/m2/日、80〜90μg/m2/日、90〜100μg/m2/日、100〜110μg/m2/日、110〜120μg/m2/日、120〜130μg/m2/日、130〜140μg/m2/日、140〜150μg/m2/日、150〜160μg/m2/日、160〜170μg/m2/日、170〜180μg/m2/日、180〜190μg/m2/日、190〜200μg/m2/日、200〜210μg/m2/日、210〜220μg/m2/日、220〜230μg/m2/日、230〜240μg/m2/日、240〜250μg/m2/日、250〜260μg/m2/日、260〜270μg/m2/日、270〜280μg/m2/日、280〜290μg/m2/日、290〜300μg/m2/日、300〜310μg/m2/日、310〜320μg/m2/日、320〜330μg/m2/日、330〜340μg/m2/日、340〜350μg/m2/日、350〜360μg/m2/日の一つまたは複数を含み得る。
【0044】
投薬間に、所定の時間間隔を設けてもよい。この時間間隔は、RH1または本明細書に記載する他の化合物の所望の濃度が平均的に、患者の血液中で維持されることを確実にするために提供され得る。好ましい時間間隔は、

の任意の一つまたは複数であり得る。または、好ましい時間間隔は、

の任意の一つまたは複数であり得る。
【0045】
投薬間の時間間隔は、変更することが可能である。例えば、選択された投与量を数日間(例えば、1、2、3、4、5、6または7日間のいずれか)毎日(即ち、24時間の間隔で)投与し、その後薬物を全く投与しない(即ち「休薬期間」)更なる時間間隔(例えば、1、2、3、4、5、6または7日間)を提供する投与スケジュールを提供し得る。「休薬期間」後の薬物の各投与期間は、処置の一周期を含み得る。日常的な投与は、処置を達成するために望ましい任意数の周期を有するように提供され得る。例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10周期が提供され得る。次いで、患者は処置から排除されるが、更なる処置が必要と考えられた場合、治療は勿論再開され得る。
【0046】
癌の全タイプを含む任意の癌状態の処置が提供され得る。いくつかの局面にて、DT-ジアフォラーゼ(DTD)レベルが上方制御された、および/またはDTDが過剰発現した癌状態の処置が提供され得る。いくつかの局面にて、処置されるべき腫瘍は固形腫瘍であり得る。
【0047】
癌状態は、任意の望ましくない細胞増殖(または望ましくない細胞増殖により現れる任意の疾病)、新生物、もしくは腫瘍であるか、または望ましくない細胞増殖、新生物、もしくは腫瘍のリスクの増大、もしくは素因であり得る。癌状態は癌であり得、かつ良性または悪性の癌であり得、かつ原発性もしくは続発性(転移性)であり得る。新生物または腫瘍は、細胞の任意の異常成長または増殖であり得、任意の組織内に位置し得る。組織の例は、結腸、膵臓、肺、子宮、胃、腎臓、精巣、皮膚、血液またはリンパ液を含む。
【0048】
このような癌タイプの例は、肺癌、結腸癌、NSCLC、胃癌、結腸直腸癌、膵臓癌、子宮内膜癌、頭部癌、頸部癌、乳癌、白血病、黒色腫、腎細胞癌、腎臓癌、卵巣癌、前立腺癌、精巣癌、直腸癌、咽喉癌、舌癌、胃癌および腸癌を含む。一つの好ましい構成において、癌状態は、肺新生物であるか、またはNSCLCであり得る肺癌の一形態、もしくはその発症に関与する腫瘍である。
【0049】
処置のために選択された癌状態は、従来の化学療法または放射線療法による処置に対して耐性(難治性)であることが証明されているものであり得る。癌状態は、従来の処置が存在しないものであり得る。
【0050】
癌状態を有する、ヒト患者を含む患者の処置方法を提供する。処置は、本発明に従った化合物または組成物、好ましくは2,5-ジアジリジニル-3-ヒドロキシメチル-6-メチル-1,4-ベンゾキノン(RH1)または2,5-ジアジリジニル-3-ヒドロキシメチル-6-メチル-1,4-ベンゾキノン(RH1)を含む組成物の投与(例えば、注射、経口等による)により実施され得る。
【0051】
新生物組織と正常組織との間のDTD発現の差異により、薬物が腫瘍部位で活性化し、正常組織に対する毒性が最小となることが好ましい。
【0052】
転移組織内の高いDTDレベルは、これらの組織を処置のための良好な標的とする。従って、本発明のいくつかの局面は、転移組織の処置を含む。
【0053】
処置される患者は、任意の動物またはヒトであり得る。患者はヒトではない動物であってもよいが、ヒト患者がより好ましい。患者は、雄、または雌であり得る。
【0054】
第一医薬用途
関連する局面において、本発明はヒトまたは動物の身体の医学的処置方法に使用されるRH1もしくは式Iの化合物、またはそれらの薬学的に許容される塩を提供する。
【0055】
医学的処置方法は、癌状態の処置であることが好ましい。
【0056】
関連する局面において、本発明は、患者がDTDの過剰発現を示すことが公知の状態を有する、ヒトまたは動物の身体の医学的処置方法に使用されるRH1もしくは式Iの化合物、またはそれらの薬学的に許容される塩を提供する。
【0057】
第二医薬用途
関連する更なる局面において、本発明は、癌状態を処置するための薬剤の製造における、RH1もしくは式Iの化合物、またはそれらの薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0058】
本発明のもう一つの局面は、本明細書に述べるような、DTDの細胞内過剰発現、および/または、非癌細胞と比較して癌細胞内で増大したDTD活性により特徴付けられる癌状態を処置するための薬剤の製造における、RH1もしくは式Iの化合物、またはそれらの薬学的に許容される塩の使用に関する。
【0059】
本発明のもう一つの局面は、(a)好ましくは薬学的組成物として、および任意で適切な容器内に、および/または適切な包装と共に提供される化合物、ならびに(b)使用説明書、例えば化合物/組成物をどのように投与するか、ならびに/または投与すべき用量および投薬の間の時間間隔を説明し得る使用説明書を含むキットに関する。適切な投薬量、および投薬の間の時間間隔は本明細書中に説明される。
【0060】
本発明は、記載される局面および好ましい特徴の組み合わせを含むが、そのような組み合わせが明らかに許容不可能である場合、または明白に回避される場合を除く。
【0061】
付随する図面を参照して本発明の局面および態様を実施例を用いて説明する。当業者には更なる局面および態様が明らかとなる。本文において言及される全文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0062】
発明の詳細な説明
本発明者らが企図する、本発明を実施するための最良の形態の具体的な詳細を、例として以下に説明する。本発明はこれらの具体的な詳細に限定されずに実施し得ることが、当業者には明らかである。
【0063】
上述したように、癌の処置のために複数のキノンが示唆されており、それらのうちいくつかは本発明者らにより、それらの架橋剤としての適切性を評価するため、および毒性作用を評価するために試験されている。これら試験の結果を、表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
試験した最初の生体内還元性薬物は、NSCLCに対する化学療法で従来使用されているマイトマイシンCであった。高レベルのDTDを有するNSCLC細胞株由来の異種移植片は、低レベルのDTDを有するSCLC細胞株由来の異種移植片と比較して、抗腫瘍キノンマイトマイシンCの細胞障害作用により感受性であることが見出された。しかしながら、これはDTDの比較的不良な基質であり、かつpH依存性である。用量制限毒性(DLT)は、骨髄抑制であることが見出された。
【0066】
RH-1はDTDの良好な基質であり、かつ水溶性であることが見出された。実際、RH-1は、マイトマイシンCの225倍の水溶性を有する。
【0067】
RH-1(2,5-ジアジリジニル-3-ヒドロキシメチル-6-メチル-1,4-ベンゾキノン)の第I相治験
RH-1は、NAD(P)H:キノン受容体酸化還元酵素(NQ01;DT-ジアフォラーゼ、DTD)によって活性化される。DTDは、多くの場合、肺、結腸、肝臓および乳房の腫瘍内で過剰発現している。RH-1は、Christie Hospital、UKにて第I相試験下にある。この試験の薬物動態(PK)要件は、LC-MSを用いた血清中のnMレベルのRH-1を検出するアッセイを要した。ヒト血漿からのRH-1の抽出および定量化が確認され、検出限界1ng/mlに到達した。RH-1 PKを計算して、薬物投与量と曲線下面積との間に直線的な関係を確立した。クリアランス値は、試験した最大の薬物投与量の際でさえ飽和可能であるようには思われなかった。図1に、薬物用量決定試験の結果を示す。RH-1の血漿半減期は、これまでに分析した患者サンプルにおいて2〜12分である。
【0068】
単一細胞ゲル電気泳動コメットアッセイの修正版であるコメット-Xは、個々の細胞内のDNA架橋を特異的に検出し、治験用途のために確認されている。9人の患者をRH-1で処置して、処置1日目および5日目の両方で注入前および注入後の時点より単離したPMBC(末梢血リンパ球)を、コメット-Xアッセイに供した(図2)。得られたデータから、累積的なDNA損傷は、5日間の注入期間全体を通してPBMC内に発生し、5日目迄に有意なDNA架橋(30%)をもたらすと思われる(図3)。試験で使用した他のPD(pharmacodynamic)アッセイは、DTDレベルおよび活性の評価、ならびにNQ01遺伝子のRFLP遺伝子型決定を含む。
【0069】
RH1試験は、従来の処置で難治の、組織学的に証明された固形腫瘍を有する患者、または従来の処置法が存在しなかった患者に対して、RH1を投与することを伴った。これらの患者のWHO一般状態は、0または1であった。WHO一般状態とは、患者の健康/活動の全体的なレベルの指標である。WHO一般状態0は、患者が完全に活動的であり、制限なく通常の全活動を遂行できることを意味する。WHO一般状態1は、患者が身体的に激しい活動を制限されているが、歩行可能であり、例えば軽い家事、事務作業のような、軽いか、または座業的な性質の仕事は遂行できることを意味する。
【0070】
RH1は、投与量増加計画に従って、5日間、毎日のスケジュールで静脈投与された。処置は21日周期で反復された。投与量増加計画は、用量制限毒性を確立する試みのために使用された。予測された毒性は、骨髄抑制、嘔吐、腎臓毒性、および局所注射部位の炎症を含む。各周期にて、安全性および忍容性がモニターされた。各2周期の後に、RECIST基準を使用して抗腫瘍反応を評価した。
【0071】
第I相治験は、質量スペクトルによるPK、コメット-XによるDNA架橋、制限酵素断片長多型(RFLP)による患者の遺伝子型、および(DCPIPによる)DTDレベルについて確認されたアッセイを要求した。その後のアッセイはIHC、WBおよびPCRについて確認される。
【0072】
12人の患者がこの試験に登録した。腫瘍タイプは、NSCLC、結腸直腸癌および胃癌を含む。患者のデータを、下の表3に示す。
【0073】
【表3】


【0074】
最初の4人の患者は、処置関連の毒性を有さなかった。患者5は、グレードIの血小板減少、およびグレードIの腎臓障害を有した。周期1の1日目および5日目に採取した血漿サンプルの薬物動態学的分析では、約6分間の半減期を有する、検出可能なレベルの薬物が認められた。注入によりRH1に曝露された患者のリンパ球を、DNA鎖間架橋を検出するコメット-Xアッセイを用いて分析した。図3に、結果を示す。
【0075】
図3に示すように、5日目の全患者からのコメット-Xアッセイの統計的分析は、1日目と比較して有意に多量の架橋を示している。周期1の1日目および5日目に採取した血漿サンプルの薬物動態学的分析は、血液からのクリアランスに関して約6分間の半減期を有する、検出可能なレベルの薬物を示している。ピークレベルは、投与量の増加に伴い、17〜113nMの範囲にわたる。これらの投与量レベルは、インビトロで有意な生物活性をもたらすレベルと一致する。
【0076】
コメットアッセイ
これは単一細胞ゲル電気泳動アッセイであり、個々の細胞内のDNA損傷の直接的な視覚化および定量化のための顕微鏡電気泳動技術として、1984年に最初に記載された(Ostling & Johanson、1984)。
【0077】
元の技術は、DNA鎖の切断(dsb)のみ検出可能であったため、DNA架橋を測定するよう変更されて(「Retardation of radiation-induced DNA migration used as a surrogate measurement of cross-linking」 Ward et al. Biochem. Pharmacol. 5、 459-64、 1997)、「コメット-Xアッセイ」として公知である。
【0078】
コメット-Xのデータの例を、図2に示す。DNA架橋の形成は、DNAテールの遅延を引き起こす。RH1の投与量の増加に伴い、より遅延が大きくなる。
【0079】
コメットアッセイは、単一細胞内のDNA切断を検出する高感度な方法である。細胞をアガロース内に埋め込んで、顕微鏡スライド上に展開する。溶解および除タンパク質後、細胞を高pH(12.5)でアルカリ巻き戻しに供する。DNAはDNAの一本鎖切断および二本鎖切断が生じた箇所で、弛緩し巻き戻る。次に、細胞を最終的に顕微鏡電気泳動に供し、その間、弛緩した損傷したDNAは核から離れて移動して、顕微鏡下で視覚化した際に伝統的なコメット形となる。このDNAの移動は、DNAが、RH1のような薬物によって鎖間架橋に供された場合に遅延する。この試験で用いたコメット-Xアッセイでは、患者の注入前からの非薬物処置リンパ球対照をγ線に供し、各細胞内に一定数のDNA切断を導入する。この処置によって、コメット像のテール内のDNAのパーセンテージ(%)として定量化された、電気泳動下での一定量の移動がもたらされる。注入によってRH1に曝露された患者のリンパ球を回収して、対照である注入前リンパ球と同一線量のγ線を照射する。RH1により生成した鎖間架橋は、電気泳動中、DNAの移動を遅延させ、コメットのテール内には、照射のみの対照と比較して少ないDNAが存在すると予想される。
【0080】
今までに、12人の患者がRH1処置を受け、処置の1日目および5日目の両方の注入前および注入後の時点で、末梢血リンパ球を単離した。これらのリンパ球を上述したコメット-Xアッセイに供し、照射後にコメットのテール内に存在するDNAの量を測定した。患者サンプルを処理する度に、内部QCサンプルを泳動した。分析を容易にするために、データを曝露時間(5〜10分間の短い曝露、40〜120分間の中間の曝露、および4〜24時間の長い曝露)、ならびに投与量コホート、(1)40〜135μg/m2、(2)200〜326μg/m2、(3)410〜810μg/m2、および(4)1080〜1905mg/m2の範囲にプールした。
【0081】
プールした全患者に関するデータは、処置1日目または5日目のいずれの低投与量コホートでもDNA架橋を示さなかった(図7B)。実際、DNA架橋%を計算すると、負の値に達し、薬物により、おそらく酸化還元サイクルまたは酸化ストレスにより、更なる鎖の切断が起きていることが示唆される。
【0082】
しかしながら、5日目の結果は、全時点の、特に後の(8時間、24時間)サンプルにてDNA架橋の形跡を示している(図3および図7B)。患者において、分布ピークはテール内に70〜80%DNAを示し、これは照射された対照の分布と同様である。しかしながら、5日目迄にPBLC集団は、テール内で60〜70%DNAにピークを示し、低投与量の内部対照と同様の低いレベルの架橋を示唆している。5日目の全患者に対するコメットの統計的分析は、1日目に測定されたものに対し有意差を示す(p=0.002、T検定)。
【0083】
中間投与量コホートは、1日目に、特に後の(4時間、24時間)サンプルで、および5日目を通してDNA架橋の形跡を示した。曝露の長さに関しては、スチューデントT検定分析は、1日目対5日目で第一および第二投与量グループ間に有意差を全く示さないが、より長い4〜24時間の曝露時点では、有意性を僅かに下回る値(p=0.06)を記録する。対照的に、投与量コホートの分析では、第一および第二投与量コホートを比較した場合に、1日目と5日目のサンプル間で有意差(p<0.05)を示すが、より高い投与量コホート間では差異は見られない。
【0084】
鎖切断型のDNA損傷は、低投与量コホートでは最初の(1日目)処置の全時点で生じるように思われる。この鎖切断は、得られた負の架橋値から推測される。コメット-Xアッセイは、照射段階を組み入れて、DNA内に一定数の鎖切断を導入する。その結果、有意な強力な鎖間架橋の不在下では、更なる鎖切断が照射段階に付加されると考えられる。これらの切断の原因は明らかではないが、薬物作用、即ち酸化還元サイクルに直接関連した反応、または処置によって活性化される一般的なストレス応答経路に由来する反応のいずれかの結果であり得る。この効果は、RH1の投与量が増大するにつれて有意に減少し、5日目迄に、中間および高投与量コホートでは完全に消失する。これまでに得られたデータから、5日間の注入期間にわたり累積的にDNA損傷がPBMC内に発生して、5日目迄に有意なDNA架橋(30%)がもたらされるように思われる。しかしながら、最も高いコホート(1080〜1095mg/m2)では、架橋の程度は15〜20%に下降する。このグループの患者では、高投与量のRH1がPBMCの最も影響を受けた集団を枯渇させ、中度に損傷した細胞をそのまま残す可能性がある。実際、これらのコホートの3人のうち2人の患者の単離されたPBMC数は、以前に観察されたものと比較して少なかった。修復が実行された可能性もあるが、5日目の24時間後、ならびに8日目、15日目および21日目のサンプルの分析では、有意な修復の形跡は殆ど示されなかった。コメット-Xアッセイは、処置を受けた最高投与量コホートにおける皮膚生検外傷に対し有効性を示すことができた。
【0085】
試験における患者からのコメットデータは、PKパラメータ、他のPD結果、毒性および応答データと相関していた。
【0086】
以前の実験からのプールされたPBLを、5、10、25、50および100nMのRH1で、37℃にて2時間処置し、かつ非薬物処置サンプルも存在した。サンプルを15および20Gyで照射した。
【0087】
図1に、DNA架橋パーセンテージと、RH1の測定濃度との相関を示す。用量反応曲線は、RH1濃度が50nMまで上昇するに従い、DNA架橋が増大することを示している。
【0088】
図7Bは、RH1の投与量範囲に関する、経時的なDNA架橋パーセンテージを示す。
【0089】
このアッセイを、治験にて薬物動態学的エンドポイントとして使用することへの関心が増している。
【0090】
このアッセイは、PBLおよび腫瘍内のDNA架橋を探すために、ならびにこの発見を毒性および応答結果と相関づけるために用いられた。
【0091】
制限酵素断片長多型(RFLP)アッセイ
機能的DTDを有さないBE細胞内にNQ01多型が同定されている(Traver et al. Cancer Res. 52、797-802、1992)。NQ01遺伝子上の609位に類似塩基置換(CからT)を含む多型を引き起こすと考えられる一塩基多型(SNP)は、プロリンからセリンへの置換を招き、従ってエクソン4を欠失させる。エクソン4はキノン基質をコードしており、従ってこのことは活性DTDが発現されないことを意味する。発現した活性DTDは、安定性が遙かに低く(FAD結合親和性を低下させる酵素立体構造内の変化が存在する)、1.2時間以内にUPPにより破壊される(正常な酵素について18時間であることと比較されたい)。
【0092】
NQ01遺伝子プロモーター内の欠失変異誘発により、NQ01の発現および誘導を制御する、抗酸化剤応答配列(ARE)、異物応答配列、およびAP2配列を含むいくつかのシスエレメントが同定された。
【0093】
SNPは、白人の4%、アジア人の20%に存在する(Kesley et al. Br. J. Cancer 76、852-4、1997)。SNPの発生率は、特定の癌内で増大している。SNPを有する患者は、ベンゼンおよびキノンの毒性に感受性である。
【0094】
多型を有する患者は試験から除外されなかったが、毒性および有効性を分析する際、それらの患者の状態を知っている必要がある。
【0095】
それにも関わらず、SNPを有する患者の処置は、化合物がle還元酵素によっても活性化されるため、依然として可能であり得る。更に、ヘテロ接合体は中間の活性を有するため、処置は可能であり得る。
【0096】
RFLPアッセイを用いて多型を検出した。このアッセイは、DNAを全血から単離する工程、Genespec顕微分光光度計(1.6-2.1)で定量化する工程、およびPCRにより増幅する工程を含んでいた。増幅されたDNAはHinF1部位にて消化され、臭化エチジウムを用いてゲル電気泳動を実施した。HinF1部位は、点突然変異により作製された。
【0097】
10人のNSCLC患者の各々に関して、PCRおよびDNA消化を4回繰り返した。
【0098】
内部対照はH460(野生型)、SKOV3(ヘテロ)、およびMDA-468(ホモ)であった。シーケンサーソフトウエアを使用してフォワードおよびリバースプライマーをマッピングした。図5に、10人のnsclc患者サンプル、ならびに3つの内部基準、Sl(野生型)、S2(ヘテロ)、およびS3(ホモ)のゲルを示す。サンプル1、2、3、5および9は、野生型、サンプル4、6、7および8はヘテロ、ならびにサンプル10はホモと一致した。これらの配列はDNA配列決定により確認した。ヒトNAD(p)H:キノン酸化還元酵素遺伝子のヌクレオチド配列は、NCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)からアクセッション番号AH005427(M81596.1 GI:808928)の下で入手可能である。
【0099】
サンプルから抽出した12人の患者のDNAを、確認したRFLPアッセイを用いて分析した。このアッセイの結果および遺伝子型決定を、図8Aおよび図8Bに示す。5個のサンプルが、ゲノム配列中の5138位のC-T転移(SNP)についてヘテロ接合であることが見出され(Jaiswal AK.Human NAD(P)H:quinone oxidoreductase (NQ01) gene structure and induction by dioxin. Biochemistry. 1991 Nov 5;30(44):10647-53、gene bankアクセッション番号AH005427)、一方、8個のサンプルがホモ接合の野生型であることが見出された。
【0100】
2,6-ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)アッセイ
DCPIPアッセイを用いて、機能的DTDのレベルを評価した。DCPIPは青色であり、補助因子NADPHを介してDTDによって還元されて無色溶液となる。色の消失の割合は、DTD活性に比例する。DTDは、ジクマロールの添加により特異的に阻害される。従って、アッセイがジクマロール存在下に実施される場合、残存する活性は全て一電子還元酵素によるものである。DTDの活性は、全活性から一電子活性を引くことにより計算される。
【0101】
図6に、DCPIPアッセイを概略的に示す。
【0102】
腫瘍標本中の機能的DTDレベルの測定結果は、ウエスタンブロット法、免疫組織化学(IHC)、および逆転写PCR法(RT-PCR)と相関していた。
【0103】
継続中の研究
14人の患者が、研究に採用された。
【0104】
患者007は、投与量レベル7に登録された。これまでに毒性の形跡が認められている。結果は疾病の安定化が可能であり得ることを示している。薬物動態学的データは一致している。これまでの結果により、DNA架橋の増大はRH1投与量の増大に伴い起こることが示唆される。遺伝子型および生検データが待たれている。
【0105】
RH1の化学合成
RH1(2,5-ジアジリジニル-3-ヒドロキシメチル-6-メチル-1,4-ベンゾキノン)は、以下のように合成し得る。
【0106】
撹拌している2-ヒドロキシメチル-5-メチル-1、4-ベンゾキノン(10g、65.8mmol)のエタノール溶液(250ml)に、N2下にて0℃でアジリジン(6.8ml、5.66g、131.6mmol)を加えた。20分後、溶液を室温に上昇させて、更に5時間撹拌した。次いで、溶媒を真空下で約100mlに減少させ、次に氷上で冷却した。得られた沈殿物を濾過し、氷冷エタノール(50ml)で洗浄した。溶媒を約50mlに減少させ、再度冷却および濾過することによって更に生成物を得ることができた。合わせた収量は暗赤褐色結晶2.813gであった。(18.3%、m.p. 178〜9℃);

【0107】
RH1は非常に高純度(>99%)で容易に合成される。RH1は、水性溶液中に容易に溶解する(リン酸緩衝生理食塩水中の溶解度は、25℃で>0.5mg/ml)。RH1溶液は非常に安定であり、RH1のリン酸緩衝液(0.1M、pH=7)中の半減期は、25℃で2日間を越える。RH1の遊離ヒドロキシル基は、薬物動態学にてより短い半減期をもたらすその水溶性の主な要因となっている。
【0108】
ベンゾイルRH1
RH1のベンゾイルエステル(3,6-ジアジリジニル-5-メチル-1,4-ベンゾキノン)は、以下のように合成し得る。
【0109】
RH1(50mg、0.21mmol)、安息香酸(30mg、0.24mmol)、DCC(60mg、0.29mmol)およびDMAP(10mg、0.08mmol)のDCM溶液(10ml)を、24時間撹拌した。T.l.cは全RH1が反応したことを示し、溶媒を真空下で除去した。次いで残留物を、溶離液として石油エーテル40:60/酢酸エチル(3:1→2:1)を用いてシリカカラムを通し、赤色固体を得た。

【0110】
アセチルRH1
アセチルRH1(2-アセトキシメチル-3,6-ジアジリジニル-5-メチル-1,4-ベンゾキノン)は、以下の方法に従って合成し得る。
【0111】
撹拌しているRH1(40mg、0.17mmol)のピリジン溶液(2ml)に、無水酢酸(200μl、216mg、2.1mmol)を加えた。7時間後、反応混合物を水(20ml)中に注ぎ、エーテルで抽出した。合わせた有機画分を乾燥し(Na2SO4)、溶媒を真空下で除去した。得られた固体を、溶離液としてクロロホルム:メタノール(24:1)を用いてシリカカラムを通し、赤色沈殿物を得た。

【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】ヒトリンパ球内のRH1薬物用量決定結果のグラフを示す。このグラフは、コメット-Xアッセイにより測定した、RH1濃度(nM)に対するDNA架橋のパーセンテージ(%)を示す。最適なDNA架橋は、50〜100nMのRH1の範囲内に示される。
【図2】例としてコメット-Xアッセイの結果を示す。
【図3】試験1日目および5日目の、コメット-Xアッセイにより測定した、5人の患者の末梢血リンパ球(PBL)中のDNA架橋%のグラフを示す。T1=投与前、T2=投与から5分後、T3=投与から10分後、T4=投与から20分後、T5=投与から40分後、T6=投与から1時間後、T7=投与から2時間後、T8=投与から4時間後、T9=投与から8時間後、T10=投与から10時間後。
【図4】それぞれ40、80、135、200および265μg/SqMの投与量のRH1を与えられた5人の患者におけるRH1の薬物動態学的データを示す。患者のRH1血漿濃度(pg/μl)対時間(分)を示す。
【図5】RFLPアッセイの一部として実施したゲル電気泳動の結果を示す。
【図6】DCPIPアッセイの概略図を示す。
【図7A】コメット-Xアッセイに供されたPBL QC標準の代表的な画像を示す。(I)対照、(II)照射、低投与量RH1(10nM)、(III)照射+低投与量RH1(50nM)、(IV)照射+高投与量RH1。RH1による架橋は、照射により誘導されたコメット「テール」の大きさを減少させる。
【図7B】RH-1処置後の1日目および5日目に、患者1〜12にて観察されたDNA架橋を示す。
【図8】(A)患者1〜12のNQ01遺伝子型を示す。QCサンプルは、代表的な遺伝子型である。(B)患者1〜12のNQ01遺伝子型の表を示す。
【図9】患者1〜12におけるRH1の薬物動態学的、および薬力学的データを示す。P1D1=患者1、1日目。
【図10】患者1〜12におけるRH1の薬物動態学的、および薬力学的データを示す。(A)患者1〜4、(B)患者5〜8、(C)患者9〜12。P1D1=患者1、1日目。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌状態の処置のための薬剤の製造における、治療的有効量の2,5-ジアジリジニル(diaziridinyl)-3-ヒドロキシメチル-6-メチル-1,4-ベンゾキノン(RH1)の使用。
【請求項2】
治療的有効量のRH1は、RH1の投与直後である時間t0に、患者の血液中で1nM〜200nMの範囲内のRH1濃度を生成するものである、請求項1記載の使用。
【請求項3】
治療的有効量のRH1は、RH1の投与直後である時間t0に、患者の血液中で30nM〜120nMの範囲内のRH1濃度を生成するものである、請求項1記載の使用。
【請求項4】
治療的有効量のRH1は、RH1の投与直後である時間t0に、患者の血液中で、50nM〜90nMの範囲内のRH1濃度を生成するものである、請求項1記載の使用。
【請求項5】
治療的有効量のRH1は、RH1の投与直後である時間t0に、患者の血液中で、40nM〜45nM、45nM〜50nM、50nM〜55nM、55nM〜60nM、60nM〜65nM、65nM〜70nM、70nM〜75nM、75nM〜80nM、80nM〜85nM、もしくは85nM〜90nMの一つまたは複数から選択されるRH1濃度を生成するものである、請求項1記載の使用。
【請求項6】
治療的有効量は、40μg/m2/日〜2000μg/m2/日の範囲内にある、請求項1記載の使用。
【請求項7】
治療的有効量は、40〜50μg/m2/日、50〜60μg/m2/日、60〜70μg/m2/日、70〜80μg/m2/日、80〜90μg/m2/日、90〜100μg/m2/日、100〜110μg/m2/日、110〜120μg/m2/日、120〜130μg/m2/日、130〜140μg/m2/日、140〜150μg/m2/日、150〜160μg/m2/日、160〜170μg/m2/日、170〜180μg/m2/日、180〜190μg/m2/日、190〜200μg/m2/日、200〜210μg/m2/日、210〜220μg/m2/日、220〜230μg/m2/日、230〜240μg/m2/日、240〜250μg/m2/日、250〜260μg/m2/日、260〜270μg/m2/日、270〜280μg/m2/日、280〜290μg/m2/日、290〜300μg/m2/日、300〜310μg/m2/日、310〜320μg/m2/日、320〜330μg/m2/日、330〜340μg/m2/日、340〜350μg/m2/日、350〜360μg/m2/日の一つまたは複数から選択される、請求項1記載の使用。
【請求項8】
癌状態の処置を必要とする患者の癌状態を処置する方法であって、治療的有効量の2,5-ジアジリジニル-3-ヒドロキシメチル-6-メチル-1,4-ベンゾキノン(RH1)を、該患者に投与する段階を含む方法。
【請求項9】
化合物は、該化合物を含む薬学的組成物として投与される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
請求項10に記載の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体、補助剤、または希釈剤を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
治療的有効量は、RH1の投与直後である時間t0に、患者の血液中で1nM〜200nMの範囲内のRH1濃度を生成するものである、請求項8〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
治療的有効量は、RH1の投与直後である時間t0に、患者の血液中で30nM〜120nMの範囲内のRH1濃度を生成するものである、請求項8〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
治療的有効量は、RH1の投与直後である時間t0に、患者の血液中で50nM〜90nMの範囲内のRH1濃度を生成するものである、請求項8〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
治療的有効量は、RH1の投与直後である時間t0に、患者の血液中で40nM〜45nM、45nM〜50nM、50nM〜55nM、55nM〜60nM、60nM〜65nM、65nM〜70nM、70nM〜75nM、75nM〜80nM、80nM〜85nM、もしくは85nM〜90nMの一つまたは複数から選択されるRH1濃度を生成するものである、請求項8〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
治療的有効量は、40μg/m2/日〜350μg/m2/日の範囲内にある、請求項8〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
治療的有効量は、40〜50μg/m2/日、50〜60μg/m2/日、60〜70μg/m2/日、70〜80μg/m2/日、80〜90μg/m2/日、90〜100μg/m2/日、100〜110μg/m2/日、110〜120μg/m2/日、120〜130μg/m2/日、130〜140μg/m2/日、140〜150μg/m2/日、150〜160μg/m2/日、160〜170μg/m2/日、170〜180μg/m2/日、180〜190μg/m2/日、190〜200μg/m2/日、200〜210μg/m2/日、210〜220μg/m2/日、220〜230μg/m2/日、230〜240μg/m2/日、240〜250μg/m2/日、250〜260μg/m2/日、260〜270μg/m2/日、270〜280μg/m2/日、280〜290μg/m2/日、290〜300μg/m2/日、300〜310μg/m2/日、310〜320μg/m2/日、320〜330μg/m2/日、330〜340μg/m2/日、340〜350μg/m2/日、350〜360μg/m2/日の一つまたは複数から選択される、請求項8〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
以下を含む、キット:
(a)2,5-ジアジリジニル-3-ヒドロキシメチル-6-メチル-1,4-ベンゾキノン(RH1)を含む薬学的組成物、および
(b)癌状態の処置における該組成物の使用説明書であって、投与されるべき適切な投薬量、および任意で投薬の間の時間間隔を指示する説明書。
【請求項18】
投薬量が、RH1の投与直後である時間t0に、患者の血液中で1nM〜200nMの範囲内のRH1濃度を生成するものである、請求項17記載のキット。
【請求項19】
投薬量が、RH1の投与直後である時間t0に、患者の血液中で30nM〜120nMの範囲内のRH1濃度を生成するものである、請求項17記載のキット。
【請求項20】
投薬量が、40μg/m2/日〜350μg/m2/日の範囲内にある、請求項17記載のキット。
【請求項21】
癌状態がDTD活性を示すものである、前記請求項のいずれか一項記載の使用、方法またはキット。
【請求項22】
癌状態においてDTD活性および/または発現が上方制御されている、前記請求項のいずれか一項記載の使用、方法またはキット。
【請求項23】
癌状態は固形腫瘍である、前記請求項のいずれか一項記載の使用、方法またはキット。
【請求項24】
癌状態はヒトの患者内に存在する、前記請求項のいずれか一項記載の使用、方法またはキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B−1】
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【図7B−2】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【公表番号】特表2007−536363(P2007−536363A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−512337(P2007−512337)
【出願日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【国際出願番号】PCT/GB2005/001804
【国際公開番号】WO2005/107743
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(500069552)キャンサー リサーチ テクノロジー リミテッド (4)
【Fターム(参考)】