説明

癌の検出法

【課題】癌に対する鋭敏性に優れた癌マーカーを見出し、これを基にした癌の検出方法と癌検出用キットを提供すること。
【解決手段】体液検体における、DLD(dihydrolipoamide dehydrogenase)の蛋白質の全部若しくは一部、あるいは、当該蛋白質の全部若しくは一部に対する抗体の検出を行い、当該蛋白質量あるいは抗体量に応じて増加する検出値が、標準の検出値よりも大きな値である場合、若しくは、標準では検出されないにもかかわらず検出された場合に、これらを被験者における癌の存在又は癌への進行の即時的な若しくは経時的な指標とする、癌の検出方法、並びに、本検出方法を行うための癌検出用キット、を提供することにより、上記の課題を解決し得ることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の検出方法と、当該方法に基づく癌検出用キットに関する発明である。より具体的には、特定の生体関連蛋白質、あるいは、当該生体関連蛋白質の自己抗体を検出することにより、癌の診断を行い、さらに、癌治療の予後のモニタリングや、抗癌剤に対する感受性のスクリーニングを行うことが可能な癌の検出方法と、当該方法に基づく癌検出用キットに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
癌を征圧するために、営々と努力がなされており、その治療法は進歩を続けている。しかしながら、依然として癌は死亡原因の上位を占めており、最も深刻な疾患の一つであることには全く変わりはない。癌の治療のために最も重要な要素は、早期の発見に尽きることも全く変わっておらず、そのために数多くの癌の診断方法が提供されている。
【0003】
癌診断の主要な方法として、いわゆる癌マーカーによる診断が挙げられる。これは、癌の存在により、血液検体や尿検体等の体液検体中の特定の蛋白質が、増減、出現、消失又は変質することを捉えて、これらを指標とすることにより癌を検出する方法である。
【0004】
特に、癌に伴い増加する体液中の蛋白質を指標として用いる形態が広く知られている。すなわち、種々の癌患者の体液中に、多くの種類の細胞性蛋白質が増加して存在することが知られており[Gold P. et al.,1965, J.Exp.Med.121:439-462(非特許文献1);Gold P. et al.,1965, J.Exp.Med.121: 467-481(非特許文献2);Bast RC.Jr.et al.,1983,N.Engl.J.Med.309: 883-887(非特許文献3); Barry MJ.,2001,N.Engl.J.Med.344:1373-1377(非特許文献4)]、このような癌患者における細胞性蛋白質のレベル上昇により、当該細胞性蛋白質の体液検体における定量値又は定性結果を、癌の存在の指標(癌マーカー)として用いられている。例えば、前立腺特異抗原(PSA)の血清レベルの上昇は、ヒト前立腺癌存在の指標として一般的に使用されている。
【0005】
また、最近になって、「自己抗体」を癌マーカーとして用いる試みがなされている。自己免疫疾患や心血管系疾患では、明らかな症状を示す以前に、正常または修飾された細胞性蛋白質に対する自己抗体が、患者自身により生産され得ることが知られている。これに加えて、種々の癌患者においても、多くの細胞内及び表面抗原に対する抗体が同定されており、ヒトの癌に対する液性免疫応答について報告されている[Gourevitch et al., 1995, Br.J.Cancer 72:934-938(非特許文献5); Yamamoto et al., 1996, Int.J.Cancer, 69:283-289(非特許文献6); Stockert et al., 1998, J.Exp.Med. 187:1349-1354(非特許文献7); Gure et al., 1998, Cancer Res. 58:1034-1041(非特許文献8)]。例えば、体細胞のp53遺伝子の変化は、影響を受けた患者の30‐40%に液性免疫応答を引き起こすことが知られている(Soussi,1996,Immunol.Today 17:354-356:非特許文献9)。また、抗p53抗体の検出が癌の診断に先行することも報告されている[Lubin et al., 1995, Nat.Med. 7:701-702(非特許文献10); Cawley et al., 1998, Gastroenterology 115:19-27(非特許文献11)]。また、米国特許第5405749号公報(特許文献1)においては、癌による網膜疾患自己抗原のスクリーニング法及び自己抗原に対する自己抗体に関する患者血清の試験方法が開示されている。さらに、腫瘍細胞骨格蛋白質の相対的合成速度の増加が、白血病細胞の表面、変異原及びEpstein-Barrウイルスにより形質転換したリンパ球の表面において観察されたことが報告されている(Bachvaroff, R.J. et al.,1980, Proc. Natl. Acad. Sci. 77:4979-4983:非特許文献12)。
【0006】
現在まで確認されている液性免疫応答を引き起こす、癌由来の抗原のほとんどは、変異遺伝子の産物ではなく、種々の抗原及び腫瘍に過剰発現している遺伝子産物を含んでいる(Old and Chen,1998,J.Exp.Med.187:1163-1167:非特許文献13)。ただし、個別抗原に対する液性応答が、特定種類の癌患者のみに認められる理由は明らかとはなっていない。
【特許文献1】米国特許第5405749号公報
【非特許文献1】Gold P. et al.,1965,J.Exp.Med.121:439-462
【非特許文献2】Gold P. et al.,1965,J.Exp.Med.121: 467-481
【非特許文献3】Bast RC.Jr.et al.,1983,N.Engl.J.Med.309: 883-887
【非特許文献4】Barry MJ.,2001,N.Engl.J.Med.344:1373-1377
【非特許文献5】Gourevitch et al.,1995, Br.J.Cancer 72:934-938
【非特許文献6】Yamamoto et al.,1996,Int.J.Cancer,69:283-289
【非特許文献7】Stockert et al., 1998, J.Exp.Med. 187:1349-1354
【非特許文献8】Gure et al.,1998, Cancer Res.58:1034-1041
【非特許文献9】Soussi,1996,Immunol.Today 17:354-356
【非特許文献10】Lubin et al.,1995,Nat.Med.7:701-702
【非特許文献11】Cawley et al.,1998,Gastroenterology 115:19-27
【非特許文献12】Bachvaroff,R.J.et al.,1980, Proc.Natl.Acad.Sci.77:4979-4983
【非特許文献13】Old and Chen, 1998, J.Exp.Med. 187:1163-1167
【非特許文献14】James C.,1973, J. Bacteriol., 115:1-8
【非特許文献15】Maeda T. et al., 1991, Hepatol.6:994-999
【非特許文献16】Tanaka H., et al., 1995, Liver 15:121-125
【非特許文献17】Tontsch D. et al., 2000, Clin. Exp. Immunol. 121:270-274
【非特許文献18】Wu Y.-Y. et al., 2002, Clin. Exp. Immunol. 128:347-352
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、本発明が解決するべき課題は、鋭敏性に優れた癌マーカーを見出し、これを基にした癌の検出方法と癌検出用キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、癌マーカーについての検討を行った結果、DLD(dihydrolipoamide dehydrogenase)が非常に有用な癌マーカーになり得る生体内蛋白質であることを見出し、本発明を完成した。当該DLDは、例えば、「自己抗体」、又は、「非抗体蛋白質」を、癌マーカーとして用いることができる。
【0009】
すなわち、本発明は、体液検体における、DLD(dihydrolipoamide dehydrogenase)の蛋白質の全部若しくは一部、あるいは、当該蛋白質の全部若しくは一部に対する抗体の検出を行い、当該蛋白質量あるいは抗体量に応じて増加する検出値が、標準の検出値よりも大きな値である場合、若しくは、標準では検出されないにもかかわらず検出された場合に、これらを被験者における癌の存在又は癌への進行の即時的な若しくは経時的な指標とする、癌の検出方法(以下、本検出方法ともいう)、並びに、本検出方法を行うための癌検出用キット(以下、本検出用キットともいう)、を提供する発明である。
【0010】
「体液検体」とは、文字通り、ヒトの体液そのもの、又は、体液に適切な処理を施して提供される検体を意味するものであり、典型的には、血液検体、さらに、リンパ液、腹腔水、胸水、尿、だ液等を挙げることができる。これらの中でも最も好適なものは、血液検体であり、血液検体としては、血清若しくは血漿が適切なものとして挙げられ、最も適切な血液検体として、血清が挙げられる。「抗体」とは、実質的には、癌に関連して体液検体において認められる、上述した「自己抗体」を意味するものであり、クラスやサブクラスには全く限定されない。
【0011】
本検出方法の検出対象となる癌は、特に限定されない。具体的には、子宮癌、卵巣癌、卵管癌、外陰癌、子宮肉腫等が例示できる。これらの中でも、子宮癌(子宮頸癌又は子宮体癌)は、本発明の検出対象として好適であり、特に、子宮頸癌の検出に適している。子宮頸癌は、子宮頸部扁平上皮癌又は子宮頸部腺癌に分類されるが、本発明では、双方を「子宮頸癌」とする。
【0012】
子宮癌における近年の傾向を述べれば、子宮頸癌は、罹患率、死亡率共、若年層で増加傾向にあり、また子宮体癌は、年齢に関係なく増加傾向にある。子宮癌検診では、子宮頸癌の細胞診のみを行う場合が多く、子宮体癌の検診を併せて行うことは少ない。さらに、日本国における子宮頸癌検診の受診率は欧米に比べると低いのが現状である。子宮癌は、他の癌と同様に、早期に発見された場合の治療成績が良好であるため、高感度で正確な診断法の確立、検診受診率の向上が現在の課題となっている。そのためには、生体組織検査の他に、検査法が簡便である体液における腫瘍マーカー検査が極めて有用である。しかしながら、既存の腫瘍マーカーは特異性と感度が十分とはいえない。
【0013】
本検出方法は、その検出対象が、(1)体内で産生されたDLDに対する「自己抗体」である場合、すなわち、上記の本検出方法において、検出対象として、「体液検体における、DLDの蛋白質の全部若しくは一部に対する抗体」が選択される場合(本検出方法1ともいう)、あるいは、(2)体内に産生された「DLDそのもの」(非抗体蛋白質)である場合、すなわち、上記の本検出方法において、検出対象として、「体液検体における、DLDの蛋白質の全部若しくは一部」が選択される場合(本検出方法2ともいう)、に大別される。また、本検出用キットも同様に、DLDの自己抗体にかかわる本検出用キット1と、DLDそのものにかかわる本検出用キット2に大別される。
【0014】
(A)本検出方法1
本検出方法1における「自己抗原蛋白質」、すなわち、検出対象となる自己抗体の抗原となる蛋白質は、上述したように、生体由来の蛋白質であるDLD(dihydrolipoamide dehydrogenase)である。なお、ここで「蛋白質」は、アミノ酸のみがペプチド結合してなるものの他に、これを主鎖として、糖鎖、リン酸基、メチル基、アセチル基等により修飾されているものも含まれることとする。特に、癌の自己抗原となる蛋白質は、このような修飾蛋白質である可能性が比較的高く、血液等の体液検体中の自己抗体の抗原決定基が、これらの修飾分子を含む場合もあり得る。
【0015】
DLD(dihydrolipoamide dehydrogenase)は、ピルビン酸の代謝やTCA回路にかかわっていること、さらに、アミノ酸の代謝にもかかわっていることが知られている(James C.,1973, J. Bacteriol., 115:1-8(非特許文献14))。疾患との関係ではDLDに対する自己抗体が原発性胆汁性肝硬変やリウマチ性心疾患、C型肝炎ウイルス感染症で上昇することが知られている(Maeda T. et al., 1991, Hepatol.6:994-999(非特許文献15); Tanaka H., et al., 1995, Liver 15:121-125(非特許文献16); Tontsch D. et al., 2000, Clin. Exp. Immunol. 121:270-274(非特許文献17); Wu Y.-Y. et al., 2002, Clin. Exp. Immunol. 128:347-352(非特許文献18))。 しかしながら、DLD自己抗体とこれらの疾患の発症との関係は不明である。また、DLDの癌との関連性については全く報告されていない。
【0016】
また、DLD遺伝子の塩基配列(配列番号1)、及び、DLD蛋白質のアミノ酸配列(配列番号2)は、それぞれ公開されている(GenBank Accession No. J03620)。
【0017】
本発明において、上記の自己抗原蛋白質の全部又は一部は、本検出方法1を行う上で、必須の要素として用いられる。なお、当該蛋白質の全部とは、文字通り、公開されている当該蛋白質の全アミノ酸配列が含まれることを意味するものであり、前述したように、当該全アミノ酸配列を一部に含む当該全蛋白質の修飾体も含まれる。また、当該蛋白質の一部とは、公開されている当該蛋白質の全アミノ酸配列の一部が欠失し、置換され、又は、異種のアミノ酸配列が挿入されている改変蛋白質のことを意味する。本発明においては、癌により体液検体に存在する自己抗体が特異的に結合する蛋白質であれば、「自己抗原蛋白質の全部又は一部」に該当することとする。なお、このようなアミノ酸配列の改変を、蛋白質の本質的な抗原性を変更せずに行うことは、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)の間で既に認識されていることであり、当該改変を行うことに、当業者としての特別な努力は必要とされるものではない。
【0018】
本発明における自己抗原蛋白質の由来は、特に限定されるものではないが、DLDが微量蛋白質であることを考慮すると、天然物からの抽出物ではなく、遺伝子工学的に製造される組換え蛋白質であることが、自然であり、かつ、好適である。この組換え蛋白質の製造は、常法によって行うことが可能であり、例えば、公開された上記の自己抗原蛋白質をコードする遺伝子配列の情報に基づき、遺伝子増幅用プライマーを作出し、当該増幅用プライマーを基に、PCR法等の遺伝子増幅方法を、例えば、ヒトゲノムDNA、癌細胞のゲノムDNA、mRNA等を鋳型として行い、これにより得られる遺伝子増幅産物で、細菌、昆虫細胞、哺乳動物細胞等から選ばれる宿主細胞を形質転換して、当該形質転換体から産生される所望の自己抗原蛋白質を、常法の精製手段により精製することにより得ることが可能である。また、この際に、必要に応じて、種々のアミノ酸の改変手段を遺伝子レベルで行い、上述した改変蛋白質を製造することも可能である。なお、血液等の体液検体中の自己抗体の抗原決定基に修飾分子が含まれる可能性を考慮すると、上記の宿主細胞は、哺乳動物細胞又は昆虫細胞であることが好適である。
【0019】
本検出方法1は、被験者の体液検体に、DLDの蛋白質を接触させることにより、当該体液検体中の自己抗体と対応する自己抗原蛋白質が、抗原抗体反応により結合する。そして、当該結合を検出することにより、当該体液検体中の癌の指標となる自己抗体の存在を、定量的に又は定性的に見出すことができる。本検出方法1は、体液検体中の自己抗体を検出可能な態様である限り、特に、その具体的な検出手法は限定されず、固相法を選択することも、バッチ法を選択することも可能であるが、一般的には固相法を用いることが好適である。具体的に行うことが可能な方法としては、ウエスタンブロット法、放射免疫測定法、ELISA等の酵素免疫測定法、免疫沈降測定法、沈降反応、ゲル拡散測定法、ラテックス凝集法、比濁法、補体結合測定法、免疫放射定量測定法、フローサイトメトリー法、Luminex等を用いた多重測定法、マイクロチップ法、蛍光免疫測定法、蛋白A免疫測定法等を例示することができる。
【0020】
検出シグナルは、特に限定されず、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の発色性酵素(EIA、ELISAによる);フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、Cy3、フィコエリトリン等の蛍光色素;ルシフェリン、ルシフェラーゼ、エクオリン等の発光色素;又は、放射性同位体(RIAによる)等を必要に応じて選択可能である。具体的には、シグナル要素は、これらの検出シグナルが標識された抗ヒト抗体を挙げることができる。また、自己抗原蛋白質を担持したラテックス粒子を、体液検体内の自己抗体量に応じて凝集することにより変化する濁度を検出するためのシグナル要素とすることもできる。また自己抗原蛋白質を標識してリバースサンドイッチ法等で自己抗体を検出することも可能である。
【0021】
この体液検体におけるDLDに対する陽性シグナルが検出された場合、すなわち、体液検体中において、検出対象となる自己抗体量に応じて増加する検出値が、標準の検出値よりも大きな値である場合、若しくは、標準では検出されないにもかかわらず検出された場合には、被験者における癌のリスクが高い状態であることが示される。「癌のリスクが高い」とは、即時的指標として考える場合、すなわち、はじめての癌に関する検診を行う過程において、本検出方法1又は本検出用キット1を適用する場合に、既に、癌に罹患していること、若しくは、前癌状態である可能性が高いことを意味するものである。また、経時的指標(モニタリング指標)として考える場合、すなわち、既に、手術や化学療法等の癌の治療を行った患者において、本検出方法1又は本検出用キット1を適用する場合に、癌の再発や悪化が予見又は検出されること、さらには、抗癌剤の効果が認められないこと、等を意味するものである。
【0022】
本検出用キット1は、少なくとも、DLDの自己抗原蛋白質を必須の要素として含有する、本検出方法1を実施するための癌検出用キットである。
【0023】
(B)本検出方法2
本検出方法1が、DLDの自己抗体の測定を行って癌を検出することを主題とするのに対し、本検出方法2は、生体内のDLD蛋白質そのもの、すなわち、体液検体等に存在する「自己抗原蛋白質」そのものの測定を行って、これを指標にして癌を検出することを特徴とする。よって、検出対象となる生体内のDLD蛋白質は、アミノ酸のみがペプチド結合してなるものの他に、これを主鎖として、糖鎖、リン酸基、メチル基、アセチル基等により修飾されているものも含まれる。
【0024】
本検出方法2に用いられるDLD蛋白質に対する抗体(モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体)を得るための前提条件として、適切な免疫抗原を選択して用いることが必要である。本発明においては、免疫抗原として、組換えDLD蛋白質を用いることが好ましい。当該組換えDLDは、既に知られている上記のDLD遺伝子の塩基配列を基にして、常法、例えば、PCR法等の遺伝子増幅法を、ヒトのゲノムDNAに直接施すことにより、所望するDLD遺伝子を入手することが可能である。
【0025】
すなわち、ゲノムDNAを鋳型とし、DLD遺伝子の5’末端側と3’末端側の配列を含むDNA断片をプライマーとして、PCR法等の遺伝子増幅法により、DLD遺伝子を大量に増幅して入手することもできる。
【0026】
さらに、ホスファイト−トリエステル法(Ikehara,M.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,81,5956(1984)) 等の、通常公知の方法を用いて、DLD遺伝子を化学合成することも可能であり、このような化学合成法を応用したDNAシンセサイザーを用いて、DLD遺伝子を合成することもできる。
【0027】
上述のようにして入手され得るDLD遺伝子を用いて、組換えDLD蛋白質を一般的な遺伝子組換え技術に従って製造し、抗体の免疫抗原とすることができる。
【0028】
より具体的には、DLD遺伝子が、発現可能な形態の遺伝子発現用ベクターに、DLD遺伝子を組み込み、この遺伝子発現用ベクターの性質に対応する宿主に、この組換えベクターを導入して形質転換し、この形質転換体を培養等することにより、所望するDLDを製造することができる。
【0029】
抗体の免疫抗原としては、上述のようにして得られるDLDの全部又は一部を用いることができる。また、例えば、DLDの一部を抗原決定基として用いる場合のように、用いるDLDが小分子量の場合には、必要に応じてハプテンに結合したDLDを免疫抗原とすることも可能である。
【0030】
抗体を製造するために、上述のようにして得られる免疫抗原で免疫される動物も、特に限定されるものではなく、マウス、ラット、ウサギ等を広く用いることが可能であり、細胞融合に用いる骨髄腫細胞との適合性を考慮して選択することが望ましい。
【0031】
免疫は一般的方法により、例えば上記免疫抗原を免疫の対象とする動物に静脈内、皮内、皮下、腹腔内等で投与することにより行うことができる。より、具体的には、上記免疫抗原を所望により通常のアジュバントと併用して、免疫の対象とする動物に、2週間程度毎に、上記手法により数回投与し、ポリクローナル抗体、あるいは、モノクローナル抗体製造のための免疫細胞、例えば免疫後の脾臓細胞を得ることができる。
【0032】
モノクローナル抗体を製造する場合、この免疫細胞と細胞融合する他方の親細胞としての骨髄腫細胞としては、既に公知のもの、例えばSP2/0−Ag14,P3−NS1−1−Ag4−1,MPC11−45,6.TG1.7(以上、マウス由来);210.RCY.Ag1.2.3(ラット由来);SKO−007,GM15006TG−A12(以上、ヒト由来)等を用いることができる。
【0033】
上記免疫細胞とこの骨髄腫細胞との細胞融合は、通常公知の方法、例えばケーラーとミルシュタインの方法(Kohler,G. and Milstein,C.,Nature,256,495(1975))等に準じて行うことができる。
【0034】
より具体的には、この細胞融合は、通常公知の融合促進剤、例えばポリエチレングリコール(PEG)又はセンダイウイルス(HVJ)等の存在下において、融合効率を向上させるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を必要に応じて添加した通常の培養培地中で行い、ハイブリドーマを調製する。
【0035】
所望のハイブリドーマの分離は、通常の選別用培地、例えばHAT(ヒポキサンチン,アミノプテリン及びチミジン)培地で培養することにより行うことができる。すなわち、この選別用培地において目的とするハイブリドーマ以外の細胞が死滅するのに十分な時間をかけて培養することによりハイブリドーマの分離を行うことができる。このようにして得られるハイブリドーマは、通常の限界希釈法により目的とするモノクローナル抗体の検索及び単一クローン化に供することができる。
【0036】
目的とするモノクローナル抗体産生株の検索は、例えばELISA法,プラーク法,スポット法,凝集反応法,オクタロニー法,RIA法等の一般的な検索法に従い行うことができる。
【0037】
このようにして得られるDLD蛋白質に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培地で継代培養することが可能であり、さらに液体窒素中で長時間保存することもできる。
【0038】
ハイブリドーマからのモノクローナル抗体の採取は、ハイブリドーマを常法に従って培養して、その培養上清として得る方法や、適合性が認められる動物に当該ハイブリドーマを投与して増殖させ、その腹水として得る方法等を用いることができる。
【0039】
なお、インビトロで免疫細胞をDLD蛋白質又はその一部の存在下で培養し、一定期間後に上記細胞融合手段を用いて、この免疫細胞と骨髄腫細胞とのハイブリドーマを調製し、抗体産生ハイブリドーマをスクリーニングすることでモノクローナル抗体を得ることもできる(Reading,C.L.,J.Immunol.Meth.,53,261(1982);Pardue,R.L.,et al.,J.Cell Biol.,96,1149(1983))。
【0040】
上記のようにして得られるモノクローナル抗体は、更に塩析,ゲル濾過法,アフィニティクロマトグラフィー等の通常の手段により精製することができる。
【0041】
また、ファージディスプレイ法に例示されるような遺伝子工学的な手法を用いてDLDに特異的な反応性を有する人工抗体を得ることもできる(McGafferty J. et al., 1990, Nature 348:552-554; Clackson T. et al., 1991, Nature 352:624-628)。
【0042】
このようにして得られるモノクローナル抗体は、DLDに特異反応性を有する抗体である。なお、この「DLDに特異反応性を有する」とは、モノクローナル抗体が、少なくとも、ヒトのDLDに対しては交差反応性を示すという意味である。
【0043】
このようにして得られるDLD蛋白質に対する抗体を、必要に応じて標識物質で標識して、本検出方法2等において用いることができる。
【0044】
当該標識物質は、その標識物質単独で又はその標識物質と他の物質とを反応させることにより、検出可能なシグナルをもたらす標識物質であり、具体的には、例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ,アルカリホスファターゼ,β−D−ガラクトシダーゼ,グルコースオキシダーゼ,グルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ,アルコール脱水素酵素,リンゴ酸脱水素酵素,ペニシリナーゼ,カタラーゼ,アポグルコースオキシダーゼ,ウレアーゼ,ルシフェラーゼ若しくはアセチルコリンエステラーゼ等の酵素、フルオレスセインイソチオシアネート,フィコビリタンパク,希土類金属キレート,ダンシルクロライド若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質、125I,14C,3H等の放射性同位体、ビオチン,アビジン若しくはジゴケシゲニン等の化学物質、又は化学発光物質等を挙げることができる。
【0045】
これらの標識物質による、抗体の標識方法は、選択すべき標識物質の種類に応じて、既に公知となっている標識方法を適宜用いることができる。
【0046】
また、DLD蛋白質に対する抗体(標識されたものを含む)を、不溶性担体に固定化した、固定化抗体として用いることもできる。
【0047】
当該抗体は、必要に応じて、不溶性担体に固定化して用いることができる。かかる不溶性担体としては、抗体の不溶性担体として既に用いられている各種の不溶性担体を用いることができる。具体的には、例えば、マイクロプレートに代表されるプレート、試験管、チューブ、ビーズ、ボール、フィルター、メンブレン、あるいはセルロース系担体、アガロース系担体、ポリアクリルアミド系担体、デキストラン系担体、ポリスチレン系担体、ポリビニルアルコール系担体、ポリアミノ酸系担体、あるいは多孔性シリカ系担体等のアフィニティークロマトグラフィーにおいて用いられる不溶性担体等が挙げられる。
【0048】
これらの不溶性担体における、抗体の固定化方法は、各種の不溶性担体において既に確立している抗体の固定化方法を、選択すべき不溶性担体の種類に応じて、適宜選択することができる。
【0049】
このようにして調製した、DLD蛋白質に対する抗体と、体液検体等に存在するDLDとの直接的又は間接的な結合を測定し、当該測定値の増大、又は、定性的な存在を指標として、癌の存在を検出することが可能である。その具体的態様については後述する。
【発明の効果】
【0050】
本発明により、体液検体におけるDLDの自己抗体、又は、DLDの蛋白質を癌マーカーとして用いる、癌、特に、子宮癌を検出可能な、鋭敏な癌の検出方法、及び、検出用キットが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
<本検出方法1>
上述したように、本検出方法1は、固相法で行うことが好適である。この場合、固相化する対象は、好適には、上記の自己抗原蛋白質の全部又は一部であり、当該自己抗原蛋白質に、被験者の体液検体を、そのまま、又は、適切な緩衝液等により希釈された状態にて接触させて、当該検体中の検出対象となる自己抗体を固相上の自己抗原蛋白質に抗原抗体反応により結合させ、当該結合体に対して、例えば、これに標識を施した抗ヒトイムノグロブリン抗体(二次抗体)を接触させて、洗浄後、固相上に残存した標識をカウントすることにより、これを検出対象となる自己抗体の存在シグナルとして検出することができる。なお、ここで述べた二次抗体を非標識として、これに対し、さらに標識した三次抗体を接触させて、三次抗体の標識を自己抗体の存在シグナルとすることも可能である。
【0052】
ここで用いる固相の素材は、蛋白質を固定することが可能な素材であれば特に限定されない。例えば、プラスチック、ガラス、金属、炭素繊維、ゴム(ラテックス)等を自由に選択することが可能である。また、固相の形状も、プレート状、カラム状、粒子状等を必要に応じて自由に選択することができる。代表的な固相の形態として、凹部が多数設けられた多孔プレート、微細な蛋白質の定着部が設けられているマイクロチップ、ラテックス粒子等を挙げることができる。これらの固相の検出部、すなわち、多孔プレートの凹部、マイクロチップの蛋白の定着部、ラテックス粒子表面に、自己抗原蛋白質を、それぞれの態様に応じた常法を用いて、当該蛋白質の全部又は一部が表面に露出した形態にて固定を行うことで、所望する自己抗原蛋白質が担持された固相体を得ることができる。また、当該固相体においては、例えば、DLD以外の自己抗原蛋白質を担持する場合には、固相化されている自己抗原蛋白質が、互いにいずれの蛋白質であるのかが、同一の固相体又は異なる固相体において明瞭な状態にて担持されていることが必要である。同一の固相体であれば、例えば、多孔プレートにおいて、孔毎に担持されている自己抗原蛋白質の種類が明らかになっている状態、マイクロチップであれば、チップの微細な定着部毎若しくは複数の定着部からなる定着領域毎等に担持されている自己抗原蛋白質の種類が明らかになっている状態等を意味する。異なる固相体であれば、固相体毎に担持されている自己抗原蛋白質の種類が異なり、かつ、明らかになっている状態を意味する。上記の明瞭な状態とは、視覚的に明瞭な状態が主要な態様として挙げられるが、他の手段により明瞭性が担保されていてもよい。
【0053】
被験者の体液検体を接触させた上記の固相体に対して、適切なシグナル要素、例えば、上述した発色性酵素、蛍光色素、発光色素、又は、放射性同位体が担持された抗ヒトイムノグロブリン二次抗体若しくは同三次抗体を施して、あるいは、ラテックス粒子の凝集による濁度を検出して、選択したシグナルの強弱若しくは有無により、当該体液検体中のDLDの蛋白質に対する自己抗体の存在の多少若しくは有無を明らかにすることができる。
【0054】
そして、上記の過程により明らかとなった、体液検体中のDLDの蛋白質に対する自己抗体量に応じて増加する検出値が、標準の検出値よりも大きな値である場合、若しくは、標準では検出されないにもかかわらず検出された場合に、これらを被験者における癌の存在又は癌への進行の、即時的な若しくは経時的な指標とすることができる。
【0055】
<本検出用キット1>
ここに記載した態様の本検出方法1を実施するための検出用キットは、上記の固相体、すなわち、「DLDの蛋白質の全部若しくは一部が表面露出し、かつ、いずれの種類の蛋白質の全部若しくは一部が固定されているかが明瞭な状態にて担持されている固相担体」を必須の要素として含む、癌検出用キットである。また、当該キットにおいては、好適には、DLD蛋白質に対して結合した抗体を検出するためのシグナル要素、具体的には、発色性酵素、蛍光色素、発光色素、又は、放射性同位体が担持された抗ヒト抗体、あるいは、上記生体内蛋白質を担持したラテックス粒子等を含有する。
【0056】
その他、体液検体の希釈用溶媒、コントロール抗体、洗浄液、反応チューブ等を選択的要素として含有することもできる。
【0057】
このようにして構成される本検出用キット1を用いて、本検出方法1を行うことにより、効率的に癌の検出を行うことができる。
【0058】
<本検出方法2>
本検出方法2は、上述したように、DLD蛋白質に対する抗体と、非抗体蛋白質である生体内のDLD蛋白質の結合を基に測定し、当該測定内容を指標として癌を検出する方法である。
【0059】
本検出方法2は、既存の癌マーカー蛋白質の検出を行う場合と同様に実施することができる。すなわち、エンザイムイムノアッセイ法、ラジオイムノアッセイ法、フルオロメトリーによる解析、ウエスタンブロット法等を挙げることができるが、一般的には、エンザイムイムノアッセイ法による解析による方法を選択することが望ましい。 エンザイムイムノアッセイ法は、酵素免疫定量法ともいい、標識イムノアッセイ法のうち、酵素を標識物質として用いる検出方法である。エンザイムイムノアッセイ法には、いわゆるB/F分離を必要とする"heterogeneous enzyme immunoassay"と、このB/F分離を必要としない"homogeneous enzyme immunoassay"とに大別される。本発明検出方法においては、これらのうち、一般的に測定感度が高いといわれる、前者の"heterogeneous enzyme immunoassay"を選択することが好ましく、イムノソルベントを用いる、"enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)”を選択することがさらに好ましい。
【0060】
より具体的な検出態様として、いわゆるサンドイッチ法によるイムノアッセイ法(以下、サンドイッチ法ともいう)を例示することができる。かかるサンドイッチ法は、特に、操作上の簡便性、経済上の利便性、とりわけ臨床検査としての汎用性を考慮すると、特に好ましい検出態様の一つである。
【0061】
このサンドイッチ法を行うに際しては、DLD蛋白質に対するモノクローナル抗体が、96穴マイクロプレートに代表されるような、多数のウエルを有するマイクロプレートやLuminex法に代表されるマイクロスフィアに固定化された、固定化モノクローナル抗体と、西洋ワサビペルオキシダーゼ等の酵素又はビオチンや蛍光色素により標識されたモノクローナル抗体を用いることが好ましい。
【0062】
サンドイッチ法は、少なくとも、下記(a) 及び(b) の工程を含む、イムノアッセイ法である。
【0063】
(a) 不溶性担体に、DLD蛋白質に対するモノクローナル抗体を固定化した、固定化モノクローナル抗体に、血液検体等の検体を反応させる工程。
【0064】
この工程(a) においては、通常は、反応後、用いたマイクロプレートあるいはマイクロスフィアを洗浄し、未反応の検体は、固定化モノクローナル抗体から除去される。
【0065】
(b) 固定化モノクローナル抗体と、試料中のDLD蛋白質との結合により形成される、抗原抗体複合体に、西洋ワサビペルオキシダーゼやビオチンあるいは蛍光色素等により標識されたDLD蛋白質に対するモノクローナル抗体を反応させる工程。
【0066】
この工程(b) においては、通常は、反応後、用いたマイクロプレートあるいはマイクロスフィアを洗浄し、未反応の標識されたDLD蛋白質に対するモノクローナル抗体は、固定化モノクローナル抗体から除去される。
【0067】
また、この工程(b) においては、反応させた第2抗体における標識物質の種類に応じた標識シグナルの発現手段を用いて、標識シグナルを顕在化させることができる。例えば、標識物質としてビオチンを選択した場合には、アビジンやストレプトアビジンを用いて、標識シグナルを顕在化させることができる。また、例えば、標識物質として、西洋ワサビペルオキシダーゼを選択した場合には、その基質を必要に応じて発色物質と共に添加して、標識シグナルを顕在化することができる。
【0068】
このようにして、顕在化した発色シグナルを、その発色シグナルの種類に応じた、シグナルの特定手段を用いて検出することで、検体中のDLD蛋白質の検出を行うことができる。
【0069】
<本検出用キット2>
ここに記載した態様の本検出方法2を実施するための検出用キットは、上記のDLD蛋白質に対する抗体を、標識又は非標識にて、又は、固定又は非固定にて含む癌検出用キットである。また、当該キットにおいては、好適には、抗体に結合したDLD蛋白質に対して結合した抗体を検出するためのシグナル要素、具体的には、発色性酵素、蛍光色素、発光色素、又は、放射性同位体が担持された抗ヒト抗体、あるいは、DLD蛋白質を担持したラテックス粒子等を含有する。
【0070】
その他、体液検体の希釈用溶媒、コントロール抗体、洗浄液、反応チューブ等を選択的要素として含有することもできる。
【0071】
このようにして構成される本検出用キット2を用いて、本検出方法2を行うことにより、効率的に癌の検出を行うことができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明する。ただし、本実施例は例示であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0073】
(1)細胞の培養
ヒト子宮頸癌患者由来のHeLa細胞株を、10%FBS(GIBCO)及び1%Antibiotic Antimycotic (GIBCO)を含む、Ham’s F12 (GIBCO)を培地として用いて37℃、5%CO条件下で培養した。
【0074】
(2)細胞抽出液の調製
上記(1)で得た培養細胞を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し回収した。次いで、可溶化緩衝液(7M urea、 2M thiourea、 4% CHAPS、 60mM DTT、 and 2% IPG Buffer 3-10 NL (GE Healthcare))を加えた後、超音波破砕することにより細胞を可溶化して、細胞抽出液とした。当該細胞抽出液は、蛋白質濃度を測定した後、使用するまで−80℃にて保存した。
【0075】
(3)二次元電気泳動及びウエスタンブロット
二次元電気泳動は複雑な混合物中の蛋白質を分離するために使用する、当業者にはよく知られた方法である。第一段階の電気泳動は一般に電荷に基づいて蛋白質を分離するものであり、第二段階の電気泳動は分子量に基づいて蛋白質を分離する。
【0076】
上記(2)において調製したHeLa細胞抽出液100μgを、両性担体のゲル(pH3-11 NL)(GE Healthcare)上に添加した。一晩当該ゲルを膨潤させた後、機器に添付された方法の通り第一次元の等電点電気泳動を行った。第一次元電気泳動処理後のゲルを、SDS平衡化緩衝液(50mM Tris-Hcl (pH8.8)、6M urea、30% glycerol、2%SDS、0.002%ブロモフェノールブルー)で平衡化し、アルキル化した後、二次元ゲルを含有するカセットに添加した。SDS−PAGEを使用した二次元電気泳動は、9%アクリルアミドゲルを使用し、SDS平衡化緩衝液に含まれるトラッキング色素がゲルの下端に到達するまで行った。
【0077】
二次元電気泳動後、分離した蛋白質をPVDF膜(ミリポア)に転写し、まずCy5 Mono-reactive Dye (GE Healthcare)で、全蛋白質を標識した。次にこの膜をブロッキングバッファー(5%スキムミルク、0.1% Tween20添加PBS)に浸して2時間インキュベートを行った。次いで、0.1% Tween20添加PBSで膜の洗浄を行い、この後、ブロッキングバッファーで1:500に希釈した患者血清、又は、対照血清に浸し、室温で3時間インキュベートを行った。この後、0.1% Tween20添加PBSで洗浄し、膜をホースラディッシュペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIg(G+A+M)抗体(コスモバイオ)と共に一時間インキュベートした。洗浄後、膜をECL Plus Western Blotting Detection Reagents (GE Healthcare)で処理し、Typhoon 9400 variable mode imager (GE Healthcare)で抗体反応のスポット(ECL-Plus用、520nm)と全蛋白質のスポット(Cy5用、670nm)を解析し、全蛋白質のスポットに抗体反応のスポットを重ね合わせることで抗体反応を示す抗原蛋白質の泳動位置を確認した。図1は、この二次元電気泳動及びウエスタンブロット法を用いた子宮癌患者血清抗体と反応する抗原蛋白質の検出を行った結果を示す図である。図1Aは抗体と反応する抗原スポット(p54と示す)を、Bは全蛋白質のスポットイメージにAの抗体反応スポットのイメージを重ねた図である。
【0078】
(4)蛋白質の同定
上述のように、(3)において、患者血清中の抗体と反応するが対照血清とは反応しない抗原のスポットが一箇所認められた(図1A、Bのp54のスポット)。同抗原蛋白質は、質量分析用に用意した別のPVDF膜に転写した蛋白質をクマシーブルー染色することにより可視化し、該当するスポット位置の蛋白質を膜から切り出し、質量分析計を用いたペプチドフィンガープリント法により、蛋白質の同定を行った。その結果、子宮頸癌の腫瘍マーカー候補となるDLDを同定することができた(図2)。
【0079】
図2における上段のグラフは、横軸に蛋白質同定の信頼度、縦軸には各信頼度における候補蛋白質数を図示し、スコア100以上の高い信頼度で同定された蛋白質はDLDただ一種であることを示している。下段は蛋白質同定の過程で質量分析器により検出され、DLD同定の根拠となったペプチドと同定の信頼性、およびDLDのアミノ酸配列を示す。
【0080】
(5)DLD組換え蛋白質発現用ベクターの作成
HeLa細胞より調製した全RNAを逆転写酵素によりcDNAに変換し、さらに配列番号3(forward(BamHI): gagggatccatgcagagct ggagtcgtg)及び配列番号4(reverse(SalI): gtggtcgactcaaaagttgattgatttgcc)により表されるオリゴヌクレオチドを増幅用プライマーとして用いてPCR反応を行ない、DLD蛋白質をコードする塩基配列(cDNA)を増幅した。増幅されたDLD cDNAは、5’末端にFLAGペプチドに相当する遺伝子配列を賦与する発現ベクターpCMV-Tag 2B (Stratagene)のBamHI / SalIサイトにクローニングした。
【0081】
(6)組換え蛋白質の発現及び精製
DLD発現ベクターをヒト胎児由来HEK293細胞に導入し、一過性の遺伝子発現を行わせた。次いで、当該細胞を1% Triton X-100を含むPBSで可溶化し、発現されたDLD蛋白質をFLAGペプチド配列に対する抗体を固相化したFLAG-M2ビーズ(Sigma)により回収し、さらにFLAGペプチドを過剰に添加することにより溶出した。
【0082】
(7)癌患者由来の抗DLD自己抗体の検出
癌患者由来の抗DLD自己抗体はスロットブロット法によって検出した。上記(6)で調製したDLD抗原を10%SDSゲル電気泳動にて分離後、転写することによりPVDF膜上に固相化し、27名の子宮頸癌患者(内、ステージI患者14名)と、25名の健常人から採取した血清を、スロットブロット装置で個別に反応させた。さらにPVDF膜をホースラディッシュペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ヒトIg(G+A+M)抗体(コスモバイオ)と共に一時間インキュベートした後、化学発光法により結合した血清中の抗DLD自己抗体を検出した。
【0083】
図3に示す結果により、子宮頸癌患者27例中6例(22.2%)にDLD特異的自己抗体の存在が認められた。また、早期癌(stage I)では、14例中5例(35.7%)に当該自己抗体の存在が認められた。一方、健常人では、25例中1例(4.1%)にのみ、DLD特異的自己抗体の存在が認められた。この結果により、DLDが、少なくとも子宮頸癌の癌マーカーとして好適な生体内蛋白質であることがわかる。すなわち、DLDの自己抗体を検出することは、子宮頸癌を検出するための好適な生体内のDLDの測定手段であることが明らかになった。
【0084】
なお、図3の上段Aは子宮頸癌患者の結果を、下段Bは健常人の結果を示している。
【0085】
(8)子宮頸癌における他の腫瘍マーカーの陽性率との比較
上記(7)で示した子宮癌患者27例の血清についてスロットブロット法で調べたDLD自己抗体の陽性率と、他の腫瘍マーカー(CA19−9、CEA、CA125、STN)の陽性率を比較した。ここで、CA19−9、CEA、CA125は化学発光法によるイムノアッセイ、STNは放射性同位元素を用いたイムノアッセイで測定した。
【0086】
結果を図4に示す。図4の縦軸は、横軸に示すそれぞれのアッセイで陽性反応を示す検体の割合{陽性率(%)と表現}を示す。上記の4種の既存の腫瘍マーカーのいずれの陽性率(3.7%〜11.1%)よりも、DLD自己抗体の陽性率(22.2%)が高かった。また、既存の4種の腫瘍マーカーのうち1つ以上で陽性を示す検体の割合(25.9%)と同等程度の結果を示している。さらに都合の良いことには、上記4種の既存腫瘍マーカーあるいはDLD抗体のいずれかひとつで陽性である検体は全体の44.4%に達した。これは、DLD自己抗体と既存腫瘍マーカーとのオーバーラップが小さいことを示しており、DLD自己抗体と他の腫瘍マーカーを組み合わせることにより、非常に高頻度に子宮頸癌を検出可能であることを示している。なお、今回用いた既存の腫瘍マーカーが、必ずしも子宮頸癌の腫瘍マーカーとして用いられているわけではないことを鑑みると、この総合値が、癌全般、又は、子宮癌以外の癌に対する検出マーカーとしても適切であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】二次元電気泳動及びウエスタンブロット法を用いて子宮癌患者血清抗体と反応する抗原蛋白質を検出した結果を示す図である。
【図2】ウエスタンブロットにおいて検出された反応抗原の質量分析解析における同定の結果を示す図である
【図3】子宮頸癌患者と健常人におけるDLDに対する自己抗体をスロットブロット法で測定した結果を示した図である。
【図4】子宮頸癌患者血清におけるDLD自己抗体の陽性率と既存の腫瘍マーカーの陽性率を比較した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液検体における、DLD(dihydrolipoamide dehydrogenase)の蛋白質の全部若しくは一部、あるいは、当該蛋白質の全部若しくは一部に対する抗体の検出を行い、当該蛋白質量あるいは抗体量に応じて増加する検出値が、標準の検出値よりも大きな値である場合、若しくは、標準では検出されないにもかかわらず検出された場合に、これらを被験者における癌の存在又は癌への進行の即時的な若しくは経時的な指標とする、癌の検出方法。
【請求項2】
体液検体が血液検体である、請求項1記載の癌の検出方法。
【請求項3】
血液検体が血清である、請求項1又は2記載の癌の検出方法。
【請求項4】
癌が子宮癌である、請求項1〜3のいずれかに記載の癌の検出方法。
【請求項5】
子宮癌が子宮頸癌である、請求項4記載の癌の検出方法。
【請求項6】
検出対象物がDLDの蛋白質の全部又は一部に対する抗体であって、DLDの蛋白質の全部若しくは一部が表面露出し、かつ、DLDの蛋白質の全部若しくは一部が固定されているかが明瞭な状態にて担持されている固相担体に、体液検体を接触させて、当該固相担体に担持された各々の蛋白質と当該体液検体内の抗体の結合を、被験者における癌の存在又は癌への進行の指標とする、請求項1〜5のいずれかに記載の癌の検出方法。
【請求項7】
検出対象物が、体液検体中のDLDの組換え蛋白質の全部又は一部に対する抗体である、請求項1〜6のいずれかに記載の癌の検出方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の癌の検出方法を行うための検出用キットであって、DLD蛋白質の全部若しくは一部を含有する、癌検出用キット。
【請求項9】
請求項8記載の検出用キットであって、DLDの蛋白質の全部若しくは一部が表面露出し、かつ、いずれの種類の蛋白質の全部若しくは一部が固定されているかが明瞭な状態にて担持されている固相担体を含有する、癌検出用キット。
【請求項10】
前記検出用キットにおいて、DLDの蛋白質の全部若しくは一部に対して結合した抗体を検出するためのシグナル要素を含有することを特徴とする、請求項8又は9記載の癌検出用キット。
【請求項11】
前記検出用キットにおいて、シグナル要素が、発色性酵素、蛍光色素、発光色素、又は、放射性同位体が担持された抗ヒト抗体、あるいは、DLDの蛋白質を担持したラテックス粒子である、請求項10記載の癌検出用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−139302(P2009−139302A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317989(P2007−317989)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(803000034)学校法人日本医科大学 (37)
【出願人】(591083336)株式会社ビー・エム・エル (31)
【Fターム(参考)】