癌マーカーとしてのCHK2多型
本発明は、癌疾患の危険性及び進行を予測するための、癌疾患を治療するための医薬又は非医薬療法手段に対する反応を予測するための、並びに薬剤の望ましくない作用を予測するための、チェックポイントキナーゼ2をコードするヒトCHK2遺伝子における遺伝子変化の使用に関する。さらに、本発明は、個々の遺伝子変異体の提供に関し、その遺伝子変異体を活用して上記目的のために用いることができる更なる遺伝子変化を検出及び確認することができる。該遺伝子変化は、CHK2のプロモーターにおける−7161位のグアニンのアデニンへの置換、−7235位のシトシンのグアニンへの置換、−10532位のグアニンのアデニンへの置換、又は−10621から−10649位の29塩基対の欠失を含み得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌疾患を治療するための適切な療法を決定するための診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌療法の必須の側面は、まず第一に、正確な診断を確立することである。診断は、疾患の実際の病期についての知識を提供し、これは続いて使用されるべき療法の種類、例えば腫瘍の外科的除去、並びに任意に放射線及び薬物療法、また場合により物理的方法(例えば、温熱療法)の使用に関しても重要である。古典的な診断方法には、いわゆる「病期分類」("staging")及び「グレーディング」("grading")が含まれる。病期分類では、腫瘍の大きさ及びその侵襲性が記述され、リンパ節が影響を受けているか、及び遠隔転移があるかが検査される(例えば、TNM病期分類システム(TMN stagin system))。グレーディングは、低い悪性度は低分化又は脱分化細胞よりも高分化腫瘍細胞に起因すると言う、腫瘍細胞の組織学的検査である。この分類は、個々の患者のための予測について限定されたものであり、臨床経験から、同じ腫瘍病期を有する患者が明確に異なる疾患経過及び療法に対する異なる反応を示すことが示されており、このことは顕著に異なる生存期間によって最終的に明らかである。
【0003】
このため、診療には、癌疾患について向上した個別の予後を可能にする、追加のより正確なマーカーの提供が必要である。このことは、乳癌の場合におけるエストロゲンレセプター発現の分析のような組織化学的マーカーを使用することによって、実現することができる。
【0004】
代替的手法は、遺伝子欠損、例えば腫瘍抑制遺伝子における体細胞変異の探求である。新たな手法は、遺伝子発現プロファイルにより疾患の経過を予測しようと試みる。癌治療における別の問題としては、制癌剤の有効性、個別の最適投与量又は療法の継続期間に関する予測だけでなく、重篤で危険な副作用の発生に関する予測もある。例えば、イリノテカンによる治療処置を受けている数人の患者が重篤な有害作用に苦しむという事実は、UGT1A1遺伝子の遺伝子多型が原因であり得る。事前の遺伝子分析は、治療を開始する前にそのような患者を同定し、投与量を調整することを可能にする。
【0005】
更に、生物工学的方法により製造された薬剤を使用する療法は高価であり、将来的には、治療の効力が個人的素因により見込みがあると思われる患者に限定されるであろう。
【0006】
悪性腫瘍の基本的特性
癌細胞は、接触阻害の欠失及び非制御的細胞増殖によって特徴付けられる。そのような変化は、自発的に、又は病原性毒素、いわゆる、ゲノムに損傷を与える発癌性物質により引き起こされる。そのような有害物質には、多くの化学物質、タバコの煙のみならず、UV光線も含まれる。更に、遺伝因子は、癌の発症において大きな役割を果たす。非制限的増殖とは別に、他の臓器に「娘腫瘍」(転移)を形成する傾向は、癌細胞の特徴である。転移は、血管又はリンパ管を介して規則的に拡散する。大多数の場合において、癌疾患は、不治であり、致死的である。治療手段は、原発性腫瘍及び転移の外科的除去を目的とする。更に、腫瘍を放射線で治療することが可能である。いわゆる細胞増殖抑制剤、特定のタンパク質若しくは表面マーカーに対する抗体又は免疫調節物質(サイトカイン、インターフェロン)が、急速に増殖する細胞を死滅させること又はアポトーシスを誘発することを試みるために使用される。
【0007】
特定の形態の療法に対する反応についての情報を提供し、或いは転移の発生、腫瘍進行及び生存に関する一般的な予測を可能にする、癌疾患の経過のための予後因子を定義することは大きな関連性がある。
【0008】
明らかに、病期分類及びグレーディングとは無関係に腫瘍疾患の経過を決定する、複数の、個別で未発見の生物学的変数が存在する。これらの因子には、宿主遺伝因子が含まれる。腫瘍の発生に関する予測を可能にする遺伝子マーカーを開発することが、更に望ましい。この種類のマーカーは、やがて更なるスクリーニング測定(血清学、X線撮影、超音波検査、MRTなど)が考慮される人を含む目的に役立つ。これは、初期の癌疾患を診断及び治療することを可能にし、回復及び生存の機会は、進行期の腫瘍よりも初期の腫瘍において有意に高い。
【0009】
DNA修復機構の意義
DNA修復機構により、細胞は、DNA構造の欠損修飾を排除することができる。DNAにおけるそのような損傷は、DNA複製の際に自発的に又は変異原物質、超高温若しくは電離放射線の影響により生じ得る。DNA損傷は、誤った形態で生じる有糸分裂のDNA複製、もはや合成されない若しくは誤った形態で合成されるタンパク質又は二本鎖切断後に切断される必須染色体領域を生じ得る。細胞の複雑な修復機構が成功しない場合、増殖及び休眠体細胞に蓄積している多数の欠損は、正常な細胞機能が欠損するほどの量まで増加する。生殖細胞において、娘細胞はもはや生存することができず、それは細胞株:細胞又は第二から第三継世代それぞれの不活性化をもたらし、細胞分裂の能力を失わせ、死滅させる。細胞周期の制御内において、制御タンパク質は細胞又はそのDNAが欠損していることを認識し、細胞周期の停止又はプログラム細胞死(アポトーシス)を誘導することができる。
【0010】
チェックポイントキナーゼ2の意義
細胞の最も重要な機能は、ゲノムの完全性を維持することである。このため、細胞周期内の全てのプロセスが正確に終了することを確実にする、多様な制御機構が存在する。これらの制御機構は、「チェックポイント[1]」と呼ばれる。これらは、用語が意味するように十分に画定されたポイントではなく、特定の条件化で開始されうる反応カスケードである。
【0011】
幾つかの細胞周期チェックポイントが今まで特徴決定されてきた。哺乳類において最も調査されたチェックポイントを図1に示す。一方、細胞周期の異なる段階でのDNAに対する損傷により活性化され得る、DNA損傷チェックポイントが存在する。この損傷は、放射線のような外因的な原因、並びに内因的な事象、例えば自然突然変異により誘発され得る。他方、複製チェックポイントは、不完全な又は欠損したDNA複製により活性される。紡錘体チェックポイント(スピンドルチェックポイント;spindle checkpoint)は、双極性紡錘体の形成、動原体(キネトコア)の付着及びセントロメア構造の形成を制御する。
【0012】
これらのプロセスが完全に終了しないか、或いは損傷が修復されない限り、細胞周期の次の段階への細胞の移行は、細胞のゲノム完全性が維持されることを確実にするために阻害される。
【0013】
チェックポイントキナーゼ2は、娘細胞への誤りの伝達が最小限になることを確実にする、細胞周期における必須の制御機構に関与する。異なるチェックポイントで活性化される関連するCHK2反応カスケードを図2に示す。DNA損傷によって、ATM(ataxia-telangiectasia, mutated;血管拡張性失調症変異)は、リン酸化され、したがって活性化される。次にATMは、アミノ酸位置68のトレオニン(Thr)におけるリン酸化を介してCHK2を活性化する。このリン酸化は、CHK2が自己リン酸化することができる、二量体形成の能力にとっての前提条件である。CHK2が、完全に活性化された形態で存在することができ、かつG1−、S−又はG2/M期の間の細胞周期停止、DNA修復系の活性化又はアポトーシスが欠損細胞において誘導され得る、そのエフェクターを活性化することができるのは、唯一この方法である。
【0014】
CHK2のエフェクターには、p53(腫瘍タンパク質53;tumor protein 53)が含まれ、p53はセリン(Ser)20においてCHK2によりリン酸化され、それによって安定化する。続いて、p53は、DNA損傷、アポトーシス及び細胞周期の制御に関与する因子を正に調節する。BRCA1(乳癌1遺伝子;breast cancer 1 gene)も、CHK2基質に属する。これは、Ser988においてCHK2によりリン酸化され、それによって、CHK2との複合体から放出され、次にこれにより、損傷を受けたDNAを修復するために細胞周期の停止に至る。CDC25C(細胞分裂周期25C;cell division cycle 25C)も、Ser216においてCHK2によりリン酸化され、それによって自己のホスファターゼ活性が阻害され、それは細胞質様式で分解される。この場合、Cdk1(サイクリン依存性キナーゼ1;cyclin-dependent kinase 1)は活性化することができず、したがって、損傷を受けたDNAを有する細胞が有糸分裂を開始するのが回避される。更に、CDC25Aは、Ser123においてCHK2によりリン酸化され、それよってユビキチン化し、プロテアソーム依存的な様式で分解される。このタンパク質は、細胞周期における細胞の進行に関して重要な役割を果たすが、分解によって阻害される。
【0015】
CHK2は、DNA損傷により開始されるシグナル伝達において重要な役割を果たす。CHK2の生理学的な重要性は、ノックアウトマウスを作製することによって解析した。Chk2-/+とChk2-/-のマウスが生存した。しかし、亜致死用量(8Gy)の放射線照射の後では、異なる長さの生存期間を示し、野生型及びChk2-/+マウスの生存期間中央値は、Chk2-/-マウスよりも有意に短かった。このように、Chk2-/-マウスは、放射線誘導アポトーシス速度の低減により引き起こされた放射線抵抗性を示した。G2/MチェックポイントはChk2-/-マウスにおいて影響を受けなかったが、G1/Sチェックポイントは、誘導することは可能であったが、維持することができなかった。これは、p53の転写活性の低減に対して引き起こされる。更に、腫瘍は、少なくとも1つの機能するChk2対立遺伝子を有するマウスと対照的に、Chk2-/-マウスにおいてのみ発症した。
【発明の概要】
【0016】
したがって、本発明の根底をなす課題は、癌疾患の自然歴及び任意の形態の療法に対する反応の予後の改善を可能にする方法を提供することにある。特に、当該方法は、DNA修復機構の増大が癌療法を困難にする患者を同定することも可能にすべきである。
【0017】
この課題は、癌疾患を発症する危険性、疾患の経過、薬剤の有効性及び癌疾患の治療における薬剤に関連した危険性を予測するためのインビトロ方法であって、患者の試料においてヒト染色体22q12.1上のCHK2遺伝子のプロモーター領域で1つ以上の遺伝子変化が探索され、かつ遺伝子変化は多型−7161G>A、多型−7235C>G、多型−10532G>A及び多型−10649−(−10621)del29から選択される、上記方法により解決される。
【0018】
上記目的のための上記多型の使用も、本発明の主題である。
【0019】
したがって、本発明は、以下を目的とする:
a.タンパク質発現の変化若しくはスプライシング変異体の発現の変化のいずれかをもたらすか、又は
b.CHK2遺伝子において更なる多型若しくはハロタイプをそれぞれ見出す及び/若しくは確認するのに適している、
CHK2遺伝子のプロモーターにおける機能修飾ゲノム多型を提供すること、
c.一般的な危険性及び疾患の経過を予測するのに適している多型を提供すること、
d.医薬品及び癌療法、特にCHK2阻害剤に対する反応、並びに副作用を一般に予測するのに適している多型を提供すること、
e.他の形態の療法(例えば、放射線、温熱、寒冷)の効果を一般に予測するのに適している多型を提供すること。
【0020】
ゲノム完全性の維持におけるCHK2の本来の意義によって、この種類の多型は、癌疾患の場合において疾患の危険性及び/又は疾患の経過を一般に予測すること、並びに/或いは療法に対する反応/療法の失敗又は全ての医薬品若しくは非薬物療法に対する望ましくない副作用を予測することに適している。
【0021】
CHK2遺伝子のプロモーターにおける多型の検出
CHK2遺伝子のプロモーター領域における3つの多型が知られており、これらは一般に利用可能なデータベースにおいて見出すことができる。これらの3つの多型が検出され、かつ確認されたのは、ヒトのDNA試料の系統的な塩基配列決定によってであった:−7161G>A(rs2236141)、−7235C>G(rs2236142)及び−10532G>A(rs5762767)(図5)。この目的のために、CHK2のプロモーター領域の遺伝子配列をPCR反応により増幅し、サンガーによる方法を使用して塩基配列の決定をした。この目的に必要な方法、例えば、PCR反応に必要となるプライマー対を誘導すること、及び配列決定用プライマーを選択することは、当業者に周知である。この関係において、29塩基対の欠失である新たな多型が見出された(−10649−(−10621)del29、dbSNP IDなし)(図5)。これらのSNPの番号付けは、番号+1が開始コドンATGのヌクレオチドAに割り当てられたものである。番号0は存在しないと理解されるので、番号−1は、開始コドンATGのAの前のヌクレオチドに割り当てられる。
【0022】
本発明の使用によるこの多型の検出は、当業者に既知の任意の方法、例えば、直接的な塩基配列決定、後続の切断解析(restriction analysis)を伴うPCR、リバース・ハイブリダイゼーション、ドットブロット又はスロットブロット法、質量分析法、タックマン(Taqman)(登録商標)又はライトサイクラー(LightCycler)(登録商標)技術、パイロシーケンス(Pyrosequencing)(登録商標)、インベーダー(Invader)(登録商標)技術、ルミネックス法により実施することができる。更に、これらの遺伝子多型を、DNAチップに対する多重ハイブリダイゼーション(multiplex hybridisation)及びハイブリダイゼーションにより、同時に検出することができる。
【0023】
原則として、人体の全ての細胞は悪性状態を生じる可能性があり、癌疾患をもたらす可能性がある。ここでの及び下記における説明は、腫瘍進行、転移及び療法に対する反応についての一般的な機構を記述するものである。この点に関して、本明細書及び請求項に記載される機構は、全てのヒト腫瘍に関連する。以下は、例としてのみ提示される。
【0024】
腎細胞癌、前立腺癌及び精上皮腫のような尿生殖器の腫瘍;乳癌、子宮体癌、卵巣癌、子宮頸癌などの女性生殖器系の腫瘍;口腔癌、食道癌、胃癌、肝癌、胆管癌、膵癌、結腸癌、直腸癌などの胃腸管の腫瘍;喉頭癌、気管支癌などの気道の腫瘍;悪性黒色腫、基底細胞腫及びt細胞リンパ腫などの皮膚の腫瘍;ホジキン及び非ホジキンリンパ腫、急性及び慢性白血病、形質細胞種などの造血系の腫瘍疾患;グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、髄芽細胞腫、髄膜肉腫、星状細胞腫などの脳及び神経組織それぞれの腫瘍疾患、並びに肉腫及び頭頸部腫瘍などの軟組織の腫瘍。
【0025】
CHK2遺伝子
ヒトGHK2遺伝子は、染色体22q12.1(ジーンバンク・アクセション番号:NM_007194)上に位置しており、核で発現する65kDの大きさのタンパク質をコードする。本文脈において、遺伝子は、「CHK2」及び「CHEK2」と称されることが指摘される。以下では、「CHK2」の名称が使用される。遺伝子構造の模式図は図3で見られる。CHK2の活性プロモーター領域の特徴は、既に決定されている。プロモーター配列は、転写因子SP1の多数の結合部位を含有し、その結合は転写活性を増強する。CHK2の正の調節も、CCAATボックスへのNF−Y結合の際に観察された。
【0026】
CHK2における体細胞変異
CHK2は、DNA損傷後のチェックポイント停止において重要な役割を果たし、かつ様々な腫瘍サプレッサー遺伝子がCHK2の基質であるので、潜在的な腫瘍サプレッサー遺伝子であると考えられている。今まで、散在性腫瘍、例えば、結腸直腸腫瘍、肺癌、前立腺癌、乳癌を有する一部の患者において、並びに複数腫瘍表現型であるリー・フラウメニ症候群(Li-Fraumeni syndrome)を有する患者において、この遺伝子における体細胞変異を検出することが可能であった。一塩基多型(SNP)と対照的に、これらの変異は、例えば、関連する患者の抹消血細胞では見出されない。
【0027】
CHK2における変化による腫瘍疾患の危険性
今まで、幾つかのケースにおいて、異なる腫瘍疾患によるCHK2における遺伝子変化を検出すること及びこれらを疾患の発症の危険性と関連づけることが可能であった。これらは、頻繁な遺伝子変異体ではないが、希な変異であり(頻度<1%)、健康な対照群よりも患者の大集団において多く検出され得た。現在まで、これらの希な変異のみならず、頻繁に発生するSNPも解析した研究は、1つしか発表されていない。この関係で、プロモーター多型−7161G>A(rs223641)も、乳癌の発症の危険性に関して解析された。しかしながら、関連性を検出することはできなかった(ベイネス(Baynes)ら、ATM、BRCA1、BRCA2、CHEK2及びTP53癌感受性遺伝子における一般的な変異は乳癌の危険性を増大する可能性は低い(Common variants in the ATM, BRCA1, BRCA2, CHEK2 and TP53 cancer susceptibility genes are unlikely to increase breast cancer risk.)、2007、ブリースト・キャンサー・リサーチ(Breast Cancer Res) 9:R27)。
【0028】
化学療法剤としてのCHK2阻害剤
チェックポイントが多くの調節カスケードに関与しているので、それらは制癌剤の適した標的である。チェックポイントタンパク質の特定の性質がこのことを説明する:(1)チェックポイントの複雑なシグナル伝達系は、攻撃のための複数の標的を提供する、(2)健常な細胞において、チェックポイントのいくつかは重要性が低いと考えられ、それは阻害剤の毒性を著しく低減する、(3)欠損チェックポイントの回復は、細胞増殖の減速をもたらす場合がある、(4)シグナル伝達系としてのチェックポイントは、中断され得る適応に付される、及び(5)損なわれたチェックポイントの回復は、癌細胞のアポトーシス速度を増加し、したがって特定の物質に対する感受性を増加し得る。
【0029】
遺伝子療法の手法を使用しておそらく最も容易に達成されるであろう、これらの目的に反して、チェックポイントの他の2つの特性は、達成することがより容易な標的である。欠損チェックポイントを有する細胞は、放射線及び細胞毒性物質に対して増加した感受性又は増加した抵抗性のいずれかを示す。CHK2の阻害は、DNA損傷剤に関して特にp53欠損細胞を感作すると考えられ、同時に、正常組織を損傷から、したがって副作用から保護する。このため、CHK2の阻害は、新たな抗癌薬を開発する有望な手法の一部である。
【0030】
様々なCHK2阻害剤が、それぞれ既に知られており、或いは既に開発されている。現在、多少非特異的な阻害剤であるUCN−01及びDBH(デブロモヒメニアルジシン)の他に、特定の強力なCHK阻害剤も利用可能である。これらには、CHK2阻害剤2(2−(4−(4−クロロフェノキシ)フェニル)−1H−ベンゾ(d)イミダゾール−5−カルボキサミド)、VRX0466617(5−(4−(4−ブロモフェニルアミノ)フェニル−アミノ)−3−ヒドロキシ−N−(1−ヒドロキシプロパン−2−イル)イソチアゾール−4−カルボキシミドアミド)及びNSC109555((2E,2′E)−2,2−(1,1′−(4,4′−カルボニル−ビス(アザンジイル)ビス(4,1−フェニレン))ビス(エタン−1−イル−1−イリデン))ビス(ヒドラジンカルボキシイミドアミド))が含まれ、これらは放射線療法の際に副作用の低減に寄与することができる(図4)。
【0031】
化学療法剤としてのCHK2活性化剤
しかしながら、CHK2活性化剤は癌療法において代替案となり得る。CHK2は、腫瘍形成の抑制において役割を果たし、その活性化は、DNA損傷剤が存在しない場合、腫瘍細胞が増殖状態から離れ、かつ死滅することを誘導することができる。更に、これは、強力なG2停止を誘導する。活性化戦略は、阻害剤の短所を補うことができる場合があり、腫瘍は非常に異質であり、このため、1つのシグナルカスケードのみを不活性化することが必ずしも十分と言うわけではない。多くの種類の腫瘍細胞に共通する維持された細胞周期機構の過剰活性化によって、この異質性は中和させることができる。
【0032】
−7161G>A、−7235C>GT、−10532G>A及び−10649−(−10621)del−29多型の分布、ハロタイプの検出、並びに更なる関連多型及びハロタイプを見出すためのこれらの遺伝子型の使用
このために、白人の異なるDNA試料の遺伝子型を決定した。結果を以下の表に示す。
【表1】
I=挿入、D=欠失
【0033】
更なる分析は、健常な白人のこれらのDNA試料において、特定の多型の間に連鎖不均衡があることを示した。連鎖不均衡という用語は、その頻度に関して予想されうるよりも、統計的に明確に頻繁又は希に組み合わせとして生じる対立遺伝子の組合せ(ハロタイプ)の発生を意味する。この関係において、多型−7161G>A及び−10532G>Aが互いに完全に連鎖することが観察された。対照的に、多型−7235C>G及び−10649−(−10621)del29は、互いに連鎖せず、他の二つの変異に対しては限定された程度でのみ連鎖する(図6A及びB)。連鎖の品質は、値D′及びr2により表される。D′=1及びr2=1は、有意な連鎖として参照される。これらの値が1に近づくほど、連鎖不均衡に近づく。これらの4つの多型から構成することができるハロタイプの計算は、7つの異なる対立遺伝子の組合せをもたらした。これらのプロモーター変異から生じる優先的なハロタイプは存在しない(図6C)。全ての可能な組合せを決定するために、4つの多型のうち少なくとも3つを検出する必要がある。
【0034】
これらの新たな多型を使用して、CHK2、又はGHK2遺伝子における遺伝子型と例えば連鎖不均衡にある隣接遺伝子における更なる関連するゲノム遺伝子変化を検出及び確認できることが、本発明の1つの主題である。しかしながら、これらは、CHK2遺伝子から遠く離れている染色体22に配置されている遺伝子でもありうる。このため、以下の手法が使用される。
1.特定の表現型(例えば、細胞特性、疾患の状態、疾患の経過、医薬組成物に対する反応)について、多型−7161G>A、−7235C>G、−10532G>A及び−10649−(−10621)del29との関連性が確立され、これらの関連性は、それぞれの遺伝子型に対して個別に、又はハロタイプの全ての順列を使用して、確立することができる。
2.CHK2又は隣接遺伝子において新たに検出された遺伝子変化に関して、既に存在する関連性が、上記遺伝子型又はハロタイプを用いることにより増強又は低減されるかを試験する。
【0035】
以下において図を簡潔に説明する。
図1:最も重要なチェックポイントを有する細胞周期の概略図。
図2:CHK2調節チェックポイントでの反応カスケードのグラフ図。
図3:ヒトCHK2遺伝子のイントロン/エクソン構造(忠実な尺度ではない)。
図4:幾つかのCHK2阻害剤の構造式。
図5:CHK2遺伝子における多型の概略図(忠実な尺度ではない)。
図6:ハプロビュー(Haploview)プログラムを用いたCHK2のプロモーター多型の連鎖分析;A−多型の互いの連鎖のグラフ図。黒色四角形はr2=1を示し;灰色四角形はr2<0.5を示し;明灰色四角形はr2<0.1を示す。B−個別の対立遺伝子の頻度及び連鎖の可能性;C−構成されたハロタイプの頻度;三角形で示された対立遺伝子は、いわゆるハロタイプ標識対立遺伝子(haplotype-tagging alleles)と呼ばれ、すなわちこれらの対立遺伝子は、ハロタイプを決定するために決定される必要がある。
図7:CHK2遺伝子のプロモーターにおける転写因子の推定結合部位;赤色で示されている塩基は、関連する多型の対立遺伝子を表す。
図8:CHK2の−7235C>G多型の異なる対立遺伝子を含有する構築物を用いた電気泳動度移動アッセイ(Electrophoretic Mobility Shift Assay(EMSA))の結果。細胞核抽出物の添加の後、C対立遺伝子への核タンパク質の結合の増加が観察される。結合は、置換しているオリゴヌクレオチドの存在により特異的に阻害される。
図9:CHK2の−10649−(−10621)del29多型の異なる対立遺伝子を含有する構築物を用いた電気泳動度移動アッセイ(Electrophoretic Mobility Shift Assay(EMSA))の結果。細胞核抽出物の添加の後、両方の対立遺伝子が、第2対立遺伝子が競合することができる転写因子の結合をもたらすことが観察される。しかし、転写因子はこの場合では異なる。
図10:fSEAPレポーターアッセイにより決定された、−10649−(−10621)del29多型に依存するCHK2プロモーター活性;**:p<0.01。
図11:−7161G>A多型に依存するCHK2 mRNAの発現。CHK2−/βアクチンmRNAの割合を示す。A:乳癌、B:CLL;**:p<0.01;*:p<0.05。
図12:−7235C>G多型に依存するCHK2 mRNAの発現。CHK2−/βアクチンmRNAの割合を示す。A:乳癌、B:CLL;**:p<0.05。
図13:乳癌を罹患している女性患者の−10649−(−10621)del29多型に依存するCHK2 mRNAの発現。CHK2−/βアクチンmRNAの割合を示す。
図14:−7161G>A多型の遺伝子型に依存する結腸直腸癌に罹患する患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis)。
図15:−7235C>G多型の遺伝子型に依存する慢性リンパ性白血病に罹患する患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis);*:p<0.05。
図16:病期(ステージ)3及び4の腎細胞癌に罹患している患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis)。A:−7161G>A多型の遺伝子型に依存する生存、B:−7161G>A多型の遺伝子型に依存する無進行生存、C:−7235C>G多型に依存する生存;***:p<0.001;*:p<0.05。
図17:−10649−(−10621)del29多型の遺伝子型に依存する乳癌に罹患する患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis)。
図18:グリア芽細胞腫を罹患している患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis)。A:生存、B:−10649−(−10621)del29多型の遺伝子型に依存する無再発生存、C:生存、D:−7235C>G多型に依存する無再発生存;**:p<0.01;*:p<0.05。
図19:−7161G>A多型の遺伝子型に依存する前立腺癌に罹患する患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis);**:p<0.01。
【0036】
CHK2遺伝子におけるプロモーター多型の機能的意義
どの機能修飾がCHK2遺伝子におけるプロモーター多型に寄与しうるかについての分析を実施した。プロモーターの遺伝子型及びハロタイプそれぞれに依存したCHK2タンパク質の選択的スプライシング、組織特異的発現又は過剰発現との相関が考えられる。この関係において、先ず、観察されたヌクレオチド置換が転写因子の結合に影響し得るかを見出すために、コンピュータープログラムを使用して解析を実施した。転写因子は、特定のコンセンサス配列に結合し、かつプロモーター活性を増加又は減少させる場合があり、その結果、このことは遺伝子の転写の増加又は低減をもたらし、コードするタンパク質の発現が増加又は低減する。図7に示されるように、全ての上記プロモーターSNPは、異なる転写因子(例えば、p53、NF−kB又はMef2)の結合部位のコンセンサス配列に位置しており、その結合は多型により損なわれる場合がある。特定の遺伝子型の発生は、これらの結合部位が欠失する、又はこれらがコンセンサス配列の変化により新たに形成されるという作用を有する。この作用の実験分析のために、いわゆるEMSA(電気泳動度移動アッセイ;electrophoretic mobility shift assay)を実施した。このアッセイでは、関連する多型を含有する短核酸セグメントを、細胞核抽出物と共にインキュベートする。次に、これらの抽出物に含有される転写因子タンパク質が、異なる強度で核酸セグメントと結合する。続いて、DNAへの結合を、X線フィルムを使用して可視化する。強力な結合は強いバンドを生じる。図8は、−7235C>G多型のC又はG対立遺伝子のいずれかを含有する特定の構築物によるこのアッセイの結果を示す。C−構築物のバンドの存在は、この領域への転写因子の結合を示す。G−構築物はこのバンドを有さず、これはこの対立遺伝子に結合する転写因子がないことを示す。特定のオリゴヌクレオチドによるバンド強度の減少は、結合転写因子が特異的に結合することを示す。図9は、−10649−(−10621)del29多型の挿入対立遺伝子又は欠失対立遺伝子のいずれかを含有する特定の構築物によるこのアッセイの結果を示す。対立遺伝子は両方とも、第2対立遺伝子が競合し得る転写因子の結合をもたらす。しかしながら、この場合では転写因子は異なる。図10は、欠失対立遺伝子への転写因子の結合が、欠失対立遺伝子におけるものよりも増加したプロモーター活性をもたらすことを更に示す。
【0037】
続いて、mRNAレベルでのCHK2の発現を、リアルタイムPCRによりヒト組織において解析した。このため、乳癌手術で得たヒト組織から、並びに白血病に罹患している患者の血液細胞からmRNAを採取し、逆転写酵素によりcDNAに転写した。この方法は当業者に知られている。続いて発現レベルを、リアルタイムPCR(タックマン(Taqman)法)を使用して決定し、ハウスキーピング遺伝子βアクチンの発現レベルと比較した。
【0038】
結果を図11〜13に示す。図11Aは、−7161G>A SNPのGG遺伝子型が乳癌においてGA遺伝子型よりも有意に高いmRNA発現を有することを示す。図11Bも、CLL患者におけるGG遺伝子型のmRNA発現の増加を示す。多型−7235C>Gも、遺伝子発現において対立遺伝子依存性の差を示す。図12A及び12Bに表される通り、C対立遺伝子保有者は、GG遺伝子型の保有者よりも有意に少ないCHK2 mRNAを有する。このことは、乳癌に罹患している患者及びCLL患者に当てはまる。図13は、乳癌に罹患している患者におけるホモ接合体欠失のmRNA発現の増加を表す。ホモ接合体挿入は、最小の発現を有する。ヘテロ接合体遺伝子型は、中間値を示す。この関係において、遺伝子量効果を観察することができる。
【0039】
このように、癌腫組織においてCHK2の発現の変化を引き起こす、CHK2遺伝子における遺伝子変化が存在することが証明された。これらは、上記プロモーター多型、又はSNPに対して連鎖不均衡を示す多型であってもよい。したがって、本発明の主題には、CHK2の発現を定量化すること、CHK2の既知の多型にそれを関連付けること、並びに新たなより良好に適した多型を発見し、かつ確認することも含まれる。
【0040】
本明細書に示されるヒト癌腫組織におけるCHK2の遺伝子型依存性発現に関する知見は極めて重要であり、それは、CHK2活性の低減が、マイクロサテライトの不安定性及び染色体不安定性(両方ともゲノムの不安定性の特徴の一部である)を引き起こす場合があり、したがって、腫瘍形成に好都合であり、腫瘍進行に対して負の効果を有すからである(アン(Ahn)ら、CHK2タンパク質キナーゼ(The CHK2 protein kinase.) 2004、DNAリペアー(DNA Repair) 3: 1039-1047)。更に、CHK2の当該遺伝子型依存性遺伝子発現は、CHK2阻害剤を用いる療法への反応に対して効果を有し得る。特定の遺伝子型、例えば−7235C>G多型のCC遺伝子型により素因が与えられた低い遺伝子発現が、他の遺伝子型よりもCHK2阻害剤に対してより強力な反応を示すことが予想される。したがって、例えば反応者と非反応者とを区別するために、CHK2遺伝子における遺伝子変化を用いて癌療法に対する反応を予測することができる。
【0041】
これらの遺伝子変化を、用量設定及び/又は薬剤の望ましくない副作用の発生の予測に使用することもできる。そのような癌療法は、広義には薬剤に基づくものであることができ、すなわち、物質を体に供給することであるか、又はこれらの癌療法の手段は、物理的効果(例えば、放射線、温熱、寒冷)を有することができる。
【0042】
したがって、我々は、特に腫瘍疾患の場合において、疾患の経過に対する効果、並びにCHK2の調節カスケードに影響を及ぼす物質に対する、又はCHK2を直接阻害する物質に対する変化した反応を想定する。
【0043】
疾患の危険性及び疾患の経過の予測のためのCHK2における遺伝子変化の使用
細胞周期の調節におけるチェックポイントキナーゼ2の主要な役割によって、本発明の必須の主題は、CHK2における遺伝子変化を用いることにより一般的な疾患の危険性及び疾患の経過を予測する可能性である。
【0044】
癌の多段階の進展は、正常細胞から癌細胞への形質転換、並びに正常細胞から良性及び場合により悪性の浸潤性腫瘍への形質転換を引き起こす遺伝子変化の蓄積を反映している。腫瘍抑制遺伝子及び癌原遺伝子における変化の蓄積は、腫瘍発生を加速し、放射線療法並びに化学療法に影響し得る。しかしながら、チェックポイントと同様に損なわれたDNA修復機構も腫瘍のゲノム不安定化の増加の原因であることが、ますます明確になってきている。チェックポイントがゲノム完全性の維持において中心的な役割を果たすので、多様で非常に異なる腫瘍疾患の経過は、遺伝子により決定された低下したチェックポイントの活性化能により影響を受ける。このことは、人体の全細胞で発現し、かつDNA損傷に対して細胞を保護するタンパク質の発現変化が、全ての生理学的及び病態生理学的過程に決定的な影響を有するか又は少なくともこれらを調節する細胞機能を調節することを意味する。更に、医薬品に対する反応は、特定の様式で影響を受ける。このことは、望ましい薬剤効果に当てはまるが、望ましくない薬剤効果にも当てはまる。
【0045】
チェックポイントタンパク質の機能修飾は、これらが高度に系統学的に維持されている経路であることから、多様な疾患に対する及び多様な疾患の経過に対する持続的な効果を有することが、科学文献において繰り返し仮定されてきた。この種類の遺伝子変化は、例えばリン酸化によりタンパク質の活性化を低減するか又は基質を選択的に低減する、チェックポイントタンパク質における構造改変変異であることができる。更に、発現レベルを変化させることができ、それによって、例えばアポトーシスを誘導する後続の反応カスケードの開始が低減され、或いは修飾機能を有するスプライシング変異体が発生し得る。これらの全ての変化は、癌に対する遺伝的素因であると考えられる。
【0046】
記載される例から、以下は明らかである。
1.偏在的に発現するタンパク質をコードする遺伝子における遺伝子変化は、多様な疾患及び疾患の多様な危険性に影響し、或いはそれらの原因となること、並びに
2.チェックポイントタンパク質は、人体におけるゲノム完全性の維持のための複雑なネットワークの一部であること。
【0047】
CHK2遺伝子における遺伝子変化を伴う疾患及び例えばCHK2タンパク質の変化した発現レベルによって決定される疾患は、例えば、任意の患者組織の良性及び悪性の新生物である。
【0048】
結果として、本発明の必須の主題は、全てのヒト癌疾患の予後因子としての、CHK2遺伝子における診断に関連する遺伝子変化を提供することにある。このことは、選択された例を使用して以下に説明される。
【0049】
結腸直腸癌−結腸直腸癌は、胃腸管における最も一般的な腫瘍型であり、世界中の腫瘍関連死の主な原因の一つである(癌総死亡率の12〜15%)。腫瘍切除後の5年生存率の中央値は、僅か50%である。疾患の経過を予測する標準的な方法は、TNM又はUIICC病期(ステージ)システムである。UICC病期III又はIVの患者は、UICC病期I又はIIの患者よりも一般に悪い予後を有する。補助的化学療法が、転移性結腸直腸癌(UICC病期III及びIV)の場合に適用され、放射線療法の局所効果を増強することができる。これらの患者の大多数は、再発及び転移を生じ、集中的な追跡治療が必要である。したがって、疾患の更なる経過を予測することができる適切なマーカーを同定し、かつ確立することが重要である。本発明の別の主題は、結腸直腸癌の更なる病歴を予測することができるように、CHK2における遺伝子変化を使用することである。
【0050】
図14は、UICCの病期III及びIVの結腸直腸腫瘍を罹患している患者における、−7161G>A多型に依存する生存に関する差を示す。GG遺伝子型を有する患者は、ヘテロ接合体GA遺伝子型を有する患者よりも長く生存する。
【0051】
慢性リンパ性白血病−慢性リンパ性白血病(CLL)の特徴は、多数の変性リンパ球である。全ての白血病疾患の合計30%が慢性リンパ性白血病である。発症の平均年齢は65歳である。CLLは、20年までは良性であり得、すなわち患者は、腫大したリンパ節、疲労及び食欲不振の他には何も症状を有さない。治療は、リンパ球の数が著しく増加し、赤血球及び血小板の比率が減少し、或いは他の合併症が生じた場合にのみ開始される。初期治療は、疾患の経過に対して何も効果を有さない。最も重要な治療手段は化学療法である。疾患が進展するほど、臓器系の変化に起因する健康障害が重要になる。疾患のビネー(Binet)病期に応じて、医師は予後の推定を確立することができる。CLLの病期は、とりわけ、血中及び骨髄中のリンパ球の数、脾臓及び肝臓の大きさ、並びに貧血の存在によって特徴付けられる。CLLは、免疫系に変化をもたらし、それによってこの疾患を罹患しているヒトは、他の種類の癌を発症するより大きな危険性を有する。しかしながら、患者は、ビネー系の同じ病期において非常に異なる疾患経過を示す。本発明の根底をなす課題は、CHK2遺伝子における遺伝子変化が、疾患の経過を予測するのに適していることを示すことである。
【0052】
このため、CLL患者では、CHK2における記載された遺伝子変化に関して遺伝子型を決定し、遺伝子状態を無進行生存と相関させた。図15は、−7235C>G多型に依存する生存を示す。CC/GC遺伝子型の保有者である患者は、ホモ接合体GGである患者よりも長期間生存する。
【0053】
腎細胞癌−腎臓細胞の場合、回復のチャンスは、腫瘍の大きさ及び腫瘍の増殖によって左右される。転移のない患者は、80%まで10年生存率を有するが、有意な個人間の変動がある。現在一般的である超音波技術の使用によって、多くの腫瘍が初期非転移病期において検出され、間に合うように治療することができる。遠隔転移が存在する場合、腎臓の外科的除去を、それに続くインターロイキン−2又はインターロイキン−アルファによる免疫療法と組み合わせることが可能である。このことは、身体の腫瘍細胞に対する防御を改善する。転移腎細胞癌の場合、インターフェロン、インターロイキン−2及び5−フルオロウラシルの組合せが、研究において36%の反応率を達成することができる。現在、腎細胞癌に罹患している患者の生存のための予測マーカーは存在しない。
【0054】
図16Aは、−7161G>A多型に依存する生存を示す。GG遺伝子型を有する患者は、GA及びAA遺伝子型を有する患者よりも有意に長期間生存する(p<0.05)。死亡までの平均期間は、GG保有者では115ヶ月であるが、AA遺伝子型を有する患者では、僅か9ヶ月である。同様のデータが、−7161G>A多型と相関する無進行生存に当てはまる(図16B)。また、この場合において、GG遺伝子型を有する患者は、観察期間にわたって最低の進行を示す。平均無進行生存は、GGでは52ヶ月であるが、AAでは僅か2ヶ月である(p<0.001)。−7235C>G多型も生存と関連する(図16C)。G対立遺伝子の保有者は、CC遺伝子型を有する患者よりも長い生存期間を示した(p<0.05)。
【0055】
乳癌−乳癌は、ヨーロッパ及び米国の女性人口において最も一般的な腫瘍である。全女性の7〜10%が罹患し、女性癌総死亡率の25%を占める。乳癌の原因は依然として不明であるが、家族的素因、放射線被爆又はエストロゲンの影響のような危険因子が言及されてきた。大多数の患者は浸潤癌を有する。幾つかの例外を除いて、あらゆる手術可能な乳癌は、遠隔転移が検出されたとしても外科的に治療される。多様な根治初期外科治療は、多様な局所領域再発率をもたらすが、長期生存の機会はもたらさない。更に、再発又は遠隔転移は、極めて多くの場合に僅か5年後か、或いは0年後でさえも現れる場合がある。このため、これらの病巣を早期に検出すること及び後治療において患者を注意深く監視することが重要である。
【0056】
追跡検査は、暫定的な疑念がある場合、手術後10年間までも一定間隔で実施される。今まで、疾患の更なる経過に関して予測的である有効なマーカーはほとんどない。したがって、当面は、腫瘍の大きさ、転移、リンパ節の関与、ホルモン受容体の状態などのような古典的な因子が、予後に使用される。生存確率及び療法に対する反応のための遺伝子マーカーは、乳癌に罹患している患者の治療を実質的に改善するであろう。本発明の根底をなす課題は、CHK2における遺伝子変化の使用が、疾患の更なる経過を予測するのに適していることを示すことである。
【0057】
図17は、−10649−(−10621)del29多型と相関する乳癌を有する患者の生存を示す。ホモ接合体挿入を有する患者は、少なくとも1つの欠失対立遺伝子の保有者である患者と比較したとき、最高の生存率を示す。
【0058】
グリア芽細胞腫−神経膠腫(グリオーマ)は主に成人に発生する。原因は不明である。神経膠腫の組織構造は、悪性進行、拡散浸潤及び高い異質性である。最も一般的な悪性神経膠腫は、グリア芽細胞腫(WHOグレードIV)である。多くの場合、脳梁を介して脳の他の半球に広がる。治癒可能な外科療法は、グレードI神経膠腫(毛様細胞性星状細胞腫)の場合においてのみ可能である。他の神経膠腫は全て再発する。現在、これらは不治である。生存期間中央値は、グリア芽細胞腫では6〜8ヶ月である。術後放射線照射無しでは、生存期間中央値は僅か2〜3ヶ月である。現在、この重篤な疾患の経過に対して予測的であるマーカーはない。
【0059】
生存及び療法に対する反応の予後のための遺伝子マーカーは、グリア芽細胞腫に罹患している患者の治療を実質的に改善するであろう。本発明の根底をなす課題は、CHK2における遺伝子変化の使用が、疾患の更なる経過を予測するのに適していることを示すことである。
【0060】
図18A及びBは、−10649−(−10621)del29多型が、グリア芽細胞腫の場合、疾患の経過に対して効果を有することを示す。
【0061】
挿入対立遺伝子を有する患者は、より長期間の生存を示し、より長期間の無再発生存も示す。平均では、挿入がホモ接合体である患者は、390日間再発がないが、欠失対立遺伝子を有する患者は、僅か206日間だけ再発がない。−7235C>G多型も疾患の経過と相関する(図18C及びD)。CC遺伝子型を有する患者は、GG遺伝子型を有する患者よりも長く生存し、ヘテロ接合体の被験者は、その中間の生存期間を有し、遺伝子量効果にとって好ましい。CC遺伝子型を有する患者の無再発期間も、G対立遺伝子の保有者である患者と比較したとき、最長である。
【0062】
前立腺癌−前立腺癌は、男性患者にとって2番目に多い悪性腫瘍である。全ての腫瘍疾患の9〜11%を占め、罹患率が増加している。症例の50%超が70歳を超える患者である。早期診断のために、前立腺特異抗原(prostate-specific antigen;PSA)のレベルを測定することが可能である。この種類の早期診断検査は、50歳を超え、かつ10年を超える平均余命を有する男性に有用である。しかしながら、PSA値の意義は争点となっている。PSAは、直腸検査の前に取る必要があるが、その理由はそうでなければPSA値が誤って高くなるからである。更に、PSA値の増加は、良性の前立腺炎により生じ得る。初期段階において、前立腺癌は、尿道から離れた部位で発症するのでほぼ無症候性である。このため、早期診断の自己検査は不可能である。5年生存率は、フロックス(Flocks)病期Cの前立腺癌では60%であるが、10年後では、生存確率は僅か30%であり、15年後では僅か20%である。今まで、疾患の更なる経過に対して予測的である有効なマーカーはほとんどない。
【0063】
生存確率及び療法に対する反応のための遺伝子マーカーは、患者の治療を実質的に改善するであろう。図19は、−7161G>A多型と相関する生存を示す。少なくとも1つのG対立遺伝子を有する患者は、AA遺伝子型を有する患者よりも良好な生存を示す。G対立遺伝子保有者の生存中央値は2650日であるが、AA遺伝子型の保有者は、僅か220日の生存を示す。これらの結果は、本明細書に記載されている目的においてCHK2遺伝子における遺伝子変化の有用性を疑い無く示す。先験的に、これらの疾患の間に関連性はない。
【0064】
疾患の経過及び療法に対する反応を予測するためのCHK2遺伝子における遺伝子変化の使用
本発明の意義の範囲内にある薬理遺伝学は、医薬品の効能、医薬品の有効性及び性能、並びに望ましくない作用の発生の診断に関する。医薬品の効能及び/又は望ましくない副作用の発生の定義において、化学的に定義された製品の特定物質の特性に加えて、多様なパラメーターが用いられる。2つの重要なパラメーターである達成可能な血漿濃度及び達成可能な血漿半減期は、医薬品の効能若しくは無効能又は望ましくない作用の発生をかなりの程度まで決定する。血漿半減期の値は、とりわけ、特定の医薬品が肝臓又は身体の他の臓器において有効又は無効な代謝産物に代謝され、かつそれらが身体から排除される速度によって決定されるが、ここで排除は、腎臓、呼気、汗、精液、糞便又は他の身体分泌物を介して発生し得る。更に、経口投与の場合、効能は、いわゆる「初回通過効果」("first-pass effect")により制限されるが、その理由は、腸による医薬品の吸収の後、肝臓において特定量の医薬品が無効な代謝産物に代謝されるからである。
【0065】
代謝酵素の遺伝子における変異又は多型は、アミノ酸組成が改変されるような態様で、これらの活性を変化させることができ、それによって、代謝される基質への親和性は増加又は減少し、したがって、代謝は加速又は減速し得る。同様に、トランスポータータンパク質における変異又は多型は、身体からの輸送、及びその結果排除が加速又は減速するように、アミノ酸組成を改変し得る。
【0066】
患者に最適な基質の選択、最適な投与量、最適な投与形態及び望ましくない副作用(これらの一部は有害又は致死的である)の回避のために、遺伝子産物の変化をもたらす遺伝子多型又は変異の知識が極めて重要となる。
【0067】
化学療法薬及び放射線療法のためのチェックポイントキナーゼ2の意義
遺伝子不安定性は全ての腫瘍において特徴的であり、腫瘍形成、進行及び医薬品に対する抵抗性の発生においても役割を果たす。大部分の腫瘍細胞は、それら腫瘍細胞に生存優位性をもたらす欠損G1−Sチェックポイントを有する。しかしながら、この欠損は、ゲノム完全性を脅かす刺激が存在する場合、腫瘍細胞がG2チェックポイントに高度に依存することを意味する。CHK2は、DNA損傷が生じる場合、G1チェックポイントの維持に関与する。したがって、CHK2の活性化、ゆえにG1チェックポイントの回復は、治療抵抗性を回避する可能性をもたらす。CHK2の欠失は、放射線に対する抵抗性を引き起こすことが既に示されている。この抵抗性をCHK2活性化剤により逆転し得る。CHK2もG2チェックポイントに影響を及ぼすので、その阻害、及びしたがってG2チェックポイントの脱活性化は、遺伝毒性物質により引き起こされるDNA損傷及び変化が蓄積し得ること、及びそれらは腫瘍細胞の死を引き起こすと言うことの可能性を提供することができる。
【0068】
伝子発現に影響を及ぼすCHK2における遺伝子変化が発生する場合、これは、これらのCHK2阻害剤の効力に対して作用を有する。遺伝子型依存性CHK2発現の低い患者は、CHK2発現の高い患者よりも阻害剤に対して良好な反応を示すことが予想される。更に、これは、化学療法剤及び免疫療法剤並びに/又は放射線を使用する、CHK2阻害剤の併用療法に影響を及ぼす可能性があることを意味する。同じことが、CHK2活性化剤にも当てはまる。遺伝子型依存性CHK2発現の高い患者は、CHK2発現の低い患者よりも阻害剤に対して良好な反応を示すことが予想される。これは、抗癌薬及び治療手段に対する反応の一般的な潜在性についての個別の診断の可能性、並びにこれらの療法の望ましくない作用の危険性に関する個別の予測の可能性をもたらす。
【0069】
CHK2発現の遺伝子型依存診断は、化学療法剤及び放射線の効力、これらの最適な投与量、並びに副作用の発生の一般的な診断を可能にする。
化学療法は、その損傷効果が特定の癌細胞に対して可能な限り正確に標的化されており、且つそれらを死滅させ、又はそれらの増殖を阻害する物質を使用する。特定の用量の細胞増殖抑制剤は、進行する療法によって不変のままでいる標的細胞の特定の割合しか死滅させることができない。このため、腫瘍がもはや検出されない場合でも、化学療法を治療の期間中に縮小してはならない。むしろ、縮小した治療は、耐性腫瘍細胞クローンを選択してしまうことが予想される。化学療法は、短い間隔で適用され、ほぼ全ての場合において、2つ以上の細胞増殖抑制剤が、効能を増加するために組み合わされる。このため、療法は、共通毒性基準(Common Toxicity Criteria)に従って分類される副作用も引き起こす。これらの基準には、白血球及び血小板の数、嘔気、嘔吐、下痢及び口内炎が含まれる。
【0070】
放射線療法は、悪性腫瘍を治癒するための高エネルギー電離放射線の適用である。そのような悪性腫瘍は、多くの場合、化学療法と放射線療法の組合せにより治療される。多数の腫瘍疾患を、進行期であってもこの方法で治癒することができる。副作用を制限するために、放射線は、数多くの1日単一線量で分布され、数週間にわたって投与される。それにもかかわらず、発赤、嘔気、下痢又は脱毛のような副作用が、投与量、侵入度及び単一線量の数に応じて生じる。
【0071】
本発明は、チェックポイントキナーゼ2の活性化能、及び故にG1及びG2チェックポイントの活性化能の診断に一般的に適している方法を開発することに基づいている。このため、CHK2遺伝子における1つ以上の多型が解析される。高い発現は、チェックポイントの活性化能の予測通りの増加に関与し、したがって、損傷の後、DNAの修復機構を実施するのに十分な時間を提供する。CHK2発現が低いと、チェックポイントは活性化能が低く、DNA損傷は、全く修復されないか又は十分に修復されない。したがって、薬剤、特に細胞増殖抑制薬の効能及び望ましくない作用、並びに放射線のような腫瘍細胞のゲノムに損傷を与える他の治療形態の効力及び望ましくない作用についてのCHK2診断における多型の存在の検出である。更に、CHK2におけるそのような多型を使用して、CHK2阻害剤と組合せた医薬品の効果を診断することができる。加えて、CHK2における対立遺伝子又はハロタイプの状態の診断を使用して、薬剤の個別の最適かつ許容可能な用量を決定することができる。
【0072】
チェックポイントキナーゼ2及びチェックポイントの活性化能の増加又は低減の診断のために、特に、本明細書に記載されているCHK2多型の検出が、単独で又は考えられる全ての組合せにおいて使用される。
【0073】
更に、これらの多型と連鎖不均衡にあり、及び/又は選択的スプライシングプロセス若しくは発現を増強若しくは阻害する、遺伝子CHK2における他の全ての遺伝子変化を使用することができる。
【0074】
遺伝子変化は、直接的な塩基配列決定、切断解析(restriction analysis)、リバース・ハイブリダイゼーション、ドットブロット又はスロットブロット法、質量分析法、タックマン(Taqman)(登録商標)又はライトサイクラー(LightCycler)(登録商標)技術、パイロシーケンシング(pyrosequencing)などの当業者に既知の任意の方法を使用して検出することができる。更に、これらの遺伝子多型を、DNAチップに対する多重PCR及びハイブリダイゼーションにより、同時に検出することができる。Gタンパク質の活性化能の増加の診断のためには、CHK2又はCHK2のスプライシング変異体の発現レベルの直接的な検出を可能にする他の方法を使用することもできる。
【0075】
記述された方法は、腫瘍細胞のDNAを損傷する物質の効果を診断するのに特に適している。これらの物質には、オキサリプラチン、5−フルオロウラシル、葉酸、イリノテカン、カペシタビン及びシスプラチンが含まれるが、これらリストは任意に拡大することができる。更に、免疫療法剤(例えば、インターフェロン若しくはインターロイキン)又は腫瘍細胞におけるシグナル伝達の阻害剤の効果を予測することが可能である。
【0076】
更に、ガンマ線、X線、電子、中性子、陽子及び炭素イオンによる照射などの、放射線治療手段の効果を予測することが可能であるが、これらリストは任意に拡大することができる。より広い意味において、放射線療法は、マイクロ波及び熱波の医学的使用、光線及びUV療法、並びに超音波照射による治療も意味する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】最も重要なチェックポイントを有する細胞周期の概略図である。
【図2】CHK2調節チェックポイントでの反応カスケードのグラフ図である。
【図3】ヒトCHK2遺伝子のイントロン/エクソン構造(忠実な尺度ではない)を示す図である。
【図4】幾つかのCHK2阻害剤の構造式を示す図である。
【図5】CHK2遺伝子における多型の概略図(忠実な尺度ではない)である。
【図6】ハプロビュー(Haploview)プログラムを用いたCHK2のプロモーター多型の連鎖分析の結果を示す図である。
【図7】CHK2遺伝子のプロモーターにおける転写因子の推定結合部位を示す図である。
【図8】CHK2の−7235C>G多型の異なる対立遺伝子を含有する構築物を用いた電気泳動度移動アッセイ(Electrophoretic Mobility Shift Assay(EMSA))の結果を示す図である。
【図9】CHK2の−10649−(−10621)del29多型の異なる対立遺伝子を含有する構築物を用いた電気泳動度移動アッセイ(Electrophoretic Mobility Shift Assay(EMSA))の結果を示す図である。
【図10】fSEAPレポーターアッセイにより決定された、−10649−(−10621)del29多型に依存するCHK2プロモーター活性を示す図である。
【図11】−7161G>A多型に依存するCHK2 mRNAの発現を示す図である。
【図12】−7235C>G多型に依存するCHK2 mRNAの発現を示す図である。
【図13】乳癌を罹患している女性患者の−10649−(−10621)del29多型に依存するCHK2 mRNAの発現を示す図である。
【図14】−7161G>A多型の遺伝子型に依存する結腸直腸癌に罹患する患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis)を示す図である。
【図15】−7235C>G多型の遺伝子型に依存する慢性リンパ性白血病に罹患する患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis)を示す図である。
【図16】病期(ステージ)3及び4の腎細胞癌に罹患している患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis)を示す図である。
【図17】−10649−(−10621)del29多型の遺伝子型に依存する乳癌に罹患する患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis)を示す図である。
【図18】グリア芽細胞腫を罹患している患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis)を示す図である。
【図19】−7161G>A多型の遺伝子型に依存する前立腺癌に罹患する患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis)を示す図である。
【図20】結腸直腸癌に関する−7235C>G多型と生存との相関関係を調べた結果を示す図である。
【図21】放射線化学療法を受けた喉頭癌患者の生存曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0078】
以下の実施例は、疾患の危険性及び疾患の経過を予測するためのCHK2における遺伝子変化の使用を更に説明するためのものである。
【実施例】
【0079】
CHK2多型について異なる腫瘍集団及び健常対照で遺伝子型を決定し、遺伝子型及び/又は対立遺伝子の分布を比較した。この関係において、遺伝子型及び対立遺伝子の分布に有意な差が観察された。CHK2の発現の増加が好都合であるか又は不都合であるかを一般的に予測することは可能ではない。したがって、CHK2における多型は疾患の危険性を予測するのに適している。危険対立遺伝子又は危険遺伝子型(単独又は組合せ)による疾患の危険度は、95%信頼区間(95%CI)及びp値と共に「オッズ比」(OR)として示される。
【0080】
実施例1
結腸直腸癌の患者(n=143)対対照(n=235)
【表2】
【0081】
対立遺伝子又は遺伝子型分布は有意に異なる(それぞれ、p=0.05及び0.048);
OR A対G=1.534(95%CI=0.997〜2.361)p=0.05;
OR CG対CC=2.486(95%CI=1.056〜5.851)p=0.034。
【0082】
このように結腸癌を発症する危険性の増加は、−7161A対立遺伝子の保有者に起因し得る。したがって、CHK2 mRNAの発現の低減は、疾患発症の危険性の増加と関連する。
【0083】
実施例2
結腸直腸癌の場合における−7235C>G多型と生存との相関関係
−7235C>G多型の遺伝子型と結腸直腸癌を有する患者の生存との間に相関関係があるかを更に調査した。これを以下の図20に示す。
【0084】
この図から、−7235CC遺伝子型を有する患者の生存率が明らかに低いことが分かる。
【0085】
したがって、結腸癌を発症する危険性の増加は、−7161A対立遺伝子及び72−7235CG遺伝子型それぞれの保有者に起因し得る。したがって、CHK2 mRNAの発現の低減は、疾患の危険性の増加と関連する。
【0086】
実施例3
慢性リンパ性白血病の患者(CLL、n=166)対対照(n=234)
【表3】
【0087】
遺伝子型分布は有意に異なる(p=0.039)。以下の危険度(OR)がCLLについて計算され得る:
OR CG対CC=3.044(95%CI=1.246〜7.435)p=0.012;
OR GG+CG対CC=2.7(95%CI=1.2〜6.4)p=0.024。
【0088】
実施例4
グリア芽細胞腫の患者(n=198)対対照(n=235)
【表4】
【0089】
対立遺伝子及び遺伝子型分布は有意に異なる(それぞれ、P=0.017及びP=0.039)。
以下の危険度が計算され得る:
OR A対G:1.613(95%CI=1.088〜2.393);p=0.021;
OR AA対GG:3.890(95%CI=1.229〜12.31);p=0.019;
OR AA+AG対GG:3.73(95%CI=1.2〜11.8);p=0.021。
【0090】
したがって、グリア芽細胞腫を発症する危険性の増加は、−7161A対立遺伝子及び−7161AA/AG遺伝子型それぞれの保有者に起因し得る。結果として、CHK2 mRNAの発現の低減は、疾患発症の危険性の増加と関連する。
【0091】
実施例5
−7235C>G多型に依存するグリア芽細胞腫を有する患者の生存のコックス回帰
以下の表は、全切除後のグリア芽細胞腫患者の腫瘍原因死の多変量コックス回帰モデルの結果を示す(HR=危険率(ハザード比)、*=基準、CI=信頼区間、ED=一次診断〔ドイツ語:最初の診断(Erstdiagnose)〕、m=男性、w=女性〔ドイツ語::女性(weiblich)〕)。
【0092】
【表5】
一次診断時の年齢:58.84±13.38
性別分布:M:65.4%;W:34.6%
【0093】
解析した−7235C>G多型が、グリア芽細胞腫を有する患者の生存の独立した予後因子あることを確認するために、患者の生存における全ての潜在的危険因子を含む多変量コックス回帰を実施した。腫瘍原因死の危険性は、C対立遺伝子の保有者よりもホモ接合体GGの保有者のほうが2.7倍高かった(CI:1.05〜7.03;P=0.040)。
【0094】
予期されたように、(放射線療法;放射線/化学療法)の種類の療法は、後に一次診断時の年齢(P=0.008)及び−7235C>G多型が続く、最良の予後因子であること(P=<0.001)、すなわち療法は死亡の危険性を低減することが証明された。
【0095】
実施例6
グリア芽細胞腫の場合における−10621del29多型及び生存に関して
以下の表は、全切除後のグリア芽細胞腫患者の腫瘍原因死の多変量コックス回帰モデルの結果を示す(HR=危険率(ハザード比)、*=基準、CI=信頼区間、ED=一次診断〔ドイツ語:最初の診断(Erstdiagnose)〕、m=男性、w=女性〔ドイツ語::女性(weiblich)〕)。
【0096】
【表6】
一次診断時の年齢:58.84±13.38
性別分布:M:65.4%;W:34.6%
【0097】
挿入対立遺伝子の保有者と比較すると、ホモ接合体欠失の保有者である患者は、この疾患の初期に死亡する、ほぼ3倍の高い危険性を有する(P=0.008)。予測されたように、この種類の療法は、後に一次診断時の年齢(P=0.005)及び解析された多型が続く、患者の生存における最良の予後因子(P=<0.001)である。
【0098】
実施例7
乳癌を有する女性患者(n=240)対女性対照(n=78)
【表7】
【0099】
遺伝子型分布は有意に異なる(p=0.003)。以下の危険度を計算することができる:OR ID対II:3.087(95%CI=1.590〜5.995)、p=0.001。
【0100】
実施例8
−7235C>G多型の遺伝子型に依存する喉頭癌患者の生存
以下の図21は、組合せの放射線化学療法を受けた喉頭癌患者の生存曲線を示す。
【0101】
この場合でも、カプラン・マイヤー曲線が有意に異なった(p=0.048)。放射線化学療法の適用後、CC遺伝子型を有する患者は、G対立遺伝子を保有する患者よりも有意に良好な生存を示した(P=0.048)。5年後、およそ90%のCC保有者が生存したが、ほぼ70%のG対立遺伝子の保有者は、その時点で死亡していた。これはコックス回帰により確認された。
【0102】
解析した多型が喉頭癌を有する患者の生存に関する独立した予後因子であることを確認するために、多変量コックス回帰を実施した。得られた結果を以下の表に示す。
【0103】
【表8】
【0104】
ホモ接合体CC保有者との比較において、ヘテロ接合体GC保有者は、9倍高い腫瘍原因死の危険性を有し(CI:1.17〜71.34;P=0.035)、ホモ接合体GG遺伝子型は、7.8倍高い危険性を有した(CI:1.01〜60.70;P=0.049)。関連する多型は、唯一の独立した予後因子であることを証明している。患者の年齢に起因する危険性の変化はわずかである。したがって患者の年齢は、この場合では予後因子として関連性がない。
【0105】
放射線化学療法を受けた患者では、一次診断時の年齢が、後に−7235C>G多型が続く、最良の予後因子であること(P=0.013)が証明された。
【0106】
AJCCの欄は、腫瘍病期(ステージ)を提示しており、治療の成功に関して、1は最も好ましい段階を示し、4は最も好ましくない段階を示す。グレード1は、親組織と高度に類似した高分化悪性組織(「低悪性度」"low grade")を意味する。グレード3は、低分化悪性組織を意味する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌疾患を治療するための適切な療法を決定するための診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌療法の必須の側面は、まず第一に、正確な診断を確立することである。診断は、疾患の実際の病期についての知識を提供し、これは続いて使用されるべき療法の種類、例えば腫瘍の外科的除去、並びに任意に放射線及び薬物療法、また場合により物理的方法(例えば、温熱療法)の使用に関しても重要である。古典的な診断方法には、いわゆる「病期分類」("staging")及び「グレーディング」("grading")が含まれる。病期分類では、腫瘍の大きさ及びその侵襲性が記述され、リンパ節が影響を受けているか、及び遠隔転移があるかが検査される(例えば、TNM病期分類システム(TMN stagin system))。グレーディングは、低い悪性度は低分化又は脱分化細胞よりも高分化腫瘍細胞に起因すると言う、腫瘍細胞の組織学的検査である。この分類は、個々の患者のための予測について限定されたものであり、臨床経験から、同じ腫瘍病期を有する患者が明確に異なる疾患経過及び療法に対する異なる反応を示すことが示されており、このことは顕著に異なる生存期間によって最終的に明らかである。
【0003】
このため、診療には、癌疾患について向上した個別の予後を可能にする、追加のより正確なマーカーの提供が必要である。このことは、乳癌の場合におけるエストロゲンレセプター発現の分析のような組織化学的マーカーを使用することによって、実現することができる。
【0004】
代替的手法は、遺伝子欠損、例えば腫瘍抑制遺伝子における体細胞変異の探求である。新たな手法は、遺伝子発現プロファイルにより疾患の経過を予測しようと試みる。癌治療における別の問題としては、制癌剤の有効性、個別の最適投与量又は療法の継続期間に関する予測だけでなく、重篤で危険な副作用の発生に関する予測もある。例えば、イリノテカンによる治療処置を受けている数人の患者が重篤な有害作用に苦しむという事実は、UGT1A1遺伝子の遺伝子多型が原因であり得る。事前の遺伝子分析は、治療を開始する前にそのような患者を同定し、投与量を調整することを可能にする。
【0005】
更に、生物工学的方法により製造された薬剤を使用する療法は高価であり、将来的には、治療の効力が個人的素因により見込みがあると思われる患者に限定されるであろう。
【0006】
悪性腫瘍の基本的特性
癌細胞は、接触阻害の欠失及び非制御的細胞増殖によって特徴付けられる。そのような変化は、自発的に、又は病原性毒素、いわゆる、ゲノムに損傷を与える発癌性物質により引き起こされる。そのような有害物質には、多くの化学物質、タバコの煙のみならず、UV光線も含まれる。更に、遺伝因子は、癌の発症において大きな役割を果たす。非制限的増殖とは別に、他の臓器に「娘腫瘍」(転移)を形成する傾向は、癌細胞の特徴である。転移は、血管又はリンパ管を介して規則的に拡散する。大多数の場合において、癌疾患は、不治であり、致死的である。治療手段は、原発性腫瘍及び転移の外科的除去を目的とする。更に、腫瘍を放射線で治療することが可能である。いわゆる細胞増殖抑制剤、特定のタンパク質若しくは表面マーカーに対する抗体又は免疫調節物質(サイトカイン、インターフェロン)が、急速に増殖する細胞を死滅させること又はアポトーシスを誘発することを試みるために使用される。
【0007】
特定の形態の療法に対する反応についての情報を提供し、或いは転移の発生、腫瘍進行及び生存に関する一般的な予測を可能にする、癌疾患の経過のための予後因子を定義することは大きな関連性がある。
【0008】
明らかに、病期分類及びグレーディングとは無関係に腫瘍疾患の経過を決定する、複数の、個別で未発見の生物学的変数が存在する。これらの因子には、宿主遺伝因子が含まれる。腫瘍の発生に関する予測を可能にする遺伝子マーカーを開発することが、更に望ましい。この種類のマーカーは、やがて更なるスクリーニング測定(血清学、X線撮影、超音波検査、MRTなど)が考慮される人を含む目的に役立つ。これは、初期の癌疾患を診断及び治療することを可能にし、回復及び生存の機会は、進行期の腫瘍よりも初期の腫瘍において有意に高い。
【0009】
DNA修復機構の意義
DNA修復機構により、細胞は、DNA構造の欠損修飾を排除することができる。DNAにおけるそのような損傷は、DNA複製の際に自発的に又は変異原物質、超高温若しくは電離放射線の影響により生じ得る。DNA損傷は、誤った形態で生じる有糸分裂のDNA複製、もはや合成されない若しくは誤った形態で合成されるタンパク質又は二本鎖切断後に切断される必須染色体領域を生じ得る。細胞の複雑な修復機構が成功しない場合、増殖及び休眠体細胞に蓄積している多数の欠損は、正常な細胞機能が欠損するほどの量まで増加する。生殖細胞において、娘細胞はもはや生存することができず、それは細胞株:細胞又は第二から第三継世代それぞれの不活性化をもたらし、細胞分裂の能力を失わせ、死滅させる。細胞周期の制御内において、制御タンパク質は細胞又はそのDNAが欠損していることを認識し、細胞周期の停止又はプログラム細胞死(アポトーシス)を誘導することができる。
【0010】
チェックポイントキナーゼ2の意義
細胞の最も重要な機能は、ゲノムの完全性を維持することである。このため、細胞周期内の全てのプロセスが正確に終了することを確実にする、多様な制御機構が存在する。これらの制御機構は、「チェックポイント[1]」と呼ばれる。これらは、用語が意味するように十分に画定されたポイントではなく、特定の条件化で開始されうる反応カスケードである。
【0011】
幾つかの細胞周期チェックポイントが今まで特徴決定されてきた。哺乳類において最も調査されたチェックポイントを図1に示す。一方、細胞周期の異なる段階でのDNAに対する損傷により活性化され得る、DNA損傷チェックポイントが存在する。この損傷は、放射線のような外因的な原因、並びに内因的な事象、例えば自然突然変異により誘発され得る。他方、複製チェックポイントは、不完全な又は欠損したDNA複製により活性される。紡錘体チェックポイント(スピンドルチェックポイント;spindle checkpoint)は、双極性紡錘体の形成、動原体(キネトコア)の付着及びセントロメア構造の形成を制御する。
【0012】
これらのプロセスが完全に終了しないか、或いは損傷が修復されない限り、細胞周期の次の段階への細胞の移行は、細胞のゲノム完全性が維持されることを確実にするために阻害される。
【0013】
チェックポイントキナーゼ2は、娘細胞への誤りの伝達が最小限になることを確実にする、細胞周期における必須の制御機構に関与する。異なるチェックポイントで活性化される関連するCHK2反応カスケードを図2に示す。DNA損傷によって、ATM(ataxia-telangiectasia, mutated;血管拡張性失調症変異)は、リン酸化され、したがって活性化される。次にATMは、アミノ酸位置68のトレオニン(Thr)におけるリン酸化を介してCHK2を活性化する。このリン酸化は、CHK2が自己リン酸化することができる、二量体形成の能力にとっての前提条件である。CHK2が、完全に活性化された形態で存在することができ、かつG1−、S−又はG2/M期の間の細胞周期停止、DNA修復系の活性化又はアポトーシスが欠損細胞において誘導され得る、そのエフェクターを活性化することができるのは、唯一この方法である。
【0014】
CHK2のエフェクターには、p53(腫瘍タンパク質53;tumor protein 53)が含まれ、p53はセリン(Ser)20においてCHK2によりリン酸化され、それによって安定化する。続いて、p53は、DNA損傷、アポトーシス及び細胞周期の制御に関与する因子を正に調節する。BRCA1(乳癌1遺伝子;breast cancer 1 gene)も、CHK2基質に属する。これは、Ser988においてCHK2によりリン酸化され、それによって、CHK2との複合体から放出され、次にこれにより、損傷を受けたDNAを修復するために細胞周期の停止に至る。CDC25C(細胞分裂周期25C;cell division cycle 25C)も、Ser216においてCHK2によりリン酸化され、それによって自己のホスファターゼ活性が阻害され、それは細胞質様式で分解される。この場合、Cdk1(サイクリン依存性キナーゼ1;cyclin-dependent kinase 1)は活性化することができず、したがって、損傷を受けたDNAを有する細胞が有糸分裂を開始するのが回避される。更に、CDC25Aは、Ser123においてCHK2によりリン酸化され、それよってユビキチン化し、プロテアソーム依存的な様式で分解される。このタンパク質は、細胞周期における細胞の進行に関して重要な役割を果たすが、分解によって阻害される。
【0015】
CHK2は、DNA損傷により開始されるシグナル伝達において重要な役割を果たす。CHK2の生理学的な重要性は、ノックアウトマウスを作製することによって解析した。Chk2-/+とChk2-/-のマウスが生存した。しかし、亜致死用量(8Gy)の放射線照射の後では、異なる長さの生存期間を示し、野生型及びChk2-/+マウスの生存期間中央値は、Chk2-/-マウスよりも有意に短かった。このように、Chk2-/-マウスは、放射線誘導アポトーシス速度の低減により引き起こされた放射線抵抗性を示した。G2/MチェックポイントはChk2-/-マウスにおいて影響を受けなかったが、G1/Sチェックポイントは、誘導することは可能であったが、維持することができなかった。これは、p53の転写活性の低減に対して引き起こされる。更に、腫瘍は、少なくとも1つの機能するChk2対立遺伝子を有するマウスと対照的に、Chk2-/-マウスにおいてのみ発症した。
【発明の概要】
【0016】
したがって、本発明の根底をなす課題は、癌疾患の自然歴及び任意の形態の療法に対する反応の予後の改善を可能にする方法を提供することにある。特に、当該方法は、DNA修復機構の増大が癌療法を困難にする患者を同定することも可能にすべきである。
【0017】
この課題は、癌疾患を発症する危険性、疾患の経過、薬剤の有効性及び癌疾患の治療における薬剤に関連した危険性を予測するためのインビトロ方法であって、患者の試料においてヒト染色体22q12.1上のCHK2遺伝子のプロモーター領域で1つ以上の遺伝子変化が探索され、かつ遺伝子変化は多型−7161G>A、多型−7235C>G、多型−10532G>A及び多型−10649−(−10621)del29から選択される、上記方法により解決される。
【0018】
上記目的のための上記多型の使用も、本発明の主題である。
【0019】
したがって、本発明は、以下を目的とする:
a.タンパク質発現の変化若しくはスプライシング変異体の発現の変化のいずれかをもたらすか、又は
b.CHK2遺伝子において更なる多型若しくはハロタイプをそれぞれ見出す及び/若しくは確認するのに適している、
CHK2遺伝子のプロモーターにおける機能修飾ゲノム多型を提供すること、
c.一般的な危険性及び疾患の経過を予測するのに適している多型を提供すること、
d.医薬品及び癌療法、特にCHK2阻害剤に対する反応、並びに副作用を一般に予測するのに適している多型を提供すること、
e.他の形態の療法(例えば、放射線、温熱、寒冷)の効果を一般に予測するのに適している多型を提供すること。
【0020】
ゲノム完全性の維持におけるCHK2の本来の意義によって、この種類の多型は、癌疾患の場合において疾患の危険性及び/又は疾患の経過を一般に予測すること、並びに/或いは療法に対する反応/療法の失敗又は全ての医薬品若しくは非薬物療法に対する望ましくない副作用を予測することに適している。
【0021】
CHK2遺伝子のプロモーターにおける多型の検出
CHK2遺伝子のプロモーター領域における3つの多型が知られており、これらは一般に利用可能なデータベースにおいて見出すことができる。これらの3つの多型が検出され、かつ確認されたのは、ヒトのDNA試料の系統的な塩基配列決定によってであった:−7161G>A(rs2236141)、−7235C>G(rs2236142)及び−10532G>A(rs5762767)(図5)。この目的のために、CHK2のプロモーター領域の遺伝子配列をPCR反応により増幅し、サンガーによる方法を使用して塩基配列の決定をした。この目的に必要な方法、例えば、PCR反応に必要となるプライマー対を誘導すること、及び配列決定用プライマーを選択することは、当業者に周知である。この関係において、29塩基対の欠失である新たな多型が見出された(−10649−(−10621)del29、dbSNP IDなし)(図5)。これらのSNPの番号付けは、番号+1が開始コドンATGのヌクレオチドAに割り当てられたものである。番号0は存在しないと理解されるので、番号−1は、開始コドンATGのAの前のヌクレオチドに割り当てられる。
【0022】
本発明の使用によるこの多型の検出は、当業者に既知の任意の方法、例えば、直接的な塩基配列決定、後続の切断解析(restriction analysis)を伴うPCR、リバース・ハイブリダイゼーション、ドットブロット又はスロットブロット法、質量分析法、タックマン(Taqman)(登録商標)又はライトサイクラー(LightCycler)(登録商標)技術、パイロシーケンス(Pyrosequencing)(登録商標)、インベーダー(Invader)(登録商標)技術、ルミネックス法により実施することができる。更に、これらの遺伝子多型を、DNAチップに対する多重ハイブリダイゼーション(multiplex hybridisation)及びハイブリダイゼーションにより、同時に検出することができる。
【0023】
原則として、人体の全ての細胞は悪性状態を生じる可能性があり、癌疾患をもたらす可能性がある。ここでの及び下記における説明は、腫瘍進行、転移及び療法に対する反応についての一般的な機構を記述するものである。この点に関して、本明細書及び請求項に記載される機構は、全てのヒト腫瘍に関連する。以下は、例としてのみ提示される。
【0024】
腎細胞癌、前立腺癌及び精上皮腫のような尿生殖器の腫瘍;乳癌、子宮体癌、卵巣癌、子宮頸癌などの女性生殖器系の腫瘍;口腔癌、食道癌、胃癌、肝癌、胆管癌、膵癌、結腸癌、直腸癌などの胃腸管の腫瘍;喉頭癌、気管支癌などの気道の腫瘍;悪性黒色腫、基底細胞腫及びt細胞リンパ腫などの皮膚の腫瘍;ホジキン及び非ホジキンリンパ腫、急性及び慢性白血病、形質細胞種などの造血系の腫瘍疾患;グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、髄芽細胞腫、髄膜肉腫、星状細胞腫などの脳及び神経組織それぞれの腫瘍疾患、並びに肉腫及び頭頸部腫瘍などの軟組織の腫瘍。
【0025】
CHK2遺伝子
ヒトGHK2遺伝子は、染色体22q12.1(ジーンバンク・アクセション番号:NM_007194)上に位置しており、核で発現する65kDの大きさのタンパク質をコードする。本文脈において、遺伝子は、「CHK2」及び「CHEK2」と称されることが指摘される。以下では、「CHK2」の名称が使用される。遺伝子構造の模式図は図3で見られる。CHK2の活性プロモーター領域の特徴は、既に決定されている。プロモーター配列は、転写因子SP1の多数の結合部位を含有し、その結合は転写活性を増強する。CHK2の正の調節も、CCAATボックスへのNF−Y結合の際に観察された。
【0026】
CHK2における体細胞変異
CHK2は、DNA損傷後のチェックポイント停止において重要な役割を果たし、かつ様々な腫瘍サプレッサー遺伝子がCHK2の基質であるので、潜在的な腫瘍サプレッサー遺伝子であると考えられている。今まで、散在性腫瘍、例えば、結腸直腸腫瘍、肺癌、前立腺癌、乳癌を有する一部の患者において、並びに複数腫瘍表現型であるリー・フラウメニ症候群(Li-Fraumeni syndrome)を有する患者において、この遺伝子における体細胞変異を検出することが可能であった。一塩基多型(SNP)と対照的に、これらの変異は、例えば、関連する患者の抹消血細胞では見出されない。
【0027】
CHK2における変化による腫瘍疾患の危険性
今まで、幾つかのケースにおいて、異なる腫瘍疾患によるCHK2における遺伝子変化を検出すること及びこれらを疾患の発症の危険性と関連づけることが可能であった。これらは、頻繁な遺伝子変異体ではないが、希な変異であり(頻度<1%)、健康な対照群よりも患者の大集団において多く検出され得た。現在まで、これらの希な変異のみならず、頻繁に発生するSNPも解析した研究は、1つしか発表されていない。この関係で、プロモーター多型−7161G>A(rs223641)も、乳癌の発症の危険性に関して解析された。しかしながら、関連性を検出することはできなかった(ベイネス(Baynes)ら、ATM、BRCA1、BRCA2、CHEK2及びTP53癌感受性遺伝子における一般的な変異は乳癌の危険性を増大する可能性は低い(Common variants in the ATM, BRCA1, BRCA2, CHEK2 and TP53 cancer susceptibility genes are unlikely to increase breast cancer risk.)、2007、ブリースト・キャンサー・リサーチ(Breast Cancer Res) 9:R27)。
【0028】
化学療法剤としてのCHK2阻害剤
チェックポイントが多くの調節カスケードに関与しているので、それらは制癌剤の適した標的である。チェックポイントタンパク質の特定の性質がこのことを説明する:(1)チェックポイントの複雑なシグナル伝達系は、攻撃のための複数の標的を提供する、(2)健常な細胞において、チェックポイントのいくつかは重要性が低いと考えられ、それは阻害剤の毒性を著しく低減する、(3)欠損チェックポイントの回復は、細胞増殖の減速をもたらす場合がある、(4)シグナル伝達系としてのチェックポイントは、中断され得る適応に付される、及び(5)損なわれたチェックポイントの回復は、癌細胞のアポトーシス速度を増加し、したがって特定の物質に対する感受性を増加し得る。
【0029】
遺伝子療法の手法を使用しておそらく最も容易に達成されるであろう、これらの目的に反して、チェックポイントの他の2つの特性は、達成することがより容易な標的である。欠損チェックポイントを有する細胞は、放射線及び細胞毒性物質に対して増加した感受性又は増加した抵抗性のいずれかを示す。CHK2の阻害は、DNA損傷剤に関して特にp53欠損細胞を感作すると考えられ、同時に、正常組織を損傷から、したがって副作用から保護する。このため、CHK2の阻害は、新たな抗癌薬を開発する有望な手法の一部である。
【0030】
様々なCHK2阻害剤が、それぞれ既に知られており、或いは既に開発されている。現在、多少非特異的な阻害剤であるUCN−01及びDBH(デブロモヒメニアルジシン)の他に、特定の強力なCHK阻害剤も利用可能である。これらには、CHK2阻害剤2(2−(4−(4−クロロフェノキシ)フェニル)−1H−ベンゾ(d)イミダゾール−5−カルボキサミド)、VRX0466617(5−(4−(4−ブロモフェニルアミノ)フェニル−アミノ)−3−ヒドロキシ−N−(1−ヒドロキシプロパン−2−イル)イソチアゾール−4−カルボキシミドアミド)及びNSC109555((2E,2′E)−2,2−(1,1′−(4,4′−カルボニル−ビス(アザンジイル)ビス(4,1−フェニレン))ビス(エタン−1−イル−1−イリデン))ビス(ヒドラジンカルボキシイミドアミド))が含まれ、これらは放射線療法の際に副作用の低減に寄与することができる(図4)。
【0031】
化学療法剤としてのCHK2活性化剤
しかしながら、CHK2活性化剤は癌療法において代替案となり得る。CHK2は、腫瘍形成の抑制において役割を果たし、その活性化は、DNA損傷剤が存在しない場合、腫瘍細胞が増殖状態から離れ、かつ死滅することを誘導することができる。更に、これは、強力なG2停止を誘導する。活性化戦略は、阻害剤の短所を補うことができる場合があり、腫瘍は非常に異質であり、このため、1つのシグナルカスケードのみを不活性化することが必ずしも十分と言うわけではない。多くの種類の腫瘍細胞に共通する維持された細胞周期機構の過剰活性化によって、この異質性は中和させることができる。
【0032】
−7161G>A、−7235C>GT、−10532G>A及び−10649−(−10621)del−29多型の分布、ハロタイプの検出、並びに更なる関連多型及びハロタイプを見出すためのこれらの遺伝子型の使用
このために、白人の異なるDNA試料の遺伝子型を決定した。結果を以下の表に示す。
【表1】
I=挿入、D=欠失
【0033】
更なる分析は、健常な白人のこれらのDNA試料において、特定の多型の間に連鎖不均衡があることを示した。連鎖不均衡という用語は、その頻度に関して予想されうるよりも、統計的に明確に頻繁又は希に組み合わせとして生じる対立遺伝子の組合せ(ハロタイプ)の発生を意味する。この関係において、多型−7161G>A及び−10532G>Aが互いに完全に連鎖することが観察された。対照的に、多型−7235C>G及び−10649−(−10621)del29は、互いに連鎖せず、他の二つの変異に対しては限定された程度でのみ連鎖する(図6A及びB)。連鎖の品質は、値D′及びr2により表される。D′=1及びr2=1は、有意な連鎖として参照される。これらの値が1に近づくほど、連鎖不均衡に近づく。これらの4つの多型から構成することができるハロタイプの計算は、7つの異なる対立遺伝子の組合せをもたらした。これらのプロモーター変異から生じる優先的なハロタイプは存在しない(図6C)。全ての可能な組合せを決定するために、4つの多型のうち少なくとも3つを検出する必要がある。
【0034】
これらの新たな多型を使用して、CHK2、又はGHK2遺伝子における遺伝子型と例えば連鎖不均衡にある隣接遺伝子における更なる関連するゲノム遺伝子変化を検出及び確認できることが、本発明の1つの主題である。しかしながら、これらは、CHK2遺伝子から遠く離れている染色体22に配置されている遺伝子でもありうる。このため、以下の手法が使用される。
1.特定の表現型(例えば、細胞特性、疾患の状態、疾患の経過、医薬組成物に対する反応)について、多型−7161G>A、−7235C>G、−10532G>A及び−10649−(−10621)del29との関連性が確立され、これらの関連性は、それぞれの遺伝子型に対して個別に、又はハロタイプの全ての順列を使用して、確立することができる。
2.CHK2又は隣接遺伝子において新たに検出された遺伝子変化に関して、既に存在する関連性が、上記遺伝子型又はハロタイプを用いることにより増強又は低減されるかを試験する。
【0035】
以下において図を簡潔に説明する。
図1:最も重要なチェックポイントを有する細胞周期の概略図。
図2:CHK2調節チェックポイントでの反応カスケードのグラフ図。
図3:ヒトCHK2遺伝子のイントロン/エクソン構造(忠実な尺度ではない)。
図4:幾つかのCHK2阻害剤の構造式。
図5:CHK2遺伝子における多型の概略図(忠実な尺度ではない)。
図6:ハプロビュー(Haploview)プログラムを用いたCHK2のプロモーター多型の連鎖分析;A−多型の互いの連鎖のグラフ図。黒色四角形はr2=1を示し;灰色四角形はr2<0.5を示し;明灰色四角形はr2<0.1を示す。B−個別の対立遺伝子の頻度及び連鎖の可能性;C−構成されたハロタイプの頻度;三角形で示された対立遺伝子は、いわゆるハロタイプ標識対立遺伝子(haplotype-tagging alleles)と呼ばれ、すなわちこれらの対立遺伝子は、ハロタイプを決定するために決定される必要がある。
図7:CHK2遺伝子のプロモーターにおける転写因子の推定結合部位;赤色で示されている塩基は、関連する多型の対立遺伝子を表す。
図8:CHK2の−7235C>G多型の異なる対立遺伝子を含有する構築物を用いた電気泳動度移動アッセイ(Electrophoretic Mobility Shift Assay(EMSA))の結果。細胞核抽出物の添加の後、C対立遺伝子への核タンパク質の結合の増加が観察される。結合は、置換しているオリゴヌクレオチドの存在により特異的に阻害される。
図9:CHK2の−10649−(−10621)del29多型の異なる対立遺伝子を含有する構築物を用いた電気泳動度移動アッセイ(Electrophoretic Mobility Shift Assay(EMSA))の結果。細胞核抽出物の添加の後、両方の対立遺伝子が、第2対立遺伝子が競合することができる転写因子の結合をもたらすことが観察される。しかし、転写因子はこの場合では異なる。
図10:fSEAPレポーターアッセイにより決定された、−10649−(−10621)del29多型に依存するCHK2プロモーター活性;**:p<0.01。
図11:−7161G>A多型に依存するCHK2 mRNAの発現。CHK2−/βアクチンmRNAの割合を示す。A:乳癌、B:CLL;**:p<0.01;*:p<0.05。
図12:−7235C>G多型に依存するCHK2 mRNAの発現。CHK2−/βアクチンmRNAの割合を示す。A:乳癌、B:CLL;**:p<0.05。
図13:乳癌を罹患している女性患者の−10649−(−10621)del29多型に依存するCHK2 mRNAの発現。CHK2−/βアクチンmRNAの割合を示す。
図14:−7161G>A多型の遺伝子型に依存する結腸直腸癌に罹患する患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis)。
図15:−7235C>G多型の遺伝子型に依存する慢性リンパ性白血病に罹患する患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis);*:p<0.05。
図16:病期(ステージ)3及び4の腎細胞癌に罹患している患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis)。A:−7161G>A多型の遺伝子型に依存する生存、B:−7161G>A多型の遺伝子型に依存する無進行生存、C:−7235C>G多型に依存する生存;***:p<0.001;*:p<0.05。
図17:−10649−(−10621)del29多型の遺伝子型に依存する乳癌に罹患する患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis)。
図18:グリア芽細胞腫を罹患している患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis)。A:生存、B:−10649−(−10621)del29多型の遺伝子型に依存する無再発生存、C:生存、D:−7235C>G多型に依存する無再発生存;**:p<0.01;*:p<0.05。
図19:−7161G>A多型の遺伝子型に依存する前立腺癌に罹患する患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis);**:p<0.01。
【0036】
CHK2遺伝子におけるプロモーター多型の機能的意義
どの機能修飾がCHK2遺伝子におけるプロモーター多型に寄与しうるかについての分析を実施した。プロモーターの遺伝子型及びハロタイプそれぞれに依存したCHK2タンパク質の選択的スプライシング、組織特異的発現又は過剰発現との相関が考えられる。この関係において、先ず、観察されたヌクレオチド置換が転写因子の結合に影響し得るかを見出すために、コンピュータープログラムを使用して解析を実施した。転写因子は、特定のコンセンサス配列に結合し、かつプロモーター活性を増加又は減少させる場合があり、その結果、このことは遺伝子の転写の増加又は低減をもたらし、コードするタンパク質の発現が増加又は低減する。図7に示されるように、全ての上記プロモーターSNPは、異なる転写因子(例えば、p53、NF−kB又はMef2)の結合部位のコンセンサス配列に位置しており、その結合は多型により損なわれる場合がある。特定の遺伝子型の発生は、これらの結合部位が欠失する、又はこれらがコンセンサス配列の変化により新たに形成されるという作用を有する。この作用の実験分析のために、いわゆるEMSA(電気泳動度移動アッセイ;electrophoretic mobility shift assay)を実施した。このアッセイでは、関連する多型を含有する短核酸セグメントを、細胞核抽出物と共にインキュベートする。次に、これらの抽出物に含有される転写因子タンパク質が、異なる強度で核酸セグメントと結合する。続いて、DNAへの結合を、X線フィルムを使用して可視化する。強力な結合は強いバンドを生じる。図8は、−7235C>G多型のC又はG対立遺伝子のいずれかを含有する特定の構築物によるこのアッセイの結果を示す。C−構築物のバンドの存在は、この領域への転写因子の結合を示す。G−構築物はこのバンドを有さず、これはこの対立遺伝子に結合する転写因子がないことを示す。特定のオリゴヌクレオチドによるバンド強度の減少は、結合転写因子が特異的に結合することを示す。図9は、−10649−(−10621)del29多型の挿入対立遺伝子又は欠失対立遺伝子のいずれかを含有する特定の構築物によるこのアッセイの結果を示す。対立遺伝子は両方とも、第2対立遺伝子が競合し得る転写因子の結合をもたらす。しかしながら、この場合では転写因子は異なる。図10は、欠失対立遺伝子への転写因子の結合が、欠失対立遺伝子におけるものよりも増加したプロモーター活性をもたらすことを更に示す。
【0037】
続いて、mRNAレベルでのCHK2の発現を、リアルタイムPCRによりヒト組織において解析した。このため、乳癌手術で得たヒト組織から、並びに白血病に罹患している患者の血液細胞からmRNAを採取し、逆転写酵素によりcDNAに転写した。この方法は当業者に知られている。続いて発現レベルを、リアルタイムPCR(タックマン(Taqman)法)を使用して決定し、ハウスキーピング遺伝子βアクチンの発現レベルと比較した。
【0038】
結果を図11〜13に示す。図11Aは、−7161G>A SNPのGG遺伝子型が乳癌においてGA遺伝子型よりも有意に高いmRNA発現を有することを示す。図11Bも、CLL患者におけるGG遺伝子型のmRNA発現の増加を示す。多型−7235C>Gも、遺伝子発現において対立遺伝子依存性の差を示す。図12A及び12Bに表される通り、C対立遺伝子保有者は、GG遺伝子型の保有者よりも有意に少ないCHK2 mRNAを有する。このことは、乳癌に罹患している患者及びCLL患者に当てはまる。図13は、乳癌に罹患している患者におけるホモ接合体欠失のmRNA発現の増加を表す。ホモ接合体挿入は、最小の発現を有する。ヘテロ接合体遺伝子型は、中間値を示す。この関係において、遺伝子量効果を観察することができる。
【0039】
このように、癌腫組織においてCHK2の発現の変化を引き起こす、CHK2遺伝子における遺伝子変化が存在することが証明された。これらは、上記プロモーター多型、又はSNPに対して連鎖不均衡を示す多型であってもよい。したがって、本発明の主題には、CHK2の発現を定量化すること、CHK2の既知の多型にそれを関連付けること、並びに新たなより良好に適した多型を発見し、かつ確認することも含まれる。
【0040】
本明細書に示されるヒト癌腫組織におけるCHK2の遺伝子型依存性発現に関する知見は極めて重要であり、それは、CHK2活性の低減が、マイクロサテライトの不安定性及び染色体不安定性(両方ともゲノムの不安定性の特徴の一部である)を引き起こす場合があり、したがって、腫瘍形成に好都合であり、腫瘍進行に対して負の効果を有すからである(アン(Ahn)ら、CHK2タンパク質キナーゼ(The CHK2 protein kinase.) 2004、DNAリペアー(DNA Repair) 3: 1039-1047)。更に、CHK2の当該遺伝子型依存性遺伝子発現は、CHK2阻害剤を用いる療法への反応に対して効果を有し得る。特定の遺伝子型、例えば−7235C>G多型のCC遺伝子型により素因が与えられた低い遺伝子発現が、他の遺伝子型よりもCHK2阻害剤に対してより強力な反応を示すことが予想される。したがって、例えば反応者と非反応者とを区別するために、CHK2遺伝子における遺伝子変化を用いて癌療法に対する反応を予測することができる。
【0041】
これらの遺伝子変化を、用量設定及び/又は薬剤の望ましくない副作用の発生の予測に使用することもできる。そのような癌療法は、広義には薬剤に基づくものであることができ、すなわち、物質を体に供給することであるか、又はこれらの癌療法の手段は、物理的効果(例えば、放射線、温熱、寒冷)を有することができる。
【0042】
したがって、我々は、特に腫瘍疾患の場合において、疾患の経過に対する効果、並びにCHK2の調節カスケードに影響を及ぼす物質に対する、又はCHK2を直接阻害する物質に対する変化した反応を想定する。
【0043】
疾患の危険性及び疾患の経過の予測のためのCHK2における遺伝子変化の使用
細胞周期の調節におけるチェックポイントキナーゼ2の主要な役割によって、本発明の必須の主題は、CHK2における遺伝子変化を用いることにより一般的な疾患の危険性及び疾患の経過を予測する可能性である。
【0044】
癌の多段階の進展は、正常細胞から癌細胞への形質転換、並びに正常細胞から良性及び場合により悪性の浸潤性腫瘍への形質転換を引き起こす遺伝子変化の蓄積を反映している。腫瘍抑制遺伝子及び癌原遺伝子における変化の蓄積は、腫瘍発生を加速し、放射線療法並びに化学療法に影響し得る。しかしながら、チェックポイントと同様に損なわれたDNA修復機構も腫瘍のゲノム不安定化の増加の原因であることが、ますます明確になってきている。チェックポイントがゲノム完全性の維持において中心的な役割を果たすので、多様で非常に異なる腫瘍疾患の経過は、遺伝子により決定された低下したチェックポイントの活性化能により影響を受ける。このことは、人体の全細胞で発現し、かつDNA損傷に対して細胞を保護するタンパク質の発現変化が、全ての生理学的及び病態生理学的過程に決定的な影響を有するか又は少なくともこれらを調節する細胞機能を調節することを意味する。更に、医薬品に対する反応は、特定の様式で影響を受ける。このことは、望ましい薬剤効果に当てはまるが、望ましくない薬剤効果にも当てはまる。
【0045】
チェックポイントタンパク質の機能修飾は、これらが高度に系統学的に維持されている経路であることから、多様な疾患に対する及び多様な疾患の経過に対する持続的な効果を有することが、科学文献において繰り返し仮定されてきた。この種類の遺伝子変化は、例えばリン酸化によりタンパク質の活性化を低減するか又は基質を選択的に低減する、チェックポイントタンパク質における構造改変変異であることができる。更に、発現レベルを変化させることができ、それによって、例えばアポトーシスを誘導する後続の反応カスケードの開始が低減され、或いは修飾機能を有するスプライシング変異体が発生し得る。これらの全ての変化は、癌に対する遺伝的素因であると考えられる。
【0046】
記載される例から、以下は明らかである。
1.偏在的に発現するタンパク質をコードする遺伝子における遺伝子変化は、多様な疾患及び疾患の多様な危険性に影響し、或いはそれらの原因となること、並びに
2.チェックポイントタンパク質は、人体におけるゲノム完全性の維持のための複雑なネットワークの一部であること。
【0047】
CHK2遺伝子における遺伝子変化を伴う疾患及び例えばCHK2タンパク質の変化した発現レベルによって決定される疾患は、例えば、任意の患者組織の良性及び悪性の新生物である。
【0048】
結果として、本発明の必須の主題は、全てのヒト癌疾患の予後因子としての、CHK2遺伝子における診断に関連する遺伝子変化を提供することにある。このことは、選択された例を使用して以下に説明される。
【0049】
結腸直腸癌−結腸直腸癌は、胃腸管における最も一般的な腫瘍型であり、世界中の腫瘍関連死の主な原因の一つである(癌総死亡率の12〜15%)。腫瘍切除後の5年生存率の中央値は、僅か50%である。疾患の経過を予測する標準的な方法は、TNM又はUIICC病期(ステージ)システムである。UICC病期III又はIVの患者は、UICC病期I又はIIの患者よりも一般に悪い予後を有する。補助的化学療法が、転移性結腸直腸癌(UICC病期III及びIV)の場合に適用され、放射線療法の局所効果を増強することができる。これらの患者の大多数は、再発及び転移を生じ、集中的な追跡治療が必要である。したがって、疾患の更なる経過を予測することができる適切なマーカーを同定し、かつ確立することが重要である。本発明の別の主題は、結腸直腸癌の更なる病歴を予測することができるように、CHK2における遺伝子変化を使用することである。
【0050】
図14は、UICCの病期III及びIVの結腸直腸腫瘍を罹患している患者における、−7161G>A多型に依存する生存に関する差を示す。GG遺伝子型を有する患者は、ヘテロ接合体GA遺伝子型を有する患者よりも長く生存する。
【0051】
慢性リンパ性白血病−慢性リンパ性白血病(CLL)の特徴は、多数の変性リンパ球である。全ての白血病疾患の合計30%が慢性リンパ性白血病である。発症の平均年齢は65歳である。CLLは、20年までは良性であり得、すなわち患者は、腫大したリンパ節、疲労及び食欲不振の他には何も症状を有さない。治療は、リンパ球の数が著しく増加し、赤血球及び血小板の比率が減少し、或いは他の合併症が生じた場合にのみ開始される。初期治療は、疾患の経過に対して何も効果を有さない。最も重要な治療手段は化学療法である。疾患が進展するほど、臓器系の変化に起因する健康障害が重要になる。疾患のビネー(Binet)病期に応じて、医師は予後の推定を確立することができる。CLLの病期は、とりわけ、血中及び骨髄中のリンパ球の数、脾臓及び肝臓の大きさ、並びに貧血の存在によって特徴付けられる。CLLは、免疫系に変化をもたらし、それによってこの疾患を罹患しているヒトは、他の種類の癌を発症するより大きな危険性を有する。しかしながら、患者は、ビネー系の同じ病期において非常に異なる疾患経過を示す。本発明の根底をなす課題は、CHK2遺伝子における遺伝子変化が、疾患の経過を予測するのに適していることを示すことである。
【0052】
このため、CLL患者では、CHK2における記載された遺伝子変化に関して遺伝子型を決定し、遺伝子状態を無進行生存と相関させた。図15は、−7235C>G多型に依存する生存を示す。CC/GC遺伝子型の保有者である患者は、ホモ接合体GGである患者よりも長期間生存する。
【0053】
腎細胞癌−腎臓細胞の場合、回復のチャンスは、腫瘍の大きさ及び腫瘍の増殖によって左右される。転移のない患者は、80%まで10年生存率を有するが、有意な個人間の変動がある。現在一般的である超音波技術の使用によって、多くの腫瘍が初期非転移病期において検出され、間に合うように治療することができる。遠隔転移が存在する場合、腎臓の外科的除去を、それに続くインターロイキン−2又はインターロイキン−アルファによる免疫療法と組み合わせることが可能である。このことは、身体の腫瘍細胞に対する防御を改善する。転移腎細胞癌の場合、インターフェロン、インターロイキン−2及び5−フルオロウラシルの組合せが、研究において36%の反応率を達成することができる。現在、腎細胞癌に罹患している患者の生存のための予測マーカーは存在しない。
【0054】
図16Aは、−7161G>A多型に依存する生存を示す。GG遺伝子型を有する患者は、GA及びAA遺伝子型を有する患者よりも有意に長期間生存する(p<0.05)。死亡までの平均期間は、GG保有者では115ヶ月であるが、AA遺伝子型を有する患者では、僅か9ヶ月である。同様のデータが、−7161G>A多型と相関する無進行生存に当てはまる(図16B)。また、この場合において、GG遺伝子型を有する患者は、観察期間にわたって最低の進行を示す。平均無進行生存は、GGでは52ヶ月であるが、AAでは僅か2ヶ月である(p<0.001)。−7235C>G多型も生存と関連する(図16C)。G対立遺伝子の保有者は、CC遺伝子型を有する患者よりも長い生存期間を示した(p<0.05)。
【0055】
乳癌−乳癌は、ヨーロッパ及び米国の女性人口において最も一般的な腫瘍である。全女性の7〜10%が罹患し、女性癌総死亡率の25%を占める。乳癌の原因は依然として不明であるが、家族的素因、放射線被爆又はエストロゲンの影響のような危険因子が言及されてきた。大多数の患者は浸潤癌を有する。幾つかの例外を除いて、あらゆる手術可能な乳癌は、遠隔転移が検出されたとしても外科的に治療される。多様な根治初期外科治療は、多様な局所領域再発率をもたらすが、長期生存の機会はもたらさない。更に、再発又は遠隔転移は、極めて多くの場合に僅か5年後か、或いは0年後でさえも現れる場合がある。このため、これらの病巣を早期に検出すること及び後治療において患者を注意深く監視することが重要である。
【0056】
追跡検査は、暫定的な疑念がある場合、手術後10年間までも一定間隔で実施される。今まで、疾患の更なる経過に関して予測的である有効なマーカーはほとんどない。したがって、当面は、腫瘍の大きさ、転移、リンパ節の関与、ホルモン受容体の状態などのような古典的な因子が、予後に使用される。生存確率及び療法に対する反応のための遺伝子マーカーは、乳癌に罹患している患者の治療を実質的に改善するであろう。本発明の根底をなす課題は、CHK2における遺伝子変化の使用が、疾患の更なる経過を予測するのに適していることを示すことである。
【0057】
図17は、−10649−(−10621)del29多型と相関する乳癌を有する患者の生存を示す。ホモ接合体挿入を有する患者は、少なくとも1つの欠失対立遺伝子の保有者である患者と比較したとき、最高の生存率を示す。
【0058】
グリア芽細胞腫−神経膠腫(グリオーマ)は主に成人に発生する。原因は不明である。神経膠腫の組織構造は、悪性進行、拡散浸潤及び高い異質性である。最も一般的な悪性神経膠腫は、グリア芽細胞腫(WHOグレードIV)である。多くの場合、脳梁を介して脳の他の半球に広がる。治癒可能な外科療法は、グレードI神経膠腫(毛様細胞性星状細胞腫)の場合においてのみ可能である。他の神経膠腫は全て再発する。現在、これらは不治である。生存期間中央値は、グリア芽細胞腫では6〜8ヶ月である。術後放射線照射無しでは、生存期間中央値は僅か2〜3ヶ月である。現在、この重篤な疾患の経過に対して予測的であるマーカーはない。
【0059】
生存及び療法に対する反応の予後のための遺伝子マーカーは、グリア芽細胞腫に罹患している患者の治療を実質的に改善するであろう。本発明の根底をなす課題は、CHK2における遺伝子変化の使用が、疾患の更なる経過を予測するのに適していることを示すことである。
【0060】
図18A及びBは、−10649−(−10621)del29多型が、グリア芽細胞腫の場合、疾患の経過に対して効果を有することを示す。
【0061】
挿入対立遺伝子を有する患者は、より長期間の生存を示し、より長期間の無再発生存も示す。平均では、挿入がホモ接合体である患者は、390日間再発がないが、欠失対立遺伝子を有する患者は、僅か206日間だけ再発がない。−7235C>G多型も疾患の経過と相関する(図18C及びD)。CC遺伝子型を有する患者は、GG遺伝子型を有する患者よりも長く生存し、ヘテロ接合体の被験者は、その中間の生存期間を有し、遺伝子量効果にとって好ましい。CC遺伝子型を有する患者の無再発期間も、G対立遺伝子の保有者である患者と比較したとき、最長である。
【0062】
前立腺癌−前立腺癌は、男性患者にとって2番目に多い悪性腫瘍である。全ての腫瘍疾患の9〜11%を占め、罹患率が増加している。症例の50%超が70歳を超える患者である。早期診断のために、前立腺特異抗原(prostate-specific antigen;PSA)のレベルを測定することが可能である。この種類の早期診断検査は、50歳を超え、かつ10年を超える平均余命を有する男性に有用である。しかしながら、PSA値の意義は争点となっている。PSAは、直腸検査の前に取る必要があるが、その理由はそうでなければPSA値が誤って高くなるからである。更に、PSA値の増加は、良性の前立腺炎により生じ得る。初期段階において、前立腺癌は、尿道から離れた部位で発症するのでほぼ無症候性である。このため、早期診断の自己検査は不可能である。5年生存率は、フロックス(Flocks)病期Cの前立腺癌では60%であるが、10年後では、生存確率は僅か30%であり、15年後では僅か20%である。今まで、疾患の更なる経過に対して予測的である有効なマーカーはほとんどない。
【0063】
生存確率及び療法に対する反応のための遺伝子マーカーは、患者の治療を実質的に改善するであろう。図19は、−7161G>A多型と相関する生存を示す。少なくとも1つのG対立遺伝子を有する患者は、AA遺伝子型を有する患者よりも良好な生存を示す。G対立遺伝子保有者の生存中央値は2650日であるが、AA遺伝子型の保有者は、僅か220日の生存を示す。これらの結果は、本明細書に記載されている目的においてCHK2遺伝子における遺伝子変化の有用性を疑い無く示す。先験的に、これらの疾患の間に関連性はない。
【0064】
疾患の経過及び療法に対する反応を予測するためのCHK2遺伝子における遺伝子変化の使用
本発明の意義の範囲内にある薬理遺伝学は、医薬品の効能、医薬品の有効性及び性能、並びに望ましくない作用の発生の診断に関する。医薬品の効能及び/又は望ましくない副作用の発生の定義において、化学的に定義された製品の特定物質の特性に加えて、多様なパラメーターが用いられる。2つの重要なパラメーターである達成可能な血漿濃度及び達成可能な血漿半減期は、医薬品の効能若しくは無効能又は望ましくない作用の発生をかなりの程度まで決定する。血漿半減期の値は、とりわけ、特定の医薬品が肝臓又は身体の他の臓器において有効又は無効な代謝産物に代謝され、かつそれらが身体から排除される速度によって決定されるが、ここで排除は、腎臓、呼気、汗、精液、糞便又は他の身体分泌物を介して発生し得る。更に、経口投与の場合、効能は、いわゆる「初回通過効果」("first-pass effect")により制限されるが、その理由は、腸による医薬品の吸収の後、肝臓において特定量の医薬品が無効な代謝産物に代謝されるからである。
【0065】
代謝酵素の遺伝子における変異又は多型は、アミノ酸組成が改変されるような態様で、これらの活性を変化させることができ、それによって、代謝される基質への親和性は増加又は減少し、したがって、代謝は加速又は減速し得る。同様に、トランスポータータンパク質における変異又は多型は、身体からの輸送、及びその結果排除が加速又は減速するように、アミノ酸組成を改変し得る。
【0066】
患者に最適な基質の選択、最適な投与量、最適な投与形態及び望ましくない副作用(これらの一部は有害又は致死的である)の回避のために、遺伝子産物の変化をもたらす遺伝子多型又は変異の知識が極めて重要となる。
【0067】
化学療法薬及び放射線療法のためのチェックポイントキナーゼ2の意義
遺伝子不安定性は全ての腫瘍において特徴的であり、腫瘍形成、進行及び医薬品に対する抵抗性の発生においても役割を果たす。大部分の腫瘍細胞は、それら腫瘍細胞に生存優位性をもたらす欠損G1−Sチェックポイントを有する。しかしながら、この欠損は、ゲノム完全性を脅かす刺激が存在する場合、腫瘍細胞がG2チェックポイントに高度に依存することを意味する。CHK2は、DNA損傷が生じる場合、G1チェックポイントの維持に関与する。したがって、CHK2の活性化、ゆえにG1チェックポイントの回復は、治療抵抗性を回避する可能性をもたらす。CHK2の欠失は、放射線に対する抵抗性を引き起こすことが既に示されている。この抵抗性をCHK2活性化剤により逆転し得る。CHK2もG2チェックポイントに影響を及ぼすので、その阻害、及びしたがってG2チェックポイントの脱活性化は、遺伝毒性物質により引き起こされるDNA損傷及び変化が蓄積し得ること、及びそれらは腫瘍細胞の死を引き起こすと言うことの可能性を提供することができる。
【0068】
伝子発現に影響を及ぼすCHK2における遺伝子変化が発生する場合、これは、これらのCHK2阻害剤の効力に対して作用を有する。遺伝子型依存性CHK2発現の低い患者は、CHK2発現の高い患者よりも阻害剤に対して良好な反応を示すことが予想される。更に、これは、化学療法剤及び免疫療法剤並びに/又は放射線を使用する、CHK2阻害剤の併用療法に影響を及ぼす可能性があることを意味する。同じことが、CHK2活性化剤にも当てはまる。遺伝子型依存性CHK2発現の高い患者は、CHK2発現の低い患者よりも阻害剤に対して良好な反応を示すことが予想される。これは、抗癌薬及び治療手段に対する反応の一般的な潜在性についての個別の診断の可能性、並びにこれらの療法の望ましくない作用の危険性に関する個別の予測の可能性をもたらす。
【0069】
CHK2発現の遺伝子型依存診断は、化学療法剤及び放射線の効力、これらの最適な投与量、並びに副作用の発生の一般的な診断を可能にする。
化学療法は、その損傷効果が特定の癌細胞に対して可能な限り正確に標的化されており、且つそれらを死滅させ、又はそれらの増殖を阻害する物質を使用する。特定の用量の細胞増殖抑制剤は、進行する療法によって不変のままでいる標的細胞の特定の割合しか死滅させることができない。このため、腫瘍がもはや検出されない場合でも、化学療法を治療の期間中に縮小してはならない。むしろ、縮小した治療は、耐性腫瘍細胞クローンを選択してしまうことが予想される。化学療法は、短い間隔で適用され、ほぼ全ての場合において、2つ以上の細胞増殖抑制剤が、効能を増加するために組み合わされる。このため、療法は、共通毒性基準(Common Toxicity Criteria)に従って分類される副作用も引き起こす。これらの基準には、白血球及び血小板の数、嘔気、嘔吐、下痢及び口内炎が含まれる。
【0070】
放射線療法は、悪性腫瘍を治癒するための高エネルギー電離放射線の適用である。そのような悪性腫瘍は、多くの場合、化学療法と放射線療法の組合せにより治療される。多数の腫瘍疾患を、進行期であってもこの方法で治癒することができる。副作用を制限するために、放射線は、数多くの1日単一線量で分布され、数週間にわたって投与される。それにもかかわらず、発赤、嘔気、下痢又は脱毛のような副作用が、投与量、侵入度及び単一線量の数に応じて生じる。
【0071】
本発明は、チェックポイントキナーゼ2の活性化能、及び故にG1及びG2チェックポイントの活性化能の診断に一般的に適している方法を開発することに基づいている。このため、CHK2遺伝子における1つ以上の多型が解析される。高い発現は、チェックポイントの活性化能の予測通りの増加に関与し、したがって、損傷の後、DNAの修復機構を実施するのに十分な時間を提供する。CHK2発現が低いと、チェックポイントは活性化能が低く、DNA損傷は、全く修復されないか又は十分に修復されない。したがって、薬剤、特に細胞増殖抑制薬の効能及び望ましくない作用、並びに放射線のような腫瘍細胞のゲノムに損傷を与える他の治療形態の効力及び望ましくない作用についてのCHK2診断における多型の存在の検出である。更に、CHK2におけるそのような多型を使用して、CHK2阻害剤と組合せた医薬品の効果を診断することができる。加えて、CHK2における対立遺伝子又はハロタイプの状態の診断を使用して、薬剤の個別の最適かつ許容可能な用量を決定することができる。
【0072】
チェックポイントキナーゼ2及びチェックポイントの活性化能の増加又は低減の診断のために、特に、本明細書に記載されているCHK2多型の検出が、単独で又は考えられる全ての組合せにおいて使用される。
【0073】
更に、これらの多型と連鎖不均衡にあり、及び/又は選択的スプライシングプロセス若しくは発現を増強若しくは阻害する、遺伝子CHK2における他の全ての遺伝子変化を使用することができる。
【0074】
遺伝子変化は、直接的な塩基配列決定、切断解析(restriction analysis)、リバース・ハイブリダイゼーション、ドットブロット又はスロットブロット法、質量分析法、タックマン(Taqman)(登録商標)又はライトサイクラー(LightCycler)(登録商標)技術、パイロシーケンシング(pyrosequencing)などの当業者に既知の任意の方法を使用して検出することができる。更に、これらの遺伝子多型を、DNAチップに対する多重PCR及びハイブリダイゼーションにより、同時に検出することができる。Gタンパク質の活性化能の増加の診断のためには、CHK2又はCHK2のスプライシング変異体の発現レベルの直接的な検出を可能にする他の方法を使用することもできる。
【0075】
記述された方法は、腫瘍細胞のDNAを損傷する物質の効果を診断するのに特に適している。これらの物質には、オキサリプラチン、5−フルオロウラシル、葉酸、イリノテカン、カペシタビン及びシスプラチンが含まれるが、これらリストは任意に拡大することができる。更に、免疫療法剤(例えば、インターフェロン若しくはインターロイキン)又は腫瘍細胞におけるシグナル伝達の阻害剤の効果を予測することが可能である。
【0076】
更に、ガンマ線、X線、電子、中性子、陽子及び炭素イオンによる照射などの、放射線治療手段の効果を予測することが可能であるが、これらリストは任意に拡大することができる。より広い意味において、放射線療法は、マイクロ波及び熱波の医学的使用、光線及びUV療法、並びに超音波照射による治療も意味する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】最も重要なチェックポイントを有する細胞周期の概略図である。
【図2】CHK2調節チェックポイントでの反応カスケードのグラフ図である。
【図3】ヒトCHK2遺伝子のイントロン/エクソン構造(忠実な尺度ではない)を示す図である。
【図4】幾つかのCHK2阻害剤の構造式を示す図である。
【図5】CHK2遺伝子における多型の概略図(忠実な尺度ではない)である。
【図6】ハプロビュー(Haploview)プログラムを用いたCHK2のプロモーター多型の連鎖分析の結果を示す図である。
【図7】CHK2遺伝子のプロモーターにおける転写因子の推定結合部位を示す図である。
【図8】CHK2の−7235C>G多型の異なる対立遺伝子を含有する構築物を用いた電気泳動度移動アッセイ(Electrophoretic Mobility Shift Assay(EMSA))の結果を示す図である。
【図9】CHK2の−10649−(−10621)del29多型の異なる対立遺伝子を含有する構築物を用いた電気泳動度移動アッセイ(Electrophoretic Mobility Shift Assay(EMSA))の結果を示す図である。
【図10】fSEAPレポーターアッセイにより決定された、−10649−(−10621)del29多型に依存するCHK2プロモーター活性を示す図である。
【図11】−7161G>A多型に依存するCHK2 mRNAの発現を示す図である。
【図12】−7235C>G多型に依存するCHK2 mRNAの発現を示す図である。
【図13】乳癌を罹患している女性患者の−10649−(−10621)del29多型に依存するCHK2 mRNAの発現を示す図である。
【図14】−7161G>A多型の遺伝子型に依存する結腸直腸癌に罹患する患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis)を示す図である。
【図15】−7235C>G多型の遺伝子型に依存する慢性リンパ性白血病に罹患する患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis)を示す図である。
【図16】病期(ステージ)3及び4の腎細胞癌に罹患している患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis)を示す図である。
【図17】−10649−(−10621)del29多型の遺伝子型に依存する乳癌に罹患する患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis)を示す図である。
【図18】グリア芽細胞腫を罹患している患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis)を示す図である。
【図19】−7161G>A多型の遺伝子型に依存する前立腺癌に罹患する患者の生存に関するカプラン・マイヤー分析(Kaplan-Meier analysis)を示す図である。
【図20】結腸直腸癌に関する−7235C>G多型と生存との相関関係を調べた結果を示す図である。
【図21】放射線化学療法を受けた喉頭癌患者の生存曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0078】
以下の実施例は、疾患の危険性及び疾患の経過を予測するためのCHK2における遺伝子変化の使用を更に説明するためのものである。
【実施例】
【0079】
CHK2多型について異なる腫瘍集団及び健常対照で遺伝子型を決定し、遺伝子型及び/又は対立遺伝子の分布を比較した。この関係において、遺伝子型及び対立遺伝子の分布に有意な差が観察された。CHK2の発現の増加が好都合であるか又は不都合であるかを一般的に予測することは可能ではない。したがって、CHK2における多型は疾患の危険性を予測するのに適している。危険対立遺伝子又は危険遺伝子型(単独又は組合せ)による疾患の危険度は、95%信頼区間(95%CI)及びp値と共に「オッズ比」(OR)として示される。
【0080】
実施例1
結腸直腸癌の患者(n=143)対対照(n=235)
【表2】
【0081】
対立遺伝子又は遺伝子型分布は有意に異なる(それぞれ、p=0.05及び0.048);
OR A対G=1.534(95%CI=0.997〜2.361)p=0.05;
OR CG対CC=2.486(95%CI=1.056〜5.851)p=0.034。
【0082】
このように結腸癌を発症する危険性の増加は、−7161A対立遺伝子の保有者に起因し得る。したがって、CHK2 mRNAの発現の低減は、疾患発症の危険性の増加と関連する。
【0083】
実施例2
結腸直腸癌の場合における−7235C>G多型と生存との相関関係
−7235C>G多型の遺伝子型と結腸直腸癌を有する患者の生存との間に相関関係があるかを更に調査した。これを以下の図20に示す。
【0084】
この図から、−7235CC遺伝子型を有する患者の生存率が明らかに低いことが分かる。
【0085】
したがって、結腸癌を発症する危険性の増加は、−7161A対立遺伝子及び72−7235CG遺伝子型それぞれの保有者に起因し得る。したがって、CHK2 mRNAの発現の低減は、疾患の危険性の増加と関連する。
【0086】
実施例3
慢性リンパ性白血病の患者(CLL、n=166)対対照(n=234)
【表3】
【0087】
遺伝子型分布は有意に異なる(p=0.039)。以下の危険度(OR)がCLLについて計算され得る:
OR CG対CC=3.044(95%CI=1.246〜7.435)p=0.012;
OR GG+CG対CC=2.7(95%CI=1.2〜6.4)p=0.024。
【0088】
実施例4
グリア芽細胞腫の患者(n=198)対対照(n=235)
【表4】
【0089】
対立遺伝子及び遺伝子型分布は有意に異なる(それぞれ、P=0.017及びP=0.039)。
以下の危険度が計算され得る:
OR A対G:1.613(95%CI=1.088〜2.393);p=0.021;
OR AA対GG:3.890(95%CI=1.229〜12.31);p=0.019;
OR AA+AG対GG:3.73(95%CI=1.2〜11.8);p=0.021。
【0090】
したがって、グリア芽細胞腫を発症する危険性の増加は、−7161A対立遺伝子及び−7161AA/AG遺伝子型それぞれの保有者に起因し得る。結果として、CHK2 mRNAの発現の低減は、疾患発症の危険性の増加と関連する。
【0091】
実施例5
−7235C>G多型に依存するグリア芽細胞腫を有する患者の生存のコックス回帰
以下の表は、全切除後のグリア芽細胞腫患者の腫瘍原因死の多変量コックス回帰モデルの結果を示す(HR=危険率(ハザード比)、*=基準、CI=信頼区間、ED=一次診断〔ドイツ語:最初の診断(Erstdiagnose)〕、m=男性、w=女性〔ドイツ語::女性(weiblich)〕)。
【0092】
【表5】
一次診断時の年齢:58.84±13.38
性別分布:M:65.4%;W:34.6%
【0093】
解析した−7235C>G多型が、グリア芽細胞腫を有する患者の生存の独立した予後因子あることを確認するために、患者の生存における全ての潜在的危険因子を含む多変量コックス回帰を実施した。腫瘍原因死の危険性は、C対立遺伝子の保有者よりもホモ接合体GGの保有者のほうが2.7倍高かった(CI:1.05〜7.03;P=0.040)。
【0094】
予期されたように、(放射線療法;放射線/化学療法)の種類の療法は、後に一次診断時の年齢(P=0.008)及び−7235C>G多型が続く、最良の予後因子であること(P=<0.001)、すなわち療法は死亡の危険性を低減することが証明された。
【0095】
実施例6
グリア芽細胞腫の場合における−10621del29多型及び生存に関して
以下の表は、全切除後のグリア芽細胞腫患者の腫瘍原因死の多変量コックス回帰モデルの結果を示す(HR=危険率(ハザード比)、*=基準、CI=信頼区間、ED=一次診断〔ドイツ語:最初の診断(Erstdiagnose)〕、m=男性、w=女性〔ドイツ語::女性(weiblich)〕)。
【0096】
【表6】
一次診断時の年齢:58.84±13.38
性別分布:M:65.4%;W:34.6%
【0097】
挿入対立遺伝子の保有者と比較すると、ホモ接合体欠失の保有者である患者は、この疾患の初期に死亡する、ほぼ3倍の高い危険性を有する(P=0.008)。予測されたように、この種類の療法は、後に一次診断時の年齢(P=0.005)及び解析された多型が続く、患者の生存における最良の予後因子(P=<0.001)である。
【0098】
実施例7
乳癌を有する女性患者(n=240)対女性対照(n=78)
【表7】
【0099】
遺伝子型分布は有意に異なる(p=0.003)。以下の危険度を計算することができる:OR ID対II:3.087(95%CI=1.590〜5.995)、p=0.001。
【0100】
実施例8
−7235C>G多型の遺伝子型に依存する喉頭癌患者の生存
以下の図21は、組合せの放射線化学療法を受けた喉頭癌患者の生存曲線を示す。
【0101】
この場合でも、カプラン・マイヤー曲線が有意に異なった(p=0.048)。放射線化学療法の適用後、CC遺伝子型を有する患者は、G対立遺伝子を保有する患者よりも有意に良好な生存を示した(P=0.048)。5年後、およそ90%のCC保有者が生存したが、ほぼ70%のG対立遺伝子の保有者は、その時点で死亡していた。これはコックス回帰により確認された。
【0102】
解析した多型が喉頭癌を有する患者の生存に関する独立した予後因子であることを確認するために、多変量コックス回帰を実施した。得られた結果を以下の表に示す。
【0103】
【表8】
【0104】
ホモ接合体CC保有者との比較において、ヘテロ接合体GC保有者は、9倍高い腫瘍原因死の危険性を有し(CI:1.17〜71.34;P=0.035)、ホモ接合体GG遺伝子型は、7.8倍高い危険性を有した(CI:1.01〜60.70;P=0.049)。関連する多型は、唯一の独立した予後因子であることを証明している。患者の年齢に起因する危険性の変化はわずかである。したがって患者の年齢は、この場合では予後因子として関連性がない。
【0105】
放射線化学療法を受けた患者では、一次診断時の年齢が、後に−7235C>G多型が続く、最良の予後因子であること(P=0.013)が証明された。
【0106】
AJCCの欄は、腫瘍病期(ステージ)を提示しており、治療の成功に関して、1は最も好ましい段階を示し、4は最も好ましくない段階を示す。グレード1は、親組織と高度に類似した高分化悪性組織(「低悪性度」"low grade")を意味する。グレード3は、低分化悪性組織を意味する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌疾患の危険性、該疾患の進行、医薬組成物の利点、及び癌疾患の治療における医薬組成物の使用に伴う危険性を予測するためのインビトロ方法であって、患者の試料においてヒト染色体22q12.1上のCHK2遺伝子のプロモーター領域で1つ以上の遺伝子変化が探索され、かつ遺伝子変化は多型−7161G>A、多型−7235C>G、多型−10532G>A及び多型−10649−(−10621)del29から選択されることを特徴とする、上記方法。
【請求項2】
患者の試料において、−7161G>A、−7235C>G、−10532G>A及び−10649−(−10621)del29の多型のうちの1つ、2つ、3つ、又は4つが探索されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項1】
癌疾患の危険性、該疾患の進行、医薬組成物の利点、及び癌疾患の治療における医薬組成物の使用に伴う危険性を予測するためのインビトロ方法であって、患者の試料においてヒト染色体22q12.1上のCHK2遺伝子のプロモーター領域で1つ以上の遺伝子変化が探索され、かつ遺伝子変化は多型−7161G>A、多型−7235C>G、多型−10532G>A及び多型−10649−(−10621)del29から選択されることを特徴とする、上記方法。
【請求項2】
患者の試料において、−7161G>A、−7235C>G、−10532G>A及び−10649−(−10621)del29の多型のうちの1つ、2つ、3つ、又は4つが探索されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公表番号】特表2012−519477(P2012−519477A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552471(P2011−552471)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052894
【国際公開番号】WO2010/100279
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(506313383)ウニヴェルジテート・デュイスブルク‐エッセン (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052894
【国際公開番号】WO2010/100279
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(506313383)ウニヴェルジテート・デュイスブルク‐エッセン (3)
【Fターム(参考)】
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