癌治療抵抗性およびかかる抵抗性を調節する薬剤
本発明は、癌細胞において過剰の核小体形成部位(NOR)を検出し、癌細胞における過剰のNORの存在の同定が治療抵抗性を示すことによって、治療に対する癌細胞の抵抗性をin vitroで検出するための方法に関する。本発明はまた、NOR遺伝子数の調節を可能とするのに十分な時間、癌細胞を候補薬剤と接触させ、前記癌細胞におけるNOR遺伝子数の増減を観察することにより、癌細胞のNOR遺伝子数を調節する候補薬剤の能力を決定するための方法に関する。本発明はまた、本発明の方法によって得られる、癌細胞のNOR遺伝子数を調節する候補薬剤、ならびに前記候補薬剤を含んでなる、患者の癌を治療および/または予防するための組成物を提供する。これらの候補薬剤は前記癌細胞におけるNOR遺伝子数を低下させるものである。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、患者の癌治療の分野に関し、より詳細には、オキサリプラチン治療などの治療に対して抵抗性である癌に関する。
【0002】
発明の背景
癌の化学療法は、オキサリプラチンなどの活性な抗腫瘍分子が利用可能であるにもかかわらず、単独で、または組み合わせて使用される薬物の細胞毒性効果に対して抵抗性を示す癌細胞が頻繁に出現するために、非常に限られた効果しか認められない。故に、この抵抗性を低下させることは、我々の健康および製薬業界にとって主要な課題である。
【0003】
本出願人らは、WO03/107006において、オキサリプラチン治療に対する癌細胞の抵抗性をin vitroで検出するための方法を既に開示している。特に、かかる方法は、オキサリプラチンで治療される、または治療可能な、または治療されるべき癌細胞のミトコンドリアアポトーシスを測定することからなる。
【0004】
しかしながら、本出願人の知識によれば、オキサリプラチン治療などの癌治療への応答性に対する予測マーカーはない。
【0005】
故に、治療に対する癌細胞の抵抗性をin vitroで検出するための新規な方法、およびかかる癌治療抵抗性を回避する組成物に対する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、上述の必要性を満たす方法に関する。
【0007】
より詳細には、本発明の一つの目的は、治療に対する癌細胞の抵抗性をin vitroで検出するための方法であって、前記癌細胞において過剰の核小体形成部位(NOR)を検出する工程を含んでなり、前記癌細胞における過剰のNORの存在の同定が治療抵抗性を示す方法を提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、癌細胞のNOR遺伝子数を調節する候補薬剤の能力を決定するための方法であって、
a.NOR遺伝子数の調節を可能とするのに十分な時間、前記癌細胞を候補薬剤と接触させる工程、および
b.前記癌細胞におけるNOR遺伝子数の増減を観察する工程
を含んでなる方法を提供することにある。
【0009】
更に、本発明は、先に定義した方法によって得られた、癌細胞のNOR遺伝子数を調節する候補薬剤、ならびに患者の癌を治療および/または予防するための組成物および方法におけるその使用を提供することを目的としている。
【0010】
本発明の別の目的は、患者の癌を治療および/または予防するための方法であって、場合によりオキサリプラチンなどの活性な抗腫瘍分子と組み合わせて、癌細胞のNOR遺伝子数を調節する薬剤を含んでなる組成物を治療的に有効な量にて前記患者に投与する工程を含んでなる方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的および利点は、添付の図面を参照して、以下の非制限的な具体的説明により明らかになる。
【発明の具体的説明】
【0012】
本発明は、患者の癌治療の分野に関し、より詳細には、オキサリプラチン治療などの治療に対して抵抗性である結腸直腸癌などの幾つかの癌に関する。
【0013】
核小体形成部位(NOR)の分析に腫瘍病理学における実用的用途が見出されることが当技術分野において既知であるにもかかわらず(Pich, A et al. 2000. Micron 31: 133-141 and Ofner, D. 2000. Micron 31: 161-164を参照)、本出願の発明者らは、驚くべきことに、オキサリプラチン抵抗性と過剰のNORの出現との相関関係を見出した。従って、本発明は、治療に対する癌細胞の抵抗性をin vitroで検出するための方法、ならびに癌細胞のNOR遺伝子数を調節する候補薬剤の能力を決定するための方法、および患者の癌を治療および/または予防するための組成物および方法におけるこのような候補薬剤の使用に関する。
【0014】
本発明の範囲内にある癌細胞の例としては、オキサリプラチンなどの抗癌分子で治療される、または治療可能な、または治療されるべき癌細胞が挙げられ、より具体的には、結腸直腸癌細胞、卵巣癌細胞、生殖癌細胞、肺癌細胞、消化管癌細胞、前立腺癌細胞、膵臓癌細胞、胃癌細胞および小腸癌細胞からなる群から選択されるような癌細胞が挙げられる。
【0015】
1.検出方法
第一の実施態様として、本発明によれば、治療に対する癌細胞の抵抗性をin vitroで検出するための方法が提供され、該方法は前記癌細胞において過剰の核小体形成部位(NOR)を検出する工程を含んでなり、前記癌細胞における過剰のNORの存在の同定は治療抵抗性を示す。このような方法は、好ましくはオキサリプラチン抵抗性癌細胞の検出に使用されることが理解される。特定の実施態様では、癌は結腸直腸癌である。
【0016】
本明細書で使用される「過剰のNOR」という表現は、ある癌細胞種におけるNOR遺伝子の増幅をいう。換言すると、前記癌細胞種のNOR遺伝子数は、その細胞種のNOR遺伝子数よりも実質的に多い。
【0017】
「実質的に多い」という表現は、NOR遺伝子数の約2倍の増加、より好ましくは約4倍以上の増加をいう。
【0018】
本発明の別の実施態様によれば、癌細胞のNOR遺伝子数を調節する候補薬剤の能力を決定するための方法が提供され、該方法は、
a.NOR遺伝子数の調節を可能とするのに十分な時間、前記癌細胞を候補薬剤と接触させる工程、および
b.前記癌細胞におけるNOR遺伝子数の増減を観察する工程
を含んでなる。
【0019】
特に、かかる方法によれば、例えばオキサリプラチン治療などの治療に対する癌細胞の抵抗性を調節する候補分子の能力を決定することができる。
【0020】
NOR遺伝子数の調節は、細胞内のNOR遺伝子数を増加または減少させることにより、または、例えば、細胞内において転写または翻訳レベルでNORをアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることにより、NOR活性を増加または低下させる本発明の薬剤または分子の能力として定義される。
【0021】
上述の方法において、より詳細には、第一の実施態様の方法に記載されるように前記癌細胞において過剰のNORを検出する工程、および第二の実施態様の方法の工程b)に関し、これらの工程は、好ましくは、当業者に既知の検出方法、例えば銀染色法および蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法により達成される。
【0022】
関連する実施態様では、本発明は、好ましくは上述の方法によって得られた、癌細胞のNOR遺伝子数を調節する候補薬剤に関し、この候補薬剤は、前記癌細胞におけるNOR遺伝子数を低下させる。好ましくは、本発明の候補薬剤は、前記癌細胞におけるリボソームRNAレベルを調整することができる。例えば、この候補薬剤は、アクチノマイシンDなどのRNA転写阻害剤、またはアルファ−サルシンなどのリボヌクレアーゼからなってもよい。
【0023】
2.治療方法および組成物
NOR遺伝子数を調節する、好ましくは低下させる薬剤、例えば本発明の方法によって得られる候補薬剤は、癌治療においていろいろな形で使用することができ、特に、オキサリプラチンなどの抗癌分子と組み合わせて使用することができる。
【0024】
別の実施態様では、本発明は、患者の癌を予防または治療するための組成物に関する。かかる組成物は、抗癌分子と組み合わせた先に定義するような候補薬剤と、動物の癌を治療および/または予防する上で許容可能なキャリアとを含む。
【0025】
好ましくは本発明が想定している抗癌分子はオキサリプラチンであるが、例えばシスプラチンまたはカーボプラチンなどのその他のプラチン塩類も、場合により5−FU(5−フルオロウラシル)などの別の薬剤と組み合わせて、本発明の範囲内にあることが理解される。
【0026】
本明細書で使用される「治療する」との用語は、癌の症状が軽減されるか、または完全に排除される過程を意味する。本明細書で使用される「予防する」との用語は、癌の症状が妨害されるか、または遅延される過程を意味する。
【0027】
本明細書で使用される「許容可能なキャリア」という表現は、悪影響なく宿主に注入可能な、本発明の組成物に配合するための賦形剤を意味する。当技術分野において既知の好適なキャリアとしては、金粒子、滅菌水、生理食塩水、グルコース、デキストロースまたは緩衝溶液などが挙げられるが、これらに限定されない。キャリアとしては、希釈剤、安定化剤(即ち、糖およびアミノ酸)、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、pH緩衝剤、増粘剤、着色剤などの助剤も挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
更なる薬剤を本発明の組成物に添加することができる。例えば、本発明の組成物はまた、薬物、免疫賦活剤(例えば、α−インターフェロン、β−インターフェロン、γ−インターフェロン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、インターロイキン2(IL2)、インターロイキン12(IL12)およびCpGオリゴヌクレオチド)、酸化防止剤、界面活性剤、香料、揮発油、緩衝剤、分散剤、噴射剤および防腐剤などの薬剤を含んでもよい。このような組成物を調製するためには、当技術分野で周知の方法を用いることができる。
【0029】
抗癌分子(例えば、オキサリプラチン)および本発明の候補薬剤の量は、治療的に有効な量とするのが好ましい。オキサリプラチンおよび本発明の候補薬剤の治療的に有効な量とは、組成物が投与される宿主において負の影響を過度に引き起こすことなく、それらが抗癌作用を発揮し得るのに必要な量である。オキサリプラチンおよび本発明の候補薬剤の正確な使用量および組成物の正確な投与量は、治療される癌の種類、投与形態、並びに組成物の他の成分などの要因によって異なる。
【0030】
本発明の組成物は、さまざまな投与経路を通じて宿主に投与することができる。例えば、組成物は、滅菌した注射可能な製剤の形態で、例えば、滅菌した注射可能な水性または油性懸濁液の形態で投与されてもよい。これらの懸濁液は、好適な分散剤もしくは湿潤剤および懸濁剤を使用して、当技術分野において既知の技法に従って処方され得る。滅菌した注射可能な製剤はまた、非経口的に許容可能な無毒性の希釈剤または溶剤中の、滅菌した注射可能な溶液または懸濁液であってもよい。それらは、非経口的に投与されてもよく、例えば注射によって静脈内投与、筋肉内投与または皮下投与されてもよく、注入または経口によって投与されてもよい。本発明の組成物はまた、局所投与用のクリーム、軟膏、ローション、ゲル、ドロップ、座薬、スプレー、液体または粉末として処方されてもよい。それはまた、加圧エアゾールディスペンサー、鼻腔スプレー、ネブライザー、計量式吸入器、乾燥粉末吸入器またはカプセルにより、被験者の気道内に投与されてもよい。好適な投与量は、組成物中の各成分の量、所望の効果(短期間または長期間)、投与経路、治療されるべき宿主の年齢および体重などの要因によって異なる。当技術分野で周知であるその他の方法を、本発明の組成物を投与するために用いてもよい。
【0031】
更なる実施態様では、本発明は、患者の癌を治療および/または予防するための方法を提供し、該方法は、NOR遺伝子数を調節する、好ましくは低下させる薬剤を含んでなる組成物、例えば本発明の組成物を治療的に有効な量にて前記患者に投与する工程を含んでなる。
【0032】
本発明の別の態様によれば、患者の癌を治療および/または予防することを目的とする薬物を製造するための、NOR遺伝子数を調節する、好ましくは低下させる薬剤を含んでなる組成物、例えば本発明の組成物の使用が提供される。
【0033】
特定の実施態様では、癌は結腸直腸癌である。本明細書で使用される、本発明が想定する「リボソームDNA」は、NCBI受託番号U13369に記載されるようなヌクレオチド配列を有するのが有利である。
【実施例】
【0034】
本発明は、以下の実施例を参照することにより、より容易に理解される。これらの実施例は、広範な本発明の利用可能性を例証するものであり、その範囲の限定を意図するものではない。本発明の精神および範囲から逸脱することなく、修正および変更を行うことができる。本明細書に記載される方法および物質と同様の、または同等のいかなる方法および物質も、本発明の試験を実施する際に用いることができるが、好ましい方法および物質が記載される。
【0035】
緒言
オキサリプラチン抵抗性を試験するために、本発明者らは、4種の結腸直腸癌細胞株HCT116、SW48、SW480およびSW620(ATCCから入手)を用いて4種の細胞モデルを生成した。各細胞モデルは、1種の感受性クローン(親細胞株の代表)、徐々に濃度が高くなるオキサリプラチンへの曝露によって単離される1種または2種の抵抗性クローンからなる。HCT116細胞モデルについては、数ヶ月間、オキサリプラチンの不存在下で抵抗性クローンを維持することにより、「全ての、または一部の復帰突然変異」クローンを得る。本発明者らは、まずHCT116細胞モデルの核型を決定することにより、オキサリプラチン抵抗性と関連する遺伝子の改変を調査した。この調査により、オキサリプラチン抵抗性と、過剰のNOR(リボソーム遺伝子がクラスター化している核小体形成部位)の出現との厳密な相関関係を決定するに至った。逆に、抵抗性表現型の反転は、復帰突然変異体クローンにおいて検出されるように、過剰のNORの損失と相関関係がある。その後、全細胞モデルにおける活性なNORを(メタファシスの銀着色法により)分析することにより、本発明者らは、抵抗性クローンにおける体系的なNOR増幅、全ての復帰突然変異クローンにおけるNORの初期数への復帰、および一部復帰突然変異体におけるNORの中間数への復帰を明らかにした。NOR数の調節がオキサリプラチン抵抗性と厳密な相関関係を有するとの同定は、異なる遺伝的背景を示す4種の細胞モデルにおいて見出されたので、極めて妥当である。
【0036】
従って、この発見は極めて普遍的であり得る。この遺伝子増幅の潜在的な用途は、腫瘍片に対するオキサリプラチン抵抗性の早期診断、並びにNOR増幅の効果に焦点を当てた抵抗性の薬物調節に関するものである。結腸直腸癌患者から得られたパラフィン埋め込み組織切片におけるNOR増幅の同定は解決中である。本出願においては、2種の方法を調査している:銀染色、およびリボソームプローブ(リボソームRNA上に位置する配列)を用いたFISH。後者の技法(FISH)は、HCT116細胞モデルについて実証されている。更に、アクチノマイシンDを用いてオキサリプラチンの活性を薬理学的に調節するように設計された実験を行った。幾つかの結果は、中程度の毒性濃度での細胞のアクチノマイシンDプレインキュベーションが、オキサリプラチン活性に対する相乗効果をもたらすことを示唆している。
【0037】
実施例1:パラフィン埋め込み組織切片におけるNOR遺伝子増幅の同定
スライド調製
異なるクローンから得られた対数増殖期の細胞を、コルセミド(100ng/ml)またはノコダゾール(10μM)で2時間〜4時間処理した。細胞を、
1) トリプシン化し、1200rpmで5分間遠心分離し、
2) PBSですすぎ、1200rpmで5分間遠心分離し、
3) 0.0075MのKCL/10%ウシ胎児血清中にて37℃で10分間インキュベートし、1200rpmで5分間遠心分離し、
4) 3容量の無水エタノール/1用量の酢酸中にて固定し、1200rpmで5分間遠心分離し(この工程を2〜5回)、
5) スライド上に拡げ、細胞学的試験のために使用する。
【0038】
rDNAに関するFISHプロトコル
本質的には記載されるようにFISHを行う。
【0039】
1)RNAse処理:
*2SSC(ph=7)−RnAse(最終濃度:100μg/ml)中にて37℃で1時間
*2SCC中で室温(RT)にて10分間
*2SCC中でRTにて10分間
*50%エタノール中でRTにて10分間
*75%エタノール中でRTにて10分間
*100%エタノール中でRTにて10分間
*空気乾燥
【0040】
2)プローブ調製
各スライド毎に調製:2μlのプローブ+8μlのハイブリダイゼーションミックス(hybmix)。供給者の推奨に従ってプローブを標識(供給者の推奨に従って、1μgのDNAを標識)。
【0041】
3)スライド変性
*70%ホルムアミド/2SSC中で2分間。70℃
*2SSC中で1分間。4℃
*50%エタノール中で5分間。4℃
*75%エタノール中で5分間。4℃
*100%エタノール中で5分間。4℃
*空気乾燥
【0042】
4)プローブ変性
*96℃〜100℃で10分間
氷上
【0043】
5)ハイブリダイゼーション
10μlの変性プローブをスライド毎に加える。カバーガラスを被せて封止する。加湿したチャンバ内にて37℃で一晩インキュベートする。
【0044】
6)ハイブリダイゼーション後の洗浄
*カバーガラスを外す
*50%ホルムアミド/2SSC中で5分間。38℃
*50%ホルムアミド/2SSC中で5分間。38℃
*2SSC中で5分間。38℃
*2SSC中で5分間。38℃。
【0045】
プローブ標識(間接的または直接的)のプロトコルに応じて、従来の抗体(例えば、ヒツジ抗ビオチン/抗ヒツジFITC)またはそれ以外でプローブを顕在化する。次いで、ヨウ化プロピジウムを含む退色防止調製物(Vectashield;Biosys S.A.)中にスライドをマウントする。
【0046】
Ag NOR定量のための銀染色プロトコル
スライド毎に200μlの染色溶液(染色溶液:0.01gのゼラチン/ml、0.25gのAgNO3/ml、0.5%ギ酸):70℃にて90秒〜120秒間インキュベートする。
この溶液を捨て、蒸留水でスライドをすすぐ。
ギムザ染色:1.5%ギムザ中で4分間。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例2:アクチノマイシンDプレインキュベーションを用いたオキサリプラチン細胞毒性の調節に関する予備実験
以下の実施例は、オキサリプラチンとアクチノマイシンDとの相乗効果を示す、アクチノマイシンDによる細胞の予備プレインキュベーション結果に関する。
【0049】
【表2】
【0050】
実施例3:異なる細胞モデルにおけるリボソームRNAの発現レベルに関する試験
試験した2種類のリボソームRNA(18S RNAおよび28S RNA)に関し、本発明者らは、オキサリプラチン感受性のHCT116_Sと比較して、抵抗性細胞株HCT116_R1、HCT116_R2によるリボソームRNAの過剰発現を観察した。単一RNA抽出の場合に得られた結果は、SW620/R株では18Sおよび28S RNAの過剰発現、並びにSW480/R株では18S RNAの過剰発現を実証している。これらの結果は、リボソームRNAをコードする遺伝子レベル(RNA−NOR)で以前に観察された上流増幅を確認し、完結させるものである。NOR遺伝子の転写産物があらゆる細胞において非常に豊富であり、且つ、その他全てのRNAと比較して概ね過半数を占めるので、この増加は更により重要である。本発明者らが既に記載した、転写的に活性なRNA−NOR(銀染色により顕示、図面参照)の増加に関する観察は、リボソームRNAの増加を予測するための強い論拠となった。本結果によれば、RNA−NORの増幅が、最終的にリボソームRNAの細胞含有量の増加につながることが証明された。先に論じたように、リボソームRNAは過半数を占め、細胞の転写活性の約40%〜60%に相当すると共に、全細胞RNA含有量の80%に相当する。この知見は、オキサリプラチン抵抗性と関連して出現するリボソームRNAの過剰発現が、細胞内構造に関しては重要でないので、抵抗性の表現型に関して生物学的に重要な意義を有するはずであるということを暗示している。このリボソームRNAの過剰発現は、遺伝子増幅の延長として生じ、新たな診断的要素と、薬理学的介入要素とを構成する。
【0051】
【表3】
【0052】
相補的DNAにレトロ転写された全RNA抽出物から定量的PCRによって、発現レベルをリアルタイムで測定した(LightCycler System−Roche)。これらの値は、抵抗性細胞株と対照の感受性細胞株との発現レベル比(平均値とその後の標準偏差)に相当する。SW48、SW480およびSW620株に関して、平均値および標準偏差は、1つの同じRNA抽出物から、リアルタイムで測定された3つまたは4つの独立したPCR実験により得られた。HCT116細胞株に関し、各平均値および標準偏差は、1つの同じRNA抽出物から、リアルタイムで測定された3つまたは4つの独立したPCR実験により決定した。斜体で表した値は、異なるRNA抽出物について得られた発現比の平均に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、HCT116/Sに関する核型の一例を示す。
【図2】図2は、HCT116/R2に関する核型の一例を示す。矢印はp21+を示す。
【図3】図3は、HCT116/SにおけるAg NORの銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。増幅は検出されない。
【図4】図4は、HCT116/R2におけるAg NORの銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。大きい矢印は増幅を示す。
【図5】図5は、HCT116/Rev1におけるAg NORの銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。増幅は存在しない。
【図6】図6は、HCT116/R2におけるAg NORの銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。大きい矢印は増幅を示す。
【図7】図7は、HCT116/R2におけるAg NORの別の銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。大きい矢印は増幅を示す。
【図8A】図8Aは、SW48/SにおけるAg NORの銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。増幅は存在しない。
【図8B】図8Bは、SW48/R1におけるAg NORの銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。大きい矢印は増幅を示す。
【図9】図9は、SW48/R2におけるAg NORの銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。大きい矢印は増幅を示す。
【図10】図10は、SW480/SにおけるAg NORの銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。増幅は存在しない。
【図11A】図11Aは、SW480/RにおけるAg NORの銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。大きい矢印は増幅を示す。
【図11B】図11Bは、SW480/RにおけるAg NORの銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。大きい矢印は増幅を示す。
【図12】図12は、HCT116/Rev2におけるリボソームDNAの蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を示す。
【図13】図13は、HCT116/Rev2におけるリボソームDNAの蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を示す。
【図14】図14は、HCT116/Rev2におけるリボソームDNAの蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を示す。
【図15】図15は、HCT116/SにおけるリボソームDNAの蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を示す。
【図16】図16は、HCT116/SにおけるリボソームDNAの蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を示す。
【図17】図17は、Ag NORの配置を示す。
【図18】図18は、HCT116モデル系における過剰のAg NORの局在化を示す。
【発明の背景】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、患者の癌治療の分野に関し、より詳細には、オキサリプラチン治療などの治療に対して抵抗性である癌に関する。
【0002】
発明の背景
癌の化学療法は、オキサリプラチンなどの活性な抗腫瘍分子が利用可能であるにもかかわらず、単独で、または組み合わせて使用される薬物の細胞毒性効果に対して抵抗性を示す癌細胞が頻繁に出現するために、非常に限られた効果しか認められない。故に、この抵抗性を低下させることは、我々の健康および製薬業界にとって主要な課題である。
【0003】
本出願人らは、WO03/107006において、オキサリプラチン治療に対する癌細胞の抵抗性をin vitroで検出するための方法を既に開示している。特に、かかる方法は、オキサリプラチンで治療される、または治療可能な、または治療されるべき癌細胞のミトコンドリアアポトーシスを測定することからなる。
【0004】
しかしながら、本出願人の知識によれば、オキサリプラチン治療などの癌治療への応答性に対する予測マーカーはない。
【0005】
故に、治療に対する癌細胞の抵抗性をin vitroで検出するための新規な方法、およびかかる癌治療抵抗性を回避する組成物に対する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、上述の必要性を満たす方法に関する。
【0007】
より詳細には、本発明の一つの目的は、治療に対する癌細胞の抵抗性をin vitroで検出するための方法であって、前記癌細胞において過剰の核小体形成部位(NOR)を検出する工程を含んでなり、前記癌細胞における過剰のNORの存在の同定が治療抵抗性を示す方法を提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、癌細胞のNOR遺伝子数を調節する候補薬剤の能力を決定するための方法であって、
a.NOR遺伝子数の調節を可能とするのに十分な時間、前記癌細胞を候補薬剤と接触させる工程、および
b.前記癌細胞におけるNOR遺伝子数の増減を観察する工程
を含んでなる方法を提供することにある。
【0009】
更に、本発明は、先に定義した方法によって得られた、癌細胞のNOR遺伝子数を調節する候補薬剤、ならびに患者の癌を治療および/または予防するための組成物および方法におけるその使用を提供することを目的としている。
【0010】
本発明の別の目的は、患者の癌を治療および/または予防するための方法であって、場合によりオキサリプラチンなどの活性な抗腫瘍分子と組み合わせて、癌細胞のNOR遺伝子数を調節する薬剤を含んでなる組成物を治療的に有効な量にて前記患者に投与する工程を含んでなる方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的および利点は、添付の図面を参照して、以下の非制限的な具体的説明により明らかになる。
【発明の具体的説明】
【0012】
本発明は、患者の癌治療の分野に関し、より詳細には、オキサリプラチン治療などの治療に対して抵抗性である結腸直腸癌などの幾つかの癌に関する。
【0013】
核小体形成部位(NOR)の分析に腫瘍病理学における実用的用途が見出されることが当技術分野において既知であるにもかかわらず(Pich, A et al. 2000. Micron 31: 133-141 and Ofner, D. 2000. Micron 31: 161-164を参照)、本出願の発明者らは、驚くべきことに、オキサリプラチン抵抗性と過剰のNORの出現との相関関係を見出した。従って、本発明は、治療に対する癌細胞の抵抗性をin vitroで検出するための方法、ならびに癌細胞のNOR遺伝子数を調節する候補薬剤の能力を決定するための方法、および患者の癌を治療および/または予防するための組成物および方法におけるこのような候補薬剤の使用に関する。
【0014】
本発明の範囲内にある癌細胞の例としては、オキサリプラチンなどの抗癌分子で治療される、または治療可能な、または治療されるべき癌細胞が挙げられ、より具体的には、結腸直腸癌細胞、卵巣癌細胞、生殖癌細胞、肺癌細胞、消化管癌細胞、前立腺癌細胞、膵臓癌細胞、胃癌細胞および小腸癌細胞からなる群から選択されるような癌細胞が挙げられる。
【0015】
1.検出方法
第一の実施態様として、本発明によれば、治療に対する癌細胞の抵抗性をin vitroで検出するための方法が提供され、該方法は前記癌細胞において過剰の核小体形成部位(NOR)を検出する工程を含んでなり、前記癌細胞における過剰のNORの存在の同定は治療抵抗性を示す。このような方法は、好ましくはオキサリプラチン抵抗性癌細胞の検出に使用されることが理解される。特定の実施態様では、癌は結腸直腸癌である。
【0016】
本明細書で使用される「過剰のNOR」という表現は、ある癌細胞種におけるNOR遺伝子の増幅をいう。換言すると、前記癌細胞種のNOR遺伝子数は、その細胞種のNOR遺伝子数よりも実質的に多い。
【0017】
「実質的に多い」という表現は、NOR遺伝子数の約2倍の増加、より好ましくは約4倍以上の増加をいう。
【0018】
本発明の別の実施態様によれば、癌細胞のNOR遺伝子数を調節する候補薬剤の能力を決定するための方法が提供され、該方法は、
a.NOR遺伝子数の調節を可能とするのに十分な時間、前記癌細胞を候補薬剤と接触させる工程、および
b.前記癌細胞におけるNOR遺伝子数の増減を観察する工程
を含んでなる。
【0019】
特に、かかる方法によれば、例えばオキサリプラチン治療などの治療に対する癌細胞の抵抗性を調節する候補分子の能力を決定することができる。
【0020】
NOR遺伝子数の調節は、細胞内のNOR遺伝子数を増加または減少させることにより、または、例えば、細胞内において転写または翻訳レベルでNORをアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることにより、NOR活性を増加または低下させる本発明の薬剤または分子の能力として定義される。
【0021】
上述の方法において、より詳細には、第一の実施態様の方法に記載されるように前記癌細胞において過剰のNORを検出する工程、および第二の実施態様の方法の工程b)に関し、これらの工程は、好ましくは、当業者に既知の検出方法、例えば銀染色法および蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法により達成される。
【0022】
関連する実施態様では、本発明は、好ましくは上述の方法によって得られた、癌細胞のNOR遺伝子数を調節する候補薬剤に関し、この候補薬剤は、前記癌細胞におけるNOR遺伝子数を低下させる。好ましくは、本発明の候補薬剤は、前記癌細胞におけるリボソームRNAレベルを調整することができる。例えば、この候補薬剤は、アクチノマイシンDなどのRNA転写阻害剤、またはアルファ−サルシンなどのリボヌクレアーゼからなってもよい。
【0023】
2.治療方法および組成物
NOR遺伝子数を調節する、好ましくは低下させる薬剤、例えば本発明の方法によって得られる候補薬剤は、癌治療においていろいろな形で使用することができ、特に、オキサリプラチンなどの抗癌分子と組み合わせて使用することができる。
【0024】
別の実施態様では、本発明は、患者の癌を予防または治療するための組成物に関する。かかる組成物は、抗癌分子と組み合わせた先に定義するような候補薬剤と、動物の癌を治療および/または予防する上で許容可能なキャリアとを含む。
【0025】
好ましくは本発明が想定している抗癌分子はオキサリプラチンであるが、例えばシスプラチンまたはカーボプラチンなどのその他のプラチン塩類も、場合により5−FU(5−フルオロウラシル)などの別の薬剤と組み合わせて、本発明の範囲内にあることが理解される。
【0026】
本明細書で使用される「治療する」との用語は、癌の症状が軽減されるか、または完全に排除される過程を意味する。本明細書で使用される「予防する」との用語は、癌の症状が妨害されるか、または遅延される過程を意味する。
【0027】
本明細書で使用される「許容可能なキャリア」という表現は、悪影響なく宿主に注入可能な、本発明の組成物に配合するための賦形剤を意味する。当技術分野において既知の好適なキャリアとしては、金粒子、滅菌水、生理食塩水、グルコース、デキストロースまたは緩衝溶液などが挙げられるが、これらに限定されない。キャリアとしては、希釈剤、安定化剤(即ち、糖およびアミノ酸)、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、pH緩衝剤、増粘剤、着色剤などの助剤も挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
更なる薬剤を本発明の組成物に添加することができる。例えば、本発明の組成物はまた、薬物、免疫賦活剤(例えば、α−インターフェロン、β−インターフェロン、γ−インターフェロン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、インターロイキン2(IL2)、インターロイキン12(IL12)およびCpGオリゴヌクレオチド)、酸化防止剤、界面活性剤、香料、揮発油、緩衝剤、分散剤、噴射剤および防腐剤などの薬剤を含んでもよい。このような組成物を調製するためには、当技術分野で周知の方法を用いることができる。
【0029】
抗癌分子(例えば、オキサリプラチン)および本発明の候補薬剤の量は、治療的に有効な量とするのが好ましい。オキサリプラチンおよび本発明の候補薬剤の治療的に有効な量とは、組成物が投与される宿主において負の影響を過度に引き起こすことなく、それらが抗癌作用を発揮し得るのに必要な量である。オキサリプラチンおよび本発明の候補薬剤の正確な使用量および組成物の正確な投与量は、治療される癌の種類、投与形態、並びに組成物の他の成分などの要因によって異なる。
【0030】
本発明の組成物は、さまざまな投与経路を通じて宿主に投与することができる。例えば、組成物は、滅菌した注射可能な製剤の形態で、例えば、滅菌した注射可能な水性または油性懸濁液の形態で投与されてもよい。これらの懸濁液は、好適な分散剤もしくは湿潤剤および懸濁剤を使用して、当技術分野において既知の技法に従って処方され得る。滅菌した注射可能な製剤はまた、非経口的に許容可能な無毒性の希釈剤または溶剤中の、滅菌した注射可能な溶液または懸濁液であってもよい。それらは、非経口的に投与されてもよく、例えば注射によって静脈内投与、筋肉内投与または皮下投与されてもよく、注入または経口によって投与されてもよい。本発明の組成物はまた、局所投与用のクリーム、軟膏、ローション、ゲル、ドロップ、座薬、スプレー、液体または粉末として処方されてもよい。それはまた、加圧エアゾールディスペンサー、鼻腔スプレー、ネブライザー、計量式吸入器、乾燥粉末吸入器またはカプセルにより、被験者の気道内に投与されてもよい。好適な投与量は、組成物中の各成分の量、所望の効果(短期間または長期間)、投与経路、治療されるべき宿主の年齢および体重などの要因によって異なる。当技術分野で周知であるその他の方法を、本発明の組成物を投与するために用いてもよい。
【0031】
更なる実施態様では、本発明は、患者の癌を治療および/または予防するための方法を提供し、該方法は、NOR遺伝子数を調節する、好ましくは低下させる薬剤を含んでなる組成物、例えば本発明の組成物を治療的に有効な量にて前記患者に投与する工程を含んでなる。
【0032】
本発明の別の態様によれば、患者の癌を治療および/または予防することを目的とする薬物を製造するための、NOR遺伝子数を調節する、好ましくは低下させる薬剤を含んでなる組成物、例えば本発明の組成物の使用が提供される。
【0033】
特定の実施態様では、癌は結腸直腸癌である。本明細書で使用される、本発明が想定する「リボソームDNA」は、NCBI受託番号U13369に記載されるようなヌクレオチド配列を有するのが有利である。
【実施例】
【0034】
本発明は、以下の実施例を参照することにより、より容易に理解される。これらの実施例は、広範な本発明の利用可能性を例証するものであり、その範囲の限定を意図するものではない。本発明の精神および範囲から逸脱することなく、修正および変更を行うことができる。本明細書に記載される方法および物質と同様の、または同等のいかなる方法および物質も、本発明の試験を実施する際に用いることができるが、好ましい方法および物質が記載される。
【0035】
緒言
オキサリプラチン抵抗性を試験するために、本発明者らは、4種の結腸直腸癌細胞株HCT116、SW48、SW480およびSW620(ATCCから入手)を用いて4種の細胞モデルを生成した。各細胞モデルは、1種の感受性クローン(親細胞株の代表)、徐々に濃度が高くなるオキサリプラチンへの曝露によって単離される1種または2種の抵抗性クローンからなる。HCT116細胞モデルについては、数ヶ月間、オキサリプラチンの不存在下で抵抗性クローンを維持することにより、「全ての、または一部の復帰突然変異」クローンを得る。本発明者らは、まずHCT116細胞モデルの核型を決定することにより、オキサリプラチン抵抗性と関連する遺伝子の改変を調査した。この調査により、オキサリプラチン抵抗性と、過剰のNOR(リボソーム遺伝子がクラスター化している核小体形成部位)の出現との厳密な相関関係を決定するに至った。逆に、抵抗性表現型の反転は、復帰突然変異体クローンにおいて検出されるように、過剰のNORの損失と相関関係がある。その後、全細胞モデルにおける活性なNORを(メタファシスの銀着色法により)分析することにより、本発明者らは、抵抗性クローンにおける体系的なNOR増幅、全ての復帰突然変異クローンにおけるNORの初期数への復帰、および一部復帰突然変異体におけるNORの中間数への復帰を明らかにした。NOR数の調節がオキサリプラチン抵抗性と厳密な相関関係を有するとの同定は、異なる遺伝的背景を示す4種の細胞モデルにおいて見出されたので、極めて妥当である。
【0036】
従って、この発見は極めて普遍的であり得る。この遺伝子増幅の潜在的な用途は、腫瘍片に対するオキサリプラチン抵抗性の早期診断、並びにNOR増幅の効果に焦点を当てた抵抗性の薬物調節に関するものである。結腸直腸癌患者から得られたパラフィン埋め込み組織切片におけるNOR増幅の同定は解決中である。本出願においては、2種の方法を調査している:銀染色、およびリボソームプローブ(リボソームRNA上に位置する配列)を用いたFISH。後者の技法(FISH)は、HCT116細胞モデルについて実証されている。更に、アクチノマイシンDを用いてオキサリプラチンの活性を薬理学的に調節するように設計された実験を行った。幾つかの結果は、中程度の毒性濃度での細胞のアクチノマイシンDプレインキュベーションが、オキサリプラチン活性に対する相乗効果をもたらすことを示唆している。
【0037】
実施例1:パラフィン埋め込み組織切片におけるNOR遺伝子増幅の同定
スライド調製
異なるクローンから得られた対数増殖期の細胞を、コルセミド(100ng/ml)またはノコダゾール(10μM)で2時間〜4時間処理した。細胞を、
1) トリプシン化し、1200rpmで5分間遠心分離し、
2) PBSですすぎ、1200rpmで5分間遠心分離し、
3) 0.0075MのKCL/10%ウシ胎児血清中にて37℃で10分間インキュベートし、1200rpmで5分間遠心分離し、
4) 3容量の無水エタノール/1用量の酢酸中にて固定し、1200rpmで5分間遠心分離し(この工程を2〜5回)、
5) スライド上に拡げ、細胞学的試験のために使用する。
【0038】
rDNAに関するFISHプロトコル
本質的には記載されるようにFISHを行う。
【0039】
1)RNAse処理:
*2SSC(ph=7)−RnAse(最終濃度:100μg/ml)中にて37℃で1時間
*2SCC中で室温(RT)にて10分間
*2SCC中でRTにて10分間
*50%エタノール中でRTにて10分間
*75%エタノール中でRTにて10分間
*100%エタノール中でRTにて10分間
*空気乾燥
【0040】
2)プローブ調製
各スライド毎に調製:2μlのプローブ+8μlのハイブリダイゼーションミックス(hybmix)。供給者の推奨に従ってプローブを標識(供給者の推奨に従って、1μgのDNAを標識)。
【0041】
3)スライド変性
*70%ホルムアミド/2SSC中で2分間。70℃
*2SSC中で1分間。4℃
*50%エタノール中で5分間。4℃
*75%エタノール中で5分間。4℃
*100%エタノール中で5分間。4℃
*空気乾燥
【0042】
4)プローブ変性
*96℃〜100℃で10分間
氷上
【0043】
5)ハイブリダイゼーション
10μlの変性プローブをスライド毎に加える。カバーガラスを被せて封止する。加湿したチャンバ内にて37℃で一晩インキュベートする。
【0044】
6)ハイブリダイゼーション後の洗浄
*カバーガラスを外す
*50%ホルムアミド/2SSC中で5分間。38℃
*50%ホルムアミド/2SSC中で5分間。38℃
*2SSC中で5分間。38℃
*2SSC中で5分間。38℃。
【0045】
プローブ標識(間接的または直接的)のプロトコルに応じて、従来の抗体(例えば、ヒツジ抗ビオチン/抗ヒツジFITC)またはそれ以外でプローブを顕在化する。次いで、ヨウ化プロピジウムを含む退色防止調製物(Vectashield;Biosys S.A.)中にスライドをマウントする。
【0046】
Ag NOR定量のための銀染色プロトコル
スライド毎に200μlの染色溶液(染色溶液:0.01gのゼラチン/ml、0.25gのAgNO3/ml、0.5%ギ酸):70℃にて90秒〜120秒間インキュベートする。
この溶液を捨て、蒸留水でスライドをすすぐ。
ギムザ染色:1.5%ギムザ中で4分間。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例2:アクチノマイシンDプレインキュベーションを用いたオキサリプラチン細胞毒性の調節に関する予備実験
以下の実施例は、オキサリプラチンとアクチノマイシンDとの相乗効果を示す、アクチノマイシンDによる細胞の予備プレインキュベーション結果に関する。
【0049】
【表2】
【0050】
実施例3:異なる細胞モデルにおけるリボソームRNAの発現レベルに関する試験
試験した2種類のリボソームRNA(18S RNAおよび28S RNA)に関し、本発明者らは、オキサリプラチン感受性のHCT116_Sと比較して、抵抗性細胞株HCT116_R1、HCT116_R2によるリボソームRNAの過剰発現を観察した。単一RNA抽出の場合に得られた結果は、SW620/R株では18Sおよび28S RNAの過剰発現、並びにSW480/R株では18S RNAの過剰発現を実証している。これらの結果は、リボソームRNAをコードする遺伝子レベル(RNA−NOR)で以前に観察された上流増幅を確認し、完結させるものである。NOR遺伝子の転写産物があらゆる細胞において非常に豊富であり、且つ、その他全てのRNAと比較して概ね過半数を占めるので、この増加は更により重要である。本発明者らが既に記載した、転写的に活性なRNA−NOR(銀染色により顕示、図面参照)の増加に関する観察は、リボソームRNAの増加を予測するための強い論拠となった。本結果によれば、RNA−NORの増幅が、最終的にリボソームRNAの細胞含有量の増加につながることが証明された。先に論じたように、リボソームRNAは過半数を占め、細胞の転写活性の約40%〜60%に相当すると共に、全細胞RNA含有量の80%に相当する。この知見は、オキサリプラチン抵抗性と関連して出現するリボソームRNAの過剰発現が、細胞内構造に関しては重要でないので、抵抗性の表現型に関して生物学的に重要な意義を有するはずであるということを暗示している。このリボソームRNAの過剰発現は、遺伝子増幅の延長として生じ、新たな診断的要素と、薬理学的介入要素とを構成する。
【0051】
【表3】
【0052】
相補的DNAにレトロ転写された全RNA抽出物から定量的PCRによって、発現レベルをリアルタイムで測定した(LightCycler System−Roche)。これらの値は、抵抗性細胞株と対照の感受性細胞株との発現レベル比(平均値とその後の標準偏差)に相当する。SW48、SW480およびSW620株に関して、平均値および標準偏差は、1つの同じRNA抽出物から、リアルタイムで測定された3つまたは4つの独立したPCR実験により得られた。HCT116細胞株に関し、各平均値および標準偏差は、1つの同じRNA抽出物から、リアルタイムで測定された3つまたは4つの独立したPCR実験により決定した。斜体で表した値は、異なるRNA抽出物について得られた発現比の平均に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、HCT116/Sに関する核型の一例を示す。
【図2】図2は、HCT116/R2に関する核型の一例を示す。矢印はp21+を示す。
【図3】図3は、HCT116/SにおけるAg NORの銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。増幅は検出されない。
【図4】図4は、HCT116/R2におけるAg NORの銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。大きい矢印は増幅を示す。
【図5】図5は、HCT116/Rev1におけるAg NORの銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。増幅は存在しない。
【図6】図6は、HCT116/R2におけるAg NORの銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。大きい矢印は増幅を示す。
【図7】図7は、HCT116/R2におけるAg NORの別の銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。大きい矢印は増幅を示す。
【図8A】図8Aは、SW48/SにおけるAg NORの銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。増幅は存在しない。
【図8B】図8Bは、SW48/R1におけるAg NORの銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。大きい矢印は増幅を示す。
【図9】図9は、SW48/R2におけるAg NORの銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。大きい矢印は増幅を示す。
【図10】図10は、SW480/SにおけるAg NORの銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。増幅は存在しない。
【図11A】図11Aは、SW480/RにおけるAg NORの銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。大きい矢印は増幅を示す。
【図11B】図11Bは、SW480/RにおけるAg NORの銀染色を示す。矢印は活性なNOR(陽性)を示す。大きい矢印は増幅を示す。
【図12】図12は、HCT116/Rev2におけるリボソームDNAの蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を示す。
【図13】図13は、HCT116/Rev2におけるリボソームDNAの蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を示す。
【図14】図14は、HCT116/Rev2におけるリボソームDNAの蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を示す。
【図15】図15は、HCT116/SにおけるリボソームDNAの蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を示す。
【図16】図16は、HCT116/SにおけるリボソームDNAの蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を示す。
【図17】図17は、Ag NORの配置を示す。
【図18】図18は、HCT116モデル系における過剰のAg NORの局在化を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療に対する癌細胞の抵抗性をin vitroで検出するための方法であって、前記癌細胞において過剰の核小体形成部位(NOR)を検出する工程を含んでなり、前記癌細胞における過剰のNORの存在の同定が治療抵抗性を示す、方法。
【請求項2】
前記治療抵抗性がオキサリプラチン治療抵抗性からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
癌細胞のNOR遺伝子数を調節する候補薬剤の能力を決定するための方法であって、
a.NOR遺伝子数の調節を可能とするのに十分な時間、候補薬剤と前記癌細胞を接触させる工程、および
b.前記癌細胞におけるNOR遺伝子数の増減を観察する工程
を含んでなる、方法。
【請求項4】
前記癌細胞が、オキサリプラチンで治療される、または治療可能な、または治療されるべき癌細胞である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記癌細胞が、結腸直腸癌細胞、卵巣癌細胞、生殖癌細胞、肺癌細胞、消化管癌細胞、前立腺癌細胞、膵臓癌細胞、胃癌細胞および小腸癌細胞からなる群から選択されるものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記癌細胞において過剰のNORを検出する請求項1に記載の工程、およびNOR遺伝子数の増減を検出する請求項3の工程bに記載の工程が、銀染色および蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)からなる群から選択される検出方法によって達成される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか一項に記載の方法によって得られた、癌細胞のNOR遺伝子数を調節する候補薬剤であって、前記癌細胞におけるNOR遺伝子数を低下させる、候補薬剤。
【請求項8】
前記癌細胞におけるリボソームRNAレベルを調整することができる、請求項7に記載の候補薬剤。
【請求項9】
アクチノマイシンDなどのRNA転写阻害剤からなる、請求項8に記載の候補薬剤。
【請求項10】
アルファ−サルシンなどのリボヌクレアーゼからなる、請求項8に記載の候補薬剤。
【請求項11】
患者の癌を治療および/または予防するための組成物であって、抗癌分子と組み合わせた請求項7〜10のいずれか一項に記載の候補薬剤と、許容可能なキャリアとを含んでなる、組成物。
【請求項12】
前記抗癌分子がオキサリプラチンである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
患者の癌を治療および/または予防するための方法であって、癌細胞のNOR遺伝子数を調節する薬剤を含んでなる組成物を治療的に有効な量にて前記患者に投与する工程を含んでなる、方法。
【請求項14】
患者の癌を治療および/または予防することを目的とする薬物を製造するための、癌細胞のNOR遺伝子数を調節する薬剤を含んでなる組成物の使用。
【請求項15】
前記組成物が請求項11または12に記載の組成物である、請求項13に記載の方法または請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記組成物が癌細胞のNOR遺伝子数を低下させるものである、請求項13に記載の方法または請求項14に記載の使用。
【請求項17】
前記癌が、オキサリプラチンで治療される、または治療可能である、または治療されるべき癌である、請求項13〜16のいずれか一項に記載の方法または請求項14〜16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
前記癌が、結腸直腸癌、卵巣癌、生殖癌、肺癌、消化管癌、前立腺癌、膵臓癌、胃癌および小腸癌からなる群から選択されるものである、請求項13〜17のいずれか一項に記載の方法または請求項14〜17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項1】
治療に対する癌細胞の抵抗性をin vitroで検出するための方法であって、前記癌細胞において過剰の核小体形成部位(NOR)を検出する工程を含んでなり、前記癌細胞における過剰のNORの存在の同定が治療抵抗性を示す、方法。
【請求項2】
前記治療抵抗性がオキサリプラチン治療抵抗性からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
癌細胞のNOR遺伝子数を調節する候補薬剤の能力を決定するための方法であって、
a.NOR遺伝子数の調節を可能とするのに十分な時間、候補薬剤と前記癌細胞を接触させる工程、および
b.前記癌細胞におけるNOR遺伝子数の増減を観察する工程
を含んでなる、方法。
【請求項4】
前記癌細胞が、オキサリプラチンで治療される、または治療可能な、または治療されるべき癌細胞である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記癌細胞が、結腸直腸癌細胞、卵巣癌細胞、生殖癌細胞、肺癌細胞、消化管癌細胞、前立腺癌細胞、膵臓癌細胞、胃癌細胞および小腸癌細胞からなる群から選択されるものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記癌細胞において過剰のNORを検出する請求項1に記載の工程、およびNOR遺伝子数の増減を検出する請求項3の工程bに記載の工程が、銀染色および蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)からなる群から選択される検出方法によって達成される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか一項に記載の方法によって得られた、癌細胞のNOR遺伝子数を調節する候補薬剤であって、前記癌細胞におけるNOR遺伝子数を低下させる、候補薬剤。
【請求項8】
前記癌細胞におけるリボソームRNAレベルを調整することができる、請求項7に記載の候補薬剤。
【請求項9】
アクチノマイシンDなどのRNA転写阻害剤からなる、請求項8に記載の候補薬剤。
【請求項10】
アルファ−サルシンなどのリボヌクレアーゼからなる、請求項8に記載の候補薬剤。
【請求項11】
患者の癌を治療および/または予防するための組成物であって、抗癌分子と組み合わせた請求項7〜10のいずれか一項に記載の候補薬剤と、許容可能なキャリアとを含んでなる、組成物。
【請求項12】
前記抗癌分子がオキサリプラチンである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
患者の癌を治療および/または予防するための方法であって、癌細胞のNOR遺伝子数を調節する薬剤を含んでなる組成物を治療的に有効な量にて前記患者に投与する工程を含んでなる、方法。
【請求項14】
患者の癌を治療および/または予防することを目的とする薬物を製造するための、癌細胞のNOR遺伝子数を調節する薬剤を含んでなる組成物の使用。
【請求項15】
前記組成物が請求項11または12に記載の組成物である、請求項13に記載の方法または請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記組成物が癌細胞のNOR遺伝子数を低下させるものである、請求項13に記載の方法または請求項14に記載の使用。
【請求項17】
前記癌が、オキサリプラチンで治療される、または治療可能である、または治療されるべき癌である、請求項13〜16のいずれか一項に記載の方法または請求項14〜16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
前記癌が、結腸直腸癌、卵巣癌、生殖癌、肺癌、消化管癌、前立腺癌、膵臓癌、胃癌および小腸癌からなる群から選択されるものである、請求項13〜17のいずれか一項に記載の方法または請求項14〜17のいずれか一項に記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2008−505882(P2008−505882A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519918(P2007−519918)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【国際出願番号】PCT/IB2005/002629
【国際公開番号】WO2006/006078
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(594016872)サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス) (83)
【出願人】(501173391)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT PASTEUR
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【国際出願番号】PCT/IB2005/002629
【国際公開番号】WO2006/006078
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(594016872)サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス) (83)
【出願人】(501173391)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT PASTEUR
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]