説明

癌治療用薬剤送達ビヒクルおよびその製造方法ならびにそれを用いた製剤

【課題】 薬剤を特異的に体内に送達できるビヒクルおよびそれを使った製剤を提供すること。
【解決手段】 カチオン化ウイルスエンベロープベクターからなる癌治療用薬剤送達ビヒクルおよびそのビヒクル内に薬剤が封入されてなる製剤を提供する。ウイルスエンベロープベクターは、例えば、センダイウイルス由来のHVJ−Eであり、カチオン化は、ヒアルロン酸導入カチオン化ゼラチン、またはポリエチレングリコール導入カチオン化ゼラチンを、ウイルスエンベロープベクターに結合させてなされ得る。封入される薬剤は、核酸、核酸配列を含むベクター、タンパク質医薬、または低分子化合物の医薬などである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌治療用薬剤送達ビヒクルおよびその製造方法、ならびにそれを用いた製剤に関する。より詳細には、本発明は、ウイルスエンベロープベクターを用いた癌治療用薬剤送達ビヒクルおよびその製造方法ならびにそれを用いた製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内の特定部位に主に遺伝子導入などを行う為に、ウイルスおよび非ウイルス(合成)法を用いた導入方法が開発されている。例えば、アデノウイルスなどに由来するウイルスベクターを用いた遺伝子導入やリポソームなどを用いた遺伝子導入が知られているが、ウイルスベクターでは病原性の懸念や毒性などの問題があり、非ウイルスベクターでは導入効率が悪いという問題がある。
【0003】
このような問題点を解決する為に、センダイウイルスが有する優れた膜融合能に着目し、センダイウイルスを不活性化しエンベロープを利用することにより、病原性や毒性などの問題を解消したHVJ エンベロープベクター (HVJ−E)が開発されている(特許文献1)。このHVJ−Eでは、膜融合を利用して、目的物を細胞質へ直接的に導入することができるため、目的物が分解されにくく、その機能が保持されやすいと考えられている。従って、例えば、蛋白質導入によるアレルギー性鼻炎の治療やsiRNAによる癌治療に有効であり得る。
【0004】
HVJエンベロープベクターの欠点としては、このベクターが、末梢のリンパ球をのぞくほとんどすべての細胞と融合することである。HVJ−Eの送達特異性を高める為に、HVJ−Eのさらなる改変による標的化ベクター開発、およびそれを用いた遺伝子あるいは薬剤送達システムの開発もなされている(非特許文献1)。
【特許文献1】WO 01/57204
【非特許文献1】Mimaら、Mol Cancer Ther. 2006 Apr;5(4):1021−8.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、HVJ−Eを用いた薬剤送達システムについては、その生体内挙動、目的部位への確実な薬剤の送達手法やメカニズムについての詳細は明らかではない部分もある。既に開発されているHVJ−Eのさらなる改変による標的化ベクター、およびそれを用いた遺伝子あるいは薬剤送達システムでは、投与経路を限定して送達を確実する場合もある。したがって、所望の薬剤の生体内挙動を制御し、効率的かつ特異的にまた、簡易に薬剤送達を行うようなシステムの開発が強く望まれる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、所望の薬剤を所望の細胞または組織に特異的に送達する為の送達システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す癌治療用薬剤送達ビヒクルおよびその製造方法を提供することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は、ヒアルロン酸および/またはポリエチレングリコールが結合したカチオン化ゼラチンと、ウイルスエンベロープベクターとを含む癌治療用薬剤送達ビヒクルを提供する。
【0009】
上記ウイルスエンベロープベクターは、センダイウイルス由来のHVJ−Eであり得る。
【0010】
本発明はまた、上記の癌治療用薬剤送達ビヒクル中に薬剤が封入されてなる製剤を提供する。
【0011】
上記薬剤は低分子化合物、核酸、核酸を含むプラスミドベクター、およびタンパク質医薬からなる群より選択され得る。
【0012】
上記薬剤は、抗腫瘍剤であり得る。
【0013】
上記抗腫瘍剤は、シクロホスファミド、メクロレタミン、カルバジルキノン、メルファラン、チオテパ、ブスルファン、ニムスチン、カルムスチン、プロカルバジン、ダカルバジン、メトトレキサート、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、アザチオプリン、5−フルオロウラシル、フトラフール、フロクスウリジン、シタラビン、アンシタビン、テガフール、ドキシフルリジン、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、マイトマイシン、クロモマイシンA3、シネルビンA、アクラシノマイシンA、アドリアマイシン、ペプロマイシン、シスプラチン、ミトキサントロン、エピルビシン、ピラルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、エトポシド、シスプラチン、カルボプラチン、リン酸エストラムスチン、ミトタン、ポルフィリン、タキソールからなる群より選択される少なくとも1種であり得る。
【0014】
上記癌治療用薬剤は、ホウ素含有化合物であり得る。
【0015】
前記ホウ素含有化合物は、メルカプトウンデカハイドロドデカボレート(BSH)またはp−ボロノフェニルアラニン(BPA)であり得る。
【0016】
上記ホウ素含有化合物を含む製剤は、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に用い得る。
【0017】
前記製剤は、悪性胸膜中皮腫または肝臓癌から選択される1種の治療に用いられ得る。
【0018】
本発明はまた、上記のいずれかに記載の癌治療用薬剤送達ビヒクルの製造方法であって、
(a)ウイルスを不活性化する工程、および
(b)不活性化された該ウイルスから得られるウイルスエンベロープベクターを、ヒアルロン酸および/またはポリエチレングリコール、カチオン化剤、およびゼラチンによってカチオン化する工程、を包含する方法を提供する。
【0019】
本発明はまた、上記のいずれかに記載の癌治療用薬剤送達ビヒクルの製造方法であって、
(a)ウイルスを不活性化する工程、および
(b)不活性化された該ウイルスから得られるウイルスエンベロープベクターに、ヒアルロン酸および/またはポリエチレングリコールが結合したカチオン化ゼラチンを結合させる工程、を包含する方法を提供する。
【0020】
上記ウイルスエンベロープベクターは、センダイウイルス由来のHVJ−Eであり得る。
【発明の効果】
【0021】
本発明を適用することによって、癌治療用薬剤を安全にかつ高特異的に、複数のまたは任意の投与経路で所望の細胞または組織に送達することができる送達システムを提供することができる。また、本発明の癌治療用薬剤送達ビヒクルは、それ自体で癌抑制作用、および/または免疫増強作用がある為、封入される薬剤の作用と相俟って、非常に高い効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
本明細書において使用される用語を説明する。本明細書において「ウイルス」とは、DNAまたはRNAのいずれかをゲノムとして有する、感染細胞内だけで増殖する感染性の微小構造体をいう。ウイルスとしては、レトロウイルス科、トガウイルス科、コロナウイルス科、フラビウイルス科、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科、ラブドウイルス科、ポックスウイルス科、ヘルペスウイルス科、バキュロウイルス科およびヘパドナウイルス科からなる群より選択される科に属するウイルスが挙げられる。本明細書において好ましく使用されるウイルスは、パラミクソウイルス科パラミクソウイルス属に属する、センダイウイルス(「HVJ」(Hemagglutinating virus of Japan))である。センダイウイルスのゲノムは,約15500塩基長のマイナス鎖RNAである。ウイルス粒子にはエンベロープがあり、直径150〜300nmの多形性を示す。
【0024】
本明細書において「(ウイルス)エンベロープ」とは、例えば、センダイウイルス などの特定のウイルスに存在するヌクレオキャプシドの周囲を取り囲む脂質二重層を基本とする膜構造をいう。エンベロープは、通常、細胞から出芽によって成熟するウイルスにみられる。エンベロープは、概してウイルス遺伝子によりコードされたスパイクタンパク質からなる小突起構造物と宿主由来の脂質とからなる。また、「ウイルスエンベロープベクター」とは、ウイルスエンベロープ中に外来遺伝子を封入したベクターを指すが、本明細書においては、外来遺伝子を封入していない場合も、薬剤を運ぶことができるという意味で、ウイルスエンベロープベクターと言う。
【0025】
本明細書においてウイルスの「不活性化」とは、ウイルス(例えば、センダイウイルス )ゲノムが不活性化されることをいう。不活性化されたウイルスは、複製機能は損なわれているが、ウイルス融合能力は保持されたままである。
【0026】
本明細書において、癌治療用薬剤送達ビヒクルとは、ウイルスエンベロープ内部に癌治療用薬剤を封入し得るものを指し、好適には、ウイルスエンベロープの膜の外側が、カチオン化されている状態のものを指す。本発明の癌治療用薬剤送達ビヒクルは、それ自体で癌抑制作用、および/または免疫増強作用がある為、このビヒクルを用いた製剤は、封入される薬剤の作用と相俟って、非常に高い癌抑制効果を有する。
【0027】
本明細書において「カチオン化」とは、ある対象に正電荷を与えることをいい、ここでは、ウイルスエンベロープを形成する膜の外側に正電荷を帯びるように調製すること、あるいはそのように調製されるように正電荷を与える材料の状態を指す。具体的には、ヒアルロン酸結合(導入)カチオン化ゼラチン(CG−HA)、またはポリエチレングリコール結合(導入)カチオン化ゼラチン(CG−PEG)などのカチオン性ポリマーを、ウイルスエンベロープの膜の外側に接触させること、あるいはそのようなカチオン性ポリマーの状態を指す。ここで、接触の結果、特に限定はされないが、例えば静電気的結合が達成され得る。また、静電気的結合の様式を取らない場合であっても、何らかの作用で膜の外側表面にカチオン性ポリマーが接触したまま保持されている状態を、本明細書では、「結合」という。
【0028】
ここで、「カチオン化ゼラチン」(CG)は、比較的低分子量(例えば、約3,000から約5,000)のゼラチンを、例えば、ゼラチンに存在するカルボキシル基に直接結合する反応基を有したカチオン化剤で処理することにより得られる。ここで、カチオン化剤は、ゼラチンに存在するカルボキシル基に結合し得る反応基と陽イオンを生じうる基を有する化合物であり、限定はされないが、エチレンジアミンが挙げられる。ゼラチン中のカルボキシル基に例えばエチレンジアミンを反応させて、アミド結合を生じさせ、アミノ基を有するゼラチンとすることで、カチオン化ゼラチンを得ることができる。
【0029】
本明細書の、「ヒアルロン酸結合(導入)カチオン化ゼラチン」(CG−HA)は、カチオン化ゼラチンに、さらにヒアルロン酸を反応させて得られる。限定はされないが、ヒアルロン酸の糖還元末端とアミノ基間の反応を生じさせることによって得ることができる。
【0030】
本明細書の、「ポリエチレングリコール結合(導入)カチオン化ゼラチン」(CG−PEG)は、カチオン化ゼラチンに、ポリエチレングリコールを反応させることによって得られる。CG−HAおよびCG−PEGをウイルスエンベロープに付加することで、特定の、特に癌細胞への高親和性またはステルス化作用がある。
【0031】
また、本発明では、ヒアルロン酸結合(導入)カチオン化ゼラチンまたはポリエチレングリコール結合(導入)カチオン化ゼラチンによりカチオン化されたウイルスエンベロープベクター内に所望の癌治療用薬剤が封入されてなる製剤も提供される。
【0032】
ここで、所望の癌治療用薬剤としては、限定はされず、公知の薬剤のいずれでもよい。その中には、いわゆる遺伝子治療に用いられ得る特定機能を有するタンパク質をコードするようなDNAやRNA、特定機能を有するタンパク質をコードしないDNAやRNA、またはそれらを含むベクターなど;各種タンパク質(例えば抗原、抗体、酵素を含むタンパク質医薬など);中性子捕捉療法に用いられ得るホウ素含有化合物;抗腫瘍剤などが含まれる。
【0033】
ホウ素含有化合物としては、限定はされないが、現在、ホウ素中性子捕捉療法に好適に用いられているものの他、少なくとも1以上のホウ素リガンドを結合したデンドリマーであるホウ素リガンド結合デンドリマー(特開2006−96870)などの公知のホウ素含有化合物が含まれる。ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、現在注目を集めている癌治療法である。ホウ素中性子捕捉療法では、ホウ素10同位体(10B)を含むホウ素化合物をガン細胞に取り込ませ、低エネルギーの中性子線(たとえば熱中性子)を照射して、細胞内で起こる核反応により局所的にガン細胞を破壊する。この治療方法では、10Bを含むホウ素化合物をガン組織の細胞に選択的に蓄積させることが、治療効果を高める上で重要であるため、ガン細胞に選択的に取り込まれるホウ素化合物が開発されている。
【0034】
これまでに、BNCTに用いる薬剤として基本骨格にホウ素原子またはホウ素原子団を導入したホウ素含有化合物が合成されている。実際の臨床で用いられている薬剤としては、p−ボロノフェニルアラニン(BPA)やメルカプトウンデカハイドロドデカボレート(BSH)がある。このうち、BSHはナトリウム塩の形で主に脳腫瘍の治療に用いられ、その有用性が確認されている(たとえば、I.M.Wyzlicら、Tetrahedron Lett.,1992,33,7489−7490,W.Tjark,J.Organomet.Chem.,2000,614−615,37−47;K.Imamuraら、Bull.Chem.Soc.Jpn.,1997,70.3103−3110;A.S.Al−Madhornら、J.Med.Chem.,2002,45,4018−4028;F.Compostellaら、Res.Develop.Neutron Capture Ther.,2002,81−84;S.B Kahlら、Progress in Neutron Capture Therapy for Cancer,Plenum Press,New York 1992,223;J.Caiら、J.Med.Chem.,1997,40,3887−3896;H.Limら、Res.Develop.Neutron Capture Ther.,2002,37−42。)
【0035】
抗腫瘍剤としては、限定はされないが、例えば、シクロホスファミド、メクロレタミン、カルバジルキノン、メルファラン、チオテパ、ブスルファン、ニムスチン、カルムスチン、プロカルバジン、ダカルバジン、メトトレキサート、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、アザチオプリン、5−フルオロウラシル、フトラフール、フロクスウリジン、シタラビン、アンシタビン、テガフール、ドキシフルリジン、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、マイトマイシン、クロモマイシンA3、シネルビンA、アクラシノマイシンA、アドリアマイシン、ペプロマイシン、シスプラチン、ミトキサントロン、エピルビシン、ピラルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、エトポシド、シスプラチン、カルボプラチン、リン酸エストラムスチン、ミトタン、ポルフィリン、およびタキソールからなる群より選択される少なくとも1種またはその組み合わせが挙げられる。
【0036】
また、本発明においては、必要に応じて、適宜、癌治療用薬剤と他の薬剤等と組み合わせて、1つの癌治療用薬剤送達ビヒクル内に含ませることも可能である。他の薬剤としては、限定はされないが、中枢神経系用薬(例えば、全身麻酔剤、催眠鎮静剤、抗不安剤、抗てんかん剤、解熱鎮痛消炎剤、興奮剤、覚せい剤、抗パーキンソン剤、精神神経用剤、総合感冒剤、その他の中枢神経系用薬など);末梢神経用剤(例えば、局所麻酔剤、骨格筋弛緩剤、自律神経剤、鎮けい剤など);感覚器官用薬(例えば、眼科用剤、耳鼻科用剤、鎮暈剤など);循環器官用薬(例えば、強心剤、不整脈用剤、利尿剤、血圧降下剤、血管収縮剤、血管拡張剤、高脂血症用剤、その他の循環器官用薬など);呼吸器官用薬(例えば、呼吸促進剤、鎮咳剤、去痰剤、鎮咳去痰剤、気管支拡張剤など);消化器官用薬(例えば、制吐剤、整腸剤、健胃消化剤、制酸剤、利胆剤、その他の消化器官用薬など);ホルモン剤(例えば、脳下垂体ホルモン剤、唾液腺ホルモン剤、甲状腺、副甲状腺ホルモン剤、蛋白同化ステロイド剤、副腎ホルモン剤、男性ホルモン剤、混合ホルモン剤、その他のホルモン剤など);泌尿生殖器官および肛門用薬(例えば、泌尿器官用剤、生殖器官用剤、子宮収縮剤、痔疾用剤、他の泌尿生殖器管、肛門用薬など);外皮用薬(例えば、外皮用殺菌消毒剤、創傷保護剤、化膿性疾患用剤、鎮痛.鎮痒.収斂.消炎剤、寄生性皮膚疾患用剤、皮膚軟化剤、毛髪用剤、その他の外皮用剤など);歯科口腔用剤;その他の個々の器官系用薬;ビタミン剤(例えば、ビタミンA剤、ビタミンD剤、ビタミンB剤、ビタミンB剤、ビタミンC剤、ビタミンE剤、ビタミンK剤、混合ビタミン剤、その他のビタミン剤など);滋養強壮薬(例えば、カルシウム剤、無機質製剤、糖類剤、蛋白アミノ酸製剤、臓器製剤、乳幼児用剤、その他の滋養強壮剤など);血液および体液用薬(例えば、血液代用剤、止血剤、血液凝固阻止剤、その他の血液.体液用剤など);その他の代謝性医薬品(例えば、臓疾患用剤、解毒剤、習慣性中毒用剤、痛風治療剤、酵素製剤、糖尿病用剤、他に分類されない代謝性薬など);細胞賦活用剤(例えば、クロロフィル製剤、色素製剤、その他の細胞賦活用剤など);アレルギー用薬(例えば、抗ヒスタミン剤、刺激療法剤、非特異性免疫原製剤、その他のアレルギー用薬、生薬および漢方処方に基づく医薬品、生薬、漢方製剤、その他の生薬漢方処方に基づく製剤など);抗生物質製剤(例えば、グラム陽性菌またはグラム陰性菌に作用する薬剤、グラム陽性菌マイコプラズマに作用する薬剤、グラム陽性又は陰性リケッチアに作用する薬剤、抗酸菌に作用する薬剤、カビに作用する薬剤、その他の抗生物質製剤など);化学療法剤(例えば、サルファ剤、抗結核剤、合成抗菌剤、抗ウィルス剤、その他の化学療法剤など);生物学的製剤(例えば、ワクチン、トキソイド類、血液製剤類、生物学的試験用製剤類、その他の生物学的製剤、抗原虫剤、駆虫剤など);調剤用薬(例えば、賦形剤、軟膏基剤、溶解剤、着色剤、その他の調剤用剤など);ならびに麻薬(例えば、あへんアルカロイド系麻薬、コカアルカロイド系製剤、合成麻薬など)が含まれる。
【0037】
本発明の製剤は、ヒト用途でも使用され得るが、その他の宿主を対象として使用されてもよい。
【0038】
本発明の癌治療用薬剤送達ビヒクルを製造する方法は、(a)ウイルスを不活性化する工程、(b)不活性化された該ウイルスから得られるウイルスエンベロープベクターを、ヒアルロン酸および/またはポリエチレングリコール、カチオン化剤、およびゼラチンによってカチオン化する工程、を含む。ウイルスエンベロープベクターをカチオン化する工程は、例えば、ヒアルロン酸および/またはポリエチレングリコールが結合したカチオン化ゼラチンを、ウイルスエンベロープベクターに結合させることである。ヒアルロン酸および/またはポリエチレングリコールが結合したカチオン化ゼラチンは、最も一般的には、ゼラチンのカルボキシル基に直接結合する反応基を有したカチオン化剤でゼラチンを処理して得られるカチオン化ゼラチンと、様々な分子量の混合体であるヒアルロン酸またはポリエチレングリコールとを結合させることにより得られる。
【0039】
ウイルスは、本発明の癌治療用薬剤送達ビヒクル作成前に、適宜増殖させて使用する。例えば、HVJを例にとれば、ニワトリの受精卵への種ウイルスの接種により増殖されたものが一般に使用され得るが、サル、ヒトなどの培養細胞、培養組織への持続感染系(培養液中にトリプシンなどの加水分解酵素を添加する)を利用して増殖させたもの、クローニングされたウイルスゲノムを培養細胞に感染させ持続感染をおこさせて増殖させたものおよびこれらの変異株のすべてが本発明で使用可能である。また、他の方法で入手可能なウイルス(例えば、HVJ)も使用することが可能である。組換え型HVJ(Hasan M.K.ら、Journal of General Virology、78、2813〜2830、1997年またはYonemitsu Y.ら Nature Biotechnology 18、970〜973、2000年)なども使用可能である。HVJとして何れのものでも良いが、Z株(例えば、寄託番号ATCC VA 2388またはCharles River SPAFASから販売されているものが使用できる)またはCantell株(例えば、M.D.Johnston J.Gen.Virol.、56、175〜184、1981年に記載されたものまたはCharles River SPAFASから販売されているものが使用できる)がより望ましい。
【0040】
ウイルス(例えばHVJ)を不活性化する方法は特に限定はされない。このような方法には、加熱処理(例えば、60℃、1時間)、紫外線照射、フェノール、ホルマリンのような化学物質による化学薬剤処理、凍結融解、アルキル化剤による処理などの公知の方法が挙げられる。
【0041】
ウイルス不活性化の評価は、例えばHVJの場合には、HVJの培養細胞に対する感染の有無で行う。例えば、不活性化処理の後、サル腎細胞株LLC−MK2細胞へ感染を行うことで評価ができる。HVJの一段増殖が感染後12〜18時間に起こるので、感染後の細胞を18〜24時間インキュベートした後にアセトン/メタノール固定してHVJ感染によって細胞に発現されるHVJのFタンパク質の有無をFタンパク質に対する抗体を用いて免疫染色を行うことができる。即ち、HVJを可溶化し、遠心によって膜成分を分離した後、得られた膜成分をイオン交換クロマトグラフィーにかけることによりFタンパク質を得る(Yoshima,H.et al.J.Biol.Chem.1981年、および Suzuki,K.et al.Gene Therapy and Regulation,2000年によった)。次にこのF蛋白をフロイントアジュバンドとともにウサギに免疫して、F蛋白に対する抗血清(ウサギの抗Fタンパク質ポリクローナル抗体:一次抗体)を得る。固定化した細胞をこの一次抗体で処理した後、二次抗体処理する。この二次抗体処理後、蛍光顕微鏡下で検鏡し、HVJの不活性化を評価することができる。不活性化処理のウイルス(例えば、HVJ)エンベロープの膜機能に及ぼす影響については不活性化ウイルス(例えば、HVJ)エンベロープのHA活性を指標とすることができる。HA活性は通常の方法で測定できる。不活性化HVJエンベロープ懸濁液をウェルプレートに添加した後、段階希釈することでサンプルの希釈系列を作製する。これの凝集反応の有無を検定する。凝集反応が失われるサンプル系列のサンプル量とそのウェルの希釈倍率の逆数からHA活性を求める。
【0042】
不活性化されたウイルス(例えば、HVJ)は、カラムクロマトグラフィーまたは限外濾過、またはその組み合わせなどの方法により精製する。カラムクロマトグラフィーとして弱陰イオン交換体(第3級アミンであるDEAEなどの交換基が結合)または強陰イオン交換体(第4級アミンであるQAEなどが交換基として結合)のいずれも使用できる。さらにゲル濾過担体を用いたカラムクロマトグラフィーも使用できる。
【0043】
不活性化ウイルス(例えば、HVJ)エンベロープを、ヒアルロン酸結合(導入)カチオン化ゼラチンまたはポリエチレングリコール結合(導入)カチオン化ゼラチンでカチオン化することにより、本発明の癌治療用薬剤送達ビヒクルが得られる。この癌治療用薬剤送達ビヒクルは、様々な薬剤を封入するのに有用である。典型的には、本発明の癌治療用薬剤送達ビヒクルと薬剤とを混合することによって、本発明の癌治療用薬剤送達ビヒクル中に薬剤が封入されてなる製剤を得ることができる。
【0044】
あるいは、得られる不活性化ウイルス(例えばHVJ)を「ウイルスエンベロープベクター」として、薬剤とともに混合し、薬剤を封入したウイルスエンベロープベクター複合体にヒアルロン酸結合(導入)カチオン化ゼラチンまたはポリエチレングリコール結合(導入)カチオン化ゼラチンを結合させてカチオン化することにより、本発明の癌治療用薬剤送達ビヒクル中に薬剤が封入されてなる製剤が得られる。
【0045】
ウイルスエンベロープベクターのカチオン化は、限定はされないが、ヒアルロン酸結合(導入)カチオン化ゼラチンまたはポリエチレングリコール結合(導入)カチオン化ゼラチンとウイルスエンベロープベクターとの接触によりなされ、好ましくは静電気的な結合が形成され得る。
【0046】
カチオン化ゼラチンは、例えば、比較的低分子量のゼラチンとエチレンジアミンなどのカチオン化剤をゼラチン中のカルボキシル基とエチレンジアミンのアミノ基とが反応する条件下で、緩衝液中にて混合し、25℃から40℃の間程度の温度で、EDC(エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)の存在下で一晩反応させることによって得られる。得られる高分子を透析後乾燥することもできる。
【0047】
ヒアルロン酸結合(導入)カチオン化ゼラチンは、限定はされないが、例えば上記のようにして得られたカチオン化ゼラチンと、各種分子量のヒアルロン酸とを炭酸バッファー溶液に添加する。次に混合物を触媒存在下において、保存することで、糖還元末端とカチオン化ゼラチンのアミノ基を反応させる。得られた産物を透析後乾燥し、ヒアルロン酸結合(導入)カチオン化ゼラチンを作製する。ここで、各種分子量のヒアルロン酸は、分子量約180万程度のヒアルロン酸を、例えばオートクレーブで熱分解し、透析して精製することにより、得られる。ヒアルロン酸結合カチオン化ゼラチン精製のためには、ヒアルロン酸として、5,000から100万程度の分子量のものが使用可能であり、分子量ならびにカチオン化率をパラメーターとして、各分子量のヒアルロン酸を分離し、使用することができる。カチオン化率は、ゼラチンのカルボキシル基に対して導入されるアミノ基の割合であり、5-50%が好ましい。
【0048】
ヒアルロン酸とカチオン化ゼラチンとの量比は、モル比で、10:1から1:10が好ましく、より好ましくは、2:1から1:2である。
【0049】
本発明において好適に用いられ得る別の例として、ポリエチレングリコール結合(導入)カチオン化ゼラチンがある。限定はされないが、例えば上記のようにして得られたカチオン化ゼラチンと、各種分子量のポリエチレングリコールとを炭酸バッファー溶液に添加する。次に混合物を触媒存在下において、保存することで、ポリエチレングリコール末端のアルデヒド基とカチオン化ゼラチンのアミノ基を反応させる。得られた産物を透析後乾燥し、ポリエチレングリコール結合(導入)カチオン化ゼラチンを作製する。ここで、各ポリエチレングリコールの分子量は約10kDa(キロダルトン)から100kDaである。更なる態様においては、各PEG分子の分子量が約10kDaから40kDaである。更なる態様においては、各PEG分子の分子量が約12kDaである。更なる態様においては、各PEG分子の分子量が約20kDaである。適したPEG分子は、Shearwater Polymers, Inc. およびEnzon, Inc. より入手可能であり、SS-PEG、NPC-PEG、アルデヒド-PEG、mPEG-SPA、mPEG-SCM、mPEG-BTC、SC-PEG、トレシル化 mPEG (US 5,880,255)、またはオキシカルボニル-オキシ-N-ジカルボキシミド-PEG (US 5,122,614)から選択することができるが、このポリエチレングリコール酸結合カチオン化ゼラチン精製のための好適な分子量のポリエチレングリコールは、1,000から10万程度のものが使用可能であり、分子量ならびにポリエチレングリコールの導入率(1-20%)をパラメーターとして、各分子量のポリエチレングリコールを分離し、使用している。導入率は、ポリエチレングリコールが、カチオン化ゼラチンのアミノ基に対してどのくらいの割合で導入されているかを示す指標である。ポリエチレングリコールとカチオン化ゼラチンとの量比は、モル比で、10:1から1:10が好ましく、より好ましくは、2:1から1:2である。
【0050】
上記のようにして得られるヒアルロン酸結合(導入)カチオン化ゼラチン、またはポリエチレングリコール結合(導入)カチオン化ゼラチン(以下、まとめて「各種ポリマー」ともいう)を、ウイルスエンベロープベクターに結合させる。ウイルスエンベロープベクターは、上記のように、薬剤を封入する前後のいずれの状態でもよい。各種ポリマーとHVJ-Eとの配合比は、5μg対1 HAUから1μg対5HAU、より好ましくは、250μg対500 HAUを基本とし、以下の工程を行う。すなわち、各種ポリマーを、PBSなどを溶媒として、10 mg/ml 〜50 mg/ml程度の濃度とし、これに、HVJ-Eストックを加えピペッティングを行う 。さらに、例えばPBSなどの緩衝液を加え、一定時間氷上静置することで作製する。
【0051】
ウイルスエンベロープベクターあるいは癌治療用薬剤送達ビヒクルへの薬剤の取り込みは、具体的には、薬剤を溶媒に溶解して溶液とし、この溶液とウイルスエンベロープベクター溶液とを混合することによって得られうる。薬剤取り込みの際には、界面活性剤を好適に用いることもできる。薬剤がシスプラチンである場合を例にとれば、各種ポリマーを結合したあるいは未結合のウイルスエンベロープベクターに、2(HAU):1(μg)から1(HAU):2(μg)程度の割合になるように、薬剤溶液を混合する。次に、界面活性剤を含む緩衝液を加え、遠心分離した後、上清を除去して、薬剤封入製剤を得る。
【0052】
ウイルスエンベロープベクターへのホウ素含有化合物の取り込みは、ホウ素含有化合物を溶媒に溶解して溶液とし、この溶液とウイルスエンベロープベクター溶液とを混合することによって得られうる。ホウ素含有化合物取り込みの際には、界面活性剤を好適に用いることもできる。ホウ素含有化合物がBSHである場合を例にとれば、各種ポリマーを結合したあるいは未結合のウイルスエンベロープベクターに、ホウ素量換算で、2(HAU):1(μgB)から1(HAU):2(μgB)程度の割合になるように、ホウ素含有化合物溶液を混合する。次に、界面活性剤を含む緩衝液を加え、遠心分離した後、上清を除去して、BSH封入ウイルスエンベロープベクターを得る。
【0053】
このようなホウ素含有化合物製剤は、そのままあるいは薬学的に許容できるキャリアーと混合して、特に、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に好都合に用いられうる薬剤として有用である。
【0054】
また、本発明の製剤は、広く、そのままあるいは薬学的に許容できるキャリアーと混合して、遺伝子治療、免疫療法、化学療法、放射線療法、通常の薬剤投与などに好都合に用いられうる。本発明の製剤は、特に、悪性胸膜中皮腫や骨肉腫瘍の治療、または肝臓転移抑制の為に有用である。
【0055】
治療は、任意の適当な投与経路で、薬剤が標的部位に蓄積するような方法で、本発明の薬剤を封入した製剤を投与することによって行われる。封入される薬剤は、腫瘍に濃縮することが好ましい。薬剤封入製剤は一度に投与することもできるし、順次投与することもできる。製剤の投与を必要に応じて繰り返すことができる。所望であれば、腫瘍を外科的に可能な程度に除去した後、残りの腫瘍を本発明の製剤を使って破壊する。
【0056】
ホウ素含有化合物封入製剤の場合の治療は、任意の適当な投与経路で、ホウ素含有化合物が標的腫瘍中に蓄積するような方法で、ホウ素含有化合物を封入した送達ビヒクルを投与することによって行われる。化合物は放射線照射前に腫瘍に濃縮することが好ましく、放射線照射前の腫瘍:血液比が約2:1 または少なくとも1.5 :1であると有利である。ホウ素含有化合物封入製剤は一度に投与することもできるし、順次投与することもできる。腫瘍内に化合物が望ましく蓄積した後、その部位に有効量の低エネルギー中性子を照射する。皮膚を通してその部位を照射することができるし、あるいはその部位を照射前に完全にあるいは部分的に暴露することもできる。ホウ素含有化合物の投与とそれに続く放射線照射を必要に応じて繰り返すことができる。所望であれば、腫瘍を外科的に可能な程度に除去した後、残りの腫瘍を本発明の複合体を使って破壊する。もう1 つの態様として、患者に適当量のホウ素 含有化合物を投与し、天然に存在する中性子放射物質である252カリフォルニウムの有効量で照射する。これは腫瘍中に挿入し、適当な時間に取り出すことが好ましい。
【0057】
本発明の製剤の投与の為に、適切な賦形剤、アジュバント、および/または薬学的に受容可能なキャリアーと混合して、単独で、あるいは他の薬剤と組み合わせて患者に投与され得る。特に好ましく用いられ得るキャリアーには、限定はされないが、生理食塩水、緩衝化生理食塩水、デキストロース、および水等が含まれる。本発明の一実施形態において、薬学的に受容可能なキャリアーは薬学的に不活性である。
【0058】
本発明の薬剤の投与は、経口および非経口でなされ得る。非経口投与の場合、動脈内(例えば、頚動脈を介する)、筋肉内、皮下、髄内、クモ膜下腔内、脳室内、静脈内、腹腔内、または鼻孔内へなされうる。
【0059】
製剤は、散剤 、顆粒剤 、細粒剤 、ドライシロップ剤 、錠剤 、カプセル剤 、注射剤 、液剤などのいずれの形態にもなり得る。また、その剤型に応じ、製剤学的に公知の手法により、適切な賦形剤 ;崩壊剤;結合剤;滑沢剤;希釈剤;リン酸、クエン酸、コハク酸、酢酸、および他の有機酸またはそれらの塩のような緩衝剤緩衝剤;等張化剤;防腐剤;湿潤剤;乳化剤;分散剤;安定化剤;溶解補助剤;アスコルビン酸のような抗酸化剤;低分子量(約10残基未満の)ポリペプチド(例えば、ポリアルギニンまたはトリペプチド);タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチン、またはイムノグロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、またはアルギニン);単糖、二糖および他の炭水化物(セルロースまたはその誘導体、グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);対イオン(例えば、ナトリウム);および/または非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート、ポロキサマー)、などの医薬品添加物と適宜混合または希釈・溶解することにより調剤することができる。等張性および化学的安定性を増強するこのような物質は、使用された投薬量および濃度においてレシピエントに対して非毒性である。
【0060】
処方および投与のための技術は、例えば、日本薬局方の最新版および最新追補、「REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES」(Maack Publishing Co.,Easton,PA)の最終版に記載されている。
【0061】
本発明の製剤は、目的の薬剤が意図する目的を達成するのに有効な量で含有される薬剤であり、「治療的有効量」または「薬理学的有効量」は当業者に十分に認識され、薬理学的結果を生じるために有効な薬剤の量をいう。治療的有効用量の決定は十分に当業者に知られている。
【0062】
治療的有効量とは、投与により疾患の状態を軽減する薬剤の量をいう。このような化合物の治療効果および毒性は、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順によって決定され得る。用量は、好ましくは、毒性をほとんどまたは全くともなわないED50を含む循環濃度の範囲内にある。この用量は、使用される投与形態、患者の感受性、および投与経路に依存してこの範囲内で変化する。一例として、複合体の投与量は、年齢その他の患者の条件、疾患の種類、使用する複合体の種類等により適宜選択される。
【0063】
ヒトに本発明の薬剤を投与する場合、1被験体あたり、400〜400,000HAU相当の、好ましくは1,200〜120,000HAU相当の、より好ましくは4,000〜40,000HAU相当の薬剤が投与され得る。
【0064】
本明細書において「HAU」とは、ニワトリ赤血球0.5%を凝集可能なウイルスの活性をいう。1HAUは、ほぼ2400万ウイルス粒子に相当する(Okada,Y.ら、Biken Journal 4,209−213、1961)。上記の量は、例えば、1日1回から数回投与することができる。正確な用量は、治療されるべき患者の疾患状態の重症度(例えば、腫瘍のサイズおよび位置;患者の年齢、体重、および性別;投与の食餌制限時間、および頻度、薬物組合せ、反応感受性、および治療に対する耐性/応答)などに応じて決定される。
【0065】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されない。
【実施例1】
【0066】
(1)HVJの増殖
HVJの種ウイルスを、SPF(Specific pathogen free)の受精卵を使って増殖させ分離・精製したHVJ(Z種)を細胞保存用チューブに分注し、10%DMSOを加えて液体窒素中に保存し、調製した。受精直後のニワトリ卵を入荷し、インキュベーター(SHOWA−FURANKI P−03型;約300鶏卵収容)に入れ、36.5℃、湿度40%以上の条件で10〜14日飼育した。暗室内で、検卵器を用いて、胚の生存および気室と漿尿膜を確認した。ポリペプトン溶液(1%ポリペプトン、0.2%NaClを混合し、1MNaOHでpH7.2に調整してオートクレーブ滅菌し、2℃〜6℃保存したもの)で種ウイルス(液体窒素から取り出したもの)を500倍に希釈し、2℃〜6℃に置いた。卵をイソジンおよびアルコールで消毒し、ウイルス注入箇所に千枚通しで小孔をあけ、希釈した種ウイルス0.1mlを26ゲージの針付き1mlシリンジを用いて、漿尿腔内に入るように注入した。溶かしたパラフィン(融点50〜52℃)をパスツールピペットを用いて孔の上に置きこれをふさいだ。卵をインキュベーターに入れ、34〜36.5℃、湿度40%以上の条件で3日飼育した。次に、接種卵を一晩2℃〜6℃に置いた。翌日、卵の気室部分をピンセットで割り、18ゲージの針を付けた10mlシリンジを漿尿膜の中に入れて、漿尿液を吸引し、滅菌ボトルに集め、2℃〜6℃に保存した。
(2)HVJの濃縮
上記(1)で得られたHVJ含有漿尿液(HVJ含有のニワトリ卵の漿尿液を集め2℃〜6℃にて保存)の約100mlを広口の駒込ピペットで約50mlの遠心チューブ2本に入れ、低速遠心機で3,000rpm、10分、2℃〜6℃で遠心し(ブレーキはオフ)、卵の組織片を除去した。遠心後、上清を35ml遠心チューブ4本(高速遠心用)に分注し、アングルローターで27,000g、30分遠心した。上清を除き、沈殿にBSS(10mM Tris−HCl(pH7.5)、137mM NaCl、5.4mM KCl;オートクレーブし、2℃〜6℃保存)(BSSのかわりにPBSでも可能)をチューブ当たり約5ml加え、そのまま2℃〜6℃で一晩静置した。広口の駒込ピペットでゆるやかにピペッティングして沈殿をほぐし、1本のチューブに集め、同様にアングルローターで27,000g、30分遠心した。上清を除き、沈殿にBSSを約10ml加え、同様に2℃〜6℃で一晩静置した。広口の駒込ピペットでゆるやかにピペッティングして沈殿をほぐし、低速遠心機で3,000rpm、10分、2℃〜6℃で遠心し(ブレーキはオフ)、除ききれなかった組織片やウイルスの凝集塊をのぞいた。上清を新しい滅菌済みチューブに入れ、HVJ濃縮液として2℃〜6℃で保存した。このHVJ濃縮液0.1mlにBSSを0.9ml加え、分光光度計で540nmの吸光度を測定し、ウイルス力価を赤血球凝集活性(HAU)に換算した。540nmの吸光度1がほぼ15,000HAUに相当した。HAUは融合活性とほぼ比例すると考えられる。
【0067】
(3)HVJ濃縮液の調製
さらにショ糖密度勾配を用いたHVJの精製も必要に応じて行い得る。具体的には、実施例1で得られたHVJ懸濁液を60%、30%のショ糖溶液(滅菌済み)を重層した遠心チューブにのせ、62,800×gで120分間密度勾配遠心を行う。遠心後、60%ショ糖溶液層上に見られるバンドを回収する。回収したHVJ懸濁液をBSSもしくはPBSを外液として2℃〜6℃で透析を一晩行い、ショ糖を除去する。すぐに使用しない場合はHVJ懸濁液にグリセロール(オートクレーブ滅菌)と0.5M EDTA液(オートクレーブ滅菌)をそれぞれ最終濃度が10%と2〜10mMになるように加えて−80℃で穏やかに凍結し、最終的に液体窒素中で保存する(凍結保存はグリセロールと0.5M EDTA液の代わりに10mM DMSOでも可能)。
【実施例2】
【0068】
(HVJの紫外線照射による不活性化)
精製、濃縮したHVJに、99mJ/cmで、紫外線照射を行った。エッペンドルフチューブにチューブあたり10,000HAU分ずつ分注し、15,000rpm、15分遠心し、沈殿を−20℃で保存した。
【0069】
次に、HVJの不活性化の評価を行った。不活性化処理後、HVJをサル腎細胞株LLC−MK2細胞へ37℃で1時間感染を行い、HVJ感染後12〜18時間してから、細胞を37℃で、炭酸ガス存在下で18〜24時間インキュベートした後にアセトン/メタノール固定してHVJ感染によって細胞に発現されるHVJのFタンパク質の有無をFタンパク質に対する抗体を用いて免疫染色を行った。即ち、HVJを界面活性剤NP−40(ノニルフェノキシポリエトキシエタノール)によって可溶化し、遠心によって膜成分を分離した後、得られた膜成分をイオン交換クロマトグラフィーにかけることによりFタンパク質を得た(Yoshima,H.et al.J.Biol.Chem.1981年、および Suzuki,K.et al.Gene Therapy and Regulation,2000年によった)。次にこのF蛋白をフロイントアジュバンドとともにウサギに4度免疫して、F蛋白に対する抗血清(ウサギの抗Fタンパク質ポリクローナル抗体:一次抗体)を得た。固定化した細胞をこの一次抗体で一時間処理した後、FITCで標識したブタの抗ウサギIgGポリクローナル抗体(二次抗体)で一時間処理した。この二次抗体処理後、蛍光顕微鏡下で検鏡し、HVJの不活性化を評価することができる。不活性化処理のウイルス(例えば、HVJ)エンベロープの膜機能に及ぼす影響については不活性化ウイルス(例えば、HVJ)エンベロープのHA活性を指標とすることができる。HA活性は通常の方法で測定できる。不活性化HVJエンベロープ懸濁液を96ウェルプレート(丸底)の3つのウェルに対して、それぞれ50、40、30μl添加した後、PBS(−)(Mgイオン、Caイオンを含まないDulbecco’s Phosphate Buffer Saline)で2段階希釈することでサンプルの希釈系列を作製する。そこにPBS(−)で0.5%ニワトリ赤血球溶液を添加して2℃〜6℃で2時間インキュベーション後、凝集反応の有無を検定する。凝集反応が失われるサンプル系列のサンプル量とそのウェルの希釈倍率の逆数からHA活性を求めた。
【実施例3】
【0070】
(不活性化HVJのカラムクロマトグラフィーおよび限外濾過による精製)
(1)カラムクロマトグラフィーによる精製
予め15Lの緩衝液1(20mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl)で平衡化したQ−Sepharose FFカラム(直径20cm、ベッド高さ15cm、ベッド容量4710ml)に実施例2で得られた不活性化HVJ液を50mL/分の流速でフィードした。次に10Lの緩衝液1(20mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl)、25Lの緩衝液2(20mM Tris−HCl(pH7.5)、350mM NaCl)を順にカラムに通じた。不活性化HVJは濃縮液フィード時にカラム樹脂に吸着し、一方、不活性化HVJ濃縮液中の不純物の大部分は緩衝液1,2によって樹脂から洗い出される。25Lの緩衝液3(20mM Tris−HCl(pH7.5)、650mM NaCl)を通じるとほぼ同時にHVJが樹脂から溶出するので、カラム画分の採取を始めた。UV吸収チャート(λ=280nm)上に不活性化HVJのピークが現れ、ベースラインに復帰するまでの間に7829mLの画分を得た。この画分に抗生物質を添加した。画分の分取完了後も緩衝液の通液を継続し、最後に20Lの緩衝液4(20mM Tris−HCl(pH7.5)、1M NaCl)をカラムに通じた。
【0071】
(2)限外濾過による精製
上記実施例3(1)の工程で得られたカラム画分を10Lボトルに入れ、給液用チューブと循環用チューブを取り付けたキャップを締めた。給液用チューブはペリスタポンプを経由してA/G Technology Corporation製 UFP−500−E−5A限外濾過モジュール入口へ、循環用チューブは循環量調整バルブ経由でモジュール出口へ、それぞれ接続した。ポンプを運転し、モジュールの出口側圧力を40〜80kPaに保ちながら循環量調整バルブを絞って濃縮を行い、60〜70mL/分の排液を排出した。循環液量約600mLとなった後、ボトルを500mLボトルに、モジュールをA/G Technology Corporation製 UFP−500−E−4Aに交換して濃縮を継続した。上記と同様に約10mL/分の排液を排出して循環液量約60mLとなった後で60mLの緩衝液5(20mM Tris−HCl(pH7.5)、50mM NaCl、1mM MgCl2、2% マンニトール)を添加し、更に濃縮を継続して循環液量を約60mLとした(Buffer交換)。更にBuffer交換を2回行った後、循環液量は79mLであった。5mLディスポシリンジに循環液を採り、シリンジ先端にディスクフィルタ(CORNING製Sterile Syringe Filter、φ=26mm、0.45μm)を取付け、手動にて滅菌濾過を実施した。
【実施例4】
【0072】
(カチオン化ゼラチンの製造)
分子量5,000の低分子量ゼラチンと、ゼラチン中のカルボキシル基に対して50モル当量のエチレンジアミンを加え、0.1 M pH5のリン酸バッファー溶液に添加し、EDC存在下37度一晩反応させた。透析後乾燥し、カチオン化ゼラチンを作製した。
【実施例5】
【0073】
(ヒアルロン酸結合(導入)カチオン化ゼラチンの製造)
実施例4にて作製したカチオン化ゼラチンと各種分子量のヒアルロン酸とを0.2MpH9.7炭酸バッファー溶液に添加し、NaCNBH存在下37度3日間保存することで、糖還元末端とカチオン化ゼラチンのアミノ基を反応させた。透析後乾燥し、ヒアルロン酸結合(導入)カチオン化ゼラチンを作製した。作製したカチオン化ゼラチンと各種分子量のヒアルロン酸とを0.2M pH9.7炭酸バッファー溶液に添加し、NaCNBH3存在下37度3日間保存することで、糖還元末端とカチオン化ゼラチンのアミノ基を反応させた。透析後乾燥し、ヒアルロン酸結合(導入)カチオン化ゼラチンを作製した。各種分子量のヒアルロン酸は、分子量約180万程度のヒアルロン酸を、オートクレーブで熱分解し、透析して精製することにより、得られた。ここでは、分子量が5,000のヒアルロン酸と3,100のカチオン化ゼラチンを1:1の割合で配合した。
【実施例6】
【0074】
(ポリエチレングリコール結合(導入)カチオン化ゼラチンの作製法;
実施例4で作製したカチオン化ゼラチンと各種分子量のポリエチレングリコールとを0.2MpH9.7炭酸バッファー溶液に添加し、NaCNBH存在下37度1時間保存することで、ポリエチレングリコール末端のアルデヒド基とカチオン化ゼラチンのアミノ基を反応させた。透析後乾燥し、ポリエチレングリコール結合(導入)カチオン化ゼラチンを作製した。ここで、各ポリエチレングリコールの分子量は約10kDa(キロダルトン)から100kDaである。分子量ならびにポリエチレングリコールの封入率(1-20%)をパラメーターとして、各分子量のポリエチレングリコールを分離し、使用した。ここでは、初期設定として分子量が5,000のPEGと3,100のカチオン化ゼラチンを、1:1、5:1、10:1の割合で配合した。
【実施例7】
【0075】
(ポリマー結合−HVJ−Eの調製)
実施例4、5、および6で得られた各種ポリマーと、実施例1で得られたHVJ-Eとの配合比を、それぞれ250 μg対500 HAUを基本とし、以下の工程を行った。各種ポリマー溶液(溶媒はPBS)を20 mg/ml, 50 μL作製し、HVJ-Eストック500 HAU/10μL4検体分40μLを加えピペッティングを行う (全量で90 μL)。さらにPBS 110μlを加え(total 200 μL)、30 min氷上静置することで、各種ポリマーが結合したHVJ−Eを調製した。
【実施例8】
【0076】
(マウス毒性の評価)
実施例1で得られたHVJ−Eと、実施例7で得られたポリマー結合−HVJ−Eを用いて、マウス毒性試験を行った。HVJ−Eと、各種ポリマー結合-HVJ-E製剤(CG 1,000 mg: 2,000 HAU)をPBSに溶かし、最終容量を200 mLとして、正常C57/BL6マウスにそれぞれ心腔内投与し、投与後1週間以上生存したマウスの個体数より、その生存率を算出した。その結果を表1に示す。
【表1】

表1では、各種ポリマー-HVJ-Eの100%生存の最大耐容量がHVJ-E、CG-HVJ-E、CG-PEG-HVJ-E、CG-HA-HVJ-Eで、1,500、2,000、2,500、2,500HAUであり、実施例1で得られたHVJ-Eと実施例4で得られたCG-HVJ-Eに比し、実施例5および6でそれぞれ得られたPEG化あるいはヒアルロン酸を配合したポリマー結合HVJ-Eでは、毒性の軽減が認められた。
【実施例9】
【0077】
(血球凝集抑制効果の評価)
実施例1で得られたHVJ−Eと実施例7で得られたポリマー結合−HVJ−E懸濁液(CG 250 mg: 500 HAU)を、2倍ずつ段階希釈することでサンプルの希釈系列を作製し、150 mLをウェルプレートに添加した後、これの凝集反応の有無を検定した。試料20 μlを 96穴マイクロタイタープレートに加え、ヒトから採血して得た1mlの血液を生理食塩水49mlに懸濁した試験液90 μlを添加し、室温で2時間静置後、肉眼で赤血球凝集 活性がみられる最小濃度を判定した。凝集反応が失われるサンプル系列のサンプル量とそのウェルの希釈倍率の逆数からHA活性を求めた。この結果、実施例1で得られたHVJ−Eに比し、実施例7で得られたポリマー結合−HVJ−Eは、いずれもインビトロにおいて、約2倍の血球凝集抑制作用を認めた。
【実施例10】
【0078】
(薬剤の封入)
含有されるホウ素原子換算で、PBSを溶媒として、17,240μgB/mlのBSHを調製した。この溶液を使用し、実施例7で得られた各種ポリマー結合HVJ-EとBSHとの配合比を、1,500 HAU対BSH 1,000 μgBとして製剤を作製した。1本当たり10,000 HAUの各種ポリマー結合HVJ-Eに6666.7 μgB (386.7 μl)のBSHを加え、十分にピペッティングを行った。次に3%TritonX-100/TE バッファー溶液を40 μlを加え、Vortex後、5 min氷上静置し、遠心分離15000rpm/4degree/5minを行った。BSS溶液を1.0 mlを加え、ボルテックスし、遠心分離15000rpm/4degree/5min後、上清を除去し、精製した。
【実施例11】
【0079】
(ルシフェラーゼ導入効率の評価)
CD44を発現するLM8G5(マウス骨肉腫細胞株:RIKEN CELL BANKから購入したLM8をin vivo selectionし樹立した肝転移高発現株)を、1×10細胞/0.2mL/ウェル(24ウェルプラスチックプレート)となるよう10%牛胎仔血清含有RPMI1640培養液に懸濁し、37℃、5%炭酸ガスインキュベーター内で培養した。20〜24時間培養後、HVJ−Eによる遺伝子導入の測定に供した。同様に、CT26(ヒト大腸がん細胞株;ATCCから購入)を1×10細胞/0.2mL/ウェル(24ウェルプラスチックプレート)となるよう10%牛胎仔血清含有RPMI1640培養液に懸濁し、37℃、5%炭酸ガスインキュベーター内で培養した。20〜24時間培養後、HVJ−Eによる遺伝子導入の測定に供した。
【0080】
上記実施例1で得られたHVJ−Eと、実施例7で得られた各種ポリマー結合HVJ−Eの懸濁液(溶媒はPBS)20μLに2mg/mL硫酸プロタミン溶液(PBS)を5μL添加、混合し、氷上で5分間静置した。続いて、ルシフェラーゼ遺伝子をコードしたプラスミッドDNA(pGL3)溶液5μL(10μg)を添加、混合し、更に2%Triton X−100(PBS(−))を3μL添加、混合後、15000回転/分(19500×G)、2℃〜6℃にて10分〜15分間遠心した。上清を除去した後、沈澱を30μLのPBS(−)で懸濁した。この懸濁液に1mg/mL硫酸プロタミン溶液(PBS)5μLを添加、混合した。この混合液8μL(ウェル当り)を前もって準備(培養)しておいたLM8G5細胞またはCT26細胞に添加した。
【0081】
添加の20〜24時間後、ルシフェラーゼ発現量をルシフェラーゼ測定キット(Packard社製、LucLite、No.6016911)を用いて測定した。発光量の測定は、ルミノメータ(Turner社製、TD−20e LUMINOMETER)にて測定した。その結果を図1に示す。図1から明らかなように、HVJエンベロープを用いて、LM8G5において、特に遺伝子のような生体高分子を導入することができることが実証された。この傾向は、ヒアルロン酸導入化カチオン化HVJ−Eで顕著であった。
【実施例12】
【0082】
(HJV−Eの腫瘍細胞への親和性評価)
実施例11と同様の方法により、LM8G5細胞を保持した。これとは別に実施例1で得られたHVJ−Eと、実施例7で得られた各種ポリマー結合HVJ−Eとに、それぞれ蛍光色素Qdot655(Qd)を封入した。封入は実施例10と同様の方法にて行った。LM8G5細胞とそれぞれのウイルスエンベロープベクターとを1時間常温で接触させ、洗浄した後、24時間培養し、細胞への結合を蛍光顕微鏡で観察することで、それぞれのウイルスエンベロープベクターの腫瘍細胞への親和性を検討した。その結果、特に、ヒアルロン酸導入化カチオン化HVJ−Eにおいて、腫瘍細胞との強い親和性が認められた。
【実施例13】
【0083】
(インビトロにおけるBSH封入HVJ−Eベクター製剤を用いたBNCT照射実験)
実施例10で得られた各種BSH封入HVJ−Eベクターを、マウス骨肉腫細胞株LM8G5およびヒト悪性胸膜中皮腫細胞株MESO−1培養液にそれぞれ添加し、10分放置後、直接中性子を1時間照射後、細胞を1週間培養し、細胞増殖抑制効果の有無を調べた。その結果、図2に示すように、いずれの細胞においても、中性子照射により、ホウ素濃度依存的に、細胞増殖抑制効果があることがわかった。
【実施例14】
【0084】
(インビボにおけるBSH封入HVJ−Eベクター製剤を用いたBNCT照射実験)
実施例10で得られた各種BSH封入HVJ−Eベクターの抗腫瘍効果を、マウス骨肉腫細胞株肝転移モデルを使って調べた。まず、C3H/HeNマウスに、1×10個のLM8G5細胞を、第0日において上腸間膜静脈接種した。第8日目に、マウスに各種BSH封入HVJ−Eベクター、またはコントロールとしてBSHのみ(PBS溶解)を心腔内に導入した。導入されたBSHの量は、ホウ素10B換算で、それぞれ1,000であった。このマウスを1日飼育した後、それぞれ中性子を照射(条件)することで処理した。照射は、1日、60分ずつ行った。第11日目にマウスを犠牲死させ、処置後、それぞれのマウスから肝臓を取り出し、肝臓の重量を計測することで、本発明のBSH封入HVJ−Eベクターの治療効果を調べた。その結果、図3に示すように、いずれのBSH封入HVJ−Eベクターにおいても、中性子照射により、抗腫瘍効果があることがわかったが、特にPEG導入カチオン化HVJ−Eにおいて、強い抗腫瘍細胞効果が認められた。
【0085】
次に、実施例10で得られた各種BSH封入HVJ−Eベクターの抗腫瘍効果を、マウス胸膜炎モデルを使って調べた。まず、C3H/HeNマウスに、5×10個のMESO−1細胞を、第0日においてマウス右胸腔内注入した。第7から14日目に、マウスに各種BSH封入HVJ−Eベクター、またはコントロールとしてBSHのみを胸腔内に注入した。導入されたBSHの量は、ホウ素10B換算で、それぞれ1,000であった。このマウスを1日飼育した後、それぞれ中性子を照射(条件)することで処理した。照射は、1日、60分ずつ行った。第8から15日目にマウスを犠牲死させ、処置後、それぞれのマウスを開胸してそれぞれの胸膜の状態を調べることで、本発明のBSH封入HVJ−Eベクターの治療効果を調べた。その結果、いずれのBSH封入HVJ−Eベクターにおいても、中性子照射により、抗腫瘍効果があることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】ポリマー結合HVJ−Eのルシフェラーゼ遺伝子導入効率の検討結果を示すグラフである。
【図2】BSHを封入したポリマー結合HVJ−Eを使って、インビトロで中性子を照射した場合の腫瘍の増殖率を示す。
【図3】BSHを封入したポリマー結合HVJ−Eを使って中性子捕捉療法を行った際の肝転移抑制効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸および/またはポリエチレングリコールが結合したカチオン化ゼラチンと、ウイルスエンベロープベクターとを含む、癌治療用薬剤送達ビヒクル。
【請求項2】
前記ウイルスエンベロープベクターが、センダイウイルス由来のHVJ−Eである、請求項1記載の癌治療用薬剤送達ビヒクル。
【請求項3】
請求項1または2に記載の癌治療用薬剤送達ビヒクル中に癌治療用薬剤が封入されてなる製剤。
【請求項4】
前記癌治療用薬剤が、低分子化合物、核酸、核酸を含むプラスミドベクター、およびタンパク質医薬からなる群より選択される、請求項3に記載の製剤。
【請求項5】
前記癌治療用薬剤が、抗腫瘍剤である請求項3または4に記載の製剤。
【請求項6】
前記抗腫瘍剤が、シクロホスファミド、メクロレタミン、カルバジルキノン、メルファラン、チオテパ、ブスルファン、ニムスチン、カルムスチン、プロカルバジン、ダカルバジン、メトトレキサート、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、アザチオプリン、5−フルオロウラシル、フトラフール、フロクスウリジン、シタラビン、アンシタビン、テガフール、ドキシフルリジン、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、マイトマイシン、クロモマイシンA3、シネルビンA、アクラシノマイシンA、アドリアマイシン、ペプロマイシン、シスプラチン、ミトキサントロン、エピルビシン、ピラルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、エトポシド、シスプラチン、カルボプラチン、リン酸エストラムスチン、ミトタン、ポルフィリン、およびタキソールからなる群より選択される少なくとも1種である請求項5に記載の製剤。
【請求項7】
前記癌治療用薬剤が、ホウ素含有化合物である請求項4に記載の製剤。
【請求項8】
前記ホウ素含有化合物が、メルカプトウンデカハイドロドデカボレート(BSH)またはp−ボロノフェニルアラニン(BPA)である、請求項7に記載の製剤。
【請求項9】
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に用いるための請求項7または8の製剤。
【請求項10】
悪性胸膜中皮腫、または肝臓癌から選択される1種の治療に用いられる請求項9記載の製剤。
【請求項11】
請求項1または2のいずれかに記載の癌治療用薬剤送達ビヒクルの製造方法であって、
(a)ウイルスを不活性化する工程、および
(b)不活性化された該ウイルスから得られるウイルスエンベロープベクターを、ヒアルロン酸および/またはポリエチレングリコール、カチオン化剤、およびゼラチンによってカチオン化する工程、
を包含する方法。
【請求項12】
請求項1または2のいずれかに記載の癌治療用薬剤送達ビヒクルの製造方法であって、
(a)ウイルスを不活性化する工程、および
(b)不活性化された該ウイルスから得られるウイルスエンベロープベクターに、ヒアルロン酸および/またはポリエチレングリコールが結合したカチオン化ゼラチンを接触させる工程、
を包含する方法。
【請求項13】
前記ウイルスエンベロープベクターが、センダイウイルス由来のHVJ−Eである、請求項11または12のいずれかに記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−308440(P2008−308440A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157701(P2007−157701)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年3月27日 インターネットアドレス「http://mhlw−grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年4月10日 厚生労働省発行の「厚生労働科学研究費補助金 ヒトゲノム・再生医療等研究事業 臨床応用のためのlong−acting HVJ−E(ヒト型)の開発に関する研究 平成18年度 総括・分担研究報告書」に発表
【出願人】(302060281)ジェノミディア株式会社 (7)
【出願人】(503265876)株式会社メドジェル (15)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】