説明

癌転移抑制能測定する方法およびその測定器

【課題】 癌が発見され、摘出手術を受けた後の患者を念頭におき、その予後改善を目指す転移抑制作用を有する薬剤をスクリーニングする目的で、宿主細胞側の観点から癌細胞と血管内皮細胞とを取り巻く初期段階の生体内動態を反映した癌転移モデル系である癌転移抑制能を有する成分測定検索し、その転移抑制程度を測定する方法および測定器を提供・開発することにある。
【解決手段】 血管内皮細胞(5)と癌細胞が直接接触することなく、共存培養することが出来て、癌細胞から分泌されると思われる血管内皮細胞の開裂程度部分(9)に関与する成分を長時間供給することが可能となり、その開裂程度を培養コンパートメントの上層部(7)と下層部(8)との間の電気抵抗レベルを測定する方法および装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、癌転移抑制能を有する成分検索(スクリーニング)し、抑制能測定する方法および測定器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般に広く行われている癌転移抑制作用に対する被検試薬スクリーニングは、マウスを用いた動物実験で行われている。(非特許文献1)
【特許文献1】特開平5−211893号公報
【0003】
また、試験管内での転移抑制剤の効果判定法としては、浸潤、運動、血管新生の転移形成の各ステップに則した評価法が考案されて広く普及している。(非特許文献1)
【非特許文献1】がん転移研究会編『がんの浸潤・転移研究マニアル』 金芳堂 1994年
【0004】
しかし、実験動物に癌細胞を投与し、転移形成臓器に転移した結節数を計測する動物実験では、転移巣形成までに3〜4週間を要し、不便である。うさぎの角膜を用いる血管新生能の測定法も含めて、大量のサンプルを処理する必要がある被検試薬を一次スクリーニングに動物を大量に扱うことは動物愛護の精神からも安易に行うことは許されない。
【0005】
従って、上記の公知技術が示すように、実験動物を用いることなく、試験管内で宿主細胞への影響を迅速、的確に癌移転の動態を把握することが出来る測定方法の確立が望まれている。
【0006】
さらに、浸潤能を測定する方法として代表的なものに、ケモタキシスチャンバーに取り付けたフィルター上に細胞外マトリックス成分を塗布し、さらに、その上に内皮細胞を飽和状態になるまで培養し、その上に癌細胞を一定時間、重層培養して、内皮細胞間隔とフィルターの細孔とを貫通して下のウエルに落下する癌細胞の数を計測することで癌細胞の浸潤能を測定するものがある。(例えば、特許文献1)
さらに、特許文献1に記載された方法は、癌細胞の観点から癌細胞の内皮細胞への浸潤能、運動能を評価する系である。
【0007】
しかしながら、先行する,これら特許技術では、癌細胞と宿主側に相当する正常細胞の内皮細胞とが、直接、接触するために、臨床上の癌細胞を取り除く体内動態の観点から見ると、癌転移ステップである、
1) 癌細胞の原発巣での増殖
2) 周辺組織への浸潤、
3) 血管内への侵入
4) 血管内移動
5) 転移臓器血管への定着
6) 血管外脱出を経て、
転移臓器組織で増殖し、転移巣形成に至るステップにおいて、血管内への侵入に相当し、病期は進行した段階であり、転移抑制、転移予防が手遅れとなステージとなる。
【0008】
また、内皮細胞の開裂レベルを共焦点レーザー顕微鏡によって形態が変化した内皮細胞を計測することで評価する系が報告されている。(非特許文献2)
【非特許文献2】International Journal of Oncology 21:541-546 2002
【0009】
しかしながら、共焦点レーザー顕微鏡という高価な顕微鏡を必要とする上に、上述した従来の顕微鏡下が細胞数を計測する系では細胞の見極めに測定者による人為的要因が入り込む可能性が拭いきれず問題であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、この発明は、内皮細胞の開裂状況の僅かな変化も検出可能にした感受性に優れ、長時間測定にも対応でき、実施者の個人差が入り込まない、簡便な操作による測定手順を提供し、また、癌が発見され、摘出手術を受けた後の患者を念頭におき、その予後改善を目指す転移抑制作用を有する薬剤をスクリーニングする目的で、宿主細胞側の観点から癌細胞と血管内皮細胞とを取り巻く初期段階の生体内動態を反映した癌転移モデル系である癌転移抑制能を有する成分を検索し、その転移抑制過程を測定する方法および測定器を提供・開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するために、第一の発明は、癌転移能測定法、即ち,方法の発明であり、抗転移剤の候補となる物質を宿主側の内皮細胞の観点から選別することを目的として血管内皮細胞と癌細胞を共存培養することで生ずる血管内皮細胞の細胞間隔程度を内皮細胞を横切る電気的抵抗量で評価する方法である。
【0012】
また、第二の発明は、抵抗測定器の発明であり、化学走性を解析するために考案された既存の装置を用いて、ケモタキシスチャンバーである細孔を有するポリカーボネートフィルターとポリスチレン製筒状の壁からなる小区画を用いて、それを24穴細胞培養プレートの底面と接触しないように配置し、小区画内に血管内皮細胞を飽和状に培養して、24穴細胞培養プレート内に癌細胞を共存培養することで生ずる血管内皮細胞の細胞間隔程度を一定最短距離で電極を挿むことを特徴とする抵抗測定器である。
【発明の効果】
【0013】
この発明によると、先ず、第一の発明である即ち,請求項1記載の発明によれば、癌細胞と血管内皮細胞が直接接触することなく、即ち,非接触状態での共存培養することができ、癌細胞から分泌されると思われる血管内皮細胞の開裂現象に関与する成分を長時間的に供給することが可能となり、血管内皮細胞の開裂現象に注目することで癌転移モデルを構築し、転移能を評価することができる。
【0014】
また、第二の発明である,請求項2記載の発明のケモタキシスチャンバー中に培養した血管内皮細胞の開裂レベルを評価するために、培養内皮細胞の層を挿む形で最短距離で固定する電極を用いるので、内皮細胞の開裂レベルが高感度に測定できる等極めて有益なる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の請求項1に記載された発明の実施をするための最良の形態について、説明すると、血管内皮細胞と癌細胞の非接触共培養系について説明する。
【0016】
図1は、この発明の血管内皮細胞と癌細胞の非接触共培養系の一例を示し、この培養系は孔径0.4〜8マイクロメーターの細孔を有するポリカーボネイトフィルター(1)を取り付けたポリプロピレン製円筒型のケモタキシスチャンバー(2)をポリプロピレン製24穴培養プレート(3)と懸隔する。
【0017】
ポリカーボネイトフィルター(1)の細胞外マトリックス構成成分(4)をコーティングし、その上にヒト臍帯由来血管内皮細胞を常法に従い播種し、3〜5日後に、血管内皮細胞がチャンバー(2)内のフィルター(1)の一面に血管内皮細胞の層(5)が形成される。
【0018】
ポリカーボネイトフィルター(1)が透視可能なものであれば、細胞間隔程度を顕微鏡下で観察可能であるが、後に詳しく説明する培養コンパートメント上層部(7)と下層部(8)との間の電気抵抗レベルで判断出来る。目的に応じて上層部(7)及び下層部(8)の培地中に試料を加えて前培養するものである。
【0019】
前述したポリプロピレン製24穴培養プレート(3)の底に細胞株として確立された癌細胞や人体より分離された癌組織を培養した癌細胞(6)を播種する。目的に応じて培地中に試料を加えて前培養する。この発明に使用する癌細胞は特にその種類を限定しないが、癌細胞の種類によって、後述する電気抵抗を測定するタイミングは若干異なる。
【0020】
フィルター(1)の一面に血管内皮細胞の層(5)が形成されたケモタキシスチャンバー(2)を24穴培養プレート(3)のウエル中に培養し、培養液中に癌細胞(6)から内皮細胞を開裂する成分が分泌されている状態の培養プレートと併せ、一定時間培養することで、癌細胞が血管内皮細胞を開裂し周辺組織を浸潤、転移する過程の試験管外モデル化を構築するものである。
【0021】
以上のことから、この発明を実施するための最良の形態によれば、血管内皮細胞と癌細胞が直接接触することなく、共存培養することで癌細胞から分泌されると思われる血管内皮細胞の開裂に関与する成分を長時間供給することが可能となる。
【0022】
次に、第二の発明である癌転移抑制能測定器の最良の形態について説明すると、図2に示すように、24穴培養プレート(3)とウエルと同程度の抵抗測定コンパートメント容器(10)を別に用意し、血管内皮細胞(5)の開裂程度部分(9)を培養コンパートメントの上層部(7)と下層部(8)との間の電気抵抗レベルを測定するために、上層部(7)中に抵抗器(図示せず)の電極(11)を内皮細胞(5)と出来る限り接近させるように設置し、もう一方の電極(12)を容器(10)の底面に嵌め込む形状にする。上層部(7)に設置する電極(11)を測定時に用いる容器(10)の蓋(13)に固定することで、ケモタキシスチャンバー(2)の底面(1)との距離を抵抗測定の際に常に一定に出来るものである。尚、図3に示す(14)は、抵抗測定器EVOM(WPI社製)であり、(15)は、抵抗測定コンパートメントEndohm(WPI社製)である。
【0023】
以上のことから、本発明を実施するこめの最良の形態によれば、抵抗値という数値で血管内皮細胞の開裂程度を評価することで、顕微鏡下による細胞計測という測定者の個人的恣意の入り込む余地を少なくすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
この発明は、癌転移抑制能を有する成分を検索し、転移抑制能を測定する方法および測定器の技術を確立することにより、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の一実施例を示す説明図である。
【図2】この発明の他の実施例を示す説明図である。
【図3】この発明に使用する抵抗測定器の一実施例を示す説明図である。
【図4】この発明の他の実施例を示す説明図である。
【図5】この発明による癌細胞および非癌細胞による内皮細胞の開裂程度を測定したグラフ図である。
【符号の説明】
【0026】
1 フィルター
2 ケモタキシスチャンバー
3 24穴培養プレート
4 細胞外マトリックス構成成分
5 血管内皮細胞
6 癌細胞
7 培養コンパートメント上層部
8 培養コンパートメント下層部
9 血管内皮細胞の開裂程度部分
10 抵抗測定コンパートメント容器
11 コンパートメント上層部電極
12 コンパートメント下層部電極
13 抵抗測定容器蓋
14 抵抗測定容器EVOM(WPI社)
15 抵抗測定コンパートメントEndohm(WP1社)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗転移剤の候補となる物質を、宿主側の内皮細胞の観点から選別することを目的として、血管内皮細胞と癌細胞を非接触共存培養することで生ずる、血管内皮細胞の細胞間隔程度を内皮細胞を横切る電気的抵抗量で評価することを特徴とする癌転移抑制能測定する方法。
【請求項2】
上部が開口し、底面に癌細胞を配置する24穴細胞培養プレートと、化学走性を解析するため開発され、底部に細孔を有するポリカーボネイトフィルターを設けたケモタキシスチャンバーと、前記24穴細胞培養プレートの底面が、ケモタキシスチャンバーと接触しないよう懸隔手段により懸隔し、小区画を形成し、該小区画内に血管内皮細胞を飽和状に培養し、前記24穴細胞培養プレート内に癌細胞を共存培養することで生ずる血管内皮細胞の細胞間隔程度を、前記ポリカーボネイトフィルターを介して一定最短距離で電極を挿むことを特徴とする癌転移抑制能測定器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−3293(P2006−3293A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182162(P2004−182162)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(504239962)
【Fターム(参考)】