説明

癒着の予防および他のバリア適用のための組成物

癒着の形成に対するバリアを形成する自己集合物質を、出血または流体の漏出がないかまたは実質的に停止した後に、それを必要とする部位に投与することにより癒着の形成を予防または制限する方法を開発した。一つの実施形態において、自己集合物質は、以下の式I〜IVの一つ以上に適合するアミノ酸残基の配列を有するペプチドを含む:((Xaaneu−Xaa)x(Xaaneu−Xaa)y)n(I)、((Xaaneu−Xaa)x(Xaaneu−Xaa)y)n(II)、((Xaa−Xaaneu)x(Xaa−Xaaneu)y)n(III)、((Xaa−Xaaneu)x(Xaa−Xaaneu)y)n(IV)、式中Xaaは正電荷を有すアミノ酸残基を、Xaaは負電荷を有すアミノ酸残基を示し、xおよびyは、それぞれ1、2、3、または4の値を有す整数であり、そしてnは1〜5の値を有す整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願への相互参照
本願は、2007年4月25日に出願された米国特許出願第11/740,284号に対する優先権の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は全般的に、癒着の予防および他のバリア適用のために、組織へ適用される処方物の分野におけるものである。
【背景技術】
【0003】
癒着は、出生時に(先天的に)存在し得るか、または腹部の手術もしくは炎症後に形成し得る。ほとんどの癒着は、手術後一般的に形成する。癒着は、胃、胆嚢、または膵臓のような臓器での術後よりも、結腸、虫垂、または子宮での処置後に、より一般的である。癒着を生じるリスクは、手術後の時間の経過とともに増大する。
【0004】
腹部の癒着は、腹部において臓器上に形成する線維状の瘢痕組織の帯であり、臓器が互いに固着するかまたは腹部の壁に固着する原因となる。腸の癒着は、腸のループをお互いに;腸を他の腹部の臓器に;または腸を腹壁に、つなぐ線維状組織の帯である。これらの帯は、腸の部分を、その場所から引き出し、食物の通過をブロックし得る。先進国に住む人々において、この瘢痕組織は、臓器が手術チームにより処置され、正常な位置から一時的に移動させられる腹部の手術後、最も普通に生じる。瘢痕組織は、腹部の臓器を覆う膜に拡がった感染症である腹膜炎を発症する人々においてもまた形成し得る。腹膜炎は、虫垂炎または他の腹部感染症後、一般的に生じる。癒着の他の原因は、かなりの女性に影響を及ぼし、そして腹部、および帝王切開を含む深刻な腹部の外傷に関係し得る炎症状態である子宮内膜症である。
【0005】
癒着は、腸の閉塞の主要な原因である。癒着は、腸の部分的または完全な閉塞を引き起こし得る。癒着に帰因して示される症状は、閉塞の程度および位置に依存する。症状は、痙攣、腹痛、嘔吐、鼓脹、ガスの通過不能、および便秘を含む。しかしながら、癒着を有する少数の人では、瘢痕組織の線維状の帯が、完全または部分的いずれかに腸をブロックする。この閉塞は、腸閉塞と呼ばれ、約5%の症例で死を導く。しばしば、癒着により影響される腸の領域が、ブロックされ、そしてブロックが解かれ得、症状が移り変わる原因となる。小腸の閉塞の約10%において、腸の一部が、癒着の帯の周りで強く捩れる。このことが、捩れた腸への正常な血液の供給を遮断し、絞扼として知られる障害であって、腸のその部分の死を引き起こす。この緊急事態が起こった場合、その人は迅速に手術を受けなければならない。絞扼を起こした人々における死亡率は37%の高さである。
【0006】
経皮的硬膜外癒着切離および脊髄内視鏡的切離は、硬膜外瘢痕形成による難治性腰痛をともなう患者を処置するために用いられる、介入疼痛管理技法である。標準的な硬膜外ステロイド注入は、特に背部の手術を先に受けた患者において、しばしば無効である。硬膜外空間における癒着は、標的領域への薬剤の流れを妨害し得る;これらの癒着の溶解は、影響を受けた領域への薬物の送達を改善し得、注入された薬物の治療的有効性を潜在的に改善する。しかしながら、そのような癒着の予防が、より好ましい。
【0007】
多くの異なる物質が、癒着を予防する手段として試みられてきた。これらのほとんどは、手術時に溶液として適用されるヒドロゲルである。これらの物質の有効性は、迅速な分解および/または十分に厚いバリアを形成することの障害により変化する。他の物質は、抗増殖薬との組み合わせにおいてのみ機能する。出血および他の体液の漏出により手術の間に普通に存在する、高度に流動性の環境では、これらの物質のいずれも有効であることが示されていない。
【0008】
Zhangらによる米国特許第5,670,483号、同第6,548,630号、および同第7,098,028号は、交代性の疎水性および親水性残基を有する両親媒性のペプチドを記載する。Zhangは、その膜が、ゆっくりした拡散の薬物送達システム、人工皮膚、および分離基盤のような生体材料の適用において、ならびにアルツハイマー病およびスクレイピー感染のための実験モデルとして潜在的に有用であると主張する。しかしながら、Zhangは、癒着の予防のためのそのような物質の使用を開示しない。
【0009】
特許文献1および米国特許出願第11/411,745号は、生理的条件下でそれらが自己集合(self−assemble)することを可能にする交代性の親水性および疎水性モノマーを持つペプチドを含む組成物が、傷への適用のために処方されることを記載する。しかしながら、これらの適用は、癒着の予防のためのそのような物質の使用を記載しない。
【0010】
したがって、本発明の目的は、出血しているか、または流体の存在下で、組織または細胞に適用され得る、癒着を予防または最小化するための、および他のバリア適用のための方法および組成物を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、包帯、スプレー、コーティング。または粉末として処方し得る組成物などを提供することである。
【0012】
癒着を予防するために用いられ得るが、その物質をとおして医師が検査および処置を可能にするために十分に澄明な組成物を提供することは、本発明のなお、さらなる目的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2007/142757号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
出血または流体の漏出が実質的に停止された後に、癒着の予防または他のバリア適用(例えば、汚染または感染(例えば、細菌、真菌、ウイルス、または他の病原因子から)を最小化すること、癌の手術後の転移の拡散を制限すること)のために、または治療用の、診断用の、もしくは予防用の薬剤の、限られた領域における送達のために、組織に適用するための、生理的条件下で自己集合する物質を含む組成物が処方される。
【0015】
一実施形態において、自己集合する物質は、式I〜IV:
【0016】
【化1】

の一つ以上に一致するアミノ酸残基の配列を有するペプチドを含み、ここでXaaneuは中性電荷を有すアミノ酸残基を示し、Xaaは正電荷を有すアミノ酸残基を示し、Xaaは負電荷を有すアミノ酸残基を示し、xおよびyは別個に1、2、3、または4の値を有す整数であり、そしてnが1〜5の値を有す整数である。
【0017】
別の実施形態において、自己集合する物質は、ペプチド模倣物、ヌクレオチド模倣物、ジブロック共重合体およびトリブロック共重合体、N−アルキルアクリルアミド、またはデンドリマーである。これらの物質は、組織もしくは組織を形成する細胞の再生または修復のための方法においてまた有用である。
【0018】
どの与えられた処方物においても、自己集合する物質の濃度は、変化し得、そして好ましくは0.1%と10%の間を含めて、約0.1%と99%の間であり得る。一つの実施形態において、自己集合する物質(例えば、液体処方物において)の濃度は、約0.1%〜3.0%(1〜30mg/ml)(例えば、0.1〜1.0%;1.0〜2.0%;2.0〜3.0%または1.0〜3.0%)であり得る。自己集合する物質の濃度は、貯蔵溶液および固体(例えば、粉末化された)処方物において、より高くなり得る。固体調製物は、100%に近い自己集合する物質の濃度(例えば、自己集合する物質の濃度は、組成物の95、96、97、98、99%またはそれを超える(例えば99.99%))であり得る。液体形態または固体形態のどちらにおいても、自己集合する物質は、薬学的に受容可能な希釈剤(例えば、脱イオン水)、充填剤、または油の付加により、使用に先立って所望の濃度にされ得る。処方物は、薬学的に受容可能な担体または治療薬、予防薬もしくは診断薬を含み得る。これらは、限定されるものではないが、抗炎症薬、血管作用薬、抗感染薬、麻酔薬、成長因子、および/または細胞を含む。金属が、キレート化剤として、または癒着をさらに減少させるために加えられ得る。
【0019】
処方物は、一つ以上の障害または状態(上記の障害または状態など)の処置のため、適切なように投与され得る。例えば、処方物は、傷害の修復後、または肺、眼もしくは硬膜の手術の間、または硬膜外穿刺(epidual tap)もしくは脊椎穿刺の後、癒着の形成を予防または最小化するために適用され得る。椎弓切除後癒着(例えば、椎弓切除誘導性馬尾癒着)および脊髄減圧後(post−spinal decomposition)癒着(例えば、硬膜癒着)を予防するために、前記物質が用いられ得る。物質は、傷害部位での赤血球の蓄積および/または血小板凝集を予防するために、特に器官または組織に対する傷害の場合に、免疫機構の遮断またはフィルターとして用いられ得る。これは肝臓および脳への傷害においても示された。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記物質は、選択された物質の通過を許すが、一方で細菌、ウイルス、真菌等のような他の物質の通過または導入を予防を可能にし得る。
【0021】
処方物は、ヒドロゲル、油を含む薄層(laminate)として、またはスプレーとして適用され得る。一実施形態において、処方物は、粉末もしくは錠剤、ディスク、または適用部位において水和するウエハとして直接投与され得る乾燥もしくは凍結乾燥粉末として提供されるか、最も好ましくは水性である液体中に懸濁または溶解されて、スプレーとして、塗布剤として、注射物として、またはキチン、コラーゲン、アルギン酸塩、または合成ポリマーのような物質を含むヒドロゲルとして適用される。好ましい実施形態において、前記物質は、油との組み合わせで提供され、その組み合わせは、薄層を形成する。さらに別の実施形態において、処方物は、前記物質が分散または吸収され得る、包帯、泡またはマトリックス中に提供される。処方物はまた、縫合糸、テープ、または接着剤の形態であり得る。液体処方物は、自己集合する物質を含む組成物を含む胴部、および注射器またはピペットの開口端から組成物を放出するための手段(例えば、プランジャーまたはバルブ)を有する注射器またはピペット中で提供され得る。注射器は、一つ以上の区画から成り得、そのため、一つ以上の他の薬剤と自己集合する物質との混合が適用時に生じる。その区画はまた、一つの区画においてヒドロゲルまたは粘着物を形成する物質のような賦形剤を、および他の区画において自己集合する物質を含み得る。別の実施形態において、一つの区画は、凍結乾燥された自己集合する物質もしくは自己集合する物質の粒子を含み得、そして別の区画が、その物質を溶解または水和させる溶液を含み得るか、または乾燥適用のための他の粉末と混合される。その液体および粉末組成物は、好ましくは一年より長く、より好ましくは2年より長く、そして最も好ましくは、3年より長く安定である。
【0022】
本明細書中に記載される一つ以上の組成物は、使用のための説明書とともに、キット中に集められ得る。例えば、キットは、自己集合する物質(またはその濃縮溶液もしくは粉末化された処方物を希釈剤とともに)および血管収縮薬、着色剤、または鎮痛剤もしくは麻酔剤を含む生体親和性組成物、およびそれらの組み合わせ(既に組み合わされていない場合)ならびに使用(例えば、希釈および投与)のための説明書を含み得る。キットはさらに、本明細書中に記載される、一つ以上の追加の薬剤をさらに含み得る。これらの薬剤は、自己集合する組成物内に存在し得るか、または別々に包装され得、そしてそれらは、一つ以上の型の生物学的細胞、抗生物質、または他の治療用物質、コラーゲン、抗炎症剤、成長因子、または栄養薬を含み得る。キットはまた、一つ以上の注射器(例えば、バレル注射器またはバルブ注射器)、針、ピペット、ガーゼ、スポンジ、綿、綿棒、包帯、消毒薬、手術用糸、ハサミ、メス、滅菌した流体、単純なハンドポンプをとおして液体溶液がスプレーされるスプレー缶、滅菌した缶、使い捨て手袋を含み得る。キットはまた、その物質が使用される環境に依存して、その物質の集合速度論を変化させる、一つ以上の添加剤を含み得る。
【発明を実施するための形態】
【0023】
I. 処方物
本明細書中で用いられる「癒着」は、器官および/または組織表面に付着して、器官および/または組織を結合し、蔽い、またはゆがめることができる線維状組織および/または瘢痕組織について一般的に指す。癒着は、先行する感染および/または手術により引き起こされ得る。癒着は、限定されるものではないが、骨盤の領域、腹部、腸、およびファローピウス管または卵巣のような生殖器官を含む身体の多様な領域で生じえる。
【0024】
本明細書中で用いられる「生体親和性」は、有害でなく、傷害性でなく、または生理学的に反応性ではなく、そして免疫学的拒絶を生じないことによる、生組織または生命システムとの親和性を指す。
【0025】
「相補性」は、構造中の隣接するペプチド由来の親水性残基間のイオン結合または水素結合相互作用を形成する能力を有することを意味する。ペプチド中の各親水性残基は、隣接するペプチド上の親水性残基と水素結合またはイオン対を形成するのどちらか、または溶媒に曝露される。対形成は、ファンデルワールス力を伴い得る。
【0026】
自己集合するペプチドまたは生体分子、薬剤等のような活性物質に関して、「有効量」は、所望の生物学的応答を引き出すために必要な量を指す。当業者により認識されるように、薬剤の有効量は、所望の生物学的エンドポイント、送達される薬剤、薬剤が送達される部位の性質、薬剤が投与される状態の性質等のような因子に依存して変化し得る。例えば、糖尿病性網膜症の処置のための組成物の有効量は、その組成物の非存在下で生じるよりもより大きな程度に回復を促進するに十分な量であり得る。
【0027】
「ホメオスタシス」は、出血の停止を指す。
【0028】
「予防」は、状態(condition)、状態(state)、もしくは疾患、またはそのようなものの徴候(symptom)もしくは徴候(manifestation)の発現、またはそのようなものの重症度の悪化を起こさせないことを指す。「予防」は、状態、(condition)、状態(state)、もしくは疾患、またはそのようなものの徴候(symptom)もしくは徴候(manifestation)の危険性、またはそのようなものの重症度の悪化が起こる危険性を減少させることを含む。
【0029】
本発明の多様な実施形態における組織の修復に関して用いられる場合、「修復」は、傷害、悪化、または他の損傷の前の組織の状態の構造上または機能上の回復のどの局面も含み得る。例えば、傷害、悪化、または他の損傷により分離された組織の部分の間の物理的連続性の回復を含み得る。好ましくは、物理的連続性のそのような回復は、傷害の前には存在しなかったタイプの組織(例えば瘢痕組織)による感知できるほどの分離を伴わない、組織の部分の復位または再結合を含む。整復は、新しい組織の成長または発達を含むが、それを必要とはしない。「修復」および「回復(healing)」は、本明細書中で互換的に用いられる。
【0030】
本明細書中で用いられる場合、「自己集合」は、分子間力により保持される、規定され、安定な、非共有結合されたアッセンブリーへの分子の集合を指す。集合は、自発的であるか、または誘導され得る。
II. 自己集合物質
A. 自己集合ペプチド
一つの実施形態において、自己集合物質は、自己集合ペプチドである。本明細書中で用いられる場合、用語「ペプチド」は、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」、および「タンパク質」を含み、共有結合(例えば、ペプチド結合)により一緒に連結された少なくとも二つのα−アミノ酸残基の鎖を指す。有用なペプチドは、本明細書中に記載される一つ以上の目的のために有用な程度まで自己集合する能力を保持する限り、長さにおいて変化し得る。ペプチド中のアミノ酸残基の数は、α−アミノ酸のわずか2残基から約200残基までの範囲であり得る。一般的に、自己集合するペプチドは、約6〜約200残基、好ましくは、約6〜約64残基、より好ましくは、約8〜約36残基、最も好ましくは約8〜約24残基を有す。そのペプチドは、長さにおいて少なくとも6アミノ酸(例えば、8または10アミノ酸)、長さにおいて少なくとも12アミノ酸(例えば、12または14アミノ酸)、または長さにおいて少なくとも16アミノ酸(例えば、16、18、20、22、または24アミノ酸)であり得る。100アミノ酸残基長より少ない、より好ましくは長さにおいて約50アミノ酸より少ないペプチドは、より容易に集合し得る。一つの実施形態において、ペプチドは約8〜約16残基を有す。別の実施形態において、ペプチドは、約12〜約20残基を有す。さらに別の実施形態において、ペプチドは、約16〜約20残基を有す。「ペプチド」は、個々のペプチド、または同一もしくは異なる配列を有すペプチドの集合を指し、それらのいずれもが、天然に生じるα−アミノ酸残基、非天然に生じるα−アミノ酸残基、およびそれらの組み合わせを含み得る。α−アミノ酸類似体がまた、当該分野で公知であり、代わりとして用いられ得る。特に、D−α−アミノ酸残基が使用され得る・
加えて、アシル基、炭水化物基、炭水化物鎖、リン酸基、ファルネシル基、イソファルネシル基、脂肪酸基、またはペプチドの結合もしくは機能付与を可能にするリンカーを含むが、それらに限定されるものではない、一つ以上の化学的実体の付加により、自己集合ペプチド中の一つ以上のアミノ酸残基が、改変または誘導体化され得る。例えば、所定のペプチドのどちらかまたは両方の末端が改変され得る。例えば、カルボキシル末端残基およびアミノ末端残基のカルボキシル基および/またはアミノ基は、それぞれ保護され得るか、または保護され得ない。末端での電荷がまた、改変され得る。例えば、アシル基(RCO−、ここでRは有機基である(例えば、アセチル基 CHCO−))のような基またはラジカルが、ペプチドのN末端に存在し得、中和しければ存在し得る「余分な」正電荷(例えば、N末端アミノ酸の側鎖に由来するものではない電荷)を中和し得る。同様に、アミン基(RNH−、ここでRは有機基である(例えば、アミノ基 −NH))のような基が、中和しければC末端に存在し得る「余分な」負電荷(例えば、C末端アミノ酸残基の側鎖に由来するものではない電荷)を中和するために用いられ得る。アミンが用いられる場合、C末端はアミド(−CONHR)を持つ。末端での電荷の中和は、自己集合を促進し得る。当業者は、他の適切な基を選択することが可能である。
【0031】
有用なペプチドはまた、分枝し得、その場合、それぞれがペプチド結合により連結された少なくとも三つのアミノ酸残基からなる、少なくとも二つのアミノ酸ポリマーを含む。その二つのアミノ酸ポリマーは、ペプチド結合以外の結合によっても連結され得る。
【0032】
ペプチドの配列が変化し得る場合、有用な配列は、ペプチドに対して両親媒性の性質を示す配列を含み(例えば、ペプチドは、ほぼ等しい数の疎水性アミノ酸残基および親水性アミノ酸残基を含み得る)、そしてペプチドは、相補であり得および構造的に互換性であり得る。相補性のペプチドは、構造中の隣接するペプチド上の残基(例えば、親水性残基)間でイオン結合または水素結合を形成する能力を有す。例えば、ペプチド中の一つ以上の親水性残基は、隣接するペプチド上の一つ以上の親水性残基と水素結合またはイオン的な対形成のどちらかをし得る。親水性残基は、極性の機能基または生理的条件で荷電する機能基を一般的に含む残基である。例示的な機能基は、カルボン酸基、アミノ基、スルフェート基、ヒドロキシ基、ハロゲン基、ニトロ基、リン酸基等を含むが、それらに限定されない。疎水性残基は、非極性官能基を含む残基である。例示的な官能基は、アルキル基、アルケン基、アルキン基、およびフェニル基を含むが、それらに限定されない。
【0033】
一つの実施形態において、親水性残基は、式−NH−CH(X)−COO−を有し、ここでXは、式(CHZを有し、ここでy=0〜8、好ましくはy=1〜6、より好ましくはy=1〜4、最も好ましくはy=1〜3であり、そしてZは、カルボン酸基、アミノ基、スルフェート基、ヒドロキシ基、ハロゲン基、ニトロ基、リン酸基、または四級アミンを含む官能基を含むが、それらに限定されない極性または荷電官能基である。アルキル鎖は、線状、分枝、または環状配置であり得る。Xはまた、アルキル鎖内に一つ以上のヘテロ原子を含み得、および/またはXは、一つ以上の付加的置換基で置換され得る。好ましい実施形態において、Zは、カルボン酸基またはアミノ基である。一つの実施形態において、疎水性残基は、式−NH−CH(X)−COO−を有し、ここでXは、式(CHZを有し、ここでy=0〜8、好ましくはy=1〜6、より好ましくはy=1〜4、およびより好ましくはy=1〜3であり、そしてZは、アルキル基、アルケン基、アルキン基、またはフェニル基を含むが、それらに限定されない非極性官能基である。アルキル鎖、アルケン鎖、またはアルキン鎖は、線状、分枝、または環状配置であり得る。Xはまた、アルキル鎖内に一つ以上のヘテロ原子を含み得、および/またはXは、一つ以上の付加的置換基で置換され得る。好ましい実施形態において、Xは、メチル基のようなアルキル基である。
【0034】
自己集合ペプチドが、用いられる場合、それらの側鎖(またはR基)は、二つの面、正および/または負に荷電したイオン性側鎖(例えば、−OH、−NH、−COH、または−SH基を含有する側鎖)をともなう極性面、および生理的pHで中性または非荷電であるとみなされる側鎖(例えば、アラニン残基の側鎖または他の疎水性基を有する残基)をともなう非極性面に分割すると考えられる。一つのペプチドの極性面上の正に荷電したアミノ酸残基および負に荷電したアミノ酸残基は、別のペプチドの反対に荷電した残基と相補的なイオン対を形成し得る。これらのペプチドは、したがってイオン性の自己相補的ペプチドと呼ばれ得る。イオン性残基が、極性面上で一つの正に荷電した残基および一つの負に荷電した残基で交互になる場合(−+−+−+−+)、そのペプチドは、「モジュラスI」として記載され、イオン性残基が、極性面上で二つの正に荷電した残基および二つの負に荷電した残基で交互になる場合(−−++−−++)、そのペプチドは、「モジュラスII」として記載され、イオン性残基が、極性面上で三つの正に荷電した残基および三つの負に荷電した残基で交互になる場合(+++−−−+++−−−)、そのペプチドは、「モジュラスIII」として記載され、イオン性残基が、極性面上で四つの正に荷電した残基および四つの負に荷電した残基で交互になる場合(++++−−−−++++−−−−)、そのペプチドは、「モジュラスIV」として記載される。配列EAKA(配列番号111)の四つの繰り返し単位を有するペプチドは、EAKA16−I(配列番号410)と表示され得、そして他の配列を有するペプチドは、同じ慣習により記載され得る。
【0035】
対になっていないペプチドは、溶媒と相互作用し得る(例えば、水素結合を形成する等)。ペプチド−ペプチド相互作用はまた、ファンデルワールス力および/または共有結合を構成しない力を含み得る。ペプチドは、自己集合および構造形成を可能にするに十分な一定のペプチド内距離を維持することが可能である場合、構造的に互換性である。ペプチド内距離は変化し得る。本明細書中で用いられる場合、「ペプチド内距離」は、隣接するアミノ酸残基間の距離の代表的数値の平均を指す。一つの実施形態において、ペプチド内距離は、約4オングストロームより小さく、好ましくは約3オングストロームより小さく。より好ましくは約2オングストロームより小さく、そして最も好ましくは約1オングストロームより小さい。ペプチド内距離は、しかしながら、これよりもより大きくなり得る。これらの距離は、分子モデリングに基づいてまたはZhangらへの米国特許第5,670,483号に記載される単純化された方法に基づいて計算され得る。
【0036】
本明細書中に記載される構造は、Zhangらへの米国特許第5,670,483号;同5,955,343号;同6,548,630号;および同6,800,481号;Holmes et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97:6728−6733(2000);Zhang et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:3334−3338(1993);Zhang et al.,Biomaterials,16:1385−1393(1995);Caplan et al.,Biomaterials,23:219−227(2002);Leon et al.,J.Biomater.Sci.Polym.Ed.,9:297−312(1988);およびCaplan et al.,Biomacromolecules,1:627−631(2000)に記載されるペプチドの自己集合を介して形成され得る。
【0037】
交互になる疎水性アミノ酸残基および親水性アミノ酸残基を含む自己集合ペプチドが、用いられ得る。代表的な疎水性ペプチドおよび親水性ペプチドの例が表1に列挙される。
【0038】
【表1−1】

【0039】
【表1−2】

他のペプチドまたはタンパク質が、開示された自己集合ペプチドまたは組成物と組み合わせて、または交互に用いられ得る。付加的なペプチドは、他の自己集合ペプチドまたはタンパク質を含み得ることが認識される。あるいは、ペプチドは、自己集合しないペプチドであり得る。代表的な付加的ペプチド、タンパク質、または化学的に改変されたそれらの改変体は、表2に提供されるペプチドを含むが、それらに限定されない。
【0040】
【表2−1】

【0041】
【表2−2】

例えば、単一のアミノ酸残基または複数のアミノ酸残基により例証された自己集合ペプチドとは異なる、他の有用な自己集合ペプチドが生成され得る(例えば、四つ組の繰り返しの包含または排除により)。例えば、一つ以上のシステイン残基が、ペプチド中に組み込まれ得、そしてこれらの残基は、ジスルフィド結合の形成を介して互いに結合し得る。システイン残基を含まず、したがってジスルフィド結合を形成できない類似のペプチドで造られた構造と比較して、この様式で結合された構造は、増大した機械的強度を有し得る。
【0042】
自己集合ペプチド中のアミノ酸残基は、天然に生じるアミノ酸残基または非天然に生じるアミノ酸残基であってよい。天然に生じるアミノ酸は、標準的な遺伝コードによりコードされるアミノ酸残基も、非標準アミノ酸(例えば、L配置の代わりにD配置を有するアミノ酸)も、標準アミノ酸の改変により形成され得る非標準アミノ酸(例えば、ピロリジンまたはセレノシステイン)も含み得る。非天然アミノ酸は、自然界では見つからず、または見つかっていないが、ペプチド鎖中に組み込まれ得る。適切な非天然アミノ酸は、D−アロイソロイシン(2R,3S)−2−アミノ−3−メチルペンタン酸、L−シクロペンチルグリシン(S)−2−アミノ−2−シクロペンチル酢酸を含むが、それらに限定されるものではない。非天然アミノ酸の他の例は、教科書またはワールドワイドウェブ(例えば、機能性タンパク質中に成功裡に組み込まれた非天然アミノ酸の構造を示す、California Institute of Technologyにより維持されているサイト)において見い出され得る。非天然アミノ酸残基およびアミノ酸誘導体が、Ellisonへの米国特許出願公開第2004/0204561号に記載された。
【0043】
自己集合ペプチドは、化学的に合成され得るか、または当該分野で周知の方法により天然もしくは組み換えにより生産された供給源から精製され得る。例えば、ペプチドは、標準的なf−moc化学を用いて合成され得、そして高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて精製され得る。
【0044】
自己相補性ペプチド(例えば、EAKA16−I(配列番号410)、RADA16−I(配列番号1)、RAEA16−I(配列番号58)、KADA16−I(配列番号59))は、Zhang,S.ら((1999)Peptide self−assembly in functional polymer science and engineering.Reactive & Functional Polymers,41,91−102)に記載される。自己集合ペプチドは、式I〜IV:
【0045】
【化2】

の一つ以上に一致するアミノ酸残基の配列を含む。Xaaneuは、中性電荷を有すアミノ酸残基を示し;Xaaは、正電荷を有すアミノ酸残基を示し;Xaaは、負電荷を有すアミノ酸残基を示し;xおよびyは、それぞれ1、2、3、または4の値を有す整数であり;そしてnは、1〜5の値を有す整数である。モジュラスIをともなうペプチド(すなわち、一側面上に正に荷電したR基および負に荷電したR基を交互に有すペプチド(例えば、β−シートの極性面))は、xおよびyが1である式I〜IVのそれぞれにより記載される。モジュラスIIのプチド(すなわち、一つのタイプの電荷(例えば、正電荷)を持つ二つの残基とそれに続く別のタイプの電荷(例えば、負電荷)を持つ二つの残基を有するペプチド)は、xおよびyの両方が2である、上記と同じ式により記載される。モジュラスIIIのペプチド(すなわち、一つのタイプの電荷(例えば、正電荷)を持つ三つの残基と、それに続く別のタイプの電荷(例えば、負電荷)を持つ三つの残基を有するペプチド)の例は、RARARADADADA(配列番号112)およびRARARARADADADADA(配列番号113)を含むが、それらに限定されるものではない。
【0046】
アスパラギンおよびグルタミンを含むが、それらに限定されるものではない、水素結合を形成する他の親水性残基が、ペプチド中に組み込まれ得る。ペプチド中のアラニン残基が、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニンまたはチロシンのような、より疎水性の残基に変えられる場合、結果として生じるペプチドは、より大きな自己集合する傾向を有し、そして増強された強度をもつペプチドマトリックスを形成する。本明細書中に記載されたペプチドと類似のアミノ酸配列および長さを有するいくつかのペプチドは、β−シートよりはむしろ、α−ヘリックスおよびランダムコイルを形成し、肉眼的構造は形成しない。したがって、自己相補性に加えて、ペプチド長、分子間相互作用の程度、およびスタッガードアレイ(staggered array)を形成する能力などの他の因子が肉眼的構造形成にとって重要であると考えられる。
【0047】
ペプチドに基づく構造は、ペプチドの異種混合物(すなわち、所定の式または二つ以上の式に一致する一つを超えるタイプのペプチドを含む混合物)で形成され得る。いくつかの実施形態において、混合物中の各タイプのペプチドが、単独で自己集合することが可能である。他の実施形態において、一つ以上の各タイプのペプチドは、単独では自己集合しなが、異種ペプチドの組み合わせは、自己集合し得る(すなわち、混合物中のペプチドは、相補的であり、そしてお互いに構造的に互換性である)。したがって、自己相補性および同じ配列のまたは同じ繰り返しサブユニットを含む自己互換性ペプチドの同種混合物、または相補性でありお互いに構造的に互換性である異なるペプチドの異種混合物のいずれかが使用され得る。
【0048】
好ましい実施形態において、自己集合を助ける一つ以上の短いアミノ酸配列(集合補助配列として言及される)が、単独では自己集合しないアミノ酸配列の同種混合物または異種混合物に加えられ得る。集合補助配列は、混合物中の配列中のアミノ酸と相補性であるアミノ酸を含む。集合補助配列は、任意の数のアミノ酸を含み得る。好ましくは、集合補助配列は、少なくとも四つのアミノ酸を含む。集合補助配列は、自己集合を補助するアミノ酸の間にフレキシブルリンカーを含み得る。例えば、集合補助配列は、フレキシブルリンカーを介して連結される配列の末端において、集合補助アミノ酸の対、三つ組み、または四つ組みを含み得る。適切な集合補助配列は、RADA(配列番号57)およびEAKA(配列番号1111)を含むが、それらに限定されるものではない。
【0049】
適切なリンカーは、エーテルがベースのつなぎ剤(tether)(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、N−スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP、3−および7−原子スペーサー)、長鎖(SPDP(12−原子スペーサー)、(スクシンイミジルオキシカルボニル−α−メチル−2−(2−ピリジルジチオ)トルエン)(SMPT、8−原子スペーサー)、スクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(SMCC、11−原子スペーサー)およびスルホスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート、(スルホ−SMCC、11−原子スペーサー)、m−マレイミドベンゾイル−N ヒドロキシスクシニミドエステル(MBS、9−原子スペーサー)、N−(γ−マレイミドブチリルオキシ)スクシニミドエステル(GMBS、8−原子スペーサー)、N−(γ−マレイミドブチリルオキシ)スルホスクシニミドエステル(スルホ−GMBS、8−原子スペーサー)、スクシンイミジル 6−((ヨードアセチル)アミノ)ヘキサノエート)(SIAX、9−原子スペーサー)、スクシンイミジル 6−(6−(((4−ヨードアセチル)アミノ)ヘキサノイル)アミノ)ヘキサノエート(SIAXX、16−原子スペーサー)、およびp−ニトロフェニルヨードアセテート(NPIA、2−原子スペーサー))を含むが、それらに限定されるものではない。当業者は、異なる数の原子をもつ多くの他のリンカーが用いられ得ることをまた認識する。
【0050】
本明細書中に記載される組成物は、適確な形態に関係なく(例えば、液体形態または成形の形態であるか)および全体の組成に関係なく(例えば、他の薬剤と結合されているか、装置中に含まれているか、キット中に包装されているか)、一つ以上のペプチド鎖の混合物を含み得る。
【0051】
異なる剛性および弾力性の程度を有する、自己集合構造が、形成され得る。構造は、一般的に低い弾性率(例えば、標準的なコーンプレートレオメーターにおけるような、標準的な方法により測定した場合、約0.01〜1000kPa、好ましくは約1〜約100kPa、より好ましくは約1〜約10kPaの範囲の弾性率)を有す。(弾性率の低い値は)セル収縮(cell contraction)事象において圧力に応答して、運動の結果として構造の変形を許容することから、低い値が好ましい。より特異的には、剛性は、長さ、配列、および/または前駆体分子(例えば、自己集合ペプチド)の濃度を変えることを含む多様な方法で調節され得る。剛性を増加させる他の方法がまた用いられ得る。例えば、ビオチン分子または任意の他の分子(それらはその後架橋するかまたはさもなければお互いに結合し得る)に前駆体を取り付けることができる。分子(例えば、ビオチン)は、ペプチドのNもしくはC末端に含まれ得るか、または末端の間の一つ以上の残基に取り付けられ得る。ビオチンが用いられる場合、架橋は、その後のアビジンの添加により達成され得る。ビオチン含有ペプチドまたは他の架橋可能な分子を含有するペプチドは、本発明の範囲にある。例えば、ビニル基を含むが、それに限定されない、重合可能な基をもつアミノ酸残基が取り込まれ得、そして紫外線への曝露により架橋され得る。架橋の程度は、あらかじめ決定された期間、放射線を適用することにより正確に調節され得る。架橋の程度は、当該分野で周知の方法を用いる光散乱、ゲルろ過、または走査電子顕微鏡法により決定され得る。さらに、架橋は、マトリックスメタロプロテアーゼのようなプロテアーゼでの消化後のHPLC分析または質量分析により試験され得る。物質の強度は、架橋前および架橋後に決定され得る。架橋が、化学薬品あるいは光エネルギーのいずれによって達成されるかにかかわらず、分子は、型(mold)を作る過程において、あるいはペプチド含有溶液が身体に適用される場合、架橋され得る。さらに、自己集合ペプチド鎖は、インビボで物質を補強するクモの巣型パターンを形成するために架橋され得る。架橋は、物質を補強するように作用し、硬性および強度の増加を提供する。例えば、自己集合物質は外傷に適用され得、物質の表面は重合可能な基で機能化される。架橋により、物質の表面は、より硬くなり、物質を外傷部位へ固定し、一方、物質の内部は、身体が動く場合に動くように柔軟なままでいる。
【0052】
前記構造の半減期(例えば、インビボでの半減期)はまた、後に所定の構造を形成する前駆体の中にプロテアーゼまたはペプチダーゼ切断部位を組み込むことにより調節され得る。インビボで天然に生じるか、または導入される(例えば、外科医により)プロテアーゼまたはペプチダーゼは、それらの同起源の基質を切断することにより分解を促進し得る。
【0053】
本明細書に記載される任意の改変の組み合わせが作られ得る。例えば、プロテアーゼ切断部位およびシステイン残基を含む自己集合ペプチドならびに/または架橋剤、それらを含むキットおよび装置、ならびにそれらを用いる方法が、利用され得る。
【0054】
任意の工程(process)により作製される、任意の自己集合ペプチドから形成されるペプチド構造は、多様な生物物理学的および光学的技術(例えば、円偏光二色性(CD)、動的光散乱法、フーリエ変換赤外(FTIR)、原子間力(張力)顕微鏡法(ATM)、走査電子顕微鏡法(SEM)、および透過型電子顕微鏡法(TEM))を用いて特徴付けられ得る。例えば、生物物理学的方法は、ペプチド構造中のβ−シート二次構造の程度を決定するために用いられ得る。フィラメントおよび孔サイズ、繊維の直径、長さ、弾力性、ならびに体積分率が、走査および/または透過型電子顕微鏡写真の定量的画像解析を用いて決定され得る。構造はまた、構造を形成および分解するために必要な期間をとおして、多様な性質が変化する様式と同様に、膨張の程度、構造形成へのpHおよびイオン濃度の影響、多様な条件下での水和のレベル、抗張力を測定するいくつかの標準的な機械的試験技術を用いて試験され得る。これらの方法は、当業者が、本明細書中に記載された多様な代替物およびペプチドのいずれが、多様な方法における使用のために最も適切であるかを決定することを可能にし、そして多様な工程の最適化を可能にする。
【0055】
別の実施形態において、自己集合物質が血管および/または組織の縁で、構造的な細胞外マトリックス(ECM)に固定または相互作用し得ることは、本明細書中に記載される。これらの自己集合物質は、一般的に、疎水性および/または親水性部分(section)を有し、それらは物質がECMにおいて見い出される糖タンパク質と反応または相互作用することを可能にする。
【0056】
好ましくは、自己集合物質は、それらが分解する(break down)場合、いずれの二次的な毒性も生じない。さらに、自己集合物質の分解産物は、周囲の組織の増殖および修復にとって適している。
【0057】
1.他の自己集合物質
別の実施形態は、生理的条件下で負電荷を有す残基の部分に結合する、生理的条件下で正電荷を有す残基の部分を有す自己集合ペプチドを提供する。正または負に荷電した残基の部分は、約2〜約50アミノ酸残基、一般的には約3〜約30残基、より一般的には約10〜約20アミノ酸残基を含み得る。別の実施形態において、自己集合ペプチドの残基の約半分は正に荷電しており、そして自己集合ペプチドの他の半分は、負に荷電したアミノ酸残基を有す。これらのペプチドの組み合わせは、第1の自己集合ペプチドの正に荷電した末端を、第2の自己集合ペプチドの負に荷電した末端に適合させることにより、自己集合し得る。第1の自己集合ペプチドの負に荷電した末端は、第2の自己集合ペプチドの正に荷電した末端に適合するか整列する。自己集合ペプチドは、生理的組成物の電荷に基づいて攻撃される自己集合ペプチドの反対側の末端を基礎として積み重なるか集合する。一つの代表的な実施形態は、以下の配列:RRRR−DDDD(配列番号114)またはGGGG−SSSS(配列番号115)を有す自己集合ペプチドを提供する。
【0058】
さらに別の実施形態において、自己集合ペプチドは、第1の親水性領域に作動可能に連結された第1の疎水性領域を有す。第1の疎水性領域は、生理的条件下で疎水性側鎖を有すアミノ酸残基の部分を含み得る。第1の親水性領域は、生理的条件下で親水性側鎖を有すアミノ酸残基の部分を含み得る。この実施形態において、自己集合ペプチドの疎水性末端は、他の疎水性末端と集合し、そして親水性末端は、他の親水性末端と集合する。ペプチドの環境を変化させることにより、集合は調節され得る。上記物質は、管腔の内側をコートするために用いられ得る。疎水性末端は、管腔表面のECMと相互作用して表面を密封すると考えられるが、一方親水性末端は、管腔の中央へ向けて伸長する。流体は、管腔をとおって流れ続ける。物質が分解し、および/または管腔表面から除去される場合、物質が、他の領域から流れ込み、そして再び管腔表面に固定され、したがってその組成物は、必要とされる場合に新しい物質を提供するリザーバーとして作用する。あるいは、磨耗したか、または分解された物質を置き換えるために、追加の物質が投与され得る。別の実施形態において、物質は、例えば、潰瘍の処置において、または腸における使用のための、機能的なパッチ(patch)として用いられ得る。
【0059】
別の実施形態は、生理的条件下で正または負の電荷のいずれかを有す残基の部分を含む自己集合ペプチドを提供する。正に荷電した自己集合ペプチドのための代表的なアミノ酸配列は、KKKK(配列番号116)、RRRR(配列番号117)、またはHHHH(配列番号118)を含むが、それらに限定はされない。負に荷電した自己集合ペプチドのための代表的なアミノ酸配列は、DDDD(配列番号119)またはEEEE(配列番号120)を含むが、それらに限定はされない。混合した場合、正に荷電したアミノ酸残基のストリングは、負に荷電したアミノ酸残基のストリングと並行または反対に整列する。特定の実施形態において、正に荷電したアミノ酸のストリングは、負に荷電したアミノ酸のストリングと交互になって、重層構造を得る。
【0060】
さらに別の実施形態において、生理的条件下で親水性極性アミノ酸残基および疎水性非極性アミノ酸残基の組み合わせを有する自己集合ペプチドを提供する。一つ以上の親水性残基が、一つ以上の疎水性残基と交互になり得る。例えば、代表的な自己集合ペプチドのアミノ酸配列は、GQGQ(配列番号121)、GGQQGG(配列番号122)、GQQGQQG(配列番号123)、GGQGGQGG(配列番号124)等であり得る。極性または非極性環境中への自己集合ペプチドの分配は、親水性アミノ酸残基に対する疎水性アミノ酸残基の比を変えることにより調節され得ると認識され、ここで1:1より大きい比は、親水性の条件と比べて疎水性条件にペプチドがより分配することを示す。1:1より小さい比は、疎水性の条件と比べて親水性の条件にペプチドがより分配することを示す。
【0061】
本明細書に記載される、任意の改変の組み合わせが作られ得る。例えば、プロテアーゼ切断部位およびシステイン残基を含む自己集合ペプチドならびに/または架橋剤、それらを含むキットおよび装置、ならびにそれらを用いる方法が、利用され得る。組成物は、体液の動きを妨害または制限するため、組織もしくは細胞を安定化させるため、またはそれを必要とする部位に投与した場合に汚染を防止するするために用いられ得る。組成物は、乾燥粉末、ウエハ、ディスク、錠剤、カプセル、液体、ゲル、クリーム、泡沫、軟膏、エマルジョン、ステントのコーティング、カテーテルのコーティングもしくは他の医療移植片のコーティング、微小粒子に取り込まれたペプチド、重合体のマトリックス、ヒドロゲル、布、包帯、縫糸、またはスポンジの形態であり得る。
【0062】
B. 自己集合する非ペプチド物質
自己集合し得る物質の他のクラスは、ペプチド模倣物である。本明細書中で用いられる場合、ペプチド模倣物は、ペプチド構造を模倣する分子を指す。ペプチド模倣物は、それらの親の構造であるポリペプチドに類似の一般的な特性(例えば、両親媒性)を有する。そのようなペプチド模倣物の物質の例は、Moore et al.,Chem Rev.101(12),3893−4012(2001)により記載される。
【0063】
ペプチド模倣物の物質は、4つのカテゴリー:α−ペプチド、β−ペプチド、γ−ペプチド、およびδ−ペプチドに分類され得る。これらのペプチドのコポリマーもまた用いられ得る。
【0064】
α−ペプチドペプチド模倣物の例は、N,N’−結合オリゴウレア、オリゴピロリノン、オキサゾリジン(oxazolidin)−2−オン、アザチド、およびアザペプチドを含むが、それらに限定されない。
【0065】
β−ペプチドの例は、β−ペプチドフォルダマー(foldamer)、β−アミノキシ酸、硫黄含有β−ペプチド類似体、およびヒドラジノペプチドを含むが、それらに限定されない。
【0066】
γ−ペプチドの例は、γ−ペプチドフォルダマー、オリゴウレア、オリゴカルバメート、およびホスホジエステルを含むが、それらに限定されない。
【0067】
δ−ペプチドの例は、アルケンに基づくδ−アミノ酸およびカルボペプトイド(例えば、ピラノースに基づくカルボペプトイドおよびフラノースに基づくカルボペプトイド)を含むが、それらに限定されない。
【0068】
1. らせん、シート、または格子構造(confirmation)に適合する、バックボーンを有するペプチド模倣物およびオリゴマー。
【0069】
自己集合する化合物の別のクラスは、らせんまたはシート構造(conformation)に適合し得るバックボーンを有するオリゴマーを含む。そのような化合物の例は、ビピリジン部分を利用するバックボーンを有する化合物、疎溶媒性(solvophobic)相互作用を利用するバックボーンを有する化合物、側鎖相互作用を利用するバックボーンを有する化合物、水素結合相互作用を利用するバックボーンを有する化合物、および金属配位を利用するバックボーンを有する化合物を含むが、それらに限定されない。
【0070】
ビピリジン部分を利用するバックボーンを含む化合物の例は、オリゴ(ピリジン−ピリミジン)、ヒドラザル(hydrazal)リンカーをもつオリゴ(ピリジン−ピリミジン)、およびピリジンピリダジンを含むが、それらに限定されない。
【0071】
疎溶媒性相互作用を利用するバックボーンを含む化合物の例は、オリゴグアニジン、アエダマー(aedamer)(共有結合したサブユニットの芳香族電子供与体−受容体の積層特性の利点をもつ構造)(例えば、1,4,5,8−ナフタレン−テトラカルボキシリックジイミド環および1,5−ジアルコキシナフタレン環)、およびシクロファン(例えば、置換N−ベンジルフェニルピリジニウウムシクロファン)を含むが、それらに限定されない。
【0072】
側鎖相互作用を利用するバックボーンを含む化合物の例は、オリゴチオフェン(例えば、キラルp−フェニル−オキサゾリン側鎖を持つオリホチオフェン(olihothiophene))、およびオリゴ(m−フェニレン−エチニレン)を含むが、それらに限定されない。
【0073】
水素結合相互作用を利用するバックボーンを含む化合物の例は、芳香族アミドバックボーン(例えば、オリゴ(アシル化2,2’−ビピリジン−3,3’−ジアミン)類およびオリゴ(2,5−ビス[2−アミノフェニル]ピラジン)類)、シアヌレート(cyanurate)により鋳型にされるジアミノピリジンバックボーン、およびイソフタル酸により鋳型にされるフェニレン−ピリジン−ピリミジンエチニレンバックボーンを含むが、それらに限定されない。
【0074】
金属配位を利用するバックボーンを含む化合物の例は、亜鉛ビリノン、Co(II)、Co(III)、Cu(II)、Ni(II)、Pd(II)、Cr(III)、またはY(III)と錯体をつくるオリゴピリジン、金属配位シアノ基を含むオリゴ(m−フェニレン(pheylene)エチニレン)、およびヘキサピリン(hexapyrrin)を含むが、それらに限定されない。
【0075】
2. ヌクレオチド模倣物
自己集合し得る分子の他のクラスは、ヌクレオチド模倣物(例えば、異性体オリゴヌクレオチド、改変炭水化物、改変されたヌクレオチド結合をもつヌクレオチド、および代わりになる核酸塩基をもつヌクレオチド)である。
【0076】
異性体ヌクレオチドの例は、イソ−RNAおよびイソ−DNAおよびα−DNA(βからαへのアノマー立体配置における変化)、alt−DNA、ならびに1−DNAを含むが、それらに限定されない。
【0077】
改変炭水化物の例は、C1’−塩基連結物(例えば、テトロフラノシルオリゴヌクレオチド、ペントピラノシルオリゴヌクレオチド、およびヘキソピラノシルオリゴヌクレオチド)をもつバックボーン;C2’−塩基連結物(例えば、イソヌクレオチド(C1位からC2位への塩基糖結合の再ポジショニング)、HNA(フラノースの04’とC1’位の間の付加的なメチレン基の挿入)、ANA(C3’−(S)−ヒドロキシル基の組み込み)、MNA(ANAにおける(S)から(R)へのC3’−OH立体配置の転位)、CNA(ヘキソースのOのメチレン基での置き換え)、CeNA(類似の環内での5’−6’アルケンの導入)、ならびに他の環系、ねじれ制限されたオリゴヌクレオチド、例えば、二環式のオリゴヌクレオチド、LNA(3’−エンド立体配置へのペントファラノースバックボーンの制限)、ねじれ可撓性のオリゴヌクレオチド、例えば、塩基糖伸長(αおよびβ−デオキシヌクレオチドの両方へのメチレン基およびエチレン基の挿入)および非環式バックボーン(ホスホジエステル結合を組み込むグリセロール誘導体)を含むが、それらに限定されない。
【0078】
改変されたヌクレオチド結合をもつヌクレオチドの例は、PNA(ペプチド核酸)、NDP(ヌクレオ−δ−ペプチド)、融合糖塩基バックボーン、および陽イオン結合を含むが、それらに限定されない。
【0079】
代わりになる核酸塩基の例は、代わりになる芳香族核酸塩基をもつヌクレオチドを含むが、それらに限定されない。
【0080】
3. 他の物質
自己集合し得る他の物質は、N−アルキルアクリルアミドオリゴマーならびにジブロックおよびトリブロックコポリマーを含み得る。N−アルキルアクリルアミドは、シート様構造中に自己集合されるとみなされ得る(Kendhale et al.,Chem Comm.を参照のこと)。ブロックコポリマーの例は、コポリペプチド、ポリペプチド−PEGS、PEO−ポリブタジエン、PEG−ポリサッカライド等を含む。
【0081】
自己集合することが知られている物質の他のクラスは、デンドリマーである。本明細書中で用いられる場合、「デンドリマー」は、中心核を取り巻く分岐単位の連続的なシェルをもつ分岐ポリマーを指す。デンドリマーは、多様な異なる機構(例えば、水素結合、イオン性相互作用、疎水性相互作用、溶媒相互作用、側鎖相互作用等)をとおして自己集合し得る。自己集合デンドリマーの非制限的な例は、Zimmerman et al.,Science,Vol.271,No.5252,1095−1098(1996);Zimmerman et al.,J.Am.Chem.Soc.,124(46),13757−13769(2002);およびFrechet,Proc.Nat.Acad.Sci.,Vol.99,No.8,4782−4787(2002)に記載される。
【0082】
C. 自己集合物質の形成
自己集合に先立って、物質は、実質的にイオン(例えば、1価のイオン)を含まないか、または顕著な自己集合を妨害するのに十分な低濃度のイオン(例えば、10、5、1、または0.1mMより低い濃度)を含む溶液に含まれ得る(例えば、溶解され得る)。自己集合は、物質の溶液へのイオン性の溶質またはイオン性の希釈剤の添加により、またはpHの変化により任意のその後の時間で開始または増強され得る。例えば、約5mMと5Mの間の濃度でNaClは、短期間に(例えば、5分以内に)肉眼的構造の集合を誘導し得る。より低い濃度のNaClもまた、より遅い速度ながら、集合を誘導し得る。その代わり、自己集合は、前記物質(乾燥、半固体ゲル中、または実質的にイオンを含まない液体溶液に溶解されているかのどれかであろうと)を流体中(例えば、血液または胃液のような生理的流体)またはそのようなイオンを含む領域中(例えば、鼻または口腔または外科的処置により露出された空洞)に導入することにより開始または増強され得る。ゲルは、所望の部位への適用に先立って、実行されなくともよい。一般的に、自己集合は、任意の様式で物質をそのような溶液と接触させることで生じることが予想される。
【0083】
陰イオンおよび陽イオン(2価、1価、または3価のどれかであろうと)を含む、多様なイオンが用いられ得る。例えば、1価の陽イオン(例えば、Li、Na、K、およびCs)への曝露により相転移を促進し得る。自己集合を誘導または増強するために必要とされるそのようなイオンの濃度は、一般的に少なくとも5mM(例えば、少なくとも10、20、または50mM)である。より低い濃度がまた、低下した速度においてではあるが、集合を促進する。所望される場合、自己集合物質は、低下した速度においてではあるが、自己集合を可能にする濃度において、疎水性物質(例えば、薬学的に許容される油)を用いて送達され得る。自己集合物質が、油または脂質のような疎水性作用物質と混合された場合、物質の集合は異なる構造を形成する。構造は、油の層上で氷のように現れる。いくつかの事例において別の物質が加えられた場合、物質は、治療薬のローディングに適切であり得る多様な他の三次元構造中に集合する。分子の親水性部分は、疎水性−親水性相互作用を最小化するように、そのような方法で集合し、それにより二つの環境間にバリアが作られる。いくつかの実験は、自己集合物質が、分子の疎水性部分を表面に向けおよび分子の親水性部分を油から離れるように向けて、水上の氷のように油の表面に整列するか、または疎水性物質を内側に含んで環状様の(toroidal−like)構造を形成することを示した。このタイプの動きが、身体における送達のために、関心のある治療薬または他の分子のカプセル化を可能にする。
【0084】
別の実施形態において、組成物は、好ましい立体配置への集合を進めるために、塩除去剤を含み得る。例えば、円偏光二色性(「CD」)実験は、集合の動力学が、塩除去剤を用いるか、またはβシート、αヘリックス、またはよりランダムな立体配置の形成を増加させる塩増強物を用いることで調節され得ることを示す。組成物は、集合の立体配置(例えば、αヘリックス、βシート、格子等)を示す指標を任意に含み得る。
【0085】
あるいは、本明細書中に記載された物質のいくつかは、自己集合するためにイオンを必要としないが、溶媒との相互作用、疎水性相互作用、側鎖相互作用、水素結合等により自己集合しえる。
【0086】
処方物および巨視的構造の所望の特性(例えば、骨格(scaffold)の剛性またはその形成の速度)に依存して、前駆体(例えば、自己集合物質)の濃度は、約0.01% w/v(0.1mg/ml)から約99.99% w/v(999.9mg/ml)まで変化し得る。例えば、骨格形成に先立つ濃度は、(例えば、約0.1%〜5%;0.5%〜5%;1.0%;1.5%;2.0%;2.5%;3.0%;または4.0%以上)を含めて、約0.1%(1mg/ml)と10%(100mg/ml)の間であり得る。前駆体(例えば、自己集合物質)は、粉末として処方され、粉末形態または再懸濁されて投与され得る。乾燥の場合、物質は、体液との接触後、自己集合し得る(例えば、傷害部位において)。
【0087】
前記物質は、体腔もしくは身体の部分(例えば、血管の内腔)を含み得るか、またはプラスチックもしくはガラスのような不活性な物質であり得る、規則的もしくは不規則に成形された鋳型内に形成され得る。構造または骨格は、あらかじめ決定された形に適合するようにあるいは、あらかじめ決定された体積を有すように作られ得る。あらかじめ決定された形または体積(例えば、薄いシートまたはフィルムを含む所望のジオメトリーまたは寸法)をもつ構造を形成するため、物質の水性溶液が前もって形づくった鋳型に置かれ、物質は、複数のイオンの添加により自己集合するように誘導される。あるいは、イオンは、実質的な集合が生じる前に溶液を鋳型中に置くように管理される場合は、溶液を鋳型中に置くすぐ前に溶液に加えられ得る。鋳型が組織(例えば、インサイチュであるなしにかかわらず、血管の内腔または他の区画)である場合、イオン性溶液の添加は必要でなくともよい。結果として生じる物質の性質、集合に必要とされる時間、および形成する巨視的構造の寸法は、適用される溶液の濃度および量、構造の集合を誘導するために用いられるイオンの濃度、およびキャスティング装置の寸法により決定される。骨格は、室温においてゲル様または実質的に固体形態を達成し得、成形を促進するために熱が適用され得る(例えば、成形工程において用いられる溶液(例えば、前駆体含有溶液)を、ほぼ体温(約378C)まで変化する温度に加熱し得る)。一度、骨格が所望の程度の堅さに到達すると、鋳型から取り除かれ、そして本明細書中に記載される目的のために用いられ得る。あるいは、本明細書中に記載される物質は、宿主組織を組織マトリクスまたは骨格に固定するために用いられ得る。例えば、本明細書中に記載される物質は、注入または移植される局所的環境においてマトリクスまたは骨格が、しかるべき所にとどまることを確実にする組織マトリクスまたは骨格に再生される宿主組織を固定する「糊(glue)」として用いられ得る。組織マトリクスおよび骨格は、当該分野で周知であり、合成、半合成、および/または天然の物質から調製され得る。
【0088】
体液またはイオン性溶液と接触した場合、集合され、および/または相転移(例えば、液体状態から半固体、ゲル等への転移)を受ける物質は、身体の物質の動きを妨害するために有用である。自己集合または相転移は、被験体の身体内に見い出される成分(例えば、イオン)により、または生理的pHにより開始され、そして生理的温度により補助される。自己集合または相転移は、組成物が、被験体の身体に曝露されるか接触させられた場合に始まり得、組成物が置かれた(または置かれる)領域への熱の局所的適用により促進され得る。今日までの研究に基づくと、自己集合は、付加的な熱の適用なしに、内部身体組織との接触で迅速に生じる。有効な集合および/または相転移が生じ得るために必要とされる時間は、被験体の内部組織との接触、または身体内に見い出されるそれらに類似の条件への接触に続く60秒以内に起こり得る(例えば、50、40、30、20、または10秒以下で)。ある環境において(例えば、組成物中の自己集合剤の濃度が低いか、または身体の物質(substance)の動きが十分である場合)、自己集合または相転移は、所望の効果を達成するにはより長く時間がかかり(例えば、5分、10分、30分、1時間以上まで)。例えば、脳、肝臓、または筋肉における血管切除の部位に適用される自己集合ペプチドを含む溶液は、適用後10秒の短い時間内に完全な止血を提供した。イオン含有溶液は、汚染から被験体を保護するために組成物を用いる場合に好ましいものであり得る。なぜなら、非イオン性溶液が無傷の皮膚に接触する場合、相転移が起こらないかあるいは容易に生じないからである。
【0089】
前記組成物は、実質的に堅い構造(例えば、固体またはほとんど固体である)か、明確な形および体積をとる構造(例えば、インビボまたはエキソビボにかかわらず、液体組成物が投与される部位の形および体積に適合する構造)を形成し得る。固体化された物質は、集合または相転移後、いくらか変形可能または圧縮可能であり得るが、それは実質的に一つの領域から他の領域に流れない。なぜなら、組成物は、流体から固体への連続体に沿った異なる点においてなし得るからであり、それは、少なくとも一部、相転移を受けるそれらの能力によるものであり得る。結果として、組成物は、それを必要とする被験体において、身体物質の動きを妨げるために用いられ得る。自己集合は、特定の生理的値の範囲内の条件(例えば、細胞または組織培養に適切な条件)または非生理的条件への曝露により、インビボまたはエキソビボで達成され得る。「非生理的条件」は、身体内または、その部位における正常な生理的条件から逸脱した特定の部位での条件に関する。そのような条件は、外傷、手術、傷害、感染、または疾患、障害、もしくは状態に起因し得る。例えば、胃の刺創は一般に胃酸が創傷部位へ流入することによるpHの低下に起因する。本明細書中に記載される物質は、そのような条件下で自己集合する。液体処方物は容易に調合されるが、組成物は、被験体の身体との接触で、より硬くなり得るゲル形態でも投与され得る。
【0090】
任意の所定の処方物中の自己集合物質の濃度は、変化することが可能であり、約0.1%(1mg/ml)と10%(100mg/ml)を含めて、その間であり得る。例えば、自己集合ペプチドの濃度(例えば、液体処方物における)は、約0.1〜3.0%(1〜30mg/ml)(例えば、0.1〜1.0%;1.0〜2.0%;2.0〜3.0%または1.0〜3.0%)であり得る。自己集合物質の濃度は、貯蔵溶液において、および固体(例えば、粉末にされた)処方物において、より高くあり得る。固体処方物において、自己集合物質の濃度は、100%に近づき得る(例えば、自己集合ペプチドの濃度は、組成物の95,96,97,98,99%またはそれ以上(例えば、99.99%)であり得る)。液体形態であろうと固体形態であろうと、該物質は、希釈剤(例えば、脱イオン水)、粉末、湿潤剤、または治療、診断もしくは予防薬の付加により、使用前に所望の濃度にされ得る。
【0091】
自己集合物質の正確な性質に関わらず、本明細書中に記載される条件への曝露において、該物質は、規則的または非規則的に編み込まれたナノファイバー(例えば、線寸法で約50〜100nmの孔サイズをもつ、直径約10〜20nmの繊維)を有す安定な肉眼的な多孔性マトリックスを含む膜様の二次元または三次元構造を形成し得る。三次元の肉眼的マトリックスは、低倍率(例えば、約10倍以下)で見えるに十分な大きさの寸法を持ち得、膜様の構造は、透明でも裸眼に可視であり得る。立体的ではあるが、該構造は、きわめて薄く、分子の限られた数の層(例えば、分子の2、3またはそれより多い層)を包含する。一般的に、所定の構造の各寸法は、サイズにおいて少なくとも10μmとなる(例えば、サイズにおいて少なくとも100〜1000μmの平面(例えば、1〜10mm、10〜100mm、またはそれより多い))。関連する寸法は、構造が実質的に規則的な形を有する例(例えば、構造が球、円柱、立方体等である場合)においては、長さ、幅、深さ、広さ、高さ、半径、直径、もしくは円周として、または構造が規則的な形を有さない場合は前記のもののいずれかの近似として、表され得る。
【0092】
自己集合物質は、本明細書中に記載されたような条件下(例えば、イオン(例えば、一価の陽イオン)の十分な濃度(例えば、生理的濃度)の存在下において)で水と接触した場合、水和した物質を形成し得る。該物質は、高い水分含量(例えば、約95%以上(例えば、約97%、98%、99%またはそれより多い))を有し得、組成物は、水和され得るが、実質的に自己集合し得ない。所定の値は、例えば、測定がなされた環境および測定を行う人の技量に依存して変化し得るという事実の認識において、「近似」であり得る。一般的に、値が近似ではないか、または例えばそのような値が可能な値の100%を超える状況から明白である場合を除いて、第1の値が、第2の値の10%以内(より大きいかより小さいかにかかわらず)におさまる場合、第1の値は、第2の値にほぼ等しい。
【0093】
構造または骨格の特性および機械的強度は、その内部の成分の操作を介して所望のように調節され得る。例えば、集合したゲルの硬度は、その内部の自己集合物質の濃度を増加させることにより増加させられ得る。あるいは、物質の異なる部分が、異なる機械的特性を有することが望まれ得る。例えば、アミノ酸配列を操作することにより物質の全てまたは部分の安定性を減少させることは有利であり得る。これは、該物質が空隙を充填するために用いられ、その結果、該物質の端は組織部位へ取り付けられるように自己集合するが、一方該物質の残りは空隙中に流出する場合、望ましい。該物質の配列、特徴、および特性ならびに該物質の自己集合により形成される構造が、以下にさらに議論される。
【0094】
組成物は、濃縮されたストックまたは乾燥形態として処方され得、これらはインビトロまたはインビボにおいて生物細胞に対して実質的に非毒性である生体適合性組成物を形成するように希釈または溶解され得る。例えば、該組成物は、受容者の身体に顕著に有害な影響(例えば、手に負えないほどひどい免疫学的もしくは炎症性反応、または許容できない瘢痕形成)を誘発しない量で物質を含み得る。
【0095】
非集合物質を含む溶液が、生物学的組織上に置かれた場合、組織に十分に近接した該物質は集合して、溶液をゲルにする。自己集合物質が、それらの集合を促進する条件に曝されていない場合、組織から離れて残る溶液は、液体で残る。該物質が妨害される場合(例えば、外科的処置を行うことにより)、液体物質は、それが身体と十分に接触するようになるので、ゲルとして現れる。ときには、組成物は、液体の特徴から固体の特徴までの範囲を持ち得、ゲル様もしくは軟膏様またはスラリーとして出現する。
【0096】
D. 自己集合物質の標的特異的組織への改変
自己集合物質は、組織特異的成分をさらに含み得る。組織特異的成分は、眼、脳、または皮膚の細胞に特異的なペプチド、ポリサッカライド、または糖タンパク質であり得る。例えば、細胞表面炭水化物は、哺乳動物細胞の外側の表面の主要な成分であり、非常に多くの場合、細胞型の特徴である。細胞型特異的炭水化物は、細胞−細胞相互作用に関与すると想定される。組織特異的成分は、したがって、これらの細胞特異的表面炭水化物を標的化し得る。
【0097】
加えて、疎水性または親水性尾部が、自己集合物質に加えられ得る。該尾部は細胞膜と相互作用し得、したがって自己集合物質を細胞表面上に固定する。表3は、疎水性尾部をもつペプチドのリストを示す。親水性尾部が、単独でまたは疎水性の尾部に加えて、ペプチドにまた加えられ得、異なる脈管または組織(例えば、膀胱のような)のECMとの相互作用を促進する。
【0098】
【表3−01】

【0099】
【表3−02】

【0100】
【表3−03】

【0101】
【表3−04】

【0102】
【表3−05】

【0103】
【表3−06】

【0104】
【表3−07】

【0105】
【表3−08】

【0106】
【表3−09】

【0107】
【表3−10】

【0108】
【表3−11】

自己集合物質は、一般的に線状配列である。しかしながら、該物質は、ECMと相互作用する疎水性または親水性尾部を任意に含有する非線状配列の形態であり得る。一つの実施形態において、該配列は「レーキ(rake)」の形態であり、レーキの歯は、親水性および/または疎水性配列であり、それらはECMと相互作用して、該物質を組織または脈管に固定する。レーキの取っ手は、自己集合する配列を含有する。別の実施形態において、レーキの取っ手は、ECMと相互作用する親水性または疎水性配列であり、レーキの歯は、自己集合する配列である。自己集合する配列は、単独で、または1つ以上の集合補助配列の存在下で自己集合し得る。
【0109】
B. 治療、予防および診断薬
処方物はまた、他の治療、予防または診断薬を含み得る。好ましい実施形態において、これらは、抗炎症薬、血管作用薬、抗感染薬、麻酔薬、成長因子、ビタミン、栄養薬、および/または細胞であり得る。
【0110】
これらは、ペプチドもしくはタンパク質、ポリサッカライドもしくはサッカライド、核酸ヌクレオチド、プロテオグリカン、脂質、炭水化物、または多数の炭素−炭素結合を有する天然から単離され得るか化学的合成を介して調製され得る一般的には有機化合物である小分子であり得る。小分子は、比較的に低分子量を有し(例えば、約1500g/molより小さい)、そしてペプチドまたは核酸ではない。その物質はまた、生体中に見い出される分子に典型的な性質を有するペプチド、プロテオグリカン、脂質、炭水化物、または核酸のような分子である生体分子であり得る。小分子と同様に、生体分子は、天然に生じても人工物であってもよい(すなわち、それらは天然には見い出されない分子であり得る)。例えば、天然には見い出されない配列(例えば、公的に利用できる配列のデータベースには存在しない配列)または人の手により不自然な方法で改変された公知の配列(例えば、グリコシル化のような翻訳後のプロセスを変えることにより改変された配列)を有するタンパク質は、人工の生体分子である。そのようなタンパク質をコードする核酸分子(例えば、発現ベクター内に任意に含まれるオリゴヌクレオチド)もまた生体分子であり、本明細書中に記載される組成物中に組み込まれ得る。例えば、組成物は、複数の自己集合物質、および(タンパク質生体分子をコードする核酸配列を含むことにより)タンパク質生体分子を発現する細胞または発現するように操作された細胞を含み得る。
【0111】
多くの異なる治療、予防または診断薬が、処方物中に組み込まれ得る。代表的な血管収縮薬は、エピネフリンおよびフェニレフリンを含み;代表的な着色剤は、アルセナゾIII、クロロホスホナゾIII、アンチピリルアゾ111、ムレキシド、エリオクロムブラックT、エリオクロムブルーSE、オキシアセトアゾI(oxyacetazo I)、カルボキシアゾIII、トロポロン、メチルチモールブルー、およびモーダントブラック32を含み;代表的な麻酔薬は、ベンゾカイン、ブピバカイン、ピクリン酸ブタンベン(butamben picrate)、クロロプロカイン、コカイン、クラーレ、ジブカイン、ジクロニン、エチドカイン、リドカイン、メピバカイン、プラモキシン、プリロカイン、プロポキシカイン、ロピバカイン、テトラカイン、またはそれらの組み合わせを含む。麻酔薬の局所的適用は、いくつかの状態(例えば、火傷または、褥瘡性潰瘍を含む皮膚への他の創傷;癌のびらんのような創傷;または最小侵襲手術のための)において必要とされる全てであり得る。局所麻酔薬を自己集合物質と組み合わせることは、同じ処方物中に存在することによって、または同時投与によって、組み合わされるかにかかわらず、身体中に麻酔薬を含有することを助け、循環に入る量を減少させ得る。
【0112】
フェニレフリンのような血管収縮薬が、局所麻酔の効果を延長するために含有され得る(例えば、0.1〜0.5%フェニレフリン)。局所麻酔薬以外の鎮痛剤は、ステロイド、インドメタシンのような非ステロイド抗炎症薬、レキシパファント、CV3988のような血小板活性化因子(PAF)阻害剤、および/またはSRI63−441のようなPAF受容体阻害剤などである。
【0113】
抗感染薬または抗微生物薬(例えば、抗生物質、抗菌薬、抗ウイルス薬、または抗真菌薬)は、全身性または局所的投与のいずれのためにも含まれ得る。例は、ペニシリンおよびセファロスポリンのようなβ−ラクタム抗生物質;バンコマイシンのような細胞壁合成の他の阻害剤、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、マクロライド、クリンダマイシン(clindamyin)、ストレプトグラミン、アミノグリコシド、スペクチノマイシン、スルホンアミド、トリメトプリム、キノロン、アンホテリシンB、フルシトシン、アゾール(例えば、ケトコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾール、クロトリマゾール、およびミコナゾール)、グリセオフルビン、テルビナフィン、およびナイスタチンを含む。抗微生物薬は、(例えば、皮膚の感染症または火傷を処置するために)、またはカテーテル(例えば、静脈内カテーテル)の挿入の部位での感染を予防することを助けるために、局所的に投与され得る。適切な局所的抗微生物薬は、カナマイシン、ネオマイシン、バシトラシン、ポリミキシン、局所的スルホンアミド(例えば、酢酸マフェニドまたはスルファジアジン銀)、および硫酸ゲンタマイシンを含む。抗微生物薬はまた、広いスペクトルの薬剤であり得る。例えば、第2、第3、または第4世代のセファロスポリンが使用され得る。これらの薬剤は、グラム陽性およびグラム陰性種の両方を含む広い範囲の細菌に対して活性であり得る。そのような抗菌薬は、本骨格が、腸壁の完全性を意図的または偶然に妨げる腸の切除または他の手術の間などに腸の内容物の移動を阻害するために用いられる場合、特に適切であり得る。当業者は、患者の病歴(例えば、そのような薬剤に対するアレルギー反応の任意の病歴)、ペプチドが適用される場所、および存在すると考えられる感染性病原体の型のような因子を考慮することにより、適切な抗微生物薬を選択することができる。抗微生物薬を含む組成物は、以下:(1)抗微生物薬の活性により感染性病原体を殺すこと;(2)感染性病原体上の組織特異的配列を組織との相互作用からブロックすることにより、組織中への感染性病原体の侵入をブロックするバリアを形成する物質の集合により感染を防止すること;(3)自己集合物質の電荷により、組織に対する感染性病原体の指向の変化を引き起こし、組織中への感染性病原体の侵入をブロックすること;(4)自己集合物質内に感染性病原体をカプセル化して、感染性病原体の侵入を防止すること;およびそれらの組み合わせを含む、多様な方法で感染症を防止し得る。その物質は、他の生物学的および/または有害な物質による汚染または感染を防止するためにまた用いられ得る。
【0114】
本明細書中に記載される、任意の組成物は、それらが自己集合前駆物質または前駆物質および一つまたはそれより多い生物活性分子のみを含むかにかかわらず(そして、液体、半固体、または固体形態であるかにかかわらず)、着色剤を含み得る。適切な着色剤は、商業的に入手可能な食品着色剤、天然および合成色素、および蛍光分子を含み得る。好ましくは、着色剤は、非毒性であるか、いずれの毒性作用をも最小化するような低い濃度で含まれる。着色剤の使用が、構造または骨格により覆われる領域の可視化の改善を可能にし、除去が望ましい場合に、除去を容易にすることができる。着色剤は、汚染された領域と接触する場合に、色が変化する着色剤であり得る(例えば、色の変化は、汚染そのもの(例えば、創傷部位に存在する血液または細菌による)により引き起こされ得る)。例えば、細菌の代謝産物は、色の変化を引き起こし得る。汚染物により誘導されるpHまたは酸化還元状態のような条件がまた検出され得る。例示的な指示薬は、アルセナゾIII、クロロホスホナゾIII、アンチピリルアゾIII、ムレキシド、Mg2+に対するエリオクロムブラックTおよびエリオクロムブルーSE、オキシアセトアゾI(oxyacetazo I)、カルボキシアゾIII、トロポロン、メチルチモールブルー、およびモーダントブラック32を含む。酸化還元指示薬であるアラマーブルー、およびフェノールレッドもまた、前記組成物および方法において使用される。別の実施形態において、着色剤は、光の1波長を反射するナノ粒子の形態であり得、そして凝集(すなわち、ペプチドの自己集合)に際して異なる光の波長を反射する。
【0115】
多くの、他の活性剤が、組成物中に含まれ得る。例えば、多くの成長因子が、治癒の一つまたはそれより多い局面(例えば、新脈管形成、細胞移動、伸長過程、および細胞増殖)を促進するために含まれ得る。これらの型の組成物は、組成物における包含により、または本方法における同時投与により、他のものが可能であるように「含まれ」得る。例は、血管内皮成長因子(VEGF)、トランスホーミング増殖因子pのようなトランスホーミング成長因子(TGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、上皮成長因子(EGF)、神経成長因子(NGF)、インスリン様成長因子(例えば、インスリン様成長因子I)、グリア細胞増殖因子(GGF)、繊維芽細胞成長因子(FGF)等を含む。多くの事例において、これらの用語は、多用な異なる分子種に言及するものであることが認識される。例えば、いくつかのトランスホーミング増殖因子R種が当該分野で公知である。当業者は、例えば、その組成物が投与される部位を考慮することにより、適切な成長因子の選択に導かれる。例えば、EGFは、皮膚に適用される組成物中に含まれ得;NGFおよび/またはGGFは、神経または神経系に適用される組成物中に含まれ得る、など。
【0116】
成長因子または他の作用物質は、インビボまたは細胞培養において、その物質が存在する部位へ細胞を動員する能力を有する走化性物質であり得る。動員された細胞は、新しい組織の形成に関与するか、現存する損傷した組織を(例えば、(例えば、成長因子を提供することにより、または所望の免疫応答に関与することにより)組織に構造的および/または機能的に関与することにより)修復する能力を有し得る。一定の走化性物質は、増殖剤としてまた機能し得る(例えば、NGFまたはBDNFのような神経向性因子)。
【0117】
その組成物はまた、化合物(例えば、シアノアクリレート、酸化セルロース、フィブリンシーラント、コラーゲンゲル、トロンビン粉末、微孔性ポリサッカライド粉末、凝固因子(例えば、第V因子、第VIII因子、フィブリノーゲン、またはプロトロンビン)およびゼオライト粉末)と組み合わせて、またはそれらの代わりに用いられ得る。
【0118】
一つの実施形態において、ビタミンが、前記物質に加えられ得る(例えば、肝臓手術後のビタミンK)。加えて、他のビタミンが、該物質と組み合わせて局所的に投与される場合、組織または皮膚の再構築を促進するために加えられ得る。これは、傷害後、または局所的水和の正常な推移においてでもよい。
【0119】
一つまたはそれより多い治療薬、診断薬および/予防薬が、同じ処方物中の自己集合物質と同時に投与、別個の処方物中で同時に投与、または連続的に投与され得る。あるいは、活性剤は、自己集合物質に共有結合され得る。
【0120】
治療用分子は、臨床的に顕著な効果を得るために有効な量で一般的に投与されること、ならびに有効投薬量および濃度は当該分野で公知であることが理解される。これらの投薬量および濃度は、本文脈における投薬量および濃度の選択を導き得る。生物活性分子は、種々の適切な濃度および適切な量で提供され得る(例えば、マイクログラムまたはミリグラムの範囲、またはそれより大きいもので)。参考のために、Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,10th Ed.、およびKatzung,Basic and Clinical Pharmacologyのような教科書に助言を求め得る。
【0121】
細胞
細胞が患者に送達される場合(例えば、組織の治癒を促進するために)、自己由来の(utologous)細胞が用いられ得る。一つの実施形態において、細胞は、患者由来の造血性細胞であり得、前記物質中に分散されそして移植され得る。別の実施形態において、細胞は臍帯赤血球であり得る。
【0122】
上記したように、成形された骨格、液体組成物、ゲル、固体(例えば、粉末)または他の半固体実施形態は、一つ以上の付加的な物質(例えば、生物活性分子または細胞)を含み得る。いくつかの例において、細胞は、天然に、または遺伝子操作(例えば、組み換えタンパク質を発現および/または分泌するための)に続いてのどちらでも、生物活性分子を分泌し得る。本明細書中に記載された構造は、細胞の付着、生存能力、および成長を支えることが可能であり;これらは、細胞が前記物質の表面上で培養された場合、または細胞が該物質中で成長した場合(例えば、内包された場合)に観察された。加えて、前記構造は、ニューロンが前記物質上または内部で成長した場合、軸索突起成長およびシナプス形成のための基盤として役立ち得る。したがって、生物活性分子および細胞は、ペプチド構造内に内包され得、そして内包された場合、実質的な機能および生存能力を維持する(例えば、米国特許出願第09/778,200号および同第10/196,942号を参照のこと)。
【0123】
C. 処方物
好ましい実施形態において、処方物は、局所的に適用される液体または再構成可能な粉末である。一つの実施形態において、処方物は、適用部位で水和する粉末として直接投与され得る乾燥または凍結乾燥された粉末として提供されるか、または液体中(最も好ましくは水性の)に懸濁もしくは溶解され、スプレー、塗布剤、または注射薬もしくはヒドロゲル(例えば、キチン、コラーゲン、アルギン酸塩、または合成ポリマー)として適用され得る。別の実施形態において、処方物は、圧縮されたウエハ、ディスク、または錠剤として投与される。さらに別の実施形態において、処方物は、装置(例えば、ステントまたはカテーテル)のコーティングとして提供され、それは水溶液に溶解されて装置上で乾燥され得るか、または重合体の担体と混合されて装置に適用され得る。さらにまた別の実施形態において、処方物は、ペプチドが分散または吸収され得る包帯、泡またはマトリックス中で提供される。処方物は、縫合糸、テープ、または接着剤の形態であり得る。
【0124】
慣習的に、局所麻酔薬は、局所的投与(例えば、軟膏、クリーム、または溶液として処方される)により送達されるか、ブロックすることが望まれる神経線維が存在する領域中に注入される。処方物は、出血または間質液の喪失を阻止するために、泡、マトリックスまたは包帯の形態で、特に麻酔薬、抗炎症薬、成長因子、および抗感染薬とともに処方される場合、潰瘍または火傷に投与され得る。
【0125】
本明細書中に記載される一つ以上の組成物は、使用のための指示書とともにキット中に集められ得る。例えば、キットは、自己集合ペプチド(またはその濃縮された溶液もしくは粉末化された処方物を希釈剤とともに)および血管収縮薬、着色剤、または鎮痛剤もしくは麻酔剤を含む生体親和性の組成物、ならびにそれらの組み合わせ(既に組み合わされていない場合)および使用(例えば、希釈および投与)のための指示書を含み得る。キットは、本明細書中に記載される一つ以上の付加的な薬剤をさらに含み得る。これらの薬剤は、ペプチドを基礎とする組成物中に存在しても、別々に包装されてもよく、それらは、一つ以上の型の生物学的細胞、抗生物質または他の治療剤、コラーゲン、抗炎症薬、成長因子、または栄養薬を含み得る。キットはまた、一つ以上の注射器(例えば、バレル注射器またはバルブ注射器)、針、ピペット、ガーゼ、スポンジ、綿、綿棒、包帯、鼻出血栓子(nosebleed plug)、消毒薬、手術用糸、ハサミ、メス、滅菌した流体、単純なハンドポンプをとおして液体溶液がスプレーされるスプレー缶、滅菌した容器、または使い捨て手袋を含み得る。
【0126】
処方物は、一つ以上の障害の処置のために適切なように投与され得る。例えば、処方物は、傷害を修復するためか、肺もしくは硬膜の手術を行うためか、または脳脊髄液の漏出を阻止するために硬膜外穿刺または脊髄穿刺に続いて、適用され得る。処方物は、創傷の縫合もしくは接着の時点またはその後の放出のときにおける投与に関し、縫合糸または接着剤中に分散され得、それにより出血、組織液または他の流体(例えば、肝臓、膵臓、および胃腸管のような実質組織により産生される流体)の喪失を制限する。処方物は、出血の迅速な調節のために、任意の出血部位に、包帯、ガーゼ、スポンジ、もしくは他の材料において適用され得るか、または縫合のような初期の処置もしくは圧が不十分である場合に出血を調節するために後で放出され得る。乾燥した布地、脱水した泡もしくはヒドロゲル、または処方物を含有する包帯は、例えば、迅速な処置が必要とされ、そして貯蔵スペースが限られている、戦争における、事故の場所もしくは診療所での、傷害の処置のための応急処置キットの一部であり得る。
【0127】
いくつかの実施形態において、自己集合物質を含む組成物は、手術用スポンジと結合され得る。例えば、液体組成物は、商業的に入手可能なスポンジ中に、使用に先立って、あるいは使用中に引き込まれ得る。従来のスポンジなしで、止血が十分に達成され得ることを研究が示したが、自己集合物質を含有する組成物を含むことが有益であり得るという実例があり得る(例えば、患者に重大な出血がある場合または処置の目標が当座の安定化である場合)。用いられる組成物は、本明細書中に記載されるどの非繊維質の薬剤も含み得る。スポンジは、織布および非織布のスポンジならびに歯科または眼科手術のために特に設計されたスポンジを含む、当該分野で公知のいずれでもよい。例えば、米国特許第4,098,728号;同4,211,227号;同4,636,208号;同5,180,375号;および同6,711,879号を参照のこと。
【0128】
包帯または手当て用品を特徴とする実施形態において、包帯または手当て用品は、創傷またはその実質的な部分(例えば、組織の最も傷害を受けた部分または最も過度に出血している領域)を覆うに十分な形と大きさの第一の層を含み得る。第一の層は、上面、底面、および任意に接着剤で完全または部分的に覆われた周辺を有し得る。包帯または手当て用品の第二の層は、第一の層の底面に取り外し可能に固定され得、接着剤を持つ周辺または周辺のいずれかの部分を任意に排除し、そして自己集合ペプチドを含む液体または非液体組成物(例えば、ゲル、ペースト、泡、クリーム、軟膏、または粉末化された組成物)を含み得る。その組成物は、包帯または手当て用品の適用に際し創傷と接触し、そして第一の層または第一および第二の層の除去に際し包帯または手当て用品から創傷部位へ移行可能である。より単純な形状において、その自己集合ペプチドを含む組成物は、第一の層の底部(例えば、接着剤の周辺の内側)と結合され得、そして第二の層は省かれ得る。どちらの場合においても、第一の層および/または第二の層は、透明の窓を有し得、それをとおして下にある創傷のいくらかまたは全てを見ることができる。自己集合物質を含む組成物は、包装される前または使用の直前に包帯に加えられ得る。別の実施形態において、処方物は、処方物の適用により流体の活発な流れが阻止された後、乾燥による流体の喪失を妨げるため、さらなる物理的バリア(例えば、シリコンフィルムの層)を含み得る。
【0129】
処方物は、また即時または制御放出処方物として投与され得る。遅延放出剤型は、投与後即座以外の時間に、単一の薬物(または複数の薬物)を放出する形態である。延長放出剤型は、通常の剤型(例えば、溶液または迅速な薬物放出形態、通常の固体剤型のような)として存在する薬物と比較して、投薬頻度において少なくとも二倍の減少を可能にする剤型である。改変された放出剤型は、時間、コースおよび/または位置に関する薬物放出の性質が、通常の剤型(例えば、溶液、軟膏、または即座に溶解される剤型)により提供されない治療上のまたは利便性の目的を達成するために選択される剤型である。遅延放出剤型および延長放出剤型ならびにそれらの組み合わせは、改変された放出剤型の型である。
【0130】
マトリックス形成物質は、水和に際して強い粘性ゲルを形成する物質であり、薬物の拡散および放出の調節を提供する。親水性マトリックス系において、マトリックス形成物質は、錠剤中に均一に組み込まれる。水との接触したとき、錠剤外層は、部分的に水和されてゲル層を形成する。ゲル層の外への薬物の拡散の速度およびゲル層の侵食の速度が、錠剤全体の溶解および薬物送達の速度を決定する。マトリックス形成物質の例は、水溶性のセルロースエーテル(例えば、メチルセルロース、エチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース)を含む。
【0131】
処方物は、安全で有効と考えられる物質からなる薬学的に受容可能な「バリア」を用いて調製され、そして望ましくない生物学的副作用または望まれない相互作用を生じることなく、個体に投与され得る。「担体」は、単数または複数の活性成分以外の、薬学的処方物中に存在する全ての成分である。用語「担体」は、それらに限定されるものではないが、希釈剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、充填剤、マトリックス形成組成物およびコーティング組成物を含む。
【0132】
「担体」はまた、可塑剤、色素、着色剤、安定化剤、および流動促進剤(glidant)を含み得るコーティング組成物の全ての成分を含む。遅延放出投薬処方物は、錠剤およびカプセルならびに錠剤、カプセル、および粒剤の遅延剤型を調製するための担体、物質、装置および工程についての情報を提供する引用文献(例えば、「Pharmaceutical dosage form tablets」, eds. Liberman et al. (New York, Marcel Dekker, Inc., 1989)、「Remington-The science and practice of pharmacy」, 20th ed., Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore, Md., 2000、および「Pharmaceutical dosage forms and drug delivery systems」, 6th Edition, Ansel et al., (Media, Pa.: Williams and Wilkins, 1995))中に記載されるように調製され得る。
【0133】
適切なコーティング物質の例は、それらに限定されるものではないが、セルロースポリマー(例えば、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、ポリビニルアセテートフタレート、アクリル酸ポリマーおよびコポリマー、および商品名EudragitTM(Roth Pharma、Westerstadt、Germany)のもとに商業的に入手可能なメタクリル樹脂、ゼイン、シェラック、およびポリサッカライドを含む。加えて、コーティング物質は、従来の担体(例えば、可塑剤、色素、着色剤、流動促進剤(glidant)、安定化剤、増孔剤(pore former)および界面活性剤)を含み得る。薬物を含有する錠剤、ビーズ、顆粒または粒子中に存在する任意の薬学的に受容可能な賦形剤は、それらに限定されるものではないが、希釈剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、安定化剤、および界面活性剤を含む。
【0134】
「充填剤」とも呼ばれる希釈剤が、固体剤型の容積を増加させるために一般的に必要であり、その結果、錠剤の圧縮またはビーズおよび顆粒の形成に対して実際的なサイズが提供される。適切な希釈剤は、それらに限定されるものではないが、リン酸水素カルシウムニ水和物、硫酸カルシウム、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、微結晶性セルロース、カオリン、塩化ナトリウム、乾燥デンプン、加水分解デンプン、アルファ化デンプン、二酸化珪素、酸化チタン、ケイ酸アルミニウムマグネシウムおよび粉末糖を含む。
【0135】
結合剤は、固体投薬処方物に粘着性の性質を与えるために用いられ、剤型の形成後に錠剤またはビーズまたは顆粒が、完全な状態で残ることを確実にする。適切な結合剤物質は、それらに限定されるものではないが、デンプン、アルファ化デンプン、ゼラチン、糖(スクロース、グルコース、デキストロース、ラクトースおよびソルビトールを含む)、ポリエチレングリコール、ワックス、天然および合成ゴム(例えば、アカシア、トラガカント)、アルギン酸ナトリウム、セルロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロースを含む)、およびビーガム(veegum)、および合成ポリマー(例えば、アクリル酸およびメタクリル酸コポリマー、メタクリル酸コポリマー、メチルメタクリレートコポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、ポリアクリル酸/ポリメタクリル酸ならびにポリビニルピロリドン)を含む。結合剤として適切な物質のいくつかはまた、マトリックス形成物質(例えば、ヒドロキシプロピル−メチルセルロース、エチルセルロース、および微結晶性セルロース)として用いられ得る。
【0136】
滑沢剤は、錠剤製造を促進するために用いられる。適切な滑沢剤の例は、それらに限定されるものではないが、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセロール、ポリエチレングリコール、タルクおよび鉱物油を含む。
【0137】
崩壊剤は、剤型の投与後の崩壊(disintegration)または「崩壊(breakup)」を促進するために用いられ、一般的に、それらに限定されるものではないが、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、カルボキシメチルデンプンナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、アルファ化デンプン、クレー、セルロース、アルギニン(alginine)、ゴムまたは架橋されたポリマー(例えば、架橋PVP(GAF Chemical CorpのPolyplasdoneTM XL))を含む。
【0138】
安定化剤は、例として酸化反応を含む薬物の分解反応を阻害または妨害するために用いられる。
【0139】
界面活性剤は、陰イオン性、陽イオン性、両性、または非イオン性界面活性剤であり得る。適切な陰イオン性界面活性剤は、それらに限定されるものではないが、カルボキシレート、スルホネートおよび硫酸イオンを含有する界面活性剤を含む。陰イオン性界面活性剤の例は、長鎖アルキルスルホネートのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩およびアルキルアリルスルホネート(例えば、ドデシルベンゼンスルホネートナトリウム)、ジアルキルスルホスクシネートナトリウム(例えば、ドデシルベンゼンスルホネートナトリウム)、ジアルキルスルホスクシネートナトリウム(例えば、ビス−(2−エチルチオキシル)−スルホスクシネートナトリウム)、およびアルキルスルフェート(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)を含む。陽イオン性界面活性剤は、それらに限定されるものではないが、第四級アンモニウム化合物(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、臭化セトリモニウム、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムクロリド)、ポリオキシエチレンおよびココナツアミンを含む。非イオン性界面活性剤の例は、エチレングリコールモノステアレート、プロピレングリコールミリステート、グリセリルモノステアレート、グリセリルステアレート、ポリグリセリル−4−オレアート、ソルビタンアシレート、スクロースアシレート、PEG−150ラウレート、PEG400モノラウレート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリソルベート、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、PEG−1000セチルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリプロピレングリコールブチルエーテル、PoloxamerTM401、ステアロイルモノイソプロパノールアミド、およびポリオキシエチレン水素化タローアミドを含む。両性界面活性剤の例は、N−ドデシル−β−アラニンナトリウム、N−ラウリル−β−イミノジプロピオネートナトリウム、ミリストアンフォアセテート、ラウリルベタインおよびラウリルスルホベタインを含む。
【0140】
所望される場合、錠剤、ビーズ、顆粒または粒子はまた、少量の非毒性の補助物質(例えば、湿潤剤または乳化剤、色素、pH緩衝剤、および防腐剤)を含み得る。
【0141】
処方物の一つのタイプにおいて、前記物質は、流体の喪失に対するバリアを形成するため、ならびに接着および汚染に対するバリアとして、シェービングクリームまたはハンドローションの添加剤として使用され得る。
【0142】
延長放出処方物は、例えば、「Remington- The science and practice of pharmacy」 (20th ed., Lippincott Williams Sc Wilkins, Baltimore, MD, 2000)に記載されるように、一般的に、拡散システムまたは浸透性システムとして調製される。拡散システムは、一般的に二つのタイプの装置(貯蔵器およびマトリックス)からなり、当該分野で周知であり記載されている。マトリックス装置は、薬物をゆっくりと溶解するポリマー担体とともに、錠剤形態に圧縮することにより一般的に調製される。マトリックス装置の調製で用いられる物質の三つの主要なタイプは、不溶性プラスチック、親水性ポリマー、および脂肪化合物である。プラスチックマトリックスは、メチルアクリレート−メチルメタクリレート、ポリビニルクロライド、およびポリエチレンを含む。親水性ポリマーは、セルロースのポリマー(例えば、メチルおよびエチルセルロース)、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシプロピル−セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびCarbopolTM934、ポリエチレンオキシドならびにそれらの混合物を含む。脂肪化合物は、それらに限定されるものではないが、種々のワックス(例えば、カルナウバろう)およびグリセリルトリステアレートおよびワックスタイプの物質(水素化ひまし油または水素化植物油を含む)、またはそれらの混合物を含む。一定の実施形態において、プラスチック物質は、薬学的に受容可能なアクリル性のポリマーであり、それらに限定されるものではないが、アクリル酸およびメタクリル酸コポリマー、メチルメタクリレート、メチルメタクリレートコポリマー、エトキシエチルメタクリレート、シアノエチルメタクリレート、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、メタクリル酸アルキルアミンコポリマーポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(メタクリル酸)(アンヒドリド)、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリ(メタクリル酸アンヒドリド)、およびグリシジルメタクリレートコポリマーを含む。特定の実施形態において、アクリルポリマーは1つ以上のアンモニオメタクリレートコポリマーから構成される。アンモニオメタクリレートコポリマーは、当該分野で周知であり、低含量の第四級アンモニウム基と完全に重合したアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのコポリマーとしてNF XVIIに記載される。
【0143】
あるいは、延長放出処方物は、浸透性システムを用いて、または半透過性コーティングを剤型に適用することにより調製され得る。後者の場合、所望の薬物放出特性が、低透過性および高透過性コーティング物質を適切な割り合いで組み合わせることにより達成され得る。
【0144】
即時放出部分は、コーティングまたは圧縮工程を用いて延長放出核の上端に即時放出層を適用すること、または延長および即時放出ビーズを含むカプセルのような複合ユニットシステムにおいてのどちらかの方法により、延長放出システムに加えられ得る。
親水性ポリマーを含む延長放出錠剤は、直接圧縮、湿式造粒法、乾式造粒法のような一般的に当該分野で公知の技法により調製される。それらの処方物は通常、ポリマー、希釈剤、結合剤、および滑沢剤、ならびに活性薬学的成分を組み込む。通常の希釈剤は、不活性の粉末化された物質(例えば、デンプン、粉末セルロース、特に結晶セルロースおよび微結晶セルロース、糖(例えば、フルクトース、マンニトールおよびスクロース)、穀物粉および同様の食用粉)を含む。例えば一般的な希釈剤は、種々のタイプのデンプン、ラクトース、マンニトール、カオリン、リン酸カルシウムまたは硫酸カルシウム、塩化ナトリウムのような無機塩および粉末糖を含む。粉末セルロース誘導体もまた有用である。一般的な錠剤結合剤は、デンプン、ゼラチンおよび糖(例えば、ラクトース、フルクトース、およびグルコース)のような物質を含む。アカシアを含む天然および合成ゴム、アルギン酸塩、メチルセルロース、およびポリビニルピロリドンがまた用いられ得る。ポリエチレングリコール、親水性ポリマー、エチルセルロースおよびワックスがまた、結合剤として役に立ち得る。滑沢剤は、錠剤処方物において、錠剤および押し抜き具が鋳型中で固着するのを防止するために必要である。滑沢剤は、滑りやすい固体(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ならびに水素化植物油)から選択される。ワックス状物質を含む延長放出錠剤は、当該分野で公知の方法(例えば、直接混合法、凝結法、および水性分散法)を用いて一般的に調製される。凝結法において、薬物はワックス状物質と混合され、そしてスプレー凝結または凝結のどちらかをされ、そして選別され加工される。
【0145】
特定のコーティング物質についての好ましいコーティング重量は、種々のコーティング物質の異なる量で調製された錠剤、ビーズおよび顆粒の個々の放出特性を評価することにより、当業者により容易に決定され得る。臨床研究からのみ決定し得るのは、所望の放出特性を生じる物質、方法および適用の形態の組み合わせである。コーティング組成物は、通常の添加剤(例えば、可塑剤、色素、着色剤、安定化剤、および流動促進剤等)を含み得る。可塑剤は、通常、コーティングの脆弱性を減少させるために存在し、一般的に、ポリマーの乾燥重量に対して約10重量%〜50重量%を示す。一般的な可塑剤の例は、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリアセチン、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジブチルセバケート、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、トリエチルアセチルシトレート、ひまし油およびアセチル化モノグリセリドを含む。安定化剤は、分散中の粒子を安定化させるために好ましくは用いられる。一般的な安定化剤は、非イオン性乳化剤(例えば、ソルビタンエステル、ポリソルベートおよびポリビニルピロリドン)である。流動促進剤は、フィルム形成および乾燥の間の固着作用を減少させるために推奨され、そしてコーティング溶液中でポリマー重量の約25重量%から100重量%を示す。一つの有効な流動促進剤は、タルクである。他の流動促進剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムおよびグリセロールモノステアレート)がまた、用いられ得る。二酸化チタンのような色素がまた、用いられ得る。シリコン(例えば、シメチコン)のような消泡剤の少量がまた、コーティング組成物に加えられ得る。
【0146】
ポリマーマトリックス
生分解性マトリックスが好ましいが、非生分解性および生分解性マトリックスの両方が、自己集合ペプチドの送達に用いられ得る。分解および放出特性のより良い特徴により合成ポリマーが好ましいけれども、これらは、天然または合成ポリマーであり得る。ポリマーは、放出が所望される期間に基づいて選択される。いくつかの事例において、直線状の放出が最も有用であり得るが、他においては、パルス放出または「大量放出」が、より有効な結果を提供する場合もある。ポリマーは、ヒドロゲル(一般的に水の重量で約90%まで吸収する)の形態であり得、そして任意に多価イオンまたはポリマーと架橋され得る。
【0147】
送達のために用いられ得る、代表的な合成ポリマーは、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアルキレン、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリビニルハライド、ポリビニルピロリドン、ポリグリコライド、ポリシロキサン、ポリウレタンおよびそれらのコポリマー、アルキルセルロース、ヒドロキシルアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、アクリルエステルおよびメタクリルエステルのポリマー、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシ−プロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、カルボキシルエチルセルロース、セルローストリアセテート、セルロースサルフェートナトリウム塩、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(イソブチルメタクリレート)、ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリ(イソデシルメタクリレート)、ポリ(ラウリルメタクリレート)、ポリ(フェニルメタクリレート)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(イソプロピルアクリレート)、ポリ(イソブチルアクリレート)、ポリ(オクタデシルアクリレート)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリビニルクロライド、ポリスチレンおよびポリビニルピロリドンを含む。
【0148】
非生分解性ポリマーの例は、エチレンビニルアセテート、ポリ(メタ(meth))アクリル酸、ポリアミド、コポリマーおよびそれらの混合物を含む。生分解性ポリマーの例は、合成ポリマー(例えば、乳酸およびグリコール酸のポリマー)、ポリアンヒドリド、ポリ(オルト)エステル、ポリウレタン、ポリ(酪酸)(poly(butic acid))、ポリ(吉草酸)、およびポリ(ラクチド−コー−カプロラクトン)、およびアルギン酸塩のような天然ポリマーならびにデキストランおよびセルロースを含む他のポリサッカライド、コラーゲン、それらの化学的誘導体(置換体、化学基(例えば、アルキル、アルキレン)の付加物、ヒドロキシル化物、酸化物、および当業者により日常的に作製される他の改変物)、アルブミンおよび他の親水性タンパク質、ゼインおよび他のプロラミンおよび疎水性タンパク質、コポリマーならびにそれらの混合物を含む。一般的に、これらの物質は、酵素的加水分解またはインビボでの水への曝露のどちらかにより、表面または全体の侵食によって分解する。
【0149】
特に関心のある生体接着性のポリマーは、H.S.Sawhney,C.P.PathakおよびJ.A.HubellによりMacromolecules,1993,26,581−587に記載された生体受食性ヒドロゲル、ポリヒアルロン酸、カゼイン、ゼラチン、グルチン、ポリアンヒドリド、ポリアクリル酸、アルギネート、キトサン、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(イソブチルメタクリレート)、ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリ(イソデシルメタクリレート)、ポリ(ラウリルメタクリレート)、ポリ(フェニルメタクリレート)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(イソプロピルアクリレート)、ポリ(イソブチルアクリレート)、およびポリ(オクタデシルアクリレート)を含む。
【0150】
マトリックスは、ミクロスフェアのような微粒子の形態であり得、ここでペプチドは、固体ポリマーマトリックスまたはマイクロカプセル中に分散され、ここでその核(core)は、ポリマーの外皮とは異なる物質であり、そして該ペプチドは、現実には液体または固体であり得る該核内に分散または懸濁される。本明細書中に特に規定されないかぎり、微粒子、ミクロスフェア、およびマイクロカプセルは、交換可能に用いられる。あるいはポリマーは、ナノメートルから4センチメートルの範囲の薄いスラブまたはフィルムとして、粉砕または他の標準的な技法により生成される粉末として、またはさらにヒドロゲルのようなゲルとして、型に取られ得る。ポリマーはまた、ステントもしくはカテーテル、血管グラフト、または他の人工器官装置のコーティングまたは部分の形態であり得る。
【0151】
マトリックスは、溶剤蒸発、噴霧乾燥、溶媒抽出および当業者に公知の他の方法により形成され得る。
【0152】
生体受食性ミクロスフェアは、例えば、Mathiowitz and Langer, J. Controlled Release 5,13−22 (1987);Mathiowitz,et al.,Reactive Polymers 6, 275−283 (1987);およびMathiowitz,et al., J. Appl. Polymer Sci.35,755−774(1988)により記載されるような、薬剤送達のためのミクロスフェアを作製するために開発された方法いずれかを用いて調製され得る。方法の選択は、例えば、Mathiowitz, et al., Scanning Microscopy 4,329−340(1990);Mathiowitz, et al., J. Appl. Polymer Sci. 45, 125−134(1992);およびBenita, et al., J. Pharm. Sci. 73, 1721−1724(1984)により記載されるように、ポリマーの選択、サイズ、外部形態、および所望の結晶性に依存する。例えば、Mathiowitz, et al.,(1990), Benita、およびJaffeへの米国特許第4,272,398号に記載された溶剤蒸発において、ポリマーは、揮発性の有機溶媒中に溶解される。可溶性形態または微粒子として分散されるかどちらでも、ペプチドは、ポリマー溶液に加えられ、そして混合物が、ポリ(ビニルアルコール)のような界面活性剤を含む水性の相に懸濁される。結果として生じるエマルジョンは、ほとんどの有機溶媒が蒸発するまで攪拌され、固体のミクロスフェアが残る。一般的に、ポリマーは、メチレンクロリド中に溶解され得る。異なるサイズ(1〜1000ミクロン)および形態をもつミクロスフェアが、比較的安定なポリマー(例えば、ポリエステルおよびポリスチレン)に対して有用なこの方法により獲得され得る。しかしながら、ポリアンヒドリドのような不安定なポリマーは、水への曝露により分解し得る。これらのポリマーに対しては、ホットメルトカプセル充填(hot melt encapsulation)および溶媒除去が推奨され得る。
【0153】
ホットメルトカプセル充填において、ポリマーは、最初に融解し、その後、ペプチドの固体粒子と混合される。その混合物は、シリコンオイルのような非混和性溶媒中に連続的に攪拌しながら懸濁され、該ポリマーの融点の5℃上まで加熱される。ひとたびエマルジョンが安定化すると、ポリマー粒子が凝固するまで冷却する。結果として生じるミクロスフェアは、石油エーテルを用いたデカンテーションにより洗浄され、さらさらした粉末を生じる。1ミクロンと1000ミクロンの間の直径を有すミクロスフェアが、この方法で獲得され得る。この技法で調製された球体の外部表面は、通常平滑で稠密である。この手順は、水に不安定なポリマーに対して有用であるが、分子量が1000と50000の間のポリマーに対する使用に限られる。溶媒除去は、最初に、ポリアンヒドリドに対する使用のために設計された。この方法では、薬物は、メチレンクロリドのような揮発性有機溶媒中の選択されたポリマーの溶液中に分散または溶解される。その混合物はその後、シリコンオイルのような油中に攪拌により懸濁され、エマルジョンを形成する。24時間以内に、その溶媒は油相中に拡散し、そしてそのエマルジョンの小滴は、固体ポリマーミクロスフェア中に固まる。溶剤蒸発とは異なり、この方法は、高融点および広い範囲の分子量を有するポリマーからミクロスフェアを作製するために用いられ得る。1ミクロンと300ミクロンの間の直径を有するミクロスフェアが、この手順により獲得され得る。そのスフェアの外部形態は、用いたポリマーのタイプに高度に依存する。噴霧乾燥において、ポリマーは、メチレンクロリド(0.04g/ml)中に溶解される。活性な薬物の公知の量が、ポリマー溶液中に懸濁(不溶性の場合)または共溶解(可溶性の場合)される。その溶液または分散物が、その後、噴霧乾燥される。二重壁のミクロスフェアが、Mathiowitzへの米国特許第4,861,627号にしたがって調製され得る。
【0154】
ゲル−タイプポリマー(例えば、アルギネートまたはポリホスファジン、または他のジカルボン酸ポリマー)からできたヒドロゲルミクロスフェアが、該ポリマーを水性溶液中に溶解し、混合物中に組み込まれるように物質を懸濁し、そして窒素ガス噴出口を装備した微小滴形成装置をとおしてポリマー混合物を押し出すことにより調製され得る。結果として生じるミクロスフェアは、例えば、Salib,et al., Pharmazeutische Industrie 40−11A,1230(1978)により記載されたように、イオン硬化浴中にゆっくりと攪拌しながら入れられる。キトサンミクロスフェアは、ポリマーを酸性溶液に溶解し、トリポリホスフェートと架橋させることにより調製され得る。例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)ミクロスフェアは、ポリマーを酸性溶液に溶解し、鉛イオンでミクロスフェアを沈殿させることにより調製される。アルギネート/ポリエチレンイミド(PEI)は、アルギネートマイクロカプセル上のカルボキシル基の量を減少させて調製され得る。
【0155】
フィルム、コーティング、ペレット、スラブ、および装置を含む、他の送達システムが、溶媒または融解鋳型、および押し出し、ならびに複合物を作製するための標準的な方法を用いて作られ得る。ポリマーは、Sawhneyらにより記載されたように、最初にモノマーとペプチドを混合し、そしてそのポリマーを紫外線で重合させることにより生産され得る。重合は、インビトロならびにインビボで実施され得る。
【0156】
D. 投与のための装置
液体処方物は、自己集合ペプチドを含有する組成物を含むバレル、および注射器またはピペットの開放端からその組成物を放出する手段(例えば、プランジャーまたはバルブ)を有する、注射器またはピペット中で提供され得る。注射器は、一つ以上の区画からなり得、それにより、自己集合物質と一つ以上の他の薬剤の混合が、適用時に生じる。該区画はまた、一つの区画にヒドロゲルを形成する物質または接着剤のような賦形剤を、そして他の区画に自己集合物質を含み得る。別の実施形態において、一つの区画が自己集合ペプチドの凍結乾燥粉末または粒子を含み得、そして別の区画が該ペプチドを溶解または水和する溶液を含み得るか、または乾燥適用のための自己集合物質と混合する他の粉末を含み得る。バレル内の組成物は、本明細書中に記載される任意の非繊維質の作用物質(例えば、一つ以上の血管収縮薬、着色剤、麻酔剤または鎮痛剤、抗生物質または他の治療剤、コラーゲン、抗炎症剤、成長因子、または栄養素)をさらに含み得る。
【0157】
自己集合物質は、スプレーによるコーティングまたは装置を該物質中に浸すことにより適用され得、該物質は、包帯、ガーゼまたは他の吸収物質中に含浸され得、該物質は、ポリマー物質と混合され得る。該物質はまた、薬学的な泡沫として処方され得る。薬学的な泡沫は、バルブ操作において、ガス状媒体における液体および/または固体物質の微細分散物を噴出する、加圧された剤型である。一つの実施形態において、泡沫は、液体または固体形態で自己集合物質を、任意に一つ以上の活性薬剤と組合わせて含む。適切な噴射剤は、限定されるものではないが、ヒドロフルオロアルカン(HFA)(例えば、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA134a)および1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA227))、炭化水素、および二酸化炭素を含む。
II. 投与の方法
A. 投与の部位
前記物質は、流体の移動を防止または調節するために、またはバリアとして機能するために、多様な異なる表面に適用され得る。自己集合薬剤の量は、流体の流れの調節における該物質の機能、ならびに単独または他の生物活性物質との組み合わせで自己集合物質と関連する任意の他の物質または構造物の特性により部分的に決定される。自己集合物質は、組織/器官の内またはその外への流体の動きを阻止するために用いられ得る。
【0158】
最初の実施形態において、前記物質は、出血を防止するか、調節するために用いられ得る。該物質は、粉末、液体、ゲル、または基盤(例えば、包帯または膜)の一部として、適用され得る。これは血管に適用され得、例えば血管形成術時に、ステントまたはカテーテル上のコーティングにより、またはステントまたはカテーテル上のコーティングとして、管腔内または血管の外側のどちらでも、一般的には吻合部位で投与され得る。該物質は、出血を防ぐために、手術前、手術中または手術後に組織に適用され得、その手術は、組織(例えば、肝臓、腎臓もしくは脾臓)に特に問題があるか、または輸血の高いリスクのある他の手術であるか、例えば移植または再付着のためである組織をシールおよび保護するための手術である。別の実施形態において、自己集合物質は、かみそりの切り傷による出血を止める止血剤、かみそりの切り傷の汚染を防止するバリアおよび/または滑沢剤として作用し得るシェービングクリームの添加剤として用いられ得る。
【0159】
前記物質は、血液以外の流体の流れを止めるために用いられ得る。該物質は、間質液の漏出を止めるために、火傷に適用され得る。該物質は、硬膜または肺のシーラントとして硬膜または肺に適用され得る。一つの実施形態において、該物質は、刺創後に肺を修復するために用いられ得、それにより肺の能力が機能するように回復される。
【0160】
前記物質はまた、一般的な口腔手術、歯周病術、および一般的な歯科医術において、バリアとして使用され得る。
【0161】
凝固に障害のある(血友病、フォン・ウィルブランド病、ビタミンK、タンパク質SまたはプロテインC欠損、劇症肝炎、播種性血管内凝固症候群(「DIC」)、溶血性尿毒症症候群(「HUS」))個体における前記物質の使用はまた、その作用の機構が正常な凝固経路から独立していることから、重要な実用性である。例えば、その組成物は、損傷した半透過性バリア(例えば、細胞における)を置き換えるため、局所環境を回復し細胞の生存と修復を促進するために用いられ得る。
【0162】
別の実施形態において、前記物質は、手術時の破壊または転移を妨げるために腫瘍のような組織の外部に、スプレーまたは注入により、局所的に適用される。該物質は、腫瘍の切除の間の出血を調節し、転移を制限する。これはまた、腫瘍の切除の間にレーザーにより生じ得る免疫応答を最小にする。該物質はまた、ゆるい腫瘍を一緒に保持する上で有用であり、腫瘍が切除された場合、それゆえ後にはなにも残さない。一緒に固く保持されていないために(すなわち、それらは固形の塊ではない)、切除することが困難な周知のいくつかのタイプの腫瘍がある。該物質は、脳における腫瘍の切除において特に有用であることが期待され、そして皮下の腫瘍の切除に用量反応様式で有用であり得る。該物質はまた、皮膚の治癒を促進することが明白であることから、これは、皮膚における黒色腫を切除することをより容易にし得る。さらに、腫瘍に特異的な標的部分を含む自己集合物質は、腫瘍に付着させられ得、腫瘍の凝集を起こし、それゆえ腫瘍が切除され得る。該物質はまた、切除の間に腫瘍から分離する細胞を、転移を阻止または遅くするために固定し得る。該物質はまた、腫瘍細胞表面上の一定の抗原のタイプと反応するマーカーを含み得、該マーカーは全ての細胞が除去されたか、または切除する必要のある細胞がさらに存在することを示す比色上の変化を生じる。生体バリアのように作用する該物質の能力と同様に、該物質への指示薬の付加は、第二および第三の手術の必要ならびに手術野への外部汚染による合併症を減少させ得る。該物質はまた、DNAのような物質を、インビトロで延長された期間およびインビボで複数の処理のために傷害部位に送達するために用いられ得る。該物質の別の利点は、該物質が注入されそしてその場所でゲルになり得、それゆえ該物質は、必要な場合に手術の間に適用および再適用され得ることである。
【0163】
さらに別の実施形態において、前記物質は、組織へのまたは組織からのどちらでも(例えば、腸の手術の間)、汚染を妨げるバリアとして機能するのに特に適している。該物質は、手術に先立って内部部位、特に静脈洞の空洞(sinus cavity)のような部位を準備するために、そして経尿道および経膣手術のような手術のために適用され得る。該物質はまた、バリアおよび止血特性の両方に価値があり得る心臓血管手術(例えば、有害な結果(例えば、弁の輪状膿瘍(弁をコーティングする、抗生物質を加える)、心内膜炎(弁をコーティングする)、大動脈根解離(迅速な止血を提供する))をこうむりがちな心臓弁の患者のための)において特に有用である。さらに別の実施形態において、自己集合しない相補的アミノ酸配列の混合物が、細菌による組織の感染を阻止するために組織に適用され得る。配列が相補的であるという事実が、自己集合する相補的配列よりも、より効果的なバリアの形成に結びつく。
【0164】
銀のような金属と組み合わされた前記物質は、抗接着特性を有し、新脈管形成を阻害し得る。したがって、瘢痕形成および癒着を減少させるうえで有用であり得る。該物質は、手術後、または傷害(例えば火傷)に、瘢痕形成、流体の喪失を減少させるため、および感染を制限するために適用される。これは形成外科におけるさらなる適用、特に閉鎖または皮膚移植に先立ってきれいにされ創面切除された領域の保護のための適用(例えば、腹部形成術、整形美顔術(face lift)、皮膚切片ドナー部位、乳房再構築のための広背筋における)を有する。
【0165】
さらに別の実施形態において、前記物質は、胃の出血(例えば潰瘍からの)を減少させるため、または酸性度を減少させるために患者により飲まれ得るスラリーとして投与される。あるいは、該物質は、痔を処置するため、または憩室を充填するために浣腸剤または坐薬として提供され得る。さらに別の実施形態において、該物質は、ファローピウス管または精管における癒着による不妊を防ぐために用いられ得る。
【0166】
自己集合は、不可逆性ではなく、含有される物質は放出され得る。例えば、分子または細胞が、インビボでその構造から放出され得る(例えば、小分子は拡散し得、そしてより大きな分子および細胞は、その構造が分解された場合に放出され得る)。
【0167】
さらに別の実施形態において、前記物質は、神経の傷害後の損傷および瘢痕を最小にする神経被覆薬として用いられる。ペプチドに基づく構造は、神経組織の修復および再生を促進する(例えば、自己集合ペプチドが、米国特許出願第10/968,790号に記載されるように脳における病変に適用される場合)。骨格内の小さいサイズの繊維および/または該物質の開いた「織物」構造は、細胞過程の延長を許し、神経組織再生のための独特の利点を提供する様式で、栄養素および老廃物の適切な拡散を可能にする。
【0168】
創傷修復を促進する過程において、前記組成物は、最終的な結果を改善する(例えば、瘢痕形成を減少させ、もとの組織によりいっそう似る結果に帰結する)のみならず、治癒のために必要な時間もまた減少させる。これらの結果は、神経組織と非神経組織の間の実質的な違いのために、傷害された中枢神経系への適用後に達成される結果に基づいて予測されてくることができない。
【0169】
最後に、前記物質は、相互汚染を防ぐために「ナノドレープ(nanodrape)」として用いられ得る。例えば、該物質は、身体の外側へのコーティングとして適用され、そして自己集合するように誘導され得る。自己集合物質は、身体中への液体の移動を阻止し得、それゆえに相互汚染の可能性を減少させる。
【0170】
B. 有効な投薬量
一般的に、必要とされる物質の量は、傷害のサイズまたは程度(次に、切開の長さ、損傷した血管の直径または数、火傷の程度、潰瘍、擦傷、または他の傷害のサイズと深さによって表され得る)のような種々の因子に依存して変化する、その量は、例えば、数マイクロリットルから数ミリリットル以上(例えば、数十または数百ミリリットル)まで変化し得る。該物質を送達するために用いられる装置は、その量にしたがって変化する。例えば、注射器は、より少量を送達するために一般的に用いられ得るが、一方、チューブまたはスクィーズボトル(squeezable bottle)は、より大きい量に対して、より適切である。有効量は(骨格、その前駆体、または処方物中に存在する別の生物活性分子に関してであろうとなかろうと)、改善された生物学的応答または所望の生物学的応答を誘導するために必要な量を意味する。
【0171】
当業者により理解されるように、薬剤の有効量は、所望される生物学的終了点、送達される薬剤、薬剤が送達される部位の性質、および薬剤が投与されるための条件の性質のような因子に依存して変化し得る。例えば、止血を促進する組成物の有効量は、出血が始まった時間と出血が停止した時間の間に失われる血液の量を、冷食塩水での処置後または処置なしで失われる血液の量と比べて少なくとも25%まで減少させるに十分な量であり得る。止血を促進するための組成物の有効量はまた、冷食塩水での処置後または処置なしで必要とされる時間と比べて少なくとも25%まで、目に見える出血の停止を達成するために必要とされる時間を減少させるに十分な量であり得る。創傷治癒を促進するための組成物の有効量は、病巣のサイズの減少における前もって決められたパーセント減少を達成するために必要とされる時間を、そのような処置のない場合に必要とされる時間と比べて少なくとも25%まで減少させるに十分な量であり得る。
【0172】
提供された組成物の量は、被験体の状態の重症度に依存して変化し得、そして望ましくない移動を、被験体のためになる程度まで阻害するに十分な量とすべきである。身体の物質は、血液、脳脊髄液、膿汁、漿液滲出物、胆汁、膵液、または胃腸管(例えば、胃または腸)もしくは尿内路に通常含まれる物質であり得る。
【0173】
C. どのように投与されたか
前記組成物は、被験体の身体の表面上に提供され得、および/または力(例えば、予期せぬ外傷または手術手順により)によって生成される空洞内に提供され得る。この方法において、身体物質の望ましくない移動が、広い範囲の状態(外傷性傷害、医学的状態(例えば、出血に関連する慢性または延長された医学的状態)、手術手順(例えば、整形外科手術、歯科手術、心臓の手術、眼科手術、または形成もしくは再構築手術))の状況において阻害され得る。例えば、身体物質の望ましくない移動が外傷の結果として生じる場合、その被験体は、部分的または完全に重症の身体の部分(裂傷、擦過傷、または刺創)を有し得る。該組成物が、身体の表面に適用される場合、それらはまた身体物質の望ましくない移動を阻害し得るのみならず、被験体を汚染から保護することを助ける。例えば、皮膚への自己集合剤の適用は、皮膚または毛髪上の望ましくない外来物質の創傷中への移動を妨げる。身体物質の望ましくない移動が、慢性の医学的状態に起因する場合、被験体は出血の再発を経験し得る。例えば、被験体は、毛細管拡張症を含む拡張蛇行静脈、痔、肺における出血(例えば、肺癌、気管支炎、または肺炎もしくはインフルエンザを含む細菌もしくはウイルス性疾患による)、または食道静脈瘤に関連する出血を経験し得る。出血の再発に関連する医学的状態は、自己集合ペプチドおよび血管収縮剤(例えば、組成物の約0.25〜0.5%を占め得るフェニルエフリン)を含有する本明細書中に記載される組成物で処置され得る。Orophamyxまたは肺で出血が生じる場合、その組成物は、計量された投薬量の吸入器をとおして投与され得る。患者の状態が、人工呼吸が必要とされるまで悪化した場合、その組成物は人工呼吸器をとおして、または灌注により投与され得る。
【0174】
身体物質の望ましくない移動はまた、手術手順の間に起こり得、その手順は、被験体の神経系、眼、耳、鼻、口腔、咽頭、呼吸系、心臓血管系、消化器系、泌尿器系、生殖器系、筋骨格系、肝臓、または外皮の切開を含み得る。その方法は、身体物質の移動が意図的であるなしに関わらず、実施され得る。本明細書中に記載される組成物は、望ましくない移動が生じる前または後に(例えば、血管の意図的な切除の前または血管の故意でない切除の後の手術手順の間に)適用され得る。例えば、手術手順は、動脈瘤を修復する、脳内の出血を妨げる、食道静脈瘤を処置する、潰瘍を処置する、または胃の内容物もしくは腸の内容物の(例えば、腫れ上がった、または破裂した虫垂からの)喪失を阻害する意図で実施され得る。手術手順は、被験体の腸の一部を切除することを含み得る。自己集合剤を含む組成物の補助とともに実施され得る他の手順は、動脈造影、心カテーテル法、ステントの挿入、自然分娩または帝王切開による分娩の補助、子宮摘出、臓器移植、関節の置き換え、または椎間円板切除を含む。これらの手順は、典型である。手術手順は、内視鏡または腹腔鏡の補助とともに実施され得、組成物は、独立して送達され得、またはこれらの装置内に置かれ、遠位端に連結されたチャンバーから被験体の組織上への放出のための移動により送達され得る。患者が、潰瘍を有する場合、その潰瘍は、食道、胃、十二指腸、糖尿病性、または褥瘡性の潰瘍であり得る。より一般的には、組成物は、皮膚の任意の破壊された領域に適用され得、そして本明細書中に記載された任意の方法は、処置の必要がある患者を同定するステップを含み得る。
【0175】
自己集合ペプチドナノファイバー骨格(SAPNS)は、手術野のための透明な環境を提供し得、また光学的に透明な液体を生成し、結果として得られる液体およびゲルミックスをとおしての手術を可能にする。手術野は、手術の間、血液および破片でしばしば覆われる。加えて、手術野から破片を除くことは、普通、その部位を生理食塩水で洗浄することを必要とする。生理食塩水は、当座のみの溶液であり、清潔な手術野を維持するために連続して適用される必要がある。これはいくつかの論点;すなわち存在するいずれの汚染も容易に広がる;小さな切開が、交互の洗浄と切開を必要とする;腸の手術の間の生理食塩水の使用が、術後合併症を導く重症の感染を引き起こし得る、を主張する。生物学的閉じ込めのための、SAPNSの使用は、内視鏡および開手術手順における術後合併症を減少させる。有効性が、脳、脊髄、胃腸管腔、肝臓、筋肉、動脈および静脈において示された。
【0176】
例えば、部分切除は、現在、以下のように実施される。外科医は、前癌領域を除去するように、腸の部分切除を実施する。切開がなされ、そして腸は、腹腔内の空洞から静かに持ち上げられ、患者のとなりのテーブル上に置かれる。厄介な領域が切除され、そして腸の二つの末端がその後、結紮される。腸が、身体にもどされる前に、結腸瘻バッグが腸の上端に連結され、手術領域が消毒される。腸は腹部内に置きかえられ、縫合がされる。漏出または出血がないことを確かめるために、排液管が腹部内に置かれる。対照的に、自己集合ペプチド物質を用いて、部分切除が以下のように実施される。医師は、腹部を開き、腸の厄介な部分を見い出す。その厄介な部分は、残りの腹腔内の空洞からそれを単離するために腹腔内の空洞中に注がれた付加的な液体を用いて単離される。外科医は、その液体により形成されたゲルをとおして到達し、腸を切除する。二つの末端が一緒に結紮され、その領域は、任意の色の変化について調べられる。そのゲルはまた、腸の流体の漏出または細菌が存在する場合、青色に変化する指示色素(indicator die)を有す。全ての青色は、吸引で除去される。少量のさらなる物質が、修復領域の周囲にスプレーされ、そして腹部は縫合される。
【0177】
瘢痕の処置: 実験は、自己集合物質の適用は、中枢神経系(CNS)における瘢痕の形成を阻止するために用いられ得ることを示した。病変部位におけるその物質の投与は、その部位をとおしての再生を可能とし得る瘢痕の安定な形成を阻止し、中枢神経系(CNS)で発達する瘢痕の除去は、軸索突起が傷害部位を横断して成長することを許容する。
【0178】
キレート化は、創傷治癒を促進する: 前記物質は、鉄のようなキレート化剤の、ある部位への送達のために用いられ得、そのため該物質は基底膜を再構築するために局所環境において身体により利用され得る。十分な鉄を含有しない組織では、安定な形態での鉄の送達が、組織の治癒および再構築を助ける。金属は、シスチンまたはシスチン様残基とともにナノ材料に組み込まれ得、そのためインビボまたはインビトロでの該マトリックスの集合にともなう立体障害はほとんどないか存在しない。
【0179】
まとめると、自己集合ペプチド物質は、手術を実施するために清潔な局部環境を生成するために用いられ得、汚染物質の構造および移動を特定しするために用いられ得、手術手順のために構造をふくらませるため(すなわち、腸)に用いられ得、漏出し得る、除去される構造(すなわち、虫垂、身体におけるパッチホール)を囲むために用いられ得、汚い環境での手術を可能にするために用いられ得、手術前に、任意の漏れを防止するために臓器を囲むためのスコープの手順で用いられ得、腹部の手術を実施する間に癒着を妨げるバリアを生成するために用いられ得、そしてスコープとスコープの挿入点の間のガスケットを形成するために用いられ得る。手術の間の利点は、該物質は光学的に澄明であり、室温で長い貯蔵寿命を有し、それをとおして手術され得、準備時間を短縮し、スポンジを数えることを除外し、手術野における各構造を隔離し、手術室の清掃時間を短縮し、手術時間を短縮し、他の刺激物により引き起こされる相互汚染を低減または除外し、その物質は、生体親和性であり、その分解産物は、天然のものであり、身体により吸収される。その物質は、扱うことが容易であり、必要とされる場所に注入され得、ブドウ球菌性の感染を除外し、手術現場の使い捨ての紙の費用を減少させることが可能とし、その物質は、蒸気を生じる手順後、滅菌するために煮沸され得ることからバイオハザードバッグを減少させることが可能とし得る。前記物質が透明であり、手術野は血液が除かれているために、外科医は、より早く手術することが可能である。出血を調節するための創傷のパッキングの排除は、手術時間を複雑な事例において50%ほども減少させ得る。二次感染による術後感染は、該物質が手術の間および手術後に創傷をコートし、それにより身体外からの汚染を減少させ得ることにより、該物質の使用により減少させられ得る。術後の介護は、腹部または胸部の腔における粒状の物質の広がりを遅くすることにより、廃液による感染を減少させる物質を使用することが可能であり得る。
【0180】
組成物は、任意の時間に適用の部位(例えば、出血している血管)から除去され得、内科医は、止血を促進する初期のゴールが達成された後でさえ、創傷の治癒を促進するために、それらがしかるべき所に残ることが可能であるように希望し得る。
【0181】
組成物が、自己集合ペプチドを含む場合、それらのペプチドは、天然に存在するアミノ酸残基を含み得、そしてそれは身体により吸収され得る。その組成物は、操作することが難しくはなく、必要とされる基盤上に容易に施され得る。それらの特性(例えば、硬度)は、その中の成分の濃度を変えること(例えば、所定の組成物中の自己集合ペプチドの濃度を変えることにより)により容易に変化させられ得る。結果として、集合した構造は、下にある組織の視野を顕著には損なわず、そして手順が実施され得る前に除去される必要はない。例えば、内科医は、本明細書中に記載された組成物で処置された範囲における火傷またはその他の表面の外傷を評価し得る。手術室において、外科医は、その物質をとおして初期の切除を行い得、そしてその組成物がまた適用され得る内部領域において、外科用メスおよびクランプのような標準的な道具、またはより近代的な方法(例えば、レーザー)を用いて手術を続け得る。その組成物の使用が、手術のために患者を準備するために必要な時間を減少させ得るという、別の利点がやがて理解され得る。その組成物が、切開部位のまわりに適用され、感染性病原体に対して保護するためのコーティングを形成し得る場合、患者の皮膚を剃り、ドレープを適用し、そして消毒剤を適用する必要はより少ない。
【0182】
集合した骨格の構造的完全性により、それらは、所望される場合、それらが形成される領域から除去され得る。したがって、集合した骨格は、例えば、吸引により、またはピンセットのような道具で持ち上げることにより、またはスワブもしくはガーゼで拭き取ることにより除去され得る。例えば、その骨格は、止血が達成された後、または創傷をきれいにする過程において、除去され得る。今日までの研究に基づいて、その骨格またはそれらの大部分は、下にある組織を損傷することなく除去され得る。集合した骨格が、エキソビボで形成される場合、それらは鋳型から除去され、続いて使用され得る(例えば、組織または組織の空隙中に埋め込まれる)。その組成物は、処分またはのちの清掃を必要とする用具の量を減少させる(例えば、手術用ドレープ、スポンジ、および他のバイオハザード物)。
【0183】
「ナノドレープ」は、例えば、患者または手術の切開の周りの領域をスプレーまたは別な方法でコーティングすることによる患者への直接的な適用後、感染を制限することにより、従来からの紙または布のドレープを置き換えるために用いられ得る。現在、患者は、手術台に位置した後、シェービング、手洗い、消毒およびドレープをすることにより手術のために準備される。その後、殺菌剤およびテープが、手術が実施される領域に適用される。自己集合組成物は、それが薄い第二の皮膚へと自己集合する身体上に温かい液体をスプレーすることにより、ドレープの代わりに適用され得る。この物質は、どんな細菌が適合して通れるよりも、より小さい孔のサイズを有し、そのため、空気伝搬のどんな汚染物質からも保護し、そして1ミリメートルの厚さの物質は、穏やかな殺菌剤を含有し得るため、第二の皮膚ように身体にくっつく。その物質はまた、皮膚のための水和成分を有し得、そのため乾燥しない。その物質は、身体により分解されることから、創傷部位中にその物質を入れることについての心配はない。色がそれに加えられ得、そのため、手術後それが全て洗い落とされたかどうかを決定することがより容易である。
【0184】
これらの物質はまた、ヒトの身体内および/またはヒトの身体の表面上での異物の導入を防ぐために用いられ得る。その物質は、細菌、真菌、ウイルス、胞子および/または他の感染性病原体の導入を、これらの物質の通過を妨げるバリアを生成することにより妨げ得る。
【0185】
骨格(例えば、ナノスケールの構造化された物質)は、その骨格が所望される(例えば、身体物質の移動または漏出を調節するため、創傷を保護するため、または組織の修復を促進するために)ある場所、またはある場所付近で、その骨格の前駆体を、被験体に導入することにより提供され得る。前駆体(例えば、自己集合ペプチド)は、標的領域(例えば、出血している血管、消化管の罹患部位、または火傷した皮膚の領域)に十分に近い位置でそれらが提供される場合、ある場所付近で提供され、有効量で標的領域に到達する。相同または異種であり得る(例えば、自己集合ペプチドの一つのタイプまたは二つ以上の異なるそのようなペプチドの混合物を適用し得る)前駆体は、組成物内に含まれ得、そして生理的条件との接触で、骨格(例えば、ナノスケールの構造化された物質)を形成するように集合する。したがって、前駆体は、インサイチュで(すなわち、投与の部位で、または投与の付近において被験体の身体内に)集合し得る。
【0186】
ナノスケールの構造化された物質が、インサイチュで存在する付加的な成分(例えば、イオン)を含み得るか、またはナノスケールの構造化された物質の集合が含み得る。したがって、自己集合ペプチドのような前駆体は、実質的にイオンのない(例えば、実質的に一価の陽イオンがない)溶液中に適用され得、そして身体中でそのようなイオンに接触した場合(例えば、血液、胃腸内容物などのような身体物質中で)、巨視的な構造を形成するように自己集合する。例えば、前駆体を含む溶液は、胃もしくは腸の穿孔または手術の切除がされたか、もしくはなされる部位で、あるいはその部位の近くで適用され得る。
【0187】
組成物を標的領域(例えば、手術手順のために切開がなされる部位)に導入する前に、前駆体(例えば、自己集合ペプチド)は、集合させられ得ることから、前記骨格はまた、ゲルの形態で提供され得る。集合された構造は、任意の使い易い形態をとり得る。
【0188】
前記骨格はまた、前駆体を乾燥粉末の形態で提供することにより、提供され得る。「乾燥」粉末は、比較的低い液体含量を有する(例えば、その中の粒子が容易に分散し得る十分な低さ)。乾燥粉末の形態で提供される自己集合ペプチドは、一価の陽イオンを含む身体の流体と接触した場合に集合し、そしてそのようなイオンを含む溶液は、骨格が形成する速度またはその硬度を変えることが所望される場合に加えられ得る。自己集合ペプチドは、上記のようなエマルジョンとして提供され得るか、または手術用スポンジが現在用いられる様式に類似した様式で身体の腔または創傷部位に挿入され得る前もって形成された形に作られ得る。所望の場合、結合剤が乾燥粉末に加えられ得、それはその後、所望の形に形成される。骨格が集合する正確な様式にかかわらず(例えば、前駆体を含む液体処方物を身体と接触させることによろうと、乾燥粉末をエキソビボでイオン含有溶液と接触させることによろうと)、形成された骨格は所望の形になり得る。骨格が血管の管腔を満たすようなサイズおよび形の場合、骨格は血管の栓として用いられ得る。
【0189】
予防測定は、被験体が、望ましくない事象を経験する前に実施され得る(例えば、傷害が生じる前、または出血が始まる前)。したがって、投与の部位は移動の可能性のある部位または漏出の可能性のある部位であり得、そしてその適用は、そのような移動または漏出が生じるのを妨げるか最小にするためになされ得る。治療手順または処置に関連して用いられる場合、組成物は、状態(例えば、状態、症候群、疾患、もしくは徴候、症状、またはそれらの徴候)の進行を逆転、軽減、または阻害し得る。被験体を処置する方法は、一般的に一度被験体が処置を受け入れる状態を有すると認識されると実施され、そして本明細書中に記載された任意の方法は、最も良く予防的であると記載されていようと治療的であると記載されていようと、受け入れる被験体を特定するステップを含み得る。
【0190】
本明細書に記載された組成物は、被験体における身体物質の移動(上皮内または上皮からの移動を含む)を阻害するために用いられ得ることから、その組成物は、手術を実施するに関係して用いられ得、そして手術を実施するか、または手術野を生成するための新しい方法として記載され得る。その方法は、手術に関係して実施されようとなかろうと、処置の必要がある被験体を特定するステップ、およびナノスケールの構造化された物質またはその前駆体を、望ましくない移動が生じたか生じると予想される部位の近くで、またはその部位の近傍において提供するステップを含み得る。例えば、手術手順をまさに受けようとしている患者を特定し得、そして自己集合ペプチドおよび血管収縮薬、着色剤、または局部麻酔剤を含む生体親和性組成物を、切開または他の侵襲性の操作がなされるか、またはされた部位に提供することができる。影響される身体物質は、血液または血液産物、漿液滲出物(一般的に澄明またはコハク色の流体として現れる、主として血漿からなる炎症関連滲出物)、膿、胃液、尿。脳脊髄液(CSF)、膵液等のような流体であり得る。身体物質は、粘性、軟泥様または半固体であり得るが、一般的に流れるか移動する能力を示す。この性質の物質は、胃腸管の内容物を含む。その組成物は、適用後(例えば、止血が達成された後、または腸の手術が終わった後)に除去され得るか、またはその場所に残され得る。例えば、その組成物は、手術の間の止血を促進するか、または腸の内容物の移動を阻害するために適用され得、そしてその骨格のいくらかまたは全てが、手術が終わったときにその場所に残され得る。このことは、縫合に先立って除去されねばならないスポンジおよび他の材料の使用と比較して、実質的な利点を提供する。その組成物は、多様な方法で除去され得る(例えば、拭うことにより、または吸引により)。
【0191】
前記組成物はまた、下にある領域(例えば、火傷の領域または別な方法で傷害された皮膚もしくは他の組織)を保護するために適用され得、それゆえに、汚染物質(例えば、外来物質)が、その領域と接触することを妨げるのを助ける(すなわち、その組成物は、バリアまたはシールドとして用いられ得る)。前記物質が適所にあるけれども、外科医または他の医療提供者は、前記物質をとおして創傷を試験し得、そして外科医は、それをとおして手術し得る。その処置の間に該物質上に降りた汚染物質は、その後、その物質の除去によって、除去され得る。
【0192】
前記組成物は、最終的な処置に先立って創傷を安定化するために投与され得る(例えば、犠牲者が、病院への搬送を待っている間、または運搬の間に)。その組成物は、最善の無菌状態より悪い条件下(例えば、野戦病院において、または無菌手術室の利用が制限されている世界の地域において)で手術が行われる場合、同様に有用である。その組成物および方法は、これらのような場合において、汚染の可能性を顕著に減少させる可能性を有する。
【0193】
自己集合ペプチド物質はまた、処置を行う局所領域において、麻酔薬と組み合わせて局所的に適用され得、そして手術の間に臓器の移動を減少させる、より高い濃度で適用され得る。これは、一般的な麻酔薬負荷量を減少させることにより、高齢の患者に対する認知欠損を減少させ得る。外科医が手術を行っている組織または皮膚上に、薄い層がスプレーされ得る。それは別々でも一緒にでも適用され得、特定の臓器に特異的な麻酔薬を投与する。皮膚は腸と異なる受容体をもち、特定の麻酔薬に対する要求が、それらの臓器の各々にとって必要とされる。腸は、手術の間、動きを止める必要があるが、一方、血液および血管の収縮は一定で残る必要がある。
【0194】
出血の処置および予防: 過度のまたは即座に生命を危うくし得るかまたはそうでない、望ましくない出血をこうむるリスクの高い任意の個体が、本明細書中に記載された組成物で処置され得る。これらの個体は、血友病のような血液凝固障害をともなう個体、抗凝固治療を受けている患者、反復する鼻出血に悩む患者、および手術、特に動脈接触を含む大手術または処置を受けている患者を含む。制限されるものではないが、手術または処置は、神経系、眼、耳、口腔、咽頭、呼吸系、心臓血管系、消化器系、泌尿器系、筋骨格系、外皮(皮膚)系、または生殖器系での手術であり得る。前記組成物が用いられ得る手術および処置の特定の例は、動脈造影、血管心臓造影法、心カテーテル法、産科裂傷の修復、冠動脈閉塞の除去、ステントの挿入、帝王切開、子宮摘出、骨折の復位、冠動脈バイパス移植、胆嚢摘出、臓器移植、全関節(例えば、ひざ、腰、くるぶし、肩)の置き換え、虫垂切除、椎間円板の切除または破壊、大腸の部分的切除、乳房切除、または前立腺切除を含む。
【0195】
事故の犠牲者、戦闘に従事した個人、および出産する女性もまた、顕著な血液喪失を経験するリスクがある。前記組成物は、止血を促進するために産科の出血部位(例えば、子宮内、膣内、または近傍の組織内)に適用され得る。例えば、その組成物は、胎盤の裂傷に適用され得るか、出血を調節するために子宮をパックするために用いられ得る。他の適応として、生殖器道(reproductive tract)に適用された組成物は、除去され得るか、またはその場所に残され得る。自発的な出血、動脈瘤破裂、食道静脈瘤、胃潰瘍、腸の上部の潰瘍(例えば、十二指腸潰瘍)はまた、かなりの出血が起こり得る医学的状態であり、そしてこれらの個体もまた、本明細書に記載されるように処置され得る。
【0196】
出血の正確な源は変わり得、そして動脈系または静脈系におけるどの血管(例えば、動脈、細動脈、毛細血管もしくは毛細血管床、細静脈または静脈)にも由来し得る。血管のサイズは、大(例えば、前記組成物は、大動脈、腸骨動脈もしくは大腿動脈、または門脈からの出血を阻害し得る)から小(例えば、毛細血管)までの範囲であり得、そしてその血管は、身体中のどこにも位置し得る(例えば、肝臓、胃、腸、皮膚、筋肉、骨、肺、または生殖器系のような固体臓器において)。
【0197】
血液凝固のために通常必要とされる時間は、凝固因子および/または血小板の血漿レベルが低い場合、または個体が抗凝固剤(例えば、ワルファリンまたはヘパリン)を受けている事例において、延長され得る。出血は、血管の完全性に対して最小よりも大きい損傷がある場合、しばしば平均凝固時間よりも相当に長く持続する。研究に基づいて、前記組成物は、平均の血液凝固時間よりも少ない、そして少なくともいくつかの事例では、さらに少ない期間で止血を引き起こすと予測される。その組成物は、任意の所定の時間で止血を達成するもの(および汚染から領域を保護するかまたは組織の治癒を促進するような使用はこの機能から独立している)に限定されないが、その組成物は、適用後、わずか5秒で、出血している被験体に利益を与え得る。他の組成物は、適用後、約10、15、または20秒で効果を発揮し得る。有効な期間は、絶対時間以外の様式で特徴付けられ得る。例えば、組成物は、止血を達成するために必要な時間を、氷冷した生理食塩水が適用された場合に必要な時間と比べて、25%と50%の間で、50%と75%の間で、または75%と100%の間で低減し得る。止血を達成するために必要な時間は、氷冷した生理食塩水が適用された場合に必要な時間と比べて、約2倍、3倍、4倍、または5倍低減させられ得る。
【0198】
ペプチドの濃度は、血管の直径、血管が傷つけられた程度、および血液が出て行く(または傷害にさいして出る)ための力のような変数に関連して選択され得る。より高いペプチド濃度が、主要な血管(例えば、大動脈、腕頭動脈、頚動脈、鎖骨下動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈、腎動脈、腸骨動脈、大腿動脈、膝窩動脈)からの止血を促進するために所望される。有用な濃度は、約0.1〜10%の間(例えば、1〜10%、0.5〜5%)、14%、0.1〜2%、0.1〜3%、0.1〜4%、0.1〜5%、および1〜8%(例えば、約1、1.5、2、2.5、3、4、5、6、または7%)の範囲であり得る。前記のいずれかの範囲内の、任意の部分範囲または任意の特定の値が、用いられ得る。任意の前記の濃度がまた、本明細書中に記載される他の指標のために用いられ得る。
【0199】
言及したように、出血は、多数の異なる原因のいずれかに帰因し得、そして内部または外部であり得る。前記組成物は、原因または原因の性質(例えば、疾患の経過または意図的もしくは偶発的な外傷のいずれによろうと)にかかわらず適用され得る。該組成物は、限られた空間(例えば、中空器官(hollow organ)の内側)または身体表面もしくは身体表面近くにおける止血を達成するために用いられ得る。例えば、該組成物は、部分的または完全に重篤な身体部分(例えば、四肢または指)に適用され得る。その事象において、該組成物は、複数の機能をはたらかせ得、それらは止血を促進するだけではなく、創傷部位を汚染物質から保護し、そして組織の治癒を促進し得る。より特異的には、該組成物は、創傷に適用され得、止血を達成し血液凝固を生じるに十分な期間そこに置かれ、その後除去され得る。ペプチドゲルに付着する、微粒子および感染性病原体のような汚染物質は、ペプチドゲルとともに除去される。滅菌包帯が、その後適用され得る。もちろんその組成物は、止血が達成された後、または止血の促進が必要とされない状況においてさえ、創傷をきれいにし、汚染を防止し、または組織の治癒を促進する目的で適用され得る。
【0200】
鼻出血を処置するために用いられる場合、前記組成物は、適切な外鼻孔中に挿入され、そして出血がしずまるまでそこに置かれ得る。該組成物は、吸引により(例えば、点眼器または注射器を用いて)容易に除去され得、または単純に鼻をかむことを含む他の物理的手段により除去され得る。
【0201】
前記組成物はまた、創傷上に残され得、そして包帯(dressing)が該組成物をおおって適用され得る。該組成物自体は、容易に除去されることから、包帯下のその存在は、損傷した組織への包帯の固着を防止することを助け得る。所望の場合、透明部分を有する包帯(bandage)が、用いられ得、そんれゆえ傷害部位は、包帯の透明部分およびその下のペプチド構造をとおして見ることができる。これは、包帯(dressing)を除去することなく、医師が治癒の進行をモニターすることを可能にする。改変された包帯(bandage)が、以下にさらに記載され、それらは本発明の範囲内にある。
【0202】
多くの医学的手順は、血管の穴あけを伴い、重大な出血が後に続き得る。自己集合ペプチド組成物は、穴のあいた血管の壁に(例えば、血管に穴をあけるために用いられた器具の除去の間に)適用され得る。自己集合ペプチドから形成された血管の栓は、米国特許第5,192,302号明細書、同第5,222,974号明細書、同第5,645,565号明細書、同第6,663,655明細書に記載されたもののような、現存する血管の栓および装置に代わるものを提供する。血管の栓は、インサイチュで(例えば、血管の穴あきの部位で)形成され得るか、またはその部位に前形成および適用され得る。
【0203】
より一般的に、ナノ構造化された物質またはその前駆体を含む組成物(例えば、自己集合ペプチド)が、組織をとおしての任意の通過を封止するために用いられ得る。したがって、本発明の方法は、ナノスケールの構造化された物質を含む組成物を、通路の一端もしくは両端、またはその内部に適用することにより、組織をとおしての通過を封止する方法を含む。例えば、組織は、血管の壁、臓器の壁、皮下組織、または脂肪組織であり得る。その通過を封止することは、止血に帰結し得る。その通路は瘻(すなわち、二つの臓器もしくは身体構造の間または臓器もしくは構造および外界との間の異常な連結)であり得る。所望される場合、外科医は、該組成物を管構造(例えば、腸または血管)の内部に適用し、ゲル中で腸または血管を切除および結紮し、そして構造の連続性を復元しその領域の血液または他の身体物質の再灌流を可能にするために構造の内部からゲルを除くことができる。該物質はまた、再灌流障害を制限するために用いられ得る。例えば、自己集合物質は、虚血後に投与され得る(例えば、血栓溶解剤で処置された患者に対して)。該物質はまた、再灌流の前、間、および/または後に血液組織バリアの再建を介して、再灌流障害を制限するために用いられ得る。例えば、自己集合物質は、循環系の一部の内部コーティングを介して血液組織バリアを再建するために用いられ得る。これは、虚血性梗塞、出血性脳卒中、または再灌流障害のような疾患において有益であり得る。最後に、自己集合物質は、再灌流の前、間、および/または後に血管構造の完全性の再建を介して、再灌流障害を制限するために用いられ得る。
【0204】
手術での適用のため、創傷または手術野の任意の部分が、自己集合ペプチドを含む組成物で包まれ得る。このアプローチは、手術の間に慣例的に実施されている創傷のパッキングの代わりに用いられ得る。該組成物が、生体親和性および生分解性物質を含む場合、それらはその場所に残され得、それにより手順の終わりに除去する必要をなくし、そしてこの目的のための後の手術の必要をなくす。生分解性物質は、物理的および/または化学的に、細胞内または被験体の身体内で分解され得(例えば、生理的条件下での加水分解により、または細胞内もしくは身体内に存在する酵素の作用のような天然の生物学的過程により)、より小さな化学種を形成し、それらは、代謝および、任意に再利用、および/または排出もしくは別な方法で処理され得る。好ましくは、生分解性化合物は、生体親和性である。
【0205】
潰瘍または血管異形成の結果として起こり得る胃腸の出血は、比較的一般的であり、そして処置しなかった場合、致命的であり得る重篤な状態である。出血する食道静脈瘤、および出血する胃潰瘍または十二指腸潰瘍は、特に重篤であり得る。多くの内視鏡的治療アプローチ(例えば、硬化薬の注入、機械的止血装置の取り付け、および接触電気焼灼技法)が、止血を達成するために開発された。該組成物は、食道、胃、小腸、または大腸における潰瘍もしくは出血の部位またはその近くに投与され得る。大腸、直腸、または肛門(例えば、痔)の遠位部分における出血がまた、この方法で処置され得る。
【0206】
動脈瘤の破裂は、迅速な致命的結果をともなう悲劇的な事象結果を示し得る。破裂した大動脈の動脈瘤は、迅速な医学的手当にもかかわらず失血に急速に帰結し得る。破裂した頭蓋内動脈瘤は、しばしば破壊的な結果を有す。本発明の組成物および方法は、他の事例による出血を処置するために用いられる方法(例えば、出血部位への自己集合前駆体または前もって形成された構造の適用によって)と本質的に類似の方法で、破裂した動脈瘤からの出血を処置するために用いられ得る。動脈瘤破裂のたびたびの重篤な結果のために、手術的修復がしばしば試みられる。該組成物は、任意の試みられる修復(例えば、開手術または血管内修復(例えば、移植片および/またはステントの配置をともなう))と関係して適用され得る。より特異的には、本発明の方法は、ナノスケールの構造化された物質またはその前駆体(例えば、自己集合ペプチドを含む組成物)を動脈瘤中に(例えば、動脈瘤の嚢中に)導入することにより動脈瘤を処置することを含む。一度、任意の出血が、より良い調節下におかれると、動脈瘤は、その後、任意の適切な技法を用いて修復され得る。動脈瘤の嚢内における前記ペプチド構造の存在が、これらの他の手順の前または間に、漏出または破裂の機会を減少させる。前記骨格がしかるべき所に残され得る。さらに、動脈瘤の嚢内における該物質の存在は、動脈瘤の治癒を促進し得る。
【0207】
脳脊髄液(CSF)の移動または漏出の阻害: 硬膜は、丈夫で、最も外側の、繊維性の膜であり、脳および脊髄を覆い、そして頭蓋骨の内面を裏打ちする。CSFの漏出は、傷害、手術、または硬膜が貫通される他の手順(硬膜外腔への麻酔薬を投与する過程における不適当な貫通を含む)後の重大な合併症である。そのような漏出は、ひどい後遺症(例えば、ひどい頭痛、感染、および髄膜炎)を引き起こし得る。該組成物は、それを必要とする被験体において、CSFの望ましくない移動または漏出の部位での、またはその近くにおける適用後、CSFの移動または漏出を阻害し得る。該組成物は、硬膜の手術後、切開部位の外へCSFが漏出することを防止することを助けるため、縫合の上に適用され得る。該組成物はまた、中耳からの流体の移動または漏出を阻害するために用いられ得る。
【0208】
胃腸管の内容物の漏出の阻害: 前記組成物は、胃腸の内容物の移動を阻害し得る。例えば、前記構造は、胃もしくは腸の穿孔後、または手術の間に、胃腸の内容物の漏出を妨げ得る(実施例4を参照のこと)。該構造は、そのような身体物質を隔離するために用いられ得、そして腹腔内でのそれらの広がりを防ぎ、それにより、汚染ならびに続いて起こる化学的腹膜炎および/または感染のリスクを最小化するために用いられ得る。主として塩酸、ムチン、および酵素(例えば、ペプシンおよびリパーゼ)からなる胃腺の消化分泌物を含む胃の内容物は、腹腔内に放出された場合、傷害および/または感染を引き起こし得る。腹腔内への腸の内容物の放出は、腸の手術の間のよくある事象を示し、腸の穿孔または虫垂破裂の事例においてもまた起こり得る。該組成物は、腹腔内への胃腸の内容物の漏出を阻害するために用いられ得る。移動の部位は、疾患過程または手術の切開により引き起こされる胃または腸の損傷の部位であり得る。該組成物は、消化器系の任意の臓器(例えば、胃、または小腸もしくは大腸)の外部に適用され得るか、またはそれらの内部に注入されるか別な方法で導入され得る。該組成物は、腸の一部を切除する過程で投与され得る。例えば、第一の点から第二の点へ伸びる腸の部分を本発明の組成物で満たし得、そして第一の点と第二の点の間に位置する腸の部分を切除し得る。一つの実施形態において、自己集合物質は、胸焼けを処置するために用いられ得る。例えば、自己集合物質は、胃腸管の一部をコートするために経口的に投与される溶液、懸濁物、またはエマルジョン(例えば、飲料またはシェーク)、ゲル、錠剤、ウエハ、カプセル等として、処方され得る。該処方物は、胃液および血液を含む身体の流体の移動を止めるため、GI管をコートするため、ならびに/または潰瘍、糜爛、および炎症の進行を止めるために用いられ得る。該処方物は、酸の逆流疾患に由来する食道への損傷を防止するために用いられ得る。該処方物はまた、酸の逆流、他の疾患または障害、および/または治療的介入により損傷された食道における細胞の修復を助けるために用いられ得る。該処方物は、原発性および二次性潰瘍ならびに粘膜への侵食の修復を助けるために用いられ得る。該処方物は、必要とされる場合、GI管の一部へ、治療薬、予防薬、および/または診断薬を送達するために用いられ得る。例えば、自己集合物質は、放射線治療および/または疾患または外傷によって欠失したGI管のフロラおよびファウナを再建するために薬剤を送達するために用いられ得る。
【0209】
関連する方法において、腹腔内に放出された腸の内容物を除去するために前記組成物を用いることができる。その方法は、放出された腸内容物に対して液体組成物を適用すること、該液体組成物が相転移を受けることを可能にすること、そしてその後、ゲル様または半固体組成物を除去することを含む。これらのステップは、腹腔から除去された腸内容物の量に、外科医が満足するまで一回以上、繰り返され得る。別の関連する方法において、該組成物は、酸が、胃の表面と接触することを防ぐバリアとして作用するように、潰瘍に適用され得る。
【0210】
他の内部臓器(例えば、胆管の系または尿路系の臓器)の内容物の移動を同様に阻害し得る。例えば、胆汁、膵液(すなわち、消化酵素を含む膵臓の外分泌部分の分泌物)、または尿の移動を阻害し、および/または胆汁、膵液、または尿が放出された領域を、その部位への前記組成物の適用およびそれに続く除去により、汚染を除去するか清潔にすることができる。その方法は、したがって、腸、胆管、および/または尿路系の欠損を修復または別なふうに処置するための手術への広い適用を有する。
【0211】
創傷治癒: 研究はまた、前記組成物が、特に上皮層または筋肉の治癒を促進する能力を有すること、そしてそれゆえ、組織の損傷部位を処置するために投与され得ることを示す。例えば、自己集合ペプチドを含む組成物を組織の損傷部位に適用し得る。該組成物は、組織修復の速度を増大させ、そして瘢痕組織の形成を阻害するの両方であることが明白である。該組成物は、急性または慢性の創傷のケアのいずれにも用いられ得る。例えば、それらは任意の様式で傷つけられた(例えば、引き裂かれたか、または火傷した)皮膚、ならびに糖尿病性潰瘍および床ずれのような領域に適用され得る。火傷の事例において、任意に創傷清拭剤を含む自己集合組成物が、火傷の部位に適用され得る。創面清拭は、自己集合物質内または自己集合物質をとおして起こり得、その結果、該部位への表皮剥離の量を減少させ、周囲の組織または環境の汚染を最小化または除去する。該物質の集合はまた、火傷の感染および/または汚染を妨げ得るバリアを形成する。
【0212】
前記物質はまた、瘢痕組織の形成のための補因子として作用する鉄および他の金属イオンをキレート化することにより、瘢痕組織の形成を阻害または予防するうえで有用であり得る。創傷が治癒とき、創傷部位のpHが下がり、そして鉄の濃度が増加する。瘢痕形成および瘢痕組織は、軸索突起の成長をブロックし得る。自己集合物質は、おそらく、正に荷電した金属イオンと錯体をつくり得る、電気的に陰性および/または負に荷電した官能基の存在を介して、創傷部位で鉄をキレート化することにより瘢痕組織の形成をブロックし得る。創傷における鉄の除去または錯体形成は、IV型コラーゲンの安定な形成を妨げる。創傷環境を調節する能力は、治癒の速度および程度を調節することを可能にする。
【0213】
金属イオンをキレート化する自己集合物質の能力はまた、細菌および真菌のための補因子である金属をキレート化することにより、細菌または真菌の感染を妨害するうえで有用であり得る。感染はまた、自己集合物質の層で組織をコーティングし、したがって、該組織上に細菌または真菌が降りることを妨げることにより、予防され得る。
【0214】
これらの物質は、火傷をおった患者、または擦過傷もしくは火傷により外皮が破られた事例における患者に対して、水分補給を維持することおよび栄養を維持するために用いられ得る。
【0215】
別の事例において、前記物質は、患者が該物質で覆われた場合、外部の熱源または冷却源により体温を維持するために用いられ得る。
【0216】
組織再生
鞘内の空間への薬物送達ビヒクル: 本明細書中に記載された物質は、鞘内の空間へ治療剤および/またはイメージング剤を送達するために用いられ得る。治療剤の例は、限定されるものではないが、抗炎症薬および神経/脊髄再生を促進する薬剤を含む。ヒドロゲル物質が、鞘内の空間へ一つ以上の活性剤を送達することを試みるために用いられた。しかしながら、これらの物質は、該物質が重合化しゲルを形成する前に該物質が拡散することを可能にする、それらの遅い重合化時間により制限され得る。本明細書中に記載された物質は、すばやく自己集合するように設計され得、そのため該物質は、拡散しない。
【0217】
軟骨修復: 本明細書中に記載された物質は、軟骨修復のために用いられ得る。該物質は、軟骨修復が必要とされる部位中に一般的に注入され得る。該物質は、単独で、または細胞および/もしくは成長因子と組み合わせて用いられ得る。
【0218】
骨再生: 本明細書中に記載された物質は、骨再生のための複合物質を調製するために用いられ得る。例えば、自己集合物質は、無機物質(例えば、リン酸カルシウムまたはヒドロキシアパタイト)、有機物質(例えば、成長因子)、および/または骨移植片のための担体として作用し得る。無機物質(例えば、リン酸カルシウム)は、骨を再生する破骨細胞再吸収機構により再構築され得る。該物質はまた、インビボで骨移植片を生成するための方法として、骨成長を促進するために骨膜下に注入され得る。あるいは、記載された物質は、成長における線維性(fibrous)を制限する骨再生誘導治療のために用いられ得る。例えば、本明細書中に記載される物質は、歯科の手順において、歯槽空間中への線維組織の成長を妨げるために歯槽の上に置かれるモールド(mold)として用いられ得る。
【0219】
酸素送達: 本明細書中に記載される自己集合物質はまた、肺および/または他の臓器へ酸素を送達するために用いられ得る。例えば、該物質は、肺出血および他の肺疾患を罹患している患者のための酸素の維持/灌流を提供するために超酸素化(superoxygenate)され得る。
【0220】
送達方法、装置、およびキット: 身体の標的領域に前記組成物を導入するために、多様な装置が用いられ得る。該装置は、注射器のように単純であり得、そしてそのような装置は、キット中に該組成物とともに提供され得る。該組成物は、注入により(例えば、針および注射器を用いて)、またはカテーテル、カニューレを用いて、または任意の適切なサイズの管から分配すること(例えば、流出(pouring))により、身体中の標的領域でまたは標的領域近くに局所的に送達し得る。該組成物は、必要ならば、画像案内(例えば、定位的案内)の補助で送達され得る。あるいは、物質は、該組成物で湿らされ、その後、組織の領域に組成物を適用するように用いられ得る。
【0221】
貯蔵および出荷のために、自己集合物質は、適切な溶媒(例えば、滅菌水のような水性媒体、そして使用に先立ち長期間貯蔵される)中に溶解され得る。ペプチド含有溶液は、活性の実質的な喪失なしに2年間まで貯蔵された。延長された期間後、部分的な自己集合が生じた場合、物理的な撹拌(例えば、音波処理)が、該物質を投与に先立って、より液体状態に復元するために用いられ得る。あるいは、該物質は、ゲルとして適用され得る。所望の場合、少量のイオン(例えば、一価の陽イオン)が、適用に先立って溶液に加えられ得る。これは、ゲル形成の過程を加速し得る。あるいは、一価の陽イオンは、該溶液が投与された後に適用され得る。
【0222】
種々の容量の注射器または開口部から液体組成物を強制的に絞ることができる変形可能な面をもつ管(例えば、プラスチック管またはプラスチック面をもつ管)を含むキットが、提供される。一つの実施形態において、該注射器または管は、複数の区画を含み、一つは、一価のイオンを含み、そして他は自己集合ペプチドを含み、それらは共通の針をとおして投与時に混合される。内視鏡が、中空器官(例えば、食道、胃、腸等)または体腔の処置のための組成物を送達するために用いられ得る(例えば、最小侵襲手術の間)。最小侵襲手術は、手術への一つのアプローチを指し、手術は、小さな切開または自然な身体の開口部をとおして挿入されるように設計された特別な装置で実施され、しばしば内視鏡による可視化とともに実施される。例は、復腔鏡手術、関節鏡手術、および血管内手術を含む。内視鏡は、一般的に長い柔軟なチューブ様の装置である。内部構造の可視化を可能にすることに加えて、多くの内視鏡は、特別のチャネルをとおして付加的な診断能力(例えば、生検)および治療能力(例えば、治療剤の送達)を有する。結腸鏡、S状結腸鏡、気管支鏡、膀胱鏡、および腹腔鏡は、特定の臓器、構造、または腔を見るために特によく適するようにした特性を有する内視鏡の変型である。これらの装置のいずれも、前記組成物を送達するために用いられ得る。キットは、内視鏡および自己集合ペプチドを含有する溶液を含む管をふくめて包装され得る。適切な内視鏡は、当該分野で公知であり、広く利用可能である。内視鏡は、食道の出血部位へ硬化薬を送達するために、現在使用されている。
【0223】
キットは、自己集合ペプチドおよび一つ以上の注射器、針、糸、ガーゼ、包帯、消毒薬、抗生物質、局所麻酔薬、鎮痛剤、手術用の糸、ハサミ、メス、滅菌した流体、ならびに滅菌した管を含み得る。該ペプチドは、溶液中にあるか、または乾燥(例えば、乾燥粉末として)であってよい。キットの構成要素は、個々に包装され得、そして滅菌されている。キットは、一般的に容器(販売のために適切なプラスチック、厚紙、または金属容器)中で提供される。キットは、「応急処置キット」としての様式であり得、その場合、外部に赤十字のような印を一般的に有する。キットのいずれもが、使用のための説明書を含み得る。
【実施例】
【0224】
例1: 自己集合ペプチド物質は、脳における止血を促進する
ラットおよびハムスターの脳における上矢状静脈洞の分枝の完全な切除を、切除組織の上に重なる頭蓋骨の部分を除去した後、実施した。動物は、ケタミン(80mg/kg)およびキシラジン(8mg/kg)の腹腔内(i.p.)注入で麻酔した。全ての手術手順は、手術用顕微鏡下で行った。10匹の成体ハムスターおよび12匹の若い雌のSpraque−Dawleyラット(200〜250g)を含む22匹の動物を、静脈洞分枝切除の部位で、氷冷生理食塩水または20μlの1%ペプチド溶液のどちらかで処置した。該物質は、RADA16−1(n−RADARADARADARADA−c;配列番号1)ペプチドを滅菌水に溶解することにより調製し、そして該ペプチド含有溶液を、2cc注射器に取り付けた31ゲージの針で傷つけた組織に適用した。
【0225】
実験は、時刻印をつけてビデオテープに録画し、そして出血を有効に妨げるゲルを前記ペプチド溶液が形成するために必要な時間の長さを評価するために、一度に一フレームを再生した。止血を、視覚的に評価し、そして「完全な止血」は、創傷部位からの血液の移動の完全な欠如として定義した。完全な止血を、全ての事例において、該ペプチド溶液の適用の10秒以内に達成した。
【0226】
上に重なる頭蓋骨の一部を除去し、上矢状静脈洞の静脈の一つを切除し、そしてペプチド含有溶液で処置した、成体ラットの一連の写真を撮った。最初の写真は露出された脳および上矢状静脈洞の静脈を示し、次の写真は該静脈の切断を示し、次の写真は断裂した静脈からの出血を示し、そして最後の写真は、該ペプチド溶液を適用して5秒後の同じ領域を示す。完全な止血を達成した。
【0227】
成体ラットの脳において、静脈洞へと導く静脈の切除後、ペプチド溶液の適用の開始から止血の完了までの継続時間を測定した。完全な止血を平均8.3秒で達成した。生理食塩水の対照においては、出血の停止を一度も達成しなかった。生理食塩水の対照実験は、動物が出血から死ぬことを防ぐため、同時点で終了した。
【0228】
類似の結果を、上矢状静脈洞の完全な切除後に得た。より高い濃度のペプチド(例えば、約3%〜4%)を、止血を達成するために、後の実験で用いた。三つの生理食塩水の対照の事例は、20秒後出血が続いた。対照動物において、氷冷した生理食塩水の除去および前記ペプチド溶液の適用は、ほとんど即時に完全な止血に帰結した。
【0229】
合計で22匹のラットおよび64匹のハムスターを実験に供し、ペプチド含有溶液の頭蓋内の出血部位への適用後、10秒以内に止血を有効に達成した。
実施例2: 自己集合ペプチド物質は、大腿動脈切除後の止血を促進する
坐骨神経および隣接する大腿動脈を成体ラットで露出させ、大腿動脈を切除した。12匹のラットを、注射器本体に取り付けたガラスピペットを用いての、RADA16−Iペプチド(配列番号1)の1%溶液20μlの前記切除部位への適用により処置し、一方、対照は、切除部位へ冷たい生理食塩水を適用することにより処置した。全ての処置した事例において、10秒未満で止血を達成した。生理食塩水の対照事例は、110秒で実験を終了するまで、出血が続いた。これらの対照動物における、その後のペプチド溶液での生理食塩水の置き換えは、ほとんど即時の完全な止血の達成に帰結した。
【0230】
大腿動脈を切除した成体ラットの一連の写真を撮った。最初に撮られた写真において、坐骨神経および大腿動脈が露出している。次の写真は動脈の切断を示し、そして次の写真は出血を示す。約5秒後、血液および血漿の存在下において集合したペプチドにより透明なゲルが形成された領域において、完全な止血を観察した。集合した物質は、所望の場合、その部位から容易に吸い出し得る。完全な止血を、試験の持続時間(1時間)の間、維持した。
【0231】
完全な止血を、10秒未満で達成した。生理食塩水の対照においては、止血を達成しなかった。
【0232】
筋肉の外傷実験は、1〜2cmの切開をラットの背中の筋肉に作った後の、即時の止血を示した。ラットの背中の棘僧帽筋(spinotrapezius muscle)を露出させ、筋肉中に深い切り傷を作り、その後、1%ペプチド溶液(RADA16−I)(配列番号1)をその切り傷に適用した。10秒以内に、全ての出血が停止した。氷冷した生理食塩水のみの適用では、対照動物は、20秒後、出血が続いた。
【0233】
この手順を後肢の筋肉(porteocaudalisおよび頭側の頸骨筋)において二回行い、同様の結果を得た。1%〜100%の間のペプチド(RADA16−1)(配列番号1)を肢の創傷に適用し、全ての事例において止血を達成した。しかしながら、動脈または静脈を切除した場合、止血をもたらすのに2%以上の物質を必要とした。氷冷した生理食塩水のみの適用では、対照動物は、20秒後出血が続いた。
実施例3: 自己集合ペプチド物質は肝臓における止血を促進する
比較的低い圧力を有する血管の出血を止めるための、ペプチド含有構造の能力をさらに示すため、成体ラットの腹腔を開き、肝臓を露出させ、そして肝臓の一部を完全に切除するよう、左葉外側の刎側から尾へ切開した。おびただしい出血があとに続いた。27ゲージの針および4ccの注射器を用いて、1%ペプチド溶液(RADA16−1)(配列番号1)を切開およびその近くに適用した。全ての出血が、10秒以内に停止した。一連の写真を撮った。最初のそれは、肝臓の露出を示し、二番目において肝臓が分離され、おびただしい出血が明らかであり、三番目において肝臓のその二つの部分があわせて戻され、そして出血は続いている。該部位を1%ペプチド溶液で処置した後(局所的に、および切開部において適用される)、全ての出血は10秒以内に停止した。透明な領域を、左葉外側のその二つの半分の間で観察した。この手順を数回繰り返し、同じ結果を得た。
【0234】
同様の実験が、より高い圧力を有する肝臓における血管の出血を止める、前記ペプチドの能力を示した。一連の写真は、その実験を説明する。一番目は、開かれた腹腔および露出した肝臓を示し、二番目において左葉外側は、肝臓の一部および門脈の主要な分枝を完全に切除する横断切開を受け、そして三番目は傷害の部位からのおびただしい出血を示す。その切開部を、局所的に、および切開部において適用した4%ペプチド溶液で処置した。全ての出血は、10秒以内に停止した。該ペプチド構造が切開部において存在することを示すため、左葉外側の下側の部分を下方に引いた。該部位は、この物理的ストレスを与えた場合でさえ出血しなかった。10分後、なお出血はなかった。したがって、4%ペプチド溶液の適用は、高い圧力の出血環境において10秒未満で完全な止血をもたらす。
【0235】
2%または3%ペプチド溶液での処置を、同じタイプの実験で試験し、完全な止血をまた達成した。1%溶液での処置は、出血の部分的停止に帰結した。加えて、処置の30秒後に、過剰のペプチドを傷害部位から拭き取ったが、止血を維持した。この手順を数回繰り返し、同じ結果を得た。
【0236】
他の実験において、左葉外側の下方右側四半分において、小葉の1/4を除去し、その縁を、2%ペプチド(RADA16−I)(配列番号1)の傷害部位への局所的適用で処置した。出血は、10秒未満で停止した。1分後該ペプチドを除去し、肝臓の縁で完全な止血を達成した。
実施例4: 癒着を予防する自己集合ペプチド
18匹の成体ラットの肝臓を深い麻酔下に露出し、上方右側の肝葉に4mmのパンチにより穴を開け、そしてその創傷を、3%NHS−1で処置した。動物は、それぞれ、2日、7日、14日、6週、および8週生存させ、その後、該動物を再び麻酔して、穴を開けた肝葉を切り離し、そしてHE染色で処理した。加えて、一組の対照を、生理食塩水または焼灼のどちらかで処置した。
【0237】
4mm肝臓パンチ生検は、対照および3%(RADA16−I)(配列番号1)でのパンチ充填を用いて実験する。全ての対照は両方の表面に癒着を有したが、一方で、処置されたものは癒着を有さなかった。2週、6週および8週の対照において、癒着を、上方および下方の表面上で切り離した。すべての3%(RADA16−I)(配列番号1)処置事例では、肝臓の上方または下方表面上の癒着はなかった。
実施例5: 自己集合ペプチド物質
成体ラットの腸を十二指腸のレベルでの小さな切開で穿孔し、腹腔中への胃の流体の漏出を生じさせた。該部位を、2%ペプチド(RADA16−I)(配列番号1)溶液で処置した場合、腸からの胃の流体の全ての漏出が止まった。追加の量の2%ペプチド溶液を、傷害部のレベルで十二指腸中に注入した。これは、腸からの全ての漏出を、その手順の時間である1時間にわたって妨げた。十二指腸のレベルで切開した対照において、腸壁は反転して、そして未処置で残された場合、胃の流体が傷害の部位から漏出し続けた。該部位が、傷害後15分ペプチド溶液で処置された場合、該ペプチド処置はまた、この傷害部位からの全ての漏出を止めた。加えて、該処置は腸壁の反転の進行を止めた。
実施例6: 自己集合ペプチド物質は、皮膚の創傷の治癒を促進する
自己集合ペプチドが、創傷の治癒を促進する能力を示すため、動物を皮膚および皮下組織のパンチ生検に供した。生検を行った領域は、自己集合ペプチド(RADA16−I)(配列番号1)溶液の単回適用により処置したか、または未処置で残されたかのどちらかである。創傷は包帯をせずに残した。傷つけられた動物を自己集合ペプチドで処置し、そして対応する未処置の事例に対して比較した、4mmパンチ生検治癒試験の一連の写真が、その結果を示す。その創傷を、第0日、第1日、第4日、および第7日で写真に撮った。処置された創傷は、わずか第1日目の3回の全てのパンチにおける創傷部位の縮小により証明されたように、より早く治癒した。そのペプチドでの処置は、いくつかの事例において5日間ほどで迅速な治癒を示した。全ての事例において、創傷部位の縮小が、処置をした事例において、より早く起こった。
実施例7:リドカインを含む組成物
リドカインと混合したRADA16−I(配列番号1)およびその混合物を、針の一刺しを適用する前に成体ラットの皮膚に適用した。それは、リドカインおよびRADA16−I(配列番号1)の5%混合物である。皮膚に適用し、そして試験の期間残した。自己集合ペプチドと混合した場合、針の一刺しに対する応答が、リドカインのみを用いて弱められた応答よりも4倍長く弱められた。加えて、自己集合ペプチドおよびリドカインの溶液を、腸の手術を実施している間に、2匹のラットの腸に適用した。該溶液は、その動物に対する目に見える副作用なしに、手術の間のぜん動を減少させた。
【0238】
前述の記載は、例示のためだけであり、制限を受けることを意図したものではないことが理解される。本発明の組成物および装置の作製ならびに使用のための、および本発明の方法を実施するための、代わりになるシステムおよび技法は当業者に明らかであり、そして本発明の特許請求の範囲に含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癒着の形成を予防または制限するための方法であって、癒着の形成に対するバリアを形成するか、または別な方法で癒着の形成を予防する自己集合物質を、出血もしくは流体の漏出がないか、または出血もしくは流体の漏出が実質的に止められた後に、それを必要とする部位に投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記自己集合物質が、以下の式IからIV:
【化3】

の一つ以上に適合するアミノ酸残基の配列を有するペプチドを含み、式中、
Xaaneuは、中性電荷を有するアミノ酸残基を表し、
Xaaは、正電荷を有するアミノ酸残基を表し、
Xaaは、負電荷を有するアミノ酸残基を表し、
xおよびyは、それぞれ1、2、3、または4の値を有する整数であり、
nは、1〜5の値を有する整数である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記自己集合ペプチドが、式IIIまたは式IVに適合するアミノ酸残基の配列を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
Xaaがアラニンを表し、Xaaがアルギニンまたはリジンを表し、そしてXaaがアスパラギン酸またはグルタミン酸を表す、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アミノ酸残基が、天然に存在するアミノ酸残基を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記アミノ酸残基が、天然に存在するアミノ酸残基である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記自己集合物質が、ペプチド模倣物、ヌクレオチド模倣物、ジブロックおよびトリブロックコポリマー、N−アルキルアクリルアミド、ならびにデンドリマー(dendimer)からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記自己集合物質が、ペプチド模倣物である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ペプチド模倣物が、α−ペプチド、β−ペプチド、γ−ペプチド、δ−ペプチド、およびらせんまたはシート構造を取りえるバックボーンを有するオリゴマーからなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記らせんまたはシート構造を取りえるバックボーンを有するオリゴマーが、ビピリジン部分を利用するバックボーンを有する化合物、疎溶媒性(solvophobic)相互作用を利用するバックボーンを有する化合物、側鎖相互作用を利用するバックボーンを有する化合物、水素結合相互作用を利用するバックボーンを有する化合物、および金属配位を利用するバックボーンを有する化合物からなる群より選択される、群4に記載の方法。
【請求項11】
前記自己集合物質が、ヌクレオチド模倣物である、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記ヌクレオチド模倣物が、異性体オリゴヌクレオチド、改変炭水化物、改変されたヌクレオチド結合をもつオリゴヌクレオチド、および代わりになる核酸塩基をもつヌクレオチドからなる群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
流体、細胞、組織、生体分子、またはガスの移動に対するバリアを形成する方法であって、それを必要とする部位へ自己集合物質を投与する工程を含み、ここで該自己集合物質が、ペプチド模倣物、ヌクレオチド模倣物、ジブロックおよびトリブロックコポリマー、N−アルキルアクリルアミド、ならびにデンドリマー(dendimer)からなる群より選択される、方法。
【請求項14】
前記自己集合物質が、ペプチド模倣物である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ペプチド模倣物が、α−ペプチド、β−ペプチド、γ−ペプチド、δ−ペプチド、およびらせんまたはシート構造を取りえるバックボーンを有するオリゴマーからなる群より選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記らせんまたはシート構造を取りえるバックボーンを有するオリゴマーが、ビピリジン部分を利用するバックボーンを有する化合物、疎溶媒性(solvophobic)相互作用を利用するバックボーンを有する化合物、側鎖相互作用を利用するバックボーンを有する化合物、水素結合相互作用を利用するバックボーンを有する化合物、および金属配位を利用するバックボーンを有する化合物からなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記自己集合物質が、ヌクレオチド模倣物である、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記ヌクレオチド模倣物が、異性体オリゴヌクレオチド、改変炭水化物、改変されたヌクレオチド結合をもつオリゴヌクレオチド、および代わりになる核酸塩基をもつヌクレオチドからなる群より選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
組織もしくは組織を形成する細胞の再生または修復のための方法であって、該組織または該細胞に自己集合物質を単独、または薬学的に許容される担体との組み合わせで投与する工程を含み、ここで該自己集合物質が、ペプチド模倣物、ヌクレオチド模倣物、ジブロックおよびトリブロックコポリマー、N−アルキルアクリルアミド、ならびにデンドリマー(dendimer)からなる群より選択される、方法。
【請求項20】
前記自己集合物質が、ペプチド模倣物である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ペプチド模倣物が、α−ペプチド、β−ペプチド、γ−ペプチド、δ−ペプチド、およびらせんまたはシート構造を取りえるバックボーンを有するオリゴマーからなる群より選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記らせんまたはシート構造を取りえるバックボーンを有するオリゴマーが、ビピリジン部分を利用するバックボーンを有する化合物、疎溶媒性(solvophobic)相互作用を利用するバックボーンを有する化合物、側鎖相互作用を利用するバックボーンを有する化合物、水素結合相互作用を利用するバックボーンを有する化合物、および金属配位を利用するバックボーンを有する化合物からなる群より選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記自己集合物質が、ヌクレオチド模倣物である、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記ヌクレオチド模倣物が、異性体オリゴヌクレオチド、改変炭水化物、改変されたヌクレオチド結合をもつオリゴヌクレオチド、および代わりになる核酸塩基をもつヌクレオチドからなる群より選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
一つ以上の治療薬、予防薬、診断薬、または細胞を提供する工程をさらに含む、請求項1、13または19に記載の方法。
【請求項26】
前記自己集合物質を、身体上もしくは身体中への投与のための薬学的に許容される担体またはマトリックスまたは支持物質とともに提供することをさらに含む、請求項1、13または19に記載の方法。
【請求項27】
前記物質が、乾燥粉末、ウエハ、ディスク、錠剤、カプセル、液体、ゲル、クリーム、泡沫、軟膏、エマルジョン、懸濁物、溶液として投与される、医療装置もしくは移植片のコーティングとして施される、または微小粒子、重合体のマトリックス、ヒドロゲル、布、縫糸、もしくはスポンジ中に取り込まれる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
請求項19に記載の方法であって、心臓血管もしくは神経系の欠損、傷害または梗塞に、該欠損、該傷害または該梗塞の修復を可能にするかまたは促進するために適用する工程を含む、方法。
【請求項29】
請求項19に記載の方法であって、欠損または傷害をもつ骨の領域に、該欠損または該傷害の修復を可能にするかまたは促進するために適用する工程を含む、方法。
【請求項30】
請求項19に記載の方法であって、欠損または傷害をもつ内臓器官に、該欠損または該傷害の修復を可能にするかまたは促進するために適用する工程を含む、方法。

【公表番号】特表2010−526779(P2010−526779A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506529(P2010−506529)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【国際出願番号】PCT/US2008/061622
【国際公開番号】WO2008/134544
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(509255532)アーチ セラピューティクス, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】