説明

発光体及び発光装置

【課題】電源が不要である一方、効果的に発光可能な低コストの発光体を提供する。
【解決手段】誘導電場下で発光可能な無機EL材料からなる第一層と、無機EL材料の発光出力を透過可能な誘電体材料からなり、第一層に積層される第二層と、無機EL材料の発光出力を透過可能な導電体材料からなり、第二層に積層される第三層と、導電体材料からなり、第三層から第二層とは反対側の方向に延出する延出部と、を備え、第一層を誘導電場下の物体と面する側として、物体の周囲に巻回可能な形状を呈してなる、ことを特徴とする発光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば架空送電線等において海峡を横断するように延在する部分を上空や海上等から認知可能とするための手段(以後、これを「海峡横断送電線認知装置」と称する)として使用される発光体及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、架空送電線を流れる交流電流からコイルを通じて誘導電流を発生させ、この誘導電流を配線回路により発光ダイオード(LED:Light-Emitting Diode)等の発光体に供給してこれを発光させる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に開示される標識灯は、架空送電線の外周囲に配置される複数のLEDと、前述したコイル及び配線回路とを備えて構成されている。
【0003】
或いは、例えば、昼間に太陽電池から得られる起電力を蓄電池に蓄電し、外部が暗くなったことが光センサにより検出されると、架空送電線に設けられたLED等の発光体に蓄電池から給電してこれを発光させる技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2に開示される標識灯は、主として、複数のLEDからなる発光体と、前述した太陽電池及び蓄電池とを備えて構成されている。
【特許文献1】特開平8−126177号公報
【特許文献2】特開平6−269118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述した特許文献1、2に開示される標識灯は、発光体を発光させるための電源として、コイル及び配線回路や太陽電池及び蓄電池等が必須の構成となっている。これらの構成は、標識灯を嵩高く複雑なものにするとともに、設備コストが嵩むという問題がある。また、これらの標識灯を前述した海峡横断送電線認知装置として使用する場合、発光体の光量が所定レベルに達成するべく、例えばLEDであればこれを多数必要とする。よって、これも、標識灯を嵩高く複雑なものにするとともに、設備コストが嵩むという問題を引き起こす。
【0005】
尚、前述した発光体(例えばLED)は、架空送電線等の海峡横断送電線認知装置として使用されるものであったが、これに限らず、一般に誘導電場下の物体の表面に設けられてこの物体を識別する目的で発光するものを意味する。
【0006】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電源が不要である一方、効果的に発光可能な低コストの発光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための発明は、誘導電場下で発光可能な無機EL材料からなる第一層と、前記無機EL材料の発光出力を透過可能な誘電体材料からなり、前記第一層に積層される第二層と、前記無機EL材料の発光出力を透過可能な導電体材料からなり、前記第二層に積層される第三層と、導電体材料からなり、前記第三層から前記第二層とは反対側の方向に延出する延出部と、を備え、前記第一層を前記誘導電場下の物体と面する側として、前記物体の周囲に巻回可能な形状を呈してなる、ことを特徴とする発光体である。
【0008】
この発光体によれば、第一層が誘導電場下の物体の周囲に巻回されることにより、この第一層の無機EL材料は誘導電場下で発光し得る。この発光体は、誘導電場を電気エネルギーの唯一の供給源としているため、電源を別途用意する必要がない。また、導電体材料からなる第三層に対し、同じく導電体材料からなる延出部は、例えば物体の外側の方向に延出するといった形状の偏りをもたらす。つまり、発光体は、誘導電場下の物体と例えばグラウンドとの間の電圧を、主として、第二層に対応するコンデンサCと、前記物体及び前記グラウンド間の空気に対応する(コンデンサCと直列に接続された)コンデンサC’とにより分担する等価回路を構成するものである。この場合、延出部がある場合のコンデンサC’(空気)のインピーダンスは、仮に延出部が無い場合のインピーダンスよりも小さくなる。これにより、コンデンサC(第二層)の分担電圧は、仮に延出部が無い場合の分担電圧より大きくなり、よって第一層及び第二層の境界での誘導電場はより大きくなる。一般に、誘導電場が大きいほど、この誘導電場下の無機EL材料からの光量は多くなるとされているため、第一層における無機EL材料は、より高い輝度で発光し得る。よって、たとえ誘導電場の大きさが一定であっても、前述した第一層及び第二層の境界での誘導電場がより大きくなるような延出部の形状等を設定すれば、この発光体は効果的に発光し得る。以上から、電源が不要である一方、効果的に発光可能な低コストの発光体が提供される。
【0009】
また、かかる発光体において、誘電体材料からなり、前記第一層の前記第二層が積層される側とは反対側に積層される第四層を、更に備えたことが好ましい。
第二層及び第四層の誘電率の相対比に応じて、第二層及び第四層での前述した分担電圧の相対比が決まる。例えば第四層の誘電率をより大きくすることにより、第四層の分担電圧がより小さくなり、相対的に第二層の分担電圧をより大きく設定できる。
【0010】
また、かかる発光体において、前記延出部は、前記第三層の一部を折り曲げたものである、ことが好ましい。
この発光体によれば、第三層の一部と、第三層の残りの部分との電気的接続を良好に維持しつつ簡便且つ低コストで延出部を形成できる。
【0011】
また、かかる発光体において、前記延出部は、前記物体への巻回方向と交差する方向に沿って前記第三層の一方の側辺を折り曲げたものである、ことが好ましい。
この発光体によれば、折り曲げられた第三層の一方の側辺は、物体への巻回方向と交差する方向Zに沿って延出する。この方向Zは、もし物体が電線であれば、例えば電線の軸線方向に相当する。この場合、電線の軸線方向に沿って、発光体の輝度がより高くなり得る。
【0012】
また、かかる発光体において、前記延出部は、前記物体への巻回方向に沿って前記第三層の少なくとも一方の側辺を折り曲げたものである、ことが好ましい。
この発光体によれば、折り曲げられた第三層の少なくとも一方の側辺は、物体への巻回方向Cに沿って延出する。この方向Cは、もし物体が電線であれば、例えば電線の軸線方向と交差する断面の円周方向に相当する。この場合、電線の円周方向に沿って、発光体の輝度がより高くなり得る。
【0013】
また、かかる発光体において、前記発光体が前記物体に巻回された場合の、前記第三層の周囲を把持する着脱可能なリングを、更に備えたことが好ましい。
この発光体によれば、物体の周囲に第一層を巻回し、この第一層に第二層及び第三層を順に積層するように巻回し、第三層の周囲を着脱可能なリングにより把持することにより、この物体に対し容易に着脱可能となる。
【0014】
また、かかる発光体において、前記リングは、前記無機EL材料の発光出力を透過可能な樹脂からなることが好ましい。
この発光体によれば、リングが樹脂であることにより、前述した延出部による形状の偏りに起因する誘導電場の分布に対する影響が小さくなる。これは、リングが例えば無機EL材料の発光を弱める要因とはなり難いことを意味する。また、このリングは、無機EL材料の発光出力を透過させることができる。よって、発光体は、その光を例えば外部から視認する際の視認し易さの度合いが低下し難いものとなる。
【0015】
また、かかる発光体において、前記リングは、端面に凹部を有する第1湾曲片と、端面に前記凹部と嵌合する凸部を有する第2湾曲片と、からなることが好ましい。
この発光体によれば、第1湾曲片及び第2湾曲片が、各端面の凹部と凸部とを嵌合することにより、第三層の周囲を確実に把持することができる。
【0016】
また、かかる発光体において、前記物体は、電力を送電するための送電線又は架空地線であることが好ましい。
この発光体によれば、無機EL材料は、送電線又は架空地線に流れる交流電流が形成する誘導電場の下で発光し得る。例えば送電線の場合、発光体は、海峡横断送電線認知装置となり得る。
【0017】
また、前記課題を解決するための発明は、電力を送電するための送電線に巻回される前記発光体と、前記発光体の発光出力を上空側に反射する反射板と、前記発光体の発光出力と前記反射板の反射出力とを上空側に透過可能であり、前記送電線と結合されて前記発光体と前記反射板とを収容するケースと、を備えたことを特徴とする発光装置である。
この発光装置によれば、発光体における無機EL材料は、送電線に流れる交流電流が形成する誘導電場の下で発光し得る。発光体の上空側への光と、発光体の反射板側への光がこの反射板で反射された光とは、ケースを透過して上空側から認識可能となる。この上空側から認識される光は、送電線に発光体のみが巻回されている場合の光よりも、反射光の分だけ輝度が高い。また、発光体が同じでも、反射板の反射効率やケースの形状等を調節することにより、上空から発光装置をより認識し易いものにすることができる。以上から、この発光装置は、例えば送電線の海峡横断送電線認知装置となり得る。
【0018】
また、かかる発光装置において、前記反射板は、凸面鏡であることが好ましい。
この発光装置によれば、発光体の凸面鏡側への光は、この凸面鏡により上空側に効率良く反射される。
【発明の効果】
【0019】
電源が不要である一方、効果的に発光可能な低コストの発光体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
===発光体の構成(第1の実施の形態)===
以下、図面を参照しつつ、本実施の形態の発光体の構成例について説明する。
図1に例示されるように、本実施の形態の発光体1は、主として、発光部10と、導電部20と、クランプ部30とを備えて構成されている。尚、図1(a)は、第1の実施の形態の発光部10及び導電部20の側面及び正面の構成例を示す平面図であり、図1(b)は、電線Lに巻回された第1の実施の形態の発光体1の側面の構成例及びクランプ部30の正面の構成例を示す平面図である。
【0021】
本実施の形態の発光部10は、シート形状をなす誘電体の誘電層(第四層)11と、シート形状をなす透明な誘電体の誘電層(第二層)13との間に、無機EL材料を含んでシート形状をなす無機EL層(第一層)12が挟持されてなる発光シートである。誘電層11は例えばポリプロピレン(PP:PolyPropylene)等の周知の樹脂であり、誘電層13は例えばポリエチレンテレフタレート(PET:PolyEthylene Terephthalate)等の周知の透明樹脂である。無機EL層12は、後述する、無機EL材料と、この無機EL材料を内部に分散支持する誘電体材料とを備えて構成されるものである。尚、以後、「無機EL材料」は、後述する無機EL材料のみからなる材料を意味するものであってもよいし、後述する誘電体材料に分散支持された無機EL材料を意味するものであってもよいものとする。本実施の形態の発光部10の発光シートは、Z軸方向に所定の幅を有するとともに、電線Lの径の円周に略相当する長さを有する長方形状をなすものである。
【0022】
本実施の形態の導電部20は、電線Lの軸方向(Z軸方向、巻回方向と交差する方向)の両端側のフランジ部20bと、この2つのフランジ部(延出部)20b間でシート形状をなすシート部(第三層)20aとを備えて構成される透明な導電体である。この導電部20は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)等の周知の透明導電体フィルムを折り曲げ成形したり、射出成形等により所定の形状をなす基材の表面にITO等の周知の透明導電体材料を蒸着したりして形成されるものである。図1に例示されるフランジ部20bは、電線Lの径方向(XY方向)に延出する円板形状をなすものである。尚、透明導電体材料は、ITOに限定されるものではなく、例えば、酸化スズ(TO:Tin Oxide)、酸化インジウム(IO:Indium Oxide)、酸化インジウム亜鉛(IZO:Indium Zinc Oxide)等であってもよい。或いは、ITOフィルムの代わりに導電性ポリマーであってもよい。この場合、導電性ポリマーを基材の上に塗布してもよいし、導電部20が導電ポリマーからなるものであってもよい。要するに、可視光に対し透明(可視光を透過可能)であるとともに導電性を有するものであれば、いかなるものであってもよい。図1に例示されるシート部20aは、展開した場合、Z軸方向に所定の幅を有するとともに、電線Lの径の円周に略相当する長さを有する長方形状をなす透明シートである。この透明シートのZ軸方向の両側辺に前述した円板形状をなすフランジ部20bの透明シートが連接している。図1に例示される導電部20にはZ軸方向に沿って一箇所切れ目(不図示)が形成されているものとする。例えば作業者は、可撓性を有する導電部20をこの切れ目が開くように変形させて、電線Lに巻回した後、この切れ目を再び閉じることにより、導電部20を電線Lに巻回された発光部10に積層させることができる。尚、本実施の形態の導電部20は、Z軸方向の両端側に2つのフランジ部20bを有するものであるが、これに限定されるものではなく、例えば何れか一端側のフランジ部20bを1つ有していればよい。また、フランジ部20bは透明であることは必須ではなく、例えばアルミニウムやステンレス等の金属又はその他の導電体をシート部20aに接続するものであってもよい。
【0023】
本実施の形態のクランプ部(リング)30は、電線Lに巻回される前述した発光部10及び導電部20をこの電線Lに対して機械的に固定するための手段である。図1に例示されるクランプ部30は、透明な半リング形状をなすクランプ片(第1湾曲片)31及びクランプ片(第2湾曲片)32からなっており、クランプ片32の2つの端面にはX軸方向に突起する形状をなす2つの凸部32aがそれぞれ形成されている一方、クランプ片31の2つの端面には凸部32aと相補的な形状をなす2つの凹部31aがそれぞれ形成されている。本実施の形態では、クランプ片31及びクランプ片32を、各半リングの内周面をシート部20aの表面に当接した状態でZ軸方向に沿って互いに近づけることにより、凸部32aと凹部31aとが係合するようになっている。図1の例示では、2つのクランプ部30は、導電部20におけるシート部20a及びフランジ部20bの境界にあたる2つの角部にそれぞれ当接するように取り付けられている。また、図1に例示される凸部32a及び凹部31aは、一旦係合すると、クランプ片31、32どうしをXY方向に引き離す応力が作用してもこの係合が解除されない形状をなすものである。尚、本実施の形態のクランプ部30は、例えば硬質性の樹脂からなるものであるが、これに限定されるものではなく、要するに前述したクランプ機能を有する透明な樹脂であればいかなるものであってもよい。或いは、クランプ部30は、無機EL層12からの発光面積を著しく小さくするほどの大きさでなければ、不透明な樹脂であってもよい。何れにせよ、樹脂であることにより、後述する誘導電場の分布に対するクランプ部30の影響が小さくなるという利点がある。また或いは、クランプ部30は、例えば導電体材料からなるものであってもよく、この場合、前述したフランジ部20bと同様の機能を果たし得る。
【0024】
尚、前述した発光部10では、誘電層11及び誘電層13のZ軸方向の両側辺と、無機EL層12のZ軸方向の両側辺とは、2つのフランジ部20bにおいてそれぞれ揃っているが、これに限定されるものではない。例えば、無機EL層12は、このシートより大きなシートの誘電層11、12で挟持されるものであってもよい。この場合、例えば、2つのフランジ部20bとEL層12の両側辺とがそれぞれ揃う一方、誘電層11及び誘電層13の両側辺は2つのフランジ部20bからはみ出るものであってもよい。
【0025】
また、前述した導電部20は、フランジ形状をなすフランジ部20bを有するものであるが、これに限定されるものではない。後述するように、導電部20は、無機EL層12と重なる位置において電線Lの径方向(XY方向)に延出する形状をなすものであればいかなる形状を有していてもよい。
【0026】
更に、本実施の形態の発光体1は、前述したクランプ部30を備えるものであったが、これに限定されるものではない。例えば、発光体1は、クランプ部30を備えず、電線Lに対し発光部10が絶縁性の接着剤等で直接接着され、この発光部20の表面に更に導電部20が同接着剤で直接接着されるものであってもよい。
【0027】
<<<無機EL材料>>>
本実施の形態の無機EL材料は、いわゆる真性EL材料であり、交流電場の印加により発光するものである(電場発光)。この電場発光の原理は、以下の通りである。先ず、誘電体材料と無機EL材料との界面、或いは、誘電体材料近傍の無機EL材料における電子が電場により加速され(ホットエレクトロン)、無機EL材料における発光中心の電子を励起する。尚、このメカニズムは、例えば特開2005−116503号公報又は国際出願公開第02/080626号に開示されている通りである。次に、この発光中心は、励起状態にある電子が基底状態に戻る際のエネルギーの差分を光として放出する。
【0028】
この無機EL材料は、例えば、硫化亜鉛に対し発光中心として銅、塩素が添加された物質(ZnS:Cu,Cl)、硫化亜鉛に対し発光中心として銅、アルミニウムが添加された物質(ZnS:Cu,Al)、硫化亜鉛に対し発光中心として銅、マンガン、塩素が添加された物質(ZnS:Cu,Mn,Cl)等からなる材料である。或いは、本実施の形態の無機EL材料は、例えば、(1)赤色光の発光体として、(Zn,Mg)S:Mn、CaS:Eu、ZnS:Sm,F、Ga2O3:Cr、MgGa2O4:Eu、(2)緑色光の発光体として、(Zn,Mg)S:Mn、ZnS:Tb,F、Ga2O3:Mn、Zn2SiO4:Mn、(3)青色光の発光体として、BaAl2S4:Eu、CaS:Pb、SrS:Ce、SrS:Cu、CaGa2S4:Ce、CaAl2O4:Eu等であってよい。
【0029】
<<<誘電体材料>>>
本実施の形態の誘電体材料は、例えば有機高分子材料である。この有機高分子材料は、無機EL材料の発光を透過し易い、即ち可視光に対し透明な樹脂が好ましく、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。尚、この有機高分子材料は、水分により変質する虞のある無機EL材料に対する防湿性を有するもの(例えばフッ素系樹脂)が好ましい。また、この有機高分子材料は、アクリル等、光透過性がより高いものが好ましい。つまり、無機EL材料を分散支持するための有機高分子材料は、前述した誘電層11及び誘電層13における有機高分子材料に比べてその体積比率が小さいため、主として光透過性の観点で選択することが好ましい。一方、誘電層11及び誘電層13に使用する有機高分子材料は、より高い分担電圧に耐えるべく、絶縁破壊電圧のより高いものが好ましい。
【0030】
ポリアミド系樹脂としては、例えば、ナイロン6(登録商標)、ナイロン66(登録商標)、ナイロン12(登録商標)等の脂肪族ポリアミド及びその共重合体、芳香族ジアミン及びジカルボン酸から形成される半芳香族ポリアミド及びその共重合体等が挙げられる。
【0031】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタリン2,6ジカルボン酸、フタル酸、α,β-(4-カルボキシフェノキシ)エタン、4,4'-ジカルボキシフェニル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。また、ポリエステル系樹脂としては、例えば、アジピン酸やセバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はそのエステル類と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ポリエチレングリコール、テトラメチレングリコール等のジオール化合物とから重縮合されて得られるポリエステル及びその共重合体が挙げられる。
【0032】
フッ素系樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリモノクロロトリフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、及びその共重合体等が挙げられる。
【0033】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。
【0034】
図1に例示される無機EL層12は、例えば前述したアクリルからなる誘電体材料が、例えば前述した銅を添加した硫化亜鉛(ZnS:Cu)からなる無機EL材料(無機EL粒子)を、所定の重量比で均一分散支持したものである。
【0035】
<<<発光メカニズム>>>
図1に例示される発光体1は、以下述べる発光メカニズムに基づいて発光するとされている。つまり、発光体1は、誘導電場を発生する電線Lと例えばグラウンドとの間の電圧を、主として、誘電層13に対応するコンデンサCと、電線L及びグラウンド間の空気に対応する(コンデンサCと直列に接続された)コンデンサC’とにより分担する等価回路を構成するものである。この場合、フランジ部20bがある場合のコンデンサC’(空気)のインピーダンスは、仮にフランジ部20bが無い場合のインピーダンスよりも小さくなる。これにより、コンデンサC(誘電層13)の分担電圧は、仮にフランジ部20bが無い場合の分担電圧より大きくなり、よって無機EL層12及び誘電層13の境界での誘導電場はより大きくなる。一般に、誘導電場が大きいほど、この誘導電場下の無機EL材料からの光量は多くなるとされているため、無機EL層12における無機EL材料は、より高い輝度で発光し得る。
【0036】
従って、無機EL層12は、2つのフランジ部20bの近傍における輝度を最大として、シート部20aにおいても、仮に導電部20がフランジ部20bを有さずにシート部20aのみである場合に比べて、より高い輝度で発光し得る。
【0037】
<<<第2の実施の形態>>>
本発明の発光体の構成は、前述した図1に例示される発光体1の構成に限定されるものではなく、例えば以下述べる発光体2、2’の構成をとるものであってもよい。
【0038】
図2及び図3に例示されるように、本実施の形態の発光体2、2’は、少なくとも、発光部100と、導電部200とを備えて構成されている。尚、図2(a)は、電線Lに巻回された第2の実施の形態の発光体2の正面の構成例を示す平面図であり、図2(b)は、電線Lに巻回された第2の実施の形態の発光体2’の正面の構成例を示す平面図である。図3は、電線Lに巻回されていない状態の第2の実施の形態の発光体2、2’の構成例を示す斜視図である。ここで、図2(a)及び図2(b)ともに、発光体2、2’を電線Lに固定するための手段の図示を省略している。
【0039】
本実施の形態の発光体2、2’における発光部100の構成は、前述した発光体1の発光部10の構成と略同じである。即ち、発光部100は、シート形状をなす誘電体の誘電層(第四層)110と、シート形状をなす透明な誘電体の誘電層(第二層)130との間に、無機EL材料を含みシート形状をなす無機EL層(第一層)120が挟持されてなる発光シートである。発光体2の場合、発光シートは、Z軸方向に所定の幅を有するとともに、電線Lの径の円周に満たない様々な長さを有する長方形状をなすものである。一方、発光体2’の場合、発光シートは、Z軸方向に所定の幅を有するとともに、電線Lの径の円周に略相当する長さを有する長方形状をなすものである。
【0040】
本実施の形態の発光体2、2’における導電部200は、電線LのZ軸方向に沿いつつ径方向(XY方向)に延出する延出部200bと、シート形状をなすシート部(第三層)200aとを備えて構成されるものである。この導電部200は、例えば前述したITO等の周知の透明導電体フィルムが折り曲げ成形されたものである。つまり、シート部200aと延出部200bとは、例えば長方形状をなす1枚の透明シートが折り曲げられたものである。これにより、シート部200aと延出部200bとの電気的接続を良好に維持しつつ簡便且つ低コストでこの延出部200bを形成できる。
【0041】
発光体2の場合、無機EL層120の長方形の幅W1及び長さL1(図3)は、誘電層110、130の幅及び長さ未満である。このため、図2(a)に例示されるように、誘電層110、130の側辺どうしは互いに接合している。また、導電部200のシート部200aの長方形は、無機EL層120の長方形と重なるように誘電層130の表面に配置されている。
【0042】
発光体2’の場合、無機EL層120の長方形の幅W1及び長さL1(図3)は、誘電層110、130の幅及び長さに等しい。また、図2(b)に例示されるように、導電部200のシート部200aの長方形は、無機EL層120の長方形と一致するように(つまり、図3において、W1とW2とが等しく、L1とL2とが等しくなるように)誘電層130の表面に配置されている。
【0043】
===発光実験及び電場分布計算===
図2及び図3に例示される第2の実施の形態の発光体2、2’も、図1に例示される第1の実施の形態の発光体1の場合と同様の発光メカニズムに基づいて発光すると考えられる。このようなフランジ部20b及び延出部200bによる発光メカニズムを実証するべく、以下述べる発光実験及び電場分布計算を行った。
【0044】
<<<発光実験>>>
先ず、発光体2(図2(a))における特に延出部200bの高さH(図3)を変化させつつ、電線Lに相当する棒電極に印加する交流電圧と発光体2の輝度とを測定した結果について述べる。実験装置は、主として、接地された平板電極(不図示)と、電線Lに相当する棒電極(不図示)と、この棒電極に交流電圧を印加可能な電源(不図示)と、発光体2の輝度を測定するための周知の輝度測定手段(不図示)とを備えるものであった。
【0045】
発光体2の無機EL層120は、例えばアクリル系樹脂からなる厚さおよそ100μm又はおよそ200μm、幅W1、及び長さL1(図3参照)の誘電体材料が、例えば銅を添加した硫化亜鉛(ZnS:Cu)からなる無機EL粒子を所定の重量比で均一分散支持したものであった。この無機EL層120を、厚さおよそ100μmのポリプロピレン(PP)シートの誘電層110と、厚さおよそ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)シートの誘電層130とで挟持して発光部100を形成するとともに、PETシートの表面に対し、無機EL層120と重なるように、厚さおよそ100μmの酸化インジウムスズ(ITO)シートの導電部200を積層して発光体2を形成した。尚、ITOシートにおいて、シート部200aは幅W2及び長さL2であり、延出部200bは幅W2及び高さHである(図3参照)。ここで、延出部200bの高さHとは、例えば図3におけるX方向の長さを意味する。
【0046】
前述した発光体2を、前述した棒電極に装着して、前述した電源からの交流電圧を変化させつつ、発光体2の輝度を測定した。発光体2の形状ごとの測定結果を表1に示す。同表に示されるように、延出部200bの高さHが2mm、5mm、及び10mmのそれぞれについて、発光開始電圧(kV)及び輝度(cd/m)の変化を調べた。尚、発光開始電圧とは、棒電極に印加する交流電圧を徐々に高くしたとき、発光体2が発光し始める電圧を意味する。ここで、発光の有無の確認は、人間系による視認又は前述した輝度測定手段による測定結果に基づいて行われた。また、同表において、“<DL”は、輝度が検出限界未満であったことを意味する。
【0047】
[表1]

【0048】
図4(a)に示されるように、延出部200bの高さHが高くなるほど、発光体2の発光開始電圧が低くなることがわかった。尚、同図は、表1における延出部200bの高さHに対する発光開始電圧をプロットしたグラフである。同図では、無機EL層120の厚さがおよそ100μmの場合の延出部200bの高さHと発光開始電圧との関係を上部に示すとともに、無機EL層120の厚さがおよそ200μmの場合の前記関係を下部に示している。また、同図では、表1の発光体A〜H毎に異なるシンボルでプロットしてある。図示はされていないが、延出部200bが0mmの場合(つまり、導電部200がシート部200aのみの場合)、発光開始電圧は100kVを超えることがわかった。
【0049】
図4(a)のグラフから、延出部200bの高さHが高くなるほど、発光体2は発光し易くなることがわかった。この結果を前述した第1の実施の形態の発光体1(図1)に適用すれば、電線Lに印加された所定の交流電圧に応じて、フランジ部20bの電線Lの径方向の長さを所定長とすることにより、発光体1を発光させることができることになる。
【0050】
また、図4(b)に示されるように、延出部200bの高さHが高くなるほど、発光体2の輝度が高くなることがわかった。ここで、輝度の変化を測定するに際し棒電極に印加した交流電圧は100kVであった。尚、同図は、表1における延出部200bの高さHに対する発光体2の輝度をプロットしたグラフである。同図では、無機EL層120の厚さがおよそ100μmの場合の延出部200bの高さHと発光体2の輝度との関係を上部に示すとともに、無機EL層120の厚さがおよそ200μmの場合の前記関係を下部に示している。また、同図では、表1の発光体A〜H毎に異なるシンボルでプロットしてある。以上の結果を前述した第1の実施の形態の発光体1(図1)に適用すれば、電線Lに印加された所定の交流電圧に応じて、フランジ部20bの電線Lの径方向の長さを所定長とすることにより、発光体1を所定の輝度で発光させることができることになる。
【0051】
更に、表1に示される発光体A〜Hにおいて、各発光箇所は、無機EL層120及び導電部200の両方が重なっている場所であることもわかった。
【0052】
<<<電場分布計算>>>
次に、発光体2’(図2(b))の構成において、電線Lに所定の交流電圧を印加した際の誘導電場の分布を計算した結果について述べる。誘導電場の分布は、周知の数値計算方法により求めた。これは、例えば、導電性(導電率σ)を有する誘電体(誘電率ε)の交流電場下(振幅E及び周波数ω)における電磁気学の周知の方程式div((σ+jωε)E)=0に基づく計算方法である。計算に際しての前提条件として、導電部200はITOからなり、誘電層130はPETからなり、無機EL層120は所定の誘電率を有する無機EL材料からなり、誘電層110はPPからなるものとした。
【0053】
図2(b)に戻って説明すれば、電線Lに所定の交流電圧を印加した場合の電線L、発光体2’、及びその周囲の大気における誘導電場の分布は、Z軸方向に沿って全て等しい一方、延出部200bの存在によりXY方向に非対称となった。つまり、導電体材料からなるシート部200aに対し、同じく導電体材料からなる延出部200bはXY方向に延出しているため、形状の偏りが存在する。つまり、発光体2’は、誘導電場を発生する電線Lと例えばグラウンドとの間の電圧を、主として、誘電層130に対応するコンデンサCと、電線L及びグラウンド間の空気に対応する(コンデンサCと直列に接続された)コンデンサC’とにより分担する等価回路を構成するものである。この場合、延出部200bがある場合のコンデンサC’(空気)のインピーダンスは、仮に延出部200bが無い場合のインピーダンスよりも小さくなる。これにより、コンデンサC(誘電層130)の分担電圧は、仮に延出部200bが無い場合の分担電圧より大きくなり、よって無機EL層120及び誘電層130の境界での誘導電場はより大きくなる。
【0054】
一般に、誘導電場が大きいほど、この誘導電場下の無機EL材料からの光量は多くなるとされているため、無機EL層120における無機EL材料は、より高い輝度で発光し得る。よって、たとえ電線Lが発生する誘導電場の大きさが一定であっても、無機EL層120及び誘電層130の境界での誘導電場がより大きくなるような延出部200bの長さ等を設定すれば、発光体2’は所定の光量を維持し得る。以上から、発光体2’は、電源が不要である一方、所定の光量を維持可能となる。
【0055】
===発光部の製造例===
図5を参照しつつ、図1、図2、及び図3に例示される発光部10、100の製造例について説明する。尚、図5は、本実施の形態の発光部10、100の製造工程の一例を示すフローチャートである。
【0056】
前述した実施の形態の発光体1、2、2’における発光部10、100は、例えばアクリル系樹脂からなるバインダ(誘電体材料)が、例えば銅を添加した硫化亜鉛(ZnS:Cu)からなる無機EL粒子を所定重量比で均一分散支持したものである。
【0057】
図5に例示されるように、先ず、有機溶媒(例えばアセトン)に対して、バインダの素材であるアクリル系樹脂の粒子を所定重量比で混合し、周知のペイントシェーカで完全に溶解させる。アクリル系樹脂の粒子及び有機溶媒は例えば市販されているものを使用してよい(S200)。
次に、ステップS200で得られた溶液に対し、前述した無機EL粒子を所定重量比で混合し、周知の攪拌手段により均一になるまで攪拌し分散液を得る。無機EL粒子は例えば市販されているものを使用してよい(S201)。
次に、ステップS201で得られた分散液を、周知のバーコートにより、一方の基材(例えばPP)に塗布する(S202)。
次に、ステップS202で塗布した分散液を室温で乾燥させ、無機EL層12、120を得る(S203)。
次に、ステップS203で乾燥した無機EL層12、120の露出面に対し、他方の基材(例えばPET)を被覆し、2つに基材どうしを貼り合せ、シート形状をなす発光部10、100を得る(S204)。
【0058】
===発光装置===
<<<構成例>>>
図6を参照しつつ、前述した発光体1、2、2’を用いた発光装置3の構成例について説明する。尚、同図は、本実施の形態の発光装置3の構成例を示す平面図である。
【0059】
図6に例示されるように、本実施の形態の発光装置3は、主として、例えば第1の実施の形態の発光体1(発光体2、2’)と、凸面鏡50と、ケース40とを備えて構成されている。同図に例示される発光装置3では、電線Lに巻回された発光体1が、内側底部に凸面鏡50を有するケース40に収容されるように構成されている。
【0060】
本実施の形態のケース40は、2つの例えば樹脂製の半球部40a、40bの開口部どうしが組み合わさって球形状をなすものであり、特に上空側(+Y側)の半球部40aは透明になっている。半球部40bの内側底部には、支持体51を介して凸面鏡50が設けられている。この凸面鏡50は、光の反射面が半球部40bの開口面に見えるように、この半球部40bに設けられている。ここで、凸面鏡50は、例えば凸形状をなす樹脂を鏡面コートしたものである。
【0061】
半球部40aの開口部には、電線Lを把持するための一対の把持片41aが設けられている一方、半球部40bの開口部にも、前記一対の把持片41aにそれぞれ係合可能な一対の把持片41bが設けられている。把持片41a及び把持片41bは、例えば上下に係合することにより電線Lを把持可能な筒形状をなす周知の電線クランプ41である。この電線クランプ41は、確実に電線Lを把持するべく、把持片41a、41bどうしを例えばボルト(不図示)及びナット(不図示)で固定するようになっていてもよい。
【0062】
また、半球部40aの開口部には、例えば一対の凸片42aが設けられている一方、半球部40bの開口部にも、例えば、前記一対の凸片42aによりそれぞれ嵌合可能な一対の凹片42bが設けられている。凸片42aは例えば−Y側に突起している一方、凹片42bは例えば−Y側に窪んだ形状をなし、クリップ42を構成するものである。例えば作業者は、電線Lに巻回された発光体1を囲繞するように一対の半球部40a、40bの開口部どうしを合わせて、2つの凸片42aを2つの凹片42bにそれぞれ嵌合させることにより、ケース40を閉じた状態とする。また、必要に応じて、作業者は、前述したボルト及びナットを用いて電線クランプ41の電線Lに対する把持力を強化する。
【0063】
この発光装置3によれば、発光体1の上空側(+Y側)への光と、発光体1の地上側(−Y側)への光がこの凸面鏡50で反射された光とは、半球部40aを透過して上空側から認識可能となる。特に、この発光装置3によれば、上空側でない側(半球部40b側)に放出される光が、凸面鏡50で上空側に放出される。よって、この発光装置1からの光は、例えば電線Lに発光体1のみが巻回されている場合の光よりも輝度が高い。また、図6に例示されるように、1つのケース40が複数個の発光体1を収容する構成をとれば、発光装置1の光は、複数個の発光体1の光を合わせて放出することになり、輝度がより高まる。ここで、ケース40内の発光体1の個数は、図6に例示される複数個に限定されるものではなく、例えば1個であってもよい。
【0064】
また、電線Lに巻回される発光体1が同じでも、凸面鏡50の反射効率を向上させたり、ケース40の形状を人間が視認し易いものとしたりすることにより、上空から発光装置1をより認識し易いものにすることができる。ここで、ケース40の形状は、図6に例示される球形状に限定されるものではない。
【0065】
尚、前述した発光装置3は、透明な半球部40aを備えたものであるが、これに限定されるものではない。例えば、発光体1と、凸面鏡50と、これらを収納する半球部40bとを備えているだけでもよい。また、前述した発光体1からの光を反射する反射板は、前述した凸面鏡50に限定されるものではなく、例えば、半球部40bの内面を鏡面コートして反射板とするものであってもよい。
【0066】
<<<設置例>>>
前述した発光装置3は、例えば送電線の海峡横断送電線認知装置となり得る。そこで、図7を参照しつつ、海峡横断送電線認知装置としての発光装置3の送電線Lに対する設置例について説明する。尚、図7(a)は、本実施の形態の発光装置3の設置例を示す模式図であり、図7(b)は、本実施の形態の発光装置3のもう一つの設置例を示す模式図である。
【0067】
図7(a)の例示によれば、鉄塔T1、T2の間の直線距離Sを4等分するような送電線L上の3つの地点に対し、発光装置3a、3b、3c(以上、図6に例示される発光装置3と同じ)を設置している。
【0068】
図7(b)の例示によれば、鉄塔T3、T4の間の送電線における最下点を基準として、送電線の支持点の高い方(鉄塔T3)から最下点までの発光装置3の設置間隔を相対的に密にし、最下点から送電線の支持点の低い方(鉄塔T4)までの発光装置3の設置間隔を相対的に粗くしている(発光装置3d、3e、3f、3g、3h)。尚、同図に例示されるように、送電線は、鉄塔T3、T4間で所定の弛度を有しているものとする。
【0069】
===電源が不要である一方、効果的に発光可能な低コストの発光体===
前述した実施の形態の発光体1、2、2’によれば、無機EL層12、120が誘導電場を発生する電線Lの周囲に巻回されることにより、この無機EL層12、120の無機EL材料は誘導電場下で発光し得る。この発光体1、2、2’は、電線Lが発生する誘導電場を電気エネルギーの唯一の供給源としているため、電源を別途用意する必要がない。また、前述した発光メカニズムにより、誘導電場におけるフランジ部20b又は延出部200b近傍且つ無機EL層12、120及び誘電層13、130の境界での成分はより大きくなる。よって、電線Lが発生する誘導電場の大きさが一定であっても、前述した成分がより大きくなるようなフランジ部20b又は延出部200bの形状等を設定すれば、この発光体1、2、2’は所定の光量を維持し得る。以上から、この発光体1、2、2’は、電源が不要である一方、所定の光量を維持可能であり、且つ低コストでもある。
【0070】
尚、前述した実施の形態では、発光体1、2、2’の発光部10、100は、誘電層11、110を備えるものであったが、これに限定されるものではない。図8に例示されるように、発光体1’の発光部10’は、無機EL層12と、この無機EL層12に積層される誘電層13とからなるものであってもよい。このように、第四層に相当する誘電層を省いて、誘電層全体を薄くするほど、この中の電場が強くなるという利点がある。同図は、電線Lに巻回された本実施の形態の発光体1’の側面及び正面の構成例を示す平面図である。このような構成を有する発光体1’も、前述した効果と同様の効果を奏するものである。但し、第四層に相当する誘電層がある場合、この第四層及び第二層(誘電層13)の分担電圧の相対比を調節できる。例えば第四層の誘電率をより大きくすることにより、第四層の分担電圧がより小さくなり、相対的に第二層(誘電層13)の分担電圧をより大きく設定できる。
【0071】
===その他の実施の形態===
前述した実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更、改良されるとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【0072】
前述した実施の形態では、誘導電場下の物体を電線Lとしたが、これに限定されるものではない。要するに、周囲に誘導電場が発生していれば如何なる物体でもよく、例えば架空地線であってもよい。
【0073】
また、前述した実施の形態では、発光体の形状を概ねシート状としたが、このような形状に限定されるものではない。要するに、誘導電場下の物体の周囲に巻回可能な形状であれば如何なる形状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】(a)は、第1の実施の形態の発光部及び導電部の側面及び正面の構成例を示す平面図であり、(b)は、電線に巻回された第1の実施の形態の発光体の側面の構成例及びクランプ部の正面の構成例を示す平面図である。
【図2】(a)は、電線に巻回された第2の実施の形態の発光体の正面の構成例を示す平面図であり、(b)は、電線に巻回された第2の実施の形態の発光体の正面の構成例を示す平面図である。
【図3】電線に巻回されていない状態の第2の実施の形態の発光体の構成例を示す斜視図である。
【図4】(a)は、表1における延出部の高さに対する発光開始電圧をプロットしたグラフであり、(b)は、表1における延出部の高さに対する発光体の輝度をプロットしたグラフである。
【図5】本実施の形態の発光部の製造工程の一例を示すフローチャートである。
【図6】本実施の形態の発光装置の構成例を示す平面図である。
【図7】(a)は、本実施の形態の発光装置の設置例を示す模式図であり、(b)は、本実施の形態の発光装置のもう一つの設置例を示す模式図である。
【図8】電線に巻回された本実施の形態の発光体の側面及び正面の構成例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0075】
1、1’ 発光体
10、10’、100 発光部
11、13、110、130 誘電層
12、120 無機EL層
2、2’ 発光体
20、200 導電部
20a、200a シート部
20b フランジ部
200b 延出部
3 発光装置
30 クランプ部
31、32 クランプ片
31a 凹部
32a 凸部
40 ケース
40a、40b 半球部
41 電線クランプ
41a、41b 把持片
42 クリップ
42a 凸片
42b 凹片
50 凸面鏡
51 支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導電場下で発光可能な無機EL材料からなる第一層と、
前記無機EL材料の発光出力を透過可能な誘電体材料からなり、前記第一層に積層される第二層と、
前記無機EL材料の発光出力を透過可能な導電体材料からなり、前記第二層に積層される第三層と、
導電体材料からなり、前記第三層から前記第二層とは反対側の方向に延出する延出部と、を備え、
前記第一層を前記誘導電場下の物体と面する側として、前記物体の周囲に巻回可能な形状を呈してなる、
ことを特徴とする発光体。
【請求項2】
誘電体材料からなり、前記第一層の前記第二層が積層される側とは反対側に積層される第四層を、更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の発光体。
【請求項3】
前記延出部は、前記第三層の一部を折り曲げたものである、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の発光体。
【請求項4】
前記延出部は、前記物体への巻回方向と交差する方向に沿って前記第三層の一方の側辺を折り曲げたものである、ことを特徴とする請求項3に記載の発光体。
【請求項5】
前記延出部は、前記物体への巻回方向に沿って前記第三層の少なくとも一方の側辺を折り曲げたものである、ことを特徴とする請求項3に記載の発光体。
【請求項6】
前記発光体が前記物体に巻回された場合の、前記第三層の周囲を把持する着脱可能なリングを、更に備えたことを特徴とする請求項5に記載の発光体。
【請求項7】
前記リングは、前記無機EL材料の発光出力を透過可能な樹脂からなることを特徴とする請求項6に記載の発光体。
【請求項8】
前記リングは、端面に凹部を有する第1湾曲片と、端面に前記凹部と嵌合する凸部を有する第2湾曲片と、からなることを特徴とする請求項7に記載の発光体。
【請求項9】
前記物体は、電力を送電するための送電線又は架空地線であることを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の発光体。
【請求項10】
電力を送電するための送電線に巻回される請求項1に記載の発光体と、
前記発光体の発光出力を上空側に反射する反射板と、
前記発光体の発光出力と前記反射板の反射出力とを上空側に透過可能であり、前記送電線と結合されて前記発光体と前記反射板とを収容するケースと、
を備えたことを特徴とする発光装置。
【請求項11】
前記反射板は、凸面鏡であることを特徴とする請求項10に記載の発光装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−27598(P2008−27598A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195299(P2006−195299)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】