説明

発光剤およびその製造方法、発光性組成物並びに有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】 湿式法によって薄膜を容易に形成することができ、高い発光輝度および優れた発光安定性を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることのできる発光剤およびその製造方法、発光性組成物、並びに高い発光輝度および優れた発光安定性を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を提供すること。
【解決手段】 発光剤は、一般式(1)のイリジウム錯体化合物よりなることを特徴とし、上記の発光剤と、電荷輸送能を有する高分子物質とを含有してなる発光性組成物を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成するための材料として好適に用いられる発光剤およびその製造方法、発光性組成物、並びに有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」ともいう。)は、直流電圧によって駆動することが可能であること、自己発光素子であるために視野角が広くて視認性が高いこと、応答速度が速いことなどの優れた特性を有することから、次世代の表示素子として期待されており、その研究が活発に行われている。
このような有機EL素子としては、陽極と陰極との間に有機材料よりなる発光層が形成された単層構造のもの、陽極と発光層との間に正孔輸送層を有する構造のもの、陰極と発光層との間に電子輸送層を有するものなどの多層構造のものが知られている。これらの有機EL素子は、いずれも、陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔とが、発光層において再結合することによって発光するものである。
【0003】
かかる有機EL素子において、発光層、電子もしくは正孔などの電荷を輸送する電荷輸送層などの機能性有機材料層を形成する方法としては、有機材料を真空蒸着によって形成する乾式法、並びに、有機材料が溶解されてなる溶液を塗布して乾燥することによって形成する湿式法が知られている。これらのうち、乾式法は、工程が煩雑で大量生産に適用することが困難であり、また、面積の大きい層を形成するには限界がある。これに対して、湿式法においては、工程が比較的に簡単で大量生産に対応することが可能であり、例えばインクジェット法により面積の大きい機能性有機材料層を容易に形成することができる。従って、湿式法は、以上の利点を有するため、乾式法に比較して有利である。
【0004】
一方、有機EL素子の発光層は、高い発光効率を有するものであることが要求されている。そして最近においては、高い発光効率を実現するために、有機EL素子の発光に、励起状態である三重項状態の分子などのエネルギーを利用することが試みられている。
具体的には、このような構成を有する有機EL素子によれば、従来から有機EL素子の外部量子効率の限界値と考えられていた5%を超え、8%の外部量子効率が得られることが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。
しかしながら、この有機EL素子は低分子量の材料で構成されており、また、例えば蒸着法などの乾式法によって形成されるものであることから、物理的耐久性および熱的耐久性が小さい、という問題がある。
【0005】
また、三重項状態の分子などのエネルギーを利用した有機EL素子として、例えばトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム〔Ir(ppy)3 〕などのイリジウム錯体化合物と、ポリビニルカルバゾールおよびオキサジアゾールよりなるホスト材料とからなる組成物を用い、湿式法によって発光層が形成されてなるものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、この有機EL素子においては、発光層を構成する組成物がイリジウム錯体化合物の含有割合が大きいものである場合、具体的にはホスト材料に対して7質量%の割合で分散されてなるものである場合には、イリジウム錯体化合物が凝集することによって濃度消光が生じるために蛍光量子収率が小さくなることが報告されており(例えば、非特許文献2参照。)、このような理由から、連続駆動中においては、イリジウム錯体化合物が凝集することに起因して発光効率が低下するおそれがあり、これにより、安定的な発光を得ることができない、という問題がある。
【0006】
【非特許文献1】「アプライドフィジックスレターズ(Applied Physics Letters)」,1999年,第75巻,p.4
【非特許文献2】「ジャーナルオブフィジカルケミストリーB(J.Phys.Chem.B)」,2004年,第108巻,p.1570
【特許文献1】特開2001−257076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、湿式法によって薄膜を容易に形成することができ、しかも高い発光輝度と共に、優れた発光安定性を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることのできる発光剤およびその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、湿式法によって薄膜を容易に形成することができ、しかも高い発光輝度を有すると共に、発光剤が高い割合で含有されてなる場合にも安定した発光特性を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることのできる発光性組成物を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、高い発光輝度が得られると共に、優れた発光安定性を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発光剤は、下記一般式(1)で表されるイリジウム錯体化合物よりなることを特徴とする。
【0009】
【化1】

【0010】
〔式中、R1 およびR2 は、それぞれ独立に1価の有機基を示す。〕
【0011】
本発明の発光剤においては、イリジウム錯体化合物を表す一般式(1)において、R1 およびR2 が芳香族基であることが好ましい。
【0012】
また、R1 およびR2 を示す芳香族基は、ジアリールアミン誘導体に由来の基、カルバゾール誘導体に由来の基およびアリール誘導体に由来の基よりなる群から選ばれたものであることが好ましい。
【0013】
本発明の発光剤の製造方法は、上記の発光剤の製造方法であって、
下記一般式(2)で表される化合物と、ヒドロキシフェニルピリジンとを反応させることによって下記一般式(3)で表される化合物を得、この化合物と、イリジウムアセチルアセトナートとを反応させる工程を有することを特徴とする。
【0014】
【化2】

【0015】
〔式中、R1 およびR2 は、それぞれ独立に1価の有機基を示す。〕
【0016】
【化3】

【0017】
〔式中、R1 およびR2 は、それぞれ独立に1価の有機基を示す。〕
【0018】
本発明の発光性組成物は、上記の発光剤と、電荷輸送能を有する高分子物質とを含有してなることを特徴とする。
【0019】
本発明の発光性組成物においては、高分子物質が下記式(A)で表される重合体よりなることが好ましい。
【0020】
【化4】

【0021】
〔式中、nは繰り返し数を示す。〕
【0022】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記の発光性組成物により形成された発光層を有することを特徴とする。
【0023】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、ホールブロック層を備えてなることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の発光剤は、新規なイリジウム錯体化合物よりなるものであり、当該イリジウム錯体化合物が、溶剤に対する溶解性に優れていることから湿式法によって薄膜を容易に形成することができ、また、三重項発光が得られ、しかもこの三重項発光を、高濃度状態においても安定的に得ることができるという特性を有するため、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料として有用であり、高い発光輝度と共に、優れた発光安定性を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。
【0025】
本発明の発光剤の製造方法によれば、上記の新規なイリジウム錯体化合物よりなる発光剤を製造することができる。
【0026】
本発明の発光性組成物は、発光剤成分として上記の発光剤を含有するものであるため、湿式法によって薄膜を容易に形成することができ、しかも優れた発光特性を有するものであるため、有機エレクトロルミネッセンス素子における発光層を形成するための材料として好適に用いることができる。そして、本発明の発光性組成物によれば、高い発光輝度を有すると共に、発光剤が高い割合で含有されてなる場合においても安定した発光特性を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができる。
【0027】
更に、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、上記の発光性組成物を発光層の材料として用いていることにより、高い発光輝度が得られると共に、優れた発光安定性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<発光剤>
本発明の発光剤は、上記一般式(1)で表されるイリジウム錯体化合物(以下、「特定のイリジウム錯体化合物」ともいう。)よりなるものである。
【0029】
特定のイリジウム錯体化合物を示す一般式(1)において、R1 およびR2 は、それぞれ独立に1価の有機基を示し、このR1 およびR2 は、互いに同一のものであっても異なるものであってもよいが、互いに同一のものであることが好ましい。
【0030】
基R1 および基R2 を示す1価の有機基は、芳香族基であることが好ましく、具体的には、ジアリールアミン誘導体に由来の基、カルバゾール誘導来に由来の基およびアリール誘導体に由来の基よりなる群から選ばれた基(以下、「特定の芳香族基」ともいう。)であることが好ましい。
【0031】
ここに、ジアリールアミン誘導体に由来の基としては、例えばジフェニルアミノ基、1−ナフチルフェニルアミノ基、2−ナフチルフェニルアミノ基、m−トリルフェニルアミノ基、n−ブトキシフェニル−m−トリルアミノ基、4,4’−ジメトキシジフェニルアミノ基、3−メトキシジフェニルアミノ基、(4−メトキシフェニル)ジフェニルアミノ基などが挙げられる。
カルバゾール誘導来に由来の基としては、例えばカルバゾリル基、3,6−ジフェニルカルバゾールなどの3,6−アリール置換カルバゾールに由来の基、3,6−ビス(ジフェニルアミノ)カルバゾールなどの3,6−アミノ置換カルバゾールに由来の基などが挙げられる。
アリール誘導体に由来の基としては、例えばフェニル基、ビフェニル基、p−(1−ナフチル)フェニル基、p−(2−ナフチル)フェニル基、p−(1−ピレニル)フェニル基、フルオロビフェニル基、ジフルオロビフェニル基、トリフルオロビフェニル基、トリフルオロメチルビフェニル基などが挙げられる。
【0032】
また、基R1 および基R2 を示す1価の有機基であって特定の芳香族基以外のものとしては、例えば5−ピリジル基、ベンゾチアゾール基、フルオレニル基などが挙げられる。
【0033】
また、一般式(1)において、トリアジンエーテル基は、ベンゼン環における位置番号3または4の炭素原子に結合されていることが好ましい。
【0034】
特定のイリジウム錯体化合物の好ましい具体例としては、下記式(1−1)〜式(1−3)で表されるイリジウム錯体化合物が挙げられる。
【0035】
【化5】

【0036】
【化6】

【0037】
【化7】

【0038】
本発明の発光剤は、上記一般式(2)で表される化合物(以下、「原料トリアジン化合物」ともいう。)と、ヒドロキシフェニルピリジンとを反応させることによって上記一般式(3)で表されるフェニルピリジン化合物(以下、「中間原料フェニルピリジン化合物」ともいう。)を合成し(以下、この反応工程を「第1反応工程」という。)、その後、得られた中間原料フェニルピリジン化合物と、イリジウムアセチルアセトナートとを反応させ、特定のイリジウム錯体化合物を合成する(以下、この反応工程を「第2の反応工程」という。)ことにより、製造することができる。
【0039】
また、原料トリアジン化合物の具体例としては、一般式(2)においてR1 およびR2 がカルバゾリル基を示す化合物、一般式(2)においてR1 およびR2 がジフェニルアミノ基を示す化合物、一般式(2)においてR1 およびR2 がp−(1−ナフチル)フェニル基を示す化合物などが挙げられる。
【0040】
また、第1の反応工程において用いられるヒドロキシフェニルピリジンの好ましい具体例としては、m−ヒドロキシフェニルピリジン、p−ヒドロキシフェニルピリジンが挙げられる。
【0041】
更に、原料トリアジン化合物とヒドロキシフェニルピリジンとの使用割合は、原料トリアジン化合物のモル数と、ヒドロキシフェニルピリジンのモル数とが等量関係にあることが好ましい。
【0042】
第1の反応工程においては、反応溶媒として、有機溶媒とアルカリ水溶液とが組み合わされてなる混合溶媒が好適に用いられる。
【0043】
有機溶媒としては、アルコール類以外のものであって、第1の反応工程に供する化合物に対して高い溶解性を有し、これらを溶解し得るものを適宜に用いることができる。
【0044】
アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液が好適に用いられる。
【0045】
反応溶媒の好ましい具体例としては、有機溶媒としてのクロロホルムと、アルカリ水溶液としての水酸化ナトリウム水溶液との混合溶媒が挙げられる。
【0046】
また、第1の反応工程において、具体的な反応条件としては、反応温度は例えば室温〜60℃であり、反応時間は例えば2〜36時間である。
【0047】
第2の反応工程において、中間原料フェニルピリジン化合物とイリジウムアセチルアセトナートとの使用割合は、中間原料フェニルピリジン化合物のモル数がイリジウムアセチルアセトナートのモル数の3倍以上とされる。
【0048】
第2の反応工程においては、適宜の極性溶媒が用いられる。
ここに、極性溶媒としては、例えばグリセリン、エチレングリコール誘導体および適宜の沸点(例えば150〜250℃)を有するプロピレングリコール誘導体が挙げられる。
エチレングリコール誘導体の具体例としては、エチレングリコールモノメトキシエーテル、エチレングリコールモノエトキシエーテル、エチレングリコールモノブトキシエーテルなどを挙げることができる。
【0049】
また、第2の反応工程において、具体的な反応条件としては、反応温度は例えば150〜300℃であり、反応時間は例えば6〜24時間である。
【0050】
以上のように、本発明の発光剤は、新規なイリジウム錯体化合物よりなるものであり、電荷輸送能を有する高分子物質と組み合わせることにより、有機EL素子の発光層を形成する材料として好適に用いることができる。
【0051】
<発光性組成物>
本発明の発光性組成物は、上記の発光剤よりなる発光剤成分を含有すると共に、電荷輸送能を有する高分子物質(以下、「特定の高分子物質」ともいう。)よりなる高分子物質成分を含有してなるものである。
【0052】
高分子物質成分を構成する特定の高分子物質は、発光に寄与するイリジウム錯体部分の三重項準位よりも高い三重項準位を有するものであることが必要である。
【0053】
特定の高分子物質の好ましい具体例としては、上記式(A)で表される重合体(以下、「特定の重合体」ともいう。)が挙げられる。
【0054】
また、特定の高分子物質のその他の具体例としては、ポリビニルカルバゾールなどの非共役のカルバゾール重合体が挙げられる。
【0055】
本発明の発光性組成物においては、発光剤成分の含有割合が、高分子物質成分100質量部に対して1〜30質量部であることが好ましく、特に1〜20であることが好ましい。
発光剤成分の含有割合が過小である場合には、十分な発光を得ることが困難となるおそれがある。一方、発光剤成分の含有割合が過大である場合には、濃度消光を生じるおそれがあるため、好ましくない。
【0056】
本発明の発光性組成物には、必要に応じて、例えば2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールに代表される電子輸送材料などの任意の添加物を加えることができる。
【0057】
本発明の発光性組成物は、通常、高分子物質成分と、発光剤成分とが適宜の有機溶剤に溶解されることによって組成物溶液として調製され、この組成物溶液を、発光層を形成すべき基体の表面に塗布し、得られた塗膜に対して有機溶剤の除去処理を行うことにより、有機EL素子における発光層を形成することができる。
【0058】
ここに、組成物溶液を調製するための有機溶剤としては、用いられる高分子物質成分および発光剤成分を溶解し得るものであれば特に限定されず、その具体例としては、クロロホルム、クロロベンゼン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶剤、シクロヘキサノン、乳酸エチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、エチルエトキシプロピオネート、メチルアミルケトンなどが挙げられる。これらの有機溶剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中では、均一な厚みを有する薄膜が得られる点で、適当な蒸発速度を有するもの、具体的には沸点が70〜200℃以上の有機溶剤を用いることが好ましい。
【0059】
有機溶剤の使用割合は、高分子物質成分および発光剤成分の種類によって異なるが、通常、組成物溶液中の高分子物質成分および発光剤成分の合計の濃度が0.5〜10質量%となる割合である。
また、組成物溶液を塗布する手段としては、例えばスピンコート法、ディッピング法、ロールコート法、インクジェット法および印刷法などを利用することができる。
【0060】
以上のような本発明の発光性組成物によれば、高い発光輝度で発光し、発光剤が高い割合で含有されてなる場合においても安定した発光特性を有する発光層を備えた有機EL素子を得ることができ、しかも、薄膜状の発光層をインクジェット法などの湿式法により容易に形成することができる。
【0061】
<有機EL素子>
図1は、本発明の有機EL素子の構成の一例を示す説明用断面図である。
この例の有機EL素子は、透明基板1上に、正孔を供給する電極である陽極2が例えば透明導電膜により設けられ、この陽極2上に正孔注入輸送層3が設けられ、この正孔注入輸送層3上に発光層4が設けられ、この発光層4上にホールブロック層8が設けられ、このホールブロック層8上に電子注入層5が設けられ、この電子注入層5上に電子を供給する電極である陰極6が設けられている。そして、陽極2および陰極6は、直流電源7に電気的に接続される。
【0062】
この有機EL素子において、透明基板1としては、ガラス基板、透明性樹脂基板または石英ガラス基板などを用いることができる。
陽極2を構成する材料としては、好ましくは、仕事関数の大きい例えば4eV以上の透明性材料が用いられる。ここで、仕事関数とは、固体から真空中に電子を取り出すのに要する最小限の仕事の大きさをいう。陽極2としては、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)膜、酸化スズ(SnO2 )膜、酸化銅(CuO)膜、酸化亜鉛(ZnO)膜などを用いることができる。
【0063】
正孔注入輸送層3は、正孔を効率よく発光層4に供給するために設けられたものであって、陽極2から正孔(ホール)を受け取って、発光層4に輸送する機能を有するものである。この正孔注入輸送層3を構成する材料としては、例えばポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネートなどの電荷注入輸送材料を好適に用いることができる。
また、正孔注入輸送層3の厚みは、例えば10〜200nmである。
【0064】
発光層4は、電子と正孔とを結合させ、その結合エネルギーを光として放射する機能を有するものであり、この発光層4は、上記の発光性組成物によって形成されている。
また、発光層4の厚みは、特に限定されるものではないが、通常、5〜200nmの範囲で選択される。
【0065】
ホールブロック層8は、正孔注入輸送層3を介して発光層4に供給された正孔が電子注入層5に侵入することを抑制し、発光層4における正孔と電子との再結合を促進させ、発光効率を向上させる機能を有するものである。
【0066】
このホールブロック層8を構成する材料としては、例えば下記式(イ)で表される2, 9−ジメチル−4, 7−ジフェニル−1, 10−フェナントロリン(バソクプロイン:BCP)、下記式(ロ)で表される1, 3, 5−トリ(フェニル−2−ベンゾイミダゾリル)ベンゼン(TPBI)などを好適に用いることができる。
また、ホールブロック層8の厚みは、例えば10〜30nmである。
【0067】
【化8】

【0068】
【化9】

【0069】
電子注入層5は、陰極6から受け取った電子をホールブロック層8を介して発光層4まで輸送する機能を有するものである。この電子注入層5を構成する材料としては、バソフェナントロリン系材料とセシウムとの共蒸着系(BPCs)を用いることが好ましく、その他の材料としては、アルカリ金属およびその化合物(例えばフッ化リチウム、酸化リチウム)、アルカリ土類金属およびその化合物(例えばフッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム)などを用いることができる。この電子注入層5の厚みは、例えば0.1〜100nmである。
【0070】
陰極6を構成する材料としては、仕事関数の小さい例えば4eV以下のものが用いられる。陰極6の具体例としては、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、インジウムなどよりなる金属膜、またはこれらの金属の合金膜などを用いることができる。
陰極6の厚みは、材料の種類によって異なるが、通常、10〜1000nm、好ましくは50〜200nmである。
【0071】
本発明において、上記の有機EL素子は、例えば以下のようにして製造される。
先ず、透明基板1上に、陽極2を形成する。
陽極2を形成する方法としては、真空蒸着法またはスパッタ法などを利用することができる。また、ガラス基板などの透明基板の表面に例えばITO膜などの透明導電膜が形成されてなる市販の材料を用いることもできる。
【0072】
このようにして形成された陽極2上に、正孔注入輸送層3を形成する。
正孔注入輸送層3を形成する方法としては、具体的に、電荷注入輸送材料を適宜の溶剤に溶解することによって正孔注入輸送層形成液を調製し、この正孔注入輸送層形成液を、陽極2の表面に塗布し、得られた塗布膜に対して溶剤の除去処理を行うことによって正孔注入輸送層3を形成する手法を用いることができる。
【0073】
次いで、本発明の発光性組成物を発光層形成液として用い、この発光層形成液を正孔注入輸送層3上に塗布し、得られた塗布膜を熱処理することにより、発光層4を形成する。 発光層形成液を塗布する方法としては、スピンコート法、ディップ法、インクジェット法、印刷法などを利用することができる。
【0074】
そして、このようにして形成された発光層4上に、ホールブロック層8を形成すると共に、このホールブロック層8の上に電子注入層5を形成し、更に、この電子注入層5の上に、陰極6を形成することにより、図1に示す構成を有する有機EL素子が得られる。
【0075】
以上において、ホールブロック層8、電子注入層5および陰極6を形成する方法としては、真空蒸着法などの乾式法を利用することができる。
【0076】
上記の有機EL素子においては、直流電源7により、陽極2と陰極6との間に直流電圧が印加されると、発光層4が発光し、この光は、正孔注入輸送層3、陽極2および透明基板1を介して外部に放射される。
このような構成の有機EL素子によれば、発光層4が上記の有機EL素子用重合体組成物によって形成されているため、高い発光輝度が得られる。
【0077】
また、ホールブロック層8が配設されていることにより、陽極2からの正孔と陰極2からの電子との結合が高い効率をもって実現され、その結果、一層高い発光輝度が得られると共に高い発光効率が得られる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
〈実施例1〉
(原料トリアジン化合物の合成例1)
窒素雰囲気下において、カルバゾール27.3g(0. 163mol)−ジエチルエーテル180ml溶液を氷浴状態とし、濃度1.6mol/lのn−ブチルリチウムヘキサン溶液を101ml滴下した後、氷浴状態のまま2時間撹拌することによりリチオ化カルバゾールのジエチルエーテル溶液を調製した。このジエチルエーテル溶液を、窒素雰囲気下において、塩化シアヌル15g(0.081mol)を溶解したジエチルエーテル溶液に滴下して還流させながら反応させ、還流が収まった後に反応溶液を60℃に加熱し、6時間撹拌した。得られた反応溶液を水1Lに注ぐことによって析出した固体をろ別し、クロロベンゼンで再結晶することにより、一般式(2)において、R1 およびR2 がカルバゾリル基であるトリアジン化合物(以下、「原料トリアジン化合物(1)」ともいう。)28.2gを得た。
【0080】
(第1の反応工程例1)
原料トリアジン化合物(1)15g(0.011mol)と、p−ヒドロキシフェニルピリジン1.92g(0.011mol)とをクロロホルム125mlに溶解した溶液に、水酸化ナトリウム0.45gを溶解した水溶液25mlを注いだ後、2時間撹拌した。得られた反応溶液を分液抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥してクロロホルムを留去することにより、一般式(3)において、R1 およびR2 がカルバゾリル基であり、トリアジンエーテル基がベンゼン環における位置番号4の炭素原子に結合されたフェニルピリジン化合物(以下、「中間原料フェニルピリジン化合物(1)」ともいう。)6.2gを得た。
【0081】
(第2反応工程例1)
イリジウムアセチルアセトナート0.5g(1.02mmol)と、中間原料フェニルピリジン化合物(1)1.96g(3.37mmol)とをグリセリン50mlに溶解した溶液を窒素雰囲気下において250℃で10時間撹拌した。得られた反応溶液を1Nの塩酸に注ぐことによって析出した固体をろ別回収し、この固体を塩化メチレンに溶解させ、カラムクロマトグラフ処理を行うことにより、イリジウム錯体化合物0.38gを得た。
得られたイリジウム錯体化合物は、TOF−MS測定により、式(1−1)で表されるイリジウム錯体化合物(以下、「発光剤(1)」ともいう。)であることが確認された。
【0082】
〈実施例2〉
(原料トリアジン化合物の合成例2)
実施例1において、カルバゾールに代えてジフェニルアミンを用いたこと以外は実施例1における原料トリアジン化合物の合成例1と同様にして一般式(2)において、R1 およびR2 がフェニルアミノ基であるトリアジン化合物(以下、「原料トリアジン化合物(2)」ともいう。)を得た。
【0083】
(第1の反応工程例2)
、得られた原料トリアジン化合物(2)を原料トリアジン化合物(1)に代えて用いたこと以外は実施例1における第1反応工程例1と同様にして一般式(3)において、R1 およびR2 がフェニルアミノ基であり、トリアジンエーテル基がベンゼン環における位置番号4の炭素原子に結合されたフェニルピリジン化合物(以下、「中間原料フェニルピリジン化合物(2)」ともいう。)を得た。
【0084】
(第2の反応工程例2)
得られた中間原料フェニルピリジン化合物(2)を用いたこと以外は実施例1における第2反応工程例1と同様にしてイリジウム錯体化合物を得た。
得られたイリジウム錯体化合物は、TOF−MS測定により、式(1−2)で表されるイリジウム錯体化合物(以下、「発光剤(2)」ともいう。)であることが確認された。
【0085】
〈実施例3〉
(原料トリアジン化合物の合成例3)
先ず、ジブロモベンゼン25g(0.106mol)を溶解したジエチルエーテル溶液を氷浴状態とし、この溶液に濃度1.6mol/lのn−ブチルリチウムヘキサン溶液を66ml滴下した後、氷浴状態で2時間撹拌することによりp−ブロモリチオベンゼン溶液を調製した。このp−ブロモリチオベンゼン溶液を、塩化シアヌル9.8g(0.053mol)を溶解したジエチルエーテル溶液に滴下して還流させながら反応させ、還流が収まった後に反応溶液を60℃に加熱し、6時間撹拌した。得られた反応溶液を水1Lに注ぐことによって析出した固体をろ別し、クロロベンゼンで再結晶することにより、ビス(p−ブロモフェニル)クロロトリアジン25gを得た。
【0086】
次に、窒素雰囲気下のトルエン中において、ビス(p−ブロモフェニル)クロロトリアジン25gと、1−ナフチルボロン酸22.2g(0.13mol)と、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム1mol%と、3当量の炭酸ナトリウム水溶液とを混合し、100℃で24時間撹拌した。得られた反応溶液を分液抽出し、有機層を乾燥して溶媒を留去することによって得られた固体をカラムクロマトグラフィーにより、単離して精製することにより、ビス(p−(1−ナフチル)フェニル)クロロトリアジン(以下、「原料トリアジン化合物(3)」ともいう。)16.8gを得た。
【0087】
(第1反応工程例3)
原料トリアジン化合物(3)16g(0.031mol)と、p−ヒドロキシフェニルピリジン5.27g(0.031mol)とをクロロホルム150mlに溶解した溶液に、水酸化ナトリウム1.24gを溶解した水溶液25mlを注いだ後、2時間撹拌した。得られた反応溶液を分液抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥してクロロホルムを留去することにより、一般式(3)において、R1 およびR2 がp−(1−ナフチル)フェニル基であり、トリアジンエーテル基がベンゼン環における位置番号4の炭素原子に結合されたフェニルピリジン化合物(以下、「中間原料フェニルピリジン化合物(3)」ともいう。)18.3gを得た。
【0088】
(第2反応工程例3)
イリジウムアセチルアセトナート0.5g(1.02mmol)と、中間原料フェニルピリジン化合物(3)2.2g(3.37mmol)とを溶解したグリセリン50ml溶液を窒素雰囲気下において、250℃で10時間撹拌した。得られた反応溶液を1Nの塩酸に注ぐことによって析出した固体をろ別回収し、この固体を塩化メチレンに溶解させ、フラッシュクロマトグラフ処理を行うことにより、イリジウム錯体化合物0.45gを得た。
得られたイリジウム錯体化合物は、TOF−MS測定により、式(1−3)で表されるイリジウム錯体化合物(以下、「発光剤(3)」ともいう。)であることが確認された。
【0089】
〈実施例4〉
透明基板上にITO膜が形成されてなるITO基板を用意し、このITO基板を、中性洗剤、超純水、イソプロピルアルコール、超純水、アセトンをこの順に用いて超音波洗浄した後、更に紫外線−オゾン(UV/O3 )洗浄した。
洗浄を行ったITO基板上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS)溶液をスピンコート法によって塗布し、その後、得られた厚さ65nmの塗布膜を窒素雰囲気下において250℃で30分間乾燥することにより、正孔注入輸送層を形成した。
【0090】
次いで、得られた正孔注入輸送層の表面に、発光層形成液として特定の重合体および上記発光剤(1)をシクロヘキサノンに溶解して得られた、イリジウム錯体化合物の含有割合が6mol%の組成物溶液(以下、「組成物溶液(1A)」ともいう。)をスピンコート法によって塗布し、得られた厚さ40nmの塗布膜を窒素雰囲気下において150℃で10分間乾燥することにより、発光層を形成した。
次いで、ITO基板上に正孔注入輸送層および発光層がこの順に積層されてなる積層体を真空装置内に固定し、その後、当該真空装置内を1×10-4Pa以下にまで減圧し、バソクプロイン30nmを蒸着し、ホールブロック層を形成した。次いで、バソクプロインとセシウムを20nm共蒸着し、電子注入層を形成した後、アルミニウム100nmを蒸着することにより陰極を形成した。その後、ガラス材料によって封止することにより、有機EL素子(以下、「有機EL素子(1A)」ともいう。)を製造した。
【0091】
また、組成物溶液(1A)の代わりに、発光剤(1)の含有割合が、10mol%、15mol%および20mol%である組成物溶液(1B)〜(1D)を用いたこと以外は有機EL素子(1A)の製造方法と同様の手法によって有機EL素子(1B)〜有機EL素子(1D)を製造した。発光剤(1)の含有割合が10mol%の組成物溶液(1B)によるものを有機EL素子(1B)、発光剤(1)の含有割合が15mol%の組成物溶液(1C)によるものを有機EL素子(1C)、発光剤(1)の含有割合が20mol%の組成物溶液(1D)によるものを有機EL素子(1D)とする。
【0092】
作製した有機EL素子(1A)〜有機EL素子(1D)の各々に対し、直流電圧を印加することによって発光層を発光させ、その発光開始電圧、最高発光輝度および最高輝度電圧を測定した。結果を表1に示す。また、有機EL素子(1A)〜有機EL素子(1D)の発光スペクトルを図2に示す。
図2において、有機EL素子(1A)の発光スペクトルを曲線(A)(一点鎖線)、有機EL素子(1B)の発光スペクトルを曲線(B)(二点鎖線)、有機EL素子(1C)の発光スペクトルを曲線(C)(破線)、および有機EL素子(1D)の発光スペクトルを曲線(D)(実線)で示した。
【0093】
【表1】

【0094】
〈比較例1〉
実施例4において、発光剤(1)に代えてトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム〔Ir(ppy)3 〕(以下、「比較用発光剤」ともいう。)を用いたこと以外は実施例1と同様にして比較用有機EL素子(1A)〜比較用有機EL素子(1D)を製造した。 作製した比較用有機EL素子(1A)〜比較用有機EL素子(1D)の各々に対し、直流電圧を印加することによって発光層を発光させ、その最高発光輝度を測定したところ、比較用イリジウム錯体化合物の含有割合が大きくなると発光効率および発光輝度が低下することが確認された。
具体的には、比較用発光剤の含有割合が6mol%の比較用有機EL素子(1A)の最大発光輝度は12200cd/m2 であったが、比較用発光剤の含有割合が10mol%の比較用有機EL素子(1B)の最大発光輝度は11000cd/m2 となり、その輝度が比較用有機EL素子(1A)に比して10%程度小さくなった。
【0095】
以上の結果から、実施例4に係る特定のイリジウム錯体化合物と特定の重合体とを含有してなる発光性組成物によれば、湿式法によって薄膜を形成することができることが確認された。
そして、実施例4に係る有機EL素子によれば、高い発光輝度が得られ、また、発光層を構成する発光性組成物を構成する発光剤であるイリジウム錯体化合物が高い割合で含有されてなるものであっても発光輝度および発光効率が低下することがなく、優れた発光安定性が得られることが確認された。
一方、比較例1に係る比較用有機EL素子においては、発光剤の含有割合が高い場合においては、濃度消光が生じやすく、安定的な発光を得ることができないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の構成の一例を示す説明用断用断面図である。
【図2】実施例4に係る発光スペクトルである。
【符号の説明】
【0097】
1 透明基板
2 陽極
3 正孔注入輸送層
4 発光層
5 電子注入層
6 陰極
7 直流電源
8 ホールブロック層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるイリジウム錯体化合物よりなることを特徴とする発光剤。
【化1】

〔式中、R1 およびR2 は、それぞれ独立に1価の有機基を示す。〕
【請求項2】
イリジウム錯体化合物を表す一般式(1)において、R1 およびR2 が芳香族基であることを特徴とする請求項1に記載の発光剤。
【請求項3】
1 およびR2 を示す芳香族基は、ジアリールアミン誘導体に由来の基、カルバゾール誘導体に由来の基およびアリール誘導体に由来の基よりなる群から選ばれたものであることを特徴とする請求項2に記載の発光剤。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の発光剤の製造方法であって、
下記一般式(2)で表される化合物と、ヒドロキシフェニルピリジンとを反応させることによって下記一般式(3)で表される化合物を得、この化合物と、イリジウムアセチルアセトナートとを反応させる工程を有することを特徴とする発光剤の製造方法。
【化2】

〔式中、R1 およびR2 は、それぞれ独立に1価の有機基を示す。〕
【化3】

〔式中、R1 およびR2 は、それぞれ独立に1価の有機基を示す。〕
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の発光剤と、電荷輸送能を有する高分子物質とを含有してなることを特徴とする発光性組成物。
【請求項6】
高分子物質が下記式(A)で表される重合体よりなることを特徴とする請求項5に記載の発光性組成物。
【化4】

〔式中、nは繰り返し数を示す。〕
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の発光性組成物により形成された発光層を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
ホールブロック層を備えてなることを特徴とする請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−131796(P2006−131796A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323594(P2004−323594)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】