説明

発光活性阻害方法及び微量重金属定量方法

【課題】極めて微量の重金属イオンを用いてルシフェラーゼ−ルシフェリン系の発光反応における発光活性を阻害する阻害方法、及びその阻害方法を用いた微量の重金属定量方法を提供すること。
【解決手段】オプロフォーラスルシフェラーゼの構成蛋白質であり、かつ発光触媒活性を有するサブユニットである19kDa蛋白質と、イミダゾピラジンノン骨格を有するセレンテラジン又はその類縁体を組み合わせて発光反応を行う。この発光反応の中に、銅イオン、カドミウムイオン、亜鉛イオン、又はニッケルイオン等の重金属イオンを添加すれば、発光反応における発光活性を阻害することができる。あるいは、カルシウム結合型発光蛋白質(イクオリン)とカルシウムイオンを反応させることによって得られる青色蛍光蛋白質(BFP-aq)と、イミダゾピラジンノン骨格を有するセレンテラジン又はその類縁体を組み合わせて発光反応を行ってもよい。この発光反応の中に、銅イオンを添加すれば、発光反応における発光活性を阻害することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルシフェラーゼ−ルシフェリン系の発光反応における発光活性阻害方法、及びその阻害方法を用いた微量の重金属を定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光蛋白質および発光酵素(ルシフェラーゼ)は、産業上重要な酵素として、広く利用されている。例えば、発光反応にカルシウムイオンを補欠分子として必要とするカルシウム結合型発光蛋白質は、レポーターとしてのよく知られた利用以外にも、10-7Mから10-4Mの間でカルシウムイオンの定量に利用されている(例えば、非特許文献1参照)。また、ホタルのルシフェラーゼは、その発光反応にマグネシウムイオンが必須であることから、マグネシウムイオンの検出への利用が期待されているが、これは、安定的連続発光反応にはミリモル濃度のマグネシウムイオンの存在が必要であることから、実用には至っていない。
【0003】
一方、金属イオンが酵素活性を阻害したり、活性化したりすることは、広く知られている。金属イオンによる酵素活性の阻害機序は多岐にわたり、また、阻害金属イオン濃度も広い範囲で阻害が認められるが、この金属による酵素阻害作用は、金属定量などに利用されていない。また、その阻害濃度領域に関しては、マイクロモルからミリモル濃度で顕著な阻害効果を示し、ナノモル濃度の金属イオンで阻害を示す酵素は、ほとんど知られていない(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
【非特許文献1】Blinks, J.R. (1989) Methods Enzymol. 172:164-203.
【非特許文献2】Handbook of Enzyme Inhibitors (2nd, revised and enlarged edition). Helmward Zollner(1993) VCH Verlagsgesell schaft mbH.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
重金属イオンは、環境問題に関して重要であり、多くは生体へ悪影響を与える因子であることから、重金属イオンを簡易に且つ高感度に検出する方法の開発が期待されている。
そこで、本発明は、極めて微量の重金属イオンを用いてルシフェラーゼ−ルシフェリン系の発光反応における発光活性を阻害する阻害方法、及びその阻害方法を用いた微量の重金属定量方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、生物発光に関与する発光酵素(ルシフェラーゼ)について、生化学的な研究をする過程で、微量の重金属イオンが、発光活性を顕著に阻害することを見出した。具体的には、発光酵素活性を有するオプロフォーラスルシフェラーゼのサブユニットである19kDa蛋白質(以下、「19kOLase」ともいう)、又はカルシウム結合型発光蛋白質(イクオリン)とカルシウムイオンを反応させることによって得られる青色蛍光蛋白質(bFP-aq)と、イミダゾピラジンノン骨格を有するセレンテラジン又はその類縁体を反応させる際に、微量の重金属イオンを添加すると、発光活性が減少することを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0007】
[1]ルシフェラーゼがルシフェリンを基質として触媒する発光反応における発光活性を阻害する方法であって、重金属イオンを含む反応系で、該発光反応を行うことを特徴とする方法。
[2]前記ルシフェラーゼが、以下の(a)又は(b)のペプチドを有することを特徴とする前記[1]に記載の方法。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ発光活性を有するペプチド
[3]前記重金属イオンが、銅イオン、カドミウムイオン、亜鉛イオン、又はニッケルイオンであることを特徴とする前記[2]に記載の方法。
[4]前記ルシフェラーゼが、以下の(a)又は(b)のペプチドを有することを特徴とする前記[1]に記載の方法。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ発光活性を有するペプチド
[5]前記重金属イオンが、銅イオンであることを特徴とする前記[4]に記載の方法。
[6]前記ルシフェリンが、セレンテラジン又はセレンテラジン類縁化合物であることを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記セレンテラジン類縁化合物が、下記化学式(1)又は(2)で表わされることを特徴とする前記[6]に記載の方法。


(式中、R1は、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアリールアルキル基、又は脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖あるいは分枝鎖のアルキル基であり、R2は、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアリールアルキル基、置換もしくは非置換のアリールアルケニル基、又は脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖あるいは分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖もしくは分枝鎖のアルケニル基、又は複素環式基であり、R3は、水素原子、又は置換もしくは非置換のアルキル基であり、X1は、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、アルコキシル基又はアミノ基であり、X2は、水素原子又は水酸基であり、Yは1〜4個の炭素原子を有する2価の炭化水素基である。)
[8]前記化学式(1)又は(2)において、R1が非置換のアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基もしくはハロゲン原子で置換されたアリールアルキル基、又はシクロヘキシル基で置換されていてもよい直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基であり、R2が非置換のアリール基、水酸基で置換されたアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基で置換されたアリールアルキル基、非置換のアリールアルケニル基、非置換の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖のアルキル基、分枝鎖のアルケニル基、又は硫黄を含む複素環式基であり、R3は、水素原子、メチル基又は2−ヒドロキシエチル基であり、X1は、水素原子、水酸基、フッ素原子、メトキシ基又はアミノ基であり、Yはメチレン基、エチレン基、プロピレン基又はビニレン基であることを特徴とする前記[7]に記載の方法。
[9]前記化学式(1)又は(2)において、R1がフェニル基、ベンジル基、p−ヒドロキシベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−クロロベンジル基、p−ブロモベンジル基、p−ヨードベンジル基、3,4−ジフルオロベンジル基、ペンタフルオロベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、メチル基、1−メチルプロピル基又は2−メチルプロピル基であり、R2がフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、ベンジル基、α−ヒドロキシベンジル基、フェニルエチル基、フェニルビニル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−メチルプロピル基、2−メチルプロぺニル基、アダマンチルメチル基、シクロペンチルメチル基又はチオフェン−2−イル基であることを特徴とする前記[7]又は[8]に記載の方法。
[10]被験溶液に存在する重金属イオンを検出する方法であって、重金属イオンが事実上存在しない溶液において、ルシフェラーゼがルシフェリンを基質として触媒する発光反応を行い、前記発光反応において生じる第1の発光活性の値を測定する工程と、被験溶液を用いて、前記発光反応と同じ条件で発光反応を行い、前記被験溶液における第2の発光活性の値を測定する工程と、前記重金属イオンが事実上存在しない溶液に対する第1の値と、前記被験溶液に対する第2の値を比較することにより、前記被験溶液に存在する重金属イオンの有無を判断する工程と、を含むことを特徴とする方法。
[11]被験溶液に存在する重金属イオンの濃度を定量する方法であって、所定濃度の重金属イオンの存在下で、ルシフェラーゼがルシフェリンを基質として触媒する発光反応において生じる発光活性の値を測定し、前記値と、前記重金属イオン濃度との相関関係を求める工程と、被験溶液を用いて、前記発光反応と同じ条件で発光反応を行い、前記被験溶液における発光活性の値を測定する工程と、前記相関関係より、前記被験溶液における前記値から、前記被験溶液に存在する重金属イオンの濃度を算出する工程と、を含む方法。
[12]ルシフェラーゼがルシフェリンを基質として触媒する発光反応における発光活性を阻害するための阻害剤であって、重金属イオンを含むことを特徴とする阻害剤。
[13]前記ルシフェラーゼが、以下の(a)又は(b)のペプチドを有することを特徴とする前記[12]に記載の阻害剤。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ発光活性を有するペプチド
[14]前記重金属イオンが、銅イオン、カドミウムイオン、亜鉛イオン、又はニッケルイオンであることを特徴とする前記[13]に記載の阻害剤。
[15]前記ルシフェラーゼが、以下の(a)又は(b)のペプチドを有することを特徴とする前記[12]に記載の阻害剤。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ発光活性を有するペプチド
[16]前記重金属イオンが、銅イオンであることを特徴とする前記[15]に記載の阻害剤。
[17]前記ルシフェリンが、セレンテラジン又はセレンテラジン類縁化合物であることを特徴とする前記[12]〜[16]のいずれかに記載の阻害剤。
[18]被験溶液に存在する重金属イオンを検出するためのキットであって、ルシフェラーゼとルシフェリンを含むことを特徴とするキット。
[19]前記ルシフェラーゼが、以下の(a)又は(b)のペプチドを有することを特徴とする前記[18]に記載のキット。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ発光活性を有するペプチド
[20]前記重金属イオンが、銅イオン、カドミウムイオン、亜鉛イオン、又はニッケルイオンであることを特徴とする前記[19]に記載のキット。
[21]前記ルシフェラーゼが、以下の(a)又は(b)のペプチドを有することを特徴とする前記[18]に記載のキット。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ発光活性を有するペプチド
[22]前記重金属イオンが、銅イオンであることを特徴とする前記[21]に記載のキット。
[23]前記ルシフェリンが、セレンテラジン又はセレンテラジン類縁化合物であることを特徴とする前記[18]〜[22]のいずれかに記載のキット。
[24]前記セレンテラジン類縁化合物が、下記化学式(1)又は(2)で表わされることを特徴とする前記[23]に記載のキット。


(式中、R1は、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアリールアルキル基、又は脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖あるいは分枝鎖のアルキル基であり、R2は、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアリールアルキル基、置換もしくは非置換のアリールアルケニル基、又は脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖あるいは分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖もしくは分枝鎖のアルケニル基、又は複素環式基であり、R3は、水素原子、又は置換もしくは非置換のアルキル基であり、X1は、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、アルコキシル基又はアミノ基であり、X2は、水素原子又は水酸基であり、Yは1〜4個の炭素原子を有する2価の炭化水素基である。)
[25]前記化学式(1)又は(2)において、R1が非置換のアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基もしくはハロゲン原子で置換されたアリールアルキル基、又はシクロヘキシル基で置換されていてもよい直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基であり、R2が非置換のアリール基、水酸基で置換されたアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基で置換されたアリールアルキル基、非置換のアリールアルケニル基、非置換の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖のアルキル基、分枝鎖のアルケニル基、又は硫黄を含む複素環式基であり、R3は、水素原子、メチル基又は2−ヒドロキシエチル基であり、X1は、水素原子、水酸基、フッ素原子、メトキシ基又はアミノ基であり、Yはメチレン基、エチレン基、プロピレン基又はビニレン基であることを特徴とする前記[24]に記載のキット。
[26]前記化学式(1)又は(2)において、R1がフェニル基、ベンジル基、p−ヒドロキシベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−クロロベンジル基、p−ブロモベンジル基、p−ヨードベンジル基、3,4−ジフルオロベンジル基、ペンタフルオロベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、メチル基、1−メチルプロピル基又は2−メチルプロピル基であり、R2がフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、ベンジル基、α−ヒドロキシベンジル基、フェニルエチル基、フェニルビニル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−メチルプロピル基、2−メチルプロぺニル基、アダマンチルメチル基、シクロペンチルメチル基又はチオフェン−2−イル基であることを特徴とする前記[24]又は[25]に記載のキット。
【0008】
なお、bFP-aqは、発光基質としてセレンテラジン(CTZ)を含むイクオリン(AQ)にカルシウムイオンを徐々に反応させて得られる化学発光活性を有する蛍光タンパク質複合体(bFP)をいう。bFPとbFP-aqは、同一物質を表わす。
また、「重金属イオンが事実上存在しない溶液」とは、溶液中に重金属イオンの量が極めて少なく、その量は、被検溶液中の重金属イオンの存在または量を判定するのに、事実上問題にならないレベルである、対照実験のための溶液のことをいう。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、極めて微量の重金属イオンを用いてルシフェラーゼ−ルシフェリン系の発光反応における発光活性を阻害する阻害方法、及びその阻害方法を用いた微量の重金属定量方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0011】
===発光活性阻害方法===
ルシフェラーゼ−ルシフェリン系の発光反応において、その発光活性を阻害するには、発光反応させるための溶液中に重金属化合物を含有させればよい。
ここで、ルシフェラーゼとは、生物発光の触媒をする酵素(発光酵素)の総称のことであり、ルシフェリンとは、ルシフェラーゼが発光する際の基質(発光基質)の総称であり、ルシフェラーゼ−ルシフェリン系の発光反応とは、ルシフェラーゼがルシフェリンを基質として触媒する発光反応のことである。この発光反応として、例えば、ヒメヒオドシエビルシフェラーゼ、ヒメヒオドシエビルシフェラーゼを構成する19kDa蛋白質(配列番号1で表されるペプチド)、ガウシアルシフェラーゼ、カルシウム結合型発光蛋白質イクオリンとカルシウムイオンを反応させることによって得られる青色蛍光蛋白質(bFP)(配列番号2で表されるペプチドをアポ蛋白質として含む)、ウミホタルルシフェラーゼ等の発光酵素と、セレンテラジン又はセレンテラジン類縁化合物等のルシフェリンによる発光反応が挙げられる。この発光反応は、市販の発光測定装置を用いて測定することができる。
【0012】
本発明において、「重金属」とは、密度が4(kg/dm)以上の金属をいい、「重金属イオン」とは、溶液中において、重金属がイオン化した状態を示す。なお、本発明では、銅イオン、カドミウムイオン、亜鉛イオン、又はニッケルイオン等の重金属イオンが好ましく利用できる。本発明では、例えば、CuCl2、CdCl2、ZnCl2、Zn(OH)2、NiCl2等の重金属化合物が利用できる。これらの重金属化合物を溶液中に添加することで、重金属イオンとして存在する。なお、発光反応溶液中のpH、温度は、反応が生じる条件であれば、特に限定はないが、pHは6〜9、温度は4℃〜37℃であることが好ましい。
【0013】
重金属イオンを含有させるには、前段階の反応系から持ち込んでもよく、重金属イオンを含有する発光活性阻害剤として発光反応溶液に添加してもよい。この際、阻害剤の形状は限定されず、阻害剤が発光反応溶液に添加する適量の重金属イオンを含有していればよい。
【0014】
===重金属イオン検出方法===
以下の実施例に記載の通り、ルシフェリン−ルシフェラーゼ系の発光反応溶液中に銅イオン、カドミウムイオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン等の重金属イオンが存在すると、その発光活性が阻害される。従って、被験溶液においてルシフェリン−ルシフェラーゼ系の発光反応を行い、その発光活性を測定し、該重金属イオンが含まれない溶液の発光強度より弱ければ、溶液中の重金属イオンの存在が示唆される。
ルシフェリン−ルシフェラーゼ系の発光反応は、上記「発光活性阻害方法」に記載の発光酵素及び発光基質を用いて行うことができる。発光酵素としては、特に、ヒメヒオドシエビルシフェラーゼを構成する19kDa蛋白質(19k0Lase)、又は青色蛍光蛋白質(bFP)を使用することが好ましい。
ヒメヒオドシエビルシフェラーゼを構成する19kDa蛋白質(19k0Lase)は、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するが、このアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が、欠失、置換もしくは付加されていても、発光活性を有していればよい。19k0Laseは、天然由来であっても、遺伝子組換えであってもよい。遺伝子組換えの19k0Laseを作製する場合、例えば、19k0Laseを大腸菌内で発現させることによって、このペプチドを作製することができる。すなわち、19k0Laseをコードする遺伝子(以下、「KAZ遺伝子」ともいう)を単離し、この遺伝子を含む発現ベクターを構築し、この発現ベクターを大腸菌などに導入し、所定の目的に合わせて発現させることによって、19k0Laseを作製できる。なお、19k0LaseにHisタグやmycタグなどのタグ配列を付加した融合蛋白質を大腸菌内で発現させることにより、各タグに対応した吸着物を用いたアフィニティークロマト法によって、融合蛋白質を容易に精製することができるようになる。
【0015】
また、青色蛍光蛋白質(bFP)は、カルシウム結合型発光蛋白質のアポ蛋白質、セレンテラミド又はその類縁化合物、及びカルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンから構成されている蛍光蛋白質である。ここで、アポ蛋白質(アポイクオリン)は、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するが、このアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が、欠失、置換もしくは付加されていても、発光活性を有していればよい。また、青色蛍光蛋白質(bFP)調製のためのイクオリンは、組換え体でも良く、天然から単離されたものでもよい。天然からの単離方法は、Johnsonと Shimomuraが報告している文献(Johnson, F.H. & Shimomura, O (1978) Methods Enzymol.57: 271-328)に従って精製することができる。
【0016】
セレンテラミド又はその類縁化合物は、下記式(3)又は式(4)で表される。


【0017】
ここで、式中、R1は、例えば、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアリールアルキル基、又は脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖あるいは分枝鎖のアルキル基である。好ましくは、非置換のアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基もしくはハロゲン原子で置換されたアリールアルキル基、又はシクロヘキシル基で置換されていてもよい直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基である。さらに好ましくは、フェニル基、ベンジル基、p−ヒドロキシベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−クロロベンジル基、p−ブロモベンジル基、p−ヨードベンジル基、3,4−ジフルオロベンジル基、ペンタフルオロベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、メチル基、1−メチルプロピル基又は2−メチルプロピル基である。
2は、例えば、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアリールアルキル基、置換もしくは非置換のアリールアルケニル基、又は脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖あるいは分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖もしくは分枝鎖のアルケニル基、又は複素環式基である。好ましくは、非置換のアリール基、水酸基で置換されたアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基で置換されたアリールアルキル基、非置換のアリールアルケニル基、非置換の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖のアルキル基、分枝鎖のアルケニル基、又は硫黄を含む複素環式基である。さらに好ましくは、フェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、ベンジル基、α−ヒドロキシベンジル基、フェニルエチル基、フェニルビニル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−メチルプロピル基、2−メチルプロぺニル基、アダマンチルメチル基、シクロペンチルメチル基又はチオフェン−2−イル基である。
3は、例えば、水素原子、又は置換もしくは非置換のアルキル基である。好ましくは、水素原子、メチル基又は2−ヒドロキシエチル基である。
1は、例えば、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、アルコキシル基又はアミノ基であり、特に好ましくは、水素原子、水酸基、フッ素原子、メトキシ基又はアミノ基である。
2は、例えば、水素原子又は水酸基である。
Yは、例えば、1〜4個の炭素原子を有する2価の炭化水素基であり、好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基又はビニレン基である。
【0018】
好ましくは、アポ蛋白質とセレンテラミド又はその類縁化合物との複合体中の分子数の比が1:1であり、アポ蛋白質とカルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンとの複合体中の分子数の比が1:1〜4である。より好ましくは、アポ蛋白質とカルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンとの複合体中の分子数の比が1:2〜3である。なお、青色蛍光蛋白質(bFP)は、Inouyeが報告している文献(Inouye (2004) FEBS Lett. 577:105-110)に記載されているように、イクオリンより、極めて緩やかな条件で、カルシウムイオンを反応させることによって作製することができる。また、半合成イクオリンも同様に、Inouyeらが報告している文献(Inouye and Sasaki (2006) FEBS Lett. 580:1977-1982)に記載されているように、カルシウムイオンとゆっくり反応させることにより調製できる。すなわち、イクオリンは、カルシウム結合型蛋白質の一種であり、アポ蛋白質であるアポイクオリンの内部にセレンテラジンが配位した状態で存在するのであるが、カルシウムイオンとの反応によって、イクオリンに配位したセレンテラジンが、セレンテラミドと二酸化炭素に分解されるため、それを極めて緩やかな条件で行うことによって、セレンテラミドを、イクオリン内部に配位したままにすることができる。
【0019】
例えば、高粘度のカルシウム結合型発光蛋白質溶液に、非常に希薄なカルシウムイオン等の溶液を重層し、低温で長時間にわたって反応させればよい。この場合、反応温度は、好ましくは0℃〜30℃、より好ましくは4℃である。また反応時間は、蛋白質の濃度によっても異なるが、24時間以上であることが好ましい。この際、カルシウムイオンの濃度は小さい方が好ましい。カルシウムイオンの濃度が小さい方が好ましい。カルシウムイオンの濃度が小さければ、カルシウムイオンがカルシウム結合型発光蛋白質と接触(反応)する頻度が低くなるからである。逆に、カルシウム結合型発光蛋白質溶液の濃度は高い方が好ましい。蛋白質複合体溶液の濃度が高ければ、蛋白質複合体溶液の粘度も高くなり、カルシウムイオン溶液と蛋白質複合体溶液との混合がゆっくり進行するからである。
具体的には、10-7M(mol/l)以下の濃度のカルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価もしくは3価のイオンの水溶液を、カルシウムイオン結合型発光蛋白質に対して1〜4のモル比となるように添加して、両者を反応させる。カルシウムイオン等のイオンとカルシウムイオン結合型発光蛋白質のモル比は、反応が緩やかに進められるならば、目的とする化学発光活性を有する蛍光蛋白質(bFP)における分子数の比以上(例えば、4以上)であっても構わない。本発明で必要とされる反応条件を達成するためには、反応容器のデザインの変更、溶媒の選択、半透膜の使用等のバリエーションが考えられ、本明細書に記載されたものに限定されるものではない。
ここで、発光基質は、セレンテラジン又はセレンテラジン類縁化合物であることが好ましく、これらの化合物は、下記化学式(1)又は(2)で表わされる。これらの化合物は、化学合成によって作製してもよいし、市販のものでもよい。


【0020】
式中、R1、R2、R3、X1、X2、及びYは、上記の通りである。
被験溶液において重金属イオンを検出する方法は、以下の通りである。まず、事実上重金属イオンが存在しない溶液において、ルシフェリン−ルシフェラーゼ系の発光反応を行い、この発光反応において生じる発光活性を測定し、得られた値を第1の値とする。次に、被験溶液を用いてこの発光反応と同じ条件で発光反応を行い、被験溶液における発光活性を測定し、第2の値とする。最後に、重金属イオンが存在しない溶液に対する第1の値と、被験溶液に対する第2の値を比較する。第2の値が、第1の値と同じ又は第1の値よりも高い場合、被験溶液に存在する重金属イオンは「無」と判断する。一方、第2の値が、第1の値よりも低い場合、被験溶液に存在する重金属イオンは「有」と判断する。
なお、「重金属イオンが存在しない溶液」の調製において、被験溶液と必ずしも組成が同じでなくても構わないが、最も好ましくは、被験溶液から、重金属イオンを除去する処理を行えばよい。例えば、この溶液を重金属吸着剤、キレート剤、イオン交換カラム等で処理したり、重金属を化学反応で不溶性の塩にして沈殿させたりすればよい。
【0021】
===重金属イオン定量方法===
以下の実施例に記載の通り、ルシフェリン−ルシフェラーゼ系の発光反応における発光活性の阻害は、溶液中に存在する重金属イオン(例えば、銅イオン、カドミウムイオン、亜鉛イオン等)の濃度に比例する。従って、所定濃度の重金属イオン存在下において、ルシフェリン−ルシフェラーゼ系の発光反応において生じる発光活性の値を予め測定し、標準曲線を作成しておけば、被験溶液中の発光活性の値を測定することよって、被験溶液中の重金属イオンを定量することができる。
ここで用いられるルシフェリン−ルシフェラーゼ系の発光反応は、上記「重金属イオン検出方法」の発光反応と同様に行うことができる。その反応を用いて重金属イオンを定量するには、まず、複数の濃度の重金属イオン存在下において、ルシフェリン−ルシフェラーゼ系の発光反応において生じる発光活性の値を測定し、これらの値と、重金属イオン濃度との相関関係を求める。すなわち、例えば検量線を作成することができる。次に、被験溶液を用いて、この発光反応と同じ条件で発光反応を行い、被験溶液における発光活性の値を測定する。最後に、先に求めた相関関係より、被験溶液における値から、被験溶液に存在する重金属イオンの濃度を算出する。この方法により、被験溶液中に存在する、約10nMというような微量の重金属イオンを測定することができる。
【0022】
本発明は、重金属イオンを検出するためのキットとして用いることができる。このキットには、発光酵素(19kDa蛋白質、又は青色蛍光蛋白質(bFP))と、発光基質(例えば、セレンテラジン又はセレンテラジン類縁化合物)を含んでいることが好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明するが、これは例示であって、本発明をこの実施例に限定するものではない。
【0024】
===KAZ遺伝子発現ベクターの構築===
本実施例では、以下に記載の通り、常温発現ベクター又は低温発現ベクターを用いて19kOLaseを作製した。
【0025】
(1)常温発現ベクターを用いたKAZ遺伝子発現ベクターの構築
大腸菌内で、大腸菌生育の至適温度である37℃で組換え蛋白質を発現させる発現ベクター系(以下、この至適温度での発現系を「常温発現系」ともいう)を用いた。
まず、19kOLaseをコードするKAZ遺伝子DNA断片を、PCR法を用いて調製し、このDNA断片を、市販のヒスチジンタグを有する常温発現ベクターpTrcHis−Bベクター(インビトロゲン社製)に挿入することによって、KAZ遺伝子発現ベクターを作製した。具体的には、pKAZ−412(Inouye,S, Watanabe, K., Nakamura, H., Shimomura, O.(2000)FEBS Lett.481:19-25.)を鋳型としてPCRプライマーペア:KAZ−3(5’ ccgGCTAGCTTTACGTTGGCAGATTTCGTTGGA 3’)(配列番号3)及びT7−BcaBEST(5’ TAATACGACTCACTATAGGG 3’)(配列番号4)を用いて、PCRキット(日本ジーン社製)にてPCR(サイクル条件:25サイクル;1分/94℃、1分/50℃、1分/72℃)を行った。得られたDNA断片をPCR精製キット(キアゲン社製)で精製し、制限酵素NheI/XhoIで消化した後、pTrcHis−Bの制限酵素NheI/XhoI部位に挿入することによって、発現ベクターpHis−KAZを構築した。なお、DNA シークエンサー(ABI社製)により配列を決定することにより、塩基配列の確認を行った。
【0026】
(2)低温発現ベクターを用いたKAZ遺伝子発現ベクターの構築
低温で機能するcsp (cold shock protein)プロモーターを有する低温発現ベクターpCold II(タカラバイオ株式会社)を用いて、10〜15℃で発現誘導できるベクターを構築した(以下、「低温発現系」ともいう)。
具体的には、前述のpTrcHisB を用いたKAZ遺伝子発現ベクターpHis-KAZをテンプレートとし、N末端にNdeI(KAZ-17N/NedI:5’ gcg CATATGTTTACGTTGGCAGATTTCGTT 3’)(配列番号5)及びC末端にEcoR Iサイトを付加させるようプライマー(KAZ-12C/EcoRI: 5’ cgcGAATTCTTAGGCAAGAATGTTCTCGCAAAGCCT 3’)(配列番号6)を設計しPCR(サイクル条件:25サイクル;1分/94℃、1分/50℃、1分/72℃)を行って得られたKAZ遺伝子断片を、PCR精製キット(キアゲン社製)で精製し、Nde I及びEcoR Iで消化後、pCold II(タカラバイオ株式会社)のNde I/EcoR I部位に挿入し、発現ベクターpCold-KAZを作成した。なお、DNA シークエンサー(ABI社製)により配列を決定することにより、塩基配列の確認を行った。なお、pCold-KAZがコードする蛋白質は、アミノ末端に6個のヒスチジン配列を有するため、ニッケルキレートゲルによるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる。
【0027】
===低温発現ベクターによる組換え19k0Laseの調製===
(1)大腸菌において組換え19k0Laseを発現させるために、KAZ遺伝子が挿入された低温発現ベクターpCold-KAZを用いた。まず、pCold-KAZで大腸菌BL21(アマシャムバイオサイエンス社)を形質転換し、得られた形質転換体を固形培地上でシングルコロニーにして37℃で一晩培養後、アンピシリン(50μg/ml)を含有する10mlのLB液体培地(水1リットルあたり、バクトトリプトン10g、イーストイクストラクト5g、塩化ナトリウム5g、pH7.2)に植菌し、さらに37℃で18時間培養を行った。次いで、その培養菌を新たなLB液体培地400mlに添加し、さらにクレット測定計での菌体濁度が200クレットになるまで培養し、15℃に冷却した。冷却培養液に、ラクトースオペロン誘導剤IPTGを、最終濃度が0.1mMになるように添加し、15℃で18時間培養した。培養後、菌体を遠心回収(5,000rpm×5分間、3,000×g)し、19k0Laseの抽出出発材料とした。
【0028】
(2)培養菌体からの組換え19k0Laseの抽出
本条件では、大腸菌の中で発現した19k0Lase蛋白質は封入体となるため、得られた封入体を尿素処理によって以下のように可溶化した。
まず、集菌した菌体を50mM Tris-HCl(pH7.6)100mlに懸濁し、氷冷下で超音波破砕処理 (ブランソン社製、モデル 250)を3分間、3回行い、その菌体破砕液を10,000rpm (12,300×g)で20分間遠心し、不溶性沈澱物を得た。得られた不溶性沈澱物を、2M尿素を含む20mM Tris-HCl (pH7.6)20mlに懸濁し、この懸濁液を超音波で破砕処理し、10,000rpm (12,300×g)で10分間遠心した。この作業を再度繰り返し、最終的に得られた2M尿素不溶性沈澱物を、6M尿素を含む20mM Tris-HCl (pH7.6)30mlに懸濁し、Voltex及び超音波破砕処理で溶解させた。この溶液を一晩4℃におき、−20℃にて保存した。これを19k0Laseの精製出発材料とした。
【0029】
(3)尿素溶解画分からの組換え19k0Laseの精製
組換え蛋白質はアミノ末端に6個のヒスチジン配列を有しているので、ニッケルキレートゲルによるアフィニティークロマト法により組換え蛋白質を精製した。
まず、6M尿素溶液30mlを、6M 尿素を含む20mM Tris-HCl (pH7.6)で平衡化したニッケルキレートカラム(アマシャムバイオサイエンス社、カラムサイズ:直径1.5×5 cm)に注入して19k0Lase蛋白質を吸着させた。6M 尿素を含む20mM Tris-HCl (pH7.6)でカラムを洗浄後、19k0Laseを、6M尿素を含む0.3 Mイミダゾール(和光純薬工業社製)で溶出し、溶出液を分画した。各画分の発光活性を測定し、発光活性を有する画分を集め、この50mlの発光活性画分を5Lの0.1M炭酸アンモニウム溶液(pH 8.0)に対して、一晩4℃で透析した。
透析した発光活性画分50mlに最終濃度6Mになるように尿素を溶解させ、再度ニッケルキレートカラム(アマシャムバイオサイエンス社、カラムサイズ:直径1.5×5 cm)に注入し、6M 尿素を含む20mM Tris-HCl (pH7.6)でカラムを洗浄後、イミダゾール濃度0〜0.3Mまで直線濃度勾配で溶出させたところ、イミダゾール濃度0.08〜0.12Mの画分15mlに発光活性が溶出した。最後に、12%SDS-ポリアクリルアミド電気泳動法で、その画分が、純度は95%以上の16mgの19k0Laseを含んでいることを確認した。表1に精製収率(%)等をまとめた。
【0030】
表1:低温発現ベクターを用いた、400mlの培養菌体からの組換え19kOLaseの精製

【0031】
===常温発現ベクターによる組換え19k0Laseの調製===
pTricHis Bから構築したKAZ遺伝子発現ベクターpHis-KAZを、常温発現ベクターとして用いた。なお、菌体培養温度以外の条件は、低温発現ベクターpCold IIを用いたKAZ遺伝子発現精製法と同様であった。端的に言うと、常温(37℃)において、組換え19k0Laseを大腸菌で発現させ、得られた封入体を尿素処理(6M尿素)により可溶化し、ニッケルキレートカラム(アマシャムバイオサイエンス社、カラムサイズ:直径1.5×5 cm)に2回流すことにより19k0Lase蛋白質を精製した。この蛋白質の収率及び純度は、上記「低温発現ベクターでの組換え19kOLaseの調製法」によって得られたものと同等であった。
【0032】
===エビ由来の天然発光酵素及び19k0Laseの基質特異性===
上記のように調整したエビ由来の天然発光酵素(エビルシフェラーゼ)及び19k0Laseを用い、発光反応を測定し、各酵素の基質特異性を調べた。
すなわち、10mM EDTA−30mM Tris-HCl (pH 7.6)溶液(200μl)を反応測定用溶液とし、エビルシフェラーゼ又は精製19k0Lase(1μg)及び市販のセレンテラジン(チッソ株式会社)又はその類縁体化合物(h-セレンテラジン(チッソ株式会社)、hcp-セレンテラジン(和光純薬工業社製)、f-セレンテラジン(和光純薬工業社製)、n-セレンテラジン(和光純薬工業社製)、Bis-セレンテラジン(チッソ株式会社)、e-セレンテラジン(和光純薬工業社製))を1μg加えて撹拌し、発光測定装置Luminescencer-PSN AB2200 (アトー社製)で60秒間発光活性の測定を行い、最大発光強度(Imax)で表記した。得られた結果を表2に示す。なお、ここで用いたセレンテラジン又はその誘導体の構造は、図1に示す通りである。
【0033】
表2:組換え19kOLase及びエビルシフェラーゼの基質特異性の比較

【0034】
このように、組換え19kOLaseは、エビルシフェラーゼと同様に、幅広い基質特異性を示した。特にBis-セレンテラジン及びe-セレンテラジンを用いた時、これらの酵素は、セレンテラジンを用いた時と同等の活性を示し、Bis-セレンテラジン及びe-セレンテラジンが、これらの酵素にとって好ましい基質類縁体であることがわかった。
【0035】
===エビルシフェラーゼ及び組換え19k0Laseの酵素反応速度定数===
上記のように調整したエビルシフェラーゼ及び組換え19k0Laseを用い、セレンテラジン及びBis-セレンテジンを基質として測定した発光反応開始後5秒での発光値に基づき、ラインナ−ウエーバーバーグプロット法によって酵素反応速度定数(Km、Vmax)を決定した。結果を表3に示す。
【0036】
表3:組換え19kOLase及びエビルシフェラーゼの反応速度定数の比較

Km:ミカエリス定数(反応初速度V= Vmax/2となる時の基質の濃度)
Vmax:最大速度
【0037】
セレンテラジン及びBis-セレンテラジンを基質とする場合、エビルシフェラーゼと組換え19k0LaseのKm値の比は、それぞれ1/26.6、1/32.5である。一方、組換え19k0LaseとエビルシフェラーゼのVmaxは、セレンテラジンを基質とした場合、組換え19k0Laseはエビルシフェラーゼの約20%の活性であり、Bis-セレンテラジンを基質とした場合、組換え19k0Laseはエビルシフェラーゼと同等の活性であった。
【0038】
===青色蛍光蛋白質(bFP)の調製法===
青色蛍光蛋白質(bFP)調製法は、本発明者らの報告(FEBS Lett. 577:105-110.)に従って調製した。具体的な調製方法は、以下の通りである。
【0039】
(1)組換えアポイクオリンの大腸菌での発現
まず、大腸菌において組換えアポイクオリンを発現させるために、ベクターとして、アポイクオリン遺伝子を有するpAQ440(特開昭61-135586号公開公報参照)から構築した、アポイクオリン遺伝子発現ベクターpiP-HE(特開平1-132397号公開公報参照)を用いた。宿主として大腸菌WA802株を使用し、常法によりpiP-HEでこの菌株を形質転換した。得られた形質転換株を30℃で一晩培養後、アンピシリン(50μg/ml)を含有する50mlのLB液体培地(水1リットルあたり、バクトトリプトン10g、イーストイクストラクト5g、塩化ナトリウム5g、pH7.2)に植菌し、さらに30℃で8時間培養した。次いで、その培養物を新たなLB液体培地に2リットル添加し、37℃で一昼夜(18時間)培養した。培養後、菌体と培養液を低速度遠心分離(5000×g)によって分離した。菌体及び培養液はともに発現した組換えアポイクオリンを含むため、それぞれ保存し、イクオリンの精製出発材料とした。
【0040】
(2)培養菌体からのイクオリン(AQ)の精製
集菌した菌体を、還元剤であるジチオスレイトール(DTT、和光純薬社製)200mgを含む400mlの50mM Tris-HCl、10mM EDTA、pH7.6の緩衝液中に懸濁し、氷冷下において超音波破砕装置で2分間処理して菌体を破砕し、12000×gで20分間遠心後、上澄み液を回収した。化学合成したセレンテラジンを少量のメタノールに溶解し、得られた上澄み液に産生アポイクオリンの1.2倍のモル濃度になるように添加し、4℃で5時間以上放置した。この上澄み液を直に、20mM Tris-HCl、10mM EDTA、pH7.6の緩衝液で平衡化したQ-セファロースカラム(ファルマシア製、直径2cm×10cm)に添加してイクオリンを吸着させ、カラムから流出する洗浄液の280nmでの吸光度が0.05以下になるまで20mM Tris-HCl、10mM EDTA、0.1M NaCl、pH7.6でカラムを洗浄した。そして、カラムに吸着したアポイクオリンとイクオリン画分を0.1M NaCl〜0.4M NaClの直線濃度勾配で溶出させた。
セレンテラジンと複合体を形成したイクオリンと複合体を形成しなかったアポイクオリンの分離は、疎水性クロマトグラフィーであるブチルセファロース4ファーストフローゲルを用いて行った。すなわち、Q-セファロースカラムからのオレンジ色の溶出液を、硫酸アンモニウムの最終濃度が2Mになるように調整し、次いで、不溶画分を遠心分離によって除去し、その上澄み液を、2M-硫酸アンモニウムを含有する20mM Tris-HCl、10mM EDTA、pH7.6で平衡したブチルセファロース4ファーストフローカラム(ファルマシア社、カラムサイズ:直径2cm×8cm)に通し、硫酸アンモニウム濃度1Mまで直線濃度勾配により溶出し、化学発光活性を有するオレンジ色のイクオリン画分を回収した。一方、アポイクオリンは、20mM Tris-HCl、10mM EDTA、pH7.6でのみ溶出した。
イクオリン画分について、還元状態で12%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEによる分析を行った。その結果、精製画分について分子量25kDa蛋白質に相当する単一バンドが検出され、その純度はデンシトメーターでの測定では98%以上であった。菌体からのイクオリンの回収率は約80%で、このようにして80mgの高純度のイクオリン(AQ)を得た。
【0041】
(3)培養液からのイクオリン(AQ)の精製
培養液からアポイクオリンを精製する方法は、特開平1-132397号公報の記載に基づいて実施した。すなわち、0.1M酢酸水溶液を用いて培養液を酸性化に処理し、pH5以下にして、4℃60分間以上放置した。白色沈殿となったアポイクオリンを遠心分離によって単離し、これを還元剤を含む上述の緩衝液に溶解させた。そして、菌体からのイクオリンの精製工程と同様に、イクオリンを形成した後、Q-セファロースカラムクロマト法、ブチルセダロース4ファーストカラムクロマト法を用いて、純度98%以上のイクオリンを得た。
得られた精製イクオリンについて、還元状態で12%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEによる分析を行った。その結果、精製画分について分子量25kDa蛋白質に相当する単一バンドが検出され、その純度はデンシトメーターでの測定では98%以上であった。菌体からのイクオリンの回収率は約90%で、このようにして45mgの高純度のイクオリン(AQ)を得た。
【0042】
(4)イクオリン(AQ)の濃縮
10mM Tris-HCl(pH7.6)、2mM EDTA、1.2M硫酸アンモニウムを含む緩衝液で、イクオリン濃度が8mg/mlのイクオリン溶液を調製した。
このイクオリン溶液1mlを、高速限外濾過フィルターである分画分子量10,000のポリエーテルスルホン膜を有するビバスパン2カラム(ザルトリウス社製)を用いて、冷却高速遠心機(日立社製:CR20B2型)にて、4℃で、5000×g、60分間以上遠心を行い、全量を0.1ml以下に濃縮した。さらに、濃縮溶液のEDTA濃度を、0.1μM以下に下げるために、1mlの0.1μM EDTAを含む10mM Tris-HClをビバスピン2カラムに加え、再度同一条件で遠心を行い、全量を濃縮した。このステップを最低2回繰り返し、濃縮溶液中のEDTAの濃度を0.1μM以下に抑えた。このイクオリン濃縮液は、黄赤色を呈し、肉眼で容易に確認できた。
【0043】
(5)bFP-aqの調製
ビバスピン2カラム内で上記の方法によって作製した濃縮イクオリン溶液に、0.9mlの5mM塩化カルシウム(和光純薬社製)、2mMジチオスレイトール(和光純薬社製)を含む50mM Tris-HCl(pH7.6)を重層し、連続発光を開始し、4℃で24時間以上放置した。発光反応の終了は、イクオリン溶液の黄赤色の消失によっても確認できた。さらに、ビバスピン2カラム内へ2mlの5mM塩化カルシウム(和光純薬社製)、2mMジチオスレイトール(和光純薬社製)を含む50mM Tris-HCl(pH7.6)を加え、上記と同一条件で遠心を行い、洗浄した。生成したbFP-aqは、長波長のUVランプ(極大波長=366nm)の下で、青色の蛍光を放射することを確認した。
【0044】
===ルシフェラーゼ−ルシフェリン系の発光反応における、銅イオン添加による発光活性の阻害効果===
ルシフェラーゼ−ルシフェリン系の様々な発光反応において重金属イオンによる発光活性の阻害効果を調べるために、重金属イオンである銅イオンを用いて、以下の実験を行った。
まず、1mMの銅イオンの存在下において、200μlの100mMリン酸緩衝液(pH7.5)及び発光基質(1μg)を含む反応液に、それぞれ天然精製オプロフォーラスルシフェラーゼ(以下、「エビルシフェラーゼ」ともいう)、組換えオプロフォーラスルシフェラーゼの19kDa サブユニット(以下、「19k0Lase」ともいう)、組換えレニラルシフェラーゼ、組換えガウシアルシフェラーゼ、青色蛍光蛋白(BFP-aq)、天然ウミホタルルシフェラーゼを加えた。そして、発光測定装置Luminescencer-PSN AB2200 (アトー社製)を用いて、60秒間、発光活性の測定を行った。その結果を表4に示す。なお、相対発光活性(%)とは、コントロール(銅イオンがない場合の発光活性を100%とする)と被験溶液の最大発光強度(Imax)を比較した値である。
【0045】
表4:各種ルシフェラーゼを用いた発光反応における、1mM銅イオンの添加による発光活性の阻害効果

【0046】
その結果、1mMの銅イオンを添加すれば、ほとんどのルシフェラーゼに対し、発光反応の阻害が顕著に認められた。特に、19k0Lase及び青色蛍光蛋白において、発光反応の阻害が強く認められた。
【0047】
===19k0Laseを用いた発光反応における、各種重金属イオン添加による発光活性の阻害効果===
各種重金属イオンが発光反応をどの程度阻害するかを調べるために、以下の実験を行った。
まず、1mMの各種金属イオン及び発光基質(セレンテラジン、1μg)を含む200μlの100 mMリン酸緩衝液(pH7.5)に、19k0Lase(0.5μg)を添加し、発光反応を開始した。その後、発光測定装置Luminescencer-PSN AB2200 (アトー社製)でを用いて、60秒間発光活性を測定した。その結果を表5に示す。なお、相対発光活性(%)は、コントロール(金属イオンがない場合の発光活性を100%とする)と被験溶液の最大発光強度(Imax)を比較した値である。
【0048】
表5:19k0Laseを用いた発光反応における、1mMの各種金属イオン添加による発光活性の阻害効果

【0049】
その結果、CdCl2、ZnCl2、CuCl2、NiCl2の重金属塩において、発光活性の阻害が強く認められた。NaClにおいて阻害活性が認められないことから、Cl-イオンが阻害活性を担っていると考えられず、カドミウムイオン、亜鉛イオン、銅イオン、ニッケルイオン等の重金属イオンが阻害活性を担っていると考えられた。
以上より、ルシフェラーゼ−ルシフェリン系の発光反応において、カドミウムイオン、亜鉛イオン、銅イオン、ニッケルイオン等の重金属イオンを添加すれば、発光活性を阻害することができた。
【0050】
===19k0Laseを用いた発光反応における、各濃度の重金属イオン添加による発光活性の阻害効果===
以上より、発光活性を阻害する重金属イオンが判明したので、これらの重金属イオンの濃度と阻害効果の関係を調べるために、以下の実験を行った。
まず、塩化銅、塩化カドミウム、塩化亜鉛を用いて0.001μM〜1000μMの銅イオン、カドミウムイオン、亜鉛イオンを含む200μl の100mMリン酸緩衝液(pH7.5)を作製し、1μgの19k0Laseを溶解した。次に、この溶液に発光基質(セレンテラジン、1μg)を加え、発光反応を開始した。発光測定装置Luminescencer-PSN AB2200 (アトー社製)を用いて、60秒間発光活性を測定した。その結果を図2に示す。なお、相対発光活性(%)は、コントロール(重金属イオンがない場合の発光活性を100%とする)と被験溶液の最大発光強度(Imax)を比較した値である。
その結果、銅イオン、カドミウムイオン、亜鉛イオンにおいて、濃度依存的に発光反応の阻害が認められた。また、発光反応を50%阻害する重金属イオンは、銅イオン、カドミウムイオン、亜鉛イオンであり、それぞれの重金属イオンの濃度は、50nM、5μM、2μMであった。
【0051】
以上より、ルシフェラーゼ−ルシフェリン系の発光反応において、銅イオン、カドミウムイオン、亜鉛イオンを添加すれば、発光活性を阻害することができることが判明した。さらに、銅イオン、カドミウムイオン、亜鉛イオンにおいては、ナノモルのレベルのイオン濃度で、発光活性を阻害できることが判明した。
【0052】
===青色蛍光蛋白質(bFP)を用いた発光反応における、各濃度の銅イオン添加による発光活性の阻害===
次に、発光酵素を青色蛍光蛋白質(bFP)にした場合、銅イオンを添加することによって、どのように発光反応が変化するかを調べるために、以下の実験を行った。
まず、0.001μM〜1000μMの銅イオンを含む200μlの100 mMリン酸緩衝液(pH7.5)に、1μgの青色蛍光蛋白質(bFP)を溶解した。次に、この溶液に発光基質(セレンテラジン、1μg)を加え、発光反応を開始した。発光測定装置Luminescencer-PSN AB2200 (アトー社製)を用いて、60秒間発光活性を測定した。相対発光活性(%)は、コントロール(銅イオンがない場合の発光活性を100%とする)と被験溶液の最大発光強度(Imax)を比較した値である。その結果を図3に示す。
青色蛍光蛋白質(bFP)は、19k0Laseと同様に、銅イオンの添加によって、濃度依存的に発光反応が阻害された。また、発光反応を50%阻害する銅イオンの濃度は、200nMであった。
【0053】
以上より、ルシフェラーゼ−ルシフェリン系の発光反応において、銅イオンを添加すれば、発光活性を阻害することができること、さらに、その阻害効果はナノモルのレベルの銅イオン濃度で観察されることが判明した。また、その阻害効果は、重金属イオンの濃度依存的に増減することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】セレンテラジン及びセレンテラジン類縁化合物の構造を示す図である。
【図2】本発明の一実施例において、19k0Laseを用いた発光反応における、各種重金属イオンの添加による発光活性の阻害を、濃度依存的に検討した図である。図面中の黒丸は塩化銅を、白三角は塩化亜鉛を、黒三角は塩化カドミウムを表わす。
【図3】本発明の一実施例において、青色蛍光蛋白質(BFP-aq)を用いた発光反応における、銅イオン添加による発光活性の阻害を、濃度依存的に検討した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルシフェラーゼがルシフェリンを基質として触媒する発光反応における発光活性を阻害する方法であって、重金属イオンを含む反応系で、該発光反応を行うことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ルシフェラーゼが、以下の(a)又は(b)のペプチドを有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ発光活性を有するペプチド
【請求項3】
前記重金属イオンが、銅イオン、カドミウムイオン、亜鉛イオン、又はニッケルイオンであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ルシフェラーゼが、以下の(a)又は(b)のペプチドを有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ発光活性を有するペプチド
【請求項5】
前記重金属イオンが、銅イオンであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ルシフェリンが、セレンテラジン又はセレンテラジン類縁化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記セレンテラジン類縁化合物が、下記化学式(1)又は(2)で表わされることを特徴とする請求項6に記載の方法。


(式中、R1は、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアリールアルキル基、又は脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖あるいは分枝鎖のアルキル基であり、
2は、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアリールアルキル基、置換もしくは非置換のアリールアルケニル基、又は脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖あるいは分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖もしくは分枝鎖のアルケニル基、又は複素環式基であり、
3は、水素原子、又は置換もしくは非置換のアルキル基であり、
1は、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、アルコキシル基又はアミノ基であり、
2は、水素原子又は水酸基であり、
Yは1〜4個の炭素原子を有する2価の炭化水素基である。)
【請求項8】
前記化学式(1)又は(2)において、
1が非置換のアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基もしくはハロゲン原子で置換されたアリールアルキル基、又はシクロヘキシル基で置換されていてもよい直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基であり、
2が非置換のアリール基、水酸基で置換されたアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基で置換されたアリールアルキル基、非置換のアリールアルケニル基、非置換の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖のアルキル基、分枝鎖のアルケニル基、又は硫黄を含む複素環式基であり、
3は、水素原子、メチル基又は2−ヒドロキシエチル基であり、
1は、水素原子、水酸基、フッ素原子、メトキシ基又はアミノ基であり、
Yはメチレン基、エチレン基、プロピレン基又はビニレン基であること、
を特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記化学式(1)又は(2)において、
1がフェニル基、ベンジル基、p−ヒドロキシベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−クロロベンジル基、p−ブロモベンジル基、p−ヨードベンジル基、3,4−ジフルオロベンジル基、ペンタフルオロベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、メチル基、1−メチルプロピル基又は2−メチルプロピル基であり、
2がフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、ベンジル基、α−ヒドロキシベンジル基、フェニルエチル基、フェニルビニル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−メチルプロピル基、2−メチルプロぺニル基、アダマンチルメチル基、シクロペンチルメチル基又はチオフェン−2−イル基であること、
を特徴とする請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
被験溶液に存在する重金属イオンを検出する方法であって、
重金属イオンが事実上存在しない溶液において、ルシフェラーゼがルシフェリンを基質として触媒する発光反応を行い、前記発光反応において生じる第1の発光活性の値を測定する工程と、
被験溶液を用いて、前記発光反応と同じ条件で発光反応を行い、前記被験溶液における第2の発光活性の値を測定する工程と、
前記重金属イオンが事実上存在しない溶液に対する第1の値と、前記被験溶液に対する第2の値を比較することにより、前記被験溶液に存在する重金属イオンの有無を判断する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
被験溶液に存在する重金属イオンの濃度を定量する方法であって、
所定濃度の重金属イオンの存在下で、ルシフェラーゼがルシフェリンを基質として触媒する発光反応において生じる発光活性の値を測定し、前記値と、前記重金属イオン濃度との相関関係を求める工程と、
被験溶液を用いて、前記発光反応と同じ条件で発光反応を行い、前記被験溶液における発光活性の値を測定する工程と、
前記相関関係より、前記被験溶液における前記値から、前記被験溶液に存在する重金属イオンの濃度を算出する工程と、
を含む方法。
【請求項12】
ルシフェラーゼがルシフェリンを基質として触媒する発光反応における発光活性を阻害するための阻害剤であって、
重金属イオンを含むことを特徴とする阻害剤。
【請求項13】
前記ルシフェラーゼが、以下の(a)又は(b)のペプチドを有することを特徴とする請求項12に記載の阻害剤。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ発光活性を有するペプチド
【請求項14】
前記重金属イオンが、銅イオン、カドミウムイオン、亜鉛イオン、又はニッケルイオンであることを特徴とする請求項13に記載の阻害剤。
【請求項15】
前記ルシフェラーゼが、以下の(a)又は(b)のペプチドを有することを特徴とする請求項12に記載の阻害剤。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ発光活性を有するペプチド
【請求項16】
前記重金属イオンが、銅イオンであることを特徴とする請求項15に記載の阻害剤。
【請求項17】
前記ルシフェリンが、セレンテラジン又はセレンテラジン類縁化合物であることを特徴とする請求項12〜16のいずれかに記載の阻害剤。
【請求項18】
被験溶液に存在する重金属イオンを検出するためのキットであって、
ルシフェラーゼとルシフェリンを含むことを特徴とするキット。
【請求項19】
前記ルシフェラーゼが、以下の(a)又は(b)のペプチドを有することを特徴とする請求項18に記載のキット。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ発光活性を有するペプチド
【請求項20】
前記重金属イオンが、銅イオン、カドミウムイオン、亜鉛イオン、又はニッケルイオンであることを特徴とする請求項19に記載のキット。
【請求項21】
前記ルシフェラーゼが、以下の(a)又は(b)のペプチドを有することを特徴とする請求項18に記載のキット。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ発光活性を有するペプチド
【請求項22】
前記重金属イオンが、銅イオンであることを特徴とする請求項21に記載のキット。
【請求項23】
前記ルシフェリンが、セレンテラジン又はセレンテラジン類縁化合物であることを特徴とする請求項18〜22のいずれかに記載のキット。
【請求項24】
前記セレンテラジン類縁化合物が、下記化学式(1)又は(2)で表わされることを特徴とする請求項23に記載のキット。


(式中、R1は、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアリールアルキル基、又は脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖あるいは分枝鎖のアルキル基であり、
2は、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアリールアルキル基、置換もしくは非置換のアリールアルケニル基、又は脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖あるいは分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖もしくは分枝鎖のアルケニル基、又は複素環式基であり、
3は、水素原子、又は置換もしくは非置換のアルキル基であり、
1は、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、アルコキシル基又はアミノ基であり、
2は、水素原子又は水酸基であり、
Yは1〜4個の炭素原子を有する2価の炭化水素基である。)
【請求項25】
前記化学式(1)又は(2)において、
1が非置換のアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基もしくはハロゲン原子で置換されたアリールアルキル基、又はシクロヘキシル基で置換されていてもよい直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基であり、
2が非置換のアリール基、水酸基で置換されたアリール基、非置換のアリールアルキル基、水酸基で置換されたアリールアルキル基、非置換のアリールアルケニル基、非置換の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖のアルキル基、分枝鎖のアルケニル基、又は硫黄を含む複素環式基であり、
3は、水素原子、メチル基又は2−ヒドロキシエチル基であり、
1は、水素原子、水酸基、フッ素原子、メトキシ基又はアミノ基であり、
Yはメチレン基、エチレン基、プロピレン基又はビニレン基であること、
を特徴とする請求項24に記載のキット。
【請求項26】
前記化学式(1)又は(2)において、
1がフェニル基、ベンジル基、p−ヒドロキシベンジル基、p−フルオロベンジル基、p−クロロベンジル基、p−ブロモベンジル基、p−ヨードベンジル基、3,4−ジフルオロベンジル基、ペンタフルオロベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、メチル基、1−メチルプロピル基又は2−メチルプロピル基であり、
2がフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、ベンジル基、α−ヒドロキシベンジル基、フェニルエチル基、フェニルビニル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−メチルプロピル基、2−メチルプロぺニル基、アダマンチルメチル基、シクロペンチルメチル基又はチオフェン−2−イル基であること、
を特徴とする請求項24又は25に記載のキット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−74(P2008−74A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−172879(P2006−172879)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人 医薬基盤研究所基盤研究推進事業、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】