説明

発光素子、表示装置及び発光素子装置

【課題】
フレキシブルディスプレイへ適用可能な、透明電極を必要としない発光素子(有機EL素子)を提供すること。
【解決手段】
蛍光励起可能な波長の光Pを導波する導光層11と、この導光層11の面に積層された蛍光色素層12と、この蛍光色素層12に臨む電極面131と141が対向する対向電極13,14と、を少なくとも備える発光素子1、並びに、この発光素子1が多数配設された表示装置を提供し、更に、発光素子1の対向電極13,14に対する電界印加手段を備える発光素子装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子に係る技術に関する。より詳しくは、フレキシブルディスプレイへの適用が可能な発光素子と該発光素子を用いる表示装置並びに発光素子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイデバイスは、マン−マシンインターフェースとして、ますます需要が高まってきており、例えば、PDP(プラズマディスプレ)、FED(フィールドエミッションディスプレイ)、ELD(エレクトロルミネッセンスディスプレ)、LCD(液晶ディスプレイ)等の表示デバイスが既に実用化されている。
【0003】
これらのディスプレイは、エレクトロニクスの発展によって高精度化が進んでおり、品質、価格ともに既に成熟段階にある。この中で、自発光型の電気光学素子を用いた表示装置は、視認性がよいこと、広い視野角を有すること、高速応答が可能で動画表示に適しているなどの特徴がある。
【0004】
特に、電圧をかけると発光する有機物質を利用する有機電界発光(有機EL,organic electroluminescence)素子を用いるディスプレイは、低電力で高い輝度を得ることができ、視認性、応答速度、寿命、消費電力の点でも優れており、また、発光に関与する部分が極めて薄いことから液晶ディスプレイのように薄型化も可能である。
【0005】
例えば、特許文献1には、透明基板1と、透明基板1上の透明電極2と、透明電極2上の発光層5と、発光層5上の背面電極4とからなる電界発光素子が開示され、発光層5が、母材6となる高分子化合物と、該母材6中に含まれる発光材料(導電性高分子化合物)7とからなり、母材6には、必要に応じて蛍光色素等の発光補助材料8を含ませる技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献2〜5には、ITOなどの透明導電性材料で形成された下部電極とその対向電極との間に有機EL発光層が設けられた構成の表示装置技術が開示されている。
【特許文献1】特開平06−196055号公報。
【特許文献2】特開2005−11601号公報。
【特許文献3】特開2004−192890号公報。
【特許文献4】特開平2005−050772号公報。
【特許文献5】特開平2005−2053号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、有機EL素子は、フレキシブルディスプレイへの応用が検討されている。この有機EL素子は、一般に、一層又は多層の発光層が上下の電極の間に挟まれたサンドイッチ構造を備え、両電極により電流を発光層に印加する構造を有しており、さらには、前記発光層の光を外部に取り出せるようにする必要があるため、電極の少なくとも一方(多くは陽極(アノード))はITO(インジウム-スズ-オキサイド)等の透明電極で形成されている。しかし、このITOは、柔軟性に欠けるためフレキシブルディスプレイへの適用は難しいという技術的課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、フレキシブルディスプレイへ適用可能な、透明電極を必要としない発光素子(有機EL素子)を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、まず、蛍光励起可能な波長の光を導波する導光層と、前記導光層に積層された蛍光色素層と、該蛍光色素層に臨む電極面同士が対向する対向電極と、を少なくとも備える発光素子、並びに該発光素子が配設された表示装置を提供する。
【0010】
このような新規構成の発光素子や表示装置では、前記蛍光色素層に加えて、前記対向電極も前記導光層の片面に積層させることが可能である。即ち、本発明に係る発光素子では、従来の有機EL素子の構成とは異なって、発光層を挟む上下位置に対向電極を設ける必要がなくなるため、この発光層からの光を外部に取り出すために、フレキシブルではないITOのような透明電極を採用する必要がなくなる。
【0011】
また、本発明は、蛍光励起可能な波長の光を導波する導光層と、前記導光層に積層された蛍光色素層と、該蛍光色素層に電界印加可能に対向配置された、少なくとも一対の対向電極と、前記対向電極に対する電界印加手段と、を少なくとも備える発光素子装置を提供する。
【0012】
この発光素子装置では、前記蛍光色素層に対して高周波電界を印加することによって、蛍光を抑制又は強度変調することが可能となる。より具体的には、蛍光色素層中の蛍光色素に対して、高周波電界を印加することによって、蛍光色素に分極が生じて蛍光が抑制(クエンチ)され、また、溶液中では、蛍光色素同士の衝突による蛍光抑制効果も同時に得られる。このため、高周波電界の印加操作によって、蛍光のオンオフを自在に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る発光素子や発光素子装置では、発光層を上下に配置された対向電極でサンドイッチする従来の構造とは異なって、発光層として機能する蛍光色素層とこれに電界印加するための対向電極とを導光層上に配置させることが可能となる。この構成により、前記導光層を柔軟性のある材料で形成すれば、フレキシブルディスプレイへの適用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な形態について、添付図面を参照しながら説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明の代表的な実施形態を例示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0015】
図1は、本発明に係る発光素子、表示装置及び発光素子装置の基本的な構成を説明するための図(上:断面図、下:平面図)である。
【0016】
まず、符号1で示した発光素子は、全体として基板状の形態を備えており、選択された蛍光色素を励起できる波長の光P(図1の上断面図参照)を導波することが可能な材料によって形成されている導光層11を備えている。
【0017】
この導光層11は、選択された蛍光色素を励起できる波長の光Pを導波する材料であれば、特に限定するものではなく、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレン、ポリカーボネート等の光学的に透明な合成樹脂フィルム、および、ポリシラン等の透明シリコンゴムなどにより形成することができる。特に、柔軟性(例えば、可撓性)を有する材料を選択して形成することによって、フレキシブルな発光素子や表示装置(ディスプレイ)を製造することが可能となる。
【0018】
この導光層11の上には、発光部として機能する蛍光色素層12が直接又は間接に積層されている。この蛍光色素層12には、目的に合わせて選択された蛍光色素が所定濃度で含まれている。この蛍光色素は、前記導光層11を導波してきた所定波長の光Pが入射されたときに、励起されて蛍光を発する性質を有する。
【0019】
前記蛍光色素層12の形成方法は、特に限定されないが、例えば、導光層11に対して直接蒸着したり、若しくは合成樹脂等をバインダにして塗布したりすることにより形成できる。あるいは、水、アルコール等の溶液に蛍光色素を溶解した液体を用いてもよい。
【0020】
次に、発光素子1では、前記した蛍光色素層12を挟むように対向電極13−14が左右に振り分けられて配設されている。より具体的には、導光層11の蛍光色素層12が形成されている導光層11の同一の面に、少なくとも一対の電極13,14が積層されており、これらの電極13,14のそれぞれの電極面131,141は、蛍光色素層12に臨むように形成され、互いに対向している。
【0021】
電極13,14の材料は、目的を達成し得る充分な導電性を確保できれば、何を用いてもよいが、特に、フレキシブルな発光素子を所望する場合は、柔軟性のある金属材料、例えば、金、アルミニウム等の金属薄膜を採用し、これを蒸着等によって成膜するのが好適である。なお、蛍光色素層12とこれらの電極13,14を保護するためのカバー層(図示せず。)を設けることは、目的に応じて自由である。
【0022】
本発明では、発光部(発光層)として機能する蛍光色素層12とこれに電界印加するための対向電極13,14とを導光層11上に配置させた構造であることから、導光層11、さらには対向電極13,14を柔軟性のある材料で形成すれば、フレキシブルディスプレイへ適用することが可能となる。
【0023】
ここで、図1に示された符号Gは電源、符号Sはスイッチ、符号Lは電源Gから電極13,14に給電するための配線を示しており、これらはいずれも対向電極13,14に対する電界印加手段を構成する要素である。本発明では、スイッチSのオンオフ操作を適宜実施することによって、電極13,14を介して電界を蛍光色素層12に印加することができる。
【0024】
本発明では、蛍光を励起する光Pを、導光層11を介して蛍光色素層12に照射しながら、該蛍光色素層12に対して電極13,14を介して高周波電界を印加することにより、蛍光色素から発せられる蛍光を抑制(クエンチ)したり、蛍光強度を変調したりすることができる。
【0025】
より具体的には、蛍光色素層12に含まれている蛍光色素に対して、高周波電界を印加することによって、該蛍光色素に分極が生じて蛍光が抑制される。また、特に溶液中に蛍光色素が存在する構成では、蛍光色素同士の衝突による蛍光クエンチ作用が同時に発生する。したがって、本発明では、高周波電界を蛍光色素層12に対して印加したり、印加を止めたりする操作を行うことにより、蛍光のオンオフを自在に実施することができる。
【0026】
図2は、本発明に係る表示装置や発光素子装置の一実施形態例を示す図である。
【0027】
図2では図示しない電源Gにそれぞれ接続されている給電用の配線Lが格子状の構造(マトリックス構造)に形成されており、その各交点C付近に、上記構成の発光素子1が配設されている。
【0028】
発光素子1は、三原色RGBのいずれかに対応する蛍光色素を含む蛍光色素層12を備えており、かつ、各発光素子1に対応するスイッチSが設けられている(図2中のX部の拡大図参照)。これらスイッチS群の中から必要なスイッチSをオンにしたり、オフにしたりすることによって、所望の色調を自在に形成することが可能となる。
【0029】
このような表示装置や発光素子装置は、テレビ、コンピュータ、携帯電話、音楽関連機器など様々なディスプレイ機能付きの製品に広く利用できる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
<実施例1>。
導光層11として機能させるために準備したガラス基板上に、金蒸着により5μのギャップを有する金電極(対向電極)が設けられた試験用発光素子を作製した(図3参照)。この対向する金電極の間隙領域に対して、シアニン色素が溶解されている水溶液を液下して液滴を形成し、その上で、ガラス基板の下面より紫外光を照射した。
【0032】
本実験で用いたシアニン色素は、3,3’-(Di-n-propyl)-2,2’-oxacarbocyanine iodideである。濃度は1×10−5Mとした。対向する金電極に対して、300MHzの交流電界5Vppを印加したときの結果を図4に示した。この図4からわかるように、高周波電界の印加をオン(ON)したことに伴って蛍光強度が急激に低下し、高周波電界の印加をオフ(OFF)にすると、蛍光が即座に回復した。
【0033】
<実施例2>。
上記実施例1と同様の試験用発光素子を用いた。ポリメタクリル酸メチル(PMMA)1gをアセトン5mlに溶解し、シアニン色素を2×10−6mol/KgPMMAとなる濃度に調整した。この溶液を対向する金電極の間隙に滴下し、風乾させて電界印加を行うためのサンプルとした。続いて、実施例1と同様の電界印加操作を行ったところ、発光層に液体を用いた場合(実施例1)に比べ、応答速度が低下したが、実施例1と同様に蛍光強度の低下が認められた(図5参照)。
【0034】
このような蛍光強度の低下は、新しい現象のため、その原理は明確ではないが、発光層に注入される電気により発生する熱、発光層に含まれる蛍光物質の分極の変化、あるいはこれらの要因が複合したものが蛍光強度低下のメカニズムを担っていると推測される。
【0035】
<実施例3>。
上記実施例1と同様の試験用発光素子を用いて、周波数1MHzの時に、電圧を変えて測定した結果を図6に示した。1MHz高周波強度の条件は、1.03、2,12、4.32、6.44、8.42、10.7Vpp/umである。
【0036】
この図6からわかるように、蛍光強度が一定になるまでの時間は、電界強度によらずほぼ一定であるが、電界強度を大きくするほど、蛍光強度が低下することがわかった。即ち、電界強度を変調することによって、蛍光強度低下の応答速度を変えることなく、蛍光強度のみを変調できることがわかった。
【0037】
この電界強度と蛍光強度の関係をより詳細に検討するため、到達する蛍光強度と1MHz高周波印加電圧の関係を調べた。その結果をプロットしたものが図7である。この図7からわかるように、印加電圧を大きくすると発光量をより大きく低下させることができ、印加電圧で発光強度を変調できることが検証できた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、発光素子(有機EL素子)、表示装置(ディスプレイ装置)、発光素子装置として利用できる。例えば、フレキシブルな表示画面や表示装置として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る発光素子及び発光素子装置の基本的な構成を説明するための図(上:断面図、下:平面図)である。
【図2】本発明に係る表示装置や発光素子装置の実施形態例を示す図である。
【図3】各実施例に係る実験で使用した試験用発光素子の構成を示す図である。
【図4】実施例1に係る実験の結果を示す図面代用グラフである。
【図5】実施例2に係る実験の結果を示す図面代用グラフである。
【図6】実施例3に係る実験の結果を示す図面代用グラフである。
【図7】実施例3に係る別の実験の結果を示す図面代用グラフである。
【符号の説明】
【0040】
1 発光素子
11 導光層
12 蛍光色素層
13,14 電極(対向電極)
131,141 電極面
G 電源
L 給電用配線
P 蛍光励起光
S スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光励起可能な波長の光を導波する導光層と、
前記導光層に積層された蛍光色素層と、
該蛍光色素層に臨む電極面同士が対向する対向電極と、
を少なくとも備える発光素子。
【請求項2】
前記対向電極は、前記導光層に積層されていることを特徴とする請求項1記載の発光素子。
【請求項3】
請求項1記載の発光素子が配設されたことを特徴とする表示装置。
【請求項4】
蛍光励起可能な波長の光を導波する導光層と、
前記導光層に積層された蛍光色素層と、
該蛍光色素層に電界印加可能に対向配置された、少なくとも一対の対向電極と、
前記対向電極に対する電界印加手段と、
を少なくとも備える発光素子装置。
【請求項5】
前記蛍光色素層に対して高周波電界を印加することによって、蛍光を抑制又は強度変調することを特徴とする請求項4記載の発光素子装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−319165(P2006−319165A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−140826(P2005−140826)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】