説明

発光素子アレイの製造方法

【課題】ライン状の発光素子アレイを、複雑な制御を必要とすることなく均一化且つ簡易に作製することができる製造方法を提供する。
【解決手段】基板10上に発光素子がライン状に形成されたライン状発光素子アレイ1を製造する方法であって、有機EL材料インク19を塗布するためのライン状パターンBを基板10上に形成するパターン形成工程と、有機EL材料溶液19を液柱状に吐出可能な吐出口4aを、ライン状パターンAに沿って基板10に対して相対移動させて、吐出口4aからライン状パターンAに液柱状の有機EL材料インク19を連続的に流し込む工程と、ライン状パターンAに流し込まれた有機EL材料インク19を乾燥させて発光層18を形成する工程と、を含み、パターン形成工程では、基板10の表面に、基板10の表面よりも有機EL材料インク19に対する親液性が高いライン状パターンBを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライン状の発光素子アレイの製造方法に係り、特に、発光素子として有機ELを用いた発光素子アレイの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式のプリンタは、プリンタのみならずファクシミリ受像機、複写機の出力装置にも用いられ用途が拡大している。この電子写真方式プリンタにはプリンタヘッドが組み込まれており、このプリンタヘッドは、印刷工程中、感光ドラム表面に画像情報を静電荷によって潜像として書き込む露光プロセスで使用されている。
【0003】
プリンタヘッドは、レーザービーム(LB)スキャン方式,LEDアレイ方式があるが、このうちLBスキャン方式は回転多面体ミラーを主体とする光学系の小型化が困難であるため、装置の小型化要求に応じてLEDアレイ方式が主流になりつつある。
【0004】
従来、LEDアレイ方式は、高価なGaAs系化合物半導体エピタキシャル基板から作製したLEDアレイチップを発光素子として用いており、このLEDアレイチップを発光素子アレイの長手方向に印刷用紙の長さ分だけ多数並べて発光素子アレイを構成している。このため、LEDアレイ方式のプリンタヘッドでは、多数のLEDアレイチップを扱うことにより工程が煩雑になると共に、LEDアレイチップの配列誤差が発生する等の問題があった。
【0005】
これに対し、特許文献1では、発光素子材料として化合物半導体に代えて有機EL材料を用いたプリンタヘッドが提案されている。特許文献1に記載のプリンタヘッドでは、有機EL素子を基板上にシームレスに作製しており、LEDアレイ方式のようにLEDアレイチップの配列誤差やつなぎ部分の問題が生じず、また、LEDチップの組立てやボンディング配線が不要となり低コスト化を図ることができる。
【0006】
特許文献1のような有機EL素子による発光素子アレイの形成方法には、有機EL材料を真空蒸着法等で膜形成する方法と、有機EL材料溶液を塗布して成膜を行う塗布法(例えば、スピンコート法,インクジェット法)があるが、真空蒸着法よりも塗布法の方が製造設備等簡易であり低コストで製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−48052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、プリンタヘッドの発光素子アレイのように細長い素子を作製する場合、スピンコート法では、基板全面に有機EL材料を塗布した後に不要な部分を除去する工程が必要になるという問題や、塗布面積に対する除去面積の割合が大きく原料の利用効率が低くなってしまうという問題があった。
【0009】
これに対し、インクジェット法では、プリンタヘッドの発光素子アレイの発光部のみに有機EL材料溶液を塗布することができるので、不要部分の除去工程を必要とせず、原料の無駄を減らすことができる。
しかしながら、インクジェット法では、各発光部の位置に合わせた有機EL材料溶液の吐出口の微細な位置制御や、位置合わせ時点での有機EL材料溶液の液滴の吐出タイミング制御が必要であり、多数の発光素子を均一に形成するには、非常に複雑な制御を必要とするという問題があった。
【0010】
さらに、インクジェット法では、吐出口から液滴を垂直方向に吐出させ、且つ、液滴が基板上で分裂して周囲に飛散し、拡がってしまわないようにするために複雑な制御を必要とするという問題があった。
このように、インクジェット法では、複雑な制御を必要とするため塗布装置が高価になり、全体としてコスト高になってしまうという問題があった。
【0011】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、ライン状の発光素子アレイを、複雑な制御を必要とすることなく均一化且つ簡易に作製することができる製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明は、ライン状の発光素子アレイを製造する方法であって、有機EL材料溶液を塗布するためのライン状パターンを基板上に形成するパターン形成工程と、有機EL材料溶液を液柱状に吐出可能な吐出口を、ライン状パターンに沿って基板に対して相対移動させて、吐出口からライン状パターンに液柱状の有機EL材料溶液を連続的に流し込む工程と、ライン状パターンに流し込まれた有機EL材料溶液を乾燥させて有機EL材料層を形成する工程と、を含むことを特徴としている。
【0013】
このように構成された本発明によれば、予め有機EL材料溶液を塗布するライン状パターンを基板上に作製しておき、このライン状パターンに有機EL材料溶液を液柱状に連続塗布することによって、インクジェット法にて塗布する場合と比べて、有機EL材料溶液が塗布領域外に飛散しにくくすることができる。また、本発明では、有機EL材料溶液を吐出口から連続的に吐出させるので、インクジェット法と比べて、吐出口の位置制御及び吐出制御が簡単であり、塗布装置の構成を簡略化することができる。
【0014】
また、本発明において好ましくは、パターン形成工程では、基板上に並行する隔壁部を形成することによって、この隔壁部間に挟まれた溝状のライン状パターンを形成する。このように構成された本発明によれば、隔壁部によってライン状パターンを容易に形成することができる。また、隔壁部の間隔及び高さ等を適宜に設定することにより、溝内に配置することができる有機EL材料溶液の量を調整することができる。
【0015】
また、本発明において好ましくは、パターン形成工程では、基板の表面に、この基板の表面よりも有機EL材料溶液に対する親液性が高いライン状パターンを形成する。このように構成された本発明によれば、親液性が高いライン状パターン上に有機EL材料溶液を連続塗布すれば、有機EL材料溶液は、ライン状パターンよりも親液性が相対的に低い(撥液性が相対的に高い)周囲の領域でははじかれ、親液性が高いライン状パターン上に集まる。これにより、ライン状パターンから逸れることなく、有機EL材料溶液をライン状パターン上に配置していくことが可能である。
【0016】
また、本発明において好ましくは、パターン形成工程は、基板上にライン状の無機系正孔注入層を形成する工程と、基板の表面を撥液性処理して、無機系正孔注入層の周囲を、この無機系正孔注入層よりも有機EL材料溶液に対する撥液性が高い表面に形成する工程と、を備えている。
このように構成された本発明によれば、もともと無機系正孔注入層は親液性が相対的に高いので、有機EL材料溶液をはじきにくく、無機系正孔注入層上に有機EL材料溶液を配置し易い。そして、本発明では、さらに無機系正孔注入層を含めた基板の表面を撥液性処理することにより、無機系正孔注入層とその周囲の領域との間で、有機EL材料溶液に対する親和性の差を大きくして、無機系正孔注入層の周囲領域で有機EL材料溶液をはじき易くすると共に、周囲領域と比較してより高い親液性を有するライン状パターンを形成することができる。
【0017】
具体的には、無機系正孔注入層を、MoO3、V25又はこれらの混合物によって形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のライン状の発光素子アレイの製造方法によれば、ライン状の発光素子アレイを、複雑な制御を必要とすることなく均一化且つ簡易に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態によるライン状発光素子アレイの正面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態によるライン状発光素子アレイの製造工程を示す図である。
【図4】本発明の第1実施形態によるライン状発光素子アレイの製造工程を示す図である。
【図5】本発明の第1実施形態によるライン状発光素子アレイの製造工程を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態による作製したライン状発光素子アレイの正面図である。
【図7】図6のVII−VII線断面図である。
【図8】本発明の第2実施形態によるライン状発光素子アレイの製造工程を示す図である。
【図9】本発明の第2実施形態によるライン状発光素子アレイの製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。先ず、図1乃至図5により、本発明の第1実施形態によるライン状発光素子アレイ及びその製造方法を説明する。
図1は本発明の第1実施形態により作製したライン状発光素子アレイの正面図、図2は図1のII−II線断面図、図3乃至図5はライン状発光素子アレイの製造工程を示す図である。
【0021】
図1及び図2に示すように、プリンタヘッドに適用されるライン状発光素子アレイ1は、細長い矩形の基板10上に、第1電極(陽極)12,絶縁層14,隔壁部22,正孔注入層16,発光層18,第2電極(陰極)20が順に積層されて構成されている。
【0022】
ライン状発光素子アレイ1は、ライン状に直線配列された多数の矩形状の発光部11を有しており、発光部11の裏面(基板10側)から光を外部に照射するように構成されている。この発光部11の間隔は、プリンタの設計解像度によって決められている。なお、ライン状発光素子アレイ1は、基板10の下側に配設された図示しない駆動素子(薄膜トランジスタ)によって各発光部11を発光させるようになっている。
【0023】
基板10は、所定範囲の波長光に対して透明なガラス基板で形成されている。基板10は透明であればよく、ガラス基板に限らず、他の透明基板であってもよい。なお、ライン状発光素子アレイ1を、発光層18からの光が基板10と反対側の面から外部に照射される構成とした場合には、基板10は透明でなくてもよい。
【0024】
第1電極12は、基板10上に膜厚10nm〜10μmに形成された平面視で矩形状の複数のITO薄膜で構成されている。複数のITO薄膜は、基板10の長手方向に互いに離間しつつ全体として一列に配列されている。各ITO薄膜は、その長手方向を基板10の長手方向と直交する方向に向けて配置されている。
【0025】
また、第1電極12は、ITO薄膜を含む導電性の金属酸化物膜、半透明の金属薄膜等であってもよい。これらの形成材料は、具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及びそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)、インジウム・亜鉛・オキサイド等からなる導電性ガラスを用いて作成された膜(NESA等)や、金、白金、銀、銅等であり、好ましくは、ITO、インジウム・亜鉛・オキサイド、酸化スズである。
また、第1電極12は、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体等の有機透明導電膜であってもよい。
【0026】
第1電極12は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等で作製することができる。
また、第1電極12の膜厚は、10nm〜10μmに限らず、光の透過性と電気伝導度とを考慮して適宜選択してよい。第1電極12の膜厚は、より好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
また、第1電極12上に、電荷注入を容易にするために、フタロシアニン誘導体、導電性高分子、カーボン等からなる層、あるいは金属酸化物や金属フッ化物、有機絶縁材料等からなる平均膜厚2nm以下の層を設けてもよい。
【0027】
絶縁層14は、感光性ポリイミドからなる薄膜であり、基板10及び第1電極12の一部を除いてこれらの表面を覆うように形成されている。絶縁層14には、各第1電極12の表面の一部を露出させるように、矩形の開口部15が形成されている。各開口部15は、発光部分を規定し、複数の開口部15は、所定間隔離間してラインアレイ状に配列されている。この開口部15の間隔によりプリンタの精細度が決定される。
【0028】
正孔注入層16は、MoO3膜であり、開口部15及び開口部15の周囲の絶縁層14の一部を覆い、基板10の長手方向に連続して延びるように形成されている。
正孔注入層16は、MoO3膜以外に、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体等正孔輸送材料から形成することができる。
【0029】
発光層18は、公知の有機発光材料で形成された層であり、正孔注入層16上にこれとほぼ重なって正孔注入層16の全面を覆い、基板10の長手方向に連続して延びるように形成されている。
発光層18を形成する有機発光材料は、室温で蛍光及び/又は燐光を有する化合物であり、低分子でも高分子でもよい。好ましくは、感光ドラムに用いられる感光体材料の分光感度とマッチした発光スペクトルを有する発光材料がよい。また、好ましくは、赤色の発光又は近赤外線領域の発光を有するものがよい。
【0030】
このような有機発光材料には、例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン若しくはその誘導体、ペリレン若しくはその誘導体、ポリメチン系、キサンテン系、クマリン系、シアニン系などの色素類、8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、芳香族アミン、テトラフェニルシクロペンタジエン若しくはその誘導体、又はテトラフェニルブタジエン若しくはその誘導体、ジスチリルビフェニル系材料、ジメシチルボリル系材料、スチルベン系材料、ジピリリルジシアノベンゼン材料、ベンズオキサゾール系材料、ジスチリル系材料、カルバゾール系材料、ジベンゾクリセン系材料、アリールアミン系材料、ピレン置換オリゴチオフェン系材料、PPVオリゴマー系材料、カルバゾール系材料、ポリフルオレン系材料等が含まれる。
【0031】
また、有機発光材料として、三重項発光錯体を用いてもよい。有機発光材料として用いる三重項発光錯体には、例えば、イリジウムを中心金属とするIr(ppy)3、Btp2Ir(acac)、白金を中心金属とするPtOEP、ユーロピウムを中心金属とするEu(TTA)3phen等が含まれる。
【0032】
隔壁部(バンク)22は、感光性絶縁材料であり、開口部15の両側に並行して絶縁層14上に形成されている。隔壁部22は、通常のフォトリソグラフィ法によって作製することができる。
隔壁部22は、開口部15の両側の絶縁層14上に、ほぼ140μmの間隔を空けてそれぞれ2〜3μmの高さに形成されており、開口部15を底部とするように溝23を形成している。この2つの隔壁部22によって、その間に挟まれるようにライン状パターンAが規定されている。正孔注入層16及び発光層18は、このライン状パターンA上で、溝23の底部に積層されるように形成されている。
【0033】
第2電極20は、Ba/Al合金で形成された膜厚10nm〜10μmの薄膜であり、発光層18及び発光層18に隣接する隔壁部22の一部を覆い、基板10の長手方向に連続して延びるように形成されている。
第2電極20を形成する材料は、Ba/Al合金を含む仕事関数の小さい材料が好ましく、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウムなどの金属、およびそれらのうち2つ以上の合金、あるいはそれらのうち1つ以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうち1つ以上との合金、グラファイトまたはグラファイト層間化合物等を含む。合金には、例えば、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金等を含む。なお、第2電極20を2層以上の積層構造としてもよい。
【0034】
第2電極20は、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法等で作製することができる。
また、第2電極20の膜厚は、10nm〜10μmに限らず、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択してよい。第2電極20の膜厚は、より好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0035】
なお、本実施形態では、有機EL素子が、基板10上に、第1電極12,正孔注入層16,発光層18,第2電極20を順に積層させた構成となっているが、これに限らず、他の公知の構成を採用してもよい。
例えば、電子注入の効果を向上させるために、発光層18と第2電極20の間に電子注入層を介在させてもよい。電子注入層は、Ba、Ca、CaF、LiF、Li、NaF等の公知の電子注入層材料によって形成することができる。また、正孔輸送層や電子輸送層を形成してもよい。
【0036】
また、第2電極20と発光層18との間に、導電性高分子からなる層、あるいは金属酸化物や金属フッ化物、有機絶縁材料等からなる平均膜厚2nm以下の層を設けてもよい。さらに、第2電極20を覆うように、保護層を設けてもよい。
また、本実施形態では、第1電極12を基板10上に形成し、第2電極20を基板10から遠い側に形成していたが、これに限定されることなく、トップエミッション型,ボトムエミッション型の素子構造に応じて形成順序を選択してもよい。
【0037】
次に、上述した第1実施形態によるライン状発光素子アレイの製造方法を図3乃至図5により説明する。
先ず、図3(A)に示すように、第1電極12を形成するため、基板10に透明導電膜であるITO膜12aを形成する。
次に、図3(B)に示すように、ITO膜12a付きガラス基板10をフォトリソグラフィとエッチングによりパターニングする。これにより、基板10上にITO膜12aが所定形状にパターニングされた第1電極12を形成する。
【0038】
第1電極12を形成した後、図3(C)に示すように、開口部15を有する絶縁層14を形成する。第1電極12を露出させる開口部15は、長手方向にアレイ状に複数配列され、アレイ状発光パターンを形成している。この工程では、絶縁層14を感光性ポリイミドからなる無機絶縁膜で形成した後、フォトリソグラフィ法により開口部15を形成する。
【0039】
次に、図3(D)に示すように、アレイ状発光パターンの両側に、フォトリソグラフィ法によって、感光性絶縁材料からなる隔壁部22を形成する(パターン形成工程)。この隔壁部22によって形成される溝23は、後の工程で有機EL材料溶液(インク)を流し込む塗布領域を形成するためのライン状パターンAを規定する。溝23の幅は、有機EL材料インクをノズルコート法により連続塗布する際に、有機EL材料インクがバンク幅内の全面に広がるような寸法に設定される。
【0040】
隔壁部22を形成した後、図4(A)に示すように、隔壁部22間にMoO3膜からなる正孔注入層16を形成する。正孔注入層16の幅は、概ねバンク溝幅と同程度であればよい。
この工程では、先ず、基板10の表面側をUV−オゾン処理し、開口部15から露出したITO膜(第1電極12)表面を活性化させる。その後、シャドーマスクを利用して、マスク蒸着により、溝23に沿って開口部15を完全に覆うように、基板10の長手方向に沿ってライン状に正孔注入層16を形成する。
【0041】
次に、正孔注入層16上に発光層18を形成する。
この工程では、先ず、発光層18を形成するための材料として、有機EL材料液(インク)19を準備する。この有機EL材料インク19は、例えば、赤色発光材料(サメイション社製RP221)をアニソール、シクロヘキシルベンゼンからなる混合溶媒(混合比、50:50)に溶かして1重量%としたものである。該インクの粘度は、通常、1〜50mPa・s程度である。
【0042】
本実施形態では、図5に示すように、この有機EL材料インク19をライン塗布装置3を用いて溝23内に塗布する。
ライン塗布装置3は、図示しないインク貯留用のタンクに連結され有機EL材料インク19を吐出可能なノズル4と、ノズル4及び基板10の動作を制御するためのコントローラ5と、コントローラ5の制御信号に基づいてノズル4を基板10に対して移動させる吐出口送り機構6と、コントローラ5の制御信号に基づいて基板10を移動させる基板送り機構(図示せず)を有している。
【0043】
コントローラ5は、予めユーザーによって設定されたノズル4の移動速度、基板10の移動速度、ノズル4からのインク吐出流量によって、ノズル4及び基板10の動作を制御するように構成されている。また、コントローラ5は、位置合わせ機構及び位置検出機構によってノズル4の基板10に対する相対位置を特定し、特定した位置情報に基づいてノズル4及び基板10の移動制御を行う。
ノズル4は、内径15μmの吐出口4aを有しており、コントローラ5に設定された吐出流量で、有機EL材料インク19を吐出口4aから液柱状に且つ連続的に吐出させることが可能である。
【0044】
このようなライン塗布装置3に基板10がセットされると、コントローラ5は、基板10の位置及びノズル4の位置を特定し、ノズル4を基板10に形成されている溝23の一端側よりも外側の上方に移動させる。そして、コントローラ5は、ノズル4から有機EL材料インク19を連続的に吐出させ、吐出口4aから下方に向けて吐出される有機EL材料インク19の吐出流量が安定して、有機EL材料インク19が定常的な液柱状態となるまでノズル4を待機させる。本実施形態では、吐出口4aからの吐出流量が100マイクロリットル/分となるようにインク送液圧力を調整している。
【0045】
図5に示すように、コントローラ5は、有機EL材料インク19が定常的な液柱状態となったところで、溝23の一端側から他端側に向けて、基板10に対し一定の相対移動速度でノズル4を移動させる。図5では、液柱状態の有機EL材料インク19を符号19aで示している。本実施形態では、相対移動速度を1m/秒に設定している。これにより、溝23内に、基板10の長手方向にほぼ均一に有機EL材料インク19を塗布することができる。
【0046】
図4(B)は、有機EL材料インク19が塗布された直後の状態を示している。図4(B)に示すように、有機EL材料インク19は、溝23に充填され、正孔注入層16の上部を完全に覆い、表面張力により溝23の上端部よりも上方に盛り上がった状態となっている。このように、ノズルコート後の有機EL材料インク19は、隔壁部22によって外部に拡がってしまうことなく、ライン状パターンAに保持される。
また、溝23の長手方向に均一に有機EL材料インク19を塗布するため、コントローラ5は、ノズル4によって溝23(すなわちライン状パターンA)に、いわゆる一筆書き且つ一定速度で有機EL材料インク19を塗布する。
【0047】
そして、溝23に有機EL材料インク19を塗布した後、乾燥処理することにより、図4(C)に示すように、ライン状パターンA、すなわち溝23内の正孔注入層16上に所定膜厚の有機EL材料層である発光層18が形成される。本実施形態では、膜厚100nmの発光層18が得られた。乾燥後、溝23の端部外に形成された不要部分を除去する。
【0048】
なお、発光層18の膜厚は、上述の吐出口4aの基板10に対する相対移動速度、吐出流量、有機EL材料インク19の溶液濃度、溝23の幅及び高さ等によって決定される。このため、発光素子の所定の発光特性に必要な発光層18の膜厚を設定し、この設定した膜厚から上記相対移動速度、吐出流量、溶液濃度、及び隔壁部22の形状を決定する。
【0049】
次に、図2に示すように、溝23部分にシャドーマスクを用いてBa/Al合金をパターン蒸着して第2電極20を形成する。これにより、発光層18の上面及び隔壁部22の一部が第2電極20によって覆われる。
さらに、第2電極20を形成した後、溝23上部を図示しないガラス基板とエポキシ樹脂の接着剤で封止することにより、ライン状発光素子アレイ1を作製することができる。
【0050】
上述の第1実施形態によるライン状発光素子アレイの製造方法では、予め隔壁部22によって、有機EL材料インク19を塗布するためのライン状パターンAを形成している。そして、本実施形態では、有機EL材料インク19を隔壁部22によって規定される溝23内に注入することによって、確実にライン状パターンA上に塗布し、溝23(ライン状パターンA)から外部に拡がってしまうことを防止することができる。
【0051】
さらに、本実施形態では、ノズル4から有機EL材料インク19を液柱状態にして、溝23内に連続塗布する方法を採用しているので、インクジェット法のように有機EL材料インク球が破裂して、飛散し、外部に拡がってしまうことを防止することができる。
【0052】
また、本実施形態では、ノズル4から有機EL材料インク19を液柱状態で連続塗布しているので、ノズル4と基板10とを一定な相対速度で移動させればよく、ノズル4を各開口部15で停止させる必要がない。このため、ノズル4と基板10の位置合わせや、ノズル4の移動及び吐出等の動作制御、及び塗布装置全体の構成を簡単化することができる。
【0053】
また、本実施形態では、ノズル4から有機EL材料インク19を液柱状態で連続塗布することにより、有機EL材料インク19の吐出流量の安定化、及び液柱の吐出方向の安定化を図ることが容易となる。これにより、本実施形態では、溝23内に有機EL材料インク19を均一に塗布して、発光層18の長手方向及びこれと直交する方向の塗布量の偏りを生じさせず、膜厚を均一化してライン状に並ぶ各発光部11の発光特性の均一化を容易に図ることができる。
【0054】
次に、図6乃至図9により、本発明の第2実施形態によるライン状発光素子アレイ及びその製造方法を説明する。なお、第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
図6は本発明の第2実施形態により作製したライン状発光素子アレイの正面図、図7は図6のVII−VII線断面図、図8及び図9はライン状発光素子アレイの製造工程を示す図である。
【0055】
第2実施形態のライン状発光素子アレイ7は、第1実施形態のものと同様に、基板10上に第1電極12,絶縁層14,正孔注入層16,発光層18,第2電極20が順に積層された構成を有している。
しかしながら、第2実施形態のライン状発光素子アレイ7は、第1実施形態のものと異なり、絶縁層14上に隔壁部22が形成されておらず、その代わりに絶縁層14の表面が撥液性表面14aに形成されている。
【0056】
次に、上述した第2実施形態によるライン状発光素子アレイの製造方法を図8及び図9により説明する。
図8(A)乃至図8(C)に示すように、先ず、基板10上に第1電極12及び開口部15を有する絶縁層14を形成するが、これらの工程は第1実施形態(図3(A)乃至図3(C))と同様であり説明を省略する。
【0057】
パターニングされた絶縁層14を形成した後、図8(D)に示すように、開口部15を覆うように、MoO3膜からなる正孔注入層16を形成する。正孔注入層16の幅は開口部15を完全に覆い、且つ、後の工程で有機EL材料インク19が正孔注入層16外に溢れず所定の膜厚となるように決定される。
【0058】
この工程では、先ず、基板10の表面側をUV−オゾン処理し、開口部15から露出したITO膜(第1電極12)表面を活性化させる。その後、幅200μmのシャドーマスクを利用して、マスク蒸着により、ライン状に並ぶ開口部15上に正孔注入層16を幅200μmで長手方向に延びるように形成する。
感光性ポリイミド膜である絶縁層14は、有機EL材料インク19に対して撥液性(撥インク性)を有する。これに対して、正孔注入層16には、有機EL材料インク19に対する親液性(親インク性)が高いMoO3膜が選択されている。このため、この工程では、撥液性の絶縁層14表面に、絶縁層14よりも親液性が高い正孔注入層16がライン状に形成される。
【0059】
このように、正孔注入層16には、親液性が高い無機系正孔注入層としてのMoO3膜が選択されている。親液性が高い材料としては、無機酸化物系の正孔注入材料が好ましく、例えば、酸化モリブデン(MoO3)が特に好ましいが、これ以外に五酸化バナジウム(V25)、又は酸化モリブデン(MoO3)及び五酸化バナジウム(V25)の混合物を選択することができる。
【0060】
次に、有機EL材料インク19に対する絶縁層14と正孔注入層16の親和性の差をより大きくするため、基板10の表面に撥液性処理(撥インク性処理)を行う。本実施形態の撥インク性処理は、CF4ガスによるプラズマ処理である。撥インク性処理としては、前述のようにフッ素またはフッ素化合物からなるガスから発生させたプラズマで処理する方法や、フッ素またはフッ素化合物からなるガスを含む雰囲気に基板10をさらす方法等がある。
【0061】
感光性ポリイミド膜からなる絶縁層14は、もともと有機EL材料インク19に対する撥液性が、無機系正孔注入層である正孔注入層16よりも高いが、撥液性処理を行うことによってさらに撥液性が高くなる材料が選択されている。また、正孔注入層16は、撥液性処理を行うことによって撥液性又は親液性の度合いが大きく変化しない材料が選択されている。
撥インク性処理を行うことにより、絶縁層14上での有機EL材料インク19の接触角は増大し60°になるが、正孔注入層16上での接触角は10°程度のままであり、有機EL材料インク19に対する親和性の差をより大きくすることができる。すなわち、親液性の正孔注入層16は、撥インク性処理によって親液性の度合いがほとんど変化しないが、一方、その周囲の領域はより撥液性が高くなる。
【0062】
これにより、図9(A)に示すように、撥液性(撥インク性)の絶縁層14の撥液性表面14a内に、撥液性表面14aよりも親液性(親インク性)が高い表面を有する正孔注入層16が形成され、正孔注入層16によりライン状パターンBが規定される。
本実施形態においては、パターン形成工程は、親液性の正孔注入層16と形成する工程と、基板10表面を撥液性処理する工程とを含む。
【0063】
基板10上にライン状パターンBを形成した後、このライン状パターンB上に、第1実施形態と同様のライン塗布装置3を用いて液柱状態の有機EL材料インク19を連続塗布する。このとき、図9(B)に示すように、有機EL材料インク19は、絶縁層14の撥液性表面14aではじかれ易いので、絶縁層14上には拡がらず、親液性が高い正孔注入層16上に集まる。有機EL材料インク19は、この親和性の差、正孔注入層16の幅、インク溶液濃度等によって、単位長さ当りの正孔注入層16上に保持される最大容積が決定される。なお、有機EL材料インク19の塗布条件は、第1実施形態と同一でよい。
【0064】
そして、有機EL材料インク19を塗布した後、乾燥処理することにより、図9(C)に示すように、ライン状パターンB、すなわち正孔注入層16上に所定膜厚の有機EL材料層である発光層18が形成される。本実施形態では、膜厚100nmの発光層18が得られた。
このように、本実施形態では、基板10上の撥液性表面14a内に親液性が高いライン状パターンBを形成し、親液性部分に有機EL材料インク19を塗布することにより、撥液性部分に有機EL材料インク19を拡がらせることなく、所望のライン状パターンB上に発光層18を作製することができる。
【0065】
発光層18を形成した後、図7に示すように、真空蒸着法によりBa/Al合金からなる第2電極20を発光層18上に形成する。第2電極20は、ライン状に並ぶ開口部15を覆うように、シャドーマスクを用いたパターン蒸着により所定幅で長手方向に延びるように形成する。
そして、最後にライン状の発光層18の形成された領域を、ガラス基板とエポキシ樹脂の接着剤(図示せず)で封止して、ライン状発光素子アレイ7を作製する。
【0066】
上述の第2実施形態によるライン状発光素子アレイの製造方法では、親液性の正孔注入層16の周囲表面を、予め撥インク性処理により撥液性表面14aとすることにより、ライン状パターンBを形成している。これにより、ライン状パターンB上に有機EL材料インク19を吐出させれば、ライン状パターンB外に有機EL材料インク19が拡がることなく、ライン状パターンB上に有機EL材料インク19を留めておくことができる。これにより、本実施形態では、複雑な制御を必要とせず、所定のライン状パターンB上に簡易に発光層18を形成することができる。
【0067】
また、第2実施形態において、ライン状に均一な膜厚を有する発光層18を容易に形成することができる点については、第1実施形態と同様である。
【0068】
上記実施形態では、プリンタヘッドに適用可能なライン状発光素子アレイを説明したが、これに限定されることなく、他の用途に適用されるライン状発光素子であってもよい。
【符号の説明】
【0069】
1,7 ライン状発光素子アレイ
3 ライン塗布装置
4 ノズル
4a 吐出口
5 コントローラ
10 基板
11 発光部
12 第1電極(陽極)
14 絶縁層
14a 撥液性表面
15 開口部
16 正孔注入層
18 発光層
19 有機EL材料インク
20 第2電極(陰極)
22 隔壁部
23 溝
A,B ライン状パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライン状の発光素子アレイを製造する方法であって、
有機EL材料溶液を塗布するためのライン状パターンを基板上に形成するパターン形成工程と、
有機EL材料溶液を液柱状に吐出可能な吐出口を、前記ライン状パターンに沿って前記基板に対して相対移動させて、前記吐出口から前記ライン状パターンに液柱状の有機EL材料溶液を連続的に流し込む工程と、
前記ライン状パターンに流し込まれた有機EL材料溶液を乾燥させて有機EL材料層を形成する工程と、を含み、
前記パターン形成工程では、前記基板の表面に、この基板の表面よりも前記有機EL材料溶液に対する親液性が高いライン状パターンを形成することを特徴とする発光素子アレイの製造方法。
【請求項2】
ライン状の発光素子アレイを製造する方法であって、
有機EL材料溶液を塗布するためのライン状パターンを基板上に形成するパターン形成工程と、
有機EL材料溶液を液柱状に吐出可能な吐出口を、前記ライン状パターンに沿って前記基板に対して相対移動させて、前記吐出口から前記ライン状パターンに液柱状の有機EL材料溶液を連続的に流し込む工程と、
前記ライン状パターンに流し込まれた有機EL材料溶液を乾燥させて有機EL材料層を形成する工程と、を含み、
前記パターン形成工程は、
前記基板上にライン状の無機系正孔注入層を形成する工程と、
前記基板の表面を撥液性処理して、前記無機系正孔注入層の周囲を、この無機系正孔注入層よりも前記有機EL材料溶液に対する撥液性が高い表面に形成する工程と、を備えることを特徴とする発光素子アレイの製造方法。
【請求項3】
前記無機系正孔注入層を、MoO3、V25又はこれらの混合物によって形成することを特徴とする請求項2の発光素子アレイの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−124176(P2012−124176A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−36047(P2012−36047)
【出願日】平成24年2月22日(2012.2.22)
【分割の表示】特願2007−113948(P2007−113948)の分割
【原出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】