説明

発光素子表示装置及び発光制御方法

【課題】リアルタイムに高い精度で電圧を補正することにより、輝度シェーディングを改善することのできる発光素子表示装置を提供する。
【解決手段】各画素に配置された自発光体である発光素子に、階調値に基づく電流を流すことにより、発光させて表示を行う発光素子表示装置において、電圧補正部250は、アノード電極部220及びカソード電極部230から最も遠い画素である画素P640のカソード側の電圧Vc640を、電圧取得線262を介して取得し、補正電圧を算出する。算出された補正電圧は、電圧印加線264に印加され、カソード電圧Vc640を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子表示装置及び発光制御方法に関し、より詳しくは、階調値に基づく電流を流すことにより、自発光体である発光素子に発光させて表示を行う発光素子表示装置及びその発光制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機発光ダイオード(Organic Light Emitting Diode)に代表される有機EL(Organic Electro-luminescent)素子と呼ばれる自発光体を用いた画像表示装置(以下、「有機EL表示装置」という。)が実用化段階にある。この有機EL表示装置は、従来の液晶表示装置と比較して、自発光体を用いているため、視認性、応答速度の点で優れているだけでなく、バックライトのような補助照明装置を要しないため、更なる薄型化が可能となっている。
【0003】
図11には、このような有機EL表示装置の一例である有機EL表示装置800の構成のうち、基板802、ドライバ素子804及びフレキシブル基板806が示されている。基板802は、640×480の画素を有する画面808を有しており、狭額縁を実現するために、画面の片側(図面右側)からのみ電力を供給する構成となっている。図12は、画面808の一行分の画素の回路構成において、片側からのみ電力が供給される様子を模式的に表した図である。この図12に示されるように、電流は、アノード電極部812からアノード配線816を経由して、発光素子820を流れ、カソード配線818を経由してカソード電極部814に流れる。
【0004】
アノード配線816及びカソード配線818は各画素間に抵抗を有しているため電圧降下を生じ、給電側から遠い発光素子のアノードは電圧が低く、また、給電側に近い発光素子のカソード側の電圧は低くなる。したがって、図13のグラフに示されるように、給電側に近い画素の発光素子の両端に掛かる電位差は大きく、給電側から遠い発光素子の両端に掛かる電位差は小さくなる傾向にある。ここで、給電側に最も近い画素のアノード電圧をVa1、カソード電圧Vc1とすると共に、給電側から最も遠い画素のアノード電圧をVa640、カソード電圧Vc640としている。
【0005】
このため、図14に模式的に示されるように、給電側に近い程画面が明るく、遠いほど画面が暗いという輝度シェーディングの現象が生じている。
【0006】
このような輝度シェーディングを改善するために、特許文献1は、予めアノード列の配線の抵抗値を計算し、電圧を印加する行に応じて変化させることについて開示すると共に、電流検知及び温度検知を行い、これらを考慮して印加する電圧を決定することについても開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−142432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の特許文献1に記載されたような対策は、画面全体から見た輝度シェーディングを改善するためには有効である。しかしながら、画素間の抵抗値には、ばらつきがあると共に、画像によって、画素ごとに流れる電流は異なることから降下する電圧も異なり、予め補正すべき正確な電圧値を求めることは難しく、リアルタイムに画像に応じた対応をするためには改良の余地があった。
【0009】
本発明は、上述の事情を鑑みてしたものであり、リアルタイムに高い精度で電圧を補正することにより、輝度シェーディングを改善することのできる発光素子表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発光素子表示装置は、階調値に基づく電流を流すことにより、自発光体である複数の発光素子に発光させて表示を行う発光素子表示装置において、前記複数の発光素子に接続された配線と、前記配線の第1位置における電圧を取得し、前記取得した電圧に基づいて算出された補正電圧を前記配線の第2位置に印加する電圧補正部と、を備えることを特徴とする発光素子表示装置である。
【0011】
また、本発明の発光素子表示装置は、前記配線に電圧を印加する電極を更に有し、前記第1位置は、前記複数の発光素子のうち、前記電極からの配線距離が最も長い位置に配置された前記発光素子に最も近い位置である、とすることができる。
【0012】
また、本発明の発光素子表示装置は、前記第1位置は、前記発光素子の下流側の配線上にある、とすることができる。
【0013】
また、本発明の発光素子表示装置は、前記第1位置及び前記第2位置は同一の位置である、とすることができる。
【0014】
また、本発明の発光素子表示装置は、前記第1位置及び前記第2位置はそれぞれ複数である、とすることができる。
【0015】
また、本発明の発光素子表示装置は、前記発光素子は有機発光ダイオードである、とすることができる。
【0016】
また、本発明の発光素子表示装置は、前記電圧補正部はオペアンプを有している、とすることができる。
【0017】
また、本発明の発光素子表示装置は、前記電圧補正部は、前記取得した電圧をデジタル値に変換するAD変換器と、前記デジタル値を用いて前記補正電圧を算出する集積回路と、を有している、とすることができる。
【0018】
また、本発明の発光素子表示装置は、前記電圧補正部は可変電源を更に有している、とすることができる。
【0019】
本発明の発光制御方法は、階調値に基づく電流を流すことにより、自発光体である発光素子に発光させて表示を行う発光素子表示装置の発光制御方法において、前記発光素子に接続された配線の第1位置における電圧を取得する電圧取得工程と、前記取得した電圧に基づく補正電圧を、前記配線の第2位置に印加する電圧印加工程と、を備える発光制御方法である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る有機EL表示装置について示す図である。
【図2】図1の有機EL表示装置の基板について概略的に示す図である。
【図3】図2の画面の一行分の画素について概略的に示す図である。
【図4】図3の電圧補正部の内部構成について示す図である。
【図5】補正後のアノード電圧及びカソード電圧の分布の様子を示す図である。
【図6】図3の電圧補正部の第1の変形例について示す図である。
【図7】図3の電圧補正部の第2の変形例について示す図である。
【図8】第2実施形態における、画面の一行分の画素について概略的に示す図である。
【図9】図8の電圧補正部の内部構成について示す図である。
【図10】補正後のアノード電圧及びカソード電圧の分布の様子を示す図である。
【図11】従来の有機EL表示装置について示す図である。
【図12】図11の有機EL表示装置の回路構成を模式的に示す図である。
【図13】アノード電圧及びカソード電圧の分布の様子を示す図である。
【図14】輝度シェーディングの様子について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の第1及び第2の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、図面において、同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
[第1実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係る有機EL表示装置100について示す図である。この図に示されるように、有機EL表示装置100は、基板200及び不図示の封止基板から構成される有機ELパネルを挟むように固定する上フレーム110及び下フレーム120と、表示する情報を生成する回路素子を備える回路基板140と、その回路基板140において生成された表示情報を基板200に伝えるフレキシブル基板130と、により構成されている。
【0023】
図2には、図1の基板200が概略的に示されている。基板200は、画面300内にマトリクス状に配置され、各々に有機EL素子260を有する画素Pと、各画素Pの有機EL素子260の発光を制御する回路(不図示)に対して、階調値に基づくデータ信号や制御信号を出力する制御ドライバ部210と、アノード線225に対して、有機EL素子260のアノード電圧を印加するアノード電極部220と、カソード線235に対し、有機EL素子のカソード電圧を印加するカソード電極部230と、を備えている。ここで、制御ドライバ部210は、後述する電圧補正部250を有している。なお、本実施形態の画面300は、640×3(R,G,B)×480の画素数を有する画面であることとするが、図2においては、図が煩雑にならないように画素Pの数を減らし、簡略化して記載している。また1画素は複数のサブ画素、例えば赤画素R、緑画素G、青画素Bによって構成されるが、本実施形態では1種のサブ画素のみ記載して説明する。本発明は画素の種類に関係なく適用することができる。
【0024】
図3は、図2の画面300内の一行分640個の画素Pについて概略的に示す図である。図2と同様に画素Pの数は簡略化して示している。図面の最も右側の画素P1は、アノード電極部220及びカソード電極部230からの配線距離が最も短く、図面の最も左側の画素P640は、アノード電極部220及びカソード電極部230からの配線距離が最も長い画素である。以後カソード電極部230の電位を基準として説明する。ここで、画素P1のアノード側の電圧をアノード電圧Va1、カソード側の電圧をカソード電圧Vc1とし、画素P640のアノード側の電位をアノード電圧Va640、カソード側の電位をカソード電圧Vc640とする。画素P640のカソード側には、電圧補正部250から、カソード電圧Vc640を取得するための電圧取得線262及び、カソード電圧Vc640を補正するための電圧印加線264が延びている。
【0025】
図4は電圧補正部250の内部構成が示されている。電圧補正部250は、オペアンプ252により構成され、そのマイナス側入力端子には、電圧取得線262から取得されるVc640が入力され、プラス側入力端子には、カソード電極部230と同電位であるアース電位が入力されている。出力端からは、2つの入力端から入力された電位の差が出力される。例えば、アース電位0Vがプラス側入力端子から入力され、+3Vがマイナス側入力端子から入力されるとすると、出力端子からは−3Vが出力される。出力された電圧は補正電圧として電圧印加線264に印加され、カソード電圧Vc640を補正する。
【0026】
図5には、補正後のアノード電圧及びカソード電圧の様子が示されている。このグラフに示されるように、カソード電圧Vc640は引き下げられ、略カソード電圧Vc1と同電位になっている。これにより、アノード電極部220及びカソード電極部230から遠い画素P640のアノード電圧Va640及びカソード電圧Vc640の差を、アノード電極部220及びカソード電極部230に近い画素P1のアノード電圧Va1及びカソード電圧Vc1の差に近づけることができる。
【0027】
したがって、本実施形態によれば、リアルタイムに、高い精度で電圧を補正することができ、輝度シェーディングを改善することができる。
【0028】
図6及び図7には、電圧補正部250の変形例について示されている。第1変形例に係る、図6の電圧補正部310は、入力されるカソード電圧Vc640をデジタル値に変換するAD変換器312と、そのデジタル値から補正電圧のデジタル値を算出する集積回路316と、集積回路316で算出された補正電圧のデジタル値を電圧に変換し、補正電圧として出力するDA変換器314と、を備えている。
【0029】
本実施形態において、電圧補正部250を電圧補正部310のようにした場合であっても、画素P640のアノード電圧Va640及びカソード電圧Vc640の差を、画素P1のアノード電圧Va1及びカソード電圧Vc1の差に近づけることができる。したがって、リアルタイムに、高い精度で電圧を補正することができ、輝度シェーディングを改善することができる。
【0030】
第2変形例に係る、図7の電圧補正部320は、図6と同様に、入力されるカソード電圧Vc640をデジタル値に変換するAD変換器322と、そのデジタル値から補正電圧のデジタル値を算出する集積回路324と、集積回路324で算出された補正電圧のデジタル値に基づいて、補正電圧を出力する可変電源326と、を備えている。
【0031】
本実施形態において、電圧補正部250を電圧補正部320のようにした場合であっても、画素P640のアノード電圧Va640及びカソード電圧Vc640の差を、画素P1のアノード電圧Va1及びカソード電圧Vc1の差に近づけることができる。したがって、リアルタイムに、高い精度で電圧を補正することができ、輝度シェーディングを改善することができる。
【0032】
ここで上述の図6及び図7の集積回路316及び324は、CPU(Central Processing Unit)等の処理装置であってもよいし、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)等のデジタル回路であってもよい。
【0033】
[第2実施形態]
本発明の一実施形態に係る有機EL表示装置の第2の実施形態について説明する。図8は、図3と同様、画面内の一行分640個の画素について概略的に示す図である。なお、有機EL表示装置の外観構成及び基板の構成については、図1及び図2に示されるものと同様であるため、説明を省略する。
【0034】
図8に示されるように、第2の実施形態では、第1の実施形態の電圧取得線262及び電圧印加線264の他に、電極側から320番目の中央付近の画素である画素P320のカソード側から、カソード電圧Vc320を取得するための電圧取得線266及び、カソード電圧Vc320を補正するための電圧印加線268が延びている。
【0035】
図9は電圧補正部255の内部構成が示されている。電圧補正部255は、図4の電圧補正部250のオペアンプを2つにし、電圧取得線266及び電圧印加線268についても補正電圧を出力し、カソード電圧Vc320についても補正できるようにしたものである。
【0036】
図10には、本実施形態における補正後のアノード電圧及びカソード電圧の様子が示されている。このグラフに示されるように、カソード電圧Vc640と共にカソード電圧Vc320は引き下げられ、略カソード電圧Vc1と同電位になっている。これにより、画素P640のアノード電圧Va640及びカソード電圧Vc640の差、並びに画素P320のアノード電圧Va320及びカソード電圧Vc320の差を、画素P1のアノード電圧Va1及びカソード電圧Vc1の差に近づけることができる。
【0037】
したがって、本実施形態によれば、リアルタイムに、高い精度で電圧を補正することができ、輝度シェーディングを改善することができる。
【0038】
なお、第1実施形態においては、電圧取得及び電圧補正の位置をそれぞれ1カ所とし、第2実施形態においては、電圧取得及び電圧補正の位置をそれぞれ2カ所としたが、3カ所以上であってもよい。
【0039】
また、上述の実施形態においては、電圧取得及び電圧補正の対象となる配線を、カソード配線としたが、アノード配線について電圧取得及び電圧補正を行ってもよい。
【0040】
また、上述の実施形態においては、電圧補正部250及び255は、制御ドライバ部210にあることとしたが、基板200上に直接形成されている等その他の場所に配置されていてもよい。
【0041】
また、上述の実施形態においては、電圧取得の位置と電圧補正の位置を略同じ位置としたが、異なる位置としてもよい。この場合には補正電圧の算出の仕方を変更することができる。
【符号の説明】
【0042】
100 表示装置、110 上フレーム、120 下フレーム、130 フレキシブル基板、140 回路基板、200 基板、210 制御ドライバ部、220 アノード電極部、225 アノード線、230 カソード電極部、235 カソード線、250 電圧補正部、252 オペアンプ、255 電圧補正部、260 有機EL素子、262 電圧取得線、264 電圧印加線、266 電圧取得線、268 電圧印加線、300 画面、310 電圧補正部、312 変換器、314 変換器、316 集積回路、320 電圧補正部、322 変換器、324 集積回路、326 可変電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
階調値に基づく電流を流すことにより、自発光体である複数の発光素子に発光させて表示を行う発光素子表示装置において、
前記複数の発光素子に接続された配線と、
前記配線の第1位置における電圧を取得し、前記取得した電圧に基づいて算出された補正電圧を前記配線の第2位置に印加する電圧補正部と、を備えることを特徴とする発光素子表示装置。
【請求項2】
前記配線に電圧を印加する電極を更に有し、
前記第1位置は、前記複数の発光素子のうち、前記電極からの配線距離が最も長い位置に配置された前記発光素子に最も近い位置である、ことを特徴とする請求項1に記載の発光素子表示装置。
【請求項3】
前記第1位置は、前記発光素子の下流側の配線上にある、ことを特徴とする請求項1に記載の発光素子表示装置。
【請求項4】
前記第1位置及び前記第2位置は同一の位置である、ことを特徴とする請求項1に記載の発光素子表示装置。
【請求項5】
前記第1位置及び前記第2位置はそれぞれ複数である、ことを特徴とする請求項1に記載の発光素子表示装置。
【請求項6】
前記発光素子は有機発光ダイオードである、ことを特徴とする請求項1に記載の発光素子表示装置。
【請求項7】
前記電圧補正部はオペアンプを有している、ことを特徴とする請求項1に記載の発光素子表示装置。
【請求項8】
前記電圧補正部は、
前記取得した電圧をデジタル値に変換するAD変換器と、
前記デジタル値を用いて前記補正電圧を算出する集積回路と、を有している、ことを特徴とする請求項1に記載の発光素子表示装置。
【請求項9】
前記電圧補正部は可変電源を更に有している、ことを特徴とする請求項8に記載の発光素子表示装置。
【請求項10】
階調値に基づく電流を流すことにより、自発光体である発光素子に発光させて表示を行う発光素子表示装置の発光制御方法において、
前記発光素子に接続された配線の第1位置における電圧を取得する電圧取得工程と、
前記取得した電圧に基づく補正電圧を、前記配線の第2位置に印加する電圧印加工程と、を備える発光制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−59522(P2011−59522A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210858(P2009−210858)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】