説明

発光装置、及び発光装置の製造方法

【課題】 バンクにより区画された開口部に均一な膜厚の有機機能層を備え、長寿命で表示品質の高い発光装置、及び発光装置の製造方法を提供する。
【解決手段】 有機材料BBからなる隔壁150aにより区画された開口部151に発光層140Bを含む機能層140を配置する、発光装置の製造方法である。基体P上に隔壁150aを形成するとともに、隔壁150aの上面の表面層におけるフッ素含有率を開口部151の内側面の表面層におけるフッ素含有率より高くし、隔壁150aによって区画される開口部151に機能層140を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置、及び発光装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL(エレクトロルミネッセンス)装置における発光層を含む有機機能層を、インクジェット法により形成する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。このようにインクジェット法を用いて有機機能層を形成する際には、バンクと呼ばれる隔壁で区画された開口部にインクジェットヘッドからインク化した機能材料を吐出した後、乾燥処理を行って発光層を形成している。
【0003】
ところで、前記開口部の内側面の機能材料に対する濡れ性によって、発光層の成膜状態に影響を与える場合がある。
そこで、インクジェット法を用いる場合、一般的にバンク(隔壁)の表面に撥液処理を施す工程が必須となる。例えば、このような撥液処理としては、CFガスを用いたプラズマ処理を行っている。
【特許文献1】特開2003−249375号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したようなCFガスを用いたプラズマ処理は等方性であることから、バンクの上面だけでなく、開口部の内側面も撥液化してしまう。
そして、開口部の内側面が撥液化されると、該開口部の内側面で機能材料が弾かれてしまうため、開口部の中央部付近で機能材料の液層の膜厚が厚く、バンクの近傍では膜厚が薄くなってしまう。このように、膜厚にバラツキのある機能材料を乾燥して成膜された発光層は平坦性が低く、膜厚の薄い部分は膜厚がある部分に比べ劣化するのが早いことから、発光層の寿命が短くなってしまう。また、例えば発光層を挟んで設けられる電極間で、膜厚の薄い発光層部分で電極間がショートするおそれがある。さらに、平坦性が低い発光層を備えた有機EL装置は表示ムラを生じることから、表示品質が低下して発光装置としての信頼性も低いものとなってしまう。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、バンクにより区画された開口部に均一な膜厚の有機機能層を備え、長寿命で表示品質の高い発光装置、及び発光装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発光装置の製造方法は、有機材料からなる隔壁により区画された開口部に発光層を含む機能層を配置する、発光装置の製造方法において、基体上に前記隔壁を形成するとともに、該隔壁の上面の表面層におけるフッ素含有率を、前記開口部の内側面の表面層におけるフッ素含有率より高くする工程と、前記隔壁によって区画される開口部に前記機能層を配置する工程と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明の発光装置の製造方法によれば、隔壁の上面の表面層におけるフッ素含有率が側面の表面層におけるフッ素含有率より高められている。ここで、例えば前記上面の表面層が、機能層となる機能液に対し撥液性となる程度のフッ素含有率となっている場合、前記開口部の内側面の表面層におけるフッ素含有率は上面に比べて低いので、前記機能液に対して前記開口部の内側面が相対的に親液性となる。よって、このような隔壁により区画された開口部に、例えばインクジェット法によって機能層の前駆体となる機能液を吐出すると、該開口部に配置された機能液は相対的に親液性となっている前記開口部の内側面に良好に接触した状態となり、したがって膜厚が均一で平坦な液層となる。
そして、開口部の内側面に良好に接触し均一な膜厚に保持された機能液を乾燥処理することで、均一な膜厚からなる機能層を形成できる。よって、本構成により得られる機能層によれば、開口部の内側面で膜厚の薄い部分が生じることがないので、例えば前記機能層を挟んで設けられる電極間の短絡が防止される。また、平坦な機能層は劣化しにくいため、発光装置の長寿命化を図ることができる。さらに、平坦な膜厚からなる機能層として例えば発光層を有し、高い表示特性を備えるとともに表示ムラを防止した信頼性の高い液層装置を製造することができる。
【0008】
また、上記発光装置の製造方法では、前記隔壁に設けられた開口部の内側面が基体の上面に対し、テーパー形状となっているのが好ましい。
このようにすれば、フッ素含有率が低く、相対的に親液性を示す開口部の内側面と機能液との接触面積を増加させることができる。したがって、前記隔壁により区画された開口部に機能液を良好に配置し、均一な膜厚の機能層を得る事ができる。
【0009】
あるいは、上記発光装置の製造方法では、前記隔壁を形成するに際し、フッ素を含有する反応ガスを用いた異方性のプラズマ処理を行うのが好ましい。
このようにすれば、異方性のプラズマ処理を施すことにより隔壁の上面の表面層にのみ選択的にフッ素が付与されるので、隔壁の上面におけるフッ素含有率を選択的に高めることで隔壁の上面に撥液性が付与される。よって、開口部の内側面は撥液性が低く、相対的に親液性となるので、前記隔壁により区画された開口部に機能液を良好に配置でき、これにより均一な膜厚の機能層を得る事ができる。
【0010】
また、上記発光装置の製造方法では、前記隔壁を形成する工程において、前記基体上に隔壁形成材料を設け、該隔壁形成材料の上面における表面層にフッ素イオンを注入した後、前記隔壁形成材料をパターニングするのが好ましい。
このようにすれば、隔壁の上面の表面層にのみフッ素イオンが選択的に注入されたものとなるので、隔壁の上面にのみ撥液性を付与することができる。よって、開口部の内側面は撥液性が低く相対的に親液性となるので、前記隔壁により区画された開口部に機能液を良好に配置でき、これにより均一な膜厚の機能層を得る事ができる。
【0011】
また、上記発光装置の製造方法では、前記隔壁を、第1の有機材料と第2の有機材料とをこの順に積層することで形成するとともに、該第2の有機材料としてフッ素含有材料を用いるのが好ましい。
このようにすると、第2の有機材料におけるフッ素含有率が隔壁の上面の表面層におけるフッ素含有率となり、前記第2の有機材料及び第1の有機材料のフッ素含有量の平均が開口部の内側面の表面層におけるフッ素含有率となる。よって、相対的にフッ素含有率の高い隔壁の上面が撥液性となって、フッ素含有率が低い開口部の内側面は前記機能液に対し相対的に親液性を示すものとなる。したがって、前記隔壁により区画された開口部に機能液を良好に配置でき、これにより均一な膜厚の機能層を得る事ができる。
【0012】
また、上記発光装置の製造方法では、前記第1の有機材料としてフッ素含有材料を用い、該第1の有機材料におけるフッ素含有率を、前記第2の有機材料におけるフッ素含有率よりも低いものとするのが好ましい。
ここで、第2の有機材料及び前記第1の有機材料のフッ素含有率の平均となる開口部の内側面におけるフッ素含有率は、該隔壁の上面を構成する第2の有機材料のフッ素含有率よりも低くなる。よって、前記隔壁により区画された開口部に機能液を良好に配置し、均一な膜厚の機能層を得る事ができる。
【0013】
また、上記発光装置の製造方法では、前記第2の有機材料の厚みを、前記第1の有機材料の厚みよりも薄くするのが好ましい。
このように、フッ素含有率が高い第2の有機材料の厚みを小さくすることで、開口部の内側面におけるフッ素含有率の加重平均値が低くなり、結果として前記の内側面におけるフッ素含有率が低下する。よって、隔壁の上面が撥液性となって、上述したように隔壁により区画された開口部に均一な膜厚の機能層を形成することができる。
【0014】
本発明の発光装置は、有機材料からなる隔壁により区画された開口部に発光層を含む機能層を備えた発光装置において、前記隔壁の上面の表面層におけるフッ素含有率は、前記開口部の内側面の表面層におけるフッ素含有率より高くなっていることを特徴とする。
【0015】
本発明の発光装置によれば、隔壁の上面の表面層におけるフッ素含有率が側面の表面層におけるフッ素含有率より高められている。ここで、例えば前記上面の表面層が、機能層となる機能液に対し撥液性となる程度のフッ素含有率を備えた場合、前記開口部の内側面の表面層におけるフッ素含有率は前記隔壁の上面に比べて低いので、開口部の内側面は相対的に機能液に対して親液性となっている。このような隔壁により区画された開口部に、例えばインクジェット法によって機能層の前駆体となる機能液を吐出すると、該開口部に配置された機能液は相対的に親液性となっている前記開口部の内側面に良好に接触した状態となり、したがって膜厚が均一で平坦な液層となる。
そして、開口部の内側面に良好に接触し均一な膜厚に保持された機能液を乾燥処理することで、均一な膜厚からなる機能層となる。よって、本構成の発光装置によれば、開口部の内側面に均一な膜厚の機能層を挟んで設けられる電極間の短絡を防止し、さらには平坦な膜厚の機能層は劣化しにくいため、発光装置の長寿命化が図られたものとなる。さらには、平坦な膜厚からなる機能層として、例えば機能層を備えた発光装置は表示ムラが防止され、信頼性が高く表示特性も高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の発光装置及び発光装置の製造方法の実施形態について図面を参照し説明する。
【0017】
(発光装置の製造方法)
はじめに、発光装置の製造方法における一実施形態として、有機EL装置(発光装置)を製造する工程について説明する。
本発明の有機EL装置(発光装置)の製造方法は、基板(基体)上に有機バンク(隔壁)を形成するとともに、該有機バンクの上面の表面層におけるフッ素含有率を、前記有機バンクの上面の表面層におけるフッ素含有率より高くする工程と、前記有機バンクによって区画される開口部に有機機能層(機能層)を配置する工程と、を備えている。なお、本実施形態においては液滴吐出法、例えばインクジェット法を用いることで、有機EL装置(発光装置)における有機機能層を製造する実施形態について説明する。なお、以下に示す手順や液体材料の材料構成は一例であってこれに限定されるものではない。
【0018】
(第1の実施形態)
はじめに、有機EL装置の製造方法の第1の実施形態について説明する。
本実施形態では、有機バンク(隔壁)を、第1の有機材料と第2の有機材料とをこの順に積層することで形成している。また、この第2の有機材料としてフッ素含有材料を用いている。
【0019】
図1及び図2は、本実施形態の有機EL装置70の製造工程を示す図である。
まず、図1(a)に示すように、例えばガラスからなる基板(基体)P上に駆動用TFT143、第1層間絶縁膜230、第2層間絶縁膜240及び画素電極141を形成する。これらは公知の方法により形成することができる。なお、画素電極141は、ボトムエミッション型の場合には、ITO等の透光性導電材料により形成される。トップエミッション型の場合には、透光性導電材料のほかアルミニウム、銀、金、プラチナ等の不透明又は光反射性を有する導電材料によって形成される。また、ITO/Alの積層膜としてもよい。
【0020】
次に、図1(b)に示すように、画素電極141の周縁部と一部平面的に重なるように、酸化シリコン等の無機絶縁材料からなる無機バンク149を形成する。具体的には、画素電極141及び平坦化絶縁膜240を覆うように酸化シリコン膜を形成した後、公知のフォトリソグラフィ技術を用いて酸化シリコン膜をパターニングし、画素電極141の表面を部分的に開口させて形成する。
【0021】
次に、基板P上に有機バンク150を形成する工程を行う。
具体的には、図1(c)に示すように、基板P上に設けられた前記無機バンク149上に、第1の有機材料B1を塗布した後、該第1の有機材料B1を乾燥(仮乾燥)する。続いて、この第1の有機材料B1上に第2の有機材料B2を塗布し、該第2の有機材料B2を乾燥(仮乾燥)する。このようにして、第1の有機材料B1と第2の有機材料B2とを順に積層した後、パターニングを行うことで開口部151を区画する有機バンク150を形成する。なお、前記第1、及び第2の有機材料B1,B2の塗布方法として、スプレーコート、ロールコート、ダイコート、ディップコート等の各種方法を適用することが可能である。
また、第1の有機材料B1及び第2の有機材料B2には、それぞれ感光性材料からなるものを用いている。また、前記第1の有機材料B1としては、後述するインクジェット工程により吐出される液体材料に対し親液性を備えたものを採用し、例えばアクリル、ポリイミド等の有機絶縁材料を用いている。一方、前記第2の有機材料B2としては、前記液体材料に対し撥液性を備えたもの、すなわちフッ素含有材料を用いている。
【0022】
ここで、液体材料に対して親液性を示す有機材料とはフッ素を全く含有していない材料にのみに限定されることはなく、該第1の有機材料B1としてフッ素含有材料を用いてもよい。すなわち、前記第1の有機材料B1を、機能液に対して撥液性を示さない程度のフッ素を含有した材料から構成してもよく、その場合に、この第1の有機材料B1については、そのフッ素含有率が前記第2の有機材料B2におけるフッ素含有率より低いものとする。
【0023】
ところで、バンクが液体材料に対して撥液性を示すフッ素含有率としては、バンクの表面層のフッ素含有率、例えば表面から100nm程度の深さまでの間のフッ素含有率が、フッ素のイオン濃度として1×1020個/cm以上であると一般的に考えられている。そこで、本実施形態では、前記第2の有機材料B2として、そのフッ素含有率、すなわちフッ素のイオン濃度が、1×1020個/cm以上のものを用いている。
【0024】
そして、公知のフォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いることで、第1の有機材料B1と第2の有機材料B2との積層体をパターニングし、開口部151を有する有機バンク150を形成する。よって、有機バンク150は、前記第1の有機材料B1から構成される第1バンク層150aと、前記第2の有機材料B2から構成される第2バンク層150bとが積層されることで構成されたものとなっている。
【0025】
なお、前記第2の有機材料B2の厚みを前記第1の有機材料B1の厚みより薄くしていることが望ましい。このように、フッ素含有率が高い第2の有機材料の厚みを小さくすることで、開口部151の内側面における表面層の中で、フッ素含有率の多い第2の有機材料B2が占める割合が少なくなり、すなわち前記開口部151の内側面におけるフッ素含有率の加重平均値が小さくなる。このように、前記の内側面におけるフッ素含有率が低下することで、開口部151の内側面におけるフッ素含有率は、有機バンク150の上面の内側面におけるフッ素含有率よりも低くなる。
【0026】
前記有機バンク150の高さは、例えば1〜2μm程度に設定され、基板P上で有機EL素子200の仕切部材として機能する。このような構成のもとに、正孔注入層や発光層の形成場所、すなわちこれらの形成材料の塗布位置とその周囲の有機バンク150との間に十分な高さの段差からなる前記開口部151が形成されたものとなっている。有機バンク150の開口部151と無機バンク149の開口部149bとは互いに連通し、画素電極141はこれらの開口部内において露出した状態となっている。
【0027】
有機バンク150を形成した後、図1(d)に示すように、有機バンク150及び画素電極141を含む基板P上の領域に対して表面処理を施す。
具体的には、親液化工程として大気圧下で酸素を反応ガスとするプラズマ処理(Oプラズマ処理)を基板Pに施す。この親液処理によって、画素電極141上及び前記第1バンク層150aの親液性をより向上させることができる。
【0028】
次いで、熱処理を行うことにより有機バンク150を安定化させるとともに、前記第2バンク層150aの撥液性をより向上させることができる。なお、熱処理の条件を制御することにより、有機バンク150を一部を軟化させて、前記開口部151の内側面が基板Pの上面に対し、鋭角をなす傾斜面となるテーパー形状にしても良い。このようなテーパー形状を備えたことで、後述する工程により開口部151に配置された有機機能層が有機バンク150の周辺で膜厚が薄くなるのを防止している。
【0029】
次に、図2(a)に示すように、基板Pの上面を上に向けた状態で正孔注入層形成材料を含む液体材料114aをインクジェットヘッド1により有機バンク150に囲まれた塗布位置(開口部151)に選択的に塗布する。正孔注入層を形成するための液体材料(機能液)114aは、正孔注入層形成材料(電荷輸送層形成材料)及び溶媒を含む。
【0030】
正孔注入層形成材料としては、ポリマー前駆体がポリテトラヒドロチオフェニルフェニレンであるポリフェニレンビニレン、1,1−ビス−(4−N,N−ジトリルアミノフェニル)シクロヘキサン、トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム、ポリスチレンスルフォン酸、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルフォン酸との混合物(PEDOT/PSS)等を例示することができる。また、溶媒としては、イソプロピルアルコール、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−イミダゾリノン等の極性溶媒を例示することができる。
【0031】
上述した正孔注入層形成材料を含む液体材料114aがインクジェットヘッド1より基板P上に吐出されると、流動性が高いため水平方向に広がろうとするが、塗布された位置を囲んで有機バンク150が形成されているので、液体材料114aは有機バンク150を越えてその外側に広がることがない。
【0032】
このとき、前記有機バンク150における前記液体材料114aに対する濡れ性によって、正孔注入層の成膜状態に影響が及ぼされる。
そこで、本実施形態では、上述したように相対的にフッ素含有率の高い有機バンク150の上面を撥液性とし、フッ素含有率が低い有機バンク150により区画される開口部151の内側面を前記液体材料114aに対し相対的に親液性としている。
【0033】
このような有機バンク150により区画された開口部151に、インクジェット法により正孔注入層(有機機能層)の前駆体となる液体材料114aを吐出すると、該開口部151に配置された液体材料114aは、上述したように開口部151の内側面が親液性となっているので、前記液体材料114aが前記開口部151の内側面に良好に接触した状態となり、したがって膜厚が均一で平坦な液層となる。
【0034】
また、前記有機バンク150に設けられた開口部151の内側面が基板Pの上面に対しテーパー形状となっているので、液体材料114aに対し親液性となる開口部151の内側面と前記液体材料114aとの接触面積を増加したものとなっている。
【0035】
続いて、加熱あるいは光照射により液体材料114aの溶媒を蒸発させて画素電極141上に固形の正孔注入層140Aを形成する。または、大気環境下又は窒素ガス雰囲気下において所定温度及び時間(一例として200℃、10分)焼成するようにしてもよい。
あるいは大気圧より低い圧力環境下(減圧環境下)に配置することで溶媒を除去するようにしてもよい。
このとき、液体材料114aからなる前記の液層は、開口部151の内側面に良好に接触し均一な膜厚に保持された状態で加熱処理されて正孔注入層140Aとなるので、均一な膜厚からなる正孔注入層140Aとなる。
【0036】
続いて、図2(b)に示すように、基板Pの上面を上に向けた状態でインクジェットヘッド1より発光層形成材料と溶媒とを含む液体材料(機能液)114bを有機バンク150内の正孔注入層140A上に選択的に塗布する。
【0037】
この発光層形成材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の高分子発光材料である、ポリフルオレン誘導体(PF)、ポリパラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリジアルキルフルオレン(PDAF)、ポリフルオレンベンゾチアジアゾール(PFBT)、ポリアルキルチオフェン(PAT)や、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)等のポリシラン系などを好適に用いることができる。また、これらの発光材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
【0038】
前記発光層形成材料については、極性溶媒に溶解または分散させて液体材料とし、この液体材料をインクジェットヘッド1から吐出するのが好ましい。極性溶媒は、前記発光材料等を容易に溶解または均一に分散させることができるため、インクジェットヘッド1のノズル孔での発光層形成材料中の固型分が付着したり目詰りを起こすのを防止することができる。
【0039】
このような極性溶媒として具体的には、水、メタノール、エタノール等の水と相溶性のあるアルコール、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルイミダゾリン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、2,3−ジヒドロベンゾフラン等の有機溶媒または無機溶媒が挙げられ、これらの溶媒を2種以上適宜混合したものであってもよい。
【0040】
液体材料114bをインクジェットヘッド1から吐出することによる発光層の形成は、赤色の発色光を発光する発光層形成材料を含む液体材料、緑色の発色光を発光する発光層形成材料を含む液体材料、青色の発色光を発光する発光層形成材料を含む液体材料を、それぞれ対応する画素(開口部151)に吐出し塗布することによって行う。なお、各色に対応する画素は、これらが規則的な配置となるように予め決められている。
【0041】
このようにして各色の発光層形成材料を含む液体材料114bを吐出し塗布したならば、液体材料114b中の溶媒を蒸発させる。この工程により、図2(c)に示すように正孔注入層140A上に固形の発光層140Bが形成され、これにより正孔注入層140Aと発光層140Bとからなる有機機能層140が得られる。ここで、発光層形成材料を含む液体材料114b中の溶媒の蒸発については、必要に応じて加熱あるいは減圧等の処理を行うが、発光層形成材料は通常乾燥性が良好で速乾性であることから、特にこのような処理を行うことなく、したがって各色の発光層形成材料を順次吐出塗布することにより、その塗布順に各色の発光層140Bを形成することができる。
【0042】
また、上述したように、有機バンク150は上面が撥液性で、側面(開口部151の内側面)が親液性となっているので、この正孔注入層140A上に形成される発光層140Bも有機バンク150との接触面で良好に接触し、良好な平坦性を持って形成されたものとなる。従って、均一かつ良好な発光特性、及び信頼性を備えた発光層140Bを製造できる。
【0043】
その後、図2(c)に示すように、基板Pの表面全体に、あるいはストライプ状に、ITO等からなる共通電極154を形成する。なお、共通電極154上に酸素等の侵入を防止するための電極保護層を設けてもよい。このようにして、有機EL素子200が製造できる。
【0044】
そして最後に、上記有機EL素子200が設けられた基板Pと封止基板(図示しない)との貼り合わせを行う。ここでは、まず、基板P上に形成した共通電極154の面上に、共通電極154を覆う様に封止樹脂層30を配置した後、減圧雰囲気下において封止基板40を封止樹脂層30上に配置し接着することによって行うことにより図3に示すような有機EL装置70が得られる。
このように、減圧雰囲気下で接着を行うことにより、封止樹脂層30と基板Pとの間、もしくは封止樹脂層30と封止基板40との間に気泡が侵入することを防止できる。このため、気泡を介して発光層140Bに酸素及び水分が侵入することが防止され、発光層140Bの発光特性や寿命の低下を抑制できる。以上の工程により、有機EL装置70が製造できる。
【0045】
このように、本実施形態における有機EL装置70の製造方法においては、上述したように有機バンク150の上面を撥液性とし、該開口部151の内側面を親液性としているので、有機機能層140となる液体材料114a,114bを前記開口部151の内側面に良好に接触した状態に配置することが可能となる。よって、開口部151に平坦な膜厚からなる正孔注入層140A及び発光層140Bを形成できる。
そして、前記開口部151の内側面に形成された、正孔注入層140A及び発光層140Bを含む有機機能層140に膜厚の薄い部分が生じることがないので、前記有機機能層140を挟んで設けられる画素電極141及び共通電極154間で短絡が生じるのを防止できる。さらに、平坦な有機機能層140を備えているので、劣化が早まるといった不具合を防止でき、したがって有機EL装置70の寿命をのばすことができる。さらに、平坦な膜厚からなる発光層140Bを備えた有機EL装置70は表示ムラが防止され、よって表示特性が高く信頼性を備えたものとなる。
【0046】
なお、本実施形態の有機EL装置70は、画素電極141を陽極とし、共通電極154を陰極とした構造を採用したが、これとは逆に画素電極141を陰極とし、共通電極154を陽極とする構造を採用することも可能である。この場合、画素電極と発光層との間に配置される電荷輸送層としては電子注入層が形成される。
【0047】
(発光装置)
次に、発光装置の一実施形態として、上述した有機EL装置の製造方法により製造された有機EL装置70の構成について図面を参照しつつ説明する。
図3は本実施形態の有機EL装置における側部断面図を示した図であり、図中符号70は有機EL装置である。
有機EL装置は、基板P上に設けられた有機バンク150により区画された開口部151に有機機能層140を備えたものである。
【0048】
前記基板Pとしては、いわゆるボトムエミッション型の有機EL装置の場合、基板P側から光を取り出す構成であるので、ガラス等の透明基板が用いられる。一方、いわゆるトップエミッション型の有機EL装置の場合には、有機EL素子200が配設された側から光を取り出す構成であるので、ガラス等の透明基板のほか、不透明基板も用いることができる。不透明基板としては、例えばアルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したもの、また熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、さらにはそのフィルム(プラスチックフィルム)などが挙げられる。
【0049】
そして、前記基板P上には駆動用TFT143が設けられていて、図3に示すように駆動用TFT143は半導体膜210に形成されたソース領域143a、ドレイン領域143b、及びチャネル領域143cと、半導体層表面に形成されたゲート絶縁膜220を介してチャネル領域143cに対向するゲート電極143Aとを主体として構成されている。
【0050】
半導体膜210及びゲート絶縁膜220を覆う第1層間絶縁膜230が形成されており、この第1層間絶縁膜230を貫通して半導体膜210に達するコンタクトホール232,234内に、それぞれドレイン電極236、ソース電極238が埋設され、各々の電極はドレイン領域143b、ソース領域143aに導電接続されている。第1層間絶縁膜230には、第2層間絶縁膜240が形成されており、この第2層間絶縁膜240に貫設されたコンタクトホールに画素電極141の一部が埋設されている。
【0051】
そして画素電極141とドレイン電極236とが導電接続されることで、駆動用TFT143と画素電極141(有機EL素子200)とが電気的に接続されている。画素電極141の周縁部に一部乗り上げるようにして無機絶縁材料からなる無機バンク149が形成され、この無機バンク149上には有機材料からなる有機バンク150が積層されることにより隔壁部材を構成している。
【0052】
本実施形態では、有機バンク150は、第1の有機材料B1から構成される第1バンク層150aと、該第1のバンク層150aよりも厚みが小さく、第2の有機材料B2からなる第2バンク層150bとが積層され構成されている。上述したように、前記第1の有機材料B1は前記有機機能層140となる液体材料に対して親液性を示す材料から構成され、前記第2の有機材料B2は前記液体材料に対して撥液性を示すフッ素含有率の材料から構成され、有機バンク150の上面の表面層におけるフッ素含有率が開口部151の内側面の表面層におけるフッ素含有率より高いものとなっている。
【0053】
画素電極141上であって、有機バンク150により区画された開口部151には電荷輸送層としての正孔注入層140Aと発光層140Bとからなる有機機能層140が設けられている。この有機機能層140は、上述したインクジェット工程により形成されたもので開口部151の内側面に密着した状態に形成され、均一で平坦な膜厚から構成されたものとなっている。そして、前記発光層140Bと前記有機バンク150とを覆って共通電極154が形成され、有機EL素子200を構成している。
【0054】
このような構成によれば、開口部151の内側面に膜厚の薄い部分が生じることがないので、有機機能層140を挟んで設けられる電極(画素電極141及び共通電極154)間の短絡が防止される。また、平坦な膜厚の有機機能層140は劣化しにくいため、該有機機能層140を備えた有機EL装置70は長寿命なものとなる。さらに、平坦な膜厚からなる発光層140Bを備えた有機EL装置70は表示ムラを防止し、信頼性が高く表示特性も高いものとなる。
【0055】
また、前記正孔注入層140Aは画素電極141を覆って形成されており、その周端部は有機バンク150の下層側に設けられた無機バンク149のうち、有機バンク150から画素電極141中央側に突出して配置された部分も覆って形成されている。
【0056】
前記画素電極141は、基板Pを介して光を取り出すボトムエミッション型の場合には、ITO(インジウム錫酸化物)等の透光性導電材料により形成されるが、トップエミッション型の場合には透光性である必要はなく、金属材料等の適宜な導電材料によって形成できる。
【0057】
共通電極154は、発光層140Bと有機バンク150の上面、さらには開口部151の内側面を覆った状態で基板P上に形成される。この共通電極154を形成するための材料としては、トップエミッション型の場合、透明導電材料が用いられる。透明導電材料としてはITOが好適であるが、他の透光性導電材料であっても構わない。ボトムエミッション型の場合には、透明導電材料のほか、アルミニウム等の不透明若しくは光反射性を有する導電材料を用いることができる。なお、共通電極154の上層側に、無機酸化物からなる共通電極154への酸素等の侵入を防止するための電極保護層を設けるようにしてもよい。
そして、前記共通電極上には封止樹脂層30が設けられ、該封止樹脂層30を介して封止基板40を貼り合わせた構成となっている。
【0058】
また、図4は、有機EL装置70の回路構成を示す図である。
図4に示すように、有機EL装置70は、ガラス等からなる基体上に、複数の走査線(配線、電力導通部)131と、これら走査線131に対して交差する方向に延びる複数の信号線(配線、電力導通部)132と、これら信号線132に並列に延びる複数の共通給電線(配線、電力導通部)133とがそれぞれ配線されたもので、走査線131及び信号線132の各交点毎に、画素(画素領域)71が設けられて構成されたものである。
【0059】
信号線132に対しては、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン、及びアナログスイッチ等を備えるデータ側駆動回路72が設けられている。一方、走査線131に対しては、シフトレジスタ及びレベルシフタ等を備える走査側駆動回路73が設けられている。また、画素領域71の各々には、走査線131を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT(薄膜トランジスタ)142と、このスイッチング用TFT(薄膜トランジスタ)142を介して信号線132から供給される画像信号(電力)を保持する保持容量capと、保持容量capによって保持された画像信号をゲート電極に供給する前記駆動用TFT143と、この駆動用TFT143を介して共通給電線133に電気的に接続したときに共通給電線133から駆動電流が流れ込む画素電極141と、この画素電極141と共通電極154との間に挟み込まれる有機機能層140と、が設けられている。
【0060】
このような構成のもとに、走査線131が駆動されてスイッチング用TFT142がオンとなると、そのときの信号線132の電位が保持容量capに保持され、該保持容量capの状態に応じて、駆動用TFT143のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用TFT143のチャネルを介して共通給電線133から画素電極141に電流が流れ、さらに発光層140Bを通じて共通電極154に電流が流れることにより、有機EL素子200は電流量に応じて発光するようになっている。
【0061】
本実施形態の有機EL装置70によれば、開口部151内に均一な膜厚の有機機能層140を備えているので、該有機機能層140を挟んで設けられる電極(画素電極141及び共通電極154)間の短絡を防止し、さらには平坦な膜厚の機能層は劣化しにくいため、有機EL装置70は長寿命化が図られたものとなる。さらには、平坦な膜厚からなる発光層140Bを備えた有機EL装置70は表示ムラを防止し、信頼性が高く表示特性も高いものとなる。
【0062】
(第2の実施形態)
次に、有機EL装置の製造方法、及び有機EL装置の第2の実施形態について説明する。
本実施形態の有機EL装置の製造方法では、後述するように、有機バンクを形成するに際し、該有機バンクの上面の表面層におけるフッ素含有率を開口部の内側面の表面層におけるフッ素含有率より高くする工程を、フッ素を含有する反応ガスを用いた異方性のプラズマ処理により行っている。
【0063】
なお、上述した第1実施形態では、2層からなる有機バンクの上段をフッ素含有率が高い材料(第2の有機材料B2)で形成していたが、本実施形態ではプラズマ処理を用いることで有機バンクの上面の表面層におけるフッ素含有率を、側面の表面層におけるフッ素含有率より高める方法の点において異なっており、この点以外の製造工程については同一である。したがって、以下の説明においては、フッ素を含有する反応ガスを用いた異方性のプラズマ処理工程について説明することとし、他の製造工程についてはその説明を省略する。また、同一の構造のものについては、同一符号を付している。
【0064】
図5は、本実施形態の有機EL装置における有機バンクを形成する工程を示す図である。
図5(a)に示すように、基板P上には、駆動用TFT143、及び画素電極141が形成されていて、該画素電極141の周縁部と一部平面的に重なるように無機バンク149が形成されている。
【0065】
はじめに、前記無機バンク149上に例えばアクリル、ポリイミド等の有機絶縁材料からなるバンク形成材料BBを、スプレーコート、ロールコート、ダイコート、ディップコート等の各種方法により塗布する。
そして、公知のフォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いることで、前記バンク形成材料BBをパターニングし、開口部151が設けられた有機バンク150Aを形成する。なお、有機バンク150Aの開口部151と無機バンク149の開口部149bとは互いに連通し、画素電極141はこれらの開口部内において露出した状態としている。
【0066】
続いて、前記有機バンク150Aに設けられた開口部151に、正孔注入層形成材料を含む液体材料114aをインクジェットヘッドにより吐出する前に、図5(b)に示すように、有機バンク150A及び画素電極141を含む基板P上の領域に対して表面処理を施す。
【0067】
本実施形態では、フッ素を含有する反応ガスとして、例えばCF、SF、CHF等のフッ化化合物を用いた異方性のプラズマ処理を行っている。具体的には、プラズマとしては、基板へのバイアスと、プラズマの励起エネルギーとを個々に制御可能なICP(誘導結合型プラズマ)が好適に採用される。そして、低圧力雰囲気下(例えば、10Pa以下)で基板バイアスを高くかけることで、異方性のプラズマ処理を行っている。
このとき、有機バンク150Aの上面における表面層、例えば表面から100nm程度の深さまでの間のフッ素含有率が、フッ素のイオン濃度として1×1020個/cm以上となるような条件の下で上記プラズマ処理を行った。したがって、有機バンク150Aの上面(図5(b)中2点鎖線により示される面)における表面層にのみフッ素イオンが導入されて、有機バンク150Aの上面は液体材料を弾くようになる。
【0068】
このとき、ITO膜や金属膜等の無機材料からなる画素電極141の表面や酸化シリコン等の無機材料からなる無機バンク149の表面は有機材料からなる有機バンク150Aの表面よりも撥液化されにくい。よって、有機バンク150Aに設けられた開口部151内に露出した画素電極141の表面及び無機バンク149の表面には、フッ素イオンが導入されることがなく、液体材料に対して親液性を有した状態に保持されたままとなる。
このように、上記のプラズマ処理工程により、有機バンク150Aの上面のみを選択的に撥液性とすることができ、有機バンク150Aの上面の表面層におけるフッ素含有率が、前記有機バンク150Aの側面の表面層におけるフッ素含有率よりも相対的に高まる。
【0069】
次に、図5(c)に示すように、正孔注入層(有機機能層)の形成材料を含む液体材料114aをインクジェットヘッドにより有機バンク150Aの開口部151に吐出する。
本実施形態では、相対的にフッ素含有率の高い有機バンク150Aの上面が撥液性を示し、フッ素含有率が低い有機バンク150Aにより区画される開口部151の内側面は液体材料114aに対して親液性となっている。
よって、この開口部151に、インクジェット法により液体材料114aを吐出すると、該液体材料114aが開口部151の内側面に良好に接触した状態となり、膜厚が均一で平坦な液層となる。
【0070】
続いて、前記第1実施形態と同様に、液体材料114aが開口部151の内側面に良好に接触し、均一な膜厚に保持された状態で加熱処理することにより、均一な膜厚からなる正孔注入層140Aが形成される。そして、インクジェットヘッドより発光層形成材料と溶媒とを含む液体材料114bを有機バンク150A内の正孔注入層140A上に選択的に塗布する。
【0071】
また、上述したように、有機バンク150Aは上面が撥液性で、側面(開口部151の内側面)が親液性となっているので、この正孔注入層140A上に形成される発光層140Bも有機バンク150Aに接触して形成されることで、均一な膜厚となる。したがって、均一かつ良好な発光特性、及び信頼性を備えた発光層140Bを製造できる。その後、図5(d)に示すように、基板Pの表面全体に、あるいはストライプ状に、ITO等からなる共通電極154を形成し、有機EL素子200を形成できる。最後に、有機EL素子200が設けられた基板Pと封止基板とを封止樹脂層を介して貼り合わせることにより本実施形態の有機EL装置が得られる。
【0072】
なお、本実施形態の有機EL装置の製造方法により形成された有機EL装置は、有機バンク150Aが1層構造からなるものである以外の構成については、前記第1の実施形態における有機EL装置70と同一であることからその説明を省略する。
【0073】
このように、本実施形態における有機EL装置の製造方法によれば、上述したように有機バンク150Aの上面を撥液性とし、該有機バンク150Aの側面(開口部151の内側面)を親液性とすることで、開口部151に平坦な膜厚からなる正孔注入層140A及び発光層140Bを形成でき、表示ムラが防止された高い表示特性、及び信頼性を備えたものとなる。
よって、前記第1の実施形態と同様に、画素電極141及び共通電極154間での短絡を防止することにより、長寿命化が図られた有機EL装置となる。
【0074】
(第3の実施形態)
次に、有機EL装置の製造方法における第3の実施形態について説明する。
本実施形態では、後述するように、有機バンク(隔壁)を、基体上に有機バンク形成材料(隔壁形成材料)を設け、該有機バンク形成材料の上面における表面層にフッ素イオンを注入した後、前記有機バンク形成材料に開口部をパターニングすることにより形成している。
【0075】
なお、本実施形態では、前述した第2の実施形態における有機バンクの上面の表面層におけるフッ素含有率を前記開口部の内側面の表面層におけるフッ素含有率より高める方法としてイオン注入を用いて行う点が異なる以外の、有機EL装置を製造する工程は同一である。したがって、以下の説明においては、本実施形態の有機バンクを形成する工程にのみ詳細に説明することとし、他の製造工程についてはその説明を省略する。また、同一の構造のものについては、同一符号を付して説明する。
【0076】
図6は、本実施形態の有機EL装置70における有機バンクを形成する工程を模式的に示す図である。よって、図6中では、基板P上に設けられた、駆動用TFT143、画素電極141、及びこの画素電極141上に設けられる無機バンク149の図示を省略している。
【0077】
本実施形態では、図6(a)に示すように、無機バンク等が設けられた基板P上に感光性材料であって、例えばアクリル、ポリイミド等の有機絶縁材料からなるバンク形成材料(隔壁形成材料)BBを、スプレーコート、ロールコート、ダイコート、ディップコート等の各種方法により塗布する。
【0078】
続いて、バンク形成材料BBの上面側からイオンドーピングやイオンインプラ等のイオン注入法を用いることで、フッ素イオンを注入する。このとき、有機バンク150Aの上面における表面層、例えば表面から100nm程度の深さまでの間のフッ素含有率が、フッ素のイオン濃度として1×1020個/cm以上となるような条件の下で上記イオン打ち込み工程を行った。なお、イオン注入量の制御は、ガス放電によりプラズマを発生させイオン化する際のイオン電流と試料(バンク形成材料BB)への注入時間とを調整することによりできる。
【0079】
本実施形態では、加速電圧2〜50KV程度の下で、例えばBFを注入することでフッ素イオンを注入した。また、ドーズ量については1.5×1016/cm程度とする。すると、図6(b)に示すように、バンク形成材料BBの上面の表面層、具体的には上面から100nm程度の深さとなる領域にフッ素イオンが注入されたフッ素注入領域FAが形成される。ここで、フッ素注入領域FA、すなわちバンク形成材料BBの上面の表面層は、上述したようにドーズ量1.5×1016/cmで100nm程度の深さまでフッ素イオンが注入されていることから、フッ素イオン濃度は1×1021個/cmとなる。よって、バンク形成材料BBの上面の表面層は、1×1020個/cm以上のフッ素含有率となっていることから、後の工程により開口部151内に吐出される液体材料に対し撥液性となる。
【0080】
続いて、図6(c)に示すようにして、フォトリソグラフィ技術により、マスクMを介して露光を行った後、現像処理を行うことで前記バンク形成材料BBをパターニングする。そして、図6(d)に示すように、開口部151が設けられた有機バンク150Bを形成する。なお、本実施形態では、前記開口部151の内側面を基板Pの上面に対しテーパー形状としている。
【0081】
ここで、画素電極141の表面や無機バンク149の表面をバンク形成材料BBによって覆った状態でフッ素イオン打ち込みを行っているので、イオン打ち込み後に、有機バンク150Bに設けられた開口部151の内側面にはフッ素イオンが導入されることがなく、したがって液体材料に対して親液性を有した状態が保持される。
このように、上記のフッ素イオンの打ち込み工程により、有機バンク150Bの上面の表面層(フッ素領域)を撥液性とすることで、前記上面の表面層におけるフッ素含有率が、前記開口部151の内側面の表面層におけるフッ素含有率よりも相対的に高めた状態としている。
【0082】
次に、上記実施形態と同様にして、正孔注入層形成材料を含む液体材料114aをインクジェットヘッドにより有機バンク150Bの開口部151に吐出する。
このとき、前記第1,第2実施形態と同様に、開口部151に、インクジェット法により正孔注入層(有機機能層)の前駆体となる液体材料114aを吐出し配置すると、該液体材料114aは開口部151の内側面に良好に接触し、膜厚が均一で平坦な液層となる。続いて、前記の実施形態と同様に、加熱処理を行うと液体材料114aが開口部151内に均一な膜厚の状態で保持されているので、均一な膜厚からなる正孔注入層140Aとなる。
【0083】
続いて、インクジェットヘッドより発光層形成材料と溶媒とを含む液体材料114bを有機バンク150B内の正孔注入層140A上に選択的に塗布することで、均一かつ良好な発光特性、信頼性を備えた発光層140Bを製造できる。その後、基板Pの表面全体に、あるいはストライプ状に、ITO等からなる共通電極154を形成し、図6(e)に示すように、有機EL素子200を製造できる。最後に、有機EL素子200が設けられた基板Pと封止基板とを封止樹脂層を介して貼り合わせることにより本実施形態の有機EL装置が得られる。
【0084】
なお、本実施形態の有機EL装置の製造方法により形成された有機EL装置は、有機バンク150Bが1層構造からなるものである以外の構成については、前記第1の実施形態における有機EL装置70と同一であることからその説明を省略する。
【0085】
このように、本実施形態における有機EL装置の製造方法においても、上述したように有機バンク150Bの上面を撥液性とし、該有機バンク150Bの側面(開口部151の内側面)を親液性とすることで、開口部151に平坦な膜厚からなる正孔注入層140A及び発光層140Bを形成でき、表示ムラが防止された高い表示特性、及び信頼性を備えた有機EL装置を製造できる。
よって、前記第1,第2実施形態と同様に、画素電極141及び共通電極154間での短絡を防止することにより、長寿命化が図られた有機EL装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】有機EL装置の製造工程を示す図である。
【図2】図1に続く有機EL装置の製造工程を示す図である。
【図3】第1の実施形態の有機EL装置における側部断面を示す図である。
【図4】第1の実施形態の有機EL装置の回路構成を示す図である
【図5】第2の実施形態の有機バンクを形成する工程を示す図である。
【図6】第3の実施形態の有機バンクを形成する工程を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0087】
70…有機EL装置(発光装置)、114a,114b…液体材料(機能液)、140…有機機能層(機能層)、140A…正孔注入層(電荷輸送層)、140B…発光層、141…画素電極、149…無機バンク、149b…無機バンクの開口部、150…有機バンク(隔壁)、151…開口部、BB…バンク形成材料(隔壁形成材料)、P…基体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機材料からなる隔壁により区画された開口部に発光層を含む機能層を配置する、発光装置の製造方法において、
基体上に前記隔壁を形成するとともに、該隔壁の上面の表面層におけるフッ素含有率を、前記開口部の内側面の表面層におけるフッ素含有率より高くする工程と、
前記隔壁によって区画される開口部に前記機能層を配置する工程と、を備えたことを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項2】
前記隔壁に設けられた開口部の内側面が基体の上面に対し、テーパー形状となっていることを特徴とする請求項1に記載の発光装置の製造方法。
【請求項3】
前記隔壁を形成するに際し、フッ素を含有する反応ガスを用いた異方性のプラズマ処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の発光装置の製造方法。
【請求項4】
前記隔壁を形成する工程において、前記基体上に隔壁形成材料を設け、該隔壁形成材料の上面における表面層にフッ素イオンを注入した後、前記隔壁形成材料をパターニングすることで前記開口部を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の発光装置の製造方法。
【請求項5】
前記隔壁を、第1の有機材料と第2の有機材料とをこの順に積層することで形成するとともに、該第2の有機材料としてフッ素含有材料を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の発光装置の製造方法。
【請求項6】
前記第1の有機材料としてフッ素含有材料を用い、該第1の有機材料におけるフッ素含有率を、前記第2の有機材料におけるフッ素含有率よりも低いものとすることを特徴とする請求項5に記載の発光装置の製造方法。
【請求項7】
前記第2の有機材料の厚みを、前記第1の有機材料の厚みよりも薄くすることを特徴とする請求項6に記載の発光装置の製造方法。
【請求項8】
有機材料からなる隔壁により区画された開口部に発光層を含む機能層を備えた発光装置において、
前記隔壁の上面の表面層におけるフッ素含有率は、前記開口部の内側面の表面層におけるフッ素含有率より高くなっていることを特徴とする発光装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−103033(P2007−103033A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287657(P2005−287657)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】