説明

発光装置および電子機器

【課題】視野角の違いによって発生する色ズレを抑制することができる発光装置及び電子機器を提供する。
【解決手段】光透過性を有する陽極10と、半透過反射性を有する陰極11と、の間に挟持された発光層40と、陽極10を挟んで発光層40の反対側に配置された金属反射板15と、を有し、金属反射板15と陰極11との間で、発光層40で発光した発光光L1を共振させる光共振器構造が構成された発光素子21を備え、発光素子21に対向して、該発光素子21から射出された光L2が入射する着色層37R,37G,37Bを有し、着色層37R,37G,37Bは、光共振器構造の視野角0度における共振波長の光を含む所定の波長域の光を透過させると共に、該所定の波長域よりも低波長側の光を吸収することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の多様化等に伴い、消費電力が少なく軽量化された発光装置のニーズが高まっている。この様な発光装置の一つとして、有機エレクトロルミネッセンス装置(有機EL装置)が知られている。このような有機EL装置は、陽極(第1電極)と陰極(第2電極)との間に発光層を有する発光素子を備えたものが一般的である。さらに、正孔注入性や電子注入性を向上させるために、陽極と発光層との間に正孔注入・輸送層を配置した構成や、発光層と陰極との間に電子注入層やホールブロック層を配置した構成が提案されている。
【0003】
ところで、上述した有機EL装置は、発光層から取り出される光のスペクトルのピーク幅が広く、発光輝度も小さいため、表示装置に適用した場合に、十分な色再現性が得られないという問題があった。そこで、基板と陽極との間に形成された光反射層と、発光層の射出側に形成された半透過反射性を有する陰極と、を備え、光反射層と陰極との間で、発光層から発せられた光を共振させる光共振器構造を設ける構造が提案されている。
【0004】
この構成によれば、発光層から発せられた光は、光反射層と陰極との間で往復し、その光学的距離に対応した共振波長の光だけが増幅されて取り出される。このため、輝度特性が高く、スペクトル幅が狭いシャープな光を取り出すことができるとされている。
【0005】
しかし、上述した光共振器構造を採用した有機EL装置では、スペクトル幅が狭くなると、表示面を斜めから見た場合、つまり視野角が大きくなるにつれ光の波長が低波長側にシフトしたり、発光輝度が低下したりする等、発光特性の視野角依存性が高いという問題がある。この問題に対しては、例えば特許文献1に示すように、発光層から発せられた光の光学的距離を最適化することで、ある程度のスペクトル幅を有するように共振させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第01/039554号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、有機EL装置の高品質化に伴い、視野角特性の更なる向上が要求されている。図12は、従来の有機EL装置における発光輝度の視野角特性を示すグラフである。図においては、上半部における縦軸の0度が視聴者の視覚方向の正面(表示面の法線方向)、つまり視野角0度を示している。また、発光輝度は視野角0度の位置での発光輝度を100%とした場合における割合で示しており、中心Oを0%、最外周を100%として同心円上に示している。
【0008】
図に示すように、上記従来技術では、赤色光、緑色光、青色光の各色ともに視野角0度の位置で発光輝度が最大となるように光学的距離が最適化されており、3色の光を混色した場合には、視野角0度において最適な白色光Wが射出されるようになっている。そして、視野角が大きくなるにつれ、各色R,G,Bともに発光輝度が減衰している。つまり、視野角が大きくなるにつれ、光学的距離が最適条件からずれて長くなり、取り出したい光が最適な共振波長の条件で射出されなくなる。
【0009】
図13は、従来の有機EL装置における色度の視野角特性を示すxy色度図であり、図中実線は、視野角が0度〜80度まで変化した場合におけるスペクトルのピーク波長の変化を示している。図に示すように、上記従来技術では、赤色光、緑色光、青色光の各色ともに視野角0度の位置(図13中符号Ra,Ga,Ba)において、最適な色度で射出されるように設定され、白色光(図13中符号Wa)が表示されるようになっている。
【0010】
しかしながら、上記特許文献で示されているように、視野角が大きくなるにつれ、各色のピーク波長が最適条件からずれて低波長側にシフトすると(図13中符号Rb,Gb,Bb)、全体的な色ズレが生じるという問題がある。つまり、視野角0度の位置では白色光が表示されるのに対して、視野角が大きくなるにつれて青色側(低波長側)にシフトし、表示が青く見えてしまう(図13中符号Wb)。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、視野角の違いによって発生する色ズレを抑制することができる発光装置及び電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は、様々な検討を重ねた結果、発光層の構成が色ズレに大きな影響を与えることが分かった。そこで発明者は、発光層の構成が大きく色ズレを起こすものであっても好適に色ズレを抑制するために、射出される光から色ズレの原因となっている波長領域の光を除去することを想到した。
【0013】
すなわち、上記の課題を解決するため、本発明の発光装置は、第1電極と、半透過反射性を有する第2電極と、の間に挟持された発光層と、前記第1電極を挟んで前記発光層の反対側に配置された光反射層と、を有し、前記光反射層と前記第2電極との間で、前記発光層で発光した光である発光光を共振させる光共振器構造が構成された発光素子を備え、前記発光素子に対向して、該発光素子から射出された光が入射する着色層を有し、前記着色層は、前記光共振器構造の視野角0度における共振波長の光を含む所定の波長域の光を透過させると共に、該所定の波長域よりも低波長側の光を吸収することを特徴とする。
【0014】
上述のように、光共振器構造を備えた発光装置を斜めから観察すると、共振波長が低波長側にシフトするため、視野角0度における射出光の波長よりも短い波長が共振波長となる。
【0015】
その際、例えば発光光がブロードな発光スペクトルを有していると、斜めから観察する場合の共振波長に、十分な発光強度の光を射出している場合がある。このような場合、当該波長領域の光が共振することで、共振波長が低波長側にシフトした場合においても光が増幅される。そのため、射出光の低波長シフトが際立ち、色ズレが生じることとなる。
【0016】
しかし、本発明の構成によれば、視野角0度における射出光の色よりも低波長側の色を生じさせる光は、着色層にて吸収される。そのため、着色層を透過した後に射出される光では、低波長シフトの原因となる短い波長の光が低減する。したがって、色ズレが抑制された発光装置とすることができる。
【0017】
本発明においては、前記着色層は、透過率が最大となるピーク波長から低波長側に30nm以上短い波長領域において、透過率が10%以下であることが望ましい。
この構成によれば、着色層を透過して射出される光から、確実に所定の波長域よりも低波長側の光を除くことができ、良好に色ズレを抑制することができる。
【0018】
本発明においては、視野角0度における前記共振波長が異なる複数の前記発光素子と、前記複数の発光素子の各々に対向して設けられる複数の前記着色層と、を有することが望ましい。
この構成によれば、色ズレを抑制しフルカラー表示が可能な発光装置とすることができる。
【0019】
また本発明の電子機器は、前述した本発明の発光装置を備えていることを特徴とする。
この構成によれば、上述した発光装置を備えているため、視野角の違いによって発生する色ズレを抑制した高性能な電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の発光装置の概略構成を示した断面図である。
【図2】本発明の発光装置に係る光共振器構造についての説明図である。
【図3】本発明の発光装置に係る光について示す説明図である。
【図4】本発明の発光装置の発光層に係る発光スペクトルを示す図である。
【図5】本発明の課題を説明する説明図である。
【図6】本発明の課題を説明する説明図である。
【図7】本発明の発光装置に用いる着色層の透過率特性を示す説明図である。
【図8】本発明の効果を説明する説明図である。
【図9】本発明の発光装置の視野角特性を示すxy色度図である。
【図10】本発明の他の例を説明する説明図である。
【図11】本発明に係る電子機器の一例を示す斜視図である。
【図12】従来の発光装置における発光輝度の視野角特性を示すxy色度図である。
【図13】従来の発光装置における色度の視野角特性を示す色度図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図1〜図9を参照しながら、本発明の実施形態に係る発光装置について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の膜厚や寸法の比率などは適宜異ならせてある。
【0022】
以下説明では、発光装置は「赤色」「緑色」「青色」の光を用いて表示を行うこととしている。ここで言うところの光の色は、色の様相の相違を示す「色相」の違いを定性的に示したものであり、本発明では、実際の発光装置の使用形態に則して、観察者が該色相を感じる光となっているかどうかを問題としている。
【0023】
本発明では、赤色の光の波長が600〜740nm、緑色の光の波長が520〜565nm、青色の光の波長が450〜480nm、としているが、本発明はこれに限られるものではない。
【0024】
ここでは、まず図1,2を用いて、本発明が適用される有機EL装置(発光装置)について概略を説明し、図3から5を用いて該有機EL装置の発光素子の構成に起因した課題について説明した後に、この課題を解決するため本発明の有機EL装置が有するカラーフィルターの構成について、図6から8を用いて説明を行う。
【0025】
図1は本発明の発光装置の一例として挙げる有機EL装置の概略構成を示した断面図である。
【0026】
本実施形態の有機EL装置1は、素子基板20A上の陽極(第1電極)10と陰極(第2電極)11の間に挟持された有機機能層12と金属反射板(光反射層)15とを有する複数の発光素子21を備えている。また、有機EL装置1は、発光素子21を画素領域XR,XG,XB毎に区切る画素隔壁13と、素子基板20Aに対向配置された封止基板31と、を備えている。
【0027】
有機EL装置1は、素子基板20Aの対向側である封止基板31側から光を取り出すトップエミッション方式の発光方式を採用するため、素子基板20Aの材料としては、透明基板及び不透明基板のいずれも用いることができる。
【0028】
透明基板としては、例えばガラス、石英ガラス、窒化ケイ素等の無機物や、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の有機高分子(樹脂)を用いることができる。また、光透過性を備えるならば、前記材料を積層または混合して形成された複合材料を用いることもできる。不透明基板としては、例えばアルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したもの、また熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、さらにはそのフィルム(プラスチックフィルム)などが挙げられる。
【0029】
素子基板20A上には、窒化珪素等からなる無機絶縁層14が形成されている。無機絶縁層14上にはアルミ合金等からなる金属反射板15が内装された平坦化層16が形成されている。この平坦化層16は、アクリル系やポリイミド系等の、耐熱性絶縁性樹脂などを用いて、薄膜トランジスタ(TFT)123や配線等による表面の凹凸をなくすために形成されている。
【0030】
平坦化層16上には、陽極10が形成されている。この陽極10は、金属酸化物系の透明導電材料によって形成され、具体的にはITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)が好適に用いられている。陽極10は、各発光素子21に対応して形成されており、その一端側が無機絶縁層14に形成されたコンタクトホール17を介してTFT123に接続されている。
【0031】
陽極10上には、画素隔壁13が形成されている。この画素隔壁13は、陽極10上に開口部を有し、複数の発光素子21を独立させて区分するものである。画素隔壁13に囲まれた領域は、発光素子21の画素領域となっており、これらは赤色の光、青色の光、緑色の光のそれぞれの光を取り出す画素領域XR,XG,XBとして割り当てられている。なお、画素隔壁13の形成材料としては、例えばポリイミド、アクリル等の絶縁性を有する有機物を用いることができる。なお、画素隔壁13の形成材料としては、無機物と有機物とを組み合わせたものであってもよい。
【0032】
有機機能層12は、正孔注入・輸送層30と発光層40とを備えている。正孔注入・輸送層30は、陽極10の正孔を発光層40に注入・輸送するためのものである。正孔注入・輸送層30は、素子基板20A上の陽極10上に各画素隔壁13を跨いで形成されている。
【0033】
正孔注入・輸送層30の形成材料としては、特に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)の水分散液が好適に用いられる。なお、正孔注入・輸送層30の形成材料としては、上述のものに限定されることなく種々のものが使用可能である。例えば、ポリスチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレンやその誘導体などを、適宜な分散媒、例えば前記のポリスチレンスルフォン酸に分散させたものなどが使用可能である。
【0034】
発光層40は、陰極11から注入される電子と正孔注入・輸送層30から注入される正孔とが結合して、所定の波長の光が射出される部分である。発光層40は、正孔注入・輸送層30上の全域に亘って形成されている。
【0035】
発光層40は、白色に発光する白色発光層を採用している。発光層40を白色に発光させる方法としては、複数の色の光を射出する発光層を積層することで、各層から射出される色光を混色し、擬似白色光とする方法を採用している。発光層40としては、例えば、赤色と緑色と青色との3色を混色する構成や、青色と黄色との2色を混色する構成を採用することができる。
【0036】
本実施形態の発光層40は、図1(b)に示すように、赤色発光層40a、緑色発光層40b、青色発光層40cを積層した構成の発光層40を用い、各着色層40a〜40cから射出された3色の光を混色することで、白色光として射出する構成としている。
【0037】
発光層40の構成材料としては、例えばポリフルオレン誘導体(PF)やポリパラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン誘導体、などの高分子有機材料を用いることができる。また、上記高分子有機材料に、例えばペリレン系色素や、クマリン系色素、ローダミン系色素、ルブレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、キナクリドンなどの低分子有機材料をドープしたものを用いてもよい。なお、発光層40の上層に、電子輸送層やホールブロック層を形成することが好ましい。
【0038】
陰極11は、発光層40から発光した光の一部を透過し、残りの光の一部又は全部を金属反射板15側に反射する半透過反射性を有している。陰極11は、素子基板20A上の画素隔壁13及び発光層40を覆うように形成されている。
【0039】
このような陰極11と金属反射板15との間に上述した発光層40が挟持されており、陰極11と金属反射板15との間で、発光層40から発せられた光を共振させる光共振器構造が形成されている。光共振器構造については後述する。
【0040】
陰極11上には、有機緩衝層18が形成されている。有機緩衝層18は、画素隔壁13の形状の影響により、凹凸状に形成された陰極11の凹凸部分を埋めるように形成されている。そして、有機緩衝層18の上面は略平坦になるように形成されている。有機緩衝層18は、素子基板20Aの反りや体積膨張により発生する応力を緩和し、不安定な形状の画素隔壁13からの陰極11の剥離を防止する機能を有する。
【0041】
有機緩衝層18上には、有機緩衝層18を覆うようにガスバリア層19が形成されている。ガスバリア層19は、酸素や水分が内部に浸入するのを防止するためのもので、これにより酸素や水分による発光素子21の劣化等を抑えることができる。また、上述した有機緩衝層18の上面が略平坦化されるので、有機緩衝層18上に形成される硬い被膜からなるガスバリア層19も平坦化される。したがって、応力が集中する部位がなくなり、これにより、ガスバリア層19でのクラックの発生を防止することができる。ガスバリア層19の材質は、透明性、ガスバリア性、耐水性を考慮して、好ましくは窒素を含む珪素化合物、すなわち珪素窒化物や珪素酸窒化物などによって形成される。
【0042】
ガスバリア層19上には、ガスバリア層19を覆うようにシール層22が形成されている。シール層22は、ガスバリア層19上に封止基板31を固定させ、かつ外部からの機械的衝撃に対して緩衝機能を有し、発光層40やガスバリア層19の保護をするものである。シール層22は、例えばウレタン系、アクリル系、エポキシ系、ポリオレフィン系などの樹脂で、封止基板31より柔軟でガラス転移点の低い材料からなる接着剤によって形成されている。
【0043】
封止基板31は、上述した素子基板20Aに対向配置されている。封止基板31は、その上面が光を取り出す表示面として機能するため、ガラスまたは透明プラスチック(ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリオレフィン等)などの光透過性を有する材料で構成されている。
【0044】
封止基板31の下面(素子基板20A側)には、赤色着色層37R、緑色着色層37G、青色着色層37Bがマトリクス状に配列形成されたカラーフィルター37が構成されている。各着色層37R,37G,37Bは、透明バインダー層に顔料または染料が混合して構成された層で、顔料やその他の添加材を選択することにより目的とする赤(R)、緑(G)あるいは青(B)に調整されている。
【0045】
着色層37R,37G,37Bの各々は、発光素子21の陽極10に対向して配置されており、発光層40から発せられた光のうち、後述する各着色層の透過特性に応じて、各色の波長に対応した光が着色層37の各々を透過し、各色の光として観察者側に射出されるようになっている。
【0046】
着色層37R,37G,37Bの領域の間には、ブラックマトリクス層32が形成されている。このブラックマトリクス層32は、着色層37を区分して非発光部分として構成しており、隣接する画素領域XR,XG,XB間の光漏れを防止するものである。ブラックマトリクス層32の構成材料としては、カーボンブラック等の顔料が混入された樹脂からなる遮光層である。なお、このブラックマトリクス層32には、フッ素樹脂等の撥液性を有する樹脂を混合させてもよい。
【0047】
図2は、有機EL装置1の発光素子21が備える光共振器構造についての説明図であり、図1において二点鎖線で囲んだ部分(符号Aで示す)の拡大図である。
【0048】
各発光素子21の共振波長は、金属反射板15と陰極11との間の光学的距離、つまり金属反射板15と陰極11との間に形成された各層(例えば、有機機能層12、陽極10)の膜厚と屈折率とのそれぞれの積の総和によって求められる。
【0049】
本実施形態では、陽極10の膜厚を制御することにより光学的距離を調整し、発光素子21の共振波長を異ならせている。そのため、発光素子21からそれぞれ異なった色の光が取り出されるようになっている。
【0050】
光学的距離をL、発光層40で発光した光が陽極10または陰極11で反射する際に生じる位相シフトをΦ、発光層40から射出される光のうち取り出したい光のスペクトルのピーク波長をλとすると、これらの関係は、2L=λ(m−Φ/2π)(ただしmは整数)という式で表すことができる。なお、上述した視野角とは、視覚方向と封止基板31の表示面の法線とのなす角度とする。
【0051】
上式より、光学的距離Lと所望の光のピーク波長λとは比例しているため、陽極10の膜厚は、長波長の赤色の光が取り出される発光素子21のものが最大となり、緑色の光が取り出される発光素子、青色の光が取り出される発光素子の順で膜厚が薄くなっている。この光学的距離は、通常、表示面(封止基板31の表面)を正面から見た場合、つまり視野角0度の時の共振波長の色が、最適な色となるように設定している。
【0052】
この構成によれば、発光層40から発せられた光は、金属反射板15と陰極11との間で往復し、その光学的距離に対応した共振波長の光だけが増幅されて取り出される。このため、発光輝度が高く、スペクトルもシャープな光を取り出すことができる。
【0053】
このような構成の有機EL装置について、色ズレの抑制についての作用を説明する。以下の説明では、有機EL装置の各構成における光について、より詳細に説明するために、次の図3のように表記している。図3は、上述の有機EL装置1における各種の光についての説明図である。
【0054】
まず、発光層40で発せられた光L1を「発光光」と称する。これは、発光層40の組成に応じた波長の光であり、本実施形態では白色の発光光である。
【0055】
次に、発光光L1が金属反射板15と陰極11との間(光共振器構造)で共振した後、発光素子21から射出された光L2を「射出光」と称する。これは、光共振器構造の共振波長を有し、所定の色を呈する光である。
【0056】
更に、射出光L2が着色層37R,37G,37Bを透過した後に、対向基板31側から取り出される光L3を「視認光」と称する。視認光L3は、射出光L2に含まれる一部の波長の光を着色層で吸収した後に放たれる光であり、観察者によって観察される色光である。この視認光L3の色が低波長側にずれることにより、本発明で課題としている色ズレが生じる。
【0057】
次に、図4から6を用いて発光層の構成に起因する課題について説明する。上述のように、有機EL装置1は、複数の発光層が積層して白色の光を発する発光層を採用するため、以下に説明するような特有の課題を備えている。
【0058】
図4は、本発明の有機EL装置で採用する白色の光を発する発光層40の発光スペクトルを示す図である。図では、擬似白色光を発する構成として、上述した3色混色する構成を「3peak」、2色混色する構成を「2peak」として示している。
【0059】
図に示すように、発光層が発する白色光は、波長によって発光強度の差を有している。強度ピーク(3peakのスペクトルでは符号P1〜P3、2peakのスペクトルでは符号Pa、Pbで示す)の波長は、各々の発光層を構成する各色の発光材料の強度ピークと対応している。
【0060】
また、図に示すスペクトルにおいては、各発光材料の強度ピークを示す波長が近接しているために、あるいは各発光材料がブロードな発光特性を有するために、発光材料の強度ピーク間が明確に分離されず、連続したスペクトルを示している。ここで言う「連続した」とは、強度ピークの間の波長領域においても発光強度の低下があまり見られないことを示している。
【0061】
例えば、3peakのスペクトルにおいて、青色発光材料に起因する強度ピークP1と緑色発光材料に起因する強度ピークP2との間の波長領域では、両発光材料のスペクトルの裾が重なり合うことで連続したスペクトルとなっている(符号X1)。2peakのスペクトルの符号X2も同様である。
【0062】
このような発光スペクトルを有する発光光が光共振器構造にて共振する場合、次の様な課題が発生する。
【0063】
図5は、本発明の課題を説明する説明図であり、光共振器構造を有する発光素子21から射出される射出光のスペクトルを示す図である。図では、有機EL装置を観察する視野角が0度の場合と60度の場合とを合わせて示している。また、本実施形態の有機EL装置では、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の射出光は、それぞれ異なる発光素子21から射出されるが、ここでは各色のスペクトルの挙動を比較するために、各色のスペクトルを重ねて示している。
【0064】
光共振器構造を備えた発光素子を有する有機EL装置を正面から観察すると、各発光素子が射出すべき色の光の波長が共振波長となり、該色の波長にピーク強度を有する射出光が射出される。これは、図中の視野角0度のスペクトルが対応する。
【0065】
対して、光共振器構造を備えた発光素子を有する有機EL装置を斜めから観察すると、各発光素子における共振波長が低波長側にシフトする。そのため、図に示す視野角60度における共振波長のピーク位置は、各色いずれにおいても、視野角0度における共振波長のピーク位置と比べて低波長側にシフトしている。
【0066】
加えて、赤色および青色の射出光は、低波長シフト後のスペクトルで、発光強度が低下しているのに対し、緑色の射出光は、低波長シフト後であってもシフト前と変わらない発光強度となっている。これは、図4で示したように、3peakの発光素子のスペクトルでは、強度ピークP2(緑色に対応)の位置よりも低波長側の符号X1で示した波長領域付近で、十分な発光強度の光が射出されていることに起因する。
【0067】
すなわち、当該波長領域においても、十分な発光強度の発光光を発しているため、当該波長領域の光は共振し、シフト前の射出光と変わらない発光強度にまで増幅される。結果、共振波長が低波長側にシフトした場合であっても、シフト前と変わらない発光強度の射出光が射出されている。
【0068】
このような挙動を示す発光素子に対向して従来のカラーフィルターを設けた場合、有機EL装置は図6のような発色をすることとなる。図6は、当該有機EL装置の視野角特性を示すxy色度図であり、図3に示す視認光L3についての色度図である。図6中の実線は、視野角を0度から60度まで変化させた場合に観察されるスペクトルのピーク波長の変化を示している。
【0069】
図では、視野角0度における各色の色度を、赤色光はR1、緑色光はG1、青色光はB1、白色光W1で示しており、同様に視野角60度各色の色度を、赤色光はR2、緑色光はG2、青色光はB2、白色光W2で示している。
【0070】
図に示すように、従来のカラーフィルターを設けた場合には、赤色の視認光、青色の視認光の色度変化(図中R1→R2およびB1→B2)に対して、緑色の視認光の色度変化(図中G1→G2)が大きいため、各色光を混色して得られる白色の視認光も白色から青色側へ大きく色ズレを起こすことが分かる(図中W1→W2)。
【0071】
次に、図7から9を用いて、上述の発光層の構成に起因する課題を解決する構成について説明する。本発明では、発光素子に対向するカラーフィルターの光透過率に着目し、上述の課題を解決し視認光の色ズレを抑制することを実現している。
【0072】
図7は、本発明の有機EL装置に用いるカラーフィルターに係る各着色層の透過率特性を示す図である。図では、説明を容易にするために赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の着色層の透過率特性を同時に示している。
【0073】
図に示すように、本発明の有機EL装置で用いるカラーフィルターの着色層は、透過率の最大値を示すピーク波長P(Pr、Pg、Pb)から30nm以上低波長側の透過率が10%以下となるように制御されている。具体的には、赤色の着色層では570nm以下の波長領域において透過率が10%以下となっている。同様に、緑色の着色層では490nm以下の波長領域において、また、青色の着色層では420nm以下の波長領域において透過率が10%以下となっている。各着色層のピーク波長PWは、発光素子の視野角0度における共振波長のピーク位置と概ね一致しており、視野角0度において共振波長の光を良好に透過するように設計されている。
【0074】
本発明の有機EL装置では、発光素子に対向して、このような透過率特性の着色層を有するカラーフィルターを配置している。そのため、次の図に示すような作用により課題が解決される。
【0075】
図8は、図5に示す「3peak」のスペクトルを備える発光素子を備えた有機EL装置について、色ズレを抑制する本発明の効果を説明する説明図である。
【0076】
図8(a)は、本発明の有機EL装置を視野角60度の位置から観察する際に、発光素子から射出される緑色の射出光のスペクトルを示す図であり、図5で示したものと同様のものである。緑色の射出光は、上述のように低波長シフトしている。
【0077】
図8(b)は、緑色の着色層の透過率特性を示す図であり、図7で示したものと同様のものである。図8(a)で示した緑色の射出光は、このような透過率特性を有する着色層に入射する。
【0078】
図8(c)は、着色層を透過し、画素領域から射出される緑色の視認光のスペクトルを示す図である。着色層では、上述した発光スペクトルを有する緑色の射出光から、低波長側の光が吸収される。そのため、視認光のスペクトルは、図に示すように着色層の透過スペクトルに対応してピーク波長近傍の波長を有することとなる(図中斜線部分)。
【0079】
このように、本発明では低波長側の光を着色層で吸収し、所望の波長領域の光を透過させることで、色ズレを防止している。図5に示したように、「3peak」のスペクトルを備える発光素子の場合、赤色の視認光、青色の視認光と比べて緑色の視認光の輝度が強すぎるため、緑色の視認光の色ズレに大きく引きずられる形で、白色の視認光が大きく色ズレを起こす。しかし、上述したような透過特性を有する着色層を透過した緑色の視認光では、低波長側の波長の光が除かれている上に、赤色、青色の視認との輝度バランスが良く、全体としてバランスがくずれにくくなる。
【0080】
図9には、カラーフィルターの着色層が、上述したような透過特性を有する有機EL装置の視野角特性を示すxy色度図を示す。図9は、図6に対応する図である。図では、視野角0度における各色の色度は赤色光がR3、緑色光がG3、青色光がB3となっており、視野角が大きくなるにつれ赤色光がR4、緑色光がG4、青色光がB4に向かって低波長側へシフトすることとして示している。
【0081】
図9と図6(従来のカラーフィルターを有する有機EL装置の色度図)とを比べると、赤色および青色の視認光についての色度の変化(図中R3→R4およびB3→B4)は、図6に示された結果と大きな差が無いのに対して、緑色の視認光の色度変化(図中G3→G4)が大きく減少しており、各色光を混色して得られる白色の視認光の変化もわずかな変化量となっていることが分かる(図中W3→W4)。したがって、色度図からも、視野角の違いによって生じる全体的な色ずれを抑制できることが確認される。
【0082】
以上のような構成の有機EL装置1によれば、視野角の違いによって発生する色ズレを抑制し、高品質な表示が可能となる。
【0083】
なお、本実施形態においては、緑色光について作用効果を説明したが、発光素子から射出される他の色光(赤色光、青色光)において、共振波長よりも低波長側に共振に十分な発光強度の射出光が射出されている場合にも、同様の作用効果を奏することで課題が解決される。
【0084】
図10は、図4で示した「2peak」の発光スペクトルを有する発光素子から射出される共振後の光のスペクトルを示す図であり、図5に対応する図である。この場合、視野角が0度の場合の赤色光、緑色光、青色光の発光強度と比べ、赤色光および緑色光は、低波長シフト後であってもシフト前と変わらない発光強度の光を射出している。
【0085】
このような発光スペクトルの発光素子を有する有機EL装置においても、図7に示すような、共振波長よりも30nm以上低波長側の透過率が10%以下となるように制御された着色層を有するカラーフィルターを用いることで、色ズレの原因となる低波長の光を効率的に除去し、色ズレを抑制することができる。
【0086】
また、本実施形態においては、全ての発光素子21に対向して着色層を設けることとしたが、視野角に対する色ズレが大きい色の光を発する発光素子にのみ着色層を設けることとしても良い。着色層を設けない発光素子では、射出光を視認光として用いることができ、着色層における無用な光の吸収を抑制することができるため、光の利用効率を高め、輝度低下を抑制することができる。
【0087】
また、本実施形態においては、トップエミッション方式のトップエミッション方式の発光方式を採用する有機EL装置について説明したが、素子基板20A側から光を取り出すボトムエミッション方式の発光方式を採用する有機EL装置に適用することも可能である。
【0088】
[電子機器]
次に、本発明の電子機器の実施形態について説明する。本発明の電子機器は、上述した有機EL装置1を表示部として有し、具体的には図11に示すものが挙げられる。
【0089】
図11(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。携帯電話1000は、上述した有機EL装置1を用いた表示部1001を備える。
【0090】
図11(b)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。時計(電子機器)1100は、上述した有機EL装置1を用いた表示部1101を備える。
【0091】
図11(c)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。情報処理装置(電子機器)1200は、キーボードなどの入力部1202、上述した有機EL装置1を用いた表示部1206、情報処理装置本体(筐体)1204を備える。
【0092】
図11(d)は、薄型大画面テレビの一例を示した斜視図である。薄型大画面テレビ(電子機器)1300は、薄型大画面テレビ本体(筐体)1302、スピーカーなどの音声出力部1304、上述した有機EL装置1を用いた表示部1306を備える。
【0093】
図11(a)〜(d)に示すそれぞれの電子機器は、上述した有機EL装置1を有した表示部1001,1101,1206,1306を備えているので、表示部における視野角の違いによって発生する色ズレを抑制することが図られたものとなる。
【0094】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0095】
1…有機EL装置(発光装置)、10…陽極(第1電極)、11…陰極(第2電極)、15…金属反射板(光反射層)、20A…素子基板(基板)、21…発光素子、37R…赤色着色層(着色層)、37G…緑色着色層(着色層)、37B…青色着色層(着色層)、40…発光層、1000…携帯電話(電子機器)、1100…時計(電子機器)、1200…情報処理装置(電子機器)、1300…薄型大型テレビ(電子機器)、1001,1101,1206,1306…表示部(発光装置)、L1…発光光、L2…射出光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、半透過反射性を有する第2電極と、の間に挟持された発光層と、前記第1電極を挟んで前記発光層の反対側に配置された光反射層と、を有し、前記光反射層と前記第2電極との間で、前記発光層で発光した光である発光光を共振させる光共振器構造が構成された発光素子を備え、
前記発光素子に対向して、該発光素子から射出された光が入射する着色層を有し、
前記着色層は、前記光共振器構造の視野角0度における共振波長の光を含む所定の波長域の光を透過させると共に、該所定の波長域よりも低波長側の光を吸収することを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記着色層は、透過率が最大となるピーク波長から低波長側に30nm以上短い波長領域において、透過率が10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
視野角0度における前記共振波長が異なる複数の前記発光素子と、前記複数の発光素子の各々に対向して設けられる複数の前記着色層と、を有することを特徴とする請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の発光装置を備えていることを特徴とする電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2010−211985(P2010−211985A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54587(P2009−54587)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】