説明

発光装置

【課題】 発光層などの膜厚が最適条件からずれた場合でも色純度の低下を最小限に抑えることができ、かつ、視野角特性を向上可能な発光装置を提供すること。
【解決手段】 有機EL表示装置1において、有機EL素子10では、光透過性の基板11の上層側に、ITOなどからなる光透過性の画素電極12、正孔注入層13、発光層14、アルミニウムなどといった光反射性を備えた対向電極15がこの順に積層されている。画素電極12の下層側には半透過反射膜16が形成され、半透過反射膜16と対向電極15との間に光共振器20が構成されている。半透過反射膜16の下層側には、シリコン窒化膜やシリコン酸化膜、あるいはアクリル樹脂などの感光性樹脂からなる光透過性の凹凸形成層17が1画素当たり複数、形成されており、発光層14は、画素100内で位置によって膜厚が相違している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の発光領域の各々に自発光素子を備えた発光装置に関するものである。さらに詳しくは、発光領域に光共振器が形成された発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機、パーソナルコンピュータやPDA(Personal Digital Assistants)などの電子機器に使用される表示装置や、デジタル複写機やプリンタなどの画像形成装置における露光用ヘッドとして、有機エレクトロルミネッセンス(EL/Electroluminescence)装置などの発光装置が注目されている。この種の発光装置では、複数の発光領域の各々に少なくとも発光層を含む機能膜を備えた自発光素子を有している。
【0003】
また、複数の発光領域の各々に対して、発光層の下層側に形成された下層側反射層と発光層の上層側に形成された上層側反射層との間に光共振器を形成し、各発光領域から出射される光の色度を高めたものが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
また、特許文献1には、下層側反射層と上層側反射層との光学長を各色に対応する画素間で相違させることにより各色の光を出射可能にすることが開示され、特許文献2には、多重干渉する範囲で発光スペクトルの幅が最も広くなるように下層側反射層と上層側反射層との光学長を最適化することにより、広い視野角において色純度を向上させることが開示されている。
【特許文献1】特許第2797883号公報
【特許文献2】国際公開番号WO/01/0039554
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記いずれの特許文献においても、発光層などの機能層の膜厚を最適化しているので、例えば、成膜条件のばらつきなどが原因で機能層の膜厚が最適条件からずれると、その効果が極端に低下するという問題点がある。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、発光層などの膜厚が最適条件からずれた場合でも色純度の低下を最小限に抑えることができ、かつ、視野角特性を向上可能な発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、基板上の複数の発光領域の各々に少なくとも発光層を含む機能膜を備えた自発光素子を備え、当該自発光素子には、前記発光層の下層側に形成された下層側反射層と前記発光層の上層側に形成された上層側反射層との間に光共振器が形成された発光装置において、前記機能膜には、前記発光領域内の位置により膜厚が相違する層が少なくとも1層含まれていることを特徴とする。
【0008】
本発明では、下層側反射層と上層側反射層との間に形成される機能膜には、発光領域内の位置により膜厚が相違する層が少なくとも1層含まれているため、発光領域からは、各膜厚に対応する発光スペクトルが合成されて出射されている。従って、機能層を形成する際の成膜条件によって、機能層の膜厚が最適値からずれた場合でも、各膜厚の発光スペクトルが合成されて出射され、その構成比率がシフトするだけである。それ故、機能層を形成する際の成膜条件によって、機能層の膜厚が変動した場合でも、このような変動によって、出射光の波長がシフトすることを最小限に抑えることができる。また、光の出射方向が変ると、機能層の厚さが変化することになるが、本発明では、機能層の膜厚が発光領域内の位置によって当初から変化しているため、いずれの方向に出射される光においても、各膜厚の発光スペクトルが合成されている。このため、発光装置から正面に出射される光と、斜めに出射される光との間で、発光スペクトルの変化が極めて小さいので、広い視野角にわたって色純度の高い光を出射することができる。
【0009】
本発明において、前記複数の発光領域の各々は、前記自発光素子が出射する光の色により、赤色、緑色および青色のうちのいずれかの色に対応しており、前記赤色、緑色および青色の発光領域のいずれにおいても、前記機能膜には、前記発光領域内の位置により膜厚が相違する層が少なくとも1層含まれていることが好ましい。
【0010】
本発明において、前記機能層より下層側に凹凸が形成され、該凹凸が当該凹凸の上層側に形成された前記機能膜の膜厚を前記発光領域内の位置により相違させている構成を採用することが好ましい。このように構成すると、機能膜の膜厚を発光領域内の位置により容易に変化させることができる。
【0011】
本発明において、前記凹凸を構成する凸部の高さあるいは凹部の深さは、5nmから20nmの範囲であることが好ましい。機能層の膜厚の差が大きすぎると光共振器条件が大きくずれるとともに、電気光学特性も大きくずれてしまい、同一の供給電力における発光量が極端に低下してしまう。また、機能層の膜厚の差が小さすぎると、効果が小さすぎて、機能層の膜厚が±10nmばらついたときでも、輝度ばらつきを十分、抑えることができない。従って、凸部の高さあるいは凹部の深さは、5nm以上、20nm以下が好ましい。
【0012】
本発明において、前記機能膜の膜厚を前記発光領域内の位置により相違させるにあたって、前記凹凸を利用する場合、前記機能膜には、高分子膜が少なくとも1層、含まれていることが好ましい。高分子膜の場合、凹凸の上層側に形成するだけで膜厚を連続的に変化させることができる。
【0013】
本発明においては、前記下層側反射層は半透過反射層であり、前記上層側反射層は全反射層である構成、あるいは前記下層側反射層は全反射層であり、前記下層側反射層は半透過反射層である構成を採用することができる。
【0014】
本発明において、前記自発光素子は、例えば、エレクトロルミネッセンス素子である。
【0015】
本発明を適用した発光装置は、携帯電話機、パーソナルコンピュータやPDAなどの電子機器において表示装置として用いられる。また、本発明を適用した発光装置は、デジタル複写機やプリンタなどの画像形成装置における露光用ヘッドとして用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の説明に用いた各図では、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材毎に縮尺を相違させてある。
【0017】
[実施の形態1]
(有機EL表示装置の全体構成)
図1は、自発光素子として有機EL素子を備えた有機EL表示装置(発光装置)の電気的構成を示すブロック図である。
【0018】
図1において、有機EL表示装置1は、有機半導体膜からなる機能膜に駆動電流が流れることによって発光するEL素子を薄膜トランジスタで駆動制御する発光装置であり、このタイプの発光装置を表示装置として用いた場合、発光素子が自己発光するため、バックライトを必要とせず、また、視野角依存性が少ないなどの利点がある。ここに示す有機EL表示装置1では、複数の走査線63と、この走査線63の延設方向に対して交差する方向に延設された複数のデータ線64と、これらのデータ線64に並列する複数の共通給電線65と、データ線64と走査線63との交差点に対応する画素100(発光領域)とが構成され、画素100は、画像表示領域にマトリクス状に配置されている。データ線64に対しては、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン、アナログスイッチを備えるデータ線駆動回路51が構成されている。走査線63に対しては、シフトレジスタおよびレベルシフタを備える走査線駆動回路54が構成されている。また、画素100の各々には、走査線63を介して走査信号がゲート電極に供給される画素スイチング用の薄膜トランジスタ6と、この薄膜トランジスタ6を介してデータ線64から供給される画像信号を保持する保持容量33と、この保持容量33によって保持された画像信号がゲート電極43に供給される電流制御用の薄膜トランジスタ7と、薄膜トランジスタ7を介して共通給電線65に電気的に接続したときに共通給電線65から駆動電流が流れ込む有機EL素子10(自発光素子)とが構成されている。有機EL表示装置1でカラー表示を行う場合には、各画素100を赤色(R)、緑色(G)、青色(B)に対応させることになる。
【0019】
(有機EL素子および光共振器の構成)
図2は、本発明の実施の形態1に係る有機EL表示装置に構成した有機EL素子の構成を示す断面図である。有機EL表示装置1のうち、基板側に向けて表示光を出射するボトムエミッション型の有機EL表示装置1の場合には、図2に示すように、有機EL素子10は、光透過性の基板11の上層側に、ITOなどからなる光透過性の画素電極12(陽極)、正孔注入層13(機能層)、発光層14(機能層)、アルミニウムなどといった光反射性を備えた対向電極15(陰極/全反射層)がこの順に積層された構成を有する。ここで、発光層14は、画素100が赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のいずれに対応するかによって、材料や膜厚が選択される。
【0020】
また、本形態では、画素電極12の下層側に誘電体多層膜や薄いアルミニウムなどからなる半透過反射膜16が形成され、本形態では、半透過反射膜16からなる下層側反射層と、対向電極15からなる上層側反射層との間に光共振器20が構成されている。
【0021】
このような有機EL表示装置1において、有機EL素子10では、正孔注入層13および発光層14を通じて対向電極15に電流が流れると、そのときの電流量に応じて発光層14が発光する。そして、発光層14から出射された光は、画素電極12および基板11を透過して、観測者側に出射される一方、発光層14から対向電極15に向けて出射された光は、対向電極15によって反射され、画素電極12および基板11を透過して観測者側に出射される。その際、発光層14から出射された光では、光共振器20の下層側反射層(光反射層19)と上層側反射層(対向電極18)の間で多重反射され、光共振器20の光学長が半波長の整数倍に相当する光が出射されるので、出射光の色度を向上させることができる。
【0022】
さらに、本形態では、半透過反射膜16の下層側に、シリコン窒化膜やシリコン酸化膜、あるいはアクリル樹脂などの感光性樹脂からなる光透過性の凹凸形成層17が1画素当たり複数、形成されており、このような凹凸形成層17の上層側に、半透過反射膜16、画素電極12、正孔注入層13、発光層14、および対向電極15がこの順に形成された構造になっている。
【0023】
このため、発光層14は、凹凸形成層17が形成されている領域の膜厚d1、および凹凸形成層17が形成されている領域から離れている領域のd2は比較的薄いのに対して、凹凸形成層17が形成されている領域の周囲では膜厚d3が厚い。しかも、発光層14の膜厚は、凹凸形成層17が形成されている領域、凹凸形成層17が形成されている領域の周囲、および凹凸形成層17が形成されている領域から離れた領域にかけて連続的に変化している。
【0024】
なお、本形態では、画素電極12および正孔注入層13も、発光層14と同様、凹凸形成層17が形成されている領域、および凹凸形成層17が形成されている領域から離れている領域では、膜厚が薄いのに対して、凹凸形成層17が形成されている領域の周囲では膜厚が厚い。しかも、画素電極12および正孔注入層13の膜厚は、発光層14と同様、凹凸形成層17が形成されている領域、凹凸形成層17が形成されている領域の周囲、および凹凸形成層17が形成されている領域から離れた領域にかけて連続的に変化している。
【0025】
このため、理由については後述するように、本形態の有機EL表示装置1では、成膜時の条件によって、画素電極12、正孔注入層13、発光層14の厚さにばらつきがあっても、各画素100から出射される光の色度が大きく低下することがなく、かつ、視野角も広いという効果を奏する。
【0026】
なお、凹凸形成層17をシリコン窒化膜やシリコン酸化膜などから構成する場合には、成膜工程、およびフォトリソグラフィ技術を利用したパターニング工程により形成できる。また、凹凸形成層17を感光性樹脂によって構成する場合には、感光性樹脂を塗布した後、露光工程および現像工程を行うことにより形成できる。
【0027】
また、正孔注入層13や発光層14については、インクジェット法(液体吐出法)などによって所定領域に液状物を吐出した後、乾燥させることにより形成できる。
【0028】
この場合、正孔注入層13は、例えば、ポリオレフィン誘導体である3,4−ポリエチレンジオシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)を正孔注入材料として用い、これを有機溶剤を主溶媒として分散させてなる分散液を所定領域に吐出した後、乾燥させることにより形成できる。また、正孔注入層13を形成するための材料としては、前記のものに限定されることなく、ポリマー前駆体がポリテトラヒドロチオフェニルフェニレンであるポリフェニレンビニレン、1,1−ビス−(4−N、N−ジトリルアミノフェニル)シクロヘキサン、トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム等を用いることもできる。但し、正孔注入層13を凹凸形成層17の上層側に形成した際、正孔注入層13に膜厚変化を付与するという観点からすれば、上記材料のうち、高分子材料を用いることが好ましい。
【0029】
また、発光層14を形成する材料についても、凹凸形成層17の上層側に形成した際、発光層14に膜厚変化を付与するという観点からすれば、高分子材料、例えば分子量が1000以上の高分子材料が用いることが好ましい。具体的には、ポリフルオレン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリチオフェン誘導体、またはこれらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素、例えばルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等をドープしたものが用いられる。なお、このような高分子材料としては、二重結合のπ電子がポリマー鎖上で非極在化しているπ共役系高分子材料が、導電性高分子でもあることから発光性能に優れるため、好適に用いられる。特に、その分子内にフルオレン骨格を有する化合物、すなわちポリフルオレン系化合物がより好適に用いられる。また、このような材料以外にも、例えば特開平11−40358号公報に示される有機EL素子用組成物、すなわち共役系高分子有機化合物の前駆体と、発光特性を変化させるための少なくとも1種の蛍光色素とを含んでなる有機EL素子用組成物も、発光層形成材料として使用可能である。
【0030】
(発光層の膜厚と出射光の発光スペクトル)
図3(a)、(b)、(c)には、赤色、緑色、青色の各画素100において、発光層14の膜厚を変化させたときの各画素100から出射される光の発光スペクトルを示す説明図である。図3(a)には、赤色の画素100(R)において発光層14の膜厚を80nmから100nmまで2nmずつ膜厚をかえた場合の各データを示してあり、矢印Rが示す方向に沿って、発光層14の膜厚が厚くなったときのデータを示してある。図3(b)には、緑色の画素100(G)において発光層14の膜厚を80nmから100nmまで2nmずつ膜厚をかえた場合の各データを示してあり、矢印Gが示す方向に沿って、発光層14の膜厚が厚くなったときのデータを示してある。図3(c)には、青色の画素100(B)において発光層14の膜厚を60nmから80nmまで2nmずつ膜厚をかえた場合の各データを示してあり、矢印Bが示す方向に沿って、発光層14の膜厚が厚くなったときのデータを示してある。
【0031】
図3(a)、(b)、(c)に示すように、赤色、緑色、青色のいずれの画素100(R)、(G)、(B)においても、発光層14の膜厚が厚くなると発光スペクトルのピークは長波長側にシフトする一方、発光層14の膜厚が薄くなると、発光スペクトルのピークは短波長側にシフトする。また、赤色の画素100(R)の場合、発光層14の膜厚が約94nmのときに、発光スペクトルのピークが最高になる。緑色の画素100(G)の場合、発光層14の膜厚が約88nmのときに、発光スペクトルのピークが最高になる。青色の画素100(B)の場合、発光層14の膜厚が約72nmのときに、発光スペクトルのピークが最高になる。従って、従来のように、発光層14の膜厚が発光スペクトルのピークが最高になる値になっていれば、所望の波長を有する光を効率的に出射できるが、発光層14を形成する際の成膜条件によって、発光層14の膜厚が最適値からずれると、出射光の波長が完全にシフトしてしまう。しかるに本形態では、発光層14の下層側に凹凸形成層17を形成してあるので、発光層17の膜厚が画素100内で位置によって当初から連続的に変化しているため、図3(a)、(b)、(c)に示す各膜厚毎の発光スペクトルが合成されて出射されている。従って、発光層14を形成する際の成膜条件によって、発光層14の膜厚が最適値からずれた場合でも、図3(a)、(b)、(c)に示す各膜厚毎の発光スペクトルが合成されて出射され、その構成比率が変化するだけである。それ故、発光層14を形成する際の成膜条件によって、発光層14の膜厚が変動した場合でも、このような変動によって、出射光の波長がシフトすることを最小限に抑えることができる。
【0032】
このような変動は、輝度ばらつきの原因となるので、例えば、画素電極12、正孔注入層13および発光層14の膜厚が±10nmばらついた場合において、有機EL表示装置1における各画素100での輝度ばらつきを下式
輝度ばらつき=100×3σ/平均輝度
より求めたところ、従来の有機EL素子および光共振器では、輝度ばらつきが35%であったが、本形態の有機EL素子10および光共振器20によれば、輝度ばらつきを5%にまで低減できることが確認できた。
【0033】
また、本形態では、発光層14の膜厚が画素100内で位置によって連続的に変化しているため、視野角特性に優れている。すなわち、画素100に対して光の出射方向がなす角度が変ると、それに伴って、光の出射方向での発光層14の厚さが相違していることになるが、本形態では、発光層14の膜厚が画素100内で位置によって当初から連続的に変化しているため、いずれの方向に出射される光においても、図3(a)、(b)、(c)に示す各膜厚毎の発光スペクトルが合成されておる。このため、有機EL表示装置1から正面に出射される光と、斜めに出射される光との間で、発光スペクトルの変化が極めて小さいので、有機EL表示装置1を正面からみたときと、斜めからみたときの画質に大きな差がない。
【0034】
例えば、図4(a)には、本発明を適用した有機EL表示装置1において赤色の画素100(R)から出射される光の発光スペクトルを示し、図4(b)には、発光層の厚さが画素内で一定の従来の有機EL表示装置において赤色の画素から出射される光の発光スペクトルを比較して示す。なお、図4(a)、(b)には、黒円と実線L0によって法線方向(正面)に出射される発光スペクトルを示し、黒円と実線L45によって法線方向(正面)から45°傾いた方向に出射される発光スペクトルを示し、その他の方向に出射される発光スペクトルについては、5°ずつずらした場合の結果を細線のみで示してある。
【0035】
図4(a)、(b)を比較すればわかるように、本形態では、従来例と比較して、有機EL表示装置1から正面に出射される光と、斜めに出射される光との間で、発光スペクトルの変化が極めて小さいので、有機EL表示装置1を正面からみたときと、斜めからみたときの画質に大きな差がない。
【0036】
(凹凸形成層17の膜厚)
このような構成の有機EL表示装置1において、直径2μmの凹凸形成層17を厚さ2nm〜50nmで形成した場合において、厚さが80nmの発光層14を形成した場合における、画素内における発光層14の膜厚の差を検討したところ、以下に示す結果
凹凸形成層17の厚さ 発光層14の膜厚の差
2nm 0.9nm
5nm 2.4nm
10nm 4.2nm
20nm 9.0nm
35nm 17.4nm
50nm 30.0nm
が得られた。ここで、発光層14の膜厚の差が10nmを超えると光共振器条件が大きくずれるとともに、電気光学特性も大きくずれてしまい、同一の供給電力における発光量が極端に低下してしまう。また、発光層14の膜厚の差が2nm未満ではその効果が小さく、2nm以上であれば、画素電極12、正孔注入層13および発光層14の膜厚が±10nmばらついたときでも、有機EL表示装置1における輝度ばらつきを1/2以下にまで抑えることができる。従って、凹凸形成層17の厚さ(高さ)については、5nm以上、20nm以下が好ましい。
【0037】
[実施の形態2]
図5は、本発明の実施の形態2に係る有機EL表示装置に構成した有機EL素子の構成を示す断面図である。なお、本形態の有機EL表示装置および有機EL素子は、基本的な構成が実施の形態1と共通しているため、共通する部分については同一の符号を付して説明する。
【0038】
図5において、本形態の有機EL表示装置1は、基板側とは反対側に向けて表示光を出射するトップエミッション型の有機EL表示装置であり、有機EL素子10は、基板11の上層側に、銀やアルミニウムなどといった光反射層19(全反射層)、ITOなどからなる透明な画素電極12(陽極)、正孔注入層13、発光層14、薄いアルミニウムなどといった半透過反射型の対向電極18(陰極)がこの順に積層された構成を有する。ここで、基板11は、透明あるいは光透過性のいずれの基板を用いることができる。このように構成した有機EL表示装置1でも、光反射層19からなる下層側反射層と、対向電極18からなる上層側反射層との間に光共振器20が構成されている。
【0039】
このように構成した有機EL素子10では、正孔注入層13および発光層14を通じて対向電極15に電流が流れると、そのときの電流量に応じて発光層14が発光する。そして、発光層14が出射された光は対向電極18を透過して、観測者側に出射される一方、発光層14から基板20に向けて出射された光は、画素電極12の下層に形成された光反射層19によって反射され、対向電極18を透過して観測者側に出射される。その際、発光層14から出射された光では、光共振器20の下層側反射層(光反射層19)と上層側反射層(対向電極18)の間で多重反射され、光共振器20の光学長が1/4波長の整数倍に相当する光の色度を向上させることができる。
【0040】
さらに、本形態では、光反射層19の下層側にシリコン窒化膜、シリコン酸化膜、感光性樹脂などからなる光透過性の凹凸形成層17が1画素当たり複数、形成されており、凹凸形成層17の上層側に、光反射層19、画素電極12、正孔注入層13、発光層14、および対向電極15がこの順に形成された構造になっている。
【0041】
このため、発光層14は、凹凸形成層17が形成されている領域の膜厚d1、および凹凸形成層17が形成されている領域から離れている領域のd2は比較的薄いのに対して、凹凸形成層17が形成されている領域の周囲では膜厚d3が厚い。しかも、発光層14の膜厚は、凹凸形成層17が形成されている領域、凹凸形成層17が形成されている領域の周囲、および凹凸形成層17が形成されている領域から離れた領域にかけて連続的に変化している。
【0042】
なお、本形態では、画素電極12および正孔注入層13も、凹凸形成層17が形成されている領域、および凹凸形成層17が形成されている領域から離れている領域では、膜厚が薄いのに対して、凹凸形成層17が形成されている領域の周囲では膜厚が厚い。しかも、画素電極12および正孔注入層13の膜厚は、凹凸形成層17が形成されている領域、凹凸形成層17が形成されている領域の周囲、および凹凸形成層17が形成されている領域から離れた領域にかけて連続的に変化している。
【0043】
このため、本形態の有機EL表示装置1では、実施の形態1において図3および図4などを参照して説明したように、成膜時の条件によって、半透過反射層16、画素電極12、正孔注入層13、発光層14の厚さにばらつきがあっても、各画素100から出射される光の色度が大きく低下することがなく、かつ、視野角も広いという効果を奏する。
【0044】
例えば、画素電極12、正孔注入層13および発光層14の膜厚が±10nmばらついた場合において、有機EL表示装置1における各画素100での輝度ばらつきを下式
輝度ばらつき=100×3σ/平均輝度
より求めたところ、従来の有機EL素子および光共振器では、輝度ばらつきが35%であったが、本形態の有機EL素子10および光共振器20によれば、輝度ばらつきを5%にまで低減することができる。
【0045】
[その他の実施の形態]
上記形態では、機能層より下層側に凹凸を形成するにあたって、凹凸形成層17をドット状に形成したが、基板の全面に形成した凹凸形成層の穴(凹部)を点在させてもよい。この場合にも、穴の深さは、5nmから20nmの範囲であることが好ましい。
【0046】
また、上記形態では、正孔注入層13および発光層14などの機能層の双方を高分子材料で構成したが、少なくとも1つを高分子材料で形成すれば、機能層の膜厚を連続して変化させることができる。
【0047】
また、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能であり、実施形態で挙げた具体的な材料や構成などは一例に過ぎず、適宜変更が可能である。従って、EL表示装置の他、プラズマディスプレイ装置、電子放出素子を用いた装置(Field Emission Display及びSurface‐Conduction Electron‐Emitter Display等)などの各種電気光学装置に本発明を適用してもよい。
【0048】
[電子機器への搭載例]
本発明を適用した電気光学装置については、携帯電話機、パーソナルコンピュータやPDAなど、様々な電子機器において表示装置として用いることができる。また、本発明を適用した発光装置は、デジタル複写機やプリンタなどの画像形成装置における露光用ヘッドとして用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】有機EL表示装置(発光装置)の電気的構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る有機EL素子の構成を示す断面図である。
【図3】(a)、(b)、(c)はそれぞれ、発光層の膜厚を変化させたときに各画素から出射される光の発光スペクトルを示す説明図である。
【図4】(a)、(b)はそれぞれ、本発明を適用した有機EL表示装置において赤色の画素から出射される光の発光スペクトルを示す説明図、および発光層の厚さが画素内で一定の従来の有機EL表示装置において赤色の画素から出射される光の発光スペクトルの説明図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係る有機EL表示装置に構成した有機EL素子の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1・・有機EL表示装置、10・・有機EL素子、11・・基板、12・・画素電極、13・・正孔注入層(機能層)、14・・発光層(機能層)、15・・対向電極(全反射層/上層側反射層)、16・・半透過反射膜(下層側反射層)、17・・凹凸形成層、18・・光反射層(全反射層/下層側反射層)、19・・光反射層(上層側反射層)、20・・光共振器、100・・画素(発光領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の複数の発光領域の各々に少なくとも発光層を含む機能膜を備えた自発光素子を備え、当該自発光素子には、前記発光層の下層側に形成された下層側反射層と前記発光層の上層側に形成された上層側反射層との間に光共振器が形成された発光装置において、
前記機能膜には、前記発光領域内の位置により膜厚が相違する層が少なくとも1層含まれていることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
請求項1において、前記複数の発光領域の各々は、前記自発光素子が出射する光の色により、赤色、緑色および青色のうちのいずれかの色に対応しており、
前記赤色、緑色および青色の発光領域のいずれにおいても、前記機能膜には、前記発光領域内の位置により膜厚が相違する層が少なくとも1層含まれていることを特徴とする発光装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記機能層より下層側に凹凸が形成され、
該凹凸は、当該凹凸の上層側に形成された前記機能膜の膜厚を前記発光領域内の位置により相違させていることを特徴とする発光装置。
【請求項4】
請求項3において、前記凹凸を構成する凸部の高さあるいは凹部の深さは、5nmから20nmの範囲であることを特徴とする発光装置。
【請求項5】
請求項3または4において、前記機能膜には、高分子膜が少なくとも1層、含まれていることを特徴とする発光装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、前記下層側反射層は半透過反射層であり、前記上層側反射層は全反射層であることを特徴とする発光装置。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、前記下層側反射層は全反射層であり、前記下層側反射層は半透過反射層であることを特徴とする発光装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、前記自発光素子は、エレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−269251(P2006−269251A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85680(P2005−85680)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】