説明

発光装置

【課題】発光素子の機能層に悪影響を及ぼさずに、光取り出し効率を向上させることができる発光装置を提供する。
【解決手段】基板101上に形成された複数の発光素子を有する。発光素子は、少なくとも、反射膜102、第1電極103、発光領域201を備えた発光層を含む機能層104、第2電極106を有する。発光領域201間には、周期構造を有する光導波路100が形成される。光導波路100は、基板101と反対側の面が、発光層を形成するための発光材料液に対して、発光領域201と比較して撥液性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に形成された複数の発光素子を有する発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL発光装置は、薄膜で自発光を特徴とした有機EL素子から構成され、新方式のフラットパネルディスプレイとして応用されている。有機EL素子は、陰極から電子を、陽極からホール(正孔)を有機層に注入し、有機層中の発光層で励起子を生成させ、これら励起子が基底状態に戻る際に光が放出される原理を利用している。発光層は、蛍光性有機化合物若しくは燐光性有機化合物、量子ドットなどの発光性材料からなる。
【0003】
このような有機EL発光装置の開発課題の一つとして、発光効率の向上がある。有機EL素子は、通常、陽極、発光層を含む有機層及び陰極が1次元的に積層された構成をとる。このとき、空気の屈折率よりも発光層の屈折率(約1.5乃至2.0程度)の方が大きい。このため、発光層の内部から放出された光の大部分は、高屈折率から低屈折率へ変化する積層膜の界面で全反射されて、基板に水平な方向に伝播する導波光となり、素子内部に閉じ込められることになる。外部に取り出して利用できる光の割合(光取り出し効率)は、通常、約20%程度でしかない。
【0004】
したがって、有機EL発光装置の発光効率を改善するためには、この光取り出し効率を向上することが重要である。
【0005】
従来、全反射を防ぎ、素子内部への光閉じ込めを抑制することを目的として、機能層の上部や下部(光取り出し側やその反対側)に周期構造(サブ波長周期構造や回折格子など)を配置することが提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0006】
また、これらとは別の方法として、導波光として素子内部に閉じ込められて素子側面から漏れ出す光を、光取り出し方向へ反射させるために、素子側面に傾斜した金属反射面を配置し、光取り出し効率を向上させることが提案されている(特許文献3参照)。
【0007】
【特許文献1】米国特許5779924号明細書
【特許文献2】特開2004−349111号公報
【特許文献3】特開平11−214163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び特許文献2に記載された技術のように、機能層の上部に周期構造を配置する場合には、周期構造を作成するプロセスによって機能層を損傷させてしまうという課題がある。また、機能層の下部に周期構造を配置する場合には、周期構造の凹凸によって機能層膜厚が不均一になり、電極間の距離が局所的に変化するため、ショートや非発光点の発生という課題がある。
【0009】
また、特許文献3に記載された技術は、金属電極の傾斜により、電極間の距離が素子中央部と周辺部で変化するため、局所的な発光による素子耐久の低下や、電極間短絡による非発光素子の増加という課題がある。
【0010】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、発光素子の機能層に悪影響を及ぼさずに、光取り出し効率を向上させることができる発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の発光装置は、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明の発光装置は、基板上に形成された複数の発光素子を有している。この発光素子は、少なくとも、反射膜と、第1電極と、発光領域を備えた発光層を含む機能層と、第2電極と、を有している。そして、発光領域間には、周期構造を有する光導波路が形成されており、光導波路は、基板と反対側の面が、発光層を形成するための発光材料液に対して、発光領域と比較して撥液性を有する、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の発光装置によれば、発光素子の機能層に悪影響を及ぼさずに、光取り出し効率を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る発光装置の実施の形態について説明する。
【0014】
本発明の発光装置は、基板上に形成された複数の発光素子を有している。発光素子は、少なくとも、反射膜と、第1電極と、発光領域を備えた発光層を含む機能層と、第2電極と、を有している。また、発光領域間には、周期構造を有する光導波路が形成されており、光導波路は、基板と反対側の面が、発光層を形成するための発光材料液に対して、発光領域と比較して撥液性を有している。
【0015】
また、光導波路の基板面に対して垂直方向の光学的距離は、発光領域の基板面に対して垂直方向の光学的距離の2倍未満であることが好ましい。また、光導波路は、絶縁性を有することが好ましい。また、第2電極は、光導波路の上部にも形成され、透明電極である光透過電極若しくは金属半透明電極とすることが可能である。また、周期構造は、金属を含んで構成することが可能である。
【0016】
また、光取り出し側に遮光層を有しており、周期構造を介して外部に取り出される光が、光導波路の導波方向に対して90°より大きい角度方向で最大強度若しくは最大輝度となることが好ましい。また、光導波路の基板面に対して垂直方向の光学的距離は、発光層の発光ピーク波長λの3/8倍以上11/8倍以下であることが好ましい。
【0017】
図1は、本発明を適用できる発光素子の基本的概念を示す模式的断面図である。
【0018】
本発明を適用する発光素子は、図1に示すように、まず初めに、基板101上に、反射膜102を形成する。反射膜102としては、金属を用いることができる。反射膜102には、基板101と反対側の面の一部に、周期構造105を形成する。次に、反射膜102上に第1電極(陽極)103を形成する。次に、第1電極103を囲むように光導波路100を形成する。その結果、光導波路100の基板101側にも、周期構造105が反映された周期構造105が形成される。このように、光導波路100は周期構造105を有している。
【0019】
光導波路100としては、透明絶縁材料を用いることができる。さらに、光導波路100の基板101と反対側の面は、発光層を作成するための発光材料液に対して、発光領域201と比較して撥液性を持たせる。光導波路100は、撥液性を持った感光性樹脂を用い、フォトリソ工程にてパターニングすることで作成することができる。あるいは、透明無機絶縁材料や透明樹脂又はその積層構造をパターン形成した後に、撥液性を持たせるためにフッ化処理を施してもよいし、透明無機絶縁材料や透明樹脂、又はその積層構造をパターン形成した後に、撥液性材料を形成してもよい。樹脂材料としては、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂等を用いることができる。透明性無機材料としては、酸化珪素(SiO)や窒化珪素(SiN)、酸化窒化珪素(SiON)等を用いることができる。また、このような材料以外でも、上述した特性を満たせば、他の物質を使用することができる。
【0020】
さらに、光導波路100に囲まれた領域内の第1電極103上に、発光層を有する機能層104を形成する。この発光層は発光材料を溶解した発光材料液を塗布することにより形成される。塗布法としては、一般的なディスペンス法やインクジェット法、ノズルプリント法、印刷法等を用いることができる。
【0021】
さらに、機能層104上に第2電極106を形成する。第2電極106は、半透過膜であることが望ましい。
【0022】
図2は、本発明を適用できる発光素子を上部から見た模式図である。図2に示すように、周期構造105を有する光導波路100は、発光領域201を取り囲むように形成する。発光領域201上には、少なくとも、第1電極103、機能層104及び第2電極106を形成する。本発明によれば、光導波路100に撥液性を持たせるため、発光層の材料である発光材料液が、光導波路100の上面で弾かれるので、溢れることなく発光領域201のみに材料を形成することができる。このように、本発明によれば、容易に画素間分離を行うことが可能となる。
【0023】
図3は、本発明に適用できる機能層を示す模式的断面図である。図3に示すように、機能層104は、通常、ホール輸送層302、発光層301、電子輸送層303が積層された構成をとる。発光層301は、それぞれの発光色に応じた蛍光性有機化合物若しくは燐光性有機化合物を含む。また、発光層301には、ゲスト材料、ホスト材料などの複数の材料が含まれていてもよい。発光材料としては、高分子材料、中分子材料又は低分子材料などが挙げられ、塗布型の発光材料であれば特に限定されない。例えば、ポリフルオレン、ポリフルオレンの共重合体、ポリフェニレンビニレンなどの高分子材料、オリゴフルオレンなどの中分子材料、フルオレン系、ピレン系、フルオランテン系、アントラセン系などの縮合多環化合物、イリジウムを含む金属錯体などの低分子材料が挙げられる。機能層104の膜厚は80nm乃至500nmの範囲が好ましく、発光層301の膜厚は20nm乃至200nmの範囲が好ましい。
【0024】
また、必要に応じて第1電極103とホール輸送層302との間にホール注入層304を形成してもよく、第2電極106と電子輸送層303との間に電子注入層305を形成してもよい。
【0025】
このような構成からなる有機EL素子に電圧を印加すると、機能層104に対して、陽極から正孔が注入され、陰極から電子が注入される。注入された正孔と電子は、発光層301において励起子を形成し、励起子が再結合する際に光(自然放出光)を放射する。
【0026】
図1に示す発光素子の構成例では、発光点107に対して、第2電極106側が光取り出し側となり、光導波路100が基板101の水平方向に対してプレーナー型の光導波路として機能する。ここで、透明絶縁材料を挟んで、反射膜102が第1反射面、第2電極106が第2反射面となり、光導波路100を形成している。発光領域201内の発光点107から発せられた光は、光取り出し側への伝播光108と、光導波路100を基板101の水平方向に伝わる導波光109となる。導波光109は、周期構造105よって回折光110に変換され、素子外部に取り出される。よって、本発明によれば、発光素子の機能層に悪影響を及ぼさずに、光取り出し効率を向上することができる。
【0027】
本発明において、さらに光取り出し効率を上げるためには、導波光109の導波モードが少ない方が良く、発光領域201から光導波路100内に導波光109が伝わる際に、導波モードを増やさないことが好ましい。そのため、光導波路100の基板面に対して垂直方向の光学的距離Σ(nWi・dWi)は、発光領域201の基板面に対して垂直方向の光学的距離Σ(nEi・dEi)の2倍未満にすることが好ましい。なお、光導波路100の各層の厚さをdWi、光導波路100の各層の屈折率をnWi、発光領域201の各層の厚さをdEi、発光領域201の各層の屈折率をnEiとする。
【0028】
また、基板面に対して垂直方向の光学的距離とは、導波光109が導波する領域である第1反射面と第2反射面の基板101に対する垂直方向の距離を指す。本実施形態では、図1において、反射膜102と、第2電極106との間の距離となる。
【0029】
本発明において、さらに取り出し効率を上げるためには、発光領域201から光導波路100内に導波光109が伝わる際に、導波モードを減らさないことが好ましい。導波モードが減ってしまうと、そのモードの導波光109は反射されてしまい、光導波路100に入って行かない。そのため、本発明において、取り出し効率を上げるためには、光導波路100の基板面に対して垂直方向の光学的距離は、発光領域201の基板面に対して垂直方向の光学的距離と同等にすることが好ましい。ここで、発光領域201の光取り出し効率を干渉効果によって良くするために、本発明の発光領域201の基板面に対して垂直方向の光学的距離は、発光ピーク波長λの3/8倍以上11/8倍以下程度であることが好ましい。具体的には、可視光の波長域が380nm乃至780nmであることから、140乃至1073nmであることが好ましい。よって、光導波路100の基板面に対して垂直方向の光学的距離も、発光ピーク波長λの3/8倍乃至11/8倍程度である140乃至1073nmであることが好ましい。
【0030】
さらに、導波光109から回折光への結合効率を大きくし、回折効果をより機能させるため、周期構造105による光導波路100の誘電率変化を大きくすることが望ましい。誘電率変化を大きくするためには、光導波路100を形成する材料に対して、誘電率が大きく異なる材料で周期構造105を構成すればよい。例えば、金属により周期構造105を構成することが好ましい。
【0031】
さらに、本発明においては、負の回折効果が生じる条件を用い、遮光層となる遮光板を構成することで、よりコントラストを上げることが可能になる。
【0032】
図4は、負の回折効果を用いて、よりコントラストを上げることが可能な発光素子の一例を説明する模式的断面図である。図4(a)に示すように、周期構造105の周期は、回折光110の回折角度が、導波光109の進行方向に対して、90°より大きくなるように構成される。基板法線を基準とすると負の角度となる。以下、導波光109の進行方向に対して、90°より大きな方向への回折を、「負の回折」と呼ぶ。周期構造105の周期は、外部に取り出したい導波光109に対して負の回折光を生じるように構成される。さらに、周期構造105を介して外部に取り出される光が、導波方向に対して90°より大きい角度方向で最大強度若しくは最大輝度となることが望ましい。
【0033】
発光素子の周期構造105の上方部分に遮光板としてブラックマトリックス401を配置して遮光層を形成し、さらに、その上部に円偏光板402を配置する。表示装置が複数の発光素子を有している場合には、発光素子の周囲に形成された周期構造105は、隣り合う発光素子の間に形成されることになる。ブラックマトリックス401も隣り合う発光素子の間に形成される。
【0034】
発光点107からの伝播光108は、ブラックマトリックス401の開口部から表示装置外部に放射される。また、外部に取り出したい波長において、回折光110は、ブラックマトリックス401の開口部から外部に放射されるように、光導波路100中の導波光109に対して負の回折角度になるよう調整されている。
【0035】
図4(b)に、本発明の表示装置に、外光が垂直に近い角度で入射する場合の模式図を示す。入射光(垂直近傍)403のうち、EL発光領域への入射光404は、円偏光板402により反射光405が防止される。また、周期構造105の上方部への入射光は、ブラックマトリックス401によって反射が防止される。
【0036】
次に、図4(c)に、本発明の表示装置に、外光が斜め方向から入射する場合の模式図を示す。斜め入射光406は、円偏光板402を透過し円偏光となり、その後、周期構造105に反射して斜め反射光407となる。斜め反射光407は、周期構造105によって円偏光状態から楕円偏光となるが、ブラックマトリックス401によって吸収されるため、反射が防止される。
【0037】
本発明によれば、周期構造105を配置して光取り出し効率を向上させると同時に、外光入射に対する反射光を低減でき、よりコントラストを上げることが可能である。
【0038】
次に、周期構造105に関してより詳しい説明を行う。
【0039】
本実施形態では、図1に示すように、発光層で発せられた光の一部が導波光109となり、光導波路100を伝わり、周期構造105によって光取り出し側に回折光110として素子外部に取り出される。
【0040】
図2に示すように、本実施形態では、周期構造105は、発光領域201を取り囲むように形成する。ここで、周期構造105の周期を規定する2つの基本格子ベクトルをa1、a2とする。また、これらの基本格子ベクトルa1、a2に対し、下記式1の関係を満たす基本逆格子ベクトルをb1、b2とする。
【0041】
【数1】

【0042】
機能層104中の発光層からの発光ピーク波長をλとし、波数をk=2π/λとする。また、光導波路100の屈折率をn、光取り出し側媒体(通常は空気)の屈折率をnextとし、条件n>nextを満たすとする。
【0043】
光導波路100を伝播する導波光109に対する基板101の水平方向への伝播係数をβとし、導波光109に対する有効屈折率neff及び有効吸収係数κeffを、下記式2により定義する。有効屈折率neffは、条件next<neff<nを満たすとする。
【0044】
【数2】

【0045】
このとき、回折条件は、水平方向の位相整合条件から、2つの整数m1、m2を回折次数とし、基板法線方向に対する回折角度をθとして、条件next<neff<nのもとで、下記式3で与えられる。
【0046】
【数3】

【0047】
正方格子の場合は、周期をaとして、基本格子ベクトルは下記式4となり、基本逆格子ベクトルは下記式5となる。
【0048】
【数4】

【0049】
【数5】

【0050】
このとき、数3の回折条件は、下記式6となる。
【0051】
【数6】

【0052】
ここで、どちらか一方の1次元方向に着目し、m2=0(若しくは、m1=0)、及び|m1|=m>0(若しくは、|m2|=m>0)とする。このとき、上記式6の回折条件は、簡略化され下記式7となる。さらに、next<neff<nの関係を満たす場合、各m次の回折が生じるための回折条件は、下記式8となり、さらに、負の回折が生じるための条件は、下記式9となる。
【0053】
【数7】

【0054】
【数8】

【0055】
【数9】

【0056】
m次の負の回折光のみを発生させたい場合の条件は、上記式9より、概ね下記式10で与えられる。
【0057】
【数10】

【0058】
本発明の発光素子では、通常、光導波路100として、屈折率がn=1.3乃至2.5程度の材料を用いる。また、光取り出し側の屈折率はnext=1.0乃至1.5程度である。よって、主に1次から3次程度の低次の負回折光を利用する場合は、周期構造105の周期aは、概ね発光ピーク波長λの0.26倍乃至1.74倍が望ましい。可視光の波長域が380nm乃至780nmであることから、周期構造105の周期aは、100nm乃至1360nmであることが望ましい。
【0059】
なお、本発明は、上述した具体例に限定されるものではない。
【0060】
これまでは、基板側を陽極、光取り出し側を陰極とする構成で説明してきたが、基板側を陰極、光取り出し側を陽極とし、ホール輸送層、発光層、電子輸送層を逆順に積層した構成においても本発明を実施することは可能である。したがって、本発明に係る発光装置は、基板側を陽極、光取り出し側を陰極とする構成に限定されるものではない。
【0061】
また、発光材料に関しても、有機材料に限定するものではなく、塗布系で形成できるものであれば本発明を実施することは可能であり、例えば無機化合物やQD(量子ドット)を用いてもよい。
【0062】
また、周期構造105は、上述したように2次元的なフォトニック結晶構造に限定されず、1次元的な回折格子の組み合わせや3次元的なフォトニック結晶構造でもよい。さらに、異なる基本格子ベクトルを持つ複数種類の周期構造105を混在させてもよい。周期構造105は、完全に周期的である必要はなく、準結晶構造やフラクタル構造、連続的に周期構造105が変化する構造、不規則な散乱構造、若しくは周期構造105とこれらを組み合わせたものでもよい。
【0063】
図8は、本発明に適用できる周期構造を説明するための模式的断面図である。
【0064】
これまでは凹型のフォトニック結晶構造で説明したが、図8(a)に示すように、凸型のフォトニック結晶構造801でもよい。また、図8(b)に示すように、周期構造802を光導波路100内に構成してもよいし、図8(c)に示すように、周期構造803を光導波路100の基板101と逆側に構成してもよい。すなわち、少なくとも、光導波路100の一部に周期構造が形成されていれば、本発明を実施することは可能である。
【0065】
また、光取り出し側の電極を金属半透明電極とする構成で説明してきたが、光取り出し側の電極を透明電極(光透過電極)とする構成においても本発明を実施可能である。この場合、透明電極(光透過電極)と空気との界面を反射面としている。さらに、金属半透明電極と誘電体層との組み合わせであってもよい。さらには、光取り出し側に位置する反射面を、金属、透明電極(光透過電極)、誘電体層のいずれか、若しくは全部の組み合わせによる多層干渉膜とすることも可能である。
【0066】
図9は、本発明に適用できる第1電極の構造を説明するための模式的断面図である。
【0067】
これまでは、第1電極103が発光領域201のみに形成されている構成で説明してきたが、図9(a)に示すように、第1電極901が光導波路100の下部に形成されている構成でも本発明を実施することは可能である。さらに、図9(b)に示すように、反射膜が第1電極902を兼ねる構造としても、本発明を実施することは可能である。
【0068】
また、基板101側が光取り出し側となるボトムエミッション構成においても本発明を実施することは可能である。
【0069】
図10は、本発明に適用できる周期構造の位置を説明するための模式的平面図、図11は、本発明に適用できる光導波路の位置を説明するための模式的平面図である。
【0070】
以上、発光領域201の周囲を囲むように、周期構造105を形成する構成で説明してきたが、図10(a)及び図10(b)に示すように、発光領域201の周囲の少なくとも一部に周期構造1001、1002を構成することでも本発明の効果が得られる。また、撥液性の光導波路100も、発光領域201の周囲を囲むように形成する構成で説明してきたが、複数の画素を有する場合には、図11(a)及び図11(b)に示すような構成であってもよい。すなわち、図11(a)及び図11(b)に示すように、異なる色の発光領域(1102、1103、1104)間のみに撥液性導波路1101を形成する構成においても本発明を実施することは可能である。
【実施例】
【0071】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。図5は、実施例1のフルカラー有機EL発光装置の模式図である。
【0072】
<実施例1>
実施例1として、図5に示す構成のフルカラー有機EL発光装置を、以下に示す方法で作製する。すなわち、実施例1の発光装置は、複数の画素を有し、これらの画素が複数色(赤色(R)発光505、緑色(G)発光506、青色(B)発光507)の副画素からなる有機EL発光装置であり、副画素の少なくとも1つが有機EL発光素子により構成されている。
【0073】
実施例1では、まず、支持体としてのガラス基板上に、低温ポリシリコンからなるTFT駆動回路(不図示)を形成し、その上にアクリル樹脂からなる平坦化膜(不図示)を形成して基板101とする。
【0074】
次に、基板101上に、反射膜102として、スパッタリングによりAg合金を約150nmの膜厚で形成する。Ag合金からなる反射膜102は、可視光の波長域(λ=380nm乃至780nm)で分光反射率80%以上の高反射膜である。Ag合金以外に、Al合金などを用いてもよい。この反射膜102上に、まず、ポジ型のレジストをスピンコートしプリベークを行う。その後、レジストに、副画素毎の反射膜が分離するようにパターンを露光し、現像、ポストベークを行い、レジストパターンを形成する。エッチング加工により、反射膜102を副画素毎に分離し、レジストを除去する。
【0075】
再度、反射膜102上に、ポジ型のレジストをスピンコートしプリベークを行う。レジストに対して、図2に示すような正方格子の周期構造パターンを露光し、現像、ポストベークを行い、レジストパターンを形成する。エッチング加工により、反射膜102の表面に周期構造を形成する。実施例1において、R周期構造501は、周期345nm、一辺の長さ200nm、エッチング深さ40nmとした。G周期構造502は、周期250nm、一辺の長さ140nm、エッチング深さ40nmとした。B周期構造503は、周期200nm、一辺の長さ140nm、エッチング深さ40nmとした。次に、レジストを除去する。
【0076】
図2に示すような正方格子では、各副画素の上下方向と左右方向とで周期構造(501、502、503)の周期(配列)が等しい。そのため、発光装置を視認した場合、上下方向と左右方向とで同様の光学特性を得ることができ、視認性を高めることができる。また、逆に、上下方向と左右方向の周期が異なる四角格子としてもよい。この場合は、方向によって視認性を調整することが可能となる。さらに、異なる正方格子を組み合わせることにより、上下方向、左右方向と斜め方向とにおいて、同様の光学特性を得ることができるので、視認性を高めることもできる。
【0077】
次に、第1電極103として、スパッタリングにより透明導電性材料のIZOを100nmの膜厚で形成する。屈折率は2.0であった。このIZOの上に、まず、ポジ型のレジストをスピンコートしプリベークを行う。レジストに対して、図2に示すように、発光領域201に対応する形状が残るようにパターンを露光し、現像、ポストベークを行い、レジストパターンを形成する。エッチング加工により、発光領域201に反射膜102を形成する。その後、レジストを除去する。
【0078】
次に、光導波路100として、反射膜102上に、第1電極103を囲むようにしてネガ型感光性アクリル系撥液性樹脂を形成する。屈折率は、1.5であった。ここで、本実施例では、撥液性材料は、図5(b)に示すように隣り合う発光素子の間に形成されることになる。光導波路100として機能する領域は、反射膜102と、第2電極106に挟まれた領域である。光導波路100の厚さは、光導波路100の光学的距離504を、後述する機能層の光学的距離と同等にするために、光導波路100として機能する領域の厚さを290nmになるように形成する。まず、ネガ型感光性アクリル系撥液性樹脂をスピンコートしプリベークを行う。その後、ネガ型感光性アクリル系撥液性樹脂に、図5(b)に示すような発光領域が開口部となるようなパターンを露光し、現像、ベークを行い、光導波路100を形成する。
【0079】
次に、R、G、Bそれぞれの機能層を、ノズルから液柱を連続して吐出するノズルプリンティング装置を用いて塗布形成する。
【0080】
ここでは、ノズルから必要量の材料を連続的に滴下させながら、ノズルを、発光領域201上をY方向に(例えば点線510に沿って)高速で搬送する。溶液の粘度と圧力を調整することで、1回の突出で必要量の材料を発光領域201に滴下することができる。
【0081】
まず、ホール注入層として、PEDOT−PSS(Al−4083、H.C.Starck製)を撥液性導波路間の各副画素にノズルプリンティング装置を用いて、40nmの膜厚で形成した。屈折率は約1.55であった。
【0082】
次に、ホール注入層上に、R、G、Bの発光層をそれぞれ形成した。R発光層は、ゲスト材料として赤色燐光発光イリジウム金属錯体とホスト材料としてポリフルオレンを含有するR発光層塗布液を用い、約100nmの膜厚で形成した。屈折率は約1.73であった。G発光層は、ゲスト材料としてフルオランテン系の縮合多環化合物とホスト材料としてポリフルオレンを含有するG発光層塗布液を用い、約100nmの膜厚で形成した。屈折率は約1.70であった。B発光層は、ピレン系の縮合多環化合物とホスト材料としてオリゴフルオレンを含有するB発光層塗布液を用い、約80nmの膜厚で形成した。屈折率は約1.70であった。本実施例では、塗布されたR、G、Bの各発光層が、撥液性を持つ光導波路100によって副素子毎に分離できていることが観測された。
【0083】
さらに、R、G、Bの各発光層上に、共通の電子輸送層としてバソフェナントロリン(Bphen)を、真空蒸着法にて20nmの膜厚で形成した。屈折率は約1.73であった。次に、共通の電子注入層として、BphenとCs2CO3とを共蒸着(重量比90:10)し、10nmの膜厚で形成する。屈折率は約1.75であった。
【0084】
電子注入層まで形成した基板を、真空を破ることなしにスパッタ装置に移動し、第2電極106の金属半透明膜として、スパッタリングによりAg合金を24nmの膜厚で形成する。
【0085】
ここで、本実施例において、発光領域201の基板面に対して垂直方向の光学的距離Σ(nEi・dEi)は、第1電極103であるIZOから電子注入層までの合計であり、R、G、Bそれぞれの副素子で、約450乃至490nmとなる。
【0086】
また、光導波路100の基板面に対して垂直方向の光学的距離Σ(nWi・dWi)は、反射膜102と第2電極106に挟まれる距離504であり、約480nmとなり、発光領域201の光学的距離の2倍未満になっている。
【0087】
さらに、誘電体層として、スパッタリングにより、シリカを290nmの膜厚で形成する(不図示)。さらに、発光装置の周辺部に吸湿剤を配置し、エッチングされたキャップガラス(不図示)で封止することにより、有機EL発光装置を得た。
【0088】
本実施例では、バンク上面を撥液性とすることで、塗布液がバンク上面で弾かれ、隣接画素に塗布液が混入せず、容易に画素分離をすることができた。このようにして得られた発光素子の発光強度を評価したところ、周期構造を有さない発光素子と比べ、R、G、B副画素の全てにおいて、約1.8倍の発光強度を得ることができた(比較例1参照)。以上説明したように、本発明によれば、発光素子の機能層に悪影響を及ぼさずに、光取り出し効率を向上することができる。
【0089】
<実施例2>
図6は、実施例2の発光装置の模式図である。
【0090】
実施例2として、図6に示すように、光導波路100として、透明無機絶縁膜であるSiN611上に撥液性樹脂610を形成する例を説明する。
【0091】
実施例2において、光導波路100以外は、実施例1と同様に発光素子を形成する。第1電極までは、実施例1と同様に形成する。
【0092】
次に、光導波路100を形成する。まず、スパッタリングによりSiNを約170nmの膜厚で形成する。屈折率は2.1であった。その後、ポジ型のレジストをスピンコートしプリベークを行う。レジストに発光領域が開口部となるようなパターンを露光し、現像、ポストベークを行い、レジストパターンを形成する。その後、図6(b)に示すように、エッチング加工により、発光領域が開口部となるような形状にSiNをパターニングする。
【0093】
次に、スピンコートにより、ネガ型感光性アクリル系撥液性樹脂を反射膜102上の領域の膜厚が50nmとなるように形成しプリベークを行う。屈折率は1.5であった。その後、図6(b)に示すように、ネガ型感光性アクリル系撥液性樹脂に、発光領域が開口部となるようなパターンを露光し、現像、ベークを行い、光導波路100を形成する。
【0094】
ここで、本実施例の、光導波路100の基板面に対して垂直方向の光学的距離604は約480nmであり、発光領域の光学的距離の2倍未満になっている。
【0095】
その後、機能層の形成からキャップガラスで封止する工程までは、実施例1と同様に行う。
【0096】
本実施例では、バンク上面を撥液性とすることで、塗布液がバンク上面で弾かれ、隣接画素に塗布液が混入せずに、容易に画素分離をすることができた。
【0097】
このようにして得られた発光素子の発光強度を評価したところ、周期構造を有さない発光素子と比べ、R、G、B副画素の全てにおいて、約1.8倍の発光強度を得た(比較例1参照)。
【0098】
(比較例1)
図7は、比較例1の発光装置の模式図である。
【0099】
比較例1として、図7に示すように、周期構造を有さない例を説明する。
【0100】
比較例1では、反射膜上に周期構造を形成しない以外は、実施例1と同様に発光素子を形成する。
【0101】
比較例1では、反射膜702として、スパッタリングによりAg合金を約150nmの膜厚で形成し、副画素毎の反射膜が分離するようにパターニングを行った後、反射膜702に周期構造パターンを形成しなかった。すなわち、比較例1は、周期構造を有さない構成とされている。
【0102】
その後、キャップガラスで封止する工程までは、実施例1と同様に行う。
【0103】
このようにして得られた発光素子の発光強度を評価したところ、実施例1の発光装置と比べ、R、G、B副画素の全てにおいて、発光強度が小さくなった。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明を適用できる発光素子の基本的概念を示す模式的断面図。
【図2】本発明を適用できる発光素子を上部から見た模式図。
【図3】本発明に適用できる機能層を示す模式的断面図。
【図4】負の回折効果を用いて、よりコントラストを上げることが可能な発光素子を説明する模式的断面図。
【図5】実施例1のフルカラー有機EL発光装置の模式図。
【図6】実施例2の発光装置の模式図。
【図7】比較例1の発光装置の模式図。
【図8】本発明に適用できる周期構造を説明するための模式的断面図。
【図9】本発明に適用できる第1電極の構造を説明するための模式的断面図。
【図10】本発明に適用できる周期構造の位置を説明するための模式的平面図。
【図11】本発明に適用できる光導波路の位置を説明するための模式的平面図。
【符号の説明】
【0105】
100 光導波路
101 基板
102 反射膜
103 第1電極
104 機能層
105 周期構造
106 第2電極
107 発光点
108 伝播光
109 導波光
110 回折光
201 発光領域
301 発光層
302 ホール輸送層
303 電子輸送層
304 ホール注入層
305 電子注入層
401 ブラックマトリックス
402 円偏光板
403 入射光(垂直近傍)
404 EL発光領域への入射光
405 反射光
406、407 斜め入射光
501R、502G、503B 周期構造
504 光導波路の基板面に対して垂直方向の光学的距離
505 赤色(R)発光
506 緑色(G)発光
507 青色(B)発光
508 X方向
509 Y方向
510 点線
604 光導波路の基板面に対して垂直方向の光学的距離
610 撥液性樹脂
611 透明無機絶縁膜
702 反射膜
801 周期構造
802 周期構造
803 周期構造
901 第1電極
902 第1電極
1001 周期構造
1002 周期構造
1101 撥液性導波路
1102、1103、1104 異なる色の発光領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された複数の発光素子を有する発光装置であって、
前記発光素子は、少なくとも、反射膜と、第1電極と、発光領域を備えた発光層を含む機能層と、第2電極と、を有し、
前記発光領域間には、周期構造を有する光導波路が形成されており、
前記光導波路は、前記基板と反対側の面が、前記発光層を形成するための発光材料液に対して、前記発光領域と比較して撥液性を有する、
ことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記光導波路の基板面に対して垂直方向の光学的距離は、前記発光領域の基板面に対して垂直方向の光学的距離の2倍未満であることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記光導波路は、絶縁性を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記第2電極は、前記光導波路の上部にも形成され、光透過電極若しくは金属半透明電極からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記周期構造は、金属を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項6】
前記発光装置の光取り出し側に遮光層を有しており、前記周期構造を介して外部に取り出される光が、前記光導波路の導波方向に対して90°より大きい角度方向で最大強度若しくは最大輝度となることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項7】
前記光導波路の基板面に対して垂直方向の光学的距離は、前記発光層の発光ピーク波長λの、3/8倍以上11/8倍以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−272194(P2009−272194A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122892(P2008−122892)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】