説明

発光装置

【課題】光取り出し効率の高い構成の発光装置を提供する。
【解決手段】一対の電極および該電極間に設けられる発光層を備える有機エレクトロルミネッセンス素子と、前記一対の電極のうちの一方の電極に接して設けられる光透過性薄板とを備える発光装置であって、前記一対の電極のうちの一方の電極は、光透過性を示し、かつ屈折率が1.5〜1.8の電極であり、前記光透過性薄板は屈折率が1.4〜1.9であり、発光層から離間する側の一方の表面部に光散乱層が形成されており、前記有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する各部材の厚さは、前記光散乱層が形成されておらず、かつ前記一方の表面が平面状の光透過性薄板を仮想したときに、有機エレクトロルミネッセンス素子内部で発生する光のうちで、仮想した光透過性薄板中を導波する薄板導波モードとなる光の割合が、該割合の極大値×0.8以上となる厚さである発光装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表示装置および照明装置などの発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「エレクトロルミネッセンス」を「EL」と記載することがある。)は、発光材料に有機物を用いた発光素子であり、陽極および陰極からなる一対の電極と、該電極間に設けられる発光層とを含んで構成されている。この有機EL素子に電圧を印加すると、陽極から正孔が注入されるとともに、陰極から電子が注入され、発光層においてこれら正孔と電子とが結合することによって発光する。
【0003】
発光層から放射される光は一対の電極のうちの一方の電極を通って素子外に出射するため、一方の電極には光透過性を示す電極が用いられる。この光透過性を示す一方の電極には現状のところITO(Indium Tin Oxide)薄膜が多用されている。
【0004】
有機EL素子は通常支持基板上に設けられている。光が支持基板を通って外に出射する構成のいわゆるボトムエミッション型の有機EL素子は、一対の電極のうちで、光透過性を示す一方の電極(ITO薄膜)を支持基板側に配置させて支持基板上に設けられている。すなわち発光層から放射される光は、ITO薄膜、支持基板を順に通って外に出射する。
【0005】
ITO薄膜の屈折率は、2程度であり、通常このITO薄膜を挟む発光層や支持基板の屈折率よりも高い。すなわちボトムエミッション型の有機EL素子を構成した場合、屈折率の高いITO薄膜が、屈折率の低い発光層と支持基板の間に配置されることになる。そのため光透過性を示す電極にITO薄膜を用いた場合には、ITO薄膜表面での反射が起こり易く、発光層から放射される光が一部しか外に出射しないという問題がある。そこで、光を効率的に外に出射させるための構成に関する種々の検討がなされている。
【0006】
たとえば、一般的に支持基板として用いられるガラス基板の屈折率は1.5程度であるが、この支持基板に、ITO薄膜と同程度の高い屈折率を有するガラス基板を用いた有機EL素子が提案されている。ITO薄膜と屈折率が同程度の支持基板を用いることによって、この支持基板を導波する光の割合を高め、結果として光取り出し効率を向上さている(たとえば非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】有機EL討論会、第5回例会予稿集、2007年11月15日、S4−8、p.31
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の技術では、光透過性を示す電極と支持基板との屈折率の差を低減するために、光透過性を示す電極の屈折率に合わせて支持基板の屈折率を高くしているのに対して、本発明者等は光透過性を示す電極の屈折率を下げることを検討している。たしかに光透過性を示す電極の屈折率を下げることによって光透過性を示す電極表面での反射を抑制することは可能であるが、本発明者等は光透過性を示す電極の屈折率の低下と合せて、光取り出し効率がさらに向上する構成を現在検討しているところである。
【0009】
したがって本発明の目的は、光取り出し効率の高い構成の発光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、一対の電極および該電極間に設けられる発光層を備える有機エレクトロルミネッセンス素子と、
前記一対の電極のうちの一方の電極に接して設けられる光透過性薄板とを備える発光装置であって、
前記一方の電極は、光透過性を示し、かつ屈折率が1.5〜1.8の電極であり、
前記光透過性薄板は屈折率が1.4〜1.9であり、発光層から離間する側の一方の表面部に光散乱層が形成されており、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する各部材の厚さは、前記光散乱層が形成されておらず、かつ前記一方の表面が平面状の光透過性薄板を仮想したときに、有機エレクトロルミネッセンス素子内部で発生する光のうちで、仮想した光透過性薄板中を導波する薄板導波モードとなる光の割合が、該割合の極大値×0.8以上となる厚さである発光装置に関する。
【0011】
本発明は、前記一方の電極は、光透過性を示す樹脂と、該樹脂に分散した線状導電体とを含むことを特徴とする発光装置に関する。
【0012】
本発明は、前記線状導電体は、金属線またはカーボンナノチューブから成る発光装置に関する。
【0013】
本発明は、前記光透過性薄板の屈折率と、前記一方の電極の屈折率との差の絶対値が0.1未満である発光装置に関する。
【0014】
本発明は、前記光散乱層は、光透過性薄板に入射し、さらに光散乱層を通って出射する光の強度を、光散乱層を設けない仮想の光透過性薄板に入射し、この仮想の光透過性薄板の表面から出射する光の強度と比較したときに、正面強度および積分強度のいずれもが1.3倍以上となるような構造を有する発光装置に関する。
【0015】
本発明は、前記発光装置を備える表示装置に関する。
【0016】
本発明は、前記発光装置を備える照明装置に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光取り出し効率の高い構成の発光装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】有機EL素子を備える発光装置1を模式的に示す図である。
【図2】トップエミッション型の有機EL素子12を備える発光装置11を模式的に示す図である。
【図3】I(θ°)を説明するための図である。
【図4】UTE12の断面の顕微鏡写真を示す図である。
【図5】UTE12の表面の顕微鏡写真を示す図である。
【図6】I(θ°)の測定系を示す図である。
【図7】UTE21の表面の顕微鏡写真を示す図である。
【図8】WF80の表面の顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の発光装置は、一対の電極および該電極間に設けられる発光層を備える有機EL素子と、前記一対の電極のうちの一方の電極に接して設けられる光透過性薄板とを備える発光装置であって、前記一対の電極のうちの一方の電極は、光透過性を示し、かつ屈折率が1.5〜1.8の電極であり、前記光透過性薄板は屈折率が1.4〜1.9であり、一対の表面のうちの、発光層から離間する側の一方の表面部に光散乱層が形成されており、前記有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する各部材の厚さは、前記光透過性薄板に光散乱層が形成されておらず、かつ前記一方の表面が平面状の光透過性薄板を仮想したときに、有機エレクトロルミネッセンス素子内部で発生する光のうちで、仮想した光透過性薄板中を導波する薄板導波モードとなる光の割合が、該割合の極大値×0.8以上となる厚さである。
【0020】
有機EL素子は、この有機EL素子が設けられる支持基板に向けて光を放射するボトムエミッション型の素子と、支持基板とは反対側に光を放射するトップエミッション型の素子とに大別される。本発明は両方の型の有機EL素子に適用することが可能である。以下ではまずボトムエミッション型の有機EL素子に本発明を適用した発光装置について説明し、続いてトップエミッション型の有機EL素子に本発明を適用した発光装置について説明する。
【0021】
1)ボトムエミッション型の有機EL素子を備える発光装置の構成
ボトムエミッション型では支持基板が光透過性薄板に相当する。有機EL素子は光透過性薄板としての支持基板上に設けられる。また一対の電極のうちで、光透過性を示す一方の電極は、支持基板寄りに配置される。
【0022】
有機EL素子は一対の電極間に、発光層のみならず、必要に応じて所定の層がさらに設けられることがある。また一対の電極間には、一層に限らず複数の発光層が設けられることもある。
【0023】
図1は有機EL素子を備える発光装置1を模式的に示す図である。なお図1には一例として、一対の電極間に正孔注入層と発光層とが設けられた有機EL素子2を示している。
【0024】
本実施形態の発光装置1は、光透過性薄板としての支持基板3、光透過性を示す一方の電極4、正孔注入層5、発光層6、他方の電極7がこの順で積層されて構成される。光透過性薄板としての支持基板3は、発光層6から離間する側の一方の表面部に光散乱層8が形成されている。
【0025】
一方の電極4は光透過性を示す電極であるのに対して、他方の電極7は本実施形態では光を反射する電極である。一対の電極は互いに電極としての極性が異なる。本実施形態では一方の電極4が陽極として機能し、他方の電極7が陰極として機能する。なお一方の電極が陰極として機能し、他方の電極が陽極として機能する形態の有機EL素子であっても、本発明は好適に適用することができる。
【0026】
発光層中において発生する光は四方八方に放射される。たとえば他方の電極7に向けて放射された光は、他方の電極7で一度反射された後に、一方の電極4、支持基板3を通って外に出射する。また支持基板3に向けて放射された光は、他方の電極7で反射されることなく、一方の電極4、支持基板3を通って外に出射する。なお空気と支持基板3との界面、支持基板3と一方の電極4との界面、一方の電極4と正孔注入層5との界面、正孔注入層5と発光層6との界面では反射が生じるため、これらの界面で複数回反射された後に支持基板3を通って外に出射する光もある。さらに前述した界面での反射や光の吸収によって光強度が徐々に減衰し、結果として外に出射しない光もある。
【0027】
このように発光層中において発生する光は、支持基板を通って外に出射する光と、外に出射しない光とに大別される。支持基板を通って外に出射する光を本明細書中では「外部モード」という。外に出射しない光についてはさらに、支持基板と他方の電極との間を導波する「内部モード」と、支持基板中を導波する「基板モード」とに分類することができる。なお本実施形態では支持基板が光透過性薄板に相当するので、基板モードは、光透過性薄板中を導波する薄板導波モードに相当する。
【0028】
発光層中において発生した光と、所定の界面で反射された反射光とは互いに干渉する。光の干渉によって光強度が強まるか、弱まるかは、重ね合わされる光の位相差によって決まる。そしてこの位相差は光路長によって決まるため、外部モード、基板モード、外部モードの割合は、有機EL素子を構成する部材の厚さによって変動する。仮に光散乱層8が支持基板に形成されておらず、支持基板の一対の主面の両方が平面状であったとすると、前述した外部モード、基板モード、外部モードの割合は、シミュレーションによって計算することができる。この場合、外部モードの割合が最も高いときに光取り出し効率が最大となるので、外部モードの割合が最も高くなるように、各部材の厚さを設定すればよい。しかしながら光散乱層の効果をシミュレーションで模擬的に再現することは難しいので、本実施形態のように支持基板3の表面部に光散乱層8が形成されている場合、外部モード、基板モード、外部モードの割合をシミュレーションで直接的に求めることは困難である。そこで本実施形態では、光散乱層8が支持基板に形成されておらず、支持基板の一対の主面の両方が平面状であると仮定したときのシミュレーション結果を利用することによって、光散乱層8が形成されているときに光取り出し効率を最大にするような発光装置の構成を導出する。
【0029】
光散乱層8は、基板中を導波する光が外に出射することを促進する。換言すると光散乱層8は基板モードの光を外部モードに変換する機能を発揮する。このような光散乱層8が支持基板に設けられている場合、前述した仮想の支持基板を設けたときの基板モードの割合が極大となるように各部材の厚さを設定すれば、光散乱層8の機能が最も発揮されるので、光取り出し効率を最大限向上することができる。すなわち前記有機EL素子を構成する各部材の厚さは、光散乱層が形成されておらず、かつ一方の表面が平面状の光透過性薄板を仮想したときに、有機エレクトロルミネッセンス素子内部で発生する光のうちで、仮想した光透過性薄板中を導波する薄板導波モードとなる光の割合が、該割合の極大値×0.8以上となる厚さに設定すればよく、このような厚さに設定することによって、結果として外部モードの割合を高くすることができる。これによって光取り出し効率を向上することができる。なお光を散乱する構造は、支持基板の表面部のみならず、内部にも形成されていてもよい。
【0030】
光透過性を示す一方の電極の屈折率は1.5〜1.8であり、前述したITO薄膜の屈折率と比較すると低い。また光透過性薄板(本実施形態では支持基板)の屈折率は1.4〜1.9であり、一方の電極との屈折率の差の絶対値が小さい。光透過性薄板(本実施形態では支持基板)と一方の電極との屈折率の差の絶対値は0.1未満が好ましく、このように光透過性薄板(本実施形態では支持基板)と一方の電極との屈折率の差の絶対値を小さくすることによって、光透過性薄板(本実施形態では支持基板)と一方の電極との界面での反射を抑制することができる。これによって内部モードの割合を小さくすることができ、結果として、一対の主面の両方が平面状の支持基板を仮想したときの基板モードおよび外部モードの割合を高めることができる。たとえ基板モードの割合が高くなるとしても本実施形態では光散乱層が設けられるので、基板モードの光が外部モードに変換され、支持基板に入射した光を効率的に外に出射することができる。これによって外部モードの割合を高くすることができ、光取り出し効率を向上することができる。
【0031】
なお従来技術のように、ITO薄膜の屈折率に合わせて支持基板の屈折率を高くすることによって、ITO薄膜と支持基板との界面での反射を抑制し、結果として基板モードの割合を高くすることは可能ではあるが、支持基板側とは反対側でITO薄膜に接する層の屈折率は通常ITO薄膜よりも低いので、このような構成ではITO薄膜の発光層側の表面での反射を抑制することができないため、内部モードは比較的高い割合のままとなる。これに対して本実施形態のように一方の電極の屈折率を低く抑えた場合には、一方の電極の発光層側の表面での反射を抑制することもできるため、本実施形態では内部モードの割合を低くすることができる。これによって光取り出し効率を向上することができる。
【0032】
シミュレーションは、波動光学を適用することによって行われる。例えば単層または多層膜に所定の角度で入射する光の挙動を表す特性マトリクスを用いてシミュレーションを行うことができる。特性マトリクスを算出する際に必要となる各層の屈折率の分散および光吸収特性などには実測値を用いることができる。また各層の界面は平面であると仮定すればよい。光源には、発光が発生する部位にランダムに配置した複数の点光源を用いることができる。光源から放射される前進波と後進波とは点光源ごとには干渉するが、異なる点光源から放射される光は互いに干渉しないものとする。また光源のスペクトルは用いる発光材料の種類に応じて、実測値を用いればよい。
【0033】
発光層中において、発光は通常特定の部位で発生する。例えば本実施形態のように一方の電極4、正孔注入層5、発光層6、他方の電極7がこの順で積層された有機EL素子2では通常、正孔注入層5と発光層6との界面付近で主に発光が発生する。そのため本実施形態では正孔注入層5と発光層6との界面に点光源をランダムに配置してシミュレーションを行えばよい。なおシミュレーションにおいて光源は、実際に発光が生じる部位に配置すればよく、例えば発光層中において均一に発光が生じる場合には、発光層中において点光源をランダムに配置すればよく、また発光層と他方の電極との界面付近において発光が生じる場合には、発光層と他方の電極との界面に点光源をランダムに配置すればよい。
【0034】
たとえば本実施形態では、一対の主面の両方が平板状の支持基板を仮定して、一方の電極4、正孔注入層4および発光層5の厚さをそれぞれ変動させてシミュレーションを行い、基板導波モードが最大となる各部材の厚さを特定すればよい。
【0035】
次にトップエミッション型の有機EL素子について説明する。
【0036】
2)トップエミッション型の有機EL素子を備える発光装置の構成
有機EL素子は大気に曝されることにより容易に劣化する。そのため支持基板上に設けられた有機EL素子には通常、封止基板や封止膜などの封止部材がさらに設けられる。なお前述した実施形態では封止部材について記載していないが、通常はボトムエミッション型の有機EL素子であっても封止部材が設けられる。
【0037】
トップエミッション型の本実施形態では、封止部材が光透過性薄板に相当する。前述したように有機EL素子は一対の電極間に、発光層のみならず、必要に応じて所定の層がさらに設けられることがあり、また一対の電極間には、一層に限らず複数の発光層が設けられることもある。
【0038】
図2は本実施形態のトップエミッション型の有機EL素子12を備える発光装置11を模式的に示す図である。本実施形態の発光装置11は、支持基板13、他方の電極14、正孔注入層15、発光層16、光透過性を示す一方の電極17、封止部材18がこの順で積層されて構成される。なお封止部材18は、一方の電極17に接して設けられる光透過性薄板に相当する。
【0039】
本実施形態ではトップエミッション型の有機EL素子が構成されるので、発光層16から放射される光は、光透過性を示す一方の電極17、封止部材18を通って外に出射する。なお一方の電極17は光透過性を示す電極であるのに対して、他方の電極14は本実施形態では光を反射する電極である。
【0040】
光透過性薄板としての封止部材18は屈折率が1.4〜1.9であり、発光層から離間する側の一方の表面部に光散乱層19が形成されている。なお光を散乱する構造は封止部材の表面部に限らず、内部にも形成されていてもよい。
【0041】
有機EL素子を構成する各部材の厚さは、前記光散乱層が形成されておらず、かつ前記一方の表面が平面状の光透過性薄板(本実施形態では封止部材18)を仮想したときに、有機EL素子内部で発生する光のうちで、仮想した光透過性薄板(本実施形態では封止部材18)中を導波する薄板導波モードとなる光の割合が、該割合の極大値×0.8以上となる厚さである。本実施形態では薄板導波モードは、封止部材を導波するモードに相当する。
【0042】
本実施形態の発光装置と前述の実施形態の発光装置との主な違いは光の出射する方向にある。本実施形態では光透過性を示す一方の電極17、封止部材18を通って光が出射するのに対して、前述の実施形態では光透過性を示す一方の電極4、支持基板3を通って光が出射する。すなわち本実施形態では光透過性を示す一方の電極17と空気との間に封止部材18が介在するのに対して、前述の実施形態では光透過性を示す一方の電極4と空気との間に支持基板3が介在する。またこれら一方の電極17および封止部材18は、その屈折率が、上記したように前述の実施形態の一方の電極および支持基板の屈折率と同じ関係を有するものであり、さらに前述した実施形態における支持基板中を導波する基板導波モードは、本実施形態における封止部材を導波するモードに対応する。そこで前述の実施形態の支持基板3を本実施形態の封止部材18に置き換え、さらに前述の基板導波モードを、封止部材18を導波するモードに置き換えることによって、前述した実施形態における導波モードの論理をそのまま本実施形態の論理に適用することができる。そこで前述の導波モードの論理によると、有機EL素子を構成する各部材の厚さを、前記光散乱層が形成されておらず、かつ前記一方の表面が平面状の光透過性薄板(本実施形態では封止部材18)を仮想したときに、有機EL素子内部で発生する光のうちで、仮想した光透過性薄板(本実施形態では封止部材18)中を導波する薄板導波モードとなる光の割合が、該割合の極大値×0.8以上となる厚さとすることによって、光取り出し効率を向上することができる。
【0043】
以下、有機EL素子を構成する各層、支持基板、封止部材の構成およびその作製方法についてより詳細に説明する。
【0044】
有機EL素子は、各層を順次支持基板上に所定の方法で積層することにより形成することができる。さらに有機EL素子を形成した後に、この有機EL素子上に封止部材を積層することにより発光装置を作製することができる。
【0045】
まず有機EL素子の構成について説明する。
【0046】
陰極と発光層との間に設けられる層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層などを挙げることができる。陰極と発光層との間に電子注入層と電子輸送層との両方の層が設けられる場合、陰極に接する層を電子注入層といい、この電子注入層を除く層を電子輸送層という。
【0047】
電子注入層は、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する。電子輸送層は陰極側の表面に接する層からの電子注入を改善する機能を有する。正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する。なお電子注入層、及び/又は電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。
【0048】
正孔ブロック層が正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えばホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0049】
陽極と発光層との間に設けられる層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層などを挙げることができる。陽極と発光層との間に、正孔注入層と正孔輸送層との両方の層が設けられる場合、陽極に接する層を正孔注入層といい、この正孔注入層を除く層を正孔輸送層という。
【0050】
正孔注入層は、陽極からの正孔注入効率を改善する機能を有する。正孔輸送層は陽極側の表面に接する層からの正孔注入を改善する機能を有する。電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する。なお正孔注入層、及び/又は正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。
【0051】
電子ブロック層が電子の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、電子電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0052】
なお、電子注入層および正孔注入層を総称して電荷注入層ということがあり、電子輸送層および正孔輸送層を総称して電荷輸送層ということがある。
【0053】
本実施形態の有機EL素子のとりうる層構成の一例を以下に示す。
a)陽極/発光層/陰極
b)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
c)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
d)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極
e)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
f)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
g)陽極/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
h)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
i)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
j)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
k)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
l)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
m)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
n)陽極/発光層/電子注入層/陰極
o)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
p)陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(ここで、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
本実施形態の有機EL素子は2層以上の発光層を有していてもよい。上記a)〜p)の層構成のうちのいずれか1つにおいて、陽極と陰極とに挟持された積層体を「構造単位A」とすると、2層の発光層を有する有機EL素子の構成として、下記q)に示す層構成を挙げることができる。なお2つある(構造単位A)の層構成は互いに同じでも、異なっていてもよい。
q)陽極/(構造単位A)/電荷発生層/(構造単位A)/陰極
また「(構造単位A)/電荷発生層」を「構造単位B」とすると、3層以上の発光層を有する有機EL素子の構成として、下記r)に示す層構成を挙げることができる。
r)陽極/(構造単位B)x/(構造単位A)/陰極
なお記号「x」は2以上の整数を表し、(構造単位B)xは構造単位Bがx段積層された積層体を表す。また複数ある(構造単位B)の層構成は同じでも、異なっていてもよい。
【0054】
ここで電荷発生層とは電界を印加することにより正孔と電子を発生する層である。電荷発生層としては、例えば酸化バナジウム、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、酸化モリブデンなどから成る薄膜を挙げることができる。
【0055】
有機EL素子は通常支持基板側に陽極が配置されるが、支持基板側に陰極を配置するようにしてもよい。
【0056】
積層する層の順序、層数、および各層の厚さについては、発光効率や素子寿命を勘案して適宜設定することができる。
【0057】
<支持基板>
支持基板には、例えばガラス、プラスチック、高分子フィルム、およびシリコン板、並びにこれらを積層したものなどが用いられる。なお前述したようにボトムエミッション型の有機EL素子が設けられる発光装置ではこの支持基板が光透過性薄板に相当するため、例としてあげたもののうちで、光透過性を示し、かつ屈折率が1.4〜1.9のものが支持基板として適宜使用される。なおトップエミッション型の有機EL素子が設けられる発光装置では支持基板を光が透過しないので、支持基板は光透過性を示すものであっても、不透明のものであってもよい。
【0058】
ボトムエミッション型の有機EL素子が設けられる発光装置では、この支持基板が光透過性薄板に相当するため、この支持基板の表面部には光散乱層が形成されている。
【0059】
光散乱層は支持基板に一体成形されていてもよく、基板表面に別体として貼り付けられるフィルムなどでもよい。光散乱層はこの光散乱層に入射する光を散乱する構造を有していればよい。光を散乱する構造としては、表面に凹凸形状が形成されているもの、多孔質状のもの、および母材とは屈折率が異なる粒状物が分散して配置されているものなどがあげられる。凹凸形状としてはたとえばマイクロレンズをあげることができ、たとえば半球状の粒状物が表面上に分散配置することによりマイクロレンズを構成してもよい。なお凹凸形状、多孔質状を構成する孔、および母材とは屈折率が異なる粒状物などの大きさは、光を効率的に散乱する程度の大きさであればよく、たとえば可視光の波長程度〜可視光の波長の数十倍程度である。
【0060】
光散乱層は、支持基板に入射し、さらに光散乱層を通って出射する光の強度を、光散乱層を設けない仮想の支持基板に入射し、この仮想の支持基板の表面から出射する光の強度と比較したときに、正面強度および積分強度のいずれもが1.3倍以上となるような構造を有することが好ましい。すなわち光散乱層を有する支持基板と、光散乱層を有さない支持基板とに、同じ光を入射したときに、光散乱層を有する支持基板から出射する光の正面強度は、光散乱層を有さない支持基板から出射する光の正面強度の1.3倍以上となり、且つ積分強度は、光散乱層を有さない支持基板から出射する光の積分強度の1.3倍以上となることが好ましい。なお正面強度および積分強度は1.3倍以上であればよく、その上限は特にないが、正面強度のみが強くなりすぎると適当でない場合もあるので、正面強度および積分強度はそれぞれ5倍以下であることが好ましい。
【0061】
出射光の正面強度は支持基板の厚み方向の光の強度を表す。なお光散乱層は表面に凹凸形状を有する場合もあるが、この凹凸形状を巨視的に平均化した平面を仮定したときの、当該平面の法線方向と支持基板の厚み方向とは一致するため、出射光の正面強度は支持基板の表面の法線方向の光強度を表す。
【0062】
これに対して出射光の積分強度は、光散乱層から出射する光に関し、法線方向のみならず全方向に出射する光の強度を積算した値である。
【0063】
有機EL素子は種々の装置の光源として利用されるため、その特性として求められるものは、搭載される装置によって異なる。たとえば法線方向の輝度の高さが求められる装置がある一方で、全方向に均一に光を放射するものが求められる装置もある。そのため法線方向のみが突出して輝度の高いものは適当ではない装置もある。たとえば一般照明のように均一発光が求められる光源では拡散性の高さが求められるものがある。そのため従来では、法線方向以外の方向(いわゆる斜め方向)の光強度を犠牲にして正面強度を向上させることを目指した研究開発や、正面強度を犠牲にして全方向への均一な発光を目指した研究開発がそれぞれ行われてきた。このような状況の中で本発明者等は、正面強度および積分強度のいずれもが1.3倍以上となるような支持基板を有機EL素子に適用すれば、発光装置として有用であることを見出した。例えば有機EL素子を照明装置の光源として利用する場合、出射光の正面強度が高く且つ室内等を隈なく照らすことが可能な照明装置が好ましいが、正面強度および積分強度のいずれもが1.3倍以上となるような支持基板を有機EL素子に適用することによって、このような照明装置を実現することができる。これは素子自体を面状光源(二次元)とすることができるという、有機EL素子に特有な性質を利用するものである。例えば無機LEDや蛍光灯などは点状(零次元)または線状(一次元)の光源であるため、これを照明装置として利用する際には、正面強度よりも拡散性が重要となる。そのため積分強度が高くなるような光取り出し構造体の適用が検討されてきた。しかしながら有機EL素子は素子自体を面状光源(二次元)とすることができるため、正面強度と積分強度の両方が高くなるような支持基板を適用することにより、照明装置としての性能を向上することができる。
【0064】
支持基板は、平行に配置される面状光源から当該支持基板に光を照射したときに、法線方向と角度θ°をなす方向に、前記光散乱層から出射する光の強度をI(θ°)とすると、下記式(1)を満たし、ヘイズ値が60%以上、且つ全光線透過率が60%以上であることが好ましい。以下I(θ°)の比を拡散パラメータということがある。
【0065】
I(35°)/I(70°)>5 式(1)
ヘイズ値が60%未満であれば、十分な光散乱効果が得られないことがあり、全光線透過率が60%未満であれば、十分な光を取り出すことができないことがあるので、有機EL素子が搭載される発光装置にこのような支持基板を用いた場合、十分な光取り出し効率を実現できないおそれがあるが、ヘイズ値が60%以上、かつ全光線透過率が60%以上の支持基板を用いることによって、高い取り出し効率を示す発光装置を実現することができる。
【0066】
ヘイズ値は以下の式で表される。なおヘイズ値はJIS K 7136「プラスチック−透明材料のヘイズの求め方」に記載の方法で測定することができる。
【0067】
ヘイズ値(曇価)=(拡散透過率(%)/全光線透過率(%))×100(%)。
【0068】
また全光線透過率は、JIS K 7361−1「プラスチック−透明材料の全光線透過率の試験方法」に記載の方法で測定することができる。
【0069】
図3はI(θ°)を説明するための図である。法線方向に出射する光の強度をI(0°)と定義する。面状光源21は、支持基板3と平行に配置される。前述したように有機EL素子は素子自体が面状光源となるため、この面状光源21は有機EL素子を模擬的に再現するものである。I(θ°)の測定方法は実験例の項において説明する。
【0070】
I(35°)は法線方向から35°傾いた方向の光の強度を表し、I(70°)は法線方向から70°傾いた方向の光の強度を表す。I(35°)/I(70°)は、高いほどより正面方向に光が出射するため、5を超えて高い場合には、この支持基板を例えば照明装置に好適に用いることができる。なおI(35°)/I(70°)は高すぎると正面方向の光強度のみが高くなりすぎるので、広い範囲を照らすためには30以下が好ましい。
【0071】
支持基板はさらに下記式(2)を満たすことが好ましい。
【0072】
I(0°)/I(35°)>1.5 式(2)
I(0°)/I(35°)は、高いほどより正面方向に光が出射するため、1.5を超えて高い場合には、この支持基板を例えば照明装置に好適に用いることができる。なおI(0°)/I(35°)は、高すぎると正面方向の光強度のみが高くなりすぎるので、広い範囲を照らすためには10以下が好ましい。
【0073】
支持基板の光散乱層の構造は、複数の粒状構造物が表面上に分散して配置されて構成されていることが好ましい。なお粒状構造物は、一体形成されていてもよく、また表面上に付着していてもよい。粒状構造物は周期的に配置されていてもよく、非周期的に配置されていてもよい。非周期的に粒状構造物を配置した場合には、粒状構造物に起因する光の干渉を抑制することができるため、モアレなどの発生を防ぐことができる。なお複数の粒状構造物が表面上に分散して配置された光散乱層の一例については図4,5,7に示す。
【0074】
(実験例)
以下において上述の光散乱層を備える支持基板と光散乱層を備えない支持基板との違いを示す実験例について説明する。
【0075】
各実験例および比較例では有機EL素子に0.15mAの電流を流し、そのときの法線方向(正面方向)の発光強度の測定と、積分球を用いた積分強度の測定とを行った。なお表面が平坦なガラス基板上に有機EL素子を作製した発光装置を基準の発光装置とし、この基準の発光装置と、各実験例および比較例の発光装置との特性を比較した。具体的には各実験例および比較例の発光装置の正面方向の発光強度・積分強度を、基準の発光装置の正面方向の発光強度・積分強度でそれぞれ割った値を算出した。なお基準の発光装置において、表面が平坦なガラス基板は、光散乱層を設けない仮想の支持基板に相当する。実験結果については表1に示す。
【0076】
(実験例1)
所定のパターン形状のITO薄膜から成る陽極が形成された基板を用意し、この基板にUV/O洗浄を20分間行った。次にポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(スタルクヴィテック社製、商品名:BaytronP CH8000)の懸濁液をろ過し、この溶液を、スピンコート法によって陽極上に塗布した。さらに大気雰囲気下においてホットプレート上で200℃、15分間熱処理することによって、厚みが65nmの正孔注入層を形成した。次にLumation WP1330(SUMATION製)の濃度が1.2質量%のキシレン溶液を調整した。この溶液を、スピンコート法によって正孔注入層上に塗布し、さらに窒素雰囲気下においてホットプレート上において130℃で60分間熱処理することによって、厚みが65nmの発光層を形成した。次に発光層が形成された基板を真空蒸着機に導入し、Ba、Alをそれぞれ5nm、80nmの厚みで順次蒸着し、陰極を形成した。さらに、封止ガラスの周辺に光硬化性封止剤をディスペンサーにより塗布し、有機EL素子が形成された基板と封止ガラスとを窒素雰囲気下において貼り合せ、紫外線により光硬化性封止剤を硬化することによって封止を行った。
【0077】
次に複数の粒状構造物が表面上に分散して配置されて構成される凹凸構造を有するMNteck社製フィルムUTE12(屈折率1.5、厚み188μm)を、ノンキャリア粘着剤(屈折率1.5)を用いてガラス基板に貼合した。本実験例1では、MNteck社製フィルムUTE12が光散乱層に相当し、この光散乱層がガラス基板に貼り合わされた積層体が光透過性薄板としての支持基板に相当する。図4にUTE12の断面の顕微鏡写真を示し、図5にUTE12の表面の顕微鏡写真を示す。図4、図5に示す通りUTE12は複数の粒状の凹凸構造を有する。
【0078】
UTE12の全光線透過率は68.4%、ヘイズは82.6%であり、拡散パラメータI(35°)/I(70°)は7.2、I(0°)/I(35°)は1.7であった。また本実験例の発光装置と、UTE12をガラス基板に貼合していない基準の発光装置とを比較すると、正面輝度は1.43倍であり、積分強度は1.34倍であった。
【0079】
<I(θ°)の測定方法>
I(θ°)の定義は上述の通りであるが、実験例において実際に測定したI(θ°)の測定方法について図6を参照して説明する。図6に示すように、入射角をφ°とする光線を支持基板に入射し、光散乱層から出射する光のうち、法線とのなす角度がθ°の光強度を±80°の範囲で5°おきに測定した。光源には中央精機製のハロゲンランプSPH−100Nを用いた。なお光源として面状光源を用いた場合には、特定の入射角の光が支持基板に入射するのではなく、−90°<φ°<90°の光が同時に入射する。これを模擬的に再現するために、入射光の入射角φ°を−80°≦φ°≦80°の範囲で5°ずつ変え、各入射角において測定されるθ°方向の出射光の強度を積算することにより、I(θ°)を算出した。
【0080】
(実験例2)
実験例1と同様にしてガラス基板上に有機EL素子を形成し、複数の粒状構造物が表面上に分散して配置されて構成される凹凸構造を有するMNteck社製フィルムUTE21(屈折率1.5、厚み188μm)を、ノンキャリア粘着剤(屈折率1.5)を用いてガラス基板に貼合した。
【0081】
図7にUTE21の表面の顕微鏡写真を示す。図7に示す通りUTE21は複数の粒状の凹凸構造を有する。
【0082】
UTE21の全光線透過率は63.4%、ヘイズは78.7%であり、拡散パラメータI(35°)/I(70°)は8.4、I(0°)/I(35°)は2.0であった。また本実験例の発光装置と、UTE21をガラス基板に貼合していない基準の発光装置とを比較すると、正面輝度は1.45倍であり、積分強度は1.34倍であった。
【0083】
(実験例3)
実験例1と同様にしてガラス基板上に有機EL素子を形成し、複数の粒状構造物が表面上に分散して配置されて構成される凹凸構造を有するWaveFront社製フィルムWF80(屈折率1.5、厚み80μm)を、ノンキャリア粘着剤(屈折率1.5)を用いて基板に貼合した。
【0084】
図8にWF80の表面の顕微鏡写真を示す。図8に示す通りWF80は複数の粒状の凹凸構造を有する。
【0085】
WF80の全光線透過率は75.1%、ヘイズは89.3%であり、拡散パラメータI(35°)/I(70°)は6.5、I(0°)/I(35°)は1.1であった。また本実験例の発光装置と、WF80をガラス基板に貼合していない基準の発光装置とを比較すると、正面輝度は1.42倍であり、積分強度は1.31倍であった。
【0086】
(比較例1)
実験例1と同様にしてガラス基板上に有機EL素子を形成し、プリズムフィルムである3M社製フィルムBEF100(屈折率1.5、厚み150μm)を、ノンキャリア粘着剤(屈折率1.5)を用いてガラス基板に貼合した。
【0087】
本実験例の発光装置と、BEF100ガラス基板に貼合していない基準の発光装置とを比較すると、正面輝度は1.26倍、積分強度は1.25倍であった。
【0088】
(比較例2)
実験例1と同様にしてガラス基板上に有機EL素子を形成し、複数の粒状構造物が表面上に分散して配置されて構成される凹凸構造を有する恵和商工社製フィルムオパルスPCM1(屈折率1.5、厚み120μm)を、ノンキャリア粘着剤(屈折率1.5)を用いてガラス基板に貼合した。
【0089】
PCM1の全光線透過率は92.7%、ヘイズは86.0%であり、拡散パラメータI(35°)/I(70°)は2.0であり、I(0°)/I(35°)は1.3であった。また本実験例の発光装置と、PCM1ガラス基板に貼合していない基準の発光装置とを比較すると、正面輝度は1.24倍であり、積分強度は1.26倍であった。
【0090】
以上をまとめると、実験例1、2、3は比較例1、2に比較して光取り出し効率が高く、正面輝度、積分強度の両方が、基準の発光装置よりも1.3倍以上となった。
【0091】
【表1】

【0092】
<光透過性を示す一方の電極>
光透過性を示す一方の電極は、光透過性を示す樹脂と、該樹脂に分散した線状導電体とを含んで構成されることが好ましい。このような一方の電極は例えば塗布法によって形成することができる。
【0093】
光透過性を示す樹脂からなる電極膜本体は、可視光領域の光の透過率が高いものが好適に用いられ、樹脂や無機ポリマー、無機−有機ハイブリッド化合物などを含んで構成される。電極膜本体としては、導電性を有する樹脂が好適に用いられる。このように線状導電体に加えて、導電性を有する電極膜本体を用いることによって、一方の電極の電気抵抗をさらに下げることができる。電極の膜厚は、電気抵抗および可視光の透過率などによって適宜設定され、例えば、0.02μm〜2μmであり、好ましくは0.02〜1μmであるである。
【0094】
線状導電体の径は、小さい方が好ましく、例えば400nm以下であり、200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。電極膜本体に配置される線状導電体は、当該電極を通る光を回折または散乱するので、ヘイズ値を高めるとともに、光の透過率を低下させるが、可視光の波長程度または可視光の波長よりも小さい径の線状導電体を用いることによって、可視光に対するヘイズ値を低く抑えるとともに、光の透過率の低下を抑制することができる。また線状導電体の径は、小さすぎると抵抗が高くなるので、その径は10nm以上が好ましい。
【0095】
電極膜本体中に配置される線状導電体は、1本でも複数本でもよく、電極膜本体中において網目構造を形成していることが好ましい。例えば電極膜本体中において、1つまたは複数の線状導電体は、電極膜本体の全体にわたって複雑に絡み合って配置され、網目構造を形成していることが好ましい。例えば1本の線状導電体が複雑に絡み合ったり、複数本の線状導電体が互いに接触し合って配置されたりする構造が、2次元的または3次元的に広がって網目構造を形成していればよい。この網目構造を形成する線状導電体によって一方の電極の体積抵抗率を下げることができる。
【0096】
線状導電体は、例えば曲線状でも、針状でもよく、さらには管状であってもよい。曲線、針状、管状の導電体が互いに接触し合って網目構造を形成することによって、体積抵抗率の低い電極を実現することができる。
【0097】
(線状導電体)
線状導電体は、金属またはカーボンナノチューブから成ることが好ましい。線状導電体の材料としては例えばAg、Au、Cu、Alおよびこれらの合金などを挙げることができる。線状導電体は、例えばN.R.Jana, L.Gearheart and C.J.Murphyによる方法(Chm.Commun.,2001, p617-p618)や、C.Ducamp-Sanguesa, R.Herrera-Urbina, and M.Figlarz等による方法(J. Solid State Chem.,Vol.100, 1992, p272〜p280)によって製造することができる。例えばアミノ基含有高分子系分散剤(アイ・シー・アイ・ジャパン社製、商品名「ソルスパース24000SC」)で表面を保護した銀ナノワイヤー(長軸平均長さ1μm、短軸平均長さ10nm)を用いることができる。
【0098】
また線状導電体として用いられるカーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、及びロープ状カーボンナノチューブなどをあげることができ、導電性の高いものが好ましい。
【0099】
導電性を有する線状導電体を電極膜本体に分散させて成る一方の電極を形成する方法としては、例えば線状導電体を樹脂に練り込むことによって、線状導電体を樹脂に分散させる方法、線状導電体と、樹脂とを分散媒に分散させた分散液を所定の塗布法によって成膜化する方法、および線状導電体を樹脂から成る膜の表面にコーティングし、導電体を膜中に分散させる方法などを挙げることができる。なお分散液には必要に応じて界面活性剤や酸化防止剤などの各種添加剤を加えてもよい。樹脂の種類は、屈折率、透光率および電気抵抗などの電極に求められる特性に応じて適宜選ばれる。
【0100】
また一方の電極における線状導電体の重量割合は、電極の電気抵抗、ヘイズ値および透光率などに影響するので、一方の電極に求められる特性に応じて適宜設定される。
【0101】
一方の電極は、例えば導電性を有する線状導電体を分散媒に分散させた分散液を、所定の塗布法によって塗布成膜し、この膜をさらに硬化することによって得られる。
【0102】
分散液は、線状導電体と樹脂とを分散媒に分散させることによって調製される。分散媒としては、線状導電体および樹脂を溶解または分散するものであればよく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒を挙げることができる。
【0103】
なおカーボンナノチューブは分散媒中において凝集することがあり、カーボンナノチューブが凝集した状態の分散液を用いて形成した一方の電極は透光率が低下するおそれがある。そのため線状導電体としてカーボンナノチューブを用いる場合には、このカーボンナノチューブを均一に分散することができる分散媒を用いることが特に好ましく、このような分散媒としてはたとえば、ギ酸、酢酸等のカルボン酸化合物;プロピレンオキサイド、1,2−エポキシブタン、(cis、trans)2,3−エポキシブタン等のエポキシ化合物;n−プロピルアミン、iso−プロピルアミン、N−エチルメチルアミン、n−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、iso−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−アミルアミン、tert−アミルアミン、イソアミルアミン、ヘキシルアミン等の1級アミン化合物;ジエチルアミン、N−メチルプロピルアミン、N−メチルイソプロピルアミン、N−エチルイソプロピルアミン、N−メチルブチルアミン、2−メチルブチルアミン、N−メチル−tert−ブチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジプロピルアミン、N−エチルブチルアミン、N−メチルペンチルアミン、N−tert−ブチルイソプロピルアミン、N−プロピルブチルアミン等の2級アミン化合物;N,N−ジエチルメチルアミン、1,2−ジメチルプロピルアミン、1,3−ジメチルブチルアミン、3,3−ジメチルブチルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジイソプロピルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、N−イソプロピル−N−メチル−tert−ブチルアミン、トリイソプロピルアミン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)等の3級アミン化合物があげられ、N−メチルピロリドン(NMP)が好ましい。
【0104】
また前述したように分散液に界面活性剤をさらに添加してもよく、このような界面活性剤としては、多価アルコールと脂肪酸エステル系、若しくはポリオキシエチレン系のポリオキシエチレン系の界面活性剤、または両者の系を併せ持つ非イオン性界面活性をあげることができ、ポリオキシエチレン系の非イオン性界面活性が好ましい。ポリオキシエチレン系界面活性剤の例としては、脂肪酸のポリオキシエチレン・エーテル、高級アルコールのポリオキシエチレン・エーテル、アルキル・フェノール・ポリオキシエチレン・エーテル、ソルビタン・エステルのポリオキシニチレン・エーテル、ヒマシ油のポリオキシエチレン・エーテル、ポリオキシ・プロピレンのポリオキシエチレン・エーテル、脂肪酸のアルキロールアマイドなどがあげられる。多価アルコールと脂肪酸エステル系界面活性剤の例としては、モノグリセライト型界面活性剤、ソルビトール型界面活性剤、ソルタビン型界面活性剤、シュガーエステル型界面活性剤があげられる。
【0105】
カーボンナノチューブはたとえば超音波処理を行いながら分散液に分散させることで、分散液に均一に分散することができる。たとえば前述した界面活性剤を添加することによって、カーボンナノチューブが分散液中で分散した後に凝集することを防ぐことができ、分散液中での分散状態を維持することができる。
【0106】
また樹脂としては例えば低密度または高密度のポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ノルボルネン共重合体、エチレン−ジメタノ−オクタヒドロナフタレン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、アイオノマー樹脂などのポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6、メタキシレンジアミン−アジピン酸縮重合体;ポリメチルメタクリルイミドなどのアミド系樹脂;ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリルなどのスチレン−アクリロニトリル系樹脂;トリ酢酸セルロース、ジ酢酸セルロースなどの疎水化セルロース系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのハロゲン含有樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、セルロース誘導体などの水素結合性樹脂;ポリカーボネート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリメチレンオキシド樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶樹脂などのエンジニアリングプラスチック系樹脂などが挙げられる。
【0107】
樹脂としては導電性を有する樹脂が好適に用いられ、導電性を有する樹脂としては例えばポリアニリン、ポリチオフェンの誘導体などが挙げられる。例えば屈折率が1.7のポリ(エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸の溶液(スタルク社製、商品名「BaytronP」)を用いることができる。
【0108】
一方の電極の屈折率は電極膜本体の屈折率によって主に決まる。この電極膜本体の屈折率は例えば、用いる樹脂の種類によって主に決まるので、用いる樹脂を選択することによって、意図する屈折率を示す一方の電極を容易に得ることができる。例えば一方の電極が支持基板に接して設けられる場合、一方の電極と支持基板との屈折率差は小さい方が好ましい。一方の電極の屈折率は、電極膜本体に用いる樹脂の種類を適宜選択することによって所期の値に設定することができるため、支持基板との屈折率の関係を所定の範囲内に設定することができる。
【0109】
なおフォトレジストに用いられる感光性材料および光硬化性モノマーに、線状導電体を分散させた分散液を用いれば、塗布法およびフォトリソグラフィーによって所定のパターン形状を有する電極を容易に形成することができる。例えば分散液としてトリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学社製、商品名「NKエステル−TMPT」)および重合開始剤(日本チバ・ガイギー社製、商品名「イルガキュア907」)などを用いることができる。
【0110】
線状導電体を分散した分散液の塗布方法としては、ディッピング法、バーコータによるコーティング法、スピンコーターによるコーティング法、ドクターブレード法、噴霧塗布法、スクリーンメッシュ印刷法、刷毛塗り、吹き付け、ロールコーティングなどを挙げることができる。なお熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂を用いる場合には、分散液を塗布した後に、加熱または光照射によって塗膜を硬化させることができる。
【0111】
(作製例)
以下線状導電体を用いた一方の電極の具体的な作製例を説明する。
【0112】
(作製例1)
線状導電体として、アミノ基含有高分子系分散剤(アイ・シー・アイ・ジャパン社製、商品名「ソルスパース24000SC」)で表面を保護した銀ナノワイヤー(長軸平均長さ1μm、短軸平均長さ10nm)を用いる。この銀ナノワイヤーのトルエン分散液2g(銀ナノワイヤー1.0g含有)と、光硬化性モノマーであるトリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製 NKエステル−TMPT)0.25gとを混合し、さらに重合開始剤イルガキュア907(日本チバ・ガイギー社製)0.0025gを添加する。この混合溶液を、厚さ0.7mmのガラス基板に塗布し、ホットプレート上において110℃で20分加熱して溶媒を除去し、さらにUVランプで光照射(6000mW/cm2)することによって硬化して、膜厚が150nmの一方の電極を得る。光硬化樹脂の屈折率は1.5であり、得られる一方の電極の屈折率も1.5となる。
【0113】
(作製例2)
線状導電体として、アミノ基含有高分子系分散剤(アイ・シー・アイ・ジャパン社製、商品名「ソルスパース24000SC」)で表面を保護した銀ナノワイヤー(長軸平均長さ1μm、短軸平均長さ10nm)を用いる。この銀ナノワイヤーのトルエン分散液2g(銀ナノワイヤー1.0g含有)と、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸の溶液(スタルク社製、BaytronP)2.5gとを混合する。この混合溶液を、厚さ0.7mmのガラス基板に塗布し、ホットプレート上において200℃で20分加熱し、溶媒を除去することにより膜厚が150nmの一方の電極を得る。BaytronPの屈折率は1.7であり、得られる透明導電膜の屈折率も1.7となる。
【0114】
(作製例3)
線状導電体として、アミノ基含有高分子系分散剤(アイ・シー・アイ・ジャパン社製、商品名「ソルスパース24000SC」)で表面を保護した銀ナノワイヤー(長軸平均長さ1μm、短軸平均長さ10nm)を用いる。ポリ(エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸の溶液(スタルク社製、BaytronP)2.5gに、ジメチルスルホキシド0.125gを混合した混合液と、前記銀ナノワイヤーのトルエン分散液2g(銀ナノワイヤー1.0g含有)とを混合する。この混合溶液を、0.7mm厚のガラス基板に塗布し、ホットプレート上において200℃で20分加熱し、溶媒を除去することにより膜厚が150nmの導電膜を得る。BaytronPの屈折率は1.7であり、得られる透明導電膜の屈折率も1.7となる。
【0115】
<他方の電極>
他方の電極の材料としては、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、周期表の13族金属、および仕事関数の高い金属などを用いることができ、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム、アルミニウム、金、白金、銀などの金属、前記金属のうちの2種以上の合金、前記金属のうちの1種以上と、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうちの1種以上との合金、またはグラファイト若しくはグラファイト層間化合物などが用いられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などを挙げることができる。またITO薄膜が発光層側に配置されるようにして、ITO薄膜と、導電性および反射率の高い金属薄膜とを積層した積層体を、他方の電極として用いてもよい。
【0116】
<封止部材>
封止部材には、ガスバリア性の高いものが用いられ、例えば無機酸化物や無機窒化物などの無機物からなる層、樹脂からなる層およびこれらの積層体などが用いられる。なお前述したようにトップエミッション型の有機EL素子が設けられる発光装置では、この封止部材が光透過性薄板に相当するため、例としてあげたもののうちで、光透過性を示し、かつ屈折率が1.4〜1.9のものが封止部材として適宜使用される。具体的には無機材料としてはSiOなどのSiOx(xは1〜2の整数を表す。)、SiON並びにAlなどが用いられ、有機材料としては、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂等が用いられる。なおボトムエミッション型の有機EL素子が設けられる発光装置では封止部材を光が透過しないので、封止部材は光透過性を示すものであっても、不透明のものであってもよい。なお前述したように、無機物からなる層と有機物からなる層を積層する場合には、両者の層の屈折率差は小さい方が好ましい。
【0117】
封止部材の膜厚が薄すぎると封止部材による干渉が顕在化し、本発明の効果を打ち消すことがあるため、封止部材の厚さとしては3μm以上2mm以下が好ましい。このような下限値以上であれば封止部材による干渉の影響がほとんどあらわれず、本発明の効果を確実に得ることができる。
【0118】
封止部材は、例えば有機EL素子を作製した後に所定の方法をよって形成することができる。無機物からなる層の形成方法としては、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタリング法、蒸着法などをあげることができる。また有機物からなる層の形成方法としては、重合性化合物を塗布成膜し、さらにこれを光または熱により重合して層を形成する方法、重合性化合物を蒸着法により成膜し、さらにこれを光または熱により重合して層を形成する方法をあげることができる。
【0119】
トップエミッション型の有機EL素子が設けられる発光装置では、この封止部材が光透過性薄板に相当するため、この封止部材の表面部には光散乱層が形成される。封止部材の表面部に形成される光散乱層は、その構成を、前述した光透過性薄板に相当する支持基板の表面部に形成される光散乱層と同じにすればよい。
【0120】
<正孔注入層>
正孔注入層を構成する正孔注入材料としては、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、および酸化アルミニウムなどの酸化物や、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、アモルファスカーボン、ポリアニリン、およびポリチオフェン誘導体などを挙げることができる。
【0121】
正孔注入層の成膜方法としては、例えば正孔注入材料を含む溶液からの成膜を挙げることができる。例えば正孔注入材料を含む溶液を所定の塗布法によって塗布成膜し、さらにこれを固化することによって正孔注入層を形成することができる。
【0122】
溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔注入材料を溶解させるものであれば特に制限はなく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒、および水を挙げることができる。
【0123】
塗布法としてはスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法などを挙げることができる。
【0124】
正孔注入層の膜厚は、求められる特性および工程の簡易さなどを考慮して適宜設定され、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0125】
<正孔輸送層>
正孔輸送層を構成する正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などを挙げることができる。
【0126】
これらの中で正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などの高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0127】
正孔輸送層の成膜方法としては、特に制限はないが、低分子の正孔輸送材料では、高分子バインダーと正孔輸送材料とを含む混合液からの成膜を挙げることができ、高分子の正孔輸送材料では、正孔輸送材料を含む溶液からの成膜を挙げることができる。
【0128】
溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔輸送材料を溶解させるものであれば特に制限はなく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒などを挙げることができる。
【0129】
溶液からの成膜方法としては、前述した正孔注入層の成膜法と同様の塗布法を挙げることができる。
【0130】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収の弱いものが好適に用いられ、例えばポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサンなどを挙げることができる。
【0131】
正孔輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように適宜設定され、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該正孔輸送層の膜厚は、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0132】
<発光層>
発光層は、通常、主として蛍光及び/又はりん光を発光する有機物、または該有機物とこれを補助するドーパントとから形成される。ドーパントは、例えば発光効率の向上や、発光波長を変化させるために加えられる。なお発光層に含まれる有機物は、低分子化合物でも高分子化合物でもよい。溶媒への溶解性が低分子よりも一般的に高い高分子化合物は塗布法に好適に用いられるため、発光層は高分子化合物を含むことが好ましく、高分子化合物としてポリスチレン換算の数平均分子量が10〜10の化合物を含むことが好ましい。発光層を構成する発光材料としては、例えば以下の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、ドーパント材料を挙げることができる。
【0133】
(色素系材料)
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体などを挙げることができる。
【0134】
(金属錯体系材料)
金属錯体系材料としては、例えばTb、Eu、Dyなどの希土類金属、またはAl、Zn、Be、Ir、Ptなどを中心金属に有し、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを配位子に有する金属錯体を挙げることができ、例えばイリジウム錯体、白金錯体などの三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミニウムキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、フェナントロリンユーロピウム錯体などを挙げることができる。
【0135】
(高分子系材料)
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素系材料や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどを挙げることができる。
【0136】
上記発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0137】
また、緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0138】
また、赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
(ドーパント材料)
ドーパント材料としては、例えばペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約2nm〜200nmである。
【0139】
<発光層の成膜方法>
発光層の成膜方法としては、発光材料を含む溶液を塗布する方法、真空蒸着法、転写法などを用いることができる。溶液からの成膜に用いる溶媒としては、前述の溶液から正孔注入層を成膜する際に用いられる溶媒と同様の溶媒を挙げることができる。
【0140】
発光材料を含む溶液を塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法およびノズルコート法などのコート法、並びにグラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法などの塗布法を挙げることができる。パターン形成や多色の塗分けが容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法などの印刷法が好ましい。また、昇華性を示す低分子化合物の場合には、真空蒸着法を用いることができる。さらには、レーザーによる転写や熱転写により、所望のところのみに発光層を形成する方法も用いることができる。
【0141】
<電子輸送層>
電子輸送層を構成する電子輸送材料としては、公知のものを使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体などを挙げることができる。
【0142】
これらのうち、電子輸送材料としては、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0143】
電子輸送層の成膜法としては特に制限はないが、低分子の電子輸送材料では、粉末からの真空蒸着法、または溶液若しくは溶融状態からの成膜を挙げることができ、高分子の電子輸送材料では溶液または溶融状態からの成膜を挙げることができる。なお溶液または溶融状態からの成膜する場合には、高分子バインダーを併用してもよい。溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、前述の溶液から正孔注入層を成膜する方法と同様の成膜法を挙げることができる。
【0144】
電子輸送層の膜厚は、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように適宜設定され、少なくともピンホールが発しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って該電子輸送層の膜厚としては、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0145】
<電子注入層>
電子注入層を構成する材料としては、発光層の種類に応じて最適な材料が適宜選択され、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの1種類以上を含む合金、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、またはこれらの物質の混合物などを挙げることができる。アルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、ハロゲン化物、および炭酸塩の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウムなどを挙げることができる。また、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウムなどを挙げることができる。電子注入層は、2層以上を積層した積層体で構成されてもよく、例えばLiF/Caなどを挙げることができる。電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法などにより形成される。電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0146】
以上説明した有機EL素子を備える発光装置は、曲面状や平面状の照明装置、例えばスキャナの光源として用いられる面状光源、および表示装置に好適に用いることができる。
【0147】
表示装置としては、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置などを挙げることができる。ドットマトリックス表示装置には、アクティブマトリックス表示装置およびパッシブマトリックス表示装置などがある。有機EL素子は、アクティブマトリックス表示装置、パッシブマトリックス表示装置において、各画素を構成する発光素子として用いられる。また有機EL素子は、セグメント表示装置において、各セグメントを構成する発光素子またはバックライトとして用いられ、液晶表示装置において、バックライトとして用いられる。
【符号の説明】
【0148】
1 発光装置
2 有機EL素子
3 支持基板
4 一方の電極
5 正孔注入層
6 発光層
7 他方の電極
8 散乱層
11 発光装置
12 有機EL素子
13 支持基板
14 他方の電極
15 正孔注入層
16 発光層
17 一方の電極
18 封止部材
19 散乱層
21 光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極および該電極間に設けられる発光層を備える有機エレクトロルミネッセンス素子と、
前記一対の電極のうちの一方の電極に接して設けられる光透過性薄板とを備える発光装置であって、
前記一方の電極は、光透過性を示し、かつ屈折率が1.5〜1.8の電極であり、
前記光透過性薄板は屈折率が1.4〜1.9であり、発光層から離間する側の一方の表面部に光散乱層が形成されており、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する各部材の厚さは、前記光散乱層が形成されておらず、かつ前記一方の表面が平面状の光透過性薄板を仮想したときに、有機エレクトロルミネッセンス素子内部で発生する光のうちで、仮想した光透過性薄板中を導波する薄板導波モードとなる光の割合が、該割合の極大値×0.8以上となる厚さである発光装置。
【請求項2】
前記一方の電極は、光透過性を示す樹脂と、該樹脂に分散した線状導電体とを含むことを特徴とする請求項1記載の発光装置。
【請求項3】
前記線状導電体は、金属線またはカーボンナノチューブから成る請求項2記載の発光装置。
【請求項4】
前記光透過性薄板の屈折率と、前記一方の電極の屈折率との差の絶対値が0.1未満である請求項1〜3のいずれか1つに記載の発光装置。
【請求項5】
前記光散乱層は、光透過性薄板に入射し、さらに光散乱層を通って出射する光の強度を、光散乱層を設けない仮想の光透過性薄板に入射し、この仮想の光透過性薄板の表面から出射する光の強度と比較したときに、正面強度および積分強度のいずれもが1.3倍以上となるような構造を有する請求項1〜4のいずれか1つに記載の発光装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の発光装置を備える表示装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の発光装置を備える照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−29120(P2011−29120A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176326(P2009−176326)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】