説明

発毛促進剤

【課題】 顕著な発毛効果を有し、安全性が高く、かつ経済性の高い新規な発毛促進剤を提供する。
【解決手段】 ガラクトース残基とN−アセチルグルコサミン残基とがβ−グリコシド結合した構造単位1〜10個からなるケラタン硫酸を含有する発毛促進剤(ただし、上記のガラクトース残基及びN−アセチルグルコサミン残基の6位は一部または全部が硫酸化されている)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコサミノグリカンを含有する発毛促進剤に関する。より詳細には、特定の分子量あるいは分子サイズを有する特定のグリコサミノグリカンを含有する発毛促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、各種のグリコサミノグリカン、植物抽出物等を主成分とする育毛剤、発毛促進剤等が提案されている。
【0003】
特許文献1には、分子量50万〜200万のヒアルロン酸及び/またはその塩類を含有する毛髪処理剤が記載されている。
【0004】
特許文献2には、ヒアルロン酸とセンブリエキスまたは朝鮮ニンジンエキスを含有することを特徴とする養毛化粧料が記載されている。使用可能なヒアルロン酸の分子量としては、通常の50万〜200万の範囲であってもよく、50万以下の低分子量のものでも構わないが、特に10万以下のものがよい旨の記載がある。
【0005】
特許文献3には、硫酸化多糖及び/または生理的に許容される塩からなる発毛促進剤が記載されており、硫酸化多糖として多硫酸化されたムコ多糖(コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ケラタン硫酸等)を用いることが好ましい旨記載されている。
【0006】
特許文献4には、竹類のエキスを有効成分として含有する養毛剤が記載されている。
【0007】
特許文献5には、三七ニンジン(田七ニンジン)等の薬用ニンジンに含有される特定の多糖類を有効成分として含有する化粧料が記載されており、これが毛髪に活力を与えるとの記載もある。
【0008】
特許文献6には、特定のサポニンを含む植物抽出物を特定の割合で含有することを特徴とする、発毛促進を目的とした化粧用または皮膚科学的組成物が記載されている。また植物抽出物としてパナックス・ノトギンセング(Panax notoginseng;田七ニンジン)抽出物の記載があり、またヒアルロン酸を0.01〜1重量%含有してもよいことも記載されている。
【0009】
特許文献7には、平均分子量2000〜9000である低分子量コンドロイチン硫酸及びその塩の少なくとも一種を配合した養毛化粧料が記載されている。
特許文献8には、ヘパリン、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン硫酸A+B、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸、核酸及びタンパク質を含有する、毛髪刺激活性を有する組成物が記載されている。
【0010】
しかしこれらの従来の技術においては、重量平均分子量20万〜40万のヒアルロン酸、重量平均分子量が2万〜5万のデルマタン硫酸及び低分子化ケラタン硫酸を含有する発毛促進剤については記載されていない。
【0011】
【特許文献1】特開昭59−110612号
【特許文献2】特開平6−9349号
【特許文献3】特開平9−188607号
【特許文献4】特開平4−18012号
【特許文献5】特開昭61−115013号
【特許文献6】特表平8−503931号
【特許文献7】特公平5−38724号
【特許文献8】特開平1−93513号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、顕著な発毛効果を有し、安全性が高く、かつ経済性の高い新規な発毛促進剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、特定の分子量あるいは分子サイズの特定のグリコサミノグリカンが顕著な発毛効果を有することを見出した。さらにこれらのグリコサミノグリカンを植物抽出物、その他のグリコサミノグリカンと併用し、あるいは発毛を所望する皮膚のヒアルロニダーゼ処理と組合せることによりさらに高い発毛効果が得られ、これらを使用すれば安全性が高く、かつ少ない使用量で広範囲に発毛効果が及ぶ経済性が高い発毛促進剤あるいは発毛促進方法が提供できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成されたものである。
すなわち本発明は、下記物質群(A)から選ばれる1種以上の物質を含有する発毛促進剤(以下、本発明の発毛剤という)を提供する。
物質群(A):重量平均分子量20万〜40万のヒアルロン酸、重量平均分子量が2万〜5万のデルマタン硫酸、及び低分子化ケラタン硫酸。
【0014】
本発明の発毛剤において、さらに下記物質群(B)から選ばれる1または2以上の物質を含有するものが好ましい態様として挙げられる。
物質群(B):ササ抽出物、田七ニンジン抽出物、ケラタン硫酸、及びコンドロイチン硫酸。
【0015】
本発明の発毛剤の好ましい態様としては、下記(a)〜(f)のいずれかに記載の成分の組合せまたは成分を含む上記本発明の発毛剤が挙げられる。
(a) 重量平均分子量20万〜40万のヒアルロン酸、及び重量平均分子量が2万〜5万のデルマタン硫酸、(b) 重量平均分子量20万〜40万のヒアルロン酸、及び田七ニンジン抽出物、(c) 重量平均分子量20万〜40万のヒアルロン酸、及びササ抽出物、(d) 重量平均分子量20万〜40万のヒアルロン酸、重量平均分子量が2万〜5万のデルマタン硫酸、田七ニンジン抽出物、及びササ抽出物、(e) 重量平均分子量20万〜40万のヒアルロン酸、重量平均分子量が2万〜5万のデルマタン硫酸、ケラタン硫酸、田七ニンジン抽出物、ササ抽出物、及びコンドロイチン硫酸、(f) 低分子化ケラタン硫酸。
【0016】
また本発明の発毛剤において、物質群(A)から選択される物質が重量平均分子量20万〜40万のヒアルロン酸を含むもの、ヒアルロン酸の重量平均分子量が25万〜35万であるもの、デルマタン硫酸の重量平均分子量が3万〜4万であるもの、及び低分子化ケラタン硫酸が、ケラタン硫酸をエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ型ケラタン硫酸分解酵素により分解して得られる生成物であるものが好ましい態様として挙げられる。
【0017】
さらに本発明は、発毛を所望する皮膚をヒアルロニダーゼで処理し、その後ヒアルロニダーゼで処理した皮膚に上記本発明の発毛剤を適用することを含む発毛を促進する方法、ヒアルロニダーゼを有効成分とする、本発明の発毛剤の発毛効果増強剤、及び本発明の発毛剤と、ヒアルロニダーゼとを含む発毛促進用のキットを提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の発毛剤によれば、(1) 顕著な発毛効果が得られ、(2) 狭い適用面積で広範囲への発毛効果が及び、(3) 育毛効果や保湿効果(頭皮乾燥防止効果)も得られ、(4) 抜け毛も防止され、(5) 天然成分が配合されていることから頭皮や毛髪に対する悪影響がない(安全性が高い)発毛促進剤を提供することができる。
また本発明の発毛剤は、狭い適用面積で広範囲への発毛効果が及ぶことから使用量を減少させることができ、安全性がさらに高まり、かつ経済性も高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の発毛剤についてさらに詳細に説明する。
<1> 本発明の発毛剤の構成成分
本発明の発毛剤は、下記物質群(A)から選択される1種以上の物質を含有する発毛促進剤である。
物質群(A):重量平均分子量20万〜40万のヒアルロン酸、重量平均分子量が2万〜5万のデルマタン硫酸、及び低分子化ケラタン硫酸。
【0020】
本発明の発毛剤は、さらに下記物質群(B)から選択される1種以上の物質を含有するものが好ましい。
物質群(B):ササ抽出物、田七ニンジン抽出物、ケラタン硫酸、及びコンドロイチン硫酸。
【0021】
以下、物質群(A)及び(B)に包含される各物質、並びにその他必要に応じて添加できる成分について詳述する。
【0022】
(1) 物質群(A)
(1-1) 重量平均分子量20万〜40万のヒアルロン酸
本発明の発毛剤に用いる重量平均分子量20万〜40万のヒアルロン酸の由来は特に限定されず、鶏冠、臍帯、ヒアルロン酸を産生する微生物等から分離・精製されたヒアルロン酸を用いることができるが、鶏冠由来のものが好ましい。
【0023】
ヒアルロン酸の分離・精製は、破砕、抽出、酵素分解(例えばプロテアーゼによる分解)、有機溶媒(例えばアルコール)による沈殿、塩析、塩溶、あるいは各種クロマトグラフィー等またはこれらの組み合わせ等、グリコサミノグリカンの分離、精製に通常用いられる方法より行うことができる。また、このように分離、精製されたヒアルロン酸が上記分子量より大きい分子量を有する場合は、オートクレーブ等による高温・高圧処理、高回転数による剪断処理、アルカリ、酸または酵素による処理等によってヒアルロン酸を低分子化し、上記分子量範囲に調整することができる。
【0024】
本発明の発毛剤に用いる重量平均分子量20万〜40万のヒアルロン酸は、その薬学的に許容される塩であってもよい。ヒアルロン酸の薬学的に許容される塩としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の無機塩基との塩、またはジエタノールアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、アミノ酸塩等の有機塩基との塩を用いることができる。なかでもナトリウム塩が好ましい。
【0025】
本発明の発毛剤に用いられるヒアルロン酸の重量平均分子量は20万〜40万の範囲に包含される限りにおいて特に限定されないが、25万〜35万程度が好ましく、30万程度がさらに好ましい。
【0026】
(1-2) 重量平均分子量が2万〜5万のデルマタン硫酸
本発明の発毛剤に用いる重量平均分子量が2万〜5万のデルマタン硫酸の由来は特に限定されず、鳥類や哺乳類等の肉冠(例えば鶏冠等)、皮膚、臍帯、内臓等の生物由来原料から分離、精製されたデルマタン硫酸を用いることができるが、鶏冠由来のものが好ましい。
【0027】
デルマタン硫酸の分離・精製は、破砕、抽出、酵素分解(例えばプロテアーゼによる分解)、有機溶媒(例えばアルコール)による沈殿、塩析、塩溶、あるいは各種クロマトグラフィー等またはこれらの組み合わせ等、グリコサミノグリカンの分離、精製に通常用いられる方法より行うことができる。
【0028】
本発明の発毛剤に用いる重量平均分子量が2万〜5万のデルマタン硫酸は、その薬学的に許容される塩であってもよい。このデルマタン硫酸の薬学的に許容される塩としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩等の無機塩基との塩、または有機アミン塩(ジエタノールアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、トリエチルアミン塩、トリエタノールアミン塩等)もしくはアミノ酸塩(アルギニン塩やリジン塩等)等の有機塩基との塩を用いることができる。なかでもナトリウム塩が好ましい。
【0029】
本発明の発毛剤に用いられるデルマタン硫酸の重量平均分子量は、2万〜5万の範囲に包含される限りにおいて特に限定されないが、3万〜4万程度が好ましい。
【0030】
なお、本発明の発毛剤で用いることができる重量平均分子量2万〜5万のデルマタン硫酸のうち、下記の特性を有するデルマタン硫酸が特に好ましい(以下、このデルマタン硫酸をDS1と略記する)。
【0031】
(A) コンドロイチナーゼABCで消化したとき、高速液体クロマトグラフィーで分析される不飽和二糖における2−アセトアミド−2−デオキシ−3−O−(4−デオキシ−α−L−スレオ−ヘキシ−4−エノピラノシルウロン酸)−6−スルホ−D−ガラクトース(ΔDi−6S)の割合が約4〜25%、好ましくは約7〜16%である。
【0032】
(B) コンドロイチナーゼBを作用させたとき、約3重量%〜約17重量%、好ましくは約5重量%〜15重量%が消化されない。
【0033】
(C) 多角度光散乱法によって測定した分子量の範囲が、2万ダルトン〜20万ダルトンである。
【0034】
なお、このデルマタン硫酸(DS1)は、さらに下記の特性を有することが好ましい。
【0035】
(D) 多角度光散乱法によって測定した分子量分布が、分子量4万ダルトン以下の画分が79〜99%、4万〜10万ダルトンの画分が1〜20%、10万ダルトン以上の画分が1%以下である画分組成として検出される。
【0036】
(E) 多角度光散乱法によって測定した重量平均分子量が、約2.8万〜約4.3万ダルトン、好ましくは約3.2万〜約3.8万ダルトンである。
【0037】
(F) ゲル濾過高速液体クロマトグラフィー(GPC−HPLC)法によって測定した重量平均分子量が約3.0万〜4.6万ダルトン、好ましくは約3.5万〜約4.1万ダルトンである。
【0038】
(G) GPC−HPLC法によって測定した分子量分布が、分子量2万ダルトン以下の画分が5〜30%、2万〜8万ダルトンの画分が70〜95%、8万ダルトン以上の画分が0%である画分組成として検出される。
【0039】
(H) 各種不飽和二糖の含量DS1をコンドロイチナーゼABCで消化したときの不飽和二糖の組成が以下の通りである。
【0040】
・2−アセトアミド−2−デオキシ−3−O−(4−デオキシ−α−L−スレオ−ヘキシ−4−エノピラノシルウロン酸)−6−スルホ−D−ガラクトース(ΔDi−6S)の含量が、約4%〜約25%、好ましくは約7%〜約16%である。
【0041】
・2−アセトアミド−2−デオキシ−3−O−(4−デオキシ−α−L−スレオ−ヘキシ−4−エノピラノシルウロン酸)−D−ガラクトース(ΔDi−0S)の含量が、約4%〜約10%、好ましくは約4.5%〜約10%である。
・2−アセトアミド−2−デオキシ−3−O−(4−デオキシ−α−L−スレオ−ヘキシ−4−エノピラノシルウロン酸)−4−O−スルホ−D−ガラクトース(ΔDi−4S)の含量が、約63%〜約85%、好ましくは約68%〜約84%である。
【0042】
・ 2−アセトアミド−2−デオキシ−3−O−(4−デオキシ−2−O−スルホ−α−L−スレオ−ヘキシ−4−エノピラノシルウロン酸)−6−O−スルホ−D−ガラクトース(ΔDi−diSD)の含量が、約0.5%〜約2.2%、好ましくは約0.8%〜約1.7%である。
・2−アセトアミド−2−デオキシ−3−O−(4−デオキシ−2−O−スルホ−α−L−スレオ−ヘキシ−4−エノピラノシルウロン酸)−4−O−スルホ−D−ガラクトース(ΔDi−diSB)の含量が、約2%〜約8%、好ましくは約3%〜約7%である。
・2−アセトアミド−2−デオキシ−3−O−(4−デオキシ−α−L−スレオ−ヘキシ−4−エノピラノシルウロン酸)−4,6−ビス−O−スルホ−D−ガラクトース(ΔDi−diSE)の含量が、約0%〜約2%である。
【0043】
なお、上記各種不飽和二糖の名称及び略称は、Yoshida, K. et al., Analytical Biochemistry, 177, 327-332(1989)の記載に従った。
【0044】
このようなDS1の中で最も好ましいDS1の特性は以下の通りである。
GPC−HPLC法による平均分子量(kDa) 38
多角度光散乱法による平均分子量(kDa) 35.1
極限粘度(dl/g) 1.06
コンドロイチナーゼB消化抵抗性部分(%) 5.3
二糖部分(%) 25.4
二糖組成比(%)
ΔDi-0S 6.8
ΔDi-6S 12.0
ΔDi-4S 74.1
ΔDi-diS 1.3
ΔDi-diS 4.4
ΔDi-diS 1.4
ΔDi-triS 0.0
【0045】
このDS1は、例えば以下の方法により製造することができる。
鶏冠1重量に対して水約2〜3倍量を加えてミンチした後に煮沸し、冷却後プロテアーゼ(プロナーゼ、科研製薬(株))を添加して一晩加水分解する。加水分解液に、塩化ベンザルコニウム溶液を加えた後、珪藻土で濾過し、濾過上清を捨て、残った珪藻土を得る。この珪藻土を塩化ナトリウム溶液に懸濁し、エタノールを加え、生じた沈殿を静置し、得られた沈殿を乾燥させて粉体を得る。
【0046】
この粉体を水に溶解して10%溶液となるように調整し、ShivelyとConrad法により亜硝酸処理を行ってヘパリン/ヘパラン硫酸を除去する。すなわち、上記粉体を溶解した溶液を、0.1%亜硝酸水溶液に混和し、室温で放置した後、沈殿を濾過して除く。濾過液のpHを10.5に調整し、塩化ナトリウムを終濃度1%になるように加え、さらにエタノールを終濃度48%になるように撹拌しながら加える。得られた沈殿物に活性炭を加えて吸引濾過し、濾過液をイオン交換樹脂Diaion SA-12A(三菱化学(株))に通して脱塩し、濾過液にエタノールを加え、DS1が得られる。
【0047】
得られたDS1を、10万ダルトンの分子排除限界を有する膜(アミコン社製)による分子限外濾過に付し、0.2M程度の塩化ナトリウム溶液で洗浄することが好ましい。
【0048】
なお、このDS1の前記特性は、以下の方法で確認することができる。
(a) GPC−HPLC法による平均分子量の測定
DS1の平均分子量は、Araiらの方法(Biochem. Biophys. Acta, 1117, 60-70, 1992)に準拠して測定でき、分子量が既知のコンドロイチン硫酸(分子量39100、18000、8050)及びヒアルロン酸ナトリウム(分子量104000)を標準品として高速液体クロマトグラフィーを用いたゲル濾過(GPC−HPLC)での溶出時間により決定できる。カラムはTSK gel G4000PWXL、G3000PWXL及びG2500PWXL(各φ7.8X300mm、東ソー(株))を連結したものを用いることができる。溶媒は、0.2 mol/L 塩化ナトリウム溶液を用い、流速は0.6ml/分とし、検出器は示差屈折率検出器(RI-8000、東ソー(株))を用いることができる。
【0049】
(b) 多角度光散乱法による分子量の測定
検出器に示差屈折率検出器(Shodex RI-71、昭和電工(株))及び多角度光散乱検出器(DAWN, Wyatt Technology CORPORATION)を使用し、ASTRAソフトウェア(Wyatt Technology CORPORATION)のジムプロットモジュールを用いて解析を行う。
【0050】
カラムはSB−806HQ(φ8X300mm、昭和電工(株))、溶媒は0.1mol/L 硝酸ナトリウム溶液を用いて、流速は1.0mL/分とする。
【0051】
(c) コンドロイチナーゼB消化パターンの分析
DS1溶液100μLに、緩衝液A(0.001mol/L 酢酸カルシウム、0.02mol/L Tris-HCl、pH7.5)10μLに0.03UのコンドロイチナーゼB(生化学工業(株))を溶解したものを加え、37℃で2時間消化する。沸騰湯浴中で1分加熱して反応を止め、消化物100μg相当10μLを、40℃でGPC−HPLCを用いて分析する。カラムはTSK gel G4000PWXL、G3000PWXL及びG2500PWXL(各φ7.8X300mm、東ソー(株))を連結したものを用いる。溶媒は0.2mol/L塩化ナトリウム溶液を用い、流速は0.6 mL/分とし、検出器は示差屈折率検出器(RI-8020、東ソー(株))及び紫外可視検出器(UV-8020、A230nm、東ソー(株))を使用できる。
【0052】
(d) コンドロイチナーゼABCによる消化
1%DS1溶液50μLに、緩衝液B(0.01 mol/L 酢酸ナトリウム、0.05 mol/L Tris-HCl、pH7.5)10μLに0.5UのコンドロイチナーゼABCを溶解したものを加え、37℃で2時間消化する。沸騰湯浴中で1分間加熱して反応を止め、遠心して不溶物を除去する。
【0053】
この分解物に対し、緩衝液B 10μLに0.5UのコンドロイチナーゼABCを溶解したものを加え、37℃で6時間消化する。沸騰湯浴中で1分加熱して反応を止め、遠心して不溶物を除去する。
【0054】
(e) コンドロ−6−スルファターゼによる消化
上記(c)の消化物100μg相当に対し、緩衝液C(0.02mol/L Tris-AcOH、pH7.0)50μLに0.25Uのコンドロ−6−スルファターゼを溶解したものを加え、37℃で24時間消化し、不溶物を除去する。
【0055】
(f) 二糖組成分析
上記(d)あるいは(e)の消化物を、それぞれHPLCを用いて各々分析する。カラムはYMC−Pack PA-120-S5イオン交換カラム(φ2.6X250mm、YMC(株))を用いることができる。流速は1.5mL/分で60分間に0.8mol/L リン酸水素ナトリウムを2%から100%までの直線濃度勾配で流す。不飽和コンドロ−二糖キット(生化学工業(株))の溶出位置を基準として、この間に溶出する各種不飽和二糖を232nmで同定し、不飽和二糖と同定されたピーク面積の総和を100%として計算して二糖組成比を求めることができる。
【0056】
(g) 極限粘度の測定
DS1の極限粘度の測定は、第13改正日本薬局方に準拠して行うことができる。測定装置には自動粘度測定装置(VMC−052、離合社(株))を用いることができる。溶媒は0.2mol/L 塩化ナトリウム溶液を用い、ウベローデ型粘度管の流下時間の測定にも同じ溶液を用いることができる。粘度の測定は30±0.1℃で行い、流下時間の1/100秒を四捨五入し、差が3回連続して0.1秒以内である測定値を極限粘度算出に用いる。
【0057】
極限粘度は還元粘度(=(tS/t0−1)/C、tS:溶液の流下時間、t0:溶媒の流下時間、C:試料濃度(重量%))を縦軸に濃度を横軸にプロットして得られた直線を濃度0に補外したときの切片から求めることができる。
【0058】
(1-3) 低分子化ケラタン硫酸
本発明の発毛剤に用いる低分子化ケラタン硫酸は、ケラタン硫酸を分解して低分子化した物質であり、ケラタン硫酸を構成するガラクトース残基(Gal)とN−アセチルグルコサミン残基(GlcNAc)とがβ−グリコシド結合した構造単位(Gal-GlcNAc)の1〜10個、好ましくは1〜4個からなり、すなわち2〜20個、好ましくは2〜8個の糖残基からなる物質である(ガラクトース残基及びN−アセチルグルコサミン残基の6位は一部または全部が硫酸化されている)。この低分子化ケラタン硫酸の非還元末端は、N−アセチルノイラミン酸残基がグリコシド結合を介して付加されていてもよい。
【0059】
この本発明の発毛剤に用いる低分子化ケラタン硫酸は、上記のような分子サイズにケラタン硫酸を低分子化したものである限りにおいて特に限定されないが、ケラタン硫酸をエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ型ケラタン硫酸分解酵素により分解して得られる生成物であることが好ましく、ケラタンポリ硫酸をエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ型ケラタン硫酸分解酵素により分解して得られる生成物であることがより好ましい。なおケラタンポリ硫酸の定義については後述する。
【0060】
この低分子化ケラタン硫酸の原料として用いることができるケラタン硫酸の由来も特に限定されず、サメなどの軟骨魚類、クジラ、ウシなどの哺乳動物の軟骨、骨や角膜等の生原料から分離、精製されたケラタン硫酸を用いることができるが、サメなどの軟骨魚類由来のものが好ましく、サメ由来のものがより好ましい。サメなどの軟骨魚類から取得されるケラタン硫酸は、その構成二糖あたり1.5〜2分子の硫酸基を含む高硫酸化されたケラタン硫酸であり、このようなケラタン硫酸を本明細書では「ケラタンポリ硫酸」という。
【0061】
またケラタン硫酸の低分子化に用いることができるエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ型ケラタン硫酸分解酵素も特に限定されないが、例えばバチルス属細菌由来のケラタナーゼII(特開平2−57182号公報)や、バチルス・サーキュランスKsT202株が産生するケラタン硫酸分解酵素(WO96/16973号公報)等が例示される。
【0062】
上記の本発明の発毛剤に用いる低分子化ケラタン硫酸は、その薬学的に許容される塩であってもよい。低分子化ケラタン硫酸の薬学的に許容される塩としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の無機塩基との塩、またはジエタノールアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、アミノ酸塩等の有機塩基との塩のうち、薬学的に許容される塩を用いることができる。なかでもナトリウム塩であることが好ましい。
【0063】
低分子化ケラタン硫酸は、上記の通りケラタン硫酸を低分子化したものである限りにおいて特に限定されないが、下記式(1)〜(3)から選ばれる1または2以上の糖鎖であることが好ましい。
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S)・・・(1)
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S)・・・(2)
NeuAc〜Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S)・・・(3)
式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、NeuAcはN−アセチルノイラミン酸残基を、β1-4はβ1,4グリコシド結合を、β1-3はβ1,3グリコシド結合を、(6S)は6-O-硫酸エステルを、〜はα2,3グリコシド結合またはα2,6グリコシド結合を表す。
【0064】
上記式(1)〜(3)の糖鎖は、サメなどの軟骨魚類のケラタンポリ硫酸をエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ型ケラタン硫酸分解酵素により分解して得ることができる。具体的にはWO96/16973号公報やWO96/16166号公報に記載の方法で製造することができる。
【0065】
本発明の発毛剤は、これらの物質から選ばれる1種または2種以上の物質が配合される。これらの物質で最も好ましいものは、重量平均分子量20万〜40万のヒアルロン酸である。これらの物質の本発明の発毛剤中の濃度も特に限定されないが、通常は1物質につき0.01〜5%(W/V)程度が好ましく、0.1〜3%(W/V)であるものがより好ましい。
【0066】
(2) 物質群(B)
(2-1) ササ抽出物
本発明の発毛剤に使用するササ抽出物は、ササの抽出物であれば特に限定されないが、クマザサの抽出物を用いることが好ましい。その抽出に用いる溶媒も特に限定されない。例えば水、エタノールやメタノール等のアルコール類、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、ジクロロメタンやクロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル等のニトリル類から選ばれる1種または2種以上の溶媒が例示される。これらの溶媒によれば本発明の発毛剤に所望される成分がササから抽出されるが、溶媒の毒性等の点からこれらのなかでもアルコールが好ましく、エタノールが特に好ましい。
【0067】
抽出条件も特に限定されず、所望の抽出物濃度、操作性等を考慮して当業者が容易に選択できる。
【0068】
ササ抽出物は種々の物質を含むが、主成分は銅クロロフィンナトリウム、粗繊維(リグニン等)等である。
【0069】
(2-2) 田七ニンジン抽出物
本発明の発毛剤に使用する田七ニンジン抽出物は、田七ニンジンの抽出物であれば特に限定されない。その抽出に用いる溶媒も特に限定されず、例えば水、エタノールやメタノール等のアルコール類、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、ジクロロメタンやクロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル等のニトリル類から選ばれる1種または2種以上の溶媒が例示される。これらの溶媒によれば本発明の発毛剤に所望される成分が田七ニンジンから抽出されるが、溶媒の毒性等の点からこれらのなかでも水またはアルコールが好ましく、水またはエタノールが特に好ましい。
【0070】
抽出条件も特に限定されず、所望の抽出物濃度、操作性等を考慮して当業者が容易に選択できる。
【0071】
田七ニンジン抽出物は種々の物質を含むが、主成分はサポニンであり、その他タンパク質、中性糖等を含む。
【0072】
(2-3) ケラタン硫酸
本発明の発毛剤に使用される成分において、物質群(B)に包含されるケラタン硫酸は、上記物質群(A)に包含される低分子化ケラタン硫酸とは異なり、より大きい分子量を有するポリマー状のケラタン硫酸である。その分子量は特に限定されないが、好ましくは重量平均分子量が5000〜15000程度、より好ましくは5000〜10000程度のものである。
【0073】
この物質群(B)に包含されるケラタン硫酸の由来は特に限定されず、サメ、クジラ、ウシ、ブタ等の組織から分離、精製されたケラタン硫酸を用いることができるが、サメ由来のものが好ましい。またこのケラタン硫酸としては、ケラタンポリ硫酸が好ましい。
【0074】
ケラタン硫酸の分離・精製は、破砕、抽出、酵素分解(例えばプロテアーゼによる分解)、有機溶媒(例えばアルコール)による沈殿、塩析、塩溶、あるいは各種クロマトグラフィー等またはこれらの組み合わせ等、グリコサミノグリカンの分離、精製に通常用いられる方法より行うことができる。
【0075】
またこのケラタン硫酸はその薬学的に許容される塩であってもよい。ケラタン硫酸の薬学的に許容される塩としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の無機塩基との塩、またはジエタノールアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、アミノ酸塩等の有機塩基との塩を用いることができる。なかでもナトリウム塩が好ましい。
【0076】
(2-4) コンドロイチン硫酸
本発明の発毛剤に用いるコンドロイチン硫酸の種類は特に限定されず、コンドロイチン硫酸B(デルマタン硫酸)を除き、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸Cのいずれでもよい。
【0077】
本発明の発毛剤に用いるコンドロイチン硫酸の由来は特に限定されず、サメ、ウシ、ブタ、クジラ等の組織から分離、精製されたコンドロイチン硫酸を用いることができるが、サメまたはウシ由来のものが好ましく、サメ由来のものがより好ましい。
【0078】
コンドロイチン硫酸の分離・精製は、破砕、抽出、酵素分解(例えばプロテアーゼによる分解)、有機溶媒(例えばアルコール)による沈殿、塩析、塩溶、あるいは各種クロマトグラフィー等またはこれらの組み合わせ等、グリコサミノグリカンの分離、精製に通常用いられる方法より行うことができる。
【0079】
このコンドロイチン硫酸はその薬学的に許容される塩であってもよい。コンドロイチン硫酸の薬学的に許容される塩としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の無機塩基との塩、またはジエタノールアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、アミノ酸塩等の有機塩基との塩のうち、薬学的に許容される塩を用いることができる。なかでもナトリウム塩であることが好ましい。
【0080】
このコンドロイチン硫酸の分子量も特に限定されないが、好ましくは5000〜50000程度、より好ましくは5000〜25000程度である。
【0081】
本発明の発毛剤においては、上記(2-1)〜(2-4)から選ばれる1種または2種以上の物質を配合することが好ましい。その本発明の発毛剤中の濃度も特に限定されないが、1種類の物質あたり0.01〜5%(W/V)程度が好ましく、0.1〜3%(W/V)がより好ましい。ただし、田七ニンジン抽出物については乾燥重量についての量である。またササ抽出物については、濃縮した際に成分が析出する直前の抽出液として、好ましくは0.01〜5%(V/V)程度、より好ましくは0.1〜3%(V/V)程度である。
【0082】
(3) 必要に応じて添加できる成分
本発明の発毛剤には、皮膚や毛髪等に対して悪影響を与えず、かつ上述の本発明の発毛剤中の成分に対して悪影響を与えない限りにおいて、上記以外の物質を添加してもよい。このような物質としては、通常の頭髪用化粧料に使用される炭化水素類、ロウ類、油脂類、エステル類、高級脂肪酸類、高級アルコール類、界面活性剤類、香料、色素、防腐剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、アルコール類、pH調整剤、各種薬効成分等が例示され、これらから選ばれる1種以上の物質を適宜選択して配合することができる。もちろん本発明の発毛剤以外の発毛、育毛成分をさらに配合してもよい。
【0083】
このような物質としては、例えばエタノール、グリセリン、オリーブ油、l-メントール、パンテノール、ビタミンE誘導体、ミノキシジル等が例示される。
【0084】
<2> 本発明の発毛剤の提供形態及び製造方法
本発明の発毛剤は、上記の物質群(A)から選ばれる1種または2種以上の物質をそのままの形態で提供してもよく、また上記の物質群(B)から選ばれる1種または2種の物質との混合物の形態、さらにこれらとその他の必要に応じて添加できる成分をさらに混合した混合物の形態で提供することもできる。その提供形態も、溶液状態、凍結状態、凍結乾燥状態等、特に限定されない。本発明の発毛剤は、これらの提供形態に応じて、それ自体公知の方法で製造することができる。
【0085】
例えば本発明の発毛剤を溶液状態で提供する場合には、上記の物質群(A)から選ばれる1種または2種以上の物質を、皮膚や毛髪等に対して悪影響を与えず、上述の本発明の発毛剤中の成分に対して悪影響を与えず、かつ上述の本発明の発毛剤中の成分を溶解または懸濁可能な溶媒に溶解または懸濁することによって製造することができる。この際に、さらに上述の物質群(B)から選ばれる1または2以上の物質や、その他必要に応じて添加できる成分を併せて溶解または懸濁することが好ましい。このような溶媒としては、例えば水(蒸留水)が例示されるが、これに限定されるものではない。
【0086】
本発明の発毛剤において、特に顕著な発毛効果を示す、好ましい成分または成分の組合せを以下に例示する。
【0087】
なおここでは、重量平均分子量20万〜40万のヒアルロン酸を「HA(20万〜40万)」、重量平均分子量が2万〜5万のデルマタン硫酸を「DS(2万〜5万)」、低分子化ケラタン硫酸を「LMKS」、ササ抽出物を「ササ」、田七ニンジン抽出物を「田七」、ケラタン硫酸を「KS」、コンドロイチン硫酸を「CS」と略記する。
【0088】
(a) HA(20万〜40万)+DS(2万〜5万)
(b) HA(20万〜40万)+田七
(c) HA(20万〜40万)+ササ
(d) HA(20万〜40万)+DS(2万〜5万)+田七+ササ
(e) HA(20万〜40万)+DS(2万〜5万)+KS+田七+ササ+CS
(f) LMKS
【0089】
なお、上記(a)〜(f)の組合せの成分は、さらにエタノール及びグリセリンを含有することが好ましく、さらにこれに加えてオリーブ油、パンテノール及びビタミンE誘導体から選ばれる1種または2種以上の物質を含有することが好ましい。
【0090】
これらの物質の本発明の発毛剤中での好ましい濃度は、エタノールで50〜60%程度、グリセリンで5%程度、オリーブ油で5%程度、パンテノールで1%程度、ビタミンE誘導体で0.05%程度であるが、これらに限定されない。
【0091】
また、本発明の発毛剤においてより好ましい成分または成分の組合せを以下に示す。
【0092】
(a) HA(20万〜40万)+DS(2万〜5万)
(c) HA(20万〜40万)+ササ
(d) HA(20万〜40万)+DS(2万〜5万)+田七+ササ
(e) HA(20万〜40万)+DS(2万〜5万)+KS+田七+ササ+CS
(f) LMKS
【0093】
なおこれらの成分または成分の組合せ中でも、以下の成分の組合せは、狭い適用面積で広範囲への発毛効果を発揮することから特に好ましい。
(d) HA(20万〜40万)+DS(2万〜5万)+田七+ササ
(e) HA(20万〜40万)+DS(2万〜5万)+KS+田七+ササ+CS
【0094】
本発明の発毛剤の剤形は、毛髪への作用を期待し得るものであれば特に限定されず、ヘアトニック、シャンプー、リンス、ポマード、ヘアローション、ヘアクリーム、ヘアリキッド、ヘアトリートメント、ヘアコンディショナー、ヘアージェル、ヘアーミスト、ヘアフォーム等が例示され、いずれも公知の方法により製造できる。
【0095】
<3>本発明の発毛剤の使用
本発明の発毛剤の適用対象者としては、発毛を望む者や脱毛の防止を望む者であれば特に限定されず、例えば円形のような局部的または頭全体の脱毛、薄毛、無毛に悩む者が例示される。
【0096】
また本発明の発毛剤の使用量、使用頻度等は特に限定されず、本発明の発毛剤の適用対象者の脱毛等の程度や本発明の発毛剤の剤形等に応じて適宜増減することができるが、使用量としては、本発明の発毛剤中の前記物質群(A)及び(B)の重量の総和として概ね50〜500mg/人/1回程度が例示される。また使用頻度としては、1日1〜3回で毎日〜3日に1回使用する程度の頻度が例示される。
【0097】
また、後述する実施例に示すように、本発明の発毛剤を適用する前に、発毛を所望する皮膚をヒアルロニダーゼにより処理しておくことにより、本発明の発毛剤の発毛効果を増強することができ、さらに高い発毛効果が得られることが見出された。
【0098】
従って本発明は、上記の通り、発毛を所望する皮膚をヒアルロニダーゼで処理し、その後ヒアルロニダーゼで処理した皮膚に上記本発明の発毛剤を適用することを含む発毛を促進する方法を提供する。
【0099】
上記方法において使用されるヒアルロニダーゼは、ヒアルロン酸を解重合する酵素であれば特に限定されるものではなく、ヒアルロン酸のグルクロニド結合を加水分解するヒアルロノグルクロニダーゼ、N−アセチルグルコサミニド結合を分解するヒアルロノグルコサミニダーゼ、ヒアルロン酸リアーゼ等のいずれをも含む。これらのヒアルロニダーゼの由来も特に限定されず、例えばStreptococcus dysgalactiae等の微生物により生産されたもの、ヒツジ睾丸由来のもの、薬用ヒル由来のもの等を使用することができる。
【0100】
上記のヒアルロニダーゼによる処理はヒアルロニダーゼ溶液を処理する皮膚に塗布することによって行うことができる。ヒアルロニダーゼ処理に使用するヒアルロニダーゼの量は特に限定されるものではないが、通常は0.001〜1U程度、好ましくは0.01〜0.2U程度の量を使用する。このような程度のヒアルロニダーゼは一回でまたは複数回に分けて皮膚に塗布すればよい。
【0101】
その後、上記の本発明の発毛剤を適用する。この場合の本発明の発毛剤を適用は、上記に説明した本発明の発毛剤単独の適用に準じて行うことができる。上記のヒアルロニダーゼ処理後、本発明の発毛剤を適用するまでの時間は特に制限されないが、通常は6時間〜3日程度、好ましくは12時間〜1日程度の時間をおいて適用する。
【0102】
また本発明は、上記方法に使用するための、ヒアルロニダーゼを有効成分とする、上記本発明の発毛剤の発毛効果増強剤、及び上記本発明の発毛剤と、ヒアルロニダーゼとを含む発毛促進用のキットを提供する。
【実施例】
【0103】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、この実施例は本発明の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。
【0104】
(1) 材料
実施例において共通して用いた物質について以下に説明する。
(1-1) ヒアルロン酸
鶏冠から抽出・精製したヒアルロン酸(重量平均分子量80万)を121℃で60分間オートクレーブ処理することにより、重量平均分子量30万のヒアルロン酸を製造した(以下、このヒアルロン酸を「HA(30万)」という)。
【0105】
また、上記により製造した重量平均分子量80万のヒアルロン酸を水酸化ナトリウムを用いてアルカリ加水分解し、重量平均分子量5万のヒアルロン酸を製造した(以下、このヒアルロン酸を「HA(5万)」という)
【0106】
(1-2) デルマタン硫酸
デルマタン硫酸は、前記の「発明を実施するための最良の形態」に記載した方法により製造した。このデルマタン硫酸の重量平均分子量は3.5万であった(以下、このデルマタン硫酸を「DS(3.5万)」という)
【0107】
(1-3) 低分子化ケラタン硫酸
低分子化ケラタン硫酸は、サメ軟骨から抽出・精製したケラタンポリ硫酸を、ケラタナーゼII(生化学工業(株))を用いて37℃で12時間消化することにより製造した。この低分子化ケラタン硫酸は、下記式(1)〜(3)で示される糖鎖を含有していた。
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(1)
Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S) ・・・(2)
NeuAc〜Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S)β1-3Gal(6S)β1-4GlcNAc(6S)・・・(3)
【0108】
式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、NeuAcはN−アセチルノイラミン酸残基を、β1-4はβ1,4グリコシド結合を、β1-3はβ1,3グリコシド結合を、(6S)は6-O-硫酸エステルを、〜はα2,3グリコシド結合またはα2,6グリコシド結合を表す(以下、この低分子化ケラタン硫酸を「LMKPS」という)。
【0109】
(1-4) ケラタン硫酸
ケラタン硫酸は、サメ軟骨から抽出・精製することにより製造した。このケラタン硫酸はケラタンポリ硫酸であり、重量平均分子量は0.6万であった(以下、このケラタン硫酸を「KPS」という)。
【0110】
(1-5) 田七ニンジン水抽出物
田七ニンジン水抽出物は、田七ニンジンを粉砕し、これに水を加えて室温で5時間撹拌し、これを濾過後乾燥することにより製造した(以下、この抽出物を「田七水抽出物」という)。
【0111】
(1-6) 田七ニンジンエタノール抽出物
田七ニンジンエタノール抽出物は、水の代わりにエタノールを用いた以外は、上記田七水抽出物と同様に製造した(以下、この抽出物を「田七Et抽出物」という)。
【0112】
(1-7) クマザサエタノール抽出物
クマザサエタノール抽出物は、クマザサを粉砕し、これに大過剰のエタノールを加えて室温で1時間撹拌し、この抽出液を濾過後、エバポレーターを用いて抽出された成分が抽出液中に析出する直前まで濃縮することにより製造した(以下、この抽出液を「クマザサEt抽出物」という)。
【0113】
(1-8) コンドロイチン硫酸
コンドロイチン硫酸は、サメ軟骨から抽出・精製することにより製造した。このコンドロイチン硫酸の重量平均分子量は3万であった(以下、このコンドロイチン硫酸を「CS」という)。
【0114】
(2) マウスにおける発毛実験
(2-1) 被検液の調製
下記処方により、被検液を調製した。
・試料(用いた物質は後述の実験1〜4で詳述する。なお被検液中の終濃度は、特にことわらない限り1%(W/V)とした)
・オリーブ油5% (2.5mL)
・エタノール60% (30mL)
・グリセリン5% (2.5mL)
精製水を加えて50mLとする。
【0115】
(2-2) 発毛実験の方法
実験は小川らのマウスを使用した発毛効果判定試験(Fragrance Journal, 17(5), 20(1989))に準じて行った。すなわち、C3H/HeN雄性マウス(7週齢)を各群6匹用意し、7日間予備飼育した。その後、電気眉剃り及び電気カミソリを用いて背部を剃毛した。剃毛翌日より、被検液を毎日0.2mL/匹ずつ剃毛部位(約2cm×約5cm)に塗布した。判定日に各個体の背部の剃毛部位をデジタルカメラで撮影し、この画像をもとに発毛面積を視覚的に評価して、下記の表1に示す判定方法に従って各個体について発毛スコアを付した。なお視覚による発毛面積の評価は、客観性を考慮して2名の判定員により行った。
【0116】
【表1】

【0117】
(2-2-1) 発毛実験1
上記に従い、発毛実験1を春期〜初夏に行った。用いた被検液は下記の通りである。
【0118】
・被検液1:HA(30万)(終濃度0.75%(W/V))
・被検液2:HA(5万)(終濃度0.75%(W/V))
・コントロール:試料を含まない液(基剤のみ)
塗布後17日目(判定日)の平均発毛スコアの結果を表2に示す。なおコントロールの平均発毛スコアを100%とした時の比も算出し、併せて表2に示した。
【0119】
【表2】

【0120】
この実験においては、被検液投与による皮膚や毛の異常は認められなかった。
【0121】
表2に示す通り、HA(5万)はコントロールに比して効果が低かったのに対し、HA(30万)はコントロールに比して有意に高い効果を示した。よって以下の実験では、HAとしてHA(30万)を用いることとした。
【0122】
(2-2-2) 発毛実験2
同様に発毛実験2を夏期に行った。用いた被検液は下記の通りである。
【0123】
・被検液3:DS(3.5万)
・被検液4:田七水抽出物
・被検液5:クマザサEt抽出物 (終濃度1%(V/V))
・被検液6:LMKPS
・コントロール:試料を含まない液(基剤のみ)
【0124】
塗布後18日目(判定日)の平均発毛スコアの結果を表3に示す。なおコントロールの平均発毛スコアを100%とした時の比も算出し、併せて表3に示した。
【0125】
【表3】

【0126】
この実験においては、被検液投与による皮膚や毛の異常は認められなかった。
【0127】
表3に示す通り、LMKPSはコントロールに比して顕著に高い発毛効果を示した。
【0128】
(2-2-3) 発毛実験3
発毛実験3は春期〜初夏に行った。用いた被検液は下記の通りである。
【0129】
・被検液7:HA(30万)(終濃度0.75%)+田七Et抽出物
・被検液8:HA(30万)(終濃度0.75%)+田七水抽出物
・被検液9:HA(30万)(終濃度0.75%)+クマザサEt抽出物 (終濃度1%(V/V))
・被検液10:HA(30万)(終濃度0.75%)+DS(3.5万)
・被検液11:HA(30万)(終濃度0.75%)+KPS
・コントロール:試料を含まない液(基剤のみ)
【0130】
また、ヒアルロン酸リアーゼであるヒアルロニダーゼ(ヒアルロニダーゼSD、生化学工業(株)、0.5 U)を塗布した一日後に被検液7を塗布する試験を行った。
【0131】
塗布後17日目(判定日)の平均発毛スコアの結果を表4に示す。なおコントロールの平均発毛スコアを100%とした時の比も算出し、併せて表4に示した。
【0132】
【表4】

【0133】
この実験においては、被検液投与による皮膚や毛の異常は認められなかった。
【0134】
表4に示す通り、HA(30万)に加えてクマザサEt抽出物またはDS(3.5万)を添加すると、コントロールに比して顕著に高い発毛効果が見られた。また、被検液7を塗布する前にヒアルロニダーゼ処理を行うと、被検液7のみによる処理をしたときよりも発毛効果はさらに上昇した。このヒアルロニダーゼ処理による発毛効果の上昇の原因としては、ヒアルロニダーゼの作用により生成された低分子物質が作用して発毛効果が発揮される、ヒアルロニダーゼの作用により皮膚に存在するヒアルロン酸が分解され、後から塗布される有効成分の吸収がよくなる等の可能性が考えられる。
【0135】
(2-2-4) 発毛実験4
発毛実験4は夏期に行った。なお発毛実験4においては、マウスの背部左右(2ヶ所)をほぼ同一面積(1ヶ所あたり約2cm×約5cm)に剃毛した。剃毛翌日より、被検液を毎日0.2mL/匹ずつ背部右の剃毛部位に塗布し、塗布後21日目(判定日)に各個体の背部左右の剃毛部位をデジタルカメラで撮影し、この画像をもとに前述の方法で発毛スコアを付した。
【0136】
用いた被検液は下記の通りである。
【0137】
・被検液12:HA(30万)+DS(3.5万)+KPS+CS
・被検液13:HA(30万)+DS(3.5万)+田七水抽出物+クマザサEt抽出物 (終濃度1%(V/V))
・被検液14:HA(30万)+DS(3.5万)+KPS+田七水抽出物+クマザサEt抽出物 (終濃度1%(V/V))+CS
・コントロール:試料を含まない液(基剤のみ)
【0138】
背部右(塗布面)及び背部左(非塗布面)の平均発毛スコアの結果を表5に示す。なおコントロールの平均発毛スコアを100%とした時の比も算出し、併せて表5に示した。
【0139】
【表5】

【0140】
この実験においては、被検液投与による皮膚や毛の異常は認められなかった。
【0141】
表5より、HA(30万)及びDS(3.5万)に加えてさらに上記成分を添加すると、より発毛効果が高まることが示された。
【0142】
また驚くべきことに、被検液13(HA(30万)+DS(3.5万)+田七水抽出物+クマザサEt抽出物)及び被検液14(HA(30万)+DS(3.5万)+KPS+田七水抽出物+クマザサEt抽出物+CS)においては、塗布面のみならず非塗布面にも顕著な発毛促進効果が見られた。このことから、本発明の発毛剤は狭い適用面積で広範囲への発毛効果が及ぶことが示唆された。またこの効果は、被検液が体内に吸収されて得られた効果と推測されるので、本発明の発毛剤の有効成分は内服によっても効果を発揮し得る可能性があることを示唆するものである。
【0143】
(3) ヒトにおける発毛実験
(3-1) 被検液の調製
下記処方により、被検液を調製した。
【0144】
・HA(30万)、DS(3.5万)、KPS、CS、田七水抽出物及びクマザサEt抽出物各1%(W/V)(ただしクマザサEt抽出物については1%(V/V))
・パンテノール1%
・ビタミンE誘導体0.05%
・エタノール50%
精製水を加えて100%とする。
【0145】
(3-2) 発毛実験
発毛または育毛を望む14人に、1日1回、洗髪後に被検液2〜3mLを頭皮につけてマッサージしてもらった。これを6〜7ヶ月間続けてもらった後、下記の質問に対する回答を得た。
【0146】
質問の内容及び結果(回答者数、解答内容)を以下に示す。
【0147】
(質問の内容)被検液を実際に使用した結果に関し、下記それぞれの項目について該当する番号を回答して下さい。
【0148】
項目1.養毛について
1)髪が増加した (6名)
2)変化なし (8名)
3)髪が減少した (0名)
項目2.抜け毛について
1)抜け毛が少くなった(10名)
2)変化なし (4名)
3)抜け毛が増えた (0名)
項目3.フケについて
1)減少した (7名)
2)変化なし (7名)
3)増加した (0名)
【0149】
項目4.使用感についての意見
・整髪料かわりにできる(セットできる、乱れない)。
【0150】
・薬用という感じがして良い。
【0151】
・特に違和感がない。ネバネバが効果のイメージを促進し、育毛の期待感がもてる。
【0152】
項目5.その他気づいた点
・毛が太くなった。
【0153】
・床屋の育毛診断で良くなっていると言われた(毛根の周辺が非常にきれい)。
【0154】
なお被検液を試用した結果、頭皮や毛髪に対する異常を訴えた者はいなかった。
【0155】
この結果から、本発明の発毛剤は発毛効果を有するのみでなく、育毛効果や頭皮の乾燥防止効果を有していることが確認された。また、頭皮や毛髪に対する異常も全く見られなかったことから、本発明の発毛剤の安全性が非常に高いことが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラクトース残基とN−アセチルグルコサミン残基とがβ−グリコシド結合した構造単位1〜10個からなるケラタン硫酸を含有する発毛促進剤(ただし、上記のガラクトース残基及びN−アセチルグルコサミン残基の6位は一部または全部が硫酸化されている)。
【請求項2】
ガラクトース残基とN−アセチルグルコサミン残基とがβ−グリコシド結合した構造単位1〜10個からなるケラタン硫酸が、エンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ型ケラタン硫酸分解酵素により分解して得られる生成物である、請求項1に記載の発毛促進剤。
【請求項3】
さらに下記物質群から選択される1種以上の物質を含有する、請求項1または2に記載の発毛促進剤:
ササ抽出物、田七ニンジン抽出物、重量平均分子量20万〜40万のヒアルロン酸及びコンドロイチン硫酸。
【請求項4】
さらに下記(a)または(b)の組合わせの成分を含有する、請求項1または2に記載の発毛促進剤:
(a) 重量平均分子量20万〜40万のヒアルロン酸、重量平均分子量2万〜5万のデルマタン硫酸、田七ニンジン抽出物、及びササ抽出物、(b) 重量平均分子量20万〜40万のヒアルロン酸、重量平均分子量2万〜5万のデルマタン硫酸、田七ニンジン抽出物、ササ抽出物、及びコンドロイチン硫酸。
【請求項5】
ヒアルロニダーゼを有効成分とする、請求項1〜4のいずれかに記載の発毛促進剤の発毛効果増強剤。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の発毛促進剤と、ヒアルロニダーゼとを含む発毛促進用のキット。

【公開番号】特開2007−176957(P2007−176957A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90230(P2007−90230)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【分割の表示】特願平10−277941の分割
【原出願日】平成10年9月30日(1998.9.30)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】