説明

発泡体およびその連続的製造方法

【課題】Mg含有合金に限定されない種々のアルミニウム合金(若しくはアルミニウム)の発泡体を、高歩留まり・高効率で、且つ発泡率を制御可能にしつつ連続的に様々な断面形状の長尺物として製造することのできる方法、およびこうした方法によって得られる発泡体を提供する。
【解決手段】AlまたはAl合金を反応容器内で溶解して溶湯を作製し、これにカルシウムを添加・混合し、更に同一反応容器または別の反応容器内で、この溶湯内に発泡剤を添加、攪拌、混合して作製した未発泡溶湯または発泡率が4倍以下の発泡未完了溶湯を、所定温度に保持された移動式鋳型内に連続的に注湯して該鋳型内で連続的に発泡、充満させ、該鋳型から連続的に搬出された後に、冷却、凝固させて所定形状の発泡体を連続的に製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音材(遮音材)、構造部材用補強材、衝撃吸収材、触媒担体、電極材料の他、各種構造材料として広範な分野で利用される発泡体、およびその製造方法に関するものであり、特に、AlまたはAl合金を素材とし、板材、薄板材、棒材等の比較的単純な形状の製品を連続的に製造する上で有用な金属発泡体(発泡金属)の連続的製造方法、およびこうした製造方法によって製造される発泡体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発泡金属は、立体網状構造を有し、気孔率を大きくした金属多孔体であり、表面積が大きいことを利用して上記のような広範な分野で利用されている。また、近年、環境問題から、発泡金属は、自動車の軽量化素材や部品あるいは中空部品への補剛、補強充填材として適用されることが期待されている。こうした発泡金属として、軽量化および高強度を考慮して、AlまたはAl合金が最も汎用されている。
【0003】
こうしたAlまたはAl合金等を素材とした発泡金属(以下、単に「発泡体」と呼ぶことがある)を製造する方法として、例えば特許文献1に開示された技術が知られている。この方法は、「溶融金属に増粘材および発泡材を加えて攪拌することによって、多数の独立気泡よりなる発泡金属を製造する方法において、鋳型全体が発泡金属の融点以上となるように加熱し、かつ攪拌を終了後発泡を開始し、気泡が成長する過程で空気抜き用の放出口を有する状態で鋳型を密閉し、発泡剤が熱により分解して生じる多数の気泡が膨張することによって鋳型内の空気を鋳型の外部に放出させ、発泡金属が鋳型内部の全体に充満することにより、溶融充満した発泡金属により上記放出口を閉塞して鋳型を密閉状態とし、密閉された鋳型内で多数の気泡の内圧の上昇により気泡相互の圧力均衡の下に均一なセル構造を形成させ、ついで鋳型の加熱を停止して発泡金属を冷却、凝固させる」ものであり、増粘や発泡処理を一つの鋳型内で行なうと共に、発泡体内に発生しやすい引け巣や不均一気泡の発生を防止することに特徴がある。
【0004】
上記のような技術の開発によって、均一な気泡を発泡率が高い状態で確保した発泡体が実現できたのであるが、その製造条件によっては解決すべき問題が生じることがある。即ち、上記のような技術では、比較的小さな製品を製造する場合にはそれほど問題とならないのであるが、凝固に長時間(例えば、10分以上)を要するような大きな発泡金属製品を製造する場合には、粗大な気泡が多くなって割れ等の欠陥が発生するという問題があった。また、発泡金属中における気泡のバラツキが大きくなり、しかも平均粒径が大きくなり、製品品質が劣化することもある。
【0005】
上記のような問題を解決するための方法として、例えば特許文献2のような技術も提案されている。この技術は、多数の独立気泡を均一な大きさに形成すると共に、発泡体内部に「引け巣」を発生させないような発泡金属の製造方法に関するものであり、そのために「融点が550〜670℃で且つ固液二相域で固相率が35%となる温度が640℃以下である溶融金属」に対して、増粘剤を添加して大気中若しくは酸化性雰囲気中で攪拌し、これに所定の溶湯温度範囲で発泡剤としての水素化チタンを添加すると共に、この添加量を適切な量とすることによって、上記のような発泡体を得るものである。また、この技術では、増粘剤としてカルシウムが使用できること、およびこのカルシウムの好ましい量、溶湯金属を鋳型に注入する際の好ましい圧力などについても開示されている。更に、溶湯金属としてはAlやAl合金について開示されている。また、増粘や発泡等の処理を一つの鋳型内で実施する方法や、作製した発泡溶湯を別の鋳型に注湯して発泡させる方法についても開示されている。
【0006】
一方、鋼製等の長繊維や短繊維を発泡体に含有させた所謂複合発泡体に関するものとして、例えば特許文献3、4のような技術も提案されている。これらの技術は、アルミニウムとマグネシウムの共晶合金溶湯に水素化チタンを発泡剤として含有させた第1の溶湯と、アルミニウムからなる第2の溶湯をポット(ルツボ)内で製造した後混合し、該混合溶湯を一方向に移動する一対または二対のベルト間に注入し、ベルト長手方向(移動方向)後半部以降に設けられた冷却手段によって発泡溶湯を冷却、凝固させて複合発泡体を得る方法である。これらの方法では、2つの溶湯を使用すること、および移動ベルトの後半部以降を冷却することに特徴がある。
【0007】
こうした技術に関連して、例えば特許文献5には、2つの溶湯を混合室内部で混合し、該混合溶湯を、加熱手段を有する単ベルトに注湯して、発泡体を製造する方法も提案されている。
【0008】
発泡体を製造する技術として、例えば特許文献6には、ルツボ内で空気吹き込みによって増粘させたアルミ溶湯に発泡助剤として合成ケイ酸カルシウムを添加して発泡させ、該発泡溶湯を一対のエンドレスベルト間に流入、通過させることによって、急冷させる方法が開示されている。この方法は、ベルト間で発泡体を急冷することを特徴とするものである。
【0009】
また特許文献7には、上記特許文献6と同様の手順で発泡溶湯を製造し、該溶湯を上下一対の双ベルトの下側ベルト上に供給された金属テープ上に流し込むことにより、金属テープと発泡体を接着、接合、複合化して複合条を製造する方法が開示されている。この方法は、双ベルトの冷却、加熱等の言及はなく、自然放冷によって凝固させていると推察される。
【特許文献1】特開昭62−20846号公報 「特許請求の範囲」の請求項1など
【特許文献2】特開2002−371327号公報 「特許請求の範囲」の請求項1〜7など
【特許文献3】特開昭48−51857号公報 「特許請求の範囲」、Fig5、7など
【特許文献4】特開昭48−79114号公報 「特許請求の範囲」など
【特許文献5】特公昭36−20351号公報 「特許請求の範囲」など
【特許文献6】特開平7−145435号公報 「特許請求の範囲」の請求項1など
【特許文献7】特開平7−223020号公報 「特許請求の範囲」の請求項1など
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記各技術の開発によって、均一気泡が形成され、製品品質の良好な発泡金属が実現できたのであるが、製造面において改良すべきいくつかの問題が指摘される。即ち、上記特許文献1、2では、製品を形成するための鋳型内(通常断面が矩形等の単純形状)で発泡剤の添加並びに攪拌が行われ、そのままこの鋳型内で上下に向けて発泡、成長が行われるため、直方体等ブロック形状の発泡体しか得られないことになる。そのために、様々な形状、寸法の製品用途に対応するためには、該ブロックから目標寸法の製品を切断、切削によって採取せざるを得ず、切断、切削時の切断代や切削屑の発生による歩留まり低下によるコスト高の原因となっている。また、該ブロック以上の寸法の製品は採取できず、採取可能な製品寸法に限界があった。即ち、特許文献2のような技術では、バッチ式による製造方法であるため、歩留まりが低く、また例えばブロック寸法を超えるような長尺製品のような発泡体を高歩留まりで且つ連続的に製造することは困難であった。
【0011】
上記特許文献2では、発泡させた溶湯を40mmφの比較的小さな鋳型に注湯することが示されているが(例えば、実施例2)、実際問題として発泡剤添加後の溶湯では、短時間の間に発泡を開始する結果、溶湯が早期に高粘度化してしまい、流動性が低下するので、発泡した溶湯の取り扱いは容易ではなく、鋳型への溶融金属の注湯は極めて困難である。特に、複雑な形状を形成するための鋳型にあっては、こうした問題が顕在化する。即ち、るつぼ内部で作製した溶湯を、るつぼを傾動等して鋳型に流し込むという通常鋳物の製造で行われている注湯操作が極めて困難となる。
【0012】
また特許文献3では、2つの溶湯の混合物をポット(ルツボ)内で事前に作製し、該混合物を、ポットを傾斜して移送ベルト間に注ぐ方式が図示されている(例えば、公開公報第6頁のFig.7)。しかしながら、混合物は2つの溶湯が混合された直後に発泡を開始し、前述のように発泡の進行と共に粘性が増加するので、粘性が比較的低い初期の傾斜操作では、溶湯の注湯は可能であるが、時間経過と共に注湯が困難となるという問題がある。即ち、粘性が増加した難流動性の溶湯は、ポット内壁に付着、残留するので(所謂「鍋付き量が多くなる」ので)、作製した溶湯の一部しか注湯することができず、極めて歩留まりが悪く、非効率なものとなる。また、ポット内の溶湯を一定温度に保持するために、ポットを加熱する炉体ごと傾動を行なう必要があり、設備的にも大掛かりなものとなる。
【0013】
この特許文献3では、発泡剤である水素化チタン(TiH)を混合した溶融マグネシウム−アルミニウム共晶合金の組成物である第1の溶湯と、溶融アルミニウムまたはアルミニウム合金の第2の溶湯の2つの溶湯のストリームを反応容器内に導入、混合し、次いで該混合物を反応容器底部から二対の移送ベルトよりなる鋳型に導入し、同鋳型内で発泡、凝固させる方法が示されている(例えば、公開公報第6頁のFig.5)。
【0014】
この特許文献3には、ポット内で発泡剤(TiH)を混合、含有した溶融マグネシウム−アルミニウム共晶合金の組成物と溶融アルミニウムを混合して「バター」を形成し、該「バター」を二対のコンベアー間に注いで冷却して発泡体を得る例も示されている(例えば、公開公報第6頁のFig.7)。また特許文献4、5にも同様の方法で発泡用混合物を得る方法が例示されている。これらの方法では、発泡剤の発泡を抑制するために低融点のマグネシウム−アルミニウム共晶合金を第1の溶湯として使用せざるを得ないことになる。しかしながら、本発明者らが、この共晶合金の状態図に関する調査、解析を行なったところによれば、共晶合金はMg濃度が35〜65質量%、融点が437〜450℃となるために、いかに第2溶湯と混合されてもMg成分の高いあるいは一定量を含有した混合溶湯になることは避けられず、Mgを含有しない発泡体を得ることは困難となる。
【0015】
また、特許文献3のように、2溶湯を別個に作製し、且つこの2溶湯の混合を実現するには(例えば、公開公報第6頁のFig.5)、設備的に大掛かりになることは勿論、複雑な操作が要求され、また両溶湯の混合率(即ち、発泡剤の濃度)を一定に制御することも極めて困難であり、得られる発泡体は品質的に安定しないものとなる。更に、特許文献5では、上記混合物を加熱手段を設けた単ベルト上に注湯し、発泡、凝固させるものであるため、発泡体上面が自由凝固するので、長方形等その断面形状を正確に制御、整形することは困難である。
【0016】
前記特許文献、3、4では、移送ベルトの長手方向中央部から、ベルトを介して発泡体を冷却することが記載されており、移送ベルトは発泡体の冷却および移送手段として使用されている。このため、ベルト間に給湯された溶湯は、ベルト間で冷却、凝固のみが起こり、未分解の発泡剤を更に継続して分解、発泡させることは困難であり、用途に応じて低密度から高密度の種々の密度が要求される発泡体の発泡率を制御する範囲に限界がある。特に、ベルト間に給湯後、発泡を継続し、低密度の発泡体を得ることは困難になる。
【0017】
特許文献6では、ルツボ中の溶融アルミニウムに空気を吹き込んで増粘し、更に該溶湯にケイ酸カルシウムを発泡助剤として添加、発泡させ、この「発泡した溶融アルミ」を上下のエンドレスベルト間にルツボの傾斜により供給し、ベルト通過時に急冷して発泡体を製造する方法が開示されている。この方法であっても、増粘の方法や発泡剤の物質が異なるものの、前述の歩留まり低下や、大掛かりな設備、発泡体密度の制御範囲等の点で上記と同様の問題が存在する。
【0018】
本発明はこうした状況の下でなされたものであって、その目的は、Mg含有合金に限定されない種々のアルミニウム合金(若しくはアルミニウム)の発泡体を、高歩留まり・高効率で、且つ発泡率を制御可能にしつつ連続的に様々な断面形状の長尺物として製造することのできる方法、およびこうした方法によって得られる発泡体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決することのできた本発明の製造方法とは、AlまたはAl合金を反応容器内で溶解して溶湯を作製し、これにカルシウムを添加・混合し、更に同一反応容器または別の反応容器内で、この溶湯内に発泡剤を添加、攪拌、混合して作製した未発泡溶湯または発泡率が4倍以下の発泡未完了溶湯を、所定温度に保持された移動式鋳型内に連続的に注湯して該鋳型内で連続的に発泡、充満させ、該鋳型から連続的に搬出された後に、冷却、凝固させて所定形状の発泡体を連続的に製造する点に要旨を有するものである。尚、上記「発泡率」とは、通常の純アルミニウム溶湯の体積に対する発泡アルミニウム溶湯の体積の比率である。
【0020】
本発明方法においては、下記(a)〜(i)のいずれかの要件を満足させることが好ましい。
【0021】
(a)前記カルシウムは、溶湯全体に対する質量割合で0.5〜4.0%添加・混合すること。
【0022】
(b)前記発泡剤としての水素化チタンを溶湯全体に対する質量割合で0.5〜2.0%添加・混合すること。
【0023】
(c)上記(b)の場合に、前記発泡剤添加時における溶湯温度を650〜690℃とすること。
【0024】
(d)前記発泡剤の添加を開始してから添加を完了するまでの時間を15〜30秒とすると共に、発泡剤の添加から、未発泡溶湯または発泡率が4倍以下の発泡未完了溶湯を型に注湯するまでの時間を15秒以上180秒以下に制御して操業すること。
【0025】
(e)前記未発泡溶湯または発泡率が4倍以下の発泡未完了溶湯を型に注湯するに際して、前記反応容器を傾斜せずに、該反応容器の側壁に配設させた出湯口を開口することによって注湯すること。
【0026】
(f)前記出湯口に流量制御可能な栓を設けて、反応容器からの出湯量を制御すること。
【0027】
(g)前記移動式鋳型は、上下一対の双ロールとサイドガイド、または上下左右二対の双ロールにより構成されるものであること。
【0028】
(h)前記移動式鋳型は、加熱・保持機構を備えたものであること。
【0029】
(i)上記(h)の場合に、前記加熱・保持機構を備えた移動式鋳型内で連続的に発泡させた発泡体を、前記加熱・保持機構から連続的に搬出した後、冷却、凝固させるための冷却手段が設けられたものであること。
【0030】
本発明の製造方法によれば、Mg含有合金に限定されない種々のアルミニウム合金(若しくはアルミニウム)の発泡体を、高歩留まり・高効率で、且つ発泡率を制御可能にしつつ、長方形、正方形等、様々な断面形状を有する長尺物として連続的に製造することができ、こうして得られた発泡体では均一な気泡を有する特性の良好な発泡体となる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、未発泡溶湯または発泡率が4倍以下の発泡率を有する発泡未完了溶湯を、所定温度に保持した移動式鋳型内に連続的に注湯して該鋳型内で連続的に発泡、充填させるようにしたので、Mg含有合金に限定されない種々のアルミニウム合金(若しくはアルミニウム)の発泡体を、高歩留まり・高効率で、且つ発泡率を制御可能にしつつ連続的に製造することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明者らは、上記目的を達成する為に様々な角度から検討した。その結果、AlまたはAl合金を反応容器内で溶解して溶湯とし、これに金属カルシウムを添加・混合することによって溶湯の粘度を増加させ、更に同一反応容器または別の反応容器内でこの溶湯内に発泡剤を添加・混合、攪拌することによって溶湯中に発泡剤を均一分散させた後、未発泡溶湯または発泡率が4倍以下の発泡未完了溶湯の状態で、所定の温度に保持された移動式鋳型内に連続的に注湯して該鋳型内で発泡させた後、冷却、凝固させれば、上記目的が見事に達成されることを見出し、本発明を完成した。以下、本発明が完成された経緯に沿って本発明の構成を詳細に説明する。
【0033】
発泡体を製造するに際しては、発泡金属製造用溶湯に発泡剤を添加混合した状態で発泡を開始するのであるが、この状態で放置すると、溶湯の体積は短時間のうちに増加し、溶湯の粘度が高くなって難流動性の融体となる。このような状態の溶湯を、鋳型に注入するには、その溶湯を鋳物工業などで通常使用されているルツボの傾動や柄杓などですくって別の鋳型に移し変えて移湯しようとすると、難流動性の融体は柄杓に強固に付着することになるので、いわゆる「鋳込み」を行うことが困難になる、或いは特定の出湯口から取り出すことも同様の理由から困難になる。
【0034】
そこで、本発明では、溶湯を鋳型に注入するときのタイミングについて、検討したところ、未発泡溶湯状態若しくは発泡率が4倍以下の状態の溶湯(発泡未完了溶湯)を取り出し、これを所定温度に保持された鋳型に注湯するようにすれば、発泡未完了溶湯はその後の移動式鋳型内での発泡が比較的容易に行えることが判明したのである。尚、反応容器から取り出すときの溶湯は未発泡状態または発泡率が4倍以下であることが必要であるが、発泡率が4倍を超えると溶湯の粘度が高くなって流動性が悪くなり、移動式鋳型に注入することが困難になる。移動式鋳型に注入するときの溶湯の発泡率は、好ましくは3倍以下とするのが良い。
【0035】
図1は、本発明を実施するための装置構成例を示す概略説明図である。この装置においては、羽根式攪拌機2を備えた反応容器1内に発泡体製造用金属溶湯3が注入され、この溶湯中に増粘剤および発泡剤が添加されて羽根式攪拌機2によって攪拌された後、反応容器1の側壁に設けられた出湯口4から、未発泡状態または発泡率が4倍以下の溶湯を取り出せるように構成されている。この取出しに際しては、出湯口4に付随して設けられた流量制御用バルブ(栓)5によって、出湯口4の開度が調整できるように構成されている。
【0036】
流量が制御されつつ取り出される溶湯は、上下一対の移動式ベルト(双ベルト)8、11で構成される移動式鋳型内(双ベルト間)に出湯口4から注湯され、該ベルト間で移動しつつ発泡した後、冷却手段としての冷却装置14で冷却、凝固されることによって、断面が所定形状の長尺状の発泡体12が得られる。このとき用いる移動式鋳型には、加熱炉13(加熱・保持機構)が備えられており、出湯口4から注湯された発泡未完了溶湯を所定温度、所定時間保持して所望の発泡率まで発泡させることが可能な構成となっている。
【0037】
尚、図1中、6は下ベルト(移動式ベルト8)用の供給コイル、7は下ベルト用の巻取りコイル、9は上ベルト(移動ベルト11)用の供給コイル、10は上ベルト用の巻取りコイル、を夫々示す。
【0038】
前記図1では、移動式鋳型として上下一対の移動式ベルト8、11で構成する例を示したが、例えば図2に示すように、ベルト8、11の開放側(幅方向側)のベルト間若しくはベルト外に、左右一対のサイドガイド15を配設して鋳型を構成しても良い[図2(a),(b)]。或は発泡する発泡体12の周囲を囲うような、上下左右2対の移動式ベルト(図示せず)で移動式鋳型を構成するようにしても良い。
【0039】
移動式ベルト8、11としては、図1においては、巻取り方式の例(供給コイル6、9、巻取りコイル7、10)を示したが、例えば図3に示すように無限軌道方式の双ベルト8a,11aによって移動式鋳型を構成しても良い(図3中、16は回転ロールを示す)。また、冷却装置14としては、空冷、ミスト冷却、直接水冷等、様々な冷却方式の適用が可能であり、所望の発泡率の発泡体を得るために適宜使い分けるようにすれば良い。
【0040】
上記のような装置を用いて、発泡体12を製造するに当っては、発泡未完了の溶湯の発泡率は、加熱炉13の温度と該加熱炉13中の通過時間で制御可能であり、加熱温度が高く、また通過時間が長い程発泡率が大きく、低密度の発泡体12が得られることになる。通常では、加熱炉13および発泡体12の温度は、発泡剤であるTiHが発泡する640〜700℃、通過時間は30〜300秒が好ましいが、上記条件以下にしてより発泡率の低い発泡体を得たり、また上記条件以上にしてより発泡率の高い発泡体を得ることも可能である。
【0041】
気泡が均一な発泡体を得るため、および鋳型への充満性を良好にするためには、AlまたはAl合金溶湯の粘度も適切に調整する必要がある。本発明では、溶湯の粘度調整のために増粘剤として金属カルシウムを添加するものであるが、溶湯の粘度を適切な範囲に調整するためには、金属カルシウムの添加量も適切に制御するのが良い。こうした観点から、増粘剤としての金属カルシウムの添加量は0.5〜4.0質量%とすることが好ましい。金属カルシウムの添加量が0.5質量%未満となると、溶湯の粘度が不十分なために反応容器から溶湯を取出した後の発泡が不十分となって良好な発泡体が得られない。また金属カルシウムの添加量が4.0質量%を超えると、溶湯の粘度が高くなり過ぎて、反応容器からの溶湯の取り出しが困難になる。
【0042】
本発明方法では、上記のような溶湯に発泡剤を添加することによって、溶湯内に多数の気泡を形成するものであり、その添加時期は同一反応容器または別の反応容器内で行えば良い。このとき用いる発泡剤としては、水素化チタン(TiH2)、水素化ジルコニウム(ZrH2)、炭酸カルシウム(CaCO3)等、様々なものが挙げられるが、これらの分解温度を考慮すると、水素化チタンを用いることが好ましい。この水素化チタンを発泡剤として用いる場合には、その添加量は0.5〜2.0質量%(溶湯全質量に対する割合)であることが好ましい。水素化チタンの添加量が0.5質量%未満となると、発泡時のガス発生量が不足するため、反応容器から溶湯を取出した後の発泡が不十分となって良好な発泡体が得られない。また水素化チタンの添加量が2.0質量%を超えると、発泡剤を溶湯内に均一分散させるために攪拌時間が長くなったり、高価な発泡剤を無用に消費することになる。尚、こうした発泡剤の量は、溶湯の取り出し時に溶湯が発泡能力を有するに十分な量であることを意味し、これよりも少ない場合には、発泡率が4倍以下であってもその後の溶湯の発泡が不十分になってしまうことになる。以上のことから、取り出し時の溶湯は「未発泡溶湯」或いは「発泡未完了溶湯」と表記した。
【0043】
水素化チタンを添加・混合するときの溶湯温度は、650〜690℃の温度範囲とすることが好ましく、650℃未満の場合には温度が低いために水素化チタンの分解が十分に起こらないので、発泡が不十分になる。また溶湯温度が690℃を超えると、添加時に発泡剤の分解が過剰に起こり、溶湯の粘度が高くなり、流動性が低下するため取り出しが困難になる。また、たとえ鋳型への注湯ができたとしても、取り出し後の発泡が不十分なものとなる。
【0044】
発泡剤を添加してから完了までに要する時間(以下、単に「添加所要時間」と呼ぶ)は、15〜30秒の範囲内で行うことが好ましく、この添加所要時間が15秒未満の場合には、ガスの発生量が急激で攪拌機が空回りし、攪拌が不十分となるなどの現象が生じ、効率よく均一分散させることが困難となり、発泡体が発泡不足や、密度が不均一となる。また、添加所要時間が30秒を超えると発泡剤の分解が過剰に起こるので反応容器から取り出した後の発泡が不十分となる。尚、この添加所要時間は発泡剤、反応容器および攪拌機の攪拌能力にもよるが、発泡剤の平均粒径が44μm以下の市販の水素化チタンを用いたものを基準にしたものである。
【0045】
発泡剤の添加から溶湯取り出しまでの時間については、15秒以上180秒以下、好ましくは15秒以上90秒以下とするのが良く、この時間が長時間となると溶湯の取り出しが困難になる。
【0046】
本発明では発泡体の素材としてアルミニウムまたはアルミニウム合金を用いるものであるが、このときのアルミニウム合金として特に限定される条件はなく、Ti,Mg,Zn等の合金元素をその溶湯特性(発泡金属として要求される特性)を阻害しない程度(例えば、20%以下)で含有していても良い。
【0047】
本発明によって得られる発泡体では、発泡体の網目状骨格がCaやTi等の合金元素を含有する数ミクロン〜10ミクロンの大きさの晶出物とマトリクスのアルミニウムから構成されており、自動車のピラー、メンバー等用の充填補強材や床等のサンドイッチパネル用中間材等の部材への適用に際して、所定の強度を有するものとなる。
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0049】
[実施例1]
大気中にてAl:20.0kgを溶解し、これに増粘剤としてのCaを添加し、5分間攪拌を行った。次に、この増粘された溶湯を所定温度に保持し、発泡剤としての水素化チタンを所定時間で添加、攪拌した。そして水素化チタンの添加から所定時間経過後、反応容器の側壁に配設した出湯口(前記図1参照)を開口することによって、未発泡溶湯を速やかに取り出し、ベルト間(図1の移動ベルト8、11間)ギャップ:50mm、ベルト幅:250mmの所定温度に保持された移動式鋳型に注湯した後、加熱炉13から搬出された発泡体12を冷却装置14によって空冷した。また、反応容器から移動式鋳型へ注湯される溶湯の一部または反応容器内の溶湯を、柄杓にて採取し、銅製鋳型にて急冷凝固させ、その試料の発泡率を調査した。
【0050】
上記の条件において、Caの添加量、発泡剤添加時の溶湯温度、水素化チタンの添加量、水素化チタンの添加所要時間、水素化チタン添加開始から溶湯取り出しまでの時間、双ベルト用加熱炉による発泡体の温度、および発泡体の加熱炉内の通過時間、等を様々に変えて同様の実験を行った。得られた発泡体の密度、および溶湯取り出し時の発泡率(その基準については前記の通り)について測定した。その結果を製造条件と共に、一括して下記表1、2に示す。但し、実験No.5、6については、Al−8質量%Zn合金、Al−10質量%Zn−1質量%Mg合金の20kgを夫々溶解したものである。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
この結果から、次のように考察できる。水素化チタンの添加開始から取り出しまでの時間が30〜60秒の場合には、取り出し時の溶湯の発泡率は3倍以下となっており、また得られる発泡体の密度も0.4以下の良好な発泡状態となっていることが分かる(試験No.1〜3)。
【0054】
また水素化チタン添加開始から取り出しまでの時間が180秒では、取り出し時の溶湯の発泡率は3.5倍と若干の増大が見られ、溶湯の取り出しは円滑ではないが可能であった(実験No.4)。
【0055】
更に、素材をAl−8質量%Zn合金、Al−10質量%Zn−1%Mg合金で行った場合でも、条件が適正であれば、取り出し時の溶湯の発泡率は2.3〜3.0倍で、発泡体密度も0.39〜0.49の良好な発泡状態が得られた(試験No.5、6)。
【0056】
これに対して取り出しまでの時間が長過ぎると、溶湯の発泡率が高くなって粘度が増大し過ぎてしまい、溶湯の取り出しが不可能となった(実験No.7)。また、溶湯の設定温度(水素化チタン添加時の溶湯温度)が高過ぎると、得られた発泡体の密度が大きなものとなって、所望の発泡体が得られなかった(実験No.8)。また、溶湯の設定温度(発泡剤である水素化チタンの添加時の溶湯温度)が低過ぎると、反応容器内で溶湯が凝固してしまい、溶湯の取り出しができず、移動式鋳型への注湯ができなかった(実験No.9)。
【0057】
発泡剤の添加所要時間が長過ぎると、反応容器内での発泡が進行し、溶湯の取り出しができなかった(実験No.10)。また、移動式鋳型の加熱炉を加熱せず、常温のままで発泡未完了溶湯を移動式鋳型内に注湯した場合には、移動式鋳型内での発泡が不十分となり、発泡体の密度が大きくなり、所望の密度の発泡体は得られなかった(実験No.11)。
【0058】
[実施例2]
大気中にてAl:20.0kgを溶解し、これに増粘剤としてのCaを添加し、5分間攪拌を行った。次に、この増粘された溶湯を所定温度に保持し、発泡剤としての水素化チタンを所定時間で添加、攪拌した。そして水素化チタンの添加から所定時間経過後、反応容器の溶湯を2つの方法で取り出し、取り出された溶湯と反応容器の壁等に付着、残留した溶湯量を調査した。このときの取り出し方法としては、反応容器の側壁に配設した出湯口(前記図1参照)を開口することによる方法(本発明)、反応容器を傾斜することによる方法で行なった。尚、反応容器を傾斜するに際しては、挿入されていた攪拌機を撤去した後、傾斜のための準備をしてから行った。その結果を、下記表3に示す。この表3において、出湯率は、取り出された容湯量を初期溶解量で除した値をパーセントで表示したものである。
【0059】
【表3】

【0060】
この結果から、反応容器を傾斜して溶湯を取り出す場合には、攪拌機の撤去等に時間を要し、発泡剤添加開始から溶湯取り出しまでに時間がかかるため、反応容器内で発泡が進行してしまい、その粘性が増大する結果、反応容器壁への付着量が多くなり、約半分程度の溶湯しか取り出せず、出湯率の低下が顕著であった。これに対して、本発明である、反応容器側壁の出湯口からの取り出しでは、短時間で行えるので、85%以上の高い歩留まりの出湯率が得られている。
【0061】
[実施例3]
前記図1に示した上下ベルトのうち、上ベルト(移動式ベルト11)を無くし、下ベルト(移動式ベルト8)とサイドガイド15のみの移動式鋳型とし、その他の条件は表1のNo.2と同様として、連続発泡実験を行った。このとき得られた発泡体の形状を図4(b)に模式的に示す。即ち、上部のベルト(上ベルト11)を用いないものであるので、発泡体はサイドガイド15を超えて発泡、成長する結果、上表面が凹凸を示す不規則な形状となっている。これに対して、上部のベルト(上ベルト11)を備えた鋳型で発泡させたものでは、図4(a)(模式的に示す説明図)に示すように、目的とする矩形形状であった。この結果から、単ベルト方式の鋳型を用いた場合には、得られる発泡体の断面形状を制御できないことは明らかである。
【0062】
上記表1における実験No.2の発泡体のミクロ組織(セル壁)を光学顕微鏡で観察したときの結果を図5(図面代用顕微鏡写真)に示す。また、図5に示したセル壁の晶出物およびマトリクスを、EDX(エネルギー分散型X線)分析したときの結果を、図6、図7に夫々示す。これらの結果から、発泡体のセル壁はCa,Tiを含有する数ミクロンから10ミクロンの大きさの晶出物とマトリクスとしてのアルミニウムより構成されていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明方法を実施するための製造構成の一例を示す概略説明図である。
【図2】本発明方法を実施するための移動式鋳型の構成の一例を示す概略説明図である。
【図3】本発明方法を実施するための移動式鋳型の構成の他の例を示す概略説明図である。
【図4】本発明方法を双ベルト、単ベルトの両法で実施したときの発泡体の断面形状を模式的に示す説明図である。
【図5】表1の実験No.2の発泡体におけるミクロ組織を示す図面代用顕微鏡写真である。
【図6】表1の実験No.2の発泡体におけるセル壁の晶出物をEDX(エネルギー分散型X線)分析したときの分析結果を示すグラフである。
【図7】表1の実験No.2の発泡体におけるセル壁のマトリクスをEDX(エネルギー分散型X線)分析したときの分析結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0064】
1 反応容器
2 羽根式攪拌機
3 金属溶湯
4 出湯口
5 流量制御用バルブ
6 下ベルト用供給コイル
7 下ベルト用巻取りコイル
8 移動式ベルト(下ベルト)
9 上ベルト供給コイル
10 上ベルト巻取りコイル
11 移動式ベルト(上ベルト)
12 発泡体
13 加熱炉
14 冷却装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlまたはAl合金を反応容器内で溶解して溶湯を作製し、これにカルシウムを添加・混合し、更に同一反応容器または別の反応容器内で、この溶湯内に発泡剤を添加、攪拌、混合して作製した未発泡溶湯または発泡率が4倍以下の発泡未完了溶湯を、所定温度に保持された移動式鋳型内に連続的に注湯して該鋳型内で連続的に発泡、充満させ、該鋳型から連続的に搬出された後に、冷却、凝固させて所定形状の発泡体を連続的に製造することを特徴とする発泡体の連続的製造方法。
【請求項2】
前記カルシウムは、溶湯全体に対する質量割合で0.5〜4.0%添加・混合する請求項1に記載の連続的製造方法。
【請求項3】
前記発泡剤としての水素化チタンを溶湯全体に対する質量割合で0.5〜2.0%添加・混合する請求項1または2に記載の連続的製造方法。
【請求項4】
前記発泡剤添加時における溶湯温度を650〜690℃とする請求項3に記載の連続的製造方法。
【請求項5】
前記発泡剤の添加を開始してから完了するまでの時間を15〜30秒とすると共に、発泡剤の添加の開始から、未発泡溶湯または発泡率が4倍以下の発泡未完了溶湯を型に注湯するまでの時間を15秒以上180秒以下に制御して操業する請求項1〜4のいずれかに記載の連続的製造方法。
【請求項6】
前記未発泡溶湯または発泡率が4倍以下の発泡未完了溶湯を型に注湯するに際して、前記反応容器を傾斜せずに、該反応容器の側壁に配設させた出湯口を開口することによって注湯する請求項1〜5のいずれかに記載の連続的製造方法。
【請求項7】
前記出湯口に流量制御可能な栓を設けて、反応容器からの出湯量を制御する請求項6に記載の連続的製造方法。
【請求項8】
前記移動式鋳型は、上下一対の双ロールとサイドガイド、または上下左右二対の双ロールにより構成されるものである請求項1に記載の連続的製造方法。
【請求項9】
前記移動式鋳型は、加熱・保持機構を備えたものである請求項1に記載の連続的製造方法。
【請求項10】
前記加熱・保持機構を備えた移動式鋳型内で連続的に発泡させた発泡体を、前記加熱・保持機構から連続的に搬出した後、冷却、凝固させるための冷却手段が設けられたものである請求項9に記載の連続的製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の方法によって製造されたものである発泡体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−297684(P2007−297684A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127847(P2006−127847)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、経済産業省 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000192626)神鋼鋼線工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】