説明

発泡及びピッチトラブル抑制方法

【課題】発泡及びピッチトラブルの抑制方法を提供する。
【解決手段】クラフトパルプ未晒洗浄工程において、洗浄ろ液に酸性化剤を添加することによって向流多段洗浄2段目以降の洗浄ろ液のpHを9.5〜11.0に調整することを特徴とする発泡及びピッチトラブル抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡及びピッチトラブルを抑制する方法に関するものであり、詳しくは、クラフトパルプ未晒洗浄工程において、洗浄ろ液に酸性化剤を添加することによって向流多段洗浄2段目以降の洗浄ろ液のpHを9.5〜11.0に調整することを特徴とする発泡及びピッチトラブル抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木材チップ及びその他繊維原料を水酸化ナトリウム及び硫化ナトリウムを主成分とする蒸解薬液によって高温で蒸解することをクラフト蒸解と言い、クラフト蒸解によって得られたパルプをクラフトパルプと言う。
【0003】
クラフト蒸解後のパルプは洗浄工程を経て、その後多くの場合漂白される。漂白前の洗浄工程は未晒洗浄工程と呼ばれ、未晒洗浄工程においてはパルプに残存する蒸解薬液を洗い落とすことが主たる目的となる。
【0004】
未晒洗浄工程では、真空式フィルタ洗浄機、加圧式フィルタ洗浄機、プレス洗浄機及びディフューザー洗浄機等の各種洗浄装置を用いた向流多段洗浄によって洗浄が行われる。このようにしてパルプから洗い落とした蒸解薬液は未晒洗浄ろ液として系内を循環し、最終的には回収ボイラーへと送られる。
【0005】
未晒洗浄ろ液中には蒸解薬液のアルカリ分、蒸解によってパルプ原料から流出した有機分が含まれる。有機分としては脂肪酸石鹸、樹脂酸石鹸、クラフトリグニン及び低分子化した炭水化物等が挙げられる。
【0006】
このうち脂肪酸石鹸や樹脂酸石鹸は高い界面活性能を有する為、未晒洗浄ろ液を発泡させ、未晒洗浄工程の操業に悪影響を及ぼす。また、カルシウム石鹸として不溶化するとピッチトラブルの原因となる。このように未晒洗浄工程においては、発泡とピッチという二つの問題が発生し、これらはいずれも未晒洗浄ろ液の性質に由来するところが大きい。
【0007】
未晒洗浄工程において現在主流となっている発泡対策は未晒洗浄ろ液への消泡剤の添加である(例えば、特許文献1〜2参照)。量の多少に関わらず、未晒洗浄工程においてはほとんどの場合消泡剤が添加されている。しかしながら、消泡剤自体がピッチ化し、ピッチトラブルを誘発する場合がある。
【0008】
一方、ピッチトラブルへの対策はタルク等のピッチコントロール剤を未晒洗浄ろ液に添加する方法が主流である(例えば、特許文献3〜4参照)。ピッチコントロール剤も未晒洗浄工程においてほとんどの場合添加されている。
【0009】
消泡剤及びピッチコントロール剤による効果にはそれぞれ限界があり、ある添加量以上加えても効果が頭打ちとなる点が存在する。それでも発泡やピッチトラブルが収まらない場合は、未晒洗浄工程の処理量を下げる等の減産措置をとらざるを得ず、大きな損失が発生する。
【0010】
発泡及びピッチの挙動は未晒洗浄ろ液のコロイド化学的性質と深く関係している。そして、未晒洗浄ろ液のコロイド化学的性質はpHによって大きく変化する。発泡やピッチトラブルの抑制を想定した方法ではないが、特許文献5及び特許文献6には未晒洗浄ろ液に酸性化剤を添加しpHを低下させる方法が載っている。特許文献5においては、パルプマットに関してはpH低下の程度についての記載があるが、洗浄ろ液については記載がない。特許文献6においては未晒洗浄ろ液のpHを6.8〜9.4に低下させる旨が記載されているが、pH9.5〜11.0の範囲を想定していない。
【特許文献1】特開平10−165711号公報
【特許文献2】特開平10−266084号公報
【特許文献3】特開2004−124329号公報
【特許文献4】特開2004−292998号公報
【特許文献5】特開2000−226784号公報
【特許文献6】米国特許第5,429,717号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、発泡及びピッチトラブルの抑制効果を高める方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、発泡及びピッチトラブルの抑制効果を高める方法について鋭意検討を重ねた結果、クラフトパルプ未晒洗浄工程において、洗浄ろ液に酸性化剤を添加することによって向流多段洗浄2段目以降の洗浄ろ液のpHを9.5〜11.0に調整することで、発泡及びピッチトラブルの抑制効果を従来よりも高められることを見出し本発明に至った。
【発明の効果】
【0013】
本発明の発泡及びピッチトラブル抑制方法によれば、洗浄ろ液に酸性化剤を添加することによって向流多段洗浄2段目以降の洗浄ろ液のpHを9.5〜11.0に調整することで、発泡及びピッチトラブルの抑制効果を従来よりも高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、クラフトパルプ未晒洗浄工程において、洗浄ろ液に酸性化剤を添加することによって向流多段洗浄2段目以降の洗浄ろ液のpHを9.5〜11.0に調整することを特徴とする発泡及びピッチトラブル抑制方法である。
【0015】
以下に本発明の具体例を示すが、本発明は以下の具体例に限定されない。
【0016】
本発明に用いられるクラフトパルプの未晒洗浄ろ液に特に制限はないが、針葉樹あるいは広葉樹をクラフト蒸解して得られた未晒洗浄ろ液が好ましい。
【0017】
本発明に用いられるクラフトパルプの未晒洗浄ろ液を得るために行われるクラフト蒸解の方法に特に制限はなく、クラフト蒸解後のパルプのカッパー価が針葉樹パルプの場合15〜35、広葉樹パルプの場合10〜25に収まるように蒸解温度、蒸解時間、液比、アルカリ添加率等の条件を適宜調整して構わない。蒸解装置についても特に制限はなく、連続式蒸解釜を用いても良いし、バッチ式蒸解釜を用いても良い。蒸解薬液についても特に制限はなく、アントラキノン、水素化ホウ素ナトリウム等のパルプ収率向上剤を添加しても良いし、蒸解薬液中の硫化ナトリウムをポリサルファイドに酸化変換しても良い。
【0018】
本発明における未晒洗浄工程の洗浄装置とその段数に特に制限はないが、洗浄効率と回収ボイラーへの黒液送り濃度を適切な値に保つ為に、真空式フィルタ洗浄機、加圧式フィルタ洗浄機、プレス洗浄機及びディフューザー洗浄機を適宜組み合わせて3〜6段の向流多段洗浄を行うことが好ましい。
【0019】
本発明に用いられる酸性化剤とは、それを添加することにより未晒洗浄ろ液のpHを低下させることのできる一種あるいは複数種の物質から構成される薬剤のことである。本発明に用いられる酸性化剤に特に制限はないが、クラフトパルプの蒸解薬液回収工程内における物質収支を変化させる薬剤及び塩素等の非工程元素を含む薬剤は好ましくない為、二酸化炭素が好適である。本発明に用いられる酸性化剤の添加場所に特に制限はないが、洗浄ろ液の固形分濃度が10%よりも高い洗浄ろ液に酸性化剤を直接添加するとリグニンが沈殿し、その洗浄ろ液が前段のパルプ洗浄に用いられるときにリグニンがパルプに再吸着し好ましくない為、洗浄ろ液の固形分濃度が10%以下である場所へ添加することが好ましく、向流多段洗浄3段目以降の洗浄ろ液流に添加することがさらに好適である。
【0020】
本発明に用いられる二酸化炭素の添加量に特に制限はなく、向流多段洗浄2段目以降の洗浄ろ液のpHが9.5〜11.0になる様に適切な量を添加することが好ましい。
【0021】
本発明に用いられる二酸化炭素の添加方法に特に制限はないが、二酸化炭素と洗浄ろ液との混合が十分に行われ、添加した二酸化炭素の大部分が洗浄ろ液中に溶解できるように、サイレンサやスタティックミキサー等の撹拌装置を通して添加することが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を挙げるが、本発明はこの実施例によりなんら限定されない。
【0023】
実施例1
アカマツ:スギ=7:3の混合チップをバッチ式蒸解釜を用いて、蒸解時間1時間35分、蒸解温度165℃、HF1200の条件でクラフト蒸解し、未晒洗浄工程へ投入した。未晒洗浄工程は6台の洗浄装置によって構成される向流多段洗浄である。前から5段目の洗浄装置が加圧式フィルタ洗浄機で、残りの5台は全て真空式フィルタ洗浄機である。前から4段目と5段目の間には酸素脱リグニン装置が設けられている。1段目の洗浄機入口のパルプスラリー、1段目の洗浄ろ液及び5段目の洗浄ろ液に風乾パルプ質量に対して1200ppmのシリコーン系消泡剤を添加した。4段目の洗浄機入口において風乾パルプ質量に対して650ppmのピッチコントロール用タルクを添加した。3段目の洗浄機の洗浄ろ液がその入口稀釈へと流れている配管に風乾パルプ1トンあたり4kgの二酸化炭素を添加した。未晒洗浄2段目以降における各洗浄機の洗浄ろ液中のピッチ数をヘマシトメータを用いてカウントした。流量5000mL/分の滝落とし式循環型発泡性測定装置を用いて、循環開始2分後の泡高さ増加分を測定し、未晒洗浄2段目以降における各洗浄機の洗浄ろ液の発泡性を評価した。
【0024】
比較例1
二酸化炭素を添加しない他は実施例1と同様にして洗浄ろ液中のピッチ数の測定と洗浄ろ液の発泡性の評価を行った。
【0025】
比較例2
二酸化炭素を風乾パルプ1トンあたり8kg添加した他は実施例1と同様にして洗浄ろ液中のピッチ数の測定と洗浄ろ液の発泡性の評価を行った。
【0026】
【表1】

【0027】
上記表1における実施例と比較例から明らかなように、二酸化炭素を添加し、二段目以降の洗浄ろ液のpHを9.5〜11.0に調整した方が、洗浄ろ液中のピッチ数及び洗浄ろ液の発泡性が低い値を示した。
【0028】
二酸化炭素を添加し、二段目以降の洗浄ろ液のpHを9.5〜11.0に調整することによって、洗浄ろ液中のピッチ数が減少し、洗浄ろ液の発泡性も低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラフトパルプ未晒洗浄工程において、洗浄ろ液に酸性化剤を添加することによって向流多段洗浄2段目以降の洗浄ろ液のpHを9.5〜11.0に調整することを特徴とする発泡及びピッチトラブル抑制方法。
【請求項2】
上記酸性化剤が二酸化炭素であることを特徴とする請求項1記載の発泡及びピッチトラブル抑制方法。