説明

発泡成形体の製造方法

【課題】射出成形において成形体表面に発生する一次ウェルドのみならず二次ウェルドの発生を防止した発泡成形体を製造する方法を提供すること。
【解決手段】(A)発泡剤を含む熱可塑性樹脂を溶融して、該溶融樹脂の少なくとも2つの流動先端が会合する会合部を有する容積V0の金型キャビティ内に射出し、(B)射出完了後3秒以内に金型キャビティを構成する隔壁を1〜50mm/秒で移動を開始させて、以下に示す関係式(1)を満たすように金型キャビティ容積をV1に拡大した後、(C)該隔壁を0.1〜100mm/秒で移動させて、以下に示す関係式(2)を満たすように金型キャビティ容積をV2に縮小することを特徴とする発泡成形体の製造方法。V1=a×V・・・(1)[式(1)中、aは1.1〜2.5の範囲にある。]V2=b×V・・・(2)[式(2)中、bは0.91〜0.99の範囲にある。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡剤を含む熱可塑性樹脂を射出成形する際に、一次ウェルドのみならず、一次ウェルド近傍に発生する線状の膨らみ(いわゆる二次ウェルド)が改良された外観が良好な発泡成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂の射出成形は、複雑な形状を精度よく成形できる優れた方法であり、自動車部品、機械部品、電気部品などの広範な分野で利用されている。
ところで、熱可塑性樹脂を射出成形する際に、複数のゲートから金型キャビティ内に溶融樹脂を射出充填した場合はそれぞれのゲートから充填される溶融樹脂同士が会合する部分、または金型キャビティ内に溶融樹脂の流動工程に開口部などが有る場合はその開口部を通過した溶融樹脂が会合する部分で、いわゆるウェルドラインと呼ばれるVノッチ状の溝を有した線状痕が生じ、射出成形体の外観が不良となることが知られている。また、このVノッチ部はその左右に隆起を伴うこともよく知られた現象である(以下の説明では、このウェルドラインを「一次ウェルド」と呼ぶ場合がある。)。
【0003】
また、この一次ウェルドから僅かに離れた部分に、表面にVノッチを伴わない隆起変形が生じることもある。この隆起変形は「二次ウェルド」、または「内部ウェルド」と呼ばれており、射出成形体の外観を著しく低下させ、特に射出成形体表面に平滑性が求められる用途、または鏡面状の表面が求められる用途の場合には大きな問題となっている。この二次ウェルドを完全に消滅させることは非常に難しいことが知られており、これまで産業界では成形条件の最適化、または金型構造の設計において多大な試行錯誤を余儀なくされてきた。外観が特に重要視される場合には、得られた成形体表面を磨くなどの後加工で対応することも多く、このような後処理工程は多大なコストアップ要因となっている。
【0004】
このような1次ウェルドの発生を抑制する方法としては、用いる熱可塑性樹脂を改良する方法または金型を改良する方法が種々提案されている(たとえば、特許文献1〜4参照)。しかしながら、一次ウェルドのみならず二次ウェルド発生をも抑制する方法はこれまで知られていない。
【特許文献1】特開2000−000838号公報
【特許文献2】特開平04−156322号公報
【特許文献3】特開平09−071691号公報
【特許文献4】特開2000−026697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、従来の射出成形方法においてウェルドが発生するメカニズムを以下のように考えた。すなわち、従来の射出成形では、成形機に取り付けた金型キャビティ内に溶融樹脂を射出充填した後、成形機のスクリュをある圧力によりさらにノズル側に押出す保圧と呼ばれる工程によりキャビティ内の樹脂圧力を高めて、冷却に伴う樹脂の収縮を補い成形体の表面の転写性を向上させる方法が用いられている。しかしながら、この方法は射出成形機内のスクリュヘッド先端部の溶融樹脂圧力を高めて溶融樹脂を金型キャビティ内に押し込むために、ゲート部にはその圧力が届いたとしても、ゲートから離れた場所、つまり溶融樹脂の流動がし難く保圧が掛かり難い流動末端やウェルド発生部までには圧力が届き難いという問題がある。溶融樹脂の流動末端や、ウェルド発生部においては、溶融樹脂はキャビティ表面と接触することにより冷却されて収縮が進行し、取り出し時には成形体とキャビティ表面とが接触しない部分が広範囲に存在する。そのため、ウェルド部のよ
うな樹脂配向の異なる部分では収縮量も異なり、一次ウェルドおよび二次ウェルド部で線状の隆起を発生するのである。
【0006】
本発明者らは、射出成形において成形体表面に発生する一次ウェルドのみならず二次ウェルドの発生を防止した発泡成形体を製造する方法を提供することを目的として、上記のウェルド発生機構の考え方に立ち、射出成形体のウェルド発生を抑制または解消する方法を鋭意検討した。
【0007】
その結果、熱可塑性樹脂に発泡剤を混練させた溶融樹脂を、射出成形機に取り付けた金型キャビティ内に射出し、溶融樹脂の表層を固化させながら内部がまだ溶融または半溶融状態のときに、後述する特定の方法によって溶融樹脂内部に流動を発現させて配向を乱すことにより、冷却時の収縮差の影響を小さくできることを見出した。これによって、一次ウェルドのみならず、二次ウェルドの隆起を防止し、外観のよい射出成形体が得られる本発明に到達したのである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の発泡成形体の製造方法は、(A)発泡剤を含む熱可塑性樹脂を溶融して、該溶融樹脂の少なくとも2つの流動先端が会合する会合部を有する容積V0の金型
キャビティ内に射出し、(B)射出完了後3秒以内に金型キャビティを構成する隔壁を1〜50mm/秒で移動を開始させて、以下に示す関係式(1)を満たすように金型キャビティ容積をV1に拡大した後、(C)該隔壁を0.1〜100mm/秒で移動させて、以
下に示す関係式(2)を満たすように金型キャビティ容積をV2に縮小することを特徴と
する。
【0009】
1=a×V0 ・・・(1)
式(1)中、aは1.1〜2.5の範囲にある。
2=b×V1 ・・・(2)
式(2)中、bは0.91〜0.99の範囲にある。
【0010】
本発明においては、金型キャビティ内に溶融樹脂の流動先端の会合部近傍に板厚を変化させる形状または立壁を具備する金型を用いることが好ましい。これにより、金型キャビティ容積を拡大する際に、金型キャビティ内の溶融樹脂に付与される流動を増加させることができるからである。
【0011】
本発明に係る前記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の発泡成形体の製造方法によれば、射出成形において成形体表面に発生する一次ウェルドのみならず二次ウェルドの発生が防止された、外観が良好な発泡成形体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の発泡成形体の製造方法は、(A)発泡剤を含む熱可塑性樹脂を溶融して、該溶融樹脂の少なくとも2つの流動先端が会合する会合部を有する容積V0の金型キャビティ
内に射出し(射出工程)、(B)射出完了後3秒以内、好ましくは1〜3秒の間に金型キャビティを構成する隔壁を1〜50mm/秒、好ましくは5〜40mm/秒で移動を開始させて、以下に示す関係式(1)を満たすように金型キャビティ容積をV1に拡大した後
(容積拡大工程)、(C)容積拡大後好ましくは5秒以内、より好ましくは0〜3秒の間に該隔壁を0.1〜100mm/秒、好ましくは1〜60mm/秒で移動を開始させて、以下に示す関係式(2)を満たすように金型キャビティ容積をV2に縮小する(容積縮小
工程)ことを特徴とする。
【0014】
1=a×V0 ・・・(1)
式(1)中、aは1.1〜2.5、好ましくは1.1〜2.0の範囲にある。
2=b×V1 ・・・(2)
式(2)中、bは0.91〜0.99、好ましくは0.95〜0.99の範囲にある。
【0015】
また、本発明の発泡体の製造方法では、金型として、金型キャビティ内の溶融樹脂の流動先端の会合部近傍において、板厚を変化させる形状または立壁を具備する金型を用い、金型キャビティ容積を拡大する際に、金型キャビティ内の溶融樹脂に流動を付与することにより、よりウェルドの発生が抑制された発泡成形体を得ることができる。なお、本発明において、立壁とは容積拡大のために金型キャビティ壁面を移動させる方向により近い向きに成形体の壁面が向いている面のことである。
【0016】
本発明に用いる金型としては、先に述べたように複数のゲートや開口部を持つ場合に、金型キャビティ内の溶融樹脂の会合部およびその近傍(成形体表面に線上の膨らみが発生する傍)において、板厚を変化させたり、立壁部を持たせる構造を具備する金型が望ましい。またパーティング部は、固定型と可動型とが嵌合部で摺動することにより金型キャビティの容積を変化させることができるシェアエッジ構造を持つ金型を使用してもよいし、一般的な突き当て式のパーティング部を持つ金型を使用してもよい。突き当て式のパーティング部を持つ金型を使用する場合は、成形体の端部を構成する部分においては薄肉部分を作り固化を促進させる構造をもつことが望ましく、可動型を移動させた場合にも樹脂漏れを発生しない構造とする必要がある。
【0017】
<熱可塑性樹脂>
本発明の発泡成形体の製造方法に用いる熱可塑性樹脂としては、種々公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ1−ブテン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン・2,6−ナフタレート、ポリカーボネートなどのポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などのポリアミド樹脂;ポリオキシメチレン、ポリフェニレンエーテルなどのポリエーテル樹脂;ポリ塩化ビニル;ポリスチレン、ABS、AESなどのスチレン系樹脂;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・メタクリル酸エステル共重合体、アイオノマー共重合体などのエチレン・不飽和カルボン酸(エステル)共重合体などがあげられる。これら熱可塑性樹脂は1種でも2種以上の組成物であってもよい。また、熱可塑性樹脂の分子量は射出成形が可能である限り特に限定はされない。
【0018】
これら熱可塑性樹脂の中ではポリオレフィン樹脂が好ましく、コストパフォーマンス、機械的強度、成形性の観点からポリエチレン樹脂およびポリプロピレン樹脂がさらに好ましく、ポリプロピレン樹脂が特に好ましい。
【0019】
ポリエチレン樹脂としては、高圧法低密度ポリエチレン(HP−LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、または高密度ポリエチレン(HDPE)のいずれも好ましく使用できる。
【0020】
また、ポリプロピレン樹脂としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンと少量のエチレン、1−ブテンなどのα−オレフィンとのランダム共重合体、プロピレンの単独重合体またはランダム共重合体と非晶性または低結晶性のエチレン・プロピレン共重合体(製造条件によっては、少量のポリエチレンを含む)とからなるブロック共重合体のいずれも
好ましく使用できる。
【0021】
<発泡剤>
本発明において添加される発泡剤は、金型キャビティ容積拡大時の樹脂補填、および冷却に伴い収縮する樹脂補填を行う機能と、発泡に伴う成形体内部の圧力上昇によってキャビティと樹脂との接触圧力を向上させる機能を持つ。さらに、発泡に伴う剛性向上効果による樹脂板厚を薄肉化する効果や成形体を軽量化する効果を併せ持つ。
【0022】
本発明に用いる発泡剤は公知の各種発泡剤が使用できる。発泡剤は溶剤型発泡剤、分解型発泡剤、または物理発泡剤のいずれであってもよい。
溶剤型発泡剤は、射出成形機のホッパーまたはシリンダ部分から一般に注入され、溶融させた上記熱可塑性樹脂に吸収もしくは溶解して、その後金型キャビティ中で蒸発して発泡剤として機能する物質である。具体的には、プロパン、ブタン、ネオペンタン、ヘプタン、イソヘキサン、ヘキサン、イソヘプタン、ヘプタンなどの低沸点の脂肪族炭化水素や、フロンガスで代表される低沸点のフッ素含有炭化水素などが使用できる。
【0023】
分解型発泡剤は、上記熱可塑性樹脂に予め配合してから射出成形機へと供給し、射出成形機のシリンダ温度条件下で分解して、炭酸ガス、窒素ガスなどの気体を発生する化合物である。分解型発泡剤としては、無機系の発泡剤であってもよいし有機系の発泡剤であってもよく、また気体の発生を促すクエン酸のような有機酸やクエン酸ナトリウムのような有機酸金属塩などを発泡助剤として併用添加してもよい。
【0024】
分解型発泡剤の具体例として、次の化合物を挙げることができる。
(i)無機系発泡剤:重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウム
(ii)有機系発泡剤:
(a)N−ニトロソ化合物:N,N’−ジニトロソテレフタルアミド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン40
(b)アゾ化合物:アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾシクロヘキシルニトリル、アゾジアミノベンゼン、バリウムアゾジカルボキシレート
(c)スルフォニルヒドラジド化合物:ベンゼンスルフォニルヒドラジド、トルエンスルフォニルヒドラジド、p,p’−オキシビス(ベンゼンスルフォニルヒドラジド)、ジフェニルスルフォン−3,3’−ジスルフォニルヒドラジド
(d)アジド化合物:カルシウムアジド、4,4’−ジフェニルジスルフォニルアジド、p−トルエンスルフォニルアジド。
【0025】
物理発泡剤としては、通常の物理発泡剤であれば特に問題なく、二酸化炭素、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオンなどの不活性ガスを用いることができる。これらの中では、安価で、環境汚染、火災の危険性が極めて少ない二酸化炭素、窒素、アルゴンがもっとも優れている。また、物理発泡剤は、液体状態、超臨界状態、および気体状態のいずれも使用可能である。
【0026】
これらの発泡剤は、1種単独で用いてもよく、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。そして、発泡剤は、上記熱可塑性樹脂に予め配合しておくこともできるし、射出成形する際にシリンダの途中から注入することもできる。また、上記発泡剤と発泡助剤などとを予め配合してマスターバッチを作っておき、それを熱可塑性樹脂に配合してもよい。
【0027】
発泡剤の添加量は、発泡成形体の要求物性に応じて、発泡剤からの発生ガス量および望ましい発泡倍率などを考慮して選択されるが、上記熱可塑性樹脂100重量部に対して、
通常0.1〜6重量部、好ましくは0.5〜3重量部の範囲にある。発泡剤の含有量が前記範囲にあると、気泡径が揃い、かつ気泡が均一分散し、しかも外観も平滑な発泡成形体を得ることができる。
【0028】
<その他添加剤など>
本発明の発泡成形体に用いる材料としては、上記熱可塑性樹脂および発泡剤に加え、本発明の目的を損なわない範囲で、発泡成形体の用途により、種々公知のゴム・エラストマー、無機充填剤、および添加剤などを加えてもよい。
【0029】
ゴム・エラストマーとしては、具体的には、ポリブチレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、天然ゴム、熱可塑性ポリウレタン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−ブテンゴム、エチレン−オクテンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、クロロプレンゴムなどが挙げられる。
【0030】
無機充填剤としては、タルク、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維、ガラスビーズ、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、ワラスナイト、ケイ酸カルシウム繊維、炭素繊維、マグネシウムオキシサルフェート繊維、チタン酸カリウム繊維、酸化チタン、亜硫酸カルシウム、ホワイトカーボン、クレー、硫酸カルシウムなどが挙げられる。これらの無機充填剤は、1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0031】
添加剤としては、核剤、酸化防止剤、塩酸吸収剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料、分散剤、銅害防止剤、中和剤、可塑剤、気泡防止剤、架橋剤、過酸化物などの流れ性改良剤、ウェルド強度改良剤、天然油、合成油、ワックスなどの公知の添加剤が挙げられる。
【0032】
<射出成形機>
本発明で使用する射出成形機は、通常の射出成形機であれば特に限定されないが、高速射出が可能な成形機が望ましく、射出率としては、通常400cc/秒以上、好ましくは600cc/秒以上、さらに好ましくは800cc/秒以上で射出可能な成形機を用いる。
【0033】
なお射出率とは、射出成形機が射出可能な能力を示す指標として一般的に用いられる指標であり、1秒間に成形機が射出可能な容積(cc/秒)で表される。この射出率を用いると射出成形機の大きさや種類が異なっても、成形機が金型キャビティ内に射出する樹脂の速度を規定することができる。
【0034】
次に、射出完了後3秒以内、好ましくは1〜3秒の間に金型キャビティを構成する隔壁の移動を開始させて、金型キャビティ容積を上記式(1)を満たすように拡大させることが必要である。金型キャビティ容積を拡大させる方法としては、可動型をキャビティ容積が広がる方向に移動させる方法、または可動型を移動させずに金型内部の可動スライドコアを移動させることでキャビティ容積を拡大する方法などを用いることができる。これらの金型キャビティ容積を拡大する方法の中では、可動型を移動させる方法が好ましい。また、射出完了直後から3秒を越えた後に金型キャビティ容積の拡大を開始させた場合は、得られる発泡成形体に発泡不良が生じやすくなるため好ましくない。
【0035】
また、容積拡大工程において、可動金型または可動スライドコアが移動開始してから移動完了までに要する時間は、0.1〜5秒であることが好ましく、0.1〜2秒であることがより好ましい。
【0036】
次に、容積拡大工程後好ましくは5秒以内、より好ましくは0〜3秒の間に金型キャビティを構成する隔壁の移動を開始させて、金型キャビティ容積を上記式(2)を満たすように縮小させることが必要である。この容積縮小工程を実施することにより、発泡成形体表面の平滑性が改善される。金型キャビティ容積を縮小させる方法としては、上記と同様の方法を採用することができる。
【0037】
また、容積縮小工程において、可動金型または可動スライドコアが移動開始してから移動完了までに要する時間は、0.01〜9秒であることが好ましく、0.1〜5秒であることがより好ましい。
【0038】
本発明の発泡成形体の製造方法では、発泡剤を含んだ熱可塑性樹脂を金型キャビティ内に射出した後、特定の時間内にキャビティ容積を変化させて成形することによって、発泡成形体の外観を大きく低下させる二次ウェルド部に発生する線状の膨らみを防止することが可能となる。また、金型形状を工夫したことにより、金型キャビティ内の溶融樹脂に流動を起こさせ、この流動によって溶融樹脂の会合部における樹脂配向が乱され、かつ射出成形された溶融樹脂が金型キャビティ内で発泡することに伴い成形体の体積が拡大され、成形体とキャビティ壁面との接触が促された結果、本発明の効果を発現したものと考えられる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー製:商品名 FX200S)100重量部に対し、重曹およびクエン酸の混合物を発泡剤成分が0.9重量部となるようにポリプロピレン樹脂と発泡剤マスターバッチとをドライブレンドした後、以下に記す条件で射出成形して発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の外観を以下の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0040】
成形条件は次の通りであった。
射出成形機:宇部興産機械(株)製、MD850S−III型
発泡成形体サイズ:図1に示す開口部3を有する縦80cm、横50cm、厚さ2.2mmの平板が得られる金型キャビティを有する金型を用いて、ゲート部2から発泡剤を含む溶融した熱可塑性樹脂を射出し、得られた発泡成形体の開口部3の後方に生じる一次ウェルド4および二次ウェルド5の発生状況を目視で評価した。評価基準は以下の通りである。
【0041】
○:ウェルドが全く認められない。
△:ウェルドがわずかに認められる。
×:ウェルドがくっきりと認められる。
【0042】
ゲート構造:バブルゲート、
成形体中央1点ゲート
射出温度:190℃
射出時間:1.5秒(射出開始から原料の全量を射出し終わるまでの時間)
射出完了直後から隔壁移動を開始するまでの遅延時間:2.0秒
キャビティ容積拡大完了直後から隔壁移動を開始するまでの遅延時間:3.5秒
金型表面温度:50℃
初期金型クリアランス(L0):2.2mm
キャビティ容積拡大後の金型クリアランス(L1):3.2mm
キャビティ容積縮小後の金型クリアランス(L2):3.1mm
0からL1への隔壁移動速度:20mm/秒
1からL2への隔壁移動速度:2mm/秒
[実施例2]
実施例1において、L2を3.0mmにする以外は実施例1と同様に行い、発泡成形体
を射出成形した。得られた発泡成形体の評価結果を表1に示す。
【0043】
[実施例3]
実施例1において、射出完了後の遅延時間を0.5秒、L1を4.5mm、L2を4.4mmにする以外は実施例1と同様に行い、発泡成形体を射出成形した。得られた発泡成形体の評価結果を表1に示す。
【0044】
[実施例4]
実施例2で用いた金型に換えて、図4に示す発泡成形体の片側に立壁1bを設置した金型を用いる以外は実施例2と同様に行い、発泡成形体を射出成形した。得られた発泡成形体の評価結果を表1に示す。
【0045】
[比較例1]
実施例1で用いたポリプロピレン樹脂に発泡剤成分を加えずに、かつ隔壁移動を行わない以外は実施例1と同様に行い、発泡成形体を射出成形した。得られた発泡成形体の評価結果を表1に示す。
【0046】
[比較例2]
実施例2において、射出完了直後から隔壁移動を開始するまでの遅延時間を4秒にする以外は実施例2と同様に行い、発泡成形体を射出成形した。得られた発泡成形体の評価結果を表1に示す。
【0047】
[比較例3]
実施例1において、キャビティ容積拡大終了後に、容積縮小のための隔壁移動を行わない以外は実施例1と同様に行い、発泡成形体を射出成形した。得られた発泡成形体の評価結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1で用いた発泡成形体の平面図を示す。
【図2】実施例1で用いた金型端部の断面形状を示す。
【図3】本発明に係るキャビティ容積を拡大した時の金型端部と発泡成形体端部の形状を示す。
【図4】実施例4で用いた発泡成形体の平面図を示す。
【図5】実施例4の金型立壁部の断面形状を示す。
【図6】本発明に係るキャビティ容積を拡大した時の金型立壁部と発泡成形体の立壁部形状を示す。
【符号の説明】
【0050】
1 金型キャビティ形状(平板)
1a 金型キャビティ形状(平面部)
1b 金型キャビティ形状(立壁部)
2 ゲート
3 開口部
4 一次ウェルド
5 二次ウェルド
6 固定金型
7 可動金型(立壁無)
8 可動金型(立壁有)
9 発泡成形体(平板)
10 立壁付発泡成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)発泡剤を含む熱可塑性樹脂を溶融して、該溶融樹脂の少なくとも2つの流動先端が会合する会合部を有する容積V0の金型キャビティ内に射出し、
(B)射出完了後3秒以内に金型キャビティを構成する隔壁を1〜50mm/秒で移動を開始させて、以下に示す関係式(1)を満たすように金型キャビティ容積をV1に拡大
した後、
(C)該隔壁を0.1〜100mm/秒で移動させて、以下に示す関係式(2)を満たすように金型キャビティ容積をV2に縮小する
ことを特徴とする発泡成形体の製造方法。
1=a×V0 ・・・(1)
[式(1)中、aは1.1〜2.5の範囲にある。]
2=b×V1 ・・・(2)
[式(2)中、bは0.91〜0.99の範囲にある。]
【請求項2】
金型キャビティ内に溶融樹脂の流動先端の会合部近傍に板厚を変化させる形状または立壁を具備する金型を用いることにより、金型キャビティ容積を拡大する際に、金型キャビティ内の溶融樹脂に流動を付与することを特徴とする請求項1に記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の発泡成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−208299(P2009−208299A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52033(P2008−52033)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【Fターム(参考)】