説明

発泡散布装置

【課題】ドリフトの影響を受けることなく、対象物へ所定量の薬剤や肥料を確実に散布すること。
【解決手段】薬剤および肥料を発泡させて発泡状態にて対象物に散布する発泡散布装置10であって、界面活性剤水溶液に薬剤および肥料のいずれか一方もしくは双方を混合した発泡剤溶液11を貯留するための発泡槽16を有するタンク15と、発泡槽16内に貯留される発泡剤溶液11内に圧縮空気を供給するためのコンプレッサ24と、コンプレッサ24に接続されると共に発泡槽16に配置され、発泡剤溶液11に漬かるように小径の穴31が複数設けられた散気管30と、を備え、コンプレッサ24から散気管30を通じて圧縮空気を発泡剤溶液11に供給すると、発泡剤溶液11が発泡して泡が生成され、この生成された泡が、後に生成される泡によって押し出されることにより、タンク15の出口部34から外側に排出されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶葉、露地・施設栽培における野菜、果実またはゴルフ場の芝生もしくは低木等に薬剤、肥料を発泡させて散布するための発泡散布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、農作物における病害虫を防除するためには、噴霧ノズルを用いて薬液を散布している。しかしながら、近年、農薬取締法の安全使用基準が見直され、残留農薬についてポジティブリスト制度が導入された。このポジティブリスト制度の導入により、残留値の基準が設定されていない農薬に対しても、当該農薬が一定量以上含まれている食品の流通が規制されることになった。この農薬の残留には、散布農薬のドリフトが大きな原因となっており、風によるドリフトの恐れのない薬剤散布方法が要望されている。
【0003】
特許文献1には、茶木列の上方に薬液が供給されるノズル管を配置させ、該ノズル管に設けられた複数の噴霧ノズルから茶木列に向かって薬液を噴霧する薬液散布管装置が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−210597号公報(図1〜図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている薬液散布管装置では、噴霧ノズルから薬液を噴霧させて、茶木列に薬剤を散布させている。このように噴霧ノズルから噴霧される薬液は、その粒子が小さいため、風の影響を受けやすく、ドリフトによって防除対象以外の場所にまで到達してしまう。その結果、収穫物に必要以上の薬剤が残留してしまうといった問題が発生する。
【0006】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ドリフトの影響を受けることなく、対象物へ所定量の薬剤や肥料を確実に散布することが可能な発泡散布装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、薬剤および肥料を発泡させて発泡状態にて対象物に散布する発泡散布装置であって、界面活性剤水溶液に薬剤および肥料のいずれか一方もしくは双方を混合した発泡剤溶液を貯留するための発泡槽を有するタンクと、発泡槽内に貯留される発泡剤溶液内に圧縮空気を供給するためのコンプレッサと、コンプレッサに接続されると共に発泡槽に配置され、発泡剤溶液に漬かるように小径の穴が複数設けられた散気管と、を備え、コンプレッサから散気管を通じて圧縮空気を発泡剤溶液に供給すると、発泡剤溶液が発泡して泡が生成され、この生成された泡が、後に生成される泡によって押し出されることにより、タンクの出口部から外側に排出されるものである。
【0008】
このように構成した場合には、薬剤や肥料を発泡状態で出口部から排出させることができるため、薬剤や肥料を泡の形態で対象物に散布させることが可能となる。したがって、薬剤や肥料を噴霧させる場合と比較して、散布粒子が大きくなり、ドリフトの影響を受けにくくなる。その結果、対象物へ薬剤や肥料を確実に散布させることが可能となる。また、後から生成される泡によって、すでにタンクに充満した泡を押し出すことで、当該泡を出口部から排出させる構成を有するため、装置構成の単純化を図ることが可能となる。また、発泡槽に配置される散気管には複数の小径の穴が設けられているため、当該穴から発泡剤溶液に向かって圧縮空気を勢い良く供給することができる。このため、短時間で効率良く、大容量の泡を生成することが可能となる。その結果、薬剤や肥料の散布粒子が大きくなり、ドリフトの影響をより受けにくくなる。
【0009】
また、他の発明は、上述の発明に加えて更に、タンクは、発泡槽で生成された泡を収容する泡回収槽と、発泡槽と泡回収槽とを連通する連通部と、を有し、出口部が泡回収槽に設けられ、コンプレッサからの圧縮空気が発泡槽内の発泡剤溶液に供給されると、発泡槽内で泡が生成され、この生成された泡が、後に生成される泡によって押し出されることにより、連通部を介して発泡槽から泡回収槽に移行して該泡回収槽に収容され、その後、泡回収槽の出口部から外側に泡が排出されるものである。
【0010】
このように構成した場合には、発泡槽で生成した泡を泡回収槽に、一旦、収容してから散布させることが可能となる。したがって、泡回収槽にて泡の形態を整えてから、泡を外部に排出させることが可能となる。また、後から生成される泡によって、すでに発泡槽および泡回収槽に充満した泡を押し出すことによって、泡を出口部から排出させる構成を有するため、装置構成の単純化を図ることが可能となる。
【0011】
さらに、他の発明は、上述の発明に加えて更に、出口部は扁平な略四角形の形態を有しており、出口部の上端部近傍には、当該出口部から排出される泡を下方に導くための樹脂製のシートからなる庇部材が設けられているものである。
【0012】
このように構成した場合には、出口部は扁平な略四角形の形態を有しているため、出口部の長さ方向に渡って薬剤や肥料を散布させることが可能となる。また、樹脂製のシートからなる庇部材を設けることにより、泡を破壊することなく、出口部から均一に該泡を排出させることが可能となる。
【0013】
また、他の発明は、上述の発明に加えて更に、出口部の下端部近傍には、当該出口部近傍から垂下する樹脂製のシートからなる暖簾部材が設けられ、該暖簾部材における下端部の複数の位置からは上方に向かって複数の切り込みが形成されているものである。
【0014】
このように構成した場合には、出口部から排出される泡を、暖簾部材を伝って対象物に確実に導くことが可能となる。また、暖簾部材には複数の切り込みが設けられているため、排出された泡が暖簾部材の中央に寄ることがなくなり、広範囲に渡って均一にいき渡ることになる。したがって、薬剤や肥料を広範囲に渡って均一かつ確実に散布させることが可能となる。
【0015】
さらに、他の発明は、上述の発明に加えて更に、泡回収槽における出口部よりも下方の位置には網目を有する網状体が張られているものである。
【0016】
このように構成した場合には、生成した泡を網状体の上に配置させておくことが可能となり、泡に付着した溶液を当該網状体によって除去することが可能となる。したがって、余分な溶液を回収することができ、溶液の使用量を減少させることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、ドリフトの影響を受けることなく、対象物へ所定量の薬剤や肥料を確実に散布することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態に係る発泡散布装置10について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、図1〜8に示す矢示X方向を前、矢示X方向を後、このX方向とX方向と水平方向で直交する方向となる矢示Y方向を左、矢示Y方向を右、このXY平面と直交する方向の矢示Z方向を上および矢示Z方向を下とそれぞれ規定する。
【0019】
図1は、本発明の一実施の形態に係る発泡散布装置10を台車12の上に載置した状態を斜め前方から見た斜視図である。図2は、本発明の一実施の形態に係る発泡散布装置10を台車12の上に載置した状態を斜め後方から見た斜視図である。図3は、図1中の発泡散布装置10を右方向から見た側面図である。図4は図1中の発泡散布装置10から蓋部材23を取り外して上方から見た平面図である。
【0020】
発泡散布装置10は、界面活性剤水溶液に薬剤や肥料が混合された発泡剤溶液11(図3等を参照)を発泡させて、当該薬剤や肥料を発泡状態で茶葉や野菜等の対象物に散布する装置である。本実施の形態では、発泡散布装置10を4輪の台車12に載置させ、茶畝13に農薬を散布する場合を例として説明する。図1および図2に示すように、発泡散布装置10は台車12の載置台14上に載置される。また、台車12は、左右の2対の車輪12aによって茶畝13を挟むように配置される。そして、台車12を茶畝13に沿って(X−X方向に沿って)走行させながら発泡散布装置10から茶畝13に向かって発泡状態で農薬を散布する。
【0021】
図1から図4に示すように、発泡散布装置10は、前後方向に2つに区分された略箱型形状を呈するタンク15を有する。タンク15は、図3に示すように、発泡剤溶液11が貯留されると共に該発泡剤溶液11を発泡させて泡19(図3を参照)を生成するための発泡槽16と、発泡した泡19を貯留しておく泡回収槽17と、タンク15の上槽部において発泡槽16と泡回収槽17とを連通する連通部18を有する。図1に示すように、発泡槽16と泡回収槽17とは、それらの間に上方に向かって切り込まれた隙間20が形成されることによって前後に区分されている。また、タンク15の前方かつ上方には、側面からみて略L字状に切り欠かれた段差部21が形成されている。また、タンク15の後方には、後端側の外周部が略コ字状に一段低く形成された後方段差部22が形成されている。このため、連通部18は後方に向かって凸状に突出した形態を有している。
【0022】
また、連通部18の上方には、開閉可能な蓋部材23が設けられている。蓋部材23も、上から見て、後方に向かって凸状に突出した形態を有している。この蓋部材23を取り外すと、タンク15の上方は開口状態となる。なお、タンク15の材料は、発泡剤溶液11によって変質しないものであれば良く、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート等の合成樹脂、ステンレス等の金属を好適に用いることができる。
【0023】
発泡槽16は、上方に開口した略直方体形状を有し、その内部に発泡剤溶液11を貯留可能な構造を有する。本実施の形態では、発泡剤溶液11に混合されている界面活性剤として、シュガーエステルが採用されている。なお、界面活性剤は、シュガーエステルに限定されるものではなく、例えば、ヤシノミ洗剤、グリセリン脂肪酸エステル、ノニオン性界面活性剤もしくはアニオン性界面活性剤等の他の種類の界面活性剤を用途に応じて選択することができる。
【0024】
また、図2等に示すように、発泡槽16の後方には、発泡槽16の内部に圧縮空気を供給するためのコンプレッサ24が配設されている。コンプレッサ24の右上方からは、管状部材を接続可能とする略筒形状の形態を有する接続部24aがY方向に向かって突出している。該接続部24aには、右方に向かって伸びた後に上方に折れ曲がり、さらに前方に折れ曲がった曲状管25が接続されている。図1に示すように、曲状管25の他端25aは閉塞されており、該曲状管25において前方に折れ曲がった部分には、斜め下方に向かって分岐する3個の分岐部26が設けられている。
【0025】
また、発泡槽16の側面における下方の3箇所の位置には、各分岐部26に対応するように略L字状のL字継手27が配設されている。これらのL字継手27は発泡槽16の内側と連通するように配設さている。そして、各分岐部26と各L字継手27との間は、管状のチューブ28によって接続されている。このように、曲状管25とL字継手27はチューブ28を介して連通した状態となっている。チューブ28としては、ポリ塩化ビニル等からなる柔軟なチューブを好適に用いることができる。
【0026】
また、図4に示すように、発泡槽16の内部における底部近傍には、左方向に伸びる3本の散気管30が敷設されている。各散気管30の一端は各L字継手27に接続されており、その他端30aは閉塞されている。また、各散気管30の側面には、該散気管30を上下方向に貫通する直径1mmの円形の穴31が左右方向に沿って多数(例えば、各散気管30に160個)設けられている。発泡剤溶液11は、その液面が散気管30よりも高い位置となるように発泡槽16内に貯留される。散気管30は、ポリ塩化ビニルによって形成されているが、散気管30をポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンや、ポリカーボネート等の合成樹脂、ステンレス等の金属から形成するようにしても良い。
【0027】
このような構成により、コンプレッサ24から圧送された空気は曲状管25、チューブ28、L字継手27の内部を順次通過して散気管30内に到達し、散気管30に設けられた穴31から発泡剤溶液11内に供給される。穴31は直径1mmの小径の穴であるため、散気管30内到達した空気は穴31から発泡剤溶液11内に勢い良く噴出する。このため、発泡剤溶液11は穴31から供給される空気によって泡化して発泡状態となる。
【0028】
泡回収槽17は、図2に示すように、隙間20を挟んで発泡槽16の前方に設けられると共に、上方に開口した略直方体形状の槽である。上述したように、発泡槽16と泡回収槽17はこれらの上方において連通部18を介して連通している。このため、生成された泡19が発泡槽16内に充満すると、後に生成される泡19によって、該発泡槽16に充満している泡19が連通部18に向かって徐々に押し出される。そして、この押し出された泡19が連通部18を通って泡回収槽17に移行し、泡回収槽17に収容される。また、泡回収槽17の開口部の所定高さには、XY平面と平行となるように網目を有する網状体32が張られている(図4等を参照)。このため、泡回収槽17における網状体32の上方に発泡槽16から移行してきた泡19が貯留し、泡19に付着している余分な発泡剤溶液11が網状体32から泡回収槽17の底部に向かって落下する。
【0029】
このように、網状体32によって余分な発泡剤溶液11を除去することにより、泡19のみを外部に供給することが可能となる。また、発泡槽16および泡回収槽17の右側下方には、略U字状の形態を有する連通管33の一端および他端がそれぞれ接続されている。この連通管33により発泡槽16と泡回収槽17とが連通状態となっているため、網状体32によって除去された発泡剤溶液11が泡回収槽17に貯まっていくと、その自重により発泡槽16へと移動していき、該発泡槽16内に貯留される。
【0030】
また、図1に示すように、泡回収槽17の前方かつ上方には、扁平な略四角形の形態で開口する出口部34が設けられている。この出口部34の左右および下方の縁部からは略U字状の形態で前方に向かって延出する鍔部35が設けられている。鍔部35は、出口部34の左右のそれぞれの縁部から前方に延出する左鍔部35aおよび右鍔部35bと、出口部34の下縁部から前方に延出する下鍔部35cとを有している。また、鍔部35の上方には、曲面状の形態を有する庇部材36が設けられている。庇部材36は、ポリ塩化ビニルから成る柔軟性を有する樹脂シートを湾曲させることによって形成されている。なお、庇部材36の材料は、柔軟性を有するものならばポリ塩化ビニルからなる樹脂シートに限定されるものではない。この庇部材36は、出口部34の前方を覆い、かつ左鍔部35aと右鍔部35bの間に納まる形で、段差部21上に固定されている。また、下鍔部35cと庇部材36の先端部36aとの間には所定の間隔を有する隙間が形成されている。
【0031】
さらに、下鍔部35cからは暖簾状の暖簾部材37が垂れ下がっている。暖簾部材37は、ポリ塩化ビニルから成る柔軟性を有する平面状の樹脂シートによって形成されている。また、暖簾部材37には、その下端部37aから上方に向かって複数の切り込み38が形成されている。この切り込み38は左右方向に向かって5cmおきに形成されている。なお、隣接する切り込み38同士の間隔は、5cmに限定されるものではなく、他の寸法としても良い。また、切り込み38の代わりに、下端部37aから上方に向かって、例えば、左右に1cm等の所定の幅を有する複数の切り欠きを設けるようにしても良い。暖簾部材37は、下端部37aと散布対象物である茶畝13の天面部との間の寸法Hが5cmとなるような長さ寸法に形成するのが好ましい。
【0032】
このように、出口部34近傍には、鍔部35、庇部材36および暖簾部材37が設けられているため、出口部34から排出される泡19は、鍔部35と庇部材36によって暖簾部材37の方向に導かれ、暖簾部材37の前面37bを伝って下方の茶畝13に向かって流下してゆく。ここで、庇部材36は、柔軟性を有する樹脂シートから形成されているため、出口部34から排出された泡19が庇部材36にぶつかって破壊されることがなくなり、整った形態の泡19が暖簾部材37に導かれることになる。また、暖簾部材37には複数の切り込み38が設けられているため、暖簾部材37を流れる泡19が当該暖簾部材37の中央に寄ることがなくなり、広範囲に渡って均一にいき渡る。
【0033】
次に、発泡散布装置10の動作について説明する。
【0034】
図5は、発泡散布装置10の動作を説明するための図であり、発泡剤溶液11が泡化し始めた状態を示す発泡散布装置10の側断面図である。図6は、発泡散布装置10の動作を説明するための図であり、泡19が発泡槽16に充満し、連通部18を通って泡回収槽17に移動し始めている状態を示す発泡散布装置10の側断面図である。図7は、発泡散布装置10の動作を説明するための図であり、泡19が泡回収槽17に収容されている状態を示す発泡散布装置10の側断面図である。図8は、発泡散布装置10の動作を説明するための図であり、泡19が泡回収槽17の出口部34から排出されている状態を示す発泡散布装置10の側断面図である。
【0035】
コンプレッサ24の電源をONにすると、コンプレッサ24からの圧縮空気が曲状管25に向かって送り込まれる。曲状管25に送り込まれた圧縮空気は分岐部26で分岐してチューブ28を通り、L字継手27を介して3つの各散気管30に到達する。散気管30に送り込まれた圧縮空気は、穴31から発泡剤溶液11内に勢い良く噴出する。発泡剤溶液11は穴31から噴出した空気の圧力を受けて発泡し、泡19が生成される(図5を参照)。
【0036】
コンプレッサ24から発泡剤溶液11に圧縮空気が送り込まれ続けると、発泡剤溶液11は泡化し続け、泡19が発泡槽16内に充満する。さらに、泡19が生成され続けると、生成された泡19によって発泡槽16に充満していた泡19が連通部18に押し出され、泡回収槽17に向かって移行していく(図6を参照)。そして、押し出された泡19は連通部18を通って泡回収槽17に入り込み、網状体32の上に収容される。このため、泡19に余分に付着している発泡剤溶液11が当該網状体32の網目から、泡回収槽17の底部に向かって流下する(図7を参照)。網状体32によって発泡剤溶液11が泡19と分離されることにより、泡19のみが泡回収槽17に収容されることになる。
【0037】
さらに、泡19が生成され続けると、発泡槽16および泡回収槽17の双方に泡19が充満する。この状態で泡19が生成され続けると、泡回収槽17に収容されている泡19が生成された泡19によって押し出されて、出口部34から外部へと排出される。出口部34から排出された泡19は庇部材36および鍔部35によって暖簾部材37の方向に導かれる。なお、泡19が出口部34から排出される際には、庇部材36は排出される泡19によって若干上方に押し上げられる(図8を参照)。暖簾部材37に導かれた泡19は、暖簾部材37の前面37bを伝って、暖簾部材37の下端部37aに向かって流下してゆく(図8を参照)。その後、泡19は暖簾部材37から離れ、茶畝13の上に散布される。
【0038】
なお、網状体32によって泡19と分離された発泡剤溶液11が泡回収槽17に貯まり、その液面が連通管33の高さまで到達すると、発泡剤溶液11は自身の自重により発泡槽16に戻っていく。したがって、泡回収槽17における発泡剤溶液11の液面が連通管33の高さを超えると、発泡槽16および泡回収槽17における発泡剤溶液11の液面は同じ高さを維持する(図8を参照)。
【0039】
以上のように構成された発泡散布装置10では、農薬が発泡状態で出口部34から排出されるため、農薬を泡の形態で茶畝13に散布させることが可能となる。したがって、農薬を噴霧する場合と比較して、農薬の散布粒子が大きくなり、散布された農薬がドリフトの影響を受けにくくなる。したがって、対象となる茶畝13へ農薬を確実に散布させることが可能となる。その結果、対象となる部分以外の場所に農薬が散布されるのを防止でき、茶畝13に余分な農薬が残留するのを防止できる。また、発泡散布装置10は、後から生成される泡19によって、すでに発泡槽16および泡回収槽17に充満した泡19を押し出しすことによって、泡19を出口部34から排出させる構成を有するため、装置の構造の単純化を図ることが可能となる。
【0040】
また、発泡散布装置10では、発泡槽16には複数の穴31が設けられた散気管30が敷設されている。このため、穴31から発泡剤溶液11に向かって圧縮空気が勢い良く噴出する。このため、短時間で効率良く、大容量の泡19を生成することが可能となる。したがって、農薬の散布粒子が大きくなり、ドリフトの影響をより受けにくくなる。
【0041】
また、発泡散布装置10では、出口部34は扁平な略四角形の形態を有している。このため、広い範囲に渡って農薬を散布させることが可能となる。また、出口部34の前方にはポリ塩化ビニル製のシートから成る庇部材36が設けられている。したがって、泡19が庇部材36にぶつかって破壊されるのを防止できる。このため、出口部34から泡19を効率良く暖簾部材37に向かって排出させることが可能となる。
【0042】
また、発泡散布装置10では、出口部34にはポリ塩化ビニル製のシートからなる暖簾部材37が設けられている。このため、出口部34から排出された泡19を暖簾部材37を介して茶畝13に導くことが可能となる。また、暖簾部材37には複数の切り込み38が形成されているため、出口部34から排出された泡19が暖簾部材37の中央に寄ることがなくなり、出口部34の長さ方向に渡って均一にいき渡ることになる。したがって、農薬を広範囲に渡って確実に散布させることが可能となる。
【0043】
また、発泡散布装置10では、泡回収槽17には網目を有する網状体32が張られている。このため、生成した泡19を網状体32の上に配置させておくことが可能となり、泡19に付着した余分な発泡剤溶液11を当該網状体32によって除くことが可能となる。したがって、より少ない農薬を外部に散布することが可能となる。加えて、余分な発泡剤溶液11は泡回収槽17に貯留されるため、連通管33を介して、発泡剤溶液11を発泡槽16に回収することが可能となる。
【0044】
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明は上述の形態に限定されることなく、種々変形した形態にて実施可能である。
【0045】
上述の実施の形態では、発泡散布装置10は茶畝13に農薬を散布する場合に適用されているが、茶畝13に限定されるものではなく、例えば、野菜畝や果物畝、露地栽培や施設栽培されている野菜等もしくはゴルフ場の芝生や低木等、他の作物や樹木にも適用することが可能である。また、上述の実施の形態では、農薬を散布する場合を例としているが、散布するものは農薬に限定されるものではなく、肥料や殺虫剤等の他の成分を含んだ溶液を散布するようにしても良いし、農薬と肥料、もしくは殺虫剤と肥料を混合したりしてこれらを同時に散布するようにしても良い。
【0046】
また、上述の実施の形態では、下端部37aと散布対象物である茶畝13の天面部との間の寸法Hが5cmとなるように暖簾部材37を形成しているが、寸法Hは5cmに限定されるものではない。また、暖簾部材37を茶畝13と接触させるように形成しても良い。
【0047】
また、上述の実施の形態では、発泡槽16の内部に散気管30は3つ敷設されているが、敷設される散気管30の数は3つに限定されるものではなく、2つ以下としても良いし、4つ以上としても良い。散気管30に設けられる穴31の直径は1mmに限定されるものではない。また、穴31の数も160個に限定されるものではない。
【0048】
また、上述の実施の形態では、発泡散布装置10では、発泡槽16に発泡剤溶液11を供給するための溶液供給用タンクが設けられていないが、長時間、農薬を散布する場合には、発泡剤溶液11を発泡槽16に供給可能な溶液供給用タンクを、別途、設けるようにしても良い。また、このような溶液供給用タンクを、タンク15と一体として設けるようにしても良い。
【0049】
また、上述の実施の形態では、発泡散布装置10は台車12に1台のみ載置されているが、例えば、ゴルフ場や大きな農場等において一度に大量の農薬を散布することが必要とされる場合、幅の広い台車やキャタピラに発泡散布装置10を複数台並べて配置させることにより、より広範囲に渡って農薬を散布するようにしても良い。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。表1から表3に、実施例および比較例によって得られた結果をそれぞれ示す。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
(実施例)
図1等に示す構成の発泡散布装置において、界面活性剤としてヤシノミ洗剤を選び、ヤシノミ洗剤を500倍に希釈したものを発泡剤溶液として使用した。散気管として、内径13mm(VP13)の塩化ビニル管に直径1mmの穴を160個設けたものを発泡槽に3本敷設した。そして、100Lの泡が発生するまでの時間を測定した。また、発生した泡の20Lの重量を3回測定し、平均値を算出した。さらに、泡化率(g/L)、泡の作成量(L/s,L/mim)および溶液の消費量(g/min,L/min)を計算した。
【0055】
(比較例1)
図1等に示す構成の発泡散布装置において、上記実施例と同様、界面活性剤としてヤシノミ洗剤を選び、ヤシノミ洗剤を500倍に希釈したものを発泡剤溶液として使用した。散気管として、弾力性があるチューブ(ユニークパイプFA5000)を発泡槽に3本敷設した。そして、100Lの泡が発生するまでの時間を測定した。また、発生した泡の20Lの重量を3回測定した。さらに、上記実施例の場合と同様、泡化率(g/L)、泡の作成量(L/s,L/mim)および溶液の消費量(g/min,L/min)について計算した。
【0056】
(比較例2)
図1等に示す構成の発泡散布装置において、上記実施例と同様、界面活性剤としてヤシノミ洗剤を選び、ヤシノミ洗剤を500倍に希釈したものを発泡剤溶液として使用した。散気管として、内径13mm(VP13)の塩化ビニル管に厚さ2cmのスポンジシートを巻いたものを発泡槽に3本敷設した。さらに、上記実施例の場合と同様、泡化率(g/L)、泡の作成量(L/s,L/mim)および溶液の消費量(g/min,L/min)について計算した。
【0057】
表1から表3から明らかなように、上記実施例で得られた20L中の泡の重量が比較例1および比較例2で得られた泡の重量よりも軽いことが分かった。また、上記実施例における泡化率は、比較例1および比較例2のそれよりも小さいことがわかった。これらより、上記実施例で得られる泡の大きさは、比較例1および比較例2で得られる泡の大きさよりも大きいことがわかった。また、100Lの泡の製造時間の結果から、上記実施例では、比較例1および比較例2よりも短時間で泡を製造できることがわかった。また、泡の製造量の結果から、上記実施例では、比較例1および比較例2よりも単位時間あたりの泡の製造量が多いことがわかった。また、溶液の消費量の結果から、上記実施例では、比較例1および比較例2よりも溶液の消費量が少ないことがわかった。以上の結果より、泡の大きさ、泡の製造時間、泡の製造量および溶液の消費量のいずれの面を見ても、上記実施例が比較例1および比較例2より優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の発泡散布装置は、茶葉の栽培、露地・施設栽培等による野菜や果物等の栽培またはゴルフ場の芝生や低木の手入れにおいて利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施の形態に係る発泡散布装置を台車の上に載置した状態を斜め前方から見た斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る発泡散布装置を台車の上に載置した状態を斜め後方から見た斜視図である。
【図3】図1中の発泡散布装置を右方向から見た側面図である。
【図4】図1中の発泡散布装置から蓋部材を取り外して上方から見た平面図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る発泡散布装置の動作を説明するための図であり、発泡剤溶液が泡化し始めた状態を示す発泡散布装置の側断面図である。
【図6】図5に続いて、本発明の一実施の形態に係る発泡散布装置の動作を説明するための図であり、泡が発泡槽に充満し、連通部を通って泡回収槽に移動し始めている状態を示す発泡散布装置の側断面図である。
【図7】図6に続いて、本発明の一実施の形態に係る発泡散布装置の動作を説明するための図であり、泡が泡回収槽に収容されている状態を示す発泡散布装置の側断面図である。
【図8】図7に続いて、本発明の一実施の形態に係る発泡散布装置の動作を説明するための図であり、泡が泡回収槽の出口部から排出されている状態を示す発泡散布装置の側断面図である。
【符号の説明】
【0060】
10…発泡散布装置
11…発泡剤溶液
15…タンク
16…発泡槽
17…泡回収槽
18…連通部
24…コンプレッサ
30…散気管
31…穴(小径の穴)
32…網状体
34…出口部
36…庇部材
37…暖簾部材
38…切り込み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤および肥料を発泡させて発泡状態にて対象物に散布する発泡散布装置であって、
界面活性剤水溶液に薬剤および肥料のいずれか一方もしくは双方を混合した発泡剤溶液を貯留するための発泡槽を有するタンクと、
上記発泡槽内に貯留される上記発泡剤溶液内に圧縮空気を供給するためのコンプレッサと、
上記コンプレッサに接続されると共に上記発泡槽に配置され、上記発泡剤溶液に漬かるように小径の穴が複数設けられた散気管と、
を備え、
上記コンプレッサから上記散気管を通じて上記圧縮空気を上記発泡剤溶液に供給すると、上記発泡剤溶液が発泡して泡が生成され、この生成された泡が、後に生成される泡によって押し出されることにより、上記タンクの出口部から外側に排出されることを特徴とする発泡散布装置。
【請求項2】
前記タンクは、前記発泡槽で生成された泡を収容する泡回収槽と、前記発泡槽と上記泡回収槽とを連通する連通部と、を有し、前記出口部が上記泡回収槽に設けられ、前記コンプレッサからの前記圧縮空気が前記発泡槽内の前記発泡剤溶液に供給されると、前記発泡槽内で泡が生成され、この生成された泡が、後に生成される泡によって押し出されることにより、上記連通部を介して前記発泡槽から上記泡回収槽に移行して該泡回収槽に収容され、その後、上記泡回収槽の上記出口部から外側に泡が排出されることを特徴とする請求項1記載の発泡散布装置。
【請求項3】
前記出口部は扁平な略四角形の形態を有しており、前記出口部の上端部近傍には、当該出口部から排出される泡を下方に導くための樹脂製のシートからなる庇部材が設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の発泡散布装置。
【請求項4】
前記出口部の下端部近傍には、当該出口部近傍から垂下する樹脂製のシートからなる暖簾部材が設けられ、該暖簾部材における下端部の複数の位置からは上方に向かって複数の切り込みが形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の発泡散布装置。
【請求項5】
前記泡回収槽における前記出口部よりも下方の位置には網目を有する網状体が張られていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の発泡散布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−22340(P2010−22340A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191342(P2008−191342)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(598161521)大阪府立大学 (1)
【出願人】(506335581)株式会社アワフル (2)
【出願人】(000250007)有光工業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】