説明

発泡樹脂組成物、その発泡方法及び発泡絶縁電線の製造方法

【課題】 本発明は、フッ素系オイルを展着剤として用いた発泡樹脂組成物を提供するものである。
【解決手段】 かゝる本発明は、発泡核剤の添加により発泡される熱可塑性樹脂、例えばFEP、PFAなどからなる発泡樹脂組成物であって、熱可塑性樹脂100質量部に対して、平均分子量が2700〜4500のフッ素系オイル、例えばポリパーフルオロプロピルエーテルを展着剤として0.05〜0.2質量%を添加して、発泡核剤の分散を促進させる発泡樹脂組成物にあり、このフッ素系オイルにより、窒化ホウ素などの発泡核剤を樹脂組成物中に均一に分散させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素系オイルを展着剤として用いた発泡樹脂組成物、その発泡方法及び発泡絶縁電線の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年種々の電子機器で使用される絶縁電線の場合、例えば高周波用の同軸ケーブルでは、使用周波数帯域がGHzオーダーに達している。GHz帯域では、低周波数帯域よりも減衰量の小さいケーブル特性が要求されるため、内部導体(中心導体)上に被覆される絶縁体にあっては、発泡形成することが行われている(特許文献1〜2)。
【特許文献1】特許3227091号
【特許文献2】特許2668198号
【0003】
この絶縁体としては、ポリエチレン系樹脂の他に、低誘電率で、軽量性、耐熱性、不燃性、無煙性などに優れている、熱可塑性フッ素系樹脂、例えばテトラフロロエチレン−ヘキサフロロプロピレン共重合体(FEP)やテトラフロロエチレン−パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)なども用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような絶縁体の発泡にあたっては、押出時の加熱により発泡する化学物質を樹脂コンパウンド中に充填させて行う化学発泡法や、押出時に外部から窒素ガスや炭酸ガスなどを樹脂コンパウンド中に導入させて行う物理発泡法が採用されている。
しかし、これらの方法のみでは、高発泡度で均一かつ微細な発泡絶縁体を得ることは困難な状況にある。
【0005】
このため、樹脂コンパウンド中に発泡の核となる物質、即ち、発泡核剤を予め添加して発泡を促進することが提案されている。例えば、物理発泡法において、発泡核剤として窒化ホウ素(BN)を使用することが知られている。窒化ホウ素の場合、熱可塑性フッ素系樹脂の押出温度付近において、熱的に安定で反応性が低く、優れた誘電特性を示すなどの利点が得られる。
【0006】
しかし、この窒化ホウ素のような発泡核剤を、発泡樹脂組成物中に均一に分散させること自体が結構難しいため、従来から、分散剤を添加して発泡核剤の分散の均一化を図ったり、或いは、発泡核剤の形状や表面特性を改質したり、ベース樹脂のペレット側に展着剤を入れたりすることが試みられている。
【0007】
ところが、分散剤には、誘電特性を悪化させるものもあったり、分散剤の混練が熱履歴として樹脂自体に悪影響を与えることがある。また、誘電特性が良好で発泡に適している発泡核剤であっても、その表面が不活性で改質が難しい場合が多かったり、さらに、改質のため形状やサイズを変えると目的とする特性が失われる場合もあった。
また、展着剤にあっても、用いるベース樹脂との関係で、具体的にどのような特性のものの使用が望ましいのかは不明であった。さらにまた、ベース樹脂として熱可塑性フッ素系樹脂を使用する場合、加工温度が樹脂分解温度に近いので、これに分散剤や展着剤を添加したとき、混練がスムーズに行えず、この混練による発熱などの熱履歴で樹脂が劣化して本来の特性が失われ易いというような問題もあった。
【0008】
このような状況下にあって、本発明者は、窒化ホウ素などの発泡核剤を用いて熱可塑性樹脂からなる発泡樹脂組成物を発泡させるにおいて、どのような特性の展着剤の使用が望ましいのか種々試験を行ったところ、ある特性のフッ素系オイルを使用すると、良好な結果が得られることを見い出した。
【0009】
つまり、フッ素系オイルの場合、耐熱性が高く(300℃程度)、平均分子量や動粘度を適当な範囲内に設定すれば、例えば、常温(20〜25℃)から成形機(押出機など)のホッパー温度付近で揮発し難く、かつ、成形機のフィード部分の温度と滞留期間内において揮発し易い特性のものを選べば、次のような利点が得られることが分かった。
(1)ベース樹脂ペレットに展着されたフッ素系オイルが成形機で混練されるまで離脱し難いこと、つまり、良好なオイルの展着が得られること、(2)発泡時にはスムーズに揮発するため、樹脂の発泡に対する悪影響が少ないこと、(3)成形機内でオイルがスムーズに流動するため、樹脂劣化の原因となる、焼き付きが起ったり、発泡樹脂中に残存することがないため、絶縁電線などの誘電特性を悪化さたりする懸念がないことなどが分かった。特にFEP、PFAなどの熱可塑性フッ素系樹脂との組み合わせにおいて好適であることも分かった。
また、上記同軸ケーブルのような特性が特に要求されない通常の発泡樹脂成形品、例えば通常のケーブル絶縁体、断熱用や遮音用の発泡板材など、さらに、軽量化のための成形体などの場合でも、フッ素系オイルの展着剤を用いことが有用であることが分かった。
【0010】
本発明は、この観点に立ってなされたもので、フッ素系オイルを展着剤として用いた発泡樹脂組成物、その発泡方法及び発泡絶縁電線の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の本発明は、発泡核剤の添加により発泡される熱可塑性樹脂からなる発泡樹脂組成物であって、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して、フッ素系オイルの展着剤を0.05〜0.2質量%を添加して前記発泡核剤の分散を促進させることを特徴とする発泡樹脂組成物にある。
【0012】
請求項2記載の本発明は、前記フッ素系オイルが、ポリパーフルオロプロピルエーテルであることを特徴とする請求項1記載の発泡樹脂組成物にある。
【0013】
請求項3記載の本発明は、前記ポリパーフルオロプロピルエーテルの平均分子量が2700〜4500であることを特徴とする請求項2記載の発泡樹脂組成物にある。
【0014】
請求項4記載の本発明は、前記ポリパーフルオロプロピルエーテルの平均分子量が2700のとき、動粘度(20℃)が43〜63mm2 /s、150℃×3時間での揮発減量が6%以下であることを特徴とする請求項3記載の発泡樹脂組成物にある。
【0015】
請求項5記載の本発明は、前記ポリパーフルオロプロピルエーテルの平均分子量が2700のとき、動粘度(40℃)が58〜72、200℃×3時間での揮発減量が2%以下であることを特徴とする請求項3記載の発泡樹脂組成物にある。
【0016】
請求項6記載の本発明は、前記請求項1〜5のいずれかの発泡樹脂組成物であって、前記熱可塑性樹脂がテトラフロロエチレン−ヘキサフロロプロピレン共重合体、テトラフロロエチレン−パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体の熱可塑性フッ素系樹脂であることを特徴とする発泡樹脂組成物にある。
【0017】
請求項7記載の本発明は、前記請求項1〜6のいずれかの発泡樹脂組成物であって、前記発泡核剤が窒化ホウ素、ゼオライト、シリカ、活性炭、又はシリカゲルであることを特徴とする発泡樹脂組成物にある。
【0018】
請求項8記載の本発明は、前記請求項1〜7のいずれかの発泡樹脂組成物を用いる発泡方法であって、前記熱可塑性樹脂100質量部に対してフッ素系オイルの展着剤を0.05〜0.2質量%を添加し、樹脂ペレット表面に付着させた後、これに前記発泡核剤の適量を添加し押出し発泡させることを特徴とする発泡樹脂組成物の発泡方法にある。
【0019】
請求項9記載の本発明は、前記請求項1〜7のいずれかの発泡樹脂組成物を用いる発泡絶縁電線の製造方法であって、前記熱可塑性樹脂100質量部に対してフッ素系オイルの展着剤を0.05〜0.2質量%を添加し、樹脂ペレット表面に付着させた後、これに前記発泡核剤の適量を添加し押出し発泡させて導体外方に発泡絶縁体として押し出しすることを特徴とする発泡絶縁電線の製造方法にある。
【発明の効果】
【0020】
本発明の発泡樹脂組成物によると、展着剤としてフッ素系オイルを用いて樹脂ペレット表面に展着させてあるため、窒化ホウ素などの発泡核剤が樹脂ペレット表面に付着し易くなり、樹脂組成物中に均一に分散させることができる。つまり、展着剤により樹脂ペレット表面の濡れ性が改善される。これにより、良好な発泡状態が得られ、また、発泡核剤の使用量も少なくて済み、低コスト化も可能となる。
【0021】
また、フッ素系オイル自体の混練(ミキシング)において、平均分子量や動粘度の設定を用途に応じて最適に選べば、ベース樹脂に対して無理なく、即ち大きな熱履歴(熱ストレス)などを与えることなく行うことができる。例えば、展着剤の常温(20〜25℃)下での添加、混練や、少々の加温下(30〜40℃程度)での添加、混練、さらには、混練時間の調整(長めの混練)による加温などにより、良好に対応することができる。さらにまた、ベース樹脂としてFEP、PFAなどの熱可塑性フッ素系樹脂を使用する場合、この樹脂と同様フッ素系オイルも耐熱性が高いため、成形時に分解たり、変質することがなく、良好な発泡性が得られる。特にこの樹脂組成物を同軸ケーブルなどの発泡絶縁体として用いるとき、低誘電率で、軽量性、耐熱性、不燃性、無煙性などに優れた絶縁体が得られる。勿論、その他の発泡樹脂成形品も得ることができる。
【0022】
本発明の発泡樹脂組成物の成形方法によると、熱可塑性樹脂に対してフッ素系オイルの展着剤を添加し、樹脂ペレット表面に付着させた後、これに発泡核剤の適量を添加し押出し発泡させるため、樹脂ペレット表面に良好な濡れ性が確保された状態で、発泡核剤が添加されることになり、発泡核剤の均一な分散(混合)が得られる。これにより、良好な発泡状態の発泡樹脂成形品が得られる。
【0023】
本発明の発泡絶縁電線の製造方法によると、熱可塑性樹脂に対してフッ素系オイルの展着剤を添加し、樹脂ペレット表面に付着させた後、これに発泡核剤の適量を添加し押出し発泡させて導体外方に発泡絶縁体として被覆するため、樹脂ペレット表面に良好な濡れ性が確保された状態で、発泡核剤が添加されることになり、発泡核剤の均一な分散(混合)が得られる。これにより、良好な発泡状態の発泡絶縁電線が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の発泡樹脂組成物に用いる熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えば発泡絶縁電線の絶縁体の場合、熱可塑性フッ素系樹脂、例えばテトラフロロエチレン−ヘキサフロロプロピレン共重合体(FEP)やテトラフロロエチレン−パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などを用いるものとする。熱可塑性フッ素系樹脂は、上述したように、低誘電率で、軽量性、耐熱性、不燃性、無煙性などに優れているため、発泡絶縁電線の絶縁体としては好適である。これらのうち、発泡に適する特性の熱可塑性フッ素系樹脂としては、ASDTM−D1238−70に従って測定したメルトフローレシオ(MFR、190℃、2.16Kgf)が14〜30g/10分のものが好ましい。
【0025】
これらのFEPやPFAの場合、通常のものでは、端末官能基の存在により誘電特性などの点に問題があるため、好ましくは端末官能基に対してフッ素化処理などを施して安定化させたものの使用が望ましい。このようなフッ素化処理を施したFEPの市販品としては、三井デュポンフロロケミカル社製の5100J(商品名、MFR=22)、PFAの市販品としては、三井デュポンフロロケミカル社製の440HP−J(商品名、MFR=15)などを挙げることができる。
【0026】
これらのベース樹脂に添加される発泡核剤としては、窒化ホウ素(セラミックス)、ゼオライト、シリカ、活性炭、又はシリカゲルなどが使用できる。電線用絶縁体として使用する場合、これらの大きさ(粒径)は、メデアン径(d50)で1〜10μm、好ましくは1〜5μmのものがよい。その理由は、1μm未満のサブミクロンになると、二次凝集が生じて実質的に発泡に寄与する粒子数が減少するため、発泡の微細化が得られなくなるからである。また、逆に10μmを超えるようになると、二次凝集の場合と同様単位体積中の発泡に寄与する粒子数が減少するため、やはり発泡の微細化が得られなくなるからである。そして、発泡核剤の比表面積にもよるが、ベース樹脂に対する添加量としては、0.1〜1.5質量%が望ましい。特に窒化ホウ素の場合、メデアン径で1〜10μmで0.1〜1.0質量%が好ましい。このような窒化ホウ素の市販品としては、水島合金鉄社製のHP−P1(商品名)を挙げることができる。
【0027】
また、展着剤のフッ素系オイルとしては、特に限定されず、目的とする発泡樹脂絶縁体や発泡樹脂成形品によって適宜選択すればよい。上記した高周波用の同軸ケーブルにおける発泡絶縁体用としては、下記の構造を有する、ポリパーフルオロプロピルエーテル(慣用名、パーフルオロエーテル)の使用が望ましい。そして、以下のように、特に平均分子量が2700〜4500のものの使用が好ましい。
CF3 −(CF2 −CF2 −CF2 −O−)n−CF2 −CF3 )・・・(1)
【0028】
例えば、(1)平均分子量が2700のものでは、動粘度(20℃)が43〜63mm2 /s、150℃×3時間での揮発減量が6%以下であるため、後述するように、樹脂ペレットへの常温下(20〜25℃)での展着が可能であり、同軸ケーブルの発泡絶縁体における展着剤としては好適である。この特性の市販品としては、ダイキン工業社製のデムナムS−20(商品名)を挙げることができる。(2)平均分子量が4500のものでは、動粘度(40℃)が58〜72、200℃×3時間での揮発減量が2%以下であるため、後述するように、樹脂ペレットへの展着時、多少の加温が必要であるものの、やはり同軸ケーブルの発泡絶縁体における展着剤としては好適である。この特性の市販品としては、ダイキン工業社製のデムナムS−65(商品名)を挙げることができる。
これらのデムナムS−20、S−65、及び特性の異なる同種のフッ素系オイル〔ダイキン工業社製のデムナムS−100、S−200)のより詳しい特性データは、表1の如くである。なお、表1中蒸発損失(揮発減量)は、約90mm内径の耐熱シャーレに試料オイルを15〜25g入れて、目的温度の熱風循環式電気炉で加熱し、重量減少量を求めて測定した値である。表1のオイルのその他の物理的性質として、各オイルの比熱は1.0J/g(0.24cal/g)、絶縁破壊電圧は(2.5mm)72KVである。
【0029】
【表1】

【0030】
フッ素系オイルを上記特性とした場合、発泡に先立って、このフッ素系オイルをベース樹脂ペレット中に添加し、混練して展着させた後、成形機(押出機など)に供給するわけであるが、特定の温度下での揮発減量が大き過ぎると、成形機の供給口(ホッパーなど)部分などで過剰な蒸発が起こり、供給口付近にオイルが付着し易いという問題が生じるからである。しかし、また、逆に形成温度のような高温下における揮発減量が小さ過ぎると、成形後も組成物中に残留する恐れが生じるからである。。
【0031】
例えば、表1のデムナムS−100、S−200のように、平均分子量が大きくなる(5600〜8400)と、当然動粘度も大きくなり、ベース樹脂ペレット中への添加、混練によって、均一に展着(付着)させることが困難となり、また、成形機による成形性(加工性)も低下するようになる。さらに、高温下(250℃や300℃)でも、揮発減量が小さいため、成形後も組成物中に残留成分として残る恐れがある。これに対して、表1のデムナムS−20の場合、平均分子量も小さく、常温下における動粘度も小さいことから、常温下での添加、混練により均一な展着が可能となる。また、揮発減量も小さいため(150℃×3時間下で6%以下)、ホッパー温度付近で揮発し難く、良好な使い勝手が得られる。デムナムS−65の場合、デムナムS−20に比較して、平均分子量や動粘度が若干大きくなるため、混練時加温する必要があるが、その温度が30〜40℃程度よく、樹脂ペレットに大きな熱ストレスを与える懸念は殆どない。また、常温でも混練時間(ミキシング時間)を少々長くすること(数分程度)で加温すことにより対応することができ、基本的には、デムナムS−20と同様、良好な使い勝手が得られる。
【0032】
また、使用するフッ素系オイルの使用可能温度は、勿論用いるベース樹脂の成形温度に対応する温度範囲である必要がある。特にベース樹脂がFEP、PFAなどの熱可塑性フッ素系樹脂の場合、耐熱性が高く、成形温度が300℃付近の高温となり、使用する展着剤としてこの温度範囲で、分解したり、変質したりすることのない、耐熱性の高い展着剤が必要とされるが、フッ素系オイルの場合、耐熱性が高く、この成形温度環境に十分対応することができる。言い換えれば、成形時オイルが分解たり、変質することがなく、最後まで、所望の展着機能が得られる。
【0033】
このフッ素系オイルの添加量は、ベース樹脂のペレット100質量部に対して0.05〜0.2質量%が望ましい。0.05質量%未満では少な過ぎて所望の展着効果(濡れ性不足)が得られず、逆に、0.2質量%を超えるようになると、成形機(押出機などの)のコンプレッション部分(加圧部分)に達してもオイルが残留するようになり、発泡度の調整不良、これに伴う外径変動が大きくなるなどの問題が生じるようになる。
【0034】
この発泡樹脂組成物に対しては、必要により、その他の添加物、例えば、酸化防止剤、銅害防止剤、難燃剤、分散剤、無機フィラー、架橋剤、架橋助剤などを適宜添加することができる。
【0035】
このような組成からなる発泡樹脂組成物の成形にあたっては、上記したように、好ましくは、先ず、ベース樹脂のペレットにフッ素系オイルを添加し、混合して展着させる。これにより、フッ素系オイルが樹脂ペレット表面に付着され、所望の濡れ性が得られる。このオイルの展着された樹脂ペレットに窒化ホウ素などの発泡核剤を添加して、オイルの展着層に付着させる。これらの作業は一連に行うとよい。この混合には、例えばシェーカー・ミキサや、ブラベンダー・ミキサなどを用いて行う。そして、ガス発泡(物理発泡)の場合には、所望のガス(窒素ガスなどの不活性ガス)を注入(投入)して発泡させる。化学発泡では、予め添加した化学発泡剤により発泡させる。これらの両発泡方法を併用することもできる。
【0036】
フッ素系オイルの場合、目的に対応した特性のものを選べば、熱可塑性樹脂、例えば熱可塑性フッ素系樹脂の成形温度と成形時間内において、十分かつ容易に樹脂ペレットに展着させて所望の濡れ性が得られる。また、混合は常温下や30〜40℃の加温下で、或いは、長めのミキシング時間(数分程度)で行うことができるため、混練による熱履歴の影響を最小限に抑えることができる。
【0037】
このようなフッ素系オイルを用いて、得られる発泡樹脂体の用途は、特に限定されない。上述のように、例えば同軸ケーブルなどの発泡絶縁電線の発泡絶縁体として使用することができる。同軸ケーブルでは、内部導体(中心導体)上に絶縁体として発泡・被覆させる。特にベース樹脂として、トFEP、PFAなどの熱可塑性フッ素系樹脂を用いた場合、低誘電率で、軽量性、耐熱性、不燃性、無煙性などの点で優れた同軸ケーブルが得られる。勿論、この発泡樹脂体は、通常の電線・ケーブルの発泡絶縁体として使用することもできる。また、種々の一般的な発泡樹脂成形品、例えば、断熱用や遮音用の発泡板材など、さらに、軽量化のための成形体を得ることもできる。
【0038】
図1は、本発明に係る発泡樹脂組成物を発泡絶縁体として用いた発泡絶縁電線の一例を示したものである。この発泡絶縁電線は発泡同軸ケーブルの場合で、図中、1は撚線導体などの内部導体、2は本発明の発泡樹脂組成物を、押出成形により、導体1上に被覆させた発泡絶縁体、3は金属編組やコルゲート銅パイプなどからなる金属層(外部導体)、4はポリオレフィン樹脂組成物からなるシース、5a,5bは必要により施される、厚さ50μm程度の内スキン層、外スキン層である。このケーブル外径は、特に限定されないが、約3〜50mm程度のものとして形成される。なお、必要に応じて絶縁体2と金属層3の間にアルミテープなどを入れることもできる。
【0039】
図2は、本発明に係る発泡絶縁電線の製造方法を実施するための押出装置系の一例を示したものである。本発明に係る発泡同軸ケーブルの製造方法を実施するための押出装置系の一例を示したものである。10は第1押出機、11は第1押出機の樹脂供給口、12は第1押出機のクロスヘッド、20は冷却部、30は第1押出機へのガス発泡剤供給部、40は内スキン層用の第2押出機である。
【0040】
この押出装置系による製造方法では、先ず、第1押出機10の樹脂供給口11から、フッ素系オイルが添加、混練されて展着されたベース樹脂のペレット、例えば熱可塑性フッ素系樹脂のペレットと、窒化ホウ素などの発泡核剤、必要な添加剤など供給し、そのクロスヘッド12により、内部導体1上に発泡絶縁体(発泡度50%程度)を被覆させる。この前に、内スキン層用の第2押出機40により、内部導体1上に上記発泡層と同じ熱可塑性フッ素系樹脂からなる内スキン層5aを被覆する。ここで、第1押出機10の押出温度は、300℃程度に設定する。第2押出機の押出温度は300〜350℃程度に設定する。第1押出機10へは、ガス発泡剤供給部30から、ガス発泡剤として窒素ガスなどを供給する。これにより、発泡核剤が良好に機能して発泡セルは微細化される。なお、第1押出機10にあっては、樹脂供給口とガス発泡剤供給部を備えた別の混練用の押出機を連設させた2段押出機構造とすることも可能である。
【0041】
第1押出機10のクロスヘッド12により被覆された発泡絶縁体を冷却部20で冷却する。このとき、好ましくは、第3押出機(図示省略)の押出部を、例えばクロスヘッド12内に組み込み、上記内スキン層と同様の熱可塑性フッ素系樹脂からなる外スキン層5bを発泡絶縁体の外周に被覆させる。この第3押出機の押出温度は300〜350℃程度に設定する。この後、必要な外部導体、シースを施すことにより、上記した発泡同軸ケーブルが得られる。
【0042】
これらの押出成形は、通常の押出機により対応することができ、良好な生産性を持って行うことができる。なお、押出方式としては、各被覆層毎にタンデム(順次)に行ってもよく、また、同時押出としてもよい。また、各押出機における押出温度は、実測した樹脂温度である。発泡剤(物理発泡剤)としてのガスは、窒素ガスの他に、上述したように、例えば、アルゴンガス、代替フロンガス、炭酸ガスなどの不活性ガスを用いることができる。また、化学発泡剤については、分解残渣発生の問題があるが、超微量であれば添加することも可能であり、上記ガス発泡と併用することもできる。このような化学発泡剤しては、例えば、ビステトラゾール・ジアンモニウム、ビステトラゾール・ピペラジン、ビステトラゾール・ジグアニジンなどのビステトラゾール系のものを挙げることができる。
【0043】
〈実施例、比較例〉
〔配合〕
先ず、表2〜表10に示す配合割合からなる材料を用意した。
ベース樹脂:PFA〔440HP−J(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)〕、FEP〔5100J(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)〕、展着剤:フッ素系オイル〔デムナムS−20、S−65、S−100、S−200(商品名、ダイキン工業社製)〕、発泡核剤:窒化ホウ素〔HP−P1(商品名、水島合金鉄社製)〕。なお、表中の配合材料において、ベース樹脂量は質量部数を、展着剤量は質量%を示す。
そして、先ず、シェーカー・ミキサ(容量1L)にベース樹脂ペレット1Kgと展着剤を投入し、樹脂ペレット表面が均一に展着剤で濡れるようにミキシングした。その後、発泡核剤を投入し、再度ミキシングした。ミキシングでは容器に発泡核剤が残留するので、その残量を計測、統計して配合にフィードバックさせた。ミキシング時間は、展着剤をペレットに付着させる場合には1分を目安に行った。発泡核剤を展着する場合には5分を目安に行った。その理由はそれ以上行っても押出性と発泡に変化がなかったからである。また、ミキシング時の加温(℃)については、常温(20〜25℃)、30〜40℃、50〜60℃、70〜80℃の数種類を設定し、展着剤に対応して選択した。
【0044】
〔加工〕
上記配合で展着を終えた樹脂ペレットを押出機(成形機)の供給部(ポッパー)へ投入し、ガス発泡剤(物理発泡剤)として窒化ガスを使用して導体外周に押出発泡させた。ここで、導体外径は1.0mm、発泡絶縁体径は3mm、発泡度は50%とした。
【0045】
〔評価方法〕
樹脂ペレットへの展着剤の「濡れ性」は、発泡核剤を展着後、容器への粉の残った量を測定して判断した。そして、粉の残量が1割り未満の場合には濡れ性が「良好」として評価した。粉の残量が1割り以上の場合には濡れ性が「不良」として評価した。
【0046】
「押出性」は、スクリュー回転数に対する吐出量と樹脂圧を測定して求めた。そして、良好に展着と押出発泡ができている場合を「良好」として評価した。この「良好」な場合に比較して、ガス注入部の樹脂圧と吐出量が20%以上低いときには「不良」として評価した。
【0047】
「発泡度の変動」は、発泡絶縁体の外径変動として現れるため、この外径変動を外径測定機とシックネスゲージで測定した。外径変動があるとケーブルではインピーダンスの変動が起こり電気信号の反射に関わるようになり、外径変動はケーブル特性の重要な要素をなす。上記構造の場合(導体外径1.0mm、発泡絶縁体径3mm、発泡度50%)、外径の公差は±30μm程度である。発泡度の公差は49〜51%となる。発泡絶縁体の外径変動が吐出量の変化のみに起因しているとすると、発泡させず非発泡絶縁体(ソリッド)として押し出した場合での変動は±20μm程度になる。しかし、実際には±10μm程度であるので、発泡絶縁体の外径変動は、発泡度の変動に起因していることが分る。
そのため、評価結果では、外径変動公差を発泡度変動公差に変換して表した。そして、外径変動が公差の範囲内にあるときは「公差の範囲」として評価した。外径変動が公差の範囲外で、大きいときは「変動大」とした。ここで、特に変動が大きく、発泡に疎密があって、かつ発泡度が不均一な場合を「不良」とした。
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
【表6】

【0053】
【表7】

【0054】
【表8】

【0055】
【表9】

【0056】
【表10】

【0057】
〔評価結果〕
上記表2〜表10により、以下のように評価した。
(1)展着剤:デムナムS−20を使用した場合
展着剤量が0.05〜0.2質量%では、室温で1分程度のミキシング時間で樹脂ペレット表面が均一に濡れ、かつ発泡状態に不均一はないことが分かった(実施例1〜3、10〜12)。展着剤量が0.05質量%未満では、均一に樹脂ペレット表面を濡らすには量が不足であり、押出機のホッパー中で樹脂ペレット表面から発泡核剤が脱落してホッパー下に溜まる不具合が生じることが分かった。その結果、押し出された発泡絶縁体に発泡核剤の濃度変動(分散ムラ)が生じて、発泡度、発泡セル径、外径にそれぞれ大きな変動があることが分かった(比較列1〜4)。また、展着剤量が0.2質量%を超える場合には、押出機コンプレッション部分に達してもある程度オイルが残り、発泡度を調整することに不具合が生じたため、外径変動が大きくなることが分かった(比較列5〜8)。
【0058】
(2)展着剤:デムナムS−65を使用した場合
デムナムS−20で良好な発泡絶縁体が得られた添加量(実施例1〜3、10〜12)とミキシング時間では樹脂ペレットが均一に濡れないことが分かった(比較列9〜12)。この場合、加熱器(オーブンなど)で樹脂ペレットを30〜40℃程度に加温してからミキシングすると、デムナムS−20のときと同様に良好に展着させることができ、また、良好に押出発泡できることが分かった(実施例7〜9、16〜18)。また、樹脂ペレットを加温しなくとも、ミキシング時間を長くすることで、ミキシングによる発熱で結果的に加温されるため、良好な展着と押出発泡ができることが分かった(実施例4〜6、13〜15)。また、この場合も良好な展着と押出発泡ができる適用範囲は、デムナムS−20のときと同様であることが分かった(実施例13〜15)。勿論、添加量が少ないときには、濡れ性が不十分で、また、発泡度の変動も大きくなることが分かった(比較例13〜16)。
【0059】
(3)デムナムS−100、200を使用した場合
この場合にもデムナムS−65と同様に常温では良好な展着ができないことが分かった。樹脂ペレットを加温したり、ミキシング時間を長くしたりすれば、展着可能であったが、デムナムS−20で添加量を多くした例と同様オイルが揮発し難く、押出機シリンダ内での樹脂ペレットの滑りによる押出性の悪化が生じたり、発泡絶縁体中にオイル成分として残留しりして、発泡状態への悪影響が生じることが分かった(比較列17〜30)。
【0060】
なお、耐熱性の低い通常のフッ素系オイルを用いて、熱可塑性フッ素系樹脂を300℃程度の押出温度で押出発泡させる場合、オイル分解の懸念や、有毒分解ガス発生の危険であるため、上記と同様の試験は行わなかった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係る発泡樹脂組成物を発泡絶縁体とした発泡絶縁電線の一例を示した縦断端面図である。
【図2】本発明に係る発泡絶縁電線の製造方法を実施するための押出装置系の一例を示した概略説明図である。
【符号の説明】
【0062】
1・・・内部導体、2・・・発泡絶縁体、3・・・金属層(外部導体)、4・・・シース、5a・・・内スキン層、5b・・・外スキン層、10・・・第1押出機、12・・・第1押出機のクロスヘッド、20・・・冷却部、30・・・ガス発泡剤供給部、40・・・第2押出機


【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡核剤の添加により発泡される熱可塑性樹脂からなる発泡樹脂組成物であって、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して、フッ素系オイルの展着剤を0.05〜0.2質量%を添加して前記発泡核剤の分散を促進させることを特徴とする発泡樹脂組成物。
【請求項2】
前記フッ素系オイルが、ポリパーフルオロプロピルエーテルであることを特徴とする請求項1記載の発泡樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリパーフルオロプロピルエーテルの平均分子量が2700〜4500であることを特徴とする請求項2記載の発泡樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリパーフルオロプロピルエーテルの平均分子量が2700のとき、動粘度(20℃)が43〜63mm2 /s、150℃×3時間での揮発減量が6%以下であることを特徴とする請求項3記載の発泡樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリパーフルオロプロピルエーテルの平均分子量が2700のとき、動粘度(40℃)が58〜72、200℃×3時間での揮発減量が2%以下であることを特徴とする請求項3記載の発泡樹脂組成物。
【請求項6】
前記請求項1〜5のいずれかの発泡樹脂組成物であって、前記熱可塑性樹脂がテトラフロロエチレン−ヘキサフロロプロピレン共重合体、テトラフロロエチレン−パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体の熱可塑性フッ素系樹脂であることを特徴とする発泡樹脂組成物。
【請求項7】
前記請求項1〜6のいずれかの発泡樹脂組成物であって、前記発泡核剤が窒化ホウ素、ゼオライト、シリカ、活性炭、又はシリカゲルであることを特徴とする発泡樹脂組成物。
【請求項8】
前記請求項1〜7のいずれかの発泡樹脂組成物を用いる発泡方法であって、前記熱可塑性樹脂100質量部に対してフッ素系オイルの展着剤を0.05〜0.2質量%を添加し、樹脂ペレット表面に付着させた後、これに前記発泡核剤の適量を添加し押出し発泡させることを特徴とする発泡樹脂組成物の発泡方法。
【請求項9】
前記請求項1〜7のいずれかの発泡樹脂組成物を用いる発泡絶縁電線の製造方法であって、前記熱可塑性樹脂100質量部に対してフッ素系オイルの展着剤を0.05〜0.2質量%を添加し、樹脂ペレット表面に付着させた後、これに前記発泡核剤の適量を添加し押出し発泡させて導体外方に発泡絶縁体として被覆することを特徴とする発泡絶縁電線の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−238829(P2007−238829A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65145(P2006−65145)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】