説明

発泡絶縁体を有する電線・ケーブル

【課題】簡易な方法で高発泡度と同時に微細気泡を安定して実現できる発泡絶縁体とした電線・ケーブルを提供する。
【解決手段】金属導体11の外周に、物理発泡で発泡絶縁体12を形成した電線・ケーブルにおいて、発泡絶縁体12が結晶性ポリマーAとポリマーBのブレンドからなり、ポリマーBの結晶融点またはガラス転移温度が、ポリマーAの結晶融点とその結晶融点から50℃低い温度の間に存在する樹脂組成物を用いて電線・ケーブル30の発泡絶縁体12を形成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡絶縁体を有する電線・ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の情報通信網の発達にともなって、機器間で用いられるデータ伝送ケーブルは高速、大容量対応が必須であり、高周波での優れた伝送特性が求められている。特に昨今、差動伝送と呼ばれる2心1組のケーブルに+と−の電圧をかける方式を採用する機器が増えている。この差動伝送方式は、外来ノイズへの耐性が強い反面、2本の電線の信号伝達時間の差(遅延時間差:スキュー)を厳しく管理しなくてはならない制約がある。これは、複数の心線から届く信号に時間差を生じることで受け側の機器で通信エラーが起きることを防止するためである。
【0003】
このスキューは、個々の電線の遅延時間の差であり、電線の絶縁体の誘電率と強く関連している。そのため、絶縁体の発泡度は、最も重要な因子となる。発泡度の変動を抑制するためには、気泡を微細化することが有効である(特許文献1〜4)。
【0004】
発泡方式としては、一般には化学発泡剤を使用する方法(化学発泡)と、成形機の中で溶融樹脂中にガスを注入して成形機内外の圧力差によって発泡させる方式(物理発泡)がある。化学発泡は簡便に発泡度変動の少ない絶縁体を得られる利点はあるが、高い発泡度を達成することが困難なこと、発泡剤の残渣は誘電率が大きいことが多いため発泡度に比較して絶縁体の誘電率が大きくなる等の問題がある。このため、高速の差動伝送に使用されるケーブルは物理発泡方式で製造された発泡絶縁体を使用することが多くなっている。
【0005】
前述したように、遅延時間は絶縁体の誘電率と強く関連しており、高速伝送ケーブルには高い発泡度の絶縁体が求められている。さらに、差動伝送を行うためにはその発泡度は均一である必要がある。
【0006】
一方、一般に高発泡度の絶縁体は、樹脂分が少なく機械的強度が不足しがちで、容易に潰れや座屈を生じる等の問題がある。
【0007】
これらを防止するためケーブルのジャケット等の構造を強化する方法もあるが、もっとも安定した性能を維持する方法は、気泡そのものを微細化し、荷重や応力の分散を図ることである。すなわち理想的なケーブルとは、微細で均一な気泡を大量に有し、全長にわたり発泡度の変動のない(少ない)ケーブルである。
【0008】
気泡を微細化しつつ、発泡度を保つには大量の気泡を発生させる必要があり、発泡核剤の選択が重要になってくる。発泡核剤としてはクレー、シリカなどの無機粒子やPTFEパウダなどの高融点ポリマ、有機化学発泡剤(ADCA、OBSHなど)などが汎用されている。発泡核剤は、ベースとなる樹脂や成形条件によって最適な組成、形状が異なるが、基本的に粒子が小さくなるほど同一添加量でも添加粒子数が大幅に増えることから気泡の発生数が増えることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−303247号公報
【特許文献2】特開2008−255243号公報
【特許文献3】特開2006−233085号公報
【特許文献4】特開平06−49261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、微粒子の核剤は凝集を起こしやすく、樹脂中へ均一に分散させることが非常に困難となる。すなわち、微粒子を樹脂中に添加した場合に凝集してしまい、発泡性の変動や極端な場合には樹脂組成物そのものの物性にも悪影響を与えてしまう。
【0011】
このような凝集の問題に対し、一般には核剤のマスターバッチ(MB)を作ることで対応している。混練専用の装置を用いて樹脂中に高濃度の核剤を配合したMBを作り、電線用の成形機(発泡押出機)ではこのMBを薄めることで、極端な分散不良を防止する方法である。しかし、この方法で分散状態はある程度改善できるが、材料の加工が多段階になり、材料(加工)費の増大や、加工履歴による材料物性の変化などの問題を生じやすい。
結局、凝集の問題から、気泡数を低コストで大幅に増加することは困難である。
【0012】
また、同様の理由で核剤の大量添加にも問題がある。基本的に核剤は異物であり、現在実用化されている多くの発泡核剤は、その誘電率がマトリックスポリマより大きいために大量添加は樹脂組成物の誘電特性にも悪影響を与え、発泡体としての利点を損なう。
【0013】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、簡易な方法で高発泡度と同時に微細気泡を安定して実現できる発泡絶縁体とした電線・ケーブルを提供することにある。それにより、高速伝送かつ低スキューで、機械的強度に優れる発泡絶縁体を有する電線・ケーブルを提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明は、金属導体の外周に、物理発泡で発泡絶縁体を形成した電線・ケーブルにおいて、発泡絶縁体が結晶性ポリマーAとポリマーBのブレンドからなり、ポリマーBの結晶融点またはガラス転移温度が、ポリマーAの結晶融点とその結晶融点から50℃低い温度の間に存在することを特徴とする発泡絶縁体を有する電線・ケーブルである。
【0015】
前記ポリマーAと前記ポリマーBの合計重量に対し、ポリマーBの含有量が0.1〜45重量%であることが好ましい。
【0016】
前記ポリマーAは、ポリエチレン、ポリマーBは、スチレンブロックを有していることが好ましい。
【0017】
上記発泡絶縁体は、化学発泡剤を含まないことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ポリマーAに対して、結晶融点またはガラス転移温度の低いポリマーBをブレンドして物理発泡させることで、高発泡と同時に微細気泡を安定して実現できる。それにより、高速伝送かつ低スキューで、機械的強度に優れた発泡絶縁体を有する電線・ケーブルを得ることができる。また、本発明に係る電線・ケーブルは、化学発泡剤を使用しないため、発泡剤の残渣による問題が生じることがなく、発泡度変動の少ない絶縁体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明における発泡電線の断面図である。
【図2】本発明における同軸ケーブルの断面図である。
【図3】本発明における電線・ケーブルの断面図である。
【図4】本発明における他の電線・ケーブルの断面図である。
【図5】本発明におけるさらに他の電線・ケーブルの断面図である。
【図6】本発明の実施例1の換算発泡度の時間的変動を示す図である。
【図7】本発明において、実施例1〜13の発泡度変動とスキューの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0021】
先ず、本発明の発泡絶縁体を有する電線・ケーブルを図1〜図5により説明する。
【0022】
図1は、発泡電線10を示したもので、導体11に、多数の気泡を有する発泡絶縁体12を押し出し被覆して発泡電線10が形成される。
【0023】
図2は、同軸ケーブル20を示したもので、導体(内部導体)11に、発泡絶縁体12を導体11と接着させるため、導体11直上に内部スキン層21が形成され、また発泡絶縁体12の外周部には成形時のガス抜けによる発泡度低下を防止する外部スキン層22が形成され、その外周に外部導体31が形成され、さらにその外周にシース層32が形成されている。
【0024】
これらの発泡絶縁体12、内部スキン層21,外部スキン層22は、タンデム押出などにより順次被覆しても良く、またはコモンヘッドによる同時押出により成形することもできる。
【0025】
内部スキン層21または外部スキン層22は、ガスの吹き抜けがなくケーブルとして十分な特性が得られるのであれば、省くことも可能である。
【0026】
導体11は、単線でも撚線でも良く、銅線以外にも各種合金線や、場合によってはチューブ状導体が使用できる。また、表面に銀、錫、その他任意の種類のめっきを施すことが出来る。例えば、アルミ導体の表面に銅を被覆した銅被アルミ導体を使用することもできる。
【0027】
気泡を含む発泡絶縁体12は、単一層でも複数の発泡層を組合せてもかまわない。発泡絶縁体12の内周部、外周部のスキン層21,22は、発泡していない、または発泡絶縁体12と比較して発泡度が極端に小さい発泡層で形成することも可能である。
【0028】
また、外部スキン層22の外周に形成する外部導体31は、用途と必要性能により極細金属線による横巻、編組、あるいは銅またはアルミなどの金属箔の巻付け、銅などの金属テープを溶接・加工したコルゲート管などを任意に選択できる。
【0029】
外部導体31外側のシース層32の材質は、PE、PPなどのポリオレフィン、ふっ素樹脂、塩化ビニル、ハロゲンフリー難燃材料など任意の材料を使用できる。
【0030】
外部導体31の有無に関らず、電線・ケーブルとしての形態も任意に選択できる。
【0031】
一例を挙げるならば、図2で説明したように外部導体31とその外側にシース層32を設けて1本で運用する方法の他に、図3に示すように発泡電線10を複数本を並行配置すると共にドレイン線(アース線)34を内包させ、これらの外周をシールド層33で覆うと共に抑えテープ35を設けて電線・ケーブル30を構成したり、或いは図4に示すように発泡電線10を撚り合わせ、必要に応じてドレイン線34を設け、その外周をシールド層33で覆うと共にシース層32を設けて電線・ケーブル30´とする。
【0032】
さらに、図5に示すように極細の内部導体11´の外周に極細の発泡絶縁体12´を形成し、その外周に極細金属線の横巻きによる外部導体31´を形成した後、抑えテープ35で保護した同軸ケーブル20´を形成し、この同軸ケーブル20´を複数本(図では4本)平行に或いは撚り合わせ、その外周にシース層32を形成して電線・ケーブル40を構成するようにしてもよい。
【0033】
本発明者らは、発泡絶縁体を形成するにあたり、押出機内でのガス注入により物理発泡させる際に、発泡絶縁体内に、均一な微細気泡を生成させるための樹脂組成を鋭意検討し、本発明に至った。
【0034】
すなわち本発明の発泡絶縁体は、結晶性ポリマーAとポリマーBのブレンドからなり、ポリマーBの結晶融点またはガラス転移温度が、ポリマーAの結晶融点とその結晶融点から50℃低い温度の間に存在するようにしたものである。
【0035】
物理発泡成形プロセスにおける樹脂粘度は、気泡成長時に樹脂層外への発泡ガス吹き抜けを防止し、かつ気泡合一・粗大化を防止するため、できるだけ溶融粘度を高くすることが好ましい。このため、発泡電線押出時の樹脂温度は成形可能な範囲でできるだけ低く設定される。結晶性ポリマの場合、融点よりやや上(10〜30℃程度)の温度に制御することが重要である。
【0036】
一方、ダイスから吐出された後、気泡成長過程における樹脂温度は、空気または水または、冷却サイジングダイの内壁により絶縁体表面から熱を奪われる作用と、発泡時の断熱膨張による温度低下の効果により急速に低下する。
【0037】
本発明者らの測定によれば、気泡が発生する時の樹脂温度はダイスを通過する時の温度より40〜50℃低下していることが明らかとなった。
【0038】
本発明の発泡絶縁体は、ポリマーAとポリマーBをブレンドすることにより、気泡発生時にポリマーAの結晶化に伴い溶解していた発泡ガスはポリマーAの結晶から排除され、非晶部分での濃度が高くなる。ポリマーAの結晶化はポリマーBとの界面で最も起こりやすいため、界面付近のガス濃度が著しく高くなり発泡ガスの熱ゆらぎにより速やかに気泡核が形成される。
【0039】
ポリマーAとポリマーBの合計量に対し、ポリマーBの含有量が0.1〜45重量%であれば、ポリマーBがポリマーA中に均一に分散するため、気泡発生数増加の効果が高い。ポリマーBの含有量が0.1重量%未満の場合、その添加効果がなく、45重量%を超えて添加された場合は、発泡絶縁体の機械的強度が低下し潰れやすくなる。
【0040】
本発明のポリマーAとしては、ポリエチレンであることが好ましい。
【0041】
ポリエチレンは、誘電率が小さく伝送損失を小さくでき、汎用ポリマのため低コストである。ポリマーAは、高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンの混合物であることがより好ましい。高密度ポリエチレンの誘電特性はtanδが小さくケーブルの伝送ロス低減に有利である。しかし分子構造が分岐を持たない直鎖型のため溶融粘度が低く、単独では発泡成形には適さない。一方、低密度ポリエチレンは、分岐の多い分子構造のため溶融粘度が高く、高密度ポリエチレンにブレンドすると発泡度を高めることができる。
【0042】
ポリマーAの結晶融点とは、ポリマーAが複数の結晶融点を有する場合、最も高温の結晶融点を指す。ポリマーAを溶融成形するには、最も高温の結晶融点以上で成形する必要があるからである。
【0043】
ポリマーAとしては、ポリエチレン(PE)の他に、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン−αオレフィン共重合体、高密度ポリエチレン(HDPE;Tm130℃)、低密度ポリエチレン(LDPE;Tm110℃)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、エチレン−ブテン1共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、などのエチレン系ポリマ、/ホモポリプロピレン(h−PP)、ブロックポリプロピレン(b−PP)、ランダムポリプロピレン(r−PP)などのプロピレン系ポリマ、/ポリテトラフルロエチレン(PTFE;Tm327℃)、ポリフッ化アルコキシ(PFA;Tm300℃)、4フッ化エチレン−プロピレン共重合体(FEP;Tm260℃)、ポリ3フッ化塩化エチレン(PCTFE;Tm245℃)などのフッ素樹脂、/ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステルエラストマなどのポリエステル系樹脂、/ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド(PA)、ポリエーテルスルホン(PES)などのエンジニアリングプラスチックが挙げられ、これらの単独または二種以上のブレンド物を用いることが出来る。
【0044】
好ましくはポリエチレンまたはフッ素樹脂であり、HDPEとLDPEのブレンド物が最も好適である。
【0045】
ポリマーBとしては、ポリマーAの結晶融点(Tm)と結晶融点(Tm)より50℃低い温度(Tm−50℃)の間の温度域に、ガラス転移温度(Tg)または結晶融点(Tm)を有するポリマーであれば、特に限定なく使用できる。
【0046】
ポリマーAがポリオレフィン系の場合は、ポリマーBは、ポリスチレン(PS)、スチレン−エチレンブチレン−スチレン三元共重合体(SEBS;Tg100℃)、スチレン−エチレンプロピレン−スチレン三元共重合体(SEPS;Tg100℃)、スチレン−(エチレン−エチレンプロピレン)−スチレン共重合体(SEEPS)、スチレン−オレフィン−ブロック(グラフト)共重合体、またはEVA、EEA、EMA、EMMA、PMMAのうち融点またはガラス転移温度が規定範囲内にあるポリマーが好適である。
【0047】
またポリマーAがフッ素樹脂の場合、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリカーボネート(PC;Tm145℃)、ポリフェニレンエーテル(PPE;Tm210℃)、PS/PPE系ポリマーアロイ、ポリエーテルスルホン(PES;Tm223℃)、ポリアセタール(POM)、FEP、四フッ化エチレン−エチレン共重合体(ETFE)が好適であるが、ポリマーAがオレフィン系、フッ素系に関わらずこれらに限定されるものではない。
【0048】
特に好ましい組合せはポリマーAがポリエチレンの場合、高周波での誘電率およびtanδが小さいSEBS、SEPSに代表されるスチレン系エラストマであり、PS含有量が20%以下のSEBSまたはSEPSが気泡発生数が多いため特に好適である。ポリマーAがフッ素系の場合は誘電率の小さなPPEまたは変性PPE(PPE/PS系ポリマーアロイ)である。
【実施例】
【0049】
以下本発明の実施例をより詳しく説明する。
【0050】
先ず、図1〜図5で説明した発泡絶縁体12は、導体の外周に直接、或いは内部導体の外周に形成した内部スキン層の外周に押し出し被覆して形成される。
【0051】
この発泡絶縁体は、全樹脂量に対し
ポリマーA;
高密度ポリエチレン(HDPE) 55〜95重量%
低密度ポリエチレン(LDPE) 5〜45重量%
ポリマーB;
スチレン系エラストマ 0.1〜45重量%
からなるものである。
【0052】
本発明に用いるポリマーBの含有量は、ポリマーAとポリマーBの合計重量に対し、0.1〜45重量%であり、好ましくは1〜30重量%である。
【0053】
添加量が少なすぎる場合には、核剤としての効果が不十分になり、気泡の粗大化、発泡度の低下または変動増大をもたらす。また添加量が過剰の場合は押出成形性が著しく低下する。また、ポリマーBが45重量%を超えて添加された場合は発泡絶縁体の機械的強度が低下し潰れや座屈が発生しやすくなる。電線の製造時または使用時に発泡絶縁体の潰れや座屈が起こると、インピーダンス変動や遅延速度の増大、伝送損失の増加が発生するため好ましくない。
【0054】
また、本発明の発泡絶縁体は耐熱性の観点からポリマーの分子間を架橋させたものを用いることができる。
【0055】
この架橋には、有機化酸化物による過酸化物架橋、硫黄化合物による硫黄架橋などの化学架橋、または電子線、放射線などによる照射架橋、またその他の化学反応いずれの架橋方法を使用することができる。高周波誘電特性の観点から電子線照射架橋が好ましい。
【0056】
また、これら樹脂組成物には必要に応じて難燃剤、難燃助剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、軟化剤、可塑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、架橋助剤、着色剤、酸化防止剤、粘度調整剤、その他の添加剤を加えることが出来る。但し、これらの機能を有する添加剤であっても、金属酸化物または金属塩は、誘電率を悪化させるため添加することはできない。
【0057】
ポリマーAないしポリマーBの押出機への供給方法は、以下の3つの方法が考えられる。
【0058】
(1)発泡押出機に本発明に係るポリマーをペレットあるいはパウダ形状で直接投入するドライブレンド法、(2)あらかじめポリマーBをポリマーAまたは別なポリマー中に高濃度で混和した樹脂組成物をマスターバッチとして添加するマスターバッチ法、(3)ポリマーAおよびポリマーBを事前に二軸押出機などの混練機で混練した樹脂組成物を発泡押出機に投入するフルコンパウンド法がある。
【0059】
ポリマーBの分散を考慮すると、(3)のフルコンパウンド法が最も好ましい。これは、ポリマーBの均等分散により大量の微細気泡が発生し、均一な成長が可能となり、外径、静電容量共に極めて安定することで目的とする、高発泡かつ低スキューの発泡電線の製造が可能となる。
【0060】
次に、本発明の実施例1〜14と比較例1〜5を以下に説明する。
【0061】
なお、発明の目的が低スキュー電線であることから、実施例および比較例でも図3の構造の電線・ケーブル30の試作を行った。
【0062】
表1(実施例1〜13)、表2(実施例14)、表3(比較例1〜5)に示す樹脂および添加剤を45mm二軸混練機を表記載の温度に設定して混練し、電線製造用フルコンパウンドとした。なお、表1〜3中のポリマーA、ポリマーBの各実施例及び各比較例の数値の単位は、ポリマーAとポリマーBの合計重量に対する重量%であり、表3中の添加型核剤の数値の単位は、ポリマーAとポリマーBの合計重量を100重量部としたときの添加型核剤の重量部である。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
これらのフルコンパウンドを用いて、表4に示した条件で目標発泡度50%の発泡電線を10,000m作製したのち、1Mradの電子線を照射することにより電子線架橋を施した。作製した各フルコンパウンドによる発泡電線を5,000m毎に二等分したのち、この2本をドレイン線とともに並行配置し、アルミシールドテープを縦添えしPETテープで抑え巻きしたツインナックス構造のケーブル長さ10mを20本づつ作製した。なお、表4中のLは、押出機のスクリューの長さ、Dは、スクリューの直径である。
【0067】
【表4】

【0068】
発泡電線の押出時にインラインで外径(b)と静電容量(C)をモニターし、芯線径(a)と合わせて誘電率を算出し、さらにA.S.Windelerの式から換算発泡度を算出、この時間変化を計測した。
【0069】
発泡体の実効比誘電率εrは、数1から求めた。ε0は真空の誘電率である。
【0070】
【数1】

【0071】
換算発泡度は、A.S.Windelerの式から数2で求めた。この数2での、εiは、絶縁体材料の比誘電率、空気の比誘電率は1としている。
【0072】
【数2】

【0073】
換算発泡度の変動の一例(実施例1)を図6に示す。換算発泡度の最大値と最小値の差を発泡度の変動(ΔF)と定義する。
【0074】
表1〜3のスキューと加熱変形は、以下のように測定した。
【0075】
(1)スキュー測定
TDT(time domain transmission)法により10mツインナックスケーブルのペア内スキューを測定した。
【0076】
なお、図7に実施例1〜13の発泡変動(ΔF)とペア内スキューをプロットして示した。
【0077】
判定は、20本のケーブルの単位長さ当たりのペア内スキュー最大値が10ps/m以下のものを合格(○)とし、特に8ps/m以下のものを二重○(合格の中でも優秀なもの)とした。
【0078】
(2)加熱変形
長さ7cmに切断した試作電線試料10本を横に並べ、試料に直行する形でプローブ(直径5mmのSUS製半円柱)を設置し、10Nの荷重環境下で30分静置し、初期値に対する変形率を算出した。
【0079】
試験温度は実使用環境を想定し、ポリエチレン系で70℃、フッ素樹脂系で120℃とした。変形率15%以下を合格(○)とし、特に10%以下のものを二重○とした。
【0080】
以上より、表1に示した、ポリマーAとして融点(Tm)が130℃のポリエチレン、ポリマーBとしてガラス転移温度(Tg)が100℃のスチレン系ポリマまたはPMMA(ポリエチレンの結晶融点130℃と融点から50℃低い80℃の間にガラス転移点が存在する)または、結晶融点が83℃のEVAを使用した実施例1〜13は、いずれも発泡度変動が小さく発泡絶縁体の構造が安定している。
【0081】
これらの電線を適用したツインナックスケーブルはペア内スキューが小さく、良好な伝送特性を有している。加熱変形試験も合格することから、機械的強度も十分である。ポリマーBが45重量%以上混和されている実施例13は加熱変形率がやや大きく、合格はするが裕度なしの結果となった。
【0082】
また、表2に示した、フッ素樹脂をポリマーA、規定値に合致したポリマーBを使用した実施例14も同様に、外径変動が小さく発泡絶縁体の構造が安定している。これらの電線を適用したツインナックスケーブルはペア内スキューが小さく、良好な伝送特性を有している。
【0083】
一方、表3に示した、ポリマーBを使用しない比較例1、従来からの添加型発泡核剤ADCA(アゾジカルボンアミド)を使用した比較例2、ポリマーBの融点が規定値から外れる比較例3〜5は、いずれも発泡度変動が大きくなり、その結果としてツインナックスケーブルのペア内スキューは増大し、不合格(判定が×表示)となった。
【0084】
これらの結果から、金属導体とその外周を包む物理発泡方式による発泡絶縁体からなる電線において、発泡絶縁体が結晶性ポリマーAとポリマーBのブレンドからなり、ポリマーBの結晶融点またはガラス転移温度がポリマーAの結晶融点と融点から50℃低い温度の間に存在することを特徴とした発泡絶縁体を有する電線・ケーブルはスキューの小さい良好な伝送特性を示すことが実証された。
【符号の説明】
【0085】
10 発泡電線
11 導体
12 発泡絶縁体
20 同軸ケーブル
30 電線・ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属導体の外周に、物理発泡で発泡絶縁体を形成した電線・ケーブルにおいて、発泡絶縁体が結晶性ポリマーAとポリマーBのブレンドからなり、ポリマーBの結晶融点またはガラス転移温度が、ポリマーAの結晶融点とその結晶融点から50℃低い温度の間に存在することを特徴とする発泡絶縁体を有する電線・ケーブル。
【請求項2】
前記ポリマーAとポリマーBの合計重量に対し、ポリマーBの含有量が0.1〜45重量%である請求項1記載の発泡絶縁体を有する電線・ケーブル。
【請求項3】
前記ポリマーAは、ポリエチレン、ポリマーBは、スチレンブロックを有している請求項2記載の発泡絶縁体を有する電線・ケーブル。
【請求項4】
前記発泡絶縁体は、化学発泡剤を含まないことを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の発泡絶縁体を有する電線・ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−9206(P2011−9206A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122225(P2010−122225)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】