説明

発熱抵抗式流量センサ及びその自己診断方法

【課題】流体の流通有無に関わらず、回路の正常・異常を判定することが可能な発熱抵抗式流量センサ及びその自己診断方法を提供する。
【解決手段】流量検出用抵抗(30u,30d,31u,31d)と同じ材料、同じパターンで形成され、ヒータ抵抗(11)に対し上流側と下流側とで互いに異なる距離に位置する2つの自己診断用抵抗(32u,32d)が直列接続されてなる自己診断用抵抗対(32)を、2つの流量検出用抵抗対(30,31)に並列に設けた。そして、自己診断の第1期間(t1)において、ヒータ抵抗(11)への電力供給が遮断されるとともに、第1選択手段(33)により、抵抗対(30,31)からなる第1ブリッジ回路(38)の出力が選択され、第2期間(t2)において、ヒータ抵抗(11)へ電力が供給されるとともに、第1選択手段(33)により、抵抗対(30,32)からなる第2ブリッジ回路(39)の出力が選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱抵抗式流量センサ及びその自己診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、発熱抵抗式流量センサとして、例えば特許文献1に示される構成が提案されている。
【0003】
特許文献1では、自己診断開始信号DAIGが入力されると、ヒーター制御回路の動作が停止し、これにより、空気流量計の出力は温度差ブリッジ信号のゼロ点出力まで変化する。ここで、ゼロ点出力とは、ヒーター電流が流れていない状態(加熱されていない状態)であり、エンジンも停止状態のため、吸入空気も流れていない状態を示す。
【0004】
そして、ゼロ点電圧を制御ユニットがサンプリングし、初期のゼロ点からのずれ量を演算し、異常にずれ量が大きいときは故障と判断するようになっている(特許文献1の段落[0019]−[0021]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−33619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、特許文献1では、ヒーター電流が流れず、且つ、吸入空気が流れていない状態でしか回路(特に、温度差ブリッジ回路)を自己診断することができなかった。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑み、流体の流通有無に関わらず、回路の正常・異常を判定することが可能な発熱抵抗式流量センサ及びその自己診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する為に、請求項1に記載の発明は、
基板(60)に形成され、通電により発熱するヒータ抵抗(11)と、
ヒータ抵抗(11)への通電状態を制御するヒータ駆動部(12)と、
互いに同じ材料を用いて同じパターンで基板(60)に形成され、ヒータ抵抗(11)に対し上流側と下流側とで等距離に位置する2つの第1流量検出用抵抗(30u,30d)が、互いに直列接続されてなる第1流量検出用抵抗対(30)と、
第1流量用検出抵抗(30u,30d)と同じ材料を用いて同じパターンで基板(60)に形成され、第1流量検出用抵抗(30u,30d)とは異なる距離でヒータ抵抗(11)に対し上流側と下流側とで等距離に位置する2つの第2流量検出用抵抗(31u,31d)が、互いに直列接続されてなり、第1流量検出用抵抗対(30)に並列接続された第2流量検出用抵抗対(31)と、
外部出力端子(16b)と、を備え、
流体の流量を検出する通常動作時には、2つの流量検出用抵抗対(30,31)により構成される第1ブリッジ回路(38)の出力に基づく信号を、外部出力端子(16b)を介して外部に出力する発熱抵抗式流量センサ(10)であって、
流量検出用抵抗(30u,30d,31u,31d)と同じ材料を用いて同じパターンで基板(60)に形成され、ヒータ抵抗(11)に対し上流側と下流側とで互いに異なる距離に位置する2つの自己診断用抵抗(32u,32d)が、互いに直列接続されてなり、2つの流量検出用抵抗対(30,31)に並列接続された自己診断用抵抗対(32)と、
3つの抵抗対(30,31,32)のうち、2つの流量検出用抵抗対(30,31)により構成される第1ブリッジ回路(38)と、第1流量検出用抵抗対(30)と自己診断用抵抗対(32)により構成される第2ブリッジ回路(39)のいずれかを、外部出力端子(16b)と選択的に接続する第1選択手段(33)と、を備え、
通常動作時と重複しない所定の第1期間(t1)において、ヒータ駆動部(12)によりヒータ抵抗(11)への電力供給が遮断されるとともに、第1選択手段(33)により第1ブリッジ回路(38)が外部出力端子(16b)に接続され、
通常動作時及び第1期間と重複しない第2期間(t2)において、ヒータ駆動部(12)によりヒータ抵抗(11)へ電力が供給されるとともに、第1選択手段(33)により第2ブリッジ回路(39)が外部出力端子(16b)に接続されることを特徴とする。
【0009】
本発明では、第1期間(t1)において、ヒータ抵抗(11)から等距離に位置する流量検出用抵抗対(30,31)からなる第1ブリッジ回路(38)が選択され、且つ、ヒータ抵抗(11)に電流が流れず、ヒータ抵抗(11)が発熱しない。このため、基板(60)上の温度が均一となり、第1ブリッジ回路(38)を構成する全ての流量検出用抵抗(30u,30d,31u,31d)の抵抗値が等しくなる。したがって、第1ブリッジ回路(38)の出力は、流体の流通有無(例えばエンジンの回転・停止によらず)、擬似的に流量=0の状態となる。
【0010】
一方、第2期間(t2)では、ヒータ抵抗(11)から異なる距離に位置する自己診断用抵抗対(32)を含む第2ブリッジ回路(39)が選択され、且つ、ヒータ抵抗(11)に電力が供給され、ヒータ抵抗(11)が発熱する。ヒータ抵抗(11)が発熱すると、基板(60)上の温度は、ヒータ抵抗(11)を最大として、流体の流れ方向において温度勾配が生じる。しかしながら、自己診断用抵抗対(32)を構成する上流側の自己診断用抵抗(32u)と下流側の自己診断用抵抗(32d)とはヒータ抵抗(11)からの距離が異なるため、その温度、ひいては抵抗値も異なるものとなる。したがって、第2ブリッジ回路(39)の出力は、流体が流れていなくとも(例えばエンジンが停止していても)、擬似的に流量≠0の状態となる。
【0011】
このように本発明によれば、流体の流通有無に関わらず、擬似的に流量=0の状態と、流量≠0の状態を作ることができる。したがって、2つの状態の出力に基づいて、回路の正常・異常を判定することが可能である。
【0012】
請求項2に記載のように、
入力端の一方に第1流量検出用抵抗(30u,30d)の接続点(35)が接続され、出力端が外部出力端子(16b)と電気的に接続された第1差動増幅器(34)を備え、
第1選択手段(33)は、通常動作時及び第1期間(t1)において、第2流量検出用抵抗(31u,31d)の接続点(36)を第1差動増幅器(34)の入力端に接続し、第2期間(t2)において、自己診断用抵抗(32u,32d)の接続点(37)を、第1差動増幅器(34)の入力端に接続する構成を採用することができる。
【0013】
これによれば、通常動作時及び第1期間(t1)において、第1ブリッジ回路(38)における各接続点(35,36)の電位差を第1差動増幅器(34)から出力し、第2期間(t2)において、第2ブリッジ回路(39)の各接続点(35,37)の電位差を第1差動増幅器(34)から出力することができる。
【0014】
具体的には、請求項3に記載のように、
ヒータ駆動部(12)は、
基板(60)に形成され、互いに直列接続された2つの第1固定抵抗(21a,21b)に、基板(60)に形成され、ヒータ抵抗(11)の熱を受けて抵抗値が変化する傍熱抵抗(20)が直列に接続され、基板(60)に形成され、流体の温度によって抵抗値が変化する流体温度計測抵抗(22)と、基板(60)に形成された第2固定抵抗(23)が直列に接続されてなる第3ブリッジ回路(27)と、
入力端の一方に流体温度計測抵抗(22)と第2固定抵抗(23)の接続点(29)が接続され、入力端の他方に、傍熱抵抗(20)と第1固定抵抗(21a)の接続点(28a)又は2つの第1固定抵抗(21a,21b)間の接続点(28b)が接続される第2差動増幅器(25)と、
2つの接続点(28a,28b)のいずれかを、第2差動増幅器(25)の入力端と選択的に接続する第2選択手段(24)と、
第2差動増幅器(25)の出力端に接続され、第2差動増幅器(25)の出力に基づいてヒータ抵抗(11)への通電状態を制御するトランジスタ(26)と、を備え、
第2選択手段(24)は、第1期間(t1)において、2つの第1固定抵抗(21a,21b)間の接続点(28b)を第2差動増幅器(25)の入力端に接続し、通常動作時及び第2期間(t2)において、傍熱抵抗(20)と第1固定抵抗(21a)の接続点(28a)を、第2差動増幅器(25)の入力端に接続する構成を採用する
これによれば、傍熱抵抗(20)側の2つの接続点(28a,28b)の各電位と、流体温度計測抵抗(22)側の接続点(29)の電位との関係から、第1期間(t1)において、ヒータ抵抗(11)に電流が流れないようにし、第2期間(t2)において、ヒータ抵抗(11)に電流が流れるようにすることができる。
【0015】
請求項4に記載のように、
自己診断手段として、
電源端子(16a)からトランジスタ(26)への電源ラインに接続され、電源端子(16a)に電源が投入されると回路を初期化するためのパワーオンリセット信号を出力するパワーオンリセット回路(50)と、
パワーオンリセット信号を基準とする第1期間(t1)において、第1選択手段(33)が第2流量検出用抵抗(31u,31d)の接続点(36)を第1差動増幅器(34)の入力端に接続し、且つ、第2選択手段(24)が第1固定抵抗(21a,21b)の接続点(28b)を第2差動増幅器(25)の入力端に接続し、
パワーオンリセット信号を基準とする第2期間(t2)において、第1選択手段(33)が自己診断用抵抗(32u,32d)の接続点(37)を第1差動増幅器(34)の入力端に接続しつつ、第2選択手段(24)が第1固定抵抗(21a)と傍熱抵抗(20)の接続点(28a)を第2差動増幅器(25)の入力端に接続するように、
2つの選択手段(24,33)を制御する選択手段制御回路(51)と、を備えることが好ましい。
【0016】
これによれば、電源端子(16a)を介した発熱抵抗式流量センサ(10)への電源投入をトリガとして、第1期間(t1)の状態と第2期間(t2)の状態を、発熱抵抗式流量センサ(10)が形成することができる。これにより、自己診断用端子(16e)を不要とすることができる。このため、コストの低減と体格の小型化を図ることができる。
【0017】
請求項5に記載のように、選択手段制御回路(51)は、パワーオンリセット信号が入力されると、第1期間(t1)の状態に2つの選択手段(24,33)を制御し、第1期間(t1)が終了すると第1期間(t1)に連続して第2期間(t2)の状態に2つの選択手段(24,33)を制御すると良い。
【0018】
これによれば、先にヒータ抵抗(11)を発熱させない第1期間(t1)とするので、ヒータ抵抗(11)を少なからず発熱させる第2期間(t2)を先にする構成に較べて、自己診断時間を短縮することができる。
【0019】
請求項6に記載のように、自己診断用抵抗(32u,32d)が、第1流量検出用抵抗(30u,30d)及び第2流量検出用抵抗(31u,31d)よりもヒータ抵抗(11)に対して遠い位置に形成された構成とすると良い。それ以外にも、請求項7に記載のように、自己診断用抵抗(32u,32d)が、第1流量検出用抵抗(30u,30d)と第2流量検出用抵抗(31u,31d)の間に形成された構成や、請求項8に記載のように、自己診断用抵抗(32u,32d)が、第1流量検出用抵抗(30u,30d)及び第2流量検出用抵抗(31u,31d)よりもヒータ抵抗(11)に対して近い位置に形成された構成とすることもできる。
【0020】
特に請求項6に記載の構成を採用すると、他の構成に較べて、2つのブリッジ回路(38,39)を構成する抵抗(30u,30d,31u,31d,32u,32d)の形成領域、ひいては発熱抵抗式流量センサ(10)の体格を小型化することができる。また、ヒータ抵抗(11)と、通常動作時(流量検出時)に用いる第1ブリッジ回路(38)を構成する抵抗(30u,30d,31u,31d)との間に、通電により少なからず発熱する自己診断用抵抗(32u,32d)が存在しないため、流量検出の精度を向上することができる。
【0021】
請求項9に記載のように、自己診断用端子(16e)を備え、
自己診断用端子(16e)を介して外部から入力される自己診断指示信号に基づいて、
第1期間(t1)において、ヒータ駆動部(12)によりヒータ抵抗(11)への電力供給が遮断されるとともに、第1選択手段(33)により第1ブリッジ回路(38)が外部出力端子(16b)に接続され、
第2期間(t2)において、ヒータ駆動部(12)によりヒータ抵抗(11)へ電力が供給されるとともに、第1選択手段(33)により第2ブリッジ回路(39)が外部出力端子(16b)に接続される構成を採用することもできる。
【0022】
このように、自己診断用端子(16e)から入力される自己診断指示信号に基づいて、ヒータ抵抗(11)への通電状態と、第1選択手段(33)によるブリッジ回路(38,39)の選択とが制御されるようにしても、流体の流通有無に関わらず、擬似的に流量=0の状態と、流量≠0の状態を作ることができる。したがって、それぞれの状態の出力に基づいて、回路の正常・異常を判定することが可能である。
【0023】
次に、請求項10に記載の発熱抵抗式流量センサの自己診断方法は、
請求項1〜9いずれかに記載の発熱抵抗式流量センサ(10)において、第1期間(t1)における外部出力端子(16b)の出力と、第2期間(t2)における外部出力端子(16b)の出力の差分に基づいて、自己診断することを特徴とする。
【0024】
上記したように、第1期間(t1)では擬似的に流量=0の状態を作り、第2期間(t2)では擬似的に流量≠0の状態を作る。したがって、2つの期間(t1,t2)での出力の差分をとることで、発熱抵抗式流量センサ(10)を構成する回路が正常か異常かを自己診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態に係る発熱抵抗式流量センサの概略構成を示す回路図である。
【図2】図2に示す発熱抵抗式流量センサのうちのセンサチップを示し、(a)は平面図、(b)は(a)のIIb−IIb線に沿う断面図である。
【図3】図1に示す発熱抵抗式流量センサにおいて、自己診断の手順を示すタイミングチャートである。
【図4】変形例の概略構成を示す回路図である。
【図5】第2実施形態に係る発熱抵抗式流量センサの概略構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、以下に示す各実施形態において、共通乃至関連する要素には同一の符号を付与するものとする。
【0027】
(第1実施形態)
本実施形態に係る発熱抵抗式流量センサは、流体との伝熱を利用して、流体の流量を検出するものであり、例えば車両の内燃機関(図示せず)に吸入される空気流(吸気流)の流量を検出するために吸気管内に突出するように配置される。
【0028】
また、発熱抵抗式流量センサは、流量検出のために吸気流の一部を取り込んで通過させるための検出流路(図示せず)を自身の内部に有するとともに、この検出流路に配置されて通電により発熱するヒータ抵抗を備えている。そして、ヒータ抵抗の発熱により検出流路における吸気流の流れ方向に温度分布を形成し、この温度分布に基づいて吸気量を示す信号を、外部出力端子から出力する。
【0029】
そして、発熱抵抗式流量センサから出力される信号は、例えば内燃機関を制御するための電子制御装置(ECU)に入力され、ECUは、この信号に基づいて吸気量を把握するとともに、吸気量に基づく燃料噴射制御等の各種の制御処理を実行する。
【0030】
図1に示すように、発熱抵抗式流量センサ10は、ヒータ抵抗11、該ヒータ抵抗11の駆動を制御するヒータ駆動部12、温度分布に基づき流量に応じた信号を出力するセンサ部13、センサ部13から出力される信号に各種の処理を施して出力する信号処理回路部14、所定のタイミングにおいてヒータ駆動部12及びセンサ部13を自己診断モードに切り替える自己診断回路部15を備えている。なお、自己診断回路部15が、特許請求の範囲に記載の自己診断手段に相当する。
【0031】
ヒータ抵抗11は、通電により発熱する抵抗体である。このヒータ抵抗11は、図2(a),(b)に示すように、シリコンなどの基板60(以下、センサチップ60と示す)に形成されたメンブレン61に設けられている。本実施形態では、図2(a)に示すように平面長方形のセンサチップ60を採用しており、センサチップ60の短手方向(以下、単に短手方向と示す)が流体の流れに沿う方向となっている。メンブレン61は、センサチップ60の長手方向(以下、単に長手方向と示す)において一端側に形成されている。また、ヒータ抵抗11は、平面矩形状のメンブレン61において、短手方向における中心位置に長手方向に延びて配置されている。
【0032】
ヒータ駆動部12は、流量に応じてヒータ抵抗11を発熱させ、ヒータ抵抗11の温度が流体の温度よりも一定の温度だけ高い基準温度になるように、制御する回路である。本実施形態では、このヒータ駆動部12が、傍熱抵抗20、第1固定抵抗21a,21b、吸気温度計測抵抗22、第2固定抵抗23、スイッチ24、アンプ25、ヒータ抵抗駆動用トランジスタ26を有している。そして、傍熱抵抗20と温度計測抵抗22との温度差が一定になるように、ヒータ抵抗11の通電状態を制御する。
【0033】
なお、吸気温度計測抵抗22が、特許請求の範囲に記載の流体温度計測抵抗に相当する。また、スイッチ24が、特許請求の範囲に記載の第2選択手段に相当する。また、アンプ25が、特許請求の範囲に記載の第2差動増幅器に相当する。
【0034】
傍熱抵抗20は、ヒータ抵抗11の熱が、後述するセンサチップ60のメンブレン61の部分を介して伝達され、この熱を受けて抵抗値が変化する抵抗体である。一方、吸気温度計測抵抗22は、周囲の温度(流体の温度)によって抵抗値が変化する抵抗体である。これら傍熱抵抗20,吸気温度計測抵抗22と、固定抵抗21a,21b,23は、ヒータ抵抗11と同じセンサチップ60に形成されている。傍熱抵抗20もメンブレン61においてヒータ抵抗11の近傍に形成されており、ヒータ抵抗11を短手方向において挟むように、平面略コの字状となっている。吸気温度計測抵抗22は、ヒータ抵抗11の熱の影響を受けず、且つ、ヒータ抵抗11と同じ流体の条件となるように、センサチップ60のメンブレン61を除く部分(メンブレン61と熱的に分離された厚肉の部分)であって、短手方向においてメンブレン61よりも流体の上流側且つ長手方向においてヒータ抵抗11とほぼ同じ位置に形成されている。固定抵抗21a,21b,23は、センサチップ60のメンブレン61を除く厚肉部分であって、長手方向においてメンブレン61から離れた位置に形成されている。
【0035】
本実施形態では、傍熱抵抗20及び吸気温度計測抵抗22が、いずれも正の温度係数を有している。また、傍熱抵抗20と第1固定抵抗21a,21bは、傍熱抵抗20を低電位側(グランド電位側)、直列接続された2つの第1固定抵抗21a,21bを高電位側(内部定電位Vr側)として直列に接続されている。なお、2つの第1固定抵抗21a,21bは、第1固定抵抗21aが傍熱抵抗20側となっている。一方、吸気温度計測抵抗22と第2固定抵抗23は、吸気温度計測抵抗22を低電位側(グランド電位側)、第2固定抵抗23を高電位側(内部定電位Vr側)として直列に接続されている。そして、これらによりブリッジ回路27が構成されている。このブリッジ回路27が、特許請求の範囲に記載の第3ブリッジ回路に相当する。
【0036】
ブリッジ回路27における、傍熱抵抗20と第1固定抵抗21aの接続点28aはスイッチ24の端子24aに接続され、第1固定抵抗21a,21bの接続点28bはスイッチ24の端子24bに接続されている。そして、端子24a,24b(接続点28a,28b)のいずれかが、アンプ25の反転入力端に接続されるようになっている。一方、温度計測抵抗22と第2固定抵抗23の接続点29は、アンプ25の非反転入力端に直接的に接続されている。
【0037】
スイッチ24は、通常動作時(流量測定時)には、端子24a(接続点28a)とアンプ25の反転入力端を接続する。また、後述する自己診断時には、第1期間(t1)において、端子24b(接続点28b)とアンプ25の反転入力端を接続し、第2期間(t2)において、端子24a(接続点28a)とアンプ25の反転入力端を接続する。
【0038】
アンプ25は、反転入力端に入力される電位V1と非反転入力端に入力される電位V2の差(V2−V1)を増幅して出力する(差動増幅する)ものである。このアンプ25には、図示しない位相補償用コンデンサが内蔵されている。
【0039】
トランジスタ26は、アンプ25の出力に応じて駆動制御されることで、電源電圧Vccからヒータ抵抗11に電流を流す役割を果たすものである。このトランジスタ26は、アンプ25の出力に応じた大きさの電流を流す。すなわち、ヒータ抵抗11は、トランジスタ26によって流される電流の大きさに応じて発熱する。
【0040】
本実施形態では、トランジスタ26として、npn型のバイポーラトランジスタを採用しており、ベースがアンプ25の出力端と接続され、エミッタがヒータ抵抗11と接続され、コレクタが電源端子16aと接続されている。このトランジスタ26は、上記した電位V2が電位V1よりも大きいとき(V2>V1)に、アンプ25の出力(ベース電位)に応じた大きさの電流を流す。
【0041】
なお、傍熱抵抗20の抵抗値Ri、吸気温度計測抵抗22の抵抗値Rk、固定抵抗21a,21bの抵抗値R1a,R1b、固定抵抗23の抵抗値R2は、無通電状態(同一温度)でRk>Ri、後述する第1期間t1においてV1>V2、第2期間t2において切替直後に少なくともV2>V1となるように設定されている。
【0042】
以上の構成により、ヒータ駆動部12は、ヒータ抵抗11の温度を流体の温度よりも一定の温度だけ高い基準温度に制御する。すなわち、通常動作時において、ヒータ抵抗11の温度が基準温度よりも下がると、傍熱抵抗20の温度も下がって傍熱抵抗20の抵抗値Riが低下し、接続点28a,29間の電位差の正負が逆転してアンプ25から信号の出力が始まる。これにより、トランジスタ26が作動してヒータ抵抗11への通電が行われ、ヒータ抵抗11の温度とともに傍熱抵抗20の温度も上がって傍熱抵抗20の抵抗値Riが上昇する。
【0043】
この結果、接続点28a,29間の電位差の正負が再度逆転してアンプ25から信号の出力が止まり、トランジスタ26が作動を停止してヒータ抵抗11への通電が止まる。そして、ヒータ抵抗11の温度が、再度、基準温度よりも低下すると、同様の動作が繰り返される。
【0044】
次に、センサ部13は、ヒータ抵抗11の上流側と下流側に配置された抵抗を直列接続してなる3つのハーフブリッジ30,31,32、スイッチ33、アンプ34を有している。なお、ハーフブリッジ30が、特許請求の範囲に記載の第1流量検出用抵抗対、ハーフブリッジ31が、特許請求の範囲に記載の第2流量検出用抵抗対、ハーフブリッジ32が、特許請求の範囲に記載の第3流量検出量抵抗対に相当する。また、スイッチ33が、特許請求の範囲に記載の第1選択手段に相当する。また、アンプ34が、特許請求の範囲に記載の第1差動増幅器に相当する。
【0045】
ハーフブリッジ30は、ヒータ抵抗11の上流側と下流側とで等距離に配置された第1上流側流量検出用抵抗30uと第1下流側流量検出用抵抗30dを、直列接続してなる。本実施形態では、第1上流側流量検出用抵抗30uを低電位側(グランド電位側)として、2つの抵抗30u,30dが直列接続されている。なお、これら抵抗(30u,30d)が、特許請求の範囲に記載の第1流量検出用抵抗に相当する。
【0046】
ハーフブリッジ31は、上記抵抗(30u,30d)とは異なる距離であってヒータ抵抗11の上流側と下流側とで等距離に配置された第2上流側流量検出用抵抗31uと第2下流側流量検出用抵抗31dを、直列接続してなる。本実施形態では、第2下流側流量用検出抵抗31dを低電位側(グランド電位側)として、2つの抵抗31u,31dが直列接続されている。なお、これら抵抗(31u,31d)が、特許請求の範囲に記載の第2流量検出用抵抗に相当する。
【0047】
一方、ハーフブリッジ32は、上記抵抗30u,30d,31u,31dとは異なる距離であってヒータ抵抗11の上流側と下流側とで互いに異なる距離に配置された上流側自己診断用抵抗32uと下流側自己診断用抵抗32dを、直列接続してなる。本実施形態では、上流側自己診断用抵抗32uを低電位側(グランド電位側)として、2つの抵抗32u,32dが直列接続されている。なお、これら抵抗(32u,32d)が、特許請求の範囲に記載の自己診断用抵抗に相当する。
【0048】
これらハーフブリッジ回路30,31,32において、ハーフブリッジ回路30を構成する第1流量検出用抵抗30u,30dの接続点35は、アンプ34の反転入力端に接続されている。一方、ハーフブリッジ回路31を構成する第2流量検出用抵抗31u,31dの接続点36がスイッチ33の端子33aに接続され、ハーフブリッジ回路32を構成する自己診断用抵抗32u,32dの接続点37がスイッチ33の端子33bに接続されている。そして、端子33a,33b(接続点36,37)のいずれかが、アンプ41の非反転入力端に接続されるようになっている。
【0049】
各抵抗30u,30d,31u,31d,32u,32dは、同じ材料を用いて同じパターン形状で形成されている。すなわち、いずれも同じ温度係数を有するとともに、同じ温度で同じ抵抗値を示す。また、電源端子16aに電源が投入されると、内部電源Vrから電力の供給を受けて通電状態となる。本実施形態では、正の温度係数を有している。また、各抵抗30u,30d,31u,31d,32u,32dは、ヒータ抵抗11と同じセンサチップ60のメンブレン61に形成されており、上流側から下流側に向かって、図2(a)に示すように、上流側抵抗32u,31u,30u、下流側抵抗30d,31d,32dの順に設けられている。
【0050】
すなわち、センサ部13を構成する抵抗30u,30d,31u,31d,32u,32dにおいて、ハーフブリッジ32を構成する自己診断用抵抗32u,32dが、ヒータ抵抗11から一番遠い位置に設けられている。また、図2(a)に示すように、自己診断用抵抗32u,32dは、上流側自己診断用抵抗32uのほうが、下流側自己診断用抵抗32dよりもヒータ抵抗11から遠い位置に設けられている。このように、自己診断用抵抗32u,32dは、ヒータ抵抗11からの距離が互いに異なり、ヒータ抵抗11が発熱したときの温度が互いに異なるようになっている。
【0051】
スイッチ33は、通常動作時(流量測定時)には、端子33a(接続点36)とアンプ41の非反転入力端を接続し、自己診断時には、後述する第1期間t1において、端子33a(接続点36)とアンプ41の非反転入力端を接続し、第2期間t2において、端子33b(接続点37)とアンプ41の非反転入力端を接続する。
【0052】
すなわち、通常動作時と自己診断時の第1期間t1においては、ハーフブリッジ回路30,31が並列接続されてなるブリッジ回路38を用い、自己診断時の第2期間t2においては、ハーフブリッジ回路30,32が並列接続されてなるブリッジ回路39を用いるようになっている。なお、ブリッジ回路38が、特許請求の範囲に記載の第1ブリッジ回路、ブリッジ回路39が、特許請求の範囲に記載の第2ブリッジ回路に相当する。
【0053】
アンプ34は、反転入力端に入力される電位V3と非反転入力端に入力される電位V4の差(V4−V3)を増幅して出力する(差動増幅する)ものである。
【0054】
以上の構成により、センサ部13は、吸気量に応じた電圧値を出力する。ヒータ駆動部12により基準温度に制御されているヒータ抵抗12によって、メンブレン61上には、吸気量に応じた温度分布が吸気流の流れ方向に形成される。そして、上流側抵抗30u,31u,32u及び下流側抵抗30d,31d,32dの抵抗値は、温度分布に応じた数値(つまり、吸気量に応じた数値)となる。
【0055】
このため、例えば、吸気量が増加して温度分布が下流側に偏ると、ヒータ抵抗11の上流側では温度が下がって上流側抵抗30u,31u,32uの抵抗値が低下し、ヒータ抵抗11の下流側では温度が上がって下流側抵抗30d,31d,32dの抵抗値が上昇する。
【0056】
この結果、接続点35,36間の電位差が変化するので、センサ部13(ブリッジ回路38)は、接続点35,36間の電位差を、吸気量に応じた電圧値として出力することができる。すなわち、センサ部13は、吸気量の変化に伴う上流側流量検出用抵抗30u,31u及び下流側流量検出用抵抗30d,31dの抵抗値変化を、ブリッジ回路38の電圧値として出力することができる。
【0057】
次に、信号処理回路部14は、センサ部13から出力される信号をデジタル値に変換するA/D変換器40、デジタル化された電圧値に各種の演算処理を施すDSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)41、DSP41から出力されるデジタル値をアナログ値に変換して外部出力端子(Vout)16bに出力するD/A変換器42、DSP41による演算処理に必要な各種の数値等を記憶するメモリ43等を有する。例えばメモリ43には、発熱抵抗式流量センサ10(センサ部13)の感度やオフセットの調整値、出荷時の特性値などが記憶されている。
【0058】
なお、本実施形態では、DSP41から出力されるデジタル値をアナログ値に変換して外部出力端子16bに出力する例を示すが、D/A変換器42に代えて、デジタル値をパルス信号の周波数に変換して出力するD/F変換器を採用することもできる。また、デジタル値をそのまま出力することもできる。
【0059】
自己診断回路部15は、パワーオンリセット回路50と、スイッチ制御回路51を有する。このスイッチ制御回路51が、特許請求の範囲に記載の選択手段制御回路に相当する。
【0060】
パワーオンリセット回路50は、イグニッションキーがオンされて、発熱抵抗式流量センサ10の電源端子16aに電源Vccが投入される度にパワーオンリセット信号を出力し、発熱抵抗式流量センサ10を構成する各回路を初期化する。このため、発熱抵抗式流量センサ10を構成する各回路は、パワーオンリセット信号により初期化された後、動作を開始する。
【0061】
スイッチ制御回路51は、パワーオンリセット信号をトリガとし、所定の第1期間t1において、スイッチ24を端子24b(接続点28b)に接続させ、スイッチ33を端子33a(接続点36)に接続させるように、スイッチ24,34の動作を制御する。また、第1期間t1とは異なる所定の第2期間t2において、スイッチ24を端子24a(接続点28a)に接続させ、スイッチ33を端子33b(接続点37)に接続させるように、スイッチ24,34の動作を制御する。本実施形態では、パワーオンリセット信号により初期化された後の動作開始から所定の期間を第1期間t1とし、第1期間t1の終了後、引き続き第2期間t2とする。
【0062】
なお、スイッチ24、アンプ25、トランジスタ26、スイッチ33、アンプ34、A/D変換器40、DSP41、D/A変換器42、メモリ43、パワーオンリセット回路50、スイッチ制御回路51、電源端子16a、外部出力端子16b、ROM端子16c、グランド端子16d等は、ヒータ抵抗11などの各種の抵抗が設けられるセンサチップ60とは別の回路チップ70に搭載され、ヒータ抵抗11などの各種の抵抗とボンディングワイヤ(図示せず)などにより電気的に接続されている。
【0063】
次に、上記した発熱抵抗式流量センサ10における自己診断方法を、図3を用いて説明する。
【0064】
図3に示すように、イグニッションキーがオンされ、発熱抵抗式流量センサ10の電源端子16aに電源Vccが投入されると、パワーオンリセット回路50がパワーオンリセット信号を出力する。このパワーオンリセット信号により、発熱抵抗式流量センサ10を構成する各回路が初期化され、この初期化の後、動作を開始する。なお、電源端子16aに電源Vccが投入されると内部電源Vrも立ち上がる。
【0065】
この初期化後の立ち上がりから所定の期間(第1期間t1)において、スイッチ制御回路51は、スイッチ24を端子24b(接続点28b)に接続させ、スイッチ33を端子33a(接続点36)に接続させる。
【0066】
接続点28bをアンプ25の反転入力端に接続させると、上記したブリッジ回路27を構成する各抵抗20,21a,21b,22,23の抵抗値の関係から、アンプ25の反転入力端の電位V1が、非反転入力端の電位V2よりも大きくなる(V1>V2)。したがって、アンプ25から出力されず、トランジスタ26がオフ状態となり、ヒータ抵抗11には電流が流れない。
【0067】
したがって、メンブレン61上の温度は均一になり、アンプ34と接続されたブリッジ回路38を構成する各流量検出用抵抗30u,30d,31u,31dは、全て同じ抵抗値を示す。すなわち、アンプ34の反転入力端の電位V3と、非反転入力端の電位V4との間に電位差が生じない(V3=V4)。このため、エンジンの回転・停止によらず(流体の流通有無によらず)、強制的(擬似的)に流量=0の状態を作り出すことができる。
【0068】
したがって、第1期間t1の間に外部出力端子16bの出力を測定(図3に示す測定A)することで、流量=0の計測ができる。
【0069】
次いで、第1期間t1終了後、連続して所定の期間(第2期間t2)において、スイッチ制御回路51は、スイッチ24を端子24a(接続点28a)に接続させ、スイッチ33を端子33b(接続点37)に接続させる。
【0070】
接続点28aをアンプ25の反転入力端に接続させると、上記したブリッジ回路27を構成する各抵抗20,21a,21b,22,23の抵抗値の関係から、アンプ25の非反転入力端の電位V2が、反転入力端の電位V1よりも大きくなる(V2>V1)。したがって、V1=V2となるまでは、トランジスタ26がオン状態となり、ヒータ抵抗11に電流が流れてヒータ抵抗11が発熱する。
【0071】
このようにヒータ抵抗11が発熱すると、メンブレン61上の温度はヒータ抵抗11が最大となり、流体の流れ方向に温度勾配が生じる。ここで、上流側自己診断用抵抗32uは、下流側自己診断用抵抗32dよりも、ヒータ抵抗11に対して遠い位置に配置されているため、ヒータ抵抗11から伝わる熱量が下流側自己診断用抵抗32dよりも少なく、これにより下流側自己診断用抵抗32dよりも温度が低くなる。すなわち、上流側自己診断用抵抗32uの抵抗値をRu3、下流側自己診断用抵抗32dの抵抗値をRd3とすると、Ru3<Rd3となる。したがって、アンプ34の反転入力端の電位V3と非反転入力端の電位V4との間に電位差(V4>V3)が生じ、実際に流量ゼロ(エンジン停止)のときでも、擬似的に流量≠0の状態を作り出すことができる。なお、エンジンが動作した場合は、停止時に対して電位差(V4−V3)が必ず大きくなる方向になる。
【0072】
したがって、第2期間t2の間に外部出力端子16bの出力を測定(図3に示す測定B)することで、流量≠0の計測ができる。
【0073】
なお、第2期間t2が終了すると、通常動作(流量検出)となるため、スイッチ制御回路51により、スイッチ24は、第2期間t2同様、端子24a(接続点28a)と接続され、スイッチ33は、端子33a(接続点36)と接続される。
【0074】
そして、2つの測定A,Bで得られた出力の差分をとることで、発熱抵抗式流量センサ10の回路が正常か異常かを判断する(自己診断する)ことができる。
【0075】
本実施形態では、測定Aの出力は、異常がなければ例えば0V(ボルト)となる。一方、測定Bの出力は、異常が無ければエンジン停止で例えば1V(ボルト)、エンジン回転で例えば3Vとなる。したがって、測定Aの出力(0V)と、エンジン停止時の測定Bの出力(1V)の間に判定閾値を設定し、測定Bの出力から測定Aの出力を引いた値(差分)が上記判定閾値以上の場合には、正常と判定し、判定閾値未満の場合には異常と判定することができる。異常の原因としては、例えばメンブレン61の破損、回路の短絡などが考えられえる。
【0076】
また、正常な状態で、エンジン回転時の測定Bの出力が取り得る最大の値にマージンを加味して上限側判定閾値を設定し、出力差(測定B−測定A)が該閾値を超える場合にも、異常と判定しても良い。
【0077】
なお、本実施形態では、イグニッションキーがオンされた直後に自己診断を行うため、エンジンがアイドリング状態にある。したがって、正常な状態で、アイドリング時(所定の回転数(吸気量))に測定Bの出力にマージンを加味して、上限側判定閾値を設定しても良い。
【0078】
このように本実施形態に係る発熱抵抗式流量センサ10及び自己診断方法によれば、エンジンが回転中であっても停止中であっても、すなわち流体が流れていても流れていなくても、自己診断を行うことができる。
【0079】
また、本実施形態では、電源投入をトリガとし、パワーオンリセット回路50及びスイッチ制御回路51により、電源投入直後に自己診断に必要な第1期間t1の状態と、第2期間t2の状態の、2つの異なる状態を設定することができる。したがって、自己診断開始信号を入力するための自己診断用端子を必要としないので、その分コストを低減することができる。また、発熱抵抗式流量センサ10の体格も小型化することができる。
【0080】
なお、センサ部13を構成する上流側抵抗30u,31u,32uと、下流側抵抗30d,31d,32dにおいて、第1上流側流量検出用抵抗30uと第2上流側流量検出用抵抗31uの間に上流側自己診断用抵抗32uを設け、第1下流側流量検出用抵抗30dと第2下流側流量検出用抵抗31dの間に下流側自己診断用抵抗32dを設ける構成を採用することもできる。また、自己診断用抵抗32u,32dを、流量検出用抵抗30u,30d,31u,31dよりもヒータ抵抗11に対して近い位置に設ける構成も採用することができる。
【0081】
しかしながら、本実施形態に示すように、自己診断時のみ用いる自己診断用抵抗32u,32dを、ヒータ抵抗11からもっとも離れた位置に設けると、他の構成に較べて、センサチップ60の体格(流体の流れ方向)を小さくすることができる。また、ヒータ抵抗11と流量検出用抵抗30u,31u,30d,31dとの間に、自己診断用抵抗32u,32dが位置しないため、流量検出に際して自己診断用抵抗32u,32dの発熱による影響が少なく、他の構成に較べて流量検出精度を向上することができる。
【0082】
また、パワーオンリセット信号が入力されると、スイッチ制御回路51が、先に第2期間t2となるようにスイッチ24,33を制御し、次いで第1期間t1となるようにスイッチ24,33を制御する構成も採用することができる。
【0083】
しかしながら、本実施形態に示すように、スイッチ制御回路51が、先ずヒータ抵抗11を発熱させない第1期間t1の状態となるようにスイッチ24,33を制御し、第1期間t1が終了すると第1期間t1に連続して第2期間t2の状態となるように2つのスイッチ24,33を制御すると、第2期間t2を先に実施する構成のように基板60の温度が下がる待ち時間が不要であるので、自己診断時間を短縮することができる。
【0084】
なお、本実施形態では、パワーオンリセット信号が入力されたあとの動作開始から、第1期間t1,第2期間t2を連続して実行する例を示した。しかしながら、パワーオンリセット信号が入力されたあと所定時間経過してから、第1期間t1,第2期間t2を実行しても良い。また、第1期間t1が終了した後、所定時間経過してから、第2期間t2を実行しても良い。
【0085】
(変形例)
本実施形態では、自己診断の第1期間t1において、ヒータ抵抗11に電流が流れない状態を作るために、ヒータ駆動部12のブリッジ回路27を構成する傍熱抵抗20側の固定抵抗を分割して2つの第1固定抵抗21a,21bとし、スイッチ24により、アンプ25の反転入力端に接続される接続点を、第1固定抵抗21a,21b間の接続点28bとする例を示した。しかしながら、例えば図4に示すように、トランジスタ26とヒータ抵抗11の間にスイッチ80を設け、第1期間t1において、スイッチ制御回路51からの指示信号により、該スイッチ80をオフ状態として、ヒータ抵抗11に電流が流れないようにしても良い。この場合、第2期間t2及び通常動作(流量検出)時は、スイッチ80がオンされる。
【0086】
なお、図4では、ブリッジ回路27を構成する傍熱抵抗20側のハーフブリッジが、傍熱抵抗20と1つの第1固定抵抗21を直列に接続してなり、傍熱抵抗20と第1固定抵抗21の接続点28が、アンプ25の反転入力端に接続されている。このような構成では、傍熱抵抗20の抵抗値をRi、吸気温度計測抵抗22の抵抗値をRk、固定抵抗21の抵抗値をR1、固定抵抗23の抵抗値をR2とすると、無通電状態(同一温度)で、Rk>Riであり、且つ、電源投入直後において、V2>V1となるように、R1,R2が設定(例えばR1=R2)されている。
【0087】
なお、スイッチ80としては、トランジスタ26とヒータ抵抗11の間に限定されるものではない。例えばトランジスタ26とヒータ抵抗11の間に設けても良いし、アンプ25とトランジスタ26の間に設けても良い。
【0088】
ただし、第1実施形態(図1参照)のように、第1固定抵抗21を分割して2つの第1固定抵抗21a,21bとし、接続点28a、28bをスイッチ24で切り替える構成のほうが、電源端子16aとヒータ抵抗11との間にスイッチ80を設けるよりも、スイッチの体格を小型化することができる。
【0089】
(第2実施形態)
第1実施形態では、自己診断回路部15により、電源端子16aへの電源投入をトリガとして、第1期間t1と第2期間t2の状態をそれぞれ作り出す例を示した。これに対し、図5に示す発熱抵抗式流量センサ10は、外部端子として自己診断用端子16eを有し、該自己診断用端子16eを介して自己診断指示信号を入力することで、スイッチ24,33を制御するようになっている。なお、自己診断回路部15の代わりに自己診断用端子16eを有する点以外は、第1実施形態(図1参照)と同じである。
【0090】
このような構成を採用すると、第1実施形態に示した効果のうち、自己診断用端子16eを不要とできる効果を除く、その他の効果を奏することができる。
【0091】
なお、図5は、第1実施形態(図1参照)に示した構成に自己診断用端子16eを組み合わせているが、図4に示す構成に自己診断用端子16eを組み合わせても良い。
【0092】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0093】
トランジスタ26として、npn型のバイポーラトランジスタを採用する例を示したが、nチャネル型のMOSFETやIGBTを採用することもできる。
【0094】
また、トランジスタ26として、pnp型のバイポーラトランジスタや、pチャネル型のMOSFET,IGBTを採用することもできる。この場合、ヒータ駆動部12の接続点28,28a,28bがアンプ25の非反転入力端に接続され、接続点29がアンプ25の反転入力端に接続されるようにすれば良い。
【0095】
また、傍熱抵抗20、吸気温度計測抵抗22、固定抵抗21(21a,21b),23が負の温度係数を有する構成を採用することもできる。同様に、センサ部13を構成する抵抗30u,30d,31u,31d,32u,32dが負の温度係数を有する構成を採用することもできる。
【0096】
本実施形態では、ヒータ駆動部12が傍熱抵抗20を有する例を示した。しかしながら、ヒータ抵抗11が傍熱抵抗20を兼ねる周知の構成においても適用が可能である。
【0097】
本実施形態では、信号処理回路部14を介して、アンプ34の出力を外部出力端子16bから出力する例を示した。しかしながら、信号処理回路部14を有さず、アンプ34の出力を外部出力端子16bから出力する構成としても良い。
【符号の説明】
【0098】
10・・・発熱抵抗式流量センサ
11・・・ヒータ抵抗
12・・・ヒータ駆動部
15・・・自己診断回路部(自己診断手段)
20・・・傍熱抵抗
21a,21b・・・第1固定抵抗
24・・・スイッチ(第2選択手段)
25・・・アンプ(第2差動増幅器)
30u,30d・・・第1流量検出用抵抗
31u,31d・・・第2流量検出用抵抗
32u,32d・・・自己診断用抵抗
33・・・スイッチ(第1選択手段)
34・・・アンプ(第1差動増幅器)
38・・・ブリッジ回路(第1ブリッジ回路)
39・・・ブリッジ回路(第2ブリッジ回路)
50・・・パワーオンリセット回路
51・・・スイッチ制御回路(選択手段制御回路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(60)に形成され、通電により発熱するヒータ抵抗(11)と、
前記ヒータ抵抗(11)への通電状態を制御するヒータ駆動部(12)と、
互いに同じ材料を用いて同じパターンで前記基板(60)に形成され、前記ヒータ抵抗(11)に対し上流側と下流側とで等距離に位置する2つの第1流量検出用抵抗(30u,30d)が、互いに直列接続されてなる第1流量検出用抵抗対(30)と、
前記第1流量用検出抵抗(30u,30d)と同じ材料を用いて同じパターンで前記基板(60)に形成され、前記第1流量検出用抵抗(30u,30d)とは異なる距離で前記ヒータ抵抗(11)に対し上流側と下流側とで等距離に位置する2つの第2流量検出用抵抗(31u,31d)が、互いに直列接続されてなり、前記第1流量検出用抵抗対(30)に並列接続された第2流量検出用抵抗対(31)と、
外部出力端子(16b)と、を備え、
流体の流量を検出する通常動作時には、2つの前記流量検出用抵抗対(30,31)により構成される第1ブリッジ回路(38)の出力に基づく信号を、前記外部出力端子(16b)を介して外部に出力する発熱抵抗式流量センサ(10)であって、
前記流量検出用抵抗(30u,30d,31u,31d)と同じ材料を用いて同じパターンで前記基板(60)に形成され、前記ヒータ抵抗(11)に対し上流側と下流側とで互いに異なる距離に位置する2つの自己診断用抵抗(32u,32d)が、互いに直列接続されてなり、2つの前記流量検出用抵抗対(30,31)に並列接続された自己診断用抵抗対(32)と、
3つの前記抵抗対(30,31,32)のうち、2つの前記流量検出用抵抗対(30,31)により構成される前記第1ブリッジ回路(38)と、前記第1流量検出用抵抗対(30)と前記自己診断用抵抗対(32)により構成される第2ブリッジ回路(39)のいずれかを、前記外部出力端子(16b)と選択的に接続する第1選択手段(33)と、を備え、
前記通常動作時と重複しない所定の第1期間(t1)において、前記ヒータ駆動部(12)により前記ヒータ抵抗(11)への電力供給が遮断されるとともに、前記第1選択手段(33)により前記第1ブリッジ回路(38)が前記外部出力端子(16b)に接続され、
前記通常動作時及び前記第1期間と重複しない第2期間(t2)において、前記ヒータ駆動部(12)により前記ヒータ抵抗(11)へ電力が供給されるとともに、前記第1選択手段(33)により前記第2ブリッジ回路(39)が前記外部出力端子(16b)に接続されることを特徴とする発熱抵抗式流量センサ。
【請求項2】
入力端の一方に前記第1流量検出用抵抗(30u,30d)の接続点(35)が接続され、出力端が前記外部出力端子(16b)と電気的に接続された第1差動増幅器(34)を備え、
前記第1選択手段(33)は、前記通常動作時及び前記第1期間(t1)において、前記第2流量検出用抵抗(31u,31d)の接続点(36)を前記第1差動増幅器(34)の入力端に接続し、前記第2期間(t2)において、前記自己診断用抵抗(32u,32d)の接続点(37)を、前記第1差動増幅器(34)の入力端に接続することを特徴とする請求項1に記載の発熱抵抗式流量センサ。
【請求項3】
前記ヒータ駆動部(12)は、
前記基板(60)に形成され、互いに直列接続された2つの第1固定抵抗(21a,21b)に、前記基板(60)に形成され、前記ヒータ抵抗(11)の熱を受けて抵抗値が変化する傍熱抵抗(20)が直列に接続され、前記基板(60)に形成され、流体の温度によって抵抗値が変化する流体温度計測抵抗(22)と、前記基板(60)に形成された第2固定抵抗(23)が直列に接続されてなる第3ブリッジ回路(27)と、
入力端の一方に前記流体温度計測抵抗(22)と前記第2固定抵抗(23)の接続点(29)が接続され、入力端の他方に、前記傍熱抵抗(20)と前記第1固定抵抗(21a)の接続点(28a)又は2つの前記第1固定抵抗(21a,21b)間の接続点(28b)が接続される第2差動増幅器(25)と、
2つの前記接続点(28a,28b)のいずれかを、前記第2差動増幅器(25)の入力端と選択的に接続する第2選択手段(24)と、
前記第2差動増幅器(25)の出力端に接続され、前記第2差動増幅器(25)の出力に基づいて前記ヒータ抵抗(11)への通電状態を制御するトランジスタ(26)と、を備え、
前記第2選択手段(24)は、前記第1期間(t1)において、2つの前記第1固定抵抗(21a,21b)間の接続点(28b)を前記第2差動増幅器(25)の入力端に接続し、前記通常動作時及び前記第2期間(t2)において、前記傍熱抵抗(20)と前記第1固定抵抗(21a)の接続点(28a)を、前記第2差動増幅器(25)の入力端に接続することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の発熱抵抗式流量センサ。
【請求項4】
自己診断手段(15)として、
電源端子(16a)から前記トランジスタ(26)への電源ラインに接続され、前記電源端子(16a)に電源が投入されると回路を初期化するためのパワーオンリセット信号を出力するパワーオンリセット回路(50)と、
前記パワーオンリセット信号を基準とする前記第1期間(t1)において、前記第1選択手段(33)が前記第2流量検出用抵抗(31u,31d)の接続点(36)を前記第1差動増幅器(34)の入力端に接続し、且つ、前記第2選択手段(24)が前記第1固定抵抗(21a,21b)の接続点(28b)を前記第2差動増幅器(25)の入力端に接続し、
前記パワーオンリセット信号を基準とする前記第2期間(t2)において、前記第1選択手段(33)が前記自己診断用抵抗(32u,32d)の接続点(37)を前記第1差動増幅器(34)の入力端に接続しつつ、前記第2選択手段(24)が前記第1固定抵抗(21a)と前記傍熱抵抗(20)の接続点(28a)を前記第2差動増幅器(25)の入力端に接続するように、
2つの前記選択手段(24,33)を制御する選択手段制御回路(51)と、を備えることを特徴とする請求項3に記載の発熱抵抗式流量センサ。
【請求項5】
前記選択手段制御回路(51)は、前記パワーオンリセット信号が入力されると、前記第1期間(t1)の状態に2つの前記選択手段(24,33)を制御し、前記第1期間(t1)が終了すると前記第1期間(t1)に連続して前記第2期間(t2)の状態に2つの前記選択手段(24,33)を制御することを特徴とする請求項4に記載の発熱抵抗式流量センサ。
【請求項6】
前記自己診断用抵抗(32u,32d)が、前記第1流量検出用抵抗(30u,30d)及び前記第2流量検出用抵抗抵抗(31u,31d)よりも前記ヒータ抵抗(11)に対して遠い位置に形成されていることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の発熱抵抗式流量センサ。
【請求項7】
前記自己診断用抵抗(32u,32d)が、前記第1流量検出用抵抗(30u,30d)と前記第2流量検出用抵抗抵抗(31u,31d)の間に形成されていることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の発熱抵抗式流量センサ。
【請求項8】
前記自己診断用抵抗(32u,32d)が、前記第1流量検出用抵抗(30u,30d)及び前記第2流量検出用抵抗抵抗(31u,31d)よりも前記ヒータ抵抗(11)に対して近い位置に形成されていることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の発熱抵抗式流量センサ。
【請求項9】
自己診断用端子(16e)を備え、
前記自己診断用端子(16e)を介して外部から入力される自己診断指示信号に基づいて、
前記第1期間(t1)において、前記ヒータ駆動部(12)により前記ヒータ抵抗(11)への電力供給が遮断されるとともに、前記第1選択手段(33)により前記第1ブリッジ回路(38)が前記外部出力端子(16b)に接続され、
前記第2期間(t2)において、前記ヒータ駆動部(12)により前記ヒータ抵抗(11)へ電力が供給されるとともに、前記第1選択手段(33)により前記第2ブリッジ回路(39)が前記外部出力端子(16b)に接続されることを特徴とする請求項1に記載の発熱抵抗式流量センサ。
【請求項10】
請求項1〜9いずれかに記載の発熱抵抗式流量センサ(10)において、前記第1期間(t1)における前記外部出力端子(16b)の出力と、前記第2期間(t2)における前記外部出力端子(16b)の出力の差分に基づいて、自己診断することを特徴とする発熱抵抗式流量センサの自己診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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